第2章 ネットワークによる臓器あっせん業務の状況の検証結果

1.初動体制並びに家族への脳死判定等の説明および承諾

平成18年1月21日17:00頃、本人(40代の男性)が職場で作業中に意識消失し、救急車を要請。17:06、救急隊到着時、意識レベルはJCS300、下顎呼吸であったが、搬送中に呼吸停止し、気道確保を行った。17:20、当該施設に搬送された。病院到着時、心肺停止状態で心臓マッサージ等を施行し、約4分後に心拍が再開した。瞳孔両側5mm、対光反射はなく、頭部CTにてくも膜下出血(gradeV)と診断された。

1月23日16:00頃、担当医が家族に対し脳機能がほぼ全廃しており、早晩心停止になる可能性が高い旨の説明を行ったところ、17:42、家族より意思表示カードが提示された。

1月24日13:30、臨床的に脳死と診断。14:00、家族がコーディネーターの話を聞く意思があると申し出られ、病院がネットワーク西日本支部に連絡。14:50、ネットワークのコーディネーター2名と都道府県コーディネーター1名が病院に到着し、院内体制等を確認するとともに、医学的情報を収集し一次評価(ドナーになることができるかどうかの観点からコーディネーターが行うドナーの入院後の検査結果等に基づく評価)等を行った。

同日15:38、ネットワークのコーディネーター2名と都道府県コーディネーター1名が家族(患者の両親、姉)に約1時間面談を行い、脳死判定及び臓器提供の手順と内容、家族に求められる手続等につき文書を用いて説明し、家族構成等を確認した。

家族は、本人の意思を叶えなくてはならないし、本人の死を無駄にしたくない、できるだけ良い状態でより多くの臓器を提供したいと臓器提供を承諾された。

同日16:41、患者の父が家族を代表して脳死判定承諾書、および臓器摘出承諾書に署名捺印された。コーディネーターは承諾が家族の総意であることを確認し、両文書を受理した。

【評価】

○ コーディネーターは、家族への臓器提供に関する説明依頼を病院から受けた後、院内体制等の確認や一次評価等を適切に行ったと判断できる。

○ 家族への説明等について、コーディネーターは、脳死判定及び臓器提供の手順と内容、家族に求められる手続等を記載した文書を手渡して、その内容を十分に説明したと判断できる。

○ 家族は約1時間の説明後に臓器提供を承諾しているが、本人の意思を叶えたいとの強い意志がうかがわれることから、十分に考慮の機会を持って、承諾書に署名されたと判断できる。

2.ドナーの医学的検査およびレシピエントの選択等

1月24日19:34に、心臓、肺、肝臓のレシピエント候補者の選定を開始。膵臓と腎臓についてはHLAの検査後、1月25日0:47よりレシピエント候補者の選定を開始した。

法的脳死判定が終了した後、同日6:30より心臓、肺、肝臓、膵臓、腎臓のレシピエント候補者の意思確認を開始した。

心臓については、第1候補者、第2候補者の移植実施施設側が心臓の移植を受諾し、第1候補者に心臓の移植が実施された。

肺については、第1候補者の移植実施施設側が両肺の移植を受諾するも、最終的に、ドナーの医学的理由により左肺の移植が見送られることとなり、両肺の移植を辞退。第2候補者、第3候補者の移植実施施設側が片肺の移植を受諾し、第2候補者に右肺の移植が実施された。

肝臓については、第1候補者は、本人に移植の意思がなく移植実施施設側が肝臓の移植を辞退。第2候補者は、連絡時既に死去していた。第3候補者の移植実施施設側が肝臓の移植を受諾。第4候補者は、候補者の医学的理由により肝臓の移植を辞退。最終的に、ドナーの医学的理由により移植の適応なしと判断し、肝臓の移植が見送られることとなった。

膵臓・腎臓の同時移植については、第1候補者の移植実施施設側が膵臓・腎臓の同時移植を受諾。第2候補者は、連絡時既に死去していた。第3候補者の移植実施施設側が膵臓・腎臓の同時移植を受諾し、第1候補者に膵臓・腎臓の同時移植が実施された。

右腎臓については、第1候補者の移植実施施設側が腎臓の移植を受諾し、移植が実施された。

また、感染症検査等については、ネットワーク本部において適宜検査を検査施設に依頼し、特に問題はないことが確認された。

【評価】

○  ドナーの提供臓器や全身状態の医学的検査等及びレシピエントの選択手続は 適正に行われたと評価できる。

3.脳死判定終了後の家族への説明、摘出手術の支援等

1月25日5:40に脳死判定を終了し、担当医は脳死判定の結果を家族に説明。その後、コーディネーターは、情報公開の内容等について説明し、家族の同意を得た。

また、コーディネーターより家族に対して、左肺および肝臓については、医学的理由にて移植が見送られることとなった旨を報告した。

【評価】

○  法的脳死判定終了後の家族への説明等は妥当であったと評価できる。

4.臓器の搬送

1月25日にコーディネーターによる臓器搬送の準備が開始され、参考資料2のとおり搬送が行われた。

【評価】

○  臓器の搬送は適正に行われたと評価できる。

5.臓器摘出後の家族への支援

臓器摘出手術終了後、コーディネーターは手術が終了した旨を家族に報告し、病院関係者等とともにご遺体をお見送りした。

1月26日(臓器提供の翌日)、家族よりコーディネーターへ電話があり、コーディネーターから家族へ、レシピエントの移植手術がすべて終了したことを報告した。また、家族はコーディネーターが葬儀に参列することについて了承された。

1月27日、コーディネーター3名が葬儀に参列した。家族は、今でも故人がどこかで生きているような気がすると話された。

2月16日、コーディネーターが家族へ電話し、厚生労働大臣からの感謝状の受け取りについて家族の意向を尋ねた。家族は、感謝状は早く受け取りたいが、本人が亡くなったことは早く忘れたいと話された。

2月21日、コーディネーターが家族のうちの一人へ電話し、訪問日について相談したところ、仕事で多忙なため感謝状は郵送してほしい、また、臓器提供できたことに満足しており、今後の連絡はいらないと話された。他の家族はレシピエントの経過報告を希望されていたため、コーディネーターが電話連絡後に手紙を郵送した。

4月14日、コーディネーターが経過報告を希望された家族へ手紙を送り、レシピエントの移植3ヵ月後の経過を報告した。3日後、当該家族よりコーディネーターへ手紙の返事が届いた。

4月24日、コーディネーターが経過報告を希望された家族へ、肺移植を受けられたレシピエントからのサンクスレターを郵送した。

5月17日、経過報告を希望された家族よりコーディネーターへ手紙が届いた。肺移植を受けられたレシピエント宛の手紙が同封されており、同日、コーディネーターが当該家族へ電話し、お礼を述べた。

5月29日、コーディネーターが経過報告を希望された家族へ、心臓及び腎臓の移植を受けられたレシピエントからのサンクスレターをそれぞれ郵送した。

7月25日、コーディネーターが経過報告を希望された家族へ手紙を送り、レシピエントの移植6ヶ月後の経過を報告した。

8月24日、遠方に居住している家族からコーディネーターに連絡があり、移植を受けた方がすべて順調であることやサンクスレターを見て感動した、意思表示カードを持つように勧めたのも自分だったので、自分の時もよろしくお願いしたいと話された。

コーディネーターは、上記の連絡、報告以外に、その後もレシピエントの近況報告をするなど、適宜報告や対応を行っている。

【評価】

○  コーディネーターによるご遺体のお見送り、家族への報告やサンクスレターの送付等は適切に行われたと認められる。

○  コーディネーターは、今後の連絡は必要ないと言われる方や、レシピエントの経過報告を希望される方など、家族それぞれの気持ちに配慮した対応をしており、評価できる。


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