労働契約法制及び労働時間法制の今後の検討について(案)

 少子高齢化が進展し労働力人口が減少する中で、我が国の経済社会の活力を維持するため、就業形態の多様化、個別労働関係紛争の増加、長時間労働者の割合の高止まり等の課題に対応し、安心・納得した上で多様な働き方を実現できる労働環境を整備するための労働契約法制及び労働時間法制の整備が必要であると考えられる。
 この場合、検討すべき項目は多岐にわたるが、次の1及び2の項目を重点として検討を進めることとする。

 労働契約法制
(1) 基本的な考え方
1) 労使の継続的な関係を規律する労働契約に関し、労使両当事者の契約に対する自覚を促しつつ、労働契約が円滑に継続するための基本的な考え方として、次のことを明確化することについて検討を深めてはどうか。
 労働契約は、労働者及び使用者の実質的に対等な立場における合意に基づいて締結され、又は変更されるべきものであること
 使用者は、契約内容について労働者の理解を深めるようにするものとすること
 労働者及び使用者は、締結された労働契約の内容についてできる限り書面で確認するようにするものとすること
 労働契約の両当事者は、各々誠実にその義務を履行しなければならず、その権利を濫用してはならないものであること
 使用者は、労働者が安心して働くことができるように配慮するものとすること
2) 上記に加え、使用者は、労働契約において雇用の実態に応じその労働条件について均衡を考慮したものとなるようにするものとすることについて検討を深めてはどうか。

(2) 労働契約の成立、変更等
1) 労働契約は、労働者及び使用者の合意によって成立し、変更されるものであることを明確化することについて検討を深めてはどうか。
2) 労働契約締結の際に、使用者が労働基準法を遵守して定めた合理的な就業規則がある場合には、個別に労働契約で労働条件を定める部分以外については、当該事業場で就労する個別の労働者とその使用者との間に、就業規則に定める労働条件による旨の合意が成立しているものと推定することについて検討を深めてはどうか。
3) 我が国では就業規則による労働条件の決定が広範に行われているのが実態であることにかんがみ、就業規則の変更によって労働条件を集団的に変更する場合のルールや、使用者と当該事業場の労働者の見解を求めた過半数組合との間で合意している場合のルールについて検討を深めてはどうか。
4) 上記に伴い、労働契約の即時解除や就業規則の効力等に関する規定を労働契約法に移行することについて検討を深めてはどうか。

(3) 主な労働条件に関するルール
1) 判例や実務に即して、安全配慮義務、出向、転籍、懲戒等についてルールを明確化することについて検討を深めてはどうか。

(4) 労働契約の終了等
1) 労働基準法第18条の2を労働契約法に移行することについて検討を深めてはどうか。
2) 整理解雇について、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」として無効とされるか否かは、裁判例において考慮すべき要素とされている4要素(人員削減の必要性、解雇回避措置、解雇対象者の選定方法、解雇に至る手続)を含め総合的に考慮して判断されることとすることについて検討を深めてはどうか。
3) 労働審判制度の調停、個別労働関係紛争解決制度のあっせん等の紛争解決手続の状況も踏まえつつ、解雇の金銭的解決の仕組みに関し、さらに労使が納得できる解決方法について検討を深めてはどうか。

(5) 有期労働契約関係
 有期労働契約が良好な雇用形態として活用されるよう、使用者は、有期労働契約の契約期間中はやむを得ない理由がない限り解約できないものとすることについて検討を深めてはどうか。その際、不必要に短期の有期労働契約を反復更新することのないよう十分配慮することについても併せて検討を深めてはどうか。

(6) 国の役割
1) 労働契約法は、労使が十分な話合いの下で労働契約の内容を自主的に決定するようにするためのものであり、罰則をもって担保されるものではなく、労働基準監督官による監督指導が行われるものでもない。国の役割は、労働契約法の解釈を明らかにしつつ周知を行うこととすることについて検討を深めてはどうか。
2) 個別労働関係紛争解決制度を活用して、紛争の未然防止及び早期解決を図るための方策についても検討を深めてはどうか。

 労働基準法制
 産業構造の変化が進む中で、ホワイトカラー労働者の増加等により就業形態が多様化し、一方では、長時間労働者の割合の高止まり等が見られる。このため、仕事と生活のバランスのとれた働き方を実現していくための「働き方の見直し」の観点から、労働基準法制について必要な整備を行うこととしてはどうか。
(1) 働き方を見直し仕事と生活のバランスを実現するための方策
1) 仕事と生活のバランスを確保するためには、長短二極化している労働時間について、特に長時間労働となっている者への対策が必要ではないか。このための一つの考え方として、時間外労働の実態を考慮して設定した一定時間数を超えて時間外労働をさせた場合の割増賃金の割増率を引き上げることについて、経営環境や中小企業の実態も踏まえつつ、検討を深めてはどうか。
 また、この場合に、長時間労働の後には労働義務を一定時間免除して、健康の確保にも役立てるという新しい考え方の下、労使協定により、当該割増率の引上げ分については、金銭での支払いに代えて、有給の休日を付与することを選択できるようにすることについても併せて検討を深めてはどうか。

(2) 就業形態の多様化に対応し、仕事と生活のバランスを確保しつつ、新しい働き方ができるようにするための方策
1) 企業においては、高付加価値かつ創造的な仕事の比重が高まってきており、組織のフラット化や、スタッフ職等の中間層の労働者に権限や裁量を与える例が見られる。
 このような状況に対応し、高付加価値の仕事を通じたより一層の自己実現や能力発揮を望み、緩やかな管理の下で自律的な働き方をすることがふさわしい仕事に就く者が、健康を確保しつつ、その能力を一層発揮しながら仕事と生活の両面において充実した生活を送ることができるようにする観点から、ホワイトカラー労働者の自律的な働き方を可能とする制度を創設することについて検討を深めてはどうか。
2) 企画業務型裁量労働制について、中小企業においても多様な働き方の選択肢の一つとして有効に機能するよう、対象業務の範囲やその手続について、制度の趣旨を損なわない範囲において見直すことについて検討を深めてはどうか。また、苦情処理措置について、現行裁量労働制がさらに有効に機能するように見直すことについて検討を深めてはどうか。

(3) 現行制度の見直し等
1) 上記(1)(2)に加え、働き方を見直すための方策について次のように検討を深めてはどうか。
 仕事と家庭生活の両立に資するため、子の看護等突発的な事由でも、年次有給休暇制度本来の目的に沿った利用を阻害することなく年次有給休暇を活用することができるようにするため、労使協定により上限日数や対象労働者の範囲を設定した上で、時間単位での年次有給休暇の取得を可能とすることについて検討を深めてはどうか。
 仕事と生活のバランスを確保するために有効な方策について検討を深めてはどうか。
2) スタッフ職が多様化していることを踏まえて管理監督者となり得るスタッフ職の範囲を明確化することや、管理監督者である旨を賃金台帳に明示することについて検討を深めてはどうか。
3) 管理監督者について、健康確保措置を整備した上で、深夜業の割増賃金に関する規定の適用を除外することについても併せて検討を深めてはどうか。
4) 事業場外みなし制度について、制度の運用実態を踏まえた必要な見直しをすることについて検討を深めてはどうか。

(4) 労働契約関係
1) 労働基準法第36条等の「過半数代表者」について、選出要件を民主的な手続にすることを明確にすることについて検討を深めてはどうか。
2) 出向、懲戒の事由等については、当該事業場において制度がある場合には、就業規則に明記することについて検討を深めてはどうか。
3) 「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」について、有期労働契約が労使双方に良好な雇用形態として活用されるよう、有期契約労働者の就業意識やニーズ等にも留意しながら見直すことについて検討を深めてはどうか。

 中長期的検討が必要な項目




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