06/10/06 労災医療専門家会議(アフターケアの基本的考え方に関する検討部会)  第1回議事録 第1回 アフターケアの基本的考え方に関する検討部会 日時 平成18年10月6日(金)15:00〜 場所 中央合同庁舎5号館厚生労働省労働基準局第1会議室 ○ 笹川係長  ただいまから、第1回「アフターケアの基本的考え方に関する検討部会」を開催いたし ます。資料の確認をお願いいたします。資料1から資料7、参考資料No.1から資料No.4ま であります。追加資料として、障害等級表の一覧表を付けております。  本検討部会にご参集を賜りました先生方をご紹介いたします。北里大学名誉教授の奥平 先生です。湯河原厚生年金病院院長の馬杉先生です。北海道大学名誉教授の保原先生です。 関東労災病院院長の柳澤先生です。上智大学名誉教授の山口先生です。  事務局の紹介については、第1回労災医療専門家会議の場で済んでおりますので、改め てのご紹介は省略させていただきますが、今回より1名、補償課職業病認定対策室室長補 佐の天野が加わりましたのでご紹介いたします。  検討部会の開催にあたり、補償課長の明治より挨拶を申し上げます。 ○ 明治補償課長  検討部会の開催にあたり一言ご挨拶申し上げます。各先生方におかれましては、本検討 部会のメンバーの就任につきましてご快諾いただきまして、また本日は大変お忙しい中を お集まりいただきましてありがとうございます。  先般の第1回専門家会議で申し上げておりますので詳しくは繰り返しませんが、本検討 部会においては、労働福祉事業の趣旨、それから目的にかなうようにアフターケア制度の 基本的な考え方を事前に整理をしていただくことを考えております。この検討について は、なかなか困難な面も多かろうと思いますが、今後我々がこのアフターケア制度を適切 に運用していくためには、極めて重要な整理であると位置づけているところですので、各 先生方にはご面倒をおかけいたしますが、格別のご協力をいただければとお願い申し上げ ます。  本検討会については3回程度の開催を予定しております。11月中旬、あるいは下旬ご ろまでには検討結果の取りまとめをいただければと考えております。したがって、各先生 方には短期間に、そして集中してご検討いただく結果になってしまいますが、日程調整等 も含め、なにとぞご協力を賜りますようお願い申し上げまして簡単でございますが挨拶に 代えさせていただきます。よろしくお願いいたします。 ○笹川係長  本検討部会の部会長については、第1回労災医療専門家会議の場において、柳澤先生に 兼任していただくことでご了承いただいておりますので、柳澤座長に進行をお願いいたし ます。 ○柳澤座長  早速議事に入ります。「アフターケアの基本的考え方について」ということで、検討項 目が8項目あります。順次内容をまとめられるところはまとめて議論していただくという ことで始めます。第1の「対象疾病」について事務局から説明をお願いいたします。 ○長嶋医療監察官  これまでの、アフターケアの実状を踏まえ、アフターケアの基本的考え方を整理する、 ということでご検討をお願いいたします事項についてご説明申し上げます。資料1は「ア フターケアの基本的考え方に関する検討事項」です。事務局としてご検討をお願いいたし ます事項は、対象傷病について2項目、対象者について1項目、措置範囲について2項目、 実施期間について3項目の計8項目です。  まず対象傷病ですが、資料1の2頁で、1つ目は「対象傷病を限定して認めることの適 否について」です。現在、アフターケアの対象傷病は21傷病に限定して認めているとこ ろですが、これらの傷病については、追加の要請があった都度、アフターケアの必要性を 検討し、認めてきたというものです。  一方、多様な傷病をアフターケアの対象とするためには、一つひとつ限定して認めてい くのではなく、これこれの要件に該当するものを対象傷病とするというような、ある意味 で判断する側に一定の裁量を持たせた基準を設け、アフターケアの適否を判断するという 方法も考えられるところです。この場合について、対象傷病ごとに実施する措置内容も含 め、そのような裁量性のある基準を策定することができるのであろうか。当該基準により、 対象傷病の適否を判断することによって、無制限に対象傷病が拡大するおそれはないだろ うか。また、対象傷病の取扱いに全国に差異が生じ、行政の均一性が保てなくなるのでは ないかといった留意点があると思われます。  資料1の3頁で2つ目は「どのような傷病をアフターケアの対象とするか」についてで す。現在の21対象傷病を見ますと、第一線機関で労災補償業務を担当しております職員 等からの要望によるもの、労災医療に携わっていただいている医師等からの意見、炭鉱災 害による一酸化炭素中毒症やサリン中毒、これら特定の労働災害等の創設背景を踏まえ、 個々の傷病について順次検討し、追加・変更してきたものです。  そのため、21対象傷病の全体を見たときに、対象傷病の選定についての考え方、選定 の基準が整備されておりませんで、対象傷病と対象となっていない傷病の線引きが明らか でない状況にあります。よって、これらを明らかにする選定の基準を策定できないかとい うことです。  この場合、アフターケアを必要とする傷病を、一律の基準をもって選定することが可能 であろうか。アフターケアは、一定期間の療養を経て、治ゆとなった後に行われるという ものでありますから、限定的に運用されるべきであって、安易に対象傷病を拡大すべきも のではないのではないか。と言いながら、真に本当にアフターケアを必要とする傷病まで 排除するものではないのではないか、といった留意点があると思われます。対象傷病につ いては、これら2つの事項についてご検討をお願いいたします。 ○柳澤座長  最初からなかなか難しい課題になりますけれども、対象傷病を限定することが適切であ るかどうかということ、それからどういう傷病を対象とするかということです。これから 3回にわたってご議論いただくということですので、本日は時間の関係もありますので、 それぞれの検討課題について、ざっくばらんにいろいろな問題点を出していただき、それ を列挙するという形で、8項目について時間内に終わる形で進めたいと思います。  1番の限定することが適当であるか、2番の限定するとすればどういう疾病を対象にす るか。これは、個々の傷病について成立していった経過として、さまざまな要素によって 決められてきているということで、いま改めて21対象疾病をまとめてみて、統一的な基 準、ある程度の基本的な裁量のあり方も含めて、そういうものに沿った形で整理できない かということです。先生方のご意見をお聞かせください。 ○保原先生   質問させていただきます。治ゆの考え方ですけれども、現代の医学でこれ以上症状の改 善の見込みがないという場合に治ゆとなっているようですが、療養を中止すると症状が悪 化するようなものは、まだ治ゆとは言えないのでしょうか。 ○柳澤座長  その点はご議論いただきたいと思います。基本的に治ゆというのは、障害が残っていて も固定された状態と定義されているわけです。おっしゃられますように、神経障害の場合 はそうですけれども、訓練などをずっと続けていることによって一定の機能が維持されて いるけれども、前回、廃用症候群とか廃用性萎縮ということが問題になりましたが、訓練 をやめれば機能が低下していくような状態というのは、ここで取り上げている疾病の中に もかなり入っています。 ○長嶋医療監察官  参考資料No.3に「療養補償給付と治ゆ再発」という図を付けております。そこのところ で、治ゆとして枠で括っておりますが、「治ゆとは療養によって症状が安定し、医療効果 がそれ以上期待し得ない症状固定の状態」としております。いま保原先生が言われたよう に、療養を中止することによって症状が悪化してしまう、というような者については症状 が安定した状態にあるとは言えませんので、そのような者については治ゆという形では取 り扱えない。つまり、療養として継続されるという取扱いになります。 ○柳澤座長  そうしますと、頭頸部外傷症候群であるとか、せき髄障害というもので、四肢まひを来 したような場合はほとんど治ゆという段階にならないで、ずっと療養中という状態が続く 形になりますか。 ○長嶋医療監察官  障害の状態が悪い状態であっても、悪い状態で安定しているものであれば、そういうも のは治ゆということになります。 ○柳澤座長  保原先生がおっしゃったのは、通常の障害があるなら障害があるなりの状態で、制限さ れた日常生活をただ送っているだけでは悪くなっていってしまう、というような状態につ いて、それを治ゆと判定するかどうかということだろうと思うのです。その点で、実際の 患者を対象にした場合には、その問題はケース・バイ・ケースで問題になり得る点がある わけです。  日常生活の中で、機能を維持するために積極的に運動したり、別に医者に行かなくても 生活をしている人は機能が保たれているけれども、もう動かないと言って、漫然とその家 の中へ引っ込んでいたり、寝ていたらどんどん悪くなる。要するに、対象の方がどういう 生活を送るかによって経過が違う、というような場合にどのように考えるか、というのは 1つポイントではあるのでしょうね。 ○長嶋医療監察官  治ゆした後の症状の悪化という話については、再発に該当するかどうかという話になっ てきます。ですから、療養を継続し、一定期間経って、治ゆと判断する段階においての症 状の安定と、医療効果が期待できないという場合に、治ゆの取扱いになるということです。 ○柳澤座長  いまの点について馬杉先生はどうですか。先生は、ずっと長らくこの領域にかかわって いらしたので、どのように理解されますか。 ○馬杉先生  ものすごく難しいです。それぞれの疾患によって、私がいつも労働者に治ゆというとこ ろを説明するのに、指が飛んでしまった。これの治療が一段落すれば、これは生えてくる わけがないのだから、これで治ゆという症状固定だ、ということを具体的な例に出しなが ら言っております。  廃用とかそういうことも問題ですけれども、私の専門の脳血管疾患のほうを見ますと、 今度は逆に症状固定で、加齢現象などが加わってきて、いまとは逆に何もしなくても悪く なっていくようなところまで入ってきます。対象傷病が21ありますけれども、それは一 つひとついろいろな要素で違うところがあるので、十把一絡げにいま議論しているような ことの答えを出すのはすごく難しいのではないかと思います。 ○保原先生  こういう例は少ないと思いますけれども、仕事で高血圧になった。それで高血圧の薬を 飲んでいる。薬を飲んでいる限り症状は安定しているような場合、どこで治ゆとなるので しょうか。 ○馬杉先生  高血圧症そのものが、労災の対象疾患にはなっていないと思います。アフターケアに上 っている例というのは、私の知っている限りではないと思います。高血圧症が出現したた めに、心臓疾患であるとか、脳血管疾患が発症した例においての業務上外で、その後のア フターケアが圧倒的に多いです。  そのときにも、アフターケアで随分議論したのですが、いま保原先生がご指摘のような、 血圧というところだけを取っても、血圧というのは加齢とともに上っていくわけですか ら、その辺の区別をするのは、あのときの結論ではなかなか難しい。要するに、最初に高 血圧症があれば、それが業務上という脳血管疾患の1つになっていれば、高血圧の治療は ずっと続けていってしかるべきであろうという結論だったと思います。そのように考えて おります。 ○山口先生  というよりも、高血圧症とか高脂血症ということ自体が、業務上の災害ではないんでし ょう。要するに基礎疾病です。それによって何か障害が起きた。学生でいえば、頭が悪い というのは基礎疾病で、それで単位を落としたというようなことがあれば、それが業務災 害かどうかということになるのではないですか。 ○柳澤座長  ただよく書かれている例としては、もともと血圧の高い人が仕事をやりすぎて、うんと 血圧が上がった、というような事例がよく書いてあります。もともと血圧が高い人だった けれども大したことなかったのに、仕事のせいでグンと上がった、という場合です。その 場合に、上がった状態がずっと続いている、しかし薬を飲んでいる限り悪くはならない。 薬をやめたらもっと悪くなりそうだという場合でも治ゆというのかどうか。 ○山口先生  それも、ただ数値が上がったというだけでなくて、何か発症に当たるようなものがない と駄目なのではないですか。 ○保原先生  例えば、オーバータイムをたくさんやったとか。 ○柳澤座長  確かに、過重労働によって高血圧になることはあり得ることですけれども、それはそう いう過重労働の状態から開放されれば血圧は必ず下がります。ただ問題は、過重労働によ って血圧が上がったところで、脳卒中とか心筋梗塞を起こしてしまうと、それが障害とし て続いてしまうので、その場合は労災疾病としての治療の対象にもなるし、固定したとこ ろでアフターケアの対象にもなる、というような理解ではないですか。  例えば、超過勤務が1カ月間に100時間も150時間も続くというような状態のときに、 血圧の上がる素因のある人は血圧が高くなって、それは労働によって起こった状態だとい うことはあり得るわけです。しかし、その状態から開放されれば血圧は下がりますから、 それが続くということはないわけです。もし、続くということが例外としてあるとすれば、 高血圧ということだけを取ってみますと、労働の災害によって腹部に障害を生じてそれで 腎臓が1つなくなってしまった。その結果腎性の高血圧が出てきたということになった ら、それは対象になります。しかし、それは高血圧としての対象ではなくて、腎障害によ る対象という理解ではないかと思います。 ○保原先生  例えば、大腿骨の頸部骨折というのがありますけれども、症状が固定した後に、大腿骨 骨頭壊死を発症を来すおそれがあるというのですが、こういうものはもともと大腿骨の骨 折と相当因果関係にあるとみるのか、それとも、たまたま偶発的にそういうことが起こり 得るとみるのか、その辺はいかがですか。 ○柳澤座長  大腿骨の頸部骨折のときに、骨頭壊死が起こるということがあった場合に、それは骨頭 壊死まで含めて労災と考えるかどうか。一般的には、大腿骨の骨頭壊死というのは、特別 にそれを起こすような基礎疾患がない限り起こらないものですから、もし大腿骨の骨折に 続発して起こったときには、その骨折によって無理な負担がかかるような状態が生じ、そ の結果として骨頭壊死が起こってくるということはあり得ると思うのです。それは、ケー ス・バイ・ケースで判定するような内容ではないかと思いますがどうでしょうか。 ○長嶋医療監察官  資料3に「アフターケアの目的及び各対象傷病の趣旨」を載せております。17頁に、 いまの大腿骨の頸部の骨折というところで、アフターケアを設けた趣旨として、大腿骨骨 頭壊死の発症を来すおそれがあることにかんがみてアフターケアを作ったということで す。元の怪我が業務上になり、それを基礎として、治ゆ後であっても骨頭壊死を生じるお それがある。必ずしも全部のケースでということではないと思いますけれども、そのおそ れがあるということをもって、因果関係がつながるということでアフターケアの対象とし てみているということだと思います。 ○柳澤座長  これは、そういう例があったのでしょうね。それに対してアフターケアの制度を作った という歴史的な経過があるのではないですか。普通、大腿骨の頸部骨折をしても、ちゃん と手術をすれば骨頭壊死などは別に起こりません。大腿骨の頸部骨折などというのはいく らでもあるわけです。 ○長嶋医療監察官  この創設の背景としては、資料4に載せております。大腿骨の頸部の骨折については地 方局からの要望、実際に労災に携わっている職員からの要望ということなので、たぶん実 例があってということだと思われます。 ○保原先生  業務と因果関係があるという考え方ですか。 ○長嶋医療監察官  はい、基本的にはそのように考えております。 ○ 山口先生  私は、こういう仕事にタッチさせていただくのは始めてなのです。この対象傷病を限定 する、ということが適当かどうかという基本的な問題というのは、今回の検討の趣旨如何 だと思うのです。アフターケア制度全体を見直して、制度を再構築するということでした ら私は、ここのところを検討することは必須だと思います。対象傷病を限定するという考 え方を取ると、21傷病についてだけ特権的なポジションを与えるということになって、 新しく必要になるようなものをどうしていくのか。  ただ課長が言ったように、現在、労働保険やほかの保険でも、福祉事業というのは見直 しの時期に来ていて、必要のないものは見直したり廃止するということだけでしたら、い ままでの運用でそう不自然で、不平等で、妥当でないというようなことがなければ、基本 的な線までいじる必要はないのではないか。それは、検討の趣旨次第ではないかという気 がします。 ○柳澤座長  その点は明確にしないといけないと思います。それは、第1回の全体会議で問題になっ たような、新しい医学の進歩によって、実際の治療であるとか、その後の経過のことは医 学用語で予後といいますけれども、予後が変わってきているような状態の疾病について は、アフターケアから外す。完全に治ってしまった、いまの医学ではアフターケアを必要 とするような状態ではなくなった、ということであれば外せるということはあるかと思い ます。  おそらく21疾病の見直しということの中には、一つひとつの疾病のときに、いまの骨 頭壊死のようなこともありますけれどもそういう例が出てきて、あるいは申入れがあっ て、それで検討して決めたというようなものが、個々の疾病でバラバラになっているのを 一応まとめて、一定の基準に従った形でガイドラインは作れないか、というような方向で はないかと思うのですが、それでよろしいのでしょうか。 ○明治補償課長  はい、結構です。 ○山口先生  そういうことですと、お金が足りなくなるとこういうことが起こりがちだとか、役所の 弱さとかですね。いちばんの根本は、このこと自体がおかしいといえばおかしいのかもし れませんが、社会的復帰を促進するという条文を基にしてやられています。医学的に考え れば、そんなことはおかしいということになるのかもしれませんけれども、保険のお金を 使うためには何かこの言葉と結び付いていなければいけないですから、社会的復帰との結 び付きを何かアフターケアでうまく説明したようなものが基準としてあると、制度として は維持しやすいということになるのではないかと思います。 ○柳澤座長  おっしゃるとおりだと思います。この2つの点について、本日の議論はそこのところま でで、一応そのメモは取っておいていただいて、どういう項目をこれから検討していくか ということの材料にしたいと思います。 ○奥平先生  限定することはどうか、という設問に対しては適当ではないという立場。その適当では ないという全体の見直しをした上でどうか、ということを検討するということで、設問に 対しては適当ではないという理屈にしておいたほうがいいのではないでしょうか。 ○柳澤座長  いまの段階で適当かどうか、という答えはすぐには出ないという意味ですね。 ○奥平先生  そうです。 ○柳澤座長  それは、おっしゃるとおりだと思います。次は「対象者の適否を障害等級によって判断 するか」という点について説明をお願いいたします。 ○長嶋医療監察官  対象者については、資料1の4頁です。対象者について、現状では一定の障害等級に及 ばない者について、アフターケアの対象者から除外しているものがあります。例えば、せ き髄損傷については、原則として障害等級3級以上の者を対象とし、また熱傷については 障害等級12級以上の者を対象としております。  なお障害等級については、本日追加でお配りしております「障害等級早見表」というも のがありますが、もともと障害等級表で定められていて、障害の程度の重い者(1級から 7級)については年金の支給。それよりも障害の程度の軽い者(8級から14級)につい ては一時金が、それぞれの障害の程度によって支給されることになっております。早見表 をご覧いただきますと、障害等級表の作りとして、身体の部位(眼、耳、鼻、口、神経経 統等)にそれぞれ分け、それぞれの障害の状態、重さによって1級から14級に当てはま るものに振り分けている状況です。  こういう障害等級の関係ですが、円滑な社会復帰を望める者をアフターケアの対象者と するのであれば、障害等級で対象者の適否を判断すべきではないのではないか、という考 え方も一方にあると思われます。この場合、アフターケアは、治ゆ後に行われるものであ ることから、対象者についても限定的に運用されるべきものであって、後遺症状を残すす べての者を対象者とすることは適当ではないのではないか。後遺症状の程度を評価するこ とによって定められております障害等級を指標として、アフターケアの対象者の適否を医 学的に判断するということは適当ではないかといった留意点があると思われます。対象者 については、このことについてのご検討をお願いいたします。 ○柳澤座長  確かに、障害等級を一つの指標にするということで、社会復帰という観点からですと、 非常な重症な方で、アフターケアを行ってもほとんど社会復帰は困難だと考えられる方の 場合には、アフターケアの対象からは外れるであろうと。ただ、その場合でも、ケース・ バイ・ケースでガイドラインとしては社会復帰が望めるような方ということが一応の基準 になるのか。  例えば、障害の度合の強い等級の方でも、この方の場合にはこれこれこういう条件であ って、アフターケアの対象になり得るという申請が出てくれば、それはそれで対応すると いうような、ある程度その辺あまりリジッドにしないで、ケース・バイ・ケースで対応す るような余地を残しておいた理解が必要かと思います。障害等級の問題、円滑な社会復帰 が期待できることによって、対象の範囲を決めることについてどうか。その一応の基準と して、適当であるということを断言するのはちょっと難しいと思いますけれども、現在の ところはそういうやり方でやっていくことについて、問題点がもしあればそれを検討する ということでよろしいでしょうか。 ○奥平先生  この問題は、社会復帰を目指すということですけれども、それを必ずしも条件としない ということがあってもいいのではないかと思います。ただ、後遺症状があった場合に、そ れを放置しておくと生活機能が低下するという者に対してアフターケアを考える、という 考え方がいいのではないかと思っています。 ○山口先生  この条文が「社会復帰」という言葉を使っていますからその言葉それ自体と、労災保険 が業務上の災害に対する補償であるというところから来ているのだろうと思うのです。も ともと社会復帰という言葉があまりよくないのだろうと思うのです。リハビリだから、日 常的な最低限のこういう能力をもう一遍回復するとか維持するというのは、当然社会復帰 という中に入ってもいいと思うのです。ただ、それがあまりに広がりすぎると、業務災害 に対する保護である労災保険から見てどうかということになるだけではないかと思いま す。  障害等級を用いるというのは、ごくごく常識的なやり方で、誰もパッと見たところおか しいという感じはしないのだろうと思うのです。ただ、それを理屈で根拠づけるとなった らちょっと難しいということだけで、これがおかしいということはないのだろうと思いま す。我々法律家がよく言うのは、それ以外に妥当な方法がない、という消極的な理由で、 そのやり方でいいのではないかと思うのです。 ○柳澤座長  そうしますと、この場合の社会復帰という言葉は、それこそ生産活動に従事できるとい う、文字どおりの厳しい規定ではなくて、例えば家庭生活を独立して何らかの形でかろう じてできるとか、ほかの人の世話にならなくてもやっていけますよ、ということも一応社 会復帰という広い意味で理解してもいいというふうな言葉として、この社会復帰という言 葉を考えてもよろしいのでしょうか。 ○山口先生  私はそう思うのです。その1つは、本体給付ではなくて、福祉事業だからそれは広がっ ていていい、というのがいちばん大きな理由です。 ○馬杉先生  具体的な話になって恐縮なのですが、私は脳外科医ですから、2番目の頭頸部外傷症候 群を関東労災へ行った昭和42年からずっとみてきています。2つの意味で申し上げたい のですが、最近では自動車賠償保険でもむちうち症というのが世間を騒がせなくなりまし たが、その当時は、むちうち症というのは非常に有名な症状でした。  その1つが、いたずらに治療を続けてしまうために、いつまで経っても治ゆの段階に行 かない。これは、金銭的にも休業補償の問題が絡んできます。私がみていますと、やはり どこかの時点で治ゆということにして、アフターケアに切り換えることによって、その労 働者を救ってやるという意味も十分あったと思うのです。  そのときに私がいちばん困りましたのは、むちうち症というような頭頸部外傷症候群と いうのは、ここにありますように大体が12級から14級ぐらいが最高ですので、アフター ケアには馴染まないのです。ここにはこう書いてありますけれども、私は当時から監督署 にいろいろな意見書を出し、症状固定の時期で、これは非常に症状が頑固だと。条文には 「頑固な神経症状」とあるのですけれども12級なのです。頑固であれば、社会復帰のた めには、ある程度アフターケアを使用したほうが、症状固定に持っていきやすい。これは、 いろいろ行政的な意味もあるけれども、患者本人の、労働者自身の社会復帰への助けにな るということで随分利用させていただいて、当時の監督署にはほとんどそれは聞いていた だき、アフターケア手帳を貰っております。  そういう意味では、症状固定という意味と、アフターケアという意味が必ずしも等級が どうこうだとかというのは、私自身は前からフレキシブルに考えてアフターケアの制度を 利用してもいいのではないかと考えていました。それがなかなか難しいところがあるの は、お金目当てになってしまうと、アフターケアなどなくてもいいのに、いつまで経って もアフターケアをやっているというのもあるので、その辺は弊害かもしれません。私は自 分で何千人、何万人ぐらいみたか知れませんけれども、うまく運用すれば12級ぐらいで もアフターケアに持っていって、その労働者の社会復帰に資することができるという意味 で、私はこれを活用させていただいて、いままではうまくいってきました。必ずしも等級 とかに限定しなくてもいいのではないかということを、いままでの経験からそう思いま す。 ○柳澤座長  むちうち症もいまは数が少なくなったのでしょうけれども、当時は多かったと思うので す。そういう中で、アフターケアがうまく利用される人と、そうでない人が、極端に言う と半々ぐらいに分かれてしまうということがあったときには、アフターケアの制度を適用 するべきかどうかというのは難しくなりますね。 ○馬杉先生  難しいことです。これは自分で言うのもおかしいのですけれども、医師自身の資質とい いますか、患者との対人関係というのもあります。私が、頭頸部外傷症候群を診ていて、 症状固定に持っていくのになかなか難しかったいちばん大きな原因は、ほかのすべてもそ うだと思うのですけれども、医療機関から離れてしまうことに関して労働者が非常に不安 を感じるのです。ですから、症状固定ということで治ゆということになってしまうと、放 っぽらかされてしまうのではないかという危惧が非常に強いです。だからアフターケアと いうのが、そういう点ではまだあなたたちもつながっているのだよ、何かあれば再発とい うこともあるしというようなことで、精神的な安寧を得る1つの大きな力であったと思っ ております。 ○柳澤座長  いまの馬杉先生のお話は、その後の措置の範囲ということにもかかわると思います。従 来、労災のアフターケアというのは、いま馬杉先生が鞭打症で例に出されたような、対象 となる疾病であっても、申請によってアフターケアの制度を適用するかどうかを1件ずつ 決めるわけですよね。 ○長嶋医療監察官  はい、そうです。 ○柳澤座長  それで、規定は規定として皆さんに周知させておく。だから、きちんと趣旨に沿った形 で利用していただいていると判断できれば、同じような傷病であっても、あるいは同じ傷 病の、同じような等級であっても、アフターケアを必要とする人とそうでない人とが出て きても、一定の基準できちんと運用されていればそれは別に構わないわけですね。 ○長嶋医療監察官  資料1の4頁に、「障害等級を対象者の要件としている傷病」ということで書いてあり ます。馬杉先生が言われたように、頭頸部の外傷症候群は、原則としては9級以上なので すが、障害等級が10級以下の方であっても、局長が医学的に特に必要と認める者につい てはアフターケアの対象とするとしています。ですから、等級が10級以下であっても、 必要があると判断される方については認められることになります。  原則としてということで、ある意味で目安的に障害等級を1つ置いているということで す。ただ、(6)と(7)の外傷による末梢神経損傷と熱傷については12級以上で、これを下が る等級は14級になってしまいます。いちばん最下位の等級ということで、それについて は必要ないだろうということで、これは例外なく12級以上という形で定めております。 ○山口先生  これ以上というのは、当然数字が少ないという意味でしょう。 ○長嶋医療監察官  等級は上に行くほど重くなりますので、1級、2級、3級とか14級と書いてあります。 ○山口先生  上にというのは、数字が少なくなるという意味でしょう。 ○長嶋医療監察官  はい、そうです。 ○柳澤座長  障害等級をある程度指標にするということと、基本的な円滑な社会復帰ということも念 頭に置いてということで3番目は整理されると思います。次に、「措置の範囲・内容」に ついて事務局から説明をお願いいたします。 ○ 長嶋医療監察官  資料1の5頁で「措置の範囲」です。1つ目は、措置内容を限定列挙していることの適 否についてです。現状、アフターケアで実施できる予防その他の保健上の措置という言い 方をしているというのは、前回ご説明したところです。予防その他の保健上の措置につい ては、対象傷病ごとに、傷病別のアフターケア実施要綱を定め、そちらにおいて限定的に 列挙するということです。  一方、医療技術については、日々進歩している状況にありますので、アフターケアで実 施できる予防その他の保健上の措置を、著しく進歩する医療技術に適応させる、常に適応 させようとすると、頻繁にこの実施要綱の変更を行わなければならないという状況が出て きます。そこで、アフターケアで実施できる予防その他の保健上の措置を、ある程度弾力 的に解釈できる基準を設けて運用すべきではないかという考え方もあります。この場合に ついては、治ゆ後の再発に至らない状態の傷病については、症状の改善を図る治療に該当 するものを行うことができない、という前提がまず1つあります。  仮に、予防その他の保健上の措置を弾力的に解釈できる基準によって運用するとします と、当該基準を拡大解釈することによって、アフターケアの措置範囲に本来含まれない、 療養・治療に該当するようなものまで行われることにはならないか。また、医療機関によ って措置内容が異なるなど、取扱いに混乱を生じることにはならないかといった留意点が あると思われます。  資料1の6頁で、2つ目は「予防その他の保健上の措置として認められる範囲について」 です。アフターケアの措置範囲については、アフターケア実施要領によって、診察・保健 指導・保健のための処置・理学療法・注射・検査・精神療法・カウンセリング等、そして 保健のための薬剤の支給とされており、これも対象傷病ごとに定められております。  これらの措置について、労災保険上は治療行為と分けて、予防その他保健上の措置とし ておりますが、医学上は治療行為と、治療行為でない行為を区別する概念がないというこ とです。一部の対象傷病については注射・消炎鎮痛処置・理学療法等が認められていて、 治療行為とアフターケアの予防その他の保健上の措置との整理が必要ではないかとも考 えられます。  この場合、対象傷病に概ね共通する措置としては、先ほどの8項目の中で、診察・保健 指導・検査・保健のための薬剤の支給の4項目です。これらについては、後遺症状の動揺 や、後遺障害に付随する疾病の発症を抑える範囲と言えるのではないか。一部の対象傷病 で認められております、注射や理学療法については、当該対象傷病の特性によるものであ り、その効果も後遺症状の動揺や後遺障害に付随する疾病の発症を抑える範囲、それを超 えないと考えることができるのではないか。  対象傷病ごとに措置の内容を異にしておりますが、措置範囲を定める統一的基準を設定 することができるのだろうか、といった留意点があると思います。措置範囲については、 これら2つの事項についてご検討をお願いいたします。 ○柳澤座長  これは、いままでの中でいちばん難しいところになるかと思います。確かに医学的な見 地に立つと、治療行為と保健上ですか、要するに機能を維持するための保健上の措置をク リアに分けることはほとんど不可能ではないかと思います。しかし、それを制度の上でほ ぼ統一的な考え方に従って整理できるかどうかということです。この作業をする上での留 意点は何かありますか。医学専門家の方々のご意見をお聞きしたいと思います。 ○馬杉先生  これは、ものすごく難しいことです。私も、何度か見直しの会に出させていただきまし たけれども、1番は注射のことなのです。手指のいろいろな疼痛などに関して、麻酔の技 術が進んできたりすると、頻回にブロックをするようなもの。昔は、注射はアフターケア に入っていなかったのです。注射というのは、かなり急速な効果を求めるからこれは治療 である。どこの時点だったか忘れましたけれど注射が入ってきて、一回入ってしまうと、 これをだんだん拡大しようということで、どうもアフターケアの見直しのときに私が見て いたのは、整形外科領域のそのような治療に関してのことだったと思います。柳澤先生が おっしゃったように、どこで線を引くかは非常に難しいと思います。  ただ、先ほど事務局からも話があったのですが、前回アフターケアの細かい見直しをや ったのは3年前ぐらいだったでしょうか。各条項を少し直したのはそんなに昔ではないで すね。 ○明治補償課長  最近です。 ○馬杉先生  あのときに私が思ったのは、先ほどもありました医学の著しい進歩によって新しい治療 法がどんどん出てくるわけですから、それに関してそれを取り入れるということでは、い ままでもこの補償行政としてはよくやられてきました。  ただ、この次に見直しをするのが2年後だとすれば、その3年間の間に新しい本当にい いものがあって、それを適用できないと、その労働者にとって著しく不利になるという考 え方はあると思います。ここのところはちょっとイキになってしまいますけれども、オク ジョウのほうはいろいろ見直しがアップ・ツー・デートに変わってきているので、新しい 治療法が出たから見直しをしなければいけないというのは、2、3年のうちに1度でもこ こでやればいいのではないかと思っております。 ○奥平先生  6頁の「現状」のところに8項目挙がっていますが、「療法」とか「注射」という言葉 がアフターケアの中に表立って挙がってきています。治療ではないわけですから外してい くほうがいいのではないか。したがって、アフターケアの範囲については、(1)(2)(3)の3つ を項目立てとして挙げて、必要なものはその中に入れていけばいいのではないかと思いま す。そうすると、予防その他保健上の措置というものは、精神も生きてくるのではないか。  これは後で議論があると思いますけれども、保健のための措置として、積極的な医学の 関与だけではなくて、アフターケアを受ける人に対する保健上の要望とか注意というよう なものもここのところに入れていいのではないかと思っています。 ○柳澤座長  いまの奥平先生のお話の中で、後半の部分というのはそれこそ障害者自立支援法の基本 的なところにもあります。受益者のほうの態度・教育・保健指導といったことが、もう少 し積極的に出されるべきではないかという趣旨かと考えました。いま先生がおっしゃった ことの中で、注射とか理学療法というのは、明らかに治療法として本来把握されるべきも のがこういう形で列挙されているのは不適切だというのは、実際のそのような行為であっ ても、保健のために(1)(2)(3)のほうに含めてしまおうということでしょうか。項目として注 射だとか療法ということを挙げないほうがいいということですね。 ○奥平先生  項目としては挙げないほうがいいということです。 ○柳澤座長  それは、おっしゃるとおりでしょうね。これが入ると、治療とどう区別するかというと、 言葉の上だけでも抵触してしまうということは確かにあります。 ○長嶋医療監察官  資料6−4の27頁に、実際に注射を認めているものをここに挙げております。注射を 認めているものとして振動障害があります。これは医師が特に必要と認めた場合に、一時 的な消炎鎮痛のため実施可能です。もう1つは、外傷による末梢神経の損傷で、これも特 に疼痛が激しく、神経ブロックもやむを得ないと医師が判断した場合に限って、1カ月に 2回限定として神経ブロックを実施する。この2つだけです。 ○柳澤座長  そうすると、疼痛対策として、疼痛は症状固定した状態であっても、時として現れてく る。それに対する措置は、注射であってもアフターケアの対象にするということですね。 ○長嶋医療監察官  傷病限定でということです。 ○柳澤座長  そういうことであるならば、保健のための措置というところに含めても、そんなに違和 感はありませんね。 ○園田課長補佐  実際の運用は、そういうことで限定的に使っていますので、理学療法にしても同じです。 その前の頁にありますけれども、振動障害のみでそれを認めています。 ○柳澤座長  いま、振動障害で新しい患者はどんどん出てきていますか。 ○園田課長補佐  アフターケアのほうですか。 ○柳澤座長  労災の対象という意味でもいいです。 ○園田課長補佐  どんどんということはないと思います。 ○笹川係長  8,000人ぐらいで、長期療養者は推移しています。ほぼ横ばい状況です。 ○園田課長補佐  それは、新規でですか。 ○笹川係長  新規ではないです。 ○柳澤座長  新規はあまり出てこないですか。 ○笹川係長  はい。 ○長嶋医療監察官  平成17年度で、療養を1年以上継続される方の数で8,119人となっております。 ○園田課長補佐  それは、累積ですよね。 ○長嶋医療監察官  はい。 ○山口先生  新規というのはわからないのですか。 ○長嶋医療監察官  えーと。 ○山口先生  昔、日本の林野は7割ぐらいが国有林ですから、農林省の林野庁が管理していて、チェ ーンソーを使ってやっていました。それで、振動病が高知で起こって、私も当時はああい うことをやっていたものですから見に行きました。今は、群馬県の沼田営林所管内に機械 化センターというのがあり、そこに代々のチェーンソーをずうっと並べてあります。最初 のチェーンソーもあそこへ行くとやらせてくれるのですけれども、やったらこのぐらいに なっちゃうと思います。今いちばん新しいチェーンソーは、鉛筆削りと同じぐらいの振動 です。だから、あれを見ていると新規には起こらないのではないかと思います。 ○柳澤座長  今はチェーンソーよりは、むしろ道路工事などの工具によるものですよね。 ○山口先生  ガタガタやる。 ○長嶋医療監察官  アフターケアの健康管理手帳の交付者数で、平成17年の振動障害の数は、新規で442 です。 ○園田課長補佐  アフターケアの利用者は相対的には少ないです。 ○柳澤座長  医学専門家の判断では、注射とかブロックというようなものが、医療行為との区別が難 しいという点で、それについては奥平先生が(1)(2)(3)のほうに、特に保健上の措置に含める ということであるならば、実際に行われていることについてはそのままでいいだろうと考 えますがよろしいでしょうか。 ○山口先生  最初の会議で問題になっていましたように、精神障害などが入るとすると、アフターケ アというのはどういうものがアフターケアになって、治療というのはどういうものなので しょうか。 ○柳澤座長  精神障害については、第1回のときにお二人の精神科の専門家から出されたわけですけ れどもなかなか難しかったです。アフターケアという本来の概念の中に含めることができ るような整理の仕方というのが、この間のお二人のご意見では、ちょっとそう簡単には含 められない。整理することができないのではないかというのが私が受けた印象です。例え ば、一旦労災と判断される状況でうつになってしまえば、その後はどういうふうな要因で それが出てきても、全部それは要するに再発というふうに精神科の先生はとらえるのかな と私は理解したのです。 ○馬杉先生  私も前回出なかったものですから、この間の議事録を今日一生懸命読んできたのです が、引っかかったのはそこのところだけです。先生が言われたことと同じようなことを考 えました。もう1つ、先ほど奥平先生が言われたことで私は奥平先生の意見に反対してい るのではなくて、実を言うと、この注射の回数を決めるときに奥平先生と私は一緒の委員 だったのですが、これは議論したのです。先ほど振動障害があると末梢神経の損傷だとい うのが、いろいろなものにできましたよね。限ったのは、先ほど言いましたように今まで はなかった注射を入れるのにあたって、相当きちんと限定しないと野放図になってしま う。2回オーケーで4回はどうなんだと言われても、これは医学的に答えようがないので す。先ほども申し上げたように、注射というのは前からこの補償のアフターケアになかっ たし、ですから今日、ここにポンと持ってきているのでびっくりしたのです。私は先ほど 奥平先生が言われたようなことでいいと思っています。 ○奥平先生  いまの精神疾患の場合ですが、治ゆというものを認めるかどうかというところにあると 思います。それは昨年、胸腹部疾患の後遺障害のことを問題にしたときに、例えば狭心症 とか心筋梗塞という病気はいつ起こるかもしれない。治ゆというものを認めていいのかど うかという議論があって、治ゆという状態が認められるという段階に合意をしたのです。 それで、それならばそれに対するアフターケアを考えようということで決められたので す。ですから精神科の先生に、精神疾患というものに治ゆがあるのかないのか、一度罹る と、いつでもぶり返す可能性があるから治ゆはないのだという見方をするのか、そこら辺 がいちばん問題なのだと思います。 ○柳澤座長  もしそうであれば、私も先生と全く一緒なのですが、そうすると治ゆ固定ということが なく、そのままずっと治療中であるというふうな状態だと、労災の認定を受けた人たちに とってはどういう利益、不利益が起こってくるのでしょうか。 ○長嶋医療監察官  治ゆでない場合については療養補償給付、その間の休業補償給付、生活保障の給付を受 けることができます。治ゆになってしまうと本体給付として療養も休業もなくなります。 その代わりに残った障害に対して障害補償給付というものを支給します。現在、ご検討い ただいているアフターケアは本体給付とはまた別の福祉事業ですので、本体の労災の保険 給付ということになると療養と休業がなくなって、障害の給付になるということです。 ○奥平先生  いまの点に関して伺っていいですか。そうするとアフターケアを受ける人は一応社会復 帰していると、治療を受けている人はまだ社会復帰できない状態にあると、そういう理解 でよろしいですか。 ○山口先生  社会というか、職場です。 ○奥平先生  ええ、職場復帰ですね。 ○長嶋医療監察官  療養しながらでも職場に戻ってという場合については、療養の必要な日だけ休業を認め る部分休業というのもあります。 ○山口先生  実際は勤務時間を短縮したり、1日置きの出勤にしたりという形も何かあるようです ね。 ○柳澤座長  そうですね。ちょっとこの精神疾患の問題を考えると何となく時間が非常にかかってし まって。 ○天野補佐  先ほどの振動障害の年間の新規の件数ですが、平成17年度はいま取りまとめ中でして、 平成16年度年間で412件という数字です。 ○柳澤座長  わかりました。ありがとうございます。 ○天野補佐  1番は建設業で242件です。 ○柳澤座長  症状固定というところで、例えば脳血管疾患の場合と虚血性心疾患の場合と精神障害を 考えると、脳卒中の場合には、脳梗塞を起こしたとか脳出血を起こしたとか1つのエピソ ードが必ずあるのです。それがある程度の治療で症状が固定するというのは比較的考えや すい。だけど心筋梗塞では、そのエピソードはある程度良くはなるけれど、これから再発 する可能性が非常に大きいわけです。精神疾患の場合には何か1つ発症のエピソードとい うのがあると思いますが、それをどの時点で症状固定と考えるかというのは、いま、たっ た3つだけ出しましたけれども、それぞれにニュアンスが違うのです。心筋梗塞だって症 状固定に持ってきた以上は、何らかの形で精神障害のほうも1つのエピソードがあった ら、それがある程度落ち着いたところというのは、こういう問題を考えるときのひとつの 考え方だと思います。もちろん、持っていき方は難しいと思いますけれども、クリアーに 考えれば、私はそういうものかなと思います。ただ、精神科の先生のご意見はもう少し議 論しないと、私もちょっと分かりません。考え方としてはそういうふうに考えないと、こ ういうことは整理できないのではないかと思います。 ○長嶋医療監察官  障害等級について、器質性の損傷を負った脳の障害というものもあるのですが、そうで はない器質的損傷を伴わない精神障害についても、障害等級で何級にあたるかというもの を設定しています。つまり精神障害についても治ゆになる状況はあり得るということで、 行政のほうはそういう措置を講じているということです。 ○奥平先生  精神障害の場合、治ゆになってアフターケアを受けられるということが、その労働者に とって利益になるということが、何か積極的に言えるといいと思います。 ○柳澤座長  そうですね。 ○山口先生  それは概して言えば利益にならないですか。不利益です。治ゆしないほうが休業補償も もらえるし解雇もされない。打切補償を払えば解雇できるようになっていますけれど、そ んなあこぎなことをしたら、法律上できるようになっていても会社の中で大騒ぎになりま すからね。だから、それは治ゆしないほうがいいのだと思います。 ○柳澤座長  そこでまた先ほどの精神科の先生の考え方にもなるのですが、精神科の先生方は、基本 的に患者の立場に立つということをものすごく強く意識するのです。それが我々のような 他の領域の医師とはちょっと違うのです。私たちは病気は病気だと考えて病気を治すよう な治療をするし、患者さん自身は再発しないように注意した生活療法を行ってくださいと きちんと言って、糖尿病などは悪くなったらあなたのやっている療養が駄目ではないです かということを言って、かなり厳しくやり取りはするのです。精神科の人は、そんなこと を言うと申訳ないですが、全くそれはしない。全部患者の言うことをアクセプトするのが 精神科の医師だと考えて診療するのが基本的な態度のように思います。それがありますか ら、こういった障害のときも治ゆという認定が、先生がいま言われたように患者の不利益 になると思ったら、治ゆなんてしていませんというふうに診断するのが一般的な精神科の 先生のやり方だと思います。それが善いとか悪いとか言うつもりは全くありませんが、こ ういった制度を考える上では、そういう点は問題にはなると思います。これが1つの課題 で、今回の中でどういうふうに整理できるか。うまくいけばいいと思いますけれども。 ○山口先生  この難しい問題の根源はどこかというと、私の理解では、結局、治ゆという概念にある と思うのです。労災がもともと工場から起こってきた、いちばん多い負傷です。これを中 心に治ゆという概念にして、症状の固定なんていうのを言っているわけです。だけど疾病 型のものが入ってきたら合わないのです。合わない、合わないと言われているのに、何か 大きなことが起こらない限り法律を改めないというのが役所のやり方ですから、合わない のでお前らは仕事しろと言われている我々が迷惑しているわけで、それはどこまでやるの かといったら、根本がおかしいのですから限度があります。だから、なるべくそのおかし さを消すようにしなければ根本的には解決できないと思います。治ゆという概念が今のに 合っていないのです。 ○柳澤座長  わかりました。おっしゃるとおりだと思います。この点は、そんなところでよろしいで しょうか。 ○奥平先生  治ゆという概念は、この前お話があったものですから、7つ8つの本を見て治ゆという 概念を調べてみました。またどういう日本語と外国語が当てられているのか。もしご参考 になれば後でコピーして見ていただくといいと思います。治ゆという概念が医学的にはっ きり使ってあるのは創傷の治ゆというところだけなのです。あとは一般の社会的に病気が 治る治ゆというのと何ら変わらないのです。これは教科書も大分調べたのですが、治ゆと いう言葉が出てくるのは創傷の治ゆだけです。創傷の治ゆというのは機械的外力による組 織的連続性が失われたものが治る場合だけ、治ゆという言葉が教科書に出てきて、ほかに 出てこないのでびっくりしたのです。それくらい曖昧な内容を含んでいるということで す。 ○柳澤座長  労災の法律あるいは身体障害者福祉法でもそうですが、症状固定6カ月なら6カ月とい うことで、それで治ゆという言葉を使っているわけです。でも、いま先生が言われたよう に本来の治ゆという言葉を我々が議論するときは、どうしても医学的用語としての治ゆを 頭に置いてやってしまうものですから、精神科の先生たちもたぶんそういう点があるのだ ろうと思います。精神科の先生方に、この法律上の治ゆの概念はこういうものであるとい うことをもう少し明確に提示して、どう考えていただくかということにしましょうか。そ ういう点では先生が言われたような歴史的な経過であるとか、あるいは先生の定義のとこ ろとか、ちょっとそれを資料として出して精神科の先生にも見ていただくことがよろしい のではないかと思います。 ○長嶋医療監察官  話の流れの中で精神の関係でもあるのですが、資料の6−6の33頁をご覧いただきた いと思います。先ほど注射については振動障害と末梢神経で、理学療法も振動だけだとい う話をしたのですが、精神療法、カウンセリング等ということで設定されているのがサリ ンと精神障害の2つだけなのです。これも措置の中では1つの項目として掲げているので すが、先ほど奥平先生が言われたところで言えば、そこを1つのものにまとめてしまって はという話でしたけれども、この項目についてはいかがなものか教えていただけたらと思 います。 ○山口先生  それは先生のご意見では、予防、その他の保健上の措置にそれが入るというご意見でし ょう。 ○奥平先生  ええ、そうです。精神療法、カウンセリングも同様にということで入っているわけです。 ○山口先生  ただ、何となく、先ほどの消炎とか消痛の注射というのは対処療法で良くならないから、 それは治療ではないと言えるかもしれませんが、精神障害の場合、カウンセリングなんて 治療そのものではないですかね。 ○柳澤座長  一般的には、そうですね。 ○園田課長補佐  法では限定的に後遺症状としてなっているのですが、そこは先ほど奥平先生が言われた ように、そういうものまで治ゆというのか。創傷の治ゆとちょっと性格が違うということ です。 ○柳澤座長  これはちょっと、この点も少し精神科の先生方のご意見も聞くようにしましょう。先に 進んでよろしいですか。最後の括りの項目として実施期間の問題ということですが、事務 局から問題点の整理をお願いします。 ○長嶋医療監察官  資料1の7頁をご覧ください。実施期間についての1つ目ですが、対象傷病ごとに実施 期間を定めることの適否についてです。アフターケアの実施期間については制限を定めて いないものを除き、現状、傷病別アフターケア実施要綱において各傷病の特性に応じて、 期間としては2年と3年という期間を定めています。  一方、後遺症状の安定する時期は、同一の傷病であっても個々の症例によって差異があ ることから、実施期間を一律に定めるのではなく、必要な実施期間については医師の判断 に委ねるべきではないかとも考えられます。この場合、アフターケアでは療養補償給付に おける治ゆ(症状固定)のように、終了時期が明確でないこと。アフターケアが長期化す る場合、加齢等によって症状が加わりまして一層長期化するのではないか。不定愁訴や自 訴によって漫然とアフターケアを実施することは、アフターケア制度本来の目的に反する のではないか。実施期間については、同一の傷病であっても、その障害の程度により区分 するということも必要ではないかといった留意点があると思われます。  資料1の8頁をご覧ください。2つ目は実施期間をどのように設定するかということに ついてです。現状では、生涯にわたってアフターケアが必要なものについては制限を設け ず、医学的に2年以内の後遺症状が安定すると評価されるものについては2年、その他の ものについては健康管理手帳の更新等を勘案して3年としているところですが、この実施 期間を3年としている対象傷病の中には、より傷病の特性に応じた実施期間を定めるべき ものがあるのではないかとも考えられます。この場合、治ゆ(症状固定)の直後には後遺 症状の動揺の幅というものも大きく、また療養を終了するということに関する精神的不安 も大きいことが予想されることから、それらの症状の経過を見る適当な期間として、3年 という実施期間を定めることに問題があるとは言えないのではないか。しかしながら、治 ゆ(症状固定)後、一定の期間を経過し後遺症状が安定したものについては医学的に必要 とする年数、例えばとして実施期間を3年としているものであっても、医学的に2年また は1年で足りるものであれば、1年、2年に短縮するというような実施期間とすべきでは ないかといった留意点があると思われます。  資料1の9頁をご覧ください。これが実施期間についての最後になりますが、実施期間 の更新に関する制限についてです。現状、実施期間を定めているもののうち更新を認めて いないもの、これは実施期間を2年としている頭頸部外傷症候群、頸肩腕症候群、腰痛の 3つのみになっています。その他の実施期間が定められている対象傷病については、医学 的に継続してアフターケアを行う必要があると認められる場合には、回数に制限なく更新 を認めているという現状にあります。  実施期間の更新については、更新を認めるものと認めないものがあるということは取扱 いとして不公平ではないか、また回数に制限なく更新を認めること自体が適当ではないの ではないかとも考えられます。この場合、「せき髄損傷」等の制限のない特定の対象傷病 を除き、アフターケアは無制限に継続するものではないのではないか。ましてや現在、更 新を認めていない対象傷病に更新を認める理由はないのではないか。しかしながら、個々 の症例によってアフターケアを必要とする後遺症状というのは異なるということから、更 新回数を一律に制限することは適当ではないのではないか。実施期間の更新にあたって は、医学的にその必要性を十分に踏まえた上で、障害の程度に応じて区分するということ も必要ではないかといった留意点があると思われます。実施期間については項目が3点に なりますが、ご検討をお願いします。 ○柳澤座長  これも少し議論のあるところだと思います。傷病ごとにアフターケアの実施期間を定め ることの必要性、実施期間をどうやって設定するか、更新をどういうふうに考えるかとい うことです。いかがでしょうか。これは実施期間を2年とするものと3年とするものとあ りますが、これも21疾病は全部、この2年か3年のどちらかに入ってしまうという理解 でよろしいわけですか。 ○長嶋医療監察官  資料7頁をご覧ください。 ○柳澤座長  制限がないのもあるというわけですね。 ○長嶋医療監察官  はい。せき髄損傷とか人工関節、弁置換したものなどについては一生涯ということで制 限を設けていません。 ○山口先生  もともと2年、3年というのは、どういうふうに決まったのですか。 ○長嶋医療監察官  医療専門家会議におきまして、個別傷病の検討というところです。 ○山口先生  そこで2年、3年、無期限からどれかを選ぶと。 ○長嶋医療監察官  2年については、医学的に2年で十分足りるというご判断だと思います。3年のものに ついては、3年で足りるというものもありますし場合によってはもう少し必要なものもあ りますが、それでばらばらにするよりも更新可能ということもあって、その他のものにつ いては3年で統一しているという状況です。 ○柳澤座長  これは一定の期間ごとに見直し、あるいは終了というふうなことを手続的に行ってもら うというのは、すべての疾病について適切だろうと考えますが、疾病によって2年経った らもう終了するとか、3年経ったら終了するというふうに決められるものは白内障くらい ではないですかね。あとはみんな継続し得る、アフターケアを必要とするような対象者が 出てくる可能性があるのではないでしょうか。 ○馬杉先生  事務局に教えてほしいのですが、私、ずっとこれをやっていますから、毎日、アフター ケアの更新の時の今の手続をやっているのです。前はアフターケア手帳の更新というの は、医師が何も書かなくてもそのまま更新としてきただろうと私は思っているのですが、 監督署に労働者が行って手続すれば、またアフターケア手帳が変わりましたと持って来 た。それがこの1年ぐらい前から医師の診断書を添付しない限り、アフターケア手帳の更 新は駄目ということになったのではないでしょうか。そうでしたね、誰か知っている方は いませんか。  末端のというか、地方のほうではアフターケア手帳の再交付が変わっているのです。そ れはどういう趣旨で変えたのか。それを変えたことによって、きちんと医師の診断書を持 って来なさいとなったから、更新が減ったかどうかというのを知りたいのです。というの は、そこできちんとした見直しさえすれば、いたずらに長引くのが防げるのではないか。 それは調べるのが大変かもしれませんが、制度が変わったから絶対あるはずなのです。 ○園田課長補佐  お医者さんから、手帳の更新のときに意見を付けてもらっているのは間違いないです。 ○馬杉先生  間違ないでしょう、いまはね。 ○笹川係長  おそらく平成12年に事務連絡で、更新事の確認方法ということで事務連絡を出してい ますので、それに基づいて、そういった確認の事務がしっかりやられるようになったので はないかと思います。 ○馬杉先生  そうでしょう。だから12年から18年で5年経って、いまはどこの監督署からも私は書 かされていますから、いまは徹底されました。私の知りたいのは、そういう事をやること によって改善というのはおかしいけれども、アフターケアが減っているなら、そういうき ちっとした見直しさえすれば、いたずらに長引くのはないだろうと現場で思っているので す。 ○柳澤座長  先生の言われることは極めて妥当だろうと思います。受益者というか、受けている人に とってもアフターケアというのは有限というか、条件が必要なのですよということを自覚 してもらうということにしている。ただ、その場合に期間の問題ということは出てきます。 これはいま、2年、3年、無期限というふうになっているものを、全部病態を検討して併 せて整理するということで、たぶん、これはうまくいきそうですね。 ○奥平先生  いまのお話ですが、例えば期間に制限がない対象疾患で、このごろ人工関節など非常に よくて、全く社会生活に支障がないという人も出ていますし、人工弁、人工血管のところ で胸腹部の検討のときに、大動脈の人工血管の置換術は手術が終われば、あと一切何も必 要ないと血管外科の専門家はそうおっしゃっているのです。ですから、確かに全体として もう一度病態等を見直す必要があるのだろうと思います。 ○柳澤座長  そうですね。ちなみにペースメーカを埋め込むと、いまは3年とか5年ごとに取り換え ますよね。電池が切れて取り換えるというのは医療行為ですよね。それもアフターケアに なっているのですか。どういう取扱いになっているのでしょうか。再発と言うにはあまり 適当ではない。 ○奥平先生  私の理解ではアフターケアです。 ○柳澤座長  そうすると、かなりな医療行為がアフターケアになる。 ○山口先生  それは私の理解では、治ゆという概念が現状に合っていないから、それはやむを得ない のです。だから、そこはできるだけおかしくないように騙し騙しいかなければいけない。 ○柳澤座長  ということなのでしょうかね。そうすると、ペースメーカの場合なんか全くアフターケ アのもともとの概念ではなくて、完全な医療行為だけですよね。例えば半年とか1年ごと に、ペースメーカがきちんと正確に動いているかどうかということをチェックするという ことと、必要な時期になったら全部取り換えるということです。取り換えるときに、いま ペースメーカはどのくらいしますか。100万円くらいしますか。それが一般的なアフター ケアの概念だというのは、何となく私たちのセンスでは違うのです。 ○山口先生  そういう場合、治療でもアフターケアでもないということになったら、自弁で取り換え なければいけなくなるわけです。それは健康保険では見てもらえないのですか。 ○柳澤座長  いいえ、ペースメーカを入れている状態というのは、原因が何であっても健康保険で療 養しますよと言ったら、それは認められると思います。ただ、健康保険の場合はおそらく 年齢や収入によって1割から3割の自己負担がありますが、たぶん労災だと負担がない。 その辺の違いは出てきます。 ○山口先生  その制度がいいかどうかはともかくとして、一遍業務災害で療養の補償給付を受けて、 それで治っても再発すれば労災です。その間、アフターケアでつないでいるのですが、も しこれを厳密にやったら健康保険では見てもらえないということになってしまうから、労 災になって治ったら、ものすごく不利なのです。 ○柳澤座長  なるほど。 ○山口先生  治らないのがいちばんいいのです。というのは制度としておかしいということなので す。 ○長嶋医療監察官  前回の専門家会議のときの資料でパンフレットを付けていますが、それの11頁、12頁 に、虚血性心疾患等に係るアフターケアとしてペースメーカが載っています。ここの11 頁下からの範囲のところを見ていただくと、中身は診察、保健指導、定期チェックと検査、 薬剤の支給となっていますので、実際に取換えという話の場合については、アフターケア の範疇には含まれないということです。 ○柳澤座長  そうすると、具体的な取扱いはどうなっているのですか。 ○西井課長補佐  再発でやります。 ○柳澤座長  再発の取扱いですね。それはそれで考え得ることだと思います。それは心臓にそういう 障害が起こって、治療してペースメーカを埋め込むことによって、日常生活に全く支障が ないような治ゆの状態になったと、だけどその状態が変わったと。 ○山口先生  それは何か機械が摩耗したというだけのこと。 ○柳澤座長  そういうことです。機械の摩耗したことによって心臓がうまく働かなくなったから、そ れは再発だという考え方は、若干こじつけ的ではありますけど、まあまあ大体解釈して適 用し得る範囲の理屈ではないかと思います。わかりました。よろしいですか。この実施期 間のことはそんなに難しくはなさそうですね。少し議論しておくところがありますか。一 応、7頁から9頁にわたって、そこの留意点で議論するところというのは加齢の問題です。 これも運用の上で、できるだけ適切に対応してもらうということしかないと思います。加 齢の問題は障害があった場合には、そういう障害がないときの加齢による症状の加わり方 とは、また違うのだということは歴然としてあります。  そうすると、もともとの障害が原因になっていることは理屈としては成り立つというこ とになると、先ほどの精神疾患で、例えばうつ状態の再発などについての考え方などと共 通するような面が出てきます。もともと最初の障害があったために、その人にそういった 病気の素因があったにしても、最初の労災の障害のために、より罹りやすくなった。だか ら見るべきではないかということです。  結局、1つは制度のいろいろな疾病間の整合性ということについて、加齢の問題や精神 障害の再発というのは、一定の基準で含めることは可能だろうと思いますけれども、問題 は、そういうことによってアフターケアとか再発の数がどんどん増えていって、労災はリ ッチだからいいのかもしれませんが、予算上の問題が出てくるということについて配慮す る必要があれば、その点をある程度考慮しなければいけないということもあるかもしれま せん。とりあえず予算措置といったものの範囲ということは、あまり考慮しないでという ことですか。 ○明治補償課長  あまり考えずに、全体的にご議論いただきたいと思います。 ○柳澤座長  全体としての与えられた課題について整理するということで、よろしいですか。 ○明治補償課長  はい。 ○柳澤座長  わかりました。 ○山口先生  これを拝見していて、アフターケアの実施期間に定めがないというのは、おかしいです よね。そうすると実施期間を定めるとしたら、それは傷病ごとに見ていかないといけない ということになると思います。その辺、どういう実施期間を定めるかというのは私もよく わかりません。医学の先生方に決めていただくことになると思います。この実施期間を置 いた以上は、更新が緩やかに無制限にできるというのだったら、実施期間を置いたことと 矛盾するような気がします。 ○柳澤座長  おっしゃるとおりだと思います。ですから、更新のときには障害を受けて診断書を出す 側も、それなりの法の趣旨に従った形で、きちんと再申請をするということを条件にする、 そういうシステム的なものは必要になるでしょう。労災の場合の診断書は、身体障害など の再認定などと大体似たような形でしょうか。大体診断書というのは、どういう措置の場 合も内容は似ていますよね。 ○笹川係長  そのときの障害の状態を、意見書なり診断書で聞いているということです。 ○明治補償課長  更新の関係ですが、個々の対象傷病ごとに実施期間を設け、さらに更新を認めていくと いうことで、更新に際しては主治医の先生から診断書という形でご意見をいただいた上 で、それを確認の上、また更新をするということです。そうすると、1人の対象傷病につ いて見たときに、見直しの結果、とりあえず3年を原則に、あるいは5年を原則でもいい と思いますけれども、それでほとんど収まるのですというところが、たぶん実施期間なの だろうと思います。 ○柳澤座長  そう思います。 ○明治補償課長  更新をしますといったときに、その主治医の方から求める意見書のあり方というか、何 を記載していただくかだと思います。それを無制限に更新を認めるということにはたぶん ならなくて、こういう特殊な状態がまだ残っているとか、更新をしてアフターケアで措置 していかないといけないということが、わかるような意見書を出していただかないと、無 制限に更新が繰り返されていくというのは、本来の趣旨とは違うのではないかという気が しています。その辺、ご検討いただけるとありがたいと思います。 ○奥平先生  それは、アフターケアの内容というのが最初のほうで議論されて、3項目の中に例えば 医療行為に近いようなものも含めて、扱ったほうがいいだろうというお話がありました が、いまの意見書はどうなのですか。意見書としてはアフターケアの中のどういうアフタ ーケアが、これから必要かということもきちんと意見書には書かせていますか。それとも 病態についての診断書みたいな感じなのですか。 ○明治補償課長  傷病名が書いてあって。 ○柳澤座長  今後のアフターケアが必要と。 ○馬杉先生  現場のお話はそうです。全部通っていますけど、いま先生が言われたような難しいこと は要求していないですね。こういうこと言うと何ですが非常に甘いというか、例えば頭頸 部外傷症候群と書いて、具体的に昨日書いたばかりですから覚えていますけど、これは頭 痛とかに関して鎮痛剤だけしか投与しない人で、本当に微々たるアフターケアですけれ ど、そういうのでも非常に頭痛が頑固なために、こういう消炎鎮痛剤の投与は必要である と、それ1行で更新ぐらいなのです。  だから正直言うと、書いている現場の医師の意見としてそういう制度も知っていると、 もうちょっと柳澤先生が言われたように厳しくというとおかしいですが、例えば項目で、 もう少し医師に意見をたくさん言ってもらうことがないと、これは非常に申し訳ないけ ど、安易に延長していると思います。通達がどう言っているか私は知りませんけれども、 現場はそういうことです。 ○柳澤座長  よくわかりました。 ○奥平先生  いまのは大きいですね。私は前から考えて、こういうふうにやったほうがいいのではな いかと思っていることは、労災病院があるわけです。労災なのですから労災病院の専門医 の意見を徴するとか。もっと労災病院の特化というものを、労災保険については考えてい っていいのではないか。珪肺の問題にしても例えば私でも診断できる。私がちゃんとした 診断ができるわけではないのですが、私の診断書でも一応通らないことはない。やはりそ ういうときに、いまは医療を受けるときに第2の意見を聞くということもごく一般に行わ れるようになってきました。もう少し診断あるいは意見の客観化というものを図る意味 で、労災病院を活用することを考えていいのではないかと思っています。これが非常に難 しい問題なのかどうか分かりませんけれども。 ○保原先生  北海道だけ考えると、地理的に無理ですね。 ○奥平先生  無理ですか。 ○保原先生  北海道は労災病院が3つあるのですが、遠い人は片道半日かかります。 ○奥平先生  でも先生、あとの何年間にわたる補償が受けられるかどうかという問題なのですから、 例えば治療を受けるという個人の身になってみますと、どんなに遠い所でも日本一の先生 のところに患者さんは行きたがりますよね。 ○保原先生  お金がある方はね。 ○奥平先生  そういうことですけれども、でもその時に、例えば旅費に困っている方があれば、それ に配慮するということをしても診断の客観化を図るということをしないと、これは後でい ちばん最後にまとめるときに全部見直しをして、お役所のこういう検討のときには、前よ り厳しくしないというのが一般だそうですけれども、もしかしたら厳しくしなければいけ ないかも分からないですね。 ○保原先生  そうですね。 ○奥平先生  そういうときに、もっときちっとした基準を設ける必要があるのではないか、私はそう 思っているのです。 ○山口先生  おっしゃることはもっともだと思います。ただ、私が患者になったことを考えると、三 鷹の近所のお医者さんに行って、やあ、お願いしますと言うのと、関東労災病院まで電車 に乗って出かけるのとでは、ずいぶん違うという感じです。 ○柳澤座長  その辺は、3回ありますから、そこでご議論いただく大事なポイントだと思いますが、 全般の流れを見ますとアフターケアというのは、一定の期間を見たら本当にアフターケア が必要でなくなる治ゆの状態になることを、ある程度期待しているという面もあるわけで す。一方でアフターケアをきちんとしなければ、ある一定のいい健康状態が持続して維持 できないという傷病もあるわけです。奥平先生や馬杉先生がおっしゃるように、意見書の 内容をきちんと法の趣旨に沿った形で作ることは必要だろうと思います。労災病院とか厚 労省のほうで決めている意見書を書く資格というのがあるのでしたか。この意見書はない のでしたか。 ○長嶋医療監察官  アフターケアではないです。 ○柳澤座長  ただ、馬杉先生が理事をされている職業災害医学会という、比較的労災の専門の方々が 参加する学会があります。あそこで専門医をつくっていますが、その専門医の養成の趣旨 としては、こういったものの意見書を正確に書けるということも期待しているのですよ ね。 ○馬杉先生  労災制度全般にわたって精通した医師をということですから、もちろんアフターケア制 度も入っています。ただ、まだこれからです。今年初めて申請をして、来月講義があって それからやるので、いずれは将来、労災の行政に関してドクターの中でもある程度精通し た人を育てようというのが、いま柳澤先生が言われた制度の眼目ですから、それが行き渡 れば産業医みたいな形だと考えればいいと思います。産業医の労災版という感じです。あ れは国家資格になりましたからいろいろありますけれども、方々の所でそういう医師がい れば、そんな遠い所に行かなくても済むかもしれないと思います。でもこれは5年から 10年先だと思います。 ○柳澤座長  先のことになりますね。 ○馬杉先生  まあ、それは覚えておいていただくと。 ○柳澤座長  一応、そういったような。 ○保原先生  労災病院でなくても、そういう先生がいらっしゃるようにすればいいわけです。 ○馬杉先生  それがいちばんいいですけどね。 ○柳澤座長  そういうことですね。わかりました。 ○馬杉先生  労災病院は申し訳ないけど、これからだんだん減ってくるから。 ○柳澤座長  そうですね。労災病院でも確かに意見書を書いたり、いろいろやっておられる方がおら れますけれども、労災病院だからできるのではなくて、一応、そういう資格を持ったドク ターがたくさんいるから、よりできるということですので、基本的には資格を持ったドク ターに書いていただくというのが将来の方向だろうと思います。その程度のことは漠然と 言うと変ですが、何かこういうもののまとめの中に取り入れてもいいのでしょうかね。 ○馬杉先生  これは職業災害医学会のほうでもきちんとした制度を作りましたが、いま、それの長は 大阪労災病院の名誉院長の鎌田先生がやっていらっしゃいますし、労災のことと非常に深 く関わっていますから、もしそういうことを取り入れていただければ非常に我々としても うれしいと思います。 ○柳澤座長  そうですね。あまり具体的にそういった名前を出すということではなくて、むしろそう いったものについて、きちんと認定だとか意見書を書く専門の医師を養成して、そういう 人たちにやってもらうということが望ましいとか、そういった程度の表現でいいと思いま すけれども。 ○山口先生  アヴェイラビリティーが非常に高ければ、奥平先生が言われたように主治医の先生でな いほうが、むしろいいのかもしれません。客観性というところで、専門医の方で非常にア ヴェイラビリティーが高い方が揃えられていればいいと思います。だけど、それが保原先 生の話だと難しいということなのでしょう。 ○保原先生  労災病院に限定しなければあり得るのです。そういう専門の先生をこれから育てていっ てですね。 ○柳澤座長  実施期間と更新の問題は、これは大体整理できそうですね。よろしいでしょうか。一応、 検討事項のうちの1番から8番について、おおよその意見は出していただいたと思いま す。事務局のほうで何かございますか。あるいは委員の皆さん方のほうで特におっしゃっ ておきたいということがありますか。 ○保原先生  今日は結論を出す日ではないのだと思いますが、いままでのお話を伺っていると、原理 原則を踏まえた総論というのはかなり難しい。服の仕立てで言えば、その人の体に合った パシッとした服を作るというのはちょっと難しいかなという気がします。1つは、そう言 っては何ですが、偶然の要素で例えば炭鉱事故とかサリンとか、そういうので入ってきて いるのもありますし、たまたま地方局から上がってきているのもあるとなると、服を作る ので言えばダブダブの服でいまやっているわけで、やはりそのダブダブさを少し修正する と。先ほど山口先生が同じことを言われましたが、私は何かそういう感じがしますね。 ○柳澤座長  わかりました。 ○保原先生  先走ったことで恐縮です。 ○柳澤座長  大まかすぎるものを整合性というか、個々の疾病でばらばらになっていたものを整理す るとか、できるだけ個々の障害者の方にとって適切な形で制度の運用ができるような、そ ういうものができればということだと思います。無理にそんなにピシッと狭めていくとい うことは趣旨ではないだろうと思いますので、わかりました。  この会も大体よろしいですね。事務局から特になければ、これで今日は終わりにしたい と思います。 ○園田課長補佐  多くの論点につきまして長時間ご議論いただきまして、ありがとうございました。本日、 検討いただきました内容につきましては事務局におきまして取りまとめさせていただき ます。次回の部会におきまして議論をさらに深めていただくための資料とさせていただけ ればと思っています。なお今日の検討内容を整理するにあたりまして次回の部会まで3週 間ほど間がありますので、先生方にその間、またいろいろとお尋ねをすることもあろうか と思いますので、その際にはよろしくお願いします。今日はありがとうございました。 ○笹川係長  次回の部会につきましては、10月27日(金)、午前10時から、場所は本日と同じ労 働基準局の第1会議室で開催したいと思います。よろしくお願いします。 ○柳澤座長  申し訳ありません。私が急な用事ができてしまったものですから午後が難しくなってし まいました。それではそのようにお願いします。本日はありがとうございました。 (照会先)   厚生労働省労働基準局労災補償部補償課福祉係   TEL 03(5253)1111(代)内線5566       03(3502)6796(夜間直通)   FAX 03(3502)6488