資料5

生活衛生関係営業振興指針の見直しについての考え方


 本ペーパーは、生活衛生関係営業を取り巻く環境の変化を踏まえ、振興指針の 見直しについて幅広く議論し、今後の振興指針の改定作業に活用してもらうため の「考え方」をまとめたものである。


平成14年8月26日

生活衛生関係営業振興指針見直し勉強会



1. 生活衛生関係営業を取り巻く環境の変化

 振興指針制度は、生活衛生関係営業の振興を計画的に推進することにより、公衆衛生の向上及び利用者の利益の増進に資することを目的に、昭和54年に創設された。以来20余年にわたり、5年ごとに改定を重ねながら、現在に至っている。
 この間、日本経済は、名目国内総生産が2倍超となるなど、90年代の景気後退期を除けば、長期で見れば比較的安定した成長を続け、国民生活も豊かになった。生活衛生関係営業も、日本経済の成長とともに、個々の業種の違いや短期的な景気の影響は受けつつも、業全体としては比較的安定した成長を続け、国民生活の向上に貢献してきた。
 しかし、21世紀を迎え、我が国の経済・社会は、大きな転換期にある。とりわけ、本格的な少子・高齢化社会においては、労働力人口の減少、貯蓄の増加率の低下、購買力人口の減少などにより、潜在成長力の低下は避けられず、右肩上がりの経済を前提とすることが困難になっている。従来型の資源配分の見直しなど、効率的で活力のある経済・社会の再構築が求められている。
 また、これまでの画一的な価値観が崩壊し、多様な就労形態や夫婦共働きが増えるとともに、高齢者等の単身世帯の増加、健康や環境に対する関心の高まりなど、国民の生活様式や消費行動も大きく変化してきている。


2. 振興指針の見直しに当たっての考え方

 生活衛生関係営業を取り巻く環境の変化を踏まえ、以下のような新たな考え方に立って、振興指針を見直す必要がある。

(1) 従来の護送船団方式の考え方の見直し
 生活衛生関係営業は、多様なニーズを持つ個人を顧客とするサービスであり、自分の店が誰をターゲットとし、何を「売り」にしているのかを明確化することが最も重要である。例えば、夫婦二人で地道に経営している飲食店は、家庭的な味や雰囲気を売りにしているのだろうから、日に何十人も客が来たらサービスの質が低下し、客が離れていってしまうだろう。同じ業種であっても、それぞれの店によって「売り」とするものは異なり、それに伴って、望ましい客層、客数、売上額も異なるのが自然である。
 これまでのような右肩上がりの経済成長が期待できない環境にあっては、限られた経済資源(経済のパイ)の中での競争になるため、個々の企業の経営改善や創意工夫によって積極的に伸びていく企業もあれば、そうできない企業やそうしない企業も存在するものであり、「落ちこぼれが出ないよう、業界全体が大きくならなければ」という従来の考え方は限界になりつつある。それゆえこれまでの業全体での売上額(需要額)の目標を設定する考え方を見直す必要がある。

(2) 多様な経営方法を認める考え方に立つことが必要
 生活衛生関係営業は、多様なニーズを持つ個人を顧客とするサービスであり、不特定多数の客に画一のマニュアル化したサービスを提供しても、それだけでは長期にわたって経営を成功させることはできない。細々であっても長く続いている店は、それぞれの経営手法により固定顧客をつかんでいるからこそ続いているのである。
 「店を大きくする、利益を増やす」といった考え方があるのは当然であるが、だからといって「小さい、零細は落ちこぼれ」といった考え方は、生活衛生関係営業の分野においては必ずしも当てはまらない。
 また、流行の変化が激しい世の中にあって、個人経営の店が長く営業を続けるためには、消費者が求めているから何でもかんでも取り入れるというのではなく、自分の「売り」を明確化し、自分ができるのはここまでと割り切って、それでも来てくれる客だけを大切にするという経営手法も考えられる。
 現行の振興指針は5年ごとに改定しているが、思いもかけぬ企業が倒産するような変化の激しい環境にあっては、5年間有効な経営課題を一律に示すことは困難である。また、「指針」によって、行政や組合が指導的に「こうやりなさい」と全体の方向付けをするような時代ではなくなりつつある。
 これからは「いろんなやり方があっていい」という考え方に立って、経営の考え方や経営改善に関しては自助努力を支援する形が求められる。多様な営業形態があることが、生活衛生関係営業の幅の広さにつながり、個人の生活の豊かさ、地域の活性化に貢献できるようになるのである。

(3) 営業者の自立的な経営努力を支援
 生活衛生関係営業は、生活に密着したサービスであり、営業者の創意工夫により付加価値の高いサービスを提供することで、今後とも国民生活の向上に貢献する役割が期待される。特に長期で見れば、可処分時間の増加や女性・高齢者の就労促進による可処分所得の増加などの国民の生活様式が変化する中で、潜在的な需要を掘り起こすことも可能である。したがって、生活衛生関係営業が個人の生活の豊かさや地域の活性化に貢献する余地は大きい。
 多様な経営形態を認めつつ、自立的に経営努力をする営業者やのれん分けなどによって起業する営業者に対しては、我が国経済の活性化や国民生活の向上の観点から、行政や組合が適切に支援することが求められる。
 その際、「こうすべき」と画一的に関与するのではなく、「こんなやり方もあるよ、良かったら参考にしてください」という形で、営業者が容易に活用できる先駆的な経営事例を生活衛生営業指導センターや組合が紹介するなど、多様な営業形態を認めながら、営業者の自立的な努力を支援していくという考え方を採用することが求められる。

(4) 社会全体で取り組むべき課題については支援が必要
 上述のとおり、生活衛生関係営業は多様なニーズを持つ個人を顧客とするサービスであり、店によって「売り」とするものは異なるので、店が成功するかどうかは、個々の営業者の自立的な経営改善の取組に依存している。
 しかしながら、社会・経済の進展等に伴い、O‐157、BSEなど安全・衛生面での新たな課題や環境対策、バリアフリー対策など、社会全体で取り組むべき課題が生じている。
 これらに対しては、法律に基づく規制措置が講じられているものもあるが、生活衛生関係営業は個人・零細の営業者が大部分を占めるため、法規制による個々の営業者の取組だけでは十分な対策が講じられなかったり、成果を得るまでにかなりの時間を要する面もある。したがって、こうした事項については、個々の営業者による独自の取組に加え、営業者が重点的に取り組むべき「指針」を示し、行政・組合等が適切に支援・推進することが重要である。これにより営業者個人の取組を一層促進させることができる。
 なお、生産者並びに製造業者段階での商品の偽装表示や取引先金融機関の倒産など、営業者の自己責任領域を超える事項については、今後とも行政・組合が適切に関与・支援していくことが必要である。

 (イ) 安全・衛生、環境に関する取組の推進・支援
 安全・衛生に関する取組は、国民の健康や生命に関わるものであり、生活に密着したサービスを提供している生活衛生関係営業にとって最も重要な事項である。近年は、O‐157、BSE、レジオネラなど新たな課題も生じている。これらは、生産・流通過程も含めた対応が必要であり、より専門的・複合的な対策が求められる。そのため、営業者個人の取組だけでは限界があることは否めない。したがって、各営業者が安全・衛生規制を遵守することは勿論であるが、行政が適切に関与し必要な規制を講じるとともに、研修事業や共同事業等を通じて、行政や組合が必要な支援をしていくことが重要となる。
 衛生水準の向上と生活衛生関係営業の活性化は、どちらか一方を優先させると一方が成り立たなくなるというものではなく、互いに両立させることにより、消費者の安心と信頼が生まれる。それゆえ、安全・衛生に関する事項は、今後とも振興指針に適切に位置づけていく必要がある。各営業者が現行の安全・衛生規制を遵守することは当然であるが、これからは「頑張れば達成可能な目標を示す」という考え方に立って、安全・衛生規制で業界全体が守るべき最低限の水準を示すというよりも一段高い望ましい水準を示すことが必要になる。
 また、社会の成熟化、生活重視の志向等に伴い、環境問題やリサイクルに対する消費者の関心も高まっている。省エネ法、食品リサイクル法、土壌汚染対策法など、社会全体での取組も進みつつある。
 環境・リサイクル対策は、住民の生活環境に身近な問題であり、個々の営業者が個別に取り組むだけではなく、地域の自治体や組合、自治会などが関与しながら地域全体で取り組むことにより、効果的で効率的な取組が可能となる。生活衛生関係営業においても、組合活動を基本としつつも、業種を超えて組合同士で協力したり、組合加入者以外の営業者にも参加を促すなど、行政・組合が適切に関与・支援しながら、地域で一体となって環境・リサイクルに関する取組が推進されることが期待される。

 (ロ) 少子・高齢化社会への対応
 21世紀は、本格的な少子・高齢化社会である。労働力人口の減少等に対応するため、これからは女性や高齢者の就業促進に積極的に取り組むことが求められている。また、公共施設におけるバリアフリー対策など社会全体で高齢化社会に対応した取組も進められつつある。
 生活衛生関係営業は、多様な経営形態が各地に存在するため、多様な就業の場を身近な地元に提供することを可能とする。また、労働集約型であり、女性や高齢者の就業割合も高く、これらの者の雇用において期待される役割は大きい。就業の場を広げることは、社会の豊かさを広げることにもつながる。
 生活衛生関係営業は、生活に密着したサービスであり、本格的な高齢化社会においては、足腰の弱い高齢者が気軽に立ち寄れるようバリアフリー対策などの設備面での取組に加え、地域住民の憩いやつながりの場としてのソフト面での役割の遂行など、幅広い取組が期待される。
 また、これからの高齢者は、若い世代と同様、生き方や考え方も多様であり、引退後も地域の自治会やボランティア、サークル活動に携わるなど、地域社会や文化活動に活発に関わっている人も多い。保有資産が多い人も少なくなく、国内需要拡大の大きな一翼が期待されている。それゆえ、生活衛生関係営業においても、各営業者の創意工夫により、高齢者の潜在的ニーズを的確にとらえ、顧客として取り込んでいくことが重要となる。

 (ハ) 地域との共生
 地域においては、自治会、商店街、NPO、自治体などが中心となって、文化・福祉・健康・治安などの分野において、特色のある街づくりや地域社会の再生への取組が見られるようになっている。
 生活衛生関係営業は、地域の住民が顧客であり、地域社会の活性化が直接、経営に影響する。地域住民にとっても、生活衛生関係営業は日常生活に密着しており、憩いや人と人とのつながりの場などとして期待される役割も大きい。
 各営業者においては、各地域における街づくりに積極的に参加し、地域と共生していくことが期待される。その際、組合活動を通じて地域の取組に参加することを基本としつつも、同じ地域においては業種を越えた組合同士での相互協力を推進するなど、多様な主体が縦横に連携・協力することで地域ごとの特色を出すことが期待される。


3. 振興指針の見直しの主要事項

 「振興指針の見直しに当たっての考え方」を踏まえて、以下のような事項を柱に振興指針を見直す必要がある。

(1) 業全体の需要額、達成目標の提示の見直し
 現行の振興指針では、業種ごとに5年後に見込まれる業全体の需要額を定め、それに必要な衛生設備の水準などの達成目標を定めているが、このようにして業全体の需要額を定めることの意味は薄れており、廃止してもよいと考えられる。

(2) 経営課題の選択肢の提示
 これまでの振興指針では、「こうやりなさい」と指導的に「指針」を示してきたが、新たな振興指針では、「こんなやり方もあるよ、良かったら参考にしてください」という形で、一般論としてのメリット・デメリットの解説を加えた先駆的な経営事例をサブテキスト等で紹介しながら、経営の考え方や経営改善のためのヒントを与え、選択は本人に任せることにしてはどうか。

(3) 安全・衛生、環境に関する取組の推進
 安全・衛生、環境に関する取組を推進する必要がある。これらは、社会全体で重点的に取り組むべき課題であり、行政・組合等が適切に関与・支援していくことが重要である。これまでも振興指針に記載され、政策融資等の支援措置が講じられてきたが、今後は、振興指針においてより適切な位置づけを与えることが必要となる。

(4) 少子・高齢化社会への対応、地域との共生
 少子・高齢化社会への対応は、生活衛生関係営業にとって最も重要な課題の一つである。女性・高齢者の就業促進、バリアフリー対策等に積極的に取り組むことが期待される。また、生活衛生関係営業は、地域に密着したサービスであり、地域と共生し、地域の取組に積極的に参加していくことが求められる。これらの項目は、今後とも振興指針に適切に位置づけることが必要である。

(5) 業界横並びの振興指針の見直し
 生活衛生関係営業を取り巻く経済・社会の環境の変化に伴い、業種ごとに取り組むべき課題にも差が出てきている。これまで、業種ごとに偏りが生じないよう横並びに配慮して改定されてきたが、今後の改定作業では、業界横並びの振興指針の在り方を見直す必要がある。

(6) 振興指針の簡明化
 上記のほか、振興指針の内容を再点検し、スリム化するとともに、メリハリのあるものにする必要がある。



生活衛生関係営業振興指針見直し勉強会


平成14年8月26日現在


  原田 一郎   (東海大学教養学部教授)


  遠藤 邦夫 (株式会社矢野経済研究所生命科学産業調査本部長)


  亀川 潔 (全国生活衛生営業指導センター専務理事)


  喜多 捷ニ (帝京大学経済学部教授)


  新谷 安良 (協同組合コンサルタンツ・ネットワーク新谷経営研究所所長)


○:座長

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