資料1

これまでの議論の中間的なとりまとめ(案)

I  はじめに

 ○  看護を取り巻く状況が大きく変化している中で、看護職員には患者の視点に立って安心安全で質の高い看護の提供が求められている。また、医療制度改革の一環として医療提供体制のあり方を議論するにあたって提示された「医療提供体制の改革のビジョン」(平成15年8月 厚生労働省)において、医療を担う人材の確保と資質の向上を図る観点から、看護については、看護基礎教育の内容を充実するとともに、大学教育の拡大など、看護基礎教育の期間の延長について検討を行うこととしているところである。

 ○  そこで、本検討会が平成17年3月に設置され、国民の看護ニーズに的確に応えられる看護職員の養成のあり方について検討し、看護基礎教育のさらなる充実を図ることとなった。

 ○  本検討会においては、これまで、看護をめぐる現状と課題、保健師教育・助産師教育・看護師教育それぞれの現状と課題および充実するべき教育内容について5回にわたって検討してきたところである。今般、これまでの議論について中間的にとりまとめ、指定規則等の改正に向けて充実するべき教育内容と、指定規則等の改正にあわせて検討する必要がある事項等について整理することとした。


II  これまでの議論の概要

 ○  これまでの検討結果について、看護基礎教育の現状と課題及び課題への対応とに整理した。これらは、看護職員の養成のあり方に関する重要な事項であるが、これまで必ずしも議論がつくされていないものもあることから、看護基礎教育の充実の観点から本検討会においてさらに検討を深める必要がある。

1. 看護基礎教育の現状と課題

1) 看護師教育について

 ○  看護基礎教育で習得する看護技術と臨床現場で求められるものとには、ギャップがある。患者の安全が重要視される中で、学生は臨地実習において診療の補助に関する技術を経験する機会のみならず、療養上の世話についても経験する回数も限られてきている。そのため、学生は卒業時に1人でできるという看護技術が少なく、就職後、自信が持てないまま不安の中で業務を行っており、新卒者の中にはリアリティショックを受ける者や、高度な医療を提供する現場についていけないため最初の職場を離職する者もいる。

 ○  また、学生は臨地実習では一人の患者を受け持つが、就職すると複数の患者を同時に受け持ち、複数の作業を同時進行で行わなければならない。さらに急性期病院では人工呼吸器の管理や心電図のモニタリング技術等、高度な看護技術が求められる。

 ○  一方、医療機関における薬品の取扱い、医療機器の取扱い等にかかわる事故・ヒヤリハット事例においても新人看護師が関わる割合が高く(経験1年未満が全体の13%)、行政処分を受けた事例も少なくない。

 ○  これまでのカリキュラム改正では、平成元年には高齢化社会への対応として「老年看護学」が、平成8年には平成4年に制度化された訪問看護サービスに対応するため「在宅看護論」及び精神の健康の重要性から「精神看護学」が新たに追加された。しかし、総時間数についてはゆとりの確保と弾力的運用を可能にするため、昭和42年の3,375時間から平成元年には3,000時間に改正、さらに平成8年には時間数から単位数に変更し(時間数では2,895時間)、弾力化を図った。特に実習時間数は1,770時間(昭和42年)から、1,035時間(平成元年)に減っている。なお、平成8年には総時間数の変更がなかったが、新たに在宅看護論と精神看護学の実習が加わったので、実質的には時間数が減少した。

 ○  また、近年の同世代の若者同様、看護学生においても基本的な生活能力や常識、学力等が変化してきていると同時に、コミュニケーション能力が不足している傾向がある。看護基礎教育では専門分野の学習を深める他、職業に必要な倫理観や責任感、豊かな人間性や人権を尊重する意識を育成していくことが求められている。


2) 保健師教育について

 ○  学生が卒業時に習得するべき実践能力に関する調査では、家庭訪問の技術や面接相談の技術について大学側は“指導下でできる(約60%)”という到達レベルを、実習施設側は“一人でできる(約50%)”という到達レベルを期待しており、両者の期待する到達レベルには違いがある。また、実習で体験させたい項目のうち、健康教育については41%、家庭訪問については27%が実習で体験できていない状況がある。実習の日数・時間数は限られているため、新卒保健師が現場で行うことが多い健康教育や家庭訪問等の能力・技術については習得できるように実習を充実させる必要がある。また、臨地実習は行政に加えて学校、産業など広い分野での実習を行うことが課題である。

 ○  現在、生活習慣病予防や介護予防などが重要な課題となっており、これらの課題を解決するために、保健師には対象者個人への支援と地域全体に働きかける支援が求められている。

 ○  保健師教育を履修する者が平成8年には4,742人であったが、看護系大学の増加に伴い、平成17年には11,109人と増加している。このため、実習施設の確保が難しい状況であると同時に、現場で実習指導を担当している保健師も、学生の対応に苦慮している。
 また、保健師として就業する者の数は年々減少してきている。保健師を志向する者だけが保健師教育に進むことができるような養成のあり方についても検討していくことが求められている。


3) 助産師教育について

 ○  助産師には妊娠の診断から分娩介助、産褥期のケア、新生児のケアまで自立して行う能力が求められる。また、産科医師不足により、助産師の役割はますます拡大している。そのため、助産学実習では正常分娩の介助を10例程度行う必要がある。また、妊娠期から分娩、産褥1ヶ月までの継続ケアを実施する必要があるが、現行の実習時間数ではそれら全ての実習を行うことは困難である。

 ○  一方、出生数の減少により、正常分娩10例の介助を行うために実習施設を拡大しなければならない状況が生じている。24時間体制で実習ができる環境整備や実習指導者の補強など、実習施設との調整を含め課題である。また、妊産婦の意識の変化から分娩介助実習への同意が得られにくい状況になっていることからも、妊産婦が安全で安心な分娩ができるような実習環境・指導体制の確保がより一層重要である。

 ○  さらに助産師には思春期や更年期の指導やケアを行う等、女性の生涯に関わる役割も期待されていることから、これらの内容についても充実した教育が求められている。


4) 全般について

 ○  新人看護職員が受けるリアリティショックの緩和や早期の離職を防止するため、また、提供する医療の安全を確保し、国民の信頼に値する国家資格とするためには、看護実践能力を高める教育カリキュラムが重要である。しかし、現行の教育時間数ではそれに応える十分な能力を獲得するには不足している。さらに、平成18年の医療法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議でも、「医療の現場において看護師の果たす重要な役割にかんがみ、大学教育の拡大など教育期間の延長を含めた看護基礎教育の在り方について検討すること」とされていることから、教育内容と教育期間についても検討することが求められている。

 ○  その際、看護基礎教育を充実させるために必要な教育内容と学生の卒業時の到達度(基礎教育で最低保障する能力)について、現行制度の枠をはずして議論する必要があり、その上で必要な時間数を提案し、現行の3年間の中で可能な時間数であるのか、教育期間を延長する必要があるのかについて検討する必要がある。また、教育期間の延長については看護師の供給数に影響を与えることが予測されるため、看護師不足という現状を踏まえ、慎重に議論する必要がある。

 ○  助産師教育についても、妊娠から分娩まで10ヶ月を要する経過を観察し、ケアする能力を育成するためには最低1年の教育期間が必要と考えられ、現行の6ヶ月の教育期間についても見直していくことが求められている。

 ○  さらに、身体侵襲を伴う看護技術に関しては無資格の学生が実施できる範囲が限られていることから、看護基礎教育で教育すべきことと卒後の研修等ですべきことは区別して考え、新人看護職員の研修についても検討する必要がある。

 ○  また、看護師、保健師、助産師それぞれの教育の位置づけについて、現行法では基本的には看護師の基礎教育をベースにして、その上に保健師や助産師の教育を積み重ねる構造になっている。今後、それぞれの教育を充実するという観点から、看護師教育修了後に保健師教育や助産師教育をする、又は看護師教育と保健師教育、助産師教育を併せて教育すること等についても検討することが求められている。


2. 看護基礎教育における課題への対応

1) 看護師教育について

 ○  学生の看護実践能力を高めるため、卒業時に習得すべき看護技術項目とその到達目標を明確にするとともに、臨地実習の時間数を増やし、患者を通して日常生活の援助技術を十分に経験できるようにすること、与薬や注射、医療機器の取扱い、モニタリング等も実習で実施すること、臨床薬理や安全管理などの知識・技術を確実に習得すること、夜間実習や複数の患者を受け持つ実習等を行う。また、急性期病院や地域・在宅など多様なケア提供の場で患者の個別性を踏まえたケアが提供できるように、フィジカルアセスメントの能力を強化する。一方、臨地実習で経験できないものについては学内演習を実施し、学生が一人でできるというレベルまで確実に習得させる。

 ○  さらに、患者や医療提供者等と良好な信頼関係を築くためのコミュニケーション技術や、看護を実践するうえで医療提供者の持つ価値観と多様な価値・文化をもつ患者との間で体験する倫理的葛藤について、患者の生命と人権を擁護する観点から調整し対処できるための看護倫理に関する教育内容を充実させる。


2) 保健師教育について

 ○  生活習慣病対策として保健指導が重要となるため、対象者の行動変容を促すための知識・技術を確実に習得できる教育を行う。また集団や地域への支援機能を強化するために地区診断や保健事業の企画・調整能力、社会資源を活用する能力、保健サービスの質を保証するマネジメント能力等に関する教育内容、さらに地域の健康開発・変革等を行うことができるための教育内容を充実させる。

 ○  これら保健師に求められる能力・技術について、卒業時の到達目標を明確にするとともに、確実に習得するために必要な実習時間数を確保し、保健所や市町村保健センター、学校、産業など多様な場で臨地実習を行う。


3) 助産師教育について

 ○  助産師に求められる能力・技術について、卒業時の到達目標を明確にするとともに、助産学実習の時間数を増やし、妊娠期から分娩・産褥期までのケア、新生児のケアに関する助産技術を習得できるようにする。また妊娠期から産褥期までの継続した事例の受け持ち実習を必ず行う。一方、妊産婦の安全を確保し、正常分娩10例程度を確実に実習できるようにするために、診療所を含めた複数の実習施設を確保して実習環境の整備(宿泊場所の確保を含む)と実習指導体制の充実を図る。


III  指定規則等の改正に向けて充実するべき教育内容の具体的な検討について

1. ワーキンググループの開催について

 ○  これまでの議論の概要を踏まえた指定規則等の改正に向けて充実するべき教育内容等についての具体的な検討は、看護師教育、保健師教育、助産師教育のそれぞれについて各分野の専門家等からなるワーキンググループを設けて行うこととする。各教育のワーキンググループへの委任事項は次の通りである。なお、検討の開始時期は秋以降とし、とりまとめは本年中を目途に進める。


2. 各教育のワーキンググループへの委任事項

1) 看護師教育について

 ○  看護師教育については現行の93単位を原則とする。時間数については2,895時間に1割程度加えた範囲で検討する。

 ○  強化するべき教育内容について
  ・  看護倫理:看護を実践する上で生じる倫理的葛藤を患者の生命と人権を擁護する観点から調整し対処するための知識と態度
  ・  コミュニケーション技術:患者や医療関係者等との信頼関係の構築や対象が適切な医療・治療等を選択するための支援
  ・  臨床薬理:個々の患者に応じた薬物治療の目的と作用等の理解とともにその治療の有効性と安全性を最大限に高めるための知識や技術の獲得
  ・  フィジカルアセスメント:対象の身体的状態について診査し、看護判断をするための知識と技術の獲得
  ・  医療安全:安全な医療を提供するための環境、人、物、情報等について調整するための知識と方法論
  ・  看護管理:看護を提供するための仕組みやマネジメント、リーダーシップ
  ・  災害看護:災害に備え、災害直後から支援できる基本的知識と方法、等

 ○  看護技術の確実な習得について
  ・   習得する看護技術項目の精選と到達度の明確化
  ・ 技術習得のための演習や実習の方法等について

 ○  実習の充実について
  ・   時間数について
  ・ 実習指導者の確実な配置と指導の体制づくり
  ・ 実習の到達目標を達成するために医療機関との調整を行い実習の運用方法を検討


2) 保健師教育について

 ○  保健師教育については現行の21単位を原則とする。時間数については675時間に1割を加えた範囲で検討する。

 ○  強化するべき教育内容について
  ・   生活習慣病予防等において保健指導に必要な個人・家族・集団の行動変容を促すための知識や技術
  ・ 地区診断に基づいて保健活動を展開し地域住民を支援するための知識や技術
  ・ 集団に潜在する健康問題等を調査分析等により明確化し、施策化するための知識や技術

 ○  実習の充実について
  ・   個人・家族の予防機能の促進や、行動変容を促す技術を習得するために、同一対象を一定期間、継続して受け持ち支援する実習
  ・ 一定地域を受け持ち、地域の診断に基づいて地区活動を計画・立案、実施、評価を行い、総合的な保健活動を展開する実習
  ・ 管理的な立場からケアのための資源の管理や評価、開発等、地域ケアのマネジメントについて学ぶ実習
  ・ 上記の実習を効果的に実施するために保健所又は市町村保健センターに加え、学校、産業等、多様な場での実習経験
  ・ 実習指導体制の充実


3) 助産師教育について

 ○  助産師教育については現行の22単位を原則とする。時間数については720時間程度の範囲で検討する。

 ○  強化するべき教育内容について
  ・  助産診断・技術学の充実:妊娠期の健診、分娩進行の判断、異常の早期発見と対応、母乳育児を支援する知識と技術等の教育内容の充実
  ・  医療安全:助産所や産科病棟等の運営・管理を安全に行うための知識や技術、周産期の医療事故とその対策等に関する教育内容

 ○  実習の充実について
  ・   妊娠期の診断から分娩期、産褥期のケア及び新生児のケアを含む実習、また、妊娠期から産褥期まで継続して事例を受け持つ実習
  ・ 正常分娩介助10例程度を確実に実施するための産科診療所を含めた実習施設の確保、実習環境の整備・宿泊場所の確保、実習指導体制の充実


IV  指定規則等の改正にあわせて検討するべき事項について

 ○  これまでの議論の概要を踏まえ、指定規則等の改正にあわせて引き続き検討が必要とされた課題は次の通りである。

1. 実習環境の整備・指導方法について

 ○  安全性の確保や患者の権利等の点から、患者の同意を得にくい傾向にあるが、学生が身体への侵襲性の高い看護技術等についても経験できる方法等について検討する。

 ○  また、分娩数の減少、小児入院患者の減少により、母性看護学実習や小児看護学実習は実習施設の確保が一層困難になってきていることから、それぞれの実習のあり方について検討する。

 ○  患者の安全を確保しながら、学生の実践能力を高めるための実習指導担当者の育成とともに、実習指導者を専任で配置すること等について検討する。また、実習の受け入れ施設の指導体制についても検討する。


2. 教員の資質向上について

 ○  看護基礎教育と臨床現場の隔たりを少なくするために、看護教員自身も臨床現場との接点を多くするとともに、臨床実践能力を向上する方策について検討する。

 ○  また、教員の質の向上の観点から、看護の経験のある人が教育の専門家になるための教員の養成課程等、教育実践能力を獲得するための方策についても検討する。あわせて教員数について検討する。

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