06/09/19 労働政策審議会労働条件分科会 第62回議事録    第62回 労働政策審議会労働条件分科会  日時 平成18年9月19日(火)  17:00〜  場所 厚生労働省9階省議室 ○分科会長(西村) ただいまから「第62回労働政策審議会労働条件分科会」を開催い たします。本日は、今田委員、久野委員、八野委員、奥谷委員、山下委員、平山委員が 欠席されております。  それでは、本日の議題に入ります。本日は、前回に引き続き労働契約法制の関係につ いてご議論をいただくことにしておりますが、労働契約法制のうち、労働契約の成立、 変更等についてご議論を深めていただきたいと思います。この項目の論点につきまして、 既に事務局に整理してもらっておりますので、資料の説明をお願いいたします。 ○監督課長 お手元の資料No.1-1、論点の資料です。左の列ですが、1の労働契約法制 (2)労働契約の成立、変更等<今後の検討の方向>です。(1)労働契約は、労働者及び 使用者の合意によって成立し、変更されるものであることを明確化することについて検 討を深めてはどうか。(2)労働契約締結の際に、使用者が労働基準法を遵守して定めた合 理的な就業規則がある場合には、個別に労働契約で労働条件を定める部分以外については、 当該事業場で就労する個別の労働者とその使用者との間に、就業規則に定める労働条件に よる旨の合意が成立しているものと推定することについて検討を深めてはどうか。(3)就 業規則の変更によって労働条件を集団的に変更する場合のルールや、使用者と当該事業 場の労働者の見解を求めた過半数組合との間で合意している場合のルールについて検討 を深めてはどうか。(4)労働契約の即時解除や就業規則の効力等に関する規定を労働契約 法に移行することについて検討を深めてはどうか、ということです。  <労使各側の意見>については、1頁から2頁にかけて掲載されているとおりですが、 これは8月31日の資料を基に要約して作っているものです。  右側の論点ですが、1つ目の○で、就業規則と労働契約との関係について、労働基準 法の遵守や、就業規則の内容の合理性ということになろうかと思います。2つ目の○は、 就業規則に定める労働条件が労働契約の内容となることについてが論点だろうと思いま す。3つ目の○は、労働条件を統一的・画一的に変更することについてということです。 これは黒ポツで就業規則の変更ということが論点になるかと思います。4つ目の○は、 労働者を代表する過半数組合との間で合意している場合について、どう取り扱うかが論 点になろうかと思います。  これの参考になる資料として「参照条文」が資料No.1-2として付いています。これは 就業規則についてということで、<>が付いていますが、最初の「民法(明治29年法律 第89号)」については、雇用契約の成立の623条で、「雇用は、当事者の一方が相手方 に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約 することによって、その効力を生ずる」ということです。仮名使いは、本当の民法では 古い字の「傭」になっているはずです。  「労働基準法」のところからは、就業規則に関する条文で、89条は「常時10人以上 の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に 届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする」と いうことで一号から十号まで並んでおります。  2頁です。労働基準法の第90条です。「使用者は、就業規則の作成又は変更について、 当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、 労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者 の意見を聴かなければならない」ということです。  就業規則の効力の関係については、第92条ですが、「就業規則は、法令又は当該事業 場について適用される労働協約に反してはならない」。第93条では、「就業規則で定め る基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この 場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準による」ということになって います。  また周知義務については第106条です。「使用者は、この法律及びこれに基づく命令 の要旨、就業規則」。その他たくさん並んでいますが、飛ばして3頁に「常時各作業場 の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働 省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない」ということになって います。  参照条文の4頁は<労働契約の即時解除や就業規則の効力等について>です。労働基 準法上、第15条第2項に「前項の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場 合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる」という条文があり ます。第92条、第93条は、先ほどと重複いたしますので、説明は省略させていただき ます。  資料No.1-3です。これは「労働契約の変更に係る実態」ということです。1つ目はア ンケート調査で「労働条件変更における手続」ですが、就業規則の変更によるものが 69.8%で多くなっています。また労働条件引下げ、出向・配置転換に係る民事上の 個別労働紛争は、全体の17.4%を占めています。下の円グラフのちょっと色の濃くなっ ているところです。その他の労働条件19.6%については、内容が非常に多彩なものとな っています。  資料No.1-4の「就業規則に関する主な裁判例」は、昭和43年の秋北バス事件以来、い ろいろな判例がありますので、議論の参照になるかと思い、その主要な部分について抜 粋したものです。簡単ですが「秋北バス事件」については、資料の1頁にあります。判 決の要旨の2行目辺りから「多数の労働者を使用する近代企業においては、労働条件は、 経営上の要請に基づき、統一的かつ画一的に決定され、労働者は、経営主体が定める契 約内容の定型に従って、附従的に契約を締結せざるを得ない立場に立たされるのが実情 であり、この労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を 有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体 と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立している ものとして、その法的規範性が認められるに至っている」。  あるいはその少し下ですが、「就業規則の作成を義務づけるとともに、就業規則の作 成・変更にあたり、労働者側の意見を聴き、その意見書を添付して所轄行政庁に就業規 則を届け出て、かつ、労働者に周知させる方法を講ずる義務を課し」、少し飛ばして、 「いずれも、社会的規範たるにとどまらず、法的規範として拘束力を有するに至ってい る就業規則の実態に鑑み、その内容を合理的なものとするために必要な監督的規制にほ かならない」ということも述べられています。  2頁の3行目辺りから「当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容を現実に 知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを 問わず、当然に、その適用を受けるものというべきである」。「新たな就業規則の作成 又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課するこ とは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその 統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理 的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、そ の適用を拒否することは許されないと解すべき」ということが、秋北バス事件では代表 的に言われていることではないかと思います。  3頁は「電電公社帯広局事件」で、最高裁昭和61年判決です。3頁の下のほうに「労 働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでな く、その定めが合理的なものであるかぎり、個別的労働契約における労働条件の決定は、 その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、法的規範としての 性質を認められるに至っており、当該事業場の労働者は、就業規則の存在及び内容を現 実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどう かを問わず、当然にその適用を受けるというべきであるから、使用者が当該具体的労働 契約上いかなる事項について業務命令を発することができるかという点についても、関 連する就業規則の規定内容が合理的なものであるかぎりにおいてそれが当該労働契約の 内容となっているということを前提として検討すべきこととなる。換言すれば、就業規 則が労働者に対し、一定の事項につき使用者の業務命令に服従すべき旨を定めていると きは、そのような就業規則の規定内容が合理的なものであるかぎりにおいて当該具体的 労働契約の内容をなしているものということができる」と言われております。  5頁は「大曲市農業協同組合事件」です。5頁の真ん中辺りですが、「当該規則条項 が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両 面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当 該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであ ることをいうと解される。特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条 件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そ のような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基 づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきであ る」と判示されております。  7頁の「日立製作所武蔵工場事件」でも、下のほうに判決の要旨があります。「当該 就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容をなす」 と判示されています。  9頁の「第四銀行事件」の最高裁平成9年判決ですが、「当該規則条項が合理的なも のであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、 それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係に おける当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものである ことをいい、特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質 的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利 益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づ いた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。 右の合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、 使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措 置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合 又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮 して判断すべきである」という具合に判示されているところです。  11頁の「みちのく銀行事件」の最高裁平成12年判決では、11頁の真ん中辺りで「そ の合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、 使用者側の変更の必要性の内容・程度等を総合考慮して判断すべきこと。以上は、当裁 判所の判例<第四銀行事件等>の趣旨とするところである」と判示されております。  なお、この事件については、結論が12頁の真ん中辺りに「就業規則の変更によってこ のような制度の改正を行う場合には、一方的に不利益を受ける労働者について不利益性 を緩和するなどの経過措置を設けることによる適切な救済を併せ図るべきであり、それ がないままに右労働者に大きな不利益のみを受忍させることには、相当性がないものと いうほかはない」ということも併せて判示されています。  13頁は「フジ興産事件」の最高裁平成15年判決です。14頁の上から6、7行目に「就 業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内 容の適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する」と判 示されています。以上、簡単ですが、資料の説明をいたしました。 ○分科会長 それでは、意見交換に入りたいと思います。まず資料No.1-1の右側の欄に 4つ○がありますが、最初の「就業規則と労働契約との関係について」、2つ目の○の 「就業規則に定める労働条件が労働契約の内容となることについて」という2つについ て、具体的には労働契約締結の場面において就業規則がある場合に、どのようなときに 就業規則に定める労働条件が労働契約の内容となるかという点について、ご意見をいた だきたいと思います。 ○渡邊佳英委員 就業規則と労働契約との関係ですが、労働契約法制と指導・監督を行 う労働基準法とは、全く別の概念であると考えております。労働基準法の考えを盛り込 むことに関しては、私としては反対でございます。特に就業規則を労働基準監督署へ届 出をしなかったから無効という判例はないはずです。仮に就業規則の変更を労働基準監 督署に届けなかった場合、変更について労使が合意し成立しても、変更前の就業規則は 適用されるのかされないのかということは若干疑問です。  労働基準監督署においては文書管理保管期限があって、就業規則の保管期限がすぎた ら廃棄していると聞いております。届出をしていなかったから選考後の就業規則が無効 というのは、現実的ではないのではないかと考えます。 ○分科会長 いかがでしょうか。 ○渡辺章委員 いまの点で質問です。届出ではなく、周知をされてない就業規則につい てはどのようにお考えですか。 ○渡邊佳英委員 周知をすれば拘束されるのですか、されないのですか。 ○渡辺章委員 いま資料をご紹介いただいた「フジ興産事件」で就業規則が法的効力を 持つため、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知さ せる手続が採られることは要件だと紹介されたのですが、私はこれに賛成です。いま届 出という労働基準監督署を相手にする行為だけについて見解を承りましたが、当該事業 場の労働者を相手にする手続がなかった場合、どのようにお考えなのか。 ○渡邊佳英委員 これはあくまでも労働者と使用者との合意であって、届出が主ではな いわけですから、合意があった場合には、仮に届出を失念していても効力を発すると我々 としては考えています。 ○田島委員 事務方に質問ですが、就業規則を届出て一定年限がきたら廃棄していると いうのは事実ですか。もし事実だとすれば、何年で廃棄しているのかをお聞かせていだ ければと思います。 ○監督課長 実際には一定の年限を定めておりまして、それによって廃棄していること もあるということです。一般的には7〜10年程度で、それよりも長い年数保管している 所もあります。 ○田島委員 私は、いま初めて知ったのですが、労働協約は3年という期限があります が、就業規則はありませんね。ないのを、例えば労働相談で来て、就業規則はどうなっ ているかと聞いたら、経営者のほうは見せないという中で監督署に行ったときに、監督 署が、それは倉庫にあってどこにあるかも分からないのだということで、処分をしたと いうことは今まで聞いたことはありません。  あと退職金問題なども、一部改ざんされているのではないかということで労使が争っ たときに、届け出ているのはどうなのかというのは、大きな要素になるのですが、そう いうときに7年なり10年で廃棄というのが本当にいいことなのかということと、もしそ ういう形で届出を義務づけていて廃棄をするのだったら、就業規則の有効年数について は、何らかの検討が必要になるでしょう。  もう一点は、前回、私自身が労働契約法の対象範囲については、労働基準法上の対象 労働者なのか、それとも現在の就業構造、あるいは雇用の多様化が進む中で、個人の業 務請負の形をとっている労働者などが増えているわけです。そういう人たちについては 労働基準法の適用範囲ではないと思うのです。そうすると、今回の労働契約法について 就業規則を使うか使わないかというときに、対象範囲の労働者とも密接にかかわってく るので、就業規則が本当にいいのかとも思っています。しかし、こういう対象範囲の契 約についても、全く論点に出されていない事務方の発想というのはどういうことなのか、 お聞かせいただければと思います。 ○監督課長 あまりたくさん喋ってもどうかと思いますが、いくつかご説明させていた だきます。就業規則について先ほどのような取り扱いになっているわけで、基本的には 届出をすると同時に、労働基準法第106条によって作業場を備え付けるという義務があ るわけですので、当然そちらのほうとして担保できるのではないか。会社の改ざんとい うのはあるのかどうかよくわかりませんが、それはそれとして、そういう問題として捉 えられる性格のものではないかと考えられるのではないかと思います。  2点目は、先ほどのご発言の中で、有効か無効かという議論と、範囲の話があったわ けで、私が説明した横長の資料の話は、就業規則の有効か無効かというよりは、むしろ それが合理的であるかどうかとか、合意が成立しているものとして推定するかどうかと いう議論ということです。横長の表の左側にも有効か無効かを決めるのではなく、いわ ゆる合意の推定の議論で、労働基準法の遵守があるのかどうかが1つの議論であると考 えております。  範囲については、先ほどご指摘のあったように、請負の方について、それが労働者で ない場合には労働基準法でも就業規則の適用がない、と理解できるのではないかと思い ます。 ○谷川委員 合理的な就業規則がある場合で、合理的な判断ですが、これらの要件は、 既に判例にあるような要件をもって判断をするものであるということなのか。合理的な 判断をする要件については、まだこれから判例等も踏まえて、新たな要件を整理しよう とする考えがあるのか、ここで進め方も含めて、合理的な概念について伺いたいと思い ます。 ○分科会長 公益の委員、いかがですか。 ○廣見委員 私がお答えする立場ではないと思いますが、基本的な考え方だけを申し上 げますと、就業規則が合理的であるかどうかについては、先ほど判例等も紹介があった わけですが、一定の判例法理が確定している、判例の積み重ねによって就業規則の合理 性が、今までである程度の整理はされてきていると理解しております。  この合理的であるということの内容を、今後、もしもこういう基本的なスキームを我々 が取り入れていくことになったときに、その考え方をどこまで詳細にしていくのか。例 えば、労働契約法の中で、もう少し噛み砕いた考え方みたいなものを示すのか、さらに は行政庁等が考え方を具体的に示していくことがいいのかどうか。そういうことも含め て検討はしなければならないと思いますが、基本的には合理的であるか否かについては、 基準その他を法律等で明らかにしていくことは、大変難しいことだと思っていますし、 判例の積み重ねをきちんと受け止めていく、判例法理を受け止めていくことが中心にな るのだろうと思います。  もう1つは、前回も議論していますが、これに対する行政庁の関与が、仮に労働契約 法ができたときに、どういう形でかかわってくるのかという問題があります。これは前 回の説明では、もちろん監督であるとか指導であるとかは想定していない、という話も あったかと思いますが、そういうことをベースに考えてみますと、合理的あるいは合理 性の考え方を、行政庁で詳細な基準その他を示していくことも適当なのかどうか、とい うことになってくると思います。そういう意味では、基本的には民法の労働にかかわる 特例、民事法的な法律を基本的に想定しながら、今後議論を進めると理解しております ので、そういう意味では合理的という内容は、一言でいえば、判例法を中心として我々 は受け止めていくことが中心になるのかと思っております。 ○原川委員 確認の質問ですが、(2)と(3)の説明をもう一度お願いしたいと思います。(2) と(3)の前段の違いは、(2)は締結の場面、(3)は変更の場面ととれるのですが、(2)と(3)の前 段の違い。それと(3)の前段と後段の過半数組合のある場合のルール。前段と後段の違い、 あるいは関連でもいいのですが、ここをもう一度説明していただけますでしょうか。 ○監督課長 (2)は労働契約締結の際の、こういうことで合意が成立しているものと推定 するということについて、検討を深めてはどうかということと書いてありますので、締 結の場面を想定しています。  (3)は、全体としては変更の場面を想定しているわけで、(3)の前段の部分については、 「就業規則の変更によって労働条件を集団的に変更する場合」に、どういうことが考え られるかということです。後段ですが、変更する場面の中で「使用者と当該事業場の労 働者の見解を求めた過半数の組合との間で合意している場合」には、さらにどのような ことが考えられるかという具合に、だんだん分かれていっているという関係です。 ○原川委員 答になっていないような感じです。聞きたいのは、(2)と(3)の前段というの は、場面は締結、変更という違いはあっても、中身は同じ考え方ということですか。そ ういう場合に、(3)の後段の意味というのは、ここに書いてあるとおりということではな く、これを提案された趣旨というか目的というか、文言を読めばわかるというのではな くて、これを提案された趣旨、あるいは(2)(3)の後段の関係を教えていただきたいと言っ ているのです。 ○監督課長 (2)と(3)の前段が同じかどうかというのは、どこの部分が同じかどうかをお 答えすればいいのか、よくわからないのですが。例えば、同じなら同じということで前 提を置いてご意見をいただくのなら、それで構わないのではないかと思いますし、(2)と (3)の前段で違うところがあれば、こういうところは違えたほうがいいという議論になる のではないかと思います。  後段のほうの趣旨というのも、いわゆる労働条件を変更するときには、過半数組合と 合意しているということは一般的に行われているわけですし、ご紹介した過去の判例 等々においても、組合と合意しているかどうかは1つのポイントになっていると理解し ております。 ○荒木委員 議論を整理するために少し発言をさせていただきます。(2)と(3)が別々に2 つの項目で書いてある理由は、最高裁の判例法理が2つのことを言っている。それに対 応して分けてあると私は理解しています。すなわち資料No.1-4の1頁に秋北バス事件判 決というのがあります。これの前半部分は、就業規則の内容を現実的に知っていると否 とにかかわらず、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わずに、労働者はこ の適用を受けるという判示があります。これは変更の問題を言っているのではなく、通 常想定しているのは、労働契約を締結して実際に就業を始めたという労働者の労働契約 に、就業規則はどういう効力を与えるかを想定した議論だと思います。  これについてその後、電電公社帯広局事件などでは、就業規則内容が合理的なもので ある限り、契約の内容となっている、と判例は展開していく。この部分を受けたのが(2) で書いてある議論ではないかと思っています。  (3)の部分は、秋北バス事件判決の後半部分です。すなわち、就業規則によって労働条 件を不利益に変更をする場合、「当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働 者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されな い」という部分についてのものです。これは(2)とは状況が違うわけです。知っていると 否とにかかわらず、就業規則の適用を受けるというのは秋北バス事件の前半部分。後半 部分は、言うなれば反対しても合理的な変更であれば適用を拒否できないと言っており、 不利益変更についての判例法理だと思います。そのように(2)と(3)は、場面が違いますの で分けて書いてあるということではないかと思います。  この判例法理は最高裁で繰り返し確認されて確立しておりますが、この議論と最初の 渡邊委員の議論との関係を私なりに整理いたしますと、労働基準法の問題として就業規 則が有効に成立しているかどうかという問題は、労働基準法が与えている労働基準法第 93条の規定する就業規則の最低基準として効力、つまり就業規則を下回るような契約を しても無効であって、就業規則の労働条件が保障されるという93条の効力を議論する場 合には、届出をしなかったとしても労働基準法第93条の効力は発生する、というのが一 般的な理解だと思われます。しかし、ここでいま議論しているのは、93条の効力ではな くて、判例が立てた効力をどういう要件の下に認めるべきかという議論です。そうする と、秋北バス事件判決を読むとわかるとおり、就業規則について労働基準法が89条、90 条、106条等々で、届出や意見聴取、周知について規定を置いているという前提に立っ た上で、判例法理が独特の効力を与えているということではないかと思います。したが って、判例法理を立法化するということであれば届出等もその前提となる、という考え 方は十分あり得るのではないかと思います。 ○田島委員 いまのところに関係して(2)(3)よりは、(1)と(2)(3)のほうが極めて重要だろう と思っています。(1)は「労働者及び使用者の合意によって成立し、変更されるものであ ることを明確化することについて検討を深めてはどうか」という形で、極めて契約法の 基本を謳っているわけです。  ところが就業規則においては、先ほど使用者側の渡邊委員が、就業規則は合意してい るとおっしゃっていましたが、例えば労基法の90条では、意見聴取だけで、組合のほう がいくら反対をしても、基準法に反してない部分については、就業規則が成立するとい う。この間何度も議論していますが、経営者のほうが一方的に定められるものが就業規 則だということです。そうすると、そのことと(1)に謳っている原則とどう結び付くのか。 これは事務方でもよろしいし、公益の荒木委員にでもお答えいただければと思います。 私にはこんがらがって、なぜ就業規則が合意のところに出てくるのかわからないのです。 ○分科会長 公益委員の方、どなたかお願いします。 ○長谷川委員 いまの田島委員の意見に付け加えますと、荒木委員が言われたように、 判例は就業規則に独特の効力を与えているという表現にあるように、労働契約法の中で 就業規則をどのように扱うかというのは、非常に重大な課題だと思います。結局、我が 国に労働契約法なるものが存在しなかったがゆえに、裁判所は労働契約に対して就業規 則を取り入れた判例、今日事務局が出したような判例が、この間、積み重ねられてきた のだと思います。それは労働契約法がないからそういうのが積み上げられたわけで、今 般労働契約法なるものを作るときに、1つは判例を法制化するという方法があると思い ます。  もう1つは、判例を法制化するのか、それとも新しく労働契約法について作り上げて いくのかというのは、この審議会の議論だと思っています。労働側は、労働契約法を作 るのなら、基本的には労働者と使用者の対等交渉、対等合意のようなものをどのように して作っていくのかについても、併せて議論すべきだと申し上げてきました。だから、 締結の場合、成立の場合は丁寧な情報提供、丁寧な説明などをずっと申し上げてきたの も、契約成立までの過程と、労働契約を交渉し合意に持っていく過程を重視する視点か らだと言えます。  一方、就業規則を労働契約法に取り込んだ形での判例が確立しているのですが、私は この判例の読み方について、読む人によっていろいろ解釈があるのではないかと思って います。例えば、いま言った就業規則の成立のところでは、秋北バス事件では「経営主 体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立してい るもの」と言っています。「事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性 が認められるに至っている」という言い方です。2頁では、変更で「新たな就業規則の 作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課す ることは、原則として、許されない」という書き方になっているわけです。  私は事務局が出してきた(2)ですが、「就業規則に定める労働条件による旨の合意が成 立している」というのは、新しい判例の解釈なのか、新しい考え方なのか、私の読み方 がおかしいのか自分でも納得していないのです。例えば「就業規則の内容が合理的であ ることをもって、合意が成立している」という書き方は、今日示された判例にはどこを 読んでも書いてないわけです。「事実たる慣習が成立している」とか「契約の内容とな す」という書き方はありますが、「合意が成立している」というのはないので、合意が 成立しているというのは、どういうことで書いているのかなという、自分の頭脳と理解 力ではとても理解できないので、そこは少し議論していただきたいと思います。  もう1つは変更ですが、「原則として、許されないと解すべきである」という秋北バ ス事件の判例もどのように読むかです。本来は労働条件の一方的な変更というのは、「原 則としては許されない。ただし」だと思うのです。ここも例えば(3)で「就業規則の変更 によって労働条件を集団的に変更する場合のルールで」、「過半数組合との間で合意」 と出てくるわけですが、どうして合理性と合意が一挙に飛ぶのか、私にはとても理解で きないと思っています。これは判例の読み方について、研究者の皆さんからの意見も聞 きたいし、契約を作るときに、1つは判例をそのまま使うという方法、もう1つは新し いものを作るということでは、労働者と使用者の労働契約のあるべき姿はどうなのかと いう議論も、並行的に議論すべきではないかと思います。就業規則による労働契約法、 労働契約の内容、労働契約の変更ありきという今のような議論の仕方はいかがなものか と思っています。 ○分科会長 公益側委員、特に前半の労働契約と就業規則の関係の問題についていかが ですか。 ○渡辺章委員 長谷川委員の言われたことは、私も労働法学者として、30年か40年同 じ気持で判例法理はわからない、と考えてきたのが実際のところです。つまり、就業規 則によるという事実たる慣習によって労働契約の内容になるというのですが、民法は「事 実たる慣習は、当事者が嫌だと言えば適用されない」と言っているわけです。なぜ嫌だ という人にも適用されるのか、そこにどうしても分からないところがあるということで 悩み続けてきました。  秋北バス事件は、労働条件の集合的処理、特に「統一的かつ画一的な決定」を建前と する就業規則という、就業規則の制度上の性格から、たとえ個人が現実に内容を知って いるか否かとにかかわらずというのはいいわけですが、個別的に同意を与えたかどうか も問わずに法的拘束力を持つことについては、本当にわからなかったのです。  荒木委員も言われたように、最高裁判所は一種独特の事実たる慣習の効力を就業規則 に認めたのだと、いわば法律を創造したのだと。事実たる慣習という民法の概念の枠の 中で、実際は法を創造をしたのだ、と考えるほかないのではないか。ただし、そうする 場合の条件がある。それは就業規則が一方的に作られるものであるから、その内容につ いて厳格に司法機関(裁判所)で合理性のチェックをする。それを裁判所が訴えがあれ ば引き受ける。そういうことで、いわゆる就業規則の判例法理を創造したのではないか と私は理解しました。  本来なら労働組合が団体交渉によって労働協約をして、それを事業場の全労働者に適 用するようにしていくのが、労働組合法の予測する事態だったのでしょうが、そうでな い場合については、いま申し上げたような理解の仕方で、少なくとも統一的な画一的な 基準を設けざるを得ない労働条件については、合理性という内容チェックをし、労働基 準法の諸規定を遵守した上で、労働契約の内容になるというルールを作って処理する以 外に処理のしようがないというのが、判例法理の本当のところではないかと理解してい ます。  それが秋北バス事件以来、数十年積み重なってきたと私は考えています。「お前、そ れで納得したのか」と言われれば、何とも言えないわけですが、判例法理の蓄積という 点から考えれば、それをきちんと整理した上で、法的なルールとして明確化することが 必要ではないかと、私自身は考えています。これはそれぞれの研究者によって違うと思 いますので、他の委員から意見があれば言ってもらいたいと思います。 ○荒木委員 就業規則の理解については、学者の数だけ学説があるような感じでなかな か難しいのです。私自身の理解を述べさせていただきますと、先ほど言いましたように、 秋北バス事件は、前半部分と後半部分の2つの部分から成り立っています。前半部分は、 知っていると否とにかかわらず適用を受けるということですが、ここでは、明確に「こ んな就業規則条項は嫌ですよ」と言った場合にまで適用するとは言っていないのです。 ですから、ここは従来の契約理論からしても、十分説明のつく部分ではないかと考えて おります。  要するに、労働条件について、企業としては統一的に設定せざるを得ないということ で契約を締結して、当該事業場には就業規則をちゃんと掲示してあるという中で働いて いる場合には、特段不合理でない限りはその就業規則が労働条件となっている。これは 約款などでも同じように、個々の条項について、いちいち「いいですか、嫌ですか」と 確認はしませんが、契約内容になる。また同じような考え方が、ここでは妥当するので はないかと考えます。  問題は、就業規則の不利益な変更の場合にどう考えるかで、これについては本当にい ろいろな議論があります。継続的な契約関係の場合、将来の労働条件に限らず、将来の 契約条件について折り合わなければ契約を解消する、というのが継続的契約関係の1つ の大原則です。ところが、労働契約の場合は、ある労働条件の変更について労働者が「嫌 です」と言った場合に、「じゃあ、契約を解消しましょう」、すなわち「解雇しましょ う」と言うことができるかというと、これは判例の考え方、解雇権濫用法理によると、 ある労働条件について「ノー」と言っただけで解雇はとても認められない。すなわち契 約関係を解消することはできない、というルールを既に判例は立てているわけです。そ うすると、将来について契約条件が折り合わない、しかし、ノーと言う人を契約解消も できないというジレンマに遭遇するわけで、これをどうしたらいいだろうか。最高裁は、 そういう場合に契約関係の解消を認めるという選択肢はとらなかった。雇用を尊重する という日本の雇用慣行からしても、それは妥当ではない。アメリカでは労働条件につい て折り合わなければいつでも解雇が自由にできます。そういう制度は日本の最高裁は望 ましくないと考えたのです。  では、どうしようかということで合理性について裁判所が審査して、合理的なもので あれば変更された労働条件の拘束力を認めよう。それによって雇用を維持しよう、雇用 の維持とともに、労働条件の合理的な変更という法理を作ったのではないかと考えてお ります。ですから、これは契約法理からするとおかしいという評価もできますが、継続 的な契約法理の原則である、将来について契約条件が折り合わない場合の契約解消を労 働関係については修正しているのですから、これに対応して契約内容について、個別に 合意を与えなくても拘束されうるというように、その限りで契約法理の修正が認められ るというのも、十分解釈論としてあり得るところではないかと、私自身は考えておりま す。 ○渡辺章委員 2つだけ手短かに申しますと、就業規則というのは、法律より先に出て きたもので、工場法が制定されたのは明治44年ですが、就業規則について作成義務が出 てきたのは大正11年の改正のときに、現実に従業規則であるとか、従業者規則というこ とで行われていたものを、適正なものにしようということで作成義務と監督官庁への届 出をされたわけです。ですから、長谷川委員が言われたように、労働契約法制がなかっ たから就業規則が出てきたということではなくて、むしろ法律以前に1対多数という労 働契約の特性に応じて、工場なり事業場の統一的な労働条件の基準を定めるものとして 現にあったわけです。それを法の世界に取り込んで、きちんとしたものにしようという もので、もともと労働契約と無縁なものではないというのが1つです。  2番目は、変更については、秋北バス事件は合理的なものである限り、個々の労働者 において同意しないことを理由に適用を拒むことはできないと言っているわけで、個々 の労働者ではなく、事業場の労働者の例えば過半数が団体として反対しているときは、 それが果たして効力を押し通すことができるかどうかについては、判例法理は沈黙をし ていると考えて、いわばはっきりした基準は出していません。これはあくまでも個々の 労働者において同意しないときに、その個々の労働者についても適用されると言ってい るだけで、集団的あるいは団体的な意思が表明されたときにも、必ず適用されるという ことではない。そこで個々の労働者ではない労働者の集団なり団体と、就業規則の変更 法理とをどう結び付けるかは、私はまさしく解釈を超える立法の課題、新しいルールを 作るべき問題だと考えています。 ○廣見委員 先ほど渡辺先生は、研究者として30年この難問に悩んでこられたというお 話がありました。理論的に理屈の上でとことん突き突き詰めていくのは大変難しい問題 なのだろうと思います。私は主として行政経験、言ってみれば実務者的視点から割り切 って考えていたものですから、なるほどこういう解決、こういう仕方がそれなりに納得 できるかなと自分では思っているわけです。と言いますのは、長谷川委員がその前に言 われた合意という問題、確かに契約というのは当事者の合意によって成立するというの は大前提であるわけです。したがって、合意の有無が最大の問題です。  ところで労働契約の実態はどういうものであるかと言えば、言うまでもなく大変多様 なものであるわけで、どうしてもそれを統一的、かつ画一的に処理をしていく必要があ ります。それはまさに秋北バス事件の前段でも言っているわけで、一定の契約内容の定 型に従って契約の締結を進めざるを得ない。事実個々の労働者の人たちは、労働契約の 内容すべてについて目を通し、納得し、個々に契約を締結していくかといえば、現実は そうではなく、大部分は集合的な、あるいは統一的かつ画一的、定型的に制定されたも の、代表的には就業規則にそれが現れているわけですが、そういうものを契約の内容と する。その理屈が合理的である限り、その就業規則によって契約内容を定めるという事 実たる慣例が成立していると、こういうふうに判例は言っているわけです。  したがって、私の理解によりますと、そういったような判例を合意という原則を基準 に構成する限りは、いまのような判例の考え方というものは、結局、一人ひとりが個々 に使用者と労働契約を締結するときに、内容は就業規則によるということを合意したと いうことで、合意ということを媒介することによって、その内容が就業規則によって決 められている。こういうふうなことを構成せざるを得ない。そこにこの(1)と(2)が出てき ているのだろうと思っています。  そういう意味では、あくまで合意を基礎にしながら、ただし、現実に行われている多 様な実態として、膨大なあるいは細かなものを個々の労働者の人たちは、いちいちそれ を契約内容にして膨大な紙の契約書を作るということはせずに、就業規則を中心にしな がら定型的なものに納得していく。したがって、ここは基本的に労働者は就業規則とい うものを承知した上で、納得して労働契約を締結するという形をとられているわけです。 荒木委員もお話のように、ここは契約法の原則とそう難しい形で相反するものはない。 ただ、第2番目のそういう形によって成立したものに、現実的にいろいろな経済的諸条 件、実態的諸条件が表われてくる。それに対応して労働条件を変えようとするときに、 どのようになるかということが出てくるわけで、それはまさに荒木委員がおっしゃった とおりだと私も思うわけです。そういう意味で、ここの構成は(2)として締結の段階です。 しかもそれは合意が成立しているということを中心に構成し、(3)で変更する場合の構成 を判例法理に則って整理していこうということだろうと思っています。  なお、確かに長谷川委員がおっしゃったように、我々とすればこういう機会に判例法 理だけをなぞらえて、それを立法化するのがいいのかどうか。これは非常に大きな問題 として1つあろうかと思います。そういう意味では我々としても、そういうことを十分 に念頭に置きながら整理しなければならない面があることは私も合意しますが、少なく とも現実論とすれば、我が国の戦後の労働の実態と積み重ねと、それを整理し裁いてき た判例法理を、この際、中心として整理し労働契約法の中核の柱にしていくということ が、現実的なのではないかという感じを持っています。 ○石塚委員 いま、基本的な議論が出てきているので、私の立場で論評を加えてみたい と思います。基本的に労働側の主張というのは、やや理想論かもわからないけれども、 個別の労働契約関係が重要になってきた。労働組合組織率は情けない話でありますけれ ども、20%を切る状況になってきた中で、一労働者がいわば使用者と向き合う局面が増 えてきた。その中で公正なルールというか、契約というものをきちっと対等に結ぶため にどうしたらいいのだろうかというふうに、つまり、それに資するようなものにしたい という思いが、私のみならず労働側としてはあります。  そのときに、確かに事実として、労働条件の決定の中で労働組合における労働協約以 上に、就業規則というものが大きな役割を果たしてきたし、かつ現実的に機能してきた ことも、この間、何遍も述べているように認めます。認めますけれども、仮にそういう ものを考慮して、現実的なことを考えて新しい契約法を考えるとき、やはり相当いろい ろな客観的条件が時代の変化とともに変わってきているのだということを、我々は最低 限の議論として尽くす必要があるという問題意識を私は持っています。  例えば、就業規則の判例の原点たる秋北バス事件は昭和43年の判例です。しかも前提 条件として判決要旨に書いていますように、「多数の労働者を使用する近代企業」とい う条件が1つ付いています。すなわち中小企業の条件はここに入ってきていないのです。 もう1つは、「経営上の要請に基づき、統一的かつ画一的に決定され」という条件が入 ってきています。考えたときに、当時は確かにそのような条件を念頭に置いて、裁判所 が合理的判断を下したのは、まさに合理的なことだったのでしょうけれども、考えてみ ると今の状況の中で、必ずしも近代的大企業のみならず、中小企業、零細企業などいろ いろな形の企業があるわけです。むしろそちらのほうが増えてきている。「統一的かつ 画一的に決定され」というのは実務上はわかるのですが、現実は雇用形態の多様化等々 で、むしろ統一的かつ画一的でない局面が増えてきている。いま労働契約法というもの を作ることが求められている現実的な要請は、統一的・画一的な基準からはみ出た領域 についていろいろな争い事が起きているし、それに対して対応する公正なルールという ものを、21世紀に向かって作ろうではないかというところに問題点があるわけです。  したがって、私はせっかくの機会というか、これは理想論かもしれませんけれども、 確かにこういう判例法理の積み重ねの中でいろいろ精緻化されてきた。学説上から言う とかなりユニークな点があると思います。実務的にはおそらく相当程度精緻化されてき ていますし、したがって合理性の判断に関してもかなり詰められてきている。  ただ、ではそれだけでいいのかというと、現実局面からいけば合理性の判断を裁判所 に委ねてきたし、また委ねられたと思って一生懸命裁判官も判断したと思いますが、合 理性をめぐっての判断自体が、裁判官によっていわば相当揺れてきたというのも事実で す。したがって、合理性というものを補強するためにいろいろなことは言っているけれ ども、合理性とは何かということは、おそらくその時その時の、時代背景なり客観条件 なり、個別の事案なりにおいて判断していかざるを得ないものだと思います。したがっ て、合理性ということをいかに詰めていっても、それをストレートに契約法に盛るとい うことに関しては、やはりちょっと無理がある。  すなわち、就業規則の合理性という次元と、個別労働者の契約という概念はどこか段 差があるわけなのです。そこをどのように考えるべきなのか。それを従来の日本で実務 的に機能してきたからということをもって、それだけで契約法のほうに持ち込んでいい のだろうか。むしろ我々はそういうことは分かるけれども、もう一遍、就業規則の合理 性という問題と個別の契約関係というものに、少し次元の差があるということを分かっ た上で、この間、新しい法律と向き合うべきではないかというのが、繰り返しになりま すけれども私の立場であります。  非常に理想論を言っているようなのですが、就業規則の役割は認めつつ、かつ、合理 性というものも大事だと認めつつ、その問題と、それが個別の労働者にとっての経営者 との合意を成す、あるいは個別労働契約内容を成すということに関して、おそらくそこ は単に就業規則だけでなく、もう少し新しいルールというものを考えることができるの だろうと思います。就業規則というものを置いておき、例えばそれを100%駄目とか、 ありとかでなく、考えながらも、おそらく新しいルールは形成可能なはずです。  したがって、ここに出てきている(2)、(3)の話ですけれども、就業規則の変更によって 労働条件を手段的に変更する場合のルールについて、新しい観点から、この際考えてみ たらどうなのか。そのときの1つの大きな考慮要素として、就業規則が現実としてある ということは労働側もわかるわけであって、その上で、この機会に議論をしていくべき なのだろうというのが私らの立場です。これを抜きにしてスッとやってしまったら、未 来もおそらく、学説上もかなり頭を悩ましてきた問題が、永遠にまた闇に葬り去られる というか、そうなってしまう。  何か「実務的に使いやすいから、いいじゃないか」ということがあるのでしょうけれ ども、「ではそれは何」というふうに突き付けられたときに、ううんと言わざるを得な いものをそのまま蓋をして持って行くのでなく、もう一遍ここで棚卸し的な議論をやっ てみて、その上で新しい21世紀に合ったような雇用形態の多様化なり、あるいは有期も ありとかいろいろなことがあるわけですから、そこで1つのルールというものを考えて みても遅くないのではないか。おそらくこの機会を抜きにして逸してしまったら、これ からたぶん、契約法の個別的な環境を成立するような新しい法律というのは、なかなか できにくいというのが思っていることです。繰り返しになりますけれども、私の立場は そういう立場です。 ○荒木委員 いま、おっしゃったことは大変重要なことだと思います。確かに秋北バス 事件が出たときに、自分の労働条件を個別に交渉して決める、そういう労働者がいると はあまり想定していなかったかもしれません。就業規則では統一的に労働条件を決めて 変更していく。そういうものだと考えていたと思われます。  今回、資料No.1-1で提案されていることは、実はそこを十分考えたものではないかと いうふうに私は理解しています。例えば(2)のところは「個別に労働契約で労働条件を定 める部分以外については」と言っているわけです。つまり個別に自分の労働条件をこう したいということで使用者と交渉して決めた。例えば勤務地限定契約とかありますね。 自分は転勤は嫌だ、自分は地域で生きていきたい、家族との時間を大切にしたいなど、 そういうことは十分あり得るわけです。そういうことを契約できちんと合意していた場 合には、それを無視して就業規則で集団的、統一的に変更するからといって、個別に合 意した内容が変更されるということになってはならないだろうと考えます。  しかし、現在の判例法理は、そこのところについて明確には言っていません。これを 今回はきちんと明示したらどうだろう。就業規則法理というのは、あくまで統一的・画 一的な労働条件の設定・変更のための道具として活用されてきて、それにいろいろな要 件も裁判所が課してきている。これをこれから非常に個別的な人事管理で、それぞれの 個人が自分の働き方を選んでいく。これを認めていこうという時代に、何でもかんでも 統一的にやるというのは決して賢明なこととは思えません。そういう状況を見れば裁判 所も、それは別ですよ、この就業規則法理は及びませんよと、おそらく言ったと思いま す。それを今回はきちんと明示してはどうかと私などは考えています。この資料No.1-1 は、その点も踏まえた内容になっているのではないかと理解しています。 ○紀陸委員 基本的には荒木委員のおっしゃられたような経緯で、この判例が形成され てきたというふうに思います。そういう意味で私どもは、この担う方向は基本的に是か なというふうに思っていますが、「ただし」ということで、合意の推定というのが(2)に 入っていますけれども、判例はそういう言い方でなくて、典型的に電電公社の帯広局事 件ですか、4頁の上3分の1くらいのところにあります。「就業規則の規定内容が合理 的なものであるかぎりにおいて当該具体的労働契約の内容をなしている」とあり、内容 をなしているというものになっているわけで、推定ではない。そういう意味で私どもは、 こういうところは積み重ねられた判例に忠実であるべきであろうというのが、主張の1 点です。  もう1点は、先ほど荒木委員の言われた基準法を遵守して定めた就業規則がある場合 という点ですが、仮に届出を忘れた、でもちゃんと会社は周知の責務を果たしていると いう場合に、ここは行政手続に多少瑕疵があっても、効力は否定されるべきではないと 考えています。ここは仕分けて考えを整理するべきではないかと思っています。  この推定の問題については、おそらく(3)などにもそういうような推定の考え方が入っ ているのでしょうけれども、推定というのは所々に入ってくるような感じがいたします が、ちょっと違うのではないか。判例の引用というか、応用動作が違うのではないかと いう理解を私どもはしています。 ○分科会長 いまの紀陸委員のご意見について、公益の方、いかがですか。 ○渡辺章委員 たびたびで恐縮です。これも私の理解ですけれども、秋北バス事件の判 例法理は就業規則について、その存在や内容の知・不知あるいは同意・不同意を問わず、 その適用を受ける者という意味で、法的な規範性を認めたのですが、考えてみれば、法 的規範というのは法的規範であること自体によって拘束力を持つわけです。それをなぜ 電電公社帯広局の事件で、労働契約の内容となって拘束するというふうに1段契約論の 中に下りてきたのかということも、また私には非常にわからないことでした。  しかし、法的規範であるから拘束する。就業規則=法的規範=拘束力という割合堅い 構成から、最高裁判所はある程度軌道修正をして、就業規則が法的規範であるから拘束 力を持つというところから、労働契約の内容となって拘束力を持つというふうに、いわ ば契約に近づかせて法的規範性というものを認めたということは、非常に大きな変化だ というふうに私は思っています。  労働契約の内容になるということは、黙示の合意の枠の中で処理され、権利義務の内 容になるということであるので、合意の推定という形で整理をすることは、秋北バス事 件の段階では無理だったと思うけれども、帯広局事件や日立製作所武蔵工場事件の判例 法理を理解したときは、その合意の推定という構成と、むしろ整合するのではないかと いうふうに私は思っていて、その点、ちょっと紀陸委員の理解と少しずれるかもしれま せん。 ○荒木委員 届出との関係でご発言がありましたので補足しておきます。これも私の個 人的な見解かもしれませんが、就業規則には私は4つの機能があると思っていて、先ほ どその3つについて触れました。すなわち事業場の最低基準という93条の効力、それか ら知・不知を問わず合理的なものであれば契約内容となるという秋北バス判例の前半部 分、そして、合理的なものであれば不利益変更も拘束力を持つという秋北バスの後半部 分です。実はこれらに加えて就業規則の4つ目の機能として契約の雛型としての機能が ある。これは就業規則を契約の雛型として示して、それに労働者が合意すれば合意の効 力として就業規則内容が契約内容となります。これは就業規則自体の効力でなくて合意 の効力です。  したがって、仮に届出を怠っていた就業規則があったとしても、それについて労働者 が合意をしたという認定ができれば、それは合意の効力として就業規則の内容が契約内 容となっているという解釈はあり得るところです。したがって、この就業規則の果たし ている4つの機能のどの場面を議論しているのかと整理していくと、議論がわかりやす くなるのではないかと考えます。 ○石塚委員 私の理解も、いろいろな理解があるのでしょうが、私自身は就業規則に関 しては、いま言われている契約説というか約款説が多数説でしょうし、おそらくそう理 解するのがいちばん合理的なのだろうと思って、私もそう理解しています。  したがって、なぜ拘束するのかということについては、約款の理論でもしかしたら説 明できると思うのですが、4つの場面で確かにそれぞれに即して議論すべきだというこ とは、現実的な必要性からいけば分かりますけれども、ただ、就業規則の法的な性格を 約款あるいは契約と理解した場合でも、そして黙示の合意があったと、そこまでたぶん 言えると思いますが、ただ、嫌だという人間に対してでも拘束力があるというふうにま で言い切れるのだろうかというのがあります。  たぶん約款と理解して誰も文句を言わない。事実として、慣習として成立している。 それで働いていて別にトラブルはないのであれば、それは規範として機能しているので しょうけども、それに対して嫌だという人間までも拘束するのだというふうにまで言っ てしまうと、理屈からするとどうしても割り切れない。たぶん現実的な企業経営上の必 要性からすれば、そういう局面というのはたぶんあるのでしょうけども、理屈だけから いけば、そこまでいくのは無理があるのではないか。そうであれば、先ほどのところに 返るわけですが、この機会にそれも呑み込んだ格好で、労働条件変更のルールというの を考えるべきなのだろうと思います。  荒木委員が言われているように、私どもも契約関係というのは労働者と使用者との間 で一遍結んでも、状況が変われば変えなければいけない事態が起きるのは当たり前だと 考えています。長期的な関係だと私たちも思っていますし、長期的な雇用慣行というの はいかに大事かということも、労働側としては身に沁みているわけですので、そういう ことを維持したいがために、逆に労働条件を変えなければいけない局面は現実的にある わけで、何度も経験してきました。  そうであれば、そうしたことを織り込んだようなうまいルールを、たぶん規約の変更 のルールというのはできるはずだと思いますので、そこを就業規則の変更のみで割り切 ってしまうのはどうかなと思います。先ほどと同じ結論になりましたけれども。いろい ろな現実的な話はわかりますけれども、就業規則の法的な性格と、個別労働者に対する 拘束力という点において、どうしても理屈だけからいけば、最後は割り切れないという のが残ってしまうというのが私の考え方です。 ○分科会長 関連してどうぞ。 ○長谷川委員 1つは、やはり私がとても理解できないのは、労働契約を全部就業規則 で扱うことです。例えば技能研修実習で実習生は労働者ですよね。ではそういう所に就 業規則があるのですか。ないですよね。だから就業規則のない所についてどうするのか という議論がきっちり行われていなくて、まさに会社の組織がきっちり整っていて就業 規則も整備されている所の話なのです。でも雇用就労形態の多様化だとか、さまざまな 労働者がいるといったらば、労働者ってもっと広く考えなければいけないと思います。  私の所には47都道府県地方連合会がありますが、そういう所に来る労働者というのは 必ずしも会社組織がきっちりされていて、就業規則がきれいにできている所ではないわ けです。だから労働契約法というところで労働契約の成立というところを考えたときに、 さまざまな労働者がいるという、そのさまざまな労働者をもっとイメージしながら検討 することが、私は必要だと思います。それは先ほどから石塚委員が言っているように、 就業規則がどのような形で現在果たしているかという役割は、それは私どももよく理解 しています。しかし、それだけではないでしょう。その議論は私は丁寧にしていただき たいですね。  もう1つは、(2)の合意が成立している又は推定するというので、例えば就業規則を使 った場合ですけど、私も紀陸委員と全くここは同じ意見です。ここについては同じ意見 を持っています。要するに判例は契約の内容と成すというふうに、そこまでであって、 「合意が成立しているものと推定する」というのは、やはりこれは判例よりも踏み出し ているのだと思います。今回のこの分科会でそこまで言い切っていいかどうかというこ とに対しては、私や労働側は責任を持てません。私がせいぜいできるとすれば、紀陸委 員が言っているように判例のところだけだと思います。それ以上に何で「合意が成立し ているもの」と推定できるかというのは、私はどんなふうに考えても、ここで作ればで きるのだという話ですけど、私は作ることに踏み出すところまではできません。  もう1つ、(2)というのは入り口のところの締結ですけども、現行の就業規則がありま すよね。現行の就業規則がある所の就業規則の合理性というのは、どうやって判断する のですか。そういうところももう少し検討していただきたいのです。だから、そういう 意味では「合意が成立しているものと推定する」というのには無理がある。あまりにも 飛躍しすぎです。それと労働契約の締結の際のところで言えば、いろいろな労働者がい るわけですから、そこのところも考慮すべきだと思います。  次に(3)についてです。「就業規則の変更によって労働条件を集団的に変更する場合の ルールや、使用者と当該事業場の労働者の見解を求めた過半数組合との間で合意してい る場合のルールについて検討を深めてはどうか」ということで、これを見ると消えた「検 討の視点」とか「在り方について」を思い出すのです。就業規則の合理性というのは裁 判所が判断しているわけです。たとえば第四銀行事件のところで合理性の有無について 具体的な不利益の程度や必要性の内容・程度、内容自体の相当性、代償措置などの改善 状況、労働組合等の交渉の経緯、他の労働組合または他の従業員の対応等々を総合考慮 して判断すべきだというのが、このとき最高裁から出ているわけです。私は労働条件を 集団的に変更する場合のルールというのは、この労働契約法の中で、この短期間で議論 するのは少々無理があるのではないかと思います。  過半数組合との間で合意している場合のルールですが、過半数組合で合意していると いうのは、過半数の組合の場合、組合員については拘束力を持つと思いますけれども、 組合員でない者に対して、どうしてその変更の合理性が合意を推定して拘束力を持つか、 というのは私は理解できない。労組法との関係で言えば、労組法17条、18条の協約の 拡張適用は4分の3ですが、就業規則による労働条件の変更は過半数でできるなんて全 然整合性がないじゃないですか。したがって私は(3)について、労働条件を集団的に変更 する場合のルールだとか過半数組合の問題については、もっとじっくりと時間をかけて 議論すべきだと思います。 ○分科会長 ちょっと整理させていただきたいと思います。いま紀陸委員も長谷川委員 も、(2)の推定については判例法理を踏み出しているのではないか、というご意見だった と思います。この点について公益側の方、いかがですか。 ○荒木委員 踏み出しているかどうかよく分かりませんが、より慎重な態度をとったの で「推定」というふうになっているのではないかと思います。合理的なものであれば契 約内容になると言い切ってしまうほうがすっきりはいたしますが、その場合には「なる」 と言ったら反証を挙げて覆すことができなくなるわけです。そこを考えるといろいろな 場面、場面に応じて反証の余地を残すということから、「推定」という言葉が使われて いるのではないかと思います。 ○渡辺章委員 私も、その言われた趣旨がよく分からなかったのです。契約の内容とな ると言い切ってしまうのか、推定効を認めて、私はもともと地域採用だったから遠隔地 に転勤はないということで雇われましたという合意があれば、就業規則の中の従業員は 正当な理由がなく配転を拒否してはならないという、その規定を覆すことができるわけ です。だから「推定」のほうが個々の意思を尊重した言い方であって、「契約となる」 と言ってしまえばなる、どうしようもないです。荒木委員の言われたことを繰り返して 申し訳ないですが、私も発言がよく理解できなかったものですから。 ○廣見委員 結局、同じことになってしまうのかもしれませんが、私が先ほど言った点 は、構成の仕方として労働契約法の大原則を作って、その大原則は何かといえば、契約 の原則である合意ということを中心にせざるを得ない。そういう意味では、その流れの 中で実際に、ほとんどの企業で作られている就業規則というものの性格をどのように見 て、それとの調和を図っていくことが必要になってくるのではないかと思っていたもの ですから、そういう限りにおいては合意を経て契約内容になるということを、合意とい うことでもって推定する。そういうことで実現していくほうが、構成としては普通なの ではないかと思っていたのが1点です。  もう1点は、いま両委員からお話のとおり、合理性というのも最初に私はちょっと触 れましたが、これはなかなか実際判断は難しいということは正直言ってあると思います。 そういうものを、合理的なものであれば契約内容になると言ったときに、それは一体ど ういうことになってくるのだろうか。なかなか判断基準というものを、より精緻なとい うか、より現実なものが求められてくる可能性もありますし、「すべてなる」と言い切 ってしまったときに、反対の立場からいろいろなことを立証し主張しながら反証するこ とによって、必ずしもそれは合理的ではないということを、裁判所できっちり認めても らうということの可能性もあったほうが、より現実的な処理になってくるのではないか という気もしています。そういう意味で、実際こちらのほうがいいのかなと思っていま す。  なお、紀陸委員からも主張がありましたが、確かに反証の可能性ということで推定を 覆すことを認めるということは、現実の企業の経営サイドに立ってみた場合には、それ だけ不確定要因を残すわけですから、そこは、すっきりしたほうがいいというお考えか ら出ているのかなという気もして、それはそれなりに使用者側委員のお立場とすれば分 からないでもないのですが、ここは少し弾力的な形で処理したほうがいいのではないか。 それが判例法と言葉ではピタリと100%合っているわけではありませんが、より判例法 の趣旨を正確に捉え、実態との調和を考え、構成するという道になるのではないかとい う気がしています。 ○分科会長 よろしいですか。 ○紀陸委員 いま、まさに代弁していただいたところですが、「なる」と言って反証で 覆るものでなくていいだろうということです。それでもって合理性があるかどうか全然 争えないというわけではない。あるいは労働条件について別途に約束があるということ でもって、別途争うことは可能なわけですので、この帯広事件の判例の読み方にかかる ことなのでしょうけれども、こういうふうに言い切って私どもはいいのではないかと思 っています。  それから長谷川委員が先ほど言われた(3)のところですが、これは非常に重要な問題だ と私どもも思っています。組合のある所と組合のない所があるし、組合がある場合でも 過半数の組合がある所と、ここには入っていないのでしょうけど、過半数従業員が関与 しているような場合とか、この辺はまだ詰めた論議がないと思っています。でも少なく とも、職場の中で大きな過半数勢力になる組合の人たちが、内容について関与している とか、世の中はスピード経営ですよね。何か問題のあるときというのは本当に会社の危 機存亡ということです。そういうときに急遽、何か経営に関する大きな意思疎通をする 必要があるとか、現実にはそういうことが問題になるわけです。そういう場合、意思決 定をするために大きな合意が得られた場合に、どうかという問題が生じるわけです。そ ういうことも背景として考えておく必要があるだろう。1つの会社の大きなポリシーメ イクに関わる問題です。  そういう時にどうかというのは、勢力的に組合の方々の多くが参加しているとか、従 業員の過半数の方々が、まさに言葉を変えて言うと、雇用維持のためにいいよというこ とだって当然あり得るわけです。それは逆に、全員の方々の雇用維持に関わる問題に迫 られる局面というのは、一種想定される場面です。だから、そういうことを考えてご判 断いただければと思う部分だと思います。 ○分科会長 先ほど石塚委員が、たぶん(3)のことだと思いますが、嫌だという者をあえ て拘束するのは承服しがたいと言われたのと、長谷川委員が言われた(3)の後段のほうで すが、過半数組合との合意がある場合のルールといった点というのは、やはり疑問があ るという話だったと思います。 ○長谷川委員 (3)の場合、これは就業規則の変更によって労働条件を変更する場合です よね。例えば賃金を3割カットするとか退職金を5割カットするというようなことが、 労働条件の変更で出てくるわけです。そのときに、これは就業規則の変更によってやる わけです。過半数組合があるのだったら過半数組合と団体交渉してやればいいわけで、 何でそれを就業規則によってやらなければいけないのかということと、例えば組合の拡 張適用は4分の3ですよね。すると組合の協約の拡張適用が4分の3で、何で就業規則 による労働条件の変更は過半数でいいのか。そうすると労組法との関係の整合性が必要 なのではないか。  それと何か今日の議論の進め方はすごく不愉快なのですが、就業規則で労働契約あり きみたいな議論になっていて。労働側は、就業規則だけではないでしょう、ほかのやり 方もあるのではないですかとずっと言っているのですが、何か就業規則でどんどん進め られていって、これでいいですかと言われてくると、議論の仕方に対して何とも言えな い思いを持つのです。  それはそれとして、でもこの過半数組合と合意していることで何か変更ができるとい うのは、やはり問題があるし、組合員でない人たちに対して組合がどういうふうに周知 したり、どういうふうな役割があって、どうやって意見を聴取するのか。労働条件の変 更をする場合、組合だと全員会議を開いたり、ちゃんと周知したりします。でもここの 場合に、そういうことができるのかどうなのか。やはり労組法との関係を、もう少しき っちり議論することが必要なのではないかと思います。  それと労働条件の変更の合理性の判断は、私は裁判所でやるべきだと思っています。 過半数組合が合意していたから合理的で合意をしていると、またここでも「合意」なの です。労働条件の変更というのは、基本的には労働者と使用者の合意なわけですし、締 結のときの合意とはまた違うことになってくるわけですから、この変更についてはもう 少しきっちりとした議論をしていただきたいと思います。 ○新田委員 もう1回元へ戻ってというか、振出しのところで先生方のお話もいろいろ 聞かせてもらったのですが、就業規則というものは、いま規定されている就業規則と何 も変化させずに議論されているのか。ここの資料で見せていただいた判例を見ていって も、最初は知らないものでも拘束されるというふうにあったものが、最近のところでは 周知がなければ駄目だというふうな変化が出てきている。そういうのが見えますね。そ ういうような変化というのは、これまでの多様な働き方というか、いろいろな変化があ っていろいろな労働者が出てきて、それにどんなふうに向き合っていくのかというとこ ろで、私は変化が出てきたのかなと思っているのです。  そこで問いたいのは、今、いろいろなお考えを聞きましたけれども、やはり就業規則 というのは使用者の側が一方的に作るというところはそのままだ、ということで議論さ れているのかどうか。私はこの場でいつも言っているのですが、合意というものは提示 があって説明があって、いろいろなやり取りがあって、渋々であろうとバンザイであろ うと納得するというところに至るということであれば、そこのところはどんなふうに担 保されるのかということは、この契約法で最大の問題だと思います。それが、就業規則 は一方的に決められるのだとすると、いろいろな変化はあるのですが、そこは残したま まだと、これは私としては受け入れ難いというか、そこがあるのです。そこはどんなこ とになるのかなと思います。 ○分科会長 たぶん最初に長谷川委員が言われたことと、いま言われたことと、せっか く労働契約法制として新しい立法を考えるときに、就業規則という古いモデルではなく、 何か新しいモデルは考えられないかという、そういうことですよね。 ○新田委員 はい。考えないといかんと。 ○分科会長 そういう話ですが、この点についてはいかがですか。最初に戻るような感 じなのですが、この点について少しはっきりさせておくほうがいいような感じです。 ○岩出委員 配られた論点整理がなされて、かなり絞り込まれましたよね。絞り込む前 であれば、採用から始まって出向・転籍、すべて労働契約法制化できたと思いますけれ ども、これだけ絞り込まれている中でいくと、よりこの就業規則のルールについて話し 合い、協議を詰めておく必要性が高まったと思っています。そういう意味で、今日はも う時間がなくなってきましたが、例えば(3)の1行目のルール、これは言ってみれば、第 四銀行事件の不利益変更の合理性の基準等を明確化させることになるのだと思われます けども、そういう議論も詰まっていないし、これはみちのく銀行事件も引用しています から、確定した基準だと思いますが。  あるいは、次の第2文にある「使用者と当該事業場の労働者の見解を求めた過半数組 合との間で合意している」という、ここは、はっきり言って判例より進んでいる基準だ と思っています。つまり、いままでの基準は労働組合等の協議状況だけ踏まえています から、その過半数組合が他の階層等の意見を聞いてというところまで詰めていませんか ら、そこは、このルールはそういうところまで聞く。言ってみれば、パートタイム指針 で各階層の意見を聞きなさいというところまで含んでいるものと理解しています。そう いう意味では判例より進んだ議論で、もっと展開すべきだと思っています。  それから、先ほど労働組合法の関係で出てきていますが、いわゆる一般的拘束力です。 あれは同種の労働者の問題ですから、ちょっと適用できないと思っています。違う概念 ですから、一定の集団的処理のためには過半数組合の議論を踏まえて、しかもその過半 数組合が単に単組と使用者との協議だけでなく、各個別の階層の意見を集約してやると いうことを前提にしたものであれば、一定の推定効を与えても、合理性の推定を与えて も私はいいのではないかと思っています。 ○廣見委員 いま岩出委員からお話がありましたが、これは本質的に重要なところであ りますし、せっかくの場でありますので、それぞれの問題点のご指摘等も踏まえながら、 また議論を整理していただいたほうがいいだろうと思っています。  そういう前提で考えてみると、確かにこれだけを拝見すると、先ほど来長谷川委員か らもお話がありますとおり就業規則のない所、あるいは石塚委員からお話があったとお り、むしろ雇用の実態は多様化し個別化してきている。そういう場面をどのように考え ていくかという基本的な問題が当然あると思います。  これは私の理解ですが、個別の対応の必要性というのは増えてきているのだろうと、 基本的にはそう思っています。そういう意味で就業規則で取り扱われるというのは、あ くまで統一的・画一的な処理を集合的に図らなければならない問題について、一定の基 準を定立していくというのは普通であり、そういう場面というのは傾向的には減少して きているのではないか。大製造業の工場労働みたいなことを典型的に考えてみると、そ う実態的には変わっていない面もあるのかもしれませんが、しかし、第3次産業の現実 を見ていくと、かなり多様化してきていることも事実です。  そういうところは、これは足りるか足りないかという問題はありますが、基本的には 個別の問題として、原則は当然のことながら労働者と使用者の合意によって成立すると いう個々の契約をきっちりと捕まえ、それで対応していく。その現実的な考え方で、こ れは先ほど荒木委員からご指摘があったとおりですが、就業規則であっても、個別に労 働契約で労働条件を定める部分以外についての問題を、ここで言っているわけで、個別 に定めていく問題はまた別である、という認識がはっきりと示されているわけです。こ れを我々はもっと議論しなければならないのかもしれませんが、非常に重要な場面であ ることは間違いありませんし、そういうものによっての処理の必要性というのは増大し ていることは間違いないと思います。  したがって、労働側委員からご指摘のあったとおり、43年の時代から相当の変化があ ることも事実ですし、判例の積み上げもなされてきている。しかし、そういうものを全 部踏まえた上で、なおかつ実態的に見れば集合的に処理しなければならない。要するに 定型的に処理しなければならない面もまだ多々あるので、どうしてもまずその処理をど うするかということがある。この整理が表に出てきているという形になっているので、 何か形式的には、就業規則の問題が中心になっているかのような感じを与えていること は否めません。しかし、それぞれの問題に対しては、そういう個別的対応が必要な面が 多々あるだろうというふうに、基本的には思っています。  もう1点だけ申し上げれば、これは先ほど新田委員からご指摘がありましたが、就業 規則の考え方が一方的に決められるという古典的なと申しますか、そういうものを前提 にしているのかということですが、私はそれについてはいろいろな議論があり得ると思 います。しかし、現実に我々がここで議論しているのは、就業規則については意見聴取 ということ、いまの仕組みですね。そういうものを前提に考えているのかなと私は漠と して思っていました。  ただ、それは当然議論すれば、それはおかしいと、一段上になれば協議の問題がある でしょうし、さらに上に上げれば合意の問題もあるでしょう。しかし、それはいまここ で、どういう形で議論しているのか私はわかりませんが、私はそういう意味では、いま の就業規則というものの性格を前提にして、この議論が行われているのではないかと私 は理解しています。 ○岩出委員 1点だけ補足ですが、新田委員のご指摘について疑問を呈しておきます。 先ほどフジ興産事件が周知のことを言っていると、周知していないから無効だという言 い方をされたのは不正確だと思います。あくまで周知させる手続ですから、一般的周知 手続のことを言っているのであって、個々人が知っているか知っていないかというのは、 依然として問題とはされていないわけで、この点は変わっていないと私は思っています。 ○田島委員 1の(3)のところですが、岩出委員から判例よりも進んでいるような発言が ありましたけれども、私は全くそうは思わなくて、極めて素朴な意見ですけども、多数 派であろうと少数派であろうと、労働組合が使用者側と交渉して合意をしたなら、労働 協約として、いわゆる成立してくるわけです。ここになぜ(3)のところに、いわゆる「や、 使用者と当該」というのが別項にならないで一緒になっているのか疑問なのです。(3)の 後半の、いわゆる過半数組合との合意の場合には、労働協約でスムースに成立している わけですし、資料No.1-3によれば就業規則の変更だけではなくて、労働協約や労使協定 とか個別の変更という形での変更のルール化がされているわけです。  判例法理そのものは争った部分についての判例ですから、極めて労働組合のところの 一般的なものは、就業規則よりは労働組合が使用者側と対等に交渉しながら合意したの が協約となると、その協約で組合員に影響力が及びますよと。非組合員のところには、 その協約を就業規則としてやる場合もありますし、そういう意味では何でここに、いわ ゆる労使の合意で何で就業規則が出てくるのか、私はちょっとわからないのです。極め て素朴な意見です。 ○分科会長 いまのご意見について、いかがですか。 ○岩出委員 私の理解です。ここで使われている「使用者と当該事業場の労働の見解を 求めた過半数組合」、単純に過半数労働組合との意見であればこういう表現にならない と思う。例えば第四銀行事件の判旨を見れば「労働組合等との交渉の経緯」、あるいは 「他の労働組合又は他の従業員の対応」と、その過半数労働組合がほかの階層グループ、 少数派の意見を承知して反映させたらどうかということは、全然問われていないわけで す。この基準はそういうことは提言しているわけです。もちろん、これがいいかどうか は議論して然るべきだと思いますけども、そういう意味では、先ほど私が申し上げたよ うにパートタイム労働指針等々で各階層別の意見を踏まえた上で、意見聴取しろと言っ ている意見を取り上げたみたいな立法案だと私も思っていますので、そういう方向で進 めていただけたほうが、多様な労働者の意見を反映させた民主的な意思形成ができると 私は思っています。そういう持って行き方を議論すべきだと私は考えています。 ○分科会長 先ほど長谷川委員から、拡張適用の要件と異なっているではないかという 話も出ましたが、こういった点についてはいかがですか。 ○廣見委員 いま、田島委員からお話になったこととも関連するわけですが、確かに田 島委員がおっしゃったとおり、労働協約ということで処理されるものは当然多いわけで すし、それによって処理されるものは、いまおっしゃったとおりのことだろうと思いま す。ただ、ここで書いてあるのは、この表現だけですとなかなか分かりにくい点があり ますが、私が理解するのは、ある職場における過半数を代表するものとしての過半数組 合、いわば過半数代表者として就業規則に関わってくる場合、そういう場面を捉えてい るのだろうと思っています。  したがって先ほど来話は出ていますが、当該労働組合の組合員のみならず非組合員、 あるいは場合によっては、少数組合の組合員も含めた人たちの意見の集約みたいなもの もある程度想定しながら、そういうものとして過半数組合が事業主と向き合い、対応す る。その場合をここで想定し、そういう場合にどういう効果を与えるか、そのルールを 決めるべきではないかという提案だと理解しているわけです。  そういう意味では、果たしてそれだけでいいのかどうか、それが適切であるのかどう かという問題も、もちろん議論しなければならないと思います。先ほど来出ているとお り、それはある意味では集団的労使関係、あるいは集団的労使関係法の体系との整合性 の問題も含んでいるのかもしれません。したがって、そういうものも視野に入れながら、 ここの議論は整理されて然るべきだろうと私もそのように思っています。 ○長谷川委員 ここの(3)は非常に重要で、「在り方について」を白紙撤回したもので、 次にこういうのを(3)で非常に理解しがたい日本語で書いてあるわけですけども、結局、 私どもは「検討の視点」とか、「在り方について」のところを想像するのです。例えば 就業規則の変更によって労働条件を集団的に変更する。要するに賃金切下げだとか退職 金の切下げとか、そういうやつですね、大体やるのはね。そのときに労働者代表が何の 権限があって、どういう形で選ばれてくるのか、そこはちゃんと議論しなければいけな いです。  例えば、だったらば、ちゃんと我が国にもドイツのように労働者代表制を作って、2 年に一遍、5月は全国一斉に全労働者代表を全事業場で選出するとか、それと労働者代 表と労働組合の役割と権限分担もきっちり法律で明確化するとか。何だか訳のわからな い人があるとき代表者で、自分たちの賃金の切下げだとか退職金の切下げ交渉をやって いるなんて、そういうようなことであってはならないことだと思います。例えば組合が もしこれをやれと言われたって、組合は組合費をもらった人のための交渉をやって協約 を締結しているわけですから、組合員でない人たちのことをやろうとすれば、それなり の組合に対する活動の補助だとかそういうのをどうするかとか、そういうのがいっぱい あると思います。  だから、もっとそれは集団的労使関係の、これまでにないことを作ろうとするとすれ ば、私はもっとしっかり議論してほしいし、もっと労働者代表というものがどうあるべ きなのか、そういうこともちゃんと研究が必要だと思います。労働契約の変更の合理性 を媒介にした拘束力を制度化したくて、短い時間に合理性の判断として過半数代表だと かの合意というのは、私は安直すぎると思います。やはり労組法との関係だとか、従業 員代表というのはどういうものなのか、人様の労働条件を決定する代表というのはどう いう人たちが選ばれてくるのか、事業場のみんなが納得するような方法なのか、そうい うことについてもっと研究する必要があるのではないか。したがって、ここは非常に難 しい課題なので、私はそんな簡単に結論を出すべきではないと思っています。  それと労働契約の内容の変更と労働条件の変更ですが、ここが労働契約内容の変更の ときに、労働条件というのはどういうところを指すのかというのも、もう少し私は議論 してほしい。よく分からないところがあるものですから、この辺は丁寧な議論をしてほ しい。私は労働条件の変更というのは賃金を下げることと退職金を下げることかなと、 すぐ思うわけです。そういう重要なことに対して、どういう代表者が選ばれてくるのか、 誰が合意するのかということについて、もう少し慎重な議論が必要なのではないかと思 います。 ○田島委員 関連してですけども、いまの廣見委員の発言は極めて重要だろうと思って います。当該事業場の労働者の見解を求めて、これは少数派の組合とか、組合に入って いない人たちの意見も聞いて合意したと。そうすると逆に、そこで聞いたんだからとい うことで、少数派の人たちはそこに合意が推定されてしまったら、多数の人たちの合意 そのものが縛りつけられてしまうという負の側面が出てくるだろう。そうすると、みち のく銀行事件などでは73%の多数派組合員が合意しているけれども、あまりにも不利益 変更の度合いがひどすぎるということで変更が成立しないというか、そういうことがあ るわけです。  そういう意味では、当該事業場の労働者の見解を求めたという1文が入ることによっ て、少数の意見もそれで聞いているのだからあとは文句を言うなよと、異議があるのだ ったら反証の立証責任があんたたちにありますよという形で、立証責任が転換してしま う大きな問題をはらんでいるのだろうと思いますけども、その点についてはどうなので すか。私は不利益変更をする場合には、変更しようとする使用者側が合理性があること を立証しなければいけないし、いままでの判例では、多数派組合との合意は1つの合理 性の推定の一要素としてあるだけだろうと思いますが、それを一歩踏み越えているとい う問題がある。  もう1点は、今回の労働契約でこの間、労働側が常々言ってきたのが、いわゆる契約 変更というのは使用者側だけの申出ではないでしょうということです。労働側からの申 出はどうするのですかというのを、常々言ってきたわけです。ところが、この検討の方 向については、労働側からの提起については一顧だにされていないという問題、これは おかしな検討の方向ではないかと思います。これについて是非見解をお願いします。 ○荒木委員 最後の点は非常に難しくて答えられないのですが、現状の客観的な説明だ けをさせていただくと、労組法の拡張適用は4分の3というものを要件として全員に適 用する。それと、ここでは過半数、2分の1以上ということと平仄が合わないのではな いかというご指摘がありました。しかし、拡張適用の場合は原則、それこそ有無を言わ さず全員に適用されるということになりまして、現在、判例が認めているのは、未組織 の労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときだ け、拡張適用が及ばないということであります。  ところが、この就業規則で議論しているのは、有無を言わさず適用するということで はございません。あくまでこれまでの経緯で議論されてきたのは、合理性を推定すると か、あるいは合理性があるという合意があったと推定するとか、そういう形で反証の余 地を認めているわけです。したがって、これは協約の適用、拡張適用も協約を適用する 問題ですが、それと就業規則というのは場面が違っていると考えます。  就業規則法理が、なぜこのように多用されているか。協約でいけるところは協約でい ってもちろん構わないし、それが本筋だと思います。それは問題がないので誰も議論し ていないのであり、問題は、事業場で統一的な労働条件の変更というのは、先ほど来議 論があるとおり誰しも否定できないところなのです。この統一的・画一的に労働条件を 変更する制度が、集団法の中で用意されているかというと、そこでは完全にはできてい ない。拡張適用も、これは複数組合が存在する場合、他組合には及ばないというのは、 おそらく現在の多数の見解だと思います。要するに、統一的・画一的労働条件変更の手 立てがない。それが全部この就業規則法理におぶさってきている。そういうのが現状で はないか。この問題をどうするかということも含めて、考える必要があるのではないか と考えます。 ○分科会長 時間がきてしまいましたので、今日はこれで終わりたいと思います。次回 の日程の説明をお願いします。 ○監督課長 次回の労働条件分科会ですが、9月29日(金)17時から19時まで、場所 は厚生労働省7階専用第15会議室での開催予定でございます。よろしくお願いします。 ○分科会長 本日の分科会はこれで終了いたします。本日の議事録の署名は小山委員、 原川委員にお願いします。お忙しいなか、ありがとうございました。                  (照会先)                     労働基準局監督課企画係(内線5423)