07/06/12 「中国残留邦人への支援に関する有識者会議」第5回議事録 日  時:平成19年6月12日(火)16:00〜18:00 場  所:厚生労働省「共用第8会議室」 出席委員:貝塚座長、猪口座長代理、金平委員、岸委員、堀田委員、森田委員、      山崎委員 (議事録) ○貝塚座長 それでは、猪口座長代理は多少遅れられると聞いておりますが、第5回の 中国残留邦人への支援に関する有識者会議を始めたいと思います。  それでは、議事に入りたいと思います。本日は、前回の論点整理を踏まえ、事前に各 委員から伺った御意見を基に、お手元の報告書(案)をつくりました。これを基に、最 終的な取りまとめを行いたいと思います。  初めに、事務局の方から報告書(案)を朗読いただきまして、その後で皆様方の御意 見を伺いたいと思います。それでは、事務局から朗読をお願いいたします。 ○野島援護企画課長 それでは、お手元にございます資料、「中国残留邦人に対する支援 の在り方について(案)」でございますが、朗読させていただきます。          中国残留邦人に対する支援の在り方について(案)                               平成19年6月12日            中国残留邦人への支援に関する有識者会議 先の大戦の終結に伴い、海外にいた約630万人の在外邦人は、本邦への引揚げを余儀 なくされたが、そのほとんどは昭和20年代前半までに引揚げを終えた。  これに対し、旧満州地域(中国東北地区)に開拓団などで居住していた者は、昭和2 0年8月のソ連軍の対日参戦により、多くの者が家族と死別し、あるいは離別するなど して中国にとどまることを余儀なくされ、戦後も中国との国交正常化までに長期間を要 したことに加えて、その後の引揚げも必ずしも順調ではなく、帰国の時期が大幅に遅れ た人が多く、このため、これらの人々は、帰国前のみならず、帰国後も、他の引揚者と は比較できない多くの困難を経験することとなった。これが、中国残留邦人の問題であ る。  内閣総理大臣からの「法律問題や裁判の結果は別として、中国残留邦人への支援の在 り方について、その置かれている特殊な事情を考慮して、与党ともよく相談しながら、 誠意を持って対応するように」との指示を受け、厚生労働大臣から、当会議に対し、検 討の要請があった。  当会議は、これを受けて、平成19年5月17日以来5回にわたり、中国残留邦人が 「日本に帰ってよかった」と思えるように、また、「日本人として尊厳を持てる生活」を 確保するという観点から、検討を重ね、中国残留邦人に対する支援の在り方について、 以下のとおり取りまとめた。 当会議としては、国民の皆様に、先に述べた中国残留邦人問題が生じた経緯と、その後 遭遇した困難な状況を十分理解し、中国残留邦人が尊厳を持って我が国社会で暮らして いけるよう、支援していくことが何よりも重要であることを強く訴えたい。 また、国に対しては、国民の理解を深めるために率先して努力するとともに、本提言を 踏まえ、具体的な支援策を早急に策定することを強く求めたい。 1 中国残留邦人問題についての基本的考え方 ○ 中国残留邦人は、長期にわたって帰国がかなわず、帰国後も生活が困難な状況にあ り、現在は高齢に達している。このような中国残留邦人の現状をみるとき、中国残留 邦人が老後の生活の安定を求めていることは、十分理解できる。 ○ 中国残留邦人に対して何らかの新たな生活の支援が早急に必要であると考えるが、 その支援は、どのような考え方に基づいて行われるべきものであろうか。 ○ 中国残留邦人は、自己の責任によらない事情により帰国後も困難を抱えている。し かしながら、戦争被害への補償という観点で考えた場合、他の様々な戦争被害者との 均衡の問題が生じるので、別の観点から検討すべきである。 ○ 改めて中国残留邦人の状況について考察すると、中国残留邦人は、 (1) 一般の引揚げより帰国が遅れ、長期にわたって中国に残留を余儀なくされたため、 日本人としての義務教育を受けるチャンスがないまま、帰国後の生活を始めざるを 得なかった。そのこともあって、多くの人が今日においても日本語が不自由な状態 にある、 (2) 帰国が遅れたために、他の引揚者と異なり、戦後日本が体験した高度経済成長の 恩恵を享受することができず、老後の生活への備えができないまま、現在既に高齢 に達している  ところに、その状況の特別性があるのではないかと考える。 ○ 中国残留邦人への支援については、これまで様々な対策が行われてきたところであ るが、結果からみると、これまでの対策は十分ではなかったと言わざるを得ない。そ の理由は、中国残留邦人が置かれてきた特別な事情に的確に対応してこなかったこと にあろう。国においては、その反省に立って、今後の中国残留邦人への支援に当たる 必要があると考える。 ○ したがって、今後は、中国残留邦人が置かれてきた特別な事情に由来する不利な状 況について、埋め合わせを行い、いわば原状を回復するという観点から、新たな支援 策を講ずるべきであり、そのことについては、十分国民の納得が得られるのではない かと考える。 ○ 一方、中国残留邦人が望む「老後の生活の安定」については、国民も同様に自らの 老後の生活の安定を望み、国民それぞれがそれに向けて努力をしているところであり、 中国残留邦人への支援を行うに当たっては、一般国民が享受している様々な給付とそ のために自ら必要な負担をしていることについて留意し、施策の均衡に十分配慮する ことも必要である。 2 中国残留邦人への支援の方法 (公的年金制度における支援) ○ 中国残留邦人の老後の生活の安定のためどのような支援ができるかを考える場合、 我が国においては公的年金制度が老後の所得保障の基本であることからすれば、まず 公的年金制度の活用が中国残留邦人に対してどのような役割を果たせるのかが検討さ れるべきである。 ○ 中国残留邦人については、現在、帰国前の公的年金制度に加入できなかった期間に ついては満額の3分の1の老齢基礎年金(国庫負担相当分)を保障する等の特例措置 が行われている。中国残留邦人の帰国前の公的年金制度に加入できなかった期間の平 均は、25年間となっており、この期間について残る「3分の2の部分」の老齢基礎 年金を得るためには、この期間について保険料を追納しなければならず、さらに40 年分に相当する満額の老齢基礎年金を得るためには、帰国後の期間についても保険料 を納付する必要がある。しかし、中国残留邦人は、日本語が不自由であることなどに より帰国後も十分就労できない状況にあったことから、帰国前の期間の保険料を追納 できないばかりか、帰国後の期間についても保険料を十分納めることができなかった ため、その年金額は十分なものとは言い難い水準である。 ○ したがって、公的年金制度を中国残留邦人に対して機能させるため、 (1) 過去の期間についての保険料の追納を特例的に認め、追納を認める期間は、中国 残留邦人の帰国前の公的年金制度に加入できなかった期間だけでなく、帰国後の期 間も含めることとし、 (2) このような保険料の追納のためには、満額の老齢基礎年金を受給するために必要 な、最大で過去40年分の保険料すべての負担が必要になるが、中国残留邦人の多 くは追納保険料を負担することができないと考えられるため、必要な額は国におい て負担することとすれば、満額の老齢基礎年金を実現することができるものであり、 それが有効な方法と考えられる。 ○ この特例措置の対象者については、帰国時期が遅れたこと、我が国の高度経済成長 の時期や公的年金制度の開始時期を考慮し、昭和36年の国民年金制度発足時以後に 帰国した者を対象とすることが考えられる。なお、特例措置の実施に当たっては、既 に保険料を自ら拠出した者の取扱いをどうするかについて、検討が必要である。 ○ このような老齢基礎年金についての特例措置は、帰国後の期間についても国が保険 料を負担するという点で、北朝鮮拉致被害者やその他に対して行われている老齢基礎 年金についての特例措置よりも手厚い措置であるが、全国民共通の給付である老齢基 礎年金の仕組みを最大限活用して行うものであるという点で、一般国民との均衡上許 される最大限の措置と言えよう。  (公的年金制度による対応を補完する生活支援) ○ 一般国民は、自らの老後の生活への備えや老後の生活の基礎的な部分に対応する給 付である老齢基礎年金などによって、老後の生活を送ることが想定されているが、そ れでもなお生活に困窮する場合には、生活保護制度がセーフティーネットとして機能 することとなっている。 ○ 中国残留邦人についても、これまでその年金額が十分ではないことや、老後の生活 への備えができなかったことから、かなりの中国残留邦人が生活保護制度の適用を受 けているのが現状である。今般、中国残留邦人について老齢基礎年金を満額支給する 措置を講ずることとしても、老後の生活の安定に十分ではない場合が出てくることが 想定される。 ○ したがって、老齢基礎年金が満額支給されても老後の生活の安定に十分ではない場 合には、何らかの仕組みによって補完すべきであると考える。その際、一般に多くの 国民が、老後の生活保障の中核である老齢基礎年金に加え、現役時代に形成した資産 の活用や、被用者だった者は厚生年金を受給していることも考慮すべきであろう。 ○ 中国残留邦人の生活実態をみると、衣食等の生活費に加え、住居費や医療費、介護 費用なども必要となっているが、それらを賄う一定額の給付金とするには、相当程度 高額の給付金を支給することが必要となると考えられる。他方、一般国民については、 公的年金制度以外には生活保護制度しかなく、25年以上保険料を拠出した上で受給 できる公的年金の水準などを考慮すれば、中国残留邦人であるからとして一律に相当 程度の高い水準の給付金制度を創設することは、著しく均衡を欠くこととなると考え る。 ○ このため、新たな仕組みは、我が国の社会保障制度における普遍的かつ基本的な制 度として位置付けられている生活保護制度に準拠・活用しつつ、できる限り中国残留 邦人が置かれてきた特別な事情に配慮したものとすることが必要である。 ○ 生活保護制度においては、補足性の原理により収入認定があり、一般国民の場合、 公的年金を受給していれば、全額が収入認定され、保護基準の額からその公的年金の 受給額を控除した額が保護費として支給されている。中国残留邦人に満額支給するこ ととされる老齢基礎年金についてこのルールを適用すれば、全額が収入認定されるこ ととなるが、今回、老齢基礎年金を満額支給する特例措置を講ずることとしたことを 考慮すれば、この収入認定の仕方について一定の配慮をする必要がある。 ○ 加えて、中国残留邦人が日本語が不自由であるなどの特別な事情があり、これに配 慮した制度運用が強く求められていることからすれば、この際、 (1) 公的年金制度による対応を補完する生活支援の仕組みとしては、生活保護制度と は別途の給付金制度とし、 (2) その給付金については、満額支給される老齢基礎年金と合わせ、受給者の実質的 な収入の増加につながるよう、必要な措置をとるとともに、 (3) 制度の運用や実施体制において、極力制約があると感じられることがないような 配慮をしていくこと  が必要ではないか。 ○ このようにすれば、老齢基礎年金とこれを補完する新たな給付金制度とを的確に組 み合わせて生活を支援することが可能となり、その上で更に家賃、医療費、介護費用 などの支援を必要とする場合には、その個別のニーズに応じて、住宅扶助、医療扶助、 介護扶助などに相当する給付を行うことができる仕組みとすれば、中国残留邦人の老 後の生活の安定が図られ、かつ、一般国民への施策との均衡も図られるものとなると 考えられる。 3 地域社会への受入れのためになすべきこと  (国民の理解と協力) ○ 中国残留邦人問題の解決に当たっては、冒頭にも述べたように、この問題への国民 の理解と協力が不可欠であるが、中国残留邦人が帰国までの間に経験した労苦や、帰 国後祖国に定着するために直面した困難について、国民は必ずしも理解と共感を持ち、 地域社会に温かく迎え入れているとは限らない。 ○ このことが、中国残留邦人の心を傷つけ、この問題を更に深刻なものとしている。 当会議としては、国民一人一人が中国残留邦人について関心を持ち、理解に努めると ともに、地域社会においては、中国残留邦人のよき隣人として、また、同じ地域に暮 らす住民として、中国残留邦人に対し、祖国に帰ってきてよかったと思えるように温 かく接することを望みたい。また、地域社会における様々な活動の担い手であるNP O、ボランティアによる、中国残留邦人への理解や支援に期待したい。 ○ 行政においても、改めて中国残留邦人問題への国民の理解と協力を得るための努力 を率先して行うべきである。また、そのための取組は、国民の理解と協力が今後も継 続的に得られるよう、中国残留邦人の声に耳を傾けながら、継続して行われるべきで ある。  (地域社会における支援) ○ 中国残留邦人の生活の実態は様々であり、また、中国残留邦人は全国約800の市 区町村に分散して生活し、地域性も一律ではなく、中国残留邦人がそれぞれの地域の 中で個々に抱えている事情は異なるが、言葉の問題から自分の意図がうまく伝わらな いなどの「孤独感」が共通する大きな問題であり、中国残留邦人が地域社会で疎外さ れないようにしていくことが必要である。また、中国残留邦人の地域社会での生活を 考える場合、本人のみならず、配偶者や子、孫などの同居家族の問題も併せて考える 必要がある。 ○ 中国残留邦人に対する支援として求められる事項として、日本語の習得、二世・三 世の就労支援、住宅対策などがあるが、これらの課題は、中国残留邦人ができる限り その地域社会で生活しながら解決していくことが必要である。 ○ このため、今後は、中国残留邦人が地域社会に参加し、他のさまざまな地域住民と 交流しながら、地域社会の一員として普通の暮らしを送ることができるようにするこ とを施策の基本とすべきである。また、NPO、ボランティアなどに、このために必 要な協力を求めるべきである。 ○ 一方で、中国残留邦人が既に高齢化していることを踏まえると、中国残留邦人が集 い、中国残留邦人同士が交流する中で安らぎを得ていくという、多文化共生の観点か らの方策も含め、幅広く対応を考えていくことも必要である。 ○ さらに、中国残留邦人を単に支援の対象としてのみ捉えるのではなく、例えば、中 国語の能力を社会において活かすなど、中国残留邦人が持つ能力を発揮する機会をつ くることも必要である。 ○ 以上にみてきたように、これからの取組は、地域福祉の視点を基本に据え、中国残 留邦人の様々なニーズを十分に踏まえながら、より柔軟に、かつ、きめ細かく対応し ていくことが求められる。 ○ また、これらの取組は、一過性のものとせず、中国残留邦人を終身見守るという覚 悟をもって行い、中国残留邦人の痛みを理解しながら、同胞として対応していくこと が必要である。  以上でございます。 ○貝塚座長 この最終的な案は、前にも申し上げましたが、一応論点整理を事務局であ る程度やっていただいて、それから各メンバーの方々に感想あるいはコメントをいただ いて、それをできる限り具体化してこの最終的な取りまとめをつくったということのよ うでございます。したがいまして、この取りまとめ案でよろしいかどうかということを 最終的にこのメンバーの方にお伺いしたいと思いますが、このような取りまとめ案でよ ろしゅうございますか。               (「異議なし」と声あり) ○貝塚座長 それでは、賛同されてほっとしたというか、相当さくそうした問題である ことは間違いないのですが、かなり多角的にいろいろな面から皆様の御意見を反映させ ていただきましてこの案を最終案として取りまとめることができました。そういうわけ で、一応この案をお認めいただいたということで、あるいは多少極めて技術的な細かい 字句については私にお任せいただきたいということでございます。  それで、今日は最終的な取りまとめということで、ここでこの案をお認めいただいた わけですが、最終的に案をお認めいただいた後になって恐縮ですが、皆様の率直な御感 想をお聞かせいただければありがたい。これは、報告書(案)をお認めいただいたとい うことを前提にして、それなりに皆さんいろいろ感想をお持ちであろうと思いますので、 率直な感想を述べていただければありがたいと思います。それは、今後この支援を実際 に移していくときに行政当局あるいは政府与党の方々にもある程度追加的なメッセージ として皆様の御感想を伝えるのがいいのではないかと思いますので、どなたからでも御 自由に御感想をお願いいたします。  それでは、金平委員どうぞ。 ○金平委員 本当にこんなに大きな深い問題を討議するのには大変短い時間だったと思 います。しかも、急なことでございましたので、私自身もどうしても日程の調節がつか ないことがありまして、全部出席もできないという状況の中でございました。  しかし、これに関わらせていただいて本当にこの問題の大きさ、深さを改めて考えま した。  私は、中国残留邦人問題が生じたその経緯、それからまた遭遇なさったいろいろな困 難な状況というものが決してこの何回かの会合でわかったなどということはとても言え ないと私自身は思いますが、お3人の残留邦人の方からの聞き取りとか、それから研究 者の方のお話などを聞き、またいろいろな形でお寄せいただきました資料を拝見しなが ら私なりに自分の考え方をまとめたような気がいたします。  今、座長から報告書を出して感想を一言、言えと言われましたので、私が気になって いることを1つだけ申し上げます。報告書の中にも「一般国民」という言葉がいっぱい ございます。一般国民と残留邦人というふうな言葉遣いでいろいろな整理がなされまし た。これを何回も読みながら、こういうふうに一般国民との対峙でこの問題を考えなく ちゃならなかったということが日本の現状だということを考えざるを得なかったのです。 そして、このことをこの問題を知るに及んで大変残念に思っています。  私は、この報告書が出され、またこれから我々の政策がとられると思います。今後は、 戦争とかその後に起こったいろいろな苦しい経験をなさった、特異な経験をなさった、 しかも中国の文化の中で育った日本人ということで、私はあくまでも対峙という構図の 中に中国残留邦人を今後は置きたくない。私たちの国がこれからはこういう特異な経験 をなさった、苦労をなさった方たちも一般の国民としてお互いに一緒に生きていくとい うふうなことを、これを機会として今後私たちが考えるきっかけになればいいというこ とを感想として持ちました。1つだけということでしたので、まずそれを申し上げます。 ○貝塚座長 ありがとうございました。  岸委員、お願いします。 ○岸委員 せっかくの機会ですので、取りまとめに当たって私は3点ほど述べておきた いと思います。  実は、この有識者会議が設置されて私が委員になるということが公表されて以降、さ まざまな方から悲惨な実態をもっと聞いてほしい、あるいは別の研究者の意見も聞くべ きではないか等々の御意見が寄せられました。  確かに、私も短い期間でありましたが、2、3年間、残留孤児を中心とした残留邦人 問題を取材してきて、誠に苛烈な運命の中に置かれた人たちであるということは十分認 識していたつもりでありますけれども、それを支えていらしたボランティアの皆さんと か支援団体の皆さんにとってはまだまだ生ぬるい、もっと悲惨な、あるいは冷酷な実態 があったことをもっとアピールする場を設けてほしいという御意見があったことは十分 にわかりますし、そういうお気持ちも理解できます。  ただ、この有識者会議の私の理解は、既に戦後60年以上を経て残留孤児と呼ばれた方 たちも60歳を過ぎております。早急に何らかの形で支援の手を差し延べなければならな い。根っこの問題は多々御意見はあろうかと思いますけれども、今、我々がなすべきは 支援の枠組みを早急につくることであろうと理解いたしまして、これまでに至るさまざ まな問題点の指摘というのは、基本的な理解としてはもちろん必要ではありますけれど も、今、我々がなすべきは繰り返しになりますが、早急な支援を差し延べる枠組みづく りであるという理解の下でやってきたことを、是非支援者の皆さんにも御理解いただき たいということが1つでございます。  それからもう一つは、今回公的年金、基礎年金をベースに物事を組み立てましたけれ ども、堀田先生もおっしゃっていただきましたが、私はこれは一般的な社会保障の枠の 中で行う給付ではない。あくまでも公的年金制度という枠組みを借りた特別な給付であ ると理解しておりまして、その点についても是非御理解を賜っておきたいと思います。 これは基礎年金を改めて満額差し上げるというものではないのだ。もっと別の趣旨を持 ったもので、特別給付はたまたま基礎年金という形を借りているんだというふうに理解 していただきたいと思います。  最後でありますけれども、この有識者会議の在り方について、ある新聞のコラムには このような表現で指摘されていたようであります。ある著名な作家の方でありますが、 「旧厚生省時代から残留邦人問題について幾度となく有識者らによる会議を開いてきた が、有識者の意見が行政府の政治的責務の懈怠を覆うイチジクの葉に用いられてきたと 私の目には映る」というふうに指摘しております。タイトルも「イチジクの葉とならぬ よう」ということでコラムが書かれています。  確かに、有識者会議あるいは審議会等々の問題点としてそのような指摘がなされてい るのは私も知らないわけではありません。しかしながら、要するに恥部を隠すイチジク の葉になったという印象を与えるのは、言ってみれば行政府が都合のいい部分だけをつ まみ食いして使う場合においてはまさにそういうような印象を与えるのではないかと思 います。私どもが取りまとめた意見書全体をよく御理解いただいた上で、具体的な施策 づくりに是非反映していただきたい。  文言の一つだけをすくい取って具体的な政策がなされた場合には、まさに我々の意見 書はイチジクの葉に映ってしまうおそれがあるということを、ここで改めて指摘してお きたいと思います。以上の3点でございます。 ○貝塚座長 どうもありがとうございました。  それでは、堀田委員お願いします。 ○堀田委員 委員会の一員として賛成いたしましたし、修文の申立てもいたしません。 その前提で、4点ほど申し上げたいと思います。  1点目は、非常に大きな問題についてこの会議の手続が拙速ではないか。当然それは そのとおりであると思いますが、私は物事を提言して生かすにはタイミングが極めて重 要であって、今いろいろな政治情勢等々を含めましたこのタイミングを逃がしますと、 どんなにいい提言書をつくってもそれが生きないだろうと思いますので、一個人として はもっともっとという気持ちもありますけれども、このタイミングはこれ以外にないの かなと思います。  2点目は実践に当たってでありますけれども、この報告書の提言の中にもありますが、 こういう給付自体あるいは手続が二重の加害にならないように、これは犯罪の場合でも 犯罪の被害者をいろいろ調査、捜査したりすることによって二重加害ということは生じ ますが、絶対にそういうことにならないように、今後の仕組みの詰め、そして運用につ いて十分なる配慮をお願いしたい。  3点目は事務局といいますか、厚生労働省においてこれからこれを実現するについて は非常な御苦労があると思います。これまでも御苦労があったと思います。これからま すますあるだろう。  1つは、社会保障の体系の数字からすれば、これは非常におかしい、納得できないと いう議論がいろいろ出ると思います。そういうことも慮って、これは社会保障ではない。 その姿を借りたものであるということを強力に申し上げてまいりましたが、そういう主 張で社会保障の観点からしたらこうだという議論を是非突破してほしい。  それからもう一つ、財政当局からすれば戦争責任、責任論のような観点からやはりお かしいという議論が随分出るだろうと思います。原状回復義務という非常に妙なことを 申しましたけれども、これはもちろん法的責任ではない。政治的な責任である。従来の 責任論とは異なるものだ。  しかし、実態としてもう引揚げのときからいろいろな原状回復をやってきているわけ でありまして、そういう考え方を主張したのも、そういう議論に負けてほしくない、押 されて押し込まれてほしくない。そういう気持ちから申し上げたわけでありまして、残 留邦人の方々の非常な御苦労を思うとそういう反対があること自体が納得できないこと なのでありますけれども、非常に残念ながら日本の中には、自分たちもこれだけ苦労し たのに何もしてもらっていないんだからという声に押されて措置に反対する声も非常に 強い。これから先、大変御苦労をされると思いますし、またこの報告書自体について非 難する声もあろうかと思いますが、めげないで断行、せめてこれだけは実現するという 固い決意で臨んでいただければうれしいと思います。  4点目に、中国残留邦人の方々に対するメッセージというのは余り言っていないんで すけれども、もちろん大変な中でそのこと自体大変だし、そのことを理解しない一般国 民が多いことについては、私どものように助け合い、ふれ合いのボランティア活動を推 進している者の立場として本当に申し訳ないという思いでいっぱいであります。しかし、 そこもやはりそうだからということで引くことなく、是非これからの日本のために自分 たちは自分たちの生き方を示していくんだという心意気を持って、これまでもそうして 頑張ってこられたと思いますし、これからも是非頑張ってほしいと思います。  いろいろな福祉関係のボランティアの方たちは大変心が温かく、いろいろな方を受け 入れ、一緒にやっていこうという気持ちが多いので、是非是非そういう方々とも接し、 生き方の幅を広げてほしいと思いますし、また今まであったいろいろな社会的な差別感 というのはこれから日本が国、社会を開いて世界の中で生き方を変えていくための先駆 的ないわば障害除去の試みである。その最先端で頑張っていただいているんだというこ とで、大変だと思いますけれども、日本社会全体のために頑張ってほしいと思います。 以上でございます。 ○貝塚座長 ありがとうございました。  それでは、山崎委員どうぞ。 ○山崎委員 改めて、まだ戦後は終わっていないんだなということを実感いたしました。 また、私自身もこの問題についての理解が不十分であったということを申し訳なかった と思っております。  日中の間にはいろいろな面で摩擦がありますけれども、中国残留邦人の方々は2つの 祖国をお持ちになっているわけでございます。いろいろな形で今後は日本社会に貢献し ていただきたいと思いますが、特に日中友好を進めていくという活動もしていただきた いし、またそのための支援も国レベルあるいは地域レベルでしていただきたいと思って おります。以上でございます。 ○貝塚座長 ありがとうございました。  それでは、森田委員どうぞ。 ○森田委員 既に私が思っておりましたことを多くの委員の方がお話になりましたので、 簡単に申し上げたいと思います。  私のところにも大勢の方からお手紙をいただきまして、私自身も知らなかったような 大変厳しい状況をお知らせいただき、認識を新たにいたしました。この問題自体が大変 深刻であるということはもちろん申し上げるまでもありませんけれども、この取り組み の仕方といたしましてはこの在り方についての最後のところにございますが、まさに一 過性のものとせず、終始見守るという形で制度というものを考え、取り組みを続けてい くことが非常に重要ではないかと思ったのがまず1点目でございます。 それはどうい うことかといいますと、やはり今から、これからの生活というものをしっかりと支えて、 日本の社会で、まさに総理がおっしゃるように日本に帰ってきてよかったと思っていた だけるような取り組みを続けていくことが大切ではないかと思っております。  それに関連して2点目でございますけれども、日本の社会保障制度そのものが大変大 きな問題を抱えているというのは言うまでもないわけでして、その枠の中ではなかなか 救われない方に対してどうするかということです。先ほど岸委員の方からお話がござい ましたけれども、年金の枠組みを借りた特別給付の制度である。それについては、ここ で少なくとも大きな意見の対立がなく、こういう結論に達したことは大変よかったと思 っております。  3点目でございますけれども、所々にこれからの検討課題というものがあります。例 えば、4ページに「検討が必要である」とか、6ページにも「必要ではないか」という、 言うなればここでは詰めないまま問題として指摘しているところがありますけれども、 これにつきましては是非この在り方の報告書の趣旨に沿う形で具体化をしていただきた いとお願いしておきたいと思います。以上でございます。 ○貝塚座長 猪口委員、皆さんに一応案を認めていただきまして、最後に感想をお話い ただきたいということでございます。 ○猪口座長代理 本務で少し遅れました。既に指摘された点は多いので、繰り返さずに 2点だけ申し上げます。  1つは、これから現場で行政官あるいはボランティアがいろいろ皆様と関わり合うこ とになるわけですから、そういったときにどんなふうに、どんな心で触れ合ったら、つ き合ったらいいかということについて、取り分け行政の方は現場でずっと下に下りるわ けですから、研修みたいなものをやるというようなことは恐らく重要だと思います。そ れで、NGOなども交えた形でないと、役人だけでやるとまたちょっと色が変わるとい うことがあって、私はそれでないと心が入らないと行政の一環というだけにとられて、 この答申というか、この考えとちょっと違うかなと思うので、そこが1つです。  それから、日本語をしゃべる日本人だけでということからちょっと違ったことになっ て、文化としていろいろな言葉をしゃべる人が21世紀はもっともっと増えていくと思い ます。そういった意味でも、新しい日本文化をつくっていくことに何か参加していると いうような形のものを始められたらと思って、それもその地域、地域の現場でやるとい うことで、例えば小学校、中学校で中国語のサークルをつくって、そこで皆に教えると か、あるいはNHKのようなテレビで番組に参加するというようなことが何かあっても いいかと思います。  取り分けこういうことを考えると余りよくないのかもしれませんが、中国の最高指導 者もお見えになるということですので、何かそういったものをきっかけとしてこの精神 を生かすという活動を計画して始めていくというのが、私はこの考えをもっともっと本 当に現場で生かす。それから、ほかの国民といいますか、日本人にも、そういうことを やろうとしているのか。そして、自分たちもその中の一員としてやっているんだという ことを思い出させる手助けにはなるので、そんなことをやるようにしていただけたらと 思いますし、私としても参加したいと思っております。以上です。どうもありがとうご ざいます。 ○貝塚座長 どうもありがとうございました。  私自身の感想といいますか、私自身この問題に関して今までほとんどよく知らなかっ たわけでありますが、今回こういう形でこの会議に参加させていただきまして、私は一 応専門家ということになっていますが、社会保障制度というものがどうしても頭の中に ありまして、ここで書かれたことは社会保障制度というものをある程度前提にしながら それをレファレンスといいますか、社会保障制度ではこういうふうになっているけれど も、ここではどうするかという形で、社会保険の外側にありますが、今の日本の普通の 方々に保障している社会保障の給付の水準というものと対応させながら、それから制度 としては生活保護というのはかなりリジッドな制度であるので、基本的には生活保護の 非常に硬直的な運用はなるべく避けて、一応給付金の形で追加的あるいはしかるべき水 準の給付を国庫から出すということになったと理解しております。  したがいまして、多分財政当局もそうクレームをつけるはずがないというのは私の個 人的な意見ですが、この問題は実を言うと非常に特別な背景があるのですが、今後とも いろいろな形で、いろいろなステータスにある方々が、特に海外との交流が深まります と、従来なかったような経験をされた方が当然出てくるわけです。そういう場合に、今 回の報告書の基本的な考え方が参照されて応用されるというんでしょうか、そういうも のとしての役割があったんじゃないかと思います。  私自身、余り座長としてお役に立ったかどうかはわかりませんけれども、一応こうい う形で最終的な報告書ができ、局長にも多少伺いたいのですが、役所の文章としては比 較的エモーショナルなところがそれなりに含まれていて、ある意味ではそういう問題で もあるということは間違いないと思いまして、そういう点でお役に立ったということは 一応私自身も何とか納得したということでございます。ここに参加されている委員の 方々も、あるいは傍聴席で聞いておられる方も、それなりにいろいろお考えになってい ることがあると思いますけれども、今後ともそういうことを生かしてこの問題に日本全 体として取り組む問題だというふうに考えています。これが私の感想でありまして、と りあえずそういうことであります。  あとは、厚生労働省側で何か局長から一言お願いいたします。 ○中村社会・援護局長 各先生からお話がございましたように、大変大きな問題を無理 を言いまして短期間で御審議いただきまして本当に申し訳なく思っております。  また、今、参議院の厚生労働委員会が開かれておりますので、大臣は一度も先生方の 前にごあいさつもできなくて申し訳なく思っておりますが、逐次この会の状況について は厚生労働大臣の方に報告いたしておりますし、今日の先生方の最後の感想という座長 のお話でございましたけれども、意見表明につきましてはまた大臣にも報告させていた だきたいと思います。  1ページ目にも書いてございますように、総理から厚生労働大臣に指示があったわけ でございますので、これからまたこの報告書で本提言を踏まえ、具体的な支援策を早急 に策定するようにということでございます。与党とも相談するようにという総理の指示 もありまして、これから政府部内または与党の方とも相談して、大臣の方は夏までには 何とか成案をと言っておりますので、それに向けて精一杯やってまいりたいと思います。  今後とも御指導・御鞭撻のほどをよろしくお願いいたします。どうもありがとうござ いました。 ○貝塚座長 ありがとうございました。  それでは、本日の会議はこれで閉じさせていただきます。 (照会先)  厚生労働省 社会・援護局 援護企画課 中国孤児等対策室 内線3417