06/12/27 医療費の将来見通しに関する検討会 第1回議事録 第1回医療費の将来見通しに関する検討会議事録                      日時 平成18年12月27日(水)                          13:00〜15:00                          場所 厚生労働省社会保険審査会審理室 ○真鍋数理企画官 ただいまより「第1回医療費の将来見通しに関する検討会」を開催 いたします。委員の皆様におかれましては、ご多忙のところをお集まりいただきまして、 厚く御礼申し上げます。事務局より、お集まりいただいた皆様のご紹介をさせていただ きます。別紙にて検討会メンバーの資料をお付けしておりますので、これに沿ってご紹 介いたします。慶應義塾大学経済学部教授の飯野靖四先生でいらっしゃいます。東京都 社会保険診療報酬支払基金副審査委員長の井原裕宣先生でいらっしゃいます。みずほ総 合研究所の鎌形健三先生でいらっしゃいます。慶應義塾大学商学部教授の権丈善一先生 でいらっしゃいます。京都大学大学院経済学研究科教授の西村周三先生でいらっしゃい ます。東京大学大学院医学系研究科客員教授の橋本英樹先生でいらっしゃいます。医療 法人社団誠仁会専務理事の松山幸弘先生でいらっしゃいます。  次に事務局の紹介をいたします。保険局調査課長の石原です。保険局総務課長の唐澤 です。申し遅れましたが、私は調査課数理企画官の真鍋と申します。よろしくお願いい たします。本日は第1回検討会ですので、調査課長より一言ご挨拶申し上げます。 ○石原調査課長 保険局の調査課で国民医療費の将来推計を担当しております。国民医 療費の将来推計ですが、医療保険制度の改正などの機会に随時見直してきているという 状況です。国民医療費については、既にご案内のことと思いますが、昭和36年に5,000 億円程度だったものが、平成16年には32兆円となり、国民所得に占める割合も9%弱と かなり増大してきております。そのようなこともあって、将来推計についても注目度は かなり高まっている状況にあると認識しております。  国民医療費の将来推計については、医療費の伸びをどう見るかが基本になるわけです が、制度改正などといったこともあって、統計上の技術的な整理が中心になるというこ ともございます。そのようなこともあって、これまでは保険局の調査課の中で検討し、 作成する形を取ってきております。ただ前国会、本年の国会の審議においては、推計手 法についてまでご議論いただいているという状況もございますので、この機会に有識者 の皆様方にお集まりいただき、ご意見を頂戴したいと思いまして当検討会を設置した次 第でございます。医療費推計については、今申しました推計手法以外にも色々な推計の あり方、提示の方法など様々な論点があると思います。そのようなことも踏まえて、忌 憚のないご意見をいただければと思います。  最後になりましたが、ご参加いただきました皆様方にはこの場をお借りして御礼申し 上げまして、私の挨拶とさせていただきます。 ○真鍋数理企画官 それでは議事に移ります。まず座長の選任についてですが、調査課 長より提案がございます。 ○石原調査課長 座長は飯野教授にお願いしたいと存じますが、ご異議ございませんで しょうか。 (異議なし) ○真鍋数理企画官 ここからの議事進行については飯野座長にお願いいたします。恐縮 ですが座長席に移動していただきまして、一言ご挨拶をお願いいたします。 ○飯野座長 ただいま推薦いただきました飯野でございます。委員の中ではたぶん最年 長だと思いますし、便宜上推薦いただいたのだと思います。伺うところによれば、本検 討会は審議会と違いまして、1つのまとまった答申を出さなくて良さそうですので、私 は皆様方からの貴重なご意見を伺うための進行役を務めさせていただき、お役に立てれ ばと思っております。よろしくお願いいたします。  それでは議題に入りたいと思います。まず、事務局から資料の説明をお願いいたしま す。 ○真鍋数理企画官 お手元の資料に沿って通しで説明いたします。資料は、資料1から 資料2−1、2−2、資料3、参考資料3−1から3−3までを用意しておりますので ご確認ください。資料1は近年の医療費の動向で、1枚のグラフをつけております。国 民医療費が全体の棒グラフの高さで、上に書いてあるのがその実額となっており、平成 16年度は32兆1,000億円です。内訳のうち赤いものが老人医療費で、平成16年度は11.6兆 円、占める割合は36.1%です。  ここで留意していただきたいのが老人医療費の定義で、これは老人保健法の対象とな っている医療費ということです。何を言いたいかというと、平成14年改正前は、70歳以 上の高齢者の医療費プラス65〜69歳の障害認定者の医療費だったわけですが、平成14年 改革で対象年齢の引上げがあり、現在は平成14年10月からの引上げの途中で、完成する のが平成19年10月です。そのようなことから、最近では対象者が毎年4%強減少してお りまして、もちろん医療費自体も別途伸びる要素がありますが、それが相殺されてほと んど変わっていないというか、最近ではやや微減となっているということがあります。  年度の下に小さい字で書いてあるのは、主な制度改正の内容です。大きなものでは平 成9年度に被用者本人の患者負担の割合が1割から2割に引き上げられましたし、同時 に外来の薬剤の一部負担というのを、最近は廃止されてないのですが、当時は導入した ということがあります。また平成12年度には介護保険法が施行され、平成14年度には診 療報酬・薬価改定で-2.7%という大きな改定があり、平成15年度には被用者本人の患者 負担が2割から3割に引き上げられました。  こういった改革がズラズラ書いてありますが、このような改革によって国民医療費の 実額自体の伸びがその時々で落ちたりするということを申し上げたかったわけです。一 番分かりやすいのは平成12年度で、平成11年度の30.7兆円に対して30.1兆円と落ちてい ることです。これは介護保険法ができたことによって老健施設療養費など、昔であれば 国民医療費の範囲に入っていたものが、その外へいってしまったことで実額も減ってい るからです。また、緑の折れ線グラフは国民医療費の国民所得に対する割合ですが、全 体的な傾向としては、国民医療費が国民所得を上回る伸びですので、年々比率が高まっ ている。例外的に、平成12年度に介護保険の施行があったので比率は一時的に落ちまし たが、その後少しずつ上がっております。  資料2−1は、厚生労働省が提示している医療費の将来見通しの関係資料です。1ペ ージはその結果であり、下半分が改革実施前で、今年6月に法案が成立しましたが、法 案提出前の1月に示した将来見通しです。改革実施前というのは平成18年度の診療報酬 改定と健保法改正を実施する前の見通しであり、改革後とはそれらを全て実施した後の 見通しです。国民医療費で言いますと、改革実施前は34兆円ですが、平成37年度には65 兆円という見通しを立てております。そのうち老人医療費の11兆円は、平成37年度には 30兆円と見通しております。この老人医療費も先ほど述べた老人保健法の対象となる医 療費ですから、足元で言うと、未だ対象年齢の引上げ途中なので、74歳以上ということ です。平成27年以降は75歳以上が対象ですが、その比率は33%から46%に増大するとい ったところです。  改革後ですが、平成18年度健保法改正と診療報酬改定の両方の実施後の国民医療費は 平成37年度は56兆円となり、改革実施前に比べて8兆円減っているところです。国民医 療費の下にある医療給付費は、大ざっぱに言うと、国民医療費から患者負担を除いたも のと思っていただいていいのですが、改革実施前は56兆円という見通しを立てており、 改革実施後は48兆円という見通しとなっております。  2ページは、最後に述べた医療給付費の将来見通しについて、名目額とともにNI比、 GDP比を示しているもので、今年1月に経済財政諮問会議に提出した資料です。先ほ ど述べたように、名目額は平成37年度で、改革実施前56兆円、改革後48兆円という見通 しですが、これを実施前のNI比で見ると10.3〜11.4%の見通しのところを、改革後は 8.8〜9.7%となり、改革による効果は1.5ないし1.7ポイントになることを示しておりま す。医療費の見通しにおける具体的な方法等については、後のページで説明したいと思 います。  3ページは医療費の将来見通しの手法の概略というか、簡単なフローチャートを書い たものです。私どもは医療費の将来見通しというのを改革実施前、つまり現行のままで はどうなるかということを基本として行い、改革実施後については改革の中身に応じ、 積み上げて行うという手法を取っておりますので、以下は、改革実施前の現行のままで はどうかという推計をやるに当たっての手法というか、やり方についての説明となりま す。ですから、現行制度のままではどうなるか、制度改革等がないことを前提としての 議論ということです。  3ページは簡単なフローチャートで、加入者数が「初期値」と書かれてありますが、 今回で言うと平成18年度が初期値になります。年齢5歳階級別に加入者数があるのに対 して、別途加入者数の将来推計をやらなければいけないわけですが、その際基本となる のが国立社会保障・人口問題研究所が出している将来推計人口です。今回は平成14年1 月推計が当時直近のものですので、その中位推計を基本とし、その人口に対する労働力 率など様々なことを勘案し、加入者数の将来見通しを作成することが第一歩としてあり ます。その結果として加入者数の将来見通しができ上がり、これが数の推計になります。  それに対しての単価が要るわけですが、基本的には1人当たり医療費を基礎としてお ります。これも年齢5歳階級別の1人当たり医療費で、今回は平成18年度を初期値とし て持っています。それを将来の価格にするために伸ばさなければいけないわけですが、 今回の推計に当たっては、70歳未満は年当たり2.1%、70歳以上は年当たり3.2%という 伸び率を用いて、平成27年度であれ37年度であれ、その間は機械的に同じ伸び率で将来 まで伸ばしているということです。2.1%や3.2%をどのような根拠で使っているかにつ いては、後のページで説明いたします。そのようにして、必要な年数分を伸ばすことに よって将来の単価が出てきますから、数と単価を掛け算して将来の医療費を作成すると いった手法を取っております。  4ページをご覧いただくと、例えば平成37年度の国民医療費は、もちろんこの式は簡 単に明示的に書いてあるので、実際は5歳階級別にやっているなどといったことがある のですが、それはそれとして、式で言うと、平成18年度の足元の1人当たり医療費を3.2 %とか2.1%という一定の伸び率を使って将来の価格にする。例えば、平成37年度は平成 18年の19年後ですから、19年分累乗して平成37年度の単価を作ります。加入者数の将来 推計は初めにやっておりますので、平成37年度の医療保険の人数を出しておいて、その 数と単価を掛けて平成37年度の国民医療費を作っております。  将来見通しに用いた1人当たり医療費の伸び率は、先ほど述べたように70歳未満は2.1 %、70歳以上が3.2%という数字を使っております。1人当たり医療費の伸び率について は、加入者数の推計は別途やっておりますので、人口の増減や高齢化といったことはそ ちらの方に入っており、実績を基に設定しております。実績の医療費の伸び率の中に高 齢化というのが入ってしまうわけですが、それは要素として除いておりますし、さらに 実績の医療費の伸び率は、最近は制度改正が毎年のようにありますから、その効果が入 ってしまうので、その部分を取り除き、制度改革がなくて自然体だったらどのような伸 びになるかという伸び率を作っております。これについてももう少し分解したものを後 ほど申し上げますが、制度改正の効果と人口の変化分を除くと、残りは診療報酬改定分 と自然増と呼んでいるものになるわけですが、こういったところについては込み込みで、 過去の実績を機械的に用いて将来に投影しております。  実績の伸び率を取ってきた期間は平成7〜11年度です。やや古い面もありますが、ご 案内のとおり、平成12年4月には介護保険制度ができましたし、平成13年1月には、高 齢者について上限付定率1割負担の導入、平成14年10月には高齢者について定率1割負 担の徹底、平成15年4月には被用者本人の患者負担が2割から3割に引き上げられた健 保法の改正といったことがあり、要するに毎年のように制度改正があるので、制度改正 の効果を取り除くのが難しいという判断で、古いのですが平成7〜11年度を使っている わけです。  5ページの医療費の伸びの要因分解は、過去の実績について要因分解したものです。 大きく4つの要素に分けてあり、1つ目は人口増減・高齢化等の影響、2つ目は、先ほ ど来述べているような制度改正の影響です。制度改正の影響については介護保険の導入 が非常に分かりやすいと思いますが、昔、医療費と言われていた部分が介護保険になる ことによって、国民医療費の範囲から外れたために減る。もう1つは患者負担の見直し で、患者負担の見直しというのは医療費の内訳の問題ですが、これを実際に行うと、医 療費の総額自体にも影響を与えると。これは私どもがずっと観測しているので経験的に 分かっていることですが、「長瀬効果」と呼んでおります。この詳細については次回の 検討会で改めて説明したいと思いますが、受診行動が変化することによって、医療費総 額にも影響を与えてしまう効果があるので、その部分も含めて制度改正効果と呼んでお ります。  もう1つは診療報酬改定の影響です。診療報酬改定自体はその時々の政策判断で決め られておりますが、長期的にはもちろん経済と無関係ではありません。しかし、平成18 年のように景気が少し上向いている中でも大きなマイナス改定といったことがあり、直 ちに連動するものでもないということがあります。また、医療の高度化等を自然増と呼 んでおります。4つに分けたものが下の表で、毎年で見るとガタガタしているので、5 年ぐらいを括ってあります。(1)の人口増減・高齢化等の影響は1.8%とか1.9%で、この 15年ぐらいを見る限りは大体そのような数字になっております。(2)は制度改正の影響で す。平成2年〜6年は大きな改革がなかったので0ですが、平成7年〜11年は-0.9%、 大ざっぱな評価ですので非常に粗い数字ですが、平成12年〜15年で-2.7%となっていま す。診療報酬改定は1.1%、0.1%、-0.6%で、残りの(4)が自然増で2.6%、2.4%、2.2 %です。  ここで述べたかったのは、人口増減・高齢化の影響を除いた残りは3.7%、1.6%、 -1.1%と数値としては非常に違いますが、制度改正や診療報酬改定の影響を取り除くと、 自然増というのは比較的安定しており、2ないし3の間ぐらいで推移しているというこ とです。ただ私どもの推計では、先ほど来述べているように、診療報酬改定というのは 長期的にはともかく、政策的に決められるものだから見込むことがなかなか難しいとい うことです。(1)や(2)といった取り除かなければいけないものは当然取り除いているわ けですが、残りは込み込みでの推計で行っているということです。要するに、医療費の 将来見通しで用いる伸び率は(3)+(4)でやっているわけです。ここに平成7〜11年度は 2.6%と書いてありますが、70歳未満2.1%、70歳以上3.2%、全体で押し並べてみると、 2.6%といった分解ができるわけです。 次に、3.2%や2.1%をどのようにして出したかを6ページから説明いたします。6ペー ジは平成7〜15年度の1人当たり医療費の伸び率の推移について、70歳未満と70歳以上 で分けて観測したものです。高齢者とは70歳以上と書いておりますが、いわゆる旧老健 法の対象者という意味であり、70歳以上プラス65歳以上の障害認定者を含んでおります。 (1)は実績を並べたものですが、今回の推計に当たっては制度改正の影響、高齢化は取り 除いてあります。制度改正の影響は(2)に書いてあるように、一般の者では平成9年度 -3.9%、平成10年度-0.8%、高齢者では平成9年度-3.5%、平成10年度-1.8%、平成11 年度+0.7%です。  平成9年度に被用者本人の1割から2割への患者負担の引上げや薬剤別途負担の導入 があったのでその効果が出ているわけです。ただ、これは平成9年9月施行だったので、 平成10年度にもその改革の効果が残ってしまったことにより、平成10年度もマイナスに なっているということです。平成11年度の高齢者は+0.7%ですが、これは平成9年に導 入した本人の薬剤一部負担を、平成11年7月から本人に代わって国が支払うという臨時 特例措置が導入され、本人負担が逆に減るという改革だったために医療費としてはプラ スになっているわけです。そのようなものを取り除いた(1)−(2)を作って5年平均を取 ると、一般の者では2.6%、70歳以上では3.2%という数字が出てきます。ここで制度改 正の影響は取り除かれたことになります。高齢化の影響ですが、一般の者については0.5 %分の効果があったということで、2.6%から0.5%を引いて2.1%としております。高齢 者についてはこの期間に高齢化はなかったので、3.2%をそのまま使っております。  制度改正効果をどのようにして出してきたかについては、7ページの表に出ておりま す。基本的には制度改正直後を影響があった期間とし、影響がない期間として直前を取 っております。平成9年度の制度改正効果では直後の期間は平成9年4月から平成10年 3月を取っております。この改革はもともと法案を提出した段階では5月施行だったの ですが、1割から2割に引き上げること、薬剤一部負担も色々複雑な仕組みが導入され たこともあって、新聞等でも事例に基づき広報され、その結果、医療費が施行前から下 がりました。これを「アナウンス効果」と呼んでおりますが、実際に4月から医療費の 伸び率が急激に落ちており、そのような意味でここは直後の期間を平成9年4月からと しております。ですから、直前の期間を平成9年3月までとしておりますが、ここは平 成7年4月から平成9年3月までの2年間を取ってきております。  平成9年の改革は高齢者も同様で、基本的には直前の期間と直後の期間との差を取り、 その差分を改革効果と見なしているというところです。平成10年の効果については平成 9年改革の効果分の残りですので、基本的な参照期間等は同じです。平成11年について は平成11年7月からの施行でしたので、平成11年7月から平成12年3月といたしました が、これは平成12年4月から介護保険法が入ったために直後の期間は9カ月しか取れま せんでした。影響のない期間は直前の期間ですから平成11年6月までを取ってきたわけ ですが、平成9年9月から平成10年8月まで平成9年改正の効果が残っておりますので、 基礎数値は平成10年9月からしか取ることができませんでしたので、その差を取って見 ているというところです。  これを絵にしたのが8ページです。要するに、平成9年の一般の者は-1.1%だったわ けですが、その直前の期間(参照期間)は2.7%で、その差である3.9%分を平成9年改 正の効果と見なしているということです。これは先ほどの表を絵にしただけのものです。 少し補足したいのは平成11年の高齢者の効果で、参照期間と直後の期間には見かけ上1.9 %の差がありますが、これは薬剤一部負担の話で、いわゆる外来にしか関係がない話で すから、中に式が書いてありますが、そこの調整をして制度改正の影響を出していると いうことです。  9ページは高齢化効果について説明しております。先ほど来申し上げているように、 一般医療費についての平成7〜11年度の高齢化効果は年平均0.5%と見込んでおります。 下の表にあるように、年齢階級別の1人当たり国民医療費、現在は5歳階級別に出てい ますが、当時は年齢4区分別しかなかったので、そのデータを用いて高齢化効果を計算 すると0.6%になるわけです。国民医療費の年齢区分は単純な年齢でやっておりますが、 私どもが一般の者と呼んでいる70歳未満については、65歳以上の障害認定者は除いて観 測しておりますので、その効果分0.1%を除いて0.5%としております。平成7〜11年度 の高齢者については、高齢化効果はなかったと評価しております。これは人口を用いて 評価しても、平均年齢が変わっていないといったことから高齢化効果はないとしている もので、制度改正効果を除いて3.2%と出てきたものをそのまま使っております。  資料2−2は過去に行った医療費の将来見通しです。過去に行われた制度改革の折や、 必要に応じて出している社会保障の給付と負担の見通しの中で、過去出した医療費の推 計について適宜拾ってきたものです。ここには3つ書いてありますが、一番右が平成18 年1月に出した試算で65兆円です。平成37年度の国民医療費の見通しの名目額と比べる と、平成6年3月に出した額は141兆円であり、今回が65兆円ですから、名目額で大きな 差があります。その下に書かれてある対国民所得比で見ると、平成6年3月に出したも のは10.5%ないし14%の間で今回が12〜13.2%ですから、あまり大きな差がないという 結果です。なぜ名目額がこんなに違うのかについて、前提について申し上げますと、平 成6年3月の推計は医療費の伸び率が4.5%という高い伸び率だったということがありま す。当時は医療費自体の伸び率が高く、それを反映したものですが、それが今回は2.6% ということで大きく違うわけです。  よく話題になるのは141兆円と65兆円ですが、その要因分解をしたのが2ページの図で す。これは粗い評価であることを前提として見ていただければと思いますが、4.5%で伸 びた場合と2.6%で伸びた場合、平成5年度から平成37年度までの32年間分を機械的に伸 ばしているわけですから、32乗分の効果があるわけで、8割は伸び率が違っていたとい うところに原因があるわけです。ただ平成6年に立てた見通しは当時の現行制度で、例 えば当時は被用者本人は1割負担でしたし、介護保険もまだなかったわけですので、医 療費の足元となる範囲も広かったわけです。しかし、現在の見通しにおける現行制度と いうものは、もちろん介護保険制度ができていますから抜けているし、被用者本人も3 割負担であることなど、もっと細かいことは色々とありますが、もともとの範囲が違う という効果もあるので、それが2割、そうは言っても伸び率の分が大きくて8割と。名 目額でこれだけ大きく違うのは、このようなことの影響だということを粗く評価した資 料です。 ○武藤課長補佐 続きまして、私から資料3の各方面が行った推計や意見について説明 いたします。参考資料3−1というのをお配りしてありますが、こちらは説明の基とな った資料ですので、本日は資料3の方で説明したいと思います。  1ページは2006年9月に日本医師会/日医総研において出された資料で、「2004年度 の国民医療費・老人医療費についての問題認識」というのがあり、そこから抜粋してい るものです。1点目として、2025年度の国民医療費は49兆円となっております。真ん中 辺りにグラフが出ていますが、厚生労働省の推計が左半分、日医総研の推計が右半分で、 それを比較したものが書かれてあります。それぞれ棒グラフは3本ありますが、例えば 一番右の2025年度の棒グラフで見てみると、先ほど説明したとおり、厚生労働省は65兆 円、医療給付費56兆円です。一方、右の日医総研推計においては49兆円、42兆円となっ ております。括弧の中に国民医療費の伸び率がコメントされておりますが、厚生労働省 推計は年当たり3〜4%、日医総研は年2%台となっております。  2点目として、厚生労働省推計は先ほど述べたとおり、1人当たり医療費の伸びを 1995年から1999年度で見てみると、一般の者2.1%、高齢者3.2%としておりますが、日 医総研の推計では直近の伸び率が用いられておりまして、一般の者1.4%、高齢者1.3% となります。括弧内に書いてあるように、「ただし、伸び率の期間として2001年度から 2005年度までのうち、診療報酬のマイナス改定があった2002年度を除く」ということで す。次ページにはその基礎数値が載っております。厚生労働省の見通しとの相違点で述 べると、伸び率を算定した期間において制度改正の効果を除いていない、つまり、含ん だままの形でそのまま用いられている点が異なっております。改革のあった時期で申し ますと、平成13年度については平成13年1月に高齢者の上限付定率1割負担の導入、平 成14年10月には高齢者の定率1割負担の徹底、平成15年4月には健保3割負担の導入が ありました。  次の点は、厚生労働省は診療報酬改定がなければ年3〜4%の伸びと見ているが、診 療報酬改定を除けば、ここ数年は1〜2%台の伸びであることがコメントされておりま す。下の表にあるように、一番下の診療報酬改定を除く伸び率は2002年度2.0%、2003年 度1.9%、2004年度2.8%となっております。若干コメントいたしますと、2004年度は2.8 %で、診療報酬改定を除いた影響で見ても3%弱となっておりますが、平成16年2月に 閏日があったことから、平成16年度は稼動日数の影響で全体でも若干少なくなっている のではないかと考えております。ちなみに、2001年度の伸び率は国民医療費で3.2%とな っております。  3ページは、2006年9月に日本医事新報社から出された「医療費は今後どう伸びるか −最近の動向から検証する−」からの抜粋資料ですが、説明いたします。1点目として、 厚生労働省が発表する医療費の動向(メディアス)資料により、医療費の伸び率の推移 を見ると、平成12年度頃を境に、その前後で伸び率の傾向が緩やかに変化してきたと言 われております。真ん中辺りのグラフは、制度別の1人当たり医療費の対前年度伸び率 の推移です。例えば太い線のグラフが総計の数字ですが、平成12年辺りで凹んでいるの は介護保険の導入があった所であり、厚生労働省はそれより前の期間を推計の前提とし て用いているというコメントがあります。厚生労働省の医療費の将来見通し、平成18年 改革実施前では、ご案内のとおり3.2%、2.1%を用いておりますが、この前提の取り方 が間違っていると。3点目にあるように、平成12年度以降、制度改正も診療報酬改定も なかったのは平成13年度、平成17年度だが、その平均は高齢者1.65%、一般の者1.85% だから、それによると国民医療費は53.7兆円になるとしております。コメントすれば、 平成13年度は平成13年1月に高齢者の上限付定率1割負担の導入が行われたこと、また 平成17年度については、確かに制度改正、診療報酬改定ともになかったのに1人当たり 医療費の伸びが若干低くなっているのは、前年の2月、3月にインフルエンザや花粉症 が流行したことにより、同様の流行が平成17年にはなかったという要因があることが留 意点として挙げられると思います。  4ページは経済財政諮問会議の中にある21世紀ビジョン専門委員会の、経済財政展望 WGが2005年3月にまとめた「経済財政展望WG報告書−活力ある安定社会の実現に向 けて−」より抜粋したものです。1点目に報告書のポイントが書かれてありますが、「 活力ある安定社会を維持するため、生産性を高めたり、2010年代初頭までに基礎的財政 収支を黒字化し、それ以降黒字を維持し、公債残高(名目GDP比)を引き下げる」と しております。2点目として、名目経済成長率の伸びを2030年度まで書いております。 これについては時期やケースによって異なりますが、3%台半ばから4%台半ばとして おります。3点目の医療・介護に係る給付費の対GDP比は、2005年度の6.4%から2025 年度11.3%、2030年度では12.6%と見込んでおります。  コメントとして、2025年度の医療費の実額表示自体はありませんが、伸びの前提等が 記載されていますので粗い評価を行うと、医療・介護に係る給付費は100兆円を超えるの ではないかということです。医療の分と介護の分があって、厚生労働省が社会保障の給 付と負担の見通しを出していますが、それによる2025年度改革実施前の医療給付費と介 護給付費の比を見てみると、医療の方が7、8割となりますので、GDP比も給付費の 実額も若干高い水準かなと考えております。計算のモデルですが、「日本経済中期展望 モデル(21世紀ビジョン版)」ということで、内閣府において計量経済モデルで試算さ れたものということです。 ○飯野座長 ただいまの資料についてご質問、あるいは医療費の将来推計についてご意 見があればお願いいたします。 ○井原氏 資料を拝見していて、国民医療費という言葉と給付費という言葉は違うこと が大変よく分かりました。要するに、国民医療費は給付費に患者負担をプラスしたもの と考えればいいわけですが、そのとき給付費の方に生活保護等は入っていますか。 ○真鍋数理企画官 両方とも入っております。 ○井原氏 分かりました。生活保護は負担ゼロの方とある方がいますが、入っていると。 保険外併用療養費、いわゆる先進医療、治験など、今レセプトには色々なものがあるの ですが、ここに国民医療費という言葉を定義するとき、そのようなものは一切含んでい ないと考えてよろしいのですか。 ○真鍋数理企画官 例えば正常分娩や美容整形など保険で見ないものは入っておりませ ん。 ○井原氏 それは分かります。しかし、保険外併用療養費というのがたくさんあります。 今レセプトを見ているのですが、例えば制限回数を超えた医療などといったものは、国 民医療費の中に全部入っているということですか。 ○石原調査課長 高度先進利用は入っていません。 ○井原氏 今、高度はなくなってしまいましたが、いわゆる先進医療は入っているとい うことですか。 ○石原調査課長 入っておりません。国民医療費と言っても、保険医療の範囲になって おりまして、昔で言う高度先進医療部分とか差額ベッドなどといったものについては入 っていないのです。要するに、単価として保険医療の水準だったらどのぐらいの医療費 かという水準を示したものだということです。 ○井原氏 分かりました。ただ、最近そこが広げられる傾向にあり、国民要望も大変強 いので、新たに抗悪性腫瘍剤などの薬剤費用は保険外併用の中に入れていこうなど、こ れから色々な議論が出てくるものですから、保険のレセプトにも載ってくる保険外併用 負担というものは国民医療費の計算に入れるのかどうかを知りたかったのです。差額ベ ッドなどといったものは完全にこちらにくるというのは分かるのですが、医療保険の2 階建部分というか、それが入っていないと考えていくということですね。 ○石原調査課長 そうです。 ○井原氏 分かりました。 ○飯野座長 他に何かあればお願いいたします。 ○西村氏 質問を1つと、最初に言った方がいいと思うので感想を述べますが、診療報 酬の改定が何%、何%と書いてあります。例えば5ページの診療報酬改定の影響では平 成2〜6年1.1%、平成7〜11年0.1%となっていますが、この数字は診療報酬改定があ って、年度当初に発表した何パーセント上昇などといった数字に対応していますか。 ○真鍋数理企画官 対応しております。 ○西村氏 そうすると、これは当初予想した診療報酬改定幅というものを踏襲している ということになります。次のことは難しいですが、逆に診療報酬改定の予想が当たらな かったときは自然増と言う、定義としてはそういうことになりますね。 ○真鍋数理企画官 そうなります。 ○西村氏 分かりました。それを確認したのと、最初ですがちょっと失礼な言い方をさ せていただくと、最後に言われた経済の予想を含めて、国は今までいかに予想を間違え ていたかについて正直に調べるべきだと思うのです。これは別に厚生労働省だけではな く、経済財政諮問会議でもそうですし、実際は各方面の予測が相当違っています。私は 学者としてけしからんと言うつもりはないし、当たらないものだという世間の常識をあ る程度皆が共有することが必要だという意味で、決して批判するつもりはないのです。 そのような観点から言うと、先ほどの説明はちょっと納得できません。  8割は予想を間違えた、2割は制度の改正だと言われたのでちょっと笑ってしまった のですが、実はほとんど間違っているわけです、まだ分かりませんが。なぜこのような 予測をしてしまったのかということを、141兆円という数字を78兆円に変えるときにもう 少し詳しく説明していただかないと、141兆円とは一体何だったのかが分からないと思い ます。そして、結果的には単純で機械的な過去の伸びを考えてということによる、とい うことだったわけです。くどいようですが、間違えたのはけしからんとは言っていない のです。これは間違える、そんなものは分からないということを前提に申し上げている わけです。  先ほど稼動日数の話、インフルエンザの話をされていましたが、これも説明にはなっ ていない。つまり、インフルエンザは定期的ではないが、時々流行しますから、10年20 年の予測をするときにはその影響がどうのこうのという話はほとんど関係がないし、稼 動日数にいたっては、もちろん年によって祭日が重なったりして違います。それによっ て予想が違うというのは、最初からきちんと考えてくださいということがあるし、短い こともあるのだから、日医総研の予想は短いときを使ったとかという話ではなくて、も う少し平均的に過去10年の稼動日数を調べて、その平均で予想してくださいと申し上げ たいと思います。  最後に、私は日頃マスコミの方には一生懸命申し上げるのですが、経済の予測は難し いし、もちろん2025年の医療費はいくらになるか知りたいですが、そのようなことを聞 いてもどうということはない。どのようなことかと言うと、GDPが5倍ぐらいになっ たら、医療費が100兆円になってもたいしたことはない、そうでない場合は、経済は今よ りも悪くなる、医療費が100兆円になったら大変なことです。そのように連動して物を考 える、一番分かりやすい手法は対GDP比だと思います。これは厚生労働省の責任だと は言いません。細かい話をすると、財務省、厚生労働省が対国民所得比を使っていて、 内閣府はGDP比を使っているわけで、これは座長のご専門ですが、今後間接税が増え るとその乖離が非常に大きくなるので、このこともマイナーな問題として重要だと思い ます。それはちょっと置いておいて、GDP比は割と近いし、国民がそれに慣れるよう に、言葉は悪いですが世論を誘導していただきたいと思うのです。  テレビでは取り上げるときに必ず、「医療費が百何兆円になると言われている現在」 という決まり文句があって、必ずそこからスタートするのです。それを聞いて、「ウォ ーすごい」と言うが、それ以上は何も考えません。ただ、GDP比はこんなにあるとい うことだと、ある程度それを理解できたら真実味があるわけです。専門家はそう思って いますが、一般の国民はGDP比とは何だと思うから、そこはもう少し教育をする。日 本人はそんなに馬鹿ではないと思うので、そのような工夫をしていただきたいと思いま す。 ○権丈氏 今の発言に関連して、なぜ141兆円になったのか、65兆円になったのか、私な りに理解していることを述べておきます。資料2−1の3ページに「医療費の将来見通 しの手法の概略」というのがあるのですが、ここで一番重要な要因は、過去の医療費の 伸び率から設定された医療費の伸び率なのです。これを2.1%と置くかとか、3.2%と置 くか、4点何パーセントと置くかということが決定的に重要な意味を持ちます。医療費の 伸び率をどう想定するかというのは、過去の医療費の伸び率から設定ということで、「 医療費の将来見通しの手法の概略」の図ではここで止まっているわけですが、私の頭の 中では過去の医療費の伸び率から設定されるものの直前に、直近の国民所得比の伸びと いうものがあるのです。直近の国民所得やGDPの伸びがあり、これに合わせてNI、 GDPに占める医療費の割合が安定するように政治折衝がなされます。これはほとんど うまくいきますから、その中で医療費の伸びは直近の国民所得の伸びと関連した形でコ ントロールされていくのです。なぜ141兆円になったのかと言うと、それを推計した直近 の国民所得の伸びが高かったからなのです。なぜ65兆円になったかと言うと、それを推 計したときの直近の国民所得の伸びが低かったからなのです。  したがって、どのようなことが起こるかと言うと、長期的に見るとNIに占める医療 費の割合は13%前後で、ずっとコントロールされるのです。医療費は野放図に伸びると か色々なことが議論されますが、実は医療費は野放図には伸びません。これは政治的に コントロールされています。政治が決めるということを前提に考えていけば、141兆円に なる、65兆円になるというミスを誰がしたかと言うと、基になるNIやGDPの伸びの 予測に失敗しているのです。  先月柳澤大臣と座談会をしたときの言葉でこの辺りの箇所があるのですが、今日その ような話が出てくるだろうと思って持ってきましたから読んでみます。「医療費は野放 図に増えるのではなく、診療報酬を何パーセント上げるかという交渉を財務省と厚労省 とやりながら、医療費そのものはコントロールされてきているのです。だから、医療費 の国民所得に占める割合は、長期的にはきわめて安定してきたのだし、今後も、今の政 治姿勢のままでしたら安定し続けます。国民所得の伸び率よりも医療費の伸び率が高く なれば、社会保険料を上げるか税を投入しなければならなくなるので、医療費の伸びを 政治が叩きますからね。ですから、将来の国民所得の伸びが過大推計される時代にあっ ては、厚労省の医療費の予測も100%過大推計になるわけです。厚労省には医療費を過大 推計して医療費抑制機運を高めようというような悪意はなくても、国民所得の伸びとの 兼ね合いで医療費が政治的に決まるのですから、高い伸び率の国民所得をベースとした 医療費の予測は、国民所得が思っていたほど伸びない時代には、必然的に過大推計にな ってしまうということです。過去20年ほど、医療費の推計をした経済学者たちも、みん な過大推計のミスをおかしていますよ。厚労省に限ったことではない。」ということを 言っているのです。医療費が将来どの程度になるかということは、国民所得がどの程度 変化するかということを正確に把握しなければいけない。  もう1点は、国民所得に占める医療費の割合が政治スタンスになるわけですが、誰が、 どのようなスタンスの政治家が政権を取るかといったようなことを予測しなければなら ない。例えば、私のように医療費を増やそうではないか、このままでは医療は崩壊して しまうと言っているような人間を抹殺していくことが、実は大切になってくるのです。 そのような政治的な要因というものが医療費を決定的に決めているというのは、医療経 済学の国際比較研究から色々なことを考えていくと、結局所得が決めているのだと。高 齢化などはほとんど影響していない、いや全く影響していないという状況があるわけで す。新聞社など様々な所で、141兆円であるとか、65兆円であるとか言いますが、25年後 の名目医療費を論じることに一体何の意味があるのかというところがあるわけです。  先ほど西村先生は国民はそれほど馬鹿ではないと言われていましたが、私は諦めてい ます。その程度のことさえ分からずに、他の政治的意図とか色々あるかもしれないので すが、過大に推計したということ、過大に推計させた印象を持たせて論じられていると いうのが私の全体的な印象で、本当は医療費はNIやGDPに占める割合として見なけ れば意味がない。割合として見ると、これは非常にコンスタントに安定しているのです。 そのあたりのところを少し考えて、予測するのだったら国民所得と政治の動きです。 ○松山氏 お二方のご意見とも関連してくるのですが、私は国民医療費の推計は推計そ のものが目的ではない。つまり当たるか当たらないかはあまり重要ではなくて、国民が 求めている医療を安定的、公平に財源確保する、その仕組みを議論するためのベースに なるものを作るということだと思うのです。そうすると推計のときに何が重要かという と、今の権丈先生がおっしゃったことにも触れてくるのですが、経済の大きさに対する 医療費の割合がほぼ当たっていれば、その予測の議論は正しかったということが言える と思うのです。  それで見ると、資料2−2の1ページ目に141兆円、81兆円、65兆円と書いています が、対国民所得比の割合ではそれほど外れてないのです。これはなぜこういうことが起 こるかというと、議論が名目値ベースで議論しているからであって、実質ベースで医療 費の推計をすると、また違った姿が見えてくることになるのではないかと思います。  権丈先生がおっしゃっていたGDPに対する割合が安定してきているということです が、私は先進諸国との比較でいうと少し日本は低過ぎるのであって、例えばアメリカは 今、国民医療費220兆円、GDP比16%で、経済の大きさから見ても日本の倍使っている わけです。それで経済がおかしくなっているかというと、そのようなことは全然ないわ けです。それはなぜかというと、結局、医療費をどれだけ使うかは国民が決める話であ って、アメリカの仕組みは医師の報酬、診療材料、医療機器を自由価格でやっているの が大きいのです。私はそこの点は日本の方が制度がよくて、ある程度公的にコントロー ルするということで、安定的に医療費をコントロールできているのではないかと思うの です。それとは別に、GDP比で医療費が増えたからといって、それが悪いという前提 条件で議論するのはおかしいということです。  アメリカでも、なぜアメリカだけあれほど医療費が増えるのだという議論があって、 要因分析しますと、一番大きいのは技術進歩だという結論にほぼ落ち着いています。日 本で医療費の推計をするときに、技術進歩に伴う増加率をどの程度見込むかということ が重要になってくると思うのです。そうすると、自然増の所の数字の分解をどうするか という問題が出てくるのではないかと。あの中にはおそらく、人件費の増加、医療材料、 医療機器の価格の上昇、その辺も入ってきていると思うのですが、それをどう分解する かということを示さないといけないのかと。  今回のこの委員会に課せられた課題は、医療改革で厚労省が示した色々なアクション プランがありますが、あの影響をどう見込むかということだと思うのです。一番の疑問 は、例えば生活習慣病に力を入れて国民を健康にしていくことになった場合に、1人当 たりの生涯医療費は増えるのかどうかです。そこの考え方によって医療費の伸びはまた 違ってくるのではないかという気がします。 ○橋本氏 大変勉強になりました。ありがとうございました。基本的に西村先生が仰せ のように当たるものではないという考え方がまず大前提だろうと思いますし、先ほど松 山先生もたぶん引用されたと思います諸外国での経済系の研究で見るならば、伸び率の うち医療経済の領域で合意が取れてきているのは、高齢化の影響は実はほとんどないと。 一番大きいのは技術の進展であると。ただし、それらで説明できる増分はパーセントで 言うと大体40%程度しか説明できなくて、残り6割はよく分からないで決まっている。 ということで、基本的には増分の半分以上が要因不明、それだけに将来予測はほとんど 不可能に近い、ということがほぼ世界的常識だということをまず一回理解する必要はあ るだろうと。  その上で、またさらに松山先生がご指摘のように、単に名目はいくら使うのかといっ たことで不安をあおったり、もしくはそれを政治的なマヌーバーの数字に使ってしまう のではなくて、どういうふうに、どこに、どれだけの資源が使われていくべきかどうか という議論をするための、ある意味のシミュレーションとして出すべきではないか。  もしそうであるならば、ここから先がある意味でご提案ですが、伸び率分解という形 にしてしまって、その伸び率の推計で全てを語ってしまうのではなくて、逆に伸び率の 要因を、今は削って削ってみたいな形にしているけれども、そうではなくて積み立てて いくような形でやっていくという方法もあるのではないか。現行の医療費の使い方だっ て、しかも技術進歩も全くなくて、人口構造が変わったことだけを入れたらどれぐらい 増えるのか。例えば、そこに平均寿命の変化がこれぐらい起こった場合、それにどれぐ らいプラスアルファが起こるのか。例えば、そこに技術進歩を年率1%ないし2%入れ たらどれぐらい起こるのか。それで推計値の幅でどれぐらい影響を受けるのかといった ことを見せることで、では何をどうコントロールしていくべきかという議論に供する数 字が、むしろ求められているのではないかと私は感じました。 ○鎌形氏 私は二昔以上前に調査課でこういう仕事をやりました。当時は医療費の推計 に関してこれだけの人数が集まってくるとはとても考えられない。調査課で1人か2人 がしこしことやっていた、こういう状態でした。今日、お話を聞いたのですが、基本的 には私どものやっていたこととそう大きな変わりはないと私は理解をしました。  1つ基本的に違っていたのは、医療費改定を伸び率の中に入れ込んでやっているので すが、当時は制度改正はあまりなかったのです。それほど健保は通りませんでしたから、 制度改正はあまりなくて、老健法があったくらいだったでしょうか。ところが、当時の 医療費改定はものすごく大幅な医療費改定が、狂乱物価や色々なのがありましたから、 10何パーセントの医療費アップとか、30何パーセントの医療費アップなどもあったので、 それを途中に入れてしまうととんでもない、それこそ我々が見ても考えられないような 総医療費の推計になってしまうので、そこを入れ込まないで、医療費改定だけを外して、 もちろん高齢化なども今お聞きしたのと大体同じ手法でやっていたと思います。そこが 少し違っているというのが私の印象です。  では、医療費改定を入れなかったかというと、そうではなくて、過去の医療費改定の 率と国民所得の伸び率の比率を使って、将来に向かって国民所得比と大体同じ比率ぐら いでいくのではないか、ということで入れ込んだ。でも、中身としていくら入れ込んだ かは、当時それを言うと、「厚生省はそれだけ医療費改定を見込んでいるのか」と言わ れてしまうので伏せておいて、それで入れたような気がします。  結果的には、先生方がおっしゃるように対NI比というのは、実額自体は相当違って いましたが、NI比は大体ピッタリ合っていた、というのが私の経験上のあれです。色 々事情はあるのでしょうが、医療費改定をどうするのかが少しポイントかと私は聞いて いて思いました。 ○井原氏 今、経済の先生方のお話を聞いて、大変勉強になりました。よく分かりまし た。私は16年間ずっとレセプトを通じて制度改正や点数改定を見てきたものですから、 先ほど松山先生がおっしゃったように、技術の評価が今回の点数改定でも新規技術を導 入するとどうしてもプラス改定になってしまうので、その分何かで落とさなくてはいけ ない。そういう実際の苦労があるわけですが、その技術のことがある。  最近、非常に高価な薬剤、そういったものを使ったレセプトが大変高額レセプトとし て出てくる。検査もCT、MRI、あのような検査が出てきてから急激に検査に対する 要求も深まってくる。また、国民の皆さまも、日本人の気風といいますか、はやり出す と私もやるか、やらないと心配だということがあって、我々が見ていてもそういうもの が突然どっと増えてくる。あるいは最近は脳外科のオーダーメイド人工骨、大腿骨頭、 ペースメーカー、そういう色々な材料も大変に医療費を使う。そういうところを今後ど う見積るのか。あと、レセを見て感ずるのは、非常に医療費をたくさん使っているのは、 圧倒的に入院費、あとは高齢者、それもターミナルを中心にと、こういうところが大変 大きく影響する気がするのです。  ちょうどタイミングが、平成20年4月から新たな75歳以上の後期高齢者制度の検討部 会が今始まっていますので、ここが一体どういう制度設計になっていくのかと。今、私 どもが少し聞いているのは、1,300万人ぐらいを11兆4,000億だとか聞いていますが、そ ういうところの今後の伸びです。温故知新ですから過去のデータをこうして勉強します のは、とても大切だと思うのですが、ここへ来てそういう後期高齢者に関しては全く新 たな診療報酬体系を作ろうではないかということが1つある。  保険者健診が入ってまいりますと、支払基金は膨大なデータがたぶん電送で来るので しょうが、そうなってくるとこれから関係者の色々な議論はあるのでしょうが、IT化 が進んできたり、それに伴って診療報酬制度が包括化もどこまで議論されてくるか分か りませんが、そういうものが入ってくると、過去も制度の影響は避けられないように、 私は後期高齢者医療制度、IT化、包括化は、将来を予測する上で医療の現場にいる者 としての見方からすると、ここら辺は予測もし難いですが、かなり影響は与えてくるの ではないかという印象は持っています。 ○飯野座長 厚労省側から何か。 ○唐澤総務課長 先生方からの色々なご意見に対して、全くそのとおりだと思います。 と申しますのは、結局、医療費の推計というのは、何のためにするのかという目的が非 常に重要ですので、25年先の数字が分かるかどうかは、これはなかなか難しいです。私 も昔、経済計画を作っていましたが、経済計画の見通しもほとんど当たったことはない のです。あまりこのようなことを言うと怒られるのですが。ただし、問題は、西村先生 からもお話がありましたが、医療費の将来の推計をすること自体は無意味なわけではあ りませんで、国民の皆さんにそれをどう理解してもらうかは非常に重要なことだと思い ます。もう1つ、厚生労働省が政府としてやる推計は、民間の研究機関とやる推計とは 多少意味は違ってしまいますので、そういうことを踏まえてどういう推計をするかは非 常に重要だと思っています。  医療費の規模のお話がありましたので、率直に言いますと、日本の医療費はアメリカ よりも断然小さいのが実情だと思うのです。ただし、これはただどんどん大きくしてく ださいという意味ではありません。保険局総務課長としてはそういうふうに言えません。 ただし、重点化と効率化は不断に追求する。どのシステムにも必ずそうなりますので、 それを不断に続けた上でどういう財源を確保していくか。医療費の推計の問題は、はっ きり財源の問題と切り離しては議論できないのではないかと思っています。  最後に1つだけ申しますと、NI比はあまり変わってないのですが、NI比であまり 変わってないのは、逆に言えば医療のために新しい大きな財源が確保されてない、そう いう意味かもしれない。ここのところは、結局、先生方に託するというか判断の問題で すので、全く私がどうだということではないのです。推計の問題だけではなくて、広が った議論をしていただければ大変ありがたく思っています。 ○権丈氏 総務課長のお話とも関連するのですが、政策に資する推計という意味では、 皆さんが論じられている形で医療技術をどう導入していくとか、どういうことが起こっ ていくかということを積み上げた形で議論していかなくてはいけないと思うし、それは すごく有意義だと思うのです。だけど、ギャンブル的に10年後の医療費はいくらになる かとか、20年後の医療費はいくらになるかというのであれば、私が先ほど言った国民所 得をどう見るか、政治が一体どう動いていくかということが重要になります。ただ、こ うした推計は政策的にはほとんど意味がありません。  医療費そのものは、医療は分からない、だけど財政論は分かる、だから財政論しか論 じないという人たちが決めているのです。どう動くかはギャンブル的な視点で見ていけ ばいいのだけれども、これは政策にはほとんど資することがないので、政策に資する推 計というのであれば、これまでなされてきた形で積み上げていって、医療技術がアメリ カではこれだけ導入されているけれども、日本でこれを導入したらどうなるかと。価格 設定はアメリカは自由市場になっていて、これだけ高くなっている。これを日本であれ ばどう価格設定ができるかという形のことを積み上げていって、どういう医療を皆さん に保障しますよというシナリオをずっと出していくために、医療の推計そのものはやっ ていかなくてはいけないと思います。  松山先生がおっしゃっていたように、日本の医療費のGDP比、NI比みたいなもの は、どう考えてもこれは低い水準にあって、これで医療の質を上げるのは無理があるよ なと、ここにいらっしゃる方は多くの方はそう思われていると思うのです。したがって、 ニーズをひとつひとつ積み上げた形で議論できる材料となる医療費の推計といいますか、 政策に資する形での推計はどうしてもやっていかなくてはいけないと思っています。た だ、当たる、当たらないという話でしたら、これは最終的には政治の問題なので、誰が 政権を取るかとか、色々なことを考えていくことによってやっていくしかないのですが、 そういうものは、今度はあまり政策には役に立たないと私も思います。 ○西村氏 おっしゃったことは全く賛成で、それを踏まえてもう少し突っ込んで言うと、 私は先ほどチラッと申し上げたのですが、少し曲者は自然増と思うのです。それは先ほ ど診療報酬改定が3%アップ、-1.6%と言いますね。これは医療機関にとってはご承知 のように重要な指標ですから、それを目安に自分の所がどうかとすごく考えます。です から、この数字は大変重要と思います。  しかし、その数字は何なんだということは分からない。つまり、政策的に、例えば経 済がよくなったからその分上げましょうという話と、もう1つは技術進歩をこの程度容 認しましょうという数字が混ざっているのです。ですから、先ほど私が診療報酬改定と いう数字は絶対正しいのですねと言ったのは、最初に言った数字が載っているわけです。 だから無謬です。つまり間違うわけがないわけです。  だけど本当は、全体的には私も医療費を上げる方に賛成ですが、政府の意図したこと でないような、場合によっては無駄が行われている可能性があることも、この自然増に 含まれている可能性がある。だから、もちろん理想は医療費物価指数です。それを作る ことが、松山先生が先ほどおっしゃったように実質と名目の違いを明確に分ける。そう いう意味では、なぜなら経済は成長してみんな幸せになっていませんといっても、経済 が成長したらそれでいいかと、特に今の風潮はなっていますから、名目で上がっても物 価も上がったらよくないですから同じことで、医療費も実質でどれだけ上がったかとい うことを考えて、これだけが技術進歩ですということで、それで財政当局に交渉される 場合は、それは国民の支配能力においてこれだけの技術進歩を入れましょうと考えます。  ところが、そこに、松山先生の方が詳しいと思いますから教えていただきたいのです が、現場では細かい診療報酬改定を見て、ここは上がった、ここは下がった。では、こ ちらへシフトしようということを色々やる。おそらく私がどうしても欲しいのは、自然 増にしないで、当初の診療報酬改定1.6%は、本当は何パーセント増だったのだ、何パー セント減だったのだという数字が欲しいです。その政策的意図には、技術進歩をこれだ け医療としました。あるいは診療報酬という言葉はすごいマジックです。ここには病院 にとっては、例えば患者数が減っても何とかやっていけるようなことを考えておられる のですかというメッセージは伝わりませんから、結果的には患者数が減った分は別のと ころで、はっきりこれだけなりました、制度改正というようにおっしゃいます。これま で学者も怠慢ですが、自然増をもう少し詳しく色々突っ込んで議論されるのが、一番建 設的ではないかと私は思います。 ○井原氏 松山先生に教えていただく前に、今おっしゃったように、レセプトを見てい ますと、大体新しく変わった項目がレセプトで色々と表現されてくるには3カ月ぐらい かかります。その前の勢いのまま実際は進んでいるのです。どうも半年ぐらい経ったあ たりから医療機関のレセプトの請求内容が変わってまいります。要するに、そのあたり でようやく3月中にドッと告示されますから、4月の頭には末端の先生方はとても切り 替わらないです。ですから、数ヶ月は惰性でいきます。我々も周知期間ということで最 初は少し大目に見ながら審査をしていく。大体6カ月ぐらい経つと、どうもこれはあま りおいしくないぞと、これがいいぞというところが見えてくるのでしょう。そういうと ころがドドドドッとレセプトで出てくるのが大体6カ月目以降です。ですから、その辺 のところに医療機関もよく言えば企業努力と言いましょうか、これはこうすればよいの だと、これはこの点を取った方が、こうしているよりいいのだということで、その辺で 出てまいります。 ○西村氏 その時点で何パーセントかというのはある程度。 ○井原氏 実際、これに出ている数字と我々が見ている数字は若干違いがあります。 ○西村氏 では診療報酬は何なのですか、あれは。 ○唐澤総務課長 これはなかなか難しいです。 ○井原氏 ここは難しいですよね。ここは非常に難しい。 ○唐澤総務課長 当然、診療報酬を改定すれば、現場は企業体ですから、それに適応せ ざるを得ない。これは当然のことです。やって当たり前です。やらなければ倒れてしま いますので、これは当然でやっていただいて構わないです。診療報酬もなかなか個別的 には厳しくて。ただ、今回の改定は個別に合っているかどうかは別ですが、全体として は大体ほぼ合っているかなという感じです。 ○井原氏 皆さんなかなか上手に。 ○石原調査課長 今のはちょっと。まず、どう考えるかという点ですが、資料の2−1、 5ページを見ていただきたいのですが、先ほども説明しましたが、医療費の伸びが過去 からだんだん縮まってきて、最近になって0.7%とほとんど伸びていない状態になってい るわけです。この大きな要因は、制度改正とか、診療報酬改定でマイナスにしているか らほとんど伸びていないという認識に立っています。自然増は若干落ちている面もあり ますが、ほぼ一定だという傾向が中長期的に観察される。ですから、その傾向を前提に 大体医療の伸びの設定をやっていまして、自然増が一定であれば、それに対して伸び率 が変わっていれば、変わったところが制度改正の影響だろうとか、変わったところが診 療報酬改定の影響だろうという形で、一応、医療費の動向から逆に制度改正なり診療報 酬改定は見えるだろうと。大まかな話ですが、そういう形で思っています。  今、総務課長から申し上げたのは、平成18年4月に改定がございましたけど、改定で あって、医療費で言えば、医療費の動向で見ると、平成17年の3.1%ぐらいの伸びです が、これはほぼ0%になっています。その乖離が3.1%。要するに、診療報酬改定で3.16 %と申しましたが、それはほぼ見合っているのが、今、総務課長から申し上げた話です。 そういったことである程度制度改正の影響ですから、診療報酬改定については見ること ができるのではないかという見方には立てています。 ○唐澤総務課長 診療報酬の伸び率がいくらになったかは、これは検証が必要なことは 西村先生がおっしゃったとおりですが、結局、医療費の伸びの自然増の最大の要因は医 療の進歩であるのは、これはもう明白です。個別の診療行為を取るとどのような医療費 の変化が起こったかというのか、推計しやすいのですが、総体としていうところになる と、なかなか把握しにくい面があります。  それから医療費の動向に影響を与える要因としては、もう少し患者の行動の変化とい うところもありますので、患者の行動がどう変化するかと。これも制度との相関みたい なところがありますので、この部分をどうするか。これは件数だったり日数だったりで す。  もう1つは医療機関の診療行動です。診療行動の変化もあるので、これはどういうふ うに変化するかは分からない。結局、技術進歩が一番大きいのですが、その上に患者の 行動の変化と診療行動の変化という非常にかかわってくるという感じがしています。 ○井原氏 DPCはその代表的な例かもしれません。当初、82で現在360病院、今私は診 ていますが、準備病院がすでに300を超えていて、急性期病床のうちの過半数はたぶんD PCになる。あれもそういった、これが大変今のところよろしいという医療機関側の判 断があるのだろうと、私らは少し戸惑っているのですが、審査上大変難しい審査になり ますので。 ○石原調査課長 今、DPCの話が出たので申し上げますと、DPCは定額払い、先ほ どの包括化の問題もありますので。 ○井原氏 はい。 ○石原調査課長 過去から比べますと、過去はほとんど出来高でやっていて、その出来 高が自然増の大きな原因だという言われ方もしていたのですが、DPCが今、包括化を 進めてきて、自然増は減っているのかという問題がある。おっしゃったDPCについて 申し上げれば、定額化したにもかかわらず、DPC病院の一日当たり医療費は依然とし て残っています。それをどう見るかと、自然増の中身の分析がまだ全然できてないので、 なぜというところはあるのですが、一応の解釈としては、平均在院日数の短縮化が図ら れて単価が伸びて自然増があるのではないかという解釈をしていますが、包括化が起こ ると、包括化されるということは、DPCが丸めたからといって、自然増がなくなって いないということをどう考えるかというのは一つの論点がある。 ○井原氏 今、課長がおっしゃったので、ほとんどよろしいのですが、私たちから見る と自然増をする部分がDPCから外出しになっているからです、簡単に言ってしまえば。 ですから、それは先ほど申し上げた新規の手術であるとか、医療材料であるとか、そう いったものは全て外出しですから、で、技術を要するものはどんどん外へ出ている傾向 にありますから、あれはDPCとは言っても、包括とは言っても、それで一向にそうな らないのは、そこに大きな原因が、私たちの。 ○西村氏 新薬の扱いがね。 ○井原氏 そうです。そういう高額な医療費になると、それがDPCで高額なボックス 設定になってきたり、今、ホジキン病は、DPCボックスの中で8つ中2つぐらいがD PCで、6つは全部総出来高になってみたり、結局、医療費のばらつきのあるもの、あ る一定の収束のしないものは全て出来高になりますし、それほど影響を受けない部分を 包括したのがDPCだと考えても、極端な言い方ですが、審査している側からすれば、 そういうところはありますよね。 ○西村氏 そうです。 ○井原氏 だから、包括というのはもうちょっと、また今度の後期高齢者はどうなるか 分かりませんが、どういうところを包括するかというところが大きく影響してくるのか なという気がします。 ○松山氏 先ほど私に対する質問にも入っていたと思うのですが、自然増の中には診療 報酬改定があった後の医療機関の経営行動の変化が含まれていると思うのです。逆に言 うと、自然増の中に医療の供給体制のマネジメントの仕組みの変化という影響も入って くると思うのです。それをどうやって分析するかは難しいのですが、例えば日本の医療 供給体制で一番問題なのは、公的病院が同一医療圏にありながらバラバラに経営されて いて公益機能を果たしていないことです。公的病院の中でも自治体病院は982あって、年 間の医療費用が約4兆円で、民間病院と比べた場合に人件費が医業収入対比5%ぐらい 大きいわけですから、2,000億円ぐらい人件費を余分に使っているのです。  もし、そこを民間病院並みの経営にすれば2,000億円浮く、2,000億円が浮いたら、地 域住民が今一番必要としている救急医療体制の構築はかなりできるはずです。将来にお ける自然増の中身を想定する場合、そのような点も考える必要があると思います。そう いうことを国民医療費の推計の中にどうやって入れるかですが、それは橋本先生が先ほ どおっしゃった供給サイドの観点に立って主要な要素、供給側に立った切り口の要素に、 プラスオンしていく仕組みで考えてみる必要があるということだと思います。それを行 えば、国民に対してこの検討会で審議する推計値の意味をもっと説明しやすくできると、 私は考えています。  基本的な推計の方法については、私も自分で行った経験があるのですが、厚生労働省 が採用している方法が基本だと思います。これはエクセルのファイルでできるレベルで すから、私は、マスコミ等にCDで渡すなどして公開したらよいと考えています。マス コミも自分でパソコンを動かし、例えば前提条件を0.1動かしたらどれだけ違うかを見れ ば、予測値の大小のみに捉われたあまり意味のない記事は書かなくなると思います。 ○橋本氏 1つこれは若干技術論的な話で恐縮ですが、すでにいかに将来見通しを立て ることに不安定要素といいますか不確実性要素が高いか。さらに、先ほどのDPCの話 ではないですが、例えば本格的な一件包括か何かにしてみたけれども、どうなるかとや れば、アメリカみたいにその分を、先ほどから先生がおっしゃったみたいに今度は経営 行動の方が変化して吸収してしまって、結局は何の変化も医療費の総体としてはなかっ たみたいなことが起こってしまう。  そういった意味では、将来推計そのものに関してはすごく不安定要素が多過ぎるので、 少しモデル化することを先ほど少し申し上げたのです。ただ、そのための前提として今 の横断的な医療費の推計、要するに現状で今どこに何が起こっているのかといったこと に関して、実は何となく我々は国民医療費は、調査課の面々が一生懸命計算してくださ っているものを、ある意味でgivenのものとしてしまっているところがあるのです。先ほ ど調査課長もおっしゃったように非常に難しい前提や統計の処理をやっているために、 どういうように計算しているのかといった部分、実はあまり誰も知らない点があると。  なぜこのようなことを持ち出したかと申しますと、先ほど井原先生も挙げられたよう に、例えば最近ITと、電子レセプトであるとか、それこそ本当に社会診療がこれから 電子レセプト化すれば、1カ月という話ではなくなってくるかもしれない。あと、先ほ ど急性期病院に関しては、すでに32万床のデータを実は保険局は持っていらっしゃると、 非常に詳細なレセプトデータまで含めて。要するに、推計のために使えるデータが、だ いぶ昔と違ってきている部分があるのではないかと。もしそうであれば、例えばそうい ったものなどをうまく使えば、従来、年齢だけでやってきているものを、技術であると か、あと疾病の罹患率などが変化した場合どうなるかとかいったことまで想定した、か なり細かい実験がやれるための前提数値を、実は得られるようになってきているのでは ないかという気がするのです。その上でも現行の医療費の推計のやり方といったものに 関しても、ある程度オープンにできる部分に関してもう少しオープンにしていただけれ ば、例えばそれを基にしてこういうところをこう変えたらこういうことが起こりますと、 先ほどのマスコミを含め消費者の皆さま方に対する説得力を、よりポイントが見つかる のではないかという気がするのですが、いかがですか。 ○唐澤総務課長 橋本先生のお話は大変示唆に富むご意見です。何らかのモデル化をし たものができると、大変有益です。ただ、日本全国のモデルをつくるのはかなり時間が かかると思うのです。私が特に関心のありますのは、都道府県ごとに今度、医療費を推 計してもらうという作業が出てくるのです。都道府県ごとであれば、かなりミクロのデ ータとしてどこの病院に何床あって、大体、患者の行動はどうなっているかが分かれば、 それはある程度モデル化できる。日本全国だと、例えば、北海道、大阪、九州、長野県 と一緒にするのは難しいところがあるのですが、その地域ごとの推計ではかなり魅力的 なものができる可能性がある。 ○西村氏 今のお話に追加して私が是非お願いしたいと思っているのは、国民所得統計 にならって、私たち経済では「三面等価の法則」があるのです。払っている人がどのよ うに払っているか、それがどこへ流れるか、最終的にどこへ行くかという3つを調べる のです。内閣府はデータを出しています。実は最終的にどこへ行っているかという資料 が、中医協の医療経済実態調査に基づいて、あまり頻繁ではないのですが、時々公表を していただきます。これを経時的に取ると、この議論に対する理解がすごくしやすくな る。つまり、一体このお金はどこへ行っているのだという話です。  先ほどの自然増は、自然増を実現したのは製薬メーカーですかというと、実はどうや らそうではない。つまり、薬剤費はほとんどシェアが変わっていませんから、みんな少 しずつという解釈はもちろんできますが、そこが中心ではない。お医者さんが今、非常 に問題になっていますが、例えば勤務医の給料は平均で全然上がってない。それで数は 微増と。そういう1人当たりの給料掛ける何人というデータを経時的にやる。それから 将来これはどのように、例えばお医者さんが増えますと。そうすると、そこへお金が今 のまま行くとこうなりますと。ひょっとしたらお医者さんは、冗談ですが従来よりも倍 の給料を取りますと。そうすると医療費は目茶苦茶上がりますとか、そこまでやれとは 言いません。つまり、その基礎データをもう少し整備すると、実は国民医療費について の理解が深くなるのではないか。これは私はそれほど難しい作業ではない。ただ正確に 言うと、病院と診療所でどう違っているかとか、そういうことを結構、この変化があり ます。  これは少し話が反れますが、このデータでこれから注意しないといけないのは、75〜 79歳の1人当たり医療費と85歳以上の1人当たり医療費は相当違いますから、この推計 では実はその点に関しては過少推計になっていると思います。 ○鎌形氏 そこは別になっている。 ○西村氏 そうですか。これはちゃんとやっておられますか。 ○真鍋数理企画官 実際には分けてやっています。 ○西村氏 では、それでいいと思いますが、そこをしっかりやらないと、少し余談です が、そういう色々な角度からやっていただくともう少し、権丈先生は「国民は理解が難 しい」とおっしゃいましたが、理解できるのでは。 ○権丈氏 私も少し反省して、皆さんと同じように、国民に理解してもらえることを期 待して話をしようと思うのですが、皆さんがおっしゃっているように、抜本的な推計の 方法の改定は私は少し難しいものがあるかと思っています。要するに、読んでもらえる ものをちゃんと作ろうと。先ほど西村先生がおっしゃったように分配面、三面等価の原 則というものが経済学にはあるのですが、日本は本当に支出面と生産面、支出面は医療 費をどれだけ抑制しておくか、低くしておくかとか、生産面では平等消費が実現されて いるとか日本の医療政策は色々成功しているのですが、医療を評価していく上では分配 面でどうも失敗しているみたいなのです。そのあたりのところが、一体どういうふうに なっているのかよく分からないので、学生の修士論文とか、卒業論文とかにやらせてい るのですが、なかなか分からない。隠されているので、論文のテーマはあるのですけど、 それをもう少し公にしていただいて、そして読んでいただけるものを作っていかないと、 2025年の名目値がいくらになると、そうした議論ばかりになります。  例えば、平成6年3月推計の医療費に141兆円というのがあります。そして偶然、今年 の6月ぐらいに推計された社会保障の将来見通し「141兆円」というものがあります。こ の2025年社会保障将来見通し141兆円は、実は2025年の国民所得比では26.1%でしかなく、 2006年では23.9%ですので、これから20年経っても社会保障の給付費を3ポイントしか 上げないと推計されているのです。本当にそんなに低い社会保障給付費でいいのかとい う議論は一向に出て来ず、141兆円の負担をどうするかしか議論がなされない。社会保障 給付費にしろ、医療費にしろ、将来見通しの議論をする際には、推計の方法とかいうも のもありますが、それよりも将来見通しをどう理解していただいて、どう利用していた だけるかという方向性を、模索していかなければいけない気はします。 ○飯野座長 他にありませんか。私は実は2年前まで中医協の公益委員をやっていまし たので、今日のお話を色々反省を込めて聞かせていただきました。例えば、中医協で診 療報酬の改定で−1%に決めたといいましても、実は診療報酬をマイナスにしたわけで はなくて、結局、薬価を大きく下げて、その分で診療報酬を何とか現状に持っていくと いうことをやっていたので、診療報酬の改定の−1%だけで推計したら、先ほど言われ たように個別の推計ではないので、どうしてもマクロでやってしまいますと誤差が出て くると思います。  ただ、権丈先生が先ほど国民所得で全てが決まるという言われ方をされたのですが、 私が少なくとも経験した方式によれば、一番最初に財務省と厚生労働省が交渉して来年 度の厚生労働省の費用はこれくらいに抑えてもらいたいということが決まって、厚生労 働省の減額幅の中で医療費をどうするかを実は中医協で決めていたのですが、中医協の 決まり方は医療の供給側と支払い側が交渉をして、我々公益委員がどの辺で妥協点を見 出せるかという努力をしていたのです。したがって医療費は、もちろんある制約のもと ではありますが、必ずしも厚生労働省の予算の中で決まってしまうということではなく て、その交渉によって決まった額が、厚生労働省として何とか消化できるかどうかを逆 に問う形になっていまして、厚生労働省としてはもし中医協での決まり方が高いところ に決まると、他の何か経費を削らなくてはいけないという形で努力をしておられたと理 解していまして、完全に政治的に決まってしまっているというものでもないと思います。  ただ、私はもともと本職が財政屋なので、できれば医療費はあまり増えてもらったら よくないという立場ではあります。私自身は非常に病気がちなので、病院へいつも行っ ているので、お医者さんの大変さも見ていますし、私自身スウェーデンに4年住んでい まして、スウェーデンの医者を見ていた限りにおいては、日本の医者は、これは本当に 先ほどからお話がありますように、このままでは患者より先に医者が死んでしまうとい う危機感は持っています。  先ほど出たDPC、つまり包括医療のお話も、これも実は建て前か本音かはよく分か りませんが、少なくとも医療費を削減するために入れたということにはなっていないの であります。つまり、少なくとも医療における無駄を省くということで入れたわけで、 別に減らなくても構わないのですが、少なくともそれによって医療の効率化が行われて いたなら、目標はある程度増えていたとしても達成できたでしょう。したがって、DP Cをとにかく医療費を下げるためだけに導入するのだと捉えられていたのだとすると、 情報公開、あるいは皆さんへの説明責任を果たしていなかったということは非常に感じ ています。  先ほどから経済学的なお話で申し訳ないのですが、西村先生が言われた政府の統計は、 大体、対国民所得比、NI比という形で出てきているのですが、このような国は世界で 日本だけです。私も財政屋でありますので、租税負担率も国民所得比で表しますと、か なり高い形で出てまいります。例えば、スウェーデンなどは70何パーセントが租税負担 率になってしまいます。私は、対GDP比で測るのが普通だと、財務省でそれを申し上 げたら、今まで対国民所得比でやってきたのに、急に変えると何か変に勘ぐられるから 嫌だということを言われ、現在でも守っておられるようです。西村先生の言われるよう に、それも徐々に対GDP比で測るのが、私は世界との比較という意味でもいいのでは ないかと思います。  ただ、少し荷が重くなってきたと思うのは、医療費の将来推計の中で医療のあるべき 姿を何か述べなくてはいけないとすると、これは非常に難しいお話ではないかと思いま すが、といって、どうでもいいというわけでもないし、過去のものをただ伸ばせばいい というものでもないので、そういったことを頭に置きながら、次回以降検討させていた だけたらいいのではないかと思いますが、いかがでしょうか。 ○権丈氏 国民所得で全てが決まると言われたので、学術的に正確なことを言っておき ます。国際比較で見れば1人当たり所得の説明力は大体90%です。90%ぐらいが決まっ て、あとは制度要因とか色々なものが変化を与えていったり、どれだけ国民医療費その ものをパブリックがカバーしているか、そこら辺のところが効いていったりするわけで す。日本がこれからどういう道をたどるかも、国民所得が全てを決めるのではなくて、 これは政治スタンスが変われば十分変わるということと、よく皆さんが「医療費が将来 どこまで増えるか不安だから、今のうちから抑制を」とおっしゃるのですが、今、例え ば10%医療費を上げて、NI比、GDP比がある程度の水準になったとしても、それを 先ほどから私が言っておりますようにコントロールが可能なので、その水準を維持する ことができるという話になります。  もう1つは、単年度で見てみると、国民所得と医療費の伸びは関係がないように見え るのですが、過去5年ぐらいをプールしていった形で見ていきますと、大体、所得と医 療費はパラレルに動いてくるというのも、これは医療経済学の世界では知られていると ころになっています。 ○飯野座長 他に何かありませんか。次回に色々宿題を残しましたので、また次回にも う少し詳しく検討したいと思います。本日はこれくらいにします。次回の開催日程等に ついて、事務局から何かありますか。 ○真鍋数理企画官 次回は来年になりますが、2月6日(火)午前10時から開催します ので、よろしくお願いします。 ○飯野座長 本日はどうもありがとうございました。                                     (了)                     [照会先]厚生労働省保険局調査課                      電話(代表)03(5253)1111                           武藤、村木(内線3295)