07/06/16 平成19年度 第2回 薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の議事録について 平成19年度 第2回 薬事・食品衛生審議会 医薬品等安全対策部会安全対策調査会 日時 平成19年6月16日(土) 13:00 〜 15:50 場所 全社協・灘尾ホール ○安全使用推進室長 定刻になりましたので、平成19年度第2回安全対策調査会を開 催いたします。本日の調査会については、従前の取扱いと同様、公開で行うこととして おりますが、カメラ撮りは議事に入る前までとさせていただいておりますので、関係者 の方々におかれましては、御理解と御協力のほどをお願い申し上げます。傍聴の方にお かれましては、傍聴に際しての留意事項、例えば、静粛を旨とし、喧噪にわたる行為は しないことなどの遵守をお願いいたします。  本日御出席の先生方におかれましては、お忙しい中お集まりいただきましてありがと うございます。本日御出席いただきましたすべての先生方には、タミフルの国内製造販 売業者であります中外製薬株式会社との関係で、事務局より事前に、まずタミフルの承 認(2000年12月)以降、中外製薬株式会社より寄附金又は委託研究費を受けていないこ と、次に、タミフルの治験に関与していないこと、また、2000年12月以降、中外製薬 株式会社の治験に関与していないことについてお尋ねをいたしまして、これらの実績が ないことを確認させていただいております。  続きまして、本日御出席の委員及び参考人の方々を御紹介いたします。座長でありま す国際医療福祉大学教授の松本委員です。参考人として、社団法人日本医師会の飯沼先 生です。東京都立駒込病院アレルギー膠原病科の猪熊先生です。国立精神・神経センタ ー国府台病院病院長の浦田先生です。国立医薬品食品衛生研究所副所長の大野先生です。 納得して医療を選ぶ会の倉田先生です。社団法人日本薬剤師会副会長の児玉先生です。 国立医薬品食品衛生研究所生物薬品部第三室長の新見先生です。公立学校共済組合関東 中央病院皮膚科部長の日野先生です。明星大学理工学部教授の広津先生です。東京医科 歯科大学大学院心肺統御麻酔学教授の槇田先生です。東京大学大学院医学系研究科国際 生物医科学講座教授の水口先生です。東京都済生会中央病院副院長の三田村先生です。 長野県立こども病院長の宮坂先生です。  なお、調査会委員であります、東京医科歯科大学歯学部附属病院の土屋委員は御欠席 です。また、国立医薬品食品衛生研究所薬理部長の中澤委員は当初出席ということでし たが、急遽欠席との御連絡をいただいております。  事務局を御紹介いたします。大臣官房審議官医薬担当の黒川です。審査管理課長の中 垣です。独立行政法人医薬品医療機器総合機構安全管理監の川原です。同じく総合機構 安全部長の別井です。私は、安全対策課安全使用推進室長の山田です。なお、高橋医薬 食品局長は、所用により遅れてこちらに参る予定となっておりますので御了承いただき たいと思います。これより議事に入りますので、カメラ撮りはここまでとさせていただ きます。御協力をよろしくお願いいたします。  以後の議事進行は松本座長にお願いいたします。 ○松本座長 本日は、お忙しいにもかかわらず御出席をいただきましてありがとうござ います。まず、事務局から資料の確認をお願いいたします。 ○事務局 配布資料を確認させていただきます。議事次第があり、次に配付資料一覧が 表裏であります。3枚目に、本日の出席委員名簿があります。資料1は、本日の意見陳 述の聴取についてということで、陳述者の名簿があります。資料1-1は、薬害タミフル 脳症被害者の会の軒端さんの意見書です。資料1-2は、中外製薬の横山さんの意見書で す。資料1-3は、薬害オンブズパースン会議の水口さんの意見書です。資料1-3の追加 で、安全対策調査会意見書ということで、薬害オンブズパースン会議の鈴木さんの意見 書をお配りしております。資料1-4は、島根大学医学部薬理学講座の奥西さんの意見書 です。資料1-5は、NPO法人医薬ビジランスセンターの浜さんの意見書です。資料1-6 は、札幌市立大学看護学部の富樫さんの資料ですが、後ほど先生がいらっしゃった際に 用意することになっております。陳述の前までにはお配りしたいと考えております。資 料1-7は、昭和大学医学部臨床感染症学講座の二木さんの意見書です。  資料2-1は、基礎WGにおける調査検討の状況の報告です。資料2-2は、臨床WGに おける調査検討の状況の報告です。  資料3は「タミフルの副作用報告の精査について(その3)」です。資料3-1は、中外製 薬からの副作用報告ということで、「異常な行動が記録されている事例(その2)」などで す。資料3-2は大部なので、配布は委員限りとなっております。2分冊の冊子になって いるものが資料3-2「副作用報告(原本)」です。  資料4-1は「タミフル非使用例等の「異常な行動」等について(その2)」などです。資 料4-2は「塩酸アマンタジンに係る異常な行動等」です。資料4-3は「ザナミビル水和 物に係る異常な行動が記録されている事例」です。  参考資料1は、平成19年4月4日の「リン酸オセルタミビル(タミフル)の副作用報告 等を踏まえた当面の対応に関する意見」です。参考資料2は、タミフルカプセルなどの 添付文書を綴ったものです。以上です。 ○松本座長 議題に入ります。議題1は「リン酸オセルタミビルの安全性に係る意見陳 述の聴取について」です。事務局から資料の説明及び意見陳述の進め方について説明を お願いいたします。 ○事務局 本日の意見陳述については資料1にありますように、薬害タミフル脳症被害 者の会の軒端さんから順番に、ここに記載されている時間の中で、この順番で意見陳述 をお願いしたいと考えております。4人目の奥西先生までで、休憩を5分ほど挟ませて いただきます。  進め方として、スライドを利用される方が何人かおられます。スライドを利用される 方は、順番になりましたらスクリーン前の演台の方に来ていただきます。スライドを利 用されない方におかれましては、意見陳述席の方へ移動していただいて陳述をお願いい たします。意見陳述につきましては、資料1に記載がありますように、原則1人10分 でお願いいたします。意見陳述の開始後10分を経過した段階でベルが1回鳴りますの で、その際は時間厳守ということで御協力をお願いいたします。陳述が終了した後は、 調査会の委員、あるいは参考人から陳述者に対して質疑の時間が5分ほど設けられてお りますので、質疑の方もよろしくお願いいたします。進行に関しては以上です。 ○松本座長 ただ今の説明に関して御質問はありますか。ないようでしたら意見陳述に 入ります。事務局から説明がありましたように、本日は限られた時間の中で7人の方に 意見陳述をいただくことにしております。意見陳述におかれましては、円滑な議事進行 のために、要点を絞って10分以内に説明をお願いいたします。時間をオーバーします と、後ほどの議論が十分尽くせないことになりますので、くれぐれも時間厳守に御協力 をお願いいたします。  最初に、薬害タミフル脳症被害者の会の軒端さんから御意見をお願いいたします。 ○軒端代表 薬害タミフル脳症被害者の会の代表をさせていただいております軒端です。 よろしくお願いいたします。私たち被害者は、タミフル服用後、異常行動及び異常行動 死・睡眠中の突然死・発達障害の子を持つ親です。昨年より、私たちのような悲しい親 を出さないようにと、厚生労働省に対して要望してまいりましたが、今年も愛知県と仙 台市で、タミフル服用後に悲しい事故が起きました。タミフル以外に原因は考えられな いと思っておりますので、まずそのことを強く訴えたいと思います。  まず、愛知県会員の秦野さんです。当時中学生で、14歳の男子のことを紹介します。 39℃の熱が出た後、自力で37.5℃まで解熱しましたが、タミフルを服用した約2時間後、 マンション9階から転落しました。この子の症状が、いわゆる「熱せん妄」と違うのは 明らかです。既に37.5℃に解熱し、タミフル服用後2時間余りで異常行動を起こしたか らです。それに、タミフルしか服用していませんでした。インフルエンザの上にタミフ ルが加わって起きたとしか考えられません。  また、厚生労働省は、昨年1月、この子について「意識レベルの低下」で死亡として いましたが、副作用救済制度での判定では「状況不明」となり、副作用と認定されませ んでした。このことも常識では全く考えられない不思議なことです。この子の場合、マ ンションの外付けの手摺の階段を外側から握った跡、指紋等も残っており、握った後に 落ちたと考えるからです。これが、なぜ不明とされたのでしょうか。  また私の息子は、タミフル服用後3時間余りの間に家を飛び出し、雪の上を裸足で走 って線路を横切り、国道を横切ろうとして、たまたま来た大型トラックにはねられて死 亡しました。昨年1月の厚生労働省の発表では、「異常行動による死亡」となっていま したが、副作用救済制度の判定ではアマンタジン(シンメトレル)です。その前に服用し ていたアマンタジンによる自殺企図とされました。  また、タミフルの副作用の死亡の第1号にも記載されております。事故が起きたのは、 アマンタジン服用から9時間後です。そして、タミフル服用後3時間余りです。服用後 3時間から4時間というのは、FDAの調査でもいちばん起こしやすい時間帯ではない でしょうか。どうしてアマンタジンだけが原因で、タミフルの関連が完全に否定された のでしょうか。  ところで、原因というものは一つあれば、他に原因はあり得ないというものでしょう か。原因は一つよりも、重なればより起こしやすくなると考えるのが普通ではないでし ょうか。つまり、インフルエンザそのものや、他の薬剤の影響によってせん妄が生じる とすれば、その上にタミフルを服用すれば、せん妄や異常行動をより起こしやすくなる と考えてはいけないのでしょうか。異常行動や呼吸困難、意識の消失を目の当たりにし た親は異口同音に、我が子の顔をしていなかったと言います。  京都の新井さんの、中学3年生の息子さんは、夜に2個目のタミフルを服用後、目覚 めた後、大きな声で呼吸困難と興奮状態になりました。親が2人で押さえ込み、ようや くおさまったかなと思ったら、急に白目をむいて、顔面蒼白になり、呼吸をしているか 何度も見る必要があったそうです。そのときの興奮状態は、まるでテレビで見る、覚醒 剤の幻覚症状に似ていたと言われます。救急車で病院へ搬送され入院しましたが、入院 後も2回目の異常行動と意識消失、白目をむいてけいれん等を起こしたそうです。この 子は、幸いにも何の後遺症もなく回復しましたが、親がいなかったら飛び下りたり、異 常行動で私の息子のようにトラックに引かれていたかも分かりません。あるいは、その まま呼吸停止で死亡していたかもしれません。  異常行動も重大ですが、睡眠中の突然死や、急な心肺停止はさらに重大なタミフルの 副作用と考えます。会員の中でも、厚生労働省が公表した副作用報告の中でも多数いま す。それに、心肺停止で死亡を免れても、その後発達障害などの後遺症を残した会員も います。生後10カ月まではすくすくと何の異常もなく育っていた女の子は、タミフル を服用後1時間足らずでこの世のものとは思えない形相をして意識がなくなりました。 かろうじて一命をとどめたものの、その後は今までできていたハイハイや、つかまり立 ちができなくなり、5歳になった今も発達障害があり、身の回りのこともできない状態 です。  タミフル服用後までは元気にしていたのに、夕食の準備をしているときに、コタツで ビデオを見ていた後、気づくと呼吸が止まっていた3歳の男の子。寝返りを打ったと思 って、その後10分後に触ると、もうグニャグニャで息をしていなかった2歳の男の子。 あっという間に、かけがえのない幼い生命を奪われました。また、夜10時に寝て、朝 死亡していたのが発見された、一家の大黒柱であった39歳の息子を亡くされて、老夫 婦で理髪店を細々と続けておられる方もあります。  これまで何の障害もなく元気であった子、元気であった成人が、すべてタミフル服用 後に死亡したり、後遺症が起きています。厚生労働省の作業部会は、今月4日、異常行 動や突然死と、タミフル服用後の関係を解明するための調査・試験項目をまとめたとし ていますが、この項目に発達障害の症例も含め、調べていただきたいと思います。なぜ 0歳児が服用禁止になったかを踏まえて。  また20代前半の健康な男性10数人に、タミフルと偽薬を飲んでもらい、睡眠時の脳 波などを調べるよう輸入販売元の中外製薬に指示したとしていますが、これは無意味な 調査だと思います。素人でも、結果が分かっている調査です。  今後、安全対策部会安全対策調査会の議論と調査の結果が、タミフルが原因と判断さ れ、今後私たちのような親を出さないことを強く切に望みます。ありがとうございまし た。 ○松本座長 ありがとうございました。ただ今の意見陳述に対し、御質問等はございま すか。臨床のWGの先生方から何かコメントはございませんか。0歳児の使用禁止に関 して事務局から何かコメントはありますか。 ○安全使用推進室長 参考資料2、タミフルの添付文書の最初のページの、効能・効果 に関連する使用上の注意の3.のところに、1歳未満の患児に対する安全性及び有効性は 確立していないということで、1歳未満の子供に関しては、十分に臨床使用成績が集積 されていないという趣旨でこのような注意がなされております。 ○松本座長 軒端さん、その説明でよろしいですか。 ○軒端代表 今は服用禁止になっているのですが、実際に10カ月の子がタミフルを飲 まされて被害に遭っています。今、機構の救済制度の方に申請しておりますので、その 辺を踏まえて良い結果が出ていただければありがたいと思います。0歳児は飲んでは駄 目なのに処方されているのです。中外製薬からも、当初0歳児は使用禁止となっていた にもかかわらず、厚生労働省の方が0歳児でも服用を認めたのです。その後、服用が中 止になりました。 ○安全使用推進室長 それは、私どもの理解とはちょっと違います。1歳未満の患者に 対して禁忌ではありませんので、服用を禁止しているという理解ではありません。ただ、 十分なデータがなくて、安全性・有効性は確立していないのでと、そのことを踏まえた 上で、十分慎重にお使いくださいという意味です。 ○松本座長 WGから何かコメントはございますか。 (特に発言なし) ○松本座長 特に参考人の先生方から意見はなさそうですので、ただ今の意見を参考に させていただいて、今後の検討に活かさせていただこうと思います。どうもありがとう ございました。 ○軒端代表 どうもありがとうございました。 ○松本座長 続きまして、中外製薬株式会社の横山さんお願いいたします。 ○横山安全管理責任者 中外製薬で安全管理責任者を務めております横山です。今回、 安全対策調査会においてリン酸オセルタミビル、製品名タミフルの安全対策に関する、 私どもの取組みについてお話をする機会を与えていただきまして御列席の先生方、それ から事務局の皆様に厚く御礼申し上げます。お手元の、私どもの意見書に沿ってお話い たします。  リン酸オセルタミビルは、抗インフルエンザウイルス剤として、1999年に世界で初め て発売され、2001年2月から日本でも発売されております。その後、広く使用されて きたわけですが、インフルエンザ治療薬としての効果が評価されている一方で、転落、 飛び出しといった異常な行動に伴う痛ましい事例が報告されておりますことは、先ほど の軒端様のお話にあったとおりです。私どもといたしましても、このような状況を非常 に重く受け止めております。そして因果関係の追求、安全対策の一層の充実に努めてお り、今後もこうした取組みを最大限の努力を持って行う所存でございます。  これまでの経緯を御説明いたします。2001年2月の発売以降、安全性情報の収集に 努めておりますが、意識障害、異常行動を含むような重篤な精神・神経症状の報告が集 積されてきたため、2004年5月、発売して3年後に、因果関係は明確ではないものの、 医療関係者の皆様に注意喚起を図る観点から、精神・神経症状、具体的には意識障害、 異常行動、せん妄、幻覚、妄想、けいれんといった内容について、添付文書の「重大な 副作用」欄に追記いたしました。  しかし、転落、飛び出しによりお亡くなりになるという事例が報告されたため、2005 年12月には、患者様用の指導箋を作成し、医療機関を通じて一層の注意喚起をお願い してまいりました。  その後本年2月に、10代の患者様が転落死するという事例が2件相次いで報告されま した。このため、2月28日に本剤使用の有無にかかわらず、インフルエンザ患者様にお けるこのような事故を防止するための予防的な措置として注意喚起がなされました。そ して3月22日には、緊急安全性情報発出により、10代の患者様に対しては原則として 投与を差し控える旨の警告がなされました。これらの指示に沿って、私どもは厚生労働 省の御指示・御指導をいただきながら、副作用事例の追跡調査を行うとともに、注意喚 起をさらに徹底するため、本剤の納入先約12万軒の医療機関への情報提供を行い、注 意喚起に努めております。  こうした注意喚起の活動と並行し、製造元であるロシュ社と共に、これまでの臨床成 績、精神・神経症状の発現頻度について、国内外の広範な市販後の調査成績、並びに本 剤の基礎データ、種々の毒性試験や薬物動態に関する成績について、総合的に検討を重 ねておりますけれども、本剤を使用した患者様にみられた重篤な事象が、本剤の作用に 基づいたものであることを明確に示すような結果はこれまでのところ得られておりませ ん。  しかしながら、私どもは本剤を供給する立場として、患者様の安全性の確保を最優先 とし、添付文書の改訂に沿って適正使用をさらに推し進め、患者様の背景や状態を十分 考慮した上で、必要と判断される患者様に投与していただくよう、医療関係者の皆様に 対し、引き続き注意喚起のお願いに努めることが必要と考えております。さらに、これ までの情報を改めて詳細に分析し、どのような場合に重篤な事象が起こるのか、またそ うした事象が起こることを避けるためにはどうしたらいいのかについて引き続き検討し てまいります。  そうした姿勢のもとに、次のインフルエンザシーズンに向けて取り組んでいるわけで すが、具体的には、これまでに集積された有害事象の情報を改めて整理・分析し、異常 な行動などが発現した背景、発現時期、発現パターンなどに特徴的なことがないかどう かについて、現在積極的に検討を進めております。また、私どもはロシュ社と共に、か ねてから新たな基礎研究、臨床研究の計画を検討してまいりました。本年4月に、本剤 に関する基礎WG、それから臨床WGが設置されておりますが、私どもはこの二つのW Gに、これまでの本剤にかかわる基礎及び臨床のデータと、それらに対する私どもの見 解、そして私どもが考えておりました新たな研究計画を提出し、科学的な検討をお願い しております。基礎WGには、ロシュ社の研究チームも参加させていただき、御説明申 し上げているところです。  それらにおける議論も踏まえ、意見書に示しております基礎研究、臨床研究を早急に 実施してまいりたいと考えております。基礎研究としては、脳における薬物動態・代謝 についての三つの研究。一つ目は、脳内の能動輸送過程に関する研究、二つ目は脳内で の代謝、透過についての研究、三つ目は脳、脳脊髄液、血漿中濃度の測定であり、これ ら三つの研究に加え、中枢性作用に関連する受容体とのバインディング・アッセイ、そ して幼若ラット及び成熟ラットを用いた詳細な毒性試験、これについては既に実施を進 めておりますが、こうした五つの研究を実施いたします。これらの研究については、私 どもはあらかじめ検討を進めておりましたが、基礎WGの先生方の御理解が得られたと いうことで、これは積極的に進めていきたいと考えております。実施については、ロシ ュ社を通じて行います。  臨床研究としては二つの試験を実施いたします。一つ目は、健康人に本剤を投与した 場合の、睡眠に及ぼす影響を調べる臨床試験です。これは、臨床でみられた異常な行動 が睡眠障害によるものかもしれないという考え方から、臨床WGで提案されたもので、 国内での実施を計画しております。二つ目は、脳脊髄液中への薬物移行性についての臨 床試験です。これは、前もってロシュ社の方で計画を進めていたもので、私ども独自で 海外で実施することを計画しております。これらの基礎研究及び臨床研究の実施により、 得られる結果を科学的観点から迅速に評価し、次のインフルエンザシーズンに備え、安 全対策に活かすべく努力いたします。なお、これらの研究を評価し、さらに解明すべき 点について継続的に検討いたします。  インフルエンザ治療における安全対策をさらに推進するためには、これらの基礎研究、 臨床研究が必要であることは言うまでもありません。しかし、同時に疫学調査を進める ことが必要と考えております。米国では、既にこの薬を使用した場合、使用しなかった 場合を含めた約30万人の分析が行われております。国内では、これまで平成17年度、 平成18年度の2年度にわたり約2,800例、約1万例の「インフルエンザに伴う随伴症 状の発現状況に関する調査研究」が実施されていると聞いております。これらの結果を 参考にさせていただき、次のインフルエンザシーズンに向けて、注意喚起と適正使用の 推進に役立てていきたいと考えております。  そして、さらに適切かつ安全なインフルエンザ治療を実現するためには、より詳細な 要因分析、即ちインフルエンザに罹患した場合に、実際に使用されるすべての治療薬剤、 インフルエンザ自体の病態、その治療経過、患者背景などの影響の有無について、ある いはこれらが複合的に絡んでいる可能性もありますが、そういうことについて網羅的に 検討を可能とするような大規模な疫学調査を継続的に実施することが必要であると考え ております。今後、このような疫学調査の実施について関係する学会、厚生労働省に御 相談申し上げたいと考えております。  最後になりますが、私たちはインフルエンザ治療薬を供給する立場として、皆様が安 心して適切にインフルエンザに対処いただけるよう、調査、研究そして安全対策に真摯 に取り組んでまいります。以上です。 ○松本座長 ありがとうございました。ただ今の中外製薬株式会社からの説明に対し、 御意見、御質問等はございますか。意見陳述人からの御質問は受けておりませんので御 遠慮願います。 (特に発言なし) ○松本座長 委員の先生方からは御質問はなさそうですので、できるだけ基礎研究、臨 床研究の結果を得て皆様に提供していただければと思います。 ○横山安全管理責任者 よろしくお願いいたします。 ○松本座長 続きまして、薬害オンブズパースン会議の水口さんからお願いいたします。 ○水口事務局長 本日は、陳述の機会を与えていただきまして本当にありがとうござい ます。薬害オンブズパースン会議の事務局長をしております水口です。職業は弁護士で す。もちろん、中外製薬とは何ら経済的関係は有しておりません。薬害オンブズパース ン会議を代表して意見を述べさせていただきます。  資料1-3に、私の本日の意見陳述の骨子と資料が添付されております。この中に「そ れでもタミフルを服用しますか(2007年改訂版)」があります。これは、タミフルの安全 性をめぐる問題について、私たちの基本的な考え方を市民の方々への説明文書という形 でまとめて公表したものです。  この書面で述べていることは、要するにタミフルはリスク・ベネフィットのバランス が悪すぎるということです。  タミフルについて、科学的に証明されている治療効果は、約1日症状が早く治まると いう限度のものにすぎません。予防効果についても実証的なデータはなく、国内でのハ イリスク群における有効性及び安全性を明らかにすることが承認条件となっております。 その一方で時間的関連性や、インフルエンザでは説明できない特異な症状などから、タ ミフルとの関連性が疑われる多数の異常行動や、突然死の副作用報告があります。イン フルエンザを1日早く治すために、異常行動死や突然死のリスクを伴うということは、 有効性と安全性のバランスを失し、医薬品としての有用性を欠くと言わざるを得ない、 というのが私たちのタミフルに関する基本的な評価です。  タミフルが必須の医薬品などではないということは、安全対策のあり方を議論する上 でも極めて重要な意味を持つと考えております。必須の医薬品でないものによって、万 が一のことがあってはならないという考え方に立って、死に至る副作用との因果関係が 否定できず、安全性が証明できない以上、危険なものとして扱い、厳格な安全対策がと られるべきなのです。医薬の専門家が、副作用に関する因果関係の厳密な証明にこだわ っている間に、みすみす被害を拡大させてしまった過去の多くの薬害事件の教訓にも学 ぶべきです。実は、私は本日このことをいちばん申し上げたくてここへ参りました。  以上の観点から、薬害オンブズパースン会議では、資料にありますようにタミフルの 全年齢を対象とした使用中止と、副作用情報の全面公開を求める要望書を提出しました。 さらなる安全性の検証は、一旦使用を中止した上で行うべきだと考えております。先ほ どロシュ社が、これから予定している研究のことについて言及されておりましたが、こ れは本来承認前にするべきだったことではないでしょうか。また、この研究は一旦使用 を中止した上でなされるべきだと考えております。  そのような前提に立った上で、安全性のさらなる検証としては何を具体的になすべき か、また何を優先課題とするべきかということについて述べさせていただきます。   既に収集されている情報を十分に活用すべきです。前回の本調査会においても、委員 の先生方から、収集された症例からかなりの共通項が見えるのではないか、この宝を活 かすべきという御指摘がありましたが、まさにそのとおりであると考えます。臨床試験 や市販後の副作用報告、被害救済制度の申請症例など、既に収集された情報はすべて活 用すべきです。  また、解析の方法は十分に吟味されるべきです。類型的な特徴を明らかにするのにふ さわしい解析方法でなければなりません。発熱によるうわ言や不安・不穏から飛び下り などの極めて特異な現象まで、それをひとまとめにして括って異常行動とし、有り・無 しで分析するというようなことは避けるべきです。また、タミフルの中枢神経抑制作用 に十分配慮した検討がなされるべきだと思います。この点で、突然死の検討を心毒性の 面からのみ検討するのでは不十分ではないかということを指摘しておきたいと思います。  仮に分析をするのに、既に収集された副作用報告では、情報として不足があるという のであれば、報告をした医療機関に補充の追跡調査を行い、追加情報を得るべきです。 やはり、前回の本調査会では、委員の先生方から、集積された副作用症例について追加 調査ができるかという質問がありました。安全対策課長が、古い症例のフォローが難し いかもしれないという趣旨の回答をされていますが、これは古くないものの追跡調査は 可能であるという含みを持つ回答だと私は理解いたしました。国民の生命を守るために、 やれるだけのことはするという姿勢で、貴重な副作用報告を活用するという努力を是非 していただきたいと思っております。  なお、本調査会の下に置かれました臨床WGは、タミフルの睡眠に及ぼす影響を調べ る臨床試験実施を決めたと伺っています。しかし、この臨床試験については疑いを持っ ております。タミフルによる影響は、インフルエンザの感染、発熱によってもたらされ る一定の条件下でのみ出る可能性が指摘されています。したがって、健康人へ実施する この試験で、仮にネガティブな結果が出たところで、安全対策の上で、タミフルが安全 だという結論を導くことはできないということになります。その一方で、被験者に異常 行動や突然死が出るリスクが全くないとは言えないわけです。限界が明らかな臨床試験 をやって、健康人を危険にさらすということは倫理に反する疑いのある行為だと考えま すので、是非御再考いただきたいと思っております。以上、既に集積されました副作用 報告の検討が優先課題ではないか、ということについて述べさせていただきました。  加えて、是非お願いしたいのは、埋もれております副作用報告の新たな収集です。そ の方法としては、第1に全国の病院に問い合わせをして、インフルエンザ罹患後に急死 した症例はもとより、インフルエンザ罹患を契機に後遺症が残った症例などについて報 告をしてもらうことです。  第2は、副作用を経験した患者、子供の場合は親ですが、またその遺族からの報告を 国として集めるべきだということです。つまり、患者からの有害事象の直接報告の収集 をしてくださいと申し上げております。薬害オンブズパースン会議では、患者からの有 害事象報告を受け付けるシステムを構築するべきであると、これまで繰り返し要望して まいりましたし、全国薬害被害者団体連絡協議会もこれを要望しております。是非この 機会にこれを先取りして実行していただきたい。抗うつ剤SSRIが、自殺衝動をもた らすことを示すことについて、英国が誇るイエローカードシステムが機能せず、BBC 放送が受け付けた、患者からの直接報告によってその実情が明らかになったという貴重 な経験があります。原疾患が、副作用と類似の症状をもたらすとされるような場合、そ の質的な違いをリアルに伝えるのは、医療専門家が使用する、定形化された医学表現で はなく、患者の生の言葉であり報告だったわけです。タミフルのように外来で、しかも 副作用管理が患者に任されるような薬での使用経験は、医療関係者に伝わらないまま埋 もれている可能性が少なくないはずです。患者からの報告には限界があることは織込み 済みのこととして、それを踏まえた上で活用する道があるはずですので、是非これを御 検討いただきたいと思っております。  最後に、手続について一言申し上げさせていただきます。委員の先生方には、是非と も検討会の取りまとめの結果についてこだわっていただきたいと思っております。前回 の調査会では、多方面にわたる有意義な御意見が多数指摘されていました。しかし、そ れが取りまとめに十分反映されていたかといえば、私は疑問を感じざるを得ません。こ れは、多くの検討会を傍聴させていただいていて常に感じる私たちの違和感です。議事 録も公開されていますが、これを見るのはごく一部の限られた者だけです。マスコミを 通じて報道されるのは、多くの場合取りまとめ結果のみで、国民が取りまとめの行間か ら多くのことを読み取ることは不可能だということを踏まえてお答えをいただくことを お願いしたいと思います。  本日は、息子さんを亡くされた軒端さんが見えています。私は弁護士として、多くの 薬害被害者の苦しみを見てまいりました。既に被害に遭われた方の早急な救済を望むと ともに、同じような悲しみを味わう方がこれ以上出ないよう、無駄な死者は一人も出さ ないという姿勢で、積極的な対応をこの調査会にお願いして私の意見陳述を終わります。 ○松本座長 ありがとうございました。ただ今の水口さんの意見陳述に対しまして、御 意見、御質問等ございませんか。 ○浦田参考人 水口さんもそうですし、軒端さんからの御意見でも、睡眠に関する検討 は無意味ではないかという御指摘がありました。結果がネガティブである可能性はゼロ ではないと思います。しかしながらデータを見させていただきまして、前回の調査会で もお話しましたように、一旦眠られて、目を覚まされた後に起きている。もちろん、こ の実験が対象としております年齢は20歳以上の成人男子ということですが、ちょっと 多いのはそれより年齢は下です。その辺のずれはあるかもしれませんが、これは逆に言 うと、実験を組む上で、その年齢を対象とすることが困難だということがありますので やむを得ないかもしれません。  もう一つは、報告の中にそう多くはないのですが、比較的年齢の高い方々でも悪夢を 見ております。悪夢という報告があります。この悪夢が今回の異常行動と一連の関連が ある可能性があるのではないかと私どもは考えています。そうでありますと、睡眠実験 をやっていただくのは決して無駄ではないだろうと、あるいは可能性として睡眠時の脳 波等で、睡眠構築の異常が見つかったりする可能性はあるのではないのだろうかと思っ ております。もちろん可能性でありますので、ない場合もあるかもしれません。こうい うところで、私は決してやるべきでないというよりも、むしろやっていただいて、きち んとデータを出していただいた方がよろしいのではないだろうかと考えております。 ○大野参考人 水口さんのを聞き漏らしたのではないかと思うのですけれども、健康人 を対象にした試験が、倫理にもとる行為であるというようなことをおっしゃったかと思 うのですが、これは無意味であるという先生のお考えで、それを試験でやるのは倫理に もとるということですか。 ○水口事務局長 そうです。 ○大野参考人 意義があればよろしいということですね。 ○水口事務局長 私が先ほど申し上げましたのは、今はインフルエンザに罹患したとい う一定の条件の下で起きるという可能性が非常に高くて、しかも今予定されている試験 の人数はどのぐらいか存じ上げませんが限度も知れている。そういう治験がどれだけの 意味があるのかと考えたときに、それとその試験で異常行動や突然死のリスクが全くな いとは言えないということを総合しますと、全体として倫理にもとると申し上げたわけ です。 ○飯沼参考人 予防効果の点について御指摘があったようですけれども、中外製薬から お答えが欲しいです。本人の予防効果はかなり難しいと思いますけれども、家族もしく はその周辺の人に対して、薬のメカニズムからしてかなりあると考えるのが普通だと思 います。リリースしないわけですから、隣の人には移りにくいということになります。 予防効果についてそういうデータはお持ちですか。 ○横山安全管理責任者 本剤のインフルエンザ予防効果については既に臨床成績が得ら れており、成人に対する適応を取得しております。 ○松本座長 エビデンスがあるということですね。 ○横山安全管理責任者 はい。 ○水口事務局長 そうなのでしょうか、エビデンスがあるということですか。適応があ るとおっしゃられたのは承知しておりますけれども、承認の段階で、予防効果について 実証的なデータがあるというふうに私は存じておりません。 ○松本座長 ここでディスカッションしましても、客観的な証拠を基にしているわけで はありませんので、本日は水口さんからの御意見を聞いて、それを参考に今後の研究の 役に立てていただこうというものですのでよろしくお願いいたします。 ○水口事務局長 私が申し上げたいことも、そういう医学的な評価のこともさることな がら、先ほど申し上げました必須の医薬品でない以上、安全性が証明されない限り、厳 格な安全対策をとるべきだということです。因果関係の厳格な証明にこだわらず、思い きった中止という政策をとっていただきたいということを私はまず申し上げたいのです。 その点だけ繰り返させていただきます。 ○松本座長 分かりました。ほかに委員の先生から御意見はございませんか。 (特に発言なし) ○松本座長 ないようですので、これで水口さんからの意見陳述を終わります。続きま して、島根大学医学部の奥西さんからお願いいたします。 ○奥西教授 島根大学の奥西です。(スライド有り)私は、臨床医を3年経験し、その後 は薬理学の研究に転じ、既に30年を過ぎたところです。最近は、専ら副作用の薬理学 を専門にしております。一般に薬理学といいますと、薬が効く仕組み、メカニズムを解 明し、より薬の効率を高めたり、あるいは新しい応用法、あるいは新しい適応症を考え 出したりする、というのが薬理学の究極の目標だと思っております。確かにこれはプロ ダクティブ、新しいものを創出するという意味で、薬理学会でも皆さんこういう方向に 向いているわけです。  一方、副作用の薬理学をやっている人は本当に少ないと思います。副作用の薬理学と いうのは一体何を目標にしているのかというと、副作用のメカニズムを解明する。何の ために解明するかというと、その薬剤による副作用の再発を防止する対策を考え出す。 あるいは、今まで知られていない薬の副作用をあらかじめ予知する知識のデータベース にもなっていくかと思います。予知ができれば、当然それに対する予防策も講じること ができるというところを目指して、副作用の薬理学というのを私はやっているわけです。 本日は、そういう立場でお話をさせていただきます。  タミフルの問題に関しては、随分前から関心を持っておりました。特に、異常行動に 関しては後でお話をされます浜先生の論文などもいろいろ読ませていただいて、おそら くタミフルというのは頭の中に入るのだろうと。血液脳関門という関門がありますけれ ども、それを通り越えて頭の中へ入って、それで中枢神経系に何らかの作用をする、そ の結果、異常な行動を起こすのではないかと想定しております。これは、薬理学の研究 者としての私の勘です。もちろん、長年の経験とか知識もありますけれども、それに加 えて仮説に対する勘といいますか信念といいますかそういうものもありまして、おそら くタミフルは頭の中へ入って異常な行動を起こすのではないかと考えておりました。  そのように考えていたものですから、2006年7月に沖縄県で、中学1年生の男子が、 タミフル服用後に転落死するという事件がありましたときに、おそらくその法医解剖を 担当するのは琉球大学の法医学の先生だろうということで、私が直接電話をして、この 度不幸にして亡くなられた患者さんの、法医解剖のときの血液と脳脊髄液を是非採取し ていただいて、その中のタミフル及びその活性代謝物(カルボン酸)の両者の定量測定を やっていただけませんかとお願いしました。  これは、実際にタミフルが頭の中へ入っているかどうか、ということの一番確実な証 拠になるわけですから、これを是非お願いしたいと言ったところ、教授は、現在測定の 準備を進めております、もうサンプリングはしてあります、結果が出ましたらまた連絡 しますという返事をいただきました。それで私は待っていたのですけれども、2カ月ぐ らい経っても音沙汰がないので、私の方からもう一度お尋ねしたところ、データをあな たに伝えるいわれはない、筋合いはないと拒否されました。  さらに、私は剖検所見として肺水腫、これもタミフルによる死亡のときに伴うことが 多いと思われるので、こういう肺水腫の所見がありましたでしょうかと聞きました。そ れに関しては、亡くなられた患者さんの個人情報である。しかも司法解剖ですから、警 察に対する守秘義務もあるということで、あなたには一切答えられませんということで、 それ以上取り付く島がなかったわけです。  私はそういう経験をしたわけですが、もちろん個人情報ですから遺族の方の承諾とい うのは必要なことなのですけれども、原因を科学的に究明するためにこれは絶対必要で すので、国の行政指導というのでしょうか、国の責任の下でタミフル服用後の突然死、 あるいは不審死のケースに対しては、血液及び脳脊髄液中のタミフル及び活性体を定量 測定し、そのデータを公表することを義務づけていただきたいと思うわけです。これが、 私の第1の提言です。  私の長年の薬理学者としてのノウハウから、このタミフルという薬は、頭の中に入る と、血液脳関門を通り得ると、かなりの確度で考えております。考えておりましたし、 今現在もおります。化学構造を見ると大体分かると思うのですが、タミフルの一般名は 「リン酸オセルタミビル」、シクロヘキセンカルボン酸、シクロヘキセンカルボキシレー トが基本骨格で、ここのところがカルボン酸ですと飲み薬として飲んだときに吸収効率 が非常に悪いということで、カルボン酸のところにエチルエステルをくっつけてあると いうことです。  3位のエチルプロポキシ基のところも、全く極性がありません。非常に油に溶けやす い。油に溶けやすいと、細胞膜を通りやすい。つまり、血液脳関門も通りやすいという 性質を与えていると思われます。4位もアセトアミドの形になっておりますし、この部 分が電荷を持たないように誘導体化してあります。唯一プロトン化して荷電するのは、 アミノ基なのです。ですから、このものは非常に弱い塩基、フリーベースであるという ことになります。実際は、製剤としてはこういうフリーベースではなくて、アミノ基と 静電結合する形で、リン酸塩にしてあります。  タミフルを飲むと、リン酸は腸の中で簡単に外れて、オセルタミビル、このあとのス ライドでは「プロドラッグ」と呼んだり「未変化体」と呼びますが、こういう形になっ て吸収されます。ヒトの場合は、これがすぐに肝臓のエステラーゼによってエステル結 合が加水分解され、本来の活性代謝物、カルボン酸の形になるということです。この形 が、ノイラミニダーゼを阻害することになります。  実際、性質の中で非常に大事なものとしてLogPという値があるのですが、これは値 が大きければ水よりも油に溶けやすい性質を示しております。オセルタミビルのLogP が1.15、カルボン酸体が0.3ですから、オセルタミビルは明らかに油に溶けやすい。つ まり、血液脳関門を通りやすいということが推察されるわけです。  これは浜先生からお借りしたスライドですが、上の表が未変化体のラットの脳中の濃 度です。ここに示したような、7日齢から42日齢までの、ラットを使ってタミフルを投 与したときの脳の中の未変化体の濃度、こちらはアシッド体の濃度です。ここで言いた いのは、死亡の割合と脳中の未変化体の濃度が非常に高い相関を示しているということ です。こちらはタミフルの用量、0、500、700、1,000とあって、こちらはイベントが 起こった割合を示しております。赤は死亡例で、このマークは中枢神経系を抑制した症 状、体温低下や自発運動低下、呼吸の抑制などの起こった割合を示しております。これ を見ると、死亡にしても中枢抑制症状にしても。 ○松本座長 申し訳ありません、研究結果を聞くというより、むしろこれからどうする かについての御意見を伺っているものですから、その点について言及していただければ と思います。時間がかなりオーバーしておりますので、御協力をお願いします。 ○奥西教授 私が言いたいのは、オセルタミビルの未変化体はかなり頭の中に入り得る ということです。しかも、血液脳関門は、ただ単に静的なバリアではなくて、脳の中に 入った薬物を積極的に汲み出すポンプを備えております。おそらく、インフルエンザの 病態の初期には、この汲み出すポンプが阻害されるのではないか、そういうときにタミ フルを飲むと、かなりの濃度で脳内に入っていくのではないかと考えられます。活性体 の方はあまり入らないと思うのですが、それでもわずかは入るかもしれません。  脳の中に入ったオセルタミビルが、いろいろな中枢神経系の抑制を示すのですが、一 番異常行動に結びつくところは、おそらく制御系を抑制し、その結果抑制が外れて異常 の興奮や情動が起こるのではないかということです。  私の提言は、薬理学実験で、おそらく健康なヒトではタミフルを飲んでも頭の中に入 らないだろうと。先ほども申しましたが、血液脳関門がインフルエンザの際のサイトカ インストームによって障害されているときにこそ入るのだと仮定されます。それを動物 で再現してみたらどうだろうと、人為的にインフルエンザ・ウィルスを感染させて、そ の状態でタミフルを口から飲ませたときに、頭の中に入るかどうかを調べるべきだと。  2番目は、バリアは関係なしに脳の中へ、脳室内でもいいですが、直接タミフルを注 入して、中枢抑制作用である低体温や呼吸抑制、行動異常が現れるかどうかを調べるべ きだと。もちろん、対照群としては溶媒のみのコントロール実験が絶対必要だというこ とです。3番目は省略します。  最後に、これはどうしても言いたいのですが、我々が副作用の薬理学を研究しようと 思っても、事実上できない、いろいろな障壁があります。一つは、メーカーは我々大学 の研究者に疑いのある薬物を供給してくれません。仮に分与されたとしても、実験結果 を公表する前に、これを公表してもいいかどうかというメーカーのチェックと同意があ ります。当然、そこではねられるものもあるわけです。副作用の研究に対しては、研究 費が全く出てきません。また、これは学会の中でのことなのですが、新しい薬を造り出 す研究ではないので、どうしても低く見られるということで、これも若い研究者の参入 を妨げていると考えております。 ○松本座長 ありがとうございました。委員の先生方から何か御意見はありますか。  ただ今の奥西さんの提言は、この調査会で答えられる性質のものではなさそうなので、 こちらの検討とは少し離れているようです。研究成果に関しては、浜さんの研究成果が 出ておりましたので、続いて浜さんからお願いします。 ○医薬食品局長 先ほどのご提案は薬理関係なので、大野先生から。 ○大野参考人 奥西先生からいただいた資料1-4に書いてあることについて、基礎WG でも同じような意見が出ています。タミフルそれ自身と代謝物そのものが、インフルエ ンザで血液脳関門がやられた状況のときに脳に入るのではないかということで、そのも の自身を脳に投与して作用を見るべきではないかという意見が出ています。同じように、 中外製薬にそれを依頼しているところです。  ただ、早急にできることかどうかは、先生がおっしゃっているように対照物質をきち んと入れてやらないと、作用を見ているのか、異物を投与したことによる作用を見てい るのかが分からないので、実験条件を十分検討した上でやっていただきたいと思ってお ります。  2番目の「脳への移行を動物実験で確認すべし」というところですが、それに関して は血液脳関門が障害を受けたモデルがいくつかあります。インフルエンザ脳症モデルや カイニン酸を打ったモデル、LPSを投与したモデルなどがあるのですが、それに対し ての再現性が今一つ確認できていないのです。その辺を検討して、その上で再現性があ るとのデータが出たら、それを検討していただきたいと思っております。  3番で「異常行動誘発作用を検証すべし」となっていますが、実験条件を十分確認し た上で、脳室内に直接投与して異常行動が起きるかどうかを検討していただきたいと思 っているのは、私どもと同じです。 ○奥西教授 先ほど中外製薬さんから実験結果の紹介がありましたが、それに関して私 が考えたのは、先ほどの相関の表でお見せしたように異常行動や呼吸抑制、低体温とい った症状と相関しているのは、未変化体、プロドラッグの方なのです。もちろん、アシ ッド体も有意ではないですが相関する傾向はあります。ですから、両方とも見る必要が あると思うのですが、特に未変化体の方に注目して、そちらをできるだけ早く進めてい ただけたらと考えております。 ○松本座長 ありがとうございました。ほかにありませんか。私は、実験の方ではなく て、提言1と研究費の問題のところで申し上げてしまったのですが、実験に関しては今 の先生の御意見でよろしいでしょうか。 ○奥西教授 そこに関して少しお願いがあるのですが、メーカーから薬物が供給されな いという事実がありますので、ここは国の方からルール化していただけたらと考えます。 ○松本座長 それはこちらで扱う問題ではありませんので、申し訳ありませんが、ほか の所でお願いしてください。 ○広津参考人 今論点になっていたデータについてお聞きしたいのですが、データは浜 さんの方と言われたので、ここでの質問ではない方がいいですか。統計的な処理という ことであれば、浜さんも同じようなデータを使われているので、そのときでもよろしい ですね。 ○浜代表 関係については、こちらで。 ○松本座長 動物実験の結果が出るわけですね。では、お願いします。  よろしいでしょうか。では、浜さんに意見陳述をお願いします。 ○浜代表 医薬ビジランスセンターの浜です。(スライド有り)お招きいただきましてあ りがとうございます。こういう機会ですので、しっかりとお話したいのですが、スライ ドがたくさんありますので、早速始めさせていただきます。  これは、2005年2月25日の大阪読売の新聞です。新型脳症で、子どもがたくさん突 然死したというニュースが出ています。このニュースが出たあとで、突然死がたくさん 報告されるようになりました。今年も、いくつかの新聞あるいは週刊誌などに突然死の 報道もされ、突然死が非常にたくさん報道されています。  「突然死」というのは、単に突然死というだけではなく、心肺停止も含めております。 今回私が独自に収集したものを含めると、50人が報告されています。合計で82人の死 亡例です。「異常行動・事故死」は10代であり、「突然死」は10代にはありません。  2005年11月12日、小児感染症学会で報告しまして、それが報道されました。それ までは毎年2例足らずの異常行動報告だったのですが37例、ついには141例、今日も 20何例か異常行動が報告されております。急激に、この報道によってこれだけたくさん の報告がされるようになったということは、埋もれている例が非常にたくさんあること を示しております。  今日の私の意見ですが、従来の脳症は非ステロイド抗炎症剤によるものだったという こと、タミフルの非常にわずかな効果と大きな害があるということを、いくつかの点か らお話しします。また、臨床の検討に際して基本的に考えていただきたいこと、因果関 係の考慮に際しては、いくつかのリスクが重なっている場合、これをタミフルが原因で あることの否定の根拠にしてはならないということなど、いくつかあります。今後の検 討課題、現在検討中の項目に対する問題点もお話します。  非ステロイド抗炎症剤が従来のライ症候群、あるいはインフルエンザ脳症の原因だっ たということですが、ライ症候群の原因がアスピリンであることは非常に有名で、いく つもの症例対照研究があります。動物実験もなされていて、アスピリンの成分であるサ リチル酸ナトリウムを使うと、初めのうちは熱が下がっていますが、途中でかえって高 熱になるということで、この場合はウサギですが、全部死亡してしまいました。コント ロール群は生き残っている例が多いのですが、アスピリンの成分を点滴すると死亡して しまうということです。  これは一つだけの実験ではなく、いくつかあって、合計9論文、15実験されています。 それを統合すると、オッズ比は10で、下限は6です。P値は0.00000001と0が8つ ついて、間違う確率は1億分の1と、非ステロイド抗炎症剤を使うと確実に感染動物の 死亡が増えるということです。  脳症はインフルエンザだけで起こるのではなく、年がら年中起こっています。もちろ ん、インフルエンザの季節は多いのですが、普通の風邪でも非ステロイド抗炎症剤を使 えば、脳症が起こって死亡します。1999年の森島班の研究結果がこうでしたが、インフ ルエンザ脳症になった場合に非ステロイド抗炎症剤を使うと、死亡率が高くなったと。 このことは、1990年、1992年の厚生省の研究班でも、すでに同じ結果が出ておりまし た。症例対照研究は佐藤班が行いまして、結果は関連は示していないということですが、 実際は非ステロイド抗炎症剤を使うとオッズ比が47、下限が3.3ということです。特徴 的なのは、対照に比べて軽症はオッズ比は高くないのですが、重症になるほど非ステロ イド抗炎症剤の関与が強いことを明らかに示しております。  インフルエンザ脳症にタミフルは効くのかということですが、横田俊平教授が自ら効 果がないと言っています。確立はされていない、否定的であると言っておられまして、 理由は、発熱をみてからは病態形成が進行してしまっているから効かないのだと。理由 の二つ目は、インフルエンザ脳症は、インフルエンザウイルスそのものではなくて、過 剰な炎症性サイトカインの産生・放出にあるということです。したがって、ブラッドブ レインバリアが壊れて細胞障害、血管壁の障害を起こすということです。また、タミフ ルはウイルス感染を防止するものではなく、サイトカインストームの発来を防止できな いことを明瞭に示しておられます。こういうことから、効かないと言っておられます。  インフルエンザ脳症で死亡する割合が赤で示してありますが、2000年までは30%ぐ らいありました。それが、これは厚生労働省の非常にいい結論だったと思いますが、非 ステロイド抗炎症剤の規制をきちんとされて、使用が減ってくるとともに死亡率も減っ ております。  タミフルの効果ですが、プラセボ群に比べて少し症状が治まるのが早いと。ところが、 これも解熱作用がありますので、この効果自身もかなり割り引いて考えなければいけな いということです。A香港型にはタミフルは無効だったと。これは日本の臨床試験の結 果です。線が重なっておりますから、効果に差がないということです。  嘔吐については、タミフルの異常行動や突然死を解釈する上で非常に重要な点ですの で、是非頭に入れておいてほしいのですが、1日目だけ嘔吐が有意に差があります。2 日目以降は差がなかったのです。これは、臨床試験の結果です。肺炎にかかる率は、タ ミフルを終了したあとで肺炎が多くなるという結果が、これもランダム化比較試験の結 果ですが、非常に信頼性が高い。この点を十分に注意して、分析していただきたいとい うことです。小児喘息の患者さんに使うと、途中でクロスしていて、タミフルの方が治 るのが遅い。これは、肺炎が多発していることが原因である可能性が十分あり得ると思 います。  先ほど奥西教授も紹介されたものですが、これはメーカーさん自身が実施された動物 実験の結果をまとめたものです。死亡についてはこうですし、チアノーゼが出ておりま すし、9匹に肺水腫が起こっています。死亡した動物の半分に肺水腫が起こっていると いうことです。症状としては、体温低下、自発運動低下、呼吸緩徐・不規則という症状 がはっきり出ており、これも全部中枢抑制作用を示しております。明瞭な用量反応関係 があります。未変化体の脳中の濃度と死亡の割合とで、これだけきれいに相関関係があ るということです。成熟した動物に比べて、未熟な動物はピークの濃度が3,000倍です。  実際に臨床例はどうだということですが、3歳の男の子のことを紹介します。タミフ ルを服用してすぐに寝て、15分後に起きて寝たと。ところが、途中で呼吸が停止状態に なって救急搬送されましたが、解剖したら高度の肺水腫があったということです。  2人目は39歳の男性ですが、タミフルを処方どおりに2カプセル服用したところ、翌 朝死んでいたと。解剖したところ、タミフル服用3時間後の推定死亡時間で、やはり肺 水腫が認められたという典型的な症例です。  厚生労働省御自身が報告されておりますが、0歳の男子で、つたい歩きができていた ということですから、おそらく10カ月程度です。呼吸が停止して、心肺停止の時間が かなり長かったようですが、やはり肺水腫がありました。途中で消えております。3例 目は、発達障害が途中で起こった例です。この子は寝たきりではありませんが、障害を 残しております。  この方は、先ほど軒端さんも紹介された方で、呼吸停止一歩手前で辛うじて回復しま した。ヒトと動物でこれだけ症状が似ているということですし、肺水腫も似ております。 複数の動物で、同じように行動低下や虚脱が起こっておりますし、肺炎などが起こるこ とに関しては、遅発性の変化として生体内にもノイラミニダーゼあるいはシアリダーゼ がありますので、それの阻害ということも考えなくてはいけないと考えます。このスラ イドは、いろいろな段階があることを示していますし、せん妄あるいは異常行動に関し てもいろいろな段階があると。一連のものであって、どれも切ることができない、非常 に連続したものであることを御理解いただきたいと思います。横田研究班は、この一番 軽いところだけを見ているということも認識しておいていただきたいと思います。  FDAの分析では、服用後1、2回で約4分の3、服用後6時間以内に90%が生じて いるということで、ほとんどインフルエンザにかかった急性期だけに影響があるという ことです。熱せん妄であることは飛ばします。これは横田研究班のデータですが、初日 の昼間だけ有意に差があります。  今までのまとめですが、要はタミフルは中枢抑制剤であるということです。感染の急 性期にブラッドブレインバリアが障害された状態で、脳中に高濃度になると。それ以外 のときは、障害を起こすほどの濃度にはならないということです。異常行動は、呼吸抑 制よりも少し前の段階の抑制状態で起こるのだと。せん妄も、中枢抑制作用につながっ ているものであるということです。呼吸抑制、突然死、肺水腫が起こる。長期の例では、 ノイラミニダーゼの阻害も視野に入れて検討しなければいけないこと、一連のものであ ると先ほど申しました。また、ハイリスク、高熱などに関しても、リスクが重なればよ り起こりやすくなるだけであって、単にリスクがあるということだけでタミフルの原因 を否定してはいけないと。横田班の研究は、あれだけで実際には因果関係もほとんど関 連性があるということを示していることに、是非注目していただきたいと思います。  これは先ほどの質問にもありましたので、時間ですが、先ほどの問題に対する回答を します。感染動物で実施しないと、感染を起こしていない動物でいくら実施しても駄目 だということです。7日齢のラットであれだけの変化が出ておりますので、ブラッドブ レインバリアの機能が悪い状態です。インフルエンザにかかれば、ブラッドブレインバ リアの機能が障害されることは医学の常識ですから、それと同じようなモデルでやらな いと全く意味がないということです。先ほどメーカーさんが示されたような実験は、か なりのものが無駄になるだろうと思われます。ただ、ノイラミニダーゼによる遅発性の 障害を見る意味では重要です。  受容体の検討は、ベンゾジアゼピン受容体に結合する可能性が非常に高いので、これ は是非ともやっていただきたいし、生体のノイラミニダーゼに対する阻害があるのかど うか。すでに中国でこれが多いと。しかも東洋人ではシアリダーゼの阻害を受けやすい 人が多いと言っておられますので、このことは是非ともやっていただきたい。沖縄の中 学生に関しては、奥西さんが言われたことです。義務化もそうです。  あとは書いてあるとおりで、掘り起こしも大事ですし、健康人対象のプラセボの問題 については、先ほどから申し上げているように、感染状態でないヒトの場合、ほとんど 脳中には有意に、例えば脳中の濃度が3,000倍のような高濃度にならない限りは、突然 死することはないということです。半分の量では全く突然死はありませんので、そうい う状態でやっても何の影響も出ないだろうと、やる前から陰性結果が出ることは明らか です。しかも、実際にノイラミニダーゼを阻害すれば、後々まで何らかの影響があり得 ると考えられ、だからこそ非倫理的であると申し上げているわけです。  その点をきちんとしていただきたいことと、突然死は呼吸が止まって低酸素状態にな って、そのために肺水腫を起こして死亡するのです。呼吸抑制が非常に急速に進めば、 肺水腫を起こす前に死んでしまうこともありますので、中には突然死しても肺水腫のな い方もいます。あるいは、動物も半分ぐらいしかないわけですが、いずれにしても突然 死は大体が呼吸抑制によって起こっていますから、心臓死は非常にまれなことです。絶 対ないとは言えないのは、ノイラミニダーゼを阻害するということで、もともとQT延 長症候群を持っている方がかかれば、そういうことも絶対ないとは言えませんが、マイ ナーな問題であると考えます。  もう一つ、予防に効果がないと先ほどおっしゃっていましたが、タミフルの予防が承 認されたときの臨床試験で、ウイルスが証明されないインフルエンザはタミフルは少な くなりますが、症状で見るとウイルスが証明されない感染状態は差がなかったというこ とでした。だから、症状に関しては全く予防ができていないというデータです。 ○松本座長 ありがとうございました。最初に、広津先生、コメントをいただけますか。 ○広津参考人 ただいまの発表でそれほどウェートを置かれていないので、むしろ奥西 教授の説明に関する質問になると思います。ただ今もデータが1回出たのですが、実験 動物での脳内移行のデータで、直線を引かれた図がありましたね。表でもどちらでもい いのですが、データはほとんど両端に張りついているわけですね。こういうもので形式 的に相関関係を計算すれば、大きくなるのは当たり前だと思うのです。このようなデー タに直線をあてはめることにもいささか疑問があって、むしろこの中間のデータは全然 ないのですか。 ○浜代表 これも、実は濃度があるのです。 ○広津参考人 ログスケールで見れば、もう少し分かれてくると思うのですが。 ○浜代表 一応こういうデータと、先ほど奥西さんが示されましたが、未変化体と活性 体とで相関を見てみた場合に、どちらかというと活性体よりも未変化体の方が相関係数 が高いので、関連はやはりこちらの方にあるだろうということです。 ○広津参考人 ですが、むしろもっと中間で急激に死亡例が増えるような変化点が知り たいわけです。 ○浜代表 それは、メーカーさんでやっていただければと思います。メーカーさんが出 しているデータをこちらで作り変えてお示ししているだけで、メーカーさんがもっとき ちんとやればいいと思います。  例えば、これは第3実験なのですが、全部で5つぐらいありまして、最後の5つ目な のですが、第3実験では24匹のラットの実験がありまして、そのうちの18匹が死んで います。こういうものでは、もっと濃度が高くなっているのではないかと思います。こ の場合は、たかだか12.5%の死亡ですから、この程度で3,000倍という高濃度になるの ですから、75%が死亡するという実験の場合は、もっと高濃度になっている可能性があ るのです。是非ともたくさん死亡するところもやって、示していただければと思います。 これはメーカーさんの課題だと思います。 ○松本座長 三田村先生、何かコメントはありませんか。 ○三田村参考人 突然死についておっしゃいましたが、私どもも突然死が心臓だけに起 因するものとは限らないだろうと、かなり多彩な要因で起こっている可能性もあるので はないかと思っております。最初に示されたように、死亡例が5歳以下と20歳以上に 分かれているということは、それぞれでの死亡の原因はおそらく違うのではないかとも 思いますし、最初に水口さんもおっしゃったように、こういった検討に関しては症例を さらに詳細に調べていかないと、正確なところは分からないのではないかと思います。 ○浜代表 多彩と言われますと、例えばどのようなことをお考えなのですか。 ○三田村参考人 突然死を起こすメカニズムは、呼吸不全というか、脳症から来ること ももちろんあり得るでしょうし、想定できるものとしてはDICによる出血もそうでし ょうし、心筋炎を起こした結果としての不整脈といったこともあり得ると思います。ま た、ある程度高齢の方の場合ですと、そのときに急性冠症候群を発生した可能性もあり 得るだろうと考えています。 ○浜代表 おっしゃるとおりで、突然死と異常行動による事故死は、中枢抑制で結構だ と思います。もう一つのパターンは、心筋炎あるいは肺炎、肺炎から敗血症、DICも 含めた多臓器不全、出血、腎障害もありますし、そういう全体の臓器不全を起こすのは、 先ほどからずっと申し上げているように、活性体によるノイラミニダーゼ阻害という観 点から十分アプローチしていただきたいと思います。臨床試験段階で服用を終了したあ との肺炎が有意に高かったことと、もう一つは糖尿病です。シアリダーゼ3、Ν3は糖 尿病の発現にも関係していると言われていますし、発がんにも関係していると言われて おります。そう考えると、臓器障害をシアリダーゼの阻害によって起こし得るというこ とで、それは多臓器不全に結びつくパターンとして非常に重要な所見だろうと思います。  私が経験したことで、スモンの患者さんがタミフルを服用して、そのあとこれまでと 全然違う体のだるさが1カ月ぐらい続いたとおっしゃっていますので、それはむしろシ アリダーゼの阻害、ノイラミニダーゼの阻害のメカニズムから来ている可能性がかなり 高いということを、この実験をされましたウエイ教授らのグループにコメントを送って あります。そのようなことがありますので、是非ともその点も十分考慮いただいて、検 討いただきたいと思います。 ○三田村参考人 忘れてならないのは、タミフルを飲んだあとにこういう事象が起こっ たといっても、少ないかもしれませんが、インフルエンザそのものでも突然死の報告は ありますし、飲むことによってそれがより多いかということに関しては、まだはっきり としたエビデンスはないと思います。どちらにしても、剖検のデータをもっとしっかり と入手することは、私も大いに賛成です。これは、脳脊髄液だけでなく心筋炎の有無に 関しても、併せてデータを入手できればと希望しております。 ○浜代表 インフルエンザだけでも突然死はあるというお話ですが、4月20日の日本小 児科学会で私も発表しまして、座長からそういう質問を受けました。しかし、今までイ ンフルエンザだけでタミフル服用後の突然死のようなものはありますかと聞いたら、あ りますとお伺いできたのは、塩見さんが報告した1例です。  その報告は、全く薬剤を服用しないで突然死した方なのですが、あとで分かったこと で、その方は喘息があって、ずっとテオフィリンを服用していたのです。なので、40度 もの熱が出ればクリアランスが悪くなって、血中濃度が高くなってけいれんあるいは心 停止を起こすので、これは当然起こり得ることです。だから、インフルエンザそのもの 単独でこのような形の突然死は、まだそれ以外に聞いておりません。そういう例があり ましたら、是非とも紹介いただきたいと思います。 ○松本座長 ほかに御意見等ございませんか。相当時間が経ちましたが、浜さん、よろ しいですか。 ○浜代表 どうもありがとうございました。 ○松本座長 浜さん、どうもありがとうございました。  それでは、ここで5分ほど休憩いたします。     (休憩) ○松本座長 再開したいと思います。それでは次に、札幌市立大学の看護学部客員教授 の富樫さん、よろしくお願いします。 ○富樫教授 札幌市立大学の富樫です。(スライド有り)長い間インフルエンザ脳症につ いて研究してまいりましたので、その経験をもとに、私の思ったままについて意見を申 し上げさせていただきます。  私は平成6年(1994年)12月に、市立札幌病院で初の症例を経験いたしました。そし て、北海道内で発症したインフルエンザ脳症を、その後、10シーズンにわたって集計い たしました。  最初のスライドは、その第1例目で、前日まで全く正常に育った4歳の男の子が意識 障害を主訴として、私たちの市立札幌病院においでになったわけです。このお子さんは 平成6年12月28日午前3時30分に発熱と四肢の強直けいれんがあって、その日の朝 方、A小児科医院に受診して、熱性けいれんということで投薬を受けたわけです。  翌午前0時30分ごろ、40度の発熱とともに、四肢けいれんがあって、救急車に乗っ て、私たちの市立札幌病院救急部に到着したわけです。初めは意識がありましたが、だ んだんと意識が悪くなり、そのような経過でCT室に移動中に心停止し、最終的に発熱 から32時間の経過で死亡したわけです。  この当時、インフルエンザが流行り始めたということで、インフルエンザに関連した 病気と考えその後、北海道内の小児科の入院施設のある病院に同様な患者が発症するか を調べ続け、10シーズンになったわけです。  次にこのような水口病という壊死性脳症に特徴的な視床に左右対称のローデンシティ ーエリアが見られるというのが、この病気の特徴で、日本臨床に1997年、ペディアト リックス・インターナショナルに2000年に報告したわけです。  その後、結成された厚生科学研究費補助金、その後、厚労省の科学研究補助金、イン フルエンザ脳症研究班(森島班)に、私は平成16年まで所属しておりましたので、この間、 103例の症例を経験し報告したわけです。  臨床症状の特徴は、インフルエンザ発症、すなわち高熱から意識障害やけいれんまで の神経症状の発現が極めて早く、平均値が1.6±1.7日であり、転帰は死亡が34%、神 経的後遺症が19.4%、軽快が46.6%でした。男女比は1.3対1で、男に多く、発症年齢 は6歳未満の幼児に多発しております。  この図は発症年齢別、予後別、性別に脳症例を図示しました。男を四角、女を丸で表 し、黒く塗り詰めた所が死亡例、薄い所が後遺症例、白が全く軽快した症例でございま す。インフルエンザ脳症は、6歳未満の小学校に入る前の乳幼児に発症することが御覧 いただけると思います。  発症数は、小児のインフルエンザ発症と相関いたしまして、特にインフルエンザウイ ルスの亜型AH3N2香港風邪の流行時に最も多く見られました。なお、北海道は人口、 その他で全国の5%を占めますので、全国漏れなく同様に発症したとすると、全国で年 間平均200例の発症になります。  以上のインフルエンザ脳症とインフルエンザ罹患時の異常行動、前インフルエンザシ ーズンで問題視されている異常行動等の相違点を申し上げますと、前者、すなわちイン フルエンザ脳症は重症の意識障害、しばしば昏睡の長時間にわたる持続に対して、最近、 問題になっている、私自身は見たことがありませんが、新聞報道、その他で知り得る範 囲では、短時間で、しかも一過性の行動異常であるという点です。また前者、すなわち 脳症は意識障害が長時間持続、しばしば死亡に至る病気である。後者は転落死などの事 故死が主であって、病気そのものでの死亡を私は聞いていません。発症年齢が脳症は6 歳未満で、インフルエンザの異常行動は10歳代である。異常言動・行動については、 インフルエンザ脳症研究班の調べで、タミフル市販前に脳症に罹患した幼児の初期に幻 聴・幻視、異常行動・言動が見られたとの保護者の報告があります。   次に私の目に触れたインフルエンザ罹患時の異常行動、言動に関する医学論文が二つ あります。一つは、国療三重病院の五島論文、もう一つが枚方市民病院の原論文です。 1番目の五島論文によりますと、14名中、タミフル使用後8例、服用前6例に分けられ ています。2番目の枚方市民病院によりますと、18例中、タミフル服用後が10例、服 用前が8例の二つに分かれています。  なお、タミフル内服から異常言動までの間隔は、1番の論文によりますと、直後から 8時間の間にありますが、時間的な一定の傾向はありません。2番目によりますと、内 服からその行動までの間隔の具体的記載はありませんが、論文中の図から読み取ると、 一定の時間に集約しておりません。1では57.1%がタミフル内服後、42.9%がタミフル 内服前。2番目の論文では55.6%が内服後、44.4%が内服前となって、しかも間隔が一 定ではない。  以上の論文を詳読しますと、異常行動をタミフルの副作用とするには根拠が乏しいの ではないかという意見を申し上げます。  タミフル内服後、血中濃度が最高値に達する時間、Tmaxは4.3±0.8時間(13〜18 歳)で、薬剤の副作用とするならば、事象が内服から一定間隔に集約するはずではないか と思います。小児においてはインフルエンザに限らず、感染症罹患時は発熱を伴って出 現する、いわゆるせん妄を呈する症例にしばしば遭遇します。  平成19年3月の厚労省のタミフルの10歳代への使用を、原則差し控えるようにとの 警告によって、インフルエンザ罹患の10歳代には、原則的にタミフルが使用できない という状況になりました。私たち小児科の医者にとっては、タミフルが久しぶりによく 効く薬剤であると認識しており、科学的根拠に基づいた調査研究を行っていただき、早 急に10歳代も使用できる薬剤になっていただきたいと思います。以上です。 ○松本座長 ありがとうございました。ただ今の富樫先生の研究に対して、委員の先生 方は御意見等はございませんでしょうか。浦田先生、何かございませんか。 ○浦田参考人 今の御意見で、私は実は専門外のところで教えていただきたいと思いま す。先生は「タミフルは小児科医にとっては、久々によく効く薬だ」とおっしゃったと 思います。そういう臨床感覚のことですが、効くというのは死亡あるいは重症化、ある いは重症な合併症が少なくなったということでしょうか。それとも少し治るのが早くな ったという話でしょうか。そこを教えていただけると大変有難いのですが。 ○富樫教授 重症化を防ぐという実感ということで、私は有効だと意見を申し上げたつ もりはありません。私たち小児科の臨床として比較的穏やかにしか効かないという薬と、 切れ味が感覚的に良さそうだということがしばしば経験されます。この薬剤が重症化を 防ぐという科学的根拠をもって申し上げたわけではありません。 ○松本座長 ありがとうございました。宮坂先生、何かコメントございますでしょうか。 ほかにございますか。ないようですので、それでは、続きまして昭和大学医学部の二木 さん、よろしくお願いします。 ○二木教授 ただ今ご紹介いただきました昭和大学医学部臨床感染症学の二木でござい ます。本日はこのような機会を与えていただきましてありがとうございます。と申しま しても、本日、私は日本内科学会と日本感染症学会を代表して話をしてこいという命令 を受け、ここへ来るようにという御依頼を受けましたのが3日前でございます。ですか ら、十分にデータを揃えたり、文章を整える時間がなく、意が尽くせるプレゼンテーシ ョンができるかどうか疑問ですが、お話したいと思います。  もう一つは、私は感染症を専門にしておりますが、必ずしもこの領域についての専門 家ではありません。ですから、今日のお話は原則的には、私たち薬剤を処方する側の医 師として純粋な気持というか、疑問をまとめてお話したいと思っておりますので、よろ しくお願いいたします。お手元の資料に骨子をまとめておきましたので、読ませていた だきます。  今回の異常言動、あるいは突然死の問題については、まず私たち臨床医にとりまして は、そのタミフルとの因果関係がまだ科学的に明らかにされていないところがいちばん 問題であろうと思います。私は専門家ではありませんが、処方側の医師ということで考 えた場合には、仮に関連があるとしても、その発生機序がまだ不明であること、これは 先ほどから議論がありますが、インフルエンザそのものの症状あるいは合併症の脳症の 症状の一つとして類似の異常言動や急死が見られるのではないかということ、それから タミフル使用以前の報告とタミフル発売後の小児の転落や転倒の報告に差がないとする ような論文もございます。  それから解明のために、さらにさまざまな研究データの解析及びプロスペクティブな 検証試験などが実際の発現率を知る上で重要で、特にタミフル非服用者における同様の 症状、あるいは事象の発現率が知りたいというのが、私たちの純粋な気持です。もし因 果関係がないとされた場合に、インフルエンザ患者の診療や介護に、今までとは違った 注意が必要とされることになるのではないかと思っております。  また海外では、あまり類似の報告がないようですが、これがただ単に処方数の差から 出るものとしてよいのか、あるいは民族的な違いがあるのかということも知りたいとこ ろです。無論現在では、かと言って可能性が否定できるものではありませんので、した がって今回お出しになった緊急安全性情報での使用制限という処置は、事実関係が明確 になるまでの緊急回避的な処置として臨床医としても当然の対応と考え、支持できるも のだと思っております。  他方、今回の事象は医療現場におけるタミフルを処方する側の医師にとっては、大変 大きな混乱、困惑が起こっておりまして、因果関係を疑問視するような声も少なくあり ませんし、逆に自らの経験から、「もう二度とタミフルは処方しない」という声を聞くこ ともございます。そのようなものに含まれて、いわゆるルーモア、噂のレベルのもの、 例えば、他の併用薬が悪さをしているのではないかとか、ザナミビルは安心だから、ザ ナミビルを何とか手に入れなくてはなどという意見まで飛び交っているような現状です。  開業の一般の内科医は、成人のみならず、小児あるいは10代の若年者も診療の対象 にしておられますし、リスクベネフィットの判断にも現場で迷うことも少なくはないだ ろうと思っております。その判断をインフォームド・コンセントで患者側に投げかけて しまうわけにもいかないと思われます。  したがって、今までより当然処方が大幅に減少する傾向は既に臨床医の間には見られ ていますが、次のシーズンまでにより明確な指針などが示されていく必要があるのでは ないかと思います。すなわち、タミフルの積極的な処方が、インフルエンザの重篤な合 併症や死亡、いわゆる超過死亡をある程度抑えてきたことは事実だろうと思っています。 二次感染の拡大を抑制していただろうということも事実ではないかと思っています。  裏にいくつかの資料を示しましたが、その1番目は、日本臨床内科医会が毎年インフ ルエンザに関する非常に大きな臨床試験をやっておられ、そこでのデータが毎年発表さ れています。私はこれが日本でいちばん優れたインフルエンザの臨床研究だろうと思っ ています。そのデータの一つを見てみますと、確かに予防効果は疑問、などの話があり ましたが、タミフルを服用した場合に非常に速やかにウイルスが除去される。これは二 次感染を防止するという意味では効果があるのではないかと思っています。  2番目は菅谷先生のデータで、ちょうどワクチンの使用が控えられたときに超過死亡 が増えたというデータで、タミフルとは直接関係がありませんが、超過死亡というのが 適切なインフルエンザの予防と治療が行われなかったときに、次のデータを見ていただ きますと、多い年には4万人もの死亡者が出るということで、この多くは高齢者ではな いかと思います。同じデータを基にして、国立感染症研の大日先生がまとめられた論文 があって、予防接種あるいはタミフルの使用は非常に大きな医療経済的効果を生むので はないかということを、これは一つのシミュレーションですが、示しています。  そういうことで、タミフルが使われたことによって、得られる価値も決して無視でき るものではないと私たちは思っています。ですから、これを必要以上に抑制することは、 個人的な損失のみならず、社会的・医療経済的にも問題であると考えています。最も根 本的対策であるワクチンの接種率も最近高まってきてはおりますが、その効果は、ここ 数年少し問題があるのではないかと言われています。ですから、タミフルなどの治療薬 もそのような対策には必要な一つの武器ではないかと考えられております。  現状で次のシーズンに突入した場合に、当然タミフルの使用は若年者のみならず、成 人領域でも控えられると思っていますが、その場合、タミフルを適正に使用しなかった がためにインフルエンザもしくはその合併症で死亡する例が出てくる可能性は否定でき ないと思います。今度はそのような例での訴訟ということも生じかねませんし、またう っかりこれをきっかけにして、再び超過死亡が増えるとなると、これも問題だと思いま す。もちろん今の時点でこの点と今回の数例の不幸な出来事は別問題で、数千人がメリ ットを受けるから、ある程度の犠牲は仕方がないという考え方はしたくありませんので、 その点からも因果関係の解明を急いでいただきたいと思っています。  他方、我が国でタミフルの使用量は、世界でも群を抜いており、これは必要以上に安 易な使用が行われてきたということも否めないと思っています。同時に我が国の医療事 情や国民性なども、この使用状況の裏にはあるのだろうと思いますが、このような感染 症治療薬の頻用は当然対象微生物の薬剤耐性化あるいは副作用発現という問題が絡むこ とも事実です。  したがって、メリット、デメリットを考え、ただ単に使用制限をするのみならず、ど のような症例では積極的な使用が勧められるか。そのような場合はどのような注意が必 要かということを指針やガイドラインで公的に示していただきたい。急に原因がすべて 解明されるとは思っておりません。しかし、現時点、あるいは先である程度の答えが得 られた段階に応じて、臨床医に対して公的な立場から、使用の指針を示していただきた いというのが、本日、私が申し上げたい一番のポイントです。以上です。 ○松本座長 ありがとうございました。どなたか御意見、御質問等ございますでしょう か。特にございませんか。先生、どうもありがとうございました。  それでは、以上で本日予定しておりました意見陳述の聴取を終了したいと思います。 本日いただきました御意見は、今後の調査会における審議に当たりまして、適宜参考と させていただきます。本日御出席いただきました意見陳述人の皆様におかれましては、 お忙しい中、この調査会においでいただき、本当にありがとうございました。  それでは、議題2に移りたいと思います。議題2は、「リン酸オセルタミビルの基礎 的及び臨床的調査検討のためのワーキンググループにおける調査検討の状況について」 に関して、これまでのワーキンググループの開催状況など、まず事務局から説明をお願 いします。 ○事務局 開催状況ですが、資料2-1、資料2-2です。資料2-1の「記」の上に書かれ ておりますように、基礎WGについては、本年5月2日及び5月30日と2回開催をし ております。一方、臨床WGについては、資料2-2の「記」の上に記載がありますよう に、本年5月14日と6月4日の計2回開催しております。以上です。 ○松本座長 ありがとうございました。本日は基礎WG及び臨床WGの座長の大野先生、 ならびに鴨下先生に御出席いただいております。各ワーキンググループの座長より、現 在の検討状況について御報告をいただければと思っております。まず大野先生よろしく お願いします。 ○大野参考人 それでは、基礎のWGの検討状況について御説明させていただきます。 基礎のWGでは、臨床で現れた中枢性の副作用と、突然死のメカニズムを探るために、 どのような検討が必要かを中心に検討いたしました。資料2-1の2枚目に検討してくだ さったグループの先生方の名前が挙げてあります。検討の結果、いろいろなことが指摘 されました。一番大きなところは、血液脳関門を通るか通らないかというところで、通 るならどういう状況で通るかを調べることが大事だろう。それを明らかにするために通 常の成熟動物では入りませんので、それが病気のときに入るとすると、また、血液脳関 門に何らかの異常が起きたときというのなら、通常どのように血液脳関門がタミフル排 除に機能しているのかを調べるために、その機能にその大きな役割を果たしているトラ ンスポーターの関与について、どういうトランスポーターで入っていくのかを明らかに する。それを明らかにすれば薬物相互作用の可能性や、病的な状態のときにどういう影 響を受けるのかということにも検討が進むのではないかと考えているところです。  一方、オセルタミビルを摂取したときに、血中に必ずしも活性化体だけではなく、未 変化体も現れています。未変化体が脳に一部行っています。それは動物実験で調べられ ています。脳に行ったときに、それが脳の中のエステラーゼで切れて、活性化体になっ たときに、そこで水に溶けにくいものになってしまう。そうすると、脳から出てきにく くなる可能性もあるのではないかということで、脳内のカルボキシエステラーゼが、も しタミフルのエステル結合を切るような作用もあるか否か、それも検討しておいたほう がいいのではないかと考えています。  体温の低下、嘔吐などの作用が出ているので、脳の中の特殊な部位における作用によ って出ているのかもしれないということで、脳の中のどんな所に分布しているのかも調 べる必要があるのではないかと考えております。  それから、脳に入ったときに、いろいろな症状が起きる可能性があるわけですが、臨 床的に起きている作用と薬理作用との関係を調べるという意味で、脳の中にあるいろい ろな受容体への親和性を調べることがまず必要だろう。それを調べて、どのぐらいの濃 度で受容体に結合するかを調べておけば、脳内の分布と比較することで、その可能性に ついて、かなり議論できるのではないかということで、それが必要であろうと考えてい ます。  幼若動物では、ラットなどでも7日齢ぐらいだと血液脳関門は十分発達していないと いうことで、脳に多く分布することが示されています。その動物でさらにオセルタミビ ルの作用をみるための動物実験を追加して、より詳しく症状を調べて、臨床で現れた症 状と比較して、オセルタミビルの作用であるかどうかを考察する必要があるのではない かということを考えています。今までの動物実験だと、幼若ラットは7日齢というとこ ろで十分に症状を観察できたのかどうかという疑問がありますので、観察項目を十分検 討した上で、適切な方法で症状を調べることを前提に幼若動物の実験をする必要がある と考えています。当然この場合も被験オセルタミビルと、活性化体も含めてやる必要が あるかと考えています。  幼若動物で実験しても本当に臨床に対応した症状を観察できるのかどうかという疑問 もありますので、脳内に行く被験物質と、代謝物と言われている活性化体の両方を直接 投与して、行動に対する影響をきちんと調べる必要があるだろうということを考えてい ます。ただ、そのときには実験条件をきちんと調べてやらないといけません。脳内に単 に水を投与したとか、生理的食塩水を投与したというだけでも症状が出てきてしまう可 能性がありますので、十分実験条件を検討した上で、それを脳内に直接投与して、現れ る症状を観察し、副作用と思われているものと比較して、副作用機序について考察する ことが必要だと考えています。  突然死との関係では、循環器系の影響に関して議論をいろいろいたしました。これは 中外製薬の方々とも議論をしたのですが、非常にたくさんのヒトでの臨床試験結果で、 その可能性は低いのではないかというお話で、かなり納得できるところがありました。 ただICHでQT延長に対する影響を調べる現在での考え方と、タミフルが許可になっ たときの考え方と若干違っているところがあって、現在のレベルで考えると、資料2-1 の5に書いてあるような、モルモットの乳頭筋の活動電位を用いた検討とか、HEK-293 細胞に発現したHERGチャネルに対する影響などを検討しておくということが必要で はないかと考えています。カリウムチャネルに対する影響だけでなく、それ以外のチャ ネルに対する作用によることも考えられます。それらも含めて、この試験をやれば検討 できるのではないかと考えているところです。  まず始めに、短期的にやるべきことはどういうことかということを中心に検討して、 それについて中外製薬とロシュの方に提示して、合意したところについて、先ほど中外 製薬から御説明があったわけですが、4番と5番については短期的な試験として早期に やるべき事項として合意できなかったところです。ただ、基礎WGでは、4番と5番を なるべく早くやっていただきたいと考えています。 ○松本座長 ありがとうございました。引き続きまして鴨下先生よろしくお願いします。 ○鴨下参考人 臨床WGについては、資料2-2に概要をまとめてあります。先ほど話が ありましたように、2回会議を開いておりまして、WGの委員の名簿は3ページに書か れています。  大きく二つの問題を取り上げました。一つは、タミフルの服用と「異常な行動」との 関係について、もう一つはタミフルの服用と「突然死」との関係についてです。まず異 常な行動との関係について、その詳細な調査検討を行う。症状、経過等が睡眠障害に類 似しているものがあることから詳細な調査検討を行うため、企業に対し、以下の点につ いて追加調査を実施し、その結果を報告するように指示いたしました。  4点あり、異常な行動が就寝中又は覚醒直後に発現したかどうか、異常な行動の回復 に要した時間はどうか、異常な行動に関する記憶の有無はどうか、睡眠障害の既応歴・ 家族歴の有無等です。  もう一つ、今後の臨床研究の計画等についての検討をして、タミフルの服用が睡眠に 及ぼす影響を検討するために、企業に対し、「タミフルの健康成人男子を対象とした睡眠 に関する製造販売後臨床試験」(いわゆる睡眠検査室試験)は、裏の2ページ目にその詳 細が書いてあります。これを行って、その結果を報告していただくことにしました。  第2の突然死との関係ですが、突然死という副作用についての詳細な調査検討をする ということで、以下の点について追加調査をして、その結果を報告していただく。まず 突然死の心電図、剖検をされている例についてはその結果、家族的な負荷ということが 一番問題になりますので、心疾患の既往歴・家族歴の有無等。  二つ目としては、今後の臨床研究の計画等についての検討ですが、タミフルの服用が 心機能に及ぼす影響を検討するために、1の異常な行動について行う睡眠検査室試験に 心電図検査を含めるよう指示することにいたしました。以上です。 ○松本座長 ありがとうございました。両ワーキンググループからの御報告をしていた だきましたが、何か御意見、御質問等ございませんでしょうか。今日はいろいろな御意 見を意見陳述人の方からお聞きしたわけですから、これを入れて、いろいろと検討して いただければと思います。全体を通じて何か御意見等はございませんでしょうか。精神・ 神経的なところから何か御意見ございませんか。小児科でも特に御意見ございませんか。  ありがとうございました、それでは基礎的及び臨床的調査検討のためのWGにおきま しては、今日の貴重な御意見を参考にされまして、引き続き検討を進めていただければ と思います。よろしくお願いいたします。  それでは、議題3の「その他」ですが、事務局から何かありますか。 ○事務局 それでは、「その他」ですが、資料3について説明させていただきたいと思 います。資料3「タミフルの副作用報告の精査について(その3)」です。前回4月4日に 開催いたしました安全対策調査会の時点において3月20日までに報告された1,079人 分の副作用報告症例について精査した結果を、本調査会に御報告させていただいたわけ ですが、本日は(その3)ということです。なぜ(その3)となっているかといいますと、4 月25日に中間的に4月17日までの報告について記者発表したということがあって、そ の時点を(その2)としており、今日(その3)として、5月31日までに報告されたものを精 査した結果として本日御報告させていただきます。  前回は1,079人分だったわけですが、本日それにさらに298症例分が上乗せになり、 1,377人の症例について精査した結果です。前回と同様、異常な行動が記録されている 症例、あるいは異常な行動以外の精神神経症状の症例などの件数、あるいは突然死を含 む死亡症例の件数についてまとめたものが資料3です。  2ページ目に全体の中に占める精神神経症状あるいは異常な行動、死亡あるいは突然 死の集合図が示されております。先ほど申し上げましたように5月31日までで1,377 症例ということで、そのうち精神神経症状として報告された事例は567症例となります。 また、精神神経症状以外の症例も含めて内容を精査した結果、そのうち異常な行動が記 録されている事例をピックアップしたところ、211症例となっております。前回の時点 の4月4日(3月20日分まで)のまとめで128でしたが、その後、83症例分増えており、 211症例となっています。  一方、死亡例については71人で、前回が3月20日までで55人でしたので、16増と いうことです。うち突然死という言葉で報告されているものが12人で、前回の3月20 日までで9人でしたので、3増となります。  その下に記載されている異常な行動が記録されている事例が211という数になったわ けですが、そのうちの死亡症例は8人で、ここの数字は前回の4月4日の調査会で報告 した3月20日までの数字と変化はありません。  異常な行動が記録されている事例を年代別に整理したのがその下の表です。10歳未満 が59症例で28.0%、10〜19歳(いわゆる10歳代)が53.1%という数字になっています。  3ページです。タミフルとの関連を報告された死亡事例は、前回の55から16増えて 71です。そのうち異常な行動が記録されている事例は8人で、前回と数字は変わってい ません。突然死という言葉で報告されたものが12で、これも前回3月20日分まででは 9でしたが、3増えています。  中外製薬から副作用報告されていない死亡事例の6という数字は、前回と変わってお らず、下に書かれているような理由になっています。71例の死亡事例については、年代 別の内訳を表にしたものがその下にあります。これは御覧いただいたとおりです。  参考ですが、5月31日時点の死亡事例については、4月17日時点での数字を(その2) という段階で、調査会ではなく、記者発表という形で公表していますが、その時点で70 でしたが、その後の追加情報により因果関係が否定された1例を引いて、その後4月18 日から5月31日までの間に2例報告がありましたので、71という数字になっています。  基本的には異常な行動の中に含まれる数字になりますが、5月31日時点の転落・飛び 降り事例については、4月17日の時点で10歳代22人、その他の年代が4人だったの ですが、その後、中外製薬から報告された20歳代の1例の報告がありました。これは 平成16年に発現した事例で、その1例を加えた数字になりますので、10歳代は22人 で変化はありませんが、その他の年代で1人増えて5人ということです。死亡事例につ いての変化はありません。資料3については以上です。  続きまして資料3-1です。先ほど申し上げましたように、4月25日の時点で、4月4 日の調査会で3月20日分までを精査して報告しましたが、4月25日に(その2)という ことで記者発表しており、その際の資料が資料3-1の「異常な行動が記録されている事 例(その2)」ということで、3月21日から4月17日までに報告のあったものです。こ れが1/9から9/9まで、左下にページ数が書かれていますが、9ページ目まで行き、3月 21日から4月17日までの異常な行動の報告は59ということになります。  10ページ目ですが、その59症例について、インフルエンザウイルスの感染の状況に ついて整理した表が付いています。  11ページ目からは(その3)で、4月18日から5月31日までの異常な行動の報告が11 ページ目からずっと表になっており、1/6から6/6までで、11〜16ページで、26の症例 の異常な行動の報告の概要があります。17ページに26症例についてのインフルエンザ 感染の状況を整理した表が付いています。  18ページからは異常な行動ではない精神神経症状の事例で、これも(その2)と(その3) がありますが、18ページからは(その2)で、3月21日から4月17日までに報告があっ たものです。1/10から10/10まであり、通しページでは18〜27ページまでが異常な行 動以外の精神神経症状事例で、合計86症例の経過概要が記載されています。  28ページからは(その3)の異常な行動以外の精神神経症状事例で4月18日から5月 31日までに報告があったもので、これも1/10から10/10まで、通しページでは28〜37 ページの、合計61症例の経過概要が記載されています。  38ページです。これも(その2)(その3)となっていますが、死亡症例です。3月21日 から4月17日までに報告があったものが(その2)と整理されており、1/3から3/3、通し ページでは38〜40ページの合計16死亡症例の概要があります。  41ページですが、4月18日から5月31日までに報告があった死亡症例は、ここに記 載のある2例です。以上がタミフル服用後の異常な行動、あるいは精神神経症状、ある いは死亡事例の、前回以降、5月31日までに報告があったものの概要です。  以上のものの、さらに詳しい情報は資料3-2の分厚い冊子にあります。先ほど臨床W Gの鴨下先生からも御報告がありましたが、さらに企業に追加の調査をお願いしており ます。そういった追加調査の結果と併せて、さらに詳細な調査検討を行っていただくこ ととしております。  続きまして資料4の関係です。まず資料4-1です。前回の4月4日の調査会において もタミフル非使用例等の異常な行動について事例の紹介をしたわけですが、その後も医 療機関から直接厚生労働省にタミフルを使用していない場合での異常な行動の報告が寄 せられておりますので、それを整理したものが資料4-1です。4月3日から4月17日ま でに入手できたものが1/2から2/2までで合計11症例です。3ページが4月18日から 5月31日までに入手できたもので、5症例あります。3ページと4ページは同じもので すので重複です。  資料4-2ですが、タミフル以外の抗インフルエンザ薬として塩酸アマンタジンとザナ ミビル水和物がありますが、資料4-2が塩酸アマンタジンについての資料、資料4-3が ザナミビル水和物についての資料です。  まず資料4-2の塩酸アマンタジンですが、塩酸アマンタジンはもともとインフルエン ザの効能は有しておりませんが、平成10年11月にインフルエンザの効能が追加されて いますので、それ以降、本年5月31日までに報告があったものを整理しています。要 するにタミフルではない他の抗インフルエンザ薬での異常な行動の事例ということで整 理をしております。  まず異常な行動については、1〜2ページにある合計7症例です。3ページにその7症 例についてのインフルエンザの感染の状況を整理した表が付いています。4ページから は異常な行動以外の精神神経症状の事例ですが、4ページから最後の13ページまであり、 合計61症例あります。  資料4-3がザナミビル水和物です。販売が開始されたのが平成12年12月からで、そ れ以降、本年5月31日までに報告があったものを整理しています。異常な行動につい ては1〜2ページにかけての合計10例です。その10例についてのインフルエンザの感 染の状況が3ページにまとめられています。4〜9ページが異常な行動以外の精神神経症 状事例で、合計30例の報告の概要を記載しています。  なお、4月4日以降、報告数が増えていますが、意見陳述をされた方からも話があり、 報道等を受けて、かなり報告されるようになっております。実際の発生時期については、 4月4日以降に発現しているわけではなく、昨年や、もっと前のものも含めて、本年度 に入ってから、新たに報告されているものがあるという点を申し添えておきたいと思い ますので、よろしくお願いします。資料3、資料4については以上です。 ○松本座長 ありがとうございました。ただ今の事務局からの報告につきまして、何か 御意見、御質問等ございませんでしょうか。 ○猪熊参考人 専門家がおられるのにピントがボケているかもしれないという不安があ りますが、二つ申し上げたいことがあります。一つは「異常な行動」という言葉でひと まとめにされていますが、異常な行動の中をもう少し分類する必要がないかなと思いま す。例えば、「意識障害」「脅迫」「興奮」「幻覚」などという言葉も出てきているかと思 います。  もう一つは、臨床WGの検討課題ですが、異常な行動の回復に要した時間がリストさ れています。先ほどの研究報告の中で、Tのmaxの話も出たと思いますが、タミフル を内服してから発症するまでの時間を対象にする必要はないだろうかと思いました。 ○松本座長 鴨下先生、臨床WGで何かありますでしょうか。 ○鴨下参考人 今の御指摘は、確かに思うところがあって、異常な行動の定義はもう少 しはっきりさせる必要があると言えると思います。ただ、それについても詳細検討の中 から、いろいろ浮かび上がってくる点があると思います。  第2点目のタミフルを服用してからの時間も当然調査対象に入っておりますので、そ れと併せて今まであまり言われていないのは、異常な行動がどのぐらい続いたか、元に 戻るのにどのぐらい時間がかかったかという点を、特に注目してここに挙げているわけ です。 ○松本座長 ほかにございませんでしょうか。ありがとうございました。それでは、鴨 下先生、臨床WGで詳細な検討をよろしくお願いいたします。そのほか何かありますか。 ○事務局 本日の議題は以上でございます。それ以外に事務局から特段報告事項はござ いません。次回の調査会日程については、後日、改めて日程調整をさせていただき、御 連絡を申し上げたいと思います。 ○松本座長 本日の議題は全部終了しましたが、全体を通じて御発言ございますでしょ うか。ないようでしたら、本日はこれで閉会とさせていただきます。どうも長い間あり がとうございました。 照会先:厚生労働省医薬食品局安全対策課 電 話:03−5253−1111