研修・技能実習制度研究会中間報告(案)
はじめに
外国人研修・技能実習制度については、平成5年4月の制度発足以来14年余りを経過し、研修生・技能実習生の数も大幅に増加している。この間、アジア各国の若者が来日し、技術、技能又は知識を学び、帰国後は現地で技術等を指導する立場に就き活躍している者も少なくない。
しかしながら、一部の受入れ機関において、本来働かせてはならない研修生が残業(研修時間外の活動)までさせられていたり、技能移転のための適正な実習指導が行われていない等の問題も生じている。
特に、同制度については、「規制改革・民間開放の推進に関する第3次答申(平成18年12月25日規制改革・民間開放推進会議)」において、「実務研修中の法的保護の在り方」等について「遅くとも平成21年通常国会までに関係法案提出」等必要な措置を講ずることとされているほか、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」、外国人労働者問題に関するプロジェクトチーム(副大臣会議)、自民党外国人労働者等特別委員会などにおいても制度の見直しが提言されている。
本研究会は、現行制度の問題点を是正するとともに、制度の目的である開発途上国等への技能移転が適正に実施されるよう、制度の適正化や在り方に関する事項について、平成18年10月以来9回にわたって、問題点の整理及び検討を行ってきた。検討に当たっては、受入れ団体及び受入れ企業に対する現地訪問調査や、労使関係者及び受入れ団体からのヒアリングを実施し、出来る限り実態を踏まえた議論を行ったところである。
こうした検討の結果、今般、制度見直しの方向性について一定のとりまとめを行ったので、中間的に報告する。
本研究会としては、残された課題等について引き続き検討していくこととするが、この中間報告を契機として、厚生労働省をはじめとする関係省庁において具体的な制度設計についての検討が開始されることを期待する。
平成19年5月
I 外国人研修・技能実習制度の現状と課題
1.現行制度の仕組み
研修・技能実習制度は、従来の研修制度を拡充する観点から、研修を終了し所定の要件を満たした研修生に、雇用関係の下でより実践的な技術・技能等を修得させ、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的として、平成5年4月に創設された。
同制度において、開発途上国等の若年労働者は、まず研修生(在留資格「研修」)として入国し、日本の企業等において、概ね1年間、産業・職業上の技術、技能又は知識を修得する(なお、この「研修」期間中は、研修生は報酬を受ける活動が禁止されており、原則として労働基準法上の「労働者」には当たらない。)。
その後、研修生は、対象となる職種について、研修終了後の技能レベルが一定水準以上に達し(具体的には、技能検定基礎2級レベル試験に合格すること)、在留状況が良好と認められるなど所定の要件を満たすと、在留資格「特定活動」への変更許可を受け、雇用関係の下でより実践的な技術等を修得する技能実習生(以下「実習生」という。)に移行することとなる(研修期間と合わせて最長3年間の在留が認められる。)。
2.現状と問題点
(研修生・実習生の増加)
外国人研修生・実習生の数は、大幅に増加しており、平成18年の在留資格「研修」入国者数は約9万3千人(政府関係機関による受入れも含む。)、技能実習移行者数は約4万1千人に上っている。国籍別には、実習生の約85%が中国、次いでベトナム、インドネシア、フィリピン、タイの順となっている。
受入れ側の状況をみると、実習生受入れ人数の多い職種は、(1)繊維・衣服関係、(2)機械・金属関係、(3)食料品製造関係となっており、近年の特徴として、繊維・衣服、機械・金属関係が増加している。受入れ機関については、受入れ団体数は1,116団体(平成17年度)、受入れ企業数は13,710企業(平成17年度)であり、受入れ企業の半数以上が従業員規模19人以下の中小零細企業である。
また、実習生の在留地域を都道府県別にみると、岐阜(繊維・衣服等)、 愛知(機械・金属等)、茨城(農業等)、広島(機械・金属等)等が多い。
(技能移転の効果)
研修生・実習生の帰国後の就職状況等技能移転の実態については、部分的な把握ではあるものの、JITCO(財団法人国際研修協力機構(ジツコ):法務省、外務省、厚生労働省、経済産業省及び国土交通省共管の公益法人)が帰国生を対象にフォローアップ調査を実施している。
それによれば、例えば、中国の帰国生を対象に実施したアンケート調査では、来日前は一般従業員であった者が、係長クラスや課長クラスに登用されている例も少なくない。
この他、具体的な事例として、日本の厳しい品質管理基準や生産管理の手法を学んだことにより、帰国後技術・品質の担当課長に抜擢され、現地従業員の技術指導に当たっている例、日本の受入れ企業の現地法人に採用され、品質検査や本社との連絡を任されている例、日本で修得した技術を活かし自ら起業した例等も報告されている。
送出し企業における帰国生の処遇について(調査対象:41人(中国))
(1)帰国生へのアンケート調査結果 |
(2)具体例(送出し企業現地調査から)
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(問題事案の発生)
上記のように、技能移転が効果的に行われ、現地の技術向上に寄与している例がある一方で、一部の受入れ機関において、研修生が実質的に低賃金労働者として扱われ、残業(研修時間外の活動)までさせられている事例や、技能実習移行後においても賃金未払い、36協定未締結等の問題事案が発生している。なかには、暴力、セクシュアル・ハラスメント等の人権侵害の事例もみられるところである。
「研修中の問題事例」(新聞報道等の抜粋)
(1) | 団体の理事長及び同族が経営する5社で、研修中に残業させたり、管理費2万〜2万5千円を研修手当から不正に控除していたケース(H17 縫製 団体監理型) |
(2) | 研修生に時間給100円で残業させ、非実務研修(座学)も内容・時間数が基準以下であったケース(H17 縫製 団体監理型) |
(3) | 研修生に残業させ、強制的に貯金させていたケース(H17 縫製 団体監理型) |
(4) | 当事者で合意の上、研修中に残業を行わせていたケース(H17 縫製 団体監理型) |
(5) | 研修手当6万5千円、残業代3万円(残業代時給450円)で働いていたケース(研修生は来日前に約100万円の借金)(H18 農業 団体監理型) |
(6) | 送り出し機関が多額の保証金を徴収し、没収を恐れた研修生が不正な指示に従うケース(H18 農業 団体監理型) |
また、法務省入国管理局における不正行為認定件数を見ると、平成15年から平成17年の3年間で482件となっている。これを類型別に見ると、
(1) | 名義貸し(本来の受入れ先とは異なる企業に研修生・実習生が派遣されているケース、いわゆる「飛ばし」) |
(2) | 所定時間外の活動等 |
(3) | 研修・技能実習計画との齟齬(計画どおりの研修・実習が行われていないケース) |
等が多い。
不正行為認定件数 (法務省データ)
H15年 | H16年 | H17年 | 合 計 | |
認定件数 | 92 | 210 | 180 | 482 |
うち団体監理型 | 87 | 208 | 175 | 470 |
不正行為認定の類型別内訳 (H15〜17年の合計) |
企業単独型 | 団体監理型 | 計 (延数) |
|||||
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第一次受入れ機関 | 第二次受入れ機関 | |||||||
第1類型 | (1)二重契約 | 3 | 25.0% | 5 | 8.9% | 22 | 5.3% | 30 |
(2)研修・技能実習計画との齟齬 | 7 | 58.3% | 33 | 58.9% | 106 | 25.6% | 146 | |
(3)名義貸し | 1 | 8.3% | 15 | 26.8% | 218 | 52.7% | 236 | |
(4)虚偽文書の作成・行使 | 8 | 66.7% | 51 | 91.1% | 37 | 8.9% | 96 | |
第2類型 | 所定時間外活動等 | 10 | 83.3% | 7 | 12.5% | 175 | 42.3% | 192 |
第3類型 | 人権侵害行為等 | 6 | 50.0% | 5 | 8.9% | 42 | 10.1% | 53 |
第4類型 | 問題事例未報告等 | 1 | 8.3% | 4 | 7.1% | 6 | 1.4% | 11 |
第5類型 | 不法就労者の雇用等 | 3 | 25.0% | 0 | 0.0% | 60 | 14.5% | 63 |
第6類型 | 準ずる行為の再発生 | 0 | 0.0% | 0 | 0.0% | 0 | 0.0% | 0 |
計 | 12 | 56 | 414 |
さらに、労働基準監督機関による実習生受入れ事業場に対する監督指導結果によると、平成17年の違反事業場数は731件(違反率80.7%)となっており、違反内容は法定労働時間に係る違反、割増賃金に係る違反が多い。また、実習生に係る申告件数は126件と前年(48件)に比べ大幅に増加している。
このほか、JITCOが平成17年度に実施した巡回指導において、何らかの改善すべき点を指摘した受入れ企業は4,141企業であり、指摘内容としては、雇入れ時の健康診断の未実施、社会保険・労働保険の未加入、賃金控除協定の未締結等が多い。
○巡回指導等実施企業及び団体 (JITCO)
平成17年度 5,945件 (うち訪問指導:4,770企業、87団体)
○技能実習の申請と実行の乖離状況
○賃金の支払い状況
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○国の保健の未加入状況
○不適切なパスポート等の管理状況
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なお、平成17年の実習生の失踪者数は1,236人であり、過去5年間で5千人を超える数となっているが、技能実習移行者数に占める割合は約4%にとどまっており、制度としては概ね3年間で帰国することが担保されていると言える。
3.企業単独型と団体監理型の比較
研修生・実習生の受入れには、「企業単独型」と「団体監理型」の2つのタイプがある。「企業単独型」とは、日本の企業が海外の現地法人や合弁企業、取引先企業の常勤職員を直接受け入れるものである。一方、「団体監理型」は、事業協同組合等の中小企業団体、商工会議所、商工会等が受入れ団体(第一次受入れ機関)となって研修生・実習生を受入れ、傘下の中小企業(=受入れ企業、第二次受入れ機関)において実務研修及び技能実習を実施するものである。この「団体監理型」は、中小企業における研修実施機会の拡大ニーズに応えるため、平成2年8月に導入された。
この2つのタイプについて比較すると、技能実習移行者の95.4%が 団体監理型による受入れであり、そのうち、事業協同組合等による受入れが約8割を占めている。
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一方、法務省入国管理局が認定した不正行為482件(平成15〜17年)のうち470件(98%)が団体監理型であり、また、失踪者の割合も企業単独型が1.5%であるのに対し、団体監理型は4.0%となっているなど、企業単独型に比べ、団体監理型で問題が多く発生している。特に団体監理型の中でも異業種の事業協同組合(異なる業種の企業で構成される事業協同組合)に所属する企業において問題が見られる割合が高い。
不正行為認定件数 (法務省データ)
H15年 | H16年 | H17年 | 合 計 | |
認定件数 | 92 | 210 | 180 | 482(100%) |
うち団体監理型 | 87 | 208 | 175 | 470(98.0%) |
技能実習期間における失踪者数 (JITCOデータによる)
失踪者報告数(A) (2001年度〜2005年度) |
当該期間の技能実習生数※ (B) |
A/B×100% | |
企業単独型 | 121 | 7,856 | 1.5 |
団体監理型 | 6,198 | 156,558 | 4.0 |
4.ブローカー等の存在
研修生・実習生の受入れに当たっては、企業単独型の場合は、受入れ対象が送出し国の現地法人・合弁企業等の常勤職員に限られており、いわばグループ企業間における従業員の異動であるため、基本的にはブローカーと呼ばれるようなあっせん機関が介在する余地はない。
一方、団体監理型においては、受入れ企業は独自に研修生を受け入れるノウハウや送出し機関とのパイプを持たないことから、事業協同組合等の受入れ団体が研修生・実習生の受入れ窓口となり、送出し機関(送出し国政府の認定を受けた商事会社等)との連絡、調整を行っている。また、研修生・実習生本人の側も日本の受入れ団体・受入れ企業との連絡、調整はすべて送出し機関に委ねている。
このように、団体監理型においては、受入れ企業と研修生・実習生の間に国内においては受入れ団体が、国外においては送出し機関が介在する仕組みとなっており、この受入れ団体や送出し機関の一部にあっせんによる営利を目的として高額な管理費等を徴収しているケースや、受入れ団体、送出し機関以外の第三者が、いわゆるブローカーとして仲介しているケースもあると言われる。
このような受入れ団体や送出し機関等の存在は、制度の趣旨に反するだけでなく、受入れ企業の負担増や研修生・実習生に対する拘束的な研修や労働の要因ともなっていることから、受入れ団体・送出し機関等の適正化が必要である。
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II 適正化に向けた取組
このような不適正な事案の増加を受けて、関係行政機関及びJITCOにおいては制度の適正化に向けた取組を強化しているところである。
まず、JITCOにおいては、制度の適正かつ円滑な推進を図ることを目的として、受入れ団体・企業に対する総合的な支援、研修生・実習生に対する相談援助のほか、研修・技能実習の実効性を確保するため、受入れ団体・企業に対する調査、巡回指導等を実施している。
この巡回指導については、年間約6,000件実施しているが、平成19年度においては7,300件(全受入れ企業の約半数)に増やす予定である。また、平成18年度においては、労働関係法令の遵守状況を中心とした自主点検を、すべての実習生受入れ企業(14,500企業)及び受入れ団体(1,180団体)を対象に実施した。JITCOにおいては、自主点検結果を踏まえ、未回答企業及び問題があると認められた企業への巡回指導を実施し、それらの結果を労働基準監督機関に提供しているところである。
また、労働基準監督機関においては、実習生についての労働基準関係法令の遵守徹底を平成19年度の重点施策の一つに掲げ、JITCOから提供された情報も踏まえ、実習生の労働条件の履行・確保上、問題がある実習生受入れ事業場に対する監督指導を実施している。
さらに、出入国管理機関(入国管理局)においても、積極的に受入れ団体・企業に対する実態調査を行い、入管法令等に照らして「不正行為」に当たると判断した場合は、新規受入れを3年間停止するなど、厳格な対応を行っている。
なお、平成18年6月からは、出入国管理機関と労働基準監督機関との新たな相互通報制度が設けられたところであり、こうした連携により適正化に向けた取組の強化を図っている。
[適正化のための当面の対応]
○ JITCOによる全受入れ機関に対する自主点検の実施等
・ 労働関係法令の遵守状況を中心にした自主点検を、すべての技能実習生受入れ企業(14,500企業)及び受入れ団体(1,180団体)を対象とし、JITCOを通じて昨年9月に実施。(回答率74%)
・ JITCOにおいて、自主点検結果を踏まえ、未回答企業及び問題があると認められた企業への巡回指導等を平成18年12月より実施し、それらの結果を労働基準監督機関に提供している。
○ JITCOを通じた巡回指導の強化。
・ 平成19年度巡回指導件数を増加し、7,300企業(全受入れ企業の約半数)に対して予定。(前年度比1,300件増)
○ 労働基準監督機関による監督指導等の実施
・ 労働基準監督機関においては、JITCOから提供された情報も踏まえ、技能実習生の労働条件の履行・確保上、問題がある技能実習生受入れ事業場に対する監督指導を実施。
・ 新たに設けた出入国管理機関との相互通報制度を適切に運用。
○ 出入国管理機関による調査等
・ 受入れ団体・企業に対する実態調査を行い、入管法令等に照らして「不正行為」に当たると判断した場合は、新規受入れを3年間停止するなど、厳格に対応。
・ 新たに設けた労働基準監督機関との相互通報制度を適切に運用。
III 現行制度の評価と見直しの方向性
現行制度については、技能移転を通じた国際協力を目的としているにもかかわらず、上記Iの2にあるように、一部において研修生・実習生が実質的に低賃金・単純労働者として扱われ、人権侵害等の問題も生じている。他方、現行制度の対象職種・在留期間等が、国内における産業・企業の受入れニーズに十分応えるものになっていないとの指摘もある。
このような中、現行制度は制度目的が形骸化しているとして、これを一旦廃止した上で、新たな労働力受入れの仕組みを創設すべき、との意見もある。
しかしながら、これまで受入れを行ってきた団体・企業の中には、制度の趣旨に則った適正な研修・実習が行われているものも少なくない。研修生・実習生の帰国後の状況を見ても、職場の主任や責任者に登用され、技術指導や品質管理を任されたり、日本企業との取引・交渉担当者に抜擢されるなどの例が報告されている。
また、現行制度は、研修・実習としての性格を担保するため、以下のような仕組みを設けており、それによって、上記の例に代表されるように一定の実習の実効性や管理に係る効果をもたらしていると考えられる。
(1) | 職種の設定に当たって、同一作業の反復によって修得できる技術・技能等(単純作業)ではないこと、公正な評価制度を設けることを前提条件としていること。 |
(2) | 受入れ企業は、修得技能の目標と修得方法等に関する研修計画・技能実習計画の作成・履行が義務づけられているとともに、研修から技能実習に移行する際には、研修生は公正な技能評価試験に合格することが条件となっていること。 |
(3) | 研修期間当初に、日本語、日本の生活習慣等を教育することにより、その後の技術・技能の修得や日本での生活面への適応が円滑に図られる仕組みとなっていること。 |
(4) | 研修期間中は、受入れ団体が受入れ企業に対する研修の適正実施に係る指導、監査等の監理責任を負うとともに、JITCOにおいて、技能実習計画等の履行を担保するための巡回指導、相談・援助を相当の頻度で行っていること。 |
このほか、現行制度は、次のような点で研修・実習制度として仕組まれていることによって、定着を避け、一定期間で帰国することが、ほぼ実現(期間内の帰国率96%)できている。
(1) | 修得した技能を母国に移転するため、国内の労働力需給動向にかかわらず、研修・技能実習合わせて最長3年で必ず帰国する仕組みとなっていること。 |
(2) | 3年の年限を限って研修・技能実習を受け、帰国することが予定されているため、家族滞同を認めていないこと。 |
(3) | 行政機関による監督以外に、技能実習計画等の履行を担保するため、JITCOによる巡回指導等が相当の頻度で行われていること。 |
さらに、近年、アジア諸国との経済連携が強まる中で、アジア諸国の若者を単なる労働力として受け入れるのではなく、来日した労働者に技能を付与し、帰国後その成果を活かしてもらうことにより、これらの国の技術向上に寄与するという制度の趣旨は、今後、益々重要になるものと考えられる。
したがって、こうした技能実習制度のメリットを考えると、現行制度について、技能移転を通じた国際協力という目的は今後とも維持した上で、一部に見られる劣悪な労働環境・実習環境の改善を図りつつ、技能移転の実効性を一層高めるための措置を講ずる方向で制度の見直しを行うことが適当である。
IV 各論(制度の課題と対策)
1.「実務研修」中の研修生の法的保護の在り方
研修の実態を見ると、日本語教育等を中心とした「非実務研修」(座学、概ね4ヶ月(うち集合研修1ヶ月))終了後、多くの受入れ企業において「実務研修」(概ね8ヶ月)が行われている。この実務研修においては、実際に、生産現場での生産活動、販売、サービス業務等に携わりながら、技術・技能、知識を修得することとなる。
この期間中、研修生は報酬を受ける活動が禁止されており、制度上「労働者」ではない。したがって、研修生には通常「研修手当」が支払われるが、これは賃金ではなく、法務省の指針において「生活する上で必要と認 められる実費の支給」という位置付けとなっており、その支給額は月6〜7万円が最も多くなっている。
一方で、上記Iの2のように、受入れ企業の中には、研修制度を悪用して、実務研修中の研修生を実質的に低賃金労働者として扱い、残業(研修時間外の活動)までさせている例が見受けられる。この点は、規制改革・民間開放推進に関する第3次答申においても指摘され、「実務研修中の研修生の法的保護を図るために必要な措置を講ずるべきである。」とされている。
「研修」の法的位置付けは「労働」ではないことから、「実務研修」の実施に当たっては、「労働」と明確に区別する必要がある。判例や労働基準法の解釈を踏まえると、「研修」を「労働」と区別するための指標として、(1)研修が教育の目的でのみ行われること、(2)研修計画を定め、それに従って行われること、(3)研修と関係のない作業、事務その他の雑用に使用されないこと、(4)教育効果が実現されること等が挙げられる。
しかしながら、「実務研修」については、生産現場で実際に商品の生産等 に従事することから、外見上はその活動が「研修」なのか、資格外活動である「労働」なのか明確に区別し難い場合が多い。特に、組織的な労務管理体制が不十分な中小零細企業(団体監理型による受入れ)において、「労働」とならないよう「研修」の性格を担保することは困難な実態がある。
また、現行の労働関係でない「研修(1年)」+労働関係のもとに実施される「技能実習(2年)」については、実態的にも、意識の上でも、「実務研修」から「技能実習」まで一連のものとして捉えられている。
したがって、こうした実態を踏まえ、かつ、研修生の法的保護の実効性を図るためには、「研修(1年)」+「技能実習(2年)」について、これを統合し、最初から雇用関係の下での3年間の実習として法律関係を明確にした上で、労働関係法令の適用を図ることとし、入管法上においても、技能実習に係る新たな在留資格を設けることが適当である。
この場合には、実習生と受入れ企業との間において、当初から雇用契約を締結し労働関係に入ることになり、次のように、制度面で実習生の募集・あっせんのあり方や実習のあり方を見直すことが必要である。
第一に、最初から雇用関係の下での実習とすることにより、入国後のトラブルを防ぐ措置についての検討が必要である。まず、実習生のあっせん行為について職業紹介事業の許可又は届出が必須の条件となり、実習生の募集に当たっては、職業安定法上労働条件等の明示が義務づけられる。これに加えて、労働基準法上の労働条件明示義務や、明示された労働条件と事実が相違する場合の契約解除及び帰郷旅費負担義務の履行を担保する方法についても検討する必要がある。また、実習生に応募する者に実習先選択に係る情報を与えるため、受入れ企業の技能実習計画、技能評価試験の受験率・合格率等実習の内容や実施機関の質に係る事項等を入国前に明示させることも検討する必要がある。
第二に、具体的な制度設計については、実習の円滑な実施が可能となるよう、次のような考え方に基づき設計を行う必要がある。
(1) | 最初から雇用関係の下での実習となるため、技能修得の実効性や安全衛生の確保の観点から、実習生については入国前に一定レベルの日本語能力を有していることを要件とすることが必要である。ただし、送出し国における日本語の普及状況等を勘案し、当面は、現行制度と同様に入国後に一定の日本語を修得することとし、入国前に一定の日本語レベルに到達している場合は、これを免除するといった仕組みにすることが適当である。 |
(2) | 最低限の安全衛生教育、日本の生活習慣、職場において必要な日本語教育については、現行制度と同様に、受入れ当初の段階で受入れ団体の責任において実施することが必要である。 |
なお、上記のような「研修」+「技能実習」についての整理以外に、技能実習には移行せず「研修」のみで1年以内に帰国する場合についての取扱いが課題として残る。「研修」のみで1年以内に帰国する場合にも、ほとんどの場合「実務研修」が行われており、「実務研修中の研修生の法的保護を図る」べき必要性に変わりはない。したがって、「研修」のみの場合について、今後、労務管理上「研修」と「労働」の区別が明確に出来る体制の有無などを踏まえ、その法的関係の整理と受入れ体制の明確化も併せ、その取扱いを検討することが求められよう。
「研修」の位置づけについて
2.技能実習の実効性の確保
制度の形骸化が指摘される中で、制度目的である技能移転が確実に行われるよう、実習の実効性を確保することが求められている。
(1) 技能移転の実効性の確保
(制度上の問題点)
現行制度上、実習生が労働力としてのみ活用されることを防ぎ、技能移転の実効性を確保するため、受入れ企業に対し、修得技能の目標、修得方法等を記載した技能実習計画の作成とその履行が義務づけられている。これを受け、JITCOにおいては、技能実習移行申請時に計画の内容を審査・評価し、併せて、実習指導の担当者(指導員)の配置状況等指導体制も確認することとしているが、制度上は、指導員の配置は義務づけられていない。
また、現行の技能実習の対象職種・作業範囲については、評価制度が整備されている職種・作業に限定されていることから、実習生の幅広い技能の修得や、効果的なOJTが十分にできない状況にある。
さらに、研修・技能実習の成果については、研修から技能実習移行時に技能検定基礎2級レベルの試験に合格することが要件とされているが、技能実習終了時の技能レベルについては、技能検定3級レベルが到達目標として設定されているものの、実習終了時の評価試験は義務づけられていない。受験を奨励するためにJITCOが報奨金を支給しているが、技能実習終了時の3級レベル試験受験率は0.75%であり、実習成果の評価ができる状況となっていない。
技能実習制度における実習終了時の評価試験受験者数の推移
※JITCOデータ |
技能実習終了時の技能検定3級レベル試験受験率は、0.75%
2003年度 | 2004年度 | 2005年度 | |
技能検定3級レベル受験者数(A) カッコ内数字はJITCO認定評価 システム受験者数 |
105 (15) |
169 (25) |
205 (24) |
技能検定3級レベル受験率 (A/C) |
0.47% | 0.73% | 0.75% |
技能検定3級レベル合格者数(B) カッコ内数字はJITCO認定評価 システム受験者数 |
96 (15) |
155 (25) |
187 (24) |
技能検定3級レベル合格率 (A/B) |
91.4% | 91.7% | 91.2% |
前々年度の移行申請件数(C) | 22,268 | 22,997 | 27,233 |
このほか、実習生の帰国後の就職状況等技能移転の実態については、JITCOが毎年1カ国に対しフォローアップ調査を実施するほか、帰国生のネットワーク化や同窓会の設立を推進しているが、全体として、状況の把握は部分的なものにとどまっている。
(実効性確保に向けた見直し方針)
こうした状況を踏まえると、実習の実効性の確保と成果の評価を進めるためには、制度の見直しが不可欠であり、今後、次のような点を踏まえ、具体的な制度設計を行う必要がある。
(1) | 技能の修得について適正に実習指導が行われることを担保するため、技能実習計画の記載内容については、例えば、各段階の技能の修得目標とそのために実施する作業内容、時期を明記させる等より具体的なものとするとともに、実習指導員の配置を制度上義務づける。 |
(2) | 技能実習の対象職種・作業範囲については、製造業の生産現場において多能工化が進んでいることを踏まえ、対象職種・作業に限定せず、例えば、関連する複数職種について実習することを可能とし、評価制度(試験)については中心となる対象職種について整備されていればよいこととする。 |
(3) | 現行制度においては、実習に移行する前に研修成果を評価するために技能検定基礎2級レベル試験の受験を義務づけている。こうした仕組みは実習が確実に行われていることの確認や実習生本人の緊張感の維持の観点からも必要であることから、新たな制度においても1年経過時の技能検定基礎2級レベルの受験を引き続き維持する。 |
(4) | 現行制度では、技能実習終了時(3年経過時)の評価は義務づけられていないが、実習生本人の実習成果を確認するとともに、制度全体の政策評価を行う観点からも、実習終了時の評価が重要であり、これを義務づける必要がある。ただし、その場合の評価方法については、必ずしも技能検定試験等に限ることはなく、評価の実施体制、受入れ企業の実態等を踏まえて、実行可能な仕組みとする。 |
なお、技能検定3級レベル試験の受験率・合格率は、受入れ企業の実習実施機関としての評価につながることから、前述(IVの1)のように、実習生募集時に受験率・合格率の明示を義務づけることは、受験奨励の観点からも有効である。
さらに、今後の検討課題として、帰国後の再就職状況、技能移転の状況等をより確実に把握する方法についても、送出し国の協力を得ながら、検討を進めることが必要である。
(2) 受入れ人数・実習体制
受入れ企業の実習体制を見ると、研修生・実習生の数が日本人従業員の数を大きく上回っていたり、事業主以外はすべて研修生・実習生といった例も見られる。こうしたケースにおいては、多くの場合、実習指導の担当者がいないか不明確な上、日本人と研修生・実習生の業務内容が分離され、OJT効果が乏しく、適正な実習が困難な状況にあると考えられる。
[研修生の受入れ数枠]
・研修生の新規受入れ人数は、入管法に基づく基準省令において、受入れ企業の常勤職員の5%までと規定されている。団体監理型については、受入れ枠が緩和されており、3〜50人以下の企業では毎年研修生3人まで新規受入れ可能である。つまり、日本人従業員が3人いれば、研修生・実習生合わせて3年間で9人まで受け入れられる。また、実習生は常勤職員数にカウントする取扱いになっているため、2年目以降は日本人がいなくても受入れが可能である。
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実習の実効性を確保するためには、実習指導の担当者を明確にした上で、日本人と実習生を分離せず、日本人従業員とともに業務に就きながら随時技能を実習できる体制が望ましい。そのためには、日本人従業員と実習生の割合を含め、受入れ人数のあり方について、次の点を中心に今後検討課題としていくことが必要である。
(1) | 現行制度上、新規受入れ(フロー)の人数枠の算定に当たり、2年目以降の実習生を常勤職員数(分母)にカウントする取扱いとなっていること。 |
(2) | 現行制度上、従業員数に占める実習生の総数(ストックの割合)については制限がないこと。 |
なお、制度全体としても、創設から14年余りを経過し、研修生・実習生の数が大幅に増加している。特に近年は、繊維・衣服(縫製)を中心に急増しており、我が国の労働市場において無視できない存在となっていることから、上記のような受入れ企業単位の人数枠の在り方に加えて、受入れ人数の総枠をコントロールすることなど、労働市場への影響を考慮する方法についても中長期的な課題として検討していく必要があろう。
(3) 受入れ団体の役割・責任
現行制度上、研修中は受入れ団体(第一次受入れ機関)に監理責任(受入れ企業に対する研修の適正実施に係る指導、監査等)があるが、技能実習中については受入れ団体に監理責任がなく、実習の実施責任は受入れ企業に委ねられている。
このような中、受入れ企業の一部においては、計画どおりの実習が行われていなかったり、申請と異なる職種・場所で実習を行っているケースや、賃金未払い等の法令違反も見られる。
「技能実習中の問題事案」(新聞報道等の抜粋)
(1) | 技能実習生11人に対する残業代(総額800万円)が不払い・賃金額も最低賃金未満の月額6万円であったケース(H18 縫製 団体監理型) |
(2) | 実習生の時間外割増賃金の不足、管理費2万〜2万5千円を賃金から不正に控除していたケース(H17 縫製 団体監理型) |
(3) | 中国人実習生8人が、月額賃金が4万5千円〜5万円と最賃法違反で労基署に申告したケース(H18 縫製 団体監理型) |
(4) | 実習生が組合理事長からセクハラを受けたとして理事長を提訴したケース(H18 異業種 団体監理型) |
(5) | 自動車関連の2次−3次下請け会社23社が、ベトナム人実習生に対し、月額12万2千円、残業代450円の統一賃金を定め、最賃法や労基法違反で労基署から是正勧告を受けていたケース(H18 異業種 団体監理型) |
(6) | 中国人実習生3人が残業代不払いを労基署に申告、その他(1)年間休日は10日前後、残業は月200時間、(2)パスポートや預金通帳は会社管理、(3)終業後も1−2時間の内職の訴えがあったケース(H18 縫製 団体監理型) |
したがって、実習の実効性や労務管理体制を確保する観点から、受入れ団体が、技能実習中において、受入れ企業の実習を補完するとともに、受入れ企業に対する実習の適正実施に係る指導、監査等の監理責任を負うこととすることが適当である。
また、受入れ団体の中には、研修生・実習生の受入れによる営利のみを目的として事業協同組合等(特に、異業種の事業協同組合)を設立し、ブローカー的に高額な管理費等を徴収しているケースがあると指摘されている。
本来、研修生・実習生を受入れ、的確な実習を実施するためには、一定の事業基盤が確立し、事業活動を適正に実施している実績が必要である。また、不正行為認定を受けて研修生の新規受入れを停止された受入れ団体が、別の団体を新たに創設して脱法的に受入れを継続するケースもあると言われる。
したがって、営利のみを目的とした受入れ団体の新設と脱法行為の防止を図る観点から、受入れ団体について、本来の事業協同組合等としての一定期間以上の活動実績(例えば、不正行為認定を受けた場合の新規受入れ停止期間と同期間)を要件とすることなどにより、悪質な受入れ団体を排除することが必要である。
3.同等報酬要件の実効性の確保
制度上、企業が実習生を受け入れる条件として、実習生について、「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること(同等報酬要件)」が要件として課されているが、実習生に支払われる予定賃金の水準をみると、概ね最低賃金レベルに止まっている(支給予定賃金(基本給)の平均は11.8万円)。また、単純な比較はできないものの、実習生の賃金額(基本給+諸手当)の平均がパートタイム労働者を含めた日本人のそれをかなり下回っている(日本人15.8万円、実習生14.2万円)。
受入れ企業の一部には、人件費の削減を目的として、あえて日本人を採 用せず、実習生を低賃金労働力として悪用しているケースもみられ、国内労働市場への悪影響が懸念される。
しかしながら、同等報酬要件については、職種別労働市場の形成されていない我が国において、年齢、職種、技能レベル等が異なる労働者について何をもって同一労働とみなすかが難しいことに加え、実態として比較対象となる日本人労働者がいない場合にはこの要件は機能しない。
したがって、同等報酬要件については、いきなり、その適用の可否を審 査する前に、その判断の前提となるガイドライン(目安)(例えば、都道府県別高卒初任給平均額等)を設定し、実習生の賃金が目安に照らし著しく低い場合には、JITCO等が同等報酬要件の遵守状況を調査し、必要な措置を講ずる等チェックできる仕組みを検討すべきである。
4.より高度なレベルの技能実習
使用者団体や受入れ団体から、いったん帰国した実習生の再入国による 実習(再技能実習)の要望が出されている。
しかしながら、再技能実習については、一般にトータルの滞在期間が長期化することによる失踪・定住化のおそれがあること、長期(5年以上)に渡って家族の呼び寄せを制限することは人権上の問題が生じるおそれがあること、現行の技能実習制度において、団体監理型を中心に、技能移転の実効性や労働条件の確保などの問題点が指摘され、その適正化が求められている実態があること等を踏まえてその是非を判断する必要がある。
具体的には、団体監理型については、(1)不正行為(98%が団体監理型)や失踪者の割合が高い(4%、企業単独型は1.5%)実態にあること、(2)内外のブローカーが介在し、あっせん経路が不明確な問題や、高額な管理費等を徴収するケースがあるなどの問題を抱えていること、(3)帰国後の技能移転状況が、送出し国においてほとんど把握されていないこと、などを踏まえると、まず、実習制度本来の姿として、現行制度の適正化と技能移転効果の確認を進める必要がある。
これに対し、「企業単独型」については、受入れの対象が送出し国の現地法人・合弁企業等の常勤職員に限定されていることから、概ね技能移転や適正化が図られ、失踪率も低い実態にある。
したがって、この問題については、「企業単独型」に限り、現地法人における更なる技能向上のためなど個別の審査により必要性が認められる場合には、再技能実習を認めることが適当である。
この場合、再技能実習については、技能検定2級レベルを到達目標とし、技能移転のため必ず帰国することを前提として、期間については、次のような理由から、2年の実習とすることが妥当である。
(1) | 初回の技能実習の経験があること。 |
(2) | 送出し国において同一職種の経験をさらに積んでくること。 |
(3) | 家族滞同を制限する期間が通算して長期に渡ることのないよう人権上の配慮が必要であること。 |
なお、この場合であっても、再技能実習を適正に進める観点から、例えば、次のように、技能移転の趣旨が十分図られていること、再技能実習生、受入れ企業ともに優良な成績であること等を要件とすべきである。
(1) | 帰国後一定期間(例えば、3年)以上経過し、その間、技能移転を行っていること。 |
(2) | 初回技能実習終了時に技能検定3級レベル試験に合格していること。 |
(3) | 受入れ企業についても技能実習終了時の技能検定3級レベル試験の受験率・合格率が高いこと。 |
5.受入れ機関・送出し機関のあり方(ブローカー対策を含む)
上記Iの2で述べたように、一部の受入れ機関において不正行為等の問題事案が発生している。また、上記Iの4で述べたように、ブローカー等の存在は、制度の趣旨に反するだけでなく、受入れ企業の負担増や実習生に対する拘束的労働の要因ともなっている。したがって、次のような方向で、受入れ機関・送出し機関の適正化を図ることが必要である。
(1) 受入れ企業
一部の受入れ企業において、名義貸し、研修時間外の活動等の不適切な研修が行われていたり、実習移行後においても、労働基準法違反等の問題事案が発生している。
これらの不適正な事案を排除していくためには、ペナルティを強化していくことが必要であり、不正行為を行った受入れ企業に対する規制(現行では、3年間の新規受入れ停止)について、例えば、受入れ停止期間を5年以上に延長するなど、厳格化することが必要である。
〔参考〕 有料職業紹介事業・一般労働者派遣事業の許可が取り消された場合、5年間は再許可を得ることができない。
(2) 国内の受入れ団体
受入れ団体は、多くの場合、企業から手数料や受入れ管理費を徴収しており、後者の内訳としては、研修生の募集・選考に要する費用、集合研修に要する費用、受入れ企業に対する指導・支援に要する費用等が挙げられるが、具体的な金額は個々の受入れ団体が決定している。(平成17年経済産業省委託調査よると1人当たり月平均2.8万円)
受入れ団体の中には、不当な仲介手数料や必要以上に高額な受入れ管理費を徴収するケースもあるとされるが、上記IVの1のように最初から雇用関係の下での実習とすれば、実習生のあっせん行為について職業紹介事業の許可又は届出が必須の条件となり、紹介に係る手数料は透明化される。他方、受入れ管理費については、職業紹介に係るものではないため、別途、その使途を、透明化しチェックしていく仕組みを検討する必要がある。
また、不正行為等の問題も団体監理型において多く発生しており、特に最近は、一部の異業種の事業協同組合において営利を目的として組合を設立し、ブローカー的に高額な管理費等を徴収するケースも見られる。
こうした不正行為を行った団体に対しては、ペナルティを強化していくことが必要であり、例えば、不正行為を行った企業に対するペナルティ強化に併せ、受入れ停止期間を5年以上に延長するなどの厳格化を図る必要がある。併せて、前述したように、受入れ団体について、本来の事業協同組合としての事業実績要件を課すること等により、悪質な受入れ団体の排除を図っていくことが必要である。
(3) 国外の送出し機関
送出し機関は、多くの場合、受入れ団体及び受入れ企業から送出し管理費を徴収しており、その送出し管理費の内訳としては、研修生の選抜・選考に要する費用、日本語教育等の事前研修に要する費用、研修生・実習生に対する相談・支援に要する費用等が挙げられるが、具体的な金額は送出し機関と受入れ機関の契約により決定されている。(平成17年経済産業省委託調査よると、1人当たり月平均3.3万円、受入れ団体と受入れ企業で分担)
送出し機関によっては、必要以上に高額な送出し管理費を徴収する例があるとされる。
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送り出し側の問題:保証金等の事例
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また、送出し機関の多くが、失踪防止等を目的として、本人から保証金(15万円〜30万円と言われる)や違約金を徴収したり、身元保証人を求めたりしている。JITCOのフォローアップ調査事例によれば、保証金はほとんど(94%)が返還されているが、中には、契約どおり研修・技能実習を終えて帰国したにもかかわらず、返還されないケースもある。
本人からの保証金等の徴収は、失踪防止の観点からは、一定の効果が認められるものの、一方で、高額な保証金を払うために借金をしているケースもあり、本人が「できるだけ多く稼ぐ」ことを優先させ、研修中の残業(研修時間外の活動)や不法就労を助長している面がある。
したがって、送出し機関による不当に高額な保証金や違約金については、送出し国政府に対し、その適正化を強く要請することが必要である。
6.チェック体制等の再構築
現行制度において、IIで述べたように、JITCOにおいては、(1)受入れ団体・受入れ企業に対する調査、巡回指導、(2)研修成果、技能実習計画の評価、(3)研修生・実習生向けの相談・援助等を実施しており、問題事案の多発を受けて、全受入れ企業に対する自主点検の実施、巡回指導の強化等適正化に向けた取組を強化している。
また、労働基準監督機関及び出入国管理機関においても、JITCOから提供された情報も踏まえ、実習生受入れ事業場に対する監督指導、実態調査を実施するとともに、相互の連携を図っている。
これまで述べてきた技能実習制度の問題点を踏まえ、その適正な運営を確保するためには、上記のような巡回指導や相互の連携の強化に加え、出入国管理機関における実態調査等の強化を図るとともに、次のような方向で、チェック体制の再構築を図っていくことが必要である。
第一に、JITCOによる技能実習の適正化対策については、今後とも、受入れ団体・企業に対する自主点検・巡回指導を抜本的に強化するとともに、業務の見直しを行い、管理・指導業務への集中化を図ることが必要である。具体的には、実習の実施状況の点検・改善指導、労働基準監督機関、出入国管理機関等に対する情報提供・連携の強化をさらに進める必要がある。
また、研修生・実習生は受入れ企業等から不当な扱いを受けても、帰国させられることを恐れて泣き寝入りするケースが多いとの指摘もある。このため、研修生・実習生の様々な問題について、率直に相談でき、かつ、必要な支援が受けられるよう、相談・援助体制を強化する必要がある。例えば、技能の修得状況を研修生・実習生本人に対して確認する機会を設け、併せて相談会も実施する等、直接研修生・実習生を支援する仕組みなどを検討することが必要である。
さらに、受入れ企業・受入れ団体が倒産したり、不正行為認定を受けた場合について、他の受入れ企業・受入れ団体へのあっせん等JITCOが積極的に関与することによって、研修生・実習生が帰国することなく研修・実習を継続できるシステム作りを検討することが求められる。
第二に、労働基準監督機関においては、引き続き、実習生の労働条件の履行・確保上、問題がある実習生受入れ事業場に対する監督指導を実施するとともに、出入国管理機関との相互通報制度を適切に運用することが求められる。
第三に、上記IVの1のように最初から雇用関係の下での実習とすれば、研修生・実習生のあっせん行為について職業紹介事業の許可又は届出が必須の条件となり、受入れ団体の実施する実習生あっせん行為について、職業安定法令のルールが適用されることとなる。
〔参考〕
・ | 今国会に外国人雇用状況報告の義務化(報告漏れや虚偽報告には罰則)等を内容とする雇用対策法改正案が提出されており、その報告対象には技能実習生も含まれる。 |
第四に、上記IVの2で提言したように、受入れ団体についても、実習が適正に行われることを補完し、監理する役割を担うため、受入れ企業に対する実習の適正実施に係る指導等を行うことが求められる。
最後に、制度の適正化のためには、上記のように、JITCOをはじめとする関係機関が各々の役割を適切に果たすとともに、これらの機関及び出入国管理機関が相互に連携し、重層的に監視していく体制づくりが重要である。そのため、JITCOによる巡回指導の結果等、受入れ企業・受入れ団体の情報の共有化を進め、緊密な連携体制を構築することにより、制度の適正化を図っていくべきである。
V 我が国の産業構造等の問題
研修・技能実習制度は、その名のとおり、途上国への技術移転を目的とした制度であるが、雇用関係のもとに実習労働に携わることから、他方で、受入れ産業、企業の労働力ニーズに応えている実態もある。
受け入れている産業・企業の受入れ動機は様々であるが、少なくとも団体監理型については、背景として、産業構造上の問題や労働条件・環境の状況から、日本人従業員を十分に採用できない実態が存在している。
こうした背景のもとで、専ら人件費の削減を目的として研修生・実習生を低賃金労働者として悪用する企業や、安い労働力を供給することを売り物として、営利を目的として高額な管理費等を徴収するあっせん機関も存在している。
また、こうした一部の悪質な事例を除いても、事業の高度化や労働環境の改善努力を怠り、安易に研修生・実習生に頼っているケースや、そもそも産業構造上、日本人が望む賃金水準を支払う経営基盤がなく、やむをえず研修生・実習生を労働力として活用し、事業活動を維持しているケースも少なくない。
今後、国内産業の益々の高度化が必要となる一方で、若年世代の少子化や高学歴化が進むことが予想され、上記のような産業・企業の矛盾は一層深まることが懸念される。
したがって、今後の研修・技能実習制度のあり方を考える場合、上記で述べてきた制度の見直しを進めるだけでは根本的な解決にならない可能性があり、今後、背景となっている我が国の経済的立場や産業構造のあり方を正面から見据え、労務管理体制の強化、労働環境改善の促進や、さらには、事業の高度化を進めることなどについて、議論を深めていくことが必要となってこよう。
おわりに
以上、当研究会におけるこれまでの議論を中間的に取りまとめた。
研修・技能実習制度は、アジア諸国の若者に我が国の技術・技能を付与し、これらの国の技術向上に寄与することを目的としており、21世紀の国際社会、とりわけ、アジアにおいて指導的地位に立つことが期待される我が国にとって益々重要な意義を持つ制度として、その発展が期待される。その一方で、一部の受入れ企業において、研修生・実習生が劣悪な居住環境・就労環境の下で拘束的な労働を強いられていたり、中には、セクハラ、暴力等の人権侵害を受けているなどの事案も発生している。こうした事態は、一刻も早く根絶する必要がある。
これら現在発生している問題事案については、これをいたずらに放置することなく、迅速に対応することが必要であり、制度の適正化に係る提言内容については、可能なものから順次実行に移していくことを強く希望する。
本報告においては、各論として、具体的な見直し内容の提言までに至らず、検討の方向性を示すにとどまったものもあり、これらの課題については今後引き続き議論を深めていくこととする。
上記の見直しを契機に、研修・技能実習制度が本来の趣旨に立ち返って、アジア全体の技術力向上・経済成長に貢献する制度として発展することを期待するとともに、そのためには、政府、地方公共団体、労使団体、業界団体、個々の企業経営者等関係者の真摯な努力が不可欠であることを最後に指摘しておきたい。