06/07/31 中央社会保険医療協議会手術に係る施設基準等調査分科会平成18年7月31日 議事録 06/7/31 診療報酬調査専門組織 平成18年度第1回手術に係る施設基準等調査分科会              (1)日時   平成18年7月31日(月)15:00〜17:15 (2)場所   東海大学校友会館「阿蘇・朝日の間」 (3)出席者  福井次矢分科会長 辻一郎分科会長代理 大江和彦委員   栗山真理子委員 小柳仁委員 永井秀雄委員 中川正久委員   名川弘一委員 羽尻裕美委員 長谷川敏彦委員 本田麻由美委員   松下隆委員 松山裕委員 南和友委員 〈事務局〉 原医療課長 堀江保険医療企画調査室長 福田企画官 上條歯科医療管理官 赤川薬剤管理官 野田医療指導監査室長 太田医療課課長補佐 菊岡医政局総務課課長補佐 他 (4)議題   ○分科会委員の紹介及び分科会長の選出        ○中医協におけるこれまでの検討経緯        ○手術件数と手術成績に関する調査について       ○その他、今後の予定等 (5)議事内容 ○事務局(太田医療課課長補佐)  定刻になりましたので、ただいまより第1回診療報酬調査専門組織・手術に係る施設基 準等調査分科会を開催いたします。開催に当たりまして、医療課長より一言ごあいさつを 申し上げます。 ○事務局(原医療課長)  医療課長の原と申します。今月の10日に医療課長を拝命いたしまして、まだ1ヵ月足ら ずでございます。  先生方には大変お忙しい中、手術に係る施設基準等調査分科会にお集まりいただきまし てありがとうございます。  御承知のとおり、手術に係る施設基準につきましては、平成14年以来、いろいろな議論 がされてきたところでございます。詳細な経過については後ほど説明させていただきます が、次回の改定に向けて、あるいはさらにその先に向けて調査等を行っていただきまして、 詳細な分析をお願いしたいと思います。簡単でございますが、今後ともよろしくお願いい たしまして、私からのあいさつとさせていただきます。 ○事務局(太田医療課課長補佐)  それでは、本日、御出席いただきました委員の御紹介をさせていただきます。お手元の 委員名簿に従いまして、五十音順に紹介させていただきます。  大江和彦委員でございます。  栗山真理子委員でございます。  小柳仁委員でございます。  辻一郎委員でございます。  永井秀雄委員でございます。  中川正久委員でございます。  名川弘一委員でございます。  羽尻裕美委員でございます。  長谷川敏彦委員でございます。  福井次矢委員でございます。  本田麻由美委員でございます。  松下隆委員は少しおくれるという御連絡をいただいております。  松山裕委員でございます。  南和友委員でございます。  また、オブザーバーとして、中医協の鈴木委員に御参加いただく予定にしておりますが、 おくれておられます。  申しおくれましたが、私は医療課で課長補佐をしております太田と申します。よろしく お願いいたします。分科会長選出までの間、議事進行を務めさせていただきます。  まずは手術に係る施設基準等調査分科会の開催要項について御説明いたします。  診報組 手−2、診療報酬調査専門組織運営要綱でございます。  2ページをごらんいただきますと、中央社会保険医療協議会等の概念図があります。中 央社会保険医療協議会のもとに設置された診療報酬調査専門組織の中に分科会がありまし て、本分科会は、その1つの分科会という位置づけになっております。  1ページに戻りまして、第1条、所掌事務のところに書いてありますが、1から6まで について分科会が設置されています。手術に係る本分科会は、5番、手術成績に影響する と考えられる諸因子等に該当するものです。  第3条は分科会の設置等ですが、2 分科会長は、その分科会を構成する委員の中から 互選により選出するとなっています。  3 分科会長は、分科会の事務を総理し、分科会を代表するとあります。  4 分科会長に事故があるときは、その分科会を構成する委員のうち分科会長が指名す る委員がその職務を代行するとなっています。  第4条に定足数がありまして、分科会は、委員の2分の1以上の出席がなければ会議を 開き、意見の確認を行うことはできないとなっています。  第8条は庶務ですが、診療報酬調査専門組織の庶務は保険局医療課において処理すると なっております。  運営要綱の3条 分科会の設置にありますように、手術に係る施設等分科会を進めるに 当たりまして、分科会長の選出をお願いしたいと存じます。どなたか委員の方から推薦は ございませんでしょうか。 ○小柳委員  いただいた資料で本分科会の役割などを考えますと、本分科会は調査活動をして、エビ デンスをもとに外科手術にまつわる制度設計をする会であると見受けられました。委員の 構成を見ますと、外科系の現場のリーダー、社会医学系の研究者、患者団体の方、メディ アの方等を包含していますが、この研究は臨床疫学に関することですので、聖路加国際病 院院長の福井先生が最適任ではいかと思い、御推薦申し上げたいと存じます。 ○事務局(太田医療課課長補佐)  福井先生を分科会長にという御意見がありましたが、いかがでしょうか。  (異議なし) ○事務局(太田医療課課長補佐)  ありがとうございました。それでは、福井先生に分科会長をお願いすることといたしま す。福井先生には分科会長席へ移動をお願いいたします。  では福井先生、議事進行をお願いいたします。 ○福井分科会長  分科会長を仰せつかりました福井です。大役ですが、客観的な立場からこの研究を進め ていきたいと存じます。これからの議事は私が進めさせていただきますので、よろしくお 願いします。  まず、先ほど事務局から説明がありました「診療報酬調査専門組織運営要綱」に、「分 科会長に事故があるときは、その分科会を構成する委員のうち分科会長が指名する委員が その職務を代行する」とありますので、分科会長代理を指名させていただきます。  疫学的なバックグラウントをお持ちの辻委員にお願いしたいと思いますが、よろしいで しょうか。  (異議なし) ○福井分科会長  ありがとうございます。それでは分科会長代理を辻委員にお願いすることといたします ので、よろしくお願いいたします。辻委員には分科会長代理の席へ移動をお願いいたしま す。  それでは、議事に入らせていただきます。まずは、事務局から資料の確認をお願いしま す。 ○事務局(太田医療課課長補佐)  本日の配付資料ですが、次のようになっております。  診療報酬調査専門組織・手術に係る施設基準等調査分科会の議事次第  診調組 手−1 当分科会の委員名簿  診調組 手−2 診療報酬調査専門組織運営要綱  診調組 手−3−1 手術に係る施設基準についての今後の進め方(案)  診調組 手−3−2 手術の施設基準に係る中医協におけるここまでの検討経緯  診調組 手−4−1 「手術件数とアウトカムの関係に係る調査」に関する評価・検証            のスライドのコピー  診調組 手−4−2 「手術件数とアウトカムの関係に係る調査」に関する評価・検証            報告書  診調組 手−5 参考となる海外文献  診調組 手−6 平成18年厚生科学研究「外科手術のアウトカム要因の解析と評価方法          に関する研究」の概要  診調組 手−7 今後の進め方(案)  資料は以上ですが、不足等がありましたらお申し出ていただければと思います。 ○福井分科会長  それでは、本分科会設置に至った中医協におけるこれまでの検討経緯について、資料が 提出されておりますので、事務局から説明をお願いします。 ○事務局(太田医療課課長補佐)  まず、診調組 手−3−1「手術に係る施設基準についての今後の検討の進め方 (案)」をごらんいただきたいと思います。「案」となっておりますが、6月21日に中医 協で了解されましたので、こういう形で進めることになっております。  1 手術に係る施設基準等調査分科会の設置についてですが、この分科会を設置し、別 紙の委員により、医療機関の手術件数や医師の症例数など手術成績に影響すると考えられ る因子について、手術成績との関係に関する調査及び評価を速やかに実施するということ です。  2 検討事項についてですが、次の3つがあります。  ◎ 医療機関の手術件数や医師の症例数など手術成績に影響すると考えられる諸因子に ついて、手術成績との関係に関する調査研究を実施し、その結果を踏まえて評価及び検証 を行う。  ◎ 患者が様々な情報に基づき適切に医療機関を選択することができるよう一層の情報 開示を進める観点から、手術に係る情報開示の在り方(開示する情報の範囲、補足説明等 の情報開示に当たっての留意事項、院内掲示等の情報開示の方法等)について併せて検討 する。  ◎ 検討状況については適宜診療報酬基本問題小委員会に報告し、中医協と意思疎通を 図りながら適切に進めていくこととしています。  3 調査研究の実施についてですが、調査研究計画については、診療報酬基本問題小委 員会に報告し了承を得ることとなっています。  2ページですが、調査研究計画について書いています。  ◎ 研究調査については、患者の重症度、手術成績等の詳細な情報を収集し施設間の比 較を行う必要があることから、前向き調査を行う。  ◎ 医療機関の手術件数のみならず医師の手術件数に関するデータを収集するとともに、 患者の重症度に係るデータ等々についても調査を実施し収集することとしています。  ◎ 対象手術については、実施可能な範囲で最大限の手術数について調査研究を実施す ることとしています。  3ページに今後の予定とありますが、本分科会の設置について、6月に中医協の了解が 得られています。  7月に「手術に係る施設基準等調査分科会」における検討開始とありますが、本日、第 1回目の開催しております。  8月に調査研究計画の決定・調査研究開始となっております。  19年3月を目途に調査研究に関する中間報告を行い、それについて検討を行うことにな っています。  次に、診調組 3−2「手術の施設基準に係る中医協におけるこれまでの検討経緯」を ごらんください。平成14年以降の経緯を簡単にまとめたものです。  ◎ 平成14年度診療報酬改定ですが、医療の質の向上及び効率的な医療提供の観点から、 年間症例数等の施設基準を設定し、基準を満たさない医療機関においては、手術料につい て所定点数の70%を算定することとされました。  ◎ 14年10月ですが、現場に影響が大きかったことから様々な意見があり、手術群をよ り大くくりにしましたので、このことによって手術件数の要件の緩和が行われています。 また、専門医が手術を行った場合は、その6割で手術件数を満たしていると整理されてい るところです。  ◎ 平成16年度診療報酬改定において議論が行われ、次のようになっています。  ・手術の施設基準について技術集積と手術成績に関する調査・分析を継続することとし   て、暫定的措置として施設基準の見直しを実施しました。  ・これまで30%の減算となっていたのを5%の加算に変更しました。一定の施設基準を   満たす医療機関においては5%加算を行うこととしました。  ・ただし、1)当該手術に関し10年以上の経験を有する医師が1名以上勤務している、   2)手術の内容、合併症及び予後等について説明を行い文書で交付する、3)院内に   年間手術件数を掲示する、といった体制が整備されていない医療機関にあっては30%   の減算を行うこととしています。  ◎ 平成16年秋〜17年12月までは次のようになっています。  ・16年秋から医療技術評価分科会において手術件数と手術成績の関係に関する調査が実   施されています。  ・17年8月、当該調査結果を中医協診療報酬基本問題小委員会に報告しています。  ・17年12月、中医協小委員会からの依頼を受け、医療技術評価分科会において当該調査   結果について、より詳細な評価・検証を行いました。  ◎ その結果を受けて、平成18年度診療報酬改定において見直しが行われました。  ・今後、再び診療報酬上の評価を行うことを視野に入れて、医療技術評価分科会の下に   検討会を設置することとされました。それがこの分科会であるということです。  ・手術件数による手術点数に対する加算については、上記検討会における検討結果が得   られるまでの間は、我が国における手術件数と手術成績に関するエビデンスが少ない   ため、具体的な手術件数を提示するにはさらなる検討が必要であること等を踏まえ、   いったん廃止することとしています。  ・患者が様々な情報に基づき適切に医療機関を選択することができるよう、現在加算の   対象となっている手術については、手術実績がある場合の年間手術症例数を院内に掲   示することを、当該手術に係る点数の算定要件としています。  手術件数については、16年度改定では30%減の対象になっていましたが、18年度改定で は算定要件としましたので、これを満たしてないと手術点数はとれないということにされ たという形になっています。  3ページ以降は参考として、これまで中医協で検討されたペーパー、合意されたペーパ ーがつけてあります。以上です。 ○福井分科会長  ありがとうございました。  ただいまの説明につきまして、何か御質問、御意見はございませんでしょうか。 ○南委員  私は心臓外科を担当しておりますが、心臓外科の分野において30%減算を食った病院は どのくらいあるのか、その辺の情報があったら教えていただきたいんですが。 ○事務局(太田医療課課長補佐)  手−3−2の4ページに[平成16年4月](別紙2、別紙3)とありまして、別紙3が その資料だったんですが、今回は割愛させていただきました。申しわけございません。そ れを見ますと、手術ごとにかなりばらつきがあります。件数でどのくらいというのではな くて医療機関の数になっていますので、全体の手術数に占める割合はわからないんですが、 手術をした医療機関で言いますと3割とか、多い施設で4割ぐらいだったと記憶していま す。 ○事務局(堀江保険医療企画調査室長)  手−3−2の2ページの上に「医療技術分科会の下に検討会を設置する」とありますが、 これは中医協で診療報酬改定を行う際の結論だったわけです。手−3−1にありますよう に、医療技術評価分科会の下にではなくて、中医協の基本問題小委員会の独立した分科会 として本分科会はつくられたということです。つながりのところがわかりづらくなりまし たので、クラリファイさせていただきます。 ○永井委員  手−3−2の1ページに平成16年秋から17年12月にかけてのことが書いてあって、「17 年12月、小委員会からの依頼を受けて、医療技術評価分科会においてより詳細な評価・検 証を行った」とありますが、これについては後で説明があるんでしょうか。 ○福井分科会長  次に説明していただく項目になっております。 ○永井委員  この分科会を設けた理由が最初に書いてあるとわかりやすいんですが、この結果がどう だったからどうなんだというところを教えていただきたいと思います。 ○事務局(太田医療課課長補佐)  手−3−2の10ページに3 論点というところがあります。この結果について詳細な評 価・決勝を行っていただきまして、その結果について分科会で取りまとめたわけですが、 分科会においても今後さらなる調査が必要とされています。  論点の(1)のところですが、「現時点において、我が国では、患者の重症度等を考慮し た手術件数と手術成績に関するエビデンスは極めて少ないことから、いったん見直すこと にしてはどうか。  今後、我が国における手術件数とともに患者の重症度等手術成績に影響すると考えられ る医師の症例数等の他の因子も含めて調査を継続して行い、手術件数の増加により手術成 績が一定程度以上向上することが明らかになった時点で、診療報酬上評価を行うことを検 討することとしてはどうか」となっています。  医療技術評価分科会で評価・検証が行われた結果としては、施設基準を積極的に支持す るほどのエビデンスが得られなかったというのが1つです。もう1つは、手術の件数と成 績だけになっていて、患者の背景に関するデータがなかった。患者の背景に関するリスク 調整を行わないと科学的に十分でないのではないかという議論が行われたということです。 件数とともに他のものも因子としてあるので、そういったものも含めて検討すべきだとい う形で医療技術評価分科会でまとめられています。 ○永井委員  検討したけど、エビデンスが出なかったと解釈してよろしいでしょうか。 ○事務局(太田医療課課長補佐)  エビデンスをどこまで見るかですが、諸外国においてはそういった論文が出ています。 医療技術評価分科会でやったものについては、いくつかの手術には統計学的な有意差は認 められています。手術件数がふえれば手術成績がよくなると積極的に解釈するレベルまで は至ってないだろうということで、相関についてははっきりしなかったという形でまとめ られていたと記憶しております。 ○福井分科会長  それでは、「手術件数と手術成績に関する調査」について、御議論をお願いしたいと思 います。まず、昨年度実施されました「手術件数とアウトカムの関係に係る評価・検証」 の結果について、報告を取りまとめられました松山委員から説明をお願いいたします。 ○松山委員  東京大学の松山でございます。資料は手−4−1と4−2ですが、4−2は報告書です。 報告書をスライドの形にまとめたのが手−4−1です。30分ほど時間をいただいて、スラ イドを順番に説明させていただきます。  ◎ まず目的ですが、「手術件数とアウトカムに関する調査」について評価・検証を行 い、年間手術件数とアウトカムの関係について検討するということです。  ◎ 解析対象データは、外保連からお願いがいって、御協力いただいた6学会です。日 本胸部外科学会から日本泌尿器学会まで、ここにあります6学会です。  ◎ 手術の種類は様々な種類がありますが、各学会から提供していただいたデータの中 で年間の手術件数が少ないと検討することが困難ですので、胸部外科学会の場合は冠動脈、 大動脈バイパス移植術、整形外科学会については人工関節置換術とその他2つ、耳鼻咽喉 科学会については鼓室形成術、呼吸器外科学会については肺悪性腫瘍手術、産婦人科学会 については子宮附属器悪性腫瘍手術、泌尿器科学会については前立腺がんと膀胱がんにな ります。  アウトカムは様々なわけですが、各学会から提出していただいたものと、海外の文献で よく用いられているアウトカムを指標としました。胸部外科学会の場合は初回待機的手術 のみですが、周術期の生存率です。入院死亡と術後30日以内の死亡という形をとるのが普 通ですが、すべての学会でアウトカムの値が高ければ高いほどいい結果であるということ を統一するために、この場合は生存率にしています。死亡率を計算する場合には、1から 生存率を引けば死亡率が出てくるということです。  整形外科学会から泌尿器科学会までアウトカムの値はいろいろありますが、いずれもそ の値が高ければアウトカムがよくなるということです。  呼吸器外科学会はアウトカムの1番目の指標としては肺葉切除の生存率ですが、この学 会からは個票データも提供していただきました。各患者さんの性・年齢・ステージ等のバ ックグラウンドのデータも含めたすべての個票データもいただきましたので、リスク調整 をした上で解析をいたしました。  ◎ 手術実施時期については、各学会に1年間のデータの提供をお願いしました。  呼吸器外科学会は個票データがありましたので、1989年からの長期の生命予後のデータ になっています。  泌尿器外科学会は2005年までデータが入っていましたので、3年無再発率がアウトカム ですが、2002年まででデータを切った場合と全部使った場合の両方を解析しています。  ◎ 解析方法については、すべてのデータを同じ統計手法で解析しました。今から説明 します方法は、海外でこの種の検討を行う時の標準的な解析手法となっているものです。  まず1つは、6番のスライドにあるような図が出てきます。横軸は年間手術件数を10件 間隔でグループ化したものです。縦軸がアウトカムで、100%に近ければ近いほど、上に いけばいくほど良いということを意味します。各升目に入っているのは各手術件数グルー プにおけるアウトカムを満たす割合ということになります。これをグラフで表現します。  ◎ 先ほどのグラフを出すための生データは7番の図のようなものですが、それに回帰 分析というものを当てはめます。この回帰直線の傾きがゼロで横一線であれば、年間手術 件数がふえてもアウトカムは変わらないということを意味します。右肩上がりであれば、 手術件数がふえればアウトカムはよくなることを意味します。  ◎ 8番にあるように回帰モデルを当てはめて、傾きの値(手術件数の効果)をデータ から求めます。β1(年間手術件数)がゼロかどうかを統計的に検定して、統計的に有意 であれば関連があるので、β1の値の大きさを臨床的に議論することになります。  ◎ その他の解析ですが、呼吸器外科学会の場合は個票データがありましたので、個人 ごとのリスクの違いを調整して、ステージ・年齢・性別などを調整した上で、手術件数と アウトカムの関係を表す指標であるハザード比(死亡率の比)を求めました。  泌尿器科学会については2002年以降に行われた手術に関しても3年無再発率が出ていま したので、それを除いた解析を補足的に行いました。  ◎ 結果に移りますが、まず冠動脈、大動脈バイパス移植術に関する結果です。  調査施設数は556、総手術件数は17,418件です。1施設あたりの手術件数は年間平均約3 1件です。総手術件数における生存率は99%で、1%だけが周術期に死亡していることに なります。  ◎ そのデータを手術件数別に見たのが11番のスライドです。横軸に年間手術件数、縦 軸に周術期の生存率をとりますと、このような図になります。  ◎ 生存率の平均値の推移を示したのが12番のスライドですが、手術件数が少なくても ほぼ100%生存、件数が多くても99%以上の生存率になっています。周術期の生存率は手 術件数にかかわらず99%前後を推移していることが見てとれます。  ◎ 回帰分析をして傾きの推定値を求めたのが「手術件数増加の効果」と書かれた13番 のスライドです。傾きの値が0.09%、P値というのが0.001と非常に小さいですから、こ れは統計的に有意であることを意味します。手術件数が1カテゴリ、この場合は10件です が、10件増加すると生存率が0.09%増加する。100件だと約1%、生存率の上昇が見込め る。その1%は統計的には有意であることを意味します。  ただ、ここで問題なのは、17,000件という規模が大きいデータですので、統計的有意差 が観察されやすくなります。これは統計学的にはよく知られた現象で、わずかな手術件数 の効果であったとしても、それは統計的には差があって、もう一度研究をやったとすると 1%ぐらいの差が出てくる可能性があるということを意味します。  ◎ これがどのくらい大きいのかということを議論する必要があるために、海外の文献 と比較検討を行いました。それが14番のスライドです。  米国政府の諮問機関であるIOMで2000年にワークショップが開催され、手術件数とア ウトカムの関係について既存文献の体系的なレビューが出ています。  ◎ IOMワークショップ報告書を読みますと、CABGに関する手術件数とアウトカ ムの関係を検討した調査結果が9個出ていました。  その中で調査の質が最も高いと評価されている論文がありました。これはニューヨーク 州の病院のデータを患者ベースで前向きに収集している。重症度などのリスクも調整した 上で、年間手術件数と入院死亡率の関係を検討した論文です。  ◎ そのメインの結果が16番のスライドです。  Hospital Volumeのところに書かれている200未満、200-889、890というのは年間手術件 数です。  Surgeon Volumeというのは医師個人の年間手術件数ですが、日本の場合はデータがあり ませんので見ないとして、右端のTotalでは7.25、4.32、2.85というように年間手術件数 がふえればふえるほど死亡率が減少している。これは統計的に有意であり、これをもって 年間手術件数とアウトカムの間には関係があることを主張している論文です。これはリス ク調整済みです。  ◎ アメリカのデータは死亡率になっていましたので、日本胸部外科学会における周術 期(入院死亡+術後30日)死亡率に直しますと1%ということです。  年間の1施設あたりの手術件数が米国に比べて日本は極端に少ない。日本の場合は年間 100例以上というのはごくわずかです。それに対して米国では200〜800ということで手術 件数は圧倒的に違うということです。  日本の場合は年間10件未満の施設が手術件数が一番少ないところでが、リスク未調整で 死亡率は2.5%です。米国で最も手術件数の多い890件以上のところとほぼ同じ値になって います。  ここからわかることは、日本における死亡率は米国に比べて極端に低い。手術件数は少 ないんですが、98%前後で生存率が推移していることがうかがえます。  ◎ 1つの調査だけでは不十分ですので、JAMAというシャーナルの論文で、CAB Gの26万件のデータを検討した手術件数と周術期死亡率の関係を見たものを紹介します。 結果を19番のスライドに示しています。  年間手術件数が150件以下から450件以上と4カテゴリに分かれています。リスク未調整 ですが、手術件数が増加すると、わずかながら死亡率は減ってきています。しかし日本の データと比べると死亡率が高いです。日本の場合は2.5%前後ですから、死亡率は低いの ではないかということが推察されます。以上が胸部外科学会に関するデータです。  以降、他の学会に関しても同様の表が出てきます。これに関してはサッと結果だけを紹 介いたします。  ◎ 人工関節置換術については約1,000施設からデータをいただきました。その結果が2 1番のスライドになります。縦軸は機能改善割合というもので見ています。  推移を見ますと、機能改善率に関しては手術件数が少なかろうが多かろうが98%前後で 推移していることが読みとれます。  ◎ その傾きの大きさは23番に出ていますが、約1%です。50件増加に対して改善率の 上昇は0.5%ぐらいであることが予想されます。人数が多いので統計学的には有意になり ますが、98%から98.5%で、わずか0.5%の増加でしかないということです。  ◎ 人工関節置換術は股関節と膝関節の両方がありますが、手術件数の増加とともに改 善率は98%前後と高いところで推移していることがわかります。  傾きに関してはわずか1%という上昇ですが、統計学的には有意になっています。  ◎ 28番から31番まで手術に関して出ていますが、手術件数が少なくても多くても改善 率は良好な値で推移していることがわかります。  ◎ 32番の観血的関節授動術についても、手術件数の増加とともにアウトカムが顕著に 増加しているとは積極的には言えない結果になっています。  ◎ 次に鼓室形成術ですが、耳鼻咽喉科学会については調査施設数が10施設のみのデー タです。手術件数は1,961件と多いんですが、10個のデータしか送っていただけませんで したので、グラフだけの表示になっています。  ◎ 全疾患、耳疾患に限った場合、いずれにおいても手術数が少なくても多くても手術 の成功率は8割前後で推移しています。10施設のみですので、これ以上の検討は行いませ んでした。  ◎ 次は呼吸器外科学会の肺悪性腫瘍手術です。これは原発性の葉切のみに限定しまし た。調査施設数は577、総手術件数は約13,000件です。1施設あたりの手術件数は年間平 均約23例です。生存割合の平均値は全体で99%です。  ◎ 41番、42番を見ますと、年間手術件数が少ない場合でも多い場合でも98%前後の生 存率で推移していることが見てとれます。  ◎ 傾きに関しては43番にあるように、年間手術件数が50件増加すると生存率が0.4% 増加することが期待されますが、0.4%というのがどのくらいの大きさをもってるかとい うことが問題になります。  ◎ これに関しては個票データがあって、患者の背景因子のデータを調整した解析がで きますので、それをやった結果を紹介いたします。44番のスライドです。  調査施設数は86、総対象患者数は3,220名です。  調整したリスク因子は、45番に書かれています性別、年齢、術式、手術位置、ステージ、 組織型、郭清度です。  それらの影響を考慮した上で、年間手術件数が周術期の死亡にどのくらい影響を示した のが46番、47番のスライドです。  46番のスライドにハザード比というのが出ています。これは死亡率の比です。1であれ ば全く関係がないことを表します。1より大きければ、手術件数がふえると死亡しやすい ということになります。  これを見ますと、性別、年齢等々の影響を調整すると、手術件数は10件増加でハザード 比が0.98倍ですから、2%ほど死亡率が減ると予想されますが、統計学的な検討をみたP 値は23%という大きな値になっており、統計学的には有意ではありません。  性別の場合は女性に比べて男性は1.43倍死亡しやすい。年齢では10歳増加すると1.25倍 死亡しやすい。  次のページに移りまして、ステージ1に比べてステージ2は約2倍、4になると6.64倍 死亡しやすい。これは医学的には当然のことなのかもしれませんが、リスク要因を調整す ると手術件数の効果が消えてしまうことを意味します。  肺がんに関して、リスクを調整しない場合はわずかながら手術件数の効果が見られたと 申しましたが、ステージ等の重要なリスク因子を調整してしまうと、そちらの因子の方が 大きく影響が出てきて手術件数の効果が見られなくなります。  ◎ 肺がんに関しても、先ほど申しましたIOMワークショップ報告書に3件の論文が 出ていまして、葉切手術に関する検討がなされています。その結果が49番ですが、年間手 術件数別の入院死亡率を示しています。  4カテゴリに分かれていますが、Observed Mortality Rateのところがリスク調整をし ない場合の死亡率になります。手術件数が一番少ない場合は3.05で、手術件数がふえると 死亡率が減っていくことを意味します。  Risk-adjusted rate relative to 4th groupというのは、手術件数が多いグループに比 べて死亡率がどのくらい増加しているかという差を表すものですが、肺がんの葉切手術に ついても手術件数が増えると死亡率が減っていまして、統計学的にも有意であることを意 味しています。  ◎ 個票データがありましたので、葉切手術について日本のデータでも同じ解析を行い ました。調節する因子は異なっています。日本では先ほど申しましたいくつかの因子を調 整しました。  未調整の死亡率は、手術件数が少ない場合は2%、多い場合は0.9%まで死亡率は徐々 に下がってきています。リスクを調整すると、手術件数が少ない方が死亡率は高くなって います。  ◎ 51番はリスク未調整と調整済みの比較ですが、いずれも日本の場合は統計学的に有 意差はありません。性別、年齢、ステージ等の影響が有意に出てくるという結果になって います。  ◎ 日本と海外のリスク調整死亡率の差を見ますと、日本は半分ぐらいです。49番、50 番が比較しやすいかと思いますが、海外のデータでは手術件数が一番少ないカテゴリの場 合は最も多い場合に比べて死亡率が1.65%上昇しますが、日本の場合は0.77%で、死亡率 の大きさ自体が違うというのはCABGの場合と同様だと思われます。  ◎ 次は卵巣がんですが、これは474施設のデータです。アウトカムは5年生存率にな っています。53番、54番、55番に結果が出ています。5年生存率ですから、かなりのばら つきが見られます。手術件数10件未満では63%、11〜20では66%、21〜30では61%、31件 以上では76%というように5年生存率の値が低くなっています。  傾きが3.12%という大きな値になっています。年間手術件数が10件増加すると5年生存 率が3%ふえる。これは先ほどのデータと比べると大きいと言わざるをえないかもしれま せん。ただし、腫瘍ですので、先ほど肺がんで申しましたようにステージ等のリスクを調 整した上での検討が必要ではないかということが問題としてあがってきます。  手術件数のみで、リスクを調整しない場合とリスクを調整した場合ではどうなるかとい うと、リスクを調整すると手術件数の効果は小さく出ることが予想されますので、卵巣が んに関してもリスクを調整すると傾き3.12%より少ない傾向が見られることが予想されま す。  ◎ 最後は前立腺がんと膀胱がんです。前立腺がんについては約1,200施設のデータで 3年無再発率を検討したものです。57番、58番では、手術件数にかかわらず3年無再発率 は80%前後で推移しています。統計学的にも有意差は見られています。膀胱がんに関して も同様です。年間手術件数が多くても少なくても70%前後で3年無再発率が推移していま す。  ◎ 以上をまとめさせていただきます。散布図、棒グラフがありました。回帰モデルに よる傾きの値を推定しました。その解析結果より、手術件数の増加に伴ってアウトカムが よくなる傾向が統計学的にはいくつかの手術において見られました。具体的には11の手術 を検討しましたが、そのうち5個には統計学的な有意差が見られています。  しかし、手術件数増加による「効果の大きさ」は極めてわずかと言えると思います。ア ウトカムの平均値はいずれの手術においても良好な値で推移していることがわかりました。  したがって、「手術件数が少ないとアウトカムが悪い」、あるいは「手術件数の増加に よりアウトカムがよくなる」と直接的・積極的に解釈することは、このデータからだけで はできないと言わざるをえないと思います。  患者の重症度等のリスク要因を調整することが海外では標準的に行われています。今回 の我が国のデータでは、肺悪性腫瘍手術(葉切)のみでそのようなことが実施できました。 そのようなことをしていくことが今後必要だと思われます。  海外での調査と比較した結果では、我が国と諸外国では、疾病罹患率や重症度分布が異 なることから、年間手術件数や手術成績等が乖離していることが示唆されました。したが って、海外における調査結果を直ちに我が国に適用することは困難であると言えると思い ます。以上です。 ○福井分科会長  ありがとうございました。  ただいまの説明につきまして、何か御質問、御意見がございましたらお願いいたします。 ○南委員  膨大なデータを整理していただきまして、大変参考になりました。胸部外科学会や冠動 脈外科学会から出されたデータをもとにこういう調査をされたと思うんですが、もともと のデータは手に入ってないと思います。日本のデータというのは、例えば冠動脈のCAB Gに関して出てくるデータはすべて待機手術に対して何%という死亡率を出してるんです が、海外のデータは、すべてのデータを含めてCABGが何%と出してるわけです。私は 30年間、ドイツで心臓外科をやって日本に帰ってきたんですが、ドイツでも合計してCA BGが1.8%とか、それが少なくなっていって1.5%というふうに出しています。  先月行われた冠動脈外科学会において報告されたデータを見ても、すべて待機手術では 1.2%なんですが、緊急手術を含めた場合はどうなるのかというのはディスクローズされ てないんですね。外部の人を混乱させるようなデータで、先生が言われたように、術数が 少なくても死亡率は変わらないという結果が出ているのではないか。イマージェンシーを 含めると死亡率が5%とか8%というデータがいくらでも出ているわけですから、そうい うものと定期手術の1%を比較することはできないと思います。  ニューヨークのデータを出されましたが、あれは前向きのデータで、すべてのデータが 入ってるということです。私がおりましたドイツのデータも、リスクファクターを含めた ユーロスコアというのがありますが、ユーロスコアを加味してデータを出してますから、 その辺が明確に出て、症例数が多いところは死亡率が少ないというのがはっきり出ていま す。先生の場合はそういうデータは入ってないというか、情報として来てなかったんでし ょうか。 ○松山委員  緊急手術のデータはありましたけど、件数があまり多くなかったので、待機的手術のみ にしました。 ○南委員  統計をとる時に、アンケートの回収率が問題になりますけど、日本のデータで60%にな ることはほとんどないんですね。40%のデータは未調整のままで統計が出てきてるという のも大きな問題ではないかと思います。そのために症例数がインパクトとして死亡率に表 れてこない一つの原因ではなではないかと私は思っています。 ○福井分科会長  松山先生が説明されたこのデータが不十分だという判断をされて、今回、前向きに(プ ロスペクティブに)調査をしようということになりましたので、どういう点を組み入れた らいいかについて御意見をいただければと思います。南先生がおっしゃったのは、緊急手 術の症例を組み入れたらどうか、そういうファクターも考慮する必要があるという御意見 だと思います。ほかにいかがでしょうか。 ○小柳委員  同じ心臓外科の小柳ですが、統計のコンプリートネスに関しては、胸部外科のデータ回 収は徹底しています。ボランタリーにデータが出てくるのは50〜60%ですが、そのあと事 務局が非常に努力しておりまして、郵送あるいは最後は電話作戦ですね。ですからコンプ リートネスは95から97%、世界で一番いいと思います。97%のコンプリートネスで脱落す る施設は、600施設のうち20施設ぐらいです。脱落する施設は症例が少ないので、95から9 7%の症例を拾っていると理解していいと思います。 ○南委員  小柳先生が言われたように、追跡調査をするとある程度データが集まるということはあ るんですが、データが自己申告だというのが大きな問題なんですよ。ある施設で100例の 手術をして10人死んだ、そのうち5人は待機手術だった、5人は緊急手術だったといって も、第三機関が入ってちゃんと見て、ディスクローズされたということがないと、データ として間違った統計になるんじゃないかと思うんです。 ○福井分科会長  客観的なデータ収集をするにはどうしたらいいかという議論は後ほどお願いしたいと思 います。 ○永井委員  私は消化器外科をやっておりますが、きょうの統計の中には消化器外科関連はありませ んでした。私たちが扱う多くの症例はがんの症例ですが、スライドの53、54に子宮附属悪 性腫瘍手術というのがあります。ほとんどが卵巣がんだろうと思うんですが、このデータ が出ていて、β1の傾きが3%という説明がありました。この場合、手術手技が5年生存 に関係するというよりは、卵巣がんは補助療法が非常に大事ですので、手術手技以外のフ ァクターがかなり大きいのではないかと考えるんですが、いかがでしょうか。 ○松山委員  おっしゃるとおりだと思います。アウトカムに関しては各学会が5年生存率で検討した いということで、5年生存率以外のものはなかったので、せざるをえなかったということ です。5年生存率に関してはおっしゃるとおりだと思います。ほかの要因の方がものすご く強いので、その辺を調整した、あるいは検討した前向きのデータが必要になると思いま す。 ○永井委員  リスクの中にステージというのがありますが、これはリスクというよりは病気の進行度 ということだと思います。私たちがリスクという場合、糖尿病の程度とか、腎不全を合併 して透析をしているとか、心筋梗塞の既往歴があるとか、そういうことをリスクと私ども は考えているわけですが、その調査はされたんでしょうか。 ○松山委員  そのバックグラウンドファクターについては調査しておりません。呼吸器外科学会のデ ータのみです。 ○永井委員  臨床の第一線でやっている者として、そちらのリスクが非常に大きいなという気がいた します。 ○名川委員  今の議論を拝聴していますと、リスクの話も含めて、いろいろなファクターを入れた解 析が必要であるし、一方、これから前向きな試験あるいは調査を行っていく上で回収率も 重要であるということですが、この2つは相反することだと思います。細かいデータを集 めようとすると、今は強制力のある第三者機関はない状況ですので、調査協力という形で 自己申告に基づくしかなく、アンケートの回収率が悪くなる。この辺のバランスをどうす るかということで、まず何を調べるかというファクターを出して、その上で、どの辺まで 回答できるかということを検討すべきではないかと思います。 ○福井分科会長  それは研究計画をつくるところでの議論にもなるかと思います。 ○辻分科会長代理  27ページの54番のスライドで5年生存率というのがありますが、これは各施設ごとに手 術をした患者さんの生存率を追跡してらっしゃると思うんですが、何%ぐらいの追跡率で しょうか。途中で行方不明になったりする患者さんがいますが、行方不明になった方は予 後が悪いという状況がありますので、行方不明の率が高いデータの信頼性には問題があり ます。その辺の追跡精度の問題です。 ○松山委員  おっしゃるとおりだと思いますが、私のところに来たデータにはそういうデータはあり ませんでした。この施設の5年生存率はいくつというデータのみです。 ○大江委員  昨年度、松山先生の分析の時に医療技術評価分科会の委員として私も加わっておりまし て、松山先生と一緒に解析をお手伝いしたものですから、その段階での経緯を説明してお かなくてはいけないかなと思いました。  当初、医療技術評価分科会では外保連から各学会に調査・分析の依頼があって、その中 でいくつかの学会が協力されて、それぞれお持ちのデータで解説結果を出されました。各 学会が異なった統計的な方法で解析をされていましたので、全体に対して同じ方法で統計 の専門家に解析をしていただこうということになりまして、既に集まってしまったデータ だけを松山先生のところが引き取られて、同じ方法で解析をされました。データ収集の段 階から、つまり研究デザインの段階から統計の松山先生が加わってされたわけではないこ とから、質疑があったようないろいろな点での不十分さがあるということです。 ○福井分科会長  そのような経緯がありまして、今後、研究計画のところからこの分科会がかかわって、 出てきた結果について、今あったような疑念が出ないように、みんなが同じような解釈が できるような研究をしたいというのが、この分科会設置の意図だろうと思っております。 ○南委員  私は統計学に詳しいわけではないんですが、心臓外科で年間20例しかしてない施設と年 間200とか500やってる施設がありますよね。そういうのを統計学的に比較することはでき るんですか。20例しかやってないところで1人死んだらパーセンテージが上がりますけど、 200だとそうはいかない。統計学的にはできるかもしれませんけど、臨床的に意味はある んでしょうか。 ○松山委員  私は統計学者ですから臨床的にといわれると困りますが、統計学的には可能です。 ○南委員  我々臨床家は惑わされるというわけじゃないんですけど、どのように解釈したらいいの かと思う時があります。その辺が統計学者と臨床家との解釈の違いになるんじゃないかと 思うんですが、小柳先生、どうなんでしょうね。 ○福井分科会長  20症例のところと500症例のところを比べていいかというのはフィロソフィカルな問題 も入ってまいりますので、ここで比べるべきでないとか比べられないという結論は今のと ころは出ないと思います。この分科会で調査をした後、そのような議論にもっていければ と思います。  1つだけ確認したいのですが、先ほどの冠状動脈疾患の手術ではアメリカのデータは19 89年のデータで、日本のデータは2003年のデータです。重症度もそうでして、わずかな手 術しかやっていない病院では、もともと軽症の患者さんしか受け入れないという病院の体 制になっているのではないでしょうか。時期が異なるデータを比較していることについて、 何か検討はされたんでしょうか。 ○松山委員  アメリカのデータは古いわけですが、その検討はしておりません。 ○長谷川委員  ここから何を読み取るかという問題ですけど、リスク調整ができるデータではほとんど 有意差はなかった。リスク調整をしない場合はポジティブな結果が数件あったということ ですが、リスク調整をしない限りにおいては断定できないわけですね。しかも数例という のは限られた情報しかない。オーバーオールの結論は、経験というものが技術の結果に影 響を与えない。専門医であろうが一般医であろうが、極論をいえば、卒業して1年目の内 科の先生を連れてきて手術させても大丈夫だということなんでしょうね。 ○松下委員  そういう解釈をするのは間違いで、これは医師を評価してなくて、たくさんやっている 病院には上手な医師だけがいるという保証はどこにもない、と解釈すべきです。大学病院 では若い医師に研修のために手術をやらせることは普通にあることですが、経験のある医 師が前立ちをすれば、経験のある医師がやるのと同じ成績が出るかというのは別の問題で す。だれが考えても医師の技術と手術結果には関連があるはずで、医師個人の治療成績で はなく、病院の治療成績から推測しようとしているところに無理があると思いますし、今 みたいに結びつけて解釈してはいけないと思います。 ○福井分科会長  専門家のグループについてのデータですので、専門家でない医師にもそれが当てはまる というのは乱暴な議論だと思います。 ○長谷川委員  もともと私も外科医ですから、経験が豊かな人ほど手術成績がいいというのは直感的に そう思っております。それを証明するのかということが議論になりますが、諸外国では証 明する以前の問題で、常識になってますよね。しかし一方で、先ほどおっしゃった施設も しくは術者までおりて評価するしないということになると大変な研究デザインになってき ますよね。  EBMの観点から言えば、コントロールと実際というものをとって両方を比べるという ことでしか本当の証明ができないとなると、こういうケースは不可能ですね。ここの施設 では3件しかしない、ここの施設では100件しようというふうにランダマイズにアロケー トして、何年か後の結果を見るということは倫理的に許されない。最大限できることは、 日本の全体をリプリゼントする。つまり代表性の高いデータベースをつくって、あるいは 既にあるものを使って一定の結論を導き出すという方法しかないですよね。こういうこと につきましては。  今回の調査も大変貴重な、それなりに検討対象として使うべきデータではありますが、 そこからどういう結論が得られるのか。誇張かもしれませんけど、意味がなかった。した がって技術には差はないので、例えば診療報酬の差…。諸外国では診療報酬を手術件数で やってるところはありませんで、普通は規制ですね。何件以下の施設にはやらせないとい うのが基本ですが、ここでいうと3件であろうが100件であろうがやってる施設は手術成 績に変わりはないので、規制してやらせる必要はない、どこでも勝手にやらせればいいと いう結論なんでしょうね。 ○福井分科会長  そこまでみんなのコンセンサスが得られるようなデータになってないということですの で、もうちょっと議論を進めてからになります。 ○長谷川委員  何が言いたかったかというと、何をしたいかによってデザインが決まってくるんですね。 科学的にこれをきちんと証明しようと思ったら膨大なデータと膨大なエネルギーと膨大な 時間がかかります。不可能です。特に手術件数が非常に少ない疾患について成績を証明し ようと思うと十数年もかかっちゃう。削られる時にはすべて終わってるということになり ますので、目的によってデザインが決まってくると思うんです。 ○福井分科会長  研究計画のディスカッションを行いますので、そこでそのような御意見をいただければ と思います。  時間が少なくなってまいりましたので、次に進ませていただきたいと思います。次に、 参考となる海外文献について、資料が提出されておりますので、事務局から説明をお願い します。 ○事務局(太田医療課課長補佐)  診調組 手−5「参考となる海外文献」でございます。ここにありますデータの取り扱 い等について米国の事務局と調整中ですので、次回の会議、場合によってはその前に先生 方にお送りしたいと思っております。  先ほどから出ておりますIOM(INSTITUTE OF MEDICINE)というところで膨大なデー タからレポートをまとめております。これが非常に参考になると思いますので、事務局の 了解を得られましたら皆様方に配付したいと思っております。  そのほかNew England Journal of Medicineの論文とか、JAMAの論文とか、こうい ったものも参考になるのではないかと思っております。簡単ですが以上です。 ○福井分科会長  ただいまの説明につきまして、何か御質問、御意見はございますでしょうか。  次回には資料を出していただけるということですね。 ○事務局(太田医療課課長補佐)  調整しておりますので、次回には配付可能だと思います。 ○南委員  私がおりましたドイツの施設で4年ほど前にヨーロッパのジャーナルに出した関連文献 があります。リスクファクターを踏まえた死亡率ということで、我々の病院で年間4,800 ぐらいの手術をやってますから、そこから出てくるデータを4年ほど前にヨーロッパのジ ャーナルに出しておりますので、それをお送りしたいと思います。 ○福井分科会長  それもよろしくお願いしたいと思います。 ○永井委員  文献が3つだけというのは、もっとあるだろうという感じがするわけです。先ほど議論 になった専門医が術者になるのか助手になるのか、この成績はどうかというのも文献があ ったはずなんですね。文献を整理してリストアップしていただけるとありがたいんですが、 そういうことはできませんでしょうか。自分でも調べたいと思いますが。 ○事務局(太田医療課課長補佐)  なかなか大変な作業になっておりまして、我々もできるだけ関係学会等に聞くようにい たしますが、先生方から御推薦等がありましたらお願いしたいと思います。3つというこ とですが、1つ目というのは非常に多くの文献をレビューしてますので、これが一番参考 になると思います。ほかに参考となるデータ等がありましたら、おっしゃっていただけれ ば事務局で整理したいと思います。 ○長谷川委員  私は2000年までの文献は全部レビューしてあります。関連文献が740あって、そのうち いろんなクライテリアでカットしてきて、162の文献は市販に頼るんですが、EBMの手 法に似たような手法でやります。最後、手術の説明変数がなかったり対象が若干違ったと いうので、88の効率の高い論文をレビューしてますので、新しい文献が必要であれば、20 00年以降だけあればいいということになります。 ○福井分科会長  私もそれをお願いしようかと思っていたんですが、2000年までのIOMと、もし長谷川 先生がシステマティックレビューをされているようでしたら、それを踏まえて、それ以降 の何年間かの分について新たにシステマティックレビューを行った上で、研究計画書をつ くらないと、後で、こういうところが抜けてるという話になるのではないかと思います。 ○長谷川委員  2002年に特別研究事業をいただきましてサイカゴールの研究をしましたので、2002年ご ろまでの文献はレビューしてあります。あと4年間分ぐらいを足せばいい。ちょっとピッ クアップもしてありますので、少し作業をする必要はあるかと思います。 ○福井分科会長  次回、長谷川先生の資料もいただけますか。どういうキーワードで、どういうデータに アクセスをして、何件ぐらいあって、一番クオリティの高い文献はどういうものがあると いうことぐらいはみんなで把握しておいた方がいいのではないかと思いますが。 ○長谷川委員  去年の夏にやったのでは10件ぐらい足していって、EBMの指標によってやってみまし た。日本でやられているものは私がやった研究は点数がよくて、ほかの研究は点数が悪か ったんですが、諸外国でも4件ぐらいあったような記憶があります。同じようにやらせて いただいてもいいですけど。 ○事務局(太田医療課課長補佐)  長谷川先生にも御示唆をいただきながら、関係の先生方ともお話しさせていただいて、 次回までそれほど日にちがありませんので、どこまでシステマティックなものを出せるか わかりませんが、主要な論文を集めて、この場に提出したいと思います。 ○福井分科会長  よろしくお願いいたします。  それでは、本年度に実施する手術件数と手術成績に関する調査について御議論いただき たいと思います。  先ほど松山先生から御説明いただきましたように本事項に関する調査研究については昨 年度においても実施されているわけですが、患者の重症度についてデータが得られていな いことや、医療機関の手術件数のみで医師の手術件数についてデータが得られていない等、 さらなる調査が必要とされるところです。  こうした観点も含め、本年度実施する調査研究について検討していただくわけですが、 大江委員が厚生労働科学研究補助金を活用して本事項に係る調査研究を本年度から実施さ れることとなっております。大江委員から研究計画についてまず御説明いただき、その上 で御議論いただければと思いますので、まず大江先生から説明をお願いいたします。 ○大江委員  これは厚生科学研究の御説明で、この分科会の調査そのものではありませんから、厚生 科研の研究者の立場として説明したいと思います。この分科会の調査・分析と、今から御 説明する厚生科学研究の位置づけの違いについて御理解いただく必要があるかと思います。 厚生労働科学研究費補助金による研究というのは本年度の他の厚生労働科学研究と同様に、 本年2月に公募されたものに私が研究者として応募しまして、この分科会設置が決まるよ り以前に採択されていたものですから、本分科会の趣旨とは独立に研究が計画されている ということを御了解いただきたいと思います。  ただ、研究テーマとしてはオーバーラップが多いということでありまして、これは理由 がございます。昨年度、診療報酬基本問題小委員会の下にあります医療技術評価分科会で 委員を務めた経験を踏まえまして、昨年度の解析を見ておりましたところ、手術症例数以 外のいろいろな要因をきちんと解析する必要があるのではないかと感じておりました。  そういうわけで、「外科手術のアウトカム要因の解析と評価方法に関する研究」という ことで研究計画を立てたという事情がありますので、結果的に本分科会の調査目的とかな りオーバーラップしている部分が多いということです。  元来、本分科会の趣旨とは別個に研究される厚生労働科学研究ではありますが、オーバ ーラップの範囲が多いということから、同じ国民の税金を使ってなされるものであり、活 用していただく部分があれば活用していただくのは大変結構なことではないかと思います し、この分科会から御意見をいただいて厚生科学研究の研究計画をブラッシュアップさせ ていただくことができれば相乗効果があると思いますので、報告させていただくというこ とであります。  それでは、診調組 手−6をごらんいただきまして、現時点での研究計画の概要を説明 させていただきます。主任研究者は私で、分担研究者は東京大学の松山先生です。  研究の目的は、外科手術のアウトカムに影響を与える患者外の要因、具体的には外科医 あるいは手術チームの技術経験等による要因、施設の医療提供水準に関する要因、手術・ 周術治療プロトコルの差異、手術術式選択基準の差異など、こうした患者外の要因を、患 者のリスク調整を行った解析を行うことによって明らかにしたいということです。特にこ れまで施設における手術症例数だけがアウトカムへの主たる影響要因とみなされる傾向が ありましたが、それが検証できるかどうか、さらに実際には多くの要因がどのように関与 しているのかを検討し、今後の適切な医療技術評価の資料に資することを目的としていま す。  必要性ですが、外科手術のアウトカムに影響を与える要因として次のものが考えられま す。  1)患者側の術前疾患のリスクを含めた要因  2)外科医チームの技術要因、特に術者と手術チームの技術水準や経験に関する要因  3)当該医療施設が有する手術医以外の手術関連の周辺条件(麻酔医、コメディカルス    タッフの技術水準や経験要因等)  4)手術および周術期の治療プロトコルの差異  5)手術術式選択基準の差異  これまで1)については比較的よく研究されていると思いますが、2)〜5)がアウト カムに与える影響については十分な解析がなされていないのではないか。それにもかかわ らず診療報酬制度では単に保険手術術式名の違いだけで点数基準が定められており、一部 の手術においては付加的に施設あたりの手術年間件数の多寡によって加算基準が定められ ていました。特に後者については十分な科学的根拠がないにもかかわらず導入されたとい う指摘があります。  平成17年度の中医協診療報酬基本問題小委員会医療技術評価分科会において学会から提 出されたデータを再分析した結果、施設手術症例数と手術アウトカムとの関連は認められ ず、いったん制度は中止されました。  しかし、今後さらに診療報酬制度において外科手術を適正に評価するためには、患者要 因以外の技術要因や施設要因などが外科手術のアウトカムにどのような影響を与えている かについて科学的根拠が必要とされているのではないか。こういうバックグラウンドで研 究を検討しました。  研究計画を立てる上での留意点は次のとおりです。  1)スケジュールですが、本研究は医療機関からの質の高いデータの回収と統計学的な 精度を保つ上で十分に高い回収率を必要とし、そのためには十分な準備と方策検討に時間 が必要です。また調査するデータ項目についてもそれぞれの手術領域の専門家と十分な協 議が必要です。したがって、単年度で短期間に実施して性急な結論を得ることは厳に慎む べきであると考えています。  2)研究結果の解釈や利用の限界ですが、本研究では、一部の手術術式についてしか調 査が行えません。術式選定は一定の基準に基づいたものではなく、主にこれまでの委員会 等での検討の過程において学会の協力が得られ取り上げられてきたものです。調査に際し て学会の協力が得られた手術だけが評価・検討の対象となり、そうでない手術については 俎上に乗せられないということでは、手術の評価検討を行う研究として公正かつ客観的な 議論ができません。  一方、仮に主要な手術について網羅的に調査するには、主要な全手術術式について全医 療機関からのデータを一定の割合でランダムサンプリングして調査する必要があり、その ためには通常のアンケートのような調査方法ではなくて、全医療機関からレセプト提出が 電子化される平成22年度以降を視野に入れて電子的なデータ収集方法の検討を考えていく ことが現実的であろうと思っています。  以上のことから、本研究で得られた成果は、調査対象となったいくつかの手術術式につ いて個別に評価するために使用されるのではなく、むしろ今後のより本格的な調査研究を 計画するために資するべきであると考えています。  研究スケジュールですが、6月から9月にかけて調査項目の確定と調査票を作成して、 関連する学会への調査と検討の依頼・協議を行う。既に一部の学会とは始めていますが、 9月ごろまでにそれを進めます。  1)協議の結果、先行調査対象となる手術術式は5手術程度を想定していますが、9月 中旬に医療機関への調査を依頼して説明をします。  2006年10月〜2007年3月まで6ヵ月を前向き調査期間として、この間に当該医療機関を 退院した患者について調査票の回収を行うことを考えています。  2006年1月上旬に前半の調査結果を回収して傾向を分析し、2月中旬に前半部分の解析 をして中間報告を作成する。次の年度にずれ込むかもしれませんが、3月までの分を回収 して、4月に検討したいというスケジュールで考えております。  本年度調査で対象となった手術については予備調査と位置づけて実施し、問題点を検討 した上で次年度以降に再調査をしたいと考えています。ただし回収率やデータの精度上、 十分な解析結果が得られたと判断された場合には次年度に本調査を行わないこともあるか と思います。  2)協議の結果、準備にさらに十分な時間が必要となった手術術式については、今年度 後半に関係学会と調査方法について検討を重ねた上で、2007年度の早い時期に、1)と同 様の方法で実施したいと考えています。  これまでの進捗状況ですが、関連学会への協力依頼は、現在、関連するいくつかの学会 に御説明しているところです。一部の学会からは承諾をいただいておりますが、多くの学 会では詳細を検討していただいてるところです。  調査対象術式と調査項目ですが、4ページの表1に対象術式候補リスト(案)を示して います。昨年度までの調査結果を踏まえて、手術件数、データが集めやすいこと等を総合 的に判断してピックアップしました。  心臓・大血管系手術については冠動脈バイパス術と経皮的冠動脈インターベンション。 呼吸器系では肺悪性腫瘍手術と胸腔鏡下の肺悪性腫瘍手術。消化器・消化管系では食道が ん・食道全摘術、膵頭十二指腸切除、直腸がん・直腸切除術。  次のページにいきまして、結腸がん・腹腔鏡下切除術。乳腺・内分泌系として乳腺悪性 腫瘍手術。泌尿・生殖器系手術として子宮悪性腫瘍手術と前立腺悪性腫瘍手術。筋骨格系 手術として人工股関節置換術と人工膝関節置換術。脳神経・脳血管手術として未破裂脳動 脈瘤手術。以上14手術を対象として、現在、協議を行っているところであります。  6ページの表2に調査対象項目(案)を示しています。これについても詳細は今後検討 が必要ですが、大きく3つのカテゴリーのデータを収集したいと考えております。  1.医療機関のプロフィールですが、これは総ベッド数、ICU・CCUベッド数など 医療機関の客観的なデータと、当該手術の年間実施件数などです。  2.外科医師のプロフィールですが、当該医療機関で外科手術チームとして加わる外科 系医師全員について匿名化した上で、当該手術の経験症例数をカテゴリーに分けて挙げて いただく。知識・技量・経験を反映するような専門資格がその手術領域である場合は、そ の専門資格等を有するかどうかという情報を収集する。  ここで主たる術者としての経験症例数というのがありまして、これは何を指すべきかと いうことを中で議論しております。大学病院の場合、主たる術者とそれを指導する術者の どちらの経験症例数をとるかという問題がありますが、チームとして把握する方法があり うるのではないかと思っています。  3.調査対象機関における手術症例ごとのプロフィール要因ですが、これは症例ごとの 個票ということになります。  ・疾患の重症度・ステージ等をあらわす当該疾患の指標  ・手術における重要なリスク要因や併存疾患の有無などいくつかの患者側の要因  ・手術分類コードだけでは表現できない、重要な手術方法の特徴  ・手術中の重要イベント  ・入院中の手術以外の主要な併用治療の有無  これらを要因としてとらえ、収集できないかと考えています。  ・アウトカム指標としては、単に周術期死亡率だけでなく、在院日数および当該科から   転科した場合はそこまでの日数など  ・入院期間中の重要な合併症とその回復程度など  ・退院時の患者の活動度を含めた転帰など  こういったものをアウトカム指標として取ってはどうかということです。  以上のような計画を立てておりますが、今後、どのような手術を対象にどのようなスケ ジュールで進めていくか、この分科会でどのように報告させていただくかということは、 御意見をいただければ、可能な限り研究計画に反映させたいと考えております。  最初に申し上げましたように、これは厚生科学研究としてなされますので、この分科会 のミッションと合うのかどうかというのは検討していただく必要があろうかと思います。 分科会が期待されるスケジュール、期待される規模の研究が厚生科研で行えるという保証 はどこにもありませんので、そのあたりを御検討いただく必要があるかと思います。以上 です。 ○福井分科会長  ありがとうございました。  ただいまの説明につきまして、何か御質問、御意見がございましたらお願いします。 ○南委員  心臓外科の手術後のアウトカムを調べていこうということですが、心臓外科には大きく 分けて冠動脈、大血管、小児外科、弁疾患があります。欧米では70%ぐらいが冠動脈の外 科なんですが、日本では40%ぐらいだと思います。冠動脈の疾患は1%か2%の死亡率な んですが、弁疾患は4%、大血管は7〜10%の死亡率になります。小児に関しても大きな ばらつきがあります。我々心臓外科医としては、手術をしたことによるリスクがどれほど 高いか低いかということを見ていく場合、リスクの高い疾患を含めないと有意差が出てこ ないのではないかと思います。 ○大江委員  含めたい疾患はたくさんありまして、御指摘のとおりです。私も申請書を書いた2月の 段階では大血管の疾患も含めていろいろ考えてはいたんですが、初年度に調査対象とでき うる範囲はこの程度かなということで、ちょっと少なめにしています。データ収集に御協 力いただけるのであれば、そのあたりの疾患を含めることは手法としては可能だと思いま す。 ○南委員  それは何ら支障はないと思うんですね。私は岡山大学の佐野先生を知ってますけど、あ の先生がきちっと押さえておられるデータというのは、冠動脈外科学会が押さえているデ ータよりもっと緻密なデータがありますし、いくらでも出てくると思います。ほかの疾患 に関しても我々データを出す側からしてみたら大きな問題でもないと思うんですね。ぜひ 加えていただきたいと思います。 ○長谷川委員  さっき申し上げたことの続きみたいなことですが、研究の目的によって研究デザインが 変わってくるだろうと思うんですね。私は2つ、これに関連する研究をしましたし、最近、 それに近い研究を2つやっておりますが、サンプルの対象、分析の方法、リスク要因の選 定、それは最終的にどういうことを証明したかによって変わってきます。  僣越ながら申し上げると、手術件数と診療報酬の問題は終わってしまった。4月以降、 診療報酬の状況が大きく変わって、たくさん手術すればたくさん金がもらえるという話は もうないんだろう。残念なことですが、専門学会は船に乗りおくれた。  手術件数と死亡率、あるいは手術の成績に関連しての議論というのは国際的には議論は 終わって、それをどう使うかという議論になってるんですが、診療報酬に使うということ はないんですね。どこの国でも危険なので規制をする。何件以上の施設基準では手術をし てはだめと。もしくは情報公開して、一般の方に選択していただく。  どっちにするかによってデザインが変わってくると思います。私個人としては、近年の 安全の観点から、どのくらいの件数がないと安全な施設ではないと考えていくことが重要 ではないか。その場合、施設のボリュームが重要で、外科医個人にとっては必ず1例目と いうのがあるわけですから、個人一人一人の件数で規制してしまうと永久に手術ができな くなってしまう。そうすると非常に高い死亡率があるような危険な手術の件数が何件なの かということを同定する研究になります。  一方、今度の医療法の改正で来年度から臨床指標で死亡率等を公開するという話の流れ があると聞いておりますが、一般の国民が判断する場合、データが正確かどうかというこ とを調整するという話になるので、どういうふうに調整するかという手法を開発すること になりますし、目的によって研究のデザインが変わってくるのではないかと思われますが、 いかがでしょうか。 ○大江委員  そうだと思います。この厚生科研の研究目的は、最初に御説明した目的ですので、この ようにデザインされているということです。 ○長谷川委員  こういうのは今後はありえないんじゃないでしょうかね。 ○大江委員  この厚生科研の御説明をしたわけですので。 ○福井分科会長  先生のデザインで、必要なサンプル数というか、そういう見通しが出てくるようなもの なんでしょうか。 ○大江委員  その手術をする可能性のある、あるいは実績のある医療機関は全部調査をしたいと考え ていますが、回収率がどのくらいになるのかということは個人的には把握できていません し、この研究は関係する学会から依頼するという形をとらないと回収率はますます低くな ると考えていますので、そのあたりはこれから学会とも十分協議をしてから決めていきた い。その中で、今あがっている術式の選択が変わることもありうるだろうと思っています。 ○小柳委員  どのくらいのサイズの研究にするかということが勝負のような感じがするんですが、回 収率を上げるにはものすごくエネルギーが必要です。無作為抽出で何%ということでおや りになるのか、それともBSEのように全頭調査でおやりになるのか、その辺のことを伺 いたいと思います。 ○福井分科会長  統計学的に有意差を出すためにあらかじめ設定するアルファ・エラーとかベータ・エラ ーの値や、どのくらいの差が出てきそうだという数値などに基づいて、サンプル数の計算 ができないかと思うんですけど、いかがでしょうか。数だけ集めればいいということで始 めてしまうと、目標が出てこないのではないかと思うんです。 ○松山委員  薬の効果を調べる臨床試験ですとサンプルサイズをいくつにするというのは明確に規定 することは可能ですが、それは血圧をいくつに下げることが目標であることがはっきりし ているわけです。この種の研究の場合はそういうパラメータがありませんので、決めるこ とができないんですね。心臓外科学会であれば、その学会でどのくらいの施設がカバーさ れていて、1年間に何件あるのかというのは大体わかりますね。その何%のデータをとる かということぐらいしか言えないんですね。あとは回収率を上げましょうということしか ないわけです。  回収率に関しては高ければいいということではなくて、背後にあるデータの代表性のあ る集団になってるかということが大事です。いい施設だけじゃなくて、手術件数が少ない ところも多いところも満遍なくやることが重要なんですね。ランダムサンプリングをして しまうと、いきなり調査票が来るわけですから、協力が得られない可能性が高いですし、 必ずしも代表性があるという保証はないと個人的には考えています。 ○永井委員  この術式をなぜ選んだのか、よくわからないところがあるんですね。乳腺の悪性腫瘍と ありますけど、これは手術合併症はほとんどありませんし、死ぬこともないし、がん治療 成績ということになるのだろう。これは手術手技以外の要素がはるかに大きいわけですの で、なぜこれを選んだのか。心臓でいえば、なぜバイパスなのか。アウトカムは何を見よ うとしたのか、それを説明していただきたいと思います。 ○大江委員  6ページにありますように、入院期間中の合併症も含めて、疾患ごとに決めていく必要 があると思っています。 ○永井委員  これだけの数の手術を調べるわけですけど、もうちょっと絞って調べたらどうだろうか。 あるいは保険点数に反映するのであれば全部調べるとか、目的をきちんとしていただきた いと思います。乳腺がなぜかなというのがありますし、結腸がんで腹腔鏡下が入ってくる のはよくわかるんですが、合併症でいえば、一番多くやられてる腹空鏡下の胆摘などを選 ばれたらどうだろうか。この研究には外科医は入ってるんでしょうか。 ○大江委員  書類上の分担研究者には入っておりませんが、この手術をリストアップする段階で、そ れぞれの学会の方々にお示しして、御意見をいただきました。リスト(案)と書いてあり ますように、今後さらに協力学会と検討を進める予定でして、現時点での当初案というこ とでお示ししております。 ○南委員  永井先生が言われるように、何のためにこういう調査をするかということですよね。こ の調査の結果、いい結果だけでしたら今までどおりでいいんじゃないかということになっ てしまうそうな気がするんですね。心臓外科にしても1%の死亡率しかないものを1万例 集めようが5万例集めようが変化は出てこないと思うんです。心臓外科の実際というのは、 大血管もありますし、小児の心臓血管もある。リスクが高いところを集めれば集めるほど 症例数と死亡率の差が出てくるに違いないと思うんですね。その辺を考慮していただきた いと思います。 ○大江委員  わかりました。検討してみますが、今回、アウトカム指標は必ずしも死亡率だけではな くて、そもそも死亡率が非常に低い疾患については退院時の患者の活動度を含めた転帰の スケールを見るとか、別の評価も目標にしています。 ○本田委員  大江先生は厚生科学研究の研究のことで話をされたと思うんですけど、この分科会で検 証していくこととオーバーラップするところがたくさんあるという説明がありました。こ の分科会の調査研究の基礎にするためというのであれば、この分科会の目的としては、手 術件数と手術成績の関係を調査するというのと、患者が様々な情報に基づいて適切に医療 機関を選択することができるよう手術に係る情報開示の在り方というのも1つのポイント になっているので、そういう観点の対象術式候補というものもあっていいのではないか。 そういう考え方もポンイントとして考えておく必要があるのではないかと思います。  大江先生の資料の2ページにある厚生科学研究としての成果の扱い方として、ここに選 ばれた術式だけを診療報酬の関係で議論するものではないと書いてあるけど、きっと議論 されてしまうので、この分科会の基礎調査として成果を扱うという意味では、その辺が整 理されてないというか、私にはわからなかったので、検討が必要なのかなと思います。 ○事務局(太田医療課課長補佐)  今後の進め方のところで説明する予定だったんですが、情報開示の関係は今後また議論 していただきまして、大江先生の調査の中で情報開示までやるのは難しいと思います。情 報開示について調査が必要であるということなら、それは事務局中心でもできるのではな いかと思います。  成果の扱い方は難しいところがあるんですが、科学的に詰めていただくことが可能だと 思っております。その際の取り扱い方の注意事項としてそういうのがあるということも含 めて、さらに検討していく必要があるのではないかと思っております。 ○長谷川委員  大江先生の研究班は本分科会とは違うということですが、私も同じような研究をしまし たので、その時に批判された点を披露してデザインに反映した方がいいかと思います。ア ウトカムについては腫瘍の場合と良性疾患があって、心臓は勝負が早いので、手術死亡で いいんでしょうけど、腫瘍の場合、短期死亡と長期死亡をどうとらえるかという大議論が ありました。短期死亡は少し悪くても長期で頑張ってるんだという外科の先生方がいて、 短期の結果を出す時にいろいろと議論になりました。その辺のバランスをどうするかを工 夫する必要があると思います。  昔は入院死亡がそのまま手術死亡でよかったんでしょうけど、最近は平均在院日数が短 くなっていますので、どうするか。古典的な術後30日なのか、90日なのか、それとも退院 死亡なのかというのは問題で、私のデザインでは90日死亡をとりましたけど、平均在院日 数が短くなってますので、退院後も含めて90日と決めるとか、そんなことも必要でしょう。 そうすると手間がかかりますので、デザインを決める時にその辺のバランスを議論された 方がいいのではないでしょうか。 ○福井分科会長  厚生科学研究費で行う大江先生の調査と本分科会との関係も微妙なところがありますし、 今後どのように進めていくかということにもかかわってきますので、本件については引き 続き検討していきたいと思います。中医協でこの分科会が立ち上げられておりまして、ミ ッション自体ははっきりしていますので、進めていく方向で話し合いを進めていきたいと 思います。次回以降の検討内容などについて事務局と相談して、必要でしたら文書なりで 連絡をとらせていただきたいと思います。本日の会議は、そのような方向でまとめさせて いただきたいと思います。 ○南委員  もともとこの分科会ができた趣旨は、医療財政が国難になって、お金をセーブしなくて はいけないということから起きてきている会だと思うんですね。いかにすれば医療費を無 駄にせずにすむかというところから施設基準ということも考えられてきてると思うんです ね。年間10件の手術をしているところで、手術のうまい人がそこへ行って手術をしたら死 亡率はいいに決まってるんです。それが医療経済からして本当にいいのかどうか。日本全 体で20例とか30例しかやってないところがたくさんある。そういう施設を野放しにしてお いていいのかということも考慮しなくてはいけないのではないかと思います。 ○福井分科会長  医療の集約化の問題は手術件数とアウトカムだけでは議論できない問題ですので、私も そのことは重々承知しているつもりです。しかしながら、この分科会では、とりあえず手 術成績に影響する諸因子について分析をできるだけ科学的に行うようにということですの で、当面、その点にフォーカスを合わせて、やっていきたいと考えております。 ○永井委員  アウトカムの結果が出た時にどうするのかというのは、出た時に考えればいいというこ とになるんでしょうが、差が出たらどうする、差が出なかったらどうするということを考 えておく必要があると思います。  集約化の話が出ましたが、がん診療に限れば、国や都道府県が進めているがん診療連携 拠点病院に見られるように、診療のレベルの均一化とどう整合性を保つのかという大きな 問題もあります。何のための研究なのかというと、科学的なデータを出すというのは目標 にはなるかもしれませんが、その先のことも考えていただきたいと思います。 ○福井分科会長  それでは、今後の予定について事務局から説明をお願いします。 ○事務局(太田医療課課長補佐)  診調組 手−7「今後の進め方(案)」をごらんください。  7月31日、手術に係る施設基準等調査分科会の第1回を開催し、御検討いただきました。  8月末〜9月を目途に日程調整をこれからいたしますが、本分科会の第2回を開催した いと思っております。中医協からもできるだけ早期に調査研究に着手するように言われて おりますので、その場で調査研究計画をセットできればと考えております。情報開示の在 り方についてというのが2つ目のミッションとしてありますので、それについて御議論い ただきまして、調査等が必要であれば、そういったことも含めて御議論いただければと思 っております。  10月以降は検討状況等に応じて適宜開催としております。  平成19年3月を目途に、大江先生の研究班から中間報告等をいただければ、それを受け て評価・検証という作業を進めていったらどうかと思っております。  分科会における検討状況については、適宜、中医協に御報告する予定にしております。 以上です。 ○福井分科会長  ただいまの説明につきまして、何か御質問、御意見はございませんでしょうか。  よろしいですか。  議論が中途半端になってしまいましたが、第1回診療報酬調査専門組織・手術に係る施 設基準等調査分科会を終了させていただきます。本日はお忙しい中、ありがとうございま した。                 【照会先】                  厚生労働省保険局医療課企画法令第2係                  代表 03−5253−1111(内線3276)