(案)
特定不妊治療費助成事業の効果的・効率的な運用に関する検討会報告書


平成19年2月22日
厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課

I  検討会の趣旨

  設置の経緯
  平成16年度に開始した特定不妊治療費助成事業については、全都道府県・指定都市及び中核市で実施される等、着実に実施されてきているが、事業を進める上で、(1) 本事業の効果的・効率的な運用のため、全国的な実績・成果の詳細な把握が必要であること、(2) 特定不妊治療(体外受精、顕微授精)を実施する医療機関の設備、人員並びに実績等に相当の差があることが明らかになってきていること、(3) 不妊治療の成果・予後等について明らかにしていく必要があること等が指摘されているところである。
  このため、平成19年度より本事業の一層の拡充を図ることを機として、「特定不妊治療費助成事業の効果的・効率的な運用に関する検討会」(座長 田邊清男 日本産婦人科医会常務理事、東京電力病院産婦人科科長)を設置し、4回にわたり議論・検討を重ね、2月22日に報告書をとりまとめた。

  検討課題
(1) 本事業の全国的な実績・成果の把握について
(2) 本事業の実施医療機関における設備・人員等の指定要件について
(3) 不妊治療の成果・予後等の検証方法について
(4) 本事業の助成対象の範囲について

  委員名簿
  石原      理      埼玉医科大学産科婦人科教授
  泉      陽子   茨城県保健福祉部医監兼次長
  今村   定臣   日本医師会常任理事
  楠田      聡   東京女子医科大学母子総合医療センター教授
  齊藤   英和   国立成育医療センター周産期診療部不妊診療科医長
  鈴木   良子   フィンレージの会
田邊   清男   日本産婦人科医会常務理事、東京電力病院産婦人科科長
  村本   淳子   三重県立看護大学母性看護学教授
  森      明子   聖路加看護大学母性看護・助産学教授
  吉村   泰典   慶應義塾大学医学部産婦人科教授
(五十音順、敬称略。○印は座長)

  開催経過
第1回     平成18年10月18日(水)
第2回   平成18年11月30日(木)
第3回   平成19年1月25日(木)
第4回   平成19年2月22日(木)

II  報告

  1   特定不妊治療費助成事業の全国的な実績・成果の把握について
  特定不妊治療費助成事業の実施医療機関における設備・人員等の指定要件について
  不妊治療の成果・予後等の検証方法について
  特定不妊治療費助成事業の助成対象の範囲について
  附帯意見


(報告書本文)

1  特定不妊治療費助成事業の全国的な実績・成果の把握について

  特定不妊治療費助成事業の実績・成果については、受給者人数、給付金額に加え、以下のとおり把握を行う。

(1) 事業の実績・成果の把握方法
    )事業の実施医療機関の責任者は、当該医療機関で特定不妊治療を行った本事業の受給者の治療後の経過を把握し、治療終了時点と、妊娠した場合には分娩・流産等の時点で、その結果を日本産科婦人科学会(以下「学会」という。)の個別調査票登録システムの登録ページに登録する。
  ) 厚生労働省は、学会により収集されたデータのうち、行政として把握が必要な調査項目(下記(2)参照)について解析し、事業実施主体(都道府県、指定都市及び中核市。以下「都道府県等」という。)に解析データを提供する。解析したデータについては厚生労働省がホームページに掲載する。

(2) 行政による把握が必要な事項
      以下の項目について、全国レベル及び都道府県等別に把握する。(ただし、妊娠後経過不明数については、全国レベルのみで全数及び治療施設別に把握する。)
  受給人数(全数及び治療方法別)
  治療周期総数(全数及び治療方法別)
  年齢分布(全数及び治療方法別)
  妊娠数(全数、年齢別及び治療方法別)
  採卵あたり妊娠率(全数、年齢別及び治療方法別)
  多胎妊娠数(全数、年齢別及び治療方法別)
  生産分娩数(全数、年齢別及び治療方法別)
  採卵あたり生産率(全数、年齢別及び治療方法別)
  出生児数(全数、年齢別及び治療方法別)
  低出生体重児数(全数、年齢別及び治療方法別)
  妊娠後経過不明数(全数及び治療施設別)
※これらの項目については、個人が特定される情報を含まない。

(3) 患者に対する説明について
  本事業の実施医師は、本事業による助成を希望する患者に対し、上記(2)に挙げた項目を行政が把握することについて説明を行う。
  なお、生殖補助医療の実施医師は、生殖補助医療による治療を受ける患者に対し、本事業の受給の希望の有無にかかわらず、治療結果等の情報を学会において活用することについての説明を行い、同意を得た上で、その情報を学会に報告することとなっている。


2  特定不妊治療費助成事業の実施医療機関における設備・人員等の指定要件について

  特定不妊治療費助成事業の実施医療機関の指定要件については、当面の間は以下のとおりとする。

(1)   実施医療機関の指定方法
      事業の実施に当たり、事業実施主体の長(以下「都道府県知事等」という。)は、下記(2)の諸点に留意し、特定不妊治療を実施する医療機関として適当と認められるものを指定するものとする。
  なお、不妊治療の実施医療機関及びそれを指定する都道府県知事等は、地域の周産期医療確保および不妊治療実施医療機関と周産期医療機関の連携に十分配慮することが求められる。

(2)   実施医療機関の具備すべき施設・設備要件
    a)   基準施設
  実施医療機関は、次の施設・設備を有するものとする。
  採卵室・胚移植室
  ・  採卵室の設計は、手術室仕様とすること
  ・  清浄度は手術室レベルとすること
  ・  酸素吸入器、吸引器、生体監視モニター、救急蘇生セットを備えていること
  培養室
  ・  清浄度は手術室レベルとすること
  ・  手術着、帽子、マスクを着用すること
  ・  手洗いを行うこと
  ・  施錠すること
  凍結保存設備
  ・  施錠すること
  診察室
  処置室

    b)   その他の望ましい施設
  実施医療機関は、次の施設を有することが望ましい。
  採精室
  カウンセリングルーム
  検査室

    c)   その他の施設要件
  実施医療機関は、次の項目を満たすよう努力することが必要である。
  自医療機関の不妊治療の結果による妊娠に関しては、妊娠から出産に至る全ての過程において分娩医療機関と適切な連携を行い、その妊娠及び出産の経過の把握および報告を行っている医療機関であること
  本事業の実績・成果の把握のための調査に協力する医療機関であること
  日本産科婦人科学会における個別調査票(治療から妊娠まで及び妊娠から出産後まで)の登録に協力する医療機関であること
  倫理委員会を設置することが望ましいこと

(3)   実施医療機関への配置が必要な人員要件
    a)   必要不可欠な基準要員
  実施医療機関は、次の人員を有するものとする。
  実施責任者(1名)
  実施医師(1名以上、実施責任者と同一人でも可)
  看護師(1名以上)

    b)   配置が望ましい要員
  実施医療機関は、次の人員を有することが望ましい。
  泌尿器科医師。特に、精巣内精子生検採取法、精巣上体内精子吸引採取法等を実施する施設では、泌尿器科医師との連携が取れるようにしておくことが重要である
  配偶子、受精卵及び胚の操作・取扱い、並びに培養室、採精室及び移植室などの施設・器具の準備・保守の一切を実際に行う、生殖補助医療に精通した技術者
  患者(夫婦)が納得して不妊治療を受けることができるように、不妊治療の説明補助、不妊治療の選択の援助、不妊の悩みや不妊治療後の妊娠・出産のケア等、患者(夫婦)を看護の側面から支援する者
  心理学・社会学等に深い造詣を有し、臨床における心理カウンセリング又は遺伝カウンセリング等の経験を持ち、患者(夫婦)をカウンセリングの側面から支援できる技術を持つ者

(4)   実施責任者の要件
  実施責任者は、次の項目を全て満たすものとする。
  日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医である者
  専門医取得後、不妊症診療に2年以上従事した者
  日本産科婦人科学会の体外受精・胚移植に関する登録施設において1年以上勤務又は1年以上研修を受け、体外受精・胚移植の技術を習得した者
  常勤である者

(5)   その他
  すでに指定した医療機関についても、一定期間ごとに、要件に照らして再審査を行うものとする。
  本要件は、必要に応じ適宜見直すものとする。また、実施医療機関の指定の更新・取り消しを行う基準等についても、必要に応じ検討を行うものとする。


3  不妊治療の成果・予後等の検証方法について

  不妊治療の成果・予後等の検証方法については、以下のとおり検討を進める。

(1)   現状
  体外受精、さらには顕微授精等の不妊治療が一般的に行われるようになって久しいにもかかわらず、我が国においては、今までに不妊治療の予後等に関する系統的な調査が行われたことはなく、不妊治療の短期的、中長期的な予後や次世代への影響については必ずしも明らかではない。
  こうした中で、厚生労働省としては、平成16年度より特定不妊治療費助成事業を開始したところであり、その全国的な実績・成果の把握に加え、不妊治療の成果・予後等も検証する必要があることから、系統的にデータを収集・解析できる仕組みを構築する必要がある。

(2)   今後の対応
  まず、厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)において、不妊治療により出生した児の予後の検証を行うための方法等について検討を行う。
  以後、特定不妊治療費助成事業の受給者に対し、予後の検証に協力を求めることにより、より効果的な調査を実施していく。

参考  平成19年度厚生労働科学研究費補助金公募要領(抜粋)


5.子ども家庭総合研究事業

<新規課題採択方針>
  晩婚化、少子化や不妊治療の普及など、近年の社会環境を踏まえ、当面、厚生労働行政において迅速に解決しなければならない諸課題の解決のための新たな行政施策の企画と推進のために応用が可能な研究を採択する。基礎研究から臨床研究及び臨床応用への橋渡しを行う研究や、大規模な社会医学的研究について公募を行う。なお、より短期間で成果を得られる研究を優先的に採択する。
  重点課題として、不妊の原因究明や生殖補助医療の医療技術の標準化、短期的及び中長期的安全性の確立や不妊治療により出生した児の長期予後の検証を行うための全国規模の大型多施設共同研究のための体制整備を行い、本年度は試行的な調査研究を実施する。また、あと一歩で原因究明と治療法の確立が期待される子どもの先天性疾患や慢性疾患について、基礎/臨床/社会医学分野の大型多施設共同研究について募集を行う。

<公募研究課題>
【一般公募型】
(1 ) 生殖補助医療の医療技術の標準化、安全性の確保と生殖補助医療により生まれた児の長期予後の検証に関する研究(19130101)
(留意点)
  晩婚化が進むとともに、急速に体外受精や顕微授精等の生殖補助医療が進展しているが、統一された手法や評価基準は確立されていない。そのため、生殖補助医療技術の標準化と、短期的・中長期的な安全性の確保を図り、医療の有効性を高めることを目的とした研究を推進する。
  また、生殖補助医療により出生した児の予後の検証方法については整備されておらず、これまで国内外を問わず、出生した児の心身の健康や世代を超えた影響などに関する十分な知見が集積されていない。そのため、2000人を超える規模の出生した児の学童期までを念頭においた長期コホートによる継続的調査体制を構築し、身体的・精神的フォローアップを初年度より開始する。


4  特定不妊治療費助成事業の助成対象の範囲について

  特定不妊治療費助成事業の助成対象の範囲については、次の通りとする。

  助成金があるがために妊娠・出産の可能性の低い特定不妊治療を続けて健康を損ねる患者を減少させるとともに、限られた事業費用の効率的・効果的な使用に資するため、助成対象を一定範囲に限定することが望ましい。
  採卵準備中、体調不良のため治療中止した場合、または、投薬を行っても卵胞が発育しない等により採卵に至らず治療中止した場合は、助成対象から除外する。
  患者の年齢や治療回数により助成に制限を付すことについては、今後、不妊治療の成果・予後等の研究の結果、年齢ないし治療回数と出産率の相関等について十分なデータを得た上で、医学的・社会的妥当性が認められる場合に、検討すべきである。


5  附帯意見

  本検討会において、委員から以下のような意見があった。

1.(課題1)本事業の全国的な実績・成果の把握について

  生殖補助医療による治療を受けた患者及び産まれた児に係る情報に関しては、将来的には、国、あるいは国に準ずる機関が一元的に管理すべきである。

2.(課題2)本事業の実施医療機関における設備・人員等の指定要件について

  本事業による特定不妊治療実施件数に比して治療から妊娠までの報告実施件数の割合が相当程度少ない施設、あるいは治療から妊娠までの報告実施件数に比して妊娠から分娩までの報告実施件数の割合が相当程度少ない施設については、今後、実施医療機関の指定の取消も考慮すべきである。

  本検討会において、看護師の要件については、日本看護協会不妊看護認定看護師であることを付してはどうかとの意見があったが、現時点では、不妊治療実施医療機関の数に比して、同資格の有資格者の十分な人数の確保が困難であることから、要件とするのは時期尚早であるとの結論に達したところである。今後、十分な人数が確保された際には、同資格を要件とするかどうかについて、再検討を行うことが望ましい。また、同資格の有資格者の育成・確保に向けた関係者の努力が望まれる。

  胚培養士の要件に関しては、哺乳動物卵子学会認定生殖補助医療管理胚培養士あるいは日本臨床エンブリオロジスト学会認定臨床エンブリオロジスト等の資格があるものの、現時点で胚培養士の要件としてこれらの資格を求めるのは難しいとの結論に達したところである。今後、状況の変化を踏まえ、再検討を行うことが望ましい。

  実施責任者の要件に関しては、日本生殖医学会生殖医療指導医であることを求めるべきであるとの意見があったが、現時点では、不妊治療実施医療機関の数に比して、同資格の有資格者の十分な人数の確保がなされていないため、要件とするのは時期尚早であるとの結論に達したところである。しかし、将来的には同資格の有資格者であることを実施責任者の要件とする必要性は高いと考えられることから、今後、十分な人数が確保された際には、実施責任者の要件についてすみやかに再検討を行うべきである。

3.(課題3)不妊治療の成果・予後等の検証方法について

  この調査研究の実施に際しては、日本医師会、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本生殖医学会、日本小児科学会、日本周産期・新生児医学会、日本看護協会、日本生殖看護学会、自治体等がそれぞれの立場で十分な協力を行うべきである。
  調査研究の実施に際しては、諸外国で先行する長期予後に関する調査研究を参考とし、また、必要に応じ諸外国の研究結果との比較を行うことが望まれる。

  調査研究の途中で追跡が不能となる人数が一定程度生じることも踏まえて、充分な研究成果が得られるよう調査設計を行うことが望まれる。

  不妊治療で産まれた児だけの調査ではなく、不妊治療を受けた患者の長期予後の調査研究の実施も望まれる。
  将来的には、本事業の受給の有無にかかわらず、生殖補助医療による治療を受けた患者及び産まれた児に係る情報に関しては、国、あるいは国に準ずる機関が一元的に管理すべきである。

4.(追加課題)本事業の助成対象の範囲について

  今後、本事業の実績・成果に関するデータが集積し、本事業の助成対象に一定の制限をかけることに医学的・社会的妥当性が認められる場合には、助成対象の範囲について再度検討を行うべきである。
(了)

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