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日本産科婦人科学会会告(「多胎妊娠」に関する見解)(平成8年2月)

 近年の補助生殖医療の進歩に伴って多胎妊娠の頻度は増加した.多胎妊娠の中でも,特に4胎以上の妊娠には母子の生命リスクを高めるといった医学上の問題点が指摘されている.

 本学会では多胎妊娠の防止をはかることで,この問題を根源から解決することを志向すべきであろうとの結論に達した.すなわち,体外受精・胚移植においては移植胚数による妊娠率と多胎率とを勘案して移植胚数を原則として3個以内とし,また,排卵誘発に際してはゴナドトロピン製剤の周期あたりの使用量を可能な限り減量するよう強く求めることとした.

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“「多胎妊娠」に関する見解”の解説

 厚生省心身障害研究(多胎妊娠の管理及びケアに関する研究,平成6年度研究報告書:主任研究者,寺尾俊彦)によれば,我が国において1980年代前半より多胎数は増加し,1984年から10年間で多胎の発生頻度は双胎で1.2倍,3胎2.7倍,4胎6.7倍,5胎4.2倍となった.周産期委員会報告(委員長;武田佳彦,小委員長;佐藤 章,多胎妊娠調査,日産婦誌47:593,1995)によれば,解析対象820例のうち双胎の32.4%,3胎の80.4%,4胎以上の100%は補助生殖医療によるものである.

 多胎妊娠,特に4胎以上の妊娠において母子の予後が極めて不良であることから,倫理委員会では理事会からの諮問により,生殖・内分泌委員会に「多胎妊娠の発生に関する調査」を,また,周産期委員会に「多胎妊娠の母体に及ぼす影響及び児の予後に関する調査」をそれぞれ付託した(平成5年7月12日).


 生殖・内分泌委員会報告要旨

 1.平成5年度の生殖医学登録(水口委員長,日産婦誌46:1269,1994)によれば,体外受精・胚移植による妊娠率(移植当たり),多胎率はともに移植胚数が増えるに従って増加するが,4個以上の胚移植では妊娠率の有意な増加はなく,多胎率は更に増加した.

 2.生殖・内分泌委員会報告(水口委員長,委員;青野敏博,日産婦誌47:1298,1995)によれば,排卵誘発におけるゴナドトロピン製剤の平均使用量は双胎に比し,3胎以上では多かった.また,投与間隔別では,連日投与では隔日投与に比し有意に多胎率が高かったが,原因疾患別では有意差はなかった.


 周産期委員会報告要旨

 1.体外受精・胚移植における胎児心拍確認後の流産率は,胎児数が増加するほど上昇した(初期流産:3胎1.6%,4胎10.0%,5胎15.0%).

 2.平均分娩週数は胎児数の増加に伴い低下し(3胎32.7週,4胎28.7週,5胎28.1週),周産期死亡率も有意差はなかったが3胎以上では増加した(双胎75.0/1,000,3胎75.4/1,000,4胎102.9/1,000,5胎125.0/1,000).

 3.生存児における児の後障害は4胎以上で有意に増加した(3胎3.6%,4胎10.2%,5胎30.8%).

 以上の調査成績は,近年の多胎増加の原因が補助生殖医療によるものであり,特に児の予後が有意に悪くなる4胎以上の妊娠の発生は,体外受精・胚移植(IVF‐ET)の移植胚数を3個以内に制限し,かつ排卵誘発剤の使用量を減量することにより大部分予防し得ることを示している.

 なお,胎児減数手術については適応・安全性などの医学的問題点,並びに現行法規(優生保護法,堕胎罪)との関連性,更に倫理的,心理的問題など,その実施には解決しなければならない問題があり,理事会として検討を重ねてきたが,未だ結論が得られていない.今後,法律家,有識者などの意見も含め,広い立場からの検討が必要であると考えている.

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