06/10/13 労働政策審議会労働条件分科会 第65回議事録     第65回労働政策審議会労働条件分科会         日時 平成18年10月13日(金)       17:30〜       場所 厚生労働省17階専用第18、19、20会議室 ○分科会長(西村) ただいまから第65回労働政策審議会労働条件分科会を開催します。 本日は久野委員、渡辺章委員、島田委員、奥谷委員、平山委員、渡邊佳英委員が欠席さ れています。また、島田委員の代理として中村氏、渡邊委員の代理として林氏が出席を される予定です。谷川委員は少し遅れて出席されます。  議事に入る前に労働契約法制の具体的な内容についての検討を行う時に限って、労働 契約法制に関する法律や判例の専門的知識についてアドバイスをしていただくために、 新たに専門委員が任命されました。まず、事務局から説明をお願いします。 ○監督課長 前回の分科会で、労働契約法制の検討を行う時に限って、労働契約法制に 関する法律や判例の専門的知識についてアドバイスをしていただくために、新たに専門 委員の方に参加していただくことになりました。  今回、新たに労働政策審議会労働条件分科会の専門委員として徳住委員が労働者代表 の専門委員に、中山委員が使用者代表の専門委員に就任されましたので、御紹介します。  なお、徳住委員の御発言は長谷川委員の指名を受け、また、中山委員の御発言は紀陸 委員の指名を受けた場合に、御発言をお願いします。どうぞ、よろしくお願いします。 ○分科会長 本日の議題に入ります。本日は、労働契約法制のうち「労働契約の終了」、 「主な労働条件に関するルール」等についてと、労働基準法制のうち「労働契約関係」 について、御議論を深めていただきます。  この項目の論点については、事務局に整理をしてもらっています。その資料の説明を お願いします。  ○監督課長 資料No.1−1は、労働契約の終了等についてです。左列には労働基準法第 18条の2、解雇に関する規定ですが、労働契約法に移行することについて検討を深めて はどうか。(2)整理解雇について「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当である と認められない場合」として、無効とされるか否かは、裁判例において考慮すべき要素 とされている4要素、(人員削減の必要性、解雇回避措置、解雇対象者の選定方法、解 雇に至る手続)を含め総合的に考慮して判断されることとすることについて検討を深め てはどうかです。これについて、使用者側から4要素は最高裁で確立していないため、 法制化すべきでないというご意見がありました。一方、労働側からは4要件として法制 化すべきというご意見がありました。論点としては、整理解雇について考慮されるべき 内容です。(3)では労働審判制度の調停、個別労働関係紛争解決制度のあっせん等の紛争 解決手続の状況も踏まえつつ、解雇の金銭的解決の仕組みに関し、さらに労使が納得で きる解決方法について検討を深めてはどうかと。使用者側から紛争解決の選択肢を広げ、 解雇紛争の早期の妥当な解決を可能とするため、これは早急に実現すべきというご意見 がありました。その際、金銭の額は、中小企業の実情を考慮したものとすべきというご 意見もありました。労働者側からは裁判で解雇が無効とされた場合にも、使用者が金銭 で労働契約を解消できる制度には反対というご意見がありました。論点としては、解雇 の金銭的解決の仕組みについてです。  主な労働条件に関するルールに関しては、今後の検討の方向として判例や実務に則し て、安全配慮義務、出向、転籍、懲戒等についてルールを明確化することについて検討 を深めてはどうかについて、使用者側からは紛争解決のためのルールを明確化する際に は、実務に与える影響なども考慮し慎重に検討すべき、というご意見がありました。一 方、労働者側からはルール化に当たっては、判例法理に加えて、労働者保護の視点を取 り入れるべき、というご意見がありました。論点としては安全配慮義務、出向、転籍、 懲戒についての4つの点です。  これに関連して、労働基準法の就業規則で、出向と懲戒の事由については、当該事業 場において制度がある場合には、就業規則に明記することの検討を深めてはどうかとい うことです。これについては1つ目が出向、2つ目が懲戒の事由について、就業規則の 必要的記載事項とすることについてが論点になるかと思います。  関連する資料として、資料No.1−2は、整理解雇に係る実態となっています。資料No. 1−2の上は、いわゆる個別労働関係紛争関係のあっせんの申請内容の内訳ですが、平 成17年度は全部で6,888件のうち、解雇に関するものは39.5%でした。これはJILP Tの調査によりますと、下のグラフ、解雇の理由については、経営上の理由によるもの が49.2%、仕事に必要な能力の欠如が28.2%、本人の非行、職場規律の紊乱はそれぞれ 24%程度という順番になっています。  資料No.1−3です。労働審判制度が本年の4月から施行されました。東京地裁におけ る新規受理件数であり、これは最高裁の行政局の調べによる概数です。期日は平成18 年8月末まで、件数としては新規受理件数の合計が130件、そのうち地位確認(地位の 不存在を含む)が60件で48%となっています。この内容については公表されていませ んが、解雇や有期労働契約の雇止めなどが多いという報告が入っています。60件のうち、 同じく平成18年8月末現在で審判の手続が終わっているものは28件あります。その中 で調停成立が最も多く24件、労働審判3件、取下げ1件となっています。未済の32件 はまだ議論が終わってなく、継続中という意味の内容のものです。  資料No.1−4は参照条文です。関連のある条文について説明をさせていただきます。 安全配慮義務については民法の規定第415条債務不履行による損害賠償責任、あるいは 第715条使用者等の責任という条文が関連するのではないかと思います。出向・転籍に ついては、2頁の上に昭和61年6月6日付の通達の内容があります。在籍型出向と移籍 型出向について、大体こういうような整理がされています。在籍型出向は出向先と出向 労働者との間に出向元から委ねられた指揮命令関係ではなく、労働契約関係及びこれに 基づく指揮命令関係がある形態です。在籍型出向を通常出向と呼んでいまして、移籍型 出向を通常転籍と呼んでいることが多いと思いますが、移籍型出向については出向先と の間にのみ労働契約関係がある形態であり、出向元と出向労働者との労働契約関係は終 了しているとして整理されています。これに関して、民法第625条では、使用者は、労 働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない、というのが関 連している条文としてあります。  3頁には就業規則の関係の第89条の条文があります。これについて記載事項が並んで いますが、出向や転籍について、特に第1号から第9号に掲げられている状況ではない ということです。4頁は懲戒についてです。懲戒については同じ就業規則の条文があり ますが、労働基準法第89条第9号で制裁の定めをする場合においては、その種類及び程 度に関する事項を書いて、2次的記載事項として書いていただくことが現在法律で定め られています。解雇については5頁に労働基準法第18条の2に解雇は客観的に合理的な 理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものと して、無効とするというものが平成15年の改正で入っています。労働審判法の関連条文 としては、第1条と第20条、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律としては、関 連事項として第5条でご紹介させていただきます。  それぞれの項目について主な判例としては、前に最高裁の判例が並んでいまして、後 ろの11頁からあとはいわゆる下級審の判決の裁判例となっています。最高裁の判例から 順次ご紹介させていただきます。安全配慮義務に関する裁判例としては、昭和50年の陸 上自衛隊事件、昭和57年川義事件が最高裁の判例となっています。陸上自衛隊事件では 1頁に安全配慮義務について記述があります。2頁の川義事件でも安全配慮義務につい て、使用者は報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備 もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働 者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」と いう)を負っているものと解するのが相当、と判決の要旨に書かれています。  3頁、4頁、5頁は出向に関する最高裁の判例です。3頁は日東タイヤ事件と呼ばれ ているものです。出向について特別の約定を定めていない限り(すなわち、労働者の同 意のない限り)、使用者は労働者に対して出向を当然に命令することはできないものと いうべきである。なお、仮に就業規則に契約の効力の変更を認める見解によるとしても、 就業規則に明白に出向義務を規定する必要がある、といわなければならないと判示され ています。  4頁の新日本製鐵の事件では、この事案の判断として、委託されている業務に従事し ていた労働者Xに出向を命ずるものについて、就業規則には、「会社は従業員に対し業 務上の必要によって社外勤務をさせることがある。」という規定があること、労働協約 にも社外勤務条項としての同旨の規定があり、労働協約である社外勤務協定において、 社外勤務の定義、出向期間、出向中の社員の地位、賃金、退職金、各種の出向手当、昇 格・昇給等の査定その他処遇等に関して出向労働者の利益に配慮した詳細な規定が設け られている事情があります。会社Yは労働者Xに対し、その個別的同意なしに、会社の 従業員としての地位を維持しながら出向先であるA社においてその指揮監督の下に労務 を提供することを命ずる本件各出向命令を発令することができるというべきであると判 示しています。権利濫用についても、2番に書いていますように判示をしています。各 出向命令によって労働者の労務提供先は変わるものの、その従事する業務内容や勤務場 所には何らの変更はなく、上記社外勤務協定による出向中の社員の地位、賃金、退職金、 各種の出向手当、昇格・昇級等の査定その他処遇等に関する規定等を勘案すれば、労働 者がその生活関係、労働条件等において著しい不利益を受けるものとはいえない。そし て、本件各出向命令の発令に至る手続に不相当な点があるともいえない。これらの事情 にかんがみれば、本件出向命令が権利の濫用に当たるということはできないとして、権 利濫用についての判断がされています。  5頁ゴールド・マリタイム事件は、その内容において、出向先を限定し、出向社員の 身分、待遇等を明確に定め、これを保証しているなど合理的なものであって、関連企業 との提携の強化をはかる必要が増大したことなど控訴人の経営をめぐる諸般の事情を総 合すれば、出向に関する改正就業規則及び出向規程の各規定は、いずれも有効なものと いうべきであると判示されています。そのあとに、その運用が規定の趣旨に即した合理 的なものである限り、従業員の個別の承諾がなくても、控訴人の命令によって従業員に 出向義務が生じ、正当な理由がなくこれを拒否することは許されないものと解するが相 当であると判示しています。つまり、本件出向命令は業務上の必要があったものではな く、権利の濫用に当たり、同命令は無効というべきであるという結論になっています。  6頁は同じく転籍に関する判例です。これは日立製作所横浜工場事件というものです。 本件転属は労働者Xの承諾があって、初めて効力を生ずるものであると判示されていま す。  7頁から10頁は懲戒に関する判例です。フジ興産事件は平成15年の最高裁判決です が、判決の要旨では、使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲 戒の種別及び事由を定めておくことを必要とするとあります。札幌運転区(事件参照) と書いてあり、8頁右側に国鉄札幌運転区事件を引いて、判決の要旨として、職場環境 を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設を許諾さ れた目的以外に利用してはならない旨を、一般的に規則をもって定め、または具体的に 指示、命令することができ、これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を 乱すものとして、当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を 発し、又は規則の定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができるもの、と 解することが相当であると判決されています。  9頁、10頁ではダイハツ工業事件としてこちらも最高裁の判例です。9頁真ん中に太 字で使用者の懲戒権の行使は、当該具体的事情の下において、それが客観的に合理的理 由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合に初めて権利の濫用として 無効になると解するのが相当であるとされています。10頁では労働者Xの行為の性質、 態様、結果及び情状並びにこれに対するY社の対応等に照らせば、Y社が労働者Xに対 し本件懲戒解雇に及んだことは、客観的にみても合理的理由に基づくものというべきで あり、本件懲戒解雇は社会通念上相当として是認することができ、懲戒権を濫用したも のと判断することはできないと判示されています。  11頁以降がいわゆる整理解雇に関する裁判例です。整理解雇の裁判例については多数 ありますが、昭和54年東洋酸素事件があります。これは11頁に書いてありますように、 (1)(2)(3)の3個の要件を満たすことを要し、特段の事情のない限り、それをもって足りる ものと解するのが相当とされています。なお、解雇について労働協約または就業規則上 いわゆる人事同意約款又は協議約款が存在するにもかかわらず労働組合の同意を得ず又 はこれと協議を尽くさなかったとき、あるいは解雇がその手続上信義則に反し、解雇権 の濫用に当たると認められるとき等においては、いずれも解雇の効力が否定されるべき であるけれども、これらは、解雇の効力の発生を妨げる事由であって、その事由の有無 は、就業規則所定の解雇事由の存在が肯定された上で検討されるべきものであり、解雇 事由の有無の判断に当たり考慮すべき要素とはならないものというべきである、と判示 されています。  13頁のウォタマン事件といいますのが4要件の判断をしたものであり、整理解雇が有 効であるためには、人員整理の必要性(企業が客観的に高度の経営危機にあり、解雇に よる人員削減が必要やむを得ないものであること)、(2)として解雇回避努力(解雇を回 避するための具体的な措置を構ずる努力が十分なされたこと)(3)として人選の合理性(被 解雇者の選定が合理的に行われたこと)(4)として労働者に対する説明協議(人員整理の 必要性と内容について労働者に対して誠実に説明を行い、かつ十分に協議して納得を得 るように努力を尽くしたこと)の4つの要件を具備充足することが必要不可欠であり、 右要件のうち何れか一つでも欠く場合は、その整理解雇は無効であると解するのが相当 である、という判例がありました。  14頁真ん中には、その後の平成12年ナショナル・ウエストミンスター銀行事件とし て、いわゆる整理解雇の4要件は、整理解雇の範疇に属する解雇について解雇権の濫用 に当たるかどうかを判断する際の考慮要素を類型化したものであって、各々の要件が存 在しなければ法律効果が発生しないという意味での法律要件ではなく、解雇権濫用の判 断は、本来事案ごとの個別具体的な事情を総合考慮して行うほかないものである、と判 示されています。  16頁にある最近平成14年の労働大学事件では、使用者において人員削減の必要性が あったかどうか、解雇を回避するための努力を尽くしたかどうか、解雇対象者の選定が 妥当であったかどうか、解雇手続が相当であったかどうか等の観点から具体的事情を検 討し、これらを総合考慮して判断するのが相当であると、判示しています。  18頁にある平成18年名古屋高裁の山田紡績事件では、本件解雇は、整理解雇に当た り、これまでの判例法理によって形成されてきたいわゆる整理解雇法理が適用されると して、整理解雇法理の第1要素(人員削減の必要性)を完全に充足していないばかりか、 第2要素(解雇回避努力義務を履践、第3要素(被解雇者選定基準の合理性)及び第4 要素整理(解雇手続の妥当性)については全くこれを充たしておらず、しかも、その検 討すら全く行っていないとして、本件解雇は、解雇権の濫用に当たり無効となっていま す。  以上、簡単ではありますが、この判例のご紹介等をさせていただきました。 ○分科会長 それでは、意見交換に入りたいと思います。まず、横長の資料No.1‐1で 労働契約の終了のところで2つの○があります。労働基準法第18条の2を労働契約法に 移行することについての検討の点と、整理解雇について法で定めるべき内容としてどの ような要素が考えられるか、この2つの点についてご意見を伺いたいと思います。 ○田島委員 まず、労働契約の終了、第18条の2は当然私は労働契約法に移行するべき だと思います。労働契約法そのものが雇用の採用、変更、終了までをトータルにきちん とルール化をするという意味では当然だろうと思います。しかし、いわゆる整理解雇の 4要件は4要素になっています。在り方研究会報告書では4要素とは決め付けないで4 要件、あるいは4要素と並列的な書きぶりだったのが、要素になると極めて弱まってく るのではないかという問題点があると思います。  それからもう1点、こういう要件、要素だけではなく手続問題があります。この手続 をきちんと、例えば個別的な解雇の場合でも、あるいは集団的な整理解雇の場合でも、 手続をしっかりと規定しなければ、はっきり言って労働者のほうが権利主張をすること は難しいという問題点があります。  もう1点、今日の議論の中には入っていませんけれども、ヨーロッパ、とりわけドイ ツでは解雇ルール逃れを防止するという意味で、例えば有期雇用に結果的に逃げている 形は制限を加えています。日本でしっかりとした解雇ルールを作った場合に、その解雇 ルールそのものを逃れるために有期雇用に持っていく流れが強まっているのではない か。そのことが格差社会に流れているのではないかと思います。例えばドイツでは脱法 行為をさせないために有期の場合には正当な理由が必要なんだという形で、いわゆる無 闇な形での非正規労働者を増やさないような方策がとられているわけですけれども、こ の点について公益委員の荒木委員などはヨーロッパのことについて詳しいし、そういう ものも使いながら、ご紹介いただきながら是非検討材料に入れてほしいと思います。  あともう1点、金銭解決のところも含めていいのですか。 ○分科会長 これはまた後でお願いします。 ○田島委員 後になりますか。では、とりあえずそれだけ意見を言っておきます。 ○紀陸委員 有期契約の問題はまた別に論議する場面があると思います。特に今日は意 見の幅が広いものですから、それぞれの問題について時間を合理的に費やしたいと思い ます。それで、整理解雇の問題については私どもここに書いてあるとおりの主張につき るのですが、第18条の2でも十分だと思っています。いろいろな事案、個々のケースに よってまさに判断は個別でされなければいけませんし、要件なのか要素なのか、4つで いいのか、あるいは2つがいいのか3つがいいのか、それはいろいろなカテゴリーの区 分けは事案事案によって違って来ざるを得ないと思います。結論としては私どもはこれ で尽きていると思っています。特に新しく法律をつくる場合には判例で固まったことに ついて誰が見てもそうだなという部分を盛り込むのであればともかく、そうでない状況 の中で無理矢理新たな法律をつくることはかえって逆に、それこそ滑合性を1つの目標 にしているのでしょうけれども、それが失われかねない。したがって、この判例法理自 体に対していろいろな評価が分かれている中で4要素、4要件の問題を論議してこの中 に入れて法制化することについては反対であります。この辺の事情については、早速で ございますが私ども中山委員にご補足をいただければ幸いかと思います。 ○中山委員 整理解雇については、いまお話がありましたように最高裁の判例で確定し た4要件、4要素が明らかにされていない。それから、高裁で先ほどの裁判例のように 東洋酸素事件がリーディングケースとして挙がるのですが、これは要件としては3要件 説でありまして、そういう意味でいまの状況の中で4要件、4要素を法律で固定して、 そこに判断対象を集約するのは非常に不都合が出るだろうと。それから、今後、従来の この社会の中で転職市場がますます進展したり、雇用の流動化という中で、これは先ほ どご紹介した事件もそうですが、契約を終了する代わりに、それについて生活上不安の ないような、例えば転再就職を支援する、退職金の上積みをする、アウトプレスメント を考えるといった措置によって解雇が正当化されるという考え方も現に出されているわ けですから、私は立法論の中で4つの要件を明定するのは反対ということになろうかと 思います。  要素より要件だというお話でしたが、もともと、第18条の2については権利濫用法理 ですから、いわば総合判断の手法を取り入れているわけですから、4つのいずれかがな いと絶対不可欠な要素として、有効になったり無効になったり、そういう4つの要件を 定めたものと解するよりは考慮要素と、要件か要素かと見れば要素と見るのが私は正し いと思っていますし、最近の裁判例に両方ありますが、どうも要素のほうが強いのでは ないかと認識しております。 ○長谷川委員 整理解雇について、使側は4要素でもつくるべきではないという意見で あり、私どもは4要件でつくるべきだという意見をずっと言ってきたわけですね。それ に対して専門家から最近の裁判の状況、4要件、4要素についての見解が示されました けれど、私どもは異なる考え方を持っているので、ここは私のほうからではなく専門家 から反論したいと思いますが、よろしいでしょうか。 ○分科会長 はい、どうぞ。 ○徳住委員 整理解雇の判例について最高裁に一般法理を展開したことがないのはその とおりだと思います。ただし、解雇の事件の類型の中で整理解雇の類型は下級審で最も 多いと思われます。件数だけではおそらく、解雇の事案の中で整理解雇の事案は相当の 割合を占めています。しかも、実務的には、先ほど4要素か要件かというのは裁判例に よって違いますけれども、労使とも人員削減の必要性、回避努力義務、選定の合理性、 手続の合理性、これを使用者側も一生懸命主張されます。私たちもそれについて一生懸 命反論するという、そういう裁判上の実務的な主張、立証責任が実際行われていて、そ の表現が裁判官によって考え方が違ってきているのは事実ですね。そういう点では労基 法の第18条の2で解雇濫用法理ができましたけれども、あれだけでも大変重要な法令だ と思いますけれど、まだ抽象的で包括的規定だと思うのですね。そういう点では解雇の 類型ごとに予測性、当面性を高めるために類型化していく必要が私はあると思います。 その中で最も、最高裁の判例はないけれども、裁判例がものすごく多くて、実務的には 4要素、4要件というのは裁判官の表現によって違いますけれども、そういう形でやっ ていけば私は法律的な環境からいくと、法律にする環境は熟成している分野ではないか と私は思っています。  1つでも要件をかけたらどうかというのは、その裁判決の判例の仕組みによって違い ますけれども、いちばん問題になるのは、第4要件だと思われます。私がやった中で第 2要件、第3要件で既に決着すると裁判所は第4要件に触れないで、解雇無効なら無効 という場合が多くて、有効の場合に第4要件で判断するかというのが問題になるケース だと思いますけれど、それもケースは少ないですがあるわけですね。整理解雇というの は本人に責めを帰するべき事由がないのに解雇されるという点で、使用者側がやっぱり 説明を尽くして協議をすると。説明すればしょうがないということになると思いますけ れど、何も説明しないで解雇するのは労働者に与える影響は大きいですし、就職だとか、 いろいろ辞めるに当たっての補助的なものがないという点では、私は第4要件を欠けた 場合については、それだけで無効になるケースはあり得るのではないかと思っています ので、そういう点で規定の仕方はいろいろあると思いますけれども、4つの要件を明確 にしてもらうことは、私は予測性を高める上で必要ではないかと思っています。 ○田島委員 労使の専門委員の方から意見をいただいたのですが、そういう専門的な要 素だけではなくて、労働者、働く者にとって解雇されるのは極めて大変なことなのです ね。全国一般、解雇争議をやっている場合に、例えば組合員でなくて駆け込みの相談で、 解雇されたらやっぱり家族にも伝えられなくて、出勤した振りをして、自殺まで考えて 労働相談に駆け込んできて争うという事例があるわけです。解雇とはそれだけ労働者に とって、働く者にとって、人生に大きな問題であるわけです。この4つの要件そのもの は削減の必要性、回避措置、選定方法、手続はいろいろな事案があっても、こういう立 証と言いますか、経営者がこうやって解雇するんだよというのは、解雇しなければなら ないような理由があるのだったら大変なことではないだろうと思いますし、そういう意 味で解雇をよける手続なり、理由などをきちんと、雇用の終了のところにおいては明確 にしておくことのほうがいいと思います。それは今日の資料で裁判例の東洋酸素事件で は、3つの要件を充足することをよしということで、確かに4つ云々というのは書いて いませんけれども、しかし、私はこれまで多く出されてきた裁判例そのものを活かして、 なるべくいい契約法をつくろうという形に持っていくことのほうがいいだろうと思いま す。  あともう1点は、先ほどの有期の問題も別に有期を議論しようということではなくて、 こういう解雇ルールをつくったら、それを逃れる道を塞ぐことが必要だということで言 及したものです。これは労働問題だけではなくて、つい最近騒がせたライブドア、もう 1つ投資ファンドなどが隙間をぬってやっている。事例は違いますけれども、ルールを つくったら抜け道がないようにしてそのルールを全体の労働者がカバーできるような方 策を考える必要がありますねということで言ったのです。今日有期雇用の問題について 論議をしようということではなくて、そういう視点から問題点を捉えていくことも必要 ではないかということで意見を出させていただきました。 ○中山委員 いまの点ですが、徳住委員も実際の裁判で使用者側も4要素、4要件を使 用しているのではないかというお話ですが、現実に裁判ではそのようなケースが多いの ですが、私どもが先ほど意見を申し上げたのは、要するに法律であらゆる事案に共通す る考慮要素、あるいは要件として、4つを固定してしまうと。法律をどういう内容にす るかという場面でそれは行き過ぎではないかと。つまり、最高裁の判例もないし、3要 件説もあるし、あるいは現在までの裁判例で4要件を取っていないものもあります。そ れから、今後の雇用の多様化とか、いろいろな必要性の中で裁判所が事案事案に応じた 柔軟、適切な判断をしていく可能性もあります。そういうことを考えると、現時点にお いて、現状追にない大多数、あるいは多くの考え方の内容を100%の条文化で表わして しまうというのは問題であると。したがって、現在の4つの要件は重要だということで、 別に法令によらずに、いろいろな場面で周知活動をするところは否定しているわけでは ないのですが、4要件、4要素を法律化するというところでは反対せざるを得ないとい うことです。 ○長谷川委員 おそらく、この議論はずっと続くだろうと思います。労側はずっと4要 件と言うし、使側は4要件ではないでしょうと。この論争はこのままやっても最後まで いってしまうから、今日いっぱい議題がありますので、次へいってください。 ○紀陸委員 1つ申し上げますと、田島さん、整理解雇というのは会社存続、できるだ け多数の方々の雇用を維持するためにやむなくというのが現状、実状ですよね。そうい うのが背景にある。しかも、それは会社だってやりたくてやっているわけではなくて、 これはやむを得ざる事態ですよね。その待遇がどうくるかによって手順、手続、それぞ れの中身の判断は千差万別にならざるを得ない。この実態をご理解いただきたいと思い ます。 ○田島委員 いまの点をちょっと、いま紀陸委員がおっしゃったようなことは、かつて はそうだっただろうと思いますけれども、しかし、バブル以降のリストラなどを見ると、 本当に、やむを得ずなのかなと思うケースがよく見られます。予防的な、あるいは攻撃 的な、先制的なものがずいぶん増えてきていると。いま紀陸委員がおっしゃったような 経営者の方が増えてくればいいのだけれども、そういう状況もだんだん崩れてきている のではないかという意見を言わせていただきます。 ○原川委員 いまの件に関連しまして、この整理解雇の4要件、4要素を法律に規定す ることについては、法律上の観点だけではなくて、企業の存続、経済的な影響をしっか り考えるべきだということを申し上げたいと思います。  中小企業の場合、前から申し上げておりますように、紛争が起こることをいちばん恐 れます。紛争が起きたときに裁判に勝つか負けるかということよりも、その紛争によっ て受けるダメージが中小企業の場合には非常に大きいということを考慮する必要があり ます。その場合に、中小企業は紛争を起こさないようにと考えると、経営上整理解雇が 必要だというときでも、十分に法律的な対応ができない企業が多いということですから、 企業としては問題が起こる可能性があればやめておこうということで、計上が必要でも やらないということになる可能性が非常に高い。要するに、経営が萎縮する現象が起こ ると。これは企業経営にとってはボディーブローのような影響があると考えております。 だんだん、だんだん計上が必要なことができないということになれば、やはり、国全体 でいっている地方の経済の再生、活力の再生、そういったことにも非常に大きな影響が 出てくるのではないかと考えますので、是非法律的な論点だけではなく、経済的に及ぼ す影響も考えていただきたいと思います。 ○石塚委員 整理解雇の問題を考えるときに、私どもの一般的な話で言うと、ぎりぎり、 企業が倒産寸前になっていて、そこでどうしようかというときに整理解雇が行われると いうことをこれまではやってきたわけですけれども、そういう事情がいっぱいありまし た。しかし、この裁判例2つもそうですが、最近起きている整理解雇の状況は、企業倒 産に至る手前で、いわば経営者の戦略として整理解雇を選んでくる、事業の縮小、再編 を伴ったケースが増えてきているわけですね。そうすると、そのことをもって、いま使 用者側の委員の方もおっしゃいましたけれども、整理解雇を非常に大変なこととして考 えて、できる限り回避しようと。もちろん経営戦略上から言って、そういったことをダ イナミックに進めていったほうを是とする風調があると私どもは感じているわけです。 むしろそれを是として雇用をもっと柔軟化すると言いますか、長期安定雇用から変動型 のほうにシフトしていく、その風調をもって是とする。これを私は古典的な企業倒産時 の一歩手前における整理解雇の問題よりも、むしろ、いま言った風調のほうを私どもは 懸念をしているわけです。  自由に首切れる、切れないという話は経営側のニーズとしてあるのでしょうけれども、 私ども労側がむしろ経営側に考えていただきたいのは、日本企業の競争力の減損は一体 どこにあるのか。即ちアメリカ型に自由に首切れるということですけれども、本当の企 業の競争力は要するに労働者の知的な鍛錬だとか、技能発揮だとかいう点に私は依存し ていると思います。現にアメリカの私が知っている事例から言いますと、確かに解雇は 勤続年数、先任権の序列によってできるわけですが、本質的な意味における労働者に対 する投資、教育の訓練ができていません。私の知っているアメリカの製造業の場合にお いては、競争力を喪失してきたという厳然たる歴史を持っています。  それに対して日本の場合には、やはり労働者に対して長期雇用慣行の中で労働者に対 する教育を実施して高付加価値製品をつくってきた。それによってものづくり産業がベ ースに発展してきて日本の競争力の土台になっていると理解していますから、経営上首 切る必要があるとかないとか議論をする気はありませんけれども、そういう意味では、 日本の本質的な競争力を大事にするのであれば、私は経営戦略上ないし経営判断として 安易に整理解雇に持っていくといういまの風調を助長することがあってはならないと思 っていますし、そういう点を表明しておきたいと思います。以上です。 ○長谷川委員 石塚委員と同じような意見ですが、整理解雇をしなければいけない企業 の考え方は原川委員が言ったような話だと思うのですが、だとしても、何十年も自分の 会社で働いてきて、会社が危機になって従業員の整理解雇をしなければいけないときに、 苦楽を共にしてきた従業員に対してなぜ整理解雇をしなければいけないのか説明をして しかるべきではないですか。例えば100人から20人の整理解雇をしなければいけないと きに、20人の中でなんで自分なのか。それから、解雇をする前に会社はもっと別なこと ができたのではないか。そのときに従業員に対する説明、労働組合があれば労働組合と の協議、これは法律にあろうがなかろうが私は企業の良識だと思います。企業の中の労 使関係で言えば、大体合理化対策のときにやっている話だと思います。整理解雇4要件 というのは、この4つの要件というのはなかなかいいできだと思いますが、その法律が あろうがなかろうが、判例があろうがなかろうが、常識ある労使関係の中では一般的に 合理化の中で行われている話だと思います。やっぱり解雇される側から見れば、首切ら れる側から見れば、あのぐらいは、だって20年も30年も一緒にきて、会社が危機のと きは当然だと私は思うのですね。ただ、先ほどからいろいろな関係者の方から、法律関 係の方が判例の状況などもご説明されましたので、これ以上なると良好な労使関係とは 何なのかという話になっていくので、この辺でやめておいたほうがいいと思います。 ○分科会長 それでは、2つ目の解雇の金銭解決の仕組みについて、先ほど資料No.1‐ 3で東京地裁における労働審判事件の説明もありましたので、そういったものも参考に しながらご意見をいただきたいと思います。 ○長谷川委員 私は何回も言っていますけれども、解雇無効の訴訟を起こすのは大体労 働者で、自分の解雇はおかしいということで解雇無効の訴訟を起こすわけですね。その ときは、自分の会社の従業員たる地位確認の訴訟という形になります。それで、解雇無 効だと確定したときに、会社の社員である地位が確認されたのに、なんで金で解決でき るのですか。私は全然理解できないのです。それは違う話ではないですかと思うのです ね。例えば金銭で解決したければ、いま訴訟の中で和解だってあるわけですし、そうい うところで事実やられていますので、それ以上の制度をあえてつくる必要はないのでは ないですか。それは本当おかしいですよ。なんで解雇無効、地位確認を勝ち取ってです ね、訴訟をやって自分は会社に戻りたいと言っている人に対して、金を払えば解雇して もいいだろうとなるのでしょうか。そんなバカな話ないですよ。  あともう1つ、こういうものをつくれば、「金を払えば解雇できる」と絶対なります よ。今日来ている皆さんの会社は優良な会社だから、そういうことはしないというのは 本当にわかっています。でも会社というのは日本全国、北海道から沖縄までの会社みん な皆さんと同じ会社ではないのだから、たまに会社の中で勘違いをしたり、変なことを する会社もあるわけですよ。法律というのはすべてを網羅しなければいけないわけです から、そういう意味で、私はなぜ金で解決できるような制度をあえてつくらなければい けないのか理解できません。したがって、解雇の金銭解決制度を今回の労働契約法に取 り込むことに対しては断固として反対します。 ○紀陸委員 私ども何回も言っていますけれど、この制度を入れるのは基本的に被解雇 者のためと、1審で終らずに2審、3審へいく、しかも、1審の判決が出るのに時間が かかる。途中で和解をやりましょうといっても、それが不調に終わる。その結果、お話 のように解雇無効の判決を勝ち取っても、考えてみれば職場へ戻っても域がない、そう いうふうに考える被解雇者の方が非常に多いのではないか、実際に。理屈の話ではなく て現実にそういう方はいっぱい見てきているはずですよね。だから、そういうことがな いように、スムーズな被解雇者のためのニーズ、会社側だって巻き込まれるわけですか ら、両方のために選択肢を1つ広げましょうという話ですよね。いやなら、もっと前に 和解すればそれでもいいでしょうし、それこそ、こういう事件を起こさずに労働審判で やるのもいい。だけれども、たまたま事案が長くかかって、戻っても域がないという場 合にはこういう解決もありますと、そのような解決の枠も広げましょうという話であっ て、決して、それは被解雇者の方々のためにもマイナスではないだろうと。しかも、お かしな例がありましたけれども、そういうことはこの制度の適応から外しておけばいい 話であって、そんなに嫌いだ、いやだと言う必要はないのではないでしょうかね。なん か偏見を持っている感じなのですが。 ○長谷川委員 解雇無効なんですよ。解雇無効で自分の社員たる地位を確認したのに、 なんで金で解決できるのですか。例えばその人が30歳で解雇されたらば、その人は60 歳の定年退職まで働く、それを全部解決金で払うと、そういう制度なのですか。だって、 その人の社員たる地位を買うわけでしょう。そうではないのですか。 ○紀陸委員 でも、そういうケースをいっぱい見聞きされているでしょう。 ○長谷川委員 それは全部和解じゃないですか。だから、和解であればいいでしょう。 和解でやればいいのに、なんで金銭解決を入れないといけないのですか。 ○紀陸委員 案件でそういうケースはいっぱいあるのではないですかと。 ○長谷川委員 それは和解でやっているじゃないですか。 ○紀陸委員 和解で済まないケースはいっぱいあるでしょう。 ○長谷川委員 それはしょうがないでしょう。だって和解にならないのだから。 ○田島委員 紀陸委員が解決の幅を広げると言いましたけれども、使用者側にとっては そうかもしれないけれども、労働者にとっては現職復帰、職場に戻る道を閉ざすんです よね。解雇は無効ですよと。これは不当解雇だったと。不当解雇であっても金銭さえ払 えば戻れませんという道ですから、労働者にとっては結果的に幅が広がるのではなく狭 まるんですよ。  もう1点は先ほどの議論に戻りますけれども、第18条の2を2003年に作りました。 結果的に経営者は解雇そのものは権利の濫用ではありませんと一生懸明証明しようとし ても、いや、証明しないでも、例え負けても金さえあれば田島なんておっぽり出せるの だからという形になっちゃえば、結果的に選択肢を広げることにはならないし、解雇の 解決の促進にはならないだろうと思っています。  もう1点は、いままで和解の場合には本人の意思が入っての和解です。しかし、今回 の金銭解決そのものは本人の意思が、現職復帰、裁判に勝ったのだから戻りたいといっ ても戻せない道なんですよ。こういうことをやってしまったら、結果的に第18条の2は 空洞化していくという問題につながっていくし、もう1点重要なのは、経営者に権利を 主張したり、いま有休の取得率が半分しかないけれども、みんなが半分取ってみたり、 そういう権利主張していることに対して見せしめ的に解雇をやられたら、本当に労働者 そのものが萎縮する職場づくりにつながっていくという問題があると思いますし、そう いう意味でこの金銭解決は和解の問題とは全く違って、本人の意思に反して金で解雇を、 首を買っちゃうことですし、そういう意味では私も絶対反対です。 ○紀陸委員 使側の申し立てであれ、あるいは被解雇者の申し立てであれ、裁判所がも う1回判断するわけで、職場に戻ったほうがいいのか悪いのか。この辺は訴訟の事情に お詳しい弁護士の委員方からご意見を伺いたいと思いますので、中山委員、お願いいい たします。 ○中山委員 実際に無効になったら何で戻れないんだと、もちろん、戻るケースもあり ますが、私の経験でも無効判決が出た後和解するということで、金銭的に退職和解する ケースが実に多いわけですね。私は使用者の立場を代理しているからそういうふうに見 えるのかもしれないのですが、やはり、継続的に長い間その職場で、あるいはその企業 の中で働くということですから、最低の信頼関係をどうやって維持しながら従業員と使 用者がうまくやっていくかという点から見ますと、解雇理由の中で、労働者にも言い分 がありますけれど、使用者にも相当言い分がある場合には、これは最終的に白黒しか付 きませんが、そこで信頼関係が破壊される、つまりその結論が仮に解雇無効でも、なか なか職場に戻しにくいという実情を僕も見ていますので、そこはご理解いただきたいの が1点。  先ほど何かお金を払えば解雇できる、これはけしからんと。解雇したい人をこの制度 で放り出したいというお話がありましたが、これはこれから立法を検討する場合には当 然入ってくるのですが、研究会報告でもそういった濫用、解雇の金銭解決制度を濫用し ないようにどうしようかということで、研究会報告では、たしか人種や国籍や性別の差 別的な解雇、あるいは正当な権利行使を理由とする解雇など、明らかに不当で、これは 金銭で解決してはいけないという要件を考えようという制度の中で私どもは議論してい るわけで、何でもかんでもとにかく解雇したら金銭ということは、いまの議論の中には 当然ないので、むしろ濫用防止の制度をどうしようかという議論に一歩進めていただけ ればありがたいと思うのです。 ○長谷川委員 なかなか理解が難しいです。使用者は、法律で解雇が金で出来るように なるということ、おそらく使用者がその法律の中に、解雇について金銭解決が出来ると いう制度が出たら、それはみんな飛びつきます。それは本当に中山先生は違うと言うの ですが、私はこの間のいろいろな例を見ても、そうなることはほぼ予測できます。解雇 の判決が出た後に和解でやることもよくあるのは私どもも知っています。だから和解制 度を使えばいいのではないですか。改めて何も法律にそういう制度を作って、金で解決 できる制度があることを、何も全国に教宣活動する必要はないわけで、私はそれは認め ることができない。  あと、労働側の専門家も、いまの話で若干コメントしたいと言っています。 ○徳住委員 解雇が無効の場合に、職場復帰の実態がどうなっているのかと。私も長年 労働事件をやっていまして、職場復帰の対応が少し変わってきた。統計的に見ても職場 復帰の件数が増えてきて、そして結構スムーズに行っている例が出ていると、私は個人 的に思っています。昔の解雇は、中山委員も私もずいぶんやり合いましたが、集団的解 雇を背景とした、お互い同士が相当の集団的憎しみというか、感情的対立を持った中で の対立だったのですが、個別的労使紛争になってきて、裁判所が解雇無効だということ になると、社長がどう思うかはわかりませんが、大企業ですと仲間のみんなは受け入れ てやっていく例もありまして、私の経験からは、結構スムーズに行く例もあるのです。 そういうときに使用者と労働者の感情的対立の問題はありますが、その実態はもう少し 真摯に認めて、本当にいまの時点で金銭的解決が必要かどうか、もう一度私は使用者に 考え直してもらいたいと思っています。  もう1つはこの案の中で、労働審判制の問題に若干触れていますが、労働審判制はこ の4月にスタートした、大変よちよち歩きのヒヨコのような制度です。私も何件かやり ましたが、労働審判制については、労使とも概ね良い評価をしていると思いますし、裁 判所も先日協議を持ちましたが、そのような感じを持っている。しかしこの中で、労使 が金銭で解決しようという場合は調停でできますが、労働側が復職を望んでいるときに、 金銭的労働審判を出せるかについては労使でものすごく対立していますし、裁判は実務 上の解釈もついていて現在まだ1つも出ていないという実情だ、と私は理解しています。 そういう点では労働審判制度の中に、ここでは調停という言葉を使っていますが、調停 ですと裁判所の和解と同じであえて書く必要はないわけで、そういうよちよち歩きの労 働審判制の中で、解雇における金銭解決制度をリンクした形での条文を入れることにつ いては、混乱を引き起こす意味でおやめになったほうがいいのではないかというのが、 私の意見です。 ○分科会長 ほかにご意見がなければ、今日はそれ以外にも重要なテーマがあります。 2頁の主な労働条件に関するルールですが、そこに○が4つ並んでいます。安全配慮義 務、出向について、転籍について、懲戒について、この4つについてルールを明確化す ることについて、是非ご意見をいただきたいと思います。  それに関連して、労働基準法制の労働契約関係の部分の議論ですが、2頁目の最後の ○の所に、出向、懲戒の事由等について、就業規則の必要的記載事項とすることについ ても、ご意見をいただきたいです。これらの点について、何かありますか。 ○長谷川委員 1つ安全配慮義務は、労働契約法に盛り込んだらいいのではないかと思 っています。公益の先生にお聞きしたいのですが、使用者が配転や転籍、出向を労働者 に命じられるという根拠というのは何なのかを、ちょっと教えていただきたい。どうし て命じることができるのか、その根拠を教えていただければ。 ○荒木委員 転籍については民法625条が適用されて、個別労働者が同意しない限りは 使用者が一方的に命じることはできないというのが、一般的な理解だと思います。  出向については、個別労働者がノーと言った場合に命ずることができないかというこ とが争われまして、今日お配りいただいた新日鐵の事件では、個別労働者の同意がなく とも就業規則上規定があり、かつ労働協約で子細な出向条件に関して労働者が不利益を 受けないような手当がなされているという状況のもとでは、個別労働者の同意がなくと も出向を命ずることができるという判断が下されているということです。即ち、労働契 約の内容として出向を命じるという権限が契約に盛り込まれていると判断できる場合に は、出向を命じることができるということではないかと考えています。 ○田島委員 長谷川委員が何気なく言いましたが、極めて重要なのが、配転、出向の配 転が、なぜ検討の所に○がなくなってしまっているのかなという問題があります。これ も18条の2と極めて絡んでくるのですが、いま荒木委員が、例えば出向や配転なども、 結構企業の裁量を認めるような判例は確かに多いが、それそのものは雇用を確保するた めに、そういう働き方では柔軟的にすべきなのだと、いろいろな本を読むと出てきます。 そういう意味では解雇のルールと出向や配転の問題というのが極めてリンクする問題だ ろうと思いますが、これそのものも労働契約でいえば働く場が変わるわけで、とりわけ 遠隔地への転勤などは、生活に絡んでくる問題ですから、労働者との同意の問題などの 検討を深めていくことが必要だろうと思います。  いちばん上の○の安全配慮義務は、いまの労災、あるいは長時間労働、過労死、過労 自死、自殺という問題が増えてくる中では、安全配慮や健康確保についてしっかりと労 働契約の中で謳うのは必要ではないかと思います。ただ、ちょっと聞きたいのは、なぜ 配転が欠けてしまっているのかがちょっとわからないので、教えていただけますか。 ○監督課長 前回9月11日に議論していただくときに、労働契約のいろいろなルールの 中でも特に重要なものについてルール化をしていくということで、その代表選手として 安全配慮義務、出向、転籍、懲戒を選んで、これを主たる議題の範囲としてやっていこ うということでご議論いただいたのではないかと、理解しているわけです。  その中で、当然労働契約の中については、いろいろな範囲で幅広い問題がありますが、 その中からまずは急ぐところ、重要なところで、ある意味では労働者に対する影響の度 合の非常に大きなところから議論していくことがよろしいのではないかということで、 この4つを挙げさせていただいているということです。 ○渡邊佳英委員(代理・林氏) まず、安全配慮義務について意見を言わさせていただ きます。すでに安全衛生法上で、罰則付きのいろいろな規定があるわけです。その上に さらに今回のように、例えば総論的に安全配慮義務を労働契約法に載せるという意義が どこにあるのだろうかと、これは素朴にそう思います。もうすでに安全配慮義務がある ことを前提にして、安全衛生法そのものが成り立っているわけですよね。そうすれば何 ら意味がないのではないのと思うわけです。  同様に、転籍についても民法ですでに明文規定がある上に、なぜ労働契約法でそうい う規定を設けなければならないのかという、屋上屋を重ねる意味があまり感じられない と思います。  いま話題になっている配転並びに出向についてということであれば、これは先ほどか ら労側委員がおっしゃっている日本的な雇用慣行の中には、ジョブローテーションとい うことで、ローテーションそのものが労働者の育成であるという考え方で、かなり慣行 の中にすでに入っているわけです。単純に長期雇用するだけではなくて、その中でその 企業固有の人材を育成していこうということで、育成の方法の1つとしてジョブローテ ーションがあるわけです。そのジョブローテーションの中に1つの形態として出向とい う形態があるとすれば、それが就業規則で定めてありさえすれば、なぜ命じてはいけな いのかと。日本的雇用慣行を労側は否定するわけではないでしょうから、それをそのよ うに感じます。 ○新田委員 一言だけ。安衛法で決まっている、だからいまさらとおっしゃるのでした ら、民法で契約は両方の合意だということであるならば、就業規則だけで決まっている からいけるなどという議論は乱暴すぎませんか。それは僕は言いたいです。  配転や出向、転籍というのはまさに会社が変わってしまうわけですから大変ですが、 配転には、いろいろなものがあります。同じ仕事で都内で変わる、あるいは札幌支社へ 行くなどありますが、仕事も変わって遠くへ行くという配転もあります。そういう意味 では出向と同じように、労働者に係ってくるわけです。それは自分がこれからどのよう に仕事がやっていけるのかということだけではなく、生活そのものがどうなのだろうか ということも含めて、大きな問題です。  長谷川委員が最初に、どうして出向や配転、転籍ができるのですか、命じられる根拠 は何ですかと聞かれたときに、ある先生のお答えもあったのですが、僕はそれは労使の 約束があるからではないかと思うのです。そうではないでしょうか。入るときに約束し ているでしょう、だからその約束に沿ってやるのですよということがあると思うのです。 具体的な事例でどんなことをやろうかというのは、またその間で労働組合と話をしたり、 あるいは会社の積上げで慣行が出来ていったりしていることは言えると思いますが、労 働契約法にこのことをきちんと入れないことは、ものすごく心配になるのではないか。 入るときに雇ってもらうのだ、ここで頑張るのだという気持で入ったとしても、ふっと 気が付いていくときに心配事になってくるということでは、やはり違うのではないかと 考えていますので、そういう意味ではルールをきちんと明記していくことが必要である と思います。特に昨今ワークライフバランス、あるいは子どもの教育や介護の問題もそ れに全部引っくるめられるのでしょうが、その種のことをどう考慮するかということも、 議論になっています。そういう意味も含めて盛り込んで考えていくことが大変重要では ないかと思います。  これまでの判例では、おっしゃったように結構働く側に厳しい。転勤させられる側、 配転させられる側に厳しい判断があるものですから、特に時代の流れの中で、もうそろ そろ違う時限に入っていってもいいのではないのですかということを、経営の皆さんに 申し上げたいのです。そういう意味合いで、この先のあり様を考えたらどうか、こんな ふうに考えています。 ○紀陸委員 安全配慮義務の問題と出向、転籍の問題とはちょっと違うと思うのです。 そういう意味で出向、転籍というのは一括りというか同じにして、安全配慮の問題は最 初にやってというほうが、いいと思います。そういう意味で、これをどういう形で法文 化するかによって、立証的にはどうなるという問題が出てくるのだと思うのです。特に 経営側の配慮義務だけ言ってますが、現実には権利の裏には義務がありますから、利害 の方々のこともバランス上必要になってくると思うのです。  別添につきましても、私どもは中山委員のご意見も承っておきたいと思っていますの で、中山委員に補足をいただければお願いします。 ○中山委員 安全配慮義務については、先ほどご紹介のあった自衛隊事件や川義事件は かなり一般的に言われているところです。それで、立証責任も現実には、労働者のほう で実際にこういう安全配慮義務違反があったという具体的な主張を立証して、それで裁 判を進めるという形が判例法上定着していますので、少なくとも現在の判例の考え方を 条文化するという限度では、私は特に問題ないというか、そういうものを決めるのは特 に反対する理由はないだろうと思っています。  先ほどちょっと紀陸委員からも話がありましたように、労働基準法のように使用者の 義務を定めて、公法上いろいろな罰則を加えるというのではなく、ここで議論されてい るのは労働契約法で、民事法の当事者が労使であるというだけですから、安全配慮義務 に対応する健康保持なり、そういうものも立法化に当たっては是非配慮していただきた いと。  先ほどの自衛隊事件アンダーラインの所にはありませんでしたが、下のほうを読んで いただきますと、たしか当事者の一方又は双方が相手方に対して負う信義則上の義務が 書いてあるわけですから、そういう点からも労働者側のそういった配慮も併せて考えて いただければ、これは職場における安全配慮、健康配慮で労使ともに必要ですよとなる ので、私はそういったところをむしろやっていただければいいかなと思います。 ○長谷川委員 いまの委員の意見には、特にありません。 ○小山委員 先ほどから出向や配置転換、特に転居を伴うような配転という問題につい て、先ほど新田委員からもありましたが、家族的配慮、家族的責任が、最近は問われて いるわけです。20、30年前はあまりそういうことは言われずに、役割分業で男は仕事で 女は家庭のような考え方が日本には多かったわけですが、今日国際的にも大きく変わっ てきましたし、日本の中でも男女共同参画社会に向けた取組みが政府、民間をあげて取 り組まれているわけです。  その中で特にいくつかはすでに法律の中で、例えば育児介護休業法の第26条では、労 働者の配置に関する配慮ということで、事業主は雇用する労働者の配置の変更で就業の 場所の変更を伴うものとしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業 しつつ、その子の養育又は家族の介護を行うことが困難となる労働者がいるときは、当 該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならないという条文も入れ られたわけです。ですから、当然において入社時の契約では想定できないことが、会社 へ入って結婚して子どもが生まれてということに起こってくるわけです。ですから、当 然こうした家族的責任に関する規定を明確にしておかないと、今日の状況では国際的に も批判を浴びることになりかねないと思いますので、きちんとした規定を契約法の中に 入れていただくように、改めて強く主調しておきたいと思います。 ○谷川委員 出向についても確かに労働側委員の言われるような社会的な状況があっ て、なかなか居所の移動を伴うことに対する抵抗感があるという現実は、出てはきてい るのだろうとは思います。おそらくそういう中で、企業としても雇用のあり方全般につ いて見直しはしているような部分があって、おそらく地域限定で仕事をしたり、いろい ろな雇用の形態が変わってきているのだろうと思うのです。  先ほどの使用者側の委員が言われましたが、社員の人材育成という部分で、ジョブロ ーテーション、いわゆる教育訓練も大事ですが、そういう現業の仕事を経験することに よって人材育成していく要素はかなりあります。ですから、そういう部分の違法、ある いは先ほど来出ている事業上やむを得ざることで居所が移動することもあることを含め ますと、かなり雇用のあり方が多様化をしてきているので、私は包括的に就業規則にお いて同意ができていれば、これについてこれ以上特定規定化する必要はないのではない かと思います。 ○石塚委員 私は、日本的な雇用関係及び長期雇用制を支持する人間というか、大事だ と思っています。一般的な意味における長期安定雇用における育成、教育能力開発投資 イコールそれに伴うジョブローテーションというのは、是とするのですが、ジョブロー テーションないし育成という名目で、いろいろな施策が取られています。一般的に私ど もは否定するものではありませんが、少しこの間の配転や出向という問題に関して、だ いぶ状況が変わってきているのではないか。したがって一昔前のジョブローテーション のための配転や出向という状況と、労側が先ほどから主張しているように、非常にワー クライフバランスが大事になってきたという観点から見たときに、どのように判断すべ きなのかという点を、もう少し強く考慮すべきだろうという主張を持つものです。  例えば配転の問題の最高裁判例でいきますと、いわゆる東亜ペイントの事件だと思い ますが、最高裁の結論は労働側にとっては単身赴任オーケーという悲恨がありますから、 ワークライフバランスの観点から見たときに、相当問題がある判決だと私どもでは思っ ています。  ただ、東亜ペイント事件のときに結構いろいろいいことを言っていまして、配転命令 権の濫用をしてはならないことを言っていました。配転命令権の濫用してはならないと きに、たしか3つありましたが、当該配転の業務上の必要性の存すること、不当な動機、 目的に基づいていないこと、労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益 を課すものではないという3つの記事に関して、東亜ペイントは最初昭和60年か61年 近辺だと思いますので、その当時の社会通念に照らしてみて、当時の事案については、 これはちゃんと権利の濫用に当たらないという判断を下されてしまったわけです。結果 論としては私は厳しいと思いますが、当時裁判所が示していた3つの要件、いま繰り返 しませんが、この基準は私は大事だと思っています。  問題なのは、いちばん最後の「通常甘受すべき」という所で、これが出てしまったが 故に単身赴任は当り前ではないか、配転は当り前ではないかという感じになってしまっ ていることが問題なので、おそらく通常甘受すべきということは時代の状況の中におい て、社会通念の問題も含めて、たぶん変わってくるのだと思うのです。したがって昭和 60年当時に当り前だと思っていたことと、いま現在少子高齢化が叫ばれている中で、ど うやって家庭と生活とのバランス、仕事と家庭とのバランスを取るのかが、より重視さ れる環境になったときに、通常甘受すべきという中身は、当然解釈上は変わって然るべ きではなかろうかということを強調するために、労側は口を揃えて、ある意味では同じ 判断基準は東亜ペイントのものでいいと思いますが、それを判断する基準、客観的条件 は時代の変化とともに変わってきているので、そういう意味においては、ジョブローテ ーションのこと自体を否定するのでも何でもないのですが、具体的に実行する際には少 しワークライフバランスという観点をもう少し重視したほうがいいのではないかと思っ ています。  もう1つの出向に関してですが、確かにいまの出向に関してもジョブローテーション 上これは欠かせない、あるいはということもわかっているつもりですが、やや日本の場 合、出向をめぐる条件で、転籍は別にして、事前に就業規則等々があれば包括的同意が あって、それに基づいて同じことができると、少し広く解釈されすぎていないかという 懸念を持っています。確かに事前に包括的同意があって、就業規則等があって、いわゆ る包括的同意があるとするということは、いまの解釈上は通念としてやられているので しょうが、例えばこれに関して最高裁判例で言いますと新日鐵があります。  先ほどご紹介があったように、包括的同意は前提に置くわけですが、新日鐵事件の場 合には、労働者の利益を配慮して定める、仕事の内容や労働条件が大きく変化しないと いったことをいわば限局して、これは合意があったと見なされているわけですから、最 近はまさに包括的同意があればいいではないかと。新日鐵事件は2003年で、むしろ最高 裁の判例自体が、割と近い段階において判例されるわけです。それにおいて判断の枠組 が判例法理として確立されたと思いますが、それをめぐる条件や環境に対する判断、何 を重視すべきなのかというのは当然時代によって変わってきているのだろうし、まさに 出向をめぐる新日鐵事件は、そうしたことを裁判所は判断をしているだろうと思ってい ます。  繰り返しになりますが、そういう意味で出向や配転という意味における基本的なジョ ブローテーションの長期雇用慣行及び能力開発・ジョブローテーションの意義はわかっ ているつもりですが、それをどのように具体的に適用しかつやっていくのかという点に 関しては、判例を重視しながらも、まさにいまの状況に即した判断も然るべきではない かと思っています。 ○紀陸委員 いまの新日鐵事件の解釈等について、ちょっと補足をお願いします。 ○中山委員 いまご指摘されました「新日本製鐵(日鐵運輸第二)事件」という出向で は著名な最高裁判決で、ここにいただいた主な裁判例に添付されています。これは判決 の要旨を見てわかりますように、以上のような事情のもとにおいてはというのは就業規 則で、もちろん出向あり、どういう範囲か出向期間、地位、賃金退職金はどうなるのか、 そういうものが諸々定められていて、出向労働者の利益に配慮された規定になっていま すねと。こういうような事情のもとにおいては出向命令を発令することができるという 判示なのですが、この判決が先例として、出向命令についての不可欠の要件、一般的要 件を判示したものかというので、実はこれはそのようには解されていないはずでして、 事例判決として、こういう場合には出向命令が肯定されますということは言っているの ですが、逆にこういう条件が不備な場合に出向命令が発令されるかどうかについては何 も言っていないと、これが判決の読み方だと思います。これは私だけではなくて、この 判決が紹介になったときに、匿名ではありますが、おそらく調査官の方が書いたであろ うコメントにも同様のことが書いてあります。そういうところからして、もし立法化に 当たってこれを基準にされるというのであれば、ちょっとこれは判決の位置付けとして はこれを先例として、不可欠な出向の命令の要件として援用するのは問題であると思っ ています。 ○徳住委員 いま出向と配転のお話が続いているのですが、労働側の立場でいうと、包 括的合意よりも個別合意を前提に考えています。  包括的合意を考えて、先ほど使用者側の委員がおっしゃったジョブローテーションを 考えた場合、包括的合意の実務上の問題点、欠陥は先ほどから出ていますが、人々のラ イフスタイルが変わっていく変化に十分対応していないと。入社のときに就業規則や労 働協約に書いてあれば、結婚して特に40代から55ぐらいの配転について、包括的合意 ということで人事権を一刀両断でやられることの矛盾があるのではないか、そこを実務 上解決していくことが、労使の頭の使いどころではないか。  現実に職場の中では、内々に内示制度や事情をよく聞くことによって、企業の活性化 が図れている職場がたくさんあるわけで、ジョブローテーションと言いながらもそのや り方によって、企業が発展するのか職場が活性化するかに違いがあると思うのです。そ ういう点では、今回はあまり議論はされていませんが、研究会の段階で出ていた手続規 制について、もう少し踏み込んだものをやれば、私は労使にとってハッピーな制度設計 は十分出来るのではないかと。だから事情を十分聴取して、それを考慮した上の人事を する、配転、出向する場合についての書面の明示をすることについて、きちっと実現さ れたほうがいいのではないか。研究会報告に戻るような話になって申し訳ないですが、 私は労使のためにこのほうがいいのではないかと思います。  もう1つ、先ほど東亜ペイントの判決が先ほど労働側から紹介がありましたが、その 当てはめが労働側に大変厳しいという話は私もそう思っていますが、最近は2時間通勤 することもやむを得ない、それは通常甘受すべき不利益の程度だと裁判所は言うのです が、そうなると、今度はそれを拒否したら解雇が有効かというと、違った判例が出てき ているわけです。ですから、どの程度の不利益の問題かというのは実務上解決しなけれ ばいけないと思うのですが、いまのまま放置していると、説明が不十分だから解雇は無 効だという形に流れていく可能性があるので、私は転勤を理想型に置きながら、出向、 配転の口跡をされたほうが全体的に人事異動のところはまとまるのではないかと、個人 的に思っています。 ○山下委員 ワークライフバランスを十分に配慮した形で、今回議論することは大賛成 です。いまは働き方が多様化している、出向先等も含めて非常に多様化しているという ダイバーシティという観点からしても、それを十分に考慮するのは不可欠な問題だと思 っていますので、今回の法制化に関して、是非その部分については考慮していただきた いと思います。  そうはいっても、出向の決定のプロセスについて、いま法律の専門家の方からもご指 摘があったとおり、たぶん企業の現場では、事実上人事発令が出る前もしくはその前段 階で内諾、内々諾ということで、本人へのコミュニケーションが十分になされているの が大半の現実だと思っています。そういう段階で、事実上本人が合意した人事発令が出 されるのが、いまの現状だと思います。だからこそ私は、いまの現状でいいのではない かと思いますし、実際その段階でのコミュニケーションがうまくいかない場合は、そう いうときにこそいろいろな意味で裁判となるのでしょうが、現実としては人事、会社の ほうは説明を尽くして本人が納得いくようにとやっていることが大半だと思います。そ ういう意味では労使が、個別の対応という場面でも労を尽くして使用者側もやっている ことをご理解いただければと思います。 ○田島委員 使用者側の意見のジョブローテーションや配転、出向の場合に、本人に話 をしたり説明をするところでは、配転や出向できちっとルール化することは、別に問題 ないだろうと思っています。  1つには生活の問題もありますが、もう1点違う側面から見ると、これも18条の解雇 に関わってきますが、嫌がらせ的な、あるいは見せしめ的な配転、あるいは組合を忌避 した形での配転という事例も多いわけです。こういう不純な動機の配転をやろうとする 経営者はルール化されてしまったら困りますが、当り前のことを当り前のように常識的 に、あるいはいい職場環境をつくることを使用者側がやろうとするためには、このルー ル化は全然障害にならない。障害になるのはそういう不純な、あるいは組合を忌避する ような経営者がルール化されたら困ることになるだろうと思います。  そういう意味では今日の使用者側の委員の人たちの発言を聞いていると、いわゆる配 転や出向をきちっとルール化するのは問題ないというように感じてちょっと意見をお聞 きしたのですが、こういう時代に質の悪い経営者を労使できちっとブレーキをかけない と、これからは駄目だと思います。困るのはその人たちだけです。 ○八野委員 出向や配転のときに労働契約法をもともとつくろうといったときに、入口 から最後までというところと、あとは雇用の多様化があったのと、経営側がよく言われ るグローバル化だからダイナミズムに経営をやっていきたいと。それといまは分社化な どのさまざまなことをすごいスピードでやられていると思うのです。いままで一企業だ ったものが分社化をされることによって、そこでの異動が配転ではなく出向という形に なってくる形も、多くいま起きているのではないかと思うのです。そういったときに労 働契約法というのは、労使、会社、従業員が、または従業員の中で、入ってから終了す るまでの中で、ある程度の一定のルールを決めていく中で、経営がさらにグローバル化 な対応をしていくことで、さまざまな経営戦略を持ってやられるときに、配転や出向、 次に出てくる転籍は、ジョブローテーションも含め人材育成という言葉も使われました が、要するに企業の収益を上げたいがために戦略的に人を投入していく、そのためにど ういう人材が必要なのか、それが結果人材育成につながるというところも出てくると思 うのです。そういうことで、すべてのある程度の日本における企業が、1つの法律の中 で一定の基準を設けていくことが、労使にとって、経営側としては人事戦略上の問題と して、組合としては労働条件の維持に関して見たときに、配転、出向ということは、こ れからもずっと大きな問題になってくると思います。  社会的な情勢の所で少子化の問題であるとか、単身赴任というのは本当にいいのだろ うかということが問われていることも事実です。ですからそういう中で見ていったとき に、ここで入れる入れないという問題ではなくて、最低限のところはこういうものは配 転、出向、転籍の所で労使でともになって条件を整えていくことが、今後の働き方また は企業戦略にとってもベースになるのではないかと思います。労使の中で紛争が起きる ことをなるべく少なくしていくことも非常に重要なことですから、そういう面からもこ この所は一定のルール化が必要なのではないかと思います。以上です。 ○分科会長 出向についてずいぶんご意見が出ましたが、懲戒についてまだご発言がな いようですが、いかがでしょうか。  横長のペーパーのいちばん最後の所を見ていただきたいのですが、出向、懲戒の事由 等について、就業規則の必要的記載事項(労働基準法89条)の必要的記載事項とそのこ とについても、ご意見を伺えればと思います。 ○石塚委員 懲戒は、まさにいろいろな観点はあると思いますが、労側の主張として主 張しておきたいことの1つは、労働者の側に非違行為があるが故に、それは懲戒に当た るから懲戒にされたと。単純なことなのでしょうが、非違行為が労働者にあったときに、 いろいろな判例もありますが、ものすごく昔の非違行為を理由にして、懲戒処分がなさ れるというケースがあるわけです。これはある意味では懲戒というよりも、何かその人 間を辞めさせたいがためにいろいろな非違行為を探し出してくるところが、悪意に感じ られるわけで、本当に企業秩序を乱して懲戒されるのはしょうがないのでしょうが、懲 戒ということを契約法に関して盛り込むとすれば、労働者側の非違行為を相当昔のもの を持ってきてやることは避けるということは、必要ではないかと思います。そのほうが 先の判例の趣旨に沿った格好になっていくのではなかろうかと、その点だけ主張をして おきたいと思います。 ○紀陸委員 出向、転籍も、これも含めてもいいですね。 ○分科会長 はい、よろしいと思います。 ○中山委員 先ほど配転が出たので、配転と出向についてのジョブローテーションの関 係や手続きの関係、あるいは育児、介護と家庭の事情についてというお話があったので すが、基本的に、できれば議論としては、まず配転や出向権を会社のほうで持っている のかということと、それを持っていて実際に行使するときに、例えば実際に対象になっ た方が家庭の事情でこれは気の毒ではないか、先ほど来ありました育児、介護や私生活 上のいろいろな問題があって難しいと。その場合はいまの判例法理でも濫用という形で、 個別の配転権、出向権行使についてそのような理屈で、個別ケースごとの判断ですが、 やっているわけです。ですから、先ほど来の話ですと、出向権はそもそも認めるかどう かで、その辺は全体を一緒に包括して議論されていたようなので、出向権や配転権につ いては現場の実情で、ジョブローテーションや企業グループ内の人事の異動を考えれば、 出向や配転権についてはそんな厳しい縛りをしたのではとても人事が成り行かないと。  もう1つは、配転権や出向権があるか否かについて、家庭の事情をそもそも持ち出せ ば人事の公平が、同じような処遇で同じような人を多数企業は雇って、それぞれの適正 配置を考えて異動もしているので、一方の人だけは絶対異動しない、特定の人だけ異動 しないわけにはいきません。したがって出向や配転権の問題は、極めて現場に即した要 件を考えるべきです。  個別の事情については濫用という場面で考えていく、そういう整理にしたほうがいい のではないかと思います。 ○分科会長 2頁のいちばん下の点はいかがですか。就業規則の必要的記載事項に出向 を入れると。 ○長谷川委員 なぜ就業規則の中に出向と懲戒を書かなければいけないのかというの が、私は理由が理解できない。私なりきのこの間の議論の経過からたどってみれば、今 回の労働契約法に就業規則を活用するので、それで出向と懲戒事由を書く、要するに就 業規則に明記するということなのかなと。そういう考えだったら、私はここは必要ない のではないかと。もともと労側は、就業規則を労働契約法の中に取り込むことについて 反対と言っているわけですから。労側の意見を聞かれればというのは、そういうことで す。 ○廣見委員 先ほど来ずっとそれぞれの事項について労使それぞれ、また専門家の方に もご参加をいただいて、かなりそれぞれの側から意見が出されています。私は、それぞ れの問題を、それぞれの現場に直結する重要な問題であるために、労使の主張が十分尽 くされることが大変重要なことであると思って、あまり発言もせずに聞かせていただき ました。時間の関係もありますので、また分科会長から話がありましたので、一言だけ 簡単に意見を申し上げます。  主な労働条件に関するルールということで、特に4つの○が付いている問題で、安全 配慮義務については、実質的に労使それぞれの意見はそんなに違わない。それぞれの契 約当事者に立つ側としても、こういったものについての規定が必要なのではないかとい うことで一致されているのではないかと思います。私もこれは当然、変えて然るべきこ とである、動かして然るべきことであると思っています。問題は出向、転籍、あるいは 懲戒の問題については、それぞれ意見も違うところです。  それぞれ大変重要な問題であり、せっかくこれだけの議論がなされているということ からすれば、当然最終的に合意というか、このような場できちっと合意がなされること が必要でありますので、あまり詳細にわたったルールを作るのは難しいと思います。し かし、例えば出向については、出向を命じ得ることの根拠を何に求めるかということは、 はっきりさせる必要があるだろう。例えば1ついま出ているものでいえば、当然就業規 則にきっちりと明示することが必要なのだろうと思います。ただ問題は、そういう出向 を命じ得る根拠規定を明らかにするというだけで足りるのかどうかという問題です。  中山委員からもお話がありましたが、確かにここについてどの程度のものをほかに要 する条件とするのかがあります。私は労使それぞれで、そういう内容について、要する に出向に関わる基本的な問題としての労働条件、あるいはその他の待遇が何らかの形で 労使間がそれぞれの個別の労使において明らかにしていく。具体的には就業規則にそれ を書き込むということが、要求されて然るべきではないかと考えています。  転籍については、これもあまり争いのない最低限のルールといえば、これは当然ほか のところに変わってしまうわけですから、これは個別労働者の同意を必要とすることが、 ルールとして明示されて然るべきだろうと思います。懲戒についても、最高裁の判例も あるわけですし、基本とすれば種別と事由が明らかにされる、具体的には就業規則にお いて明らかにされることは、最低必要なのではなかろうかと思っています。そういう意 味でそういうものを明らかにしていくということから言えば、就業規則をめぐってのい ろいろな議論が当分科会でもいままでルールがあるわけでして、そういう視点からすれ ば、長谷川委員の問題点の指摘はわかりますが、私はこのような重要な労働条件につい ては、就業規則の必要的記載事項として、はっきりとそれぞれの職場におけるルールを 明示していくほうが、実態的に考えてより適切な職場環境の構築につながるのではない かという気がしています。以上です。 ○長谷川委員 いま廣見委員のおっしゃったことはとても重要なことで、就業規則に例 えば出向、転籍も書いていくことに私は賛成しているわけではないのですが、就業規則 にそれらが書かれてくると、そのことは合意したはずですよねとなって、結構出向や転 籍が命じられてくるという結果になります。しかし先ほど労側が言っていたのは、要す るに24歳で採用されたときの内容と、でも実際40代になってみたら子どもも3人いて、 自分の年老いたお父さんお母さんもいて、そちらは今度介護だと、うまく対応できない 状況が出てくるわけです。先ほどから言っているように、そういうときに手続規定や本 人との同意がきっちりとないと、私は難しいのではないかと。  例えば出向や転籍については、もう判例もあるというのはそうだと思うのですが、そ のときに家族的な問題、それはワークライフバランスだと思いますが、手続規定の中に、 労働者に対する説明や同意についてきっちりと作り上げ使用者が労働者の事情に配慮で きるようにすることが、私は必要なのではないかと思います。ここは労側が先ほどから 言っているところです。就業規則の話はなかなか納得できないので、いいですよとはな かなかならないことだけは、付け加えておきます。 ○小山委員 これ以外のことですが、採用内定や試用期間の問題について今回、このペ ーパーには記載されていないわけですが、在り方研究会報告の中では、かなりきちっと 書かれていたと思うのですが、ルールを明確化しておかないといけないと思います。特 に若い方ですね、この採用の内定あるいは試用期間も、あまり判例も知らない、世の中 のルールがわからないという事例が非常に多くて、労働相談でも多いのです。この際に きちっとルールを明確化しておいて、社会的な混乱を防ぐ意味合いからも、明確な記載 をすべきだろうと思いますので、このことも併せて検討の課題として、きちっと整理し ていただきたいということをお願いしたいと思います。 ○紀陸委員 あまり時間がありませんので、私のほうから1件と、中山委員のほうから 1件追加で申し上げます。2枚目のいちばん下の基準法の今後の検討の方向の出向、懲 戒の事由について、この部分については私どもは、これを必要的記載事項に加えること については、特に反対はいたしません。それに関連して、懲戒の根拠について、中山委 員からご補足をお願いします。 ○中山委員 懲戒については、先ほど来のお話ですと、それから引用されている判決で は、就業規則に懲戒の事由、程度も含めて種類も明定しないと、およそ懲戒処分ができ ないというお話が多かったのです。  現場で見ますと、おそらく大企業はそれに十分対応できるだろうかと思いますが、中 小企業の場合で、例えば労働者が10人未満の事業場の場合には、就業規則作成義務がな いという制度になっているわけです。そうすると、作っていない可能性も高い。仮に作 っていても正社員だけの就業規則を作っていて、アルバイトやパート、あるいは実際は 正社員に近い従業員の方が労働契約、あるいは口頭の労働契約という形で働いているケ ースもあるわけで、そういう中で懲戒をすべて就業規則で決めていないと、そもそも行 使もできない、懲戒権を使用者が持たないというようにもし考えるのだと、いま言った ような現場の実情からすると、相当現場で問題が出てくる。ですから、その点を十分考 慮して、慎重に検討をしていただきたいというのが趣旨です。 ○原川委員 私もいま中山委員のおっしゃったことを申し上げようと思ったのですが、 是非影響が大きいことですので、特に中小、零細企業は影響が大きいので、ご配慮をい ただきたいと思います。 ○長谷川委員 労働契約法の議論のときに、個別的労働紛争が増加しているということ がありました。それは、いろいろな契約に関するルールを明確化していないからだ、判 例がほとんどだというのが理由でした。判例は、法律関係者は知っていますが、一般の 使用者や労働者は知らないのです。そういうものをちゃんと明確化して、予測可能性と 透明性を付けましょうというのが、そもそものスタートだったのです。そういう意味で はいまのご意見に端的に表れているのですが、中小企業は大変だからとか、就業規則に 書いてなかった場合についてなどと言ったら、何のために作るのかという話になってし まします。透明性、予測可能性を高めるためには、きっちり明文化することが必要で、 50人働いていようが5人であろうが労働者はそこで働いているわけですから、そこに対 してきっちりした明文化は、私は必要だと思います。だから、こちらはいいがあちらは 駄目だという話には、私はならないと思います。専門委員からもご意見を申し上げます。 ○徳住委員 労使は労働契約で結ばれているわけですから、使用者が懲戒するには、そ れなりの根拠が必要だと思うのです。対等の関係で一方を罰するには根拠が必要で、そ れだったら自分たちできちっとルール化をしなさいというのが裁判所の考え方ですし、 それだったら規則をちゃんと周知しないと、周知していない規則で処罰したら駄目だと いうことで、それは私は、当然だと思うのです。もし中山委員がおっしゃるように、中 小企業ではルールがないし、道徳的な人間関係の中で働いている、そういうときに問題 が起こったら、解雇なり損害賠償の問題で対処するのが普通の職場でして、その場合に あえて一定の規模以上の企業のように、懲戒権を発動して云々ということをしなくても、 それは実際上は解決している問題ですから、そういうところの問題を視野に置いて、懲 戒制度についてのルール化について云々されることについては、ちょっとお門違いかな と私は思っています。 ○分科会長 ちょうど時間ですので、今回はこれで終わりたいと思います。次回の分科 会については、労働契約法制及び労働時間法制の関係の残りの部分をご議論いただけれ ばと思います。次回の日程について、事務局からお願いします。 ○監督課長 次回の労働条件分科会は、10月24日の火曜日17時から19時まで。場所 は厚生労働省17階の専用第18、19、20会議室で開催する予定です。よろしくお願いい たします。 ○分科会長 本日の分科会はこれで終了いたします。本日の議事録の署名は、田島委員 と山下委員にお願いいたします。                  (照会先)                     労働基準局監督課企画係(内線5423)