資料5-1

石油精製業の爆発、火災、破裂事故の要因について

(厚生労働省まとめ)

 設備の腐食・摩耗、亀裂等が要因となって発生した爆発、火災、破裂事故(平成14〜16年)
事例1
・発生年月 :平成16年4月  ・発生地 :茨城県
・業種 :石油精製業  ・事故の型 :火災
事故発生状況及びその原因:
 原油のうち重油原料の硫黄分を水素添加反応により除去して精製する重油脱硫装置の加熱炉の内部の加熱管に開口部が生じ、高温、高圧の流体が炉壁を破壊し、加熱炉外に流出し、5時間にわたる火災が発生した。
 加熱管は、管内壁に最大6mmの層状コーク(炭化物)が経年的に付着蓄積し、局所的に加熱管の温度が上がった結果、クリープ損傷が進行し開口に至ったもので、加熱管のコークの生成の有無について、2年以内ごとに放射線透過検査を定点で実施していたが、当該箇所を検査部位としていなかったため、コークの蓄積を把握できなかった。
業界コメント:技術的には予見可能であったが、過去のデコーキングでは長期間コーキングしていなかった実績があったため、十分な予防措置が取られなかった事例。

事例2
・発生年月 :平成15年9月  ・発生地 :神奈川県
・業種 :石油精製業  ・事故の型 :火災
事故発生状況及びその原因:
 石油精製事業所において、流動接触分解装置の反応塔上部の配管内からガソリンを主成分とする高温ガスが配管外面へ漏れ、さらに配管を覆っていた補強板のテストホールから漏洩して自然発火し火災となった。
 配管からの漏洩の原因は反応塔出口配管に取り付けられている内部点検用マンホール内面溶接部が長期間内部流体にさらされ摩耗し、摩耗が溶接不良(ブローホール)箇所にまで進んだためで、マンホールの内面を適切に検査していなかった。
業界コメント:触媒によるエロージョンの発生と進行は定性的には把握していたものの、予測困難な内在欠陥が存在していたため予見を難しくし、補修が必要との判断には至っていなかったが、エロージョンの進行は技術的に予見可能な事例。

事例3
・発生年月 :平成15年4月  ・発生地 :北海道
・業種 :石油精製業  ・事故の型 :火災
事故発生状況及びその原因:
 軽油脱硫装置の加熱炉内部において、火炎を当てる加熱管に亀裂が生じ、内容物である軽油と水素の混合物が漏れ、バーナーの火炎が引火し火災が発生した。さらに隣接した熱交換器に同混合物が流入し、熱膨張によりフランジから原料が漏れて火災となった。
 亀裂が生じた原因は、加熱炉管が肉厚減少するとともに、内壁にコークス(炭素質固体)が分厚く付着し温度上昇したことにより、高温硫化水素腐食とクリープを併発し、開口に至ったことである。加熱炉管について定められた周期で管内面の付着状況を確認していたが、当該箇所は平成9年以降検査していなかった。
業界コメント:放射線による抜き取り検査を実施していたものの、局部的なコーキングのため実態を把握できていなかったが、技術的には予見可能で、定性的なデコーキングの重要性が見直された事例。

事例4
・発生年月 :平成15年2月  ・発生地 :千葉県
・業種 :石油精製業  ・事故の型 :火災
事故発生状況及びその原因:
 石油精製事業所において、接触脱ろう装置内の4基の熱交換器から内容物である軽油が漏洩して着火し火災となった。
 事故の原因は、熱交換器のフランジ接続部のステンレス製ガスケットに局所的な塩化物応力腐食割れが発生し、運転中に貫通割れへと進展し、そこから内容物が漏洩したことであり、ガスケットについて検査を行っていなかった。
業界コメント:類似部位のガスケットには問題なく、またガスケットが割れることも非常に稀で通常は予測困難な事例。

事例5
・発生年月 :平成14年10月  ・発生地 :千葉県
・業種 :石油精製業  ・事故の型 :火災
事故発生状況及びその原因:
 石油精製事業所において、中圧水素化分解装置の通油量及び温度を段階的に下げるという運転条件の変更を行っていたところ、反応塔出口配管のフランジ部から水素ガスが漏洩して6時間半にわたる火災が発生した。
 接続部の上下のフランジについて、配管系全体がゆがみフランジ面が平行でないにもかかわらず引っ張ってボルト穴を合わせて締めたため、各ボルトの締め付け力不足と面圧不均一が生じていた。通常の運転条件においては漏洩を防げたが、温度降下による変化には耐えられず水素ガスが漏洩した。
業界コメント:スペーサー挿入フランジの温度変化に締付け力が追従しなかったものであり、比較的予測困難な事例であるが、トルク管理、ホットボルティング等の施工管理の強化で防止できる事例。

事例6
・発生年月 :平成14年6月  ・発生地 :大分県
・業種 :石油精製業  ・事故の型 :爆発
事故発生状況及びその原因:
 設備起動時に、高温高圧の水素を流しながら、その圧力を調整していたところ、水素を流していた配管が腐食していたため破れ、引火、爆発し、配管付近の労働者1名が火傷を負った。
 当該箇所は点検歩道のアングル材が水素配管の保温材に当たるため、保温材の一部を切り欠く形としており、この切り欠き部の隙間から雨水が侵入し、保温剤の内部に水分が貯まり、配管外面から腐食したもので、公称5.5mmの肉厚が0.2mmにまで減肉していた。局部的に雨水より著しく腐食しやすい環境にあったにもかかわらず、当該部分を検査していなかった。
業界コメント:保温切り欠き部からの雨水侵入による外部腐食という教科書的なものであり、日常点検及び検査計画の充実で予測可能な事例。

事例7
・発生年月 :平成14年4月  ・発生地 :北海道
・業種 :石油精製業  ・事故の型 :火災
事故発生状況及びその原因:
 運転中の重油直接脱硫装置高圧セクションにおいて、循環ガス硫化水素吸収塔バイパス管が内部の流体による腐食により局部的に減肉、開口し、噴出した水素ガス等に何らかの火が引火し約10時間にわたる火災が発生した。
 開口部分は、配管が長手130mm、幅90mmにわたって開口しており、肉厚は公称28mmが4~9mmまで減少し平均3mm/年の減肉が起こっていた。
 通常の腐食環境から想定される腐食速度は0.03〜0.24mm/年であることから、最大12年の検査周期を設定していたが、当該箇所においては、局部的な水硫化アンモニウムの濃縮が起こり、これに上昇旋回流と内表面温度上昇の影響、乾湿繰り返しの影響が複合的に重なって水硫化アンモニウムによる腐食が発生し、想定を超える減肉(平均3mm/年)が進行したが、当該部分を検査していなかった。
業界コメント:当該部位での腐食発生は世界的にも事例、知見なく(ライセンサー、コントラクター)、予測困難な事例。


 爆発、火災、破裂事故(平成17〜18年)
事例1
・発生年月 :平成17年4月  ・発生地 :千葉県
・業種 :石油精製業  ・事故の型 :火災
事故発生状況及びその原因:
 減圧残油熱分解炉への供給配管から原料のアスファルトが漏洩し火災が発生した。
 漏洩した配管は、19年前の定期修理工事において、本来高温配管用炭素綱管を使用すべきところを圧力配管用炭素綱管で設置されており、高温硫化物による腐食が著しく進行し開口した。
業界コメント:配管取り替え時の材質間違えによるものであり、結果として予測困難ではあったが、資材の識別表示など現場での施工管理強化で防止できる事例。

事例2
・発生年月 :平成17年6月  ・発生地 :宮城
・業種 :石油精製業  ・事故の型 :火災
事故発生状況及びその原因:
 減圧蒸留装置の配管のうち、温度の異なる重質油が流れていた2本の配管の接合部付近において高温の硫化物による腐食が進行し接合部の配管が開口するに至り、漏れた重質油が自然発火し延焼した。
業界コメント:配管上流のドラム内に設置されたでミスターへの予測を上回る硫化鉄の堆積による酸化発熱と、それに伴い配管内に想定外の高温のガスが流れ込んだことによるもので、予測困難な事例。

事例3
・発生年月 :平成18年2月  ・発生地 :北海道
・業種 :石油精製業  ・事故の型 :火災
事故発生状況及びその原因:
 水素化分解装置の蒸留塔塔底油ポンプが硫化物応力割れと推定される損傷により破断し、塔底油がもれて保温剤にしみこみ、酸化してその熱が蓄積され出火した。
業界コメント:ポンプ製作時の熱処理不良による異常硬度が原因であり、事故事例としても極めて稀で予測困難な事例だが、品質管理及び受け入れ検査の重要性が再認識された事例。

事例4
・発生年月 :平成18年3月  ・発生地 :三重県
・業種 :石油精製業  ・事故の型 :火災
事故発生状況及びその原因:
 作業者が重油分解装置内の砂ろ過槽の底部にある水抜き配管のバルブを手動で開け水抜きを開始したが、近傍の別作業を行うため現場を離れた。当該作業者は水抜き作業を行っていることを失念したまま交替勤務を終了したことから、2時間半余り後に水が抜けきったため上層のLPGが配管から噴出し、火災が発生した。
業界コメント:機器のドレン切り作業に時間が掛かるので、ドレン切りバルブを少開したまま他の作業を行ったため、バルブが開いていることを失念し、LPGが吹き抜け静電気により着火した。同時作業を行わない旨の注意喚起、手順書の見直し、教育の徹底で防止できる事例。

事例5
・発生年月 :平成18年4月  ・発生地 :大阪府
・業種 :石油精製業  ・事故の型 :火災
事故発生状況及びその原因:
 ナフサと水素を混合し高温にしてガソリンを精製する接触改質装置において急激な分解反応を起こす温度に近い高い温度で運転していたところ、上限の温度を超えてしまったため安全弁が圧力により作動し、安全弁からの大気放出配管に水素とナフサの混合物が流れた。大気への放出物は配管を通って燃焼させる設計であったが、配管がサビなどにより詰まっており、内容物が途中で管を破って漏れ出し、出火した。
 安全弁が作動する運転条件になったこと及び安全弁からの大気放出配管について、腐食管理はされていたが閉塞確認が行われていなかったことなどから本事故が発生した。
業界コメント:安全弁放出ラインの閉塞を把握しておらず、安全弁作動時に内圧が上昇し、薄肉部が破損したもので、日常の点検強化で防止できる事例。

事例6
・発生年月 :平成18年4月  ・発生地 :千葉県
・業種 :石油精製業  ・事故の型 :爆発
事故発生状況及びその原因:
 水素製造装置内の凝縮水分離槽の胴の一部が減肉して開口し、開口部より漏洩した大量の水素が滞留し、引火して爆発・火災が発生した。なお、同機器は11年前にも同様の開口事故が発生している。
 10年前の当該機器更新時に内部構造をバッフルタイプからインナーノズルへの変更を行った結果、流体の流れが局所的に胴板に衝突する形になり、さらに運転条件を変更したことからエロージョン・コロージョンによる胴板の減肉が早まったものであるが、構造及び運転条件変更時の影響評価についての技術的検討が不十分、かつ効果の確認も不十分であった。
業界コメント:気液分離槽の内部構造は異なるが、既知の損傷形態であり、かつ当該機器で過去に同一の事例を経験しており、予測可能な事例。

事例7
・発生年月 :平成18年5月  ・発生地 :神奈川県
・業種 :石油精製業  ・事故の型 :爆発
事故発生状況及びその原因:
 減圧蒸留装置下流の残渣油貯蔵タンクの定期修理中に、バルブの閉め忘れから、液面上部が通常の温度管理より高くなり可燃性ガスが発生し、酸化・蓄熱したタンク内壁付着物が着火源となり爆発及び火災が発生し、タンク上部ルーフ部分を中心に破損した。 バルブの操作ミス及びタンク内の温度計が不適切な位置に設置されていて実際の滞油の温度を正確に把握できていなかった。
業界コメント:高温油の混入による火災そのものは非常に珍しいが、根本原因が誤操作であり、異常の早期発見により防止できる事例。

事例8
・発生年月 :平成18年9月  ・発生地 :大阪府
・業種 :石油精製業  ・事故の型 :爆発
事故発生状況及びその原因:
 の軽油を精製する軽油水添脱硫装置の運転停止作業中に、加熱炉内において、点火中のメインバーナーとパイロットバーナーが失火したが、燃料を遮断しなかった(マニュアルにもなかった)ため、加熱炉内にLNGと空気の混合気が未燃焼のまま流入し続けて滞留し、引火して爆発した。
業界コメント:バーナー消火作業における不適切な調整と燃焼異常時の緊急操作の不徹底によるもので、教育・訓練の徹底で防止できる事例。

事例9
・発生年月 :平成18年9月  ・発生地 :愛知県
・業種 :石油精製業  ・事故の型 :火災
事故発生状況及びその原因:
 灯軽油脱硫装置運転中に装置内のリサイクル水素ガス供給圧縮機から火災が発生した。
 リサイクルガス圧縮機の吐出圧力計取出部の小径配管からガスが漏洩し火災となった。
 小径配管は、建設以来31年間使用していた間に、ガス中に含まれる硫化水素及び水分の存在下で湿性硫化物腐食により減肉し開口したという防食管理上の抜けがあった。
業界コメント:圧力計取り出し配管の監視盤内小口径導管接続部が湿性硫化物腐食を受け、微細な開口が発生したものであり、予測は比較的難しいが、プロセスの主流ではなく、通常流れのない静的な環境下にある附属配管に対する設備管理強化の必要性が認識された事例。

事例10
・発生年月 :平成18年10月  ・発生地 :三重県
・業種 :石油精製業  ・事故の型 :爆発
事故発生状況及びその原因:
 運転を停止した脱硫装置の滞油を抜き出す作業における臭気対策として、排風機とダクトで地下ピット内の軽質油を含む空気を燃焼用空気予熱器に送り出していたところ、軽質油が送り込まれた当該予熱器付近で爆発し、周辺の機器が損傷した。
 滞油中の軽質油の一部がピット内で蒸発し排風機で送り込まれ、ダクト内にあった鉄さびが羽根車に衝撃し花火により着火爆発したと考えられる。
業界コメント:運転停止時の滞油処理作業中の事故であるが、爆発混合気が空気予熱器内部で形成されることについては、予測困難な事例。

事例11
・発生年月 :平成18年10月  ・発生地 :千葉県
・業種 :石油精製業  ・事故の型 :火災
事故発生状況及びその原因:
 運転停止作業中であった排ガス中の硫黄化合物を除去する処理装置のバイパス配管において、火災が発生した。
 三方弁のシート漏れによる空気流入で硫化鉄が酸化発熱した。
業界コメント:装置停止作業中、三方弁のシート漏れによる空気流入で硫化鉄が酸化発熱したもので、弁の点検強化で防止できるが、比較的予測困難な事例。

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