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日本産科婦人科学会会告(生殖補助医療実施医療機関の登録と報告に関する見解)(平成18年4月)


1.  生殖補助医療の実施登録施設の具備すべき要件と設備

 生殖補助医療(ART)は不妊診療の重要な選択肢のひとつであり,難治性不妊症に対する治療法として位置付けられている.
 本医療の実施にあたっては,ARTを受ける患者の医学的,社会的,経済的かつ心理的側面より,施設,設備,スタッフなどについて基準を満たすことが必要である.なお,ここでいうARTとは,日本産科婦人科学会へ登録義務のある生殖補助医療である.

(1)  施設登録の申請および審査

 ART実施医療施設登録を義務制とし,登録申請の承認された施設がこれを実施する.
 登録申請の審査は日本産科婦人科学会倫理委員会で行う.

(2)  登録施設における報告義務

 ARTの治療実績は,国や社会の関心が高く,登録施設は治療実績の報告義務があると考えられる.正当な理由なく3年以上の報告義務違反があった場合は登録を抹消することもある.

〔登録申請制度〕

登録申請→審査 →承認→実施→実施報告 →機関誌にまとめ掲載
 

| 報告義務違反
   →不受理(非承認)  →  施設登録抹消

(3)  登録施設の設備

 登録申請を行う際には,下記の具備すべき施設基準を満たすように努力すべきである.

 a) 基準施設
  ・  採卵室
 採卵室の設計は,基本的に手術室仕様とする.
  ・  培養室
 培養室内では,基本的に手術着,帽子,マスク着用で手洗いを行う.
 培養室内は,エアフィルターを通した清浄空気を循環させる.
  ・  凍結保存設備

 b) その他の望ましい施設
  ・  移植室
  ・  採精室
  ・  カウンセリングルーム
  ・  検査室

(4)  登録施設の要員

 a) 必要不可欠な基準要員
  ・  実施責任者(1名)
  ・  実施医師(1名以上,ただし実施責任者と同一人でも可)
  ・  看護師(1名以上)
 不妊治療,および不妊患者の看護に関する知識,技術を十分に修得した看護師であること.

 b) その他の望ましい要員

  ・  精巣内精子生検採取法(TESE),精巣上体内精子吸引採取法(MESA)等を実施する施設では,泌尿器科医師との連携がとれるようにしておくことが重要である.
  ・  配偶子,受精卵,胚の操作,取り扱い,および培養室,採精室,移植室などの施設,器具の準備,保守の一切を実際に行うARTに精通した高い倫理観をもつ技術者を有することが望ましい.
  ・  生殖医学・遺伝学の基礎的知識,ARTの基礎的知識および心理学・社会学に深い造詣を有し,臨床におけるカウンセリング経験をもち,不妊患者夫婦を側面からサポートできるカウンセラーとの連携が望ましい.

2.  生殖補助医療の実施登録施設における実施責任者の要件

 本会に登録の必要のあるARTを申請する施設の実施責任者は次の各項の条件を全て満たす者であることを要する.また,実施責任者に異動が生じた場合には,遅滞なく報告する.ただし,異動により下記の条件を満たす医師が欠ける場合には,その欠員が充足されるまで実施を停止する.

(1) 日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医であること.
(2) 専門医取得後,不妊症診療に2年以上従事した者.
(3) 日本産科婦人科学会の体外受精・胚移植に関する登録施設において1年以上勤務,または1年以上研修を受け,体外受精・胚移植の技術を習得した者.

注:  平成18年4月における本会告改定以前の登録施設については,(3)の文中の「日本産科婦人科学会の体外受精・胚移植に関する登録施設」を「日本産科婦人科学会の体外受精・胚移植,およびGIFTの臨床実施に関する登録施設」と読み替えるものとする.
 登録申請時に,その勤務・研修を行った施設の実施責任者による勤務・研修証明書を添付する.

3.  生殖補助医療に関する登録申請にあたり留意すべき事項

(1) 実施場所

 a) 採卵室・培養室・移植室を分娩室と兼ねることは好ましくない.

 b) 実施場所の設備配置に関する詳細な見取り図を提出すること.見取り図は実施場所の清潔性,安全性(施錠)の評価が可能なものとすること.

(2) 実施責任者および実施医師

 a) 実施責任者は常勤医師でなければならない.

 b) 実施医師は実施責任者のもとARTの実施を行う.

 c) ART研修歴のうち,国外でART技術を習得したものはその詳しい内容を示す証明書の原文と邦訳を提出すること.(国外でのART研修歴について実施責任者要件に見合うものであるか否かは個別に審査する.)

(3) 実施協力者

 a) ARTの実施にあたっては,実施医師・実施協力者を含め複数のスタッフで行うことが望ましい.

 b) 実施協力者はART研修歴を有することが望ましい.

(4) 倫理委員会

 a) 倫理委員会を設置することが望ましい.特にヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究を実施する施設,ならびに非配偶者間人工受精(AID)を実施する施設は倫理委員会を設置し,承認を得る.

 b) 倫理委員会は中立を保つため委員構成に配慮が必要であり,中立的な外部委員を複数入れることが望ましい.

 c) 倫理委員会委員長を施設責任者・実施責任者が兼ねることは望ましくない.

 d) 倫理委員会の審査記録を添付すること.但し,審査記録には審議議題と結果ならびに審査者氏名を含むこと.

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