07/07/26 第6回診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会の議事録について      第6回診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会 日時 平成19年7月26日(木) 14:00〜 場所 厚生労働省省議室(9階) ○医療安全推進室長  定刻になりましたので、第6回「診療行為に関連した死亡に係る死因究明の在り方に 関する検討会」を開催させていただきます。委員の皆様方におかれましては、ご多忙の ところご出席いただきましてありがとうございます。本日の委員の出欠状況についてご 報告をいたします。本日は山本委員より欠席のご連絡をいただき、南委員、松谷局長よ り遅れるとのご連絡をいただいています。  次にお手元の配付資料の確認をさせていただきます。議事次第、座席表、委員名簿の ほかに、資料1「これまでの主な議論」です。資料2「これまでの主な議論(新旧対照表)」、 参考資料1「これまでの主な議論(第5回配付資料)」で、前回使いました資料です。参 考資料2として従前どおり参考資料集です。以上ですが、資料の欠落等ございましたら ご指摘をいただきたいと思います。もしなければ、以降の議事進行につきましては、前 田座長よろしくお願いいたします。 ○前田座長  本日、大変お忙しい中お集まりいただきましてありがとうございます。時間が貴重で すので、早速議事に入ります。前回は厚労省が法務省と警察庁と協議した上でまとめら れた、「診療行為に関連した死亡の死因究明等のあり方に関する課題と検討の方向性」、 いわゆる厚生労働省試案で示された論点に沿って、いままでの議論を整理した上で、議 論を深めていただきました。今回は、さらにそれを発展させるということですが、事務 局のほうで第5回の検討会でご指摘いただき追加した資料を用意していただきましたの で、それに沿って議論を進めてまいりたいと思います。最初に資料1、2について、事務 局からご説明をいただいた上で、前回、十分議論ができなかった、特に試案の6の論点、 「行政処分、民事紛争及び刑事手続との関係」についてご議論いただいたあと、今日ご 用意いただいた資料1、2を中心に全体について議論を深めていくということにしたいと 思います。それでは資料の説明から入りたいと思います。事務局からよろしくお願いい たします。 ○医療安全推進室長  まず参考資料の1は前回使いました横長の資料です。参考資料1に沿って前回ご議論 いただいて、いろいろご指摘をいただき、新たなご意見等を記載したものが、資料1で す。ただ、この資料1だけでは前回の参考資料の1とどこが変わったのかわかりにくい と思いますので、資料2新旧対照表を用意しました。資料2の1頁目、新旧対照表で、 左側が旧で、前回の文章が書いてあります。右側が前回のご議論を踏まえて、追加した もの等がわかるように書いています。下線部が前回と違うところということです。1つ ずつ順番に説明したいと思います。1番目、[共通の願いとしての医療安全]ということ で、前回医療安全というのは患者さんだけの願いではなくて、医療者からの願いである ということで、「医療とは、患者・家族と医療従事者が協力して共同で行う病との戦いで ある。したがって、医療が安全・安心でより良いものであることは、医療に関わる全て の人の共通の願いである」等の文章を付け加えております。  3頁をお開きください。2ですが、こちらから診療関連死の死因究明を行う組織につい てです。次の頁ですが、調査組織の目的についてもう少し議論をする必要があるのでは ないかと、たくさんのご議論をいただきました。その結果を事務局のほうでまとめて書 きました。d)として、真相究明は極めて多義的なものであり、その言葉が意味するもの として、以下の3点が考えられる。(1)純粋に医学的な観点からの死因究明。(2)医療事故 の発生に至った根本原因の分析(例えば、当該医療機関の人員配置等のシステム上の問 題等)。(3)インフォームドコンセントをはじめとした、患者・遺族と医療従事者とのコミ ュニケーション等についての評価。e)また、真相究明の後には、その結果が遺族への説 明、再発防止、更には行政処分、刑事・民事の手続等に活用されることが考えられ、そ の活用の仕方によっても真相究明のあり方が変わってくるのではないか。f)医学的な事 実関係を明らかにすることが肝要であり、まずは純粋に医学的な観点からの死因究明(上 記d(1))を行うことが重要であるというご意見の一方で、g)純粋に医学的な観点からの 死因究明(d(1))のみを目的とするのではなく、再発防止を視野に入れ、要因分析をした 上で、根本原因に遡った提言(d(2))ができる組織とし、医療安全に大きな役割を果たす べきであるというご指摘がありました。さらにh)として、純粋に医学的な観点からの 死因究明等に加えて、インフォームドコンセントをはじめとした患者・遺族と医療従事 者とのコミュニケーション等についての評価を行うことも考えられるが、モデル事業等 でも十分な実績がなく、慎重に検討していくべきではないかというような議論でした。  続きまして、7頁ですが、調査組織の構成についてということで、[調査組織を構成す る人材]というところの、b)医療従事者以外の者が、評価委員会に参加することは、議 論の監視役として必要であるという議論の続きということで、c)調査・評価委員会に第 三者として医療従事者以外の法律家等が加わることも必要であるが、まずは、医療従事 者の世界において、お互いに公正な調査・評価を行うという倫理規範が確立されること が重要である。これが実現されなければ、遺族の納得が得られないのではないか。それ から[遺族の参加]ということについても前回議論されていまして、a)遺族の参加につ いては以下の3つの場が考えられると。(1)調査・評価過程、(2)調査・評価の委員会、(3) 調査組織の運営。b)調査・評価過程においては、聞取り調査や質問等の形での参加を遺 族に保証しておく必要がある。また、調査・評価の進捗状況等を遺族に伝えるとともに、 遺族の思いを受け止め、調査組織と共有する役割を担う者が必要である。c)調査・評価 委員会に遺族が参加することにより、十分な議論がしにくい状況が生まれることが考え られる。また、当事者が評価に加わることにより、その評価は客観性・公正性を欠いた ものとなりかねない。このため、調査・評価委員会の当事者たる遺族が参加することは 望ましくない。d)遺族が参加しなくとも、例えば、遺族が信頼のおける第三者や、遺族 の気持ちを十分汲み取ることができる立場の者が、調査・評価委員会に参加することで、 遺族の納得や理解が得られるのではないか。e)遺族が調査・評価委員会に参加したいと 望む背景には、「調査組織は果たして信用できるものなのか」という疑念がある。中立性・ 公正性が確保された信頼できる調査組織であれば、遺族は自ら参加しなくともよいと思 えるのではないか。f)遺族の立場を代弁する者等の調査組織の運営への参加・関与の在 り方も検討すべきではないかという議論がありました。  少し飛びますが、14頁の大きな4、調査組織における調査のあり方がありますが、最 初に、[解剖の重要性]で、その次の頁ですが、[その他の検査等の必要性]ということ で、ビデオ撮影のことがありましたが、それについては慎重に検討していくべきである ということで、患者同意の上で、手術の過程をビデオで撮影し、それを調査組織で活用 する仕組みも考えられるが、具体的な方策については、慎重な検討が必要であるという ことでした。  [評価・検討]のb)ですが、純粋に医学的な観点からの死因究明だけではなく、根 本原因に遡った調査・評価が重要である。例えば、当該医療機関における人員配置等の システム上の問題、更には制度上の問題等についての検討が必要な場合もあるというこ とです。  17頁ですが、今後の調査のあり方の具体化に当たっての詳細な論点というところです が、[調査の対象事例]ということで、これを死亡事例に限っていくかどうかということ について、ご議論いただきました。a)として、調査対象は、死亡事例だけではなく、死 亡には至らない事例も加えることが望ましいが、すぐに実現できる仕組みが作れるかと いうと疑問だ。まずは死亡事例の調査を確実に進めることが現実的ではないだろうかと いったようなご議論がありました。b)についても同様なご議論でありました。  18頁です。遺族からの申出につきましては、b)遺族からの申出を受けるのであれば、 調査受付窓口の相談機能を充実させることが重要であるということでした。  19頁になりますが、[院内事故調査委員会]については、その必要性については特段 の異議はありませんでしたが、d)調査組織と院内調査委員会の目的は異なるものとなる だろう。院内事故調査委員会では、真相究明・再発防止だけではなく、遺族への対応や 救済、場合によっては当事者たる医療従事者に対する責任追及等、あらゆる議論がなさ れる場となるのではないかということでした。また、e)事故調査委員会における外部委 員の存在意義について書かれている部分ですが、外部委員の存在は、公正さを確保する 意味でも、議論を深める上でも重要であるということでした。  21頁ですが、[調査報告書の説明における遺族への配慮]ということで、純粋に医学 的な観点からの死因究明のみで、医療不信という氷山を溶すことには限界があるのでは ないか。中立性・公正性を確保した医学的な観点からの死因究明に加えて、遺族の問い に分かりやすく答えることも大切だということでした。  22頁から、再発防止のための更なる取組ですが、d)個別の事例の根本原因の分析だ けではなく、多数の事例の集積と、それを踏まえた根本原因分析を行うことが重要なの ではないか。その上で、必要に応じて、行政に対する提言を行うことも検討すべきでは ないかということでした。  最後に、23頁から、本日ご議論いただきます、行政処分等のところですが、これにつ きましては、山本委員のほうからご指摘がありました、25頁の紛争解決観点から見ると、 おそらく裁判だけでは十分ではなく、話し合いによる解決が可能な事例においては、そ れを援助するような仕組みが必要である。既にいくつかの民間の機関が医療事故におけ る紛争解決を担おうと活動を開始しており、それらが機能するようになれば、例えば調 査組織では純粋に医学的な真相究明を行い、それを基に民間の機関での話し合いを促進 していくという役割分担も可能ではないか。しかし、それらの民間の機関が十分に機能 するか分からないという段階においては、調査組織が話し合いによる解決を援助する機 能を担う道を残しておく必要があるといったようなことが出ました。以上でございます。 ○前田座長  本当は、いま説明をしていただいた新しい部分につなげて議論するのが最も効率的と いうか生産的なのですが、先ほど申し上げましたように、6番がブランクになっており ます。「行政処分、民事紛争及び刑事手続との関係」というところからご意見をいただけ ればと思います。刑事手続等の関連についてはある程度議論されてきましたけれども、 行政処分のあり方についても若干の議論がありました。民事紛争との関係は、山本委員 のいまのご指摘があるわけです。また、裁判外の紛争処理の可能性、その他についても ご議論があれば出しておいていただきたいと思います。もちろん、刑事との関係も議論 があれば出していただきたいということです。 ○樋口委員  行政処分との関係について2点申し上げます。先月、私はそこにおられる山口さんと 一緒に、医療系の学会のシンポジウムに行きました。その人は日本人の医師なのですけ れども、アメリカでも活動していて、実際にアメリカで行政処分の手続を経験したこと があるそうです。アメリカにおいて、刑事司法の問題との絡みなのですけれども、行政 処分がどういう役割を果たしているかについて身をもって経験している中で、実践して 経験してこられた話を伺うことができました。これは仄聞したことを又聞きで申し上げ ているだけです。  そこで彼が強調したのは、アメリカでは行政処分が日本よりずっといろいろな形で行 われている。医師にとって行政処分というのはなかなか厳しいものだから受けたくない ものである。文脈は刑事処分との比較だったのですが、刑事処分というのはほとんどな いアメリカにおいて、刑事処分に比べればというのがどれだけ意識されているかどうか わからない。少なくとも、行政処分ではどういう人が処分の過程で調査しているかとい うと、自分と同じような医師が必ず入っていて、専門家としての目で「お前、これは一 体どういうことなんだ」という一問一答が厳しくなされる。なかなか厳しいと思うけれ ども、納得はできるということを言っていました。それが第1点です。  2点目は、日本でも刑事処分があって、行政処分というやり方はおかしいだろうとい う話になって法改正がなされ、実務のほうでも改正がなされ、行政処分を主体的にやっ ていこうという話になっていると思うのです。ただ、そのときに問題になったのは、世 界で唯一つだと思うのですが、医師が28万人、歯科医師が9万人ということで、37万 人を相手にして、1つの医道審議会という組織で行政処分を行っている。それだけの大 人数の人たちを対象として行政処分をしている所というのは、たぶん医療関係ではない のではないかと思います。アメリカの場合もたくさんの医師がいますけれども、50の州 に分かれていますので州の機関でやっています。どんなに多くても27万人とか36万人 ということはあり得ません。  しかし、今度は行政処分を主体的にやっていきますよ、調査権限も持ちますよ、とい う形で法改正をして、もう施行されているはずです。いまのところはまだ始まったばか りだと思いますが、どういう調査体制があって、今度の調査組織ができたときに、それ に一部連動させたり、負担をお願いするということがどういう意味を持つのか。それは 非常にいいことなのか、ここではそれが欠けていてそれを補ってくれるような話なのか。 一応そちらはできていて、こちらはこちらで別の目的で調査報告書を作り、それが結果 的に後で行政処分につながることはあっても、一応それとは別のものとしてこちらで考 えればいいのか厚生労働省にお伺いします。 ○前田座長  非常に重要なことだと思います。 ○医事課長  確かに調査することができる規定の整備であったのですが、現実にはいままでも行政 が調べて処分につなげるという可能性としてごくわずかなものはありました。それを、 法的な根拠も伴った形にしたわけです。いままでと違った形で現実に動いているという ことではなくて、今回の件も含めて今後どうしていくか、というのは検討していかなけ ればいけない課題となっております。 ○前田座長  私から関連して質問ですが、今回の制度に行政的な処分に関しての調査権限を少し前 向きに動かしたことを、つなげて厚生労働省として考えているわけでもないのですか。 どうなるか自然体でいって、調査のデータが出てきて、行政処分を前向きにやっていく ということになると、ここのデータが使われてくる可能性もかなり高いとは考えている のでしょうか。もちろん将来のことで、見込みであってアバウトなことはおっしゃりに くいのかもしれないのですけれどもいかがでしょうか。 ○総務課長  今後、この検討会でご意見をいただいて「どういうことなのか」というのはあるので すけれども、私どもが試案という形で出しているところをご確認いただきますと、6番 の(1)に書いたように、この検討会の結果、仮に今後こういう調査組織ができた暁に、そ れでいろいろな事件・事故を調査し、調査報告書をまとめられるということがあった。 その中で、例えば医療従事者の過失といったようなことの可能性ということが指摘され る、といった調査報告書がまとめられるというケースも出てくるだろうと思います。  そういう場合に、これまでであれば、刑事処分が起きてから処分をする、というのが 通常のやり方でした。この辺りは、それなりの組織が、その事故全体を調査しているわ けなので、もう一度その刑事処分を待つ必要があるかどうかということになるわけです。 そういうことについて、これまでどおりの運用でいいのかどうかという問題意識を持っ ています、ということはこの試案を書いた段階では一応書いているわけです。でも、ど ういうレベルで関係づけていくのだと。ある程度行政処分のあり方の変更というのはあ るのか、とは想像しているのですけれども、どのような関係にしていくのだろうか、と いうことも含めて、この検討会でもご議論いただければありがたいということです。 ○前田座長   私が口を挟んでしまいましたけれども、6番に関してほかの委員からご発言があれば お願いいたします。 ○高本委員   行政処分なり、何か事故が起こった場合、そこに医師としての責任があるならば、我々 医師側の学会自身が、専門医などの認定を一時停止する、というような形の処分という のはありうるのだろうと私は思うのです。ただ、医療に関して過失責任を刑事事件で問 うのは医療の本質を見失うのではないかという感じがします。  医療とは、患者・家族・医療従事者が協力して共同で戦う病との戦いである。基本的 に共同作業なわけです。医師が患者と一緒に戦っているかどうかということに対しては 患者側からは不満があることもあると思いますけれども、いずれにしろ戦おうとしてい ることは事実なのです。理想の形として、両方が手を携えてやるべきであるのにもかか わらず、刑事事件というのはお互いに敵対するような関係にしてしまうことは、物事の 本質を見失うような気がするわけです。  法律の先生とも話をしたのですが、特に過失責任というのは自動車事故とも対比され るわけです。ほかの業務上過失致死ということに関して、自動車は確かに過失というの があります。基本的に自動車というのは普通にやっていれば安全に運転できるというの が普通であります。医療は、普通にやっていれば全部安全にいくというものではないわ けです。私は心臓外科をやっていますが、手術すれば何パーセントかの患者は亡くなる というのはデータでちゃんと出ています。そのことを含めて患者に説明をして手術する わけです。  我々の業務は、生命と壁一つのところで仕事をせざるを得ないというものですので、 ほかの業務とは基本的に内容が違うだろうと思うのです。いろいろほかの業務のことも 考えてみますと、裁判官や警察官というのは非常に大切な仕事をしています。国の公安 を守る、平和を守るという意味でも非常に大事な役目だろうと思います。ただ、この中 でも過失や誤審などが起こっているわけです。裁判官の誤審、冤罪事件もいろいろある。 つい先日も、警察官が誤認逮捕という記事が新聞に出ていましたが、これは法的には何 も裁かれないわけです。  国の大切な業務をしている公務ということですが、裁判官の審判が間違ったら、それ が刑事事件で裁かれるということになると、裁判官になる人もいなくなるでしょう。警 察官も非常に荒っぽい犯人と戦う場合もあるわけです。そういうときに、誤認逮捕した だけで刑事事件に問われるということがあれば、警察官になる人もいなくなるでしょう。 そういう人の仕事を保証されるということが、この国の平和を守る、国の仕組みを守る という意味では非常に大切なわけですので、刑事事件で裁かれないということも我々は 理解できるわけです。  だけど、片方でそれと同じように医師は自動車の運転手などとは違い、患者が来た場 合には断ることができない。しかも、患者は生命ギリギリのところで来ている場合もあ る。断れないという状況の中で、この業務はほとんど公務に近い、国の公務と考えても いいだろうと思うのです。  そういう公務であるにもかかわらず、過失が問われて刑事事件で裁かれることになる と、皆さんもご存じのとおり医療崩壊ということで、危険の多い科には医師が行かなく なっている。産婦人科、小児科、外科もそうです。特に地方の病院では医師がいなくな って医療崩壊ということになってきています。医療崩壊は、行き着けば国の崩壊にもつ ながるわけです。  裁判官や警察官と同じように、医療においても過失責任というのは問われるべきでは ないだろう。行政処分で問われる、あるいは学会の中で自主的に処分することはあり得 ても、刑事事件で裁かれるのは、医療をまともに伸ばしていく上では非常にまずいので はないか。  ただ、医療の中で犯罪の意思がある、あるいは人を殺そうとしているということが明 らかな場合は刑事事件でもしようがないわけですが、それ以外の場合は、やはりいくら 過失としても刑事事件で裁かれるのはおかしいのではないかと思います。行政処分ある いは学会の中での自主的な処分という制度を整え、刑事事件はできるだけ避けるという 方向でこの第三者機関を考えていくべきだろうと思います。 ○前田座長  お気持は非常によくわかります。ただ、医療の過失を裁くべきでないかどうかという と結局は裁くことになる。最高裁判所を頂点として、日本の規範として裁くという考え 方に傾くこともありうると思うのです。今回の議論で、先生のご発言に関連してお伺い したいのは、6番との絡みということで、これはちょっと言いすぎかもしれないのです が、刑事裁判に流れすぎる部分があるとすれば、行政処分が全然機能していないからで はないか。医道審は何もやってくれないではないか、という議論があることは事実です。 それとの絡みで、今回のこの会議ができることによってというか、厚生労働省側のスタ ンスが少し動き出しているわけです。医療の側の医師の観点から見て、これは明らかに 問題があるから直すべきである、処分すべきである、という方向に今回の調査結果を使 っていく、ということはある程度前向きにお考えいただけるかどうかということなので す。 ○高本委員  刑事事件だとその責任も犯人に100%責任があるような処分の仕方です。慈恵青戸病 院の事件でも、外科の先生がほとんど責任を負いましたが、麻酔科の先生も関係してい たわけですが、それは罪に問われないということになりました。刑事事件というのは、 責任の置き方が実際の真相とは違う。この検討会は真相究明ということで始まっていま すが、刑事事件にすると真相究明からかえって遠くなるのではないかと思います。  例えばこういう事故が起こった場合に、それに30%の責任があるとしたら、30%の処 分というのは行政処分でも民事でもそういう形ではありうるのだろう。それにこの報告 書が使われるのはやむを得ないのではないか。ただし、刑事事件で使われるのはよくな いと言いたいのです。 ○前田座長  おっしゃることは非常によくわかります。ただ、刑事はマルかバツかで、有罪か無罪 かというおっしゃるとおりの面があります。しかし、過失の割合がどのぐらいかという のは、実際に刑の重さを決める中では事実上考慮している面はあると思います。ただ、 その細かい議論は後で余裕があればしたいと思います。6番に関してほかの委員から何 かございますか。 ○木下委員  高本委員のお話は、医療関係者の基本的な考え方だと思います。それは、必ずしも我々 医師が特別というわけではなくて、その結果、萎縮診療や外科系診療科が敬遠されるな ど国民にとってもどれほど悪影響を及ぼしているかわからない、という視点の話だった と思います。いまさら繰り返すまでもないと思いますが、診療関連死に対して、刑事訴 追されること自体が、先ほど来のお話のような問題点があるということで、必ずしも適 切ではないということは我々の共通の認識です。  行政処分に関しては過失があった場合に、現在は刑事処分の後に行政処分という流れ があるわけです。今後は過失と認められた場合に、刑事処分のルートをとらず、これは 医道審でやるのがいいのか、学会あるいは医師会等が担当するのがよいのか、これから 検討を必要としますが、行政処分と再教育により機能を果たせるのであれば、その方向 性はあるのではないかと考えております。  いままでの流れとは違って、調査報告書に基づいて刑事処分というのではなくて、ま ず行政処分というような流れで処理できるのであるとすれば、これは一つの見識ではな いかと思っております。私たちとしては、行政処分が現実的に機能するように制度化さ れることを希望します。診療関連死の全てが免責にはならないことは理解していますの で行政処分を制度的にすることは重要であると考えています。ただ大事なことは、誰が どこでその処分をしていくかということであり、果たして医道審がいいのかどうかとい うのは議論があると思いますが、この行政処分の方向性は是非お考えいただきたいと思 います。 ○豊田委員  いま先生方のお話を聞いていて、そこまで先生方がそういう気持でおっしゃられるの であれば、これまで医療界が隠蔽体質だったことや、患者に謝ってこなかったという事 実の部分を認めていただいた上で、是非行政処分やその他の処分についての責任をこれ からはしっかりとっていただきたいと思います。  どうしてそのように思うかというと、被害者がなぜ刑事告訴するのかというところを 考えていただきたいのです。誰も、好きでそういう責任追及をしようと思っている人ば かりではないと思います。ほとんどの被害者がそんな気持ではなかったと思います。、個 人責任を追及したくなくてもその当該病院できちんと向き合ってくれなかったという、 これまでのそういう流れが憎しみなどに変えてきたのだと思います。  息子の例でお話させていただきます。息子は、最初に誤診され、その後の引継ぎミス が原因で経過観察を怠ったために起きた死亡事故でした。事故後病院から、事実に向き 合っていただけなかったがために、1年近く経ってから仕方なく私は被害届を出しまし た。刑事告訴はしたくありませんでした。そういうつもりではないことをわかってほし かったからです。その後、不起訴になりました。そのために行政処分等もありませんで した。何も処分が出ないこの間に、この小児科医は何をしたかというと、死亡事故直後 に、当時は小児科認定医だったのですが、自分で専門医への移行申請をして、それを小 児科学会は認定し、いまも小児科専門医として働いています。  そういう医師もいるということを是非知っていただきたいと思います。すべての処分 や責任をすり抜けている医師も実際にいるのだということを是非知っていただきたいで すし、決して被害者が責任を刑事として追及したい、刑務所に入れたいという思いだけ で言っているのではないということを理解していただき、その上で議論を進めてくださ い。お願いいたします。 ○前田座長  わかりました。非常に重たいお言葉でした。そういう後であまり軽いことを言っては いけないのですけれども、高本先生と木下先生の気持は非常によくわかるのですが、6 番のところに関連して議論を絞りますと、ここの委員会のデータみたいなものとか、関 連が刑事と一切切れるということになってしまいますと、刑事の事件として世の中とし ては扱わざるを得ないという声が強ければ、警察なり検察なり裁判所が動かざるを得な いというと、この委員会とはまた別個に動くことになります。  それは、第21条で通報する、しないというのはいままでだって第21条で動いたこと はあまりないわけです。要するに被害者がいて、被害者の訴えがあって、警察が動かざ るを得ないから動いて、警察は世の中を見ると、ほかの業務上過失の中では非常に謙抑 的で、狭い範囲で動いてきているのだと思います。もちろん医療の側から見れば、素人 の変な観点からだけ裁くというのは問題だというのは非常によくわかります。ですから、 医療の側から見て青戸なら青戸はこうだったのだ、真相はこうだというのは非常に大事 です。それによって不必要なというか誤まった刑事の裁判は回避しなければいけないと 思うのです。  そのためにも、この調査委員会が、この間も最後のところで私は議論をグチャグチャ にしてしまったのですが、つながらないと駄目だと思うのです。だから、真相解明とい うのはいろいろなレベルがあると思うのです。rootcauseも大事で、そのとおりなので す。刑事でも、直接やった人だけを処分するなどということはあり得なくて、システム が問題だったら、システムの責任者の責任も考えます。  刑事処分と、ここで出てくるものとが完全に切れてしまうという議論の立て方がいい かどうかなのです。それもそうですけれども、非常に重要なのは、その前に我々から見 ても行政処分が動かないから、不必要な部分まで刑事が代替している面があったことは 事実です。そこのところが前に出ていただけるのであれば、それはかなり改善になるの ではないかと考えます。その点で高本委員から何かありますか。 ○高本委員  刑事事件で処分するかどうか、あるいは行政処分かどうかということよりも大切なの は、真相がどうだったかということです。刑事事件で処理するほうが、真相により肉薄 するというのであればそれがいいと思うのです。ところが、いま刑事事件を見ています と、かえって真相から離れていると思うのです。  例えば、女子医大の事件がありました。改竄ということもありましたが、改竄はここ ではちょっと除いておきます。人工心肺を回していたのは医師なのです。100回転に回 転数を上げた人工心肺の操作がまずかったから、ということで起訴されたわけです。私 たち学会は、患者側とも病院側とも関係なしに、独自で真相は何かということで委員会 を立ち上げて、私が委員長をやりました。  人工心肺の外側で人工心肺と壁の陰圧ラインの間にフィルターを入れて、清潔な人工 心肺を不清潔な陰圧ラインと分けようとしたわけですが、それは全然必要なかったわけ です。その陰圧のフィルターが、たった1ccの水で詰まるということを我々は実験的に も証明しました。人工心肺の中には水蒸気がいっぱいあるわけです。一回一回使い捨て ならよかったのですが、何回も何回も使っているうちにフィルターが詰まって、人工心 肺の中の圧が高くなって、空気が身体の中に逆流したということになりました。医師の 人工心肺の操作ではなく、人工心肺のシステムが悪かったのです。  そのような委員会の調査報告書を出して一審は無罪になりましたが、検察は控訴する わけです。裁判で行われるのが、本当に真相究明なのか、弁護側と検察側のパワーゲー ムなのか。パワーゲームの中で折り合いのいいところで裁判官がパッと決める。それは、 本当の真相よりはだいぶ離れたところになっている、ということのほうがむしろ多いで す。例えば、O.J.シンプソンの事件は陪審制度でしたけれども、民事と刑事の判断が分 かれたわけです。これも真相からはちょっと離れているのではないか。これから日本は 陪審員制度になってくるわけです。  我々は、この間ずっとモデル事業をやっているわけですが、モデル事業で徹底的に討 論して、ここが悪いということは言います。システムで悪いところはここだと。コミュ ニケーションの悪いところは、ここはこうだというようなことを言っているわけです。 我々のプロフェッションと、患者側と病院側の弁護士も入った調査委員会で真相そのも のとは言いませんが、真相により近いものが出てくるのではないか。むしろ刑事事件の ほうが真相から離れるのではないかと感じるのです。 ○前田座長  東京女子医大の場合はかなり慎重に調査委員会をつくり、控訴審が別の判断をすると いうのは、最後は法律の問題ですから国民の常識に則って、その意味では医学の素人で ある裁判官が決断するわけです。そのときにどの調査報告書のどの部分を信用するか、 というのはその法律の専門家が判断する。最終的には、医学的に何が真実かではなくて、 法的責任があるかどうかということになってしまいます。  昔の裁判などと比べると、先生がおっしゃる意味で真相究明には近づいていってはい ます。今回の委員会ができて、そういう議論が刑事裁判に反映するということは合理性 がある。逆に言うと、そこの議論抜きに刑事はエイヤッとやればいいという議論になっ てしまうのはかえって危険です。だから、これをどんどん刑事に流せとか、刑事でやる ウエイトを増やせということを申し上げているのではないのです。  私が申し上げたかったのは、今回これができたのは、刑事のシステムの中で医療の現 場のプロの議論が入っていないのではないか。O.J.シンプソンみたいなのは、日本では 別に考えていただきたいのですが、日本は陪審制は入れません。参審制と陪審制は全然 違いますので、そこは別に考えていただきたいのです。その意味で、医学から見てもよ り納得のいく範囲に刑事を絞り、しかも刑事の判断が医学から見ても納得のいくものに なるような調査委員会というつながりが、国民や患者の側から見ても幸せなつながりで す。  もう1つは、医学内部の側で行政処分をしていただけるということは、いままでは必 要以上に刑事が出ていたのが必要なくなるという意味で非常に重要で、そこのところで も根っこは真相解明を、国民、患者に向かって公正に開示していって、納得を得ていく。 そうすると民事紛争もだいぶ解決していくのではないかということなのです。  だから、先生と思いがそんなに違うわけではないのです。ただ、ちょっと言葉の端を 取ってしまって申し訳ないのですけれども、この委員会での資料が刑事には一切使えな いという議論になってしまうと、刑事はいままでどおり別にやるのかという議論になっ てしまうと思うのです。それは医療の側としても非常に好ましくない結論なのではない か。医師が国民から信頼されて、不幸にして起こった事故も、その刑罰というような形 ではなくて、将来的に再発防止の範囲でできる限りやっていく。  ただ前にも申し上げましたけれども、先生たちから見ればそんなのは問題外だという ような事故も現に起こるわけです。明らかなつなぎ間違いとか。それが看護師1人の問 題ではなくて、病院全体として構造的に問題があればそこは裁かれるわけですが、それ は残るのだと思うのです。刑事がゼロになってしまうということはない。数は、いまだ って少ないと思います。6番のところで、全体にもつながった話になってしまいました が。 ○楠本委員  看護の立場から申し上げますと、いまは行政処分が倍増していますが、その半数は医 療過誤です。医療過誤にもさまざまな問題があり、看護師自身の未熟な知識や技術もあ りますが、多くはシステムエラーや管理体制、教育の問題等々があると思っております。  その最たるものが横浜市大の事故です。それから、京大でエタノールを蒸留水と間違 って入れたときには5人のナースがかかわっていました。最初に間違ったナースだけが 禁固1年執行猶予4年ということで、もう執行猶予が明ける時期になっています。その 2つの裁判について、私どもはずっと管理体制とシステムの問題を主張して支援してき ました。そういうことは全部認定するけれども、その医療界の取組みを変えていくよう な司法の権限ではないのだという判決も出ております。  そういう意味では、刑事(司法)が入ってくることで、本当に医療界の取組みを支援 していただけるようなものになるとはこれまで思っていませんでした。ただ、この調査 機関がどこまで扱うかという議論もまだはっきりしていなくて、この間は厳然とした死 因究明のところ、もう少しシステムやエラーのところ、それからヒューマン・コミュニ ケーションといった3段階のものが提示されておりました。少なくとも、2段階までを しっかりやっていただくものになっていくならば、それを刑事処分のほうにも活用して いただく。私どもと、患者側は目指す方向は同じなのに対峙している。この状況を変え ていけるという期待は持てるのかと思っております。少なくとも(2)まで取組む調査機関 であるならば、その結果は刑事にも活用していただいていいのではないかと思います。 ○前田座長  前回私はちゃんと付いていけなくて、議論がこんがらかってしまったところがあった のですが、決してそういう組織的なものの背景をきっちり究明するということの重要性 を否定しているつもりではないのです。確かに横浜市大のものなどは看護の側からは不 満があるかもしれないのですが、かなり考慮して刑は非常に軽いのです。そういうバラ ンスの取り方をしています。  それでは、代わりに誰に刑罰を科すかというのではなくて、あの刑の言い渡しにはシ ステムの問題ですというメッセージも入っています。それは、世間にも向けられました。 ただ、現に患者がいて、実際に取り違いがあって、直接手を加えた方を無罪とは言えな いということなのだと思います。それに不満があるのはわかるのです。 ○鮎澤委員  少し前にある病院の医療事故の医療調査にかかわったことがあります。その中に外部 の委員として、2人の弁護士に入っていただきました。原告側と被告側双方の弁護士に 入っていただかないとフェアではないだろうということで、2人に入っていただき、事 故調査委員会を立ち上げて報告書を公表しました。  個人的には、近年、病院レベルで行う事故調査の事故調査報告書が外に出てくること により、ほかの組織がいままで知り得なかった病院の事故事例を知り教材とすることが できるようになって本当に喜んでいます。ただ、一方で、再発防止を目的に出されてい る病院の事故調査報告書がその後どのように使われるかわからない中での公表されてい ることもとても心配なのです。そういうこともあって、報告書の公表にあたっては、作 成する事故調査報告書が、当事者、関係者に不当な不利益をもたらさないかということ を、かなり慎重に、その公表までの過程の中で議論したのです。  そのときに双方の弁護士の方から、こうやってきちんと医療従事者が調査をすること、 つまり、個人の単純なミスだけではなくその背景にいろいろな問題があるのだというこ とをきちんと調査をして報告書として出すことが、誰かを悪者にしておしまいという図 式から当事者、関係者を守るものにもなると言われて、あらためて事故調査報告書の意 義というのはそういうところにもあるのだと思ったのです。  調査組織が出したものがどのように使われていくかの前に、どう使われていても大丈 夫なしっかりした調査を行うことがとても大事なことなのではないかと思います。医療 従事者の心配は病院の中にいるからよくわかります。ただ、医療のことがわかる人間が きちんとした調査をすることが、実は医療従事者にとっても大事なプロセスになってい く。そのことを実感したことがあったのでお話させていただきました。先ほど樋口先生 が、アメリカのプロセスの話をされましたが、そうやってきちんとしてもらうことが自 分にとっても納得がいく、というようなプロセスを作っていくことが大事なのではない かと思っています。 ○前田座長  私の不手際で6番にこだわっていたのですが、全体の話にもつながっていますので、 ここからは全体として先ほど説明していただきました新旧対照表で、特に新の部分を踏 まえて全体でお願いしたいと思います。全体の議論を是非深めていっていただければと 思います。どこからでもよろしいですし、6番の絡みで、この委員会の調査の結果をど う使うかという議論につながる部分でもよろしいですし、どこからでもいいということ で積極的なご発言をお願いいたします。 ○堺委員  それぞれの委員の方が、いろいろな経験と思いがあるので、どうしても話が本質論に 戻るように感じております。これは非常に大事なことなのですが、私どもは一定期間内 に、これから使える組織をみんなで考えていくことが責務かと思っておりますので、そ の立場から1つ申し上げさせていただきます。  資料の4頁、つまり調査組織の目的というところになるわけですが、この調査組織が 何をやるのか、どこまでやるのか、いろいろな考え方があります。いちばん最初のステ ージでは、ある程度スピードも大事ではないかと思います。背景、システムを詳細に分 析するというのはもちろん必要なのですが、しかし遺族の気持等を考えると、まずその 時点でどういうことが言えるのかということはあまり時間をかけずに出すべきではない かと思っています。  その意味では目的のところで、医学的に何が起こったのかというところ、それから病 院のシステムに問題はなかったのか。このあたりをまず出して、同じ組織がやるかどう かはまた全く別の問題になると思いますが、そのあとでさらに背景や要因分析、あるい は多数への分析というように行くほうが実際に機能する組織が作れるのではないかと思 います。もちろん、その間、遺族に十分な説明をするということは是非必要だと思いま す。 ○前田座長  どうもありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。堺委員にお示しするのは 気が引けるのですが、この間の山本委員の話にもつながるのですが、先生のお考えでは 家族に説明する仕事もこの委員会がある程度やるというのは合理性があるのか、全く別 のほうが、合理性があるのか。もちろん、お考えが固まっているわけではないと思うの ですが、方向性としてどうなのでしょうか。 ○堺委員  やはり、調査した組織として説明するほうが、お聞きいただくほうも納得しやすいの ではないかと思います。メディエーターなど、いろいろなアイデアが出ていて、どうい う方がどういう形でということも詳細はこれからだと思います。調査組織の中に説明す る方がいらしたほうが、家族の納得が得やすいかなと私は思います。 ○前田座長  ほかにご意見がありましたら、どなたでも結構です。 ○山口委員  どこから話をしていいのかわからないのですが、この前、モデル事業から申し上げた のは院内の調査委員会の活動、あるいは院内の医療安全対策の活動は非常に重要である ということです。その意味では、それを阻害しない責任追及のあり方が重要だと思いま す。院内の調査委員会なり、あるいは安全活動というものがやはりいちばん気にする話 は何かといえば、その委員会活動が刑事処分なり、何らかの処分につながるということ。 調査結果がどういうように扱われるかということは、委員会活動をやっている中でどう しても脳裏から離れない、いちばん重要な点だと思います。  そういう意味から言っても、いまの医道審議会でされているような刑事処分と、1対1 の形の行政処分という形があって、その順番が逆になっても、行政の処分とそのあとの 刑事責任が1対1のような関係では、一生懸命調査委員会で原因を究明することが処分 に手を貸すようという感覚を委員会活動する人は免れないと思います。  しかし、行政処分にこの調査結果を活用することは避けて通れない話だと思います。 また、先ほどの樋口先生の話のように、アメリカでそういう委員会に呼ばれた方のお話 を聞きました。アメリカのような納得できるプロセスがあれば、行政処分に関してはや むを得ないし、ある程度、いままで以上にもっと広く行われても仕方ないかなと思いま す。行政処分が広く行われることで刑事責任を問うことが謙抑的に行われるのであれば、 非常に限られた事例に関しては刑事責任を問われる話は仕方ないかと思います。  アメリカの先生のお話を聞いていちばん納得できたのは、処分が決まるとき、対象者 と専門家でそれなりの過失があったか、なかったかというやり取りを専門の委員会で行 う。その結果としてそれなりの行政処分が決まる。そのプロセスは、いま、確かに医道 審でも理屈としてはやられているのかもしれませんが、現実には数十例の事例の処分が 1日の審査で決まってしまう。そういう話ではなくて、処分を受ける人ももっと納得が できるような形でのやり取りを経て、専門家の結論として「これはやはりまずいのでは ないか」ということで処分が決まるのであれば、もっと受け入れやすいのではないかと 思います。  そういう意味では、この結果を使って処分をやるようなプロセス、あるいはそのよう な委員会は、死因究明の調査をする委員会と同じというのは具合が悪いのではないか。 もう少し違う形で、勿論そこには専門家が入りますが、一般の人々の代表にも入って頂 く形がよいのではないかと思います。純医学的な原因究明のところはむしろ専門家に任 せて、弁護士の先生にオブザーバー的に参加いただいて、それを活用する段階でいろい ろな分野の人に入っていただいて行政処分を決める。そういうシステムができればと思 います。その結果を十分尊重していただいて、刑事処分というのは極めて限定的に行わ れるという話であれば、院内で調査活動している先生方も、あるいは病院の人も受け入 れやすいのではないか。  ちょっと、言い方はおかしいですが、例えば専門家集団の判断として医業停止3カ月 というのは専門家の医師にとっては割合に受け入れやすいのですが、禁固3カ月と言わ れると「えっ」となってしまう。なかなか受け入れ難いものが感覚的にあります。その 辺は日く言い難いところもあるのですが、刑事処分でほかの犯罪と同一の線上で表され て、懲役という判決をもらうのは大変抵抗がある。その処分に病院でのいろいろな活動 が荷担するような話では、いろいろな院内活動にブレーキがかかるのではないか。その 辺を是非、勘案いただきたいというのが1つです。  もう1つ、いまシステムエラーという話が出てきました。刑事処分で非常に具合が悪 いことは、特定の個人の責任を追及してくるという原則が基本にあることだと思います。 いま行政処分に新しい戒告という処分ができましたが、特定個人の責任だけを追及して いるということにおいては同じ線上にあると思います。そういう意味で、どういう格好 がいいかわかりませんが、システムエラーに対応するような行政処分のあり方というも のも考慮していただけないか。その点も重要な点かと思います。 ○前田座長  どうもありがとうございました。先生の議論、理解できなかったところがあるのでお 聞かせください。最後の点、システムエラーに対応する行政処分というのは非常によく わかります。あと、先生がイメージされる委員会像なのですが、2つに分けられるとい うことですか。例えば原因究明を純医学的プラス弁護士クラスでやるものと、それを利 用して主として行政処分なりの判断を行う。  それと院内の委員会との関係なのですが、院内の委員会というのは両方にかかわる。 最後の行政処分はかかわらないということですね。そうすると、原因究明のところには、 やはり従来の院内の委員会を入れ込んでやっていくということですか。 ○山口委員  いまの死因究明の活動については、院内の調査委員会の活動にもかなり積極的に参加 してもらうという格好です。あとの行政処分には全く関係がないと思います。 ○前田座長  それと、モデル事業で先生がやってこられたものの位置づけなのですが、もちろん行 政処分は入っていないわけです。院内の委員会とは別個のものとしてやってきたという 理解でいいのでしょうか。 ○山口委員  現在やっているモデル事業も、やはり院内の調査委員会の助けをある程度お借りして やっているというところがあります。それは調査権がないということもありますので、 院内で調査をしていただき、院内で資料を提出していただくということがないと、いま のモデル事業の調査が進まないということがあります。そういう形でご協力いただいて いるということになると思います。 ○加藤委員  医療事故が起きたときに事故調査をして、真相究明なり何なりをきちんとしたにもか かわらず、その後、結果がいろいろな不利益として医療機関、あるいは医療従事者にか かってくるというような懸念があるという趣旨のご発言があったかと思います。基本的 に医療事故が起きた、あるいは不具合な結果が発生したときの基本的な態度、医師や医 療機関が取るべき態度ははっきりしているのだろうと思います。つまり隠さない、逃げ ない、ごまかさないという誠実な態度で、真相究明にも協力をしていく。被害を受けた と思っている人に対する謝罪の言葉とか、さまざまな誠実な姿勢がきちんと、ポイント のところで出来ているかどうかが実はその後の対応等で大きく影響してくるのだろうと 思います。  医療事故があったから、全部刑事告訴していると私は思っていません。いままで、た くさんの医療過誤の事件で大変ひどいケースも見てきました。刑事告訴というのは、い ままでの経験の中では少なかった。私は告訴の代理人をやったことはないのですが、被 害者が告訴もしているという例はこれまでの経験の中では極めて少ないという状況があ ります。つまり、刑事告訴に及ぶには、被害者が相当人間の尊厳を傷つけられたとか、 いろいろなことが背景にあるだろう、よくよくの事だろうことが先ほどの豊田委員の発 言にも現れていました。そのとおりだと思っています。  今度は起訴するかどうか。オブザーバーで検察官も来ておられますので、これはお聞 きいただければと思います。事案の悪質さというのは見るだろうと思います。それから、 その後の対応をきちんと見ているでしょう。被害感情がどうなのかというのも見ている でしょう。被害感情の中には謝罪があったかどうか、あるいは示談が成立しているかど うかを見ているでしょう。それから、既に何らかの制裁を受けているかどうかもトータ ルに見ているでしょう。  事故調査に誠実に協力して再発防止のために真剣に取り組んでいるという場合と、そ ういうことに協力しない場合とではやはり違うでしょう。反省の態度とか、いろいろな ことがあるでしょう。そういうことをトータルに考えて起訴するかしないかの広汎な、 「起訴便宜主義」と言いますけれども、刑事訴訟法の大原則があります。起訴するかし ないかを検察官が考え得る要素というのはいろいろあるだろう。  そういう中で、理屈上は刑事問題になる可能性に刑事告訴があり、あるいは起訴、有 罪という問題があるにせよ、ほとんどそういう例というのは現実には少ないのだろうと 思っています。今後、さらに謙抑的に刑事の問題を見ていくことにはなるのだと思いま す。問題は事故調査をするときに、きちんと誠実に、正直に、謙虚に対応されたことを 被害者が最大限どう受け止め、また検察官がどう受け止めるのか。そこに期待したシス テムづくりで十分機能するのだろうと思っています。その意味では刑事処分に行くかも しれない、利用されるかもしれないというような、抽象的なことで利用は一切できない とか、遮断をするよりも、運用上の問題として落ち着くところに落ち着いていくことの ほうが妥当な気がします。 ○前田座長  私も同じような議論になってしまうのですが、いかに医師に対しての医療行為に対し ての刑事処分を少なくするかという方向の議論でもいいと思います。そのために一切、 この委員会とか、委員会を離れてもいいのですが、医療過誤は刑事責任を問わないとい う議論をしてしまうと、いままで謙抑的に、ある意味で特別扱いしてきた刑事のたがを 外してしまうのではないか。  この委員会も、先ほど加藤委員がおっしゃったように、国民からの信頼できっちり真 相を究明して、明らかにして、隠さないでやっているから信頼を勝ち得られれば、ほと んど刑事というのはあり得なくなるということだと思います。どういう組織ができるか ということだと思います。確かに、業界と同じように、技師が一生懸命治療のためにや っているのも同じ扱い、不当だというのは非常によくわかります。ただ、極例外的に、 患者を見たらこれは普通の人殺しだよとか、交通事故で轢き殺したよりひどい事件が、 非常に少ないですが皆無ではない。そういうものまで全部、刑事の責任から逃れるよう な議論をしているように見えてしまうと非常にまずいということだと思います。  加藤委員がおっしゃったように、法律家というのは最後は常にそうなのです。国民か ら信頼感を得られるか。それは真相だけではなくて、そう見えるかどうか。システムを 作っているか、建前としてどういう制度を置いているかということが非常に重要になっ てくる。やはり、こういう調査委員会がかなり事件をチェックして、医療の専門家から 見て「これだけは刑事にしなくてはいけない」というものがあれば、それは出していた だければいい。そのときには議論した資料を刑事裁判にも使えるという道は残っている ほうが、医療の刑事過失の追及が少なくなるという感じがします。ちょっと、しゃべり 過ぎたかもしれません。 ○児玉委員  医療界だけでなく、この10年ほどの間、いろいろ社会的な注目を集めた事案に関して、 刑事手続きが非常に痛みを伴いながら新しい時代を切り開くような役割を果たしてきた 側面があると思います。その側面のいちばん大きな要素を私なりの言葉でまとめれば、 「嘘の暗闇に光を当てる」という役割が刑事手続の最も重要な役割であったのではない かと思うわけです。そういう意味で、医療に関しても暗闇だと指摘されていたところに 刑事手続きを通じて光が当てられ、一罰百戒という言葉がありますが、まさに刑事手続 きの大鉈を振るって多くの医療従事者によって戒めが与えられたということは実際にあ ったと思っています。  ただ、例えば楠本委員や高本委員がご指摘になっているような事案、医療界の側の思 いを現場に即して事故を起こしてしまった医療従事者の身近にあって、この10年感じて きたことをまた私なりの言葉で、一言で言わせていただきます。刑事手続きは本当に悪 い者を悪さに応じて裁いてきたのだろうか。実は、裁かれたのは正直に申し出た人たち ではなかったか。そのような思いがあります。感情に流された、見せしめが行われた部 分はやはりあったのではないか。その部分について、医療界の中の一定の反発が出てい るという側面もまたご理解いただきたいような気がします。  まさにこの10年間、院内調査委員会自体もたくさん経験をしてきましたし、いろいろ な病院が真剣に取り組んできました。また、医療事故に際して第三者的な評価を行う仕 組みも、さまざまな医療機関や病院グループ、医療機関の団体等が積極的な組織づくり を行ってきたわけです。また、それを推進する形で医療法施行規則等も整備されてきて いる中で、先ほど加藤委員が言われた、隠さない、逃げない、ごまかさないという姿勢 がむしろ多くの良心的な医療機関の中で貫かれてきたし、このモデル事業自体も隠さな い、逃げない、ごまかさないという、医療界の姿勢の象徴的な事業、橋頭堡として築か れてきたものと私は思っています。  それがさらに発展していく上で、例えばモデル事業、例えば第三者機関に事実をきち んと申告するということについて、同じことを言っているに過ぎないかもしれませんが、 刑事手続きに利用することを単に事実認定に使うだけのことであれば、なかなか積極的 な参加や医療界の自浄作用の促進につながっていきにくいのではないか。むしろ隠さな い、逃げない、ごまかさないモデル事業に参加していること自体を積極的に、その姿勢 を評価していただく。そういう意味でのご理解をいただきたいと思います。事実認定に 利用するのではなくて、モデル事業で事実を述べていること自体を評価していただくよ うな、調査委員会を積極的に行っている取組み自体を評価していただく。あるいは、遺 族の声を聞こうとしている姿勢自体を評価していただくようなあり方を何とか模索して いきたいと思っていますし、また刑事手続きの関係者の方にも是非ともご理解いただき たいと思います。 ○前田座長  大変重要な事件を現場でいちばんよく見ていらっしゃる児玉委員の言葉ですから非常 に重いと思います。私も全く同じ感じを持っています。先ほど申し上げた委員会が信頼 関係を築けるかということは、まさに委員会がやったのだから、100%裁判所が信頼する という関係が作れるかどうかだと思います。それは十分出来るのではないか。  ただ、そのときに、作る初めのところで、事実認定には一切使わせない委員会である というようなことを言うと誤解を招く。そこまでは言わないで、本来、姿勢を評価して ほしいとおっしゃることはよくわかるのですが、最後ぎりぎりのところで国民一般に対 してどう表現するか。この委員会のことは一切、逆に言うとここでクローズドでしゃべ って、免責が与えられるような感じで見ると、そもそもが隠さないと言っているけれど も、隠したいからあのようなことを言っているのではないかという疑心暗鬼になってし まう面がある。滑り出してうまく行き出せばもう自動的に、あそこであのように議論し て動かしていって、将来に向かって医療を良くしてくださるのだったら刑事など問題外 だと、そういう方向に動いていくと思います。  先ほどの豊田委員の話などもそうですが、やはり我々が聞いていても隠さないで、本 当に誠実に謝ってくださる医療の現場であれば、刑事事件で、医療の場での過失であれ ばほとんどあり得ない。あり得ないと言ってもいいと思います。そこの信頼関係を作っ ていくための組織として、はじめのボタンの掛け方、医師の側であまりにも強く、絶対 刑事には1本も指を触れさせないという言質を取っておきたいという姿勢が見えてしま うと、非常にマイナスである。思いはそれほど距離はないのです。刑事の側も、医師を どんどん処罰したいなど思っていない。ただの交通事故の犯人などとは全然違って、患 者のために生命をかけて必死でやってくださっていることを理解した上での話です。た だ、そこで食い違いがある部分をどうなくしていくか。  その意味で、児玉委員がおっしゃったことは重い。まさに、その委員会がかかって、 きちんと申請しているということで、実際刑事にならないようなシステムを作っていく、 それを具体的にどうしていくのか。 ○堺委員  この調査組織が何を行うのか、言わば調査組織の指針のようなものを作ることを考え たほうがよろしいのではないかと思います。医学的に何が起こったのか、システム背景 がどうか。隠さない、逃げない、ごまかさない。あるいは、遺族の気持はどうか。いく つかのチェック項目があると思います。行政の立場、あるいは刑事の立場、民事がそこ に入るかどうかわかりませんが、いろいろな関係の方面から見て、ここまでチェックし ておいてほしいというものがもし出せるならば作りたいものだと思います。万一、医療 事故が起こったときに、遺族にとってはおそらく初めてのことだと思います。医療関係 者も大多数は初めてだと思います。一体、どういうことをされるのかということは、や はり最初からわかっていたほうが、みんなが安心して協力できるのではないかと思いま す。できれば、指針づくりということも考えたいと思っています。 ○前田座長  無理に全員発言をということではないのですが、いかがでしょうか。 ○鮎澤委員  先ほどからの議論、座長にまとめていただいているように、きちんとしたプロセスを 作っていくことによって結果として、例えば不当に個人が見せしめのような刑事処分を されないような形になっていくことが望ましい形だと思っています。  ただ、いま私たちが議論していこうとしているのは、亡くなったケースです。医療の 現場には、亡くなる手前のところでつらい思いをしていらっしゃる方たちが、どれぐら いの割合かわかりませんがそれこそ大勢おられる。でも、いまのところ、現実に議論し ていこうとしているのは死因の究明であって、亡くならないとどうもこの委員会ではま だ議論してもらえそうにない。将来像はわかりませんが、とりあえず現実的にはその辺 りまで手が広げられそうにない。解剖も承諾しないともしかしたら議論してもらえない かもしれない。  そのような中で、この調査組織が現実的に機能していこうとするなら、亡くならない ケースや解剖を承諾しないケースについてもこういった調査組織で真相を究明してもら いたいと思っている方たちに、将来的にどのぐらいの期間でそうしたことを実現してい くことになるのかということを示す必要があるということは、心に止めておかなければ いけないことだと思います。将来像としてこうなっていくという道筋が示せるのである ならば、そしてそれはいつ頃までにしていきましょうということが示せるのであるなら ば、とりあえず当面できることからスタート、としていくのもやむなしと思っています。 いま議論しているのは、まずそのスタートラインのところの話なのだということは確認 しておかなければいけないことだと思います。 ○前田座長  これはこちらの不十分だった点です。一応、そういうご趣旨も盛り込んで、先生のご 発言なども入れて書いたのですが、まとめ方が弱いということであれば。私なども、や はり折角そういう方向で動き出すのだけれども、非常に重大な、一生治らないような、 むしろ死よりも重いような障害を負っていく方の問題をどうするかというのは当然問題 になると思います。いまのシステムではこれは刑事でやることになってしまう。やはり、 先ほど申し上げたような、患者の側のそういう問題を片づけていく。患者の不満は結局、 どこかでは消えていくのだけれども、最後に残った物はやはり、国のシステムとしては 刑事裁判を求めるという形に残らざるを得ないわけです。そういうものもなるべく早く 少なくする。そういう方向で、死の問題と同じように、将来そのような事故が二度と起 こらないような方向も柱としながら解明していくことは重要かと思います。ただ、ここ の議論としては、当面は亡くなられた方のところでまず動き出すので手一杯という認識 で、前回まで一応共有したということでこういう書き方になっています。ほかにありま すか。 ○南委員  やはり、医療現場の方の思いは児玉委員が雄弁に話された通りなのだと思います。特 に、これまでの処分、もしくは刑事責任に対して、それが妥当であったかどうかという ことに対する思いなど、いろいろなことがあるだろうと思います。  ただ、そうはいっても、国民の視点、ということで、限りなく引いて考えてみますと、 先ほど座長が言われた例えをそのまま使えば、この委員会が「刑事には指1本触れさせな い」というような形になることは、いまの社会情勢では国民は全く容認できないのでは ないか。やはり、医療に対する深い不信があるからこそ、こういう議論の場を私たちは 持っているわけで、そこで最初から刑事司法の道自体を遮断する、というやり方は、好 ましくない、とともに、言葉が適切かどうかわかりませんがせっかく良い組織を作ろう としている中にあって「得策」でないように思います。  先ほど来お話が出ているような、交通事故よりひどいような事件、それから一握りな のでしょうが、医療側の遺族対応として問題があった場合、医療界の中でも、職能団体 として、こういう人を医師にしておかないほうがいい、しておくべきでないという認識 にいたることはあるわけです。その際、専門家は自浄作用を発揮して処分をすべき、と いうことがよく言われますが、現実に、医師の団体、医師会や医学会は、弁護士とは違 って強制参加の職能団体にはなっていないわけで、制度上、自浄作用の発揮は不可能な のです。  本来でしたら職能団体の中でこの人をこれ以上医師として働いてもらっては困るとい う判断を下すべきなのです。また、先ほど出たように、事故を起こした直後に当事者が 専門医の資格を取ってしまうという、社会の信頼を到底得られないようなことは職能団 体として容認すべきではないわけです。ですが、現行の制度では、それは不可能なので す。そうした現状を直視して、この委員会として出来ること、そして社会から期待は何 かを考えてみれば、それは、専門家による死因究明はもちろんのこと、その事故がなぜ 起こったのかという、いわば「医療版の事故調」の機能をきちんと果たすことなのでは ないかと思います。 ○前田座長  ありがとうございました。 ○辻本委員  正直、非常に大きく心が揺れ、二極化した気持でずっと議論を拝聴していました。私 どもの電話相談にも、「刺し違えてでも……あの医者を殺したい」というような電話が、 僅かながらですが微増というか、むしろ訴えが激しくなっているという印象があります。 その方たちがなぜそうおっしゃるか、その気持を平均的に1時間以上かかってお聞きし ていくと1つや2つの問題ではない。第1ボタンを掛け違えるところから始まった、長 い経過の怨念がもたらす結果で、そう言わざるを得ないという気持も痛いほど伝ってく る。そういう声が今も届いています。  その一方、私も院内の医療事故の調査に携わらせていただいたり、モデル事業という ことで医療の限界・不確実性ということをこの目で、耳で聞く立場におりますと、この 議論を二律背反というか、両方の気持が痛いほど見えるような気がいたします。切り裂 かれるような非常に発言しにくい思いで口をつぐんでいました。ただ、やはりこの議論 が全く刑事を抜きに語ってしまうのは、いま南委員がおっしゃったように、一部であれ、 そういう気持になった人の納得にはならないと思います。むしろ、反発を得てしまうの ではないかと思うと、少し柔らかなというか、そういった方向が探れないのかなと思い ます。  最初の議論からずっと、前田委員が座長というお立場でありながら、刑事の必要性を 力説しておられる。その中で、もう少しかみ砕いてというか、国民の1人ひとりが「だ から、そういうことをおっしゃるのか」とわかるような、もう少しわかりやすいご説明 をいただくと、この辺の議論がより鮮明に国民に見えるのではないか。そうお願いがで きればと思います。 ○前田座長  ある意味でお叱りというか、座長でありながらしゃべり過ぎた点は本当に反省してい ます。その割に、半分喉に詰まった物を言わない不満というものがあります。  少し、関連して言わせていただきます。医療過誤をずっと追いかけてきて、明治以来 の判例をずっと読んできて、ある時期まで「医師というのはどのような事故を起こして も、日本の国を支えて医療を動かしてきた人であって、刑罰を加えるべきでない」とい う判例がかなりあったのです。昭和30年代まであった。刑罰を科して反省させるより、 これをきっかけに医師として研鑽を積んで国民にそれを返してほしい。ある意味いまで も通用する正論だと思いますが、ある時期から変わっていく。結局、裁判というのは国 民の声の反映であって、やはり医師が国民からどれだけ信頼されているか。これからも 信頼する方向に努力していっていただかなければいけません。  先ほど微増、僅かなとおっしゃったのですが、昭和40年代以降、刑事の世界での医師 に対するスタンスは微妙な変化があった。大きな事件があったからというよりは、事件 は表に出てしまうものなのであまり細かく言うのはあれですが、やはり心臓移植関係の 議論が大きかったのではないか。信頼できないのではないか、脳死していないのに取っ たのではないか。それから、移植の適応がないのにやったのではないか。刑事の中のプ ロの間にも強く残っている。それから、社会全体が生命は地球より重い、公害なども含 めて過失論が大きく変わってきた。処罰を広げる方向に動いてきていることも間違いな い。  そういう流れの中で、大きな医療事故があればマスコミがそれに反応して、国民が動 いたということもあると思います。片一方で医療崩壊のご議論、先生から教えていただ いて非常によく勉強しました。ただ、片一方で、それと矛盾する形で医療不信が弱まっ てはいない。  その状況の中で、調査委員会は両方を解く素晴らしい鍵だと思ったのです。先ほどの 加藤先生のお話そのままなのですが、やはり医療というのは国民から信頼できる方向に 動く1つのきっかけになっていく。その象徴としてのものができていけば本当に素晴ら しいことだと思います。いまの段階でのポイントは、医師の側にとってもプロが見てく れる、警察はズカズカとは入ってこない。よほど、誰が見ても、入っていいようなもの 以外は入ってこないという安心はあります。  片一方、国民から見たら非常に冷静で、客観的で、日本の医療の最高水準に裏打ちさ れた人たちが審査をきっちりやってくれる。それができることによって、いまの国民の 側では誤解の部分を取るのですが、医療不信を取り除いていける。  ただ、逆に言うと、我々刑事の人間というのは、どのような良い時代になって、どの ような良いことがあっても、とてつもなく悪い事故、とてつもなく悪い人間というのは 起こるに決まっている。それにはやはり対応する。最後、安全というのは残しておかな ければいけないのですが、それ以外の大部分のものはこの調査委員会ができることによ って、まだ部分的ですが、将来的に世界に例のないような医療事故に関してのベストプ ラクティスが日本で作れるのではないかという夢を持っているということです。  医療の側の意見のほうが強いと思ったので、片一方の側の意見を座長でありながら代 弁したところがあります。思いとしては、医療崩壊は何より困るのです。そのために、 どうするのがいちばん良いかを各分野から出てきた方に知恵を出していただく。もう、 時間が中途半端になってしまったのですが、いままでご議論いただいた点、堂々めぐり しているようにも見えるかもしれません。外からはインターネットにいろいろ書かれた りしています。それらを気にしていたら何も出来ませんから。無視もしないし、一生懸 命勉強していますけれども、やはり1つのピンポイントにまとめられる委員会はないの ではないか。  これを踏まえて、最後は国民が議会でいろいろ制度を作っていただく。それに反映す る資料としてあればいいのではないか。今日のご発言でもそうですが、医療崩壊という のは読んでいた以上にひしひしと伝わってくるものがあります。逆に、先ほどの豊田委 員のご発言は非常に重かったです。そういうものの上に、まだずっと委員会は続くわけ ですが、次回に何とかいままでの議論をまとめて、もう少し絞り込んだものを事務局に 作っていただいて、中間報告みたいな形でまとめられないかなと思っています。その議 事進行に関して何かご意見があれば出していただきたいと思います。よろしいでしょう か。  今日の議論を正確に起こしていただくのは1つポイントなのですが、その辺を踏まえ て、議論していてバラバラになっているように見えますが、実はものすごくまとまって きていると思います。また、もう1回出されたものを踏まえて議論をして、ここで何か 結論を出すというわけではありません。また、もう1回、出発点に戻ってしまうかもし れませんが、次回議論させていただきたいと思います。 ○加藤委員  どういう組織を作っていくのかという問題について、もう少しここで議論が必要なの だろうと思っています。国の法律によるという意味では、国会できちんと作るべきもの だと思いますが、独立行政委員会方式で作っていく。  その意味で、従来から話が出ているのは航空・鉄道事故調査の組織のあり方など、ど ういう問題状況がいま起きているのか。あるいは、食品安全委員会というものがありま す。そういうところでの実践的、実務的な問題などもある。できれば、私はヒアリング をしたほうがいいのではないかという気持を持っています。中央のどの場所に組織を設 けるのか。内閣府に設けるのか、あるいは地方組織との関係をどうするのか。そういう 議論は、中間取りまとめ的な前に時間をしっかり持って議論しておく必要があるのでは ないかと考えていますので、ご検討いただければと思います。 ○前田座長  中間取りまとめの位置づけにかかわってくると思います。最終のところでは必ず必要 だというのはどなたも異論ないと思います。中間取りまとめとして、一定の作業日程を 事務局としてお考えになる。こういう言い方をすると、ホームページにまた厚生労働省 の手先みたいな言い方をされてしまうのですが、いまのご提言で何かありますか。 ○医療安全推進室長  事務局としては、これまでにパブリック・コメントの意見も参考にし、ヒアリング等 を行い、本日も含めてこれまで6回ご議論いただきました。この中で第三者機関の必要 性、あるいは役割ということについては、現段階ではありますが方向性については概ね 各委員の皆様方のご意見は一致しているように思います。  したがって、厚生労働省としては、異論のない部分を基として来年度の予算要求等を 行っていきたいと考えています。引続き、次回に向けて、今回の議論を踏まえて本日の 議論をさらに修正したものを提出したいと考えています。 ○前田座長  ヒアリングをやって仕切り直しみたいな形になってしまうと、厚生労働省として考え ていらっしゃる予算請求のタイミングなどもあるわけですが。 ○総務課長  いま、加藤委員からおっしゃられた点があるかと思います。そういったご意見もあっ たということも、これまで別にここで結論というわけではないと申し上げました。ご意 見があったことも、もちろんこの検討会での議論の整理として書かれなければいけない ことだろうと思います。最終的に、どの段階でどのように詰めていくのかというのは、 我々事務局としても試案をいちばん最初に出した立場ですので、さらにそれをもっと膨 らませていかなければいけない立場です。さらなる検討を私どももしてまいりたいし、 先生方にも是非お願いしたいということでございます。  ただ、先ほど申し上げたように、いろいろ今後のことを考えていくと予算の概算要求 とか、そういったことも念頭に置く必要があるかと思っています。そういった意味で、 一応来月ぐらいのところで、これまでの成果としてのものをまとめておいていただける と大変助かると思います。 ○前田座長  先ほど申し上げたことの繰返しになるのですが、どういうものを作るかというとき、 ほかの調査委員会などの概要をかなり踏まえなければというのはよくわかります。ただ、 さりとて、医療の問題としてこの委員会を作る意義とか、作ること自体は何を根拠かと いうと、ほとんどの方が、異論がないのです。細かいと言うと怒られるのですが、対立 がないと言うと嘘になる。だけれども、対立の幅がどんどん狭まってきている。そこの ところを今回まとめておいて、1つ社会に対して投げていくということも重要なのだろ うと思います。正直、予算のことはわかりません。ただ、事務局としてそういうご判断 をされるというのは、そちらのプロとしての根拠をお持ちでおっしゃっていると思いま す。ここはやや強引かもしれませんが、次回、8月何日になりますか。予定を入れてい たと思います。 ○医療安全推進室長  次回は8月10日に予定しています。 ○前田座長  8月10日にこの範囲での中間取りまとめを提出し、そのあとも議論は進めていくわけ ですか。 ○医政局長  ご議論ありがとうございました。今後どうするかについては、また各委員のご議論を 踏まえたいと思います。先ほど室長、課長から申し上げましたとおり、来年度の概算要 求が例年8月末ですので、一応いままでのご議論で合意された部分等について、もちろ んどのような議論があったかという整理、今日のご議論、あるいは次回のご議論等も踏 まえて、その段階でここまでは整理された。あるいは、この部分はこういう議論がまだ 残っているというものをまとめていただければ、私どもとしては助かるということでご ざいます。もちろん、さらに必要なヒアリング、あるいは議論も当然あろうかと思いま す。それは引続きお願いすることになろうかと思います。 ○楠本委員  9頁から、人材養成のところなのですが、医師だけに言及されています。ほかのとこ ろを見ると、医療側と患者側、遺族側をつなぐ人が必要だとか、報告書の内容をちゃん と伝えるような人も必要ではないかとか、いろいろなことが書かれています。パブリッ ク・コメントにはメディエーターの養成が必要だということもたくさん出ていました。 そこに1つ項をおこしていただけないかというお願いです。 ○前田座長  それは次回ご議論いただいて、皆さんのご了承をいただいて、盛り込める内容だと思 います。具体的にあとでご指摘いただければと思います。  今日はこのあたりで閉会したいと思います。事務局に司会を戻します。 ○医療安全推進室長  次回の検討会の日程ですが、先ほども申しましたが8月10日(金)午後2時から4 時までを予定しています。詳細については後日、またご連絡したいと思います。 ○前田座長  どうもありがとうございました。 (照会先)  厚生労働省医政局総務課  医療安全推進室   03−5253−1111(2579) 7