平成19年5月29日 厚生労働省雇用均等・児童家庭局 家庭福祉課 課長補佐 宮腰 奏子(内7883) 児童福祉専門官 川並 利治(内7884) 代表 03-5253-1111 直通 03-3595-2166 |
今後目指すべき児童の社会的養護体制に関する構想検討会中間とりまとめについて
「今後目指すべき児童の社会的養護体制に関する構想検討会」については、本年2月2日に設置され、5月18日まで 9回にわたって現在の社会的養護の課題を整理し、今後目指すべき社会的養護体制のあり方とそれを実現するための 具体的方策について検討を進めてきたところですが、今般、別添のとおり中間とりまとめがまとめられました。
今後目指すべき児童の社会的養護体制に関する構想検討会委員名簿
委員名 | 所属 | |
---|---|---|
奥山 眞紀子 | 国立成育医療センターこころの診療部長 | |
◎ | 柏女 霊峰 | 淑徳大学総合福祉学部社会福祉学科教授 |
榊原 智子 | 読売新聞東京本社生活情報部記者 | |
庄司 順一 | 青山学院大学文学部教授 | |
松風 勝代 | 大阪府健康福祉部児童家庭室家庭支援課長 | |
西沢 哲 | 山梨県立大学人間福祉学部教授 | |
山縣 文治 | 大阪市立大学生活科学部人間福祉学科教授 | |
吉田 恒雄 | 駿河台大学法学部教授 | |
◎座長 | (敬称略、五十音順) |
別添 |
今後目指すべき児童の社会的養護体制に関する構想検討会中間とりまとめ
はじめに
現在の社会的養護を担う体制は戦後の孤児対策以来、その時代の社会的状況を反映した形で構築されてきた。
しかしながら、近年、社会構造やライフスタイルの変化等により、児童相談所における虐待相談対応件数や一時保護を必要とする子どもが増加しており、社会的養護を必要とする子どもの数が増えていると考えられること、虐待等子どもの抱える背景が多様化していること等その社会的状況は大きく変化してきており、このような状況に対応できる体制にすることが強く求められている。
このため、平成15年に社会保障審議会児童部会「社会的養護のあり方に関する専門委員会」が設置され、厚生労働省においては、同年10月にとりまとめられた同委員会の報告に基づき施策を展開してきた。
しかしながら、未だ現行の社会的養護に関する体制は、近年の状況に十分対応できるだけの質・量を備えているとは言い難く、危機的な状況にあり、その抜本的な見直しと本格的な社会的資源の投入が求められている。
本検討会は、このような状況に早急に対応し、今後の目指すべき児童の社会的養護体制に関する構想とともに、その実現のための具体的施策について検討するため、平成19年2月に設置された。今日(5月18日)まで9回の議論を行ってきたところであるが、以下はその中間的なとりまとめである。
なお、「社会的養護」とは、狭義には、里親や施設における養護の提供を意味するが、広義には、レスパイトケアや一時保護、治療的デイケアや家庭支援等、地域における子どもの養育を支える体制を含めて幅広く捉えることができる。本とりまとめにおいては、基本的には、狭義の社会的養護を中心としつつも、広義の意味も視野に入れ、要保護児童とその家族を支える体制全体について議論を行うこととする。
1.今後の社会的養護の基本的方向
(1)社会的養護の必要性
子どもは次世代を担う社会の宝であり、国連の児童権利宣言や児童の権利に関する条約にもあるように、子どもは心身ともに健全に育つ権利を保障されるべきものである。
子どもの養育とは、この権利を実現するため、子どもが安全で安心して暮らすことのできる環境の中で、親を中心とする大人との愛着関係の形成を基本とし、年齢に応じて子どもの自己決定を尊重しつつ、個々の子どもの状態に配慮しながら、生活支援・自立支援を行っていくものである。
子どもは、このような養育を適切に受けることにより、生きていくために必要な意欲や良き人間関係を築くための社会性を獲得し、社会の一員として責任と自覚を持ち、また、親をはじめとする頼ることのできる人の存在を通して、適切な自己イメージとともに生きるための自信を得ていくものである。
こうした「養育」は、家庭を中心として行われてきたが、虐待をはじめとする様々な理由により家庭において適切な養育を受けることのできない子どもについては、子どもの権利擁護を図るとともに、次世代育成支援という観点からも、「子どもは家庭だけではなく地域社会の中で育つ」という認識の下、地域社会が家庭の機能を補いながら、協働して子どもの養育を支え保護していくとともに、家庭の支援を行っていくことが必要である。
ここに、社会的に子どもを養育し保護する「社会的養護」の意義と重要性が存在する。
また、虐待を受けた子どもが十分な支援を受けられないまま親となったときに、自分の子どもを虐待する危険性があるという指摘もあり、このような世代間連鎖を断ち切るためにも、子どもが受けた傷を回復し、良き人生へのスタートを切ることができるよう、社会的養護は十分な機能を果たす必要がある。
なお、社会的養護は、家庭において適切な養育を受けることができない子どもに提供されるものであることから、引き続き、公的責任の下で行われるべきものである。
その上で、従来の供給者主体の発想から、子ども主体の支援体制の構築へと発想の転換を図ることが必要である。
加えて、保護者の状況を踏まえ、国、都道府県、児童相談所、市町村、里親や施設、関係団体等の関係機関等が、それぞれの責任を適切に果たすとともに、関係機関等における連携と協働を緊密なものとすることが必要である。
(2)社会的養護の目指すもの
社会的養護は、子どもが心身ともに健全に発達することを保障し、安定した人格を形成する場を提供することにより、自立した社会人として生活できるようにすることが最大の目的である。そして、社会へ巣立つ際には、社会的養護の下で育った子どもも、他の子どもたちと公平なスタートを切ることができるようにすることが必要である。
「社会的養護」を(1)のようにとらえ、その提供体制を検討するに際し、その目指すもの、すなわち社会的養護が子どもに対して提供すべき支援を整理すると、以下の二つの機能となると考えられる。
<1> 子どもの育ちを保障するための養育機能
基本的にはどの子どもも必ず必要とする生活支援・自立支援の機能であり、すべての子どもに保障されるべきものである。
(1)に述べた「養育」の意義にかんがみれば、家庭的な養育環境の中で特定の支援者との継続的で安定した愛着関係の下、年齢に応じた子どもの自己決定権を尊重しつつ、親子分離に伴う不安等個々の子どもの状態に配慮しながら、生活支援・自立支援を行うことが重要となる。
<2> 適切な養育が提供されなかったこと等により、受けた傷を回復する心理的ケア等の機能
虐待等の様々な背景の下で、適切な養育が受けられないことにより子どもが心身に受けたダメージを癒す機能や、発達障害を始めとする心身に障害等のある子どもの状態に応じて必要な専門的ケアを行う機能である。
社会的養護を必要とする子どもたちは、それぞれに愛着の問題やこころの傷を抱えていることが多い。子どもが適切な愛着関係に基づき他者に対する基本的信頼を獲得し、安定した人格を形成することを保障するため、子どもの発達の状態や抱える課題によって、その必要性の度合いが異なるものの、専門的な知識や技術を有する者によるケアが必要となる。近年の虐待の増加等により、このようなケアを提供する必要性はますます増している。
また、家庭において適切な養育が提供されなかったために心理的ケア等が必要となることや、一定の専門的ケアが必要となる障害等があるにもかかわらず、これが提供されなかったことにより、結果として、家庭における愛着関係の形成がうまくいかず、適切な養育がなされないこと等を踏まえると、<1>と<2>の機能は密接に関連している。
このため、社会的養護を必要とする子どもに対しては、<1>を基本に、<2>を個々の子どもの状態に応じて適切に組み合わせながら、両者が一体的に提供される必要がある。
その提供に当たっては、社会的養護を必要とする子どもがそれぞれに抱える愛着の問題やこころの傷に対するケアを行う必要があるため、これを提供する者には個々の子どもの状態に応じて対応できる専門性が求められる。このため、専門性を確保するための研修や教育が必要となる。(下記イメージ図参照)

さらに、当然のことではあるが、これらの支援の提供に当たっては、教育を受ける権利や必要な医療を受ける権利を含め、子どもにとって必要な権利とその最善の利益が基本に置かれなければならない。
また、通常、どの家庭でも、潜在的には、多かれ少なかれ、子どもの養育に関し何らかの課題を抱えているものであるが、それが深刻化している一つの例が、虐待であると言える。近年、児童相談所における虐待相談対応件数の増加は、養育における課題が深刻かつ顕在化しやすくなっていることを反映していると考えることができる。
このため、家庭において適切な養育を受けることができない子どもに対し、里親や施設による社会的養護を提供することが求められていることはもちろんであるが、同時に、子どもと家族の関係を再構築し、子どもが家庭で生活を送る可能性が高まるよう、養育における課題が深刻化・顕在化した家庭に対して支援を行うことも必要である。
また、家庭における課題が虐待等により深刻化・顕在化する前に、早期発見・早期対応するため、相談支援等、地域において家庭に対する様々な支援の充実を図り、家庭における潜在的な問題に対応できる体制が必要となっている。
(3)現行の社会的養護の課題
近年、児童相談所において虐待相談対応件数や一時保護を必要とする子どもが増加していることは、家庭において適切な養育を受けることができない子どもの数が増加していることの表れであり、その背景には、発達障害をはじめとする援助が必要な子どもへの社会的支援の不足等様々な要因があると考えられる。
また、社会的養護については、家庭的な環境で養育することはもちろんのこと、近年増加している虐待(身体的虐待だけではなくネグレクトや性的虐待も含む)等による心理的・情緒的・行動的課題のある子どもに対する支援、疾患や障害のある子どもへの支援等の一定の専門性を必要とする支援が強く求められており、その対応すべき課題は多様化・複雑化していると言うことができる。
社会的養護は、これを必要とする子どもに対し、個々の子どもの多様な課題を適切にアセスメントした上で、これに対応した支援を様々な手法で行い、社会に巣立つまでを支援していくことがその最も重要な役割である。
しかしながら、現在の社会的養護体制は、家庭的な環境で養護を行っている里親への委託が進んでいないこと、施設におけるケアの単位が大規模であること等により、子どもに対して個別的な対応が十分にはできていないこと、とりわけ虐待を受けた子どもへのケアは愛着関係の形成が重要であるにもかかわらず、密な信頼関係が保障されるケアを行うことが困難であること、里親、施設、児童相談所、市町村やその他の関係機関等の連携が十分に行われていないこと、発達障害や性的虐待等により特別な心理的ケアや治療を必要とする子どもに対する専門的なケアや自立支援に向けた取組が施設において十分実施できていないこと、施設における職員の専門性が子どもの問題の多様性に十分追いついていないこと等、子どもの多様かつ複雑なニーズに十分に対応できるようなものになっていないと考えられる。
また、昨今相次いで起こっている児童養護施設職員による虐待事件に関しては、子どもの抱える課題の複雑さに対応できていない職員の教育や施設におけるケアの体制の問題、自治体の監査体制の問題、施設運営の不透明性等の要因が指摘されており、現行の社会的養護が子どもの権利保障に十分な体制となっていないものと考えられる。
加えて、最近の虐待の増加に関して、早期発見・早期対応といった虐待防止を図るための相談支援や家庭に対する支援も十分ではないと考えられる。
さらに、家庭において適切な養育を受けることができない子どもの増加を踏まえると、社会的養護に関する資源の提供量は不十分であり、危機的な状況にあると考えられる。
今後の社会的養護の提供体制を検討するに当たっては、これらの課題の一つ一つを解決するために、制度全体のあり方を見直し、具体的な対応策を検討していくことが必要である。
(4)社会的養護の充実のための基本的な方向
(3)で掲げる課題を踏まえれば、今後の社会的養護体制の充実のための基本的な方向として、以下のような施策を進める必要がある。
なお、具体的な施策の検討に際しては、支援を行う側からではなく子どもを中心に据えて検討するとともに、「子どもの権利を守る」という権利擁護の視点に立つことが重要である。
- (1)で述べたところを踏まえれば、子どもの養育においては、家庭的な環境の下、地域の中でその個別性を確保しながら、社会へ巣立っていくことができるよう支援していくという観点が重要である。
このため、里親委託を促進し、また、小規模グループ形態の住居・施設、児童養護施設等の施設におけるケア単位の小規模化・地域化をさらに推進する。 - 家庭支援の機能や地域における施設退所後の支援も含め、地域全体で子どもの養育を支える社会的養護の地域ネットワークを確立する。
- (2)で述べたような子どもの課題と支援体制のイメージを踏まえ、子どもの状態に応じた支援体系のあり方について検討する。
- 児童相談所について、子どもの状態を的確に把握し、これに応じた支援を実施するため、アセスメント機能の充実強化を図り、里親や施設に措置された後も、継続的なアセスメントとこれに基づくケアを提供するための体制強化に向けた抜本的な対策を講じる。
- 多様化・複雑化する子どもの課題に的確に対応するため、治療・専門的ケア機能の強化や家庭支援等を行う地域における拠点としての機能の強化等、施設機能を充実する。
- 社会的養護の質の向上を図るに当たっては、これを担う職員及びその専門性の確保のための施策を推進する。
- 社会的養護の最終的な目的は、子どもが自立して社会へ巣立っていくことができるように支援することであり、就労や進学の支援等年長児童の自立支援のための取組を拡充する。
- 子どもに必要な支援に関するアセスメントの手法や支援の実践方法を確立する。
- 施設における支援の質の向上、職員の質や専門性の向上、支援に関する外部からの評価・検証等による透明化を図ること等により、施設内虐待の防止等子どもの権利擁護を強化する。
- 里親と施設からなる社会的養護の提供には、自治体間の格差が大きいほか、今後、虐待の早期発見・早期対応により今まで見過ごされてきた虐待が発見される可能性が高いことを考慮すれば、適切な支援を行い得るだけの提供量が確保できているとは言えない。このため、これを計画的に整備する仕組みの構築を検討する。
2.社会的養護の質の向上に向けた具体的施策
(1)家庭的養護の拡充
子どもの養育においては、家庭的な環境の下、地域の中でその個別性を確保しながら、社会へ巣立っていくことができるよう支援していくという観点が重要である。
そのためには、里親制度を拡充するとともに、小規模なグループ形態の住居・施設のあり方の検討、施設の小規模化の推進が必要である。
ア 里親制度の拡充について
家庭的な環境の中で養育する里親制度は、家庭的養護の有効な手段として、今後、さらにその活用を図るべきものである。
しかしながら、社会的養護を必要とする子ども(児童養護施設、乳児院、里親に委託されている子ども)のうち、里親による養育を受けている子どもは9.1%(平成18年3月31日現在)にすぎない。これは欧米に比して極端に低い数字であり、未だその十分な活用が図られていないと言うことができる。
我が国において里親制度が普及しない要因については、宗教的な背景を含む文化的要因のほか、
- 里親制度そのものが社会に十分に知られていないこと
- 里親といえば養子縁組を前提としたものという印象が強いこと等、養育里親に関する理解が進んでいないこと
- 養育里親は、子どもがいずれは実親の元に戻ることも視野に入れて、子どもと適切な距離を保ちながら、子どもに対する家庭的なケアを行うという難しい役割を担っているにもかかわらず、研修や相談、レスパイトケアの提供等、里親に対する支援が不十分であること
- 里親と子どものマッチングは児童相談所の業務になっているが、施設への委託措置と比較して時間や手間がかかることや実親が里親委託を了解しない場合が多いことから、施設に対する措置が優先される傾向があること
等が考えられる。
これらを踏まえ、今後、里親委託を促進するため、以下のような方策が必要である。
- 退職直後の世代をターゲットとしたPR、ファミリーサポート事業の登録会員や福祉施設職員退職者等の児童福祉分野に関わっている者への啓発、福祉分野を学ぶ学生や福祉関連の資格取得を目指す者への里親に関する教育等により里親制度の普及啓発活動を国民運動として進める。
これに加えて、里親になることの不安を軽減するため、まず週末だけ子どもを預かり、子どもに少しずつなじんでいけるようにする、いわゆる「週末里親」の活用や里親候補者の掘り起こしの業務を民間の団体が行うこともできるようにする等により、里親を増やすための取組を進める。 - 養育里親と養子縁組を前提とした里親を明確に区別する。
- 里親手当の充実、地域の身近な資源等の活用による研修、相談、レスパイトケアの充実、通所機能の活用による専門機関の支援等、里親に対する支援を拡充する。
- 里親と子どものマッチングや里親家庭の支援については、施設入所の場合と比較して時間や手間がかかることから、このための児童相談所の体制を確保すること、あるいは、児童相談所だけではなく、民間と共同で実施が可能となるようにすること等により、円滑かつ実効性をもって行うことができるようにする。
- 障害児等専門性の高いケアが必要な子どもであっても、里親委託ができるよう、専門里親の拡充を図る。その際、里親が通所機能の活用等による専門機関の支援を受けられるようにする。
なお、里親候補者の掘り起こしの業務を住民に身近な市町村が実施すべきではないかという意見もあったが、その際には、里親認定や委託を行う児童相談所との関係の整理を行う必要があるとの意見もあった。
イ 小規模なグループ形態の住居・施設のあり方について
現在、4人から6人程度の子どもが里親家庭に委託されるいわゆる「里親ファミリーホーム」がいくつかの地域に見られる。
このような形態による支援は、子ども同士も相互に関係を築きつつ、里親が家庭的な環境の下で社会的養護を提供できる形態として注目される一方、一組の里親が4人から6人程度の複数の子どもを養育することになるため、外部からの支援者の必要性を始めとした様々な課題も指摘されている。
上記のような実態を踏まえつつ、小規模なグループ形態での住居・施設のあり方について制度的な位置づけを含め、早急に検討する必要がある。
ウ 施設におけるケア単位の小規模化の推進方策
現行の児童養護施設等においても、適切な養育を受けられなかった子どもを家庭的な環境で養育するとともに、愛着関係の形成を図りながら、専門的なケアをより個別性を高めて実施するという観点から、以下のような課題の検討を進めた上で、ケア単位の小規模化を進めるべきである。
- 小規模化することによって、子どもに対する個別的な対応が可能となり、個々の子どもが抱えている課題を把握しやすくなる一方、密な人間関係の中で子どもの自己表現が顕著になる。これらの子どものニーズに的確に対応できる職員の専門性の確保や職員をスーパーバイズするための仕組みが必要である。
- 個別的な対応となること等により、ケアのあり方が従来と変わることから、これに伴う職員配置やケアの手法についての研究とその成果の活用が必要である。
- 小規模化は「ケアの密室化」につながりやすい。このため、第三者評価や子どもが意見を表明できる仕組みの確保等権利擁護体制の整備が必要である。
(2)社会的養護に関する関係機関等の役割分担と機能強化及び地域ネットワークの確立
社会的養護を必要とする子ども、例えば、虐待等のケースにおいて、現行制度の下で、子どもがどのようなプロセスにより支援を受けるのかについてイメージを整理すると、下図のようなものとなる(( )内は中心となる機関等を記載。)。

<1>虐待予防等の取組として、市町村や児童相談所、児童家庭支援センター、民間団体等による家庭における子育て支援や相談の実施(市町村)
<2>子どもが適切な養育を受けることができない場合における児童相談所への専門相談・通告・調査、子どもの一時保護及び子どもを保護した後、児童相談所において子どもの課題を的確に把握し、必要な支援を行うためのアセスメント、ケアプランの作成(児童相談所)
<3>アセスメントやケアプランに基づく里親・施設への措置による養育・保護(里親、施設)
<4>子どもに合った支援が行われているか適宜把握するための措置中のフォロー、アセスメントとケアの再検討(児童相談所、市町村)
<5>施設退所後や子どもが独立した後、社会で自立した生活を継続して送るための支援(市町村等)
このようなプロセスを見れば、社会的養護は、里親や施設だけが提供するものではなく、関係機関等が関わり合いながら提供されるものであり、これらの関係機関等が各プロセスにおいてその役割を適切に果たしながら、有機的に連携をしつつ提供されるものであることが認識される。
このような観点から見れば、各プロセスにおいて、以下のような課題を解決する必要がある。
<1>(子育て支援・相談)については、市町村単位で設置される要保護児童対策地域協議会等における関係機関等の連携により、虐待等の早期発見・早期対応の体制作りを一層進めるとともに、デイケアやレスパイトケアを含む具体的な支援方法の確立が必要である。
<2>(専門相談等、アセスメント、一時保護)については、社会的養護を必要とする子どもたちが家庭を離れ、最初に保護される場所である一時保護所において、その養育環境の改善等による適切なケアの確保が必要である。
また今後の子どもの支援の方向性を決めることとなる児童相談所におけるアセスメントやケアプランの作成は特に重要であり、子どもの課題を的確に把握し、これに応じた支援を提供するため、児童相談所及び一時保護所におけるアセスメント機能の充実強化を図る必要がある。
<3>(里親、施設等への措置)及び<4>(措置後のフォロー、ケアの再検討)については、児童相談所において、現に里親や施設等に措置された子どもに対してその子どもに合った適切なケアが行われているかを適時把握するとともに、関係者によるケア会議等を開催し、これに基づき里親や施設におけるケアプランの見直し等を適切に実施できるよう、子どものアセスメントやフォローに関する機能の充実強化を図る必要がある。
また、里親や施設へ措置された子どもと家族の関係を再構築し、子どもが家庭に戻って生活を送る可能性を高めるため、虐待等を行った保護者に対する再発防止のための指導・支援についても、その標準化作業と併せて、民間団体の活用等を含めた体制整備を図る必要がある。
これに加え、市町村と里親、施設についても、子どもがいずれは地域で暮らすことを見据えて、連携を図ることが重要である。
さらに、里親や施設等に措置された子どもも、学校に通いながら、地域で生活を送る中で、必要に応じて関係機関等から支援を受けることとなるため、地域における関係機関等の連携体制を強化することが必要である。特に、学校教育との連携に関しては、地域の学校に通う際の支援に際して、児童養護施設等と学校において適切な情報共有を図る等の連携強化が必要である。
なお、同じ施設の子どもが全て同じ学校に通うことの弊害も指摘されていることから、小規模グループ形態の住居や地域小規模児童養護施設の活用等により、別の学校へ分散して通えるようにすることも検討が必要であると考えられる。
<5>(退所後の支援)については、社会的養護の下にいる間から、子どもが社会で自立して生活していけるよう、その社会性の獲得や自立に向けた支援を念頭において支援を行うことは当然である。これに加えて、社会的養護を必要とする子どもたちは、施設等を退所した後も、社会で自立していくに当たって、様々な課題を抱える可能性が高いことから、その就職や進学に当たり、また、就職や進学した後も、地域で関係機関等が連携を図りながらその支援を行う体制が必要である。
このように、それぞれの支援プロセスにおいては、様々な関係機関等が関わりながら子どもの支援を行うことから、児童相談所、施設、市町村、児童家庭支援センター、民間団体等の社会的養護に関する関係機関等の役割分担を明確化し、それぞれの役割の充実強化を図るとともに、子どもの自立支援に向け、そのニーズに応じて、互いの連携の強化を図る必要がある。
特に、各プロセスの移行期においては、環境が変わることにより、子どもの状態が不安定になること、愛着対象の喪失や変更という心理的打撃があることから、この時期の子どもへの支援を手厚くする必要がある。その際、関係機関等は連携を図りながら、子どもの状態を十分に把握しつつ、支援を行う必要がある。
また、社会的養護については、現在は都道府県(児童相談所)が中心となって実施している。しかしながら、虐待の予防等、より身近な行政機関が行った方が適切な支援については、市町村が行うこととなっていること等を踏まえ、都道府県と市町村も含めて支援プロセスに応じた関係機関等の役割分担と協働のあり方を検討する必要がある。
さらに、国においても、制度的な対応を含め、関係機関等の役割分担の明確化とその充実、連携強化を図るための体制作りを進めるべきである。
(3)施設機能の見直し
社会的養護を必要とする子どもの持つ課題は多様であり、これに対応するため、施設は様々な役割を有しているが、その役割を整理すると、
<1>生活支援、自立支援や一定の心理的ケア等のどの施設も有している役割、
<2><1>に加え、さらに専門的・特化した支援を行う役割(現行の施設で言えば、情緒障害児短期治療施設については特に心理的なケア等を必要とする子どもに対する支援、児童自立支援施設については、特に非行等の行動化が著しい子どもに対する支援)
となる。
今後、家庭的養護の拡充を進めていく中で、個々の子どもの課題を的確に捉えて子どもに対して最も適切な支援を提供できるような施設体系のあり方についてあらためて検討する必要がある。
また施設体系のあり方の見直しを踏まえ、職員の配置基準はもとより、設備基準を含めた児童福祉施設最低基準についても必要な見直しを行う。
なお、当面の対応として、以下のような取組を進める必要がある。
- 児童養護施設、乳児院等については、家庭的な環境の下でのケアを推進し、多様化・複雑化する子どもの課題に対応するため、ケア単位を小規模化する。これととともに、施設に入所している子どもと家族が関係を再構築し、子どもが家庭に戻って生活を送る可能性を高めるため、家族の抱えている課題を解決する等、家庭に対する支援を強化することが重要である。
また、家庭や里親等に対する支援の提供を目的としたネットワーク作りを積極的に行うべきである。 - 情緒障害児短期治療施設については、心理療法やグループ療法等の治療的なケアを必要とする子どもを支援する施設として、高度な専門的支援を実施する。
このため、入所機能だけではなく、通所・外来機能の充実等を図り、その施設に入所する子どもに限らず、家庭や児童養護施設等の子どもを含めた治療的・専門的な支援を行うべきである。また、幼児期から思春期まで、治療が必要な子どものケアに対応できる体制とすべきである。 - 児童自立支援施設については、被虐待経験や発達障害がある子ども等の特性に応じた教育的・治療的な支援を行うため、職員の専門性を高めることや、その支援方法の研究・確立を行うことが必要である。また、少年院等との交流研修等の推進により、関係機関との連携を進める必要がある。
- 国立の児童自立支援施設では、社会的養護のケアのあり方に関する研究や先進事例の普及等の取組を進め、児童自立支援施設のみならず、職員の養成・研修機能を強化し、社会的養護の研修センターとして役割を果たすことができるように機能強化を図る必要がある。
- 母子生活支援施設については、母子ともに地域で家庭生活を営むことができるように支援するという観点から、DV被害者である母親とその子どもや虐待の危険性が高い母子等、様々な課題を抱える母子に対し、母親の就労支援等に加え、母親の養育機能の回復に向けた専門的なプログラムに基づく支援を行うことができるような体制整備とそのケアのあり方の確立を図る必要がある。
- 児童福祉施設における子どもの居住環境の改善を引き続き進めていく必要がある。
(4)年長児童の自立支援
社会的養護の最終的な目標は、子どもが自立した社会人として責任を持って人生を送ることができるようになることである。
そのためには、社会的養護の下で支援を受けた子どもたちができるだけ円滑に社会へ巣立つことができるよう、里親や施設等の社会的養護を担う者は、子どもを養護している全期間を通じて、子どもが社会性を獲得し、自立することを念頭に置いて、適切な支援を提供していくことが必要である。
さらに、社会的養護の下で育った子どもは、施設等を退所し自立するに当たって、保護者等から支援を受けられない場合が多く、その結果、様々な困難に行き当たることが多い。
このため、以下のような対策を検討する必要がある。
- 施設における自立支援計画の充実を図る必要がある。これに加え、子どもが自立するための進路選択に当たっては、学校と施設等が緊密に連携を図るとともに、就職に当たっては、子どもがハローワークや職業訓練機関等の関係機関から適切に支援を受けられるよう、施設等と関係機関との連携を強化する等、就労支援の充実を図る。
- 身元保証人の確保対策や就職、進学の際の支度金等、自立した生活を始める際に必要な支援策の充実を図るほか、奨学金制度を積極的に活用する。
- 自立援助ホームは、中学校を卒業後、施設を退所して就職している子どもや高校を中退した子ども等施設退所後、すぐに自立することが困難な年長児等を対象に、子どもの住まいの場を確保するとともに相談支援・生活支援を行う場である。施設退所後、すぐに自立することが困難な年長児童等に対する支援をどのような形で担うことが適切であるかを含め、自立援助ホームのあり方について検討する必要がある。
- 施設を退所した子どもは、結婚・出産・育児等に関して自信を持つことができず、相談する相手がいない場合も多いことから、このような際の相談先として、児童養護施設等がいわゆる「実家機能」の役割を果たす必要がある。
- 児童養護施設等を退所した子どもたちが自ら集い、意見交換等により相互に支援を行う活動は、こうした子どもたちに対する支援として、非常に有効であると考えられることから、このような活動を推進する必要がある。
- 里親や児童福祉施設に措置されている子どもについては、現行制度においても、満20歳に達するまで措置を継続できる仕組みとなっているが、子どもの状況を踏まえつつ、積極的に活用すべきである。
このほか、現在の措置の解除年齢の上限(20歳)については、これを引き上げるべきとの意見がある一方で、措置を延長するのでは意味がなく、むしろ子どもの社会的自立に向けた支援の強化について検討すべきではないか、という意見もあり、これらを踏まえて今後さらに慎重な検討が必要である。
(5)社会的養護を担う人材の確保とその質の向上
社会的養護の質の向上を図るために何よりも重要であるのは、子どもとの愛着関係・信頼関係を形成することができ、子どもの将来の自立までを視野に入れたケアを行うことができる人材の確保であり、その質のさらなる向上である。
このため、以下のような方策が必要である。
- 児童福祉施設の施設長や施設職員等の資格要件を明確化する。また、職員の質の向上を図るため、社会的養護に関する専門職や資格のあり方等について検討する必要がある。
- 必要な人材の確保とその質の向上については、他の社会福祉の分野についても都道府県が責任を担っていることから、社会的養護に関しても、同様に都道府県が責任を持って行うべきであり、そのための研修等の体制整備を図るべきである。
- 福祉分野の教育を行う大学や専門学校等においては、カリキュラムにケアワーク、ソーシャルワークを内容に加える等、社会的養護を担う人材の育成にも資するような教育内容とすべきである。
- 児童福祉施設の職員による子どもの支援に関し、専門性を持って支援プログラムをマネージメントできる基幹的な職員の育成等を図るほか、キャリア形成や適切なOJT等を、個人の資質だけによるのではなく、組織的に行う仕組みが必要である。
このため、施設と児童相談所等の間において交換研修を実施する等の方策の検討や国立の児童自立支援施設や子どもの虹研修情報センター(日本虐待・思春期問題情報研修センター)等の養成・研修、研究機能の拡充を図るべきである。 - また、職員が長く勤められるよう環境の整備を図るとともに、児童福祉分野だけではなく、他の社会福祉に関する分野も経験できるようにする等の工夫も検討する必要がある。
(6)科学的根拠に基づくケアの方法論の構築
社会的養護を必要とする子どもにとって、個々の子どもの抱える課題や発達段階に応じた支援を行うことやそれぞれの家庭が抱える課題に応じて家庭支援を行うことが重要である。
このような支援を確立していくためには、子どもや家庭の抱える課題やそれぞれに対して必要とされる具体的な支援策に関するアセスメント方法を確立するとともに、これに基づいた支援の実践方法を確立し、これを広めることが必要である。
また、今後、ケア単位を小規模にした新しいケアを実践していくに当たっても、科学的な評価に基づく、アセスメント手法や支援の方法論の確立が必要である。
これらを推進するため、これまで国内外で行われた研究や効果的な取組について事例の収集や適切な評価を行うとともに、継続的にこういった研究を支援する仕組み等、研究助成のあり方について検討すべきである。
3.児童の権利擁護の強化とケアの質の確保に向けた具体的施策
昨今、相次いで児童養護施設職員による虐待事件が起こっているが、子どもの抱える課題の複雑さに対応できていない職員の質や教育に問題があったこと、施設におけるケアを外部から評価・検証する仕組みがなく施設運営が不透明になっていること等がその要因として指摘されている。関係者にはこのような問題が二度と起こらないようにするための真摯な努力が求められることはもちろんであるが、さらに、このような課題を解決するため、制度的な対応も視野に入れて検討する必要がある。
また、施設に入所する子どもだけではなく、里親に委託された子どもも含めて子どもの権利擁護やケアの質の確保に向けた取組を検討する必要がある。
- 「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」等他の分野の施策も参考として、施設内虐待等が発見された場合の通告や施設に対する調査、指導・監督等の仕組みの創設、これらについての責任主体の明確化等、こうした事件への早期対応や再発防止に有効な仕組みの導入を検討すべきである。
- 施設内虐待の事例について検証するとともに、虐待を受けた子どもに対する適切な対応方法、再発防止や事件が起こった施設における支援体制の再構築のための方策等について調査・研究を行う必要がある。
- 第三者評価の義務づけ・情報開示、都道府県等における監査機能の強化、当事者である子どもが意見を表明する機会の確保等、施設・里親における子どもの権利擁護の強化とケアの質を確保するための仕組みの拡充を図るべきである。
- 児童相談所における措置内容に関する子どもに対する説明のあり方や措置委託先に関する子どもの選択権のあり方について検討する必要がある。
なお、一時保護所についても、養育環境の確保に加え、児童の権利擁護に関し、児童養護施設等と同様の見直しを行うとともに、一時保護所の特性を踏まえた検討を行うことも必要である。
4.社会的養護を必要とする子どもの増加に対応した社会的養護体制の拡充方策
最近の児童相談所における虐待に関する相談件数の増加や、今後、虐待の早期発見・早期対応により今まで見過ごされてきた虐待が発見される可能性が高いことから、今後も社会的養護を必要とする子どもは増加していく可能性がある。
また、上述した課題等を踏まえれば、社会的養護を必要とする子どもに対する支援の拡充は、急務であり、早急かつ計画的に取り組むことが必要である。
社会的養護の需要が増えることは、当然のことながら望ましいことではないが、支援を総合的に進めるためには、その整備目標を定め、それに向かって提供体制を計画的に整備することが必要である。
具体的には、以下のような仕組みが必要である。
- 社会的養護に関しては、自治体間の格差が大きい現状等を踏まえると、国において基本的な指針等を定め、これに基づき、都道府県等において社会的養護の提供体制に関する整備計画を立て、計画的に需要に応えられる体制を整備する必要がある。特に、一部の児童相談所の一時保護所においては既に定員超過となっているが、これは、里親・施設等の社会的養護に関する資源が不足していること等によることから、早急に社会的養護の提供体制の整備を進めるべきである。
- 整備に当たっては、社会的養護のあり方として家庭的養護の推進を基本的な方向とすることから、里親や小規模グループ形態の住居等を中心とした対応を目指すべきである。
また、社会的養護の需要量に影響を及ぼす要因は多様かつ複雑であることから、現時点において、将来的な需要量について的確に把握することは困難であるが、今後の課題として、その有効な手法を検討すべきである。
しかしながら、都道府県が整備目標を検討するに当たっては、現在の不足数に加え、潜在的な需要も考慮することが必要であり、例えば、
- 社会的養護に関する資源が不足しているために、一時保護所等で長期にわたって一時保護されることを余儀なくされている児童数
(参考)平成18年度児童関連サービス調査研究等事業報告書「児童虐待防止制度改正後の運用実態の把握・課題整理及び制度のあり方に関する調査研究」(主任研究者:才村純)によれば、虐待を理由に一時保護された子どものうち、児童福祉施設が満床で入所できなかったという理由により一時保護所の入所日数が2か月を超えた子どもが約200人(平成18年4月〜11月の8ヶ月間、調査の回答率約7割)となっており、これに基づいて、1年間の人数を推計すると、約400人となる。 - 現在策定作業が進められている一時保護施設等緊急整備計画に基づく今後の一時保護児童数の見通し
- 児童人口に占める里親・施設に措置された要保護児童数の他地域との比較
(参考)例えば一つの試算として、平成16年度における児童人口1万人当たりの里親・施設に措置された要保護児童数上位10県の平均27.6人(平成16年社会福祉施設等調査)を全国の児童人口(平成19年)に乗じて全国の要保護児童数を試算すれば、約58,000人(平成17年度の里親・施設に措置された要保護児童数は約40,000人)となる。
等を念頭において、必要量を見込むという方法もあると考えられる。
5.その他
(1)里親・児童福祉施設の施設長の監護権との関係や児童相談所の指導に従わない保護者に対する対応の観点から、民法上の親権に係る制度の見直しについて検討を行う。
また普通養子縁組及び特別養子縁組に関する制度の現状や課題についても検討を進めるべきである。
(2)社会的養護の重要性に関する啓発についてどのように進めていくのか、さらに検討する必要がある。
(3)人材育成やケアの質の向上を図り、施設間の格差を縮めることは、個々の施設等の努力だけでは限界があることから、社会的養護を担う里親や児童福祉施設等に係る関係団体は、支援のための工夫やプログラムの情報交換や交流研修等により、会員等に対する働きかけを強め、人材の育成やケアの質の向上に積極的に取り組むべきである。
(4)児童養護施設内の児童に係る損害賠償請求事件に関する最高裁判決(平成19年1月25日判決)を踏まえ、施設内における支援に関する行政と施設との責任のあり方について検討する必要がある。