07/11/08 生活扶助基準に関する検討会(第3回)議事要旨 生活扶助基準に関する検討会(第3回)議事要旨 1 日時   平成19年11月8日(木) 19:00〜20:50 2 場所   商工会館6階G会議室 3 出席者  (1) 委員(敬称略、五十音順、◎は座長)      岡部  卓(首都大学東京都市教養学部教授)      菊池 馨実(早稲田大学法学学術院教授)      駒村 康平(慶應義塾大学経済学部教授)      根本 嘉昭(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部教授)     ◎樋口 美雄(慶應義塾大学商学部教授)  (2) 行政      中村社会・援護局長、木内大臣官房審議官、藤木社会・援護局総務課長、     伊奈川社会・援護局保護課長他 4 議事(○:委員の発言、●:事務局の発言) ○ 本日は、地域差と勤労控除の検証について議論をしていきたいが、まず前回委員か ら要求のあった説明資料について、事務局から説明いただきたい。  (事務局より資料1説明) ○ それでは、ただいまの説明について御質問をいただきたい。 ○ まず、保護率の変動について、その他の要因にどのようなものがあるのかについて の資料を要望したのだが、人口的な要因以外にどのような要因が保護率に反映されて いるのか。   高齢者と傷病・障害者の世帯が非常に多い。その次に、一人暮らし世帯が多い。こ れは制度的な要因ではないか。要するに、年金の給付水準、あるいは無年金の方が多 数いる、あるいは、ひとり親世帯の場合は児童扶養手当が生活保護の給付水準よりも 低いというようなことが反映されているのではないか。   また、稼動年齢層が非常に低位であるということは、これは逆に雇用失業の影響が どの程度あるのか。賃金の水準から、それは一定クリアーしているのか。   資料からある程度は確認することはできるが、制度的な要因もその他の要因と考え ていいのか。   つまり、本来、生活保護を必要とする方が生活保護を受けられていないのではない かという漏給の問題と、もう一つは、本来受ける必要のない方が受けているのではな いかという濫給の問題があると思うが、それらの問題がどのように反映されているの かということである。   これは、ひいては捕捉率の関係になってくるが、その観点から保護率をどのように 捉えるかということが、基本的な問題意識としてあったので、その点を質問させてい ただいた。   今、ワーキングプアの問題と生活保護の関係で、保護率にどのように関連している のかということも、問題意識として持っている。これについては特に回答は求めない。   2点目に、自立支援の関係であるが、自立支援には3つの自立がある。1つは経済 的な自立支援。就労自立支援については、前回の検討会で、生業扶助が非常に増えて いるのは、高校進学等の技能習得の教育関連の費用が増えているとの説明があったが、 それ以外にも技能習得費ということで制度として組み込まれている。しかしながら、 社会生活自立、日常生活自立については、制度の中でビルトインされているのかどう なのか。   具体的にいうと、社会生活自立支援、日常生活自立支援は、例えば移送費の認定等 として組み込まれているが、それは果たして妥当な水準かどうかということである。   自立支援の資料では、やはり職安との関係の就労支援が非常に政策的に進んでいる。 しかしながら、日常生活、社会生活が制度的にどう対応しているのかというのは、な かなか見えづらい。これは制度の中では、移送費であるとか、社会的な活動の費用等 としてもある程度は保証されていると思うが、それが十分であるかどうかについては 議論が分かれるところではないかと思っている。   一応、この資料は、資料としては非常に意味があると思うが、その上での意見とい うことで聞いていただきたい。 ○ 標準世帯の考え方をまとめていただいたが、まず標準世帯というのは2つの意味が ある。国民に対して生活保護というのはどの程度の所得保障があるのかというイメー ジを示すものとしての性格と、改定の際の基準になっていくものとしての性格という 2点であるという説明であると理解したが、仮に1類、2類の分類がなくなって、こ れらが一緒になった体系になれば、2番目の性格の基準としてのモデル世帯、標準世 帯という意味合いはなくなるという理解でいいか。 ● ある年の基準設定が、例えば5年に一度のデータが出て、それを基に基準設定した ときに、次の年の改定が同様にできない場合の改定方式をどう考えるかということだ と思う。   近年は水準均衡方式で改定しているが、具体的には毎年毎年の一般世帯の消費の伸 びに基づいて設定することになっている。例えば不況のときに基準額を下げなかった というような例外もあるし、具体的な年の消費が伸びても、かつて一般世帯の消費が 下がったときに基準額を下げなかった分があるから、その分で今年の上昇率は賄うと いった技術的なやりくりはあるが、基本的には今の改定方式は、例えば今年一般世帯 の消費が1%伸びたから、その1%の伸びをどのように適用して改定するかというと きに、基準の改定に用いる世帯のところで1%伸ばすという方法で行っている。   仮に、その基準世帯からどういう展開の方式をとるかというのが、何人世帯の場合 はこういう展開の方式をとる、あるいはこういう特別な世帯の場合はこういう方式を とるという、世帯によって1%伸びているか伸びていないかということはあるけれど も、それは今度は基準の展開の仕方ということになると理解している。1類、2類の 区分がなくなると、基準設定の意味がなくなるかというと、必ずしもそうではないと 思うし、基準の定め方によっては、1%の伸びを適用するに当たっては、全世帯で1% 増やすというやり方もあるかもしれないし、その他の方法もあり得るかもしれない。 ここで説明しているのは、今の具体的な基準の設定の仕方についてである。 ○ 7ページの8条2項。8条というのは普段あまり注目しないので、その解釈を示し ていただき大変参考になった。それと関連するが、この標準世帯の考え方について2 つの考え方を出されたが、1はさておき、2の意味合いを含ませることがどうなのか ということを考えると、7ページの参考の8条1項で、保護はあくまで「要保護者の 需要を基」とすると書かれている。この要保護者というのは個々の要保護者という解 釈だと思う。   更に、10条で世帯単位の原則として、要否及び程度は世帯を単位として定めると書 かれているが、そこでいう世帯には単身世帯も含まれており、多人数世帯だけを指し ているわけではない。また、世帯と言っても、保護受給権というのは世帯構成員個々 人に受給権があるということは、これは裁判所も認めているところであり、その上に 現状としては75%が単身世帯であるということを考えると、この標準世帯に、単なる 基準額の説明を超えた意味合いを含ませることはどうなのか。これも解釈になるが、 要保護者個人がやはりベースになるのではないか。 ○ 自立支援プログラム、特に福祉事務所とハローワークとの連携事業では、支援対象 者を選定し、結局1万586人が選ばれたということになっているのだと思うが、支援 対象者を選定する基準というのはどういうものか。また、誰が認定しているのか。 ● 実際に事務を行っている福祉事務所に行き、ハローワークと福祉事務所における実 施状況を伺うと、17年の事業開始当初の話であるが、ハローワークとしては、できる だけ就業に結び付く可能性の高い、言わば稼動能力の高い人を選んでほしいという要 請であった。   福祉事務所の方は、そういうハローワークの要請もあるので、被保護者の中から年 齢や就業意欲などを見て、言わば最も福祉事務所の側から見て就労に有望ではないか といった人を中心に選んでいるという状況であった。   したがって、この1万人というのは、かなり被保護者の方の中でも就業意欲が高い 方が優先的に選定されているという状況である。   これは時が経過すれば、やや就業に苦戦しそうな方が選ばれていくことになると思 うので、そういった中で52.3%という高い割合を維持していくことが関係者の目標に なっていると言えるのではないかと思う。 ● 福祉事務所とハローワークの連携事業に関して、通知上どうなっているかというの は今、説明があったとおりである。稼動能力を有する方ということが1点と、就労意 欲がある方、就職に当たっては阻害要因がない方、事業への参加に同意している方と いったようなことを一応基準として上げているところである。 ○ 我々はエンプロイアビリティが高いという言葉でよく使うが、やはり52.3%はかな り高い数字である。だんだんにエンプロイアビリティの上の方から順番に就職してい くと、今後下がってくるだろうということが予想される。 ● 確かに、福祉事務所とハローワークの双方で非常に丁寧にやっていただいているの で、一般のハローワークの率よりもむしろ高めに出ていると認識している。 ○ 先ほどの6の標準世帯について、もし標準、モデルを単身世帯に変えた場合は、今 までは3人世帯の消費変化を見ていたのが、今後は単身世帯の消費行動の変動を見て スライドを決めていくことになるという理解でいいのか。 ● 議論が混乱するかもしれないが、今の伸ばし方は一般世帯の消費の伸びで伸ばして おり、世帯構成は考えていない。   したがって、結局、毎年の改定のルールというのは必ずしも、今、ここで検証して いただいている水準について、改定するときにはデータに基づいて行えないので、今 の伸ばし方をA方式だとすると、A方式というもので伸ばす。そうすると、5年経つ とA方式で伸ばしてきた水準と、今度また5年後のこういうデータが出てきた水準と 合わせて、そこで水準が均衡しているかどうかを検証する。そういう作業が必要にな る。   6ページの標準世帯の考え方というのは、標準世帯という普遍的な制度があるとい うことではなくて、現行の生活保護基準の改定の方式、例えばマーケットバスケット 方式でもない、今の毎年毎年予算で伸ばしている伸ばし方で、改めて標準世帯と我々 が称しているものの機能を考えてみる。まさにこの検討会の議論で改めて考え直して みる必要があると思い、整理したものである。   これは、先ほどの御議論とも関係するが、法文上の解釈として、標準世帯というも のが出てくるとは考えておらず、今の基準設定の仕方、毎年毎年水準均衡方式で一般 の水準と今の水準を均衡させるという中で、一般の経済社会の中の消費が伸びたり縮 んだりしている。そういうものに合わせてどのようにして水準を均衡させていくかと 考えた場合にとられている方式として、この標準世帯という基準を動かし、また、そ の基準を基に世帯人数や年齢について展開している。   したがって、基準の設定が変わり、展開の必要がない方式になれば、別に基準世帯 というのを設けなくても改定できるかもしれない。そこは御議論だと思う。 ○ 今の点で関連するのは、年々の変更について参考資料というのがあると思うが、そ の参考資料というのはまず速報性がなければいけないという問題がある。それからど れぐらい時間が遅れるのかということと、その基礎になっているのは家計調査ではな いかと推計しているが、家計調査だと単身世帯のデータが得にくい。どのようなもの を使っているのか。 ● 現在、参考資料としては、政府経済見通しで示される民間最終消費支出という国民 の家計の伸びを根拠として使っている。 ○ 速報値であって、確定値ではないという理解でいいか。 ● はい。 ● 予算編成の関係上、毎年12月に出るものを使っている。 ○ 7ページの前項の基準というのは扶助基準のことか。「性別」はまだ法律上は生きて いるのか。 ● 御指摘のとおり、法律上は「性別」と書いている。かつては、マーケットバスケッ ト方式のときのエネルギー量とか、そういったことから男女別に違いがあった部分も あるが、現在においては特に男女別の基準というのは設けていない。 ○ では、法律には残っているけれども、性別による区別をやめたときに、法改正をし てこの部分を削らなかったということか。 ● はい。 ○ まだいろいろ御質問もあると思うが、本日の本題の方に入りたい。   資料2と資料3を一括して御説明いただきたい。  (事務局より資料2及び資料3説明) ○ まず資料2の方から御議論いただきたい。級地に関する資料について、御質問や御 意見があればお受けしたい。 ○ 1ページにあるように、級地というのは生活様式あるいは物価差の差だということ であり、これはそのとおりであると思う。   感覚的な言い方であるが、物価については、例えば以前と今の状況を比べると、大 型スーパーの地方進出とか、あるいは通信販売とかという形で、物価そのものがかな り広域化しているというか、全国的な物価として相当接近しているということもある だろうし、また生活様式差についても、日常生活圏がかつてよりますます拡大してき ている。   例えばテーマパークなども、かつてはその近辺の人しか利用しなかったのが、今は 全国どこでも行く。生活様式の面においても差が接近してきている。その意味で、3 ページ以降の地域差の傾きであるが、実態をよくあらわしていると思う。   その一方で、一般的には地域格差が拡大していると言われており、資料のデータと の乖離について、どのように解釈すればいいのか。これは、むしろ先生方にお聞きし た方がいいのかもしれないが、事務局としては、どのように判断しているのか。 ○ 難しい問題であるが、感触としては、賃金なり、あるいはここで出てきている消費 支出なりの地域間格差と、雇用面における、特に雇用情勢についての地域間の差が、 必ずしも1対1の対応をしていない可能性があるのではないかと思う。例えば、有効 求人倍率を見ると、その動きについても地域による差というのはやはり歴然として存 在している。   総じて言えば、例えば北海道、東北一部とか、あるいは九州、沖縄というのは有効 求人倍率がそれほど改善していないのに対して、愛知や、あるいは南関東といったと ころは改善している。そういった動きはあるだろうと思うが、問題は、比較している 時点が違うということである。この地域間格差の議論というのは、ここ数年の話をし ているのに対して、資料のデータは1984年であり、過去20年ぐらいの差である。 ● 昭和59年のデータと平成16年のデータを比較している。 ○ 6ページのデータを見ると、1984年と2004年である。どちらかというともっと長 い話をしているという違いもあるのではないかと思うが、雇用情勢の違いと、期間の とらえ方の違いというのが少しあるのではないかという印象である。 ○ 今の直接の答えにならないかもしれないが、地域間の差が消費で見る限り確かに小 さくなっているような気もするが、3ページの資料は全収入階層であるのに対し、4 ページの資料は第1〜3・五分位となっている。第1・五分位という一番収入的に厳 しい人たちの実態がどうなっているのかというのは、そういう意味では気になる点で ある。もしかしたら資料のとおりに、生活様式というのはほとんど一般化されてきて おり、フラット化しているというのかもしれないが、必需品の費目ということで費目 をかなり限定しているので、それほど差がつかないのではないかという感じもした。   やはり、第1・五分位のところはどうなのかということと、この検証は全消を基に 行うことになっているが、受給者レベルで見たときに、被保護者一斉調査のような調 査においても同様であるのかどうかということは確認したい。 ● 今承知している限りでは、まずこういった格差が縮小する傾向については、実は前 回の専門委員会のときにも同じような御指摘をいただいている。そのときは、平成16 年ではなくて平成11年のデータに基づいて検証していただいたが、報告書の中で格差 が縮小しているということが述べられており、今回、さらに平成16年でもその点が裏 付けられたのではないかという認識を持っている。 ○ 可能であれば20年間のスパンを少し埋めて、ずっと格差が縮小してきているのか、 それともここ数年で逆転しているのかどうかを見ていただきたい。 ● 宿題にさせていただきたい。 ○ 市町村合併があった場合に、異なる級地の市町村が合併した場合であるが、考え方 は確か上位級地に指定するということをこれまでは制度的に行ってきたと思うが、そ の場合に、これは16年のデータなのでそれほど影響があるかどうか分からないが、市 町村合併の影響で、例えば2級地−1と2級地−2、部分的には生活扶助相当支出額 が逆転しているようなところもあり、そういう部分も影響しているのかどうか。もし 何かお考えがあればお伺いしたい。 ○ 4ページ、5ページで、2級地−2の方が2級地−1よりも生活扶助相当支出額の 数字が大きくなっているという御指摘だと思うが、いかがか。 ● いわゆる平成の大合併のときにどのように級地の整理をしたかというと、確かに級 地の高い方に合わせている。   級地の低い方の町村の影響については、今、この場では分からない。 ○ 後で検討していただいて、また次回にでもお願いしたい。 ○ 単身世帯が含まれていないのは、どういうことか。 ● 御質問の点については、全国消費実態調査が、単身と単身ではない世帯を全く別に データを取っており、これを統計的にそのままつなげるということが難しいというこ とで、2人以上世帯という形でやらせていただいている。 ○ 単身世帯も恐らく2人以上世帯と同様の数字が出るだろうという推測が立つのか。 ● 単身世帯についてはデータ数が少なく、多くのサンプルを持って分析をするという ことが難しいということもあり、それで今回のような2人以上世帯ということに絞ら ざるを得なかったということである。 ○ 第1回目の資料において、生活扶助相当支出額の中身が単身と3人世帯で随分違っ ている印象がある。つまり、単身高齢者世帯と3人標準世帯とで、衣食にかかわる支 出とそれ以外のいわゆる社会参加的な経費にかかわる支出の比重が違っていたように 思う。それを前提とすると、単身世帯についてデータが取れないということであるが、 物価指数との関係など、果たして類推していいものかどうか。 ● この資料は、級地間でどういう差があるのか検証するための資料であり、仮に単身 世帯と多人数世帯との間で消費構造に差があったとしても、級地間の格差を見る場合 には、その辺りは捨象できるのではないかと考える。 ● 例えば、級地別に6区分するとサンプルデータが少なくなるため、あまり細分化せ ずに、2人以上全世帯という大きなところで傾向を見る方がいいのではないかという ことでデータ処理をしている。 ○ 生活水準の物差しとして、物価差の「物価」というのはよく分かるが、地域におけ る生活様式差といったときの「生活様式」というのは、具体的に何を指しているのか 説明していただきたい。 ● 一般的な意味になるかもしれないが、生活様式差といった場合には、例えばその地 域の風俗であるとか慣習とか文化といったようなことから出てくるような違いという のはあるかと思う。また、社会的な資本やインフラなどが充実してくることによる違 いから生ずるような差といったようなものもあるかと思う。そういった中で出てくる 生活の行動パターンとか消費行動といったものの違いと理解していただければいいの ではないかと思う。 ○ 要するに、特別の数量のところが地域によって違う部分ということか。 ○ 級地別に支出特性のようなものがあるかどうかということは、まさにそれを見れば 確認はできる。それを、単身世帯は多分データが圧倒的に少ないので複数人世帯にな るが、せめて高齢者世帯で級地別に支出特性があって何か郡部と都市部で違いが出て いれば、そこはまさに風俗なり生活環境が違うということが出てくるのだと思う。   もう一点、生活保護受給者は、高齢者、単身が多いが、勿論男女別でも違いがある かもしれないが、このデータというのは一般消費者であるから、おそらく最適な消費 ができている。高齢者の場合は、情報やアクセス、移動等の色々なハンデがあり、必 ずしも一般消費者と同じような最適な消費行動ができていない可能性もあり、その辺 りはよく考慮しなければいけないのではないか。 ○ 別の論点であるが、まさに地域差のところの話で、通常、多くの政策においては地 域間格差を縮小する方向で行われてきたという感じがある。   例えば、最低賃金を考えると、実際の地域間の賃金格差に比べて、最低賃金の地域 差の方が小さく設定されている。これによって、なるべく地域の格差というものを政 策的に無くしていくという発想がある。   ところが、今の生活扶助については、むしろ消費支出においては地域差が小さく、 生活扶助の地域差が大きいという逆のことが起こっている。   特に9ページを見ると、この時点間でどう変わってきたか。特に昭和62年以降の差 を見ると、地域差が拡大するように給付がなされてきたように思えるが、この背景に はどういう議論があったのか。62年時点では、1級地−1が100とすると、3級地− 2が81.9である。それが平成4年においては77.5になっており、何故こうなったの かを教えていただきたい。 ● 62年当時の議論としては、生活をいろいろと見てみると地域の格差が広がっている のではないかという分析をした上で、むしろ地域間の差を広げた方がいいだろうとい うことになったようである。   ただ、やり方としては、9ページに経過措置とあるように一遍にやるのではなくて、 徐々にやってきたということである。基本的な考え方としては、この枝番に象徴され るように、1級地、2級地、3級地をそれぞれ振り分け、それぞれの基になる級地の 1の方から比べて4.5%下げるというやり方を当時はしたということである。 ○ 政策的配慮というよりも実態認識として差が広がっていたということか。 ● はい。 ● 生活保護制度において、政策的配慮全体として、例えば格差縮小や水準均衡といっ た配慮はあるが、級地差について、政策的に誘導しようといった意図はない。 ○ 基本的に地域間の格差が縮小の方向に来ているということ、要するに生活様式が一 定、同じような様式に向かっているということはデータから読み取れると思う。   つまり、生活水準というのは経済の指標で見るので、例えば世帯類型であるとか、 年齢階層であるとか、あるいは職業階層によって多分消費の構造というのは違ってく るだろうけれども、押しなべて少し収れん化の方向へ進んでいる。 ○ まだこの点についても御議論はあるかと思うが、資料3の勤労控除に関する資料に ついて御質問、御意見をお受けしたい。 ○ 未成年者控除の意味をもう少し詳しく教えていただきたい。 ● この未成年者控除については、特に就学をするため等の目的による限定ということ ではなくして、未成年であっても就労しているということに対しての控除であって、 例えば書籍や被服を買うとか、クラブ活動費に使うとか、特に目的に限定のない経費 である。未成年者のためのインセンティブという意味の控除である。 ○ 未成年者、学生も含めて、特別の控除はこの限りであるということか。 ● 基礎控除に加えて別枠で未成年者控除を上乗せするということである。 ○ むしろ、なぜ未成年者に対して控除が上乗せされたのかという理由を知りたいとい うことではないか。 ● 昭和38年から未成年者控除は創設されたが、未成年者であっても就労しているとい うことに対して報いるというか、成年しても働き続けていただくようなインセンティ ブが働くように、という趣旨で創設されたと考えている。 ○ 勤労控除制度というのは、1つには必要経費論と、もう1つは自立助長論という2 つの役割があって設けられているという理解でよろしいか。   その上で、現行のデータを見ると、必要経費というのは大体収入の1割程度担って いる。もう一つは、自立の助長も含めて2割強を上限として、一定の収入以上をフラ ットな状態にしていると理解している。   そうすると、このデータから言うと、粗い理解であるが、1割が必要経費、もう1 割が自立助長という配分になる。   その上で、1つはやはり必要経費部分は、勤労することによって必要となる経費な ので、これは計上する必要がある。2つ目に、自立助長という労働のインセンティブ をつけるということであるならば、これは、より労働のインセンティブを増加させる ような形で出した方がいいのではないか。   そのときに問題になるのは、これは「貧困のわな(poverty trap)」論の話になるが、 一定の所得以上の控除の額といったときに、生活保護を受けていない人と受けている 人の逆転現象が起きてくる。現行の制度の中では、「貧困のわな」という、生活保護を 受けている人と受けていない人の平等性が担保されないという逆転現象の問題がある。 それについて各自治体から幾つか意見が出ているが、この中の考え方として、私個人 としては労働のインセンティブをつけていく方向でやることが非常に大事なことだと 思っているが、一方で「貧困のわな」が起こるという問題をどうするか。平等性を担 保するにはどうしたらいいのかという問題は、何らかの制度的な手立てをしない限り、 解決は無理だろうと考える。そうなったときに、必要経費論については、これは一定 程度の額が必要であるから、生活保護の受給をされている方については必要経費とし て認めていく一方で、労働のインセンティブをつけるに当たっては、例えば生活保護 の廃止をするときに一括支給するなどして、それによって保護廃止後の生活の再建に 充てるとか、そういう手立てを考えないと平等性というのは担保されないと考える。   ただし、その中で保護廃止とならない人については、全額収入認定という考え方は 果たして妥当かどうかというのは、これはまた議論が分かれるかと思うが、私はそれ については積極的には支持しない考え方である。 ○ 8ページの自治体から出されている意見の中で、やはり公平性を保つという意味で も、3つ目の意見は、特に就労による自立支援プログラムと結びつくと、とても有効 な施策になるのではないか。ただ、やはり自立しない場合の全額収入認定というとこ ろについては、またいろいろと議論があるかと思う。   自治体から出されている意見の中で、例えば最初の意見に「長年就労して、ある程 度収入がある者にとっては、自立阻害要因」とあり、また、2番目には「就労期間が 長くなる」とあるが、ここはむしろ非常にインセンティブが働いた結果、長期間働く ことに繋がっているのではないかと思っており、この指摘はどうかと思っている。い ずれにしても、3番目の意見がいろいろな意味で公平性や、先ほどのポバティー・ト ラップの問題も含めて、現実的な方策なのではないかと思う。 ○ 8ページの自治体における意見の最初に「長年就労して、ある程度の収入がある者 にとっては、自立阻害要因となっているのではないか」という指摘は、どういう意味 なのか。 ● まず、この自治体における意見というのは、昨年の年初めに集中的に、特に大都市 部に被保護者が多いということは、1回目で御説明申し上げたが、東京23区、指定都 市、それから県の実務家とヒアリング及びフリートーキングを行ったときに、膨大な 意見が出され、とても数ページに収まるような話ではないが、その中で出た意見の中 で、勤労控除に関係する意見を保護課の方でまとめたものであって、例えば市長会や 知事会、あるいは正規の自治体の御意見として、公式に出ているものではないと、あ くまでもディスカッションの場で出ているものだということを御理解いただきたい。   ただ、被保護者の方と接しておられる、あるいは住民の方と接しておられる行政の 実務マンの御意見であり、いろいろ立場の違いはあっても、リアリティーなり、一面、 住民の方や被保護者の方からの意見だと我々は理解し、審議の御参考という意味で出 させていただいた。   それから、この2つの意見については、ディスカッションの流れの中で出てきてい る意見を取り出しているので、前後の文脈がないと混乱するかもしれないが、この2 つの意見が出てきている背景としては、生活保護から脱却する、自立するという観点 から考えるとどうであるかというのが、議論のやりとりとして多かったように思う。 自立支援プログラムなどは始まったばかりであり、そういった意味で確かにやれば収 入は増えるけれども、なかなか保護からの脱却まではいかない状況であった。   当時、保護率はまだまだ伸びており、その伸びるスピードも大きい時期の議論であ る。そういった中で勤労控除の議論になったときに、とにかく自立する場合には、保 護期間が長くなること自体が、保護から脱却するという意味ではマイナスであるとい うことが議論の前提になっていて、その上で勤労控除に対する評価などの議論になっ ていると理解している。   3ページを見ていただくと、例えば1級地−1の場合の単身の41〜59歳の方の場合、 8万2,900円が保護基準になっているわけだが、この方についていうと、収入が10 万6,410円までのレベルに達しないと保護から脱却しない。勤労控除を高くすればす るほど、このレベルも上がるので、そういった意味では、勤労控除として一定程度手 元にお金を残すとしても、この10万6,410円と8万2,900円の間の収入である限りは、 保護から脱却するという観点からはなかなか難しく、かえって自立阻害要因になって いるのではないかという趣旨の発言である。   この議論の前後に自治体からヒアリングしたときも、例えば3年間で保護を打ち切 るという有期保護というのはどうかという議論も一部の人から出ている。これも賛否 両論で、3年経っても保護を廃止できる状態にない人については結局廃止できないの であって、3年経った場合に保護廃止を検討すべきという議論をすると、とにかく余 分な負担を実施機関に課すだけで、実際廃止できるものではないとか、今は3か月と か6か月で自立してもらうのが大事だと思っているのに、3年の有期保護となると3 年間は保護を認めるような話になって、そのこと自体が、3か月、6か月という短い 期間で脱却していただくために一生懸命やっている実務家の立場からは、逆に後ろか ら鉄砲を撃たれるようなものだとの反対論も強い。しかし、今のまま、なかなか保護 から脱却できないという、そういう意味での自立阻害要因になっている現状では、有 期の保護というものを考えなくていいのかということについては、自治体なり、市長 会、知事会でやっておられる研究会などでも議論になって、提言もされていると認識 している。   そういう流れの中で、この2つの意見は出されたものであるということを御説明さ せていただく。 ○ 結局は、勤労控除が自立阻害要因となっているのではなくて、現行の勤労控除制度 が阻害要因になっているのではないかということか。そのときに、例えば2ページの グラフの下の表を見ると、仮に10万円の就労収入があったとしても、手元に残るのは 2万3,220円であって、残りの7万6,780円は結局消えてしまうという認識から、働 いてせっかく10万を稼いだのに2万3,000円というのは少ないのではないかと。した がって、この23.2%のうち、10%が必要経費だとすると手元に13%しか残らないとい うインセンティブの与え方に問題があるのではないか、上のカーブで言うと控除率が 急激に下がってくる、この下がり方が適切であるかどうかという議論になってくるの ではないかと思うが、いかがか。 ○ この下がり方で、実際に就労行動がどう変化するかということについては、これだ けでは分析できない。分析の研究対象だと思う。   勿論、下がり方を見直す場合には、勤労控除の根拠として、経費論にこだわるので はなくて、むしろインセンティブの方に比重を置いていくということだと思う。   その一方で、公平性の議論もあり、先ほどの自治体の意見の中でも、2番と3番は、 それぞれ興味深い案である。   1つには、保護の受給期間が長いと言われるのはどの程度の期間かということはあ るが、やはり一時的なショックで生活保護を受ける状態になっても、ある程度から安 定した生活を確保できて、これはもう大丈夫だということが確認できれば、いきなり その月で保護を廃止してしまうのではなくて、徐々に意欲がまた高まってくるのを見 ながら、控除額を少しずつ減らして、完全に安定して働ける状態に持っていくのがい いと思う。この2の案は、具体化するのは大変現場に負担がかかる案かもしれないが、 非常に面白いと思う。   3番目は、自立できなかった場合は全額収入認定してしまうというのは、これは酷 というか、必ずしも自立できない理由が労働供給、本人の意欲の問題だけではなくて、 労働需要側の問題もあるのであって、したがって全部収入認定するというのは、これ はあまりよろしくないのではないかと思う。公平性とインセンティブのバランスで、 少しインセンティブの方にも比重をかけることとし、2ページの曲線の下がり方は、 もう少し緩やかにした方がいいのではないか。 ○ 曲線の下がり方を緩やかにした方がいいかどうかという議論はあると思うが。確か に前後の文脈から切り取ってきて、それを云々というのは問題があるかもしれないが、 しかし、自治体の意見に対してはかなり疑問を感じている。基本的には、ここで言う 自立というのは、就労自立による生活保護からの脱却ということを意味している。   ただ、生活保護による援助を受けながらの自立、それは経済的な意味もあるが、社 会的な意味での自立を図っていくという面もあり、その意味でこの1つ目、2つ目の 案については、やや自立のとらえ方が一面的ではないかという気がする。   3番目についても、自立したかどうかについて国家が決めることになるのか。これ はやや哲学的な面から、果たしてそういうことを自治体がやっていいのか。やや1番 目、2番目とは性格の違う意見ではあるが、少し問題があると思う。   全体としての印象は、やはり控除というサポートを受けながら自立していく、生活 を営んでいくという面をなくすべきではない。特に就労に新規に就いた場合に、今の 基準のサポートでいいのか。あるいはもっと後押しをするような、新規の就労控除を 考える余地はないのか。   就労から6か月というのは、恐らく安定的な就労に就いたかどうかという基準、一 般の企業で言えば試用期間のような考え方であるという気がする。 ○ 生活保護から脱却するために就労を支援することも、勤労控除の中で考えなければ いけないが、働きながら生活保護を受けるということは、コストの面からすると、収 入が上がることによって保護費が減額されることになり、コスト削減の効果がある。   もう一つは、本人にとっては能力を活用できる場が得られていることと、能力を活 用していることは、社会にとっても個人にとっても非常にメリットもある。そこで、 生活保護の廃止がゴールであるというのも1つあるが、働きながら生活保護を受ける という観点からも、勤労控除の在り方について検討することも必要ではないか。 ○ 新規就労控除の額だけを大きくしたときに発生する問題としては、例えば6か月就 業した後に仕事を辞めて、また仕事に就き、再度新規就労控除をもらうということを 繰り返す可能性があることである。   逆に、安定した雇用につながらないおそれがあり、イニシャルコストを何とか補填 することは非常に重要であるが、それが大き過ぎると、今度はまたある意味ではモラ ルハザードの問題になってしまう。そのバランスが非常に難しい。 (了) 【照会先】 〔生活扶助基準に関する検討会事務局〕   厚生労働省社会・援護局保護課   TEL 03-5253-1111(内線2827)