資料No.7−2
告示第85号『チェーンソーの規格』によるチェーンソー表示振動値の検証
2007/06/01 株式会社マキタ 畝山 常人
現在,排気量40cc以上のエンジンチェーンソーは,告示第85号『チェーンソーの規格』に基づき林野庁(森林総合研究所)にて測定された“振動加速度”を表示しなければならない。
この表示加速度と,ISO 5349-1:2001による“手腕振動補正を加えた3軸測定による「振動合成値,ahv」”の間にどのような関係が認められるかを調査する。
ちなみに,告示第85号により表示する振動値は次により求める。
・ ぶな材を玉切り姿勢できょ断,きょ断幅はバー有効長の70%〜80%
・ エンジン回転数は,常用回転数の98.5%〜101.5%
・ 前ハンドル及び後ハンドルについて測定する
・ 上下,左右及び上下方向(x,y,zの3方向)について測定する
・ 12.5Hz,16Hz,20Hz,25Hz,31.5Hz,40Hz,50Hz,63Hz,80Hz,100Hz,125Hz,160Hz,200Hz,250Hz,315Hz,400Hz,及び500Hzを中心周波数とする1/3オクターブバンドについて測定する
・ 測定した振動加速度の最大値を表示する(全6軸の内の最大値)
ISO 5349-1:2002による振動合成値は
・ 測定位置の周波数範囲は,8Hz〜1000Hzのオクターブバンドをカバーする実用的な周波数範囲(例えば,公称周波数幅5.6Hz〜1250Hz)
・ x,y,z 3軸の周波数補正実効加速度を測定する
・ 周波数補正及び帯域制限フィルタの特性はISO 5349-1の附属書Aに規定されている
・ 3軸合成値ahvは3軸の測定値(ahwx,ahwy,ahwz)から次式を用いて求める

<測定実験>
a) 測定したチェーンソー
Makita海外販売(独 Dolmar社製)のエンジンチェーンソー 3機種各1台
1) Chainsaw-A 排気量43cc 測定時エンジン回転数:7,000min-1
2) Chainsaw-B 排気量50cc 測定時エンジン回転数:7,000min-1
3) Chainsaw-C 排気量64cc 測定時エンジン回転数:8,000min-1
各々前ハンドル(Sub Handle),後ハンドル(Main Handle)にて3軸測定
b) 測定装置
測定システムB&K PULSE System
ピックアップ B&K 4374L
ピックアップ取付位置林野庁(森林総合研究所)による測定に準拠
測定条件 林野庁(森林総合研究所)による測定に準拠
c) 測定周波数帯域
6.3 〜 6,300Hzの1/3オクターブ
告示第85号による振動加速度は,この内12.5 〜 500Hzのデータを使用
ISO 5349-1による振動合成値を導くためには,6.3 〜 1,250Hzのデータを使用
d) 試験者・測定者
試験及び測定は,株式会社マキタ 品質管理部の振動試験に携わる十分な経験をつんだ者が担当した。
<測定結果>
・ 各チェーンソーにつき,前ハンドル・後ハンドルの各1/3オクターブ帯域の振動加速度値(6.3 〜 1250Hz)を図1 〜 図3に示す。
・ 測定値から得た,告示第85号による表示値・ISO 5349-1による各軸の振動加速度及び振動合成値・6.3 〜1,250Hzまでの各1/3オクターブ帯域が測定6軸の最大値(表示値)と同じと仮定した場合の振動合成値の計算値を図の下表1 〜表3に示す。
<考察>
林野庁の測定に準拠した測定では,振動加速度のピークはエンジン回転数と一致しており,その周波数を含む1/3オクターブ帯域で最大値(=標示値)を示している。又,この値はエンジン回転数から外れた1/3オクターブ帯域の加速度値より大幅に大きな値となっている。
測定結果から,3軸ahwを計算すると,表示振動加速度は表1〜3に示すように5〜6倍の値となる。
このことから,「チェーンソーの規格」による標示振動値は,手腕振動補正を加えたISO 5349による3軸振動合成値を推定する根拠には出来ず,表示値は振動暴露の評価に用いるには大幅に過大評価になるであろうことが分かる。
6.3〜500Hzの1/3オクターブ帯域すべての3軸の振動加速度データが与えられておれば,それからahwを計算することは(500〜1,250Hz帯域が欠如しているとしても,この部分の補正係数は極めて小さいために大きな誤差なく)可能であるが,林野庁からは「表示値」となる3軸×2ハンドル1/3オクターブの最大値しか提供されていないため,メーカーでahwを得るには,新たな測定を行う以外方法がない。
林野庁から,全軸の1/3オクターブ測定データが提供されれば,そのデータから手腕振動補正したahw値を求めることは可能である。
全データが提供されない場合,継続して生産・販売されている,又は該当機械がメーカーにより保存され振動測定が可能である場合以外は,該当エンジンチェーンソーの振動合成値ahwを得ることは不可能といわざるを得ず,表示値からahwを推定するのも困難と考えられることから,現在使用されているがすでに生産・販売が中止されている機械については,手腕振動暴露評価に用いることの出来る振動値ahwを得ることは不可能と考える。
ただし,更にある程度の機種の測定を行い,表示値とahwの関係に何らかの係数を見つけることが出来れば,安全側に振る方法で表示値からahwを推定する係数を決定することも可能かもしれない。
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昭和52年9月29日 告示第85号(平成15年12月19日 告示第390号)
(漢数字は英数字に置き換え,カタカナ書きの単位には英語の単位を付記してある)
チエーンソーの規格
労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第42条の規定に基づき、チェーンソーの規格を次のように定める。
(振動の限度)
第1条 チェーンソー(労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318)第13条第3項第29号に掲げるチェーンソー*をいう。以下同じ。)は、別表第1に定める測定方法により測定された振動加速度の最大値が、29.4メートル毎秒毎秒 (m/s2) 以下のものでなければならない。
(*排気量40cc以上の内燃機関により駆動するチェーンソー)
(ハンドガード)
第2条 チェーンソーは、ソーチェーンの切断等の際にソーチェーンにより後ハンドルの手に生ずる危険を防止するためのハンドガードを備えているものでなければならない。
(キックバックによる危険防止装置)
第3条 チェーンソーは、キックバックを防止するための装置又はキックバックに伴うソーチェーンによる危険を防止するための装置を備えているものでなければならない。
(表示)
第4条 チェーンソーは、見やすい箇所に次の事項が表示されているものでなければならない。
1 製造者名
2 型式及び製造番号
3 製造年月
4 排気量
5 重量(のこ部を除き、かつ、燃料タンク及びオイルタンクが空である状態における重量をいう。)
6 振動加速度(別表第1に定める測定方法により測定された振動加速度の最大値をいう。)
7 騒音レベル(別表第2に定める測定方法により測定された騒音レベルをいう。)
附 則
1 この告示は、昭和52年10月1日から適用する。ただし、第4条第7号の規定は、昭和53年4月4日から適用する。
2 昭和53年4月1日前に製造され、又は輸入されたチェーンソーについては、第4条第7号の規定は、適用しない。
別表第1 (第1、第4条関係)
振動加速度の測定方法
1 測定条件は、次に定めるところによること。
(1) 試験材は、次に定めるものであること。
イ 樹種は、ぶなであること。
ロ 無節部のものであること。
ハ 含水率は、12パーセント以上15パーセント以下のものであること。
ニ 支持物に固定されたものであること。
(2) チェーンソーは、次に定めるものであること。
イ 標準装備のものであること。
ロ ソーチェーンは、十分に目立てされていること。
ハ 燃料及び潤滑油の量は、タンクの容量の3/4以上であること。
ニ 気化器及び点火せんは、適切に調整されていること。
ホ 十分にならし運転されたものであること。
(3) チェーンソーのハンドルに、次により振動加速度ピックアップを取り付けること。
イ 取付け位置は、操作者が通常握る箇所に近接した位置とすること。
ロ 次に定める鋼片の両端を、スチールバンドにより、1平方センチメートル(cm2)当たり10キログラム(kg)以上の圧力で、取付け位置に締付け固定すること。
(イ) 長さは、31ミリメートル(mm)以上33ミリメートル(mm)以下であること。
(ロ) 幅は、13ミリメートル(mm)以上15ミリメートル(mm)以下であること。
(ハ) 厚さは、4ミリメートル(mm)以上5ミリメートル(mm)以下であること。
(ニ) 曲率半径は、27ミリメートル(mm)以上29ミリメートル(mm)以下であること。
ハ 締付け固定した鋼片の中央部に振動加速度ピックアップをねじ止めすること。
(4) きよ断は、次により行うこと。
イ 玉切り姿勢で試験材を玉切りすること。
ロ 内燃機関の回転数は、当該チェーンソーの内燃機関の常用回転数の98.5パーセント以上101.5パーセント以下とすること。
ハ きよ断は、バーの有効長の70パーセント以上80パーセント以下とすること。
2 測定に用いる機器は、次に定めるところに適合するものであること。
(1) 振動加速度ピックアップ
イ 圧電式のものであること。
ロ 重量は、50グラム(g)以下であること。
ハ 上下、左右及び前後の方向を同時に測定できるものであること。
(2) 増幅器
増衰器の切替え誤差は、1デシベル(dB)以下であること。
(3) リアルタイム分析器
イ 1/3オクターブバンド分析器であること。
ロ 減衰特性は、国際電気標準会議のpub 225に適合するものであること。
(4) 回転計
イ 指示の誤差は、回転数の0.3パーセント以下であること。
ロ 時定数は、0.5秒以下であること。
ハ 非接触型のものであること。
ニ カウンターに接続できるものであること。
3 測定は、次に定めるところによること。
(1) 前ハンドル及び後ハンドルについて行うこと。
(2) 上下、左右及び前後の方向について行うこと。
(3) 12.5ヘルツ(Hz)、16ヘルツ(Hz)、20ヘルツ(Hz)、25ヘルツ(Hz)、31.5ヘルツ(Hz)、40ヘルツ(Hz)、50ヘルツ(Hz)、63ヘルツ(Hz)、80ヘルツ(Hz)、100ヘルツ(Hz)、125ヘルツ(Hz)、160ヘルツ(Hz)、200ヘルツ(Hz)、250ヘルツ(Hz)、315ヘルツ(Hz)、400ヘルツ(Hz)及び500ヘルツ(Hz)を中心周波数とする1/3オクターブバンドについて行うこと。
(4) 次に定めるところに適合する状態で行うこと。
イ 総合周波数レスポンスは、5ヘルツ(Hz)以上1500ヘルツ(Hz)以下の範囲において、許容偏差1デシベル(dB)以内の平たんな特性であること。
ロ 複合振動特性は、指示値が同一となる2の振動を同時に入力したときの指示値が、1の振動を入力したときの指示値より2.75デシベル(dB)以上3.25デシベル(dB)以下の範囲で大きいこと。
別表第2 (第4条関係)
騒音レベルの測定方法
1 測定条件は、別表第1第1号(1)、(1)及び(4)に定めるところによるほか、次に定めるところによること。
(1) 無響室で行うこと。
(2) 操作者の右耳の耳元の位置に、音源に向けてマイクロホンを取り付けること。
2 測定に用いる機器は、次に定めるところに適合するものであること。
(1) 騒音計
日本工業規格JIS C 1505(精密騒音計)に定める規格を具備するものであること。
(2) レベル記録器
接続する騒音計の指示特性に適合する性能を有するものであること。
(3) 回転計
別表第1第2号(4)イからニまでに定めるものであること。
3 測定は、騒音計の聴感補整回路のA特性で行い、かつ、遅い動特性で行うこと。
表A.2−1/3オクターブバンド量を周波数補正量に変換するための,
周波数制限a)を伴う手腕振動の周波数補正係数Whi
ISO 5349-1 (JIS B 7761-3)
周波数バンド番号b) i |
公称中央周波数 Hz |
補正係数 Whi |
6 |
4 |
0.375 |
7 |
5 |
0.545 |
8 |
6.3 |
0.727 |
9 |
8 |
0.873 |
10 |
10 |
0.951 |
11 |
12.5 |
0.958 |
12 |
16 |
0.896 |
13 |
20 |
0.782 |
14 |
25 |
0.647 |
15 |
31.5 |
0.519 |
16 |
40 |
0.411 |
17 |
50 |
0.324 |
18 |
63 |
0.256 |
19 |
80 |
0.202 |
20 |
100 |
0.160 |
21 |
125 |
0.127 |
22 |
160 |
0.101 |
23 |
200 |
0.0799 |
24 |
250 |
0.0634 |
25 |
315 |
0.0503 |
26 |
400 |
0.0398 |
27 |
500 |
0.0314 |
28 |
630 |
0.0245 |
29 |
800 |
0.0186 |
30 |
1000 |
0.0135 |
31 |
1250 |
0.00894 |
32 |
1600 |
0.00536 |
33 |
2000 |
0.00295 |
注a) フィルタ応答及び許容値用,JIS B 7761-1を参照する。 注b) 添え字 i は, JIS C 1514に従った周波数帯域番号。 |
A.2 1/3オクターブバンドデータの周波数補正加速度への変換
対応する周波数補正加速度を得るために,Whフィルタの使用に代えて1/3オクターブバンド分析から得る加速度実効値を用いることができる。
周波数補正加速度実効値ahwは,次の式から計算できる。
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主な周波数範囲は,(公称周波数が)6.3 Hz〜1 250 Hzまでの1/3オクターブバンドフィルタで構成され,式(A.1)を用いたahwの計算には,この範囲内の1/3オクターブバンド分析結果を用いる。主要周波数範囲から外れた周波数(例えば表A.2の灰色の部分として示す)の成分は,主要周波数範囲の高域端及び低域端の振動エネルギーにほとんど影響を与えない。

図A.1−帯域制限を含む手腕振動のための周波数補正曲線Wh(概略図)
ISO 5349-1 (JIS B 7761-3)