07/04/20 第1回診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会の議事録について 第1回診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会 日時 平成19年4月20日(金) 13:00〜 場所 厚生労働省省議室(9階) ○医療安全推進室長(佐原)  定刻を過ぎましたので、第1回の「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方 に関する検討会」を開催いたします。委員の皆様方におかれましては、大変ご多忙中のと ころ当検討会にご出席をいただきまして、誠にありがとうございます。  議事に入る前に本検討会の委員の皆様のご紹介をさせていただきたいと思います。九州 大学大学院医学研究院医療経営・管理学講座准教授の鮎澤純子委員、南山大学大学院法務 研究科教授、弁護士の加藤良夫委員、日本医師会常任理事の木下勝之委員、日本看護協会 常任理事の楠本万里子委員、三宅坂総合法律事務所弁護士の児玉安司委員、神奈川県病院 事業管理者・病院事業庁長の堺秀人委員、東京大学医学部心臓外科教授の高本眞一委員、 NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長の辻本好子委員、新葛飾病院医療安全対 策室セーフティーマネージャーの豊田郁子委員、東京大学大学院法学政治学研究科教授の 樋口範雄委員、首都大学東京法科大学院教授の前田雅英委員、読売新聞東京本社編集委員 の南砂委員、国家公務員共済組合連合会虎の門病院院長の山口徹委員、一橋大学大学院法 学研究科教授の山本和彦委員です。また、オブザーバーとして、警察庁刑事局刑事企画課 長の太田課長、法務省刑事局刑事課長の甲斐課長です。  続きまして、事務局を紹介させていただきます。医政局長の松谷、医政・医療保険担当 審議官の白石、医政局総務課長の二川、健康・医政担当参事官の岡本、医政局医事課長の 栗山、最後に私は医政局総務課医療安全推進室長の佐原です。どうぞよろしくお願いいた します。  事務局を代表いたしまして、医政局長の松谷からご挨拶を申し上げます。 ○医政局長(松谷)  厚生労働省医政局長の松谷でございます。委員の皆様方には、大変お忙しい中、本検討 会の委員をお引き受けいただきまして、誠にありがとうございます。また、本日は大変ご 多忙の中ご出席を賜り、重ねて御礼を申し上げる次第でございます。申すまでもなく、医 療は安全・安心であることが期待されるわけですが、一方で診療行為には必然的に一定の 危険性が伴うものでもあるわけです。現状では、医療事故が発生した際に、死因の調査や 臨床経過の評価・分析、あるいは再発防止策等の検討を行う専門的な機関というものが存 在をしておりませんで、結果的に民事裁判や刑事裁判とその判断に委ねられているという 現状にあるわけです。この状況については、改善を求める声が各方面から出ており、その ためには死因を究明するための専門機関を設ける必要性が高いという認識でおるわけです。 厚生労働省といたしましては、法務省、警察庁とも協議の上、先般「診療行為に関連した 死亡の死因究明等のあり方に関する課題と検討の方向性」と題したたたき台を先月3月9 日に公表して、現在、国民から広く意見を募集しているところです。  この検討会の検討課題としては、1つには死因究明のための調査組織の在り方、2つ目に は診療関連死の届出制度の在り方、3つ目には医療における裁判外紛争処理制度の在り方、 最後に行政処分の在り方などがあろうかと思っております。本検討会におきましては、後 ほど説明申し上げますたたき台や意見募集において寄せられた意見等を参考にしていただ いて、診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方について、幅広くご議論いただ くと同時に、患者さんや医療関係者等から大変大きな期待と関心が寄せられているテーマ でもありますので、委員それぞれ大変お忙しい中で恐縮ですが、お互いスピード感を持っ て検討を進めていきたいと考えておりますので、その旨よろしくお願い申し上げます。そ れぞれのお立場から、是非ご忌憚のないご意見の交換をいただきまして、議論が前向きに 進むことを期待しているところです。委員の皆様方におかれましては、この趣旨について 是非ご理解をいただきまして、よろしくお願いを申し上げたいと思います。冒頭に当たり ましてのご挨拶といたします。 ○医療安全推進室長  次に、お手元の配布資料の確認をさせていただきます。議事次第、座席表のほかに、資 料1として「本検討会の開催要綱」、資料2として「診療行為に関連した死亡の死因究明等 のあり方に関する課題と検討の方向性」、その概要と本文が付いております。資料3として 「医療紛争処理等の現状について」というもの。以上ですが、資料の欠落等ありましたら ご指摘をいただきたいと思います。  よろしければ、次に本検討会の座長について、お諮りしたいと存じます。座長の候補者 を事務局より提案させていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。本検討会の座長 には、刑法学を専門とされ、刑事政策に精通しておられますとともに、厚生労働省の事故 報告範囲検討委員会の座長も務められ、医療事故についても熟知しておられます首都大学 東京法科大学院教授の前田委員にお願いしたいと存じますが、いかがでしょうか。 (異議なし) ○医療安全推進室長  それでは、各委員の皆様のご賛同を得たと思いますので、前田委員におかれましては座 長をお願いしたいと思います。恐れ入りますが、座長席のほうにお移りください。 ○前田座長  いま事務局のほうから推挙をしていただいて、ご同意いただいたということで、まだ未 熟で、この厚労省の会議に関してもお教えをいただいた先生方が委員にいらっしゃるとい うような関係ですので、非常に不十分な面があろうかと思いますが、先ほどやや過分なご 紹介ではありますが、医療関係、刑事、法律関係にある意味で跨がって活動してきた者と して、まとめ役としてできる限り力を出させていただくということで、是非ご協力をいた だきたいと思います。  今日は早速議事に入って、委員の方のご意見を伺うというのが主たる目的なのですが、 初めに当検討会の進め方について、確認をさせていただきたいと思います。厚労省の場合、 ほかの委員会でもそうだと思うのですが、この検討会は公開で行うということで、議事録 についても事務局でおまとめいただいたものを、もちろん各委員にお目通しいただいて、 そのあと厚労省のホームページで公表させていただきたいと思います。これはやはりお断 りして、ご賛同を得て進めたいと思うのですが、よろしいでしょうか。 (了承) ○前田座長  それでは、そういうことで公開を原則にして進めさせていただきたいと思います。それ で、必ずお目通しいただくということをお約束したいと思います。  それでは、議事に入りますが、先ほど局長からもお話がありましたように、「診療行為に 関連した死亡の死因究明等のあり方に関する課題と検討の方向性」が3月9日に公表され ているわけです。その内容、これに至る経緯等について、事務局からご説明をいただいて、 それを踏まえて意見交換をしていただければと思います。それでは、事務局のほう、よろ しくお願いいたします。 ○医療安全推進室長  それでは、事務局のほうから資料2、資料3について、説明をさせていただきます。資 料2は、診療行為に関連した死亡の死因究明等のあり方に関する課題と検討の方向性、い わゆる厚労省試案というもので、最初の2頁が概要、3頁目からが全文になっております。 この試案については、去る3月9日に厚労省の試案として公表しました。これに先立ち、 この内容については警察庁また法務省とも協議の上、まとめております。そして、現在パ ブリックコメントにもかけており、今日4月20日までパブリックコメントをいただくとい うことになっております。  続きまして、この試案の内容について、4枚目の本文を少し読むような形になりますが、 説明させていただきます。患者さん、あるいは家族にとって、医療というのは安全・安心 であることが期待されているわけですし、医療従事者にはその期待に応えるように、最大 限努力を講じることが求められているわけです。ただ、一方で、診療行為には一定の危険 性が伴うものであり、場合によっては死亡等の不幸な帰結につながる場合がある。また、 医療では診療の内容にかかわらず、患者と医療従事者との意思疎通が不十分であること等 により、紛争が生じることもあるということです。しかしながら、現在、診療行為に関連 した死亡(以下、ここでは「診療関連死」)、これらについての死因の調査、臨床経過の評 価・分析等について、これまで制度の構築等、行政における対応が必ずしも十分ではあり ませんで、結果としてこれらの解決は民事手続や刑事手続に期待されるようになっている というのが現状です。また、このような状況に至った要因の1つとして、死因調査等を行 う専門的な機関が設けられていないことが指摘されているところです。  これらを踏まえて、患者さんにとって納得のいく安全・安心な医療の確保、あるいは再 発防止等に資する観点から、診療関連死の死因究明、仕組み、あるいは届出のあり方等に ついて、厚労省として以下のとおり試案をまとめて、これをたたき台として広くご議論を いただきたいと思っております。  次に、2として「診療関連死の死因究明を行う組織について」ということで、組織のあ り方、どんな組織を作っていったらいいのかということについて、案を書いております。 組織のあり方については、診療関連死の臨床経過や死因究明を担当する組織には、中立性・ 公平性、あるいは高度な専門性に加えて、事故調査に関する調査権限、あるいは秘密の保 持等が求められますので、こうした特性を考慮すると、調査組織のあり方については行政 機関又は行政機関の中に置かれる委員会を中心に検討してはどうかということです。また、 この際には、既にある監察医制度等との関係整理も必要ではないかと考えております。  また、組織の設置の単位については、アとして「医療従事者に対する処分権限が国にあ ることに着目した全国単位又は地方ブロック単位の組織」、あるいは医療機関に対する指導 等を担当するのが都道府県であること等に着目して、都道府県単位の組織といったものも あるのではないかと考えております。  (3)の「調査組織の構成について」ですが、この調査組織には高度な専門性が求められ る一方で、調査の実務も担当することとなると考えられます。このため調査組織について は2つの構成で、アとして、専門家により構成される調査評価委員会といったもの、イと して、委員会の指示の下で実務を担う事務局といった体制が基本なのではないかと考えら れます。また、こうした実務を担うための人材育成についても、どのようにしていくのか ということは課題であると認識しております。  3番目ですが、診療関連死の届出制度のあり方について、現状では医療法に基づいて医 療事故情報収集等事業がありますが、これ以外には診療関連死の届出制度は設けられてお りませんで、当事者以外の第三者が診療関連死の発生を把握することは困難となっており ます。このため、診療関連死に関する死因究明の仕組みを設けていくとすれば、その届出 の制度を併せて検討していく必要があると考えております。今後、届出先や、あるいは届 出対象となる診療関連死の範囲、あるいは医師法第21条の異常死の届出との関係について、 具体化を図っていく必要があるのではないかということです。  (2)は、届出先としては、国又は都道府県が届出を受け付け、調査組織に調査をさせる 仕組み、また調査組織が自ら届出を受け付けて調査を行う仕組みといったものが考えられ ると思います。  (3)は、この届出をする際に、どこまでを届出の対象とするかということについて、現 在、医療事故情報収集等事業において、特定機能病院等に対して一定の範囲で医療事故の 発生の報告を義務付けているところで、この実績も踏まえて検討してはどうかと考えてお ります。また、繰り返しますが、医師法第21条による異常死との関係についても、整理を しておく必要があるということです。  4は、このような調査組織における調査のあり方ということで、その手順としては、現 在、日本内科学会のほうでやっていただいております「診療行為に関連した死亡の調査分 析モデル事業」の実績も踏まえて、検討していってはどうかと考えております。  また、(2)でこのような調査を行う、調査の具体化に当たってはたくさんの課題がある と思いますが、例えば以下のような課題があるのではないか。(1)死亡に至らない事例を届 出調査の対象としていくのかどうか。また、(2)は遺族からの申し出による調査の開始の可 否、あるいはそれを可とする場合、遺族の範囲をどのように考えていくのか。あるいは、 少し飛びますが、(6)は院内の事故調査委員会との関係と、あるいは一定規模以上の病院等 に対する院内事故調査委員会等の設置の義務付けの可否といったようなことも課題ではあ ると考えております。  また、次の頁ですが、5の再発防止のためのさらなる取組ということも重要と考えてお ります。調査組織の目的は、診療関連死の死因究明や再発防止策の提言となるのではない かと考えておりますが、調査報告書の公布等の時点で、その任務は完了するわけですが、 その場合でも調査報告書を踏まえた再発防止の対応として、例えば以下のようなものが考 えられ、その具体化のためにさらに検討していく必要がある。例えば(1)は、調査報告書を 通じて得られた診療関連死に関する知見、再発防止策等を収集して、全国に広く還元して いくといったこと。  (2)は、調査報告書に記載された再発防止策等が、医療事故があった当該医療機関におい て、きちんと実施されているかどうか等について、行政機関による指導等をどのようにや っていくのかといったことも課題ではないかと考えております。  6は、行政処分、民事紛争及び刑事手続との関係ということで、併せて以下の点につい ても検討していくと記載しております。この試案は主に5までの点について検討の対象と して書いてまいりましたが、以下、行政処分あるいは民事紛争との関係についても、この 検討会でご議論をいただきたいと考えております。  続きまして、資料3についてごく簡単に説明したいと思います。資料3は、医療紛争処 理等の現状について、主な資料をまとめたものです。1番目の大きな括りとしては、医療 紛争の件数等についての資料、死因の調査について、いろいろな学会等からご意見をいた だいておりますので、それをまとめたものです。3つ目のカテゴリーとして、届出に関す る資料、それから日本内科学会でやっていただいているモデル事業に関する資料、行政処 分に関する資料、民事紛争の解決等に関する資料ということでまとめております。ごく簡 単に紹介させていただきます。  1頁は医療関係訴訟の件数で、年次推移ですが、ずっと増えているというデータです。2 頁は民事全般の訴訟について、平成8年を1とした場合に比べて、医療関係の訴訟は平成 16年で1.93倍ということで、かなり増えているというものです。3頁は診療科ごとの医療 関係訴訟の現状です。4頁は医療事故関係届出等の年別立件送致及び送付の数となってお ります。5頁は医事関係訴訟の年次推移、民事についての推移を書いております。6頁は死 因の調査に関する部分ですが、まず医療事故被害者の方の願いということで、「医療事故に 遭った人達の願いは次の5つです」ということで、原状回復、そして真相究明、反省謝罪、 再発防止、損害賠償といったことが言われています、ということを書いております。  8頁は、日本医学会加盟の19学会からの共同声明です。平成16年に出されております。 その内容は、診療行為に関連した患者死亡の届出について、中立的専門機関を創設すべき だといった内容になっております。  10頁は、日本学術会議からの見解と提言で、やはり同様に第三者機関を設けるべきであ るといったご提言をいただいております。  13頁は、「今後の医療対策について」ということで、厚労省の医政局長及び医薬食品局 長私的懇談会である医療安全対策会議がまとめたものです。平成17年6月になりますが、 医療関連死の届出制度、それから中立的専門機関における医療関連死の原因究明等につい て検討していくべきであると書いてあります。下から4行目の所ですが、「このため、これ らの検討に当たっては、まず、次の事項について着手する必要がある」。(1)は、モデル事業 を実施する中で課題の整理を行うとともに、事業実績等に基づき、制度化等の具体的な議 論の際に必要となる基礎資料を得るということで、モデル事業についての言及はこの中で されております。  14頁は、昨年の医療制度改革のときに、参議院・衆議院のほうからも同様の決議をいた だいておりますので、それを載せております。  15頁は、医療以外の分野における原因究明を行う仕組みとして、どのようなものがある のかということで、1は航空・鉄道事故調査委員会、2として海難審判庁について、その概 要を載せております。  17頁は、航空・鉄道事故調査委員会の一般的な事故の際のフローを書いております。  19頁は、医療の分野で監察医制度というものがありますので、監察医制度の概要です。 1の(1)ですが、監察医制度は、死因不明の死体を検案又は解剖して死因を明らかにするこ とにより、公衆衛生の向上等に資することを目的とする制度であるということで、東京都 内をはじめとして、横浜、名古屋、大阪、神戸で、いま実施されているものです。  20頁は、届出に関するカテゴリーの資料ですが、医師法第21条、21頁が異常死の届出 をしていただいた際のあとに、司法解剖、行政解剖にいくときのフローを描いております。  22頁は、医師法第21条に関していろいろなご議論をいただいておりますが、これに関 しての各種の声明、あるいは最高裁の判決等をまとめております。  25頁は、医療事故情報収集等事業といったものです。目的は1にありますが、報告義務 対象医療機関から報告された医療事故情報等を収集、分析し提供することによって、広く 医療機関が医療安全対策に有用な情報を共有するとともに、国民に対して情報を提供する ことを通じて、医療安全対策の一層の推進を図るということです。2としてこの実施につ いては、財団法人日本医療機能評価機構でやっていただいております。3の1)は、現在 273の病院で報告義務がかかっているというものです。  26頁は、この制度の中で報告を義務付けている事故の範囲はどういうものかを書いてお ります。  27頁は、以下、日本内科学会のモデル事業についての資料になります。モデル事業の概 要で、右中ほどに事業の概要があります。本事業は、関係学会の協力を得て、モデル地域 において医療機関から診療行為に関連した死亡について、臨床医、法医学者、病理学者に よる解剖を実施し、さらに専門医による事案調査を実施し、診療行為との因果関係の有無、 及び再発防止策を総合的に検討するものということで、現在7地域で実施しており、4月 12日現在、51例の事例について調査を行っております。  28頁は、この7地域における体制、そして29頁ですが、この事業自体はたくさんの学 会のご協力でやっていただいております。右下の2,319という数字は、7地域プラス候補 地の2つを合わせた9つの地域で2,319人の医師が登録をしているということです。  30頁の右下の数字ですが、241名の方に登録いただき、かつ実際にこれまでに51例につ いて評価に当たっていただいたというものです。  31頁は、行政処分に関する資料です。医療従事者の資質の向上ということで、平成18 年の医療法の改正の内容を書いております。右の四角の中に「改正のポイント」がありま すが、行政処分を受けた人に対する再教育制度を創設する。また、戒告等、業務停止を伴 わない新たな行政処分の類型を設置する等の見直しが行われております。  32頁は、医師の処分の件数で、平成14年から平成18年までの処分の件数が出ています。 議論になるかと思うのは、中ほどに業務上過失致死(医療)とありますが、このような数 字になっております。  最後のカテゴリーは民事紛争に関するところですが、33頁から医療安全支援センターの ことについて書いてあります。現在、医療安全支援センターは都道府県等に設置をされて おり、今回の医療法改正でも医療法に位置づけられております。その具体的内容は右の四 角の中にありますが、機能として苦情・相談への対応、必要に応じて医療機関の管理者及 び患者等に助言を行うといったことをやっております。  以下、医療安全支援センターの資料が続きますが、37頁は「裁判外紛争処理について」 という資料です。これは国民生活センターのホームページより抜粋したもので、ADRとい うのはそもそもどういうものであるのかという、基本的な資料を用意しております。詳細 な説明は省かせていただきます。  42頁以降は、「我が国のADR機関の概要」ということで、これはちょっと古い資料で恐 縮ですが、平成14年に司法制度改革推進本部のほうでおまとめいただいたものを、ホーム ページから抜粋しております。  その資料がずっと続いていますが、55頁は裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法 律ということで、この法律がこの4月から施行されておりますので、その概要について述 べたものです。長々となってしまいましたが、説明は以上です。 ○前田座長  かなり詳しくご説明いただいたわけですが、いまのご説明でもお分かりのとおり、医療 紛争処理について、さまざまな試みがあって、それが完全に固まっていない、やや動いて いる部分もある。その中で、今度、死因究明の在り方ということで、いろいろな切り口が あると思います。もちろん、資料2で方向性が示されているわけですが、かなりかっちり 方向性が固まってしまっているということではありませんで、今日は是非、この問題に関 連して各委員のお考えといいますか、いま気になっていることでもよいのですが、出して いただいて、これからどう進めていくかという方向性の地ならしといいますか、議論を集 約する前提を作っていきたいと思うのです。その前に、いまたくさんご説明いただいた資 料も含めて、何か質問があれば出しておいていただきたいのです。あとで議論に入るとき にまた質問というよりは、初めに質問があれば是非お願いしたいのです。いかがでしょう か。どういうことでこういう資料が入っているかということでもよろしいのですが、特に 何かありますか。これだけの会ですと、口火を切ってご発言いただくのは難しい。加藤委 員、お願いいたします。 ○加藤委員  まず、診療行為に関連した死亡ということで、もし可能であれば、大体どのぐらいの件 数を想定されたことになっているのかということと、それに関連して、当然死因を究明す るためには、病理等の解剖の専門家、特に病理医でも臨床病理、実験ばかりしているとい うのではなくて臨床のことをよくわかっている病理医の数が、実際問題としては大事な要 素になってくるかと思うのです。そうした病理医のおよその数、それから解剖のできる施 設が全国にどのぐらい、どのようにあるのか。その辺りをちょっと補足して、答えられる 範囲内でお答えいただければと思います。 ○前田座長  この検討会のいちばんメイン、入口のところは、調査・検討する組織をつくることです。 組織には当然、それを構成する医師の数が問題になるというのはご指摘のとおりだと思い ます。徐々に議論を進めていくということであれ、いまの分かる範囲で事務局のほうから お答えをいただいて、またあとで補足的なご報告をいただくということでよいかと思いま すが、よろしいですか。 ○医療安全推進室長  まず、医療事故について、どの程度の件数があるのかについては、全国でいったいどの ぐらいなのかは、正直よく分かりません。ただ、いくつか調査、あるいは医療事故収集等 事業等もやっております。1つは平成15年から平成17年に、厚生労働科学研究として医 療事故の全国的発生頻度に関する研究班で、これは今日委員もしていただいております堺 委員に主任研究者をやっていただいたものです。これは特定機能病院等、全部で15の病院 について、4,300余りの診療録を見て、有害事象がどのぐらい発生しているのかといった 調査をしております。これを見ると、6.8%のケースについて、死亡にかかわらず、何らか の有害事象があったということが出ています。  また、医療事故情報収集等事業を日本医療評価機構のほうでやっております。これに関 しては、平成18年のものですが、273病院から1,296件の医療事故の報告をいただいて、 このうち死亡にかかるものとしては152件の死亡事故が報告されております。もちろん、 これは過誤があったかどうかということは別ですが、このようなデータが出ております。  それから、病理の医師の数、あるいは解剖施設については、いま手持ちはありませんが、 次回以降調べて、お示ししたいと思います。 ○前田座長  ご指摘のように、調査組織をつくるときに、どのぐらいの数について、また、いま現状 でどれだけの医師にご参加いただけるかということは議論の前提だと思います。ただ、そ こに行く前に、まだモヤモヤッとした部分というか、今日は是非この資料2の概要・方向 性を基に、この会を進めていくというご提案をしているわけですので、その中でいまの問 題はもちろんつながってくるわけですが、例えば死亡した例だけを調べるのか、そうでは ないのかで数は違ってきますし、どういう組織を作るかで、医師の方にご参加いただく、 いや、医師以外の方に参加いただくかということで動いてくると思うのです。今日はかな り具体的な像を作るというよりは、おおよそ2番、3番、4番という形で進めていくことに 関して、ご意見をいただきたいということです。ただ、ほかの委員から先ほどの資料説明 その他にご質問があれば、先に出していただければと思うのですが。それから、堺委員、 先ほどのことで補足はありませんか。 ○堺委員  いえ、特にありません。 ○前田座長  ほかの委員の方で、何か質問等はありませんか。もしご質問がなければ、大きな骨組み としては、まずいろいろな所から出されている議論の中でも、診療関連死の死因究明を行 う組織が欠けている、第三者機関的なものが欠けていると言われています。それをどうす るかは、もちろんこれから議論するわけですが、それはほぼ異論がない。それについても 異論があれば出しておいていただきたいと思うのですが、2の所ではやはり一歩踏み込ん で、その組織としては中立性・公平性、公正性、専門性ということから見て、行政機関と いうことで考えるという、ある意味でかなり踏み込んだ骨組みを出しているわけですね。 これから議論を進めていく前提になりますので、このことについて、それから医師法第21 条に関して3の所で出てきますが、いまの段階でご意見があれば出していただければと思 います。特に6の問題は、これからそのあと固まった上で、行政処分をどうするか、それ から民事紛争処理をどうするかは、もちろんこの検討会の重要なテーマではありますが、 いちばん最初から民事紛争処理から入るということではなくて、組織をどうするかという ことを踏まえて、もちろん制度設計に民事紛争の処理も視野には入れますが、6の行政処 分、民事、刑事の関連は、どちらかというとあとのほうに回すということで、組織のあり 方、届出制度のあり方辺りを今日は是非ご議論いただければというか、いま持っていらっ しゃる感想でもよろしいのですが、どなたかいかがでしょうか。樋口委員、お願いします。 ○樋口委員  いま座長のほうからは、まず資料2に従って、いわば手堅く組織論から入っていって、 いちばん最後のところでほかの行政処分、民事紛争、あるいは刑事手続との関係について あとで、大きな議論、難しい議論はいちばん最後のほうへというお話であったので、ちょ っとその趣旨には反するのかもしれませんが、今日は第1回ということでもあるので、私 が思うところというか、これはいったいどういう問題なのだろうという話をちょっとだけ 時間をいただいて、してみようかと思っているのです。この中立的第三者機関をどう呼ぶ かはともかくとして、それを設置したほうがいいだろう、それが必要なのではないかとい う点では、いま座長がおっしゃったように、ほとんどの人はきっと賛成する。しかし、そ れを作ったあとが問題で、いったいそれは何をやるのだろうかという話がなかなか難しい。 作ったあとで考えるという話にはとてもならなくて、作ってしまったあとどうするのだろ うというのが非常に大きな問題になる。  大きく分けて、2つのバランシングが必要になるのかと思っているのです。今日の資料 の中でも、医療事故の被害者の方がいったい何を求めているのかというと、5つあります という話なのですが、あれは本当は順不同で並べてあるだけなので、ちょっと私自身が並 べ変えると、1つはやはり医療事故が起きた場合の責任の追及の話です。そして、被害者 と言われる人が出てくれば、被害者の救済という話。3つ目に再発防止とか安全性の向上、 医療安全の向上という話があるのですが、その3つをすべて追求する必要があると思いま す。その3つの中で、最初の責任追及と被害者救済の話は、どちらかというと過去に目を 向けて、つまり既に起きてしまったことをどうやったらいいだろうかという話だろうと思 うのです。しかし、再発防止とか今後の医療安全の向上というのは、まさにこれから、将 来に向けて何らかのことをやっていこうという話になるので、類型的な話ではあるのです が、過去に目を向ける話と将来に目を向ける話があって、その両方を考える必要がある。 しかし、このバランスをとるのがなかなか難しいのではないかということに、この検討会 も直面する、あるいは中立的第三者機関を立ち上げた場合も、すぐに問題になる。  この中で、モデル事業の実績を踏まえてというのですが、モデル事業は私の考えでは責 任追及のためにモデル事業を立ち上げているわけではない。直接には被害者救済のことを 第一義的に考えているわけではなくて、事故があったときに真相を究明して、どうやった ら再発防止につなげられるのかというところへつなげようというので、どちらかというと 将来向きの話なのです。だから、そこだけを基盤にして議論を進めるわけにもいかない。  もう1つ、被害者の方の願いの中で、原因究明・真相究明。私の考えでは反省・謝罪は やはり責任追及の中に入ると思いますので、原因究明・真相究明というのがある。これは 真相を究明、原因を究明して、だからその次に責任追及。それから、その結果、被害者だ ということが分かったので、被害者救済。それから、原因がわかったので、再発防止策に つなげるというような話かと思っている。だから、すべてのベースになるものが原因究明・ 真相究明。これが何についても大事なのですが、これが私の言うところの大きなバランス 論なのですが、先ほど言ったような過去に目を向けた意味での真相究明をする場合と、将 来に向けて行う真相究明とでは、自ずからやり方も違うし、真相という言葉の意味すら違 う。だから、その異なるものを1つの機関でうまくバランスをとってやりなさいというだ けでは、その機関がいったいどうしたものかと困ってしまうのではないかと思うのです。 どちらかが、どちらかしかやれないという話はできないと思うので、やはりバランスをと る必要はあると思うのですが、バランスのとり方についての指針を与えてあげないと、た だ作ったというだけに終わる可能性があると思うのです。  真相究明では、例えば何が真相かというと、再発防止・安全性の向上のためなら、現時 点において、あのときの事故なら事故は、1例ですが、現時点において、つまりいまの時 点で、あのときは本当は、いまから考えるとこういうこともできたのかなという話ができ るかもしれない。また、今後のことですからしないといけないですよね。しかし、責任を 追及するのであれば、その時点、事故の時点において、そういう立場にあればほかには仕 方がなかったのかどうかという話になりますので、自ずから真相の中身だって違ってくる 話になります。  それから、真相究明のプロセスのほうも、責任を追及することになれば、責任を追及さ れる相手方の人権という問題も出てくる。しかし、今後何とか同じようなことは繰り返し てもらいたくないという点だったら、それは同じようにみんなが共感できることですから、 そういう配慮がなくてやっていけるような真相究明のプロセスというのもできるかもしれ ないのですが、とにかくそのプロセスも違えば、真相という言葉の意味も違う。そういう ものをバランスだけとってくださいという話で、1つ機関を作って投げかければいいかと いうと、それはそうではないだろうということが1つです。  小さなバランスというほうは、責任の追及の中で、私も法学部に籍を置いているので、 いろいろな形の責任追及があって、それは大きく分けて3つだというように法学入門では 習うのです。刑事責任の追及、民事責任。損害賠償責任を追及する場合と行政処分という 形。これも小さなバランスというには大きな問題だと思うのですが、やはりそのバランス をどうやってとるかということが、この中立的第三者機関を立ち上げたあと、あるいはそ れを議論する中で考えていかないといけない問題で、この大きなバランスと小さなバラン スのとり方が、これは私が思っているだけですが、いまのところ我が国においてはどちら もうまいバランスがとれていないような気がするのです。  したがって、中立的第三者機関を作って、そんなにうまい話はないのかもしれないので すが、小さなバランスと大きなバランスの両方を適切にとるようなことを考えていかない といけない。しかし、これは至難な課題で、別に我が国だけの問題ではなくて、私は少し アメリカ法を勉強しているのですが、アメリカでだって全然成功はしていない。うまいバ ランスのとり方がなかなか見つからないという問題かと思っております。 ○前田座長  私の申し上げ方が悪くて、いまのような話をしていただくのがいちばん望ましいのです。 組織論にするということでありますので、本当にありがとうございました。ご指摘のとお りで、組織を作っていくときに、将来に向かって再発防止的な、展望的な考え方か、やは り責任追及とか贖罪などにつながるような話かというのは両面あって、我々法律屋はそう なのですが、どちらかでやるという言い方は間違いなのだと思うのです。両方必要なのだ と思うのです。その中のバランスで、ただ問題はこの中立組織がその両方を全部カバーす るとも言えない。やはり法的なほかのシステムとの併存なのかもしれない。刑事システム は、やはり厳然として、ある意味では残る。ただ、刑事システムとの交わり方が、いまち ょっと疑心暗鬼になったり、不幸な面があるのを直すということができるかもしれない。 全体として、どういうバランスをして、その中で、まさに組織をどう位置づけるかですね。  その視点は重要で、やはりこれだけ医療事故が起こって、国民の中で非常に不安といい ますか、きちんと追求して、厚労省がきちんとやってほしいという声は必ず強くあると思 うのです。片一方で、医療はただ人を切るのではなくて、患者を治すために善意でやって いることであって、あまり責任追及ばかりというと、医師が仕事を生きがいとしてやりに くくなる。現に部門によっては医師が足りなくなってくるという問題もある。その中で、 将来の安全にとって役に立つ究明のほうが大事だというご意見も出てくる。まさに両方の 側から、相当いまテンションが高まってきていると思うのです。ですから、この検討会が できたと思うのですが、その中でこの中立組織といいますか、この機関がその部分のどの 部分を切り取って責任を負うのかという問題は、最終的に一番大きな課題にはなってくる と思います。ただ、そうは言っても、やはり厳然として第三者的な公平な審査をやる組織 が欠けていると。どっち向きにするか、ベクトルをどちらにするかは別として、欠けてい るということは共通認識。そこについて厚労省が一歩前に出て組織を作っていただくとい うこと自体は異論がない。あとはそれを組み立てるときに、いま言ったバランスをどうと っていくかというか、どの部分をこの機関に担っていただくかということになってくると 思うのです。  関連してでもよろしいですし、今日はほかの問題も含めて、資料2に関連していただけ れば一番ありがたいのですが、どのような角度からでもご意見を出しておいていただいて、 それをまとめ上げて、次回話をつなげてまいりたいと思います。ご自由にご発言をいただ くということで、よろしくお願いいたします。堺委員、いかがですか。 ○堺委員  まず、医療機関に携わる者として、このような動きを行っていただくことは非常にあり がたく思っております。医師法第21条のみが法的な根拠という現状で、医療機関が実際の 事例において対応に苦慮するということは、間々起こっております。患者、あるいは家族 の立場からも、やはりいま樋口委員からいろいろなステージのお話がありました。まず、 患者・家族のご意向も、何が起こったのだという真相を知りたいというお気持があるので はないかと、私は思っております。その結果を踏まえて、反省・謝罪等々のことは起こっ てくるのだと思います。  一連のことをすべて1つの機関で行うかというと、これはやはりちょっとスペクトルが 広すぎると私は感じており、医療機関と患者・家族、さらには司法・行政機関の立場から 見て、第三者的な信頼するに足る機関であるというものが作られて、そこで何が起こった のだということを明らかにすることがまず最初ではないかというように、私は考えており ます。  もう1つだけこれに関連して申し上げますが、何が起こったかを解明するときに、もち ろん病理学、あるいは法医学の立場からの解析は骨子になるわけです。ただ、患者、ある いは不幸にしてお亡くなりになった方を対象にするときに、古典的な意味での病理解剖、 あるいは法医解剖だけで原因が全部解明できるかというと、必ずしもそうではないと思い ます。これは全く私の個人的な意見ですが、解剖というよりはCPCという言葉、たぶん大 部分の方々はご存じかと思いますが、clinicopathological conferenceと申しまして、医 学の領域では病理学者と臨床の立場の者が総合的に亡くなった患者を、あくまでも純粋に 医学的な見地から解析するものなのです。CPC的な解析が、やはりこの第三者機関で行わ れる必要があるのではないか。これを行うことによって、患者・家族、あるいは医療機関、 あるいは司法・行政の立場からのご理解も得られるのではないかと考えております。 ○木下委員  医療事故が起こった場合の中立的第三者機関の在り方に関して、ただいま樋口委員のか らは極めて本質的なお話を伺いました。それは当然重要な論点として今後議論されると思 いますが、現場の医療サイドとして第三者機関の設置を求めている理由としては、医療事 故が起きると、まず、警察へ届けなければならないこと。そして、場合によっては、大が かりの捜査が入り、刑事処分を受ける頻度が増えていることに対する流れを変えてほしい ことです。今日、医療事故が起きると、先ほどお話がありましたように、民事責任・刑事 責任・行政処分が問われます。現在では、何かあると刑事処分、つまり業務上過失致死傷 罪に問われるのではないか、というぐらいの危惧と恐れを感じる環境にあります。  本来医療事故が起こった場合には、原因を追求し、再発を予防していこうということに 主眼がおかれるべきであり同時に、不運な目にお遭いになったご家族に対する補償や賠償 の問題も当然あります。医療を提供する側としては、本来、思いがけない不幸なことは起 こるわけですから、そういった場合に刑事処分をどのような位置づけにすべきか、という 議論が必要です。我々としては、刑事処分を受けなければならないケースはあると思いま すが、何とかこういった刑事処分というのは本来あるべき姿に戻していただいて、事故責 任としては損害賠償責任や、あるいは行政処分という方向で考えていただきたいと思いま す。  そのようなことを我々はいちばん求めており、そういう視点からすると、先ほどのよう な本質論ももちろん重要ですが、現実的に第三者機関を設けるということは、今日の刑事 処分への方向性に対してはある歯止めをかけていただいて、真剣に取り組んでいる医師が 安心して診療ができる環境に持っていっていただきたいと思います。そういう視点から、 この第三者機関を考えていただきたいということが我々の希望です。そのために、医師会 としてもこの1年間、同じような問題に関して討議してまいりましたので、また改めて別 の機会にお話したいと思います。 ○前田座長  こういうご意見がいちばん大事といいますか、本音のところで、要するに議論の核の部 分を言っていただいたと思うのです。ですから、医師の側としては、治療しているのにす ぐに刑事というのは何なのだということですね。先ほど申し上げたように、ただ切ったと 言っても傷害事件で切るのと、未熟かもしれないけれども、治療しようとして切るのとで は全然違うのはよく分かるのですが、やはり大きな流れとして被害者の側としては法的責 任をという議論もある。そうすると、民事では不十分で、刑事が入らないと真相が解明で きないのではないかという議論もあるので、いまの刑事の介入の仕方自体が行き過ぎなの かどうかも含めて、きちんとした議論が必要だと思うのです。  ただ、今回はそれはあくまでもサイドの問題として、この組織をどうするかを中心に、 そこに結び付く範囲でこれをやって最大の成果というか、大きな獲得目標として、医師の 側としてこの制度ができたことによって、より安心して医療行為に専念して国民のために 働ける方向に一歩踏み出すものでなければならない。それは絶対にそうだと思うのです。 ただ、逆に国民の側として、こういう制度ができたので、本意ではないのに医師の側で何 か一部事故隠しをしてしまう。警察からの聖域を作ろうとしていると見えてしまうと、こ れはまた非常にマイナスになってしまう。そう見えないで絶対に極大値を取るというか、 努力して両方の側のメリットを最大限に活かせる制度設計ができるのではないか。是非現 場の医師会の側として、こういういまの真相の解明の仕方ではやりにくくなるのだと、こ こは直すべきであるというのをはっきり具体的に出していただくのが、何より大事だと思 いますので、よろしくお願いしたいと思います。ほかにいかがでしょうか。お願いいたし ます。 ○山口委員  一昨年の9月から内科学会が始めた診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業の中 央事務局長を仰せつかっております。先ほど樋口委員に非常にうまく大体の方向性をまと めていただいたように私は拝聴しました。確かにこの機関の最大の目的は原因究明となっ ていますが、モデル事業も同じ原因究明を目的に50例近い例で始まっています。実際に原 因究明をどのように分析するか、立場によっていかようにもなります。ただ第三者機関が できればいい分析ができるというものではないことを本当に痛切に感じています。樋口委 員が将来に向けたベクトルと過去のベクトルの両方があると言われたと思いますし、その バランスが非常に重要だろうと思います。いま大きなほとんどの病院が、医療安全に取り 組んでいます。その医療安全に取り組んだこれまでの運動が、それなりに軌道に乗ってき ているかなり大きな理由は、それぞれに、あるいは匿名で、あるいはその責任を追及しな いで、ともかく何かあったヒヤリ・ハットを全部届出る。そのことに基づいて将来のヒヤ リ・ハットの再発を予防する。その再発予防という方向性が明確になっていて、しかもそ の責任を個々のところで追及しない、という点がヒヤリ・ハット活動が成功した重要なポ イントだと思います。今回、ここで取り上げる問題の責任を追及しないというわけにはも ちろんいかないと思いますから、そのバランスが大切だと思います。基本的な軸足として 再発予防のための第三者機関であり、届出の制度であり、分析の機関である。その基本的 なスタンスだけはきちんとしないと、いままで安全管理のために病院で行ってきたような 行為や安全推進活動みたいな方向性にも、非常に大きく影響する話だろうと思います。後 ろ向きと前向きのベクトルのバランスは非常に重要だと思いますが、基本的なスタンスと しては再発を予防するためにこの事例から何を学ぶかというスタンスの方向性だけは、き ちんと守っていろいろ考えていかないと、いま行われている医療安全のヒヤリ・ハットの 活動も含めて、いろいろなものがまた前向きの方向から後ろに向きかねないという、影響 の大きな制度、あるいは機関を作ろうとしているのだという認識を持つ必要があると思っ ています。 ○前田座長  ありがとうございました。先ほどの樋口委員の分析の上で、案に乗って1つの方向性と いうか、ご意見でおそらく山口委員もお認めいただいているように責任を全く無視するわ けではないけれども、基本的な方向としては何のためにやるかというと、再発予防という 視点抜きには、医師の協力その他からいっても難しい。ただ、細かいことのように見えま すが、具体的にどう摺り合せるかで、再発予防のこの委員会にできるもので、できる限り 前向きとして、ただ責任追及する別のルートを阻害しない方向も1つあると思うのです。 飛行機の事故などでも、将来に向けて二度と起こらないようにすると同時に、刑事責任追 及の道はきちんと残す。証拠の保全などもきちんとやる。そういう併存の仕方はもうひと つモデルとしては出てくると思うのです。  もちろん国民から見たらいい医療を望むわけで、二度とこういう事故が起こらないこと が究極の価値だということではそのとおりだと思いますので、1つの軸とするのですから、 そうすると、この厚労省が作る組織としては基本的な軸としては再発予防を視野に入れて、 ただ、責任追及に関しても役に立つ真相解明、その資料的なものはきちんと残す形が出て くるかもしれない。今日はその方向性を固める段階ではないと思いますので、いろいろな 立場で、医師の側ではない、患者の側、弁護の方もいらっしゃるので、いろいろなご意見 を伺った上で徐々に固めていくことにしていきたいと思います。児玉委員お願いします。 ○児玉委員  この10年の間に医療界もまた医療に関する紛争や事件を取り扱う法曹界も本当に大き な変化があったと思っています。この会議で議論を進めていくにあたって、医療界でも随 分変わってきたこと、法曹界でも随分変わってきたことを相互に情報をシェアしながら、 いま一体全体として何が行われているかというトータルな理解を共有し、新しい施策を作 っていったほうがいいのではないかという思いを持っています。  2点ほどお話させていただきます。1つは医療界のこの間の取組です。私は病院の顧問弁 護士をいくつか務めさせていただいております。10年前はただ単に医療事故はあってはな らないということで、具体的な医療事故予防対策への着手は非常に遅れていたのが実情で した。2002年の医療法施行規則改正を大きな契機として、各病院で事故報告制度、事故の 原因分析、そしてマニュアル作り、さらには教育研修などの取組が非常に熱心に進められ るようになっている中で、一方、現場で医療事故はあってはならない、二度と繰り返して はならないと言いながら、極めて不完全な医療の技術の下で、現場での疲弊感が出てきて いる状況もあろうかと思います。その中で死因究明の事業として、各病院の調査委員会も 非常に頻繁に立ち上げられるようになりましたし、その中のある意味、代表選手として医 療界を上げて死因解明、死因究明のためのモデル事業をこの1年半余りにわたって取り組 んできたわけです。私の個人的な感想ですが、航空機事故や海難審判と比較して、2点ほ ど違う点があるのではないか。そのまま航空事故モデルや事故調モデルや海難審判モデル をもってくるのは困難ではないかと思われる点が2点あります。解剖して臨床医が集まっ て、最先端の情報を持っている人が集まって真剣にカンファレンスをしても、なお医学と いう学問、あるいは医療という営みの不確実性、不完全性、不安定性の中で暗闇を手探り していくような作業が続いていて、確定的な事実の解明や原因究明はなかなか難しいこと をたくさん経験してきています。  もう1つは、海難審判などがプロ対プロの衝突の経過を跡付け、また責任分配を考える という営みであるのに対して、医事紛争ないし医療事故の場面では、医師と患者というプ ロフェッショナルと市民の間に何らかの行き違いやコンフリクトが生じている。そういう ものをどう解決するかという課題を背負っているのだと。この医療の学問としての不安定 性と、市民とプロフェッショナルが関与しているというこの2点が、医療事故調査におい て特徴があるのではないかと感じています。その中で、今後新しい機関を考えるにあたっ て、もちろん事実の解明は非常に大切だと思いますが、その一方で、どこまで事実がどう いう手続で誰が関与してその解明が進められるのかというプロセスの開示や、さらには情 報提供と対話の促進、プロフェッショナルと市民の対話の促進、患者と医師、医療者側の 対話の促進が図られるような機関であってほしいという思いを、これまでの経験から思っ ています。  もう1点、法曹界の動きが随分変わってきており、その点についても付言をさせていた だきたいと思います。裁判所の平均審理期間など、とりわけ民事の医療訴訟について、こ の10年間で裁判所の対応は激変といっていいほどの変化がありました。10年以上前です と、医療事件は平均審理期間が40カ月を超えるのが一般だったのですが、いまは全国平均 で26カ月程度となり、また東京地裁に限っていえば私の担当事件は実際に東京地裁でやっ ている事件は、審理期間が20カ月を切るようなものも珍しくない状況で、民事裁判に関し ては迅速な裁判という観点から、非常な改善と工夫がなされてきたこと、これは裁判所の ご努力に加えて弁護士会側の協力がいろいろあったわけです。期間が短くなっただけでは なくて、例えば東京地裁で民事の医療訴訟の和解率は直近の資料でも64%を超えています。 3分の2以上を東京地裁は和解で解決するという状況になっていて、これも双方の納得に よる解決を民事裁判が施行し始めているという1つの現れではないかと思っています。  さらに鑑定人を1人選んで、その先生の独断で解決をするやり方を東京地裁ではもう採 っていません。東京13大学から3大学、3名の鑑定人を専門医の方においでいただいて、 法廷の公開の場でカンファレンスをしていただいて、その経過を傍聴席にいらっしゃる方 も含めて、あるいはおいでになった患者側の方皆さんを含めて見ていただきながら、その プロセスを見ていただくことで解決の方向性を見出していくような鑑定に移行していると いう裁判所の現状があります。  さらに直近の動きで紹介しますと、裁判所がそういう方向性になっているのをさらに押 し進めようという考えの下に、東京には東京弁護士会、第一東京弁護士会、第二東京弁護 士会の3つの弁護士会がありますが、この東京3弁護士会が2007年、今年の1月からADR プロジェクトチームを立ち上げ、いま東京3弁護士会のそれぞれの仲裁センターを足場に した、医事紛争のADRを立ち上げていこうと、弁護士会を上げて協議をしている状況です。 近い将来、夏を目処として、もう少し具体的な報告ができるような状況になってくるかも しれません。以上のように法曹界の動き、医療界の動き、この10年大きな変化があったこ とを前提に、未来志向型で新しい制度作りに関与していきたいものだと思っております。 ○前田座長  ありがとうございました。いまのことは非常に大事なご指摘で、要するにこの委員会の 透明性の問題ももちろんあるのですが、責任追及志向でいったとしても、未来志向で再発 予防中心だということと、そんなにずれないで、要するに裁判というのはまさに責任追及 の場なのです。そちらのほうでも厚労省が目指す会と近いような方向になってきているこ とは、摺合せの価値があり得ることなのだと思うのです。刑事と民事とではまた違ってく るかもしれませんし、ご指摘があったように刑事に対しての医師の側の不満を考えなけれ ばいけないことは1つ残ると思うのですが、真相を究明することの医学的な難しさという ご指摘は非常によくわかって重要だと思うのですが、いまのようなことを踏まえて制度設 計を前に進めていきたいと思います。ほかの委員の方お願いいたします。 ○辻本委員  いま児玉委員から医療と司法の現場が大きく変わったという報告をいただき、初めて聞 くお話もたくさんございました。国民・患者ということで申し上げると、患者の立場の意 識もこの10年、もっと言えば20年ぐらい前から非常に大きな変化を遂げてきています。 実は私どもは17年前から電話相談ということで患者、あるいは家族の生の声を聞いている のですが、17年前のスタート当初を振り返って見れば、医師に対してものも言えなかった ような、誤解を恐れずに申し上げれば、幼児のようなという表現が当てはまるような声が 届いておりました。ところが、最近はまさに思春期、反抗期のような患者の声というもの が高まりを見せています。20年近く前にいわゆる医療被害ということを感じた患者は、た だただ人を恨むという気持になっていたと思います。その人たちが世の流れの中で、情報 を学ぶ中で、ただ、人を恨んでいるだけではいけない、そういう問題でもなさそうだとい うところにまで、これを成塾というのかどうか分からないのですが、少し意識が変わって きていることも実感しています。  ただ、医療現場の理不尽なまでの不条理、不合理ということを患者1人ひとりが善意に 理解できるかというと、なかなか受け入れられることではありません。しかし、この厚労 省の会議でも、冒頭に出てくる言葉が「安全・安心」なのですが、それはむしろ大前提の 問題であって、私たち患者にとっては納得ということがいま一番希求の問題だと思います。 その納得のためには説明責任が伴ってくることだと思うのですが、例えばいま児玉委員か ら東京地裁におけるという報告をお聞きしたことで、1つの納得が私にもいただくことが できました。そういう意味でもっと医療のシステム、あるいは限界や不確実性をここにい らっしゃる方々の100分の1も理解できていない国民、患者の我々が、納得できるように 説明する。情報を共有することに大きなターゲットを絞っていただきたいと思います。  その1つとして、例えば平成16年から機構において医療事故調査を手がけてきておられ ます。18年度も19年度も我々の税金を使って、モデル事業の取組が行われています。正 直に私はどちらにも関わりを多少もたせていただいている人間ですので、ほかの患者家族 よりは中身については知っている立場だと思います。それでもやはりどのように動いてい るのか、そのことで何が問題視されていることなのか、さらにはどういう期待が持てるの か、中身が十分に報告されているとは思えません。そうした国民の納得のためにも、税金 を使ったこの活動についても、その辺りで分かりやすく説明し、患者、国民に理解を求め る視点を、是非とも忘れないで議論をしていただきたい。そのことを心からお願いしたい と思います。 ○前田座長  どうもありがとうございました。先ほどの児玉委員のご指摘と合わせて、法律の世界で も結局そうだと思いますが、納得というのは大事ですし、そのための情報の開示の仕方、 同じことでもボタンのかけ方で全く逆になってしまうこともありますので、そういうこと を常に念頭に置いて議論を進めていきたいと思うのですが、ほかの委員の方、いかがでし ょうか。お願いいたします。 ○高本委員  東京大学におり、外科学会の代表として、東京のモデル地域の責任者を務めております。 先ほど児玉委員が言われましたように医療の不確実性ということがありましたが、いまや 医療は非常に複雑になっております。昔は医師のパターナリズムというか、患者に向かっ て「こうやれ」と。それに従わなかったら「お前、なんでこれをやらないのか」という感 じで、外来で患者を叱ったりということがよくあったと思うのです。いまでもやはり少し はあると思いますが、随分いまの医療は変わってきたと思うのです。医療はもはや医師1 人の力でやれるようなものではなくなってきました。医療というのは基本的には患者のた めでありますし、患者の生命力を基本に置いてなされるもので、患者の協力がないと、と ても医療がなされるわけではないわけです。ですから、そういうことを学生にも教育しま すし、全国で医学教育改革など一番の基本はそういうことでなされてきたのだと思います。 ですから、これから卒業する若い医師は、昔の医師と違って、だいぶ変わってくるのでは ないかと基本的には思っています。  そういう医療の不確実性という観点から見ますと、刑事事件で責任者として誰かを、下 手人として罪を裁くということですから、全く医療の基本概念とは相入れない。その背後 にはシステムエラーもある。患者の条件もある。いろいろな条件があるにもかかわらず、 誰か1人を悪者にするというのは医療の根本思想に当てはまらないことだろうと思うので す。ですから、もちろんそこに悪意がある場合は、刑事事件も仕方ないかもしれませんが、 基本的に一般的な医療で行われているようなことで患者が亡くなった場合に、刑事事件扱 いはふさわしくないだろうと私は思います。特に医療の領域だけが非常にバッシングされ ていますが、ほかの領域でもちょっとした失敗はよくあるわけです。例えば裁判官が誤審 をする場合もありますが、これは法的には何も裁かれない。警察官が誤認逮捕する。これ も法的には裁かれない。医療だけがこういう形で患者が亡くなった場合に責任を取らせる。 それだけで責任を取らされるのは行き過ぎではないか。もちろん民事や行政の適切な処罰 は必要なのかも分かりませんが、刑事事件扱いは基本的にはこれにふさわしくないだろう と考えます。  いま医師不足という形で、いろいろと社会で問題になっていますが、現場の医師は非常 に複雑になっている医療の中で、学ばなければならないことも多いし、医療機械も多くな ったし、疾患も非常に複雑になってきている。患者も非常に高齢化して疾患そのものが極 めて複雑になってきていますから、その治療をするのに四苦八苦しています。そういう中 で責任だけとらされる。しかも医療界だけこのような非常に厳しい責任を取らされるのは 医療人が医療そのものに対する生きがいをなくす原因にもなっていますので、こういうこ とを第三者機関、中立的な専門機関を通じて、払拭していただきたいと思いますし、本当 に真相を解明して、将来に向かって医療事故の再発防止と新しいより良い医療を目指すよ うな機関であっていただきたいと切に願っております。 ○前田座長  ありがとうございました。非常に分かる発言だと思うのですが、先ほどの警察官や裁判 官は申し上げるとおりなのですが、ただ、警察官でもやり過ぎると民事の責任を超えて犯 罪になって、処罰されることもあるのです。それはもう極々例外といえば例外なのです。 おそらく刑事の側で想定している処罰がいけないとか、先生がお考えになったチーム医療 で、不幸にして非常に重大な結果が生じたという場合の刑事責任の問題は、ほとんど考え ていないのだと思うのです。ただ、事件によっては、悪意とまでは言えないけれども、そ れに近いような重大な過失とか、医療事故の中で刑事が扱うというのは、先生方から見る と非常に特殊な領域、特殊な事件なのだとは思います。ただ、そういう問題についての証 拠というか、そういうものについての真相解明みたいなものもある部分では必要で、それ は医療の安全という観点から見ると、量的には一般に考えられているよりは小さいのかも しれないのですが、現に不幸にしてそういう被害に遭った方々の不満もある意味でないわ けではない。先ほど樋口委員がおっしゃったバランスだとは思うのですが、全体として医 療に対してバッシング的な動きがあり過ぎるのはご指摘のとおりで、日ごろ医師の側が何 のために活躍されているかをやや見落としている。そのとおりなのだと思います。その中 で、片一方での安全面みたいなものを付けておかなければいけないところが、先ほど樋口 委員がおっしゃったバランスなのだと思うのです。そこ等も含めて議論をしていきたいと 思うのですが、基本的には擦れ違いがあって、片一方の側から見れば、まだこういう機関 でやるとそういうのを隠蔽するのではないかという議論が出てくる可能性はあるのだと思 うのです。そういう無駄な疑心暗鬼のようなものをなるべく払拭していきたいと考えてい ます。またご議論をいただくと思うのですが、ほかの委員でご発言いただいていない方で、 何かございますか。無理に発言ということはないのですが、豊田委員お願いします。 ○豊田委員  私は2つの立場で参加させていただいています。1つは4年前に実際に自分の息子を医 療被害で亡くしております。もう1つは、いま病院の中で医療安全対策室に所属していま す。私は医療の有資格者ではないので、リスクマネジメントといっても、医学的知識に欠 けている部分があるので、その部分に関しては現場の兼任者であるリスクマネージャーと 協力し合いながら、マネジメントを行っています。一方で事故や医療トラブルが起きてし まった際に、その後の対応があまりにも医療機関の中で冷たく行われてきたということで、 少しでも現場の中でそういったことができないかということで、ADRといえるかどうか分 かりませんが、そういった形に近い形で実践を行ってきています。  いまいろいろなお話を伺っていて、確かに医師の方々のご意見がもちろん分かる部分も あります。殺人犯のような人たちと一緒にされたくないのは当然のことですし、故意にそ ういったことを行ってはいないわけですから、そういうように思われるのも十分に分かる のですが、ただ、患者側は過失があると思っている状態からスタートしているので、医学 的知識のある方たちが、これは過失があるとは言えないのではないかというところから対 応が始まってしまうと、どうしても意識のズレからボタンのかけ違いが始まってしまう、 そういった中で実際に過失があってもなくても、非常に不幸な事例がたくさん起き続けて いってしまっていると思います。  当院でもそういう実際に過失があるかないか分からない状態の中から、いろいろ担当し て対応させていただいているのですが、実際に患者の具体的な思いを、お話を伺っていく と、何について一番傷付けられているのか、そういう具体的なものを非常に感じ取ること ができます。  私自身がそういったことで息子を亡くしていますので、最初から感じている点なのです が、再発防止を願うということは、本当にだいぶ時間が経ってからだと思うのです。皆さ ん誰でも最初は最愛の家族が亡くなっていますから、その家族の死を医療事故であろうが 何であろうが、受け止めることができない。そこから始まって、次にこれは誰かの手によ ってそういうことが起きたのではないかという疑問や不信感が起きてくる。そうなるとそ れが一体誰がどういった形になってこういうことが起きたのかということを知りたいと思 うのは当然のことだと思います。ましてや密室の中の出来事ですし、医学的知識が患者は ありませんので、そういった疑問や不信感を持つのは当然だと理解することから始めない と、議論は難しいのではないかと思います。  再発防止のために第三者機関が設置されることは非常に大切なことだと思いますが、そ れと同時に、何か1つの第三者機関の中ですべての対応を行うことは、私自身も非常に難 しいことだと感じていますので、そこにまた別のシステムを作って併用して、一緒に連携 するといった形で児玉委員がおっしゃったように対話をしていく形、患者をケアしていく ような形、当事者の人、それは患者側、医療者側の双方だと思うのですが、そういった人 たちのケアをしながらやっていかないと、関わった人たちが正直な気持を話すことができ ないことも起きてくると思います。患者側が望むことは、関わった当事者から本当のこと を伝えてほしいという気持がいちばん強いです。事故が起きてしまうと恐怖で震えてしま うと思いますので、当事者が素直に話せない、正直に話せない現実があるかと思います。 ですから、私としては当事者双方の気持を考えた上での制度を作っていっていただきたい と切に願っています。今後は、私も現場でいろいろ実践していることや、講演活動をたく さんしている中で、さまざまな医療機関の現場の生の声を聞いていますので、お時間があ るときにまたそういったことを話させていただきたいと思いますので、よろしくお願いい たします。 ○前田座長  どうもありがとうございました。楠本委員お願いします。 ○楠本委員  これほど医療従事者側も患者、国民側も期待して、こういう制度を作っていくことは、 本当に大変な作業ですが、やりがいもあるものと思っております。キーワードは国民・患 者側から見て中立性、公正性がはっきりと分かるようにしていくことだと思われます。い まモデル事業が開始されまして、私のところは参加できてなくて申し訳ないのですが、ま だ専門性のところの議論で終始しているような状況があるように思われます。これを一般 国民から見て、私たちコメディカルと言われる者から見ても本当に重要で貴重なものだと 理解、普及啓発していくようなことを考えていかなければいけないのではないかと思って います。  先ほど豊田委員や辻本委員のお話を聞いていまして、こういう事故が起こり、大変傷ん でいる方々を解剖しという、いわゆる科学者の目でやっていく作業と、それを待ちながら 不安や不信をお持ちの遺族、その間をつないでいき、医療従事者がやっていることをきち んと伝え理解いただきながら共有していくような、そういう調整をしていく人たちの機能 はとても大事なのだろうなと思っています。  資料3の28頁に、いまモデル事業の7カ所がどういう体制でやっているかが示されてい ます。そこに総合調整医と調整看護師という役割の人たちがいらっしゃって、この人たち が運用しているわけですが、これから組織化を考えていく上で、こうした人たちにどんな 要件が必要なのか。特にお願いしたいのは、こういう医学者と遺族、身内の方たちをつな いでいく役割の調整看護師の役割を、もう少し明確に機能付けたり位置付けたりする必要 があるのではないかと思っています。両者をつないでいけるのは看護師が大きな役割を果 たせるのではないかと思っています。  聞くところによるとオーストラリアでリエゾンという勉強をしたナースが非常にこの分 野で活躍していたり、アメリカで法医学看護師という名称の人たちが活躍しているとお聞 きしますので、事務局にお願いすることだと思いますが、こういう人たちが実際にどんな 役割をどのようにしてこの仕組みを動かしているか。そうした情報もいただきながら、少 し議論ができるといいなと思っています。 ○前田座長  ありがとうございました。ほかの委員の方でいかがでしょうか。お願いします。 ○鮎澤委員  九州大学で教育職、研究職の立場から事故防止、安全管理、リスクマネジメントに関わ っております。また病院では医療安全部会や、医療事故の起きた後に行われる検証会等の メンバーでもありますので、そのような立場から発言させていただきます。日本における 医療安全の取組の比較的早い段階から関わってきた者として、こういうことが議論される ときがやってきたことを本当にうれしく思っています。「検討の方向性」の中にも書いてい ただいていますが、急速にいろいろなことが動いたからこそ、追いついてこないことがた くさんあった、それらをいよいよ整理できるときがきたという思いでいっぱいです。今日 はとりあえず委員の皆さんのご発言をじっくり聞こうというスタンスで臨みました。まだ 皆さん全員のご意見を聞き終わっているわけではないのですが、いままでのところ、どの 委員の皆さんの発言にも、そこは絶対反対ですというものはありません。おそらく多くの 皆さんがそうでいらっしゃると思います。でも、それがこの検討会のテーマの難しさなの ではないかとも思います。詳細を詰めていこうとなれば、いまの制度との摺合せやいろい ろな問題が出てきます。改めてその大変さを確認した次第でもあります。今日は自由に述 べていいということなので、4点ほど順不同ですがお話させていただきたいと思います。  まず1点目、このような仕組みができ上がることは、患者だけではなくて医療従事者も 切に願っているということです。いわゆる死亡の原因が公正に中立に解き明かされること を願っているのは患者だけではありません。そういう意味でこの仕組みがきちんとでき上 がることは、患者のみならず医療従事者の納得に向かっても、大変大事なことだと思って います。ご存じの方も多いかと思いますが、国立病院機構の国立病院九州ブロックでは、 それぞれの病院で検討が難しい案件を、「拡大検討委員会」として九州ブロックの中で検討 される仕組みを機能させておられます。「拡大検討委員会」には、当事者としての医療従事 者や院外の専門家も入って、真摯な議論が重ねられるわけですが、そこからの結果につい ては、当事者である医療従事者が納得できたと言っておられる、そうした場で検討されて よかったと言っておられるという話を伺うと、改めてこうした仕組みができることが医療 従事者にとっても大事なのだというご紹介になるのではないかと思います。九州ブロック の取組みのように、すでにいろいろな形で進んでいる独自の検討会の仕組みについても、 委員会の中で紹介されていくといいのではないかと思います。それが1点目です。  2点目。この第三者機関ができることに私も大変期待しているのですが、それができた からといって、医療機関が丸投げをするようなことがあってはいけないと思っています。 まず向き合うべきは当事者の医師や医療機関と患者であり、医療機関です。つまり現場に きちんとした実力がついていかない限り問題は解決していかないように思います。とは言 うものの、1つの医療機関ですべてできるわけではありません。起きた事故の当該診療科 の医師が1人しかいないというときに、どうやって議論するのかという話にもなってきま す。だから、先ほどの九州ブロックのような形も出てくることになるわけですが、第三者 機関ができて、検討の方法論ができ上がって、現場にフィードバックされることによって、 それぞれの医療機関にも実力がついてきて、それぞれの現場で必要な議論と対応ができる ようになってくるのではないか。そんなことも期待しています。  3点目です。先ほど児玉委員も発言されていたのですが、一生懸命検討して、それでも 「分からない」という結果が出てくることがあります。「分からない」ということをどのよ うに理解するかが、実は大変大事な問題なのではないかと思っています。医療従事者と患 者との間にある認識の違いに関する大きな課題でもあるのではないかと思うとき、この第 三者機関のような仕組みが機能することによって、「それでも分からない」ということをど のように国民の中で受け止めるか、そのあたりに社会としてのコンセンサスができ上がっ ていくことにもなっていけばいいと思っています。  4点目です。諸外国でこういった第三者機関を、樋口委員の言葉をお借りすると、過去 ではなく将来に向けて機能させている国には、社会保障制度が整っている国が多いように 思います。不可抗力であれ、過誤であれ、大きな障害を負って生活が全く変わってしまう 患者や家族の負担は大変なものになります。そうした負担を社会保障制度でカバーできる かどうかも、第三者機関を将来に向けて機能させていくことができる環境の一つなのでは ないかと思っています。これから第三者機関が諸外国でどのように機能しているかという 議論が出てくることもあるかもしれないと思い、少し私見を述べさせていただきました。 ○前田座長  ありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。それでは手を挙げた順で山本委 員、南委員とお願いします。 ○山本委員  私は民事訴訟法が専門ですので、先ほどの座長の整理ではもう少し後の段階で発言させ ていただくのが適当かと思いますが、2点だけ、私の立場からこのような中立的な死因究 明のシステムに対する期待をお話させていただきます。私は民事裁判を専門としています が、この医療事故に関する紛争を民事裁判で解決するということについては、いくつかの 限界があるとかねてから思っています。先ほど児玉委員から最近の民事訴訟制度における 医療訴訟への対応の進展のお話がありました。全くそのとおりで、我々の目から見れば飛 躍的な進展というものがあると言っていいと思います。昨年のいちばん新しい統計だと、 さらに審理期間は短くなって、25カ月となっており、関係者の皆さんの努力の成果だろう と思います。  しかし、それでもやはり25カ月であると言えるわけで、民事訴訟全体の平均審理期間は 7カ月、8カ月です。それに比べれば医療訴訟は時間がかかっていることは間違いない。し かも、いまの25カ月というのは一審の審理で、不服がある当事者はそれに対して控訴がで きるというのが日本の民事訴訟の制度で、医療訴訟における上訴の控訴の率は40%で、判 決が出た場合にその40%に対して控訴がなされています。その判決が出た40%の事件はさ らにそれ以上に時間がかかるということになります。それはそれだけ患者に対する救済が 遅れ、あるいは医療側の立場からすれば、事故に対する紛争にずっとかかわっていかなけ ればいけない期間がそれだけ長いということだろうと思います。  その原因としていくつか指摘されているところがあるわけですが、私の目から見れば、 こういう事故の直後に専門的な中立的な第三者が事実の解明に当たる。その結果が出るこ とは仮にその後訴訟が起こったとしても、その後の訴訟の手続の進め方が全然違ってくる のだろうと思います。先ほどベクトルが将来に向いているか過去に向いているかというお 話がありましたが、仮に将来に向けたベクトルに基づくような制度であったとしても、そ のような専門的な機関が一定の判断を直後にされていることは、裁判の現場ではかなり大 きなものになるだろう、民事訴訟の在り方を相当程度変えるものになるのではなかろうか という期待をもっています。  もう1点は、将来話題になることだろうと思いますが、裁判外紛争処理、ADRというの も私の専門としている分野です。その立場から見ると、この訴訟制度で医療紛争を解決す ることの限界はあるような気がします。この資料の中にも被害者の方の願いというか、求 めるものについての記載がありました。民事訴訟は本来の目的は、当事者間の権利義務関 係を確定することを法的な立場から確定することにあります。もちろんそれに付随して真 相の究明等がなされることではありますが、この被害者の方々が望まれていること、その 思いを訴訟の中でどれだけ拾えるかというと、それは制度の本来的な限界があるだろうと 思います。  そういうものをある程度拾っていこう、そういう期待に応えていこうとすれば、やはり もう少し違う枠組み、もう少し柔軟な枠組みで考えていかざるを得ないのではないか。そ れが裁判外紛争解決、ADRというものに対する期待が高まっていくことなのではないかと 思っています。ただ、そのADRがワークするためにはこのような原因究明機関が存在し、 それとの適切な連携が図られることが非常に重要なことであろうと思います。  同じような事故に関する紛争で製造物責任の事故があります。PLとよく言われるもので すが、ご承知のように最近も非常に事故が多いわけです。それについてADR機関としてPL センターが多数作られていますが、一般的な評価として、それはなかなかワークしていな いと言われています。原因はいろいろあると思いますが、私が見たところ、1つの原因は そういう事故の原因を究明するシステムが十分に発達していないところがあって、それを 前提にしてこのPLセンターというADR機関を作っても実際には機能することが難しいので はないか。そういう観点からすれば、こういう第三者的な事故原因の究明機関があって、 それに基づいて訴訟制度とはもう少し別の紛争解決の枠組みができていくのは、医療事故 についての日本全体の紛争解決システムを考える上では、1つ望ましい方法かと思ってい ます。 ○前田座長  ありがとうございました。それでは南委員どうぞ。 ○南委員  読売新聞に所属しております。各委員のお話を伺っての所感を、まだまとまりませんが 述べさせていただきます。医療現場の先生のお話では非常に疲弊していて、危機的な状況 であるということ。これは、本当に切実に受け止めたいと思います。一方、患者側の被害 に遭われた方の声もその無念さは本当に体験しない者には想像できないほど切実なもので あると思います。児玉委員が言われたようにここ10年の間にいろいろな変化があって、も う医療紛争、医事紛争を従来の形で解決することは限界があるということで、こういう会 議がもたれるに至ったのだと思います。確かに医事紛争を司法、裁判という形で解決する ことは私も限界があると感じております。より中立公正な何らかの組織があるならば、そ れは国民にとって非常に期待できるものではないかと総論的には思います。ただ、最初に 樋口委員が言われたように、それがどういう形で何を目指すかというと、原因究明型なの か、将来展望型かということで、そこでもう明らかに視点も求めるものも違ってきますか ら、現実には1つの組織に全部を担ってもらうことは現実論として難しいのかもしれない。 では複数の組織ということになれば、また相互に調整ができるのかという問題があるかと 思います。  私は医療の問題を報道という立場から見ていて、近年の変化として児玉委員が言われた ことは全部共感することですが、それに加えて非常に大きな変化はこの間の医療・医学の 情報化です。医療そのものが大きく変わって、それと同時に医学技術自体の不確実性も同 じくらい大きくなっていった。そうしたことが情報として流れ、その中で国民、患者が求 める医療・医学への期待値は現実とは非常にずれたものになっている部分があると感じる ことが間々あります。  例えば500gぐらいしか体重のないような子どもが生まれた。これが大々的に報道される。 非常に素晴らしいことであると報道されますと、500gでも子どもが助かるのだから、どん なに小さい子どもでも助けてもらえるのが当たり前と、最先端の医療の結果に対して国民 はその水準の医療を自分にも求めていく。こうした、国民の医療・医学の現状に対する認 識が、医事紛争、医療不信の根底には非常に大きくあるように思います。患者が自分の身 に受けた医療について最善の結果を求めること、これは求めるなということのほうが無理 なわけで、いまある最善の結果を求めるわけですから、それは当たり前ではあるのですが、 現実との折り合いをどうつけていけるかが問題です。医事紛争以前の医療の中で、患者、 医師間のコミュニケーションを発展させていかないと、たとえどのような組織を作ってみ ても、解決できないでしょう。この新しくできた組織が、結局はまた患者の期待を裏切る ものになりかねないのではないかと思います。ですから、双方の思いを納得させるような もの、最大限納得させるものとしてどういう形が可能かを、この会議で是非極めていって 頂きたいと思います。 ○前田座長  どうもありがとうございました。ご議論を伺っていて、1つ安心したのは調査機関を作 っていくこと自体については、もちろんニュアンスの差があるし、方向性で逆になるとい うご議論もあるのですが、客観的に公正なものを作っていくことについては前向きなご議 論をいただけていること。ただ、その中でどういう方向での真相の究明かということを常 に頭に置きながらも、ご議論の中で東京地裁の例やいろいろ、山本委員のお話などもそう なのですが、収れんしていく点というか、完全に溶け合ってうまくいくかは別として、解 決の道が完全に水と油でぶつかるということではなさそうな面もあるという感じです。  是非、医療の側からのご不満、患者側の被害の不満ももちろん消えることはないと思う のですが、議論する中でキーワードは国民の納得で、それが得られるような方向で最大限 の努力をして、客観的な公正な調査機関を作らなければいけない。それを100点はないか もしれないけれども、どうしたらより国民の納得の得られるいい点にするかという方向で、 次回以降、議論をご協力いただきながら進めていきたいと思います。この議論がさらに発 展するために、本日締め切りですが、「診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関 する課題と検討の方向性」に対していろいろな意見を頂戴しています。次回は、それを報 告していただいて、それを踏まえてまた議論を発展させていくということと、今日も出て きましたが診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業の実施状況を踏まえていきたい と思いますので、その実施状況についての報告をいただいた上で議論をしていきたいと思 います。  それに加えて患者ご遺族、医療現場で活躍しておられる医師、医療安全管理者などの方々 のヒアリングも議論を深めるために是非必要かと思いますので、準備をお願いしていきた いと思います。なお、今日の議論でも出てきましたが、委員の皆さん側で資料等をお持ち で、またペーパーを出したいという方がいらっしゃると思いますが、これは是非事務局に お届けいただいて、委員のお手元に届くように準備していただきたいと思います。 時間がきてしまいましたので、今日のところはこういう形でまとめさせていただき、あと は事務局に戻しますので、よろしくお願いいたします。 ○医療安全推進室長  ありがとうございました。次回の日程は5月11日(金)の午前10時から12時までを予 定しています。場所等の詳細については決まり次第連絡をさせていただきます。ありがと うございました。 ○前田座長  本日はどうもありがとうございました。これで今日は閉じたいと思います。 (照会先)  厚生労働省医政局総務課  医療安全推進室   03−5253−1111(2579) 26