06/11/28 労働政策審議会労働条件分科会 第69回議事録 第69回労働政策審議会労働条件分科会   日時 平成18年11月28日(火) 17:00〜 場所 厚生労働省17階専用第18、19、20会議室 ○分科会長(西村) ただいまから、第69回「労働政策審議会労働条件分科会」を開催 いたします。本日は、田島委員、奥谷委員、原川委員が欠席されております。本日の議 題に入ります。本日は、労働契約法制及び労働時間法制の残りの論点について、ご議論 いただきたいと思います。労働時間法制については、前々回の分科会において、資料No. 1の「今後の労働時間法制について検討すべき具体的論点」の3頁ですが、企画業務型 裁量労働制の見直し、管理監督者の明確化、事業場外みなし制度の見直しの論点につい ての議論が残っております。最初に、この労働時間法制の残りの部分をご議論いただい て、続いて労働契約法制の議論をお願いしたいと思います。最初の3つの問題、労働時 間法制の企画業務型裁量労働制の見直し以下について、ご意見があればお願いしたいと 思います。 ○小山委員 企画業務型裁量労働制の見直しで、特に中小企業についてはということで、 その範囲を緩和するかのような記載があるわけですが、実際どういう業務があって、ど うしていまの制度ではいけないのか、そのご主張がよくわからないのです。手続が問題 なのか、対象の範囲の問題なのか、あるいは運用上の問題なのか、仕事の仕方の問題な のか、いまの企画業務型裁量労働制で何が見直すべきことなのかということの使用者側 委員の皆さんのご主張を、改めてお聞きしたいと思います。と同時に、この素案ではそ の範囲について、「主として従事する労働者について」という書き方をしているわけです が、これは具体的にどういうことを指すのかご説明をいただきたいと思います。その2 点です。 ○監督課長 まず、資料の説明からさせていただきます。資料No.1の最後の頁の(1)の点 について、いまご意見があったと思います。私どもが提案した「事業の運営に関する事 項についての企画、立案、調査及び分析の業務」に主として従事する労働者について、 中小企業についてその辺を拡大してはどうかということですが、現在の企画業務型裁量 労働制の対象労働者は、企画、立案、調査、分析の業務に常時、常態として従事する、 いつもそれをやっていることが必要とされているわけです。中小企業の場合、組織が未 分化であるということから、確かに1人の労働者の方が企画、立案、調査、分析の業務 をやっているけれども、そのほかにも普通の人事の業務や普通の財務の業務などをやっ ている場合があるわけです。そうした場合には、この「常態として従事する」というこ とに当てはまらなくなると思いますので、そういう組織の未分化に着目した、より制度 の本来の趣旨に沿った運用ができる範囲での見直しが必要ではないか、というのが(1)の 提案の内容です。  続きまして、ご質問のありました「主として」ということですが、当然、企画業務型 裁量労働制ですので、企画、立案、調査、分析というのは適正にやっていただくわけで、 そういう制度の趣旨を損なわない範囲で、ほかの業務をやっている場合もいいのではな いかということです。とにかく趣旨を損なわないということで、例えばとして対象業務 に従事する時間が全体の相当程度を占めていることとか、毎日、企画、立案、調査、分 析をやっていただいているということも1つ、「主として」の内容として考えて提案した 次第です。 ○八野委員 いまのところにも関連するのですが、そういう業務の分け方で、実際この 対象の人たちを明確にすることが可能なのかどうかということと、企画業務型裁量労働 制というものが現在あって、その区分を中小の所に対してはこのようにやって広げると いう、対象範囲を企業規模で違うものにすることが、時間法制として本当に適している ものなのかどうなのか。自分の考えとしては、1つの働き方を労基法の中で決め、1つ の企画業務型裁量労働制という中でやるのであれば、そこは大も中小もあまり変わらず 見ていくものではないか。それが本来の考え方ではないかと思うのです。今回、ホワイ トカラーも自由な云々という働き方も含めて、年収で見たり、企業規模で見たりという ことが1つの流れとして出てきているのですが、その辺のところについてちょっと疑問 を持ちますし、いま労働側で考えている考え方とも違うので、その辺の説明をお願いし たいと思います。 ○監督課長 まず、業務の内容の区分が可能かどうかということですが、これは主とし てその業務でやっていることについても、当然労使委員会で決議していただくわけです ので、まず労使で話合いをしていただいて、こういう方々は確かに主としてやっていら っしゃる立場の方であるというのは、そこの事業場において判断していただけるもので はないかという具合に考えているわけです。  2つ目の中小企業で対象範囲を分けることがいいのかどうかというご議論ですが、私 どもは企画、立案、調査、分析という業務を常時やっている方ということで、この企画 業務型労働裁量制を持っているわけなのです。制度の本質的な考え方として、4つの業 務を組合せでやっている方については、やはり労働時間の裁量の範囲が非常に大きいの ではないかということを考えてやったわけです。ただ、中小企業の場合には、人数が少 ないといいますか、組織が未分化という観点に立つと、そういう業務はもちろんやって いるのだけれども、それ以外の業務もやらないと成り立たないと、極論すればそういう こともあり得るのではないか。そういうことを考慮すると、制度の本質的な部分を貫徹 した上で、多少、中小企業の実態に応じた、そこの部分の特例的なものをやっていくこ とは、制度の本旨に沿ったものとして合理的なものではないのかという具合に考えて、 提案した次第です。 ○渡邊佳英委員 企画型裁量労働制の対象の業務についてですが、先ほどの議論にもあ るように、中小企業では1人の従業員でいくつもの業務をこなすことが多いので、企画、 立案、調査及び分析に限定している対象業務を拡大すべきだということは、いままでも 主張してきました。資料では、企画、立案、調査及び分析に「主として従事する労働者」 とありますが、中小企業に浸透させるためには「主として」でなくて、「企画、立案、調 査及び分析に関係する業務に従事する労働者」にすべきと考えております。つまり、企 画業務に関連する業務すべてを対象とすべきであって、そうすればもっと多くの企業が 企画業務型裁量労働制を使える制度になるのではないかと思っております。 ○新田委員 いまもお話があったのですが、いまの時点でさまざまな問題が起こってい ますね。派遣でも、あるいは期間でも、いろいろな問題が報じられていますが、これか らこうしたことを考えていくときに、「主として」とか「中小企業」などというようなあ いまいな決まりを作っていくべきではない、というのを強く感じています。それぞれい ろいろな形で人を使って、そして業績を上げて配分もしようと考えておられると思うの ですが、片一方でいろいろな弊害が起こっているというときに、いま申し上げたような 形での曖昧な決まりを持ち込むというのはよくないのではないか。特にこれは前々から 私たちが言っていますように、逆に事業所の規模で区別のしようがないのではないかと 思うぐらいです。そういう意味で、労使決議というのもあるわけですから、いまの企画 業務型裁量労働制のところをしっかりとやっていかれたらどうかと私は思っているわけ です。お伺いしても、いま渡邊委員もはっきりと主としてでなくてすべてだとおっしゃ ったわけですが、そうするとどこまで広がるのかというおそれも感じるわけです。そう いう意味で、曖昧な形で広げていくということではいけない、というのを強く感じてい ます。 ○小山委員 先ほどのお話を聞いていると、中小企業で働く方は、そんなに裁量を持っ て仕事をしておられるのかどうなのか。私どもは中小の労働組合を多く組織しているわ けですが、中小の場合、むしろそんなに幅がない働き方のほうが多いわけです。裁量が なければ裁量労働制でないわけですから、そこのところが「主として」と言って、本当 にそこに裁量があるのか、ないのかということがいちばん問題だと思うのですよ。本当 に裁量を持って、今日は遅めに来て帰りは遅くしましょうとか、そういう時間配分を自 由に設定するような働き方というのは、ほとんどできていない。やはり始業時には来て いなければいけないし、定時の時間までいて、そのあと残業するという形でみんな働い ているわけですよ。そこに裁量がなければ、企画業務型裁量労働制を使う意味がないわ けだから、本当にそういうところに裁量があるというように厚生労働省として調査し、 分析をしたのかどうか。そこのところを教えていただきたいと思います。 ○監督課長 企画業務型裁量労働制を採用している企業については、いくつかアンケー ト調査をしたところがあり、その企業の実態も一部見たところはあります。確かに中小 企業はいろいろな企業があるわけで、小山委員がおっしゃるように、始業時に来て終業 時まで残っているというような中小企業は、もちろんたくさんあるわけです。そういう ところは、現在でも企画業務型裁量労働制は入っていないし、今後、拡大したところで そういうのが入るわけでもないということは、裁量がないという意味ではそういうこと になろうかと思います。  ただ、中小企業の内容で、私どもが1つ感じたところを申し上げますと、いわゆる大 企業の子会社等で、設計といいますか、プランニングみたいなものをやっているような 会社の事例として、現在でも比較的人数の少ないところで裁量のある働き方をしている 企業があると思います。もしかしたら多少誤解があるのかもしれませんが、もちろん裁 量があるかどうかというのはポイントですので、いま裁量権のある仕事はしているけれ ども、ほかにプラスして普通の庶務みたいなものをやらなければいけないなどというケ ースを典型として、私どもは考えているわけです。おっしゃったように、始業時に来て 終業時までずっといなければいけないという生産現場的なものについては、今回広げた ところでは入ることにはならないということです。 ○小山委員 「主として」という形を許せば、一定でもこうした業務に就いていれば裁 量があるのだというように、あたかも裁量があるかのように認めることになるではない ですか。それ以外の仕事に、裁量制があるのか、ないのか。いま言った例えばいろいろ な庶務的な仕事などという業務に、本当に裁量があるのですか。 ○監督課長 いま「主として」という所で申し上げている部分で説明させていただくと、 庶務的な部分については、基本的にはここで言うような裁量はないと思います。裁量が ある部分が「主として」で多い部分と、それにそうでない部分が少しくっついている場 面を想定して提案申し上げているところです。 ○島田委員 中小企業の範囲というのは、どのように考えられているのか。要するに製 造業とサービス業によって、たしか中小企業の範囲が違いますよね。どう考えておられ るのか教えていただきたい。 ○監督課長 中小企業の範囲については、委員がご指摘のとおり、各それぞれの法律に よっていろいろな範囲があると承知しております。代表的なものとしては300人以下で、 一部の業種についてちょっと人数が上下しているパターンと、事業場単位で100人以下 とか何百人以下というパターンがあると思います。この制度の中小企業の具体的な範囲 については、現在のところは中小企業ということで、どちらにするかについては私ども としては検討中ですので、そういうところも含めてご議論していただければありがたい と思います。 ○島田委員 規模的に言って、製造業だったらこんなにあるのに、流通業、小売だった らこんなで中小と見られている。  それも含めた中で、こういう労働基準法の中で区分けをすることは、やはりおかしな 法律を作ると。趣旨はある部分わかるのですが、そういう部分を作っていった法律が、 基準法と言われる法律で、例外の例外を段階的にいっぱい作ってくることがいいのかと いうことは、事務局なり、公益側の先生方もその辺を本当にどう思われるかはお聞きし たいなと思っています。基準法の精神から言って、本当にいいのですかと。公益の先生 に対してお聞きしたいと思います。 ○渡辺章委員 現行の労働基準法40条は、ご案内のように法定労働時間について、事業 の種類と規模によって例外を作ると。しかし、それも1980年代後半、1990年代の約10 年を通してだんだん縮小して、週当たり労働時間の幅を縮めてきたわけです。労働基準 法としては、中小企業かそれ以外かによって、できる限り区別をしない方向に一生懸命 努めてきて、まだ多少残っているけれども、今日があると。企画型裁量労働を導入して、 特定の労働時間のシステムに大企業と中小企業で区別をするということについては、確 かに労働基準法の立場からいえば異例な取扱いになるであろうということは、私も感じ ます。  ここについて質問をしたいことなのですが、その主として従事する労働者について、 企画業務型裁量労働制を適用することができることとしてはどうか。対象範囲である労 働者について、適用拡大をしてはどうかと書かれているわけですが、現行は労働者につ いては、その業務を適切に遂行する能力があるという、適正遂行能力も要件にしており ます。それから、同じようなことですが、当該業務を遂行する知識・経験というのも、 対象範囲である労働者の要件として、現行法の中に書かれているわけです。  (1)は「企画、立案、調査及び分析の業務に主として従事する労働者」を指摘している わけですが、現行規定が持っている労働者の能力や知識・経験等を有するという要件に ついては、これはそのまま残るということなのでしょうか。それとも、そうでないのか。 ○監督課長 現行法の規定はそのまま残りますので、いま書いてあることは全部これに オンされているわけです。だから、現行法に付加するところだけを取り出して書いてい るので、これだけしか書いてありませんが、当然、現行法の38条の4の規定の条件は全 部かぶってくるということです。対象業務の所について、ここの提案の趣旨と申します のは、企画、立案、調査、分析で、能力のある人がそういう業務に就いていると。ただ、 能力があって、そういう業務をやっているのだけれども、ほかの業務もちょっとやって いるというところを広げるという趣旨ですので、ご質問のほかの要件は全部かかるとい うことです。  島田委員からご指摘がありました、労働基準法の考え方との関係のところですが、労 働基準法でこの制度を導入した趣旨というのが、私どもとしては、いわゆる企画、立案、 調査、分析の業務をやるときには、その業務について裁量性が非常に大きいので、その 方のご判断でやっていただくという制度の趣旨があるわけです。ただ、そういうのを常 時やっていただくということについては、中小企業というか企業規模にはもちろん着目 しているのですが、むしろ組織の体系として、いろいろな仕事をやらざるを得ないとい うことから、もともと制度が導入しにくいということがあるのであれば、この企画業務 型裁量労働制の趣旨を損なわない範囲で、最小限の区別をすることも可能ではないかと いう趣旨での提案です。 ○長谷川委員 今回、「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の 業務に主として従事する労働者」、これは実際の運用になったら、中小企業は大混乱する と思います。主従の関係というのは、この間のいろいろな法律で登場してくるところ、 例えば労働契約承継法の「主たる業務と従たる業務」のときも、大論争になったわけで す。主と従というのをどのように見るのか。それから、派遣法のときの一般業務とその 他の業務の割合についても、どのように考えるのかという議論がありました。  今回のこの「主として従事する労働者」というのは、企画、立案、調査を主ですよね。 その主というのは、どのぐらいを主というのか、従というのはどうなのか。これはまた 大論争になって、実際は本当は中小企業で使おうと思っても、ここのところの解釈をめ ぐって、混乱するのではないかと。本来、労働基準法というのはシンプルで、誰が見て もわかりやすいものにすべきなのに、また厄介な複雑なものを持ち込むことについて、 本当にいいのかどうなのかという疑問があるのです。  もう1つは、企画、立案、調査及び分析の業務プラスアルファの場合の業務というの が、例えばこれが主だから90で、その他は10といったときに、その10のその他という のはどういう業務なのか、これは見えないのではないかと思うのです。だから、労働契 約承継法のときの主従の関係もそうだし、派遣もそうだし、今回もこれでまた主と従と いうのがでてきました。これをどのようにするのか。主と従というのは何で示すのか、 示していただきたい。 ○監督課長 現在のところ、この主としての所は先ほども説明しましたように、対象業 務に従事する時間が全体の相当程度を占めていることが確保されていることと、基本的 には毎日その対象業務に従事していることを考えております。具体的には、その内容に ついては当然、各企業において労使委員会で決議していただく。そこの企業において、 この労働者はこういう業務にこのぐらい従事していると、労使の間で決議していただい て、その決議の内容については労働基準監督署に届け出ていただくことになります。そ ういうことを通じて、この方が主として従事している業務はわかるのではないかと考え ております。 ○長谷川委員 いまの説明ではわからないですよ。だから、企画、立案、調査及び分析 に90%、9割やっていて、あとの10がその他だったら、例えば先ほど総務か何かがそ の他になっていましたが、そういうものなのか。それとも6、4なのか。主たるという のはどのように、判断していくのか。例えば監督官が事業所に入ったときに、主と従と いうのをどういう判断基準で判断するのですか。 ○監督課長 基本的には労働時間ですね。対象業務に従事する時間が全体の相当程度を 占めるということで、それが9対1になるのか、6対4になるのかは、「主として」の解 釈で少しご議論があるところです。それは決めなければいけないことですが、労働時間 の状況の把握ということを通じて、履行確保を図ることを考えております。 ○紀陸委員 前から申し上げていると思うのですが、企画業務型裁量労働制の適用度合 というのですか、非常に少ないですよね。その原因が、基本的に非常に使い勝手が悪い。 この使い勝手が悪いというのは、実はいま問題になっている中小企業の場合だけでなく て、全体的にそういうことだと思うのです。例えば、いま「適正な導入のために」とい う中に具体例が挙がっているのです。1つの例ですが、広報担当の場合に、広報担当の 企画、立案業務、そういうところは企画業務型になるのです。ただ、その場合に、対象 業務となり得ない業務の例として、広報誌の原稿の校正等の業務。そういうものは広報 担当の業務で企画裁量の中に入ってこない。だけど、常識的に考えて、広報担当の人は 自分で企画を立てて、取材もして、かつゲラの校正など、全部一連の流れで作業します よね。ところが、こういうものが入っていると、これは対象たり得ない。それは本来お かしいので、これが広報の話だけでなくて、営業の場合にもありますし、財務・経理の 関係の仕事でもある。実務的な面が入ってくると、これは企画、立案の対象ではないと、 そこが問題なわけですよね。  だから、仕事の内容によって、何割で一律に線を引くなどということではなくて、か なり庶務・実務にかかわる部分が混じっていると、全体的にそれははねられてしまうと いう運用になっているので、こういうのがあるから非常に対象にしにくい。これは大企 業であろうが中小企業であろうが、仕事の塊というのはそんなに違うわけではなくて、 ガイドライン本来としてはこういうところの要件を少し緩めて、もっと柔軟にできるよ うなことにしないと、対象事業所数も、対象従業員の方々の数も上がってこない。導入 されて以来、これはほとんど上がっていないのではないかと思うのです。ここは直して いく。  かつ大事なことは、いまおっしゃられたように、全体で裁量しながらやっているわけ ですので、裁量制の幅が仕事の内容によって違うでしょうけれども、それがあれば仕事 の全体の塊として、すべて企画業務型裁量労働制の対象にしていくという点をまず見直 すことが第1だと思います。だから、何が主で中小企業がどうのこうのという論議は、 実はあまり意味がないとは言いませんけれども、その辺より使い勝手が悪い原因がどこ にあって、どうすれば使い勝手が良くなるのか。これは手続面ももちろんありますが、 そうでない根本的な対象範囲のところをどのように考えるかという点がいちばん大きな ネックになっているのではないかと思いますので、その辺の見直しをお願いしたいと思 っております。 ○島田委員 いまのご意見は、ある面から見ればそうかなと思うのですが、法律ができ たから、それを100%、あるいは50%以上使わないと駄目だということ自身がおかしい のであって、利用がないからその法律は良くない、あるいは駄目なのではなくて、そう いう働き方が本当に必要だったかどうか。つまり、それをいま少ないから広げるために どうするではなくて、いまの働き方を見て、本当にこの裁量制が要るのですかと。正直 言って、いま言われたいろいろな業務を見たときに、それは単に経営側から見て働きさ せやすいという議論だけであって、労働側から見たら通常働いている範囲内で、あるい はそれを超えた部分で残業するのだったら残業で、なにしろ処理していく、すべての成 果を出していく。裁量にする必要はなくて、それでもおかしくないわけです。本当にそ こまで議論したかというと、していない。ただ、使いやすい、使い勝手がいい、そうし たほうがという議論になっているのではと思います。 ○紀陸委員 そういうことではなくて、裁量労働制に対する従業員の方々の評価という のは、何回かアンケートに出ていますよね。ちなみに66回ですか、この資料の中にもあ りますが、適用労働者の方々が自分たちの能力の発揮に役立つと思ったからこれを是と したのだと、あるいは効率的に仕事が自分で進められるので、時間全体を短くすること ができると思ったなど、適用を受けている人の面ではそういう方々の反応の評価が非常 に高いわけです。対象になっている方々は、その中にいろいろな意味を感じているわけ です。その点は、私どもとしても決して企業の都合だけというのではなくて、適用され ている従業員の方々、社員の方々がこういう評価をしているという点は、見逃してはい けない点だと思うのです。 ○島田委員 だけど、もしある決められた範囲内を超えたら残業代を払ってくれるとい うことで、残業代なしと残業代ありとどっちを取りますかと言ったら、残業代ありを取 るかもしれない。自由な働き方の中で、かつ残業代を払われたらほしいですねと言うか もしれない。アンケートは、そういう聞き方をしていないです。 ○紀陸委員 いや、要するに時間の長短でない仕事の働き方をしている人たちが対象な のですよね。これはちょっと話の幅が違うのではないですか。 ○島田委員 いや、だからそれはいま言われたように、完全な企画業務型裁量労働制の 場合でしょう。今回の議論は、量は別にして、それをもうちょっと広げようという範囲 をやっているわけですよね。全部でない範囲を全部広げていくという話ですから、それ が本当に必要かと考えたときに、そういうアンケートでどっちというように、しようが ないのではないですか。 ○紀陸委員 いや、全部というのではなくて、これは労使で話し合って、この範囲とか この幅などと決めるわけですよね。無制限に全部などというのではなくて、対象の労働 者の方とか対象の仕事の範囲は話し合った上で決めるわけで、基本的に双方が納得づく でないと導入できないのではないですか。 ○島田委員 それはそうです。 ○廣見委員 先ほどのご質問とも関連するわけですが、いま紀陸委員のおっしゃったこ とで、確かに使用者側のお立場からすれば、こういう制度がある、なるべく使いたい、 使い勝手のいいという発想は出てくるのだろうと思うのです。労働基準法という性格を 考えれば、使い勝手がいいから増やすということではなく、これは労働時間の例外を定 めているわけですし、労働時間の柔軟化を制度として認めているわけですから、例外を 設けている意味するところをきちんと踏まえながらいくというのは、やはり大原則だろ うと思うのです。ですから、使い勝手があまり良くなくて広げたいということは、また 別の論点を含んでくる。要するに保護という観点から、いったいそれが適切なのかどう かということが非常に重要な視点としてあるべきだろうと思うのです。そういう意味で は、いま私はこの案はぎりぎりのところが出されているだろうと。裁量労働というのは、 ここでいう重要な事業の運営等にかかわる企画、立案、調査、分析ということで、いま 我々は考えているわけですが、中小企業みたいな組織の小さいところでは、それのみで やっている人だけに絞っていくと、非常に少なくなってくる。したがって、主としてそ ういうことをやっているけれども、他に比較的定型的な裁量労働ではない業務をこなし ている人であっても、一定範囲において、全体として裁量労働でカバーしていこうでは ないかということですから、確かに主たるというのはどの程度のものにするかは問題に なると思います。それはどこかの段階できちんと結論をして、指導なり監督をしていっ ていただく必要があるわけです。しかし、一定の主たるものを裁量労働としてやってい る、それプラス付加的な業務がある人についてまでは、中小企業については、ある意味 ではやむを得ず、現実を見て考えていきましょうということではなかろうかと思うので す。確かに望ましさから言えば、なるべく労働基準法は簡明であり、わかりやすいほう がいいと思いますし、一般的に言えば例外はないほうがいいということではありますが、 現実は中小企業の実態ということからすると、最小限の現実を踏まえた例外も、ある意 味ではやむを得ないものとして見ていかざるを得ないということはあります。そういう 意味では、これはぎりぎりのところかなと私は思っています。ただ、率直に言いまして 渡邊委員のおっしゃったような、主と従を反対にするような形で、裁量労働を一部だけ やっていて、ほかは定型でやっているのですが、それも裁量労働に入れてくれというの は、これは明らかにいきすぎだろうと思います。 ○小山委員 この問題については、議論しても平行線だろうと思うのです。この「主と して」ということは、結局、何割かは別として、裁量労働でない部分についても裁量労 働制にしてしまうということでしょう。そうすると、もともとの裁量労働制の趣旨に反 することになるわけです。ですから、そういう趣旨に反するような例外規定を設けるこ とについては、反対と言わざるを得ないですね。それと同時に、中小企業だからという 形で、労働基準法の中に2通りの基準を設けるというのは、そもそもこれは望ましくな いということで、このことも反対だということを明確に申し上げておきたいと思います。 ○石塚委員 1点だけ、企画業務型裁量労働制の見直しで、中小企業は特例だという位 置づけでされているようなのですが、これは先ほど島田委員のほうからあったように、 中小企業をどこで切るかということによるのですが、300人あるいは一定の規模を考え たときに、事業所の数から言ったら、日本は圧倒的に中小企業が大きいのです。もちろ ん概念規定によりけりですけれども。そうすると、中小企業だから特例ですと思ってい らっしゃるようですが、実は適用事業所から言ったら、日本は大多数がその特例になっ てしまう。大多数のことは特例ではなくて一般なわけです。  そうすると、労働基準法の最低限を規制する、簡明なものにするという趣旨からする と、ややおかしくなってしまう。40条は、特例ではなくて移行措置なのです。ある一定 基準があって、そこに移行させるのに現実を判断して、相当長い時間をかけても移行し てきた。だから、ダブルスタンダードをつくるということと移行措置と、これとは全く 性格が違うのだと思うのです。特例とおっしゃるけれども、実は中小企業の概念規定の 仕方によっては圧倒的多数になって、企画業務型裁量労働制の基準と実際上の違いがこ こに移ってしまうという現象が起こってしまうので、ここは相当慎重に考えて対応しな くてはいけないのだろうなと労働側としては思っていますので、重ねて申し上げておき ます。 ○小山委員 管理監督者の点についてお尋ねしたいと思います。ここでスタッフ職の範 囲の明確化と言っているわけですが、労働基準法の41条のどこかを改めるということな のでしょうか。法改正ということからいくと、どういうことを指しているのか。そのこ とをまずお聞きしたいと思います。 ○監督課長 現在ここに提案している内容については、法律の改正ではなくて、11月10 日にお示しした資料の中にある、通達の内容の整備ということを考えております。 ○小山委員 そうすると、ここでスタッフ職の範囲を明確にするなどと言っております が、それは具体的にどういうことを指しているのか。また、ライン職の管理監督者は、 いま実際上は法律にあるよりも広い、いわゆる管理職という形で労働時間規制を適用除 外して運用している企業が、圧倒的に多い実態にあると思うのです。そのことに対して、 労働者としてどのように考えているのか、あるいは監督行政の中でどうしようとしてい るのか、併せてお聞きしたいと思います。 ○監督課長 通達の中身については、資料No.3の38頁です。これについて、例えば40 頁のいちばん上では、「一〜四と銀行内において同格以上に位置づけられている者であっ て、経営上の重要事項に関する企画立案等の業務を担当する者(スタッフ)」、あるいは 41頁のいちばん上の「(1)から(4)と企業内において同格以上に位置づけられている者であ って、経営上の重要な事項に関する企画、立案、調査等の業務を担当する者(いわゆる スタッフ職)」という具合に通達に書いてあるわけです。こういったところを基本的には 39頁の(5)の所にある現在の通達で、これを直して整備をしていくということを考え ているところです。ラインの管理監督者については、実態的な判断ということで、引き 続き現行の通達に基づいて、適正な運用を図ってまいりたいと考えております。 ○小山委員 そうすると、この都市銀行等の場合のように具体的に例示したものを、一 般の分野にも具体的に書いて、通達を用意するということだということですか。都市銀 行と同じような書き方をするということですか。 ○監督課長 基本的にはそのようなことです。 ○紀陸委員 以前は管理監督者の範囲については、従来の仕組みを変えないということ でした。ただ、深夜割増については、適用から落とすという話がどこかであったと思う のですが、その点だけよろしくお願いしたいと思います。既に深夜などの区分けは、か つてとだいぶ違ってきている状況なので、エグゼンプションと言うからには、時間外割 増云々という適用から外すべきだと考えております。その辺も併せて、法改正の視野に 入れていただきたいと思っております。 ○小山委員 いま紀陸委員が言われた点は、前回も申し上げたとおりで、いままであっ たものを何で変えなければいけないのかという理由が、明確に示されていないのです。 理由のない変更は当然すべきではないと思いますし、あるならば国民に説明できる中身 を言っていただきたいと思います。 ○紀陸委員 要するに労働環境はどんどん変わってきているということで、職場におい て、真夜中から仕事をスタートする人などがありますよね。いわゆるグローバル化とい うのは、働き方が全然違ってきているということですから、個々人の仕事のやり方が変 わってきている中で、かつそもそも管理職の方々というのは、エグゼンプションという ことが理屈であるとすれば、本来もともとは深夜もそういうことになるべきであったの に、私はこの経緯はわかりませんけれども、夜中はやりませんというのが昔はあったの だと思うのです。だから、ここは残しましょうということだったと思うのです。働き方 が変わってくれば、当然除外していいだろう。かつ、それによって、例えば健康確保の 措置が疎かになるなどということであれば、またそれは話は別でしょうけれども、何回 も申しますように、安衛法でかなりいろいろな手当ができています。そういう観点から 見れば、こういうものは逆に変えるべきものという対象になるのだと思うのです。その ほうがかえって、本当の意味で基準法が最低基準だという所以を固持できるのではない かとすら思いますよ。 ○八野委員 いまのは全く理由になっていないのではないかと思います。深夜というと ころに対して、労働が過剰にあるということについては、日本の中で朝と昼と晩と深夜 というのは変わらない状況にありまして、仕事が集中するのも昼間です。グローバル化 に対応するということは、一定の人間がやっていくことは、企業経営として必要なとこ ろもあると思いますが、内需中心の企業も多くあるというところがあります。そういう ところから見たときに、労働環境が変わってきているというのは、1つには変えてきて いるというところもあります。そこの中で、いまの法律の中でどのような働き方をして いくかということが求められているわけで、そこの規制を外すことがいますべてに求め られているかどうかというと、かなり疑問を感じざるを得ないというところをもう一度 言っておきたいと思います。  先ほどの企画業務型の裁量労働制のところでも、いま非常に不明確な区分の中小企業 というところに対して入れていく。これがもともとの企画業務型裁量労働制の趣旨とは 違いがある。それと業務の分配等も不明確であるというところで、かなり曖昧なものを 入れていこう、または排除していこうという考え方が、1つの中に貫かれているように しか受け取ることができません。1つの規制を外すということは非常に重要なことであ って、そこはいまのグローバル化が進んだからということでの企業の業務遂行の趣旨だ けに従うのではなく、そこで働いている人ということを考えてやるべきであろう。そこ が労働基準法の中に基本的に入っていると思いますので、その辺のところについては、 もう一度お考えをまとめていただいたらどうなのかと思います。 ○小山委員 1つだけお聞きしておきたいのですが、都市銀行の基準でいままで通達が 出されていて、管理監督者となるのは本部の課長クラスということですから、このスタ ッフ職の管理監督者というのは、いわゆる本部の課長と同格の者だということを明確に 書こうとしているという意味合いなのかということが1つです。しかし、スタッフ職と いうことでその要件を広げていくと、実際に労働時間の規制を除外してしまうわけです から、本当にそこで自律的な決定権限を持って働いているような実態が、あるのか、な いのかということを見なければ、一概には言えないと思います。それと同格というのは 何で見るかよく知りませんが、賃金で見るのか、企業内の1つの格付けで見るのか、い ま非常に複雑になっていますし、これが本当にきちんと1つの基準として見られるのか どうなのかというのも疑問なのです。その辺のところを含めて、ちょっとお答えをいた だいておきたいと思います。 ○監督課長 私どもとしては、現在のスタッフ職の扱いという39頁の(5)の通達の内 容で、「法制定当時には、あまり見られなかったいわゆるスタッフ職が、本社の企画、調 査等の部門に多く配置されており、これらスタッフの企業内における処遇の程度によっ ては、管理監督職と同様に取扱い、法の規制外においても、これらの者の地位からして 特に労働者の保護に欠けるおそれがないと考えられ」ということ。これは抽象的に書い てあるわけですが、ここの部分をもう少し明確化することによって、その区分を明らか にしていくことができるのではないかということを考えているわけです。その1つの手 順として、都市銀行の場合という所でかなり明確に書かれているわけですので、こうい うものを参考にしながら、基本の原則、適用除外の趣旨、あるいは実態に基づく判断と いうところを組み合わせることによって、中身としてはクリアなものになっていくので はないかという具合に考えております。 ○小山委員 結論は、あまりスタッフ職まで広げるべきではない、という考えであるこ とを申し上げておきたいと思います。 ○分科会長 それでは、事業場外みなしについて、いかがでしょうか。 ○紀陸委員 いろいろな業界から運用のスムーズさというのですか、そういう声が出て おりますし、外で働いていて最終的に事務所で処理をするということも、実際問題とし てあり得るわけですね。だから、一部、事業場内の仕事が混ざったからといって、それ を全部適用対象外に置くというのは、あまりに日常の業務の仕事のやり方を無視するも のではないかと思っております。この辺は運用の弾力性というのですか、そういうもの をお願いしたいと思っております。 ○長谷川委員 原則的に事業場外と内は、別々に時間把握すべきだと思っています。だ から、原則は合算すべきではない、包括的なことはやるべきではないと思っています。 ○紀陸委員 仕事の性質などというものが、先ほどの主たるとか従たるとかというのが ありましたね。少し違ったものが混ざっているからといって、それがゆえに全体が違っ た色合いになってしまうというのは、本来ちょっとおかしい。こういうのは、そのよう な話の1つだと思うのです。 ○長谷川委員 紀陸委員の言葉を借りれば、非常にグローバル化されて、機械やいろい ろなことも高度に発達して、いま携帯電話を持っていない労働者なんていないわけです。 そういう意味では、どこにいようと労働時間の把握はできるようになったわけですよね。 かつて携帯電話がなくて、事業場外で働いていたとき、労働時間の把握ができないとい うときにこの制度ができたわけです。だから、使用者から見ると、労働時間の把握はし たくないと。それから、割賃も払いたくないというように聞こえてしまうわけです。  でも、何回も言っているのですが、この国の労働者の健康管理をすることは重要なわ けで、だから労働基準法は週40時間、1日8時間と原則を決めているわけですから、私 はそれを守ることが大前提だと思いますよ。だって、事業場外みなしも全部規制緩和し ろ、企画業務型裁量労働も規制緩和しろ、管理監督者も規制緩和しろ、そのほかに1年 変形があって、1カ月変形があって、1週間変形があって、労働時間規制はズブズブで はないですか。その結果、何が起きているかと、この間に何回も言ったではないですか。  だから、もしそういうことをしてほしいのだったら、まず過労死だとか、過労自殺だ とか、メンタルヘルスをゼロにしてくださいよ。ゼロにしたら、このように企業も努力 したから、もっと柔軟的に取り扱いたいと、それからしてくださいよ。でも、いまの現 状はそうではないでしょう。我が国の国民がどのように病んでいるか、はっきりしてい るではないですか。だから、全部柔軟にしてくれというのは、もう限界ですよ。この間 10年間、全部労働時間については柔軟化してきたではないですか。その結果がメンタル ヘルス、過労死、過労自殺、日本国民を何だと思っているのですか。 ○紀陸委員 そういう事態が基準法の柔軟化によってもたらされたのかというと、必ず しもそうではないでしょう。そういう因果関係がはっきりしているかという問題ではな いと思うのです。いろいろな職場によって違うかもしれませんが、仕事量が大きくなる、 あるいは性質が変わってくる、企業の競争が激しくなる。そういう中で、従来の労働環 境と違ってきている。基本的には仕事が個人、あるいはある部門に集中するということ だと思うのです。それはどうやって変えるのか。やはり会社の中で仕事の流れとか、個々 人のやり方を変えるなどということで対応すべき問題で、法改正をどうしたからといっ て対応できる問題ではない。  逆にいろいろな制度を改正することによって、それこそ個人の負荷を自分で計画的に 減らせるような手立てを考え得るところは、それを選択肢のめに加えたほうがいいであ ろうという話です。すべて諸悪の根源が基準法の柔軟化によって悲劇が起こっていると いうことではないのではないでしょうか。もっと大きな、何というか、経済的な動きと か、企業環境の変化、あるいは個々人の生活の仕方の変化とか、そういう問題に起因し ているのだと思うのです。法改正をしたら、それはもっと悪くなるとか、そういう因果 関係ではないと思っています。 ○小山委員 労働時間の問題でいくと、やはり長時間労働になってきているわけです。 紀陸委員はそう言われるけれども、それは人が減って業務量が増えているのです。それ が最大の問題です。裁量、裁量というけれども、業務量の裁量はほとんど持てないとい う実態がある。先ほど裁量労働制が入らないと言っているけれど、裁量のある仕事がな いから入らないだけであって、そういう側面もきちんと見ていただきたいのです。  これは前回の議論の課題になりますが、自由度の高い働き方にふさわしい制度につい ても、経営者団体の1つであります経済同友会が11月21日に出している意見書では、 同じことを指摘しているではないですか。仕事の裁量という点では、仕事の具体的な進 め方、手順について裁量を持つ従業員は多いが、何の仕事をするかという質、量やスケ ジュール、納期にまで裁量のある者は多くないのが現実である。これは経営者団体の経 済同友会がこういう意見を述べておられる。まさに、これが実態なのだろうと思います。 経営者の方もこういうように見ている。  実際にそういう裁量がないにもかかわらず、あるかのように言って労働時間制度を柔 軟化させていくのは、主客転倒した議論です。ほかのせいにするのではなく、いまの働 かせ方に問題があるのだ。社会の変化と一般的に言うけれども、どういう変化をしてき たかというと、本当に自由に働くことが絶対できないような、納期で客先からのクレー ムがあったら仕事が増える、という実態の中でみんな苦しんでいるわけです。  このときに、さらに規制を緩和するようなことをしたら、先ほど長谷川委員が言った とおり、ますます過労死や過労自殺、メンタルヘルスの負傷者が増えるということにし かならないではないですか。このことは再三議論してきたことです。いまや経営者団体 の中でも、こういうまっとうなご意見をきちんと述べておられるところもあるわけです から、この際、この分科会で議論してきた労働時間法制の見直しに当たって、新たな規 制緩和については削除していただきたい、ということを重ねて申し上げておきたいと思 います。 ○分科会長 時間の関係もありますので次のテーマに移ります。労働契約法制の残りの 論点について、事務局で改めて資料を作成しておりますので、事務局からその資料の説 明をお願いしたいと思います。 ○監督課長 資料No.2について説明します。今後の労働契約法制について検討すべき具 体的論点(2)です。前回の(1)の残りの部分ということです。  1、基本的な考え方。(1)労働契約の原則で、(1)労働契約は、労働者及び使用者の対 等の立場における合意に基づいて締結され、又は変更されるべきものであるものとして はどうかということ。(2)使用者は、契約内容について、労働者の理解を深めるようにす るものとすることとしてはどうか。(3)労働者及び使用者は、締結された労働契約の内容 についてできる限り書面により確認するようにするものとすることとしてはどうか。(4) 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に権利を行使し、 義務を履行しなければならず、その権利の行使に当たっては、それを濫用することがあ ってはならないこととしてはどうか。(5)使用者は、労働者が安心して働くことができる ように配慮するものとすることとしてはどうか。(6)使用者は、労働契約において雇用の 実態に応じ、その労働条件について均衡を考慮したものとなるようにするものとしては どうかということです。  2、期間の定めのある労働契約、有期労働契約の関係です。(1)使用者は、期間の定め のある労働契約の契約期間中はやむを得ない理由がない限り解約できないこととしては どうか。(2)使用者は、その労働契約の締結の目的に照らして、不必要に短期の有期労働 契約を反復更新することのないよう配慮しなければならないこととしてはどうか。(3)「有 期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」第2条の、これは労働基準法の告示 の関係ですが、雇止め予告の対象の範囲を、現行の1年以上継続した場合のほか、一定 回数以上更新された場合も追加するということとしてはどうかということです。  3、その他の労働基準法との関係です。(1)労働契約の即時解除に関する規定を労働基 準法から労働契約法に移行することとしてはどうかということで法律のことを書いてお ります。(2)就業規則の相対的必要記載事項の中に、出向を追加してはどうかということ です。これは労働基準法の改正ということです。(3)は、労働基準法の第36条とかいろい ろな条文で過半数代表者というのがありますが、この選出要件について民主的な手続に よることを明確化してはどうかということで、これは具体的には労働基準法の省令とい うことになります。  その他の資料については、従来出している資料を再度出しているものですので説明は 省略させていただきます。 ○分科会長 いま3つの点が示されたわけですが、最初の基本的な考え方、総則に当た るような部分ですが、これら論点についてご意見をいただければと思います。 ○石塚委員 契約法という法を作ろうというわけですから、総則の手前に、いわゆる定 義規定が通常なら入ると思うのです。だから、労働契約とは何かという入り方もあるで しょうし、労働者とはとか、あるいは使用者とはとか、原則の手前に定義規定を入れる べきだと思うのです。その辺の考え方を、どのように考えられているのかお聞きします。 ○監督課長 法律ができる場合は当然定義規定は置かれるものと考えられております。 具体的にどういう形で置くのか、定義規定として置くか、あるいは条文の中で、こうい う中身ですよ、という説明をするかというのは立法技術上の問題であると理解しており ます。これは各法律によっていろいろなパターンがあると考えております。 ○石塚委員 書くという前提で、現行の基準法の世界から言いますと、労働者も使用者 も、例えば例示的に言いますと基準法よりも労働組合法のほうが広いです。法の目的に よって労働者とか使用者の概念は当然違ってくる、これは当たり前だと思います。契約 法というのは、相当程度集団的な関係で律し切れないところがいろいろな問題が起きて きている。個別の関係だとかね。  そういう意味では、従来の労働者、使用者の概念と、相当広く定義規定をもってこな いと、もともとこの契約法を作ろうといった趣旨からして、あまり狭くしてしまったら 成り立たない。そういう意味では、相当程度集団的な関係のみならず、個別的な契約関 係が増えてきているという現実に照らして、それを立法化しようという趣旨を踏まえれ ば、具体的にこうだという案は持っていませんが、相当程度幅広く定義規定を置くべき だろうということだけを申し上げておきます。 ○渡邊佳英委員 基本的な考え方の(2)で、使用者は契約内容について労働者の理解を深 めるようにするものとするとありますが、現行の労働基準法でも労働条件の明示や就業 規則の周知を義務として定めております。この上、さらに使用者が契約内容について情 報提供をすることは、屋上屋であり必要のないことであると考えております。なぜ使用 者ばかり、このような義務を規定するのか理解に苦しむところであります。  それから、(5)で、労働者が安心して働くことができるように配慮とありますが、そも そも安心に配慮とはどのような意味なのか、ちょっとよく分からない。仮に、使用者に 安心への配慮義務を義務づけるのであれば、前回も話したように労働者にも義務づける べきであります。この項目についても前回議論したように、安全配慮義務の個別項目は 不要であり、総則で十分であるし、個別項目の安全配慮義務は削除すべきであると考え ております。  それから(6)です。これは労働契約に関するルールにおいて、労使が合意することと、 均衡を考慮することとは全く別問題であります。労働契約の考え方の基本とするのはそ ぐわないし、盛り込むべきではないと考えております。労使がその内容に合意をすれば 契約は成立するわけでありまして、仮に契約内容が嫌ならば合意しなければよいわけで す。したがって、この項目は削除すべきと考えております。 ○長谷川委員 何点か質問します。労働契約は労働者及び使用者の対等の立場における 合意に基づいて締結される、または変更されるべきものであるというのは、そのとおり ですね。ただ、これはいろいろなところから言われているのですが、労働者と使用者と いうのは、確かに対等決定、対等合意ですが、でも基本的には使用者のほうが圧倒的な 力を持っていて、労働者は情報とかいろいろな意味で対等ではないということをずっと 言われてきました。そのとき対等の立場における合意というのは、対等性を確保するた めにどういう方策を考えているのかをお聞きしたいのです。  (2)(3)も関わってきますが、この議論のときに、現在消費者契約のところでも言われて おりますが、契約を結ぶときに相手に対して情報を提供するとか、その提供の仕方とか、 それを決定するときに客観的に合意できる方法が、いろいろな研究者において研究され ていると思います。対等な立場における合意とか、契約内容について労働者の理解を深 めるようにするとなるわけですが、こういうものについてプロセスというか、もう少し ここは書き込むことが必要だと。使用者は対等だと言うのですが、やはり基本的には、 これはもう言われている話で、労働者と使用者はそんなに対等ではないわけですから、 この労働者の所を何らかの補強するものが必要なのではないかと思っております。  (2)の労働者の理解を深めるようにするものということが、もし使用者ができなかった 場合はどういう扱いになるのかをお聞きしたいです。(3)の所に、できる限り書面により 確認するとありますが、このできる限りというのは、どういうことをいっているのかお 聞きしたいと思います。  それといま渡邊佳英委員が均衡考慮のことを言われたわけですが、均等待遇、差別禁 止があるわけですが、均衡考慮と均等待遇、差別禁止の違いは何なのか。ここでいう均 衡考慮というのは何なのかをお聞きしたいと思います。前から労側は、要するに雇用就 労形態の異なることをもって差別してはならない、という禁止がいちばんいいと思って いるのですが、ここで均衡考慮となってきたわけです。この均衡考慮と、均等待遇、差 別禁止の違いをもう一度言ってほしいです。均等待遇は何でできないのかをお聞きした いと思っています。  もう1つ、いま石塚委員も言いましたが、労働契約法をつくる限りは、やはり経済的 従属関係にある労働者のところまで、私は対象にすべきだと思っています。 ○監督課長 いろいろありましたが(1)の所からまいります。基本的に労使対等と申しま しても現実問題として、やはり労使間に情報の質、量、交渉力において格差があるとい うのは、これはもちろんあるのではないかと思いまして、そういうのをなるべく縮めて いくといって、対等な立場における合意というのが原則であるというのが(1)に述べてい ることです。方策として具体的に何があるのかというのは、契約法という民事的な法律 の性格の中では、(2)にあります労働者の理解を深めていく場面でありますとか、(3)にお きます、いわゆる契約内容をできる限り書面で確認するというような内容で、対等な立 場というのを実現する方向にもっていけるのではないかと考えているところです。  労働者の理解を深めるは使用者に対してだけ書いてあるわけですが、現実問題として 労使間の、先ほど申し上げたような情報の質、量、交渉力に格差があるということと、 具体的に労働条件、いわゆる労働契約の内容を使用者が提示するのが一般的ですので、 そういった契約内容について、これはどういうことになっているのかというようなこと を、ご説明いただくなり、質問を受けたときには誠意を持って回答していただくとか、 そういうようなことを中身として、理解を深めていただくというのがよろしいのではな いかということです。  できなかった場合ということですが、これは労働基準法のように罰則のある規定では ありませんので、直接使用者がしなかったから罰則とか、そういうことはありません。 労使でより良い労働契約関係をつくっていただくために、それぞれにやっていただきた いという趣旨で、「深めるようにするものとする」ということで、何とかしなければいけ ないという表現にはなっていないということです。  (3)の書面の所ですが、「できる限り書面で確認する」ということについては、これはい ろいろな場面があるわけでして、個別労働紛争の場合でも契約内容がどうなっているの かよく分からないという場面があるわけです。労働基準法15条では書面明示は義務とし てあるわけですが、それ以外に付加的に、例えば変更の場合にやっていただくとか、労 働基準法15条と重なっていたり、それを少しはみ出した範囲で、実はこういうことにな っているのだよということを確認していただくということがあろうかと思います。ここ については具体的に、これこれこういう場合にということについては書いていないわけ で、これも労使で必要な場面に応じて、できる限りという範囲内で、そういうことを進 めていただくことがより良い労働契約関係の確立の助けになるのではないかということ です。  (5)の「安心して働く」ということについては、やはり労働者が安心して働くという普 通の日本語として書いております。例えば、いじめや、いやがらせ、パワーハラスメン トというのはないほうがいいわけですので、こういうのをなくすような何か配慮をして いただくというようなことも、この中身として入るのではないかと考えております。  (6)の均衡と均等と差別の禁止ですが、差別の禁止はもちろん禁止ですので、こういう ことをした場合に禁止という規範が働くというになろうかと思います。均等と均衡とい うのはどういう違いがあるのかというのは、一言で申し上げると、均等というのはイコ ールである、同じ取扱いをするということです。均衡というのはバランスのとれた取扱 いをするということであると考えております。私どものここのご提案は、労働契約にお いてその雇用の実態に応じ均衡を考慮したということですので、雇用の実態が違ってい れば、それと同じ程度の違いのバランスのとれた均衡が、ここに1つご提案をさせてい ただいているところです。  それともう1つ、消費者契約法との関係とか、嫌であれば労働契約を結ばなくてもい いではないかというご指摘もあったと思います。基本的に労働契約というのは、やはり 労使の方で円満に結んでいただくのが労働法としてのポイントであると考えております。 消費者契約法で、いろいろな場面でいろいろな手続を書かれているところもありますが、 多くの場面では、双方不満があったら契約を解消して何もなかったことにしましょうと いうパターンで終わるのが多いわけです。労働法の場合、そういうのは本来いちばん望 ましくない話で、お互いそういうところをよく理解し合って円満に継続していく、そう いうところを目指しているということで(1)〜(6)までの考え方が成り立つのではないかと いうことで、ご提案をさせていただいた次第です。 ○長谷川委員 対等な立場での契約の合意と、労働者の理解を深めるようにするという のは、いま課長が言ったより奥が深いのです。  例えば、今度FTAでフィリピンから介護労働者と看護労働者を1,000人受け入れる ことになりますが、フィリピンから介護士や看護師が来て労働契約を結ぶときに、彼女 たちや彼らが、ちゃんと理解できるように説明しなければいけないのだと思うのです。 まさに契約法のここの話なわけです。契約の説明、どういう賃金なのか、どういう労働 条件なのか、どういうところが宿舎なのかということを丁寧に説明する、そして契約内 容に合意するというときに、彼女や彼らがちゃんと納得できて、そうだというような環 境だとか、そういうことを言っているのです。だから、プロセスの話というのはそうい うことを言っているのです。  いま言ったようなことが、労働者も使用者からちゃんと説明されたことを納得して、 自分も「ああ、そうです」と、ちゃんと考えて契約を対等に合意できるというプロセス が重要ではないか。いま言ったことが(1)(2)(3)に書かれていることにきっちりと担保され るのかということを聞いたのです。 ○監督課長 私どものほうとしては、(2)(3)についてはいろいろな場面があると考えられ ております。もちろん長谷川委員のご指摘になった場面もあるかと思います。一般的な 書き方ではありますが、労働者の理解を深めるということと、できる限り書面で確認す るという、この2つの点を通じて、労働契約が円滑に締結されて継続されるということ が実現する方向で(2)(3)を考えているということです。 ○平山委員 前回もお話をして、また繰り返しみたいになるのですが、(5)は実際に企業 で実態として、こういうことを現実の場面で受け止めきれるかどうかということで意見 を言わさせていただきます。  労働者が安心して働くことができるようにと。安全配慮義務が前回は個別項目の所で 議論されていましたが、それがこちらの原則の所で、言葉も変わってということだと思 うのです。使用者として従業員が安心して安全に働けるようにと、これは労働安全衛生 法その他法律で規定されていることは当然です。基本的には安心・安全という場面をつ くることに努力する、これは使用者の基本姿勢です。こういうことが一般論で言い交わ される、対話として言い交わされることには違和感はありません。ただし、法律で安心 して働くことができるように配慮する、安心配慮義務になるのでしょうが。  先ほど課長が、いじめ、パワハラまでだと言われました。パワハラというのはどうい う定義をされた上で、いわゆる、国としてこういうことをパワハラというのですと、そ れに対してどういう手立というのを考えていますよというようなことは、たぶんないの だろうと思っています。そこも含むのですと言われました。  実際に働く場面で言えば、基本的には対人関係の中でいろいろな仕事をしていくわけ ですし、なおかつ上下関係がある。あるいは、意見の違うこともありますし、利害関係 が異なる中で答えをつくっていく。それはうまくいくこともあるし、自分のほうが、ど ちらかというと、引いたなみたいなことがある。やはり仕事の結末は必ずついていくわ けですからいろいろな局面があります。  いじめだ、パワハラだとまで言われますと、これは非常に主観的なところがある。性 格もあるでしょうし。俗に言われるようないじめとか、俗に言われるようなパワハラみ たいなことについては日常の人事管理の中であれしていきますが、それは本当に一般的 で、明らかに見えるものであって、個人がどう安心、どういうことが安心であって、何 が自分の不満であるかというのは非常に主観的です。  ある個人が訴えたことに対して、この条項をもって訴えられたことが本当に問われる のはどこまでの範囲なのか、これを使用者として配慮しなさいと言われるわけですから、 あまりにも飛躍が大きいと思います。法律で規定するのは飛躍が大きすぎると思います。 法令で安全衛生だというのは当然です。ただし、ここまで飛躍されますと、一体どうし たらいいのか。例えば日本中にどれだけの使用者がいるのですか。いじめだ、パワハワ まで入れて、この使用者の人たちにどうしろというのですか。これは法律で織り込むに は飛躍のしすぎだと思います。 ○石塚委員 総則というのは法律の顔ですから、相当重要な領域だと思います。いまの 委員の意見とは違うことを申し上げたいわけですが、(1)で労働者及び使用者の対等の立 場における合意に基づいてと、これは基本的な精神を謳っているわけです。(2)は非常に 意味深いので、労働者の理解を深めるようにするというのは極めて意味深いと思ってい ます。課長の答弁でいきますと、ともあれ円満に結んでという、何かそこだけになって しまう。総則である以上、もっと深みが必要であって、しかも従来の法律ではできない 対等な、いわば使用者個人、労働者個人に向き合ったときに、これを拠り所にして契約 関係を結んでいくというぐらい意味の深いものだと私は思っています。円満も重要だと 思いますが、例えば契約がクリアであって、変更する場合も極めて合理的な合意に基づ いて変更していくプロセスが重要だと思います。  先ほど長谷川委員もプロセスのことを言っていましたが、(2)の労働者の理解を深める と。この間ずっと議論してきたように、ある労働条件を変更しようとするときに、要す るに対等の立場で労働者は判断が下せなければいけないと思っていまして、そういう意 味ではプロセスもありますが、やはり情報公開などが重要だと思っております。集団と 集団が向き合うのではなくて、使用者と労働者が1人で向き合ったときの対等なクリア な明解な決定、及びその変更のプロセス、この辺がパッと浮び上がるような総則という か、顔であってこそ初めて労働契約法の総則たり得るのではないかというのが、やや理 想かもわかりませんが、そのぐらい思っています。  そういう意味では、もう少し書き込んで、円満に何とかというより、もう少し深みの あるようなものにしたほうが、わざわざ新しく作るわけですから、そのように思います。 1つの例示としては、いろいろな労働条件変更等々についてこれまでずっと議論してき て、やはり情報は重要で、労使対等な立場においては、もちろんいろいろなことはあり ますけれど、情報公開とか情報というのは非常に重要ですから、そんなこともできれば 織り込むような総則であってほしいなというのが労働側の願いです。 ○長谷川委員 ここは研究者からも少し意見をもらわないといけないところなのですが、 例えば安全衛生法の目的の1条をよく読むと、労働災害の防止のための、危害防止基準 の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずるなど、その防止に関す る総合的、計画的な対策を推進することによりと書いてあります。だから労働安全衛生 法は、こういうものを労働災害防止のため総合計画的な対策を推進しますよという法律 だと思うのです。  労働契約法の、使用者は労働者が安心して働くことができるように配慮するものとい うのは、労働者は使用者に労務を提供するわけですから、使用者はそれに対して安全配 慮しますよという話だと思うのです。安全衛生法に書かれているからというのとは違っ て、使用従属関係にある労働者が労務を提供する、委ねるわけですから、それで使用者 はそれを使うわけですから、そのときに一方の使用者は労働者に対して安全配慮します よということだと思うのです。  安全衛生法は、要するに総合計画的な対策を推進するということに法の目的があるわ けで、そういう意味では具体的な活動だと思うので、ここにあるからいいという話とは 違うのではないかと思います。私の言い方が間違っていれば研究者の皆さんから何か補 強していただきたいと思います。 ○平山委員 一言だけ、私は労働安全衛生法があるから、ここでは要らないということ を先ほど言ったつもりはありません。法律の根拠は、すべて、あるものについて、その 範囲の中でこれが謳われているのですが、それは分かるのです。ただし、その範囲をか なり超えるのだろうと。例えば先ほど、いじめとかパワハラと言われましたが、そこの ところを使用者に、その義務を課すということはどういうことでしょうか、どこまでの 範囲のことを課すのでしょうと。対話して安心して働けるように使用者はちゃんと努力 してくださいねと、それはそのとおりですねとなるのですが、法で定めるのは、やはり ある領域があり、何を根拠にするか、そのために使用者がどんな手立てを講じればいい かということが分かるというのが大事だ、ということで申し上げたのです。 ○渡辺章委員 ハラスメントについては、いま法律ではセクシャルな面について規定が ある。しかし、セクシャルなハラスメント以外に、我々が知るところ、裁判例にも人格 的名誉の観点から考えて問題だと思われるような労使紛争があります。EUでも労使の 社会的対話という態勢ができて、まず最初に取り上げた議題が「ストレス・アット・ワ ーク」です。この問題に労使がどう取り組むかを非常に真剣に議論してパンフレツトも 出ています。  やはり肝心な点は、パワハラとかいじめをどう定義するかという実態の問題よりも、 そういう問題が起きたときの対応、例えば苦情処理、それに対応する労使の解決のため の手続をどう作り上げていくかという、むしろ手続的な面です。その訴えを聞いて、で きる限り妥当な解決を見い出していくための労使の協議のあり方とか、そういう面をあ る程度ルール化していくという方向に行っているように、私は理解しています。  いま平山委員の言われた、どこまでがいじめやパワハラなのかということについては、 これは千差万別で、法律で定義しようと思ってもなかなか難しいと思います。ごく抽象 的に言えば、就業環境を害するとか、そんな形でしか概念規定はでき難いと思います。 しかし手続面、そういう問題が起きたときに、職場で、どういう態勢でそれを受け止め ていくかという点については、一定の工夫が可能なのではないかと今のところ私は考え ております。  労働安全衛生法については、刑罰や行政的な取締りによって確保する最低限の基準と いうことであって、労働契約法では安全とか安心ということが当事者の契約の内容とし てどう規定されるかという問題なので、安全衛生法にあるから契約法のほうでは、なく てよいという議論にはならないと思います。 ○谷川委員 第5項の所です。平山委員も言われたことも含めてですが、安心にして働 くということができるような職場をつくるとか、あるいは環境をつくるとかというよう なことは、あるいは、設備投資をしたり規則を変えたりとか、いろいろな部分で使用者 側が負う部分もかなりあるのだろうと思うのです。実際に、私どもが職場で経験してい ることを見ていますと、設備投資をしたから、規則を決めたら、何したからといって、 本当に安全の問題が片付くかなというと、必ずしもそうではないのです。これは労使自 治ではありませんけれども、お互いにその環境で働く人たちが知恵を出し合って改善し ていきませんと、働く人たちのマインドというか、そういう意味では、この表現だけだ と片務的な要素が強すぎて、何か使用者だけが配慮するということになっている。  私は使用者も労働者も、共に安心して働く職場ができるように、お互いに配慮し合う という要素が必要なのではないかという感じをしております。特にハラスメントの問題 にしてもそうですが、職制から注意をしてできるような部分と、職場全体がそういうこ とのないようなことを心掛けることによって改善できると問題と、かなり自治による部 分は大きいものですから、この表現だけだと非常に片務的な要素が強すぎるという感じ がいたします。 ○小山委員 この安全配慮義務という原則での規定は、是非、書き込んでいただきたい ところです。片務的と言われるけれども、安心して働くことができなければそこで働け ないわけですよ、労務を提供しなければいけないわけだから。もし、労働者が危険だと 感じたら労務の提供をやめて、さっさと家に帰っていいということになるのかどうかと いうことなのです。労務を提供する契約関係であるならば、働く義務が生じるわけです。 そこで安全を保障する義務が使用者側にあるのは当然のことではないですか。それを片 方がというのは。契約を結ぶ前提だということですよね、これは。  そういう意味合いで、このことは重要な契約法の基本になる点だと思いますので、き ちんと明記すべきだということであります。 ○長谷川委員 先ほど差別禁止、均等、均衡と3つ出したのですが、均衡を考慮したと いうのは、私は事務局が使用者側に配慮した表現ではないかと思います。私どもは前か らずっと主張しているように、同じ仕事をしていたら同じ処遇、イコールだと思ってい るのです。均衡考慮というのは、前にこの審議会でも議論されたようにバランスだと。 どういうバランスをとるかというのは、まさにこれからいろいろ具体的なものが出てく ると思いますが。  これが均等だとか差別禁止といったら使用者の方々も、「いや、それは」となると思い ますが、均衡考慮というのはバランスをとるということですから、イコールではないわ けですので、基本的な契約の考え方のところに入るのが当然ではないかと思います。も し、これが入らなければ契約法というのは、そういう意味では非常に無意味ではないか と思います。 ○石塚委員 関連してですが、例の研究会の最終報告との関係で、これが縛られるもの ではないということを重々承知した上での発言だと思ってください。少なくとも研究会 段階での総則に内容を入れるべきかという議論をやられていて、研究会の最終報告では、 労働契約においては雇用形態にかかわらず、その就業の実態に応じた均等待遇が図られ るべきことを明らかにすることが適当であるという表現が出てきています。  ここで均等、均衡の話はおいて、最終報告を踏まえられて、なぜ均衡のほうにいった のか。資料No.4−1に出ていますが、この理由をもって均衡考慮ですか、118号ですが、 これによって均衡をもってきたのか。それとも研究会報告の均等をベースにして、そこ を変えられた。なぜ均衡をもってこられた理由は何なのですか。 ○監督課長 いまのご指摘の点ですが、確かに研究会の報告の中では、「労働契約におい ては、雇用形態に関わらず、その就業の実態に応じた均等待遇が図られるべきことを明 らかにすることが適当である」と書いております。これは私どもの、均衡を考慮したも のとなるようにするものとすることとは少し書き方が違うのではないかということもあ るわけですが、研究会報告の段階では議論して、均等待遇が図られるということが理想 形の1つとしてあるのではないのかなということが述べられているということです。  この労働契約法制の中の(6)の提案の中の均衡ということについては、やはりいろいろ な社会の現実の雇用の実態でありますとか、本日までの労働者側・使用者側双方からの いろいろな議論を踏まえまして、均衡を考慮したものになるようにするというような動 的な言い方、こういうことを書いて、目指していくということでこのような提案をさせ ていただいたということです。  先ほどから安全衛生法との関係がご議論になっていて、差別禁止という発言もありま したが、私どもが提案しているのは、安全衛生法のように、いわゆる明示的な義務です ね、アクションとしての義務をかけるものではなくて、そこは考慮していただきたい。 平山委員が言われている一般論というわけではないのかもしれませんが、安全衛生法が 言っているような、こういうことを具体的にやってほしいというものでもない、という ことで提案をしているところです。 ○分科会長 1の問題についてまだまだ議論があろうかと思いますが、2の期間の定め のある労働契約の問題について、いかがでしょうか。 ○長谷川委員 (2)の配慮しなければならないこととしてはどうかと書いてありますが、 契約法で配慮といったときに、どういう効果があるのかをお聞きします。それから、(3) の所で一定回数以上更新されたとありますが、この一定回数以上というのは、どのぐら いを想定しているのでしょうか。  もう1つは、期間の定めのある労働契約のそもそも論ですが、今回の労働契約法の議 論過程の中で有期契約の問題については、議論する時間が少なかったと思っています。 現在何が問題なのかというと、二極化の中で、特に若者のところで、ワーキングプアと いう言われ方もしておりますが、そうした人たちの形態を見ると、有期契約で細切れの 契約であったり、そういうことになっています。パートの問題も、パートは労働時間が 短いだけではなくて、やはり有期契約ですし、派遣なども有期契約です。この有期契約 というのは、ある意味では、正規、非正規という言い方はあまり好きではないのですが、 正規・非正規でいうと非正規のところがほとんど有期です。定型・非定型といえば非定 型のところがほとんど有期です。この有期の問題を私たちはきちんと議論する必要があ ると思っています。  労側はこの間、有期については、入口ですね、なぜ有期を使うのかということと、基 本的には、有期というのは一時的、臨時的だと思っていますが、そういうものを明確化 するとか、均等待遇をきちんと確保するとか。出口のところで言えば、春ごろまでは検 討の視点の中に、3回以上とか、1年以上というのがあったわけですが、何回か反復更 新したり、ある一定の期間が過ぎたら期間の定めのない雇用にみなすと、労側は「みな す」を入れるべきだと、ずっとこの間主張してきました。  現時点で(1)(2)(3)はこういうことだなと思いつつも、有期の問題について今後どうして いくのかという問題を、私たちはこの分科会できっちり議論することが必要なのではな いかと思っています。今日我が国における非正規労働者の問題、まさに有期の問題です ので、この有期の問題について、引き続き議論していくことが必要なのではないかとい うことを言っておきたいと思います。 ○監督課長 (2)の配慮については、有期の労働契約の期間は基本的には労使で決まるわ けです。これも一律にどうこうしろということはできないわけです。そうした場合、通 常、使用者の方が期間を提示するわけですので、そうした場合に不必要に短期の有期を 反復更新ということにならないように配慮するというか、気をつけていただきたいとい うことです。具体的に配慮したのかどうかというのは実態判断の問題になると思います し、配慮しなかった方たちに無効というものでもないということです。 ○紀陸委員 (1)(2)のそれぞれに疑念があります。やむを得ない理由がない限りとありま すが、これはどういう意味なのかです。比較して正社員の方なら不適、解雇ができるよ うな事由が発生した場合どうなるのか。そういうものとの対比で、それより以上にもっ と解雇事由をきつくするようなことを考えておられるものなのか。もしそうだとすれば、 これは非常にアンバランスではないかという感じがいたします。それが1点です。  (2)では不必要に短期のとあるのですが、不必要にというのは、一体どういう物差しを あてれば必要か不必要かという判断が出るのか。非常に文言として曖昧すぎるのではな いかという感じがします。こういうのは法文として馴染むのかどうか、ちょっとよく分 からない。  先ほど話は終わったといいますが、均衡という言葉もパート指針にあるだけで法律上 にある言葉ではないのでしょう。判例でもこういう言葉は、かたまっているということ でもないでしょうし。言葉の使い方が情緒的ではないでしょうか。こういうのが本当に 馴染むのかどうかですね。逆にこういうものを手掛りにして、いわゆるトラブルが発生 することもあり得るわけで、私どもは法文用語として、先ほど平山委員も谷川委員も言 われましたが、言葉の使い方を厳密にお願いしたいと思っております。 ○監督課長 最初にやむを得ない理由の点ですが、具体的にやむを得ない理由について は実態判断を伴う場合もあると考えておりますが、具体的に期間を定めて、この期間で 契約しますということをやっていただいているわけです。たしか前回の分科会の場でも、 公益委員の方からご指摘がありましたように、通常の期間の定めのないものよりは、厳 しいものになるという理解です。それは契約期間を定めているということとの反対効果 ではないかと考えています。  言葉遣いの問題、ほかの所で均等とか均衡とかというところでありました。総則法の 部分の用語ですが、例えば均衡を考慮するということで、何か具体的なアクションをと いう具合に考えておられるのかもしれないのですが、これは考え方として、均衡を考慮 して労働契約をより良くしていくということで考えておりますので、言葉の使い方とし て、ここから直ちにアクションというのが出てこなかったということがあるかもしれま せんが、要するに労働契約の原則という場所、こういう位置づけからすると、適当では ないのかなという具合に考えているところです。 ○今田委員 言葉の問題が出てきているので発言します。先ほどご指摘のあった労働契 約の報告書の中にあったときの表現は、均等、均衡、差別の問題ですが、就業の実態に 応じた雇用形態にかかわらず、就業の実態に応じた均等待遇が図られるという表現です。 均等待遇という言葉を使っていますが、その前に就業の実態に応じた均等待遇というこ とが言われているのです。これがここで言っている、まさしく均衡という言葉だと私は 理解しています。つまり、就業実態が違えば、それにふさわしい待遇が図られる、均衡 ある待遇が図られるという論理ですから、労働契約の報告書で議論したターミノロジー と、いま使っているのは別に混乱は起こしていないという理解です。差別という言葉は、 ここでは次元が違うと思いますが、均等と均衡というのは、そういう関係になっている ということです。 ○新田委員 お伺いしますが、就業の実態に即してというときに、同じ仕事をしている という場合に、委員はいま、ここでいう均等は均衡のことだろうと言われたわけですが。 均衡をバランスと課長は言っているわけですが、その辺はどのように考えられるのです か。 ○今田委員 いま労働市場が非常に多様化して、いろいろな雇用形態も、働き方も、い ろいろなのが出ている。多様化していることが前提になっているわけです。そのときに、 雇用形態もいろいろあるから、雇用形態だけですぐかかるのではなくて、まず雇用形態 があったとしても、実際に働いている、就業の実態にふさわしい均等待遇と。就業の実 態が同じならばイコールに扱いなさい、違うならば、それにふさわしい処遇をしなさい という言葉です。それが今いろいろ言われている均衡という考え方です。分かりにくい ですか。 ○新田委員 分かりにくいですね。 ○今田委員 要するに、違った就業の実態があったら、それにふさわしい処遇をという のが。同じ仕事ならばイコールというのが均等の考え方だけれど、多様化を前提とした ときには、いろいろな就業の実態があるのだから、それにふさわしい処遇をする、これ が均衡、バランスという、それで処遇という。そういうことですから、何か、なかなか 理解が得られない。 ○新田委員 同じ仕事をして同じ成果で、雇用の形が違うと処遇も違うのですか。 ○今田委員 同じ仕事というのは非常に曖昧すぎる概念です。 ○新田委員 同じライン、生産現場の。 ○今田委員 例えばレジの仕事だったら、同じレジの仕事をしたとしても、その一時点 の仕事ぶりでは同じかもしれないけれど、その仕事にはいろいろな期待があり、やらな ければいけない義務があったり、いろいろなものが付随しているわけです。そういうの を全部含めた意味で、同じ仕事ならば同じ待遇という意味です。だから、同じ仕事とい う言葉は非常に曖昧で、いま言ったように仕事というのは全体的な、包括的な捉え方で 捉えた場合に、同じならば同じ待遇をしましょうと。均等処遇をしましょうという。そ ういう考え方が均衡という。 ○新田委員 この問題でも、これだけ説明して議論し合わないといけないというぐらい 曖昧ですね。この契約法で曖昧な言葉をできるだけ避けることが大変重要だろうと思い ます。いまの話でもそうですが、今いろいろな所でいろいろな訴えがある、電話相談も ある。いろいろなことが起こっているわけですが、そのことが今度の契約法でどうなる のだろうかというように見ていると思うのです。そこをどう応えていくのかが大変重要 だと思うのです。グローバル化だとか、単価にかかわる費用とか、いろいろ経営上の問 題もあるでしょう。働く側としても、いまの実態をどう抜け出せるのかというところを、 これがどう応えるのかが大変重要な問題だと思うのです。  認識が一致した上でいくのならばいいのですが、こんなに説明し合ったり、議論し合 わなければならないことは避けるべきだし、私は同じ仕事というのは分かりやすいと思 うのです。そうしたことについて、どう均等待遇をするのかということは、しっかりと 議論する必要があるのではないかと思います。 ○分科会長 引き続き議論しなければいけない論点だと思いますが、最後に労働基準法 関係の問題についてお願いします。 ○長谷川委員 私から一括して申し上げます。1つは、労働契約の即時解除に関する規 定です。これは基準法に規定されているから実効性があると思っておりますので、契約 法に移ることは理解できません。  次に就業規則の相対的必要記載事項ですが、今回懲戒が削除されておりますが、むし ろ懲戒こそ就業規則に書くべきではないかと思います。事務局はなぜそうしなかったの か。  (3)の労働基準法第36条等の過半数代表者の選出要件について民主的な手続にするこ とを明確にすることとしてはどうかと。これだけを見たら非常に良さそうな雰囲気を与 えるのですが、過半数代表の選出を民主的に選ぶのをどうやって選ぶかを議論するため には、おそらく、また1年ぐらいかかる話だと思います。過半数代表の選び方というの は集団的労使関係の中で非常に重要な事項ですので、今回の契約法の中で、民主的手続 で選ぶというだけで、お茶を濁すことは問題があると思います。むしろ過半数代表、従 業員代表はどうあるべきかについては、しっかりと議論する必要があるではないかと思 います。 ○分科会長 引き続き議論をしなければいけない論点がずいぶんたくさんあるとは思い ますが、今日事務局から提出されました労働契約法制及び労働時間法制の各論点につい ては、一応議論が終わりましたので、次回には、今までの議論を踏まえて、整理のため の資料を事務局に作成してもらい、提出してもらいたいと思っておりますが、いかがで しょうか。                  (異議なし) ○分科会長 では、そのようにさせていただきたいと思います。次回の日程について事 務局からお願いいたします。 ○監督課長 次回の労働条件分科会は12月8日(金)13時から15時まで、場所は厚生 労働省7階専用第15会議室で開催する予定です。 ○分科会長 それでは、今日の分科会はこれで終了いたします。本日の議事録の署名は、 小山委員と平山委員にお願いいたします。よろしくお願いいたします。                  (照会先)                     労働基準局監督課企画係(内線5423)