連合第9回中央執行委員会確認/2006.6.15


労働契約法案要綱骨子(案)


<総則>

 目的
 この法律は、労働基準法の規定と相まって、労働契約の適正なあり方について定め、雇用の安定及び労働条件の明確化を図ることを目的とすること。

 労働契約の定義等
(1)  この法律において、労働契約とは、その名称の如何にかかわらず、一方の当事者が相手方に対して労務を提供することを約し、相手方が賃金報酬その他の対価を与えることを約する契約をいうものとすること。

(2)  この法律において、「労働者」とは、前掲(1)の契約において、労務を提供することを約する当事者をいう。

(3)  この法律において、「使用者」とは、前掲(1)の契約において、報酬を与えることを約する当事者をいう。

(4)  自己の危険と計算のもとに業務に従事している者が、特定の者との間の労務供給契約に基づき一定期間継続して専属的に当該業務に従事し、当該業務が他の者による代替が不可能である場合には、その業務の実態に即してこの法律の規定が適用または準用されること。

 この法律に関する契約の効力
 この法律の規定に反する労働契約は、その部分については無効とすること。この場合において、無効となった部分は、この法律の規定によること。

 差別禁止
 労働契約については、その締結、履行、終了において、人種、国籍、性、身体の状況、宗教、思想信条、社会的身分、又は、家族責任による差別が禁止されること。

 使用者の保護義務
 使用者は、労働者の健康、安全を配慮し、プライバシーその他人格権を保護する義務を負うこと。

<労働契約の締結>

 労働契約における期間
(1)  事業もしくは職務の特質、または、臨時の必要性等の正当な理由がなければ、期間の定めのある労働契約を締結することはできないこと。

(2)  労働契約に期間の定めがあっても、前項所定の正当な理由がないときには、期間の定めがないものとみなすこと。

(3)  労働契約の定める期間が労働基準法第14条の定める期間を超えるときは、その定めは無効とし、期間の定めのないものとみなすこと。


  【労働契約における期間に関する詳細は、別途「パートタイム労働者及び期間の定めのある労働契約により雇用されている労働者(有期契約労働者)の適正な労働条件の整備及び均等待遇の確保に関する法案要綱骨子」の定めるところによる。】

 募集・採用
 使用者が労働者との間で労働契約を締結する際の労働条件は、使用者が募集の際に示した労働条件を下回ることができず、これを下回る部分については、募集の際に示した労働条件で契約が締結されたものとみなすこと。

 採用内定
(1)  使用者が労働者に対し採用内定の通知を発する場合には、労働者がこれに承諾を与えたとき労働契約は成立すること。

(2)  使用者の採用内定取消の理由が次の各号のいずれかに該当するときは、労働者の労務提供開始日以前に使用者が労働契約を終了させることができるものとすること。
(1)  後掲18ないし20所定の解雇の要件に該当する事実のあること。
(2)  採用内定通知と同時に文書で示した採用内定取消事由に合理性があり、かつ、当該取消事由に該当する事実のあること。

(3)  使用者が採用内定取消をなすには、労働者に対し、取消理由を記載した書面を交付しなければならないこと。

(4)  使用者の内定取消が前掲(2)の要件を充たさないとき、または、前掲(3)の手続がなされていないとき、労働者は解雇の場合と同じ救済方法を求めることができる。

 試用
(1)  試用期間は3カ月以内とすること。但し、職務の性質上必要と認められるときには、試用期間を6カ月の範囲内で定めることができること。
(2)  使用者は、試用期間中または試用期間終了時において、次のいずれかに該当する理由のあるとき、労働者を解雇することができること。
(1)  後掲18ないし20所定の解雇の要件に該当する事実のあること。
(2)  労働者に職業的もしくは能力的適性が欠如していること。

(3)  使用者の解雇が9(2)の要件を充たさないとき、または、8(3)の手続を行っていないとき、労働者は解雇の場合と同じ救済方法を求めることができる。

<労働条件の変更>

10  一般原則
(1)  労働契約内容の変更は、当事者の合意によってのみ行うことができること。

(2)  労働者は、契約内容を維持することが困難な事情が生じた場合には、使用者に契約の変更の申し入れを行うことができる。労働者の変更権行使は、次の各号を充足していれば、効力を有する。
(1)  変更権行使の必要性があること。
(2)  変更権行使の内容が合理性を有すること。

(3)  使用者による契約内容変更の権利が労働契約上認められているとき、使用者の変更権の行使は、次の各号をいずれも充足している場合においてのみ、効力を有すること。
(1)  変更権行使の必要性があること。
(2)  変更権行使の内容が合理性を有すること。
(3)  使用者が過半数代表の労働組合または労働者代表との間で、誠実に説明協議を尽くしたこと。

11  転居を伴う配置転換
(1)  労働者の転居を伴う配置転換については、後掲(2)の場合を除き、使用者は、次の各号をいずれも充足した場合に、これを行うことができること。
(1)  労働者が当該配置転換に同意すること。
(2)  使用者が過半数代表の労働組合または労働者代表との間で、誠実に説明協議を尽くすこと。

(2)  業務の性質上労働者の転居を伴う配置転換を行うことが予定され、そのことに合理的理由があり、かつ、事前に労働者が配置転換に同意している場合においても、使用者は、説明協議を尽くさなければならないこと。また、労働者本人または家族の療養その他住居の移転が困難なやむを得ざる事由があるときには、使用者は労働者の蒙る不利益を最小限にとどめる配慮義務を負うこと。

12  出向
(1)  使用者と労働者とが労働契約を維持しつつ労働者が使用者の指定した第三者たる事業者の指揮命令下で業務に従事すること(以下「出向」という)については、使用者は、次の各号をいずれも充足している場合においてのみ、これを行うことができること。
(1)  使用者が、労働者に対し、出向先、出向期間、出向先での就業場所、従事すべき業務と地位、及び、出向先での労働条件を記載した書面を交付して、出向に関する承諾を求める申込をなすこと。
(2)  労働者が前号による申込について承諾すること。
(3)  使用者が過半数代表の労働組合または労働者代表との間で、誠実に説明協議を尽くすこと。

(2)  出向の期間は、3年以内とすること。期間経過の時点で使用者と労働者の合意があれば、さらに3年以内の期間で出向の期間を更新できること。

13  転籍
(1)  使用者と労働者が労働契約を解消し、労働者が使用者の指定する第三者たる事業者と新たな労働契約を締結すること(以下「転籍」という)は、労働者の同意を得ずに行うことができないこと。

(2)  前項による労働者の同意は、転籍の時点でなされるべきこと。

14  昇給降給・昇格降格・評価
 昇給降給・昇格降格・評価について、次の各要件を充たさない場合には、使用者が不公正に行ったものとみなすこと。
(1)  判断基準と運用方法について、過半数代表の労働組合または労働者代表との間での誠実な説明協議を経た上で、決定されること。

(2)  判断基準と運用方法について、労働者に開示すること。

(3)  判断結果について労働者に告知し、異議申出の機会を付与すること。

15  制裁・懲戒の規定
 使用者が労働者に対して行う制裁・懲戒に関する規定は、次の各号のいずれか一つでも充たさないときには、無効となること。
(1)  制裁・懲戒に関する規定が存在し、制裁・懲戒に該当する事由と処分内容が定められていること。
(2)  制裁・懲戒に関する規定の制定・改訂の際に、過半数を代表する労働組合又は労働者代表との間で、誠実な説明協議が尽くされていること。
(3)  制裁・懲戒に関する規定が予め労働者に周知徹底されていること。

16  制裁権・懲戒権の行使
 使用者が労働者に対して制裁・懲戒を行うには、次の各号のいずれか一つでも充たさないときには、無効となること。
(1)  制裁・懲戒の対象とされる労働者に弁明の機会を付与したこと。
(2)  制裁・懲戒に関して、過半数代表の労働組合または労働者代表から説明協議の求めがあったとき、誠実にこれが尽くされたこと。

<労働契約の終了>

17  解雇の正当理由
 使用者は、契約関係を維持しがたい正当な理由が存在しなければ、労働者を解雇できないこと。

18  労働者の労働能力または行為を理由とする解雇
 労働者の労働能力又は行為を理由とする解雇が正当となるためには、次の各号をいずれも充足しなければならないこと。
(1)  労働者の労働能力もしくは行為に関して、解雇しなければならない客観的理由が存在すること。
(2)  解雇回避の努力が尽くされたこと。
(3)  使用者が解雇理由に関する説明を尽くし、労働者に弁明の機会が付与されたこと。
(4)  過半数代表の労働組合または労働者代表から説明協議の求めがあったとき、誠実にこれが尽くされたこと。

19  経営上の理由による解雇
 経営上の理由による解雇が正当となるためには、次の各号をいずれも充たさなければならないこと。
(1)  解雇しなければならない客観的な経営上の必要性が存在すること。
(2)  解雇回避の努力が尽くされたこと。
(3)  解雇対象者の人選基準が客観的合理性を有し、かつ、その適用が衡平になされること。使用者は、経営上の理由により複数の労働者の中から解雇対象者を選定する場合には、労働者の勤続年数、年齢、再就職の容易さ、及び、扶養責任等を考慮して、より社会生活上の不利益の少ない労働者を選定しなければならないこと。
(4)  労働者、及び、過半数代表の労働組合または労働者代表との間で、説明協議が誠実に尽くされたこと。

20  解雇予告
 使用者は労働者を解雇する場合、原則60日の予告期間をおく。やむを得ず予告期間をおくことができない場合は、予告期間の賃金に相当する解雇予告手当を支払うこと。但し、天変事変その他やむを得ない事由のために事業継続が困難となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合はその限りでない。

21  解雇理由等の告知
 使用者は、労働者からの請求があるとき、解雇理由及び選定理由について、請求から7日以内に書面で通知しなければならないこと。

22  準解雇
 労働者が辞職せざるを得ない状態を使用者が故意に作り出しその結果として労働者が辞職したときには、労働者の一方的解約告知又は労働者と使用者の合意解約であっても、労働者は次の権利を行使することができること。
(1)  解雇予告手当の支払い
(2)  解雇理由等の告知

23  辞職
(1)  労働契約に期間の定めがないときには、労働者はいつでも解約の申入をすることができること。この場合、労働者は解約申入から一週間以内であれば理由の如何を問わずに解約申入の撤回ができること。解約申入から二週間の経過により労働契約は終了すること。

(2)  労働者が使用者に対し労働契約の終了の申込を行い、使用者がこの申込に承諾の意思表示をした場合でも、労働者は使用者の承諾から一週間以内であれば理由の如何を問わずに申込の撤回ができること。

<履行確保措置>

24  履行確保措置
 使用者が、8(3)(採用内定取消理由の書面交付)、12(1)(1)(出向に際しての書面交付)、18(2)(労働者の能力または行為を理由とする解雇の理由説明と弁明機会付与)、21(解雇理由等の7日以内の書面通知)に違反した場合には罰則を科す。また、9(3)(試用期間中または終了後の解雇における書面交付)において8(3)を準用している部分についての違反にも罰則を科す。

トップへ