07/03/09 第3回自殺未遂者・自殺者親族等のケアに関する検討会議事録 (第3回)自殺未遂者・自殺者親族等のケアに関する検討会議事録 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部 自殺未遂者・自殺者親族等のケアに関する検討会(第3回) 議 事 次 第 1. 日時 平成19年3月9日(金)15:00〜17:00 2. 場所 厚生労働省 共用第7会議室 (中央合同庁舎第5号館5階) 3. 議事 (1)開会 (2)自殺未遂者のケアについて ・ 伊藤弘人  構成員 ・ 五十子敬子 構成員 ・ 西原由記子 構成員 ・ 平田豊明  構成員 ・ 渡邉直樹  構成員 (3)その他 (4)閉会 ○上田座長 それでは、定刻となりましたので、ただいまより第3回「自殺未遂者・自 殺者親族等のケアに関する検討会」を開催いたします。 構成員の皆様方におかれましては、大変お忙しい中、御出席いただきまして誠にあり がとうございます。 本日は、清水新二構成員と西田構成員が御欠席という御連絡をいただいております。 また、町野構成員は遅れて御参加されるということを伺っております。 まず初めに、事務局から本日の会議資料について確認をお願いいたします。 ○鷲見課長補佐 それでは、資料の確認をさせていただきたいと思います。 まず、1枚目が議事次第でございます。 資料1は前回の議事録でございまして、先生方には、もう既に確認をしていただいて いるもので、これも近日中にホームページに載せることになっております。 資料3が河西先生を始めとした、最後に伊藤先生が御発表される資料。 資料4が五十子先生の資料でございます。 資料5−1、5−2が西原構成員の資料でございます。 資料6が平田先生の資料。 資料7が渡邉先生の資料ということになっております。 更に、今回、自殺予防総合対策センターの精神神経センターの方に置かれているもの なんですが、こちらから「いきる」というリーフレットと、ブックレットということで、 ベルトローテさんが講演されたときの概要をまとめたものをお付けしております。 更に、斎藤構成員の方から、配付資料ということでグリーフ・ケアの関係の投稿の記 事をいただいているのと、そしてディフレンダーとの関係で、パンフレット、一人で悩 まず電話してというものをお配りさせていただいているところでございます。 最後に、五十子先生でレジュメと書いてあるものですが、B4の1枚紙になっており ますが、こちらをお配りさせていただいているところでございます。 以上でございますが、もし、落丁、足りない点がございましたら、事務局の方まで御 連絡いただければと思います。 また、資料2につきまして、前回検討会で発言していただいた先生の意見を項目ごと に事務局で整理させていただいております。事前に先生方に御意見のまとめたものを事 務局より確認をいただいているところなんですが、少し整理としてわかりやすくするた めに、項目ごとにまとめさせていただいておりますので、これにつきましては、先生方 のプレゼンテーションの後に事務局より説明させていただきたいと思います。 以上でございます。 ○上田座長 ありがとうございました。それでは、本日は自殺未遂者等のケアを中心に 議事を進めてまいります。 ただいま、事務局の方からお話がございましたが、資料については、項目のまとめ方 等についての一つの提案といいますか、考え方でございますが、この点については、自 殺未遂者等のケアについての、議事が終わった後に皆様方から御意見をいただこうと思 っております。 それでは、自殺未遂者等のケアについて、現場で活躍されておられます構成員から本 日提出していただきました資料に基づき、プレゼンテーションをお願いしたいと思って おります。 まず最初に、伊藤構成員から厚生労働科学研究の自殺未遂者、自殺者遺族等へのケア に関する研究の主任研究者として、自殺未遂者を中心にデータを用いて説明していただ くことを予定しておりますので、伊藤構成員からお願いしたいと思います。 なお、前回と同じように、おおむね10分程度で御発表をお願いしまして、そして質疑 を行って、併せて1人20分を予定しております。若干延びることは可能でございますが、 そのようにお願いしたいと思っております。 それでは、伊藤構成員、よろしくお願いします。 ○伊藤構成員 第1回の検討会で御説明いたしました研究の一環として、平安構成員の 教室の河西千秋準教授を中心に精神医学と救急医学の専門家の先生方にお願いしまして、 自殺未遂者ケアのためのガイドラインについて意見交換をしてまいりました。 その過程で、背景や課題についてまとめましたので、御報告いたします。 資料3に基づいて御説明をします。国際的に専門家の間では、自殺未遂者ケアが自殺 予防の重要なかぎであることが理解されています。なぜなら自殺未遂が自殺のリスク要 因であることが明らかになっているからです。 しかし、一方で、国内において自殺未遂者の実態は把握が不十分で、また自殺未遂者 ケアの意義も広く国民に理解されているとは言えないのが現状です。 実際に自殺未遂者や希死念慮を有する御本人も、自分の問題をどう解決したらよいか。 あるいはどこに助けを求めたらよいか、途方に暮れる場合が多くあります。 その周囲の方々も、こういった人々にどのように声をかけ、また、何をすべきなのか ということについて戸惑うことが少なくありません。 WHOは自殺の多くが予防可能であることを示し、希死念慮を持つ人への介入手法や 未遂者への標準的介入研究を提唱しています。我が国の自殺対策基本法においても、未 遂者ケアの必要性が掲げられています。 次のスライドですが、未遂者に関して、現在、明らかになっていることを整理したの がこの図であります。 まず、未遂者と自殺者に関してです。自殺の背景には、少なくとも、その10倍から 18倍の未遂者が存在して、未遂者を9年以上追跡し得た先行研究では、未遂者ないし自 傷患者の3〜12%が、その後に自殺を既遂するという結果があります。 また、重症自殺未遂者は、自殺者同様にその8割以上が精神疾患を有しています。 臨床場面で遭遇する未遂者の状況は極めて多様でありまして、自傷から重症自殺未遂 まで、また年齢・性・社会/生活背景に応じた状況など、とてもさまざまであることが 言われております。 自殺者の約半数は未遂歴があるという調査があります。そして、未遂者の多くは一般 に救急医療に搬送されます。3次救命救急センター入院患者の10%〜20%が自殺企図に よるものというのが一般的な状況です。 以上のほかにも海外の研究で、かかりつけ医に受療している患者の2%〜3%には過 去1か月以内に自殺念慮がある。また、うつ病患者の約半数には自殺念慮があるなどの 研究があります。 更に、自殺者の50%〜66%は自殺1か月前に、また、10%〜40%は自殺1週間前にか かりつけ医に何らかの理由で受療していたという研究があります。 次のスライドをお願いします。 一方で、自傷行為を行った者のうち、多くが医療機関に受診していないし、また、自 分で消毒などの傷の処置さえもしていないと多くの自殺学者が指摘しています。 自殺未遂者のうち受療するのは、そのごく一部であり、そのような自殺未遂の実態な どの把握は十分とは言えません。 また、未遂者に対する医療の現状には、ここにお示しするような課題が指摘されてい ます。身体診療科は精神科的問題への対応が、また、精神科では身体救急医療体制の整 備が十分とは言えないのではないかと言われています。 次に、未遂直後の心理的介入・精神科的評価と治療・個別のソーシャル・ワークは一 部の先進事例を除き、ほとんど実施されていないというのが現状です。 精神科救急の対象は精神機能・行動の障害により事例化したケースが主でありまして、 身体の損傷や障害を伴うケースへの対応は困難だというのが現状です。 こうした現状の結果として、重症度にかかわらず自殺未遂者の多くが救命救急センタ ーに搬送される場合が少なくありません。また、精神科もしくは外科といった単科の管 理で可能な時期まで救命救急センターや救急部での入院加療を余儀なくされる場合も少 なくないと聞いております。搬送される前に、救急隊が受け入れ病院を探すのに、多く の時間を要するという事例も少なくないとも聞いております。 精神科外来受療者の中には、自傷・自殺を繰り返す患者さんが少なからず存在してい ます。 次のスライドをお願いします。 自殺未遂者の背景には、多くの死には至らない自傷行為があります。専門家の間では、 このような致死性の低い自傷行為から自殺未遂まで連続的であるととらえて、その対応 を考えるというのが一般的と言われています。 自傷行為の増加については、次の2枚のスライドで補足いたします。 自殺同様に、未遂及び自傷行為などの自殺関連行動に関する社会の理解は十分ではな く、関係者に対処方法に戸惑いがあるというのも現実であります。 次のスライドをお願いします。 自傷行為とは、一般に非致死的な自己破壊的行動とされています。アメリカでの調査 によりますと、1980年代から、83年、88年、98年の調査があるわけでありますが、増 加をしているということを伺わせる調査結果があります。 我が国においては、これは松本先生が大学生及び中学生を対象にした調査を実施して、 ここに示す結果が示されています。 次のスライドですが、これはWHOのホームページから取ってきたものでありますが、 自殺事例の年齢分布は44歳以下の若年層に移行しているというデータであります。これ は世界的な動向であるようです。自殺事例、そして広く自殺関連行動は低年齢化してい るという可能性を示唆しているものであります。 次のスライドで、幾つかの課題としまして、身体救急の現場の問題と、精神科での問 題、一般身体医療、そして医療機関以外の社会資源、そして家族と当事者への支援、ま た対策研究・基盤的な研究というものが課題としてあるのではないかと研究班ではまと めております。 最後に「今後の作業予定」です。まずガイドラインをつくっていく必要があるのでは ないかと話し合っています。これは、指針ないし提言的なもので、多様な状況に応じた 実働マニュアルにできればと研究班では議論しております。まとまってきた段階でまた 御報告を差し上げたいと思っております。 同時に、未遂者とその家族への情報提供の在り方について、その可能性を話し合い、 具体的な情報提供の方法を御提案できればというふうに考えています。 そのほか、人材育成や必要と考えられる研究課題は、次のとおりであります。 少々駆け足になってしまいましたが、以上でございます。 ○上田座長 どうもありがとうございました。それでは、ただいまの伊藤構成員のお話 につきまして、何か御質問、御意見等がございましたら、よろしくお願いします。いか がでしょうか。 平安構成員、どうぞ。 ○平安構成員 伊藤先生、ありがとうございました。医療の立場から、今の伊藤先生の 課題について幾つか問題点を述べさせていただきたいんですが、やはり実際にこういっ た患者さんが搬送されてきても、対応するだけの余裕がないというのが現実ではないか と思います。特に救急の場では、たくさんの患者さんが身体的に危篤な状況にあるわけ です。 その中で、勿論、生命の維持というか、生命に対しての治療は優先されるわけですが、 その後に、自殺企図者に対して評価をしたり、対応したり、恐らく無理な話ではないか と思います。 現実的に、精神科医がいるような施設であったとしても、例えば総合病院であります とか、大学病院にしても、やはり一般的な診療というものをしているわけですから、そ の中で救急の現場に人を送るということ自体もなかなか難しい。 救命の現場の医師、スタッフ、それから大学病院、総合病院の医師、スタッフはかな り慢性的に疲弊した状態にありますので、いかにマンパワーを増やす。勿論、医師を増 やすことができれば、こんなにいいことはないんですが、もし、難しければ、例えばコ メディカルとか、いわゆるケースワークをしていただけるような方、あるいは専門の看 護スタッフ、看護師も少ないですけれども、専門的な知識を持った人がサポートができ る体制を是非確保していただければというふうに思います。一番はマンパワーの問題で す。 あと、専門職を育てるような支援、対応の窓口も含めて、考えていかなければいけな いんではないかと思います。追加になりますが、現場からということであります。 ○上田座長 平田構成員、どうぞ。 ○平田構成員 伊藤先生、ありがとうございました。先生のことですから、当然プラン の中に入っておられるんでしょうけれども、自殺予防に関する医学部での卒前卒後教育 です。これのプログラムを是非重視していただきたいというのが、私の意見です。 卒後の初期研修の段階では、必ず研修医に自殺の問題についてレクチャーをすること にしていますし、それから精神科医に来る人はほとんどいないわけですけれども、一般 の医療機関に戻ったとき、あるいは散らばっていったときに、各医療機関で、それぞれ にこういうところに注意してください。こういう人に自殺リスクが高いですよというこ とと、それに対する評価と管理の方法、具体的にお話しするようにしているんです。こ れを是非卒前教育、それから後期研修も含めて、これは何年も繰り返さないと身に付か ないですから、是非普及する意味では、教育ということにも留意していただきたいと思 います。よろしくお願いします。 ○上田座長 ありがとうございました。2人の構成員の方から医療の現場からマンパワ ーの問題、あるいは教育の問題、育成の課題の御指摘がございました。 どうぞ。 ○伊藤構成員 平田構成員のご指摘された教育の問題について、平安構成員のところで 大変先進的な試みをされていると聞いていますがいかがでしょうか。 ○平安構成員 ありがとうございます。これは、医学部の3年生を対象に自殺に関する 科目を設け、この提言をまとめた河西が中心となって、現場の救命センターで常駐して いる精神科の医師と2人で講義をしております。 それから学生が実習に来たときに、自殺関連の話をしたり、あるいは、今、研修医が 必修になり、精神科を必ず1か月回ってまいりますから、その中で、自殺に関連したこ とを話し、可能な限り厚く試みております。 また、救命センターも必修で1か月ずつ回りますので、そこに常勤の精神科医、私の 方がおりますので、すべての科に進む医師に初歩的な自殺企図者への対応を教えていま す。学生から研修医まで一連の流れの中で自殺に関する教育の取組みをしております。 ○上田座長 ありがとうございました。清水(康)構成員、どうぞ。 ○清水(康)構成員 1つ御質問があるんですけれども「今後の作業予定」という9ペ ージ目のところで、未遂者とその家族への情報提供の在り方についてというところなん ですけれども、これは、例えば私たちのところにも、御家族からの相談というのは、結 構多いんです。御本人がなかなか外出できないので、医者にかかれない。 そういったときに、家族の人が医師に対して相談しようと思うと、保険が効かないわ けです。1回に十何分で七千幾らかかるとか、恐らくこういう問題を抱えられていらっ しゃる方というのは、私たちのところに上がってくる声だけでも結構たくさんあるので、 家族が本人の代理で医療機関に相談できるような制度であるとか、あるいは場合によっ ては精神科医の方が訪問診療みたいな形で行けるような仕組みづくりとか、決して現在 の制度の中で実施可能なものについてだけではなくて、あるべき、必要とされている支 援策はどういうものなのか、場合によっては、それを基にして制度を変えていけばいい わけなので、そうしたことも含めて、家族への情報提供の在り方あるいは家族が相談に 行きやすいような環境づくりみたいなことについて、是非研究を進めていただければと、 質問というよりは要望です。 ○上田座長 どうぞ。 ○伊藤構成員 おっしゃるとおり、御家族の方で、これまでの研究でも、やはりどこに も相談に行かない、行かれる方というのは、ある意味で相談・医療機関を上手に使って いる一部の方であるという状況もあると思います。そういう意味では、御家族の方が問 題を感じたときに、どのような対応をすればいいかという情報をできるだけ広く、どう いうことが必要で、どうすればいいかについて是非考えていきたいと思います。 相談機関につきましては、渡邉先生と平山先生は、現状やこれからどうしたらいいか ということについて、何かお考えがあるのではないかと思いますが。 ○上田座長 どうぞ。 ○渡邉構成員 私は、今、お話を伺っていて、精神科医の立場から自分自身の体験を持 っているんですけれども、要するに未遂者の中に、やはりパーソナリティー障害の方が 比較的多くて、そのパーソナリティー障害の人、特に境界性のパーソナリティー障害の 人にどう関わるかというか、ちょっとした一言で、非常に反応して、更にまた自傷行為 を繰り返すという悪循環に至らないように、やはり精神科のドクターのみならず、医師 やコメディカル、それから地域の保健師なんかに対しても、そういう関わり方をきちん と知ってもらうような、そういう心理教育とか、ガイドラインなんかもつくることが望 ましいのかなと思っております。 ○平山構成員 自殺未遂の患者さんが、病院や精神科外来に最近たくさんきます。そ のため、自殺予防に関する項目を卒前・卒後教育のプログラムに入れて欲しい。とくに 自殺未遂者や自殺念慮を持った人が集まる救急施設やクリニックの医師たちに対する啓 蒙が、重要であろうと思います。 病院ですと、そういう方々が、すぐ入院ということができますけれども、クリニック の場合、保護するか否かの判断が非常に重要だと思いますので、最前線のクリニックの 精神科医たち、あるいは心療内科の先生方の自殺未遂者の取扱いは大切であるという意 識を高めるということが重要ではないかというふうに思います。 ○上田座長 ありがとうございました。どうぞ。 ○伊藤構成員 最後に一言だけ、今のお話をお伺いして、内科などを専門になさってい るかかりつけ医の方のところ受診する場合も大変多いと思います。少し幅広い論点にな ると思いますが、かかりつけ医の方に対して、何らかの支援ができるような仕組みが必 要ではないでしょうか。 ○上田座長 どうぞ。 ○斎藤構成員 7ページにWHOの年齢別分布が出ておりました。日本は御承知のよう に、1970年代までは、若年層の自殺が多かったんです。80年代に入って、中高年がどん どん増えてきて、ここ2〜3年前までは、まさに中高年の自殺、しかも男性の自殺が多 かったわけですが、ところが、ここ1〜2年の統計を取りますと、また少し弱年層にシ フトしているんです。これは、国際的に見て高齢化が進んでいるにもかかわらず、若年 層に自殺の層が移っているということは、今後どうなるのか、つまり若年層の自殺が増 えるということは、当然未遂例が増えるわけです。その辺の見通しはどうでしょうか。 ○伊藤構成員 齋藤構成員がおっしゃられたとおりではないかと思います。日本でも、 やはり若年層の問題が、クローズアップされていますが、国際的にもそういう動向であ るというのは、恐らく間違いのない方向だと思います。海外の研究者も、若年の自殺を どう防ぐかについてとても強い関心を持っています。 その理由については、残念ながら十分な資料を持ち合わせていません。ただ、若年の 自殺は、数はそれほど多くないかもしれませんけれども、その後の人生は長いわけであ りますし、適切なケアは大変重要な問題だと思います。 研究班でも引き続き考えていければと思います。 ○上田座長 9ページで、2.の2)の学校関係者ですとか、そういった若年者対策な ども含めて、ガイドラインで考えてみてください。 ○伊藤構成員 是非考えていきたいと思います。 これにつきましては、WHOも、いろんなガイドラインを出していますので、それを 参考に、議論を深めていければと思います。 ○平安構成員 WHOのマニュアルに関しましては、横浜市内の方で、今、版権をWH Oの方から得まして、河西準教授を中心に翻訳を進めています。8つぐらいカテゴリー があるんですが、全部一遍にはできませんので、大事なものから、完成させて、皆さん にお示しできるように準備をしております。 ○上田座長 ありがとうございました。そうしましたら、また、全体で議論を続けたい と思いますので、次に五十子構成員からプレゼンテーションをお願いしたいと思います。 よろしくお願いします。 ○五十子構成員 御紹介ありがとうございました。五十子でございます。 私は、グリーンスクウェアサポートプラザで多少のお手伝いをさせていただいており ますけれども、自殺に関わることの現場で直接活動は行っておりません。本日は、一研 究者として、一般の方々の意識の改革に向けて、どういうふうに一般の方々の意識の改 革の一助にでもなればというような考え方から報告させていただきます。 時間の御都合もございますので、皆様に先ほどお渡しいたしましたレジュメの「1. 1.2『殺』という問題」という問題からお話をさせていただきます。 死というものは、生命機能の停止、またはその状態を言うということが、これは逆に 人というものの定義のようなところで、明治43年の判決で生命機能を有しているという ことが判決で出ています。 また「殺」ということは殺される、殺す、殺されるの関係があって成り立ちます。こ れは英語では、キル、クロス、それから行為を言いますと、cideというものが付いて、 また死ぬとか、そういうことを意味するにはダイとかデスとか、そういうような単語が ございます。サイド、行為とか殺す人というようなことに関しましては、ホミサイドは 殺人、スイサイド、ジェノサイド、皆様のレジュメに書いてあると思いますが、レジサ イド、パティサイド、いろいろ書かれているとおりでございますけれども、みんな殺し という訳が付いておりますし、そういう行為を差しております。 自殺は単独で行われるわけですから、自殺幇助は別といたしまして、単独で行われる わけですから、行為者が1人であるということに対して、今までのサイドが付いている もの、自殺を除いて複数が関わっております。 殺すという言葉に関しましては、既に日本の場合、日本書記の崇神天皇の時代の、ま だ神話の時代に殺すという言葉を用いて日本書記に書かれております。 諸橋轍次先生の漢和大辞典によりますと、死というものは、人と残骨を意味する語の 合字でございまして「人命尽きて残骨と化する」という意味を持っております。また「殺」 は「メ(刈り取る)+朮(もちあわ)+殳(動詞の記号)」を重ねているんですが、これ は手で行われる動作を示しております。 これらから考えますと、?の穂を刈り取って、その実をそぎとることが殺だというこ とに考えられます。 そして、今までのことを総合いたしますと、死というものには、生命機能の停止が、 殺には積極的に生命を取る意が含まれていると考えることができると思います。 次に処罰の方から自殺という問題にまいりますと、歴史的な推移から追っていますと、 古代ギリシャのアテネでは、権利が剥奪されたり、正式な埋葬が許されませんでした。 そして、四肢が切断されて埋められました。古代ローマのタルクイウス尊大王のころに は死体を放置して、野生の鳥や獣の餌食にしたと言われております。 しかし、古代ギリシャやローマでは国家が理由が妥当だとすると法的に許容されて、 自然死と同じ扱いをされたということです。その後、キリスト教社会が形成されると、 自殺というのは徐々に禁止に向かいました。例を挙げてまいりますと、英国では財産が 没収されたり、それから死体は町の土に埋められ、馬車がその上を通っておりました。 これは、1870年に反逆罪と重罪を理由とした没収を廃するため、及びその関連法規を 修正するための法律により改正され、また、1961年に自殺法が制定され、自殺が犯罪で はないとされました。 1957年に殺人法というのはHomicide Actなんですけれども、その4条から自己殺の 文言が削除されましたが、実際には自殺幇助が犯罪として残されました。 自殺幇助というのは、先ほども単独か単独ではないかというお話をしていたんですが、 単独ではなく、複数の関わりによってなされるものであるということです。先ほどお話 ししましたサイドまたは「殺」の付くものは、これは自殺以外、処罰の対象となってい るわけです。多くの国が自殺は、現在、処罰の対象としておりませんが、そういうこと で、自殺は処罰の対象ではないということは、これは「殺」ではなくて「死」にした方 がよいのではないかという考えもここで出てくると思います。 なぜ、私が「殺」か「死」かとこだわっているかと申しますと、やはりいろいろな活 動をなさっているところを見ておりますと、自死を使っているところが多いわけです。 自死ですと、やはりこれは自ら死ぬということで、未遂者の方も遺族の方も精神的な 負担が少ないんではないかという気がいたします。 そこで、どうにかして、これを社会的に認められるようなプルーフが与えられないか ということで「殺」か「死」かという問題をこだわってまいりました。 次に、レジュメの2ページのところなんですが、自殺幇助に移らせていただきます。 日本の刑法200 以上、これは人を教唆して、もしくは幇助して自殺させということが 記されております。教唆して自殺させるというのは、今は自殺の決意をしていないもの を決意をさせて自殺に至らせることを申しますし、幇助して自殺をさせるということは、 既に自殺の決意をしている者に対して、その行為を援助して自殺させることで、器具を 与えたり、薬剤を用意したりすることです。 アメリカで、皆さんもよく御存じでいらっしゃるように、オレゴン州尊厳死法が制定 されて、自殺幇助ということになっているんですけれども、これは決して致死の注射や 慈悲薬、または安楽死により、患者の生命を終結させる権限を医師に付与するものでは ないということが、第3条の14項に規定されております。これは、致死の薬剤の処方箋 を出すということで、自殺幇助に当たると思います。オレゴン州では、1998年から2005 年までに246 名が尊厳死法に基づいて尊厳死をしております。 英国では、先ほど申しましたように、自殺というものが合法化され、しかし、自殺教 唆、自殺幇助が14年以下の自由刑となっております。実際には、年に1件ないしは2件 が起訴され、ほとんどは執行猶予が付いているということですが、合法な行為を幇助し て、なぜ犯罪となるかという意見が出ているということですが、これは日本でも先ほど 申しましたように、202 条に教唆とか、幇助に関しては、犯罪として残されております。 スイスとスウェーデン、これは深い思いやりからの自殺幇助には違法性が阻却される。 デンマークでは3年以内の自由刑、そしてオランダとかベルギーとか安楽死法が制定さ れております。 フランスでは、安楽死が許容されておりませんが、人工延命治療拒否等を認められる ことが制定されました2005年でございます。 これは、自殺幇助についてでございまして、イギリスなどでは自殺はできないという ことで、死を求める旅行(Death Tourism )というようなことが行われていたりした例 があるということで、これが広がることを懸念しているところでございます。 次に「2.『死は死である』という認識について」を申し述べたいと思います。 これは、私事でございますけれども、研究者であった私の姉ががんで死期が迫ったと きに、私は病室で2人でおりました。そのときに「くやしい」とつぶやいたんです。こ れは死ぬことがくやしいのか、研究途中であることがくやしいのか、私には知ることが できませんでした。 しかし、その「くやしい」という言葉は、私の気持ちの中では、大きなスペースを占 めるようになってまいりました。 1997年以来、日本の年間自殺者、これは3万人を超えております。自殺された方の思 い、これは一義的に決めることはできませんが、生前の暮らしの中で交わりを持った方々 にとっては、それがくやしさとして長く尾を引いていると思います。しかし、病死も自 殺も死であると言えると思います。 そうした観点から、私はやはり自殺も生命倫理の視点で考察しなければいけないと思 っております。 日本でも欧米でも自殺は犯罪とされておりません。そして、多く国で自殺幇助は犯罪 となっております。そこが死ぬ権利の限界であるかと私は考えております。 「3.『生』と『死』にかかわる教育について」にまいります。 自殺を妨げられなかったということで、自殺者の遺族が味わう自責の念、社会の目に 対する顧慮が働くといいます。 こうした遺族の精神的な負担を少しでも軽減できるように、生と死に関わる教育が必 要であると一部で言われるようになってから、かなりの年が経ちました。そうしたつど いができて四半世紀を経過しております。 しかし、このつどいは、まだ一部にとどまっていると思います。教育のカリキュラム の中に取り入れられているわけではありません。生と死に関わる教育を行っていく過程 で、他者への思いやりを深めること、また予防を含めて自殺という行為について考えさ せていくこともできるのではないでしょうか。 次に世界WHOの自殺予防対策に移ります。WHOの2000年の予測のときには、年間 100 万人の自殺者が出るということが予測されておりました。 そして、その10倍から20倍の人が試みているであろうと言われておりました。1999 年に、WHO自殺に関する問題点と現況を採択いたしました。世界自殺予防戦略と自殺 予防デーなどが設けられて、自殺対策を実施してまいりました。 WHOは2020年には年間自殺者が150 万人になることが見積られると発表いたしま した。そして、国際自殺予防協会と共同して、世界に向けて自殺予防を訴えていくと表 明いたしました。日本では、平成17年の自殺対策関係省庁連絡会議も相談体制等の充実 の項目で、児童生徒が命の大切さを実感できる教育の推進をうたうといっております。 これは、児童生徒のみならず、大学においても、また、先ほどもお話が出ておりまし た、医学部の教育においても、充実させていくことが必要であり、また、更に社会一般 に対しても訴えていくことが必要だと考えております。 結びにまいります。自殺か自死かというところで、殺か死かについて日本語、英語の 言葉の意味、及び成語過程を本御報告の冒頭で見てまいりました。 それらから考えて、自死すなわち自ら死ぬということを、自ら殺すと同義とすること には、私は抵抗が感じられます。しかし、従来専ら自殺という言葉が使われてまいりま した。 例えば、日本国語大辞典も自死の意味は自殺と同じとなっていると申しており ます。こうした自死を含めて、自殺は現代の日本はもとより、多くの国々で違法とされ ておりません。確かに自殺は狭義では、その人自身の問題と言えますが、そこには深く 社会に関わる問題が含まれております。 すなわち、身内を含めて直接周りにもたらす諸問題のほかに、生きることの責任を果 たすようサポートし切れなかった痛みを社会に残すことも見逃すことができません。 そうした点から、WHOが世界に向けて自殺予防対策を打ち出していくことは大きな 進歩ということが言えましょう。 現在、遺族支援団体の多くは、自死という言葉を使っているのは、十分に承知してお りますが、本報告の中では、一般に用いられている自殺という言葉を使用してまいりま した。 私自身といたしましては、犯罪を想起させる自殺という言葉を用いるのではな く、自死という言葉を用いたいと考えております。 少しずつ、世間の方々の意識を変えていくということを心がけていきたいと申し上げ て、私の報告を終わらせていただきます。 ありがとうございました。 ○上田座長 五十子構成員ありがとうございました。ただいまの御説明に、御質問ある いは御意見等がございましたら、どうぞ。 ○斎藤構成員 五十子先生、貴重なお話をありがとうございます。 私は、日本の自殺予防学会にずっと関わってまいりまして、自殺学というのは、学際 的な学問ですから、恐らく先生のお立場は、死生学という分野からの御発言であるだろ うと思います。自殺学も死生学の一部門ですが、精神医学、心理学哲学と並んで宗教、 社会学などの視点も大切だと思います。そこで、3つだけ申し上げたいと思うんですが、 キリスト教における自殺禁止ということは、これは歴史とともに変遷してきたというか、 自殺者をそれこそ排除してしまう汚点もありました。 ○五十子構成員 先ほど申したのは、100 年以上前のことです。 ○斎藤構成員 私は牧師ですけれども、自殺者は丁重に弔いをします。それは、やはり 遺族へのケアということがあるからです。 それと、自殺は合法という言葉は在り使うべきではないと思うんです。罪に問われな いということとは少し違うと思うんです。 というのは、私は、自死か自殺かという言葉の使い分けについては、まだちょっとア ンビバレントなんですけれども、ただ、自死という言葉のニュアンスは、安楽死容認と いうことにつながりはしないかなという不安を感じるんですけれども、その辺、いかが でしょうか。 それから、世界自殺予防の日は、WHOは一切決めていないんです。そうではなくて、 国際自殺予防学会(IASP)がこれを決めて、WHOが結構ですねと言っただけなん です。WHOは一切勧告していないわけです。地方の行政担当者が厚生労働省に問い合 わせたら、知りませんという答えが帰って来た。勧告していないわけですから。 ただ、私どもは実際にはWHOやIASPが協力して立ち上げましたというふうには言 います。実は「いのちの電話」は、9月10日から毎月10日、自殺予防の日という形で 電話相談のフリーダイヤルを始めます。ところがアメリカでは、1974年から5月の2週 を自殺予防週間と呼んでいるわけです。こういう国は、IASPが勝手に9月10日と決 められても困るわけです。各国みんな違いますから、この辺は今後どうするかは、自殺 予防学会やWHOの動きを少し見守りたいと考えています。 以上です。 ○五十子構成員 先ほど、自殺か自死かということで、実は私、学生にアンケートを取 ったことがあるんです。自殺という言葉と自死という言葉と、あなたたちはどういうふ うに思いますかということを聞きました。 そうしましたら、自殺という言葉は、確かに殺という言葉を使っているけれども、自 死という言葉を使ってしまうと、何か自殺をしてもいいんではないかという意識を持つ 人が出てきたらいけないということを言った学生がいるんです。それは、私も確かにそ う思いました。 ただ、遺族の方々のお気持ちとか、それから自殺未遂の方々のお気持ちを考えると、 やはり殺が付くものというのは、ほとんど犯罪なんです。 それを考えると、先ほど斎藤先生が合法ではない。確かに私も合法ではない、ただ、 違法にはなっていませんよということで、これは合法ではないわけです。はっきりそこ を合法であるとか、違法であるということは記されていませんけれども、違法ではない ということが正しいと思います。 そういうことで、殺か死かという問題は、大変難しい問題だと思いますが、私は、や はりグリーフ・ケアというサポートプラザにお手伝いさせていただいている中で、やは り自死を使えたらということが、すごく私の心を占めているわけです。 それと、先ほど私のプライベートな問題をお話しして、私の姉のことを話しました。 やはり自殺は死という受け止め方をしてほしいと思うんです。遺族の方も御本人も、未 遂の方々も、やはり死というものはどういう死も周りにとって悲しいものを残すもので あるし、そういうようなもので死というとらえ方をしてほしいなということが、私の心 の中にあるものですから、先ほどそういうように申しました。 ○上田座長 どうぞ。 ○渡邉構成員 1つ教えていただきたいんですけれども、我が国以外の文化圏で自殺、 スイサイドという言葉は好ましくないから、こういう言葉を使おうという動きがあった ら教えていただきたいんですけれども。 ○五十子構成員 私は、これはまだよくわかっておりませんので、調べている途中です ので、正しいかどうかはわかりませんが、ずっと歴史的に見てまいりました。でも、や はり殺なんです。死ではないんです。 それで、それだけをもって自死という言葉を使っていらっしゃる方々に、これが証明 になりますというものをお見せすることができなかったんです。 ○上田座長 どうぞ。 ○平田構成員 精神科の救急医療に携っておりますと、どうしても自殺企図ないし自死 念慮というのを対象にせざるを得ないんですけれども、御承知のとおり、精神保健福祉 法は自傷他害行為に対して、措置入院制度という強制入院の制度を持っております。で すから、自殺が迫っている人、死にたいと感じて、それに行動を起こそうとする人に対 しては、強制入院の権限を発動することが法的には可能なんです。これは、法律家の方 に伺った方がいいのかもしれませんけれども、倫理的に考えたときに、死にたいといっ て、飛び降りようとしている人が、例えば精神科の救急医療の現場に連れて来られてま すね。どういうふうに診断しても、この人は病気とは思えないという人もいるわけです。 うつ病の診断基準を満たさない、精神病にも入らない、狭い意味での精神障害とは言え ない。確信に満ちて自分は死にたいんだということを理路整然と展開する人もいるわけ です。例えば大事な人を失ってしまって、もう生きる意味がないというような人に対し て、果たして強制入院の権限を発動することが倫理的に許されるのかどうか、そうしょ っちゅうあるわけではありませんけれども、精神科医の間では、非常に大きなテーマに なっているんです。うんと象徴的な言い方をすれば、三島由紀夫は措置入院の対象にな るのかというテーマです。 中には、いわゆる人格障害の人で、何で私を死なせてくれないんだということを主張 する人がおられます。そういう人を無理やり強制入院をさせて、どうしても医学的に見 て強制的な治療を施す根拠がないといって退院させた途端に自殺をされてしまうと、今 度は家族から訴えられる可能性があるんです。その辺のジレンマについて、少し頭を整 理するような視点がありましたら、御教示願いたいと思います。 ○五十子構成員 その辺りは大変難しい問題ですので、ただ、これは精神障害の問題で はありませんけれども、アメリカでバイオエシックスの手本になるものだと言われるビ デオがあるんですけれども、その題名がレット・ミー・ダイという題名なんです。 そのときに、これは大変重いやけどを負った方々で、かなりこの中の方々でも御存じ である方がいらっしゃるビデオだと思うんですけれども、その方が大変苦しい思いをし て助けられてしまって、あのとき助けてもらいたくはなかったということを言っている んです。 ですから、私自身、自己決定をライフワークとしたいと思っています。そこ から考えると、また違う視点が出てきてしまうんですけれども、でも、やはり自殺とい うものは予防していかなければいけないということの方が強く感じております。 ○清水(康)構成員 非常に興味深く拝聴しました。こういう議論が重要なんだと思い ます。言葉遣いというのは、それはイメージを持って人に言葉として伝わっていくわけ ですから、非常に重要だろうと思います。今の段階で、自殺か自死かというのは、議論 は必要ですけれども、まだ言い換えられるほどの根拠となる実態が明らかになっていな いので、実態を明らかにしていく過程で、おのずと議論もわき起こってくるだろうと思 うので、そのタイミングを待って構えておくというのは重要なのではないかと思います。 いずれ実態が明らかになってくれば自殺という言葉はおかしいという発想に多分なって くるだろうと思うので、そういう時期が来るだろうという想定で準備をしていくという のは非常に重要だろうと思います。 当面のところは、私なんかの使い分けでいうと、自殺は自殺、遺族の方は自死遺族と いうふうに私なんかは使っているんです。 なぜかというと、自死遺児の子たちが、自分たちは自死遺児ですというふうに、自ら をそういうふうにして名乗ったので、その名乗ったことに関して、いや、あなたは自殺 遺児ですよと私たちが言う権利はないだろうと、自らこういうふうに呼んでくれという ことですから、それはそのことを尊重して、自死遺児、自死遺族と呼んでいくのがいい のではないかと思って、今、使い分けをしているところです。 あと1点言うと、未遂者という言葉も検討の余地があるんではないかと思うんです。 確かに医療的に言うと、自殺した既遂なのか未遂なのかという分類だと思うんですけれ ども、でもその本人からすると、自殺で死ななかった。その先生きていかなければなら ないわけで、自殺という行為をしたポイントに視点を置いて、その人を規定するのでは なくて、英語で言うと、サバイバーですね。未遂ではないわけです。失敗ではなくて、 生き延びた人たちであって、そういった視点で未遂者のことを、ではどういう言葉があ るのかというのは、まだわからないわけですけれども、でも、そういった視点で、未遂 者と言ってしまうわけですけれども、適切な言葉を考えていくというような必要性もあ るんではないかと思います。 ○平田構成員 自殺未遂は医学用語ではないです。医学用語は自殺企図という言い方を します。試みる。 ○清水(康)構成員 未遂に終わった人と、既遂に終わった人との区別の言葉はあるん ですか。 ○平田構成員 既遂か未遂かというのは、多分警察用語ではないでしょうか。死亡届の ための用語はないかと思います。医学用語ではないと思います。 ○斎藤構成員 ただ、精神保健ではコンプリーテッド・スイサイド(既遂、completed suicide)という言葉はともかく、アテンプテッド・スイサイド(未遂、attempted suicide) というのは学術用語として定着しています。成功、失敗という言葉は使わないのですね。 ○上田座長 最初は自殺か自死か、用語をめぐって、あるいは考え方についてお話があ りました。また、未遂者の用語についても御指摘がありました。やはりこのような用語 や考え方をきちんと整理しながら、清水構成員がお話しされた視点で、こういう問題を 考えていくことが大事だと思っております。 斎藤構成員の御指摘については、あとで確認しますので、一応、議論はここで閉じさ せていただきます。幾つかの視点は、事務局で整理してもらいたいと思っておりますが、 よろしいでしょうか。 (「はい」と声あり) ○上田座長 ありがとうございました。 それでは次に、西原構成員、よろしくお願いいたします。 ○西原構成員 資料5−1、5−2が出ておりますので、それをごらんになりながらお 願いします。 国際ビフレンダーズ、東京自殺防止センターの西原でございますが、私たちは自殺防 止に焦点を当てて活動し始めまして、来年で30年になります。相談の現場で、さまざま な問題にぶつかりながら、工夫しながら今日に至っております。国際ビフレンダーズ、 英国サマリタンのメンバーとして、日本において、私たちにできることをしてまいりま した。 今回、自殺未遂者が自殺再企図をしないために必要な支援ということについて申し上 げる機会を与えていただき感謝申し上げます。 現場の報告をこれから申し上げますが、国レベルでできること、民間と国が協力でき ることをはっきりさせ、具体的な進め方が明確に示されることを願ってやみません。 まず、自殺防止センターの活動を紹介申し上げます。 東京では、自殺防止センターが1998年から活動していまして、自殺を考える人々、苦 悩状態にある人々に感情的な支えを提供することを目的としたNPO、ボランティア団 体でございます。活動の基本はビフレンディングということで、友達になること、味方 になるといった姿勢を基本にしております。 そういう考えで、自殺を考えるほどに絶望している人々の気持ちに寄り沿うことであ ります。自殺防止のために、孤立、無縁状態の人を見捨てないで、そばに居続けること が重要であり、その人に正直に付き合うことしかございません。 活動の中心は電話相談でございます。毎日休むことなく、夜8時から翌朝の6時まで の10時間、訓練を受けた相談員が、シフトを組んで対応しております。自殺にまで追い 込まれた人たちの夜は大変深刻でございますから、夜中の相談活動の充実を図ってまい っております。電話回線は、現在、2本ですが、夜中はほとんど回線がふさがっている 状態でございます。 更に、電話だけでは不十分と判断した場合には、直接会って面談をするということを 進めますし、緊急性があると判断した場合には、本人の許可を得て、住所を聞き、夜中 であろうと、タクシーを飛ばして、その場で駆け付けるといった危機介入を行っており ます。 また、借金問題などの社会的要因があるとわかってきましたときには、ライフ リンクの清水さん辺りに紹介をしてもらって、専門家につなげていくということで、他 団体との連携をして、その人をフォローアップするようにしています。 緊急であるかどうかを判断するために、私たちは自殺態度評価点数表というのがござ いますが、資料5−2にございます。この点数表というのは、世界中ビフレンダーズで 統一して使っており、点数は長年の経験を裏づけにされたもので、訓練を受けた相談員 がコーラーにきちんと尋ねて、確認をしない限り点数を付けない。つまり、相談員の想 像だけで点数を付けないという厳格な運用をしております。もしも付けなかった場合に は、Xが付くということです。 私たちが相談活動をしていく中で、自殺未遂者の方に関わることが大変多いのです。 点数表のBの方を見ていただきましたらわかりますが、13の危険信号の中にもございま すように、自殺を試みたことがあるということが明記されておりまして、自殺未遂者の 経験があるとわかったときには、特に注意深く対応するようにしております。 私たちの活動は、電話に始まり、必要に応じて、直接会って話を聞き、場合によって は危機介入をするということをしておりますが、ここまでやらないと、自殺を考えてい る人を支えることにはならないと思っております。こうしたことを包括的な対応をして いるのは、日本では私たち自殺防止センターだと思っております。このことは、サマリ タンの方針に沿っております。 私たちは、このような自殺念慮者向けの支援以外に、自殺未遂者や予備群と思われる 人たちにコーヒーハウスというサロンを毎週2回やっております。火曜日の午後と金曜 日の夜でございます。また、自殺者遺族のためには、エバグリーンという名前で、わか ち合いの会を毎月1回開いております。こうしたことが、私たち自殺防止センターのざ っとした活動内容でございます。 次に、相談活動の実績について御報告を申し上げますが、相談電話の件数については、 毎月、毎日、夜中の10時間だけですけれども、6年度は1万1,000 件、05年度は1万 2,000 件の相談を受け付けました。 そのうち実際に自殺したいと思っている人は、先ほどの自殺危険度の点数からわかる のですが、およそ6割となっています。そのうちどの程度が非常に危険な状態であるか というのは、先ほどは自殺評価点数の10点以上を一つの目安として判断すると、17.3% となっております。更に自殺未遂の経験があるといっている人は、私たちの受けた相談 のうち、わかっているだけでも19%、確認しないケースもあるので、実際には未遂者の 比率はもっと高いと思われます。 こうして見ますと、私たちにかかってくる電話は、ほとんどが自殺念慮者であり、か なりの比率で非常に深刻な相談が多いということがおわかりいただけると思います。こ れは、私たちが自殺防止専門に取り扱ってきたことの証だと思います。 次に、運営の状況について申し上げます。 相談員になるためには、まず、所定の訓練を受ける必要があります。これは、6か月 間、集中的に、かつ実践的な訓練プログラムが用意されております。訓練を受け、相談 員として認定されてから、実際の相談活動に従事するようになります。 現在、相談員の数は約60名で、月に3回センターに出向いて深夜の電話相談を担当い たします。すべて内部の者がいたしており、外から呼びませんから、活動はすべて内部 でやります。無休ですし、勿論、交通費も出しませんし、自己負担です。一切外からの 支給もございません。ですから、財政的にはぎりぎりなので、本当にみんなの善意に頼 っているとしか言いようがございません。そうしたことで、活動資金としては、個人の 寄付金あるいは心ある民間企業からの助成金が頼りでございまして、慢性的な財政難が 続いております。公的機関からの資金は一切ございません。 また、私たちの理念に共感し、同じように自殺防止活動に取り組もうとしている団体 が宮崎県にあり、是非お力になろうと、相談員養成のために宮崎まで、10回以上出張す るということですが、無報酬ですし、交通費、宿泊費なども全部持ち出すということで ございます。それが、私たちの自殺防止センターの運営状況だと御報告申し上げます。 さて、私たちの活動から見えてくる自殺未遂者あるいは自殺念慮者を支援する現場が どうなっているかということを申し上げたいと思います。 まず、自殺念慮者の支援体制が非常に脆弱だと言わざるを得ません。自殺念慮者を支 援する公的機関や民間団体の多くは、例えば電話の対応だけ、あるいは予約した上での 面接だけという部分的な活動にとどまっていると思います。 そういう意味で、非常に隙間が空き過ぎているという感じがしております。私たちも 電話での相談が中心で、電話はとても有効な手段であるとは思っておりますが、電話を かけてくる人の状況は、人それぞれで、話を聞いているうちに、これは実際に会い、面 と向かって話をしないと危険だと思えることがあります。 そこで、冒頭に申し上げましたように、場合によっては、来てもらって、直接話をす るとか、あるいはこちらから緊急出動するとか、そういうことをしないと十分な支援に ならないと思ってやってまいりました。 公的機関の相談窓口や夜間、休日は空白になりますから、自殺するほど辛い気持ちに なっている人たちからすると、余り公的機関とか、そういうところが頼りにならないと 言われております。御存じのとおり、自殺を考え始め、自殺を決行するのは夜間から明 け方になるわけです。ですから、私たちは夜中を中心に一生懸命活動しております。し たがって、本当に支援体制が脆弱になっているということをしきりと肌で感じておりま す。 2番目に精神科医療の現場で十分なケアがなされていないという、ちょっと口幅った い言い方をしますけれども、相談の中で、診療内科とか、いろんなところに通院してい らっしゃる方ですけれども、お医者さんに話を聞いてもらえないという不満を訴えられ るケースが大変多くて、せっかくお医者さんにかかっていらっしゃるんだけれども、非 常に不十分だなというふうに思います。忙しいから話が聞けないといったら、それでお しまいですけれども、それでいいのでしょうか。 また、自殺未遂をして救急車で運ばれて入院し、外傷はよくなって退院したけれども、 精神的サポートがないままであったりすると、本当に自分は死ねなかった、失敗した、 自分に対して、もっと情けない気持ちになって、自分を責めて、自殺念慮が一層ふくら んだ状態になって相談を受けることがあります。 精神科医療の方々がもっと関わっていただくようにすることが大きな課題だと感じて おります。 3つ目の課題ですが、自殺未遂者に特化した支援活動がない、ということを挙げさせ ていただきます。これまで、自殺未遂者に特化した支援活動は、私の知る限りございま せん。しかし、相談活動の現場で感じることは、自殺未遂をした方が更に孤立し、社会 復帰しにくいという状況に追い込まれていると再び自殺しようとする危険度がかなり高 いということ、それも未遂後、3か月以内が特に危険だと思っております。 自殺既遂 者の半分以上が、未遂歴を持っている人だという報告を聞きます。未遂者に特化した支 援が大きな課題だと思っております。 そこで、私は、すぐ取り組むべきことと、少し時間をかけて取り組むべきこととに分 けて書いてみました。すぐに取り組むことができることとして、4点挙げさせていただ きましたが、1点目は自殺未遂者に特化した支援体制を立ち上げようという提案でござ います。 提言は、私たち自殺防止センターでも、今年中には実際に、取り組んでいこうとして おります。未遂者へのケアに必要なのは、失敗したけれども生きていこうという再チャ レンジする場を用意することだと思っています。お互いに同じような失敗体験から再出 発できる、そういった安全地帯といいますか、そういうものがいいのではないかと考え ております。参加者を固定したクローズドグループをつくり、人間関係再構築プログラ ムといったものを取り入れたいと思って、そのプログラムの開発に取り組んでいるとこ ろですが、それも是非やっていただきたいと思います。 それから、2点目として、民間団体の現場活動への支援を是非お願いしたいと思って おります。未遂者支援の立ち上げを含めてのことですが、まず、財政面で支援をお願い できないかと思っております。いろいろな活動を取り組んでいるわけですが、財政的に ぎりぎりの状態で動いておりますので、相談員の養成や、他団体を支援するといった費 用などについては、すぐにも支援していただきたいと思っております。 また、活動する場所の提供を是非お願いしたいと思っております。安心して集まれる 安全地帯をつくるためには、定期的に利用できるスペースの確保が必要だと思います。 都内にある区民センターであるとか、精神保健センターの一室であるとか、場所を提供 していただきたいと願っております。必要とする人たちにできるだけ多く知ってもらう ために、また、こうした公的な媒体としてもとても有効なので、是非協力していただき たいと思っております。 民間団体といたしましては、非常に、開拓者精神がございますから、その利点を生か して、また、民間が行ってきている活動をそのままにしないで、行政側からのサポート を協力していただくことを是非とも御検討いただきたいと思います。 すぐ取り組むべき3つ目ですが、既存の公的機関や民間団体の住み分けと連携が必要 と思います。 公的機関が平日、昼間しか対応しないのであれば、それ以外の必要な時間帯にどう対 応するか、必要とする人たちの立場になって、相談機関の連携を考えるべきだと思いま す。例えば私たちのような民間団体と連携することも正式に検討し、体制づくり住み分 けといったことを考える必要があると思います。 すぐ取り組むべき4点目ですが、救急医療の現場で、未遂者に対しての相談機関を紹 介することを、是非つなげていただきたいと実は思っております。 その際、先に述べましたように、相談機関の連携や体制づくりができると、なお一層 効果的だと思います。 ある病院から自殺未遂をした人がいますけれども、お宅に回していいですかと言われ たので、どうぞと申し上げました。そういう場合の受け皿をもっと徹底していただける といいと思います。 精神科医療の受け入れ体制の充実を図るという、さっきから出ておりますけれども、 精神科医の数を増やしていただきたい。救急医療の現場や、一般内科などとの連携がな されることを切望いたします。 最後になりますが、自殺未遂者専門的な病院として、設置をお願いしたいと実は思っ ております。 こういったことは、ハンガリーのブタペストに既に自殺未遂専門病院がございますね。 こういったところに情報を求められるとか、未遂者のかかわり方の情報とか、集約とか、 そういうことができるのではないかと、大変なことでございましょうけれども、30年に わたる自殺防止活動の現場を通して、自殺防止センターが築いてきたことをベースにし てお話しさせていただきました。今後とも検討の上、よろしくお願い申し上げます。 以上です。ありがとうございました。 ○上田座長 西原構成員、大変ありがとうございました。それでは、ただいまの御説明 に対しまして、御質問、御意見はございますか。 どうぞ。 ○斎藤構成員 貴重な御報告をありがとうございました。最後の方で、ちょっと触れて いただきましたが、通院歴のある人が、かなりの比率を占めると思うんですが、統計上 は出ておりませんけれども、通院歴ないしは入院歴、どのぐらいあるんでしょうか。 つまり、相談をしていく、自殺を訴えてくる人たちの中に、既に精神科等の治療を受 けている、その比率がどのぐらいなのか。 ○西原構成員 半分以上です。 ○斎藤構成員 未遂歴が約20%。 ○西原構成員 そうです。 ○斎藤構成員 そういう方々が電話をしてくるということは、一つはセカンドオピニオ ンを求めているということもありますけれども、もう一つは、今、指摘をされたように、 やはり治療を受けている病院で必ずしも後のケアについて、十分な対応がなされていな いというのが御趣旨だと思いました。この辺をもう少し実態をアピールしていただきた いと思います。 ○上田座長 どうぞ。 ○平山構成員 やはり臨床現場でやっていますと、精神科医が1日に50人から60人の 患者さんを見なければならない。今の実態から見ますと、一人の精神科医のが、患者さ んの話を十分に聞くということは、なかなか難しいと思います。 議員立法でつぶれましたけれども、医療心理士あるいは臨床心理士の国家資格に関し ては、いろいろな経過があって、それぞれの言い分があり、まとまっていません。しか し、なるべく早く心理職の人が国家資格を持った上で精神科医とともに、こういう業務 に携わるようにすれば、かなり臨床現場は助かると思います。 ○上田座長 ありがとうございました。ほかはございますか。 どうぞ。 ○平田構成員 西原さんからは、精神科医としては、大変耳の痛くなるような話を聞か されました。確かに日本の精神科医の数は、今、推計で約1万人ぐらいですかね。とこ ろが、フランス辺りですと、人口は日本の半分ですけれども、精神科医は倍ぐらいいる んです。ですから、人口当たりの精神科医の数はフランス、欧米は大体そうみたいです けれども、日本の3倍から4倍かぐらいの精神科医の数がいる。そういう量的な問題は 確かにあるんです。 もう一つは、やはり質的な問題というのがありまして、医療現場で物すごい忙しいと ころと、そうではないといったら悪いですけれども、マイペースでやれるところと、い ろいろスペクトラムがあるんです。 特に最近で問題になっているのは、総合病院の精神科の医師であるとか、それから救 急病院で働いているような精神科の場合は、非常に消耗が激しくて、くたびれ果てて、 現場を離れて、マイペースでやるような職場を開拓していくという現状がありまして、 医者の数が増えただけでは、問題の解決にはならないと思うんです。 それから、これは医療の世界だけではないようですけれども、やはり辛い仕事、クリ ティカルな医療の現場、リスクの高いところからみんな離れていってしまう。精神科だ けではなくて、産科であるとか小児科だって同じことなんですけれども、これも時代の 趨勢というべきなのか、日本人の劣化というべきなのか、よくわかりませんけれども、 ミッション性がだんだん薄れてきてしまう。ミッション性だけで、とてもやれない人た ちが新たに入ってくるという現状にあると思うんです。 ですから、私は医者を増やしたからといっても、多分問題の解決にならないと思いま す。やはり大事なことはネットワークであり、いろんな職種、いろんな立場の人とネッ トワークをつくることの方が有効ではないかと思います。これは責任逃れのような言い 方で申し訳ないです。 ○上田座長 ありがとうございました。精神科医療との関係や課題、あるいはコメディ カルを含めた対応、ネットワークなど、いろいろ議論がありましたが、この辺は先ほど からもずっとお話があり、大きな課題かと思います。 今後引き続き議論したいと思います。時間の関係もございますので、次に移ります。 引き続き医療の側からのお話があります。先ほどは、失礼いたしました。平田構成員、 よろしくお願いいたします。 ○平田構成員 それでは、資料6に沿って、時間も限られておりますので、ちょっとは しょって説明いたします。 まず、精神科救急医療と一般救急医療とどう違うのか。普遍性と特異性と両方ある んです。精神科救急という仕事を始めた20年ぐらい前は、精神科に救急医療など必要な んですかという議論があった時代もあるんです。自殺は別として、精神科の病気だけで 死ぬことはないだろうと。精神科の患者は自ら助けを求められないということで、救急 医療は必要ないという議論もありましたけれども、そんなことはありません。 統計に隠れた死亡がかなりあるんです。自殺でなくなられた方も御家族の希望で事故 死扱いされたり、病死扱いされたりするケースが結構あるんですね。それから、いわゆ る変死というような一人暮らしの方が餓死しているような場合、凍死しているようなケ ースも精神疾患の方ではかなりおられます。したがって、精神科の疾患というのは非常 に生命リスクが高いものであるということがよくわかるようになってきました。 自発的に受診する患者さんも非常に多いです。そちらの方がずっと多いです。そうい うところが一般の救急医療と何も変わらないところであります。 一方で、精神科救急医療には特異性があります。 1つは、先ほども触れましたけれども、意識清明な成人の同意なき医療行為がある。 一般医療でも小児であるとか、あるいは意識障害の方には、本人の同意なしでも治療で きますけれども、精神科の場合は意識がはっきりした成人の強制医療ができる。もうひ とつの特異性としては、他者の安全を守るための医療行為というのが認められています。 そういうことがあるために、非自発的医療の厳密な手続が必要なために、一般救急から ちょっと距離があるというところがあるかもしれません。 精神科救急患者のプロフィールです。これは救急の現場からの所感みたいなものです。 印象をまとめたものです。 我々は、中核群と辺縁群と分けて考えるようにしております。 中核群というのは、いわゆる狭い意味での精神病患者の人たちです。この人たちは精 神病理と行動病理とともに深い。ですから、自殺の手段も非常に激しい深刻な手段を取 りやすい。しかも精神病理的にも深い傷を負っている。入院治療が絶対的に多いという 人たちです。 そういう人たちに対して、いわゆる辺縁群といったら差別的な用語になるかもしれま せんけれども、人格障害、発達障害、神経症群等といった、ある程度判断能力を持って おられるんだけれども、攻撃衝動のコントロールがよくないという人たちです。この人 たちは行動的には非常に病理が深いんだけれども、精神病理的には今、言ったように判 断能力がかなり保たれているといった特徴があります。 入院治療の適応は余り高くありませんけれども、救急現場で対応するには非常に大き なエネルギーを要する。この人たちが近年増えていて、精神科の救急医療現場のスタッ フの疲労度を高めているというふうに言われております。 次に精神病救急システムです。これは専門的な話ですけれども、ミクロ救急、マクロ 救急という考え方です。 ミクロ救急というのは、要するにかかりつけの病院に臨時でかかれるような体制です。 通院している患者さんが夜間休日に具合が悪くなったときにかかるわけです。先ほど西 原さんがおっしゃいましたけれども、自殺企図、自死念慮はやはり夜間とか朝方に非常 に多いわけです。これはよく知られていることですけれども、いろんなファクターがあ ります。孤立してしまうというファクターもありますけれども、生物学的にも神経伝達 物質の活性が朝方は下がりますので、自死念慮が高まる危険な時間帯というのがありま す。 そういう意味で、夜間休日に深刻なケースが見られるんですけれども、ミクロ救急が 最近うまくいかなくなってきてしまっている。要するに夜中に起きてくれる当直の先生 が少なくなってきているという現状があります。 そもそも東京の都心部などに行きますと、みんな西の方に偏在していますので、精神 科の病院がないです。ミクロ救急が、あらかじめ成立していないという地域もあります。 そういう地域のためにマクロ救急という、行政が音頭を取って、広域単位で救急診療を 分担するシステムというのができ上がってきているわけです。それをまとめ上げたのが 国の精神科救急医療システム整備事業という、1995年から始まった事業でありまして、 補助金を支給しております。 5枚目のスライドです。ミクロ救急のシステムというのは医療が基本です。精神科救 急医療サービスの提供手段という観点から見ますと、大体3ぐらいの段階があると考え られています。 1つは電話相談です。これはホットラインサービスとも言いますけれども、ここがき ちんと機能しているかどうかによって、ミクロ救急の質が決まってくると思うんです。 機械的な対応だけではだめですし、あるいは話をただ聞くだけでもだめなんです。やは り専門の医療機関としての機能というのが求められるわけです。それを次に説明します。 電話相談だけで危機が回避されれば、それに越したことはありませんけれども、それ だけでは済まないという場合には救急外来というレベルが必要になってきます。ここで 帰せる人は帰しますけれども、帰せない重症な人は急性期の入院治療が必要になってく る。大体3段階です。その間に救急搬送をどうするかという問題が含まれてきます。 次がマクロ救急の話です。6枚目は国の整備事業の話です。要綱を書き出したもので すけれども、精神科救急情報センターというのが電話の相談窓口です。24時間の電話相 談に応ずるセンターが必要だということで、運営に国庫補助がなされております。ただ し、きちんと機能しているのは、私の見るところ10か所程度しかありません。全国的に ばらつきが激しいです。精神科医療にしろ、救急医療にしろ、全面的にそういう傾向が あります。 次が各都道府県を幾つかの精神科救急医療圏に分割して、各医療圏に精神科救急医療 施設を整備する。基幹病院でもいいし輪番病院でもよろしいというふうな規定がありま す。 精神科救急医療施設というのは、入院を要する重症事例を受け入れる。どういう 事例でも受け入れるということで、精神保健指定医を確保することが義務づけられてい ます。 もう一つ、精神科初期救急医療施設です。いわゆる外来対応のみが可能な施設も設置 するようにというふうに運営要綱に書いてあります。 更に連絡調整委員会というものを設置して、システムの円滑な運営を図るようにとい うふうに指示されています。搬送体制、後方支援体制等の整備がうたわれておりまして、 空床確保料や指定医の待機料などの名目で運営費用を国と県が折半しております。今年 度は国が約十二億円の予算を組んでおります。 7ページはマクロ救急システムの構成要素です。緊急事例が発生しますと、まず精神 科救急医療センターの電話窓口にアクセスします。そこではいろんな判断をいたしまし て、精神科救急医療施設、マクロ救急が適当であるか、あるいはミクロ救急、かかりつ けのドクターが診てくれるかどうかということを電話をかけて確認したりする作業です。 ミクロで対応するか、マクロで対応するかを決めたり、搬送手段を決めたり、どこの病 院を紹介するかといういろんな連絡調整、ネゴシエーターをやるのがこの救急情報セン ターの大事な役割です。 救急医療施設で首尾よく直った人は在宅ケアに移行しますし、精神科の病院に後方転 送になる人もいる。身体合併症のある人は身体救急との連携も必要になってくるという 要素があります。 電話情報センターの機能を少しまとめておきました。機能は4つほど列挙できます。 1つは、情報を集めることとトリアージュ、選別することです。トリアージュには3 つの局面がありまして、身体的トリアージュ、司法的トリアージュ、精神科的トリアー ジュ。身体的トリアージュは身体状況を把握して、体の方をまずしっかりみなくてはい けない。 例えば自殺企図の場合でも重症のケース、あるいは意識障害が深いというケ ースの場合は身体救急にまずアクセスしていただいてから、もう一度連絡してください という連絡をする場合であります。 司法的トリアージュというのは、特異なものでありますけれども、違法性の薬物の乱 用が絡んでいたり、触法行為がある場合には司法機関との連携が必要になってくる。 最後が、精神科的なトリアージュということで、ここで精神科的な重症度、自殺リス クも含めますけれども、そういう緊急度を評価しなくてはいけない。これはかなり専門 的な腕が必要になってきます。 更に情報提供、連絡調整、危機介入があります。最後の危機介入というのは、電話の インテーカーといいますか、相談担当者の経験と技術によって大きく変わりますけれど も、電話でカウンセリングをすることによって、危機的な状況を脱する。当面の回避を 回帰するための電話相談機能です。こういったものが電話相談に求められます。 9枚目です。精神科の救急とか急性期治療を担う病棟群。これはいろんなものが関与 しています。主なものをここに4つ列記しておきました。 精神科救急入院料認可病棟、いわゆるスーパー救急病棟と業界では言われております けれども、これが精神科医療の中で急性期の治療、救急の医療を受ける最前線と言われ ています。施設・人員・運用上の認可条件が非常に厳しいです。看護も2対1以上であ るとか、医者は病院全体で指定医が5人以上いるとか、そういう認可条件が非常に厳し い。代わりに医療費が高いということです。包括医療ですけれども、最初の1か月間は 1日3万2,000 円です。2か月目以降が2万8,000 円。精神科の入院医療費の平均は1 日大体1万円ぐらいですから、3倍ぐらいの医療費が給付される。それでも一般科に比 べるとまだ安いです。こういう厳しい条件のため、認可されている病院はまだ25か所し かありません。 そういうところの大半は、精神科救急施設基幹病院なんですけれども、地域によって まちまちです。この精神科の救急入院料の認可施設の中から、精神科救急医療センター というのが認可されて、国庫補助がされるという制度が立ち上がっておりますけれども、 現在まだ3施設しか認められていない。最先端の部分がまだ未整備な状況にあるのが精 神科の救急医療の現状です。 その次の第2列にいるのが精神科の急性期治療病棟でございます。認可条件はちょっ と緩いですし、医療費も安いですけれども、数は180 か所ぐらいと推計されています。 更に応急入院指定病院と措置入院指定病院という2つの考え方があります。応急入院 というのは、皆さん御存じの人もいると思いますけれども、身元不明の昏迷状態といっ たような人たちに72時間限定で適用される入院のための施設でありまして、知事が指定 いたします。認可条件は精神科の急性期治療より緩いんですけれども、外来待機の体制 をしっかりとらなければいけません。現在、400 施設ぐらいが認可されていると推計さ れています。 精神科救急施設の輪番病院に原則として応急入院指定病院に入ることと義務づけられ ています。 最後は措置入院指定病院、これは措置入院とか緊急措置入院が可能な病院で、知事が 指定いたしますけれども、認可条件は非常に甘いといったらいい思います。医療法(精 神科特例)を満たすこと。入院患者48人に対して医者は1人とか、看護は4人に1人と か、非常に手薄なものでも構わないという条件です。全部で約千施設があります。 以上の施設の関係を10ページに示しました。できそこないのスコッチエッグみたい な絵ですけれども、要するに根拠法令がみんなばらばらなんです。措置入院と応急入院 の指定病院は精神保健福祉法の規定によるものです。 精神科急性期治療病棟と救急入院料認可病棟(スーパー救急病棟)、これは診療報酬で 決められたわけですから、法律的には健康保険法です。 それと精神科救急医療センターであるとか、救急医療施設というのは、厚労省の通知 で規定された定義によるものです。こんな関係にあるということを頭に入れておいてく ださい。 11枚目に先ほど言いました、いわゆるスーパー救急病棟、精神科救急入院料認可施設 の分布でありますけれども、ごらんのように25か所で偏りがあります。千葉と静岡に3 か所あります。東京はまだ1か所ですけれども、もうすぐ3か所が認可される予定にな っています。北日本にまだまだ少ないということです。 12ページの曼陀羅模様は、精神科救急ネットワークの構成です。今まで出てきた救急 病棟、急性期治療病棟、電話情報センター、救急医療センターといったものの関係を示 したものです。これが理想図でありますけれども、現実はまだまだ非常にお寒い。 13枚目に地域格差の問題の一端を示すデータを示しました。これはマクロ救急の運用 実績を外来と入院別に表したものですけれども、岩手、北海道、長野といった地方都市 で非常に利用率が高くて、大阪、埼玉のところはこんなに少ない。少ないと賄えるはず がないんですね。それは数字に出てこないミクロ救急が吸収しているか、あるいは御家 族か本人が我慢しているか、どちらかしかないです。 14ページは千葉の例ですけれども、ミクロとマクロの役割分担を示しました。千葉の 場合はマクロ救急、2005年2月からの1か月間の調査ですけれども、マクロ救急は92 件ありまして、それの6倍近いミクロ救急の件数がありました。これは統計には出てき ません。マクロ救急は重症と言われる緊急措置入院であるとか、措置入院であるとかい う人たちを中心に診ていくということです。 精神科救急医療システムの問題点を15枚目にまとめました。先ほど言いましたように、 救急の中心である救急病棟が非常に少ない。これはなぜかというと、スタッフ、特に精 神保健指定医の確保が非常に難しい。先ほど言いましたように、忙しい病院を敬遠する 医者が増えているというのがあります。 地方にとっては認可条件が非常に厳しいんです。例えば時間外診療件数は年間200 件 以上という認可条件があるんですけれども、これは地方では厳しいです。 2番目は、電話情報センター。精神科救急情報センターの機能が非常に不十分。これ は大都市でないとなかなか人が確保できないという問題があります。地方モデルが1つ 必要だと思います。 3番目は、身体救急システムと精神科救急システムとの連携が非常に不十分であると いうことです。身体救急から見ると精神科の救急システムなど見えていないんです。ど んなことをやっているかすら理解されていません。また、精神科の救急システムは非常 にお粗末でして、電話してもなかなかつながらなかったり、夜間は診てくれない。 スーパー救急と呼ばれる施設も、身体管理能力が弱点になっています。 もう一つ問題なのは、精神科の救急システムへの総合病院精神科の関与が弱い。総合 病院精神科自体が存亡の危機にあると言ってもいいかもしれません。こんなファクター が重なって救急システムの地域格差が著しいということです。 ようやく自殺企図ケースの医療ということになります。これはもう皆さんは御存じの とおりですけれども、今までの説明からもう一度説明し直しますと、自殺企図が発生し ますと身体的な重症事例は身体救急医療施設に運ばれます。そこで命を取り止めた人は 精神科の救急医療施設、あるいは精神科の医療機関、通常の医療、ミクロ救急の方に回 される。 身体的軽症事例は、マクロ救急を利用するか、ミクロ救急を利用するかは、 地域によっても、時間帯によっても変わります。 精神科の救急医療施設での経験を言いますと、受診する人たちのおおむね3分の1が 自死念慮、自殺念慮を持っておられます。そのうちの3分の1の方は何らかの形で自殺 企図、自殺行動を起こして、それが直接の受診動機になっています。更にそのうちの3 分の1が非常に重症の自殺企図を行っている。こういう人たちは大体身体救急医療を経 由してから来ますけれども、3分の1原則というのがあって、これが大体精神科救急医 療の世界での話です。 精神科救急施設にたどり着いた人は、また再び左の下からずっと自殺企図の発生へ、 要するに再発生のサイクルに入り込んでしまう人がいる。後から言いますけれども、リ ピーターと言われる人は、一般的には自殺リスクは、狭い意味での精神病圏、うつ病圏 の人よりも自殺のリスクが低いと言われているんですけれども、リピーターとして繰り 返すうちにだんだんリスクが上がっていく。それでぐるぐる回っているうちに一番右上 の死亡という転帰になってしまうということが言われています。 次が「精神科救急システムを受診する自殺企図ケース」です。これも辺縁群と中核群 とに分けられます。辺縁群と言われる人たちは、先ほど言いましたように神経症・人格 障害圏の若い女性が多い。自己アピールとしての自殺企図が多い。リピーターが多いと いうことです。致死性の低い自殺企図手段が多い。リストカットであるとか過量服薬が 多いんですけれども、過量服薬は吐物による窒息死のリスクが高いです。 自殺リスクは相対的に低いけれども、先ほど言いましたようにリピーターとして繰り 返しているうちに不幸な転帰をたどってしまう人もおられる。この人たちは、薬物療法 であるとかカウンセリングといった精神医学的介入への反応性が相対的に低いです。中 核群と言われる人よりも低いと言われています。 一方、中核群の人たちは、うつ病・統合失調症圏の中高年男性が多い。 この人たちの自殺企図は自己処罰としての意味がある。したがって、致死性の高い自 殺企図手段が多い。縊死、飛び降り、入水といった非常に危険性の高い手段です。ただ し、この人たちは精神学的介入の反応性が高いです。薬も比較的よく効きますし、きち んと手当をすれば回復できる人が多いんだけれども、医療中断が多いということが問題 となります。医療中断が多いというのは、利用者の側だけではなくて利用システムの問 題でもあります。 最後に精神科救急医療の課題を3つほどまとめておきました。 まず地域格差を是正すること。これは先ほどの問題点というのが、裏返せばすべて解 決策ということになるかもしれもせん。 身体救急と精神科救急の連携をもっと強化する。一般救急ユニットに精神科医が常駐 する。あるいはせめてコンサルテーション、いつでも相談に乗れる体制を確立すること。 青息吐息の状態の総合病院有床精神科を何とかバックアップすることが必要であろうと 思います。 最後に精神科の救急から在宅ケアまでの精神科医療の連続性を確保すること。これは、 できるだけ精神科の救急病棟からほかの病院に転院させないで、そこで何とか直して連 続的に診ていく。転院して治療者が代わるたびに情報が伝わらなくて、緊張感が下がっ てしまって、いつの間にか死なれてしまうということが結構ありますので、なるべくつ なげる。救急医療と在宅ケアプログラム、ACT、訪問看護等と連動させるということ です。 最後に付け加えれば、この医療のプログラムだけではなくて、ボランタリーな活動と の連携も図るべきであろうと思います。 以上です。 ○上田座長 平田構成員、ありがとうございました。 ただいまの御説明に対しまして、御質問、御意見がございましたら、よろしくお願い いたします。いかがでしょうか。 どうぞ。 ○平安構成員 今の平田先生の御説明に多少補足的というか、私の意見も加えさせてい ただきたいと思います。身体的に重症事例の場合、当然、致死的な自殺企図、手段を用 いている方が多くなります。そういった方はほとんど身体合併症が、骨折でありますと か、意識障害でありますとか、ありますのでいわゆる一般的な精神科救急の中では対応 ができない。多くは今は救急センターに運ばれる。そこは総合病院であるということに なります。 ところが、ほとんどの総合病院には精神科医はいない。いても1人とかという状況で、 当然、夜に泊まっていたりすることがほとんどない状況なんです。なぜそうなるかと言 うと、精神科医療自体が、いわゆる16対1の世界ではなくて、医療単価が低い状況にあ ります。病院としても精神科の医療は少し切り捨てていこうと、経営を優先すれば当然 そうなっていくわけで、しかも医者は少なくなる。そうすると医者は疲弊する。そうす ると、さっきありましたように、開業医として、あるいは少しゆっくりできる医療施設 へ移るという悪循環を、負のスパイラルといいますか、そういう状況に現状はなってい るわけです。 例えば大学病院のような、医者がある程度いるところでも医療経営者というのは変わ っておりません。大学病院でも精神科病床はなくなっているところも首都圏では幾つか 出ております。そうなると、結局、精神科医がいたとしても、後方の精神科ベットがな い形になります。だから、重傷者がいる。身体的には何とか救えた。しかし、精神的な 症状が落ち着かないから、まだ本当だと精神科病床に移して治療をしようということは できない。ですから、お家に帰っていただくか、うまく引き取っていただければ、関連 の精神科の病院に移っていただくという、プロセスがもう一つ必要になってくるわけで す。 これは自殺未遂者に限らないかもしれませんが、やはり総合病院あるいは大学病院等 の、少なくとも16対1を満たしているようなところは、きちんと何らかの形で支援して いただきたい。これも切に思うんですが、現実に私どものところであったとしても、や はり今、すべて国立大学も経営の時代ですから、毎月、診療部長会議で各科の診療単価 というのが一覧表で出てきます。そうすると、私どものところは救急をやったりいろん なことをやっていますから、全国の大学病院の中では非常に優秀な方なんですが、それ でもほかの身体科と比べると一番少ない科の半分以下です。現実にはそういう状況にな るわけです。 そういう状況だと、病院がきちんと健全な経営をしようとすると、やはり精神科病床 は削減する、効率化する。精神科医療は政策医療だから何とか頑張ってくださいという、 政策医療だからという、何となくその辺のところがもういかにも精神科とか、どこの自 殺未遂者に対してもそうですけれども、政策で救うような医療なのかというような認識 にどうしても、そこがまた負の、病院経営者の立場としてもネガティブなイメージにな ってしまうということがあります。 ですから、先ほど平田先生からもありましたけれども、総合病院の精神科を何とか支 援していかないと、ここの未遂者、企図者が来る一つの窓口になるところがどんどん薄 くなっていく。 クリニックの先生方も、一緒に非常に熱心にやっていらっしゃる先生ほどたくさんの 患者さんを見ないといけないということで、対応はなかなか密にいかないということも ありますから、そういう意味で抜本的な支援、医療の中での枠組みも考えていただけれ ばと思います。 すべての総合病院に同じように一律に医療報酬を考えろということではなくて、やは りそういった救命センターを持っていて、きちんとした実績を持っているところとか、 連携がきれいにできているところとか、あるいは地域のネットワークを活用して、それ で実績を持っているところとか、そういったところでもいいですから、そういうところ が支援していくということになって底上げをしていくということも、医療側からの対策 の1つになるのではないかと思います。 ○上田座長 ありがとうございました。 先ほど来、精神科医療あるいは精神科救急医療について、いろんな課題が出されてお りますので、この辺は整理をして今後の対応としたいと思います。 町野さん、どうぞ。 ○町野構成員 非常に興味深い話なんですけれども、具体的に教えていただきたいんで すが、平田先生のスライドの16ページにある図について、例えばある女性がうつ病とい う診断をされた。そして、何回かリストカットを繰り返した。ある日、彼女がトイレの 中で再びリストカットをしているのを母親が発見して救急車を呼んだ。そこから後、ど のようになりますかということなんです。まずどちらに運ばれるか。 それから、平田先生のそれですと、大体上の方の身体救急にしろ、死亡以外は全部精 神科の方に回るとなっていますけれども、恐らくそのまま出ていくケースもあるのでは ないかと思うんです。 具体的に今のようなケースというのは、どのような対応がされるということが予想さ れるわけでしょうか。 ○平田構成員 リストカットぐらいと言ったら申し訳ないんですけれども、傷が浅いと 精神科の方の医療が優先になってしまうんです。傷の深さによりますけれども、腱が切 れていたり血管まで達してしまうと身体救急の方に行きますけれども、皮膚をこすった ぐらいですとリストカットでなくてリストスラッシュとアメリカでは言うんですけれど も、それぐらいですと軽症事例ということで、精神科救急に回ってきます。 どういう精神科の医療施設の紹介されるかというのは、かかりつけがあればかかりつ けがまず優先ですけれども、なければ、あるいはかかりつけがあっても夜間休日はやっ ていないというところでありますと、当番病院であるとか基幹病院であるとかに回され るんですが、地域によって物すごく差があります。 手前みそな話になりますけれども、千葉県と横浜市は比較的患者さんにとってハッピ ーだと言われているんですけれども、それ以外のところは、例えば東京都ですと一晩は 都立病院で診てくれますけれども、翌日は多摩地区の民間の輪番病院の方の自動転送に なってしまうんです。ですから、そこで自動的に切れてしまうということで、どこに振 り分けられるかは全く時の運としか言いようがない状況なんです。 そういうことをやっているうちに、だんだん医療が希薄になってきますし、ユーザー の方もだんだん当てにしなくなってしまいます。医者のところに行ったって問題解決に ならないといって、どんどん絶望度を深めてしまう方も中にはおられるかと思います。 身体救急から精神科救急に100 %つながるわけでは勿論ございません。どれぐらいつ ながるかのデータはありませんけれども、半分ぐらいしかつながらないのではないかと 思います。 ○上田座長 よろしいですか。伊藤さん、どうぞ。 ○伊藤構成員 救急隊の方にお話をお伺いすると、例えば身体的なものが重篤な場合に は一般救急の方に行く。ただ、その場合にも受け入れてもらえる病院をかなり探すそう です。けれども、精神科的な問題があると精神科へ行ってくださいと断られる場合があ る。 一方、精神科に通院中の場合は、まず主治医の方にお願いをするんですが、診療所の 場合には夜間は連絡がとれず、救急関係で精神科を探すわけですが、傷を処置してから にしてくださいということになる場合がある。なかなか病院が見つからない状況が、救 急隊のところでは起きているということをうかがいました。 こういった場合、救命救急センターの方に搬送されて、そこで処置をされる場合もあ ると聞いております。トリアージュと言いますが、なかなかシステム的に課題がある、 これまで議論で感じております。 ○上田座長 ありがとうございました。 精神科医療についての課題がそれぞれの委員からお話がありました。もっと議論を深 めないといけませんが、間もなく5時になりますので、最後の御説明の渡邉構成員にま ずお願いして、それで最後の議論をしたいと思っております。 渡邉構成員、よろしくお願いします。 ○渡邉構成員 資料7をごらんください。今、平田構成員からお話があったように、青 森県の精神科救急は非常に希薄なところなわけですけれども、独自の方法で自殺予防活 動に取り組んでおります。未遂者の取組みに関しては、まだまだ非常に活動が乏しいの で、ほんのちょっとしかお話ができないと思いますけれども、事務局からはそれでもい いということで、青森県の自殺予防活動について、お話をさせていただきます。 2ページ目、一番上の黄色が秋田、赤が青森、緑が岩手という自殺率の推移で、一番 下が全国平均です。私が赴任いたしました平成15年が最高だったんです。それから幸い に、青森県は人口150 万人位で、その15年が576 名、16年が554 名、17年が527 名 と少しずつ減ってきております。平成18年は警察の発表が既にありまして、500 名とい うことなんですけれども、大体0.9 をかけた値が人口動態統計の数字になるかと思って おります。 3ページ目、私たちは基本的にどういうことを目標に取り組んでいるかというと、「互 いに気持ちを伝え合う」ということなんです。私は平成9年から秋田県の由利町に飛び 込んで、住民と接して感じることは、やはりなかなか気持ちが伝わっていない、悩みが あっても相談しない、特に男性に多いんです。そういうことを感じましたし、青森県で も同じようなことを感じているし、あらゆる場でだれかに悩みを聞ける、悩みを伝える ことができる人、そういう場所をつくっていこうということを基本的なスローガンにし ております。 主に市町村に対しての取組みが進んでおりますけれども、現在では40市町村あります けれども、多くの市町村、半分以上の市町村で自殺予防の取組みが行われておりますし、 特に感じることは、住民の意識の変化なんです。最初は非常に拒否的な、ネガティブな 反応しか見られなかった住民たちが動き始める。非常に積極的になってくる。話も一生 懸命聴いてくれるようになる。手を挙げて質問するようになる。そういう変化があった わけです。それから、住民自身が自分たちの町や村のために何かをしていこうと動き始 めるということがあって、紙芝居や演劇などをして、ストレスやうつの話を広めていこ うというようなことで、今は3県合同の取組みなども行われております。昨年は岩手で 行われまして、今度は秋田県由利本荘市で行われる予定です。幾つかの市町村では傾聴 ボランティアの養成をしていこうということですけれども、平成19年度にはそのボラン ティアを養成できるような保健師、そういうトレーナーを養成していこうという事業が 始まります。 まだ学校は少ないですけれども、幾つかの小学校で5〜6年生を対象にして、気持ち を伝え合うということで、音楽療法を用いたりして取り組んでおります。 職域はまだまだこれからですけれども、やはり同じようにこの調査結果からも、なか なか上司に悩みを相談できないとか、あるいは部下同士で気持ちを伝えることができな いということがありますので、これをきちんと伝えることができるようなモデルの事業 所をつくろうということで、まだこれは動き始めたばかりです。 医療機関は六戸町というところで、こころのケアナース養成ということを行いました。 一般の医療機関の看護師が気持ちを聴く役割を担っていくということ。 また金融、商工、労働窓口で傾聴の重要さを指摘して、相談窓口でもきちんと対応で きるようにやってもらおうとか、そういう試み。 さらに心理学的な剖検を契機に、御遺族の訪問をきっかけに調査をさせていただきま した。そういう傾聴・共感がまず前提であろう。それなくして心理学的な剖検というこ ともできないであろうという形で取り組んでおります。 4ページ目、まず市町村への取組みですけれども、これは1次予防がメインなんです。 医療モデルとコミュニティーモデルがありますけれども、結構コミュニティーモデルに 力を入れております。自殺やうつを考えないで済むような心の健康づくりの要因を把握 していこう。そして、その結果を繰り返し住民に伝えていこうということで、住民が何 を考えているのか。どんなストレスがあるのか。どの程度うつ状態なのか。死にたい気 持ちはどれくらいか。ストレスにどう対応していくかなどを調査して、その結果をわか りやすく住民に還元するということで、紙芝居や演劇なども使っております。結果とし て、住民参加型の組織づくりができる。専門家の支援体制づくりをしていくということ ができつつあります。 5ページ目、こういうような調査結果を踏まえて、こういう「こころの健康の輪」と いう図をつくって、この6つの要因を趣味とか、あるいは悩みがあったときにだれかに 相談できる、そういうサポートが得られるとか、体の身体的な疾患もきちんと自己管理 できるとか、経済的に安定するとか、睡眠、休養を十分に取るとか、柔軟な考え方を持 つこと。これがこの輪を広げていくんですよということで、わかりやすく説明しており ます。 6ページ目「こころのケアナースのシステム」ということで、これは人口1万の六戸 町で行って、一般診療科の看護師を対象にして、傾聴と共感の研修を受けてもらって、 ケアナースとして今は15人のケアナースがおりますけれども、住民がこころの健康カー ドを持ってくれば、いつでも話を聴くということで、ただ、外来が非常に忙しいときは 町の役場の保健師につなげて、保健師がそのアフターケアをする。保健師が代わりに話 を聴くというシステムで、このシステムをきっかけに保健師とケアナースの連携が非常 に取りやすくなりました。 一般の診療機関に自殺者の大半が1か月前に受診すると言われていますけれども、中 にはうつとか希死念慮を抱く人がいるわけなので、そういう人たちを精神科の医療機関 に紹介する。そのときには一般の診療科の医師が紹介状を書くという形に医師会、看護 協会などがサポートして、私たちもサポートして行っております。これはほかの市町村 にも波及して、久慈市とか鹿児島県などでも研修が行われております。 7ページは、市町村に関しては、住民に対しては1次調査をして、中にはモデル地区 を設定して調査をして、こういう調査をすること自体が非常に住民に対する刺激になる わけです。少しずつ自殺予防への自覚が高まっていくということ、自助組織が形成され るということです。 その例としてこの8ページは、11月に久慈市で行われた交流会ですけれども、七戸町 の住民が劇をやっています。農協の職員がうつになって、奥さんが帰ってくるとあわて て日記をお尻の下に隠すというようなことで、なかなか自分の気持ちを伝えることがで きない。病院に行っても精神科医に伝えることができず、3分診療で、「もういいですよ」 ということで薬だけもらって帰されてしまう。そういうような情景です。 最終的には、奥さんが一生懸命話を聴くということができるようになるわけですけれ ども、そういうことを見て、これは深刻な場面なんですけれども、おかしいわけです。 見ている方はおかしいので笑う。でも、笑いながら何となく気持ちがわかる。うつって こんなもんだなとか、精神科のお医者さんも結構大変かもしれないけれども、もう少し 話を聴いてあげてもいいのになという気持ちを持ちながら、笑いながらそういう状況を 把握するということが行われているんです。見て聴いて笑って地域の力で心の健康をつ くる。そういう形で地域に啓発をしていく住民が出てきているということです。 9ページは、私が小学校の5〜6年に対して気持ちを伝え合うということで、やはり 一人ひとりがみんな大事な存在なんだから、自分を大事にしよう。何か悩みがあったら だれかに伝えようということを働きかけていく。 質問をしてみると、なかなか親にも先生にも相談しないというような生徒がいること がわかるんです。失敗しても挑戦しようとか、お互いにペアになって、いいところを褒 めてみようというような働きかけをしております。 10ページは、ちょっと前に行いました、金融・商工・労働の相談窓口の担当者に集ま ってもらって、きちんと相談対応ができるようにということで働きかけていますけれど も、この職員、従業員の人たちはまだまだかたいです。非常に話もしにくいという現状 ですけれども、2年間、根強く行おうと思っております。 11ページは、心理学的な剖検に協力させていただいたことから出てきたことで、自死 遺族の方の会が2月25日につがる市というところで形成されたんです。要するに何のた めに心理学的剖検を行うかということなんですけれども、やはり基本は気持ちを聴いて、 その気持ちを受け止めて、アフターケアといいますか、私たちがお互いに協力し合って できることをしていく。その中で、こういう言葉、本当はだれかに亡くなった人のこと を話したいんだけれども、話せる人がいたから救われた、人とのつながりが大事だとつ くづく思う、心が軽くなったということで、これは私たち保健師と精神科医で訪問した わけですけれども、そういうことをきっかけに遺族の会ができたら是非参加したいとい うことです。 「こういうことは、我が家の息子だけでたくさんだ」とか、「もっと家族がお互い思い やりを持って接していれば、必ず死ぬ前にはサインがあるから気づいてあげてほしい。」 こういう御遺族もいらして、こういう方たちは自分たちの気持ちを伝えたいということ で前向きなんです。 もう一例の方は、「これは2人子どもがいるからいいじゃないかと言われたんだけれど も、それが傷ついてしまった。自分行きたいぐらいだ」ということを言っているんです けれども、この方は非常に心配な方でした。結局、私どものセンターの医師と町の保健 師も関わったので、定期的に家庭訪問していこうと。でもこの方も遺族会には参加する と言っていました。 「めぐせ死に方して」、めぐせというのは、津軽弁で恥かしい死に方をしてということ で周りから言われてしまう。だから、そういう周囲の偏見が本人にとっても非常に辛い 状態に追い込まれるわけなので、そういう周囲の偏見を取り除いていくという働きかけ もしていかなければいけない。いずれにしても地域で、つがる市でこういう遺族会の中 で自分たちが声を上げることが始まることが大きな意味があるんではないかと思ってお ります。 12ページは、フリーダイヤル、これは10日、11日に行ったんですけれども、弁護士 と精神科医の私と心理士と精神保健福祉士と保健師で2日間待機しましたら、2日間で 43件の相談が来たんです。 一番下には1日目の対応しか出ておりませんけれども、経済・生活問題、多重債務は 弁護士が引き受けて、うつを中心とした病気のことは精神科医が引き受けるとか、いろ いろな対応をしました。非常にニーズがあるということです。 このことをきっかけに、更に今度はフリーダイヤルのネットワークをつくろうと考え ております。要するに、今週は弁護士のフリーダイヤルですよと、でもその中で多重債 務だけではなくて心の問題があるようだったら、来週精神保健福祉センターのフリーダ イヤルがあるので、そちらで相談してくださいという形で、きちんとアフターケアがで きるようなシステムづくりを考えております。 最後に「未遂者への対応」ですけれども、県立中央病院の救命センターの調査で、6 年間に323 件、既遂例が26例、後半の3年間は件数が増加しておりまして、若年の女 性例で過量服薬、そういうパーソナリティー障害の方が多いと思いますけれども、3年 間で増えております。薬物によるものは全体の58%で、その中の73%は医師の処方によ って起こっている。そういう処方の問題とか、反復企図、精神科受診歴のある方は28%。 精神科の紹介率は59%ということでしたので、まだまだ残りの人はそのまま未紹介とい うことで、問題がある。 また市町村の保健師が結構自殺未遂に関わっておりまして、生活保護を受けた事例の 定期的な家庭訪問とか、リストカット若年女性の家庭訪問とか、精神科へつなげるとか、 自殺未遂による育児不能の母親への家庭訪問とか、家族・兄弟と連絡を取りながらの対 応、産後うつの事例への対応などを行っております。 依頼元は、社会福祉事務所や保健所・消防署・保健協力員・民生委員・社会福祉協議 会のさまざまなところから依頼が来るようになっているんです。ある病院では、これは 戦略研究の地域介入のモデルとして行っておりますけれども、精神科医と保健師が町の 総合病院に待機して、そこで未遂者が出たときには保健師が定期的に家庭訪問するとい うことも行われ始めております。 以上です。 ○上田座長 ありがとうございました。それでは、ただいまの御説明につきまして、御 質問、御意見がございましたらよろしくお願いします。いかがでしょうか。 渡邉さんは、精神保健福祉センターの立場で、市町村の取組みですとか、県立病院で の調査状況など青森県という地方での取組みの事例のお話しがありましたが、何かござ いますでしょうか。 そうしましたら、ただいまの渡邉さんのお話だけでなく、全体として御意見等がござ いましたら、よろしくお願いしたいと思いますが、いかがでしょうか。5時を過ぎまし たけれども、できるだけ御意見をいただければと思います。 どうぞ。 ○平安構成員 ちょっと違う視点なんですけれども、昨今のメディアの報道に関して、 さまざまな議論があると思います。メディアのガイドラインというのがWHOの方から 2000年ごろに、こういうふうに報道してくださいというものがあります。今回の未遂者 支援とは直接には関係ないんですけれども、昨年のヨーロッパの自殺・自殺行動学会で ガイドラインのセッションがありました。ほとんどがメディアはどういうふうに報道し ていったらいいかという、国によってかなり違うという話だったんですけれども、1つ だけ、先ほどの未遂者の支援ということに関係した国の発表があったので御紹介します。 ベルギーの方では、1年に1回、英語ではナショナル・スーサイド・サバイバーデー という、サバイバーという言葉を使った日をつくっていて、そのときにマスコミも参加 して、結局スポンサーは宝くじとかが基金をつくって、自殺企図を起こしてしまった。 それで、サバイブして、社会復帰を果たした人が表彰されたりするような企画がある。 そういったことをサポートする団体があるという発表がありました。 ですから、今の予防というよりもちょっと踏み込んだ形で偏見をなくしていく。例え ばがんとかだと、既にキャンサー・サバイバーというものも一般的に広くなっています から、自殺企図を克服して社会に戻ってきたことが表に出てこれるような状況が出てく ると、より偏見を是正するうえでも有効だと思います。企図歴を持つ方が、社会の中の 枠組みで力になっていただくという、国によってはそういうことをやっているところも あるということです。 ○上田座長 ありがとうございました。非常に貴重な御紹介だと思いますが、いかがで しょうか。 どうぞ。 ○清水(康)構成員 重要なのは、だれが企画して、それを推進していくかという本部 をはっきりとさせることだと思います。今日午前中も内閣府の総合対策の在り方検討会 の話し合いで出てきたんですけれども、私たち民間の現場でできることは、個別にメデ ィアの関係者に対して、ガイドラインづくりを働きかけたりとか、あるいは去年、一昨 年と、世界自殺予防デーにWHOから講演をもらってフォーラムを開いたりとかやって はいるんです。 ただ、もっともっとやる必要があると思っていますし、それをあとだれがやるのかと いったときに、本当はもっと国の方でやっていくべきなんだろうということは常々思っ ています。内閣府の方で今、大綱後のことについて検討していて、言いっぱなしに終わ らないように、ちゃんと推進役をつくっていこうということに多分方向性としてなって いくのだと思うので、そこがゆくゆくは担っていくのかもしれませんけれども、アイデ アとしては、ナショナル・スーサイド・サバイバーデーというのをきっかけにして、用 語のことを問題提起したり、マスコミを巻き込んでそれをやったりということになれば と思います ○上田座長 ありがとうございました。 そのほかにございますでしょうか。いかがでしょうか。そうしましたら、今日は自殺 未遂者に対するケアで、前回の親族等に対するケアについて、最初に事務局の方から資 料2のお話がございましたので、それを先に説明していただいて、そこで、今後のこと について、皆様の御意見をいただきたいと思います。 それでは、よろしくお願いします。 ○鷲見課長補佐 お時間の関係もありますので、簡単に御説明させていただきますが、 資料2に前回先生方に御議論いただいた内容について、意見を事務局の方で少し整理を させていただきました。ただ、こちらにつきましては、案ということで書いてあります とおり、これで網羅できているかどうかという点について、先生方にもう一度御確認い ただきたいと思います。 また、本日の御議論も踏まえて、同様なものをこれに加えた形で整理したいと思って おります。先ほど清水さんの方からもお話がございましたけれども、現在内閣府の方で 自殺の大綱というものが進められております。また、本日も有識者の会議というものが 開かれておりますが、その大綱の作成に際して、私どもとしても検討会でこうした意見 が先生方から出されているということを整理した形で、内閣府の方にきちんと提出させ ていただきたいと思っております。 でありますので、こちらをもう一度まとめたものを先生方に一度御確認いただくよう な形で、事務局からまた御連絡をさせていただくということを考えております。 一応、簡単ではございますけれども、枠組みにつきましても、私ども現状、課題、対 策、そして前回支援グループについてという形で、親族部分をまとめさせていただいて おりますけれども、こうしたとりまとめの枠組みにつきまして、もし御意見がありまし たら是非事務局の方にまで御連絡いただきたいと思っております。 以上でございます。 ○上田座長 前回いろいろ御意見をいただきました。このような現状、課題、対策、支 援を行っているグループやNPO等の活動、あるいは未遂者支援についての御意見があ りましたので、現状、課題、対策、グループに対する支援等についてまとめられていま す。個々にはまだまだ御意見があろうかと思います。 前回の親族に対するケア、今回の未遂者に対するケアについての御意見をこういう形 で整理したいとの提案です。次回の会議をどのように開くかを含めて、皆さんの御意見 を伺いながら、進めていきたいと思います。いかがでしょうか。 大綱の話や内閣府の動きに対しても皆さんの意見を反映して提案することや、年度末 にガイドラインなどをまとめる話がありました。それに関して、これまで3回議論をし てきましたが、皆さんから何か御提案や御意見があれば伺います。事務局も一緒に考え ていただきたいという意味で今、申し上げておりますが、何か御意見ございますでしょ うか。どうぞ皆さんから、前回も今回も貴重な御意見をいただいています。どうぞ。 ○清水(康)構成員 質問なんですけれども、これは内閣府の方にはいつごろまでに提 出するんですか。つまり次回会合との兼ね合いがあるかと思うのですが。 ○鷲見課長補佐 そちらにつきましては、まず、大綱の意見出しをする前に開催するか どうか。それよりも、今、正直申し上げて大綱のタイムスケジュールがかなり厳しい状 況でありますので、もう一度先生方にお集まりいただくということは、もし開ければ開 いてもいいかもしませんが、それよりもまずは意見としてまとめた形で、先生方にそれ を確認していただくという作業をきちんと進めて、実質的にきちんと内閣府の方に意見 出しすることが重要ではないかと事務局では考えております。 ○清水(康)構成員 そうすると、例えばこの中で更に加筆していただきたい部分は、 個別にメールをお送りして御連絡差し上げるということでよろしいんですか。 ○鷲見課長補佐 はい。ですので、今日の会議を踏まえまして、例えば未遂者の分は新 しく加わりますし、本日の会議の中で遺族の部分の御発言が先生方からありましたので、 それも加えた形で、事務局でもう一度整理します。それを構成員の先生方にお送りしま して、御確認いただいて固める。それを内閣府の方に、この検討会として先生方から御 意見がございましたということをお伝えしたいということでございます。 ○斎藤構成員 当面、検討会は予定しないということですね。 ○鷲見課長補佐 こちらにつきましては、タイムフレームについて、まだ正確にいつま でに大綱案を固めるということを内閣府の方から言われておりませんので、会議につき ましては、その大綱の作成の進捗状況と合わせて、少し事務局で考えさせていただき、 座長とも御相談させていただきたいと思っております。 ○上田座長 そうしますと、内閣府あるいは大綱に対する意見をまとめるということで よろしいんですか。 ○鷲見課長補佐 ですので、本日の会議の意見も踏まえて、検討会の先生方の意見とし てまとめさせていただきたいと思っております。 ○上田座長 皆さんにメールなどでフィードバックして、これに対し意見をいただけれ ば、それを追加して1つにまとめるという理解でいいですか。それは、つまり会議は開 きませんが、これまでの議論を整理して、それを皆さんにもう一度フィードバックして、 また御意見をいただいて、それを私が責任を持って、勿論皆さんの御意見も確認しなが ら提案する、という理解でよろしいですか。 ○鷲見課長補佐 そうですね。先生方の御意見を検討会の意見として整理して、内閣府 にお伝えさせていただくということです。その前に先生方に御確認していただくという ことでございます。 ○上田座長 どうぞ。 ○清水(康)構成員 要望ですけれども、できれば締め切りの3日前に、2日ぐらいで すともう埋まっているときは時間を割けなかったりするので、できるだけ早めにまとめ たものを流していただくようお願いします。意見を内閣府に提出して、それが国の施策 に反映されていくわけですから、じっくりフィードバックするために考えて記述したい と思いますので、時間ができるだけ取れるような形でお願いします。 ○上田座長 ですから、スケジュールがわからなければ、また変わってもいけませんの で、ある程度の方向が見えたところで、早めに連絡があれば、清水さんがおっしゃった ように準備ができますから、よろしくお願いします。 ○鷲見課長補佐 確かにそこは大事なところだと思いますので、少し締め切りについて 内閣府などと調整しながら、できるだけ早い形で私どもまとめて、先生方の御意見を聞 かせていただきたいと思います。 ○上田座長 今の進め方でよろしいでしょうか。整理しますと、内閣府に対して、これ までの皆さんの御意見を提案する。それについては、先ほどのように一定のスケジュー ルの中で、また改めて皆さん方にお見せして御意見をいただいて提出する、ということ で進める。 そのような形で進めますが、次回の会議については、開催はどうしますか。 ○鷲見課長補佐 ですので、大綱づくりの状況を見ながら、必要に応じて開催するかど うかについて御相談させていただきたいと思います。こちらは、また座長と御相談させ ていただきたいと思います ○上田座長 例えば開催をせずに今、お話ししたようなやり取りをしながらまとめると いうのが第1案です。 第2案としては、そうは言うものの会議を開いて確認しようということです。 ただ、どちらかと言いますと、第1案で進めたいというのが事務局の案かなと思いま したが、この進め方で皆さんよろしいですか。 やはりきちんと意見をまとめて提案することが、皆さんのこれまでの貴重な御意見で すので、その方が望ましいと思います。 どうぞ。 ○清水(康)構成員 本来的には、皆さんが一人ひとりプレゼンして、それについて議 論を煮詰めてから、凝縮させた形で提案するのがいいだろうと思いますけれども、この 状況でそうしたところまで時間的に猶予がないだろうと思うので、であるならば、それ ぞれの委員が考えている意見を会議を開かずにここに盛り込んで、まとめた形で提出す るということでやむを得ないと思います。 ○上田座長 それでは、皆さん、今の清水さんの御提案でよろしいですか。私もそのよ うに提案しましたが。 (「はい」と声あり) ○上田座長 そうしましたら、事務局でスケジュールですとか、具体的にこういう形で 提案しますという案を皆さんにお見せします。是非いろいろ御意見をいただきながら、 私の方でとりまとめたいと思いますので、よろしくお願いいたします。 事務局から何かよろしいですか。 これで終わりにしたいと思いますが、皆さん方から特にございますか。 それでは、大分時間が過ぎましたけれども、長時間御熱心に御審議いただきまして、 大変ありがとうございました。これをもちまして、本日の会議を終わりにさせていただ きます。 どうもありがとうございました。 (照会先)厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部                  精神・障害保健課障害保健係 内線3069 8