本委員会の検討結果を踏まえ、国は、地方公共団体や機構を始めとする関係者と協力し、速やかに所要の見直し等を行うよう期待する。
特に、扶養保険制度の実施主体である地方公共団体において、今後、条例改正等の手続や加入者等への周知を円滑に行えるよう、国においては必要な情報提供を行うなど、十分な対応を行うことが必要である。
平成19年9月25日
心身障害者扶養保険制度(以下「扶養保険制度」)は、心身障害者の保護者の相互扶助の精神に基づき、保護者が生存中掛金を納付することにより、保護者が死亡した場合などに障害者に終身年金を支給する任意加入の制度である。これは、昭和45年、障害者の生活の安定と福祉の増進に資するとともに、障害者の将来に対し保護者の抱く不安の軽減を図ることを目的として創設されたものであるが、一部の地方公共団体において独自に実施されていた同様の制度について、全国に普及させることにより、安定的、効率的な運用を図ることとしたものである。
平成8年には、保険料を引き上げる一方、過去の保険料納付不足分について国及び道府県・指定都市が2分の1ずつ負担する措置を講ずるなど制度の抜本的な改革を行ったところであるが、この見直し以降、運用利回りの低下や障害者の平均寿命の伸長が生ずるとともに、財政的に必要な保険料の引上げを行わなかったことにより、将来の年金の支払いを確実に行えない恐れが生じている。
このため、本委員会では厚生労働省社会・援護局の依頼を受け、扶養保険制度の安定的な運営を図るための方策について検討を行ってきたが、その結果について以下のとおり取りまとめたので報告する。
扶養保険制度の加入者は、平成18年3月末現在67,591人であり、2口加入分を含めた延べ人数は95,311人となっている。なお、平成7年度以降加入者は減少傾向にある。加入者の平均年齢は、平成7年度において61.0歳であったものが、平成17年度には66.9歳と高くなっており、平均加入期間についても同様に、22年5か月であったものが28年8か月と長くなっている。
年金受給者数は年々増加しており、平成18年3月末現在36,329人であり、2口加入分を含めた延べ人数は41,310人となっている。これは、平成7年度と比べて約1.6倍である。一方、平均受給期間を見ると、平成7年度に9年7か月であったものが平成17年度においては13年11か月と4年4か月伸びており、これに併せ、一人当たりの生涯平均受給額も約230万円から約330万円と約100万円増加している。
財政状況については、近年の運用利回りの低下や障害者の受給期間の長期化に伴う受給額の増加のほか、財政的に必要な保険料の引上げを行わなかったこともあり、扶養保険制度の運営を行っている独立行政法人福祉医療機構(以下「機構」)において、平成17年度末で約388億円の繰越欠損金が発生している。
なお、機構におけるこのような状況について、厚生労働省独立行政法人評価委員会から「制度に係る制約に起因する繰越欠損金の解消に向けて、国において検討が進められることを期待する」旨の指摘が繰り返しなされている。また、平成18年11月27日の総務省政策評価・独立行政法人評価委員会の勧告、さらには、平成18年12月24日になされた行政改革推進本部決定においても、「現在、厚生労働省内において、当事業に係る制度の見直しを行っており、その結果を踏まえ、次期中期目標等において事務及び事業の見直しに係る具体的な措置を定めること」とされているところである。
また財政状況に関し、仮に、保険料等について現行の枠組みのまま見直しを行わなければ、保険収支は平成39年度に、年金収支は平成38年度にそれぞれ積立金が枯渇するものと見込まれ、将来の年金の支払いを確実に行えない恐れがある。
扶養保険制度について、現在の財政状況を踏まえて制度の存続の是非も含めた見直しを検討するに際しては、単に財政的な観点から判断するべきものではなく、本制度が受給者及び加入者に対して果たしている役割についても充分考慮する必要がある。
すなわち、扶養保険制度は任意加入の制度であり、公的所得保障の上乗せとしての役割を果たしているものである。また、現在の積立金の状況にかんがみれば、制度を廃止する場合のみならず、維持する場合も財政的には相当規模の追加的費用が必要となる。しかしながら、受給者については、既に保護者が亡くなり年金の受給権が発生しており、受給者の生活資金の一部になっていること、既加入者については、保険に入っていることで保護者が亡くなれば年金を受給することを期待していることを踏まえた対応が必要である。
したがって、今後も制度を継続し、現行の制度の枠組みを基本としつつも、現在の経済状況を踏まえ、長期にわたって安定的に持続可能な制度へと見直すことが適当であり、現在ある積立不足に対応する措置を講ずるだけでなく、新たな積立不足を発生させないための措置を講ずるべきである。
年金給付の水準については、現在の財政状況を踏まえれば給付額の引下げも考えられるが、公的所得保障の上乗せとして障害者の生活を支える収入の一部としての意義を有していることを考え、今回の見直しに当たっては、現行の月額2万円を維持することが適当である。
現行の年金給付額を維持する場合、保険料を大幅に引き上げる必要があることから、脱退一時金や弔慰金の水準については、新たに設定される保険料水準を踏まえたものとする必要がある。
こうした考え方を踏まえ、事務局より示された脱退一時金等の水準は別添1のとおりである。
保険料の水準については、本制度が任意加入の制度であることにかんがみ、保険数理に基づいて現時点の諸条件に見合った適正な水準に設定するべきである。また、長期的な運用利回りが財政に与える影響が大きいことから、実態を踏まえつつ、制度の安定的な運営を考慮した予定利率を用いて制度設計を行うべきである。
既加入者については、年金額が変らないにも関わらず保険料額を大幅に引き上げることになることから、保険料額の大幅な引上げにならないよう一定の配慮を行う必要がある。
なお、本制度の社会的意義にかんがみ、引き続き、付加保険料(保険会社の事業経費として徴収される保険料)を徴しないようにする必要がある。
こうした考え方を踏まえ、事務局より示された保険料の見直し案は別添2のとおりである。新規加入者については、年金等の給付に必要な保険料を保険数理に基づき設定されており、また、既加入者については、年金原資となる現行の保険金額を据え置き、これに見合うよう保険数理に基づき設定されている。
国は、本制度に関する条例準則等を地方公共団体に対し提示するなど、制度の安定的な運営に関し、障害者の福祉を増進する立場から一定の役割を果たす責任がある。また、地方公共団体は、制度の実施主体として条例に基づき心身障害者に対し年金を支給する責任を有している。平成8年の見直しにおいては、このような考え方のもとに公費の投入を行ったところである。
今回の見直しにおいても、同様の考えに立ち、現在ある積立不足に対し、現在予定されている平成27年以降も国と地方公共団体で分担して2分の1ずつ公費を投入することは止むを得ないものと考える。
ただし、本制度は任意加入の制度であり、給付に必要な費用は加入者本人の保険料で賄うことが基本であることから、公費投入については、既加入者について一定の配慮をした上で、制度を長期にわたって安定的に運営するために必要な最低限度の額とするべきである。
こうした考え方を踏まえ、事務局より示された具体的な公費投入の見通しは別添3のとおりである。
なお、公費の投入に関し、機構の今後の「中期目標」において、「扶養共済制度に関し、国においては、その安定的な運営を図り、将来にわたり障害者に対する年金給付を確実に行うため、19年度末の積立不足に対応し、機構が定期的に行う扶養共済制度の長期的な財政状況の検証を踏まえ、毎年度予算編成を経て必要な財政支援措置を各地方公共団体とともに講ずることとし、機構は、上記の国・地方公共団体による財政措置を踏まえ、資金の安全かつ効率的な運用に努める」旨、明記すべきである。
(注)中期目標とは、独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)第29条第1項の規定に基づき、主務大臣が、3年以上5年以下の期間において独立行政法人が達成すべき業務運営に関する目標を定め、当該独立行政法人に指示するものである。
また、各地方公共団体の負担については、改正時点(平成19年度末)の各地方公共団体の加入者数・受給者数(延人員)按分をベースに、各地方公共団体の負担額の増減を緩和する観点から現行の按分による負担額との差分を1/2とする。
本制度を長期にわたって安定的に維持していく観点から、以下の点に留意して扶養保険制度の運営を行うべきである。なお、これらについても機構の「中期目標」に明記するべきである。
本制度の安定的な運営を図り、将来にわたり障害者に対する年金給付を確実に行うため、毎年度、財政の健全性を検証し、その結果を公表するものとし、その検証結果を踏まえ、少なくとも5年ごとに、保険料水準等について、社会経済状況に即した適宜適切な見直しを行う。
健全な財政状況を確保するため、資産運用については不断の努力を続ける必要がある。特に、年金資産の運用については、長期的な運用利回りが財政に与える影響が大きく、また、財政状況を早期に安定化させる必要があることから、資産運用体制を確立し、安定的かつ効率的に運用するべきである。具体的には、年金収支における財政見通しの前提である運用利回りを確保するため、いわゆる「5:3:2規制」の廃止等を行うとともに、長期的に維持すべき資産構成割合を定め、運用におけるリスク管理を行う。
本委員会の検討結果を踏まえ、国は、地方公共団体や機構を始めとする関係者と協力し、速やかに所要の見直し等を行うよう期待する。
特に、扶養保険制度の実施主体である地方公共団体において、今後、条例改正等の手続や加入者等への周知を円滑に行えるよう、国においては必要な情報提供を行うなど、十分な対応を行うことが必要である。
(別添1)
(別添2)
(別添3)
注1 運用利回りを保険収支1.5%、年金収支2.8%とした。
注2 公費計を国と地方とで折半(地方においては見直し時点の既加入者及び受給者に応じて負担)。
注3 既加入者・受給者の現在ある積立不足に対しては、公費を投入することとするが、公費投入の見通しについては、一定の前提に基づいたものであり、今後、実際の運営状況によって期間は変りうる。
(参考)
(注)◎は座長、○は座長代理 (五十音順・敬称略) |
<照会先> |