検討のためのたたき台(II−3.ヒト受精胚の作成・利用のための配偶子・ヒト受精胚の入手方法について)


論点 参考

(1)胚の作成に用いる卵子

1)生殖補助医療において利用されなかった未受精卵の提供

 生殖補助医療において、医療機関によっては治療過程における取扱いが異なることがあり、未受精卵や非受精卵が凍結される場合があることを前提として、以下が考えられる。

[1]生殖補助医療の過程で生じた非受精卵

● 生殖補助医療の過程で生じた非受精卵の利用については、適切なインフォームド・コンセントを受けて利用することを認めることとする。

○ この場合、被実施者の心理的負担とインフォームド・コンセントを受けることができる時期並びにそのことにより撤回可能期間を確保することが困難であることを考慮し、撤回可能期間を確保するために、その間、凍結保存をすることとするか。

[2]形態学的な異常により利用されなかった未受精卵

 体外受精の場合には、原則として採取された未受精卵はすべて媒精されるが、顕微授精の場合には、採取された未受精卵のうち形態学的に明らかに異常があるものの選別は可能であり、実際に選別を行っている場合があると考えられる。

i 凍結されているものを利用する場合

  •  生殖補助医療において凍結されているもので、不要となった場合は、適切なインフォームド・コンセントを受けて利用することについて認めることとするか。

ii 凍結せずに利用する場合

  •  凍結せずに提供される場合は、生殖補助医療の治療の過程であると考えられることから、自発的な提供の申し出がある場合に限って認めることとするのか。



 これを考えるにあたっては、提供者の身体的負担及び精神的負担を伴う生殖補助医療の過程での提供となることを考慮する必要がある。


  •  この場合、適切なインフォームド・コンセントを受けて、自らの意思で提供に同意していることの確認について、どのように担保するか。

[3]疾患の治療のため卵子保存目的で凍結保存されていた未受精卵のうち不要となったもの

  •  疾患の治療のため将来の妊娠に備えて凍結された未受精卵について、本人の生殖補助医療には利用しないことが決定された後、適切なインフォームドコンセントを受けて利用することについて、認めることとするか。

[4]形態学的な異常はないが利用されなかった未受精卵

  •  採取した未受精卵のうち、顕微授精の場合に精子の数の関係で媒精させる未受精卵の数が限定されること等により、形態学的な異常はないが生殖補助医療に使用しなかったものの提供を受けることについて、認めることとするか。

  •  この場合、生殖補助医療の過程で行う媒精されなかった未受精卵の提供に係るインフォームド・コンセントは精神的に大きな負担を与えることが考えられることから、自発的な提供の申し出がある場合に限って認めることとするか。

  •  この場合、適切なインフォームド・コンセントを受けて、自らの意思で提供に同意していることの確認について、どのように担保するか。

2)手術等で摘出された卵巣又は卵巣切片からの提供

[1]婦人科疾患等の手術により摘出された卵巣又は卵巣切片

  •  疾患のため手術等により摘出された卵巣や卵巣切片からの未受精卵の採取は限られた場合であると考えられるが、可能な場合があれば、適切なインフォームド・コンセントを受けて、自らの意思で提供に同意していることが確認できれば、摘出した卵巣や卵巣切片から得られる未受精卵を利用することについて認めることとしてよいか。

  •  性同一性障害の治療のため卵巣が摘出される場合があると考えられる。その場合、摘出される卵巣については、当該治療の過程において摘出された卵巣から得られる未受精卵の利用を認めることとするのか。



 これを考えるにあたっては、提供者の身体的負担及び精神的負担を伴う疾患治療の過程での提供となることを考慮する必要がある。


[2]他の疾患の治療のため卵子を保存する目的で摘出・保存されていた卵巣又は卵巣切片のうち不要となったもの

  •  他の疾患の治療のため将来の妊娠に備えて凍結保存された卵巣で、不要となったものについては、適切なインフォームドコンセントを受けて利用することについて、認めることとしてよいか。

3)生殖補助医療目的で採取された未受精卵の一部を利用することについてどのように考えるか。

  •  例えば自発的な申し出のある場合に限ることとして、適切なインフォームド・コンセントを受けて、自らの意思で提供に同意していることが確認できれば認めることとするのか。

  •  成熟した未受精卵の採取のために排卵誘発剤等のホルモン剤の投与による卵巣刺激、排卵誘発の合併症として挙げられる卵巣過剰刺激症候群(OHSS)や多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)のリスクについてはどのように考えるか。








 現状として生殖補助医療の過程において、過剰排卵を避けるための工夫(例としては、投与するホルモン剤の量を減らす)がなされている場合がある。仮に、生殖補助医療目的で採取された未受精卵の一部を生殖補助医療研究へ利用することを認めた場合、過剰排卵を抑制する工夫がなされなくなることによって卵巣過剰刺激症候群(OHSS)や多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)が増加するリスクを考慮する必要がある







  •  自発的な申し出によらず、採取された数に応じてその一部利用を認めるといった、卵子の一部利用は認めないこととしてよいか。

4)無償ボランティアからの提供は、認めないということでよいか。

ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針(平成13年文部科学省告示第155号)(抄)

第6条 ヒトES細胞の樹立の用に供されるヒト胚は、次に掲げる要件に適合するものとする。

一 生殖補助医療に用いる目的で作成されたヒト受精胚であって、当該目的に用いる予定がないもののうち、提供する者による当該ヒト受精胚を滅失させることについての医師が確認されているものであること。

二 ヒトES細胞の樹立の用に供されることについて、適切なインフォームド・コンセントを受けたものであること。

三 凍結保存されているものであること。

四 受精後十四日以内のものであること。ただし、凍結保存されている期間は、当該期間に算入しない。

2 提供医療機関によるヒト受精胚の樹立機関への提供は、ヒトES細胞の樹立に必要不可欠な数に限るものとする。

3 樹立機関は、提供されたヒト受精胚を遅滞なくヒトES細胞の樹立の用に供するものとする。

総合科学技術会議意見「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」(平成16年7月23日)(抄)

(第2.ヒト受精胚 3.ヒト受精胚の取扱いの検討)

 ヒト受精胚を作成し、これを利用する生殖補助医療研究では、必ず未受精卵を使用するが、未受精卵の女性からの採取には提供する女性の肉体的侵襲や精神的負担が伴うとともに、未受精卵の採取が拡大し、広範に行われるようになれば、人間の道具化・手段化といった懸念も強まる。(p.8)

(第2.ヒト受精胚 3.ヒト受精胚の取扱いの検討)

 個々の研究において必要最小限の範囲に制限し、みだりに未受精卵を採取することを防止しなければならない。(p.9)

(第2.ヒト受精胚 3.ヒト受精胚の取扱いの検討)

 未受精卵の入手には、生殖補助医療目的で採取された未受精卵の一部利用、手術等により摘出された卵巣や卵巣切片からの採取、媒精したものの受精に至らなかった非受精卵の利用とともに、技術の進歩状況にもよるが卵子保存の目的で作成された凍結未受精卵の不要化に伴う利用等も可能な場合があり得ると考えられる。(p.9)


厚生労働科学研究補助金厚生労働特別研究事業「ヒト胚の研究体制に関する研究」(平成17年3月)(抄)

2)新たに胚を作成できる卵子を得られる可能性があるsourceとして、下記のものが考えられる。いずれの場合もインフォームドコンセントが十分に行われなければならない。(p.19)

[1]体外受精(含む顕微授精)を受けた女性の採卵によって得られた卵子。(未熟卵子、成熟卵子で余剰となった卵子、授精が不成立と判断された非受精卵、凍結された未受精卵、成熟卵、非受精卵。)

[2]卵巣疾患などにより手術で摘出した卵巣の一部から得られた卵子。(未熟卵子、成熟卵子。)

[3]中絶胎児の卵巣。(すべて未熟卵子。)

 

総合科学技術会議意見「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」(平成16年7月23日)(抄)

(第2.ヒト受精胚 3.ヒト受精胚の取扱いの検討)

 いわゆる無償ボランティアからの未受精卵の採取については、自発的な提供を望む気持ちは尊いものとして尊重するとしても、一方で、関係者等である女性に未受精卵の提供が過大に期待される環境が形成され、本当の意味での自由意志からの提供とならない場合も考えられるため、原則、認めるべきではない。(p.9)


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