07/03/14 第36厚生科学審議会科学技術部会議事録     第36回厚生科学審議会科学技術部会     議 事 録   ○ 日  時  平成19年3月14日(水)10:00〜12:00     ○ 場  所  厚生労働省 専用第15会議室 (7階)     ○ 出 席 者    【委 員】  垣添部会長     石井委員 今井委員 岩谷委員 川越委員 北村委員      笹月委員 末松委員 西島委員 福井委員 南(裕)委員      南(砂)委員 宮村委員 望月委員     【議 題】    1.部会長代理の指名について    2.研究活動の不正行為への対応に関する指針について    3.厚生労働科学研究費の不正経理への対応について    4.遺伝子治療臨床研究について    5.今後の中長期的な厚生労働科学研究のあり方について    6.その他    【配布資料】    1.厚生科学審議会科学技術部会委員名簿    2.研究活動の不正行為への対応に関する指針(案)について    3.公的研究費の不正使用等の防止に関する取組について(共通的な指針)    (平成18年8月31日総合科学技術会議)    4−1.北里大学病院の遺伝子治療臨床研究実施計画について    4−2.北里大学病院の遺伝子治療臨床研究に係る第一種使用規程について    4−3.札幌医科大学附属病院の遺伝子治療臨床研究実施計画の申請の取り下げについて    4−4.遺伝子治療臨床研究実施計画に関する報告について    (癌研究会有明病院、東京大学医科学研究所附属病院)    5.今後の中長期的な厚生労働科学研究のあり方について    参考資料1.厚生科学審議会関係規程等    参考資料2.イノベーション25中間とりまとめ(全文)    参考資料3.今後の中長期的な厚生労働科学研究の在り方に関する専門委員会       中間報告書(全文) ○林研究企画官  時間になりましたので、これより「第36回厚生科学審議会科学技術部会」を開催させ ていただきます。最初に、傍聴の皆様にお知らせいたします。傍聴にあたりましては、 既にお配りしております注意事項をお守りくださいますようお願いいたします。委員の 先生方には、ご多忙の中、お集まりいただきましてありがとうございます。平成19年の 委員改選に伴いまして本部会員について変更がありましたので、委員のご紹介をさせて いただきます。資料1の名簿にそって五十音順にお名前を読み上げます。石井美智子委 員。今井通子委員。岩谷力委員。垣添忠生委員。金澤一郎委員はご欠席です。川越厚委 員。北村惣一郎委員。木下勝之委員はご欠席です。笹月健彦委員。佐藤洋委員はご欠席 です。末松誠委員。竹中登一委員はご欠席です。永井良三委員もご欠席です。西島正弘 委員。福井次矢委員。松本恒雄委員はご欠席です。南裕子委員。南砂委員。宮田満委員 はご欠席です。宮村達男委員。望月正隆委員。以上21名の委員となります。なお、出席 委員は過半数を超えておりますので会議は成立することをご報告いたします。また、部 会長の選出につきましては、厚生科学審議会令第6条にあるとおり、「当該部会に属す る委員の互選」となっております。既に委員の互選により垣添委員が部会長に選出され ておりますのでご報告申し上げます。  続きまして、本日の会議資料の確認をさせていただきます。議事次第のA4の1枚紙 があると思いますが、その真ん中より下に配付資料があります。資料1が当部会委員の 名簿です。資料2は研究活動の不正行為への対応に関する指針(案)についてです。資 料3が、公的研究費の不正使用等の防止に関する取組について(共通的な指針)です。 資料4が、遺伝子治療関係の資料ですが、資料4−1は北里大学病院の遺伝子治療臨床 研究実施計画について。資料4−2が同研究に係る第一種使用規程について。資料4− 3が札幌医科大学附属病院の遺伝子治療臨床研究実施計画の申請の取下げについて。資 料4−4が遺伝子治療臨床研究実施計画に係る報告についてということで、癌研有明病 院と東京大学医科学研究所附属病院からのものです。資料5は今後の中長期的な厚生労 働科学研究のあり方についての資料です。あと、参考資料1、参考資料2、参考資料3 があります。資料の欠落等がありましたら事務局までお知らせいただきたいと思います。 それでは、垣添部会長、議事の進行をおよろしく願いいたします。 ○垣添部会長   今回から新たに部会長を拝命いたしました国立がんセンターの垣添です。皆様方のご 協力をいただきまして、厚生科学の適正な推進のために的確な会の運営をさせていただ きたいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。  それでは、最初の議題である部会長代理の指名ですが、審議会令第6条第5項に、「部 会長に事故があるときは、当該部会に属する委員又は臨時委員のうちからあらかじめ部 会長が指名する者が、その職務を代理する。」となっております。この部会長代理につ いては、本日は欠席されておりますけれども、東京大学の永井委員にお願いしたいと思 っております。永井委員ご本人には、部会長代理に指名されたことを事務局からお伝え いただければありがたく思います。よろしくお願い申し上げます。続きまして、2番目 の議題ですが、「研究活動の不正行為への対応に関する指針(案)について」というこ とで、事務局より説明をお願いいたします。 ○藤井厚生科学課長   資料2に基づきましてご説明いたします。1頁ですが、この研究活動の不正行為への 対応指針につきましては、前回まで何回かご報告を申し上げてきたことですが、今回、 新しい委員も加わっておられることもありますので、この1頁にお示ししている概要に 基づいて簡単にご説明いたします。Iの経緯及び目的の所にあるように、昨年の2月28 日に、総合科学技術会議から研究上の不正に関する適切な対応に関する意見が出ており ます。それに基づきまして、厚生労働省におきましても研究活動の不正行為への対応が 求められております。IIの具体的に対象となる不正行為ですが、アンダーラインの所に あるように捏造、改ざん、盗用が対象になります。  IIIの対応に対する概要を簡単にご説明いたします。1の告発から調査までの所にある ように、研究機関、資金配分機関におきましては、告発の受付窓口を設置し、告発され た方が所属する機関が原則として調査機関になります。その調査機関においては、まず、 内部で予備調査をして、必要ならば外部の有識者等を含めた本調査を実施していただき ます。その調査には告発された方からの弁明、不服申立ての機会も設けることになって おります。この本調査によりまして明らかに研究活動の不正行為があったことが認めら れると、2にまいりまして、その認定をされた不正行為に対してどういう措置を行うか ということを決定することになります。厚生労働省に設置いたしました委員会において 措置を検討することになります。措置が決まると、告発された研究者が属する研究機関 において、内部規定に基づき対応を行っていただくことになります。措置の対象者です が、実際に研究活動の不正行為に関与したと認定された方だけではなくて、(2)にあ るように、論文等内容について責任を負う方についても措置の対象者に含まれることに なっております。具体的な措置の内容につきましては、競争的資金の打ち切り、返還、 応募中の課題については不採択。そして、厚生労働省関係の研究費の応募等の制限が、 その中身の重大度によってお示しておりますように、直接の方については2年から10 年、関与の責任を負う方については1年から3年ということにしております。  2頁目ですが、3頁目以降に本文をお示していますが、その案について今年の1月10 日から2月8日まで意見募集をいたしました。その結果、3件のご意見をいただいてお ります。下にお示ししておりますが、1つ目のご意見は「論文についても製品管理手法 と同様な手法によって、データ等の信頼性について検証する必要があるのではないか」 というご意見です。2つ目は、同じ方ですが、「世界中の不正論文に関するデータベー スの作成、WEBの公開」ということです。右側の意見に対する考えの所ですが、今回、 意見を募集したのは研究活動の不正行為に対して厚生労働省から研究費を受けた研究機 関が適切に対応するため、その機関で整備すべき事項というものを指針としてお示しし たものです。したがって、1の製品管理手法を用いて信頼性を検証したらどうかという 点につきましては、論文等研究成果については本来研究者のモラルとか研究者コミニテ ィ全体による吟味・評価により管理を行うべきものと考えております。具体的な疑いが 生じていない研究活動に対して不正行為を含むかどうか調査をしようということになる と、その機関にとって多大な負担になることもあり、現実的ではないと考えております。 したがって、このご意見の点については本指針の中に加えないことにしてはどうかと考 えております。2つ目のデータベースの作成、公開の話ですが、これは今回の意見募集 の趣旨と若干異なっております。日本の場合には厚生労働省だけの問題でもないと考え ております。  2人目の意見ですが、「実験動物の福祉」に関する規定を盛り込んだらどうかという ことです。意見に対する考え方は、先ほども申し上げましたように、この指針はデータ の捏造、改ざん、盗用を対象にして指針を示しています。この実験動物の福祉について は既に昨年の6月に、そこにお示ししておりますように、基本指針を示しております。 そういうことから、この指針の中に特に盛り込む必要がないのではないかと考えており ます。3人目の方については指針と全く関係がない意見だったために、ここでは割愛さ せていただいております。以上です。 ○垣添部会長   ただいまの説明に関して何かご意見がありましたらお受けしたいと思います。 ○笹月委員   意見に対する考え方というのは公表されるのですか。 ○藤井厚生科学課長   実際にこの会議自体が公表ですから、そういう意味では公表されるということです。 ○笹月委員   そうしますと、この1に対する考え方の所ですが、非常に煩雑であるからやりません というような言い方になっていますが、しっかり組織をつくればやるのかということに もなりますし、研究というのは自然現象の正しい摂理を明らかにしたいという人の集団 であるので、本来、性善説であると思うのです。それを一つひとつ捏造がされていない かどうかを調べるというのは、科学そのものに対する否定といいますか、不信であって、 それはあまりにもひどい話なので、そういうことはやりませんということをきっちり述 べておくことが必要なのではないか。 ○垣添部会長   大変重要なご発言かと思いますが、よろしいでしょうか。それでは、少し対応を修正 いただけますか。 ○北村委員   告発の窓口なのですが、これは研究所に置くべきなのか、事務管理部門が適切なのか、 いろいろな方法で告発を受け付けることになっていますので、ファックスも併用するな り何らかの形で設けて、しかもそれをどこであるかということを明示する看板を上げる のでしょうかね。そういう形になると、各施設に任されているということだと思います が、明らかな受付窓口という看板を上げてつくるとか、何か特にお考えとか、もう少し 具体的なものがありましたら。 ○藤井厚生科学課長   具体的には4頁の下からありますが、告発等の受付体制ということで5頁から示して おります。(2)では、いまご指摘がありましたように、その名称、場所、連絡先、受付方 法などを機関内外に周知する。(3)では告発者が告発の方法を書面等々自由に選択できる ように受付窓口の体制を整えるということを具体的に示しております。(1)にありますよ うに、機関等でほかの窓口も設けていただくようになっていると思いますので、そこと あまり混同しないような形で設けていただく必要があると考えています。 ○北村委員   それは研究所長のような人を位置づけるというのか、例えば人事課のような所のを位 置づけるのか。機関内外に周知せよという、その外というのはどういう意味があるのか。 ○藤井厚生科学課長   まずは、どういう所で受付窓口を設置していただくかというのは、これは研究の中身 の問題についての不正の窓口ですから、研究内容と利害関係があると考えられるような 所を窓口にするのはまずいであろうということは考えております。それから、内外とい うことになると、外については例えばホームページ等でお示しいただくようなことも一 つの方法かと思います。そこはいろいろと各々の機関で考えていただけたらと思ってお ります。 ○垣添部会長   皆様のご意見はまだあるかと思いますが、時間の関係もありますので、この不正行為 の対応に関してはここまでにさせていただきます。なお、事務局においては本日の意見 を踏まえて必要な修正を行っていただきたいと思います。また、修正した内容に関しま しては、私が事務局から報告を受けまして最終的な正案としてとりまとめをさせていた だきたいと思いますので、ご了解いただければ幸いです。よろしくお願い申し上げます。  それでは、議題の3番目、「厚生労働科学研究費の不正経理の対応について」です。 よろしくお願いいたします。 ○藤井厚生科学課長   いまマスコミ報道等で委員の皆様方もご案内のとおり、厚生労働科学研究補助金をめ ぐりまして詐欺という問題が起こってきております。私ども、その点については大変重 大に受けとめております。今現在は、捜査が行われておりますので、厚生労働省としま しても捜査当局には全面的に協力をいたしております。その中で明らかになった事実関 係を踏まえ、適切な再発防止策を検討する必要があろうかと考えております。そのため、 本日は、ご連絡では、総合科学技術会議から求められていた研究費の不正使用防止策に ついて、資料3にあるように、総合科学技術会議が昨年の8月31日に出した共通的な指 針に基づく厚生労働省の取組みについてご報告させていただく予定でしたが、今回この ような問題が起こったことから、研究費の不正使用防止策につきましては捜査の進展も 踏まえまして、今回の事案についての対策を含めた形で当部会に説明、ご相談をさせて いただきたいと考えておりますので、よろしくお願いしたいと思います。 ○垣添部会長   マスコミを騒がせております現在の事態がはっきりするまで、言ってみれば、ペンデ ィングにして、そのことがきちんとした段階でこの研究費の不正使用に対する取組みに ついて対応したいということですが、よろしいでしょうか。 (異議なし) ○垣添部会長   ありがとうございました。では、議題の4「遺伝子治療臨床研究について」の北里大 学の遺伝子治療臨床研究についてお願いいたします。 ○林研究企画官   資料4−1です。北里大学病院の遺伝子治療臨床研究実施計画について、1頁からが ん遺伝子治療臨床研究作業委員会笹月委員長からの報告です。2頁の1に実施計画の概 要があります。課題名は前立腺癌に対するHerpes Simplex Virus−thymidine kinase 遺伝子発現アデノウイルスベクター及びガンシクロビルを用いた遺伝子治療臨床研究。 申請年月日が平成18年1月19日。総括責任者は北里大学医学部泌尿器科学の馬場教授 です。  (6)の研究の概略ですが、根治的前立腺摘除術単独では術後再発の可能性が高い限 局性前立腺がんに対して非増殖性のHSV−tk遺伝子発現Ad5ベクターを前立腺内に注入 し、抗ウイルス薬のガンシクロビルを全身投与した後、根治的前立腺摘除術を施行した 場合の安全性の検討を主目的とし、免疫学的反応の解析、病理学的評価を副次的な目的 とする、第I、II相の臨床試験として計画されているものです。  (7)のその他(外国での状況等)ですが、同じ遺伝子発現ベクターを用いた遺伝子 治療臨床研究が国内では内分泌療法抵抗性再燃前立腺がんを対象として岡山大と神戸大 で実施されて、いずれも昨年終了しております。また、今回と同じ根治的前立腺摘除術 施行前に同ベクターを投与する実施計画の計画では米国ベイラー医科大学及びマウント シナイ医療センター、オランダのエラスムス医療センターで既に実施されていますが、 これまで重篤な副作用は特に報告されていないということです。  3頁2の作業委員会における審議の概要ですが、第1回審議が平成18年3月に開催さ れています。そこでのご意見は、3頁の真ん中辺りですが、1)米国ベイラー医科大学 等における効果等を検討して、2)でそれを踏まえてこの研究の目的を明確にする。特 に、再発予防効果で免疫系の賦活効果が期待されるのであればそれを明記するとともに、 効果の判定基準等を計画書に示すということが求められました。また、3)以下では、 そのことをインフォームドコンセント文書にも記載するとともに、遺伝子治療と他の治 療法との比較をより公平な視点で示すこと、病理診断及び免疫学的評価のための専門家 を加えることなどの指摘が出されています。  4頁ですが、第2回審議は平成18年9月に開催されました。作業委員会のご意見とし ては、本臨床研究で副次的評価項目とされている単純ヘルペスウイルスチミジンキナー ゼ、遺伝子発現ヒトアデノウイルス5型ベクター投与による免疫学的反応の解析及び病 理学的評価に関して(1)本臨床研究で免疫学的効果を期待して導入遺伝子にHSV−tk遺伝 子を選択した理由。(2)免疫学的反応の解析、病理学的評価の試験項目、実施時期、試験 方法の内容及び妥当性の説明。(3)免疫学的反応の解析、病理学的評価の内容のさらなる 充実。(4)PSA再発予防に寄与し得る免疫学的因子の決定方法。こういった各点について 説明が求められました。また、2)の被験者に対する同意説明文書に関しても、(1)既存 の治療法と比較して遺伝子治療が研究開発段階にある治療法だということを明記する。 (2)本試験の目的が抗腫瘍効果よりも遺伝子治療の安全性、免疫学的反応の解析、病理学 的評価に重点が置かれているということを明確に説明すること。(3)(4)ではその他同意説 明文書の表現を全面的に見直して被験者の方にわかりやすい表現にするということが指 示されています。  5頁3)の第3回審議は平成18年12月に開かれまして、申請者からの回答、追加資 料を審議した結果、本実施計画を概ね了承することとされ、細かい点の整備は委員長確 認の上次回部会に報告することとされました。その下の3に、第1回審議からの作業委 員会の指摘を踏まえて、実施計画と同意説明文書がどう変更されたかということが記載 されています。実施計画ですが、研究の目的を、5頁の下から5行目、「プライマリー エンドポイントはアデノウイルスを用いたHSV−tk遺伝子発現ベクターの反復投与並び に外科手術を併用するネオアジュバント療法としての安全性の確認であり、セカンダリ ーエンドポイントは、当該遺伝子治療における有効性を来す可能性のある免疫学的な反 応の解析と、同治療効果の病理学的な評価」ということに改められました。  それから、6頁の上で、研究の目的が改められたことと合わせて免疫学的反応の解析、 病理学的評価の内容が充実されました。また、免疫学的評価の専門家、病理学的診断の 専門家も新たに追加されました。その下の患者への同意説明文書ですが、抗腫瘍効果よ りも遺伝子治療の安全性、免疫学的反応の解析、病理学的評価に重点があることが明記 され、既存の治療法との比較に関して被験者に過大な期待を抱かせることのないよう公 平な表現に改められ、被験者にわかりにくい記載、不明確な記載も見直しがされており ます。4ですが、以上作業委員会では主として科学的観点から論点を整理していただき、 それを実施計画、患者への説明文書に適切に反映させた上で実施計画の内容が科学的に も妥当とご判断をいただいております。報告は以上です。よろしくお願いします。 ○垣添部会長   ご承知のように、前立腺がんは我が国で急速に増えてきていますが、術前診断と切除 後の病理診断の食い違いが大体30%ぐらいある。したがって、根治手術をやったはずな のに、後でPSAが上がってくる例が大体30%ぐらいあるということで、その治療が国際 的にも非常に大きな問題になっている。もう1点は、前立腺がんは非常にホルモン療法 が効きますが、一旦効いていたホルモン療法に対して、いずれ数年のうちに治療抵抗性 になる症例が多いので、その症例の治療が世界的に非常に大きな問題であるということ で、この2つの課題に対して遺伝子治療が何か貢献できないかというのがこの申請の主 な主題だったと思いますが、いま事務局からご説明いただいたような議論の結論として、 委員会としては北里大学の提案を承認したということですが、何かご発言ありましょう か。笹月委員、委員長として何かご発言ありましょうか。 ○笹月委員   サイミディンカイネスが入っていて、そこにガンシクロビルを入れるとがん細胞が一 部死ぬことを期待しているのです。死んだそのがん細胞に対する免疫応答が起こるので はないかということを期待しているのがこの方法です。しかし、実際に免疫応答が起こ ったかどうかをどう調べるかというのが最初の時点ではあまり明確でなかったので、免 疫学的なマーカー、パラメーターをきちんとフォローするようにというのが委員会から の強い指導でした。それと、ここに記載されていますように、最初の委員会が3月に開 かれて、最後の結論を出したのが12月です。これまでは遺伝子治療の例数が少なかった ものですから慎重を期して時間がかかっていたのですが、これは1年以内に終わること ができました。新しくこういう伝統を守っていかなければいけないだろうと思っており ます。 ○垣添部会長   この遺伝子治療は我が国で初めて、あるいは世界的に初めてヒトに適用するのではな いということもあり、また、患者さんに過大な期待を抱いていただいては困るというこ とで、いまご説明にあったような免疫学的なマーカーの動きとか、病理学的な検索とか、 そういうことを主眼にしてやるということをきちんと説明することがなされたというこ とで、最終的に委員会としては承認されたということです。倫理的な面も含めて、委員 の皆様からご発言いただくことがありましたらお受けしたいと思います。よろしいでし ょうか。それでは、北里大学の遺伝子治療臨床研究実施計画については本部会において 妥当と認めたということにいたしたいと思います。ありがとうございます。  では、今度は議題4の2ですが、北里大学病院の遺伝子治療臨床研究の第一種使用規 程について、事務局から説明をお願いします。 ○林研究企画官   資料4−2です。いまご審議いただいた北里大学病院の遺伝子治療臨床研究実施計画 では遺伝子組換えのヒトアデノウイルス5型を開放系で用ることから、カルタヘナ法に おける第一種使用に該当し、使用前に主務大臣、この場合は厚労大臣と環境大臣の承認 を得る必要があります。遺伝子治療臨床研究に係るカルタヘナ第一種使用規程の審査に つきましては、先ほどご覧いただいた遺伝子治療臨床研究の手続と同様、厚生労働大臣 が厚生科学審議会の意見を聴取することとされております。資料4−2の1頁からが作 業委員会の報告書です。委員長は吉倉先生でして、北里大学病院からは遺伝子治療臨床 研究の申請と同じく、平成18年1月19日に申請が出され、1頁には書いてありません が、同じ年の3月29日のカルタヘナの作業委員会で審議の結果、了承されて今回の臨床 研究実施計画とともに本部会に報告することとされたものです。  2頁ですが、作業委員会による遺伝子組換えヒトアデノウイルス5型(Adv.RSV-tk) をこの遺伝子治療に用いる際の生物多様性影響評価がまとめられております。要約する と、このAdv.RSV-tkは非増殖性であり、申請されている第一種使用規程に従って使用す る限りは環境中で増殖性を獲得して他の微生物を減少させるおそれはないと考えられる こと。それから、ヒト以外の生物に感染する報告はなく、これまでも非増殖性の組換え Ad5が国内外で臨床研究という形で使用されていますが、その中で環境への悪影響や病 原性を示したという報告はないこと。アデノウイルスベクターは野生型もありますが、 その野生型のAd5を超える病原性は示さないと考えられること、有害物質の産生性も知 られていないこと、ヒト以外の生物に水平伝達することは考えられないことなどの理由 から、第一種使用規程に従う限りは生物多様性に影響を与えるおそれはないと結論され ております。  3頁は作業委員会のメンバーです。5頁から後が第一種使用規程の承認申請書です。 6頁がその使用規程でありまして、実際にこのウイルスを扱うときには施設内のP2レベ ルの実験室内で冷凍庫に保管するとか、運般する場合は二重に密閉した容器に入れて運 般する。廃棄のときにも、厳重に不活化した上で医療廃棄物管理規程に従って廃棄する。 (4)ですが、患者に投与するときには環境中への拡散防止措置を適切に執った陽圧で ない手術部無菌室で行うということです。投与後も、その患者を(8)で投与後24時間 まで個室内で管理をして、一時的にそこから出るときには周囲に広がらないようにマス ク、ガウン着用等のウイルス漏出予防措置を義務付ける。被験者の排泄物はウイルス不 活化を行った後、医療廃棄物管理規程に従い廃棄する。このようにウイルスが外に漏れ 出ないようないろいろな措置を第一種使用規程として定めて、それを守っていただく限 りは外界に対する影響はないでしょうというご判断でした。  9頁以降は、そういうご判断をいただいた、申請者から提出された生物多様性、影響 の評価書です。21頁から後は、これまでの第一種使用規程の承認状況一覧、カルタヘナ 法の手続等々、毎回配付している参考資料です。説明は以上です。よろしくお願いいた します。 ○垣添部会長   初めての方もおられますから、カルタヘナ法の概略をご説明いただけますか。 ○林研究企画官   わかりました。いまの資料の22頁にカルタヘナ法の概要があります。法律の名称です が、正式には遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法 律といいます。目的の所にありますように、国際的に協力して生物の多様性の確保を図 るため、遺伝子組換え生物等の使用等の規制に関する措置を講ずることにより、生物多 様性条約カルタヘナ議定書の的確かつ円滑な実施を確保するということでありまして、 まず、国際的に、生物多様性条約の下で遺伝子組換え生物が環境中に拡散して、環境中 のいろいろな生物の多様性を損うことがないように必要な措置をとるというカルタヘナ 議定書があります。日本もこれを批准しており、この議定書を批准するために、国内的 に必要な措置を担保する法律がこのカルタヘナ法です。  2番目に、主務大臣による基本的事項の公表ということで、遺伝子組換え生物等の使 用等による生物多様性影響を防止するための施策の実施に関する基本的な事項等を定 め、これを公表するということでありまして、この法律の概要もそうですし、その法律 に基づいてどういう遺伝子組換え生物の使用を認めたのかということもすべてインター ネットで公開するという仕組みになっております。  3番目に、遺伝子組換え生物等の使用等に係る措置ですが、大きく2つあります。遺 伝子組換え生物等の使用等に先立ち使用形態に応じた措置を実施ということで、1つは 第一種使用等、環境中への拡散を防止しないで行う使用等ということです。新規の遺伝 子組換え生物等の環境中での使用等をしようとする者、開発者や輸入者等は事前に使用 規程を定め、生物多様性影響評価書等を添付し、主務大臣の承認を受ける義務というこ とでありまして、今回の北里大学病院の遺伝子治療臨床研究はこの第一種使用等にあた るということです。もう1つ、第二種使用等というのがあります。こちらは環境中への 拡散を防止しつつ行う使用等ということで、施設の態様等と拡散防止措置が主務省令で 定められている場合は当該措置をとる義務、定られていない場合は、あらかじめ主務大 臣の確認を受けた拡散防止措置をとる義務ということで、主に産業の中でこういう遺伝 子組換え生物を使うときには環境中への拡散を防止しつつ行う使用が多いのですが、そ ういうものがこの第2種使用等にあたります。  いちばん下ですが、そのほか未承認の遺伝子組換え生物等の輸入の有無を検査する仕 組み、輸出の際の相手国への情報提供、科学的知見の充実のための措置、国民の意見の 聴取、違反者への措置命令、罰則等、この法律の中に所要の規定が盛り込まれていると いうことです。概要は以上です。 ○垣添部会長   そういう法律があって、我が国もそれを批准しておりまして、こういう遺伝子治療に 伴ってウイルスが世の中に出回って、その結果として生物の多様性が損なわれては困る ということでこういうことを議論しております。事務局からの説明に関して何かご発言 がありましたらお受けしたいと思います。  このウイルスは非感染性であるということが先ほど説明されましたが、作業委員会か らの報告について本部会としても了承するということでよろしいでしょうか。 (異議なし) ○垣添部会長   それでは、今回了承いただきました北里大学病院の遺伝子治療臨床研究実施計画並び にそれに伴うカルタヘナ法に基づく第一種使用規程については、この部会から親部会の 厚生科学審議会のほうに報告させていただきたいと思います。  それでは、議題4の3ですが、札幌医科大学附属病院で行われた遺伝子治療臨床研究 実施計画の申請の取下げについて、事務局からご説明をお願いいたします。 ○林研究企画官   資料4−3です。表紙をめくっていただきまして、取下げ願が出されております。平 成17年10月に申請があった血管内皮増殖因子、(VEGF)・アンジオポエチン(Ang1)遺 伝子プラスミドを併用した末梢性血管疾患の治療のための遺伝子治療臨床研究です。4 に取下げ理由がありますが、平成18年5月に開催された厚生科学審議会科学技術部会第 6回末梢性血管疾患遺伝子治療臨床研究作業委員会においてこの研究についてご審議い ただいた結果、臨床的有効性が予測される根拠となる作用機序を説明できるような動物 試験を実施する必要性があるのではないかというご指摘をいただきました。それを申請 者に伝えたところ、申請者もその必要性は認めて検討をしたのですが、経済的人的事由 から現状ではその動物実験をやったとしても終了時期が明示できないということでいっ たん申請を取り下げ、条件が整ったら改めて申請したいという申出がありました。  3頁目以降にその末梢性血管疾患遺伝子治療臨床研究作業委員会、永井先生に委員長 をしていただいておりますが、そちらのほうの審議の概要を付けております。報告は以 上です。 ○垣添部会長   札幌医大から申請されていた遺伝子治療、下肢の閉塞性動脈疾患に対してVEGFとアン ジオポエチンと遺伝子プラスミドを併用した治療をするということでしたが、もう少し 動物実験をする必要があるのではないかという指摘に対して、それに直ちには応えきれ ないというのが理由だということですが、何かご発言ありましょうか。度々で恐縮です が、笹月委員、何かありましょうか。 ○笹月委員   動物実験がなされないまま申請されておりますので、それは当然必要だということで 要求しましたら、大学のほうのいろいろな事情で人的あるいは経済的に十分なサポート が得られないということですので取下げを承認することにいたしました。 ○垣添部会長   もっともな話ではないかと思います。よろしいでしょうか。 (異議なし) ○垣添部会長   遺伝子治療としては効果の上がる可能性はあると思いますが、きちんとした手順を踏 んで進めていくということで、大学側の取下げを承認することにさせていただきたいと 思います。  それでは、議題4の4ですが、遺伝子治療臨床研究の実施計画に係る報告について、 説明をお願いします。 ○林研究企画官   資料4−4です。癌研有明病院及び東大医科研附属病院からの重大事態等報告書があ ります。まず、癌研有明病院ですが、1頁下にありますように、乳癌に対する癌化学療 法の有効性と安全性を高めるための耐性遺伝子治療の臨床研究が行われております。総 括責任者は癌研有明病院化学療法科の高橋部長です。2頁にその試験の概要が記載され ています。3頁のいちばん下ですが、重大事態等の内容及びその原因の所です。今回の 報告は本試験の3例目の再発性進行乳癌の患者に対して、2004年7月に大量化学療法を 行った後、8月にMDR1遺伝子導入細胞を含む末梢血幹細胞移植が行われています。その 後もさまざまな抗癌剤が投与されておりますが、疾患が徐々に進行し、2006年12月3 日に亡くなったということです。4頁に、総括責任者、担当医師の見解が書いてありま すが、臨床経過、剖検所見から乳癌進行による呼吸不全に伴う癌死と考えられ、遺伝子 治療との関係はないものと考えられたということでありまして、2頁のいちばん下にこ の癌研有明病院の審査委員会の意見が記載されております。審査委員会でも、死亡は原 病の進行によるもので、MDR1遺伝子治療との因果関係は認められないと判断されており ます。  もう1件の東大医科研附属病院のほうですが、5頁です。腎細胞がんに対する免疫遺 伝子治療−IV期腎細胞がん患者を対象とするGM-CSF遺伝子導入自己複製能喪失自家腫 瘍細胞接種に関する臨床研究−が実施されておりまして、総括責任者は医科研附属病院 内科の中岡講師です。これも8頁の下に重大事態等の内容及びその原因という欄があり ますが、第IV期腎がんで遺伝子治療を行った第4例目の患者で、初回接種から6年経過 した平成18年12月11日に亡くなったということです。しかし、治療に関連した副作用 は見られず、抗腫瘍免疫反応も高い状態で維持されたが、右前頭葉に転移巣の出現が認 められて、放射線治療、摘出、インターロイキン−2療法などを行って一時的な病巣の 縮小なども見られたようですが、その後、胸椎、肺への多発転移が見られて呼吸困難も 増悪し、最後は呼吸不全で亡くなったということです。7頁に審査委員会の意見があり ますが、これも死亡原因は第IV期の腎がんの自然経過、つまり原病の悪化という判断が なされています。報告は以上です。 ○垣添部会長   これは報告事項ですが、遺伝子治療臨床研究に係る2つの研究、癌研有明病院の進行 性乳癌に対して、患者から採取した末梢血幹細胞に対して抗がん剤の多剤耐性遺伝子を レトロウイルスに付けてその細胞の中に入れて、それを患者に戻して大量化学療法をや ったときの効果とか副作用を減じようという治療ですが、そのうちに患者が亡くなった けれども、委員会の中でいろいろ検討した結果、これは遺伝子治療に係るものではなく て原病、乳がんの進行の結果であるという結論ですが、この報告について何かご発言は ありましょうか。 ○川越委員   よくわからないまま質問するのは恐縮なのですが、少し教えていただきたいのです。 この2つのケースで重大事態の報告という形で上がってきているわけですが、この重大 事態というのは研究機関から報告がこちらにあったということだろうと想像するのです が、その重大事態ということのクライテリアといいますか、どういうものを重大事態と しているのか。つまり、これは2例とも死亡したということで、研究の対象になった患 者が死亡したのを全部重大事態として捉えて報告をする必要があるのか、その辺のこと を教えていただきたいと思います。 ○林研究企画官   今回の遺伝子治療臨床研究の場合は、遺伝子治療臨床研究に関する指針というものが あり、その中で手続が定められております。資料4−1の141頁に指針を付けておりま す。それの144頁の左側に、第4「実施施設の長」という項があります。「実施施設の 長は、次の業務を行わなければならない。」ということで、それの4番目に「被験者の 死亡その他遺伝子治療臨床研究の実施に際して生じた重大な事態及び遺伝子治療臨床研 究の実施に影響を及ぼすおそれがある情報について、速やかに厚生労働大臣に報告する こと。」とありますので、患者が死亡したということであれば確実にご報告いただきま す。それから、その他遺伝子治療臨床研究の実施に際して影響を及ぼすおそれがあると 実施機関で判断されて、それは審査委員会の審査も必要になってきますが、そこで判断 されたものがこちらに報告として上がってくる仕組みになっております。 ○川越委員   そうすると、死亡した方は全例ということは、研究期間が終わった後も報告義務があ るという理解でよろしいのですね。 ○林研究企画官   はい。基本的にはそうでございます。 ○垣添部会長   ほかにご意見ありましょうか。そのぐらい我が国の遺伝子治療は慎重に進めていると いうことだと思います。それ以外に、実際にやってみて何か難しい問題が起きて治療を やめるとか、あるいは申請を取り下げるとか、そういういろいろなことが起きてきてい ると思いますが、そのうちの1つの報告だと思います。それから、東京大学のほうは、 腎細胞がんに対してGM-CSFの遺伝子を手術で取った患者さんのがん細胞の中に入れて。 それを放射線をかけてがん細胞が再増殖しないようにしたものを患者の皮下に植えて、 それで免疫能を高めて転移をコントロールしようという計画です。これも研究自体はか なり前に終わっていますが、そのフォローアップ中に患者が亡くなって、その死亡原因 が原発巣の脳転移の進行であったという報告です。これも報告事項としてそのまま了承 してよろしいでしょうか。 (異議なし) ○垣添部会長   それでは、癌研有明病院と東京大学医科研の遺伝子治療臨床研究に係る報告はそのま ま了承とさせていただきます。議題の5番目ですが、「今後の中長期的な厚生労働科学 研究のあり方について」、説明をお願いいたします。 ○林研究企画官   資料5でございます。1頁に厚生労働科学研究に関する課題ということで、1の重要 課題として議論を重ねるべき事項と、2の来年度予算要求に向けて早急にまとめる事項 を列記した1枚紙を付けています。本日はこれらの事項についてご意見をいただきたい と思っておりますが、その前に、今回このような検討をお願いするに至った背景からご 説明したいと思います。説明が少し長くなりますが、そして説明の過程で頁が前後する ことがありますが、ご容赦いただければと思います。  まず、厚生労働科学研究の現状からご説明したいと思います。この資料の14頁から厚 生労働省の平成19年度の科学技術関係予算(案)の資料を付けていますが、15頁にポ ンチ絵をお示ししております。この右肩の枠で囲まれた所に、平成19年度当初内示で科 学技術関係予算全体で1,315億円、そのうちの厚生労働科学研究費補助金が428億円と 書いてあります。これが厚生労働省の科学技術関係予算の規模です。その428億円の研 究費なのですが、この絵の左上の「健康安心の推進」ということで、その内容を見てい ただくと、生活習慣病やがん等個別の疾患を対象とした研究から構成されております。 そして、そういう研究を進めていく基盤の整備をする、あるいは将来そういうものへの 応用を目指す先端医療を実現するということで、右側の「先端医療の実現」というカテ ゴリーがもう1つ別にあります。その下の新興・再興感染症対策、食の安全、健康危機 管理などからなる「健康安全の確保」があります。この大きく3つの柱に整理いたしま して、その3つの下に矢印がグルッと回っていますが、これらを強力に推進していくこ とによって、左下にある総合科学技術会議の第3期科学技術基本計画の理念の実現、戦 略の推進に貢献していけるものと考えて進めているところです。  16頁ですが、いま申し上げました厚生労働省の科学技術政策の中でも私どもが特に現 在重視をしている臨床研究等の推進に向けた取組みをここにまとめております。左上で すが、「臨床研究及び臨床への橋渡し研究の推進」と白抜きの大きな字で書いてありま すが、この臨床研究及び臨床への橋渡し研究は、いま申し上げた総合科学技術会議の第 3期科学技術基本計画で予算を重点的に配分すべきとされている戦略重点科学技術に位 置づけられております。それを受けまして、厚生労働省では、具体的には医政局研究開 発振興課が中心になりまして、1つは臨床の手前にあるトランスレーショナルリサーチ を支援する基礎研究成果の臨床応用推進研究、臨床試験全般を支援する臨床試験推進研 究、大規模治験ネットワークを構築して医師主導治験などを支援する治験推進研究とい う、治験・臨床研究関係の3つの事業があります。  その下ですが、それらの治験・臨床研究を支える人材の育成に主眼を置く臨床研究基 盤整備推進研究というもの、これらを一体として進めているところです。また、この図 の右側ですが、治験拠点病院活性化事業や、医薬品・医療機器の承認審査の基礎となる 医薬品・医療機器レギュラトリーサイエンスの研究もこれらと並行して進めているとこ ろです。こういう形で、臨床研究の推進というところには特に力を入れております。17 頁、18頁はその予算の細かい資料ですので説明は割愛させていただきます。  次に、頁が飛んで恐縮ですが、4頁をご覧ください。いまご説明した厚生労働科学研 究ですが、その在り方につきましてはこれまでも検討をしてきております。4頁のタイ トルにある今後の中長期的な厚生労働科学研究の在り方に関する専門委員会を科学技術 部会の下に置きまして、黒川清先生を中心に、平成17年3月に総合科学技術会議の第3 期科学技術基本計画、平成18年3月に閣議決定されていますが、その策定に向けて厚生 労働省の科学研究の中長期的在り方はどうするのかということでこの中間報告書をまと めていただき、平成17年4月にこの部会に報告していただいております。  その概要をご紹介しますと、目的は、1の「はじめに」の所にありますが、これまで の厚生労働科学研究の成果と現状の体制を整理しつつ、中長期的な今後の厚労科研の在 り方を概観し、政策目的、研究の枠組み、実施体制等の観点から整理、取りまとめを行 ったというものです。2の厚労科研の現状は先ほど申しましたので省略します。3の課 題ですが、(1)の制度全般に関しては、他の公的研究費制度との違いが曖昧、政府全 体のライフサイエンス推進戦略における役割が不鮮明、国民の健康や安心・安全に関す る課題への着実な取組みが必要、基礎研究の確保が必要ということが分析されておりま す。(2)研究システムに関しては、分野・事業横断的な重点課題への取組みや研究者 の育成について配慮が不十分ではないか、政策に直結する成果が得られる工夫が必要、 評価によらず必要な研究を競争的枠組みの中でやることが果たして適切なのかどうか。 5頁の(2)評価の在り方に関しても、総合科学技術会議による厚労科研の評価は政策的意 義の評価が不十分なのではないかと。(3)研究の実施体制では、早期執行のための遅延要 因の具体的な改善、先進的・国家プロジェクト的分野は専門と政策の両方の視点に立脚 した企画や事業管理が必要ではないか、将来を担う研究者の育成に向けた対策が必要で はないか、多施設臨床研究を我が国において推進していくための仕組みが必要というご 指摘をいただいています。(3)透明性の確保と社会的貢献では、国民の支持を得るた めの研究費運営の不透明感の払拭、個人情報への格別の配慮、社会貢献への対応、グロ ーバル化に伴う特にアジア諸国との連携が必要という指摘です。  次に、4の今後の厚労科研の在り方では、厚労科研の役割として、1つは目的志向型 研究(Mission−Oriented Research)という役割の一層の明確化、具体的な実現目標を 掲げる、トランスレーショナルリサーチや治験を引き続き支援する。実現目標はあくま で政策ニーズに立脚し適宜見直しを行っていく、政策へのロードマップ上必要な研究は その意義を明らかにした上で支援をする、基礎研究を政府全体で推進していくというこ とが指摘されております。  (2)研究システムの見直しに関しては、(1)で戦略的アプローチを可能にする研究や 府省の責務として行う研究、人材育成に重点を置いた研究など、いくつかの枠組みを創 設する。(2)の実施体制についても、交付事務の見直し、Funding Agencyの検討・実施、 評価委員の確保、評価結果のフィードバック、アジアの研究者養成への協力等というこ とが挙げられております。(3)の透明性・社会的貢献の重視に関しては、研究成果の 普及啓発の推進、研究者への啓蒙と不正への厳格な対処、倫理指針の厳守ということが 指摘されております。  5の第3期科学技術基本計画と厚生労働科学研究に関しては、ライフサイエンス分野 のさらなる振興と推進、府省連携で厚労省がもっと積極的な役割を果たすべき、総合科 学技術会議の研究事業の評価の在り方の見直し、厚労科研と国立試験研究機関、国立高 度専門医療センターの運営を総体として検討すべきということなどが指摘されておりま す。以上がこの中間報告の本文です。  8頁に別紙がありますが、これは以上の総論を踏まえた具体的なアクションプランと いう位置づけです。例えば、1の研究の枠組みの見直しの所では、研究の形態・運営の ニーズに対応して5つの研究類型を創設することが提案されております。また、2の研 究実施体制の見直しの所では、研究費執行体制の改革や研究体制の強化に関して具体的 な提案がなされております。これらの改善策はこの報告書が出てすぐに着手して、おお むねすでに実施しているところです。9頁がこの中間報告書を検討された専門委員会の 先生方の名簿です。それと、報告書の全文は参考資料3としてお配りしておりますので、 後ほどご覧いただきたいと思います。  次に、資料5の11頁をご覧ください。いま申し上げたように、中長期の報告書で提案 された改善方策を私どもでは既に実行に移してきたわけですが、その後、それに対して 総合科学技術会議からいくつか指摘を受けております。ここにお示ししたのは平成19 年度概算要求に先立って行われた総合科学技術会議のSABC評価の際にいただいたコメ ントですが、例えばIの1は、厚労科研は多くの課題に細切れになっており、目的・内 容を精査して再構築をせよ、3では交付時期早期化の更なる促進と間接経費の拡充に努 めよというご指摘です。また、IIの「科学技術の振興及び成果の社会への還元に向けた 制度改革について」という、これも総合科学技術会議が出した報告ですが、この中でも 繰越し明許の活用促進や研究費の交付時期の早期化、公正で透明な資金管理体制の確立 といったようなことが求められております。  12頁がその総合科学技術会議から細切れと言われた厚生労働科学研究の研究事業と その担当課の一覧です。毎年行われる総合科学技術会議のSABCヒアリングのときには、 ここに書いてある課が入れ替わり立ち替わり説明をして、その各事業も比較的少額の課 題が多数並んでいるのが数多くありますので、こちらは厚生労働省の政策ニーズにそっ て研究事業を進めているつもりでも聞いているほうは各事業がばらばらに見えてしまう ということです。  また、この中長期の中間報告書が出た後に新たな動きもあります。10頁ですが、これ は今年の2月26日に内閣特別顧問の黒川清先生を座長とする「イノベーション25」戦 略会議から公表されたイノベーション25中間取りまとめの概要です。この紙のIII「なぜ、 いまイノベーションか」をご覧いただきたいのですが、グローバル化の中で日本が持続 的に成長していくためには科学技術の新しい価値創造による生産性の向上が不可欠だ と。環境、省エネ、高齢化など、日本がいま直面している課題に果敢に挑戦していくこ とが豊かな生活、経済成長を支える。ハンディキャップを科学技術で打破することで、 個人の能力を存分に発揮できる社会を創造するということで、IVのイノベーションで達 成される20年後の日本と世界の姿をイメージし、それを達成するのに必要な基本戦略は 何かということが議論されております。  その1つとしてVの所に科学技術イノベーションというものが挙げられておりまし て、イノベーション立国の実現に向けて早急に取り組むべき政策課題がVIの所に列挙さ れております。今後の厚生労働科学研究の在り方を考える上では、特にライフサイエン ス等の分野のイノベーションの視点ということも非常に重要になってきますのでここで ご紹介をさせていただく次第です。なお、このイノベーション25の中間取りまとめは本 日の参考資料2としてお配りしておりますので、後でご覧いただければと思います。  ここで資料5の1頁に戻りますが、以上のことを背景として中長期の中間報告書で提 言されている課題の中にも、おおむねやってきているつもりですが、まだ取組みが十分 ではないところがあるのではないか、あるいは既に進めている改善策の中にも、それを より良いものにしていくためにはいまの進め方を再考したほうがいいものもあるのでは ないかと感じておりまして、今回、改選で新メンバーとなりました本部会の先生方から 是非ご意見をいただきたいということで今回お諮りした次第です。なお、この1頁です が、事務局で検討が必要と思われる課題を、1の重要課題としてある程度時間をかけて 議論を重ねていただきたい事項と、2の来年度総合科学技術会議のヒアリングあるいは 予算要求に向けて早急にまとめる必要がある事項と、大きく2つに分けて整理いたしま した。1番目は先ほどの説明でも触れた治験を含む臨床研究の推進。2番目はそのため の研究基盤整備の在り方。3番目は厚生労働省所管の研究機関における研究の在り方と いうことで、研究機関のリストを13頁に付けております。4番目は国際協力・協調の推 進の在り方。5番目は研究成果の還元方策。この5つに整理させていただいております。 また、来年度要求に向けて早急にまとめる事項としては、総合科学技術会議から指摘さ れている研究事業の枠組みの整理・再構築、課題の設定・評価・採択の在り方、研究費 の早期執行・使用の弾力化ということがあろうかと考えております。2頁に2の早急に まとめる事項のスケジュール、検討の方向を記載しておりますが、まず、1頁の1の重 要課題について、今日は詳しい資料は特段付けておりませんが、自由にご審議いただき、 その後、2の事項についてご意見をいただく前にこの2頁の内容を改めて説明させてい ただきたいと思います。事務局からの説明は以上です。よろしくお願いいたします。 ○垣添部会長   少し長くなりましたが、中長期的な厚生科学の在り方ということで非常に重要な部分 です。ただいま事務局からいただいた説明を踏まえまして、1頁の1にある重要課題と して議論を重ねるべき事項に関して幅広い意見をいただければ幸いです。 ○笹月委員   (1)の治験を含む臨床研究の推進の所ですが、文部科学省の科学研究費による研究 というのは裾野の広い、研究者の知的好奇心に依存した自由な発想から生まれた多様な 研究をサポートするというのが1つの大きなミッションだろうと思います。それに対し て、他の省庁ではその省のミッションを果たすための研究ということで、ここは厚労省 ですので治験を含む臨床研究をいかに推進するかということだと思うのですが、これま での経験を見ると、日本の研究は学術研究は非常に進んでいる、国際的にトップランナ ーである。ところが、その成果が患者に届かない。そこが非常に大きな問題だというの が国内あるいは国外からも指摘されているところです。  それで、厚労省も文科省も、あるいは経産省も、いろいろな所が臨床研究、橋渡し研 究、トランスレーショナルリサーチ、いろいろな名前でそこに予算を注ぎ込んでいます が、我々がその審査にタッチしていますと、そこに応募してくる人は、基盤研究を一生 懸命やっている人が、自分が見つけた遺伝子あるいはたんぱくを利用して創薬へ行きま すというお題目の下に、結局、その基盤研究の人がやってくるということで、決してそ れは本当の意味の臨床研究あるいは患者に届く研究ではないと思うのです。ですから、 いくらそこにお金を注ぎ込んでも単発のことで成果は出ないと思うのです。それを可能 にする組織、システム、この(2)の研究基盤整備といいますか、この基盤をどう整備 するのかという工夫をまず最初にきちんと議論して、それをつくらないと、いくらお金 を投入しても単発で終わると思うのです。  私がいつも念仏のごとく唱えているのは、患者に届くプロダクトを作るための公的な プラットホームといいますか、そういうものを考えることが必要だろうと。例えば、文 部科学省が科研費という枠の中でたんぱくの立体構造を解析して、インシリコでその結 合物をブロックするようなものを推測して、ケミカルライブラリーから持ってきた小さ な化合物をスクリーニングして創薬のシーズになるようなものをつくりましょうと。そ れは研究費レベルでそういうものをプランしているようです。しかしながら、それはあ くまでも研究費であって、極くわずかなたんぱくしか解析できない。しかも、それはバ ーチャルです。私はバーチャルであることはいいと思うのですが、そういうものを本当 に恒常的にやれるような組織、システム、あるいは仕組みをどうつくるのか。それは、 是非、厚労省で検討してそういうものを支援していただきたいと思います。一厚労省だ けの問題ではなく、国全体としてそういう組織づくりをすることが緊急のことであって、 それさえつくれば、優れた基礎研究、たんぱくを発見しそれがどう病気に関わるか研究 している人がいくらでもいるわけですから、それをそこに乗せれば自動的に薬を開発す る方向へ行ける、そのシステムづくりを是非考えていただきたい。 ○福井委員   私も臨床研究のことはかなり大きな問題だと思っておりまして、アメリカにいたとき に強く思ったことですが、アメリカの臨床研究の体制と比較して日本は3つの点で明ら かに遅れていると思っています。1つは、そもそも臨床研究のノウハウを知っている人 が非常に少ないということです。疫学の原理や統計学を理解している人が非常に少なく、 これは教育の問題です。私自身はアメリカに30近くあるスクール・オブ・パブリック・ ヘルスが最も大きな違いを生み出しているものと思っています。ようやく2000年に京都 大学に、小さいですけれども、スクール・オブ・パブリック・ヘルスができて、今年の 4月からは東大でもスタートしますが、教育面で非常に立ち遅れているというのが第1 点です。  第2点が、それぞれの臨床の患者のデータを集められる現場にその臨床研究を支援す るスタッフがいないこと。これはデータを集めるリサーチ・ナースのような方とか、デ ータの解析を手伝う人、疫学的な素養を持った人など、サポートをする人がいないとい うことです。第3点が、研究者自身が仕事も今までと同じようにして、プラスアルファ で研究をしろというのはかなり無理でありまして、例えば米国のパーセント・タイム・ エフォートみたいに、1週間のうちの何時間は完全にこの研究のために使うしその給料 が研究費から出るという形にしない限りは、いつまで経っても片手間で、やっつけ仕事 にならざるを得ないと思っています。時間はかかると思うのですが、臨床研究のノウハ ウをきっちり教えていくシステム、支援体制、研究者をサポートする研究費の使い方、 その3点を改善する必要があるのではないかと思っています。 ○垣添部会長   笹月委員は問題提起をされて、福井委員は米国との対比で教育の問題と臨床のサポー ト体制、研究者のサポート体制の3点をご指摘いただきました。教育の問題は必要性は よくわかります。ただ、時間がかかるということで、徐々に整備がされ始めたというこ とですが、いまここで私どもが議論すべきは2点目と3点目が中心になるかと思います。 ○北村委員   お二人の委員のご意見と重複する部分があるかもしれませんが、研究費で治験やトラ ンスレーショナルリサーチも含めた、臨床研究を進めるには主任研究者等が申請するわ けですね。通常、それは研究者あるいは医師の形でやるわけですが、いまお二人が述べ られたように、周辺の人たちの人材というものが非常に大事ですし、厚生科学研究の在 り方を総合科学技術会議から求められているいまの臨床研究を中心とした発展には周辺 人材が極めて大事だと思うのです。これは中期、長期という観点から立つといちばん大 事な点だと思いますが、3頁にも書いていただいていますように、人材の育成を研究費 ということでやらざるを得ないのが現状なのですが、研究費というのは、通常、3年で 終了いたします。  そうしますと、現場としては教育をしてきた人材を次にどうするのかという問題に常 に直面するわけです。給料が出せないということがあるわけです。そういうことからし ますと、3頁に書いていただいておりますように、研究費としてしか出せないという事 情がある中であっても「人件費枠の拡大、弾力化」と書いていただいているのは極めて 大事だと思うのです。例えば、専任の研究者という形でいくつかの大学でやっておられ ますが、特任の部長を雇用できるぐらいの金額、あるいはいろいろなリサーチ・ナース、 コーディネーター等も含めて、そのお金を年度ごとで切らないで、5年なら5年の雇用 を決めていただく形でやらないと、常に、次の年の研究費が来るまでの間の給料をいか に出すかということで、どうしてもほかの研究費との混合をやらざるを得ないような事 情もあるわけです。あるいは、利子を払いながら銀行から借りるようなこともあり得る わけです。ですから、一方では研究費の混用を避けた形で厚生労働省もそれを望んでお られますから、人材を5年にわたって雇用できるような形をとれないものかと思います。  それから、年度を超えたお金の利用のような弾力化ですね。そのためには、5年の枠 という形まで最低3年では短すぎますので、5年の枠で、特任の部長、特任の研究者と いうものの雇用までができる形で充実していただくことが、笹月委員が言われたプラッ トホームの作成につながるし、福井委員の言われた周辺人材の育成ということになる。 実際、それを現場でやってはいるのですが、いま申しましたような3年限りで毎年の雇 用という問題、そしてすべてが看護師や臨床検査技士との兼任の形でしかできない。そ れでは非常に規模が小さくなってしまうのです。広く普遍的にはなかなかできないと思 いますが、私は、重点的に特に人件費枠の拡大と弾力化ということを視野に置いた広い 意味での臨床研究支援を厚生労働省にお願いしたいと思います。 ○垣添部会長   非常に具体的な研究現場あるいは臨床現場の立場からのご発言をいただいたと思いま す。 ○今井委員   いまのお三方のご意見の中で、経済的なことは別としてなのですが、笹月委員の裏返 しからになると思うのですが、今回の議題の中でも札医の取下げみたいなことが起こっ ている段階で、動物実験が必要だからという形になると、たぶん、札医のほうとしては 動物実験をするために文科省の科研費に申し込んで、そっちが終わってからまたこっち という形になってしまうのではないかという気がするのです。そういうことを考えます と、臨床の現場にいるといつも思うのは、例えば検査用の機械の精密さが非常に進んで いて、これが、かなり前ですが、MEが臨床側にあって、結局、ロボットなども含めて、 臨床側でいろいろ研究してきたという背景があると思うのです。  でも、治療に関して言うと、最初に動物実験なりを、文科省側というか、教育側でや っていて、先ほど笹月委員がおっしゃったように、そこが文科省側でやっていると基礎 実験からなかなか出てこないというところがあって、なおかつ、いまいちばん大切とい うか、伸びつつあるのが脳の科学であったりするわけですが、それも、動物の実験の中 では、薬物に関しても、オペの面などでも、発達したものができているのですが、それ を即人間にというわけにはいかないので、ヒトに関するところに、ギャップというか、 川があって超えられないみたいな状況になっています。MEのときのことを考えると、私 は、臨床側のほうに両方を組み合わせるシステムというか、スキームを持つ必要がある のではないかと思うのです。そうすると、こちら側のほうで受けた形で、例えば大学病 院などでも「基礎のところは基礎のほうがやっていて」ではなくて、臨床のほうが基礎 で、なおかつ医学系ではない所からも連れてきてもできるような状況を作れるといいの かなと思います。 ○垣添部会長   結局、この重要課題として挙がっている2番の研究基盤の整備というところにつなが るのではないかと思いますが、ほかにご意見ありましょうか。 ○南(裕)委員   私も、笹月委員、北村委員、福井委員がおっしゃったことと類似していくのですが、 もう1つ言いますと、イノベーションの20年後を考えたときにどういう社会であってほ しいか。健康の側面から見たときはということで、よく、健康・安心の推進とかいう厚 生労働省がやってきたことがあるのですが、これはすべて人の生活であり、行動であり、 人間の複雑な心理的なものからの活動ということがあるのです。そういう非常に基礎医 学的なものと臨床に持ってきたときの人間行動とのつながりを持っていく研究がトラン スレーショナルリサーチではなくて、本来の人間の健康行動に関する研究が本格的にさ れないとなかなか臨床に持ち込みにくいなと思います。それが1点です。  それから、環境的なもので、福井委員もおっしゃっていて、私が是非欲しい、厚生労 働省のバックアップが必要だなと思っているのは、例えばがん対策基本法ができて、病 院の中に患者の相談を受ける相談窓口ができたとして、その相談窓口の方が、例えば私 たちは看護師ですので、看護師が受けるとさまざまな相談が起こってきます。そのとき に、いまやれる最大限のことは篩分けをする行為しかできないのです。というのは何か というと、1人が持つ知識の限界というのはどうしてもありますので、対応してきたと きに全体像としての人に対応するときの知識に限界がどうしても出てくる。それで、欲 しいのは図書館の充実なのです。病院の中の図書の充実というか、本の充実というより はその情報を集めて、かつ整理してくれる人が欲しいのです。例えば、がんの患者さん はいろいろな新しいニュースをよくご存じなので、こういう治療はどうでしょうか、こ のことはどうでしょうか、ということをたくさん持ってきて、医師にこういうふうに言 われたけれども困っています、どのように考えたらいいでしょうか、というのがあって も、ドクターたちが患者さんに直接的にデータを示して、こういうことだからこのよう になっているのですよ、あなたにはこういうメリットがあるかもしれません、という情 報までなかなか出しにくい。むしろ、医師にとっても、また、相談窓口の人にとっても、 そのデータの整理をしてくださる方、それをリサーチナースと呼ぶのか、またはランブ リアンというかアメリカなどにそういう制度があるのですが、このこととこのことを組 み合わせてこういうパッケージが欲しいと言うと、情報の中から組み合わせて使ってく れる。病院の中にそういう基盤ができると非常に身近に患者さんに対応していける研究 も進んでいくし、また、対策も進んでいくのではないかと思います。 ○垣添部会長   南裕子委員がご発言の点は患者あるいは家族に対する情報提供の部分でしょうけれど も、これは相談支援センターが本当に動きだしていくと具体的な問題としてさらにさま ざまな問題が出てくると思いますから、こちらの研究に関する基盤整備とはまた別な非 常に重要な課題だと思いますので、またいずれ議論する機会があるのではないかと思っ ています。 ○末松委員   重要課題(4)の所で、今までのご意見と重なる部分もありますが、一言申し上げた いと思います。国際協力と協調と書いてありますが、もう1つ、適当な言葉かどうかわ かりませんが、イニシアティブというのが必要だと思います。臨床研究を進めるにあた って、韓国等は、これはケース・バイ・ケースですが、日本にくらべて治験のコストが ものによっては5分の1とか6分の1ぐらいで、メディカルライティングで、プロトコ ールを全部英語に統一して非常に戦略的な基盤整備をしていますから、いわゆるメガフ ァーマの治験が全部そちらのほうに流れていってしまうという非常にシリアスな状況が あります。コンプライアンスの整備とかで日本のシステムをブラッシュアップする一方 で、本当に治験などの臨床研究の仕組みの選択と集中をかなりやって、かつグローバル スタンダードの英語の治験にも対応できるような仕組みをつくっていかないと、おそら く、お金を落として日本語のシステムを作っていっても本当にそれで勝てるのかという 非常にシリアスな問題が起こることは明白です。  先ほどの今井委員のお話にも出ましたが、幸いなことにヒトの細胞とかヒトの臓器機 能のふるまいを動物の体の中に再現したり、あるいは非ヒトの霊長類のジェネティック バックグランドの非常にそろった優秀な実験医学のリソースというのは日本独自のもの がいろいろあります。そういうものを効果的に使うことは動物実験のリダクション、数 の削減にもつながることで、動物愛護の面からも非常に重要と考えます。ですから、日 本独自のリソースを用いた非臨床試験のしくみをどのように効果的に構築し、且つ日本 でないとできない臨床研究をどうやるかというしくみの整備は是非必要です。私は、こ の(4)の所で協力、協調はもちろん重要なのですが、そういうイニシアティブという ものを入れていくべきだと考えます。 ○垣添部会長   前段の部分は世界同一治験にどう対応するかということにつながる話ではないかと思 います。 ○岩谷委員   皆様方のご意見は誠にごもっともだと思います。ただ、これはほとんどが病気の話の ように思うのですが、現実的には病気が必ず治るわけではありませんし、その方々が病 人としてどのように生活していくか。障害を持った状態になったときに社会でどのよう に生活をするかという、国としてはそれもヘルスケアの一部としてそこに大きなお金が かかっていくわけですから、もう1つ、臨床治験は病気だけではなくて、病人を相手に した、また、障害者を相手にした本当の意味での臨床治験というものの考えを整理する 必要があるのだろうと思います。  その中で、これは最終的にアウトカムメジャーを何にするかということが非常に大き な問題になると思います。これは福井委員のご専門だと思いますが、その中ではアウト カムメジャーを統一的なものにすること、アウトカムメジャーの構成概念を極めて厳密 なものに研究して、そこを厳密にしていかないと、何か、アウトカムメジャーを使って 上がったらそれがいいのだということだけになってしまうと、これまた非科学的になり ますので、当面いろいろなことをやる必要があるのだと思いますが、臨床研究の中に病 人を評価するものを入れ込んでいく。それには介護なども必ず入ってくるわけですから、 その辺りのところも含めた臨床研究のプラットホームを検討する必要があるだろうと思 います。 ○垣添部会長   ともすると疾病の話が中心になりがちですが、厚生労働科学研究の中には障害者ある いは障害も対象として含めるべきであるという大変大事なご指摘をいただいたと思いま す。 ○宮村委員   1番目から4番目まですべてにかかわるのですが、基礎研究から臨床応用へのトラン スレーショナルな研究が発展する為には、やはり基盤となる基礎研究の裾野を広げると いうことが日本でもっともっと必要だと思います。特に臨床に直結する研究が強調され ていますが、若い医師が実際に日常の診療をする中で自ら自分で感じた問題点、疑問点 に基礎研究の萌芽とモチベーションがあるわけです。  もうひとつ、アメリカにNIHという研究所はないわけで、いくつかのNational Instituteが総合してNational Institutes of Healthを形成しています。わが国の National Institute、NCは一ヶ所に集まる必要性も蓋然性もないけれど、functional に連携を強めることは大切なのではないか?臨床的な多施設研究のまとめ、国際協力、 ポスドクの教育など実のある連帯課題は沢山あると思います。 ○垣添部会長   幅広い意見を求めましたら、本当に幅広い立場から厚生科学研究の今後の在り方につ いてご意見をいただきました。まだまだご発言があると思いますが、時間が迫っており ますので、申し訳ありませんが予定に従って先に進ませていただきます。次に、頁1の 下の「早急に取りまとめる事項について」に入りたいと思いますが、事務局から関連し て説明がありましたらお願いします。 ○林研究企画官   資料5の2頁をご覧ください。1頁の下の来年度予算要求に向けて早急にまとめる事 項に関しまして、2頁にスケジュールと検討の方向を記載しております。スケジュール としては、今日これからご議論をいただいたら、次回には見直しの骨子案を作成します。 それをまたご議論いただいて、次々回にはそれを基に具体的な見直し案まで持っていき たいと考えております。検討の方向ですが、(1)の事業の枠組みの整理・再構築に関 しましては、各部局の政策目標に合致するように、研究事業の課題を整理いたしまして、 政策別事業の枠組みに加えて研究方法の共通性に応じた適切な課題設定・評価・採択が できないかということを検討していきたいと考えております。(2)の課題の設定・評 価・採択ですが、そこのところは研究方法別に、1つは厚生労働省の場合は行政官が関 与しているのですが、その関与の度合を整理いたしまして、例えば臨床研究であれば研 究費・期間・人件費枠等の規模を拡大するとともに、2段階評価を導入するなど、より 質的にも、あるいは行政的意義の点でも高い研究を採択するような仕組みにできないか。 一方、施策に直結する研究につきましてはより行政との連携を密にしていく。これを読 んだだけではイメージが湧きにくいと思いますので、もう少し具体的にどういうことか ということをご説明すると、次の3頁に表をお示ししておりまして、この表の左側の縦 の欄が研究事業で、いちばん上の横の欄にあるように、厚生労働科学研究の各研究事業 を大きく2つのグループに分けられないかということを考えております。1つは、左側 から、ニーズに基づいた基礎研究、現状把握のための観察型疫学研究、診断・治療技術 開発のための臨床研究を1つのグループとして考えられないか。もう1つは、右側の医 療・福祉等のサービス実施機関の事業の改善に関する研究、基準・規制開発型の政策提 案型研究、この2つを1つのグループにしまして、それぞれの真ん中の所に書いてあり ますが、前者は研究費・研究期間・人件費枠を拡大する、2段階評価を導入する、行政 の関与は最低限とする一方、後者の政策に直結するほうは行政と研究班の緊密な連携の 下に行って、研究期間、規模もそれほど大きくせず、人件費も従来どおりというイメー ジでできないかということを考えております。  それから、2頁に戻りますが、(3)研究費の執行・使用です。これは研究者の視点 に立って、より成果に結びつきやすい制度に改善していくために、例えば補助金執行事 務の一層の早期化を図っていく、使用方法を弾力化する、若手研究者や疫学者等の人材 の育成、研究における不正防止対策、そういう事項について検討していきたいと考えて おります。簡単ですが、以上です。 ○垣添部会長   早急にまとめる事項に関して背景をご説明いただきましたが、何かご発言ありましょ うか。 ○笹月委員   まず、大体大事なことは黒川先生が委員長をなさった委員会で議論されて提案が出て いるのですが、大事なことが2つ残っていると思うのです。その1つは、最初に申した プラットホーム、要するに開発研究のシステムづくりが重要であるという視点。第2は、 この緊急にやるべき所で、いろいろな枠組みをつくって、例えば15頁だと生活習慣病に 47億円、あるいは先端医療実現のための基盤、技術の開発が89億円と。そういう枠組 みが決められて、お金も決まっておりますが、それはどういうグループをつくって研究 を推進するのか。実際に日本でどういう人たちがこの分野の専門家、技術経験を持って いる人たちか、そういうフィージビリティ・スタディといいますか、存分の前もっての 検討、その課題をスタートする前あるいは公募する前に存分にその検討をしてスタート しないと、いくらいいお題目で項目が決まってお金を存分にそこに投入したとしても結 局は効果が上がらない。本当にオールジャパンでやるべきことを議論し、そしてその人 を選び、アウトカムを明確に理解させるという、本当に成果をあげるための最初の議論 といいますかプランニングといいますか、かつて文科省で検討班を1年やってから大き な研究がスタートするというようになっていましたが、そういう前もっての存分の検討、 私はこれが欠けているのではないかと思います。ですから、20年度の概算で事が決まる とすれば、そのためには先ずどういう人たちを集めて検討をするのか、それを存分に並 行させてスタートさせて、それから来年度に実際にスタートするようにしないと、これ また、いくらお金を投入してもなかなか成果があがってこないのではないかと思います。 ○垣添部会長   ほかにいかがですか。よろしいですか。それでは、議論は尽きないと思いますが、本 日の議論はここまでにさせていただきまして、最後に西山審議官から一言お願いできれ ばと思います。 ○西山技術総括審議官   今日はどうもご審議ありがとうございます。いまの審議の中で、私、今日はいろいろ 議論していると時間がかかりますが、例えば最後の資料の13頁をご覧いただくと、先生 方が言われた中で厚生労働省所管の研究機関が非常に多いと思います。宮村委員が言わ れたように、横の連携といいますか、たしか、研究所の所長の先生方が集まるような会 合もないのです。それから、先ほど企画官が説明した行政のミッションはこれ以外にど ういうミッションがあるのかというふうに思ってしまうのです。ですから、例えば今回 のタミフルの副作用の問題でも、別の大学の先生をお願いしているわけですが、ああい うものこそ、西島委員と宮村委員の所が共同して、あるいは保健医療科学院ですかね、 保健医療科学院の疫学の先生が加わって国だけでミッションをつくれると思うのです。 だから、アウトソーシングする研究費と政府の研究機関の中でやるミッションと、もう 少し明確に分けて、例えば糖尿病をやる所がないではないかと言っても、おそらくどこ かでできるのではないかと。国際医療センターでできるのではないかと。あるいは、腎 臓疾患ができないとか、いろいろ議論があると思うのです。でも、それは、この部分は 区分けして外に出すとか中でやるとかいうことをもう少し議論しなければいけないと思 うのです。いずれにしても、現在、科学技術立国調査会とかライフサイエンス議連とか、 国会議員のレベル、また、野党の民主党も科学研究費の将来性について議論しようでは ないかという政治家レベルでもいろいろな議論がありますので、是非、お忙しい中を恐 縮ですが、頻繁に開かせていただくことになると思いますが、そういった将来を見据え た厚生労働科学研究の推進というところを積極的にご検討いただければと。  もう1点ですが、いま小児科医、産婦人科医が少ないと言われています。先ほど言っ た基礎研究者、医師であってもPhDでもいいのですが、どんな状況なのだろうかと。少 ない分野があるのではないか。例えば、この前、医薬品研究所に行きましたけれども、 中毒学をやる医師が極めて少なくなっているだろうと。そうすると、メチル・マーキュ リーも含めて、中国を含めていろいろなアジアで中毒が起こり得るわけです。そのとき に日本国として対応できなくなってしまう。だから、情報公開ではないけれども、今、 男性の研究者はこれだけ、女性の研究者はこれだけいて、女性の研究者が増えないのは 研究機関に保育所がないからだと、仮にそういう部分もあるかもしれません。それから、 どういう分野の研究者が足りないかということもエビデンスとしてきっちり見て、それ で若い研究者に発信しないと、おそらく、いろいろな歪なものが出てきてしまうのでは ないか。いろいろ申し上げましたけれども、いずれにしても、今日は本当にありがたい お話をいただきまして、また引き続き例の不正の問題も含めてご議論いただきたいと思 います。本当にありがとうございました。 ○垣添部会長   本日いただいた議論を参考にして事務局で見直しの骨子を出していただきまして、次 回以降この議論をさらに深めてまいりたいと思いますので、よろしくお願いいたします。 予定された議題はこれですべて終了いたしましたが、事務局から連絡事項等がありまし たらお願いいたします。 ○林研究企画官   熱心なご審議ありがとうございました。次回ですが、既に日程調整をさせていただい ておりまして、4月12日木曜日15時から17時、場所はこの建物の9階の厚生労働省省 議室で開催する予定としております。正式なご案内につきましては、詳細が決まり次第 お送りさせていただきますので、よろしくお願いいたします。事務局からは以上です。 ○垣添部会長   それでは、これで第36回厚生労働科学審議会科学技術部会を終わらせていただきま す。ご協力ありがとうございました。     ―了― 【問い合わせ先】 厚生労働省大臣官房厚生科学課 担当:情報企画係(内線3808) 電話:(代表)03-5253-1111 (直通)03-3595-2171 - 1 -