07/08/09 第16回労働政策審議会議事録 第16回労働政策審議会 日  時  平成19年8月9日(木)14:00〜 場  所  富国生命ビル28階大会議室 出 席 者 【公益代表】伊藤(庄)委員、今田委員、今野委員、大橋委員、勝委員、菅野会長、 清家委員、林委員、平野委員 【労働者代表】 植田委員、小出委員、古賀委員、篠原委員、山口委員 【使用者代表】 伊藤(雅)委員、大村委員、岡部(正)委員、勝俣委員、加藤(丈)委 員、紀陸委員、山内委員 【雇用労働政策の基軸・方向性に関する研究会座長】 諏訪法政大学大学院教授 【事 務 局】 上村厚生労働審議官、太田官房長、松井総括審議官、青木労働基準局 長、高橋職業安定局長、奥田職業能力開発局長、大谷雇用均等・児童 家庭局長、金子政策統括官、中野政策評価審議官、山田労働政策担当 参事官 議  題  (1) 第166回国会提出法案審議結果等について  (2) 平成19年版労働経済の分析について  (3) 平成20年度労働政策の重点事項(案)について  (4) 「雇用労働政策の基軸・方向性に関する研究会」報告書について  (5) その他 配布資料  資料1 第166回国会提出法案審議結果等について    資料2 平成19年版労働経済の分析(概要)           資料3 平成20年度労働政策の重点事項(案)          資料4 雇用労働政策の基軸・方向性に関する研究会 報告書     参考1 労働政策審議会構成図                  参考2 労働政策審議会委員名簿         参考3 厚生労働省設置法                    参考4 労働政策審議会令                    参考5 経済財政改革の基本方針2007             参考6 ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議        参考7 国際協力・協調の在り方 検討プロジェクトチーム検討結果報告書      参考8 労働政策審議会諮問・答申等一覧 議  事 ○菅野会長 ただいまから、第16回労働政策審議会を開催いたします。本日の議題は4件ございます。 第1は「第166回国会提出法案審議結果等について」、第2は「平成19年版労働経済の 分析について」、第3は「平成20年度労働政策の重点事項(案)について」、第4は「『雇 用労働政策の基軸・方向性に関する研究会』報告書について」であります。 まず、第1から第3の議題まで、一括して事務局より説明をいただいて、議論をしてい ただきたいと思います。その後、第4の議題について、本日は、研究会の座長を務めら れました法政大学大学院の諏訪教授にお越しいただいておりますので、諏訪教授より、 御報告いただく予定としています。それでは、第1から第3の議題について、事務局か ら説明をお願いします。 ○山田労働政策担当参事官 資料の説明に入る前に、そもそも論になりますが労働政策審議会の本審の意義について、 いろいろと御指摘がありますので、そこについての説明をというお話が事務局にきてい ますので、かい摘んでご説明させていただきます。 参考の1です。労働政策審議会の構成図がありますが、ご案内のように、労働政策審議 会の下に、労働条件分科会等、分科会がぶら下がっているということで、基本的に法制 度の改廃につきましては、分科会に委ねられているということです。そうしますと、本 審の役割はどういうものなのかということですが、参考の2をご覧いただきますと、各 分科会の会長が、本審に公益委員として入っていただいている構成になっています。し たがいまして、本審におきまして、労使を含めた、大所高所のご議論、考え方について の議論がされるということになりますと、公益委員であられる分科会長を通じまして、 こういった議論が分科会のほうにも投映されるということです。 ただ、これまでどちらかというと、本審におきましては、トピック的なものについての 議論が中心でございました。今回、労働政策全体についての大枠な議論をしていただこ うということで、後ほど基軸についての研究会を素材としたご議論をお願いしていると いうことです。 資料に沿ってご説明します。資料1「第166回国会提出法案審議結果等について」です。 この国会には、6本の法案を提出させていただきましたが、3本については成立となって おりますが、この資料1の3頁をご覧いただきますと、労働契約法案、労働基準法の一 部を改正する法律案、最低賃金法の一部を改正する法律案、これらにつきましては継続 審議となっています。 資料2です。「平成19年版の労働経済の分析」ということで、今年は「ワークライフバ ランスと雇用システム」というテーマでやっております。その内容の一部をご紹介いた しますと、6頁ですが、「週35時間未満及び60時間以上雇用者の割合」ということで グラフがあります。鍋蓋のような曲線がございますが、これは週60時間以上の長時間労 働者の割合です。これを年齢別に男性でとったものです。この10年間で、特に男性の子 育て世代のところで、長時間労働者の割合が高まってきていることが見られるわけです。 文章のいちばん下ですが、働き過ぎを是正し、仕事の効率の向上、意欲の向上に努める といった企業経営の構築ということが課題であるという整理をされております。  9頁ですが、「労働生産性上昇率と時短・賃金への配分」ということで、このグラフ の赤い線のところで、単位時間あたり労働生産性の上昇率の数字、2000年代のところを ご覧いただくと、これが少し上がっているわけですが、これが労働時間の削減、あるい は実質賃金の上昇といった形で、労働に分配をされているかにつきましては、なかなか 結び付いていないというのが現状であるということです。  13頁です。「まとめ」のところです。仕事と生活の調和が、3つの社会的意義を持っ いるのではないかという整理をしています。(1)ですが、人口減少社会のもとで、就業率 の向上、高い労働生産性の実現というものが求められるわけです。より多くの方々が生 活との折合いを付けながら、就業参加できる働き方の仕組みをつくっていく必要がある というのが1点です。  2点目ですが、先ほど分配の問題がありましたが、「バランスのとれた経済循環の実 現」ということで、特に若年者等の生活基盤の確保が、家族形成の前提となるというこ とで、そのための条件整備が必要であるということです。  3点目として、「人口減少時代の社会の安定の達成」ということで、ワークライフバ ランスの実現によりまして、子どもを産み、育てやすい環境づくりというものができて いくと。こういった3つの整理をしているということです。  続いて資料3です。「平成20年度労働政策の重点事項(案)」です。8月末に概算要 求に柱立てとして入れていこうと考えているものです。主なもののみご紹介いたします。 1番目は、「人材投資や中小企業支援等を通じた成長力の底上げ」ということで、格差 の固定化を防止するということで、今年の2月以降、官房長官をヘッドとしまして、成 長力底上げ戦略の展開をしてまいったわけです。先般発表されました「骨太の方針」の 中でも、この問題は1丁目1番地の施策として位置づけられているということで、3つ の柱がございます。 1番目は、「ジョブ・カード制度」を中心とした、人材育成の課題。2番目は、障害者等 につきまして、自立と生活の向上を図っていくということ。3番目として、中小企業の 底上げということで、中小企業等への生産性向上の支援と合わせた形で、最低賃金制度 の機能強化といったことが、課題として挙げられてございます。  3頁ですが、2番目の柱としては、「仕事と生活の調和(ワークライフバランス)の実 現」のための「働き方の改革」というものが、盛り込まれています。これにつきまして は、先般発表されました骨太の方針の中でも、年末までにワークライフバランスのため の憲章、行動指針を政府として策定していくことが盛り込まれたところでございまして、 さらに先般成立しましたパート法の附帯決議の中では、男性を含めた働き方の見直しが 盛り込まれておりまして、この問題につきましては、部局と連携して取り組んでいく必 要があるということで、さまざまな施策を盛り込んでいるということです。  5頁です。3番目の柱としては、「働く人たちの安心・安全の確保と公正かつ多様な働 き方の実現」ということで、労働者派遣事業の適正な運営の確保等々の施策を盛り込ん でいます。私のほうからは以上でございます。 ○菅野会長  ただいまの説明につきまして、御質問、御意見等をいただきたいと思います。私から のお願いは、次の議題がありますので、この議題は14時50分ぐらいまでと考えていま す。なるべく簡潔にお願いできれば幸いと存じます。 ○山口委員  「平成20年度労働政策の重点事項(案)」に関してですが、いくつか分散しているとこ ろについて、意見、要望を申し上げたいと思います。  まず、「ジョブ・カード制度」ですが、これは骨太の中でも大きく前に出されている ところでして、実際この制度設計の審議にもかかわらせていただいておりますが、先頃、 中間報告もまとめられたところですが、私どもが「ジョブ・カード制度」に求めるのは、 就労困難者の就労促進に資するというようなところが、いちばん眼目を置いているとこ ろです。いわゆるフリーターであるとか、子育て終了後の女性であるとか、母子家庭の 母というようなところで、さまざまな状況には置かれているけれども、大変就労が困難 であるという方たちの就労促進に成果を出せるようなところで、取り組んでいただきた いという思いで審議にも参加をしています。審議の中でも、これは厚生労働省のみなら ず、文部科学省であるとか、内閣府というような、あらゆる省庁が参画しているところ で、審議経過の中で、若干それぞれ各省庁というか、そういったところでのジョブ・カ ードに向けての思いの違いが垣間見えてきて、だんだん本来目的がどこにあったのかと いうことで、広がりがあるようなところもあります。  申し上げたいのは、就労困難者の就労をスムーズにするということに、大きく成果が 上がるようなものになるように、いくつかの省庁に跨っているマターではありますが、 厚生労働省がリーダーシップを発揮して、いま申し上げたような目的に達するような調 整を行ってほしいということが1つ目の要望意見です。そういったようなところで、就 労促進ということで、2つ目に障害者等の就労支援についても、その次に掲げてあるの で申し上げたいと思います。これも成長力底上げ戦略の中で、福祉から雇用へという政 策転換というか、大きく柱になっているところではありますが、少し気になるのが、福 祉から雇用へという取組みは望むべきものですが、ややもすると福祉の対象から切られ て、働け働けと雇用の場に追いやられる。雇用の場に行っても、例えば極めて低賃金で あるとか、長時間労働であるとか、労働条件が劣悪なところへの雇用が用意されている。 そういったようなことがあってはならないと思っているわけです。特に障害者について は、この障害者雇用促進法の改正に向けての議論が始まりまして、その中で、例えば雇 用率のカウントの上で一定の評価をするというようなことが、議論の方向として出てお りますが、少し疑問を持っているのは、派遣であるとか、短時間のパート就労といった ものが、障害者のニーズに本当に合っているのかどうか、あるいはそのような働き方が、 障害者本人にとっていいことなのかどうかということを踏まえて、促進法の改正につい ての議論をしていただきたいということです。そういったような視点をもって、是非、 制度の見直しに向けた検討を行っていただきたいという、以上2点について申し上げま す。 ○山内委員  いまのジョブ・カードについて申し上げたいと思います。今後さらに検討されると思 いますが、この構想の趣旨については、賛成ですし、企業としても前向きに協力してい きたいと思っています。  制度の構築に当たりまして、より多くの企業が協力しやすい制度にするために、各企 業の従来の既存の仕組みとか、ノウハウといったものをうまく組み合わせた形で、進め ていただければと思います。特に実習後の評価、実習期間については、企業の実態に合 わせるというスタンスで、柔軟な対応にしていくことで、協力する企業も増えてくると 思いますし、定着にもつながるかと思います。実習後の評価ですが、これは共通の物差 しが必要だと思いますので、併せて検討していただければと思います。 ○小出委員  私は資料3の2頁の(3)「中小企業等への支援と最低賃金制度の機能強化」、最賃の 問題は中賃で終わっていますから、この問題に触れる気はありません。その問題と、そ れからもう1つは、6頁の「地域・中小企業等を支える人材の確保・育成」ということ で、中小企業の生産性の問題は、確かに私も全体会議のメンバーですから、そこである 程度出されたものです。私は、いま中小企業そのもの全体について、そんな十把一絡げ のような捉え方をしていいのかどうかということに、非常に疑問があります。  日銀の短観によりますと、ものづくり産業においては、製造業においては、状況判断 からいくと確実にプラスの方向に2004年から転換しているのです。それから非製造業に おいても、大手については2004年からある程度景気は回復しています。いちばんの問題 なのは、非製造業の中小企業については、いまだにそこが改善されていない状況にある と思います。そういう流れの中で、生産性と言われても、私はものづくりの生産性が上 がってみえるところ、これは市場から理解するというのは、ものづくり産業では当たり 前の話です。そうすると、非製造業の生産性向上というのは、果たしてどのようにやら れるのですか。これは経営側がきちんとした考え方に立ってやらなければ、ただ国がこ れを出して先行してやるという考え方というのは、少しおかしいのではないかと思うの です。たまたま連合で、私は中小の担当をしていますので、2004年から中小企業を立ち 上げて、賃金のデータを追いかけています。2006年までは、確かに中小も徐々に賃金は 回復しました。2007年については、ものづくり産業だけは確かに賃金は去年に対して上 昇しているのです。しかし、非製造業、特にサービス、流通、あるいは交通、運輸関係 については、去年に対して下がっているのです。この実態をきちんと捉えて、このまま の状況でいくのだったら、おそらく非製造業、特に中央にいけばいくほど、大きな苦労 がいま起こっているのだろうと。  おそらく、20世紀までにやられていた国の政策というのは、大体大型公共投資を投入 して、何とか市場を活性化する、あるいは適度な賃上げによって、消費支出が拡大をし て、そこに潤沢に回ってきた。しかし、いまは公共投資は完全に抑えられている、賃金 も抑えられている、そこに本当に市場に消費支出を拡大するような政策というのが見え ないのです。その結果として、おそらく非製造業の生産性向上をやらなければいけない ということが出てきたと思います。そのときに、私は経営側の皆さん方がその辺りに対 して、どのように中小に対して指導されるのか。これが先に出てきて、それに対して国 が支援するという制度をつくっていかないと、ただ国が全部やるというのはおかしいと 思います。そういうものからいくのだったら、個々の中小企業の生産性向上というのを、 こういうもので正面に据えられても、中小企業というのはごまんとあるわけですから、 それに対して、ものづくりで、製造業でどうか、あるいは非製造業でどうかとか、ある 程度そういうものをきちんと分けて政策をきちんと考えてもらいたいです。  もう少しものづくりの関係でいきますと、私はいまのものづくりのことで、人という 面からいくのであれば、中小のものづくりについては、正直言って、技能、技術の継承 ということで言いますと、若手はほとんど入ってこない状況になっています。ここに対 して、きちんとした政策を取ってもらいたい。これを強くお願いをしておきたいと思い ます。 ○加藤(丈)委員  先ほど事務局から直接のコメントはありませんでしたが、資料の4頁の高齢者雇用に ついて、コメントしておきたいと思います。ここにあるように、「いくつになっても働 ける社会を目指した高齢者雇用対策の推進」。趣旨について反対するものではありませ んし、経団連でも、意欲と能力のある者の就労を促進して、全員参加型社会の実現を図 るというのは、新しいビジョンに盛り込んだ趣旨ですが、この2番目にある「『「70歳 まで働ける企業』の普及促進」、希望者全員を70歳まで継続雇用する制度の導入という のは、現状からみると、少し飛躍した方向ではないかなということです。改めて言うま でもありませんが、60歳雇用が義務化されたのは1998年ですから、この10年間に60 歳は65歳に延長されて、いま現実に企業は2013年までの65歳雇用確保に、いろいろな 工夫をしながら取り組んでいるところです。ですから、将来の方向として否定するわけ ではありませんが、いままでの延長で、60歳は65歳になり、それが70歳につながるの だということのないように、それぞれのいまの努力経過を踏まえながら、対策を考えて いただきたいと思います。 ○勝俣委員  3頁のワークライフバランスのところですが、ワークライフバランスの実現に向けて 社会全体で現状の働き方を検討して、目指すべき方向性を共有するということは、大事 なことだと思っています。ただ、ワークライフバランスは労使が一体となり、自主的に 取組みを進めるべきものでありまして、一律的に法規制の強化などの手法によるべきも のではないということで考えています。すでに、個別企業の労使で、各社の実情やニー ズを踏まえて協議して、さまざまな取組みが進められています。行政には、そうした労 使の取組み支援を原則として、各種の施策を進めていただきたいと思います。今後、内 閣府においてワークライフバランス憲章や行動指針の策定の検討をされていると伺いま したが、各省庁の取組みが縦割りにならないよう、整合性を取るよう留意していただき たいと思います。また、ワークライフバランスの推進に当たりましては、何よりも、多 様で柔軟な働き方の選択肢を整備していくことが重要と思います。テレワークの推進な どにもかかわりますが、労働時間法制の弾力化方策についても、引き続き検討をお願い したいと存じます。  最後に、個別事項ですが、3頁の4の「企業における次世代育成支援の取組みの一層 の推進」の中で、一般事業主行動計画の公表の推進とありますが、本来、行動計画自体 が公表を前提として作成されたものでないということから、違和感を覚えるところです。 推進ということが、新たな規制による公表の義務づけにならないようにしていただきた いと思います。 ○古賀委員  いま勝俣委員からワークライフバランスについて出ましたので、私もいくつかの会議 等で、基本的な認識について提起をしていますが、再度、基本認識をどのようなところ に置くかについてを中心に、この「仕事と生活の調和」について述べておきたいと思い ます。いま働く現場はどうなっているかというと、長時間労働が常態化をしています。 過労死、メンタルヘルスの問題というのは、年々増加をしています。一方で、貧困や格 差の問題が社会問題化しています。極端に言えば、長時間労働の正社員か、あるいは正 社員以外の雇用かという、二者択一的な状況が、労働現場で起こっているのではないか と思っています。このことが、一方で急速な少子化に歯止めがかからない要因の1つに もなっているのではないかと思います。我々は長時間労働、もっと言えば残業が例外的 になって、労働条件が、均等待遇ルール、それを確立することなど、すべての働く人た ちが、仕事と生活の両立が可能となる社会を目指すべきだと思います。先ほど、いろい ろな多様化とか、自律的みたいなことがありましたが、現在の長時間労働が常態化して いる中で、自律的な働き方といった言葉の下で、時間管理の適用除外がどんどんさらに 広がる、そのようなことは現在の状況の中では、我々はあってはならないのではないか と思っています。一方、ワークライフバランス施策ということを捉えてみますと、まだ まだ、働く女性の育児や介護支援が先行している。いま問われているのは、先ほど来申 し上げていますように、残業が恒常化、常態化している男性正社員の働き方モデル、こ れをどのようにチェンジするのかということだと思いますし、まさに一人ひとりの男女 が、やり甲斐のある仕事と、充実した生活をバランスよく両立させる。したがって、私 どもは職場における男性正社員の働き方のスタンダードを見直す、変えることを明確に 打ち出すべきだと思っています。そのことを申し上げておきたいと思います。  なお、それぞれの施策について、労使でずっと話し合いながらやっていくとか、その ことについては、全く異論を持つものではございません。 ○岡部(正)委員  労働政策の重点事項について意見を述べさせていただきます。資料3の重点事項案の IIIの(1)の4、「有期労働者の処遇の改善等」の中で、ガイドライン策定や正社員転 換支援を通じた有期労働者の雇用管理の改善で、その検討に際してですが、有期労働と いうことは、雇用安定の観点から望ましくない働き方であって、正社員転換が望ましい と。このように固定的に捉えるのではなくて、企業や働き手の具体的なニーズを踏まえ て、多様な働き方の選択肢の1つであるという考え方で、臨むべきではないかと考えま す。  また、ガイドラインということで、法令事項を超える内容が盛り込まれる場合が多々 ございます。学識者の研究会などで、先進的なガイドラインを策定されても、就労の実 態と懸け離れてしまうのでは問題があるのではないかと思っています。ガイドラインに 法的拘束力、あるいは強制力がないとしましても、影響力は大変大きいわけですから、 これには是非、労使の代表を加えた検討態勢で策定するなど、企業現場に無用な困乱を 招くことのないように、十分に配慮していただきたいと思っています。 ○植田委員  いまの5頁の(1)について、2点ほど述べさせていただきます。1つ目は、労働者派 遣、請負についてというところで、労働者派遣については、特に日雇い派遣とか、スポ ット派遣とか、およそ派遣とは呼べないような形態の派遣が広がっていると思っていま す。こうした実態を厚生労働省としても把握した上で、法規制をはじめとした対応をす べきであると考えます。それ以外にも、労働者派遣につきましては、さまざまな問題が 起きていますので、労働者保護の観点から制度を見直すことが必要であると思っていま す。請負につきましては、まず昨年来、厚生労働省として、製造業を中心に、偽装請負 ですとか、違法派遣の解消に向けて、監督・指導を強化していると伺っておりますが、 果たして行政の取組みだけで十分なのか。  例えば労働者派遣事業適正運営協力員制度というのがありますが、この役割も相談に 限定されているということで、適正運営のための制度になっているとは言いがたい状況 なのではないかと思っていまして、役割とか、権限を見直す必要があるのではないかと 思っています。  それから、(1)の2点目のところにもありますが、「製造業の請負事業の雇用管理の 改善及び適正化の推進」というところでは、ガイドラインも策定されましたが、請負労 働者の置かれている厳しい就労環境なり、劣悪な労働条件については、非常に大きな問 題意識を持っているところです。是非、厚生労働省として、請負労働者の就労環境の向 上につながるように、関係者に周知徹底していただきたいという要望です。  2点目は、いまほど使側の委員からも出ましたが、有期労働者のところです。今回、 パート労働法が改正されまして、不十分ながらも、差別的取扱いの禁止とか、均衡考慮 の努力義務、あるいは通常の労働者への転換措置の義務化などがなされました。  しかし、有期契約労働者につきましては、この改正パート労働法の措置の対象外で、 有期契約労働者の雇用の安定や労働条件の改善について、具体的な施策を進めていくこ とはもちろんなのですが、有期契約労働者の労働者保護、あるいは均等対遇の問題に関 しましては、今後、労働契約法での対応など、抜本的な対応を検討していくことが必要 ではないかと考えています。 ○篠原委員  資料3のいちばん最後になりますが、9頁の「国際社会への対応等」の部分について、 3点ほど申し上げます。まず1点目、いちばん上の「◇」の部分、アジアにおけるディ ーセント・ワークの推進というのは、非常に重要な項目と思っております。そのための ODA増額も考慮する必要があるのではないかなと考えます。とりわけ日本企業の多く が、アジアに進出をしていることを考えれば、やはり日本としても大きな責任を担って いるのではないかなと思います。ODAの増額に関しては、今回ILOに対する日本の財 政分担率が低減したということで、この低減相当分をILOを通じた協力に充てるという ことを考慮すべきではないかというのが、まず1点です。  2点目は、「◇」の1番目の3に、G8の労働大臣会合が平成20年5月に開催される と明記されていますが、今年度はドイツで会合が開かれましたが、社会的なパートナー である労使との協議を十分に行った上で、開催をされたと聞いております。グローバル 化の社会的側面に光が当たって、非常に高い評価を受けているとも聞いております。来 年のこの会合については、ドイツ以上に成果が上げられるように、準備段階から連合も 積極的にご協力をさせていただきたいと思っておりますので、是非それぞれ摺合せをし ながら、進めていただくということをお願い申し上げておきたいと思います。  3点目は、外国人労働者問題の部分についてです。「◇」の2つ目になりますが、こ の中の4の、外国人研修・技能実習制度についてです。厚生労働省や経済産業省の研究 会報告や法務大臣私案などが示されているわけですが、アメリカの国務省の人身売買監 視対策室長のマーク・レーゴンさんが来日されて、この制度の廃止の提案をされるなど、 研修や技能実習生を取り巻く状況は、非常に深刻な状況にあると思っております。送り 出し機関に対する規制も不十分でもありますし、研究会報告をさらに強化をした対策を 講じる必要があるのではないかなと、ご要望ということで申し上げておきたいと思いま す。以上です。 ○菅野会長  そのほかいかがでしょうか。 ○紀陸委員  資料3の5頁で、派遣の問題です。派遣、有期労働契約はいくつか問題が出ましたが、 5頁のいちばん上の1で、「派遣制度についての必要な見直しの検討」と書いてありま す。この「必要な見直しの検討」というのはどのような方向を目指しているのか、この 点をお伺いしたいと存じます。以上です。 ○菅野会長  それではよろしければ事務局からのお答えがあればしていただきたいと思います。 ○奥田職業能力開発局長  ジョブ・カードと外国人研修・技能実習制度についてお話がありましたので、お答え を申し上げます。まず、ジョブ・カード制度については、7月24日にジョブ・カード構 想委員会の中間報告が出され、その報告を受け、私どもでその具体化するための予算措 置を詰めている最中です。この制度をより多くの方に使っていただけるよう、より使い やすい制度となるよう予算要求に向けてさらに取り組んでいきたいと考えています。当 然ですが、私どもが中心的な役割を担う自覚を持っておりますので、関係機関とも調整 しながら進めていきたいと思っております。外国人研修・技能実習制度の問題について は、中間報告を5月にまとめましたが、中間報告で積み残した問題がまだかなりありま すので、今後もう一度研究会を再開するなり、具体的にはこれからですが、さらに検討 を深めていきたいと思っております。以上です。 ○高橋職業安定局長  いろいろ多岐にわたるご質問、ご意見があったかと思いますが、時間の制約もあろう かと思います。障害者雇用の問題については、すでに3つの研究会で検討をお願いして いたものが取りまとまっておりますので、それらを1つの大きな材料、下敷にしながら、 これから秋以降、審議会等々の場で十分ご議論いただきながら、必要な対応を図ってい きたいと考えています。  高齢者の問題についてのご意見については、基本はいま法律で定められた65歳までの 高年齢者雇用確保措置を確実に実施していただくことが基本で、それと同時に今後の人 口の高齢化の波を考える場合、やはり団塊世代の方々の雇用機会の拡大、あるいは就業 の場の創出をどうしていくかが大変大事な課題です。そういう中で65歳からさらに70 歳までを1つの展望に置きながら、どのような取組みが今後できるのであろうかという ことで、いろいろな取組みをやっていく必要があるだろうなと。この中でさまざまな企 業の取組みのやり方があろうかと思います。そういう中で、企業のそういう自主的な取 組みの中でのできるだけの支援をこれからやっていこうという趣旨ですので、よろしく お願い申し上げます。  派遣の問題でいろいろご意見がありました。現在、この派遣制度を巡っての議論につ いては、職業安定分科会の労働力需給制度部会で、平成15年改正における改正点のフォ ローアップ等々を中心に幅広くご議論をいただいております。いまこの時点で派遣制度 についてどうする、見直す、あるいはどのような点を見直すかの予断を持っているわけ ではありません。そういう意味では審議会におけるさまざまなご議論を十分お伺いしな がら、よく検討、協議をさせていただきたいというのが、現時点での対応、考え方です。 そのほか有期労働契約の問題で、あるいは請負労働にかかわる雇用管理改善に向けての ご意見もありました。そうした働き方は、一方で多様な就業ニーズにも応える部分があ りますが、他方でそうした働き方に留まらざるを得ない現実もある中で、できるだけ個 々の労働者のニーズに応えられるような雇用への転換も合わせ求められるわけです。同 時に、そうした期間雇用なり、あるいは請負労働の形で働いている方の労働条件の向上 を目指した事業主としての自主的な雇用管理改善の取組みというものも、大変重要な課 題です。そうしたことを我々としても一緒になって考えていきながら、支援できる部分 はご支援していこうということで、進めていきたいと思っております。 ○松井総括審議官  国際協調の観点でのご意見がありました。少しコメントを付け加えさせていただきま す。我が省におけるこれからの国際協調については、グローバル化の中で、政策目的を 明らかにして、しっかりした展開をしていきたいと考えており、最後の資料に武見プロ ジェクト、副大臣の下で今後の国際協調の在り方を検討したメモを添付しておりますが、 そこで今後の大きな方針を固めるなどしております。いわばその国際展開の具体的な展 開の初年度にしたいということで、来年度予算要求もしっかりしたものにしたいと考え ております。お答えになると思いますが、それをベースにこれからのILOに対する拠出 のあり方については、いままで分担率が19%だったのが、今年から16%に落ちるという ことで、6億程度の余裕ができる状況ですので、これをうまく使ってODA予算の充実の 観点から、しっかりした予算獲得をしていきたいと考えております。またG8労働大臣 会合などで、いま言った政策、目標意識をしっかり持った上で、展開していきたいと思 っておりますので、当然、今年ドレスデンでのドイツのG8大臣会合の成果をうまく引 き継いた上で、国内問題、取りわけディーセント・ワーク、あるいはそれらを踏まえた ワークライフバランスといった課題にうまく応えられるような会議運びをしたいと思っ ております。その成果をあげるためにも、この会議は政労使という三者の構成がうまく かみ合って成功裡に終わる、成功裡にいく会議でありますので、準備段階から含めて、 連合とも十分摺合わせをして、この会議の準備をし、出来上がった会議の成果をできれ ば洞爺湖サミットなどにもつなげたいと思っておりますので、いろいろな面からご協力 いただければと思っております。以上です。 ○大谷雇用均等・児童家庭局長  3頁のワークライフバランスの企業における次世代育成支援の取組み、行動計画につ いてお尋ね、ご意見がありました。この行動計画については、現在、大手の企業ではも うほとんど策定いただき、次は中小企業で策定を進めていただくというのが、最優先の 課題です。一方で、もうできた計画というものが、そこで働く従業員にすらあまり知ら れていないというのが実態とか、あるいはモデル的なものがどのようなものがあるかを できるだけ普及させたい。また今後このワークライフバランスは、企業と地域行政が連 携して進めていこうという、子育て行政との連携が重要になってきます。そういう中で、 どのように中身が地域なり、個々の労働者と結び付いていくか、中身の公表のあり方に ついて、直ちに義務化が適当かどうかはまだいろいろな考え方があると思いますが、方 法については今後検討していきたいと考えております。以上です。 ○菅野会長  ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。それではこの辺りで第1から第3の 議題については区切りをつけます。次に第4の議題、「雇用労働政策の基軸・方向性に 関する研究会」報告書について、審議いただきたいと思います。この研究会については、 6月14日に開催された前回審議会において説明がありましたが、改めて事務局から設置 の趣旨等について説明いただいた後に、研究会の座長の諏訪教授から報告書のご説明を お願いしたいと思います。まず事務局からお願いします。 ○山田労働政策担当参事官  資料4です。「雇用労働政策の基軸・方向性に関する研究会」ということです。この 研究会は今後の労働政策を進めるにあたっての課題、基本的な考え方を整理をしていた だくべく設置されたものです。具体的には、厚生労働省から独立行政法人労働政策研究 ・研修機構に研究の実施を要請をして、同機構において本年2月に有識者を参集して研 究会を立ち上げ、厚生労働省も事務運営に協力しながら、研究を行ってきたものです。 事務局としてはこの報告書を1つの素材として、今後の中長期的な労働政策を進めるに あたっての課題、基本的な考え方に関する議論を深めていただければと考えております。 ○菅野会長  諏訪教授、どうぞお願いします。 ○諏訪法政大学大学院教授  ただいまご紹介いただきました法政大学の諏訪です。研究会の司会役、座長を務めさ せていただきましたので、これから少し時間をいただき、基軸という考え方を中心に、 これからの雇用労働政策をいろいろな形で、できるだけ一貫性のあるもの、また実効性 のあるものにしていくことが望まれるのではないかという提言について、ご説明させて いただきたいと思います。  最初にお手元の資料4の冊子の目次です。ここにあるとおり第1章で、まずこれまで の雇用労働政策について少し振り返って、そして第2章において、いま現在労働市場を 取り巻く状況がどのように変化しており、かつ、そこでの課題は何なのかを確認しまし た。そして第3章で今後の雇用労働政策を考えていく上で、基軸というような、できる だけ基本となる判断の基本要素、あるいはそういう政策判断を考える上での指標となる 問題は何なのかについてまとめ、そして第4章で今後の雇用労働政策の方向性は何か、 雇用労働社会のあるべき姿と、それに向けての政策上の課題、その方向性について5点、 挙げたわけです。時間の関係もあるので、詳しくはこの報告書をお読みいただければと 思いますので、以下説明の便宜も踏まえて、1枚紙の「概要」という色付きのペーパー をご覧ください。  いま目次の所でご説明したとおり、労働政策はこれまで時代、時代の課題をそれぞれ 我々の先輩にあたる方々が、一生懸命考えて政策の判断をしてきましたが、戦争が終っ てその直後のころは、いわゆる近代化に向けて、労働政策もいろいろな形で、欧米のモ デルを日本にどのように取り入れていくかを考えつつ、他方で実態の現場においては、 いわゆる日本型雇用、日本的雇用というものが進んでいったということはご存じのとお りです。  そして高度成長を経て、我々の先輩たちが行った雇用政策はオイルショック以降、「雇 用の安定」というキーワードを軸にして、雇用の安定化に向けたさまざまな措置を取っ てきたわけです。さらに2度のオイルショックを経て、日本経済がそれなりに安定的に 軌道に乗っていったとき、我々はもう一度こういう豊かになった中で、どのように雇用 政策を考えていくかに直面し始めたわけですが、そこにいわゆるバブル経済の崩壊後の 事態がやって来まして、さまざまな緊急事態に対して、どのように対応していくか、と りわけ労働市場を巡るさまざまな課題に対応してきた。このようにこれまで進んできた わけですが、そういう緊急事態の中で、さまざまな手をつかさつかさで打ってきたわけ ですが、しかしそれら全体を通して、一貫した政策目標のようなもの、あるいは政策の 基本的な判断の軸といったものをいま現在で見直してみる。そして今後10年ぐらいの中 期的なものを見通したとき、どのような方向、あるいは課題があるかを議論したわけで す。この1枚紙でご覧になっていただければ、大体これが報告書の流れに沿って出来上 がっていると思いますが、労働市場を取り巻く状況についてはもうご存じのとおりで、 人口減少、少子高齢化という流れがあり、企業の側においてはグローバル化、技術革新、 産業構造の変化、こうしたものに対応を迫られ、また労働側においても価値観が多様化 し、また共働き世代が増加をし、こうして多様な流れが起きてきているということがあ るわけです。  また、こうした労働市場を取り巻く状況が、雇用労働の状況にはどのような事態を生 んできたかと申し上げると、もう先ほどからの議論にもあるとおり、非正規労働者の増 加と賃金格差の拡大。あるいは絞り込まれた正規労働者の長時間勤務といったような問 題。それから女性、高齢者の能力発揮ができる環境が十分にできているのかどうかとい う点での問題。さらには学校教育や能力開発と実際の産業界の現実とのニーズのミスマ ッチ問題。そして戦後の労働政策の非常に重要な枠組みを作ってきた労働組合の組織率 の低下と個別的な労使紛争の増加、このような一群の流れがあります。  これを踏まえると、今後懸念される問題、政策課題としてはここに4点挙げられてい るように、雇用の不安定化や格差の拡大に対しては、労働者生活の安定・向上という非 常に重要な課題があるであろう。また経済活力の低下の懸念に対しては、生産性の向上 ・競争力の確保という課題があります。また健康被害の拡大、少子化の進行という問題 では、先ほどからやり取りがあったワークライフバランスといったものを建前ではなく、 実効的なものにしていくという問題。さらに労働力人口の減少という問題については、 EUや他の先進国の多くもこの問題について、就業率の向上という政策課題を打ち上げ ていますが、日本においてもこれは重要な課題ではないかと確認をさせていただきまし た。ここまで申し上げてくると、個々的にいまご指摘したことは、何1つとして新しい ことを申し上げているわけではなく、これまでも指摘されてきた概念や政策課題と重な るところがほとんどすべてです。  ではこの基軸に関する研究会がオリジナリティを多少とも持たせていただけるのでは ないかと思う部分は、何かと申すと、こうした状況変化に対応して、新たな政策課題を 議論していく上では、できるだけ将来の方向に向けての基本となるコンセプト、そして それに向けてきちんと政策が進んでいるのか、どうだろうかということを判定するため の基本的な指標、基軸、基本となる軸を考えてみようではないか。結論を申し上げると、 向かう先は「上質な市場社会」なのではないだろうか。「上質な市場社会」というのは 言うまでもなく、市場経済を基本に我が国も今後進んでいく、少なくとも当面の10年間 は間違いなく進んでいくでありましょうが、この市場社会がしばしば指摘されているよ うなさまざまな問題を孕んだ、人々にとって望ましくない形で、進むというわけにはい かないであろう。  これはやはり日本としての誇ることのできる質の高い市場社会化を図っていく、それ へ向けて雇用政策も進んでいくということが望まれるのではないか。そこで「上質な市 場社会」に向けて、という基本方向を考えさせていただき、そしてそれを判定していく 上での基軸、あるいは指標というものを、公正・安定・多様性という3点ではないだろ うかというように議論の末まとめました。  こうした基軸、座標軸みたいなものが必要だというのはなぜか。これは言うまでもご ざいません。日本型の組織における様々な企画立案・政策の議論の上では、しばしばつ かさつかさは一所懸命専門的知識を、あるいは経験を踏まえて議論するわけですが、し ばしば経済学的に言えば、部分均衡というか、その部分、部分では非常にいいのですが、 全体としてどちらへ向かって進んでいるかがはっきりとしない。  あるいは、全体として、見てみると、政策がお互いに消し合ってしまう。こうして効 果が上がらない、大変苦労をしながら、望ましい方向に行かないということも起きない わけではない。そこで、こうした政策がバラバラにならないようにするためには、やは りできるだけこうした政策を取りまとめていく基本的な視座というのか、指標をたえず 意識しながら、進んでいくことが望まれるのではないか。このように考えまして、3つ の指標ということをまとめとして、提案したわけでございます。  第1点目が「公正の確保」ということでございまして、フェアネスという問題は豊か な活力ある経済社会を作っていく上では、欠かすことのできない問題でして、公正な働 き方を確保していく、これは上質な市場社会、みんなが評価をする市場社会を考える上 では、不可欠である。具体的には労使間の交渉力、情報量の格差などを前提にしますと、 集団的な労働条件決定システムやその枠組みというものを改めて再確認し、また時代の 変化の中に沿った見直しや多様化が必要なのではないだろうか。  それから、2点目としては社会の不安定化を防止するためには、豊かな活力ある経済 社会にふさわしい公正な労働条件の確保が必要ではないだろうか。  また3点目として、個別の労働条件が公正に決定される仕組みや、あるいは揉め事が 起きたときの適切、迅速な解決の仕組み、あるいは最低労働条件の設定や見直しといっ たものが必要だろう。そして最後に差別の解消や機会均等といったものがよき市場社会 を考える上で重要であろう。このように議論をいたしました。  次に2点目ですが、公正な確保というだけでそれで足りるかというと、やはりそれだ けではないのではないか。我々が働いて、労働サービスを提供するというのは、市場経 済メカニズムからとれば、一種のこうした労働力の需給調整、その取引ということにな るわけですが、我々が働くということの中には、様々な人間的な能力や意欲や、それか ら生活者としての側面ですとか、あるいは人間的な側面と切り離すことができない形で 働いていくわけでして、こうした人間的な側面を考えていきますと、やはり「安定の確 保」ということが非常に重要な課題ではないだろうか。安定の確保というときに、これ まで、とりわけバブル経済崩壊以前では雇用の安定というのが専ら注目されていて、組 織の内部で安定するということへ向けて様々な政策が統合されるところがございまし た。  しかし、それだけではなくして、能力開発による職業キャリアの発展を通じて、職業 生活が安定をしていく、外部労働市場の整備などという問題も含めまして、こうした職 業生活が安定する、つまり組織の中で職業生活が展開されていく安定と、それからこう いう組織を超えて職業生活が発展していく、こうした安定の両方を睨みながら、安定の 確保ということを考えていくべきではないか。その点では、ここでは2点挙げておりま すが、労働者の生活の不安定化を防止するためには、やはり雇用の安定が重要であると 同時に、能力開発と外部労働市場の整備を進める中で、職業キャリアの発展、安定を図 っていくということが重要ではないかということです。  そして、3点目は「多様性の尊重」ということです。好むと好まざるにかかわらず、 現代社会は多様化をしてきておりまして、今後とも多様な姿が進んでいくであろう。こ うしたときに多様な選択を可能とすることによる能力の発揮、競争力の確保ということ がやはり課題ではないだろうか。労働者の多様なニーズに対応するとともに、企業が多 様な労働者の能力を最大限活用し、生産性の向上を図っていくためには、雇用スタイル に関して、多様な選択が可能となるようにする必要があると同時に、多様な働き方が押 しつけられるというような形ではなくて、主体的に選択可能となるように、ライフステ ージに応じて、様々な働き方の間を行き来できるような条件整備ですとか、その他の条 件整備が必要なのではないだろうか。   これから各方面で政策を議論する上では、公正が確保されているだろうか、安定の確 保がこれで可能だろうか、また多様性が尊重されているだろうかという視点が必要なの ではないだろうか。それを踏まえまして、労働政策の方向性といたしましては、この報 告書で申しますと、14頁以下で、職業能力開発を進めていく、それから長期的視点に立 った職業キャリアの発展、安定が確保できるような労働市場を構築していく、また3点 目として、公正さが確保される働き方のルールを設定していく。また4点目としまして は、労使関係に関する政策として、公正な労働条件決定の仕組みを確保できるかどうか。 そして最後に5点目で、多様性ともかかわりますが、こういう多様な働き方に中立的な 制度へと見直しがされていくべきではないか。このような提言をまとめました。  時間の関係で以上に止めさせていただきますが、こうした3つの基軸に沿って、個別 の政策を評価し、位置づけながら、政策をできるだけバラバラにならないように議論を していっていただけることがよろしいのではないかと我々は議論をいたしました。もち ろん、どのようにこれを皆様がお受け取りになっていただくかは、この審議会の場でよ ろしくご検討のほどをお願いしたいと思います。 ○菅野会長  どうもありがとうございました。雇用労働政策の基軸、あるいは方向性について、ま とめていただいた、その研究会の報告書について、大変わかりやすいご説明をいただき ました。あと20分ほど、時間がございますので、どうぞ質問等ございましたら、してい ただきたいと思います。 ○岡部(正)委員  ただいま、諏訪先生から大変詳しくご説明をいただいたわけですが、私のほうから、 報告書の位置づけといいますか、こういう基本的な部分について、ちょっと質問を交じ えて、意見を述べさせていただきます。まず、労働問題関連施策の検討の場として、三 者構成審議会不要論をときどき耳にするのですが、これは私どもはそういう意見には賛 成ではございません。やはり必要なのではないかと思っております。雇用労働政策を策 定する上での基軸を作るということであるならば、現場の実態をやはり反映する労使の 関与というか、参加がどうしても必要なのではないかと考えております。今回の報告書 ですが、資料を拝見しますと、学者の先生方が中心となって検討されて、とりまとめを されておられますが、そもそも研究会と労働政策審議会の両者の関係はどういうふうな 関係にあるのか、いまひとつわからないわけです。労働者側、使用者側の委員が入って いない研究会の報告書、これをベースに議論をしていいのかどうか、ちょっと疑問に思 っております。そうなりますと、この報告書はあくまでも議論をする1つのきっかけ、 言葉は悪いですが、たたき台というような形で出したという理解をしていいのかどうか、 その辺をお伺いしたいと思っております。労働政策審議会といたしましては、議論の活 性化の工夫、これは絶対必要だろうと思いますが、大所高所からの意見交換をする場な のだと、このように私は理解をいたしております。  これは最後に質問なのですが、この報告書を基に議論をするといたしましても、これ は各分科会での議論を縛るものになるのかならないのか。私は縛るものではないのでは ないかと理解をいたしておりますが、それでよろしいのかどうかですね。 ○諏訪法政大学大学院教授  審議会と研究会の関係については、事務局のお考えもこの後ご説明していただいたら よろしいかと思いますが、私としての理解をお話をいたします。いま岡部(正)委員か らありましたとおりでございまして、私はたたき台だろうと思つております。しかしな がら、こういう審議会の場で、お忙しい先生方がパッと来て、何もないままに議論をし たり、いろいろな政策をそのときどきの流れの中で、直ちに、適切に議論できるかとい うと、なかなか難しい部分もあろうかと思います。したがいまして、何らかのたたき台 のような、あるいはベースになるようなものがあることが、やはり望ましいのではない かと思います。そのように考えますと、いま審議会の在り方がいろいろ各方面から問わ れておりますが、そういう中で審議会としての見識を発揮する上でも、いろいろな素材 はあったほうがいいのではないか。そのような意味で、今回の研究会の報告は、これま で政策全体をこのように基軸といったような要素で見詰め直してみるという視点が必要 ではないかという、問題提起をさせていただいたということでございます。  したがいまして、言うまでもなく、各分科会、部会の議論を縛るような性格のものだ とは全く思っておりませんし、もちろんこの労働政策審議会の本審の議論を縛るような ものでは、毛頭ございません。そのようなことは、全く我々考えて議論をしたわけでは ございません。  それから、学者が観念的に議論をしたのではないかというふうに言われますと、そう かもしれないという気持はもちろんございますが、しかしながら、学者にも学者なりの よさも少しはございますわけで、そういうよさも、もしお汲みとりいただければと思っ ております。これ以外は事務局からお願いします。 ○山田労働政策担当参事官  いま諏訪先生がおっしゃったことと事務局の考え方は、全く同じでございます。いず れにいたしましても、この研究会の報告書というのは、この研究会の報告書ということ で、1つまとまっているわけですが、内容につきまして労働政策審議会として、どうい う考え方を持つのかということにつきましては、今日を皮切りに少しご議論をしていた だくようなことで、事務的にいろいろご相談をさせていただきたいと思っております。 ○古賀委員  いま岡部(正)委員からあったようなことを私も聞きたかったのですが、概略そうい うことで、今後これをたたき台にして、少し議論を深めていくという理解の上で、いく つか申し上げておきたいと思います。まず、私自身も、あるいは労働側も、これまで労 働政策審議会というのはどういう位置づけなのか、もう少し各分科会の報告だけではな くて、少し基本的なことを議論すべきではないか等々の課題を提起してまいりました。 そういう意味では、この労働政策審議会においてこの種の議論をしていくということに ついては、我々としては前向きに受け止めたいと思っております。  しかしながら、個々の文言、あるいは様々なこの中に書かれていること等々について は、まだまだ突っ込んだ議論をやっていかなければならないこともあると思います。言 葉尻を捉えるわけではないですが、「上質な市場社会」と言われても、上質な市場社会 というのは何なのかとか、そのようなことを含めて、あるというふうに思いますので、 今後議論を深めていきたいと思っております。中でも雇用労働政策の課題そのものの共 通認識を公労使がお互いにきちんと持ち、その上で現状の雇用労働政策というのは、ど ういう特徴があるのか、どこに課題があるのか、どこにいい点があるのか、そういうこ とも含めて、少し掘り下げた議論をし、次のステージに向けての労働政策の策定、運営 に活かしていくべきではないかと考えているところです。  最後になりましたが、先ほどもありました、労使が入っていないということは、私も 言いたかったのですが、報告書をまとめられた先生方のご努力には心から敬意を表して おきたいと思います。以上です。 ○伊藤(雅)委員  私からも、こういう労働政策の基軸、方向性に関する共通認識を持つということは異 論はございません。ただし、岡部(正)委員が先ほどおっしゃったとおり、報告書の位 置づけというものが各分科会を拘束するものであってはいけないと思うのですね。諏訪 先生はもちろんそういうようにおっしゃっているし、ただ気になるところが何カ所かあ ります。  例えば、基軸の3要素、公正、安定、多様性というキーワードが決められてしまうと、 何か行き着く所、どうも非常に厳しいものになるというふうに見えないかなと思います。 例えば、安定となると、では派遣労働というものは、何でいま市場で要求されているの か。私自身は別に派遣労働ということは好きではないのですが、どうしてこういうもの が要求されているか、極端な例が日雇い派遣というものがあって、社会問題になってお りますが、やはり何でこういうものが要求されるのだろうかと。これはマーケットが要 求しているので、そういうものに頼らざるを得ないような社会が確立されている、そこ がこちらに書いてある「上質な社会」でも何でもないですよね。いま我々が直面してい るマーケットが極端な話、海外と競争しているわけです。それが、やはりいまの雇用問 題を要求していて、決して使用者側からもそれを望んでいるわけでも何でもないのです。 ですから、もうちょっと緩めていただくとか、各頁内の文章等も、基本認識を持つのは いいのですが、100%本当にこの文章が合っているのかとなると、ちょっと疑問に感じる ところがございます。その辺も考慮していただければありがたいと思います。以上でご ざいます。   ○諏訪法政大学大学院教授  いま古賀委員と伊藤(雅)委員から大変適切な、あるいはおそらくそういうふうにお っしゃっていただくであろうなと思ったご批判をいただきましたが、少しだけご説明を させていただきます。まず上質な市場社会というのは何かというと、確かにこういう言 い方は、これまであまりされておりませんでした。ただ経済学の方々の中には、高質な 市場でないといけないというような議論があったり、それからILOの側ではご存じのと おり、ディーセント・ワークという形で、公定訳は適切な仕事とか、労働と訳されてお りますが、これは人によっては人間らしいとか、いろいろな訳をされていますが、我々 はむしろディーセント・ワークは上質な仕事、労働という意味ではないのだろうかと考 えています。やはり質の悪いというものは、できるだけ淘汰していくべきであるという 思いが入っているのではないか。あまり聞き慣れないキャッチフレーズかもしれません が、キャッチフレーチズは最初は多少聞き慣れないほうがインパクトがあるということ も考えまして、こんなようなことを表題にさせていただきました。もちろん、ご批判が たくさんあろうかと思いますから、さらにいい方向をご検討いただければと思っており ます。  それから、もう1点、3つの指標を作ってギリギリこれでやれというのかというご疑 問ですが、全くそのとおりだろうと思います。これら3つの指標は、場合によっては相 反したり、ぶつかり合う部分が確かにあるのです。すべてが全く別の方向を指していて、 それぞれについて何点ずつ付いたら、いい仕事だとか、いい市場だという議論にいくか というと、そんな単純なものではないだろうと思います。ただし、こうした3つの要素 のバランスを取りながら、考えていくというのは、やはり必要なのではないか。それか ら、安定という面も、スタティックな、静態的な安定というのは、いまのこのダイナミ ックな状況の下では大変難しいだろうと思います。しかしながら、ダイナミックな安定 性という問題は、これは人間は不安定な状況には、過度になりますと耐えられないわけ です。こうしたような問題については、ダイナミックな安定性労働市場の整備をしなが ら、そうした方向はやはり考えていくべきではないだろうかと、こんなふうに議論させ ていただいたわけです。もちろん、中の文章ですとか、コンセプトについて、このよう な表現の仕方、まとめ方で、ベストだとは毛頭思っているわけではございませんで、で きるだけ我々としては、ない知恵をしぼって議論をしたわけではございますが、是非そ れを基礎にされて、この審議会で、よりよいものを作っていただければと思います。 ○菅野会長  ほかにいかがでしょうか。それでは、この「雇用労働政策の基軸・方向性に関する研 究会報告書」についてご説明いただきましたが、それについての基本的な委員の先生方 のご意見もいただきましたが、労働政策審議会としては、私も、その中長期的な雇用労 働政策の課題や基本的考え方について、公労使で議論を行うことが重要と考えます。そ こで、今後、政策の基軸・方向性ということに関して、議論を重ねていきたいと考えま すが、それでよろしいでしょうか。   (異議なし) ○菅野会長  ありがとうございます。それでは、次回もこの議論をさせていただきたいと思います ので、よろしくお願いいたします。なお、円滑な議論に資するため、事務局を中心に、 労使の意見を十分伺っていただきながら、論点の整理等を行っていただきたいと思いま す。また研究会報告書につきましては、事務局から各分科会・部会委員の皆様にも配付 していただきたいと思います。  本日はこのくらいで閉会とさせていただきたいと思いますが、事務局からその他何か ありますか。 ○山田労働政策担当参事官  ただいま会長からご指摘がございましたが、課題、基本的な考え方に関して、議論の 深め方をどうしていくか、会長のご指導の下で、労使の皆様ともよくご相談をしながら、 対応してまいりたいと存じますので、どうぞよろしくお願いいたします。 ○菅野会長  それでは最後になりますが 本日の会議に関する議事録につきましては、当審議会の 運営規程第6条により、会長のほか、2人の委員に署名をいただくことになっておりま す。つきましては、労働者代表委員の山口委員、使用者代表委員の大村委員に署名人に なっていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。本日の会議は以上で 終了いたします。お忙しい中、どうもありがとうございました。 照会先 政策統括官付労働政策担当参事官室 総務係 内線7717