第2回登録販売者試験実施
ガイドライン作成検討会
資 料
平成19年3月14日

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登録販売者試験問題作成の手引き(イメージ)





第1章【医薬品に共通する特性と基本的な知識】
I  医薬品の本質

II  医薬品の効き目や安全性に影響を与える要因
1) 副作用
2) 不適正な使用と有害事象
3) 食品や他の医薬品との飲みあわせ、相互作用
4) 小児、高齢者などへの配慮
5) プラセボ効果

III  適切な医薬品選択と受診勧奨
一般用医薬品で対応できる症状の範囲

第2章【人体の働きと医薬品】
I  人間の体の構造と働き
   胃腸、肝臓、肺、心臓、腎臓などの内臓器官
1) 消化器系
2) 呼吸器系
3) 循環器系
4) 泌尿器系
   目、鼻、耳などの感覚器官
   皮膚、骨・関節、筋肉などの運動器官
   自律神経系の働き

II  薬の働く仕組み
1) 体内で薬がたどる運命
2) 薬の体内の働き

III  症状からみた主な副作用
   全身的に現れる副作用
1) ショック(アナフィラキシー)、アナフィラキシー様症状
2) 皮膚粘膜眼症候群(スティーブンス・ジョンソン症候群)、中毒性表皮壊死症(ライエル症候群)
3) 肝機能障害
4) 偽アルドステロン症
5) 病気等に対する抵抗力の低下
   精神神経系に現れる副作用
   体の局所に現れる副作用
1) 胃腸症状に現れる副作用
2) 呼吸機能に現れる副作用
3) 心臓や血圧に現れる副作用
4) 排尿機能や尿に現れる副作用
5) 目や鼻、耳に現れる副作用
6) 皮膚に現れる副作用

第3章【主な医薬品とその作用】
I  精神神経に作用する薬
   かぜ薬(内服)
1) かぜの発症と諸症状
2) 代表的な配合成分、習慣性がある成分
3) 主な副作用、相互作用、受診勧奨
   解熱鎮痛薬
1) 発熱や痛みが起こる仕組み、解熱鎮痛薬の働き
2) 代表的な成分、主な副作用、相互作用、受診勧奨
   眠りを促す薬
代表的な成分、主な副作用、相互作用、受診勧奨
   眠気を防ぐ薬
カフェインの働き、主な副作用、相互作用、休養の勧奨
   その他の精神神経用薬
(うん)薬(乗物酔い防止薬、つわり用薬を含む)
代表的な配合成分、主な副作用、相互作用、受診勧奨

II  呼吸器官に作用する薬
   (せき)止め、(たん)を出やすくする薬(鎮(がい)去痰薬)
1) 咳や痰が生じる仕組み、鎮咳去痰薬の働き
2) 代表的な配合成分(医薬部外品との違い)、習慣性がある成分
3) 主な副作用、相互作用、受診勧奨
   うがい薬(含(そう)薬)
代表的な配合成分(医薬部外品との違い)、主な副作用
   かぜ薬(外用)
代表的な配合成分(医薬部外品との違い)、主な副作用

III  胃腸に作用する薬
   胃の薬(制酸薬、健胃薬、消化薬)
1) 胃の働き、薬が症状を抑える仕組み
2) 代表的な配合成分(医薬部外品との違い)
3) 主な副作用、相互作用、受診勧奨
   腸の薬(整腸薬、止(しゃ)薬、瀉下薬)
1) 腸の働き、薬が症状を抑える仕組み
2) 代表的な配合成分(医薬部外品との違い)
3) 主な副作用、相互作用、受診勧奨
   胃腸鎮痛鎮(けい)
1) 代表的な配合成分、症状を抑える仕組み
2) 主な副作用、相互作用、受診勧奨
   その他の消化器官用薬(浣腸薬、駆虫薬等)
代表的な成分、主な副作用、受診勧奨

IV  心臓などの器官や血液に作用する薬
   強心薬(センソ含有製剤等)
1) ()、息切れ等を生じる体質と強心薬の働き
2) 代表的な配合生薬、主な副作用、相互作用、受診勧奨
   リノール酸、レシチン主薬製剤
1) 血中コレステロールとリノール酸、レシチン等の働き
2) 主な副作用、相互作用、受診勧奨
   鉄製剤
1) 貧血症状と鉄製剤の働き
2) 代表的な配合成分、主な副作用、相互作用、受診勧奨

V  排泄に関わる部位に作用する薬(泌尿器肛門用薬など)
   ()の薬(内用及び外用)
1) 痔の発症と対処、痔疾用薬の働き
2) 代表的な配合成分、主な副作用、受診勧奨
   泌尿器用薬
代表的な配合成分、主な副作用、相互作用、受診勧奨

VI  女性用薬
   婦人薬
1) 適用対象となる体質・症状と薬の働き
2) 代表的な配合成分、主な副作用、相互作用、受診勧奨
   その他の女性用薬
代表的な配合成分、主な副作用、相互作用、受診勧奨

VII  アレルギー用薬(鼻炎用内服薬を含む)
1) 皮膚に生じるアレルギー症状、薬が症状を抑える仕組み
2) 鼻炎の症状、薬が症状を抑える仕組み
3) 代表的な配合成分、主な副作用、相互作用、受診勧奨

VIII  鼻や耳に用いる薬(点鼻薬及び点耳薬)
   鼻炎用点鼻薬
代表的な配合成分、習慣性がある成分、主な副作用、相互作用、受診勧奨
   点耳薬
代表的な配合成分、主な副作用、相互作用、受診勧奨

IX  眼科用薬
一般的な注意事項(コンタクトレンズ使用時等)、受診勧奨
1)   目の調節機能を改善する配合成分
代表的な成分、主な副作用、相互作用
2)   目の充血、炎症を抑える配合成分
代表的な成分、主な副作用、相互作用
3)   目の乾きを改善する配合成分
代表的な成分、主な副作用
4)   目の(かゆ)みを抑える配合成分
代表的な成分、主な副作用、相互作用
5)   抗菌作用を有する配合成分
代表的な成分、主な副作用、相互作用
6)   その他の配合成分(ビタミン、アミノ酸、無機塩類等)と配合目的

X  皮膚に用いる薬
一般的な注意事項(患部を清潔に保つ等)、受診勧奨
1)   きず口等の殺菌消毒成分
代表的な成分(医薬部外品との違い)、主な副作用、受診勧奨
2)   痒み、()れ、痛み等を抑える配合成分
代表的な成分、主な副作用、主な副作用、受診勧奨
3)   肌の角質化、かさつき等を改善する配合成分
代表的な成分(医薬部外品との違い)、主な副作用、受診勧奨
4)   抗菌作用を有する配合成分
a. にきび、吹き出物等の要因
b. 代表的な成分、主な副作用、受診勧奨
5)   抗真菌作用を有する配合成分
a. みずむし・たむし等の要因
b. 代表的な成分、主な副作用、受診勧奨
6)   頭皮・毛髪に作用する配合成分
代表的な成分(医薬部外品との違い)、主な副作用、受診勧奨

XI  歯や口中に用いる薬
   口腔咽頭薬、口内炎用薬
代表的な配合成分(医薬部外品との違い)、主な副作用、相互作用、受診勧奨
   歯痛・歯槽膿漏薬
代表的な配合成分、主な副作用、相互作用、受診勧奨

XII  禁煙補助剤
1) タバコの依存とニコチンに関する基礎知識
2) 主な副作用、相互作用、禁煙達成へのアドバイス・受診勧奨

XIII  滋養強壮保健薬
1) 医薬品として扱われる保健薬
2) ビタミン、カルシウム、アミノ酸等の働き、代表的な配合生薬と配合目的
3) 主な副作用(過剰症を含む)、相互作用、受診勧奨

XIV  漢方製剤、生薬製剤
   漢方処方製剤
1) 漢方の基本的な考え方
2) 代表的な漢方処方、適用となる症状・体質
3) 主な副作用、相互作用、受診勧奨
   小児の(かん)を適応症とする生薬製剤
代表的な配合生薬、主な副作用、相互作用、受診勧奨
   その他の生薬製剤
代表的な配合生薬、主な副作用、相互作用、受診勧奨

XV  公衆衛生用薬
   消毒薬
1) 感染症防止と消毒薬
2) 代表的な成分・用法、誤用による中毒とその対処
   殺虫剤
1) 衛生害虫の種類と駆除
2) 代表的な成分・用法(医薬部外品との違い)、誤用による中毒とその対処

XVI  一般用検査薬
   尿糖・尿蛋白検査薬
1) 尿中の糖、蛋白値に異常を生じる疾病
2) 検査結果に影響を与える要因、検査結果の判断、受診勧奨
   妊娠検査薬
1) 妊娠の早期発見の意義
2) 検査結果に影響を与える要因、検査結果の判断、受診勧奨

第4章【薬事関係法規・制度】
I  販売業の許可
1) 許可の種類と許可行為の範囲
2) 対面販売の原則

II  医薬品の分類
1) 医薬品の定義と範囲
2) 医療用医薬品と一般用医薬品、毒薬・劇薬、販売制限 等
3) 一般用医薬品のリスク区分、リスク区分に応じた情報提供

III  医薬品販売に関する法令遵守
1) 適正な販売広告、販売方法等
2) 行政庁の監視指導、苦情相談窓口

第5章【医薬品の適正使用・安全対策】
I  医薬品の適正使用情報
   添付文書
1) 添付文書の読み方
2) 購入者に対する情報提供への活用
   製品表示
1) 製品表示の読み方
2) 購入者に対する情報提供への活用
   安全性情報など、その他の情報
1) 情報の入手
2) 購入者に対する情報提供への利用

II  医薬品による副作用等への対応
1) 薬害事件の歴史と制度の意義・位置づけ
2) 医薬品による副作用が疑われる場合の報告の仕方
3) 副作用被害救済制度利用への案内、窓口紹介

III  医薬品の適正使用のための啓発活動



第1章 医薬品に共通する特性と基本的な知識

問題作成のポイント
医薬品の本質、効き目や安全性に影響を与える要因等につき理解していること
購入者等から医薬品を使用しても症状が改善しない等の相談があった場合に、医療機関の受診を勧奨する等、適切な助言を行えること
I 医薬品の本質

医薬品は、多くの場合、人体に作用を及ぼして効果を発現させるものである。しかし、本来生体にとっては異物(外来物)であり、また、医薬品が生体に及ぼす作用は複雑且つ多岐に渡り、そのすべてが解明されていないこともあり、必ずしも期待される有益な効果(薬効)のみをもたらすとは限らず、ときとして好ましくない作用(副作用)を生じる場合がある。

人体に直接使用されない医薬品の場合、例えば、殺虫剤のほとんどは人体に対して使用されるものではないが、誤って人体が(ばく)露した場合には健康を害するおそれがある。検査薬に関しても、検査結果について正しい解釈や判断がなされなければ、医療機関を受診して適切な治療を受ける機会を逃すおそれがある等、人の健康に影響を与えるものといえる。

このように医薬品は、人の疾病の診断、治療または予防に使用されること、もしくは人の身体の構造・機能に影響を及ぼすことを目的とし、生命関連製品であると同時に、何らかの保健衛生上のリスクを有するものである。一般用医薬品は、医療用医薬品との比較においてリスクは概ね低いといえるが、より多く消費されればよいというものではなく、販売する側の姿勢や体制について、一般消費財の販売とは異なる慎重な対応が求められる。

生命関連製品である医薬品は、科学的な根拠に基づく適切な判断によって使用される必要がある。一般用医薬品の場合、一般の生活者が主体となって選択・使用されるものであるが、科学的に正しい理解に基づいて利用されるべきである。

また、医薬品は、効能効果や用法用量、副作用等、適正使用のため必要な情報が適切に伝達されてこそ医薬品であり、そうした情報を伴わない医薬品は単なる薬物に過ぎない。各製品には様々な情報が集約されており、有効性、安全性等に係る知見の積み重ねによって、随時新たな情報が付加される。

しかしながら、一般の生活者においては、製品に添付されている文書(添付文書)や製品表示に記載された内容をみただけでは、効能効果や副作用等について誤解や認識不足を生じることがある。医薬品の適切な選択、適正な使用のためには、販売に従事する専門家が、専門用語を分かりやすい表現で伝える等、購入者へ適切な情報提供を行い、また、購入者が知りたい情報が十分得られるよう、相談や質問等に対応することが重要である。

加えて、医薬品は、期待される保健衛生上の便益(ベネフィット)とリスクとを比較衡量し、なお便益が上回ると判断されて初めてその有用性が認められ、医薬品として成り立つものであることも重要なポイントである。本来生体にとって異物であり、また、何らかの保健衛生上のリスクを有する薬物が、医薬品として有用性を保ち続ける上で、その適正な使用が図られることが不可欠であり、医薬品の販売に従事する専門家においては、そのことが広く購入者に認識され、適切な行動がとられるよう促していくべきである。

医薬品における保健衛生上の便益とリスクとの比較衡量に関しては、医学・薬学等の新たな知見、使用に係る情報に基づき、必要に応じて随時見直しがなされている。一般用医薬品については、安全性や適正使用の確保の観点からリスク区分の分類の見直しや、有効性の見直しも含めた再評価、承認基準の見直し等がある。そうした見直しの結果、販売時の取扱いが変更されたり、また、製品の成分分量のほか、効能効果や用法用量等が変更となることがある。販売に従事する専門家は、これらに円滑に対応できるよう常に新しい情報の把握に努める必要がある。

このほか、医薬品の特性として、人の生命や健康に密接に関連するものであるゆえに、高い水準で均一な品質が保証されていなければならない。薬事法では、医薬品の製造に関して、許可(外国製造所の場合は認定)を受けた製造所において、定められた製造管理及び品質管理の基準に則って製造され、設定された規格に適合するものでなければならない、また、健康被害の可能性の有無にかかわらず、異物等の混入、変質等があってはならない旨を定めているi

II 医薬品の効き目や安全性に影響を与える要因

1)副作用

WHO(世界保健機構)の定義によれば、医薬品の副作用とは、「疾病の予防、診断、治療のため、または身体の機能を正常化するために、人に通常用いられる量で発現する医薬品の有害かつ意図しない反応」とされており、我が国の薬事法でも、医薬品を使用したことで生じる好ましくない人体の反応の意味で、副作用という語を用いている。

副作用は、次のように大別することができる。

(a) 薬理作用による副作用

薬という物質、すなわち薬物が生体の生理機能に影響を与えることを薬理作用という。通常、医薬品はいくつかの薬理作用を併せ持つため、医薬品を使用したとき、薬効として期待される有益な作用(主作用)以外の作用が現れることがある。主作用以外の作用であっても、特段の不都合を生じないものであれば、通常、副作用として扱われることはなく、好ましくないもの(有害事象)である場合を一般に副作用という。

複数の疾病を患っている人では、ある疾病のため使用した医薬品の作用が、別の疾病の症状を悪化させたり、その治療を妨げることがあるので、注意が必要である。

(b) 過敏反応(アレルギー)

脊椎(せきつい)動物には、生体にとって異物であるもの(抗原)が取り込まれたとき、それに対抗する物質(抗体)を産生して、抗原を排除する仕組み(免疫)が存在する。免疫は本来、細菌やウイルス等に対して生体を防御するために生じる反応であるが、医薬品中の物質に対して免疫機構が過剰に反応して様々な症状が引き起こされることがある。アレルギーを引き起こす原因物質を、アレルゲンという。

アレルギーは、通常、医薬品の薬理作用や用量とは関係なく、また、内服薬だけでなく外用薬等でも生じえる現象である。加えて、有効成分だけでなく、薬理作用を有さない添加物によるアレルギーも知られている。

普段は医薬品に対するアレルギーが現れない人であっても、病気に対する抵抗力が低下している状態では生じやすくなることがある。また、アレルギーには遺伝的な素因もあり、近い親族にアレルギー体質の人がいる場合にも、注意が必要である。

ある医薬品に対してアレルギーの既往がある人は、通常、薬理作用を生じないようなわずかな量であっても過敏反応を起こす可能性が高く、アレルギー症状を起こした医薬品の使用は避ける必要がある。また、医薬品によっては、鶏卵や牛乳に対するアレルギーがある人で使用を避けなければならないものもある。


副作用は、例えば眠気や口渇などのように、得られる薬効とのバランスである程度は受忍することも可能な軽微なものから、日常生活に支障を来すほどの健康被害を生じる重大なものまで、その問題性の程度は様々であるが、いずれにしてもなるべく副作用は起きないことが望ましい。多くの場合、副作用が起きる仕組みや起こしやすい要因の認識、また、それらに影響を与える個々人の体質・体調等があらかじめ把握され、適切な医薬品の選択、適正な使用が図られることによって、副作用の発生を回避することができる。

しかしながら、医薬品が生体に及ぼす作用のすべてが解明されているわけで必ずしもなく、十分注意して適正に使用されたとしても副作用を生じることがある。そのため、医薬品を使用する人が副作用を初期の段階で認識し、副作用の種類に応じた適切な処置や対応をすみやかにとり、重篤化を回避することが重要となる。

一般用医薬品の場合、通常、使用を中断することによる治療上の不利益よりも、重大な副作用を回避することが優先され、その兆候が現れたらただちに使用を中止するのが基本であるii。一般用医薬品の販売に従事する専門家においては、購入者等から発生の経過を十分聴いて、今後の適切な医薬品の選択に資する情報提供を行うほか、副作用の状況次第では、すみやかに適切な医療機関を受診するよう勧奨する必要がある。

副作用は、容易に異変を自覚できるものばかりでなく、血液や内臓機能への影響等のように、すぐにはっきりした自覚症状が現れないこともあるので、特段の異常が感じられなくても、継続して使用する場合には定期的に検診を受けるよう、医薬品の販売に従事する専門家から促していくことも重要である。


2)不適正な使用と有害事象

医薬品は、疾病の種類や症状等に応じて適切に選択され、適正な使用がなされなければ、症状の悪化、副作用や事故等の好ましくない結果(有害事象)を招く危険性が高くなる。いかに効果の高い薬であったとしても、広く適正な使用が確保されなければ、安全で有用な医薬品となりえない。一般用医薬品の場合、医師または歯科医師による選択と医学的管理の下で使用される医療用医薬品と異なり、その使用を判断する主体が一般の生活者であることに鑑みて、適正な使用を図っていく上で、販売時における専門家による情報提供が一層重要である。


医薬品の不適正な使用は、概ね以下の2つに大別することができる。

(a) 使用する人の誤解や認識不足に起因する不適正な使用

一般用医薬品は、一般の生活者が自ら選択して使用することができるよう正しい使い方が分かりやすく示されているが、ときに誤解や認識不足のために適正な使用がなされないことがある。例えば、「薬はよく効けばよい」と短絡的に考え、早く治したいから倍の量を服用したり、小児の服用を避けるべき医薬品を、「子供だから大人用のものを半分にして飲ませればよい」として安易に使用するといった場合である。

選択した医薬品が適当でなく、症状が改善しないまま使用し続けている場合や、症状の原因となっている疾病の根本的な治療、生活パターンの改善等がなされないままに、手軽に入手できる一般用医薬品によって症状を一時的に和らげるだけの対処を漫然と続けている場合も、誤解や認識不足に起因する不適正な使用であり、副作用を招く危険性を増すばかりでなく、適切な治療の機会を逃すことにもつながりやすい。

また、医薬品によっては、集中力や平衡感覚の低下、目のかすみや眩しさ等を生じる作用を有するものがあり、自動車等を運転する前や、高所作業等の危険を伴う業務に従事する前に使用すると事故を招く危険性が増す。

このほか、人体に直接使用されない医薬品についても、使用する人の誤解や認識不足によって使い方や判断を誤り、有害事象につながることがある。

こうした医薬品の不適正な使用は、ほとんどの場合、医薬品の販売に従事する専門家が適切な情報提供を行うことにより回避できるものである。使用する前に添付文書や製品表示を必ず読む等の適切な行動がとられ、医薬品の適正な使用が図られるよう、購入者の理解力や医薬品を使用する状況等に即して説明がなされるべきである。

また、医薬品を使用する状況はその都度変わりえるので、購入時に情報提供がなされる機会が継続的に確保されるよう、数量は一時期に使用する必要量とする配慮がなされることも重要である。

(b) 医薬品を本来の目的から逸脱して使用する不適正な使用

医薬品は、目的とする効果に対して副作用が生じる危険が少ないように使用する量や使い方が決められている。本来の目的を逸脱して定められた用量を意図的に越えて服用したり、みだりに他の薬や酒類等を一緒に摂取するといった乱用がなされると、過量摂取による急性中毒等を生じる危険性が高く、また、乱用の繰り返しによって慢性的な臓器障害等を生じるおそれもある。

一般用医薬品にも習慣性・依存性がある成分を含むものがあり、適正に使用される限りにおいて薬物依存iiiを生じることはないが、乱用された場合には依存をまねくおそれがある。いったん依存が形成されると、そこから離脱することは決して容易でない。特に、青少年では、薬物乱用の危険性に関する認識や理解が必ずしも十分でなく、好奇心から身近に入手できる薬物を興味本位で乱用することがあるので、注意が必要である。

一般用医薬品の乱用をきっかけとして、より依存性の強い違法な薬物の乱用につながることもあり、その場合、乱用者自身の健康を害するだけでなく、社会的な弊害を生じるおそれが大きい。医薬品の販売にたずさわる者においては、必要以上に大量購入または頻回購入する等、不審な購入者には慎重に対処し、積極的に事情を尋ねたり、状況によっては販売を差し控える等の対応が図られるべきである。


3)食品や他の医薬品との飲みあわせ、相互作用

特定の食品(保健機能食品や、いわゆる健康食品を含む)と一緒に摂取、あるいは2種類以上の医薬品を併用した場合に、薬の作用が増強したり、減弱したりすることを相互作用という。作用が増強すれば、副作用が発生しやすくなり、また、作用が減弱すれば、十分な効果が得られないといった不都合を生じる。

相互作用には、薬の吸収、代謝または排泄の過程において生じるものと、薬が作用する部位において(きっ)抗あるいは相乗する作用を生じるものがある。主に吸収過程において生じる相互作用であれば、同時に摂取せずに、間隔を置いて服用する等の対応によって回避することが可能な場合もある。しかし、代謝や排泄の段階、作用部位における相互作用の場合は、ある医薬品を使用する前後または期間を通じて、その医薬品との相互作用を生じるおそれのある食品や医薬品の摂取を控えなければならないのが通常である。


(a) 食品との相互作用

食品との相互作用は、専ら飲み薬(内服薬)において、主に消化管からの吸収過程において生じることが多い。また、カフェインやビタミンAなどのように、食品中に医薬品の成分と同じ物質が存在するために、それらを含む医薬品を一緒に服用すると過剰摂取となることもある。

食品との相互作用に関連して、医薬品の種類ごとに注意すべき特定の食品に注意するだけでなく、一般的な内服薬の正しい飲み方として、定められた食事と服用のタイミング(食前、食後または食間(空腹時)等)を守ること、また、水なしで服用できるように製剤化されたものを除き、医薬品は水かぬるま湯とともに服用すること等、薬の効き目や安全性に対する飲食の影響について留意されることも重要である。

酒類(アルコール)は一般に、かぜ薬、解熱鎮痛薬の成分の吸収や代謝を促進することがあり、重篤な肝障害などの副作用が生じやすくなる。また、アルコールには中枢神経を抑制する作用があり、鎮静作用を有する成分を含む医薬品と併用すると、その作用時間を延長させるとともに、アルコールが協調的に働いて鎮静作用が増強されることがある。

アルコールは、主として肝臓の代謝酵素系によって代謝される。アルコール飲用者では、その代謝酵素系が(こう)進するといわれており、肝臓で代謝される薬物の代謝も亢進する。その結果、体内から薬の消失が速くなり薬効が減弱されたり、代謝産物に薬効があるものでは作用が増強され、代謝産物の毒性が強い薬では毒性が増強される。これらのほか、アルコール飲用によって胃の粘膜が荒れるため、医薬品による胃粘膜障害が増強されることがある。

(b) 医薬品どうしの相互作用

複数の疾病を患っている人では、疾病ごとに医薬品が使用される場合が多く、医薬品どうしの相互作用に関して特に注意が必要となる。

一般用医薬品は、1種類の医薬品の中に作用の異なるいくつかの成分を組み合わせて含んでいる(配合される)ことが多く、他の医薬品と併用すると、同様な作用を持つ成分が重複してしまい、作用が強く出過ぎたり、副作用を招く危険性が増すことがある。特に、かぜ薬、解熱鎮痛薬、鎮静薬、鎮(がい)(たん)薬、アレルギー用薬等では、成分や作用が重複する可能性が高く、これらの薬効群に属する医薬品の併用は禁忌となっている。副作用や飲み合わせの問題を減らす観点から、抑えたい症状がはっきりしている場合には、なるべくその症状に合った成分のみが配合された製品が選択されることが望ましい。

医療機関で治療を受ける場合には、その治療が優先されるべきであり、一般用医薬品を併用しても問題ないかどうかについては、治療を行う医師または歯科医師、あるいは処方された医療用医薬品を調剤する薬剤師へ確認される必要がある。一般用医薬品の販売に際しては、購入者に対して、医薬品の種類や使用するときの状態等に即して、医療機関から一緒に使用できない医薬品が処方されることがあるので、診療を行った医師(または歯科医師)か調剤した薬剤師に相談するようiv説明がなされるべきである。


4)小児、高齢者などへの配慮

以下のような背景を有する人については、医薬品の使用に際してリスク要因となるので、それぞれに応じた配慮が必要となる。

(a) 小児

医薬品の使用上の注意等において、乳児、幼児、小児という場合には、おおよその目安として、次にような年齢区分が用いられている。

乳児:1歳未満、幼児:7歳未満、小児:15歳未満

小児、特に乳幼児は大人のミニチュアでなく、薬を受けつける生理機能が未発達であるため、医薬品の使用に際して配慮が必要である。例えば、大人と比べて体に対して腸が長く、服用した薬の吸収率が高い。また、吸収されて血液中に移行した薬が脳に達しやすいため、中枢神経系に影響を与える薬で副作用を起こしやすい。加えて、肝臓や腎臓の機能が未発達であるため、薬の代謝・排泄に時間がかかり、効き目が強すぎたり、副作用がより強く出ることがある。

医薬品の小児への使用については、小児が使用した場合に副作用等が発生する危険性が増すことが知られているため安全性の観点から使用してはならないとしている場合のほか、小児向けに作られた製品でないため使用しないこととしている場合(例えば、大人用の剤型で乳幼児が飲むのに適さない等)もある。

カプセル剤、錠剤、丸剤等は1個中の含量が正確であり、大人(15歳以上)には服用しやすいということがあるが、小児、特に乳児ではそのまま(えん)下服用させることが難しいことが多い。一般に、3歳までは固形内服薬の使用は困難とされており、いったん薬が(のど)につかえると大事に至らなくても咳き込んではき出し苦しむことになり、その体験が乳幼児に薬の服用に対する拒否意識を生じるおそれがある。

また、5歳未満の幼児に用いられる固形内服薬では、服用時に喉につかえやすいので注意するよう添付文書に記載されている。なお、カプセル剤は飲み込まずに口に含んでいると、ゼラチンが水分を吸って口の中で張り付き、学童でも飲み込めなくなることがある。

いずれにしても、一般用医薬品の販売においては、保護者等に対して、大人用の医薬品の量を減らして小児へ与えるような安易な使用は避け、必ず年齢に応じた用法用量が定められている製品を使用するよう説明がなされるべきである。

医療用の内服薬では体重や体表面積から小児の服用量が算出されることもあるが、一般用医薬品の場合は、一般の生活者に分かりやすく、年齢によって用法用量が決められている。

用法用量が設定されている医薬品であっても、乳児は薬に対して特にデリケートであり、また、状態が急変しやすく容態の見極めが難しいため、基本的に医師の診療を受けることが優先され、一般用医薬品による対処は最小限(夜間等、医師の診療が困難な場合)にとどめるのが適正な使用となる。

また一般に、乳幼児は容態が変化しやすく、自分の体調をうまく伝えることが難しいので、販売に従事する専門家においては、医薬品を購入する保護者等に対して、医薬品を使用させたあとは状態をよく観察し、何か変わった兆候が現れたときには早めに医療機関に連れて行き、医師の診察を受けさせるよう説明がなされることが重要である。

乳幼児が誤って薬を大量に飲み込んだ、あるいは目に入れてしまった等の誤飲・誤用事故の場合は、通常の使用状況から著しく異なり、想定しがたい事態につながるおそれもある。一般用医薬品であっても高度な専門的判断が必要となることが多いので、応急処置等について(財)日本中毒情報センター等の専門家に相談する、様子がおかしいようであれば医療機関に連れて行く等の対応がとられるよう説明がなされるべきである。

(b) 高齢者

医薬品の使用上の注意等において「高齢者」という場合には、おおよその目安として65歳以上を指す。高齢者では生理機能が低下し、特に、肝臓や腎臓の機能が衰えていると薬の作用が強く現れやすく、若年時と比べて副作用を生じるリスクが高くなる。しかし、高齢者であっても基礎体力や生理機能の低下の度合いは個人差が大きく、年齢のみから一概にどの程度リスクが増大しているかを判断することは難しい。一般用医薬品の販売に際しては、実際にその医薬品を使用する高齢者の個々の状況に即して、適切な情報提供及び相談対応がなされることが重要である。

一般に、高齢者では少ない用量から様子を見ながら使用するのが望ましいとされるが、一般用医薬品の用法用量は、使用する人の生理機能を含め、ある程度の個人差は折り込んで設定している。定められた用量の範囲内で使用されるべきであり、それ以下に量を減らしても十分な効果が得られなくなるだけで必ずしもリスクの軽減にはつながらない。既定用量の下限で使用してもなお作用が強すぎる等の問題を生じる場合には、作用の穏やかな別の医薬品を選択する等の対応が考慮されるべきである。

生理機能の低下のほか、高齢者は、喉の筋肉が衰えて飲食物を飲み込む力が弱まっていること(嚥下障害)があり、内服薬を使用する際に喉に詰まらせやすい。また、副作用として口渇を生じえる医薬品は、誤(えん)(食べ物等が誤って気管に入り込む)を誘発するおそれがあるので注意が必要である。

また一般に、高齢者では基礎疾患を抱えていることが多く、特に、男性の場合、高齢者の多くは前立腺肥大もしくはその傾向(残尿感、排尿困難等の症状)を有しているといわれる。一般用医薬品の使用によって基礎疾患の症状が悪化したり、その治療の妨げとなる場合があるほか、複数の医薬品を長期に渡って使用している場合が多いことから副作用を生じるリスクも高い。

このほか、高齢者における傾向として、手先の衰えのため医薬品を容器や包装からうまく取り出すことができにくかったり、細かい文字が見えづらく添付文書や製品表示の記載を読みとるのが難しい、医薬品の取り違えを起こしやすい、薬の複雑な説明を理解するのに時間がかかる、あるいは飲み忘れやすい等があり、家族や周囲の人(介護関係者等)からの協力や理解も含めて、医薬品の適正使用・安全使用の観点からの配慮が必要となることがある。

(c) 妊婦及び妊娠の可能性のある女性

妊娠中はデリケートな状態で、体の変調や不調が起こりやすく、医薬品により症状の緩和等を図ることもあるが、その場合、胎児への影響が配慮されなければならない。

誕生するまでの間、胎児は母体との間に存在する胎盤を通じて栄養分を受け取る。胎盤には、胎児の血液と母体の血液とが混ざらない仕組み(胎盤関門)があり、母体の血液からの自由な物質移動を制御し、胎児を外界の様々な刺激から保護している。母体が薬を摂取したとき、薬の胎児への移行が胎盤関門によってどの程度防御されるかは、薬の性質や分子の大きさ等によるとされているが、妊婦が使用した場合の科学的データが乏しく、未解明のことが少なくない。

一般用医薬品においても、その成分について妊婦が摂取したときのデータが乏しく、安全性に関する評価が困難であるため、妊婦の使用については、「相談すること」としている製品が多い。よって、必ずしも具体的な悪影響が判明しているものではなく、妊娠していることに気づかずに使用してしまったとしてもただちに問題を生じる可能性は通常少ないが、そもそも一般用医薬品による対処が適当かどうかも含め、慎重に考慮されるべきである。

一般用医薬品でも、ビタミンA含有製剤のように、妊娠前後の一定期間に通常の用量を超えて摂取すると胎児に先天異常を生じる危険性が高まるとされているものや、便秘薬のように、成分や用量によっては流産や早産を誘発するおそれがあるものがある。それらについては十分注意して適正に使用、または使用を避ける必要があり、販売に従事する専門家から購入者に対して積極的な情報提供がなされ、また、購入者からの相談等に適切な対応がなされることが重要である。

なお、妊娠の有無やその可能性については、購入者側にとって他人に知られたくない場合もあり、一般用医薬品の販売において専門家が情報提供や相談対応を行う際には、十分な配慮が求められる。

(d) 母乳を与える女性(授乳婦)

医薬品によっては、体に吸収された薬の一部が乳汁中に移行することが知られており、母乳を介して乳児が薬を摂取することになる場合がある。

乳汁中に移行した薬を摂取することによって乳児に好ましくない影響が及ぶことが知られている医薬品については、授乳期間中の使用を避けるか、使用後しばらくの間は授乳を避けることができるよう、販売に従事する専門家から購入者に対して、積極的な情報提供がなされるべきである。

吸収された薬の一部が乳汁中に移行することが知られていても、通常の使用の範囲において具体的な悪影響は判明していないものもあり、購入者等から相談があったときには、乳汁に移行する成分やその作用等について適切な説明がなされる必要がある。

(e) 医療機関で治療を受けている人等

一般用医薬品は、基本的に医療機関で治療を受けるほどではない状態において使用されるものである。しかしながら、近年、生活習慣病が増加し、生涯に渡って何らかの慢性疾患を抱えて日常生活を送る生活者が多くなっている。疾患の種類や程度によっては、医薬品の有効性や安全性に影響を与える要因となることがあり、また、医薬品の作用によってその症状が悪化したり、その治療の妨げられることもあるため、販売に際して専門家から適切な情報提供がなされることが重要である。

医薬品の使用にあたって注意が必要な主な疾患としては、甲状腺機能障害、糖尿病、心臓病、高血圧症、前立腺肥大症、胃・十二指腸潰瘍(かいよう)、肝臓病、腎臓病、緑内障、てんかん、パーキンソン病、(ぜん)息等が挙げられるほか、医療機関で特定の治療を受けている場合(例えば、モノアミン酸化酵素阻害剤やインターフェロン製剤の投与、透析療法など)に注意しなければならないこともある。

購入者またはその家族等が、上記のような疾患のため医療機関で治療を受けている場合には、疾患の程度や購入しようとする医薬品の種類等に応じて、問題を生じるおそれがあれば使用を避けることができるよう情報提供がなされる必要がある。特に、医療機関で処方された薬剤(医療用医薬品)を使用している場合には、登録販売者において併用の可否をただちに判断することは困難であることもあるが、その際は、その薬剤を処方した医師、または調剤を行った薬剤師に相談するよう説明がなされるべきである。

過去にかかっていた(今は治療を受けていない)という場合には、どのような疾患にいつ頃かかっていたのか(いつ頃治癒したのか)を踏まえて使用の可否を適切に判断することができるよう、また、使用することができる場合であっても、どのような点に注意しながら使用すべきか等の情報提供がなされることが重要である。

このほか、これまで特段、医師の診断や治療は受けていない場合であっても、医薬品の種類によっては、特定の症状(例えば、むくみが出やすい、出血傾向がある、排尿困難等)がある人が使用する場合には注意しなければならないことがある。


5)プラセボ効果

医薬品を使用したとき、結果的に、あるいは偶発的に薬理作用によらない作用を生じることが知られている。プラセボ効果(偽薬効果)といい、医薬品を使用したこと自体による楽観的な結果への期待(暗示効果)や、条件づけによる生体反応、時間経過による自然発生的な変化(自然寛解など)等が関与して起こると考えられている。

通常、医薬品が使用されたとき身体にもたらされる変化には、薬理作用によるもののほかに、プラセボ効果によるものも含まれている。プラセボ効果によってもたらされる変化にも、望ましいもの(効果)と不都合なもの(副作用)とがあり、また、主観的な症状だけでなく客観的に測定可能な変化として現れることもあるが、不確実であり、積極的に利用されるものではない。

III 適切な医薬品選択と受診勧奨

一般用医薬品は、薬事法上「医薬品のうち、その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであって、薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているもの」(第25条第1項)と定義されているように、主として軽医療の分野で使用されるものである。

その役割としては、(1) 軽度な疾病に伴う症状の改善、(2) 生活習慣病v等の疾病に伴う症状発現の予防、(3) 生活の質(QOL)の改善・向上、(4) 健康状態の自己検査、(5) 健康の維持・増進、(6) その他保健衛生(衛生害虫の防除、殺菌消毒等)の6つがありvi、医療機関で治療を受けるほどではない体調の不調や疾病の初期段階、あるいは日常において、生活者が自ら疾病の診断、治療及び予防またはQOLの改善・向上を図ることを目的として使用される。

近年、急速な高齢化の進展や生活習慣病の増加など疾病構造の変化、QOLの向上への要請等に伴い、自分自身の健康に対する関心が高い生活者が多くなっており、手軽に入手できる一般用医薬品を利用する「セルフメディケーションvii」の考え方が広まりつつある。セルフメディケーションの主役は一般の生活者であるが、医薬品は、感覚的・情緒的な「健康にいいこと」としてではなく、科学的に正しい理解に基づいて利用される必要がある。

生活者にとって一般用医薬品を利用するメリットとしては、常備薬として手元にあれば、軽いけがや体調を崩したときにすぐに手当てができることや、しばしば経験している症状については経過が概ね分かっていて、使い慣れた医薬品で十分対応できるという安心感などがある。

しかし、症状が重いとき(例えば、高熱や激しい腹痛がある場合、患部が広範囲である場合等)に一般用医薬品によって対処することは、一般用医薬品の役割に鑑みて適正な使用とはいえず、体調の不調や軽度の症状等について一般用医薬品による対処を試みた場合であっても、一定期間または一定回数使用しても症状が改善しない、または悪化したときには、医療機関の受診が考慮されるべきである。また、一般用医薬品で対処可能な範囲は、医薬品を使用する人によっても変化し、例えば、乳児や妊婦などでは、その範囲は通常の人の場合に比べて限られてくる。

一般用医薬品の販売に従事する専門家(薬剤師及び登録販売者)には、購入者に対して常に科学的な根拠に基づいた正確なアドバイスを与え、セルフメディケーションviiiを適切に支援することが期待されている。したがって、情報提供は必ずしも医薬品の販売に結びつけるのでなく、一般用医薬品の守備範囲を踏まえ、医療機関の受診を勧めたり(受診勧奨)、医薬品に依らない対処を勧めることが適切な場合があることにも留意されるべきである。


i  これらの規定に反する製品の販売は禁止されており(薬事法第55条第2項、第56条第1号〜第7号)、製薬企業による自主的な製品回収等の措置がなされることがあるので、販売にたずさわる者においても、製薬企業等からの情報に日頃から留意しておくことが重要である。

ii  医療機関で処方された医薬品(医療用医薬品)の場合は、一般の生活者が自己判断で使用を中止すると、副作用とは別に、治療上の問題を生じることがあり、診療を行った医師(または歯科医師)、調剤した薬剤師に確認されるべきである。

iii  ある薬物の精神的な作用を体験するために、その薬物を連続的、あるいは周期的に摂取することへの強迫(欲求)を常に伴っている行動等によって特徴づけられる精神的・身体的な状態。なお、依存性とは、物質が有する依存を形成する性質のことであり、依存形成性ともいう。依存性が「強い・弱い」というのは、依存をより生じやすいかどうかを表したもの。

iv  多くの生活者は、一般用医薬品の使用について、医師や薬剤師に話すのをおろそかにしがちである。また、医師・薬剤師のほうも、処方や調剤をするときに、一般用医薬品を使用しているかどうか確認することまで思い至らないことがある。医療機関を受診する際に、使用している一般用医薬品があれば、その添付文書等を持参して見せるよう説明がなされるべきである。

v  生活習慣病については、運動療法及び食事療法が基本となる。

vi  一般用医薬品承認審査合理化等検討会中間報告書「セルフメディケーションにおける一般用医薬品のあり方について」(平成14年11月)

vii  WHOによれば、セルフメディケーションとは、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てする」こととされている。

viii  一般用医薬品の利用のほかに、食事と栄養のバランス、睡眠・休養、運動、禁煙等の生活改善を含めた健康維持・増進全般について「セルフメディケーション」という場合もある。




第3章 主な医薬品とその作用

問題作成のポイント
一般用医薬品において頻繁に使用される主な有効成分に関して、
  基本的な効能・効果及びその特徴
  飲み方や飲み合わせ、年齢、基礎疾患等、効き目や安全性に影響を与える要因
  起こりうる副作用
  等につき理解し、購入者への情報提供や相談対応に活用できること
I 精神神経に作用する薬

2 解熱鎮痛薬

1)発熱や痛みが起こる仕組み、解熱鎮痛薬の働き

痛みや発熱は病気そのものではなく、痛みは一般に、病気やけがなどに対する警告信号として、また、発熱は細菌やウイルス等の感染などに対する生体の防御機能の一つとして引き起こされる症状である。ただし、生理痛(月経痛)のように、必ずしも病気によらない痛みもある。

解熱鎮痛薬は、そうした痛みや発熱を和らげるため使用される医薬品の総称である。

痛みや発熱は、体内で産生されるプロスタグランジンというホルモンに類似した働きをする物質の作用により生じる。プロスタグランジンには様々な働きがあるが、病気やけがのときは、体内でのプロスタグランジンの産生が活発になり、体の各部位で発生した痛みが脳へ伝わる際に、その痛みの信号を増幅させるとともに、脳の下部にある体温を調節する部位(温熱中枢)に作用して、通常よりも高く体温が調節されるようにする。また、プロスタグランジンは、体の各部位において炎症を起こす作用もある。

多くの解熱鎮痛薬は、体内でのプロスタグランジンの産生を抑えることによって、痛みの信号の増幅を防ぐことで痛みを和らげ(鎮痛)、体温調節を正常時に近い状態に戻して熱を下げる(解熱)。また、炎症が発生している部位に作用して腫れなどの症状を和らげる(消炎)。

解熱鎮痛薬は、その主たる有効成分(解熱鎮痛成分)によって解熱、鎮痛、消炎のいずれの作用が中心的であるかなどの性質が異なり、主に外用剤として局所的な鎮痛や消炎を目的として使用される成分もある。

プロスタグランジンは、胃酸の分泌量を調節したり、胃腸の粘膜を保護する働きもあり、解熱鎮痛薬によってこれらの働きが妨げられることで、副作用として胃炎、胃潰瘍などの胃腸障害を起こすことがある。

解熱鎮痛薬は、その作用の仕組みから、胃腸の痛みを含む一般的な内臓痛を抑える作用はなく、胃腸障害を起こしているときに使用すると、かえって痛みを悪化させるおそれがある。ただし、生理痛については、月経そのものが起こる過程にプロスタグランジンが関わっていることから、鎮痛効果を示すことが多い。


2)代表的な成分、主な副作用、相互作用、受診勧奨

一般用医薬品で主に使われる解熱鎮痛成分としては、アスピリンに代表されるサリチル酸系の成分(アスピリン及びその塩、エテンザミド、ザザピリン、サリチルアミド、サリチル酸塩など)と、アセトアミノフェン、イブプロフェン、イソプロピルアンチピリンがある。

【サリチル酸系解熱鎮痛成分】 アスピリンは、古くから汎用されている解熱鎮痛成分である。体温調節への作用のほか、体の各部位での血流を増やして発汗を促すことによって、発熱を和らげる。比較的効き目が強い反面、胃腸障害を起こしやすいことから、アルミニウム塩として胃酸刺激を和らげるなどして、胃腸障害のリスクを軽減している製品もある。アスピリン以外のサリチル酸系の成分についても、基本的には同様である。

エテンザミドは中枢での痛みの伝わりを抑える働きがあるのに対し、他の解熱鎮痛成分では痛みの発生を抑える働きが主であることから、こうした作用点の違いによる効果を期待して、エテンザミドを他の解熱鎮痛成分とともに配合している製品もある。

アスピリン及びその塩では、血液が凝固しにくくなることがあることから、医療用医薬品では血栓ができやすい人の血栓予防薬としても用いられており、そうした薬剤が併用されないかどうかの注意も重要である。また、妊婦については、出産予定日の12週間前からは使用しないこととされている。

アスピリン及びその塩、ザザピリン、サリチル酸塩については、ライ症候群iを誘発する危険性のため、小児に対する使用は避けることとされている。

エテンザミド、サリチルアミドについては、水痘(水ぼうそう)もしくはインフルエンザにかかっている、またはその可能性がある場合には、使用の適否について慎重に判断する必要がある。

【アセトアミノフェン】 アスピリンに比べて総じて効果は弱いものの、小児においても使用できる。また、胃腸障害も少ないとされている。ただし、定められた用法用量を超えて使用した場合や、もともと肝臓に障害がある人では、重篤な肝機能障害を引き起こす、もしくは、悪化させるおそれがある。

小児での解熱を目的とした坐薬も市販されているが、坐薬と内服薬は影響し合わないとの誤った認識に基づき、内服の解熱鎮痛薬やかぜ薬と併用しないよう注意が必要である。

【イブプロフェン】 アスピリンに比べて鎮痛効果が高いとされており、熱を下げることよりも頭痛や生理痛などに対して使用されることが多い。一般用医薬品では小児向けの製品はない。

【イソプロピルアンチピリン】 一般用医薬品では唯一のピリン系の解熱鎮痛成分である。ピリン系の成分については、重大な副作用としてピリンショックと呼ばれる激しいアレルギー症状が知られているが、イソプロピルアンチピリンは、比較的ショックの副作用が起こりにくく、一般用医薬品においても使用が認められている。ただし、これまでに発疹・発赤等のアレルギー症状を起こしたことがある人では、ショックを含む重篤なアレルギー性の副作用が生じるおそれが大きく、使用を避ける必要がある。イブプロフェン同様、一般用医薬品では小児向けの製品はない。


これらに共通して留意されるべき副作用として、胃腸障害、(ぜん)息、アレルギー症状がある。症状からみた各副作用の特徴等に関する出題については、第2章−IIIを参照して作成のこと。

(a) 胃腸障害

解熱鎮痛薬の作用によって、胃酸の分泌量が増し、胃腸の粘膜を保護する働きが妨げられることから比較的発生頻度が高く、定められた用法に従い、空腹時の使用を避けるなどの注意が必要である。また、著しく胃腸が弱っている人は服用を避け、胃腸障害のおそれが少ない他の解熱鎮痛薬を勧めるなどの説明がなされるべきである。

(b) 喘息

一般にアスピリン喘息として知られているが、他の解熱鎮痛成分においても発生する。これまでにアスピリンやアセトアミノフェン等を含む医薬品(かぜ薬、解熱鎮痛薬)を使用して喘息を起こしたことがある人は、使用を避ける必要がある。

(c) アレルギー症状

これまでにその解熱鎮痛薬を使用して、発疹や発赤等のアレルギー症状を起こしたことがある人では、皮膚粘膜眼症候群(スティーブンス・ジョンソン症候群)や中毒性皮膚壊死症(ライエル症候群)、ショック(アナフィラキシー)等の重篤なアレルギー性の副作用を生じるおそれがあるため、再使用を避ける必要がある。

高齢者や、肝臓病、腎臓病、胃・十二指腸潰瘍などの基礎疾患がある人では、副作用が強く現れたり、症状を悪化させることがあり、使用の適否について十分考慮し、使用する場合にも副作用の兆候等に気をつけながら慎重に使用されるべきである。

解熱鎮痛薬を定められた用量を超えて、あるいは長期に渡って使用すると副作用が強く現れるおそれがある。特にかぜ薬にはこれらの解熱鎮痛成分が配合されていることが多く、併用を避ける必要がある。

解熱鎮痛薬の使用は、痛みや発熱を一時的に和らげる対症療法であって、原因となる病気などを治すものではない。高熱を起こしているときは、かぜ以外のウイルス性の感染症やその他の重大な病気である可能性があり、自己判断で安易に熱を下げることで、かえって発熱の原因となっている病気をこじらせるおそれがある。また、頭痛が長期に渡って頻繁に起こっているような場合には、脳神経系の異常等が原因である場合も考えられる。自己判断で解熱鎮痛薬を用いて長期間対処し続けた場合、医療機関における適切な診療が遅れ、その結果、本来の病気が進行することもある。

販売に従事する専門家(薬剤師及び登録販売者)においては、購入者等に対し、実際に使用する人の状況に応じて、解熱鎮痛薬の適正な使用のため必要な情報提供を行い、例えば、5〜6回程度使用しても症状が続くような場合には服用を止めるように説明し、医療機関の受診などを促すべきである。


i  主として小児において水痘(水ぼうそう)やインフルエンザ等のウイルス性疾患にかかっているとき、激しい嘔吐や意識障害、けいれん等の急性脳症の症状を呈する症候群で、その発生はまれであるが死亡率が高く、生存の場合も脳に重い障害を残す等、予後は不良である。


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