07/05/25 平成19年5月25日医道審議会医師分科会医師臨床研修部会議事録 医道審議会医師分科会医師臨床研修部会 日時 平成19年5月25日(金) 10:00〜 場所 厚生労働省共用第8会議室 ○医師臨床研修専門官(井内) 定刻になりましたので、ただいまより「医道審議会医 師分科会医師臨床研修部会」を開催いたします。本日は、先生方にはご多忙のところご 出席いただきまして誠にありがとうございます。  本日の議題は、前回に引き続きまして「医師臨床研修制度に係る検討について」とい うことで開催する予定でございましたが、部会長より、もう少し関係者の意見を引き続 き聞く機会を設けるべきではないかというご意向をいただきました。今回は、これを受 け、「医師臨床研修制度に係るヒアリング」ということでお願いしようと考えております。  本日は非常に申し訳ないことではございますが、事務局のほうは国会等の対応で出入 りすることになりますけれどもご了承いただきますようよろしくお願いいたします。以 後の議事進行につきましては部会長にお願いいたします。 ○部会長(齋藤) 早速関係者からご意見を伺うことといたします。本日は、病院関係 の方4名からご意見を伺うことを予定しております。最初に、事務局から議事の進め方 について説明をお願いいたします。 ○医師臨床研修専門官 議事の進め方をご説明いたします。本日は、参考人の方々に、 お1人当たり30分程度話をしていただくことを考えております。その後、ご質疑をして いただいた上で、最後にもう一度皆様方でご議論をいただく形にさせていただきます。  引き続き資料のご説明に入らせていただきます。議事次第、座席表、委員名簿、参考 人一覧とあります。本日お話をしていただきます先生方は、小西郁生参考人、内山聖参 考人、小島卓也参考人、関健参考人です。資料1-1、資料1-2、資料1-3は小西参考人の 資料です。資料2は内山参考人の資料です。資料3-1、資料3-2、資料3-3は小島参考人、 関参考人の資料です。  資料4、資料5、資料6に関しては、以前臨床研修部会で出させていただいた現状を示 すデータ集ということです。その中で、平成19年度の数値が確定したものもありますの で、リバイズをしてアップしたものです。資料6は前回見ていただきましたが、前回の 資料で出たところに少し誤記がありましたので訂正させていただきました。例えば、平 成16年度の採用のところを見ていただきますと募集人数、採用実績、マッチ者数で、採 用実績と充足率という形で出しております。前回の資料では、平成16年度採用分の場合、 マッチ率を見るのは平成15年度のマッチ率を見なければいけないということもあり、年 度の並びがおかしかったので、今回訂正させていただきました。これは、平成16年度、 17年度、18年度、19年度に採用される方を対象としたときの募集定員であり、採用実 績数であり、マッチ者数であるということです。申し訳ございませんでした。  以上が資料の説明です。本日用意させていただきました資料は以上ですが、前回の議 事録(案)を置かせていただいておりますので、何かお気づきの点等ご指摘がありまし たら、それをもって最終版としてフィックスさせていただきます。よろしくお願いいた します。 ○部会長 ただいまの事務局の説明について、ご意見、ご質問はございますか。 (特に発言なし) ○部会長 それでは、小西参考人から説明をお願いいたします。 ○小西参考人 信州大学産婦人科の小西です。私は、病院の卒後臨床研修センター長も 務めておりますので、その立場からもプレゼンテーションさせていただきます。主に、 産婦人科の立場から申し上げます。 ☆スライド 新医師臨床研修制度が、産婦人科と国民に何をもたらしたか。現在、産婦 人科全体として何をしているか。臨床研修制度そのものについて、産婦人科はどう受け 止めて、どうしようとしているか。そして、これは私見でありますが、どのような方向 が望ましいかということに関して報告させていただきます。 ☆スライド ここに、日本産科婦人科学会新入会数が出ていますが、産婦人科の専門研 修を始めた人数が大体把握できております。この臨床研修制度が始まる前の、直接入局 する時代、平成13年、平成14年、平成15年と年間約350名が産婦人科を専攻しており ました。しかし、(平成16年からの臨床研修制度必修化により)2年間新入局がありま せんでしたので、700名が新しく産婦人科に来なかったということで、産婦人科の医療 が破綻するのは無理ないことと思っております。  2年間過ぎてどうなったかといいますと、全体として290名、平成19年度に入ったの はおそらく300名程度であり、約20%は減少したということです。これは、ローテーシ ョン研修に産婦人科も入っておりますけれども、その中で現実に産婦人科の過酷な労働 を実感することで、将来産婦人科で頑張ろうかと思った人もやめてしまったのが20%い たということになるのだろうと思います。  この間、私ども信州大学にはどのぐらいの数が入局していたかを、右側の括弧で示し ております。私は平成11年に着任しましたが、最初はなかなか入局がなくて苦しんでお りました。だんだん浸透してきて平成14年に6名、平成15年に8名ということで、こ のまま続けば9名、10名ということでうまくいくのではないかと思ったのですが、いき なりこういう制度が始まったということは大変残念に思っております。その後、2年間 あいて3名、3名ということで、10大学以上が入局ゼロという状況の中では、まずまず 頑張ってきたと考えております。  この間、平成16年のいちばん下にありますように、平成16年卒業の研修医がローテ ーションの中で産婦人科を考えていた人が、1人は麻酔科、1人は小児科に変更しており ます。しかしながら、総合内科をやろうかと思った人が産婦人科に来てくれたり、外科 をやろうかなと思っていた人が産婦人科に来てくれたりということで、プラスマイナス ゼロということでした。 ☆スライド そういう中で皆さんご存じのように、日本全国の産婦人科医療というのは 非常に破綻を来している状況になってきています。長野県全体の産婦人科医の減少も、 この3年間で非常に厳しいものがあります。全体数は、平成13年の189名から平成18 年の162名に減少しております。分娩数は2万人なのですけれども、長野県は開業医が 少ないということで、病院で分娩する人が非常に多いです。全国2位ということで、そ れだけ勤務医は過酷な勤務があるということです。  この研修制度が始まり、勤務医が29名離職しています。その主なものは、東京とか名 古屋から来ていただいていた県外の大学から長野県に来ていただいていたのですが、開 業されるとか戻るということで10名が外に出られたのが大きなショックでした。それ以 外にも、女性医師の結婚、あるいは開業等で勤務医が29名減りました。そういう中で中 心的な病院で分娩をやめてしまうというところも増えてきたわけです。  こういう29名に対し、信州大学での新人の獲得、あるいは信州大学が産婦人科医師の 赴任で、なんとかもってきたのですけれども、非常に厳しい状況が続いているというこ とです。入局の80%は女性医師でしたので、現在は次々におめでたのラッシュといいま すか、お産が続いております。 ☆スライド 全国的にそういったことで、分娩施設は左側にありますようにどんどん減 少してきている。新聞に出ておりましたような「お産難民」という状況が出てきており ます。長野県下でも、それまで中心的な役割を果たしてきた病院が分娩を停止するとい うことで、困難な状況に陥っております。 ☆スライド この制度が発足したことにより、産科医療の崩壊を促進しました。もとも と産婦人科へ入局する人が減ってきておりますので、各地方の大学がなんとかやり繰り して、3人辞める方があったら、なんとか3人新人を獲得してと、自転車操業的にやり 繰りしてなんとか守ってきたのですけれども、2年間いないということで一挙にその矛 盾が外に出てきたということが言えるだろうと思います。スーパーローテーション研修 で、よく言われるように若手の医師が過酷な勤務実態を実感して、やはり辞めようかと いう人が増えたということで20%減ったということです。  もう1つ大きなことは、よく言われているようにマッチング制度により医学生が非常 に流動化してきました。地方の学生が都会志向になったということと、大学離れを促進 したということ。プライマリケア研修ということで大学離れが促進されたというのはよ く言われていることです。 ☆スライド これに対して今、私たちは何をしているかということです。地域医療で医 療崩壊を防ぐために全力を上げております。限られた非常に少ない医師の中でどのよう にしたらいいか。地域の開業医の先生たちとよく話し合いながらネットワークを形成し つつ、医療崩壊に陥らないようにということで、日本産科婦人科学会の医療提供体制検 討委員会が最終報告書をつい最近出しました。それが資料1-2です。  タイムリーといいますか、悲劇といいますか、奈良県では受け入れてくれる所がなく て、脳出血の妊婦が亡くなるという事件がありました。大阪まで運ばれたという事態が ありました。私ども長野県では、そういう事態を起こさないようにということで、搬送 を絶対に断らない体制をつくりましょうと。そのためには、センター病院を各地域に絶 対に設けておかなければいけないということで、これは厚労省の集約化、重点化に対す る対応でありますが、大学病院が中心になってそういう提言書を出しております。そこ で、私は産婦人科を代表し、会長として提言書を出しましたし、小児科の小池健一教授 が副会長に就任しております。  このように、地方の大学病院が中心になって、その地域に県とも相談をしながら、地 域医療協議会に深くコミットして、その地域の保健医療政策に関与していくという非常 に重要な任務を与えられたのではないかと思っております。 ☆スライド 長野県で、崩壊しそうになったのをなんとか食い止めた事例ということで ご紹介いたします。長野県全体の中で南側の、ここから左下へ行くと名古屋へ行く高速 道路が通っております。長野県のいちばん南の飯田市であります。伊那谷のいちばん南 側です。  この地区には6つの分娩施設がありました。2年前に、来年には分娩をやめると言っ た所が赤マークのところです。開業の先生2人が、来年からやめますということを申し 出てきました。いちばん右下ですが、分娩を521やっている方もありました。それから 47。下伊那日赤では分娩数が287ありましたけれども、そこもやめざるを得ないという ことで、平成18年からは分娩数で800ほど受入れ先がない状況になりました。これはな んとかしないといけないということで、地域の中でそういう会議が持たれています。 ☆スライド ここでは広域連合の市長・村長も入っていて、なんとか解決しないといけ ないということで、比較的早くそういう方針を出していただき、大学も是非協力します ということで、そういう地域から5億円を出すので、飯田市立病院がちゃんと受入れを してもらわないと困るということで準備を進めてまいりました。 ☆スライド 市立病院のほうで、分娩数増加に必要な体制を整備し、受入れ可能にして いきました。 ☆スライド 大学のほうも、1名身を削って増員し、なんとか対応することになりまし た。分娩台とか助産師も増やすということでなんとか対応しております。 ☆スライド 飯田市立病院の分娩数は、それまでは月間30〜40でやっていたのですが、 平成18年から急激に増えましたが、ベッド数の増加、あるいは医員の増加、また大学か らも応援してなんとかうまくいきまして、医療崩壊が起こらずに済んだということです。 このように大学も地域医療に一生懸命関与し、崩壊が起こらないようにしているという ことです。 ☆スライド もう1つ私たちは何をしているかということです。若手が産婦人科に興味 を持ってもらうように全力を尽くしております。日本産科婦人科学会の中で、産婦人科 の面白さを是非知ってほしい、こんなに面白い所はないのだということで、プロモーシ ョンDVDを作ろうということになり、私が産婦人科学会の委員長ということで、最近リ クルートDVDが完成いたしましたので、もうすぐ皆さんの目に留まるのではないかと思 っております。  それから、放射線科の先生が年に1回サマースクールを始めたので、産婦人科でも産 婦人科に興味を持っている学生や研修医を集め、これも信州でやろうということで今年 の8月にやります。私が副委員長になっているのですが、そのようにできるだけ産婦人 科に来てもらおうということで努力をしております。基本的に産婦人科に関しては、大 学病院が入局ということで、若手医師を確保するしか道はないのではないかと考えてお り、これに全力を上げるしかないと考えております。  信州大学では、産婦人科も含め、文部科学省の医療人GPをいただきましたので、この プログラムも開始しております。学生も1年生、2年生のころから、1人の妊娠経過をず っと診てもらって、お産にも立ち会ってもらうというプログラムを考えました。ちょう どお産が夏休みのころになる方の妊婦健診などもずっと見てもらって、この素晴らしい 生命の誕生を見てもらうというプログラムを開始しております。  学生との対話を促進し、できるだけ産婦人科を知ってもらうということで、昔ポリク リといったクリニカル・クラークシップを5年生に回ってもらっています。2週間に1 度は夕食会をしているのですが、アルコールの量は増えるばかりということであります。 できるだけ卒業前に、産婦人科に来るようにということで一生懸命勧めております。今 年卒業した100名のうちの5名はこういうことで、ほぼ産婦人科に来てくれるのではな いかと。まだわかりませんけれども、一応確保したということです。  それ以外産婦人科は勤務が非常に厳しいので、産婦人科の処遇改善に全力を上げると いうことで、特に皮膚科とか形成科の先生に比べると全く違う生活であり、それなりの 報酬を貰っていいのではないか。産婦人科は人がよすぎたのではないかという反省もあ り、一生懸命そういうことをしております。当直をしているのですが、当直は通常の電 話で起こされて、少し話をするだけというふうになっていますけれども、実際にはずっ と起きていることも多いということで、分娩があるとそれなりの手当を要求していきた いと思います。  私は長野県の産婦人科医会会長として、県内全病院の病院長にそういう手当をしてほ しいという手紙を送りましたところ、少しずつそういうことに反応してくれました。県 の病院とか国立はもちろん無理ですけれども、日赤とか厚生連といった病院は反応して 報酬が上がってきたということでありますので、こういうことにも全力を尽くしている わけです。 ☆スライド そういうことで、大学病院は地域を守るために全力を上げております。や はり地域では、特に地方の県では、私たち大学病院こそが地域医療協議会の中心メンバ ーとしてリーダーシップを発揮する責務があると感じております。これにより往々に教 授が勝手に人事をやっているのではないかと言われましたけれども、これまでもそうで はなかったのだけれども、そういう人事の配置に関しても、センター病院などを決める と、人事が適正に客観的に評価されるということで、私たちはいいことではないかと思 っています。  今度、長野県も医療計画策定の委員会が発足し、大学からも多数参画しております。 そして、地域の産婦人科を守るために、今後もリクルート活動を一生懸命やっていかな ければいけない。政府が、若手医師を地方に派遣するなどと新聞で言われておりますけ れども、やはり、大学自身が入局を増やすことしかないのではないかと思っております。 2年間卒業前に確保しておかないと無理なので、学生のうちにわかってもらうというこ とで、ここに重点を置いております。 ☆スライド 新研修制度に対して産婦人科はどう考えているかというと、厚生労働省を 深く深く恨んでおります。しかしながら、この研修制度そのものは必要だったのではな いか、プライマリケア習得、給与確保など優れた面もあるということで、この基本は守 っていかなければいけないと産婦人科全員が思っております。昔に戻そうとは全く思っ ておりません。当面この制度の中で産婦人科はしんどいけれども頑張るということで決 意をしております。  産科のこういう危機的な状況が一挙に明らかになりました。私たちは、その中ででき るだけ地域を守るために頑張りますし、若手医師のリクルートに頑張っていくというこ とです。  問題は、地方大学では若者の都会志向に苦悩しておりまして、これをなんとかできな いか。これは頑張るしかない。夏休みとか9月になるともうマッチングで学生の気持が ゆらゆらしますので、いまが勝負だ、5月、6月、7月中になんとか入局を決めるように みんな頑張れと応援しております。 ☆スライド 新たな問題が出てきたのは、皆さんもご存じのとおりだと思います。ロー テーション研修で、将来の専門性が決まっていない中で、なんとなくローテーションに 入った方はモチベーションを持てない。精神科の先生も本日来ておられますけれども、 だいぶ相談が増えたのではないかと思います。  筑波大学の前野教授がいつも講演しておられますように、また私も厚労省の研修で学 びましたが、人間はしんどくとも、自分自身に価値があって重要性があればやっていけ る。しかしながら3カ月経って、また逆戻り。そういうことを繰り返しますと、私は何 のために存在しているのだとわからなくなってうつになっていく、脱落していく研修医 が急増していて問題になっています。メンタルヘルスケアが注目されています。  私どもの大学では、卒後研修センターの良い部屋を確保いたしましたし、センターに は女性事務員が常駐していて、研修医のおかあさんと親しまれていて、いろいろなこと にすぐ相談に乗ってくれています。その相談に乗ったことはすぐにセンター長に入って くるということで、なんとか脱落を防いでおります。チューターも別に医師が付いてい て相談に乗っております。この2年間1人の脱落者を出すこともなく修了しております。  もう1つは、後期研修という誤った用語が用いられている、これは非常によくないの ではないかというのが私見であります。後期に対する前期、前期がないのになぜ後期な のか。初期に対して、これから専門研修が始まる。いよいよこれから本当に始まるのだ、 ということが大事であります。初期研修のまま大学に帰らないでそのままおりなさいと いうのが後期研修でありますので、これは駄目です。矢崎先生も最初は反対していたの だけれども、最近はあまり言われないのでどうお考えでしょうか。卒後臨床研修研究会 でも、後期研修というのはやめましょうとおっしゃられたけれども、また復活してほし いと思っております。  大学離れは非常に問題であります。やはり、大学の研修を経ていない医師は基盤が非 常に脆弱でありますので、大学でしっかり研修する必要があるのではないか。若手医師 の将来10年、20年、30年を見た場合、全体のレベル低下というのは非常に危惧される わけです。ここに来られている多くの先生方は、大学でも一生懸命鍛えられているとい うことで、いまここまで来られている方が多い。この価値は再検討する必要があるので はないかと考えております。 ☆スライド ここには女性がおりますのでご本人、あるいはあなたの奥様がもし卵巣癌 と診断されたらどうしますか。やはり、よく名の通った実力のある専門医に診てもらう でしょう。東京でしたら東大病院に行くか、慶應あるいは慈恵医大へ行くのではないで しょうか。実力のある専門医というのは、すべて大学中心の臨床研修で鍛えられてきた のであります。大学病院で全く研修をしなかった医師にはかかりたいとは思わないと思 います。  臨床研修病院は、個人は非常に能力を持っていますけれども、総体としては実力がか なり劣るのであります。世界中で、大学離れを起こすような臨床研修制度を押し進めて いる国はないのではないか。大学で研修せずに、どんどん民間に押し付けている国はな いと思うのです。もっと大学を活用して、若手医師、初期研修から専門研修というのを きっちり組み立てていく必要があるのではないかと考えております。 ☆スライド これは私見でありますが、こういう大学病院を抜きにして、厚生労働省と 一般臨床研修病院が一生懸命進めてまいりましたゆがんだ形、これは本来の姿に戻すこ とが非常に重要であります。いまのままでは絶対に駄目です。もともと日本の制度は、 厚労省、文科省の縦割行政の犠牲でありますけれども、このねじれの被害者はやがて国 民にかかってきますし、若手医師の成長に悪影響を及ぼすわけであります。このままで は絶対に駄目です。ここでなんとかしなければいけない、というのは確実であります。  もう1つは地域医療をどうするかであります。これを防ぐために、ここらで厚労省も 大学病院も一緒になって、あくまでも大学病院を中心に据えた、若手医師の初期研修か ら専門研修というのを本気でつくっていく時期が来たのではないか。 ☆スライド 信州大学でも一生懸命考えていて、こういう2つのプログラムを作ってお ります。 ☆スライド もともとたすきがけの初期研修1本で始めました。長野県内には信州大学 1つしかないということもあり、19の関連病院にすぐ集まってもらい、たちどころに良 い研修システムができたのではないか。非常に人気があり、たくさんの研修医が集まっ てくれています。  救急研修は2年目に行っており、ある程度実力が付いて救急ができるので、非常に実 力が付きます。これはお勧めです。 ☆スライド 19の関連病院ですが、主要な関連病院は全部入っていて、こういう所をた すきがけしております。 ☆スライド いずれの病院も教育熱心な指導医がおりますし、大学と関連病院を結ぶネ ットで同時方向で講演をしております。全研修医がICLSを修了するシステムをつくって おります。実績として、地方大学としてはまずまずの数、定員には及びませんけれども、 マッチングよりも、国家試験に落ちて少し減っておりますが40名、48名、3年目でちょ っと減ったので、新しいプログラムを作って、41名ということでまずまずの数で頑張っ ているところであります。  県内の関連病院でも独自のプログラムで頑張っていて、長野県全体で約100名の研修 医が来ております。これが全部残っているといいのだけれども、3年目から県外へ出ら れる方もいますので厳しいところであります。 ☆スライド たすきがけだけでは駄目だということで、今年度から新しいプログラムを 開始いたしました。学生時代に、できるだけ将来のことをよく考えてくれと言っており ます。その考えたとおりにプログラム、もちろんプライマリケア研修を最優先するのだ けれども、それ以外に専門研修を見据えたプログラムを自分で作れますよということを 始めました。 ☆スライド 信州大学は2年間のプログラムなのですけれども、途中で市内のいろいろ な病院での院外研修も可能であります。 ☆スライド 例えば、循環器内科を目指すのなら、まず最初に自分の行きたいと思った 所に入り、オリエンテーション等を受けます。将来入局ということも一応考えておりま す。それ以外に院外研修で、いろいろなコモンディジーズをいっぱい勉強してくる。外 科研修では、心臓血管外科が非常に役立つだろう。近場なので呼吸器内科、放射線科と いうことも研修する。こういった内科、外科の研修をし、2年目に救急を行い、麻酔科 へも行ったらいいのではないか、このように自分で考えてもらって組み立てるというプ ログラムを開始しております。  総合内科を目指す場合には、消化器内科が中心なのではないかということで、まず消 化器内科へ行ってみよう。外科は院外でいろいろなコモンディジーズをいっぱいやって くる。その後は呼吸器内科と。たくさん回りたい人のために、単位を1.5か月に区切り ました。呼吸器内科、腎臓内科、循環器を回り、院外研修、もう一回コモンディジーズ をやって、そして救急もやってと。しかし、総合内科医というのは、ずっと総合でいる 人はいないのです。そういう人、何でもできるのだけれども、何もできない。そういう のではなくて、やはりどこかで専門研修に入り、どこかの内科で深く根を下ろすことに よって枝も広げて、本当の真の総合内科になってほしいということで、やはりここで専 門研修も必要であります。 ☆スライド 外科系の場合、消化器外科を目指す場合、消化器外科にまず行って、院外 研修で消化器内科をやったらいいのではないか、放射線科と自分で組み立ててもらって やってもらうということであります。 ☆スライド 結論であります。基本的には、これまで厚労省が主体となって進めてきて いただきました、プライマリケア習得は非常に重要なことであります。国民も求めてお ります。私たちもそれに対応して産婦人科としても頑張りますし、信州大学も頑張りま す。充実させていきたいと念願しております。  しかしながら、ローテーション研修の欠点を補うために、また地方の若手医師の確保 を回復するために、将来の専門性を明確にした上での初期研修というものが非常に重要 であります。モチベーションを保つためにも重要なことではないかと考えております。  大学としてはもちろん、文部科学省とも一生懸命やっていきます。いま国民が本当に 求めているのは、厚労省、大学病院が一緒になって研修システムを作っていくことだと いう気がいたします。  プライマリケア修得の理念を保ち、かつ一人ひとりの研修医が将来の夢を明確に持ち ながら生き生きと研修し、真の実力を身につけるシステムへ。そしてここが大事であり ますが、厚労省と大病院が手を取り合って、本当に質の高い医師を今後育てていくとい う時代がそこに来たのであると考えております。以上です。 ○部会長 ありがとうございました。小西参考人から大変力強いご説明をいただきまし たが、委員の先生方からご意見、ご質問はございますか。 ○山下委員 山形大学の山下です。非常に感銘を受けました。特に今後の問題点として、 将来性を見据えた初期研修のプログラムを工夫されているということですが、いまは制 度上の制限があって、これを制度上大きく変えていく必要があるのではないかと思って いるのですが、先生のご意見と、どういうふうにすれば若い人のモチベーションを高め られるのか、プログラムの自由度といいますか、そういう選択をやる場合の制度的な制 限をもう少し変えたほうがいいのではないかというご意見があればお聞かせいただきた いのです。 ○小西参考人 そういうふうにしていただければと思っております。いま現在は、あく までも初期臨床研修のプライマリケアを踏み外さない中で、学生にはできるだけ将来を 考えてくれと。もちろんそこで決めるわけではない。しかしながらいま決めて、決める 中で将来のしっかりした目標とした上で、2年間過ごしたほうがずっとやりがいもあっ ていいよ、ということを一生懸命勧めております。そういう意味合いで個々の大学へは 行きますけれども、そういうことを全体のシステムとして時期的な問題はあると思いま すが取り入れていただければと考えます。 ○矢崎委員 先ほど、厚労省と一体化した臨床研修研究会が主導のねじれというお話が ありました。ちょっと誤解があるのは、これは25年の歴史がありまして、国立国際医療 センターが中心となり、インターン制度のあった後、やはり何か問題があるのではない か。卒後の臨床研修をどうあるべきか、ということを議論したそもそもの研究会です。 その当時は、大学の先生に声をかけても、大学の先生は今とは逆で、金持ち喧嘩せずと いうことで、そんな議論する必要はない、というような感覚で来られて、それが必修化 になって、突然こういうことになったので、そういうことではないということを一言申 し上げたいと思います。 ○小西参考人 よく存じ上げておりまして、いつもご講演を拝聴しておりますので理解 しております。ただ、私たちも切羽詰まってまいりまして、いろいろアイディアを出さ なければ、あるいは地域にコミットしていかなければいけないということが非常に仕事 が増えてきています。 ○長尾委員 過酷な勤務条件ということで、臨床研修の初期研修はないほうがいいとお っしゃるのかと思ったらそうではなかったということで安心しました。産婦人科の件数 が減ってきている、それから診療所等拠点のあった所も減ってきているということで、 いま臨床研修病院としての分娩数の制限という規定があります。そういったものがクリ アできる所はだんだん減ってくるということは考えられているのでしょうか。それとも、 もう少しそういうものも見直す必要があるということも考えているのでしょうか。 ○小西参考人 産婦人科は、勤務医の数がどんどん減っておりますので、病院で分娩す る数も限られてきております。しかしながら、どこかでお産をしてもらわなければいけ ないということで、病院としては数を受け入れざるを得ません。そのために、周辺の行 政等に協力を仰いでベッド数を確保したりしています。勤務が過酷になりますので、妊 婦検診は開業の先生にお願いをして、分娩は病院で行うという業務分担という形で緊急 避難的にやっていかざるを得ない。そういう政策を各地域で展開していて、なんとか国 民の皆様に迷惑をかけないように頑張りたいと思っております。 ○山口委員 ときどき伺うお話は、初期研修で産婦人科を回ったために希望者が過激な 勤務実態を見て減ったと。そのことについてはどうお考えですか。 ○小西参考人 回ったからといって、産婦人科研修をやめてくれとは申し上げておりま せん。いまの2年間の研修が続く以上産婦人科は頑張って、その魅力を訴え続けるとい う覚悟であります。ただ、その中で勤務に見合った正当な処遇をしていただきたい。産 婦人科だけではなくて、外科も小児科も減っております。外科全般が減っていて、これ も看過できない事実であります。  これまでは、同じ卒業年だと、同じ病院の中で、同じ給料だということでやってきま したけれども、今後それは変わっていくべきであります。少ない所は厚くして人を増や してもらって、また元に戻ればだんだん変わってくるという資本主義の論理がうまく提 供されるという形でお願いしたいと考えております。そういうことで一生懸命努力すれ ば、回復していくと信じております。 ○部会長 まさに先ほどのプレゼンテーションで指摘されたように、過酷ということを 知らなくて入ったということと、勤務条件が悪いという問題が浮き彫りになっているの は臨床研修とは別です。そういう問題があったことは確かだと思いますが、全く別なの で、騙されて入ったという、昔がおかしかったと思います。 ○小西参考人 入ったら、こんなにしんどいとは思わなかったとみんな言っていました。 ○吉田委員 いまの話題に関連するのですが、新臨床研修医制度が発足する前から、産 婦人科の入局者は10年ぐらい前からずっと減ってきているわけでしょう。だから、新臨 床研修医制度は多少それに加速したかもしれないけれども、それがすべて諸悪の根源の ごとく先生はおっしゃらなかったけれども、それを言ったらちょっと間違いであります。 それは産婦人科に限らず、外科系は全部そうだし、そういう大きな時代の流れとか、傾 向というのはあるわけなのです。そこのところを少しはっきりと区別するのは難しいか もしれないけれども、いまの産婦人科医療の不足というのは、新臨床研修医制度が大き な原因であるかのごとく言うのは少し間違っているのではないかと思うのです。 ○小西参考人 2年間入局がありませんでしたので、700名がいま不足したのは間違いな いです。ただ、産婦人科もプライマリケア研修というのは大事だ、というのはほとんど 100%認めておりますので、元へ戻そうとは思っていませんし、一生懸命これをやろうと 思っています。ただ、産婦人科の厳しさというのが実感できるようになったのも事実で あります。 ○長尾委員 先ほどの問題で、産科、小児科というのは象徴的な科だということで、病 院全体の医師数が足りないということははっきりしているわけです。実際のOECDのデー タにしても、日本の医師数はOECDの平均の3分の2しかないという状況があるわけです。 ですから、今回の臨床研修医制度がトリガーになったことは事実でしょうけれども、産 科、小児科というのは、全体の病院の医師の非常に象徴的なものであると私は認識して おります。 ○部会長 それでは、次に内山参考人から説明をお願いいたします。 ○内山参考人 新潟大学小児科の内山です。現在、医学部長を務めております。本日は、 小児医療と卒後研修必修化の影響ということで、話をさせていただきます。小児科学会 からは既に要望書も出ていると思います。私も小児科学会の理事をやっておりますが、 小児科を基本科目に入れてほしいという要望だと思います。屋上階を重ねても、時間が もったいないですので、地方でどんなことをやっているかという話を紹介させていただ きます。  いま、産科の小西先生から熱いお話がありましたが、共通した問題だと思います。 (スライド開始)  まず、新潟県の特徴と小児医療の特殊性について説明させていただきます。委員の皆 様もご存じのように、新潟県は非常に広くて、端から端までが長い県です。道路沿いで 336kmありますし、面積は第5位です。小児人口は全国で14位、そこそこに小児人口は あるのですけれども、小児の人口密度は全国36位になります。非常に細長く、面積の広 い県で、しかも豪雪地帯を抱えているということで、小児医療は広く薄くならざるを得 ないという状況に置かれています。  もう1つの問題点は、豪雪地帯が多く、イメージが非常に悪いようです。私も、東京 の人たちにイメージを聞くと、豪雪だとか、拉致だとか、地震だとかで、我々新潟県民 が考えている数十倍ぐらいの悪いイメージを抱えているようで、他大学からの医師派遣 はほとんどないというのがいちばんの問題点です。小児科だけを言いますと、他大学か ら小児科医を派遣している病院はたった2病院に3名しか来ていません。その一方で、 私どもの小児科から県内の40病院に医師を派遣しています。そのほか県外にも、鶴岡荘 内病院に7名、水戸済生会病院に3名です。  それに加えてもう1つは、医学部の定員数が少ないということです。人口10万人当た りの医学部学生数は新潟県は38位です。  さらに、新潟県における全国の医学部合格者数は毎年大体70人から80人です。とこ ろが、全国の医学部の定員8,000人を人口比で計算すると167人です。つまり、医学部 進学者が、全国平均の半分しかない。もともと医者になる数が半分しかなくて、人口が 多くて、医学部定員が人口比で少なくて、そして他大学から県内の病院に全く医師派遣 がない。ですから、人口10万人当たりの医師数は全国38位です。診療科目別では、小 児科が全国41位、外科が44位、産婦人科が45位と極めて悪戦苦闘しております。  私どもの小児科の卒後教育ですけれども、卒後研修が始まった2年間を除いて、13年 間で、私が教授になってから120名が入局しています。入局というのは悪い言葉だと思 うのですけれども、適当な言葉がありませんので、あえて入局という言葉を使わせてい ただきます。ですから、1年平均で10人近くが小児科を目指してくれています。新潟大 学に残る学生の多い年で20%、少ない年で10%が小児科に入ってくれたことになります。 平均13%ぐらいだと思います。  私どもの小児科の医局員のうち、70数名が私が教授になってから、自らの意思で、好 きなときに好きな所に国内留学、海外留学を果たしております。先ほど、小西先生は後 期研修という言葉は嫌いだとおっしゃっていましたが、研修医というと受け身になって しまう。そのモチベーションの低下が私自身も嫌いなので、後期研修という言葉はあま り使いません。  実際に70数名が国内留学、海外留学したうち、後期研修のうちにも飛び出した人が多 くいます。国内・海外留学させる目的は小児医療のレベルを高めたいということが1つ です。特に、本人のやる気、モチベーションを重視して、希望があった人は全員その次 の年に国内留学・海外留学をさせております。  もう1つは、ほかの大学からあまり新潟県の病院に来ていませんので、意外とみんな 純粋培養なのです。ほかの大学のことをあまり知りません。私も大分に5年いて、あそ こで九州大学の方、熊本大学、長崎大学など周辺の方たちと切磋琢磨しているうちに、 いろいろな大学を知るということは本当に素晴らしいことであると思いました。  うちの小児科医局が全国でトップなわけがない、悪いところがいっぱいある。でも、 良いところもあるはずだ、それを外から見てほしいということも私の1つの目的でした。 その結果、さまざまな大学、研究所、センターを経験して、豊富な知識と技術に加え、 さまざまな考え方を持った人たちが県内にあまねく配置されています。ですから、卒後 研修2年間で、小児科を抜ける人もいましたけれども、卒業のときに小児科と言ってい なかったのが、県内の病院で研修して、小児科というのはこんなに面白いのだと思って 入ってくれた人が、今年は8人のうち5人います。抜けた人は4人でした。  次は、連携強化病院の充実です。関連施設当たりの小児科常勤医師数ですが、1人医 長の病院は減りましたが、関連病院にはまだ13もあります。小児科2人の病院は14に 減り、3人の病院も減りました。その一方で私が教授に就任した平成5年に比べますと、 小児科医4人の病院が増えています。5人から6人の病院も倍に増えました。7人から9 人の病院も1施設から4施設に増えました。つまり、私が教授に就任してからの14年間、 自発的に集約化を進めてきました。  新潟県は、上越、中越、下越に分かれておりますので、それぞれに拠点病院を置くこ とを意識しました。県立新発田病院は、私が教授に就任した14年前には2人しかいなか ったのですけれども、現在は6人います。長岡赤十字病院は、14年前は5人しかいなか ったのが9人で、来年の春には10人にします。NICUもある拠点病院は非常に大事です。  新潟市民病院はもともと大きいのですけれども、13人に増やしました。県立中央病院 は、3人から7人に増やしまして、その間周辺の1人体制の2病院の小児科を廃止して おります。ですから、こういう病院の院長先生が、小児科医を欲しいということになり ますと、新潟県も小児科の欠員の病院がまだこれだけあるという統計になって出てくる のですが、一方でこのようにどんどん人数を増やしてまいりました。  あとは、県内の小児救急医療体制にも協力してきました。上・中・下越に分けて、下 越は新発田病院を中心に、平日の5時半から10時半まで、内科医、小児科医がプライマ リケアに当たって、二次病院は新発田病院に運ぶ。新潟市は、私が教授になる前から始 まっておりましたけれども、大学も診療所に人を出し、さらに二次輪番として救急を引 き受けるようにしました。  長岡、中越は去年から、平日の午後7時から10時まで、小児科医だけでプライマリケ アをやっています。長岡市内だけで、病院の勤務医が17人います。あと小千谷に4人い て、その全員がこの救急体制に参加しています。上越地区は、医師会の先生方が主導で 話を進めてくださって、内科医を入れて一次救急をやるという話がスタートしたころだ と思います。それまでは、県立中央病院の7人の小児科医が、プライマリケアから三次 救急まですべてやっていたような状況でした。私も非常に心を痛めていました。  こんなに頑張ってやってきたのですけれども、人口10万人当たりの小児科医の数は全 国で41位で、全く足りません。  臨床研修制度がどのような影響を与えたか。県内全体のマッチング数が落ちてきてい ます。特に、大学が激減している、県内の地域医療を考える上でも、それから医学部長 として、今後の大学院の運営等を考える上でも極めて頭の痛い問題で、非常に危機感を 持っております。  県内の初期研修医の出身高校ですけれども、特に県外の高校出身者が非常に少なくな ってきています。やはり、地元に帰る傾向が非常に強いです。新潟県の場合は先ほども 言いましたように、毎年医学部に入る進学者数が、全国平均の半分であるといったこと から、いくら戻ってきてくれても数は高が知れています。  なぜ県内に初期研修医が少ないかということですが、都会志向である、有名病院志向 であるということが挙げられます。大学病院の不人気については、私どもも臨床研修セ ンターを中心に、あるいは教授会でも体制の改善を進行中であります。  この研修制度に関連した今後の課題ですけれども、やはり小児科医確保の危機という のは私も感じております。去年9人、今年8人の入局があり全国から見ると恵まれてい るのですけれども、私から見ると私どもの平均を下回っている。それにもかかわらず、 中堅クラスの開業が続いている。また卒業後、県内に残る学生数が減少の一途を辿って おります。県内に残る集団が少なければ、当然小児科に来る数も少ないということが予 測されます。そうかといって、県外に出た人が全員幸せになっているかというと、それ はそうでもない。是非マッチングに地域性の導入をしてほしい。私は臨床研修制度はい い制度だと思います。その中でマッチングに地域性を導入してもらえないか、これが私 の希望です。できたらアメリカのように科別の割当てをやっていただければありがたい のですが、先の先の話になると思います。  小児科学会の調査では小児科医は3割減っている。厚労省の平成17年度の調査は残念 ながら回答率が40%ちょっとで、小児科の希望者が3位でした。ただ、小児科医という のはもともと真面目で私のような小心者が多いですから、ああいうアンケートがくると 真っ先に答えます。ですから、4割の回答率ですと、小児科医になる人は真っ先に答え たと私は思っています。小児科学会の入会調査では3割減です。ですから小児科学会の 会議に出ますと非常に暗い話、寂しい話ばかりです。  自治体の医師派遣機能、地域医療対策協議会ができましたが、これにもう少し実効性 をもたせてもらえたらと思います。加えて、全国的な医師配置計画を絡み合わせてやっ ていただきたいと思います。大学の医局だけで県内医療を担うのは、もうとても無理だ と思います。  最後のスライドになりますが、これは私の個人的な要望です。小児科、産科などは独 立した別立ての研修方式にしていただけないか、これが最大の希望です。他科にまたが る何でもやれる医師は必要だと思います。聖路加院長の福井先生がデータを出されてい ましたが、研修制度が始まってから、前立腺の触診にせよ、産科の妊娠の初期徴候にせ よ、いろいろなことがやれる医師が増えたのは非常に素晴らしいことだと思います。し かし、小児科医を選ぶドクターは、妊娠徴候がわかる必要は何もありません。前立腺癌 を触診できる必要は何もありません。むしろ小児科の中で特化した何でもやれる医師が 望まれていると私は思っています。  ですから、例えば小児科を前提に皮膚科でアトピーを診てきたり、耳鼻科で中耳炎を 診てきたり、そんなローテートができたら、素晴らしい小児科医ができるのではないか と思います。産科もそうですけれども、小児科は女性医師の活用が不可欠です。ただ、 去年はじめて過半数の女性医師を迎え入れたのですが、研修終了直後に結婚されたり妊 娠される女性医師が多いのです。以前のように2年間小児科をやっていると3年目に妊 娠されてもその後、パートタイムで徐々に復帰しながらということができます。しかし、 小児科医を目指しているにもかかわらず、初期研修2年を終わってから妊娠された方が 小児科医としてのトレーニングをいつ、どのように始めたらいいのか、私も真剣に考え ています。  ですから、小児科医を目指す女性医師というのは、早期に育成してあげることが大事 なのではないかと思います。もちろんこれでもって終わるわけではないのですが、2年 間しっかりと小児科を研修しましたら、緊急のプライマリケアはこなせる、さらに大き な病院に重大疾患を判断して送る、それは十分にできます。  そうすると、その後はパートで復帰したりということもできるし、女性医師の活用に もつながるのではないかと思います。先ほど小西先生もおっしゃっていましたが、私自 身も後期研修という言葉が嫌いです。だから、研修医にいつも言うのは「後期研修は皆 さん自分で考えなさい。皆さんがもし自分で考えたのだったら、そのとおりにしてあげ る。その中に国内留学、海外留学もある」と。ですから、例えばうちの神経グループは 全員が武蔵神経センターに2年行っていますし、新生児グループはほとんど全員が女子 医大の周産母子センターに行っています。循環器グループは全員が国循に2年間行って おりまして、さらに希望があればその後、トロント小児病院に送り込んでいます。みん なそれぞれ後期研修の間に自分のやりたいことを考えて、自分で動いています。海外や 国内の研修は先ほども言いましたように他のことより優先しています。本人のモチベー ションをまず上げてやりたい。ですから、15年間、誰1人も断っていません。留学の申 し出はすべてその場でオーケーして、あと私が海外の病院を探すか、本人が探すか。国 内は私の仕事は推薦状を書くことだけでそれ以外は何もなく、逆を言えば楽をしていま す。非常にありがたいと思っています。  いまの研修制度は良い点はいっぱいあります。先ほども言いましたように何でもやれ る医師は絶対に世の中に必要です。良い点はいっぱいあるのだけれども、是非小児科、 産科等は別立ての研修を考えていただけるとありがたいと思います。ご清聴ありがとう ございました。    (スライド終了) ○部会長 ありがとうございました。それでは内山参考人のご説明について、委員の方 から何かご意見、ご質問はございませんでしょうか。いかがでしょうか。 ○吉田委員 2つあります。1つは質問です。後期臨床研修という名前は適当ではないと、 これはいままで何度も議論をしたことがあって、矢崎委員などとも何回も議論したこと があるのですが、これを別にどのように呼べばいいか、先生はどう呼ぶのがいちばん適 当とお考えかということが1点です。  2点目はマッチングに地域性を導入ということですが、これをもう少し具体的に言う とどのようにやればマッチングに地域性を導入ができるかどうか、その2点についてど うお考えでしょうか。 ○内山参考人 ご質問をありがとうございます。後期研修という言葉に対しては、確か に先生がおっしゃるようにどういったらいいか、良い言葉が浮かびません。個人的には 生涯研修の初期研修ぐらいに考えています。ただ、研修という言葉でもって、彼らは3 年間の後期研修プログラムで、5年1区切りのゴールを置いている、私が気に入らない のはそこだけなのです。後期研修というのはあくまでも生涯研修のスタートですという 概念なりモチベーションを上げるようなフレーズを、とにかくこれで終わりではないの ですということをしょっちゅう何かのときに言っていただければ、それでいいのではな いかという気はしています。後期研修を説明するキーワードの中に、皆さんがこれから 研修をしていく上で、いちばん大事なスタートの研修です。自分の将来の研修について 考えながら、自分にいちばん必要なのは何かということで考えて、研修を進めてくださ いと。そんなふうな、とにかくモチベーションを上げるような何かを考えていただけれ ばいいのではないかという気がしています。  それからマッチングの地域性導入云々ですが、都会の病院の定員が多すぎると思いま す。うちの卒業生に聞くと、ちょっと外を見てみたい、いろいろな所を見てみたいと。 それはいいことだと思いますが、受入先が豊富ですから、どこにでも出て行ける。地域 性といっても、特に新潟県に余計によこせということを申すつもりは何もないのですが、 ある程度人口や医師数を考えて、新たに医師になる8,000人に見合うような定員を、各 地域に作っていただけたら地域医療は改善するのではないかと考えます。 ○部会長 よろしいでしょうか。次に小島参考人および関参考人から説明をお願いいた します。 ○小島参考人 精神科七者懇談会、卒後研修問題委員会というのがありまして、その委 員長をしています小島卓也です。それから関健先生が一緒に発表させていただきます。                 (スライド開始)  精神七者懇談会という耳慣れない言葉かと思いますが、ここにありますように7つの 団体が協力して、いろいろな問題に対応しています。精神神経学会、精神医学講座担当 者会議、これは全国の80大学の講座の教授の集まりです。精神科病院協会、今日来られ ている関先生や長尾先生などもこの中に入っています。あと国立精神医療施設長協議会 その他です。この7つの団体が協力して卒後研修をどのようにしていこうかということ を、初めの段階からいろいろ検討してきました。  精神科に対する社会の要請を考えてみますと、かなり大きなものがあると私どもは考 えています。例えばうつ病の自殺、一般科の入院患者の30〜40%が精神科的に見ると精 神疾患の診断名がつくという問題、児童思春期の人達の心の問題、あるいは老人の心の 問題など、さまざまな問題に対応していかなければいけないという状況にあります。  また、この新卒後研修の際にいちばん問題になったのは、各科のプライマリケアをど のようにしていくかということと、もう1つは全人的医療というか、患者の話をよく聞 いて、患者の立場になっていろいろ対応できるような医師を育成する必要があるという この2つが大きな問題ではなかったかと思いますので、そういうことに対してはこの精 神科の研修がどの程度それに応えられるかを考えてやってきました。その結果を評価し たものを今日お話させていただきます。 ☆スライド 大きなアンケートとしては七者懇談会が行った基本研修アンケートと精神 科研修アンケートがあります。まずこれについてお話しします。アンケートをやる場合 にできるだけ無作為に選択すること、できるだけ多施設、多数の研修を終了した人たち の意見を聞きたいということがありました。そういうことでこの最初の基本研修アンケ ートは葉書1枚にいろいろな項目を書いて答えてもらうものです。精神科についてとい うよりも全科についてのアンケートです。817の研修指定病院宛てに9,495通を発送し て、399通を回収して、396名を対象にしました。  平成16年度初期研修医7,372名の5.4%に当たります。その回答者の属性は初期研修 先が大学病院44%、臨床研修病院55%ということで、厚労省が調査したアンケートと大 体ほぼ同じような属性になっています。それで3年後に研修している先が大学が49.7% ということでした。 ☆スライド このアンケートの質問内容は資料3-3のいちばん後ろについています。臨 床研修の到達目標です。患者-医師関係、チーム医療、問題対応能力、安全管理、症例呈 示、医療の社会性が到達目標です。それと経験目標の医療面接を加えた7項目について、 「最もよく学べた」あるいは「比較的よく学べた」科を内科、外科、救急、産婦人科、 小児科、精神科、地域医療の中から選択してもらうというアンケートです。  医療面接についての結果ですが、上から地域医療、精神科、小児科、産婦人科、救急、 外科、内科という形でその結果が出ています。青いのが第1選択で、第2選択も含めた ものが赤の棒で出ています。そうすると、内科がいちばん医療面接はよくできた。その 次が精神科で次が救急という結果が出ています。 ☆スライド 医療の社会性についてはやはり内科が非常に多くて、次に救急、地域、次 が精神科ということで、精神科は4番目でした。このように見ますと、このほか重要な 項目である医師・患者関係、チーム医療が精神科の場合には、あまり評価されていなか ったという結果であります。これは行動目標をただ示して、それをアンケート回答して もらうということでは、なかなか十分には精神科の医師・患者関係の重要性や精神科で コメディカルがいろいろやっているチーム医療について考えが及ばないというか、なか なか理解できなかったのではないか、そのように考えられます。  それと同時に、チーム医療以外は内科が1位でした。これは内科が非常に長い間研修 期間であるということを反映しているのではないかと思います。 ☆スライド これは精神科に特化した研修アンケートです。327の研修指定病院宛てに 6,053通を発送して、802通の回答があり802名が対象になっています。平成16年度の 初期研修7,372名のほぼ11%に当たるという、かなりの人数の回答が得られています。 属性は大学病院、臨床研修病院ということで、現在の研修先は大学が51%です。 ☆スライド 精神科研修のアンケート、これは先ほど示しました資料3-3の後ろについ ていますが、精神科研修の目標22項目について、「そうだ」「大体そうだ」「どちらかと いえばそうだ」と、こういうポジティブな評価と、「どちらかといえばそうでない」「ほ とんどそうでない」「そうでない」というネガティブな評価の6件法で選択しました。精 神科研修の有用度、満足度などについても評価してもらいました。 ☆スライド 研修の時期はほとんど2年目で行っていて93%です。研修期間はほとんど が4週間1カ月で72.4%。6週間ないし2カ月研修する者が22.3%、ありました。 ☆スライド これがその結果です。患者の訴えをすべて受けとめて対応することができ るかという患者の訴えへの真摯な対応になります。よく患者の話を聞いて受けとめるこ と。これを見ますと青が「そうだ」「大体そうだ」「どちらかといえばそうだ」というこ とで、大体82%ぐらいがポジティブに評価されていました。このn(回答者数)が大体 800ぐらいです。精神障害および精神障害者への正しい反応、理解も大体90%近い結果 が得られています。 ☆スライド これがいまの結果も合わせて全人的医療の修得ができたかどうかという質 問に対して、大体82%ぐらいがポジティブに評価されています。次がプライマリケアと してうつ病の診断が大体75%ぐらいです。これは認知症の診断です。この質問では認知 症が診断できて、しかも介護認定の診断書が書けるかどうかということを聞いたために 50%ぐらいに下がっていました。 ☆スライド これはコンサルテーション・リエゾン精神医学、ほかの科に行った場合精 神科に対して連携したり紹介したりすることができるようになりましたかという質問で すが、これも大体80%です。 ☆スライド チーム医療の経験ができましたかということも75%ぐらいでした。精神科 指導医によく指導してもらえましたかという質問です。800近い回答者ですがほとんど 90%近い人達がポジティブな結果を示していました。 ☆スライド 精神科以外の科を回っているときに、精神科の指導医がいろいろ相談にの ってくれましたかという質問です。それに対してやはり70%近くがポジティブに評価し ています。  最後に精神科研修は役に立ちましたかという質問に83%ぐらいが有用と答えていま した。これらをまとめますと、精神科研修アンケートの中で、大きく3つに分けられる かと思います。精神科プライマリケアの修得に関するアンケートで精神科との連携に関 するアンケートも高い評価が得られました。次に患者の訴えへの真摯な対応、精神障害 および精神症状への偏見の除去、そして全人的医療への修得への効果に関する結果です。 これらはこの研修制度の目標でもありますが、それなりにかなりの成果が得られたので はないかと思います。そして、3番目に精神科指導医に対する評価がかなり高くて、精 神科研修の有用度も高かったという、かなり良い結果が得られたのではないかと思いま す。  次にほかの角度からこの研修を見てみたいと思います。日本精神科病院協会と独立行 政法人国立病院機構のアンケートです。目的は修了者における精神科研修の有用性を見 るわけですが、3年目の勤務医がどう評価するかということで、精神科病院協会の関係 の12病院と、4つの大学病院で質問しました。数はこのようなものです。 ☆スライド 調査の対象者は、2年間の卒後研修が終わって3年目の専門の研修を行っ ているわけですが、その科に行って患者の精神症状をどの程度経験したか、どういう精 神疾患を経験したか、現在の診療科医師になって自分で治療した精神疾患、精神科医に 相談した精神症状や疾患、あるいは紹介したもの。最後にこの精神科研修が3年目以降 の実際の日常臨床に役立っているかどうか。このようなアンケートを行いました。 ☆スライド こちらが精神科病院協会で、こちらが大学病院ですが、精神科病院協会は 協力病院が100%、大学病院は50%になっています。大体1カ月の研修がほとんどです。 ☆スライド 診療科は精神科以外のさまざまな科にわたります。 ☆スライド ここで経験した精神症状と身体症状は、精神科病院協会、これは大学病院 ですが、不眠が81%、不安が76%、抑うつが74%、不穏が72%、せん妄という順番に なっており、大学病院でも大体同じような順番になっています。 ☆スライド 経験した精神疾患です。認知症、気分障害、統合失調症、不安障害で、大 学病院も大体同じような順番になっています。この3つは臨床研修で経験すべき疾患と してA項目に入っている疾患で、これから見てもこの3つの疾患は重要であることがわ かるかと思います。ほかの科でもそのように経験しています。この精神科研修は現在の 日常診療に役立っているかどうかということで、「大いに役立っている」が34%で、「や や役立っている」が53%。「有用」と書いた人は87%。大学病院中心では「やや役立っ ている」がこの程度で、66%が「有用」となっています。  3番目の評価ですが、これは肥前精神医療センターという1つの大きな精神科の病院 で、ここの研修医についてまとめてみました。平成17年度が43名、18年度が44名、 合わせて87名の研修医について無記名で研修前後でどうかということを評価していま す。 ☆スライド これは精神科の臨床研修を行うことは医師になる上で重要ですかという質 問です。「全く思わない」から「強く思う」まで、順番になっています。縦軸が人数です。 研修前が青で、研修後が紫です。研修後に「やや強く思う」が増えて、右にシフトして いるのがおわかりになるかと思います。 ☆スライド 精神科の臨床研修に興味が深いかどうかという質問ですが、「ある程度思 う」がこちらにかなりシフトして、研修を行うことによって興味が深まっていることが わかります。 ☆スライド もう1つ重要なことは、先ほどのご報告にありましたように、かなり精神 的な問題を抱えている研修医がいる場合があるので、それに対してきちんと対応する必 要があるだろうと言われていますが、実際にどれぐらいあるかを調べました。自分自身 の現在の心理状態や精神状態に問題があるとしたものが「ある程度思う」、「やや思う」 「強く思う」が13人でした。 ☆スライド あなたは最近1年間に1週間以上うつ状態になったことがありますかとい うことで、「ある」と答えたのが87名中の18名で、20%近くがうつ状態の問題を抱えて います。これはきちんと対応しないといけない問題ではないか。先ほどアンケートにも ありましたように、ほかの科に行ったときでも、精神科の指導医が相談にのっているか どうかに対してのアンケートで、70%ぐらい相談にのってもらったというのが出ている のは、それを表しているのではないかと思います。 ☆スライド 以上のようなある程度私どもとしてはいい評価が得られたのではないかと 思っていますが、どうしてこのような結果が得られたのかということを少し考えてみた いと思います。私たちは精神科臨床研修指導医の養成についてかなり力を入れてきまし た。 ☆スライド これが七者懇談会臨床研修指導医講習会の実施の体制です。精神科七者懇 談会卒後研修問題委員会はいま私が委員長をしておりますが、その下に精神科七者懇談 会臨床研修指導医講習会運営委員会というのをつくりまして、私が委員長で関先生が副 委員長で運営してきました。そして全国を8地区に分けまして、2日間にわたる厚労省 が指定している講習会をやりました。 ☆スライド 16年度が1,151名、17年度が391名、18年度が179名、合わせて1,832 名の人たちが講習会を修了して指導医として指導してもらいました。 ☆スライド これは厚労省がつくられた臨床研修指導ガイドラインです。これも非常に 重要で指導医がこれを参考にして指導しています。それに対して私どもは積極的に協力 しました。 ☆スライド 例えば行動目標の患者・医師関係は水木先生で、赤で書いたのが精神科関 連ですがこのような説明解説を加えています。 ☆スライド 精神疾患についてのガイドラインをこのような形でつくりました。 ☆スライド 精神保健・医療についても関先生が書かれています。 ☆スライド 最後にこのようなもう1つの方法として、ビデオ教材をつくりました。 ☆スライド これは丸善でつくった全科に向けてのビジュアルプログラムで、DVD25巻 ありますが、そのうち3つが医療面接、精神疾患の診断と治療、サイコセラピーという 精神科関係のものです。これだけでは少なすぎるので、精神科でもう少しきちんとした ものをつくろうということになりました。 ☆スライド 中島映像というところに頼んで、主に講座担当者会議が中心になり、各大 学の教授たちが協力して14巻の「DVDで学ぶ精神科医療の基本」をつくりました。各施 設でこのDVDを見ながら指導医が実際に指導をしました。  最後のまとめです。平成16年度から17年度の研修医に対して、18年度にアンケート によるアウトカム評価を行いました。精神科プライマリケアの研修効果が挙がって、自 ら専門科に進んだ後でも、精神疾患の診察を行い、精神科医との連携、紹介を実際に行 っているという結果が得られました。  精神疾患および患者への偏見が減少し、いろいろな患者の話をよく聞いて、心の面か らも理解しようとする姿勢が見られ、全人的な医療への基盤形成に役立っている可能性 が高いことがわかりました。精神科指導医に対する評価、精神科研修の有用度が高値を 示していました。精神科の研修期間は1カ月が多いのですが、2カ月以上のところもあ ります。そうすると、満足度・有用度・参加度がかなり上がっているので、できれば2 カ月は必要だろうと思われました。  研修期間中、約2割の研修医が精神的問題、うつ状態などを経験しており、これには 精神科研修アンケート結果にあるように精神科指導医のサポートが有用と考えられまし た。  以上の成果が得られた理由としては、精神科臨床研修指導医講習会を全国的に開催し て、修了者が1,832名あったこと、厚労省の指導ガイドライン作成に協力したこと、指 導用のDVD14巻の作成、精神神経医学会を中心にした学会で、指導医用のシンポジウム を頻回に行って、指導医の機運を盛り上げた、これらがかなり役立ったのではないかと 思います。 ○部会長 小島参考人、関参考人、どうもありがとうございました。いまから20分ちょ っとありますが、いまのご発表も含めて自由に討論をしていただきたいと思います。 ○山下委員 2割がうつ状態というデータはちょっとショッキングだったのですが、原 因というか、どういう要因でなっているか、同年代と比べて特に多いのか、その辺をち ょっと教えてください。 ○小島参考人 いままで大学で勉強していた人たちがいろいろな科を回るということは、 それぞれの科で特徴がありますし、人間関係やいろいろな研修があるわけで、それをこ なしていくのは、かなりストレスが大きい。それに対する対処がうまくいかないとこの ようになっていくのではないかと思います。うつ状態が20%が多いかどうか、一般の人 のうつ状態はこんなには高くはないです。こういう人たちのうつ状態は研修過程の一時 的なものだとは思うので、その間をうまくサポートしてのり切っていただけるようなシ ステムが必要ではないかと思います。 ○部会長 いまのに関連するのですが、同じ年代といいますか、このぐらいの年ごろで、 例えば企業でも入ればストレスはありますね。そういうグループに比べて多いかどうか を知りたいのです。 ○小島参考人 それぞれの企業でメンタルヘルスに対する試みをやっていると思います。 今回の場合アンケートなので詳しい内情がわかりませんので、例えばいろいろなストレ スに対する一過性の反応の場合もありましょうし、うつ病になりかかっているものもあ るかもしれません。そのようなことがわかっていないので比較は難しいのですが、今回 のうつ状態は普通の企業よりも少し多いかという感じを持っています。 ○関参考人 個人の脆弱性と環境要因というよりも研修のカリキュラムの内容がたぶん 関係していると思います。自由に記載している意見欄などを見ますと、いちばん大きい のはカリキュラムの問題だと思うのです。ですから、どこの科に行ってもそこのカリキ ュラムがきちんとできていて、それがよければこういう問題は起こらないと理解できま す。それはやはり指導医の対応、要するに教育がきちんとできない指導員がいることが 背景にあるのではないかと思います。 ○内山参考人 いまのことに関連して、実際にそれで研修が継続できなかった人という のはどのぐらいいるか、実数をお持ちですか。それからもう1点お聞きしたいのですが、 精神科では特に他科に進む人たちにとって精神科の救急がすごく大事だと思うのですが、 その点について何かコメントがありましたらお願いします。 ○小島参考人 あとのほうからお答えします。精神科の救急、これはとても重要な経験 だと思います。他の科に行った場合そういう場面で精神科の疾患及び患者に対応したと いう経験が役に立つと思います。精神科の救急の場合、主に通院中の外来患者が夜間に くるソフト救急、主に興奮状態の患者が来て入院させるハード救急、救急救命センター で精神科医が一緒に診る救急などがあります。  次に実際にいろいろ問題になっているケースがどれくらいあるか、さらに具合が悪く なって休んでしまったりというケースがどのくらいあるかというのは、まだつかめてお りませんが、私の大学の経験などからしても、ある程度の数は出ています。 ○部会長 いまの点で事務局、何かありますか。 ○医師臨床研修専門官 中断者に関してすべてどういう理由かは押さえていないのです が、一定数の方はいろいろな理由で、例えば海外へ行かれる間や出産も含めて1%から 2%の方がそのままストレートにいかない方がおられるのは把握していますが、細かい数 字や理由は把握していません。 ○関参考人 精神科の救急はいわゆる精神科にも二次、あるいは三次というシステムも あり、大学病院は二次はやっていないのですが一般の我々のような病院では二次の救急 があるので、我々の所に来る研修医はそこで救急を経験します。いわゆる一般の救急の 中で精神的な問題、例えば自殺企図を含めたものはかなりのパーセンテージがありまし て、おそらく80%ぐらいが何らかの問題をもっていると言われていますので、1年目の 救急の中で経験する必要があることと、そこに精神科医の関与があるのが望ましいと思 います。 ○部会長 そうしますと、初期の研修の期間に1カ月とか2カ月が望ましいのですが、 精神科の研修を経験することが非常に有用であるという評価と考えてよろしいでしょう か。 ○関参考人 これは1年目の評価なものですから、今後も5年、10年先にどのように役 に立つのかはフォローしなければいけないと思っています。 ○部会長 それではどんな点でも結構ですから、あと15分ですが、自由に伺いたいと思 いますがいかがですか。 ○矢崎委員 この研修部会でまだ検討していない項目で、是非取り上げていただきたい のがあります。それはほかの会ですでに議論の対象になっている研修プログラムの定員 数についてご議論いただければと思います。資料6にあるように現状を見ますとプログ ラムの定員数が1万1,306名で採用実績は防衛大学、自治医科大学などを除いた数で 7,560名、実質採用者に比べてプログラムの定員が極めて大きいです。これを見直すこ とを2点から申し上げたいと思います。1点目は極めて研修医から見ると売り手市場の 状況があって、先ほどお聞きしますと厳しい指導で有名な内山先生でさえ、すごく気を 使って対応されているということで、学生が特に大型の研修病院では医師免許証を取っ て一人前の医師になっているのに、何かみんなで楽しく勉強しようという学生気分が抜 け切れていない。2年終わった段階ではじめて自分の将来をどうしようか考える。昔医 学部を卒業したときに考える状況が2年延びている状況があるのではないか。医学部の 8年制みたいな傾向になりつつあるのではないか。研修医のモチベーションやモラルの 低下があるのではないかという意見を聞きます。  この研修の目的の1つの医師としての資質の向上の中に、医師は健康保険、公費で行 う部分が多いわけですから、医師の社会的責任は極めて大きい。ですから医師は何を学 び、社会にどう尽くすかを十分に実感するのが初期研修、卒後研修のいちばん大きな項 目であるのに、そこが欠けているので、もう少し研修医に医師のあり方、学び方をしっ かり教えるような環境を少し緊張感のある厳しい環境をつくらないといけないのではな いか。いまのような売り手市場の状況が、それだけではないですが、1つの課題ではな いかというのが1点目です。  2点目はこのような売り手市場にあって、個々の研修医が自分の希望で決められるシ ステムは、最初は他流試合をすべきだ、大学の打破だという意見がものすごく強くてこ ういう制度になったと思います。個人の判断ですと正確な情報が必ずしも伝わらない。 いまメンタルヘルスの課題がありましたが、関先生はいみじくもカリキュラム、指導体 制がしっかりしていないからということもあって、厚労省がプログラムを認定していま すが、もう少し情報を共有できるようなシステムがなければいけないのではないかと思 います。その際には長く大学で教育している先生方が、もう少し指導力を発揮するシス テムがあってもいいのではないか。昔の大学はなぜ問題になったかというと、個人個人 の教授が「この病院に行きたまえ」となっていましたが、いまお話にありましたように 各大学が科を超えて病院、医学部全体で学生をどうするかを考えておられる大学が極め て多いので、是非大学および地域の中核の病院と一緒になって、この研修制度を考え直 す必要があるのではないか。  1点目の売り手市場で何が起こっているかというと、研修医が大事だと。そうすると 皺寄せが指導医、あるいはその上のクラスの医師にかかってくる。そのために2年間は いいのですがその上のクラスが非常に過酷な状況になっているので、病院からの立ち去 り現象が起こっていることもあると思います。ですから、もう少しトータルの病院の医 師のあり方を考えながら、臨床研修制度を立ち上げて、もう一度研修プログラムの定員 数を考え直す必要があるのではないか。そのときには大学の先生のご協力を得ないと全 然できません。特に先ほどから議題になった有名病院、有名大学に研修医がたくさん集 まる。  例えば卒業の学生数以上のたくさんの研修医を集めているのは現実にはそこと関連し た病院で、独自で研修医が集められない病院がそういうブランドを頼って来る人たちか ら研修を受け持っているようなところがある。それをすぐにやめなさいというのは大学 にとっても大きな方向転換になりますので、一度に定員をドンと下げるのではなく、徐々 にきちんと全体で考え直してやっていかないと、いまの状況では折角つくった医師臨床 研修制度がいつまで経ってもそのためにこういう病院の医療の崩壊の諸悪の根源だと言 われ続けるのは大変辛いので、基本的な課題から考え直して、少し大学の先生方にもご 協力をいただきながら、特に地方の大学はいま財政制度諮問会議や審議会などで国立大 学の運営交付金を実績に見合わせて下げる。交付金が2倍になる大学と1割ぐらいにな ってしまう大学と、極端な議論もあります。そうすると地方の大学の医学部、大学病院 の崩壊につながる。これを何とかしないと、崩壊すれば地域の経済、文化、教育全体に 及ぼす影響が大きいので、是非そういう視点からも、大学の先生方も考え直してほしい。 だけど、まだまだ大学の先生方は自分がこうするのがいちばんいいのだという考えの先 生が多い。特に地方の大学にはそういう先生が多いのです。 ○内山参考人 私も多いと思います。 ○矢崎委員 ですから、もっとそこもよく考えて、本当に大学全体で自分の将来を考え て透明性の高いシステムをつくって、日本全体の医療を考える立場に立って、大学の先 生方も是非協力して、プログラムの定員の総数でマッチングの地域性はいろいろな課題 があって実現性は難しいですがやっていただきたい。  今度あまり少なくすると研修医側から、自分の将来を規制するとか、あるいは大学側 からも受験のために最終年度の教育のプログラムが狂うという反対があるかと思います。 ですから、そこを入学試験などではなく共通の個人だけの判断でない、しかも研修医の 立場をよく考えたシステムをつくっていただいて、臨床研修制度が悪い、待遇が悪い、 勤務を何とかしてくれという責任転嫁ではない自助努力、互助努力をやって、何とかこ の研修制度をうまく活用できるようなシステムにしていただきたいということで、プロ グラムの定員を検討会に項目として取り上げていただきたいと思います。 ○大橋委員 私は矢崎委員の言われたことに賛成です。全国医学部長病院長会議の会長 ということを1年前におおせつかりまして、当初先生が言われたように諸悪の根源は研 修制度だという対応をしてきました。大学側にも十分に反省すべきこともありますし、 研修制度によって逆に今日小西参考人が述べましたように、いろいろな意味で自分を見 詰め直して大学のあり方は何なのかを討議させていただきました。その中で、1つはカ リキュラムのあり方を十分に見直すことによって、かなりこれがより良い方向にいくの ではないかということで、大学も協力すべきことは協力するという姿勢に、全国医学部 長病院長会議はなっています。ただ、お願いを申し上げたいのは前回三浦医学教育課長 が申しましたように、もう1つ大事な問題があります。それは大学病院、あるいは医学 部がいままでなしてきたことは高度な医科学研究を推進する部分については、日本の歴 史の中でかなりの役割を果たしてきたと自負しています。そこについてかなり機能的な 問題が生じてきています。これもカリキュラムに前回ありましたようにイギリスにある ようなアカデミックリサーチの部分も研修の一部に入れる形で、臨床系の大学院と組み 直す。最近イノベーション会議から出たように大学院のあり方、あるいは若手の研究者 をどうやって育成していくかも勘案していくことによって、十分いまここから出た研修 医制度がすべて悪いのだという議論を払拭するためのシステムも出てくるかと思うので す。  そういう意味で私どもは全面的に反対云々ということではなく、矢崎委員が言われた ように内容を変えていく形で国民に理解を得る形を、私どもも対応したいと。ですから ざっくばらんに胸襟を開いて、もう一度その辺を整理し直していただきたいというのが 1つです。  もう1つは先ほど言いましたように、地域の大学病院はいま言われたとおり教育・研 究・診療以外にどうしても1県1大にある大学にとってみると、高度な医療センターを 担わないと県民から見放されてしまう。国民から見放されてしまう。それもやらなくて はいけないということに、もう1つ輪をかけて大学の法人化がこれとは関係ないのです が、たまたま期せずして入ったものですから、それが非常に研修制度がすべて悪いとい うところにいっていると思うのです。ですからその辺のところをきちんと整理した形で、 国民全体に将来の質の高い医療が担保されるような議論を、分けてすることによって研 修制度のいいところも国民に理解が得られるのではないかと思うので、是非その辺の整 理をしていただいた上で、学生定員の問題も含めてやっていただければと思っています。 ○部会長 ありがとうございます。大橋先生には大学の中でも研修医を非常に取り過ぎ ている大学もありますので、先生のリーダーシップでそういうところに少し協力しても らって、あまり地域で差が出ないようにできればと思っています。  これで時間となりました。今日は大変多くの貴重なご意見をありがとうございました。 まだ継続して議論したいと思いますが、とりあえず今日はここまでにしまして、論点は 事務局で整理をしていただきたいと思います。では今後の日程をお願いします。 ○医師臨床研修専門官 いま部会長からもいただきましたように本日の内容を事務局で 整理させていただきたいと思います。次回の日程は6月28日(木)10時から12時でお 願いしております。正式なお願いをさせていただこうと思いますが、引き続きこの日の 確保をよろしくお願い申し上げます。事務局からは以上です。 ○部会長 それでは本日は参考人の方々には貴重なご意見を大変ありがとうございまし た。お蔭さまで有意義な議論ができたと思っております。これで終わります。 (照会先)                   厚生労働省医政局医事課                      医師臨床研修推進室                    (代表)03−5253−1111                   (内線4123)