第2章 ネットワークによる臓器あっせん業務の状況の検証結果

1.初動体制並びに家族への脳死判定等の説明および承諾

本人(成人女性)は、数年前より激しい頭痛やめまい等があり、外科的・内科的治療を繰り返し受けてきたが、平成17年7月7日に症状が悪化し、食事摂取困難などを認め当該施設に入院。7月27日、GCS3〜5と意識レベルの低下が見られた。

8月3日MRIを撮影。翌4日、担当医が家族にMRIの診断結果について、今後の回復は困難であることを説明したところ、家族から意思表示カードが提示されたため、担当医はネットワーク中日本支部に臓器提供に関する問い合わせの連絡を行った。

8月5日14:54、都道府県コーディネーター1名が家族に会い、脳死下臓器提供、および心停止後の臓器提供に関する一般的な情報提供を行った。

10月11日7:00、自発呼吸が消失し、血圧が50 mmHgまで低下、ABR反応なし。9:43、病院はネットワーク中日本支部に連絡。都道府県コーディネーター1名が院内体制等の確認、医学的情報の収集および一次評価(ドナーになることができるかどうかの観点からコーディネーターが行うドナーの入院後の検査結果等に基づく評価)を実施した後、17:35より、家族に1時間面談。循環動態が不安定であることから、急変時に備え、心停止後の臓器提供の説明を行った。18:25、家族は心停止後の臓器摘出承諾書に署名捺印するとともに、本人の意向に沿い、脳死での臓器提供をしたいと希望された。

10月12日19:30、臨床的に脳死と診断。家族がコーディネーターの話を聞く意思があると申し出られ、19:45、病院はネットワーク中日本支部に連絡した。19:50、ネットワークのコーディネーター1名と都道府県コーディネーター1名が家族(患者の両親)に約1時間面談を行い、脳死判定及び臓器提供の手順と内容、家族に求められる手続等につき文書を用いて説明し、家族構成等を確認した。家族は本人が望んできたことだから叶えてやりたいと述べられた。20:50、患者の父が家族を代表して脳死判定承諾書、および臓器摘出承諾書に署名捺印された。コーディネーターは承諾が家族の総意であることを確認し、両文書を受理した。

【評価】

○  コーディネーターは、家族への臓器提供に関する説明依頼を病院から受けた後、院内体制等の確認や一次評価等を適切に行ったと判断できる。

○  家族への説明等について、コーディネーターは、容態の急変に備え、心停止後の臓器提供について十分な説明を行ったと判断できる。また、脳死判定及び臓器提供の手順と内容、家族に求められる手続等を記載した文書を手渡して、その内容を十分に説明したと判断できる。

○  この事例は、入院から臓器提供まで比較的長い経過を辿ったが、コーディネーターは、家族の求めに応じて脳死下での臓器提供及び心停止後の臓器提供に関する説明を計3回実施している。家族が納得できる結論に達するまで熟考できる機会を持てる適切な対応であったと評価できる。

2.ドナーの医学的検査およびレシピエントの選択等

10月12日22:29に、心臓、肺、肝臓、膵臓、腎臓、小腸のレシピエント候補者の選定を開始した。

法的脳死判定が終了した後、10月13日9:28より心臓、肺、肝臓、膵臓、腎臓のレシピエント候補者の意思確認を開始した。

心臓については、第1候補者、第2候補者の移植実施施設側が心臓の移植を受諾し、第1候補者に心臓の移植が実施された。

肺については、両肺移植の第1候補者の移植実施施設側が両肺の移植を受諾。片肺移植の第1候補者は、候補者の容態から判断して、ドナー肺が小さすぎると判断し、移植実施施設側が片肺の移植を辞退。片肺移植の第2候補者は、現在の状態が安定しているため、移植実施施設側が片肺の移植を辞退。片肺移植の第3候補者の移植実施施設側が片肺の移植を受諾し、順位通り両肺移植の第1候補者に両肺の移植が実施された。

肝臓については、第1候補者の移植実施施設側が肝臓の移植を受諾し、肝臓の移植が実施された。

膵臓・腎臓の同時移植については、第1候補者、第2候補者の移植実施施設側が膵臓・腎臓の同時移植を受諾し、第1候補者に膵臓・腎臓の同時移植が実施された。

右腎臓については、第1候補者、第2候補者の移植実施施設側が腎臓の移植を受諾し、第1候補者に腎臓の移植が実施された。

小腸については、登録患者不在のため、移植が見送られた。

また、感染症検査等については、ネットワーク本部において適宜検査を検査施設に依頼し、特に問題はないことが確認された。

【評価】

○  ドナーの提供臓器や全身状態の医学的検査等及びレシピエントの選択手続は適正に行われたと評価できる。

3.脳死判定終了後の家族への説明、摘出手術の支援等

10月13日8:42に脳死判定を終了し、担当医は脳死判定の結果を家族に説明した。その後、コーディネーターは、情報公開の内容等について説明し、家族の同意を得た。

また、コーディネーターより家族に対して、小腸については登録患者不在にて移植が見送られることとなった旨を報告した。

【評価】

○  法的脳死判定終了後の家族への説明等は妥当であったと評価できる。

4.臓器の搬送

10月13日にコーディネーターによる臓器搬送の準備が開始され、参考資料2のとおり搬送が行われた。

【評価】

○  臓器の搬送は適正に行われたと評価できる。

5.臓器摘出後の家族への支援

臓器摘出手術終了後、コーディネーターは手術が終了した旨を家族に報告し、病院関係者等とともにご遺体をお見送りした。

10月15日(臓器提供の翌日)、コーディネーターが家族へ電話し、移植手術終了の報告を行った。

10月16日、コーディネーター2名が葬儀に参列し、全ての臓器が無事に移植されたこと及びレシピエントの経過報告を行った。家族は、無事に手術が終わって良かった、お世話になりましたと喜ばれた。

11月10日、コーディネーターが家族へ電話し、レシピエントの経過が良好であることを伝えた。

11月13日、コーディネーター2名がご自宅を訪問し、レシピエントの経過報告を行った。家族はレシピエント全員が順調に経過していることを喜ばれるとともに、故人のことを思い出すと寂しいと話され、元気だった頃の思い出などを語られた。

12月19日、コーディネーターが家族へ電話し、レシピエントの移植1ヵ月後の経過を報告した。お正月には自宅に帰って過ごす予定のレシピエントがいることを伝えると、家族は大変喜んでおられた。

平成18年2月24日、コーディネーターが家族へ電話し、レシピエントのその後の経過報告を行った。また、肺移植を受けられたレシピエントからのサンクスレターを送付することを伝えた。

3月2日、コーディネーターより家族へ、肺移植を受けられたレシピエントからのサンクスレターを郵送した。

コーディネーターは、上記の連絡、報告以外に、その後もレシピエントの近況報告をするなど、適宜報告や対応を行っている。

【評価】

○  コーディネーターによるご遺体のお見送り、家族への報告やサンクスレターの送付等は、適切に行われたと認められる。

○  その後も、コーディネーターは家族に対し配慮のある対応を続けていることがうかがわれ、その努力を評価したい。


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