(資料3−1)

検討のためのたたき台(II−5.研究実施の手続きについて)

※ 今回は生殖補助医療研究のうち、まず胚の作成を伴う研究について検討し、余剰胚を利用して行う研究は、別途検討することとする。

1.ヒト受精胚の作成を伴う研究についての基本的考え方

・ ヒト受精胚の作成については、総合科学技術会議意見「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」において、「研究材料として使用するために新たに受精によりヒト胚を作成しないこと」を原則としているが、生殖補助医療研究での作成・利用については、これまで生殖補助医療技術の向上に貢献しており、今後もこうした研究成果に期待することは十分な科学的合理性があるとともに、社会的にも妥当性があるとして、その原則の例外として容認し得るとしている。(なお、ヒト受精胚からのヒトES細胞の樹立についても、受精胚尊重の原則の例外として容認し得るとしているが、ヒト受精胚を新たに作成してヒトES細胞を樹立する必要性についてはその時点では確認されなかったとしている。)

・ 一方、同意見は、生殖補助医療研究のためのヒト受精胚の作成・利用のように、例外的に研究目的でヒト受精胚を作成・利用することが認められる場合があるとしつつも、そのような場合においても、限定的な範囲で未受精卵の入手・使用を認めるのであり、ヒト受精胚の取扱いについては同意見におけるヒト受精胚尊重の原則を踏まえた取扱い手続きを定める制度的枠組みや、未受精卵の提供者を保護するための枠組みを整備する必要があるとしている。

・ 特に、研究目的のためにヒト胚を作成しないという原則については、国内全ての者に対して適応し、かつ国としての規制を以って徹底する必要があるとして、ガイドラインの整備を求めている。したがって、特にヒト受精胚の作成を伴う研究については、現在、日本産科婦人科学会会告「ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する見解」(平成14年1月)によって自主規制がされているが、国として、一定程度厳格な条件の下で容認するような制度的枠組みを整備する必要があると考える。

※参考 (以下、下線はすべて事務局による)

総合科学技術会議「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」(平成16年7月23日)(抄)

第2 ヒト受精胚

2.ヒト受精胚の位置付け

(3)ヒト受精胚の取扱いの基本原則

ア 既に述べたとおり、「人」へと成長し得る「人の生命の萌芽」であるヒト受精胚は、「人の尊厳」という社会の基本的価値を維持するために、特に尊重しなければならない。
 したがって、ヒト胚研究小委員会の報告に示されたとおり、「研究材料として使用するために新たに受精によりヒト胚を作成しないこと」を原則とするとともに、その目的如何にかかわらず、ヒト受精胚を損なう取扱いが認められないことを原則とする。

イ ヒト受精胚尊重の原則の例外
 しかし、人の健康と福祉に関する幸福追求の要請も、基本的人権に基づくものである。このため、人の健康と福祉に関する幸福追求の要請に応えるためのヒト受精胚の取扱いについては、一定の条件を満たす場合には、たとえ、ヒト受精胚を損なう取扱いであるとしても、例外的に認めざるを得ないと考えられる。

ウ ヒト受精胚尊重の原則の例外が許容される条件
 イに述べた例外が認められるには、そのようなヒト受精胚の取扱いによらなければ得られない生命科学や医学の恩恵及びこれへの期待が十分な科学的合理性に基づいたものであること、人に直接関わる場合には、人への安全性に十分な配慮がなされること、及びそのような恩恵及びこれへの期待が社会的に妥当なものであること、という3つの条件を全て満たす必要があると考えられる。

(中略)

3.ヒト受精胚の取扱いの検討

(1)研究目的のヒト受精胚の作成・利用
 ヒト受精胚の研究目的での作成・利用は、ヒト受精胚を損なう取扱いを前提としており、認められないが、基本原則における例外の条件を満たす場合も考えられ、この場合には容認し得る。

(中略)

ア 生殖補助医療目的での作成・利用
 生殖補助医療研究は、これまで体外受精の成功率の向上等、生殖補助医療技術の向上に貢献しており、今後とも、生殖補助医療技術の維持や生殖補助医療の安全確保に必要と考えられる。こうした研究成果に今後も期待することには、十分科学的に合理性があるとともに、社会的にも妥当性がある。このため、生殖補助医療研究のためのヒト受精胚の作成・利用は容認し得る。

イ 先天性の難病に関する研究目的での作成・利用
 現時点では、この分野の研究においてヒト受精胚の作成・利用を伴う研究を行う具体的必要性が確認できなかったが、容認する余地はあり、先天性の難病に関する研究が今後進展することを期待し、将来、必要性が生じた時点で改めて検討することとする。

ウ ヒトES細胞の樹立のための作成・利用
 ヒト受精胚からのヒトES細胞の樹立については、ヒトES細胞を用いた研究の成果として期待される再生医療の実現等の恩恵への期待に、十分科学的に合理性があるとともに、社会的妥当性もあるため、容認しうる。ただし、ヒト受精胚を新たに作成してヒトES細胞を樹立する必要性は、現時点では確認されなかった。(以下略)

(4)ヒト受精胚の取扱いに必要な枠組みの考え方

 上記に述べたように、例外的に研究目的でヒト受精胚を作成・利用することが認められる場合があり、その場合には、限定的な範囲で未受精卵の入手・使用も認められるが、ヒト受精胚の取扱いについて、本報告書で述べるヒト受精胚の尊重の原則を踏まえた取扱い手続きを定める制度的枠組みや未受精卵の提供者である女性を保護するための枠組みを予め整備する必要がある。
 現在、研究目的のヒト受精胚の作成・利用のうち、ヒトES細胞の樹立の際の利用については、国はES指針を整備しているが、これ以外については、日本産婦人科学会が会告により自主規制を行っているだけである。このため、研究目的のためにヒト受精胚を作成しないという原則を徹底するためには、制度的枠組みとして、国内すべての者に対して適応し、かつ国としての規制が必要である。

2.研究実施のための手続き

(1)基本的考え方

・ ヒト受精胚の生殖補助医療研究における作成・利用について、総合科学技術会議意見は、新たなガイドラインの整備とともに、その具体的内容として、同意見に基づく基準を設け、それに基づいて、個別の研究について審査した上で実施を認める枠組みが必要であるとしている。

● 胚の作成を伴う生殖補助医療研究を実施するにあたっては、ヒト受精胚尊重の原則に基づく倫理的配慮の下で胚の滅失を最小限にする観点、及び提供者保護の観点から、配偶子の提供を受ける際に、あらかじめ個別の研究について具体的な研究計画が確定していることを条件とする。

● 上記の研究計画の内容として、少なくとも、研究実施機関の名称、研究責任者の氏名、研究実施者の氏名、研究業績、研究課題名、研究の目的、ヒト胚の作成を行う必要性、研究の方法及び期間等が含まれる。

● 生殖補助医療研究においては、配偶子の提供を受ける「提供機関」と、生殖補助医療研究を実施する「研究実施機関」は、実際には同一である場合も多いと考えられるが、配偶子の採取、管理等の点で容易である等のメリットがある一方、提供者に係る個人情報保護の観点からは、別々の機関のほうが望ましいとも考えられる。これらの点を考慮した上で、研究実施機関と提供機関が同一の場合は、個人情報保護のための別途の措置を講ずることを条件に、これを認める。

※ 研究実施機関が提供機関と同一である場合については、とりあえず、主治医、研究責任者、研究実施機関(提供機関)の長 がそれぞれ別の者であることを想定する。

※ 個人情報保護のための必要な措置については、別途検討する。

※参考 

総合科学技術会議「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」(平成16年7月23日)(抄)

第2 ヒト受精胚

3.ヒト受精胚の取扱いの検討

(3)未受精卵等の入手の制限及び提供女性の保護

ヒト受精胚を作成し、これを利用する生殖補助医療研究では、必ず未受精卵を使用するが、未受精卵の女性からの採取には提供する女性の肉体的侵襲や精神的負担が伴うとともに、未受精卵の採取が拡大し、広範に行われるようになれば、人間の道具化・手段化といった懸念も強まる。このため、未受精卵の入手については個々の研究において必要最小限の範囲に制限し、みだりに未受精卵を採取することを防止しなければならない。(中略)
 未受精卵の入手には、生殖補助医療目的で採取された未受精卵の一部利用、手術等により摘出された卵巣や卵巣切片からの採取、媒精したものの受精に至らなかった非受精卵の利用とともに、技術の進捗状況にもよるが卵子保存の目的で作成された凍結未受精卵の不要化に伴う利用等も可能な場合があり得ると考えられる。しかし、こうした未受精卵の入手には、提供する女性に精神的・肉体的負担が生ずることも考えられるため、その利用は個々の研究において必要最小限の範囲に制限されるべきであり、そのための枠組みの整備が必要である。
 さらに、通常、未受精卵を提供する女性は、患者という自分の権利を主張しにくい弱い立場にあることから、自由意志によるインフォームド・コンセントの徹底、不必要な侵襲の防止等、その女性の保護を図る枠組みの整備が必要である。(以下略)

第4 制度的枠組み

2.制度の内容

(1)ヒト受精胚の研究目的での作成・利用

(中略〉

ヒト受精胚の生殖補助医療研究における作成・利用については、新たにガイドラインを整備する必要がある。具体的なガイドラインの内容としては、本報告書の基本的考え方に基づいて基準を設け、これに基づいて、個別の研究について審査した上で実施を認める枠組みが必要である。

ヘルシンキ宣言(ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則)(抄)

22. ヒトを対象とする研究はすべて、それぞれの被験予定者に対して、目的、方法、資金源、起こりうる利害の衝突、研究者の関連組織との関わり、研究に 参加することにより期待される利益および起こりうる危険ならびに必然的に伴う不快な状態について十分な説明がなされなければならない。(以下略)

ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する見解(平成14年1月 日本産科婦人科学会会告)(抄)

(中略)

5.研究の登録報告等

ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究を本学会員が行うにあたっては、学会指定の書式に準じてこれを報告する。

(※ 書式は次頁参照)

ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(平成17年6月29日一部改正)(抄)

6.研究を行う機関の長の責務

(中略)

(7)研究を行う機関の長は、ヒトゲノム・遺伝子解析研究において個人情報を取り扱う場合、個人情報の保護を図るため、個人情報管理者を置かなければならない。また、必要に応じ、責任、権限及び指揮命令系統を明確にした上で、個人情報管理者の業務を分担して行う者(以下、「分担管理者」という。)又は個人情報管理者若しくは分担管理者の監督の下に実際の業務を行う補助者を置くことができる。

(2)研究計画の審査の手続き

※研究責任者、主治医、説明者等の各要件は、「研究実施の要件」において議論する。

1)研究実施機関が提供機関とは別の機関の場合(資料3―2、p.1参照)

● 研究計画(配偶子の提供手続きを含む)の科学的合理性及び社会的妥当性を第三者の立場から審査する倫理審査委員会については、研究実施機関、提供機関における責任を明確にするために、それぞれの機関に設置し、審査を行わなければならない。

● 研究実施の手続きは以下のとおり

(1) 研究責任者が研究計画書を作成する。

(2) 研究責任者は、研究機関の長に研究計画書を提出する。

(3) 研究機関の長は、研究機関内の倫理審査委員会について意見を求める。

(4) 研究機関の倫理審査委員会は、インフォームド・コンセントの手続きを含む研究計画について審査する。

(5) 研究機関の倫理審査委員会は、研究機関の長に対して、研究計画についての意見を提出する。

(6) 研究機関の長は、提供機関の長に対して、提供機関における倫理審査委員会にて、研究計画について了解することを依頼する。

(7) 提供機関の長は、提供機関の倫理審査委員会に対して、研究計画についての意見を求める。

(8) 提供機関の倫理審査委員会は、インフォームド・コンセントの手続きを含む研究計画について審査する。

(9) 提供機関の倫理審査委員会は、提供機関の長に対して、研究計画についての意見を提出する。

(10) 提供機関の長は、研究機関の長に対して、研究計画の了解を伝える。

(11) 研究機関の長は、研究責任者に対して、研究計画の承認を行う。

2)研究実施機関が提供機関と同一とすることを認める場合(資料3―2、p.2参照)

● 倫理審査委員会は、研究実施機関(=提供機関)に一つのみ設置する。

● 研究実施の手続きは以下のとおりとする。

(1) 研究責任者が研究計画書を作成する。

(2) 研究責任者は、研究機関の長に研究計画書を提出する。

(3) 研究機関の長は、研究機関内の倫理審査委員会について意見を求める。

(4) 研究機関の倫理審査委員会は、インフォームド・コンセントの手続きを含む研究計画について審査する。

(5) 研究機関の倫理審査委員会は、研究機関の長に対して、研究計画等についての意見を提出する。

(6) 研究機関の長は、研究責任者に対して、研究計画を承認する。

3.配偶子の提供を受けるための手続き

(1)基本的考え方

・ 総合科学技術会議意見は、胚の作成を伴う生殖補助医療研究のための未受精卵の入手において具体的に遵守すべき事項として、提供する女性への不必要な侵襲を防止すること、また、提供への同意に心理的圧力がかかることがないよう、女性の保護を図るとともに、自由意志によるインフォームド・コンセントを徹底すること等を挙げている。また、これらに留意して国のガイドラインを定めるとともに、研究計画がガイドラインの定める基準に適合するかを審査するための必要な枠組みを整備すべきことを求めている。

※参考 

総合科学技術会議「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」(平成16年7月23日)(抄)

第4 制度的枠組み

2.制度の内容

(1)ヒト受精胚の研究目的での作成・利用

(略)このうち、特に、未受精卵の入手については、提供する女性への不必要な侵襲を防止するとともに、提供への同意に心理的圧力がかかることがないよう、女性の保護を図る必要があるため、既に述べたとおり、個々の研究において必要最小限の範囲に入手を制限するとともに、自由意志によるインフォームドコンセントの徹底等を義務付ける必要がある。
 この際、国は、生殖補助医療研究のためにヒト受精胚の作成・利用を計画している研究がガイドラインの定める基準に適合するかを審査するための適切な枠組みを整備する。
 文部科学省及び厚生労働省は、これらを踏まえてガイドラインの具体的な内容を検討し、策定する必要がある。

(2)手続きを定めるにあたっての留意事項(資料3―2、p.3参照)

● 卵子、精子は概念的には区別すべきではないが、実際には採取における身体的、精神的負担、一度に採取できる数などに違いがあることから、医療の過程における配偶子の提供の手続きについては、卵子、精子を区別して議論する。

※ ボランティアによる精子の提供は、別途検討する。

1)研究実施機関が提供機関とは別の機関の場合

● 医療の過程で提供を受けるためのインフォームド・コンセントを行う場合には、患者に何らかの圧力がかかる可能性を排除するため、研究の内容及び提供の方法、提供後の配偶子の取扱い等について説明を行う説明者(※)を置かなければならない。(資料3−3参照)

※ 説明者は、患者に対し、インフォームド・コンセントの手続きの説明を行うとともに、主治医との関係が患者の判断に影響を与えないように配慮した上で、生殖補助医療研究に利用される未受精卵や精子の提供の方法及びその提供後の取扱いに関する説明を行う。また、患者に対し、説明書を用いて研究内容について説明を行う。

● その場合、説明者は、提供機関内に所属する者でよいとする。

● インフォームド・コンセントを受ける者(同意書上、患者が同意の署名を行う相手)は、提供機関の長とする。

● 実際にインフォームド・コンセントが適切に得られたかについては、提供機関の  倫理審査委員会によるフォローアップの一環として行うこととする。

※ 具体的なフォローアップの方法は、倫理審査委員会の責務を議論する際にあらためて検討する。

2)研究実施機関が提供医療機関と同一とすることを認める場合

● 1)の手続きに加え、個人情報の保護の観点から必要な手続きを実施する。

※参考 厚生労働科学研究費補助金 厚生労働特別研究事業「ヒト胚の研究体制に関する研究」平成17年度研究報告書(平成17年3月)(抄)

II.分担研究報告書

1.ヒト胚研究の申請と審査体制

3)同意取得の際の問題点(p.8)

提供、とくに卵子の提供を得る際の女性の保護を考慮した同意取得手続きに関しては、実験内容・意義を潜在的提供者が理解することの困難、提供について説明をする医師(通常は原病日する主治医)とその後の人間関係への懸念(「断ったときに医師と気まずくなるのでは」等)を考慮すると、まず研究の意義を患者に替わって中立的に検討する前項審査機関の設立が急務であるとともに、医師以外に潜在的提供者が提供について気軽に相談できる窓口の設置がどうしても必要である。この窓口はある程度の研究に対する知識を必要とするため、医師でない不妊カウンセラーのようなものが適当であるが、現在のわが国のART施設で専属の赴任カウンセラーを配置している施設が極めて少ないことを考慮すると、いくつかの施設からの質問をまとめて受けることのできる窓口(たとえば都道府県などの単位で)を用意する必要があるかもしれない。

とくにこの中立的な相談窓口は、研究目的であらたに胚を作成する研究への提供を求められたときには必要であり、また熟練したカウンセラーが、ある程度の時間的余裕を持って行う必要があるだろう。


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