出典:科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会
特定胚及びヒトES細胞等研究専門委員会
人クローン胚研究利用作業部会(第21回)
配布資料(抜粋して一部加筆)


人クローン胚の研究目的の作成・利用のあり方について
(人クローン胚研究利用作業部会中間取りまとめ)


第4章 人クローン胚研究における未受精卵の入手


総合科学技術会議意見

未受精卵の入手の考え方
 人クローン胚の作成・利用のための未受精卵の採取や入手は、人間の道具化・手段化の懸念をもたらさぬよう厳しく制限されるべき。
 未受精卵の入手は、提供する女性に肉体的・精神的負担が生ずることが考えられるため、個々の研究で必要最小限に制限されるべきであり、その点を十分に考慮した枠組みの整備が必要。

未受精卵の入手の方法
(1) 手術等により摘出された卵巣や卵巣切片からの採取
(2) 生殖補助医療目的で採取された未受精卵で同目的には利用されなかったものや非受精卵の利用
(3) 卵子保存の目的で作成された凍結未受精卵の不要化に伴う利用

作業部会における検討

基本的考え方

 人クローン胚の作成にあたっては、他の目的で使用される可能性のある未受精卵は利用せず、廃棄することが決定された未受精卵のみを対象とする。
 未受精卵の提供は、自由意思に基づいて、無償で提供されるものに限る。
 未受精卵の提供医療機関は、提供者の個人情報を保護するため必要な措置を講じなければならない。

○ 未受精卵の入手方法として認められる方法

(1)手術により摘出された卵巣や卵巣切片からの採取

 ・婦人科疾患、性同一性障害の治療のため手術により摘出された卵巣や卵巣切片
 ・疾患の治療のため手術で摘出し、将来の妊娠に備えて凍結保存された卵巣や卵巣切片
↓
廃棄することの同意が得られている場合に、適切なインフォームド・
コンセントを受けて、提供を受けることを認める。

(2)生殖補助医療目的で採取された未受精卵で同目的には利用されなかったものや非受精卵の利用

 生殖補助医療で利用されなかった未受精卵や非受精卵の利用について、生殖補助医療の状況とそれに伴う女性の身体的負担及び精神的負担を踏まえて検討した結果、(1)〜(4)のとおり提供を受けることを認める。
(1) 非受精卵
(2) 形態学的な異常により利用されない未受精卵
(3) 卵子保存の目的で作成された凍結未受精卵
(4) 形態学的な異常はないが利用されない未受精卵

図

(1) 非受精卵

凍結された非受精卵
 → 生殖補助医療が終了し、廃棄することの同意が得られている場合に、適切なインフォームド・コンセントを受けて、提供を受けることを認める。

凍結しない非受精卵
 → 生殖補助医療の過程でインフォームド・コンセントの手続きを行うことによる精神的負担を考慮し、自発的な提供の申し出がある場合に限り、適切なインフォームド・コンセントを受けて、提供を受けることを認める。
 自発的な提供の申し出
 研究者や医療従事者が関与することなく、一般的に入手し得る情報(ホームページや病院に掲示されるポスターなど)に基づいて、自らの判断により提供を申し出る場合を意味する。

(2) 形態学的な異常により利用されない未受精卵

 顕微授精の際に、形態学的に明らかに異常がある未受精卵を選別して媒精しない場合は、非受精卵と同様の考え方と手続きにより、提供を受けることを認める。

(3) 卵子保存の目的で作成された凍結未受精卵

 疾患の治療等のため将来の妊娠に備えて凍結保存された未受精卵が本人の生殖補助医療に利用せずに廃棄することが決定された場合、適切なインフォームド・コンセントを受けて、提供を受けることを認める。

(4) 形態学的な異常はないが利用されない未受精卵

 精子の数が少ないため媒精させる未受精卵の数を限定するなどにより、利用されないこととなった未受精卵
 → (2)の形態学的な異常により利用されない未受精卵と同様の考え方と手続きにより、提供を受けることを認める。

 患者本人の自発的意思で媒精する未受精卵の数を限定することにより、利用されないこととなった未受精卵
 → 医師が患者に何らかの圧力をかけるおそれ、生殖補助医療の成功率の低下のおそれ等を考慮すると、社会から疑惑を受ける可能性があることから、認めない。


 研究に関係する者からの未受精卵の提供の取扱い

研究当事者や研究実施機関と何らかの関係のある者から提供を受ける場合、提供者に対して圧力がかかる可能性
↓
研究当事者等と関係のある者からの提供を受けないこととし、提供を
受けない範囲を具体的に提示


○ 未受精卵の提供に係るインフォームド・コンセント

 未受精卵の入手の方法に対応して、インフォームド・コンセントの同意権者、時期、撤回可能期間、説明方法、説明内容、配慮事項等について具体的に提示。
 卵巣の摘出や不妊治療などの過程で、未受精卵の提供についてインフォームド・コンセントを受ける場合には、説明担当医師及び連絡・調整等を行うコーディネーターを配置。




第7章 未受精卵の提供における無償ボランティア


総合科学技術会議意見

 無償ボランティアからの未受精卵の採取は、提供する女性の肉体的侵襲や精神的負担が伴うだけでなく、人間の道具化・手段化といった懸念も強まることから、原則、認めるべきではない。

 総合科学技術会議の検討過程での意見

(1) 女性の患者であれば、自己未受精卵も一つの入手経路。
(2) 患者の家族からの提供は十分にあり得ること。家族からの提供が希望してもできないことは問題。
(3) 無償ボランティアからの提供は原則として認めるべきではないが、プレッシャーからではなく、純粋に提供しようという家族もあり得ると考えられることから、どういう場合に認め、どういう場合に認めないかという制度論にもっていくべき。

作業部会における検討

 
人クローン胚研究を進める上では、
比較的状態の良い未受精卵を利用
することが望ましい。
↓
無償ボランティアからの未受精卵
の提供を検討すべき。
←→


提供者が受ける身体的負担
と精神的負担を考慮すると、
無条件に認められるものでは
ない。


 作業部会において、提供者が受ける身体的負担と精神的負担と、人クローン胚研究の状況を併せて考慮し、無償ボランティアからの未受精卵の提供の例外的取扱いについて検討。

医療の場合

   利益(医療による人命の救済等)が、提供に伴うリスクを上回ると認められる場合に、無償ボランティアからのヒト組織の提供が認められている。(骨髄移植や生体肝移植など)

医学研究の場合

   研究の成果が医療に応用される可能性が十分に見込まれるなどの段階に至り、将来の医療を通じて得られる利益がより確かなものとなれば、医療と同様の考え方を適用することが可能。
→  人クローン胚研究についても、将来的に研究によって得られる利益がより確かものとなった場合、原則禁止とされている無償ボランティアからの提供を例外的に認めて良い場合がある。


人クローン胚からのES細胞
樹立の成功例がない研究の現状

→
無償ボランティアから未受精卵
の提供を受けて研究を行う科学
的妥当性及び社会的妥当性があ
るとは認められない。

当面は無償ボランティアからの未受精卵の提供は認めない。


 将来的に医療に応用される可能性が現在と比較して大きくなった場合

 無償ボランティアから提供を受けて研究を行う科学的妥当性が認められる場合があり、このことに社会的理解が得られれば、社会的妥当性も認められる。
→  今後、無償ボランティアからの未受精卵の提供を例外的に認める条件等について、作業部会において引き続き検討。

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