06/07/07 厚生科学審議会科学技術部会ヒト胚研究に関する専門委員会 第6回議事録  第5回科学技術・学術審議会 生命倫理・安全部会「生殖補助医療研究専門委員会」     第6回厚生科学審議会科学技術部会「ヒト胚研究に関する専門委員会」                  議 事 録   日時:平成18年7月7日(金)16:00〜18:30   場所:厚生労働省5階共用第7会議室 1.開会 ○笹月座長  少し遅れられる委員もあるようですけれども、時間になりましたので始めたいと思い ます。本日は第6回「ヒト胚研究に関する専門委員会」それと第5回めの「生殖補助医 療研究専門委員会」の合同の委員会です。お暑いところお集まりいただきまして大変あ りがとうございます。  まず事務局から委員の出席状況、それから資料についてご説明をお願いします。 ○齋藤母子保健課長補佐  本日の委員の出席状況ですが、安達委員、奧山委員、秦委員がご欠席で、15人の委員 が出席の予定です。少々遅れて来られる委員もいらっしゃいます。  資料の確認ですが、お手元の資料の中で、左側をクリップで綴じている一式をごらん ください。こちらに沿って確認します。まず座席表があり、会議次第が1枚。会議次第 の2枚目、4番のところが配付資料一覧で、今回は資料1〜資料5までご用意しており ます。また参考資料を1点。それからいつもご使用いただいている参考文献が入ってい るフォルダーが3種類、緑・ピンク・水色という形でご用意しています。  資料1と資料2は委員名簿となっています。資料3をご覧下さい。資料3は、「本専 門委員会のヒアリング事項について」ということで、これまでヒト胚の生殖補助医療研 究目的での作成・利用に関しての研究ガイドラインの研究についてさまざまな観点から ヒアリングを実施してきたわけですが、そのヒアリング項目を一覧にまとめたものです。 ヒアリングの数と種類が大変多かったこともあり、どのようなお話を伺ってきたかとい うことを整理したものです。  次に資料4は、前回ご議論いただいた資料で「生殖補助医療研究の範囲」ということ で具体例に則して三つのフェーズで分けてご用意した資料でした。  それから本日のメインの資料が資料5で、これは資料枚数にして1ページ〜13ページ までの資料となっております。タイトルが「ヒト胚の生殖補助医療研究目的での作成・ 利用に係るガイドラインの作成にあたり検討する課題について(たたき台)」というもの です。これは後ほど詳細に説明させていただきます。  その他、今回は参考資料として別綴じで「人クローン胚の研究目的の作成・利用のあ り方について・人クローン胚研究利用作業部会中間とりまとめ」という報告書を用意し ています。以上です。 ○笹月座長  ありがとうございました。それでは、文部科学省の科学技術・学術審議会生命・倫理 安全部会特定胚及びヒトES細胞研究専門委員会人クローン胚研究利用作業部会と長いの ですが、この報告案が出ていますので、これを事務局から説明お願いします。 ○石井生命倫理・安全対策室長  お手元に配っております参考資料です。これまで2回ほど人クローン胚研究利用作業 部会の審議状況についてご説明する機会をいただきご報告しましたけれども、その検討 の中間取りまとめを6月20日の作業部会で取りまとめて6月23日の特定胚及びヒトES細 胞研究専門委員会において報告し、パブリックコメントという段階に移っています。  2枚めくっていただきますと目次がありますが、本委員会と非常に関係が深い項目と しては、左側のページの第4章というところに「人クローン胚研究における未受精卵の 入手」という項目があります。この中で未受精卵の入手の方法として認められる方法、 さらには次のページの5ポツのところにありますが「未受精卵の提供に係るインフォー ムド・コンセント」といった項目について記載しています。この未受精卵の入手の方法 として認められる方法に関しては、前回ご説明した方針に沿って取りまとめられていま す。  これに加えてこの報告書においては第7章の中で「未受精卵の提供における無償ボラ ンティア」という項目についての検討の状況が取りまとめられています。後ろの方にな りますが84ページを開いていただきますと、この中で無償ボランティアについての検討 の状況を書いています。無償ボランティアについての議論は総合科学技術会議の意見の 中で、原則として認めるべきではないということになっていますが、総合科学技術会議 の議論の中で、その例外的な取り扱いについての議論を制度論を以ってやるということ になっていましたので、その議論を行っております。具体的には、また本委員会でボラ ンティアの議論をする際に詳しくご説明をさせていただきたいと思っております。  1枚めくっていただき86ページの中で、「無償ボランティアからの未受精卵の提供の 例外的取扱い」というところで考え方をまとめています。この中では86ページの二つ目 のパラグラフにありますが、「医療において、いわゆる無償ボランティアからヒト組織の 提供を受けて行われるものについては、それが行われることによって得られる利益(医療 による人命の救助等)が、提供に伴うリスクを比較して利益がリスクを上回ると認められ る場合に骨髄移植や生体肝移植などのように認められる場合がある」ということをまず 記して、医学研究の場合にどうなるのかというのが次のパラグラフに書いています。「医 療とは異なり医学研究の場合は直接人命の救助等に貢献するものではなく、医療と全く 同様に取り扱うことはできないとしつつも、医学研究の成果が医療に応用される可能性 が十分に見込まれるなどの段階に至ることにより、将来の医療を通じて得られる利益が より確かなものになれば、同様の考え方を適用することが可能な場合がある」と記した 上で、人クローン胚研究についての検討を行っております。人クローン胚研究の現在の 状況としては、まだ人クローン胚は作成するところまでは行っているものの、国際的に 韓国・英国などで人クローン胚の作成はできているという報告はあるが、まだES細胞の 樹立に至っていないというような状況を見て、まだ無償ボランティアから未受精卵の提 供を受けて研究を行う科学的妥当性及び社会的妥当性があるとは認められないという考 え方に基づいて当面は無償ボランティアからの未受精卵の提供は認めないというのが、 この中間取りまとめの段階での方針です。  しかしながら、将来無償ボランティアについての提供が可能になる場合があるのでは ないかと。具体的に言いますと、86ページの下から三つ目のパラグラフになりますけれ ども、霊長類でクローン胚からES細胞が樹立されるなど、人クローン胚からES細胞を 樹立する技術がより確かなものになった場合ですとか、余剰胚由来のES細胞によって臨 床応用が開始された場合など、こういった形になれば将来的に医療に応用される可能性 が現在に比較して大きくなった場合に、無償ボランティアから未受精卵の提供を受けて 研究を行う科学的妥当性が認められる場合もあるのではないかという議論があり、この 条件について今後引き続き検討を行うということにしています。  これはあくまでもクローン胚研究に関するもので、生殖補助医療研究の場合とは卵の 提供の考え方の大元も異なる部分がありますし、それからその得られるベネフィットと いう部分も異なりますので全く同様に扱えるものではないと思いますが、クローン胚研 究ではこのような取りまとめになっているということをご報告申し上げたいと思います。 以上です。 ○笹月座長  どうもありがとうございました。ご報告の最後にありましたように、このような結論 が出ましたが生殖補助医療のための研究ではどうするのかということは、また順を追っ てこの委員会として検討すべきことだろうと思っていますのでよろしくお願いします。 それでは早速議事に入りたいと思います。 2.議事 (1)ヒト受精胚の生殖補助医療研究目的での作成・利用に係る制度的枠組みの検討に   ついて ○加藤委員  今の報告と我々の審議の内容とはどういう関係になっているのですか。以前二つの委 員会が両方やるのは無駄だからという説明ではないけれども合同で審議するという話を 聞いたことがあるのですが。こちらは独立でこれだけの結論を出されたと思われますけ れども、我々の委員会の審議とはどういう関係に立つのですか。 ○石井生命倫理・安全対策室長  基本的には、クローン胚研究という目的に対して未受精卵の入手をどうするかという ことで作業部会は検討して参りました。一方この本委員会においては、生殖補助医療研 究のための未受精卵の入手についてご検討いただきたいと考えています。総合科学技術 会議の検討の中でも、二つのそれぞれの研究についての未受精卵の入手の考え方は若干 異なっており、具体的に申し上げますと、生殖補助医療研究では、いわゆる生殖補助医 療における未受精卵の一部提供という考え方が示されているのに対して、クローン胚研 究ではそれは入っていないということです。この元々の考え方が異なって総合科学技術 会議での方針が異なっていますので、そこのところは全く同一には扱えないと考えてい ます。ただ、そのベースになる卵の採取に当たってのリスクですとか提供者の置かれて いる環境であるとか考慮すべき点といったところは共通の点があると思いますので、そ の点については、この委員会においても参考にしてご議論いただければと考えています。 ○加藤委員  要するに、別の委員会で独立の結論を出して良いということですか。それとも、その 委員会の結論は我々を拘束するという意味なのですか。 ○石井生命倫理・安全対策室長  クローン胚の作業部会の中でもそういったご質問・ご意見はありましたが、基本的に 目的が別なので、独立した検討であるということで整理しています。 ○加藤委員  しかし、個々の事例ごとに則して考えれば、いわゆる臨床目的であるというのと研究 目的であるというのは、あらゆる研究がすべて両方の性格を持つのではないかと思うの ですけれども。そのように二つの委員会が独立の結論を出して一つ一つの個別事例に対 して矛盾するということはあり得ないのでしょうか。 ○石井生命倫理・安全対策室長  どちらも研究目的であり、研究目的がクローン胚の作成・利用という、これは再生医 療のための研究という目的です。こちらは生殖補助医療という目的ですので目的は明ら かに異なった点があります。ただ、クローン胚の作業部会で議論がありましたのは、や はり生殖補助医療の方針が示されれば、それを今度はクローン胚の作業部会の方にフィ ードバックをかけるということも必要ではないかという議論がありましたので、ここで の方針が出れば、当然これをまたクローン胚の作業部会の方に持っていき、改めて検討 する必要があると考えています。決してこちらの委員会の審議内容を縛るということで はないと理解しています。 ○笹月座長  よろしいですか。 ○加藤委員  よくわからないですけれども。 ○笹月座長  そもそもの目的が違いますので。 ○加藤委員  目的が違っても、個別事例では両方適用されてしまう可能性が高いと思いますけれど も。 ○笹月座長  例えば、今クローン胚の方で結論的なことが出ましたけれども、今度こちらではかく かくしかじかこの目的のためにはボランティアからの卵の入手が必要であるということ になれば、向こうの例外事項としてこういうことがあるということを向こうに書き加え ていただくことも可能ですよね。先ほどフィードバック云々と言われたのは、そういう プロセスを意味しておられるわけですか。 ○石井生命倫理・安全対策室長  卵の入手の考え方として、明らかに採取できるようなものが生殖補助医療であって、 その前提条件が変わるようなことがもしあれば、それを基にもう一度検討しなくてはい けないことがあり得るだろうということで、議論はありましたが基本的にはそれぞれ独 立した検討でよいのではないかということだったと思います。 ○笹月座長  とにかく向こうは向こうで結論的なことが出たわけですけれども、こちらの委員会は それとはフリーにまず議論して結論を出そうということで議論を進めたいと思います。  これまでいろいろな勉強会・ヒアリングを重ねて参りました。現場を視察していただ いた委員の方々もありますが、一応ある程度の共通の認識に立ったということだろう思 います。そういう意味でのヒアリングあるいは勉強会は十分にし尽くしたと思います。 十分というよりも more than enough と経験のある方は思われる点もあったかと思いま すけれども、本日からいよいよ研究ガイドライン作成へ向けての各論に入りたいと思い ますので、よろしくお願いします。  一応事務局といろいろ打ち合わせて検討のためのたたき台というものを作成していた だきましたので、まずこのたたき台について事務局からご説明をお願いします。 ○佐藤母子保健課長  先ほどご説明しました資料5は、これまでも何度かご覧に入れておりますけれども、 今回はもしかするとレイアウトが違うのかなとか見栄えが違うのかなと思われたかもし れませんが、構造の部分だけ少し変えています。書かれていることは基本的に同じです。 たたき台があって指針の箱書きがあり、そして項目が書かれるということになっていま す。斜体字の部分とそれ以外の部分がありますが、斜体字は、座長と話をして次回以降 にじっくりとお話をいただければよい内容かと思っています。  1ページめくっていただいて2ページ以降なのですけれども、冒頭に項目「研究の目 的について」という部分があり、その下に「認められる研究の範囲」という部分が網掛 けであります。そしてその下に総合科学技術会議ではどのように言っているかというこ とを書いております。その下に空白がある。この空白の部分を今日これからご議論いた だくということになります。  その下の箱書きの中に(参考)ということで、日本産婦人科学会の会告があったり、厚 生労働科学研究の特別研究事業の話があったりと、その空白の部分をご議論いただく上 で参考になる記述みたいなものを書くという構成になっていて、以下「研究実施の要件 等」についても同様の構成になっています。  CSTPがあって、空白で議論していただいて、その議論の参考になる資料が付くという 構成でずっと続き、今日は11ページぐらいまでご議論をいただくだろうということで準 備をした次第です。以上です。 ○加藤委員  6ページというのはどこですか。このいろいろな資料のどこかに該当するところがあ るのですか。今いただいた「たたき台」の2ページの(1)「以下の3つの条件を・・」と いうところに(p.6)と書いてありますね。 ○佐藤母子保健課長  失礼しました。このそれぞれのページは、総合科学技術会議の意見である「ヒト胚の 取扱いに関する基本的考え方」の、例えば(p.6)と書いてありますと6ページに書いて あるとか、(p.7)と書いてあれば7ページに書いてあるという意味です。青いファイルの 資料4−1がその「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」になります。 ○加藤委員  4−2ではないですか。 ○佐藤母子保健課長  失礼しました。4−2ですね。4−1は抜粋ですので4−2です。4−2のページを 引用しています。 ○笹月座長  今の説明はそこまででよろしいですか。それではこの「たたき台」をもとに少し進め ていきたいと思います。まず1ページのIは、これまでもさんざん議論して参りました し、一応各論を終えたところでまた議論をしたいと思いますので、今日は2ページのII. 「ヒト胚の作成・利用を伴う研究について」の議論を始めたいと思います。まず、その 1「研究の目的について」と書いてありますが、ここは研究の目的及びその許容範囲とい うことで議論を進めていただければと思います。その下に、資料からの抜粋ですが、総 合科学技術会議の意見として以下の3つの条件を全て満たす必要があると考えられる。 ヒト胚の研究についてのア)イ)ウ)というのが出ていますが、ここで議論すべき私どもの 生殖補助医療研究というのは、ここにも書かれているように(2)ですね。「生殖補助医療技 術の向上に貢献しており、今後とも生殖補助医療技術の維持や生殖補助医療の安全性確 保に必要と考えられる。だから、十分科学的に合理性があるとともに社会的にも妥当性 があるということで、生殖補助医療研究のためのヒト受精胚の作成・利用は容認し得る」 と書かれています。ですので、研究の目的というのは当然ここに則って、生殖補助医療 の「維持」というのは、どういう意味で書かれたのかわかりませんが、むしろ生殖補助 医療の向上や安全性確保に資すると。そのための研究でありますということになると思 いますが。 ○加藤委員  医療の維持ではなくて、医療技術の維持と書いてあるので問題ないと思いますが。 ○笹月座長  「医療技術の維持」どうですかね。私が言っているのは、「維持」ということが、 「維持」のために研究をするというのは、もう既に行われている医療技術があるとすれ ば、それを維持するために研究をするというのは少しおかしいかなと。むしろそれを 「改善する、進化させるための」ということだろうと思うのです。ですから、「医療の 向上と安全性確保に資する」ということになるかと思いますが、どなたか何かご意見ご ざいますか。文言についてはまた後で文章化した時にご意見をいただくとして、プリン スプルとしてはこういうことではないかと思います。  そこで、今度は「範囲」ということですけれども。研究はどこまで、どういう範囲ま で認められるのか、許容されるかということになるわけですが、例えば研究の範囲とい うものは、これまでも何度も議論し非常に基礎的な研究から臨床研究という言葉の定義 もありましたけれども、純粋に基礎研究ということはどうするのか。あるいは純粋にこ れは基礎研究だということと、いやそうではなく最終的には生殖補助医療に資するもの だと研究者が言ったときに、その判断は何か線引きができるのかどうかということが、 実行上私は非常に重要なところではないかと思うのですが。何かそういうことについて ご意見はありますか。  例えば、最近はいろいろな科学研究いわゆる生命科学の研究の場合の応募要綱のとこ ろに「社会的ニーズ」とか「緊急性」とか、あるいは、「どのように社会に還元するか」 というところが常に問題になって。本当に純粋な研究なのだけれども、やはり最終的に はそこに資するのだということを書かざるを得ないと言うか、書くということになるの ですけれども。  そうすると、このヒト胚を使った研究も割と非常にベーシックなものだけれども、も ちろんベーシックな知識・技術は最終的には生殖補助医療に資すると一言書けばそれで よいのかということも最終的な判定のときには、かなりクリティカルな問題になるかと 思いますが。 ○中辻委員  今、笹月座長は非常に基礎的な研究で、最終的には生殖補助医療に利用するというの が、割合何か言い訳みたいな場合もあり得るとおっしゃったのですが、配偶子の研究で、 本当に生命機構と言うか基礎的な研究はヒトを使うよりもマウスのように近交系とかゲ ノムも全部揃ったような材料を使う方が進むわけです。ですから、何か人間の医学への 応用を考えているが、まだその段階ではない、あるいはもっと興味がベーシックだとす ると、それはマウスなどを使う方が非常にやりやすいわけです。ですから、敢えて人間 の配偶子を使う理由の中に、すぐには具体的には見えないまでも生殖補助医療というか、 子ども・健康とかそういうことに関する観点が必ず入っているように思います。 ○笹月座長  一つの考え方が示されましたが、いかがでしょうか。それにアゲインストを申すわけ ではありませんが、今のような論点でいくと、全てヒトの胚を使う研究は生殖補助医療 に資するという、逆の捉え方もできるということになりますね。 ○中辻委員  もう少し付け加えますと、非常にジネティカルにコントロールされたマウスを使わな いで、こういうヒトの材料を使うというのは、非常に決断が要るというか、本当に基礎 的なことを目指すのであれば、かなり負担を強いるわけです。敢えてそれもやるという ことで、サイエンティストが普通にリーズナブルに考えればそういう判断になると思い ます。  もう一つ気になるのは、もし生殖補助医療とそれの基礎という線引きがされたときに、 その線引きの両側でどういう扱いになるかということが、はっきりしない。材料の入手 なりが。今人間の材料の入手に関して恐らくどこでも医の倫理委員会なり倫理委員会が 研究所や大学にあって、そこで審議されて許可されている状況になっているわけです。 この指針がきたときに、それの上位規定としてこの指針があるわけですけれども。です から、線引きがされたときに、その両側の研究というのはどういう違いがあるのか、じ つは同じようなものなのかということで状況が変わると思います。 ○位田委員  ここは「認められる研究の範囲」というところから始まっているのですが、総合科学 技術会議の意見の中では「認められる研究」というのは、要するに原則に対する例外で あるという位置づけになっています。原則は二つ、この5ページから6ページに書かれ ている総合科学技術会議の意見ですけれども、一つは、ヒトの胚というのは人の生命の 萌芽であるということ。したがって、それに値するような取り扱いが必要だというのが 一つ。他方でもう一つは、やはり人の健康と福祉に関する幸福の追求のためである。そ の要請の下で一定の条件を満たす場合には、例外的にヒトの胚、つまり人の生命の萌芽 を取り扱って研究することができるという話です。ここで認められる研究の範囲という のは、ヒト胚をどの範囲で取り扱ってよいかという、もちろんそれはそうなのですけれ ども、ヒトの胚をむやみに取り扱ってはいけないという原則があって、なぜならば、そ れは人の生命の萌芽であるからという理由が付いていて、では、どの範囲であれば例外 として認められるか、という話です。中辻委員のおっしゃることはよくわかりますけれ ども、おっしゃられていることと例外であるということがどう結びつくかというのが恐 らく重要な点かなと思います。したがって、ここから始まるというよりも、まず基本原 則がどこかで書かれないといけないだろうと思います。別に反論しているわけではあり ません。 ○中辻委員  私は少し誤解していたところがあったので。認められる線引きというのは、どこまで が生殖補助医療の研究かという問いかけだったので、割合ゼネラルないろいろな研究を 想定して考えたのですけれども。確かにこのページの一番上にある「ヒト胚の作成・利 用を伴う研究について」に限定すると、ヒト胚の作成・それから余剰胚であろうともそ の利用、その研究に限って考えればかなり限定的な目的になるということで、それは理 解できます。ただ、それが、そこで議論していたのが突然例えば配偶子の入手とか研究 というところまで拡大解釈されてしまうと、それは極めて危険なことになってしまうの で。 ○笹月座長  それで中辻委員、最終的には研究の範囲というのはどういうことになりますか。 ○中辻委員  ヒト胚の作成・利用を伴う研究に限定して考えて、生殖補助医療ではない基礎研究と いうのはあり得るのかという気は少ししています。 ○笹月座長  位田委員がおっしゃった順序として、プリンスプルはこれまで延々と議論してきて、 総合科学技術会議の意見具申に則って議論を進めましょうということで各論にきたわけ です。今度は、ヒト胚というのは人の生命の萌芽であって、尊厳をもって取り扱わなけ ればいけない。特にそれを破棄したり棄損するようなことがあってはならないというこ とで原則としては認めない。ところが生殖補助医療については、先ほど読んだような理 由で例外的に認めましょうと。その例外の中で、今度は生殖補助医療のための研究とい うのは一体どういうものかと。  これはやはり定義しておかないと、審査のときもどれが生殖補助医療のための研究な のか、生殖補助医療に資する研究なのかということになりますので。そこで今、まずそ こをきちんとしましょうという段階です。これは逆に言えば議論しても答えは出てこな いみたいなところがあると思うのです。だから、最終的にこれは国が審査するのではな くて機関の審査委員会でよいなどと言うと、非常に甘く、とにかく文言として最終的に これは人の生殖補助医療に資する研究であると書いておけばそれでよいというような委 員会も出てくるという心配もありましょうし。だからどのように、ゼネラルなステート メントというのは非常に難しく「こういうものはだめです」「こういうものは基礎研究 だからだめです」「こういうところまできていればよい」というような例示ができるの かどうかということもまた難しいだろうと思うのですが。 ○中辻委員  まだ時差ぼけが直らないので頭がはっきりしないのですが。例を挙げると、例えば廃 棄予定の凍結胚があってその中の4細胞期なり胚盤胞期なりで発現している遺伝子を調 べたり、そこのDNAのメチル化がどうなっているのかを調べるというような研究という のはある意味では非常に基礎的ですね。ただ、そういうことを調べることによって、不 妊治療の中でその胚の発育するときの正常なものかどうかの判別に使えるという可能性 ももちろんあるわけですね。ですから、例えば今言ったようなことが極めて基礎的に見 える研究で、こういうことをやるべきではないとするのかということです。それが生殖 補助医療に入らなければそれはやるべきではないということになるわけですよね。 ○笹月座長  ですから、今のような中辻委員の解説と言いますか、研究についての説明を加えると、 いろいろな研究が生殖補助医療に最終的には資するのだということになって、もうヒト の胚を使う研究というのはもちろん生殖補助医療を例外として認められているので、使 う人は皆最終的にそういう説明をすれば全てが認められるということが極めて高い確率 で行われるだろうと。だからそれをどうこのガイドラインは規制するのかというのがポ イントだと思うのです。  それは言葉で言うのは簡単ですけれども、具体的には非常に難しいことで、ヒト胚を 使ってベーシックな研究をしている人に向かって「それは生殖補助医療とは全く無関係 ではないか」と言うことは、サイエンスの世界としては非常に難しいですね。吉村委員、 臨床の側から何かお考えを少し聞かせていただけませんか。 ○吉村委員  なかなか難しいとは思うのですが、少しわかりやすい話をしようと思います。範囲を 考えるときに、「できた胚」と「つくる胚」というのがあると思うのです。この委員会 のミッションは両方だと思うのです。つくる胚のこともミッションの一つだし、できた 胚をどうするか、それを使って研究するというのもミッションの一つ。まずその辺の皆 さんの認識を一緒にしなくてはいけない。  そうしますと、配偶子を考えるということも一つの大きなミッションになるわけです。 配偶子を考えて、これをどう利用して、例えばそれは最終的に受精させるといったこと も研究の中に入ってくると思うのです。それから、ある胚をどう利用して研究に使うか ということもそうです。今中辻委員がおっしゃったのは、例えば難しい話でインプリン ティング異常があるかもしれないといったことも。そのインプリンティング異常がどう して起こってくるのかを調べるのも生殖補助医療の研究になってくる、ということにな ると思うのです。  やはり胚をつくる、要するに配偶子を使って胚をつくる研究、そしてできた胚を利用 する研究。大きく言うとその辺になるのではないかなと思います。中辻委員がおっしゃ ったことも、そういった基礎研究も広い意味で言えば生殖補助医療に関する研究になっ てくるのではないかと思うのです。本当にこれがこの会のミッションにあたるのかどう かということを見極めることは極めて難しいと思いますし、書くことも非常に難しいと 思いますので、配偶子を使った研究並びにできた胚を使う研究というような形にならざ るを得ない。それはヒトの配偶子を使うものであるし、ヒトの胚を使うものであるとい う研究ということでしか、なかなか研究の範囲というのは決められないのではないかと 思うのです。だから、具体的に言うことは少し難しいと思いますね。 ○笹月座長  今の吉村委員の配偶子を使う研究と新たに胚をつくる研究と。それと既に余剰胚で存 在する胚を使うとしても、それをどう使うのか、どういう研究目的で最終ゴールは生殖 補助医療に資するというとしても、その手前のまずどういう実験計画でどういう研究を するのかがやはり問題になると思うのです。そうではなくても「生殖補助医療に資する」 と書けば全てよろしいのか。それでよいということになれば、それはそれで簡単ですけ れども。そうではない基礎的な研究はやはりだめですよと言うとすれば、その辺の線引 きをどうするのかというのが・・。 ○吉村委員  基礎的な研究が生殖補助医療に役立たないということは私たちは言えませんし、将来 的にも。だから座長が今おっしゃったように、そういったことを現実的に決めていくと いうことは極めて難しいと思います。 ○中辻委員  一つだけ気が付いたことを言いますと、研究のために新しい胚をつくるということと、 廃棄予定の凍結胚を使うというそれに必要な合理性・必要性の説得というのはレベルが 全然違うと思うのです。それはクローン胚の研究とかヒトES細胞のとき議論されたので すけれども、この場合もこれを全部するよりは少なくとも新しい胚を研究のためにつく るためには、なぜそれをしなければいけないのか。それをやることによってどんな恩恵 が実際の医療に用いられるかということのハードルは非常に高くて、廃棄予定のものを 使うことに関して基礎研究だからこれをやるなということで、あまり早く・短く限定し てしまうと、いろいろな研究が実際上はできなくなってしまうという気がします。 ○笹月座長  それも、例えば配偶子を用いて新しい胚をつくることは生殖補助医療のためには必須 です。受精の過程を理解し、あるいは卵の状況・精子の状況、あるいはその保存の仕方 そういうことで恐らく必須のことだから。その点は何もハードルが高いのではなくて恐 らく問題にならないと思います。ですから、既存の胚であれ、新しくつくった胚であれ 要するに生殖補助医療の目的のために使う。その研究しか認めませんということで、私 は二つを敢えて分ける必要はないと思います。いずれにせよできた胚について行う研究 をどこまで認めるのか。極端にヒトの胚を使うからには、それは生殖補助医療を目指し ているからヒトの胚を使う必然性があるのだと言ってしまえば、全ての研究を認めると いうことになりますから。それでよろしいかということです。 ○石原委員  今行われている議論は、研究の目的についてだけの話をしていると理解してよいので しょうか。目的と範囲ですね。目的の話というのは、吉村委員がおっしゃったように、 どう考えてもある程度概念的にならざるを得ないと思います。つまり何を認めるかとい う各論に入ると、これは将来的に研究というのは何が出てくるかわからない。わからな いものを限定するという作業というのは非常に難しいと思いますので、目的に関しては、 まさしくここに書いてあるように科学的合理性があるかどうかということと、あるいは 社会的・外部的に見て妥当なものであるかというような価値的判断に基づく目的を述べ ることに留めざるを得ないのではないかというのが私の考えです。 ○笹月座長  目的はそれで構わないのですけれども。私が今問うているのは、研究の範囲を何も規 定しなくてよいのかということです。 ○石原委員  研究の範囲はむしろ別立てと言いますか目的とは違う話として議論をした方が進めや すいような気がしますが。 ○笹月座長  目的はもう解決しているというか、明快でこれ以上議論することはあまりないだろう と思うのです。ですから、次のステップとして目的は私が申したようなことで、文言は 文章化するときにきちんと検定してもらいましょう。後は研究の許容範囲をどうするの かということ。 ○石原委員  それは3ページに書いてありますね。3ページの(参考)に幾つかありますね。 ○笹月座長  例えば、まず動物実験である程度の実績とデータがあって、それに準拠して、どうし ても最終的にはヒト胚を使ってしか生殖補助医療のために資する研究にならないという ような動物実験の基礎データを要求するとか。いろいろな形で要求の仕方はあると思う のですけれども。 ○小澤委員  なかなか定義をクリアにするというのは難しいと思うのですけれども。生殖補助医療 研究という表現ですと、人にもよるかもしれませんが、どうしても実用化研究みたいな イメージがあるのです。ですから、こういう文言ですと本当の基礎研究よりは、もっと すぐに現実の医療に役立つような研究を要求しているようにも受けとられる感じがする のです。ですから、もう少し広く、本当に将来こういう生殖補助医療につながるような 非常にベーシックな研究まで含めて扱うということでしたら定義づけの説明文でいろい ろ規定するやり方もあるでしょうけれども。その言葉も、もう少し広くイメージできる ような。 ○笹月座長  我々が準拠して議論しようとしている総合科学技術会議の文言として「生殖補助医療 に資する研究は例外的に認める」と言っているわけだからそれに準拠しなければいけな い。だけど生殖補助医療に資する研究というのが定義のしようがないので、総論として も言いようがない。各論を例示してみても、なかなかそれだけでは全貌を尽くせないと いうことで、非常に難しい。一応議論をして、一体どういうことを国民が考えるのか、 社会が容認してくれるのかという意味で、いろいろなご意見を伺いたいと言っているの です。 ○大隈委員  遅れてすみませんでした。私は基礎研究をやっていて、私の考える臨床研究というの は、例えば材料としてヒトの配偶子なりヒトの胚を用いるという時点で既にこれは基礎 研究というよりは臨床研究という位置づけに非常に合致するのではないかと思います。 つまり、具体的な実験の内容が、中辻委員が先ほどおっしゃったようなファインプリン ティングとかいろいろありますけれども、受精なり非常に初期の胚発生の人におけるメ カニズムを分子レベルで知りたい、遺伝子レベルで知りたいということになったときに、 仮に他の哺乳類であったとしても、ヒト特異的な問題というのは非常に大きいというこ とがあり得ますので、ヒトを材料としないと成り立たない研究という意味で、しかもそ の成果というものは生殖補助医療に還元されるようなものに。どのぐらい遠いか近いか というのは個々の研究によってあり得ると思うのです。  そういった意味で、私はいろいろ細かく、例えば(参考)のところの厚生労働省のもの とか、日本産婦人科学会(1)(2)(3)(4)というのがありますけれども、分けて例示をした方が 国民の皆さんにとってわかりやすいということがあれば、中ではなくて補則というかそ ういったところで、例えば科学がどんどん進歩したらこういうところは書き換わる可能 性があるようなものではないかと思いますので。一番もとのところには、そんなに細か いどの範囲であるというようなことをわざわざ書かなくても、ヒトの胚をあるいはその 配偶子をそのまま使っているという時点で、かなりこれは臨床を目指したものであると 捉えてよいのではないかと思います。 ○笹月座長  ありがとうございました。先ほどの中辻委員の話と対比させると、中辻委員はヒト胚 を使うのだけれども、本当の基礎研究ができなくなりますよというようなご発言があり ましたから、中辻委員の立場に立つと、いくらヒト胚を使っていてもそれは必ずしも臨 床研究と言うか役に立つものではない。本当にベーシックな研究がありますよというこ とを言っておられるわけですね。 ○木下委員  確かに生命の萌芽であるヒト胚であるということによる制限があるのは当たり前の話 です。本来研究は生殖補助医療のためだけではないわけですから、倫理上の問題・社会 的な問題等に抵触しない限り広い範囲の研究が許せるような表現であってもらいたいと 思います。  その研究がいずれ生殖補助医療につながるかもしれませんし、多くの研究のチャンス は残しておくことが必要だと思います。 ○後藤委員  先日参加した倫理委員会で問題になったのですが、まずいろいろなものを患者さんに 適用する場合でも、やはり動物実験で一つのペーパーが書けるほどの根拠を持った上で 人に適用するべきだということを言われて、審査になったことがあるのですが、やはり ヒト胚を使うということの最終的なバリアー・ハードルとしては、やはり動物実験でこ こまで確かめたけれどもここはヒト胚を使わないとわからないとか、それが本人のデー タでなければいけないのか他人のペーパーであってもよいのかということがちょっとわ からないのですが、そういうハードルは要るのではないかと思います。 ○笹月座長  ありがとうございました。それは先ほど私が例示として動物実験のベーシックなデー タを求めるかどうかということと同じライン上にあるのだと思います。例えばこれが逆 に、生殖補助医療というときに前に議論した体内へ戻すというところまでを含んだ研究 であれば、(今回は総合科学技術会議で「この研究でできた胚は人には戻してはいけま せん」ということが言われているので、それはないのですけれども)、本当に人まで戻 すというようなときには、今おっしゃった動物でそれをやってみてどうだったのか。安 全性がどうだったのか。効果がどうだったのかということは、厳しく求められることが 普通です。例えば遺伝子治療のプロポーザルでも、必ず動物における安全性・効果とい うデータを要求しています。それは必ずしも本人のデータではなくて、外国でやられた ペーパーにきちんとなっていればそれでもよろしいということなのですけれども。 ○中辻委員  先ほどの私の意見は、実は大隈委員の意見と同じなのです。ある治療ということに関 して動物実験で治療効果がありそうだと言ってから胚で試すということとは別に、例え ば発生メカニズムというか正常に胚が発生するためにどういう仕組みが必要かという研 究に関して動物、多くはマウスを使いますけれども、マウスで当然研究は進められてい るのだけれども、人間ではどうかはわからないですね。とすると、それはある治療法の 目的のために、動物実験でうまくいってから次へというよりは、ある仕組みに関してマ ウスでさんざん世界中の人が研究した後、その基礎の上にヒトでどうかを試すというプ ロセスになって、それをヒトで試すということはやはりそれをやっている人は人間で役 立てようという意図があるという意味で大隈委員と同じで。やはりそれを完全にやれな くするということは非常に損害が大きいという気がします。 ○位田委員  私は科学者ではないので、間違ったことを申し上げるかもしれませんが。ここで行う ことが許される研究というのは何か、ということを考えると、何でもやってよいという わけではないと。これははっきりしている。しかし逆にどんな研究でもヒトの一部を使 うときは、それが配偶子であれ胚であれ遺伝子の問題であれ、どんな研究であってもや はり生殖補助医療研究にはつながり得ると思うのです。そうであるとすると、範囲を考 えるときには、やはり例えばインプリンティングだけを調べるために配偶子を用いて研 究する、もしくは配偶子から胚をつくる段階でインプリンティングだけを調べる研究と いうのは、恐らく、何でもやってよいわけではない、というところに入ってしまうので はないかと思うのです。つまり研究計画をつくるときに、どこの段階まで必ず研究計画 に入っていないといけないかということを考えておかないといけない。そうでなければ、 人間の材料を使う話ですから、全て人間に還元され得るわけです。しかし、他方でここ ではヒトの受精胚とか配偶子の話は人の生命の萌芽をないがしろにしてはいけないとい う倫理的な基準があるので研究計画を立てるときに、インプリンティングばかり申し上 げて申しわけありませんが、例えばインプリンティングを調べて、それを用いてこうい う研究ができるのですよという研究計画を立てていただく必要がある。それができるの かどうか私はよくわかりませんけれども。そういう考え方でないとちょっと認めにくい のではないか。では、それをどう書くのかというと、恐らく一般的な書き方がガイドラ インの本則の方に定められて、若干テクニカルなやり方ですけれども、細則のようなと ころにこれまでの何々に関する研究とか、例えばこういう研究とか例示をして、それで カバーするという形を取らざるを得ないのではないかと思います。 ○小幡委員  今の位田委員のご意見に大体賛成なのですが、今までのご議論を伺っていて、要する に目的は「生殖補助医療に資する」ということではっきりしていて、そこは既定のもの としてあると。その上で範囲と言いますか、要するに今まで議論されていることという のは、本当に基礎研究でなくてもよいのですが、まだまだヒト胚を用いてまでやるよう なレベルに至っていないとか、そういうものについてどう考えるべきかという話なので はないかと。お話を伺っていて、そう感じました。そうなりますと、もちろん例・細則 のようなことで、わかりやすく例を書くというのは国民の側にわかりやすいというメリ ットがあるのですが。恐らくそれだけではなく、いろいろな研究の可能性があると思い ます。そうすると、研究自体の妥当性については本来的には倫理委員会等でどういう場 合にもこの研究は安全性はどうだとか、現実性はどうだとか、いろいろ倫理委員会でそ れぞれの機関なりに審査される。そういうところでも担保されるのかと思いますが、敢 えて何か抽象的な文言を入れるとすれば、ヒト胚を用いることの重要性に鑑みて、ヒト 胚を用いなければいけないという一種の必要性のようなものを、その研究計画のところ で何らかの形で明確にしていただくという必要性があるのではないかと思います。例え ば、これは動物実験を経ていなくても、いきなりヒト胚でも必要性があって十分これは 研究としていいのだというのであればそれはそれで認められると思うのです。ですから、 もし抽象的な文言を入れるとしたらそんな感じかという気がいたします。 ○笹月座長  ありがとうございました。はい、どうぞ。 ○鈴木委員  蒸し返すようなのですが、そもそも生殖補助医療とは何を指していっているのだろう と気になったのです。通常はARTというか生殖補助技術というと体外受精とか顕微授精 のことを指すわけです。その話と、先ほど大隈先生や小幡先生がおっしゃったようにわ かりやすさという意味では、基本的に「例えば」と項目をきちんと明記していく方がい いのだろうと私は思うのですけれども、例えば今参考にあがっている厚生労働省の研究 の中で、資料の3ページ目の真ん中に5つありますけれども、この中で「遺伝子異常の 発生機序解明に関する研究」というのは確かに生殖分野に後々資することはわかるので すが、これが生殖補助医療研究かと言われると生殖補助医療研究という中に何でもかん でも詰め込まないでという気もするのです。例えば着床前診断というのは生殖補助医療 なのですかと言われると、私は首をひねってしまうということもありますし、もう一つ、 例えば人の初期胚を使った遺伝子解析というようなものも今現在もやられているかもし れませんが、当然今後の研究として十分やっていきたい分野で、研究者にとってはある のではないかと思うのですが、そういうものもこの中に一くくりにしてしまうのか、少 し違和感があるものも入り込んできているという感じがしています。もう少しその辺を 整理していった方がいいのではと思います。 ○加藤委員  ただいまの鈴木委員の発言は生殖補助医療というのは不妊治療という目的を持ってい るのはおかしいということでしょうか。 ○鈴木委員  いいえ、おかしいというよりは言葉の受け取り方のイメージのずれが恐らく生じるで あろうということです。単純に言うと総合科学技術会議の文面よりは日本産科婦人科学 会の会告による文面の方がよほどわかりやすいと私は思うわけです。生殖補助医療研究 のためではなくて、生殖医学発展の基礎研究あるいはそれを臨床研究とおっしゃるのな らもちろんそうなのでしょうけれども、あともう一つ不妊症の診断治療の進歩という文 面の方が、私たち特に当事者にはよほどわかりやすいと素朴に考えるのです。 ○高木委員  私は鈴木委員のおっしゃることもよくわかって、でも先ほどの例えば位田委員がおっ しゃったようなインプリンティングだけだとそれはこの研究には入らないとおっしゃる のだけど、そういうのは父方の影響や母方の影響はどうなのかということで、とても大 きなファクターだと思うのです。ではこういう研究に入れないということは、何を生殖 補助医療というのかという、同じ意味で私はそういう疑問が出てきたのです。ある意味 で。 ○中辻委員  今と関連するのですけれども、非専門家の人から見て、今、鈴木委員がおっしゃった ように生殖補助医療とは違うのではないかという研究が、少し考えると実は非常に密接 しているのです。例えばインプリンティングにしても遺伝子の発現異常にしても体外受 精したものの余剰胚になったものの発現と、例えば顕微授精の精子のステージとして違 うものをしたときに、もしかしてインプリントかメチル化の状態が違うということがあ る異常の原因の危険性をはらんでいるかも知れないという嫌疑があるわけです。そうい うものの時はそういう遺伝子発現なりインプリンティングを通常の受精をしたものとそ うではない顕微授精でしかも精子の発生ステージが幾つか違ったものというもので比較 することによってしか、その危険性を予測できないわけです。そういう研究は正に生殖 補助医療になるわけです。ですから基礎研究と生殖補助に本当に役立つことというのは 実は密接に近いのです。 ○鈴木委員  私自身は最終的に巡り巡って例えば簡単な言葉で言うと不妊の方々に役立つ研究にな るのだろうということはわかりますけれども、この文面では一足飛びにそういうイメー ジは全然つかないということを申し上げたいだけなのです。 ○小澤委員  さっきと同じような話なのですけれども、そういう認識のずれが生じないように、こ こに例えば生殖補助医療の発展のための基礎的な生殖医学研究を含むというような形に すると基礎から臨床までというふうになるのではないかと思います。 ○笹月座長  そこは、私の考えではあえて言わなくても当然それを含んだ意味で生殖補助医療に資 する研究ということで、それは包含されていると思います。一番のポイントはそもそも ヒト胚を用いた研究は認めないという大前提があるわけです。それは人の萌芽であり尊 厳があるからそれを破棄するような、傷つけるようなことは認めませんという大前提が あるわけです。すなわち、どんな研究でもやってよろしいということではないという大 前提がある、その中の例外としてヒト生殖補助医療に資するものは認めると言っている わけです。だからやはり我々としては生殖補助医療に資する研究というのは、他の認め られない研究とどこが違うのかということは言葉に表せないとしても議論して、コンセ ンサスを得てそれをどういう形でガイドラインの中に伝えるのか、例示するのか、細則 にするのか、それは別にしても一応の議論を尽くしておく必要はあろうかと思います。  話が難しくなってきましたので、逆にこれは駄目です、この研究は認めませんという ところを議論いたしましょう。すなわち禁止条項です。ヒト胚を使ってこういうことを やってはいけませんということ。一番わかりやすいのは遺伝子操作をしてはいけません ということはいろいろな所で決められていることであります。そのようにヒト胚を手に した場合、生殖補助医療に資すると文言で言ってもこういう研究は駄目ですということ について、ご意見をお聞かせいただけますか。 ○中辻委員  皆さんも気がつくことですけれども、例えば発生をどこまで進めてもいいかというこ とで、もし諸外国と同じように日本が14日または原始線条の現れるまでというようなこ とを使うとすればそのステージ以上に実験室内で進めてはいけない、あるいは、動物ま たは人間の子宮に戻してはいけないとか、動物細胞とのキメラを作ってはいけないとい うようなことだと思います。 ○笹月座長  禁止事項はきちんとここで各論的に明示することが必要だと思います。14日というそ の必然性がどこにあるのかということを、一般の人からよく質問されると思うので、そ こを基礎的な立場あるいは臨床的な立場から解説の意味も含めてご発言願えますか。 ○中辻委員  非常に難しいですけれども、ごく最近、国際幹細胞学会がトロントで開かれて、ES細 胞に関する国際的なガイドラインのドラフトを発表して、私はタスクフォースの一人だ ったのですが、そこでもそれだけに絞っても2時間ぐらい科学者が議論できるぐらいの 材料なのですが、例えば未分化というか脳になる細胞なりいろいろな臓器になる細胞と いうのは、そういう特殊化したものが全く現れてこない、初めて現れてくるのが原始線 条です。それから原始線条ができる時期までは、稀に二つ現れれば双子ができるわけで す。ですから一人の人間として発生する可能性が確定するところが原始線条の時期です。  それからたぶん明言はされていないけれど、体外で発生させることができる、胎盤と いうものがなくて発生させることのできる最終ステージが原始線条のできる時期です。 いろいろな構造を作る前の状態というところぐらいです。 ○吉村委員  私は一般の方に説明するときには三胚葉に分化していく時期であると説明をさせてい ただきます。そういうことでだいたいイメージがおわかりいただけるのかと思います。 先ほどの議論にもあるのですが、禁止事項を書いていただいてもちろんいいと思います。 それで範囲は決まってくるだろうと思いますが、その場合に14日になる胚を用いるとい うことぐらい、あとは決して体内に戻してはならないという2項目以上は書けないので はないかと思うのです。例えば遺伝子操作をしてはいけないといいましても、遺伝子治 療をすることになって、そういう操作が必要になってくる場合もあるわけです。ですか ら、研究するという範囲は残しておいてもいいのではないかと、私は個人的に思います。 それは皆さんのご意見でいいのですが。  ただ、先ほどの議論と同じように前提があるのは、もう一度考えていただきたいので すけれども生殖補助医療というのはいろいろな基礎的な研究をする前に人に応用されて しまったという現実があるのです。そして現実に体外受精でもう何百万人という人が生 まれていまして、日本でも61人に1人が体外受精児で生まれているわけです。私が動物 で顕微授精をやった頃というのは、人間にこんなことを本当にやっていいのかと思った ら、7年後に人間でやられてしまって、生まれてしまっているという現実があるわけで す。個人的にはまだ顕微受精も臨床研究だと思っていますけれども、現実に臨床応用さ れているわけです。ですから、研究が後追いになってきているということだけは事実な のです。  どういった問題点があるのかということを解明するために、研究というのは範囲を広 くやっていかないと、あまり規制ばかり言っていますと、我々が本当に問題点を認識で きないということになります。要するに絶対戻してはならないということと14日以上は 使わないということ以上に規制するということは現実的になかなか難しいと私は個人的 に思っています。 ○加藤委員  質問があるのですが、「原始線条が現れない内」という言い方ならいいわけですか。 ○中辻委員  科学的な議論では科学者としては結論にならなかったのです。ただ、世界各国で使わ れている基準がこれであって、これをあえて変更するべきかどうかということで、我々 プラグマティズム的なのですけれども、文章的には14日もしくは原始線条が現れる、そ の内早い時期、アーリエストの時期というのを制限している。つまり、温度を高めて14 日以前に原始線条が現れるとそこで止めるということです。 ○加藤委員  そうすると14日という規定と原始線条の規定は「OR」なのですか。 ○中辻委員  ORで、その内早い方にする方が安全だろうということです。 ○加藤委員  ORですね。 ○中辻委員  ORです。 ○笹月座長  初めから原始線条が現れる前の時期と言ってしまった方がいいのですか。2週間とか 言わずに。 ○中辻委員  例えば何かの状態で原始線条の構造が現れていなくても、いろいろな組織が出てくる ような状況を作り出せば、それでやってもいいのかという話になるので、安全といえば そうなるということです。 ○大隈委員  私もその14日なり原始線条の一つのガイドでいいと思うのですが、先ほど中辻委員が、 インビトロ、体外で育たないということをおっしゃったのですけれども、それはもしか すると例えば着床後の哺乳類胚というのを一定期間培養する技術というのがありますの で、そこは使えないのではないかと思います。 ○笹月座長  それでいいですね。あと遺伝子操作というのもいいのではないかとおっしゃったので すけれども、これは例えば遺伝子治療研究の指針では胚の遺伝子操作は禁止すると明確 に述べておりますので、それが現時点での社会のコンセンサスだろうと思います。 ○大隈委員  例えばということなのですけれども、遺伝子そのものをいじるということはよくない のですけれども、例えばメチル化の状態を変えるとか、無理矢理アセチル化を起こさせ るというようなことは、たぶん薬剤を使って行うことは可能なのだと思うのです。です からそれは例えば何らかの受精卵からの胚発生を非常にうまく、何かリフェクトがある ときにそれをリカバーするというようなことがその方法で可能であるとすれば、そこは 認めるのか認めないのか。要するに効果としては遺伝子の働き方を変え得る効果がある。 でもそれは例えばDNAの切り貼りをしてそれを卵なり受精卵に注入するとかそういった ことではないのだけれども、薬剤を使うというようなことはいいのかどうかということ です。 ○中辻委員  あえて研究者の立場を極端に言いますと、確かに遺伝子操作を胚にして、それを子ど もに発生させるところは完全禁止でいいのですけれども、例えば14日という中であるウ ィルスベクターである遺伝子を抑えるようなベクターを入れて、その遺伝子が抑えられ たときに非常に妊娠に関係があるような現象を解析できるといったところまで禁止する のかということになりますね。 ○笹月座長  確かに私が遺伝子治療では禁止していますと言ったのですが、遺伝子治療研究の指針 というのは体内に戻していいわけですから、もし、この遺伝子治療の指針で遺伝子操作 を認めると、胚を遺伝子操作してそれを体内に戻すことが可能になる。ところがここは 体内には決して戻してはいけませんと言っているわけだから、研究のレベルですという ことだから遺伝子治療の倫理指針で禁止しているから駄目ですという言い方はできない かと思います。それと独立にこの生殖補助医療のための研究に遺伝子操作が本当に必要 であるという場合にそれを認めるのかどうかということは、先ほどの遺伝子治療の指針 ガイドラインとは独立にここで議論する必要があろうと思います。 ○中辻委員  たぶん皆さんご存知だと思いますけれども、これは少なくとも大学の倫理委員会なり、 人間の材料を使う研究は全て大学の倫理委員会を通すことになっていますから、大学の 倫理委員会で審理がされてその審査の中では必ずその研究の必然性・理由・有効性・な ぜしなければいけないかということは問われるはずです。その問われた上でこれは科学 的に必要な研究で、結果を生み出す可能性があるということはそこで担保されるという ことの上のことです。 ○鈴木委員  私は今の遺伝子改変のお話はだいたいわかりますけれども、それ以上に、受精胚を臨 床に、つまり絶対お腹に戻さないということがあるのですかということの確認なのです が。現実に久慈先生が調べてくださった、あるいはここでお話になった論文の中にも、 新たに受精卵を作成する研究が88件あって、内、移殖を前提にしたものが35件(11.5%) あったと、先生はご報告なさっていますから、そこと今の話はずれるのではないかと思 います。つまり、研究といっても移殖を前提にした研究はありだといっている概念とい うのでしょうか。 ○吉村委員  それはあくまで夫婦間ですから、例えば夫婦間の受精しない人に対して顕微授精する ということも、どうやってアクチベーションしていくかということも研究に入るわけで すから、それと今言ったことは全然矛盾はしないと思います。 ○鈴木委員  矛盾がないように、あとで何かわかるように書いていただきたいと思うのですが、例 えば顕微授精をして受精しなかった卵に電気刺激を与えて受精卵を得られるかの研究を して、受精卵が得られたから戻しましょうというのも研究というか、おそらく大学でや られているものであったら倫理委員会などを通しておやりになっていたのかもしれない ですけれども、全てを研究に用いたヒト受精胚を臨床に用いないという話にはならない、 現実になっていないということです。 ○笹月座長  これまではそうなのだけれども、ここではそれを規制しましょうということです。 ○鈴木委員  では、今のようなケースも戻してはいけない、今後はできないということになるので すか。 ○吉村委員  それは研究の内容によって違うのではないですか。それはやはり検討しないといけな いことですし、個別的な問題ですから、これは施設の倫理委員会がどうするかという判 断でよろしいと思います。この委員会のミッションはそんな細かいことを決めることで はないと私は認識しています。 ○鈴木委員  だから、原則、研究に用いたヒト受精胚を、つまり禁止事項としてあげてしまって大 丈夫なのでしょうかと、私はむしろ心配をしたわけですが。 ○笹月座長  だからこれまでは、先ほど吉村委員がおっしゃったように、そういう国のルール無し に事は進んでいって、医療としてむしろ確立して固定しているのです。その前のところ を臨床の人たちは臨床研究と称してやるわけです。そうすると、そういうものをここの 審査にかけなければいけないということにもしなったとすれば、ここに出して認められ たからにはそこでできた胚は人に戻してはいけないということになるわけです。そうい うことがあるので、前々回にこの研究の範囲を戻すところまでするかどうかということ が出たのです。ここでは戻さないという大前提があるので、そしてすでに確立された臨 床家がその手前のところでいろいろな工夫をして、ここに申請したからにはここででき た胚は戻せないということになるのです。だからそれと同じような方法を用いてまた新 たな胚を作って別の審査会に出すというようなことにでもなると思います。 ○高木委員  今、顕微授精でたくさん子どもが生まれている、そして顕微授精することによって、 先ほど中辻委員がおっしゃったようにメチル化とかの状態が違うことがあり得る、そう するとそれを改善したような方法が発表されて、それを臨床の人がそちらの方がいいと なってもそれは使ってはいけないということですね。例えば薬剤を使うなどでそれがよ りよい方法として基礎研究として出てきても、それは使ってはいけないということです か。 ○笹月座長  この審査会に出して研究をしてそこで作った胚は胎内に戻してはいけない。だからそ ういうことをせずに医師主導型治験とかいう形で、あの方法がいいらしいということで あれば自分たちが作ってこういう審査会にも出さずに実際に臨床に応用するというよう なことが出てくることはあるでしょう。それがこれまでの現実ですし、医学の臨床の歴 史というのは、結局そういうことだったと思うのです。臓器移植にしても本当に何もか もわかったからスタートしたのではなくて、むちゃくちゃな移殖をやっていたわけです。 それがだんだん科学の進歩と共にABOを合わせなければいけない、ABOだけでも駄目です、 HLAをきちんと合わせなければいけない、それからどういう免疫抑制剤を使うかなど全 て後追いの研究なのです。 ○高木委員  これまで生命倫理があまり発達していない時代はそうだったけれども、今このように 生命倫理的な側面がうるさく言われている時代に、そういう研究のやり方はもう認めら れないのではないですか。 ○笹月座長  それは臨床研究倫理指針に則ってやらなければならないということであると思います。 だから、この指針ができたあかつきに本当に発見された新しいことをどう使うか、臨床 に応用するか。「ヒト生殖補助医療に資する」、だけどこのがちがちのことでいけば、 胎内に戻さないので、生殖補助医療に資することができないではないかということで、 この指針の中に戻すところまで入れるのかということをあえて議論したこともあります。 とにかくここでは戻さないという大前提でガイドラインを作りましょうということです。 禁止事項については2週間・原始線条出現前、それと体内に戻してはいけませんという その二つは合意を得ましたが、遺伝子操作というような問題も遺伝子治療のガイドライ ンから見れば、遺伝子治療のための胚の遺伝子操作は認めないということですが、ここ ではどうするかということはやはり禁止事項として議論しておかなくてはならないだろ うと思います。例えば、基礎研究ですから胚同士を融合させるとか、ヒトのできた二つ の胚を融合させるような研究はよろしいのか、あるいはヒト胚とヒトES細胞とを融合さ せてよろしいかとか、厳しくきちんと考えておくべき情報は、私はこの二つだけではな くいくつもあるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。 ○木下委員  当初胚を子宮に戻さない研究であっても例外的に戻すものもあり得るということが、 研究の種類によっては起こり得ます。クオリティの高い受精卵を得るための研究と、例 えばヒト胚細胞の発生の研究のように直接臨床には反映しない研究があります。前者の ような生殖補助技術を発展させる臨床に根ざした研究の場合でも、胚は子宮に返さない のだということにしてしまいますと、臨床に結びつくような研究はストップしてしまい ます。したがって臨床に関連した研究の場合は胚を返すことを認めるという一項目がな いと困るのではないかと思います。 ○石井生命倫理・安全対策室長  総合科学技術会議の意見具申の中で、今の主資料の5ページのところにございます 「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」に書いてありますが、17ページの中で研究に 用いたヒト受精胚を臨床に用いないことというのがあります。これの意味をどう解釈す るのかというのが、いわば指針を作るときのポイントだろうと思っていまして、これは 町野先生、位田先生にむしろ補足いただければと思うのですが、この意味というのが総 合科学技術会議が議論していた研究という言葉がそもそも基礎的研究つまり臨床研究を 含まない概念で書かれているとするならば、そもそも臨床に用いないことを前提として 行われた研究で作られた胚は体内に戻さないという意味に理解できますし、そうである ならば、初めから臨床を前提にしたもので研究要素のあるものはこの意味の対象外とい うことになろうと思います。そうではなくて、研究を広く含んでしまいますと、臨床研 究も含めていうと臨床研究で用いた受精胚を臨床に用いないという矛盾が出てまいりま すので、そういう意味ではないのだろうと思われますが、ただ、文章上そうなっていま せんので、この際文章を整理しまして、基礎的研究で用いた受精胚、臨床を前提としな いで用いたヒト受精胚はという、先ほどいろいろ試みた電気刺激を用いてやってみてで きたとしても、それがはじめから臨床を前提に管理していなかったものであるならば、 やはり今度は臨床を前提にもう一度やってみるしかない。ただ、はじめから臨床を前提 にやっているなら、それはこの指針の外であって臨床の研究として扱いましょうという ような何らかの整理をしなければこの解釈が成り立たないのではないかと思います。町 野先生がおられないので位田先生いかがでしょうか。 ○位田委員  そのようにきっちりとこの部分を議論した記憶があまりないのですが。基本的には、 先ほど吉村先生が言われたような、特に夫婦の間でやってみてそれを戻してみるという ところまでは議論しませんでした。基本的にヒトの受精胚、配偶子なども含めてヒトの 胚それに類するものを研究で用いたらそれは体内に戻すものではないという考え方によ っていると思います。石井室長が言われたように夫婦の間で基礎研究といってやってみ て、うまくいっても基礎研究なので戻してはいけないという話なのか、やることは同じ だけれども、最初に基礎研究といったから戻せないで、臨床研究といったから戻しても いいということになるかという問題だと思います。これは前も議論にありましたが、基 礎研究と臨床研究はどこで分かれるのかという話になりますので、これは町野先生にも お聞きした方がいいと思いますが、総合科学技術会議で考えていたのは、基本的に夫婦 間という話を考えず、研究用にヒトの受精胚、精子と未受精卵を誰かからもらってきて、 それで胚を作るという非常に一般的な状況を想定しています。それは研究用に用いて胚 を作ったのであるから体内に戻すべきものではないという非常に一般的な、原則的な立 場を示しています。夫婦間でやってみてという話までは議論が及んでいないので、私に はここに書いてある以上の補足はちょっとできません。 ○笹月座長  町野先生、何かご意見あるいは議論がありますか。 ○町野委員  遅刻した学生のようで授業がどこまで進んだのかよくわかりませんが、総合科学技術 会議での議論は、胎内に戻して着床させ、出生させるという目的ではなく、受精胚を作 ることを許容するというものです。そういうことが許されるかということが、一番大変 な問題だったのです。受精胚を作る以上は、それを出生させる目的で作るというのが本 来であるべきだからです。そのあとで戻しましょうか、といったときについては、恐ら くはそれほど議論しなかったのではないかと思います。「戻さないことにしましょうか」 「まあ、そういうことにしましょう」という程度だったと私は理解しています。  しかし、「報告書」に戻してはいけない、ということがどこかに書いてあるのですか。   ○笹月座長  それは総合科学技術会議の「決して体内には戻さない」という大前提です。 ○中辻委員  外のものから見ると、実験的な治療は臨床指針の中で管理されるべきもので、子宮に 戻すこともあり得るというプロセスを始めるときは、通常ではない先端的な臨床をやる からそれが安全かどうかということは臨床指針で管理されて審査を受けて行われるもの で、それはそれでよく、これはそれではないものをしているわけです。 ○笹月座長  これが大事なのですが、先ほどの総合科学技術会議の目的として人の生殖補助医療技 術の維持ではなくて向上と安全性確保と私はいいましたが、総合科学技術会議の意見で は生殖補助医療技術の維持や安全性確保にとって必要であるといっているところを見る と、あまり生殖補助医療に新しいテクノロジーを開拓するようなことは期待してないよ うな書き方で、私は維持というのはおかしいと思っています。本当に新しいテクノロジ ーや方法を開発するから研究というわけで、今までのことしかやらないのなら研究では あり得ないわけです。新しいことをやってできた胚をいきなり人に戻していいかとなる と、その時点ですでに問題があります。新しい方法でできた新しい胚というのは、いき なり戻すことは難しいだろうから破棄せざるを得ない。そして今度は別の指針に則って 生殖補助医療臨床研究の指針というのができるのかどうかは別としても、そこでの審査 を受けた上で実行されるというように整備しないと、夫婦間だから戻していいだろうな どという議論ではないと思います。 ○石原委員  先ほど吉村先生がちょっと言われましたが、例えばICSIにしても完全に確立して広く 実施されています。今はIVFよりもICSIの方が多くなっているくらいですが、これが 100%確立しているかといわれると必ずしもそうではなく、ICSIによる受精メカニズム というのは普通とまるっきり違い、そもそも100%わかっていないわけです。それにも かかわらず世界中で行われているという現状がありますので、読みようによってはそう いうふうに書かれたら確立してないものはだめだというふうに取られてしまう可能性が あるとするとICSIができないということになります。書き方が非常に難しい微妙な部分 が出てくるのではないかと思います。 ○笹月座長  私が言ったのは、ここでは戻すことははじめから考えないで、戻すところは別の指針 でやりましょうということです。 ○石原委員  そこは議論しない、何も書かないという意味ですか。 ○笹月座長  別のことでやりますということを書いておけばいいと思います。今の意見でいくと、 移植医療でも骨髄移植の成功率はまだまだ50%くらいです。30%の人はむしろ骨髄移植 をしたためにGVHDというフェイタルな事件で死んでいるわけです。それが100%という には程遠い世界中の医療の現状であるから、私はいつも基礎研究を振興しなければいけ ない、今の医療で満足してはいけない、そのためには研究が必要だと思っています。 ○加藤委員  要するに今の議論は、この委員会で審査する内容は全て14日で体内に戻さないで具体 的には廃棄するわけですね。その場合に限ってのガイドラインを作るのであって、それ 以外については関知しないということですね。 ○笹月座長  別のガイドラインに委ねましょうということです。 ○鈴木委員  未整理ですが一言だけ、それでは現場の患者さんはむしろ守られないのではないかと いう印象を感じました。 ○笹月座長  そうですね。ですから生殖補助医療に資するというけれども、どうやって資するので すかと問われれば、ここだけでは生殖補助医療に関与しようがない。だからもう一つ今 度は臨床応用のところのルール作りが必要だろうと思います。新しく作る必要があるの かそれとも臨床研究の倫理指針に従えばそれで賄えることなのか。生殖補助医療独特の 臨床応用の倫理指針が必要かどうかはまた別の議論だと思います。例えば臨床研究の倫 理指針というのがありますが、それとは独立に特殊だから遺伝子治療のための倫理指針 であって、それはもちろん患者に戻すわけです。そのステップをここでは除外している ので、新たに生殖補助医療の臨床応用の倫理指針が必要なのか、あるいは既にある一般 的な臨床研究倫理指針で賄えるのか、それは別個に議論すべきことだと思います。 ○鈴木委員  別個にというのは、誰がどちらでというふうに先生は今イメージされたのですか。 ○笹月座長  例えば、臨床研究倫理指針で賄えるのかあるいは別の倫理指針が必要かということを 簡単に最後に議論して、ここではそれは取り扱わなかったので、本当に生殖補助医療に 資するためには、臨床研究がまさに体内に戻すところの審査が必要であり、それは別の 指針に委ねるということを一言付記で述べておけばいいのではないでしょうか。 ○木下委員  臨床応用を意図した研究であっても、研究内容は基礎研究に違いないのです。臨床応 用を意図したものであっても、当初はもちろん安全性や順調に発育するかどうか全く分 からないわけですから、すぐに子宮に返すということはあり得ないと思います。そうい う意味でルールに則って、これなら返してもいいという指針がないと臨床研究になりま せん。ですから、もしも臨床を意図した研究であれば返していいということになるとこ の指針に抵触してしまいます。従って、生殖補助医療を向上させるための研究の場合に は別途考えるとか、子宮に戻すということに関しては、別の指針の基で考えるような逃 げ道がないと実際の現場では困るのではないかと思います。 ○笹月座長  新たな生殖補助医療の臨床のための指針を新たに作るかあるいは臨床研究指針で賄え るかは最後に議論しましょうというのはそのことです。私は最初の頃、むしろこの委員 会で総合科学技術会議にチャレンジしてでも戻すところまで含めた倫理指針を作るべき ではないかということを何度か議論しましたが、委員の方から受け入れられなかったの で、それではここは戻すことは一切タッチせず、その代わり別の指針で面倒を見てくだ さいということにせざるを得ないのです。 ○位田委員  少し科学的な質問をしたいのですが、同じ研究が、ある場合には戻さない研究になり、 ある場合には戻す研究になるというのは大いにあり得るわけですね。 ○吉村委員  前にも言ったと思いますが、この総合科学技術会議の指針は基本的に配偶子を誰から もらってもいいのです。そして胚を作ってもいいわけです。それが大前提になっていま す。そうすると現実に戻せないということを決めていかないと、社会は完全に混乱して しまいます。もしそこまで変えてもいいですよということになればいいのですが、私は 先ほどからこだわっているように夫婦間であるということが前提となっていればこの研 究は認められても仕方がないと思っています。この前提は配偶子をもらってくるわけで すから、その胚は夫婦でもない誰のかわからない胚ができるわけです。それを戻すこと はできないでしょう。これは普通一般常識から考えれば当たり前のことではないか、そ う結論をせざるを得ないのではないかと思います。ですから、夫婦間の場合に生殖補助 医療に資するという研究はあると思います。例えば操作をして受精しやすくして胚を戻 してあげるということはありますが、それはここの委員会のミッションとしては少し離 れてしまいます。本来ならそういうところもこの委員会でやっていただけるといいので すが、それは少し無理があります。  もともとの決定が胚を作ってもいいということですから、これは世界にないすばらし い結論を出したわけです。 ○笹月座長  イギリスにあります。 ○吉村委員  イギリスにはありますが、日本がそんなことをしていいという結論を出したわけです から、その辺はやはり厳密にどこかで歯止めをしていかないといけない。この前も笹月 先生が言われましたけれども、戻さないでどうして生殖医療に資するのかという考え方 はあるのですが、非配偶者間の体外受精が許されていないという今の日本の現状では戻 すことは絶対にできない。   ○位田委員  今度作る指針が適用される範囲と、夫婦間でやるときには、場合によっては戻すかも しれないという場合の境目をはっきり分けておかないといけません。夫婦間で配偶子を 使うという場合と誰かよくわからない配偶子を使うという場合とでは、研究は同じだと 思います。どの研究がこちらに入ってどの研究が向こうに入るかというのをはっきりさ せるために、他の誰かからもらってくるということ。総合科学技術会議の意見はそうい う立場だと思います。こちらのガイドラインに入る研究というのはアノニマス (anonymous)で配偶子をもらってきて胚を作るということに限定するのだろうと思いま す。限定していいかどうかというボーダーラインのところはよくわかりませんが。 ○笹月座長  私はそれは全然違うと思います。基礎研究でこの方法がいいとわかったものを、いき なりすぐ患者に戻すということはあり得ないわけです。 ○位田委員  夫婦間でもですか。 ○笹月座長  夫婦間などということは関係なしに、もしいいものができたとしてそれを戻そうとす るなら、例えば卵をたくさん採っているわけですから、そのうちの一部を使って研究を して、それはもう戻せません。そこを次の本当に人に戻すというところをどうするのか ということはここではもう議論しないということになっているわけですから、それは夫 婦間だから認めますということはあり得ないと思います。 ○位田委員  私が言ったのは夫婦間だから認めるという話ではなく、こちらのガイドラインの範囲 には入らないという取り扱いをしていいかどうかなのです。 ○町野委員  それはできないでしょう。 ○加藤委員  この場合にはたとえ夫婦間であってもこういうプロトコルを出したものについては廃 棄するという前提でやるべきです。ただ子供を作りたいからという人はここには申請し ないで全く別のルートでやるということですか。 ○笹月座長  そうではなくて、今まで行われているようなことに関してはガイドラインに関係なく 行われるわけです。 ○加藤委員  普通の不妊治療に属するわけですね。 ○笹月座長  このガイドラインができたら今までやっている生殖補助医療は禁止になるのですか。 ○加藤委員  そんなことはありません。 ○笹月座長  そうではないでしょう、だから子供が欲しい人は夫婦間で今までの方法で生殖補助医 療を受けるわけです。ところが新しい方法を開発するために研究することを認めましょ うというのがこれなのです。 ○木下委員  わかりました。今吉村先生が言われたように、夫婦間でない胚であるならば、返すと いうことは前提になりません。臨床のため将来資する研究であっても、どういう男女の 関係の胚であれ、できた胚を用いて研究をして、これは返せる胚だと判断できたときに、 夫婦間の胚に応用しようという段階の話になりますから、できた胚は返さないという前 提は、非常に明快であると思います。したがって、安全性を確認されたら初めて夫婦の 胚を作って臨床応用するという話になり、それは第二段階だと思います。臨床応用とい うのは次の段階だというふうに考えた方がいいのではないでしょうか。 ○町野委員  おそらく認めないだろうと思いますけれども、研究目的で作った受精胚を戻していい か、どういう手続きかは、現在の段階では基本的に日本産科婦人科学会が決めているル ールに従うということにならざるを得ないと思います。先ほど吉村先生が言われたとお り、そのような状態の中で総合科学技術会議の意見書というのは、出産させる目的では なく研究目的で胚を作ることを認めるということだったわけですから、そこから先それ を着床させて出産に用いるかどうかというのはまた別の問題です。これを禁止している 明確な文言が「報告書」の中になかなか見つからずにいます。恐らくもう1回着床させ ることはないという前提で議論されたのかもしれません。ここでガイドラインを作って、 着床させることを一律に禁止するということはできると私は思います。 ○笹月座長  というよりもその大前提で議論しているわけです。 ○町野委員  そうではないということもあり得るわけですから、その点についてオープンにしてお いて、着床させるかどうかについては、先生は別にガイドラインを作れといわれるけれ ども、それ以外に現在の産科婦人科学会のルールに任せるということもあり得るわけで す。選択肢としてそれもあり得ますが、この委員会で着床は禁止するという結論をとる ことも可能だということを言っているのです。 ○笹月座長  研究で作成した胚は戻してはならないというページを教えてください。16ページです か。きちんと書かれています。それを前提にこれまで議論を重ねてきたわけです。その 研究成果を戻すところまでやらなければ話にならないので、その大前提にチャレンジし ますかということは既に議論をして、それはだめだということでここまできたわけです。  今の話だと、私がある時期にプロポーズしてそれはだめだと否定されましたが、それ をもう一度蒸し返して、どういう条件なら体内に戻してもよろしいということまでこの 委員会でやるのですかということになるわけです。私の理解では、大分前の委員会で何 度も臨床研究と基礎研究ということを議論して、私は、戻さない研究というのは資する ことにはならないし臨床研究ではないのではないかと言ったのですが、それは別のこと で戻してはいけませんという大前提があるという大勢でその線で議論を進めてきたので す。   ○高木委員  よりよく妊娠・受精するような研究というのは顕微授精が行われているわけですから、 例えば戻してもいいような研究をチェックする機関というのは今あるのですか。 ○笹月座長  それは今までもそういうふうなことでやってきて産科婦人科学会の会議に出てそれに 従って行われているということでしょう。 ○高木委員  では産科婦人科学会の会告に従って今後もやるということですね。 ○笹月座長  当然ガイドラインができればそれに従うということです。例えば国が審査するという ことを決めれば、国が、逆に産科婦人科学会に委ねますということになればここで決め たガイドラインを産科婦人科学会になげることになります。 ○高木委員  わかりました。 ○町野委員  私は、ここでこれを禁止すべきとか、やるべきではないと言ったつもりではなく、こ こは着床の許容性の範囲を論ずべき場所ではないという議論だったのです。ですから、 私の理解としては元に戻すかどうかというのではありません。 ○笹月座長  胎内に戻さなければ話にならないわけですね。それはどこかでやらなければいけない。 だけれども、ここはその場ではないということです。 ○町野委員  私はそういう趣旨で言いました。  ところで、「禁止」はどこに書いてありますか。 ○齋藤母子保健課課長補佐  水色のファイルの中の16ページの第4の1基本的考え方の4行目の最後のところに 「ヒト胚は体内に戻さず」とあります。 ○位田委員  ちょっと整理させていただきたいのですが、総合科学技術会議の意見では研究でヒト 胚を作った場合には体内に戻さないという話ですから、委員長が先ほどから言われてい る、戻すケースは臨床応用の指針が必要だということですか。 ○笹月座長  ここでは戻すことは考えなくてよいということです。 ○位田委員  戻さないものは研究であり、戻す場合は臨床応用という整理ができるということです ね。 ○笹月座長  それを枠として捉えるか、既成の臨床研究倫理指針で賄えるのか、それとも遺伝子治 療倫理指針のような新たな指針を必要とするかということは最後に決めましょうという ことです。 ○木下委員  産婦人科医として私も臨床応用する立場からすると、確かにこのような研究レベルで は返しません。実際その研究成果から胚を子宮に戻すようになるというときに、今言わ れた第二段階の臨床的なレベルで返すことに関しての前向きな取り扱い指針に関しての お考えはいかがでしょうか、現実的にはそういうことがなければ進歩はないですね。 ○吉村委員  そうですね。夫婦間でそういったことをしてはならないということを決めるのは極め て難しい。夫婦間の場合、現実的にその研究の内容が本当に臨床研究なのかどうかとい うことは極めて難しい。笹月先生はやはり科学者ですから、考え方のバックグラウンド は、動物実験をある程度済ませてある程度の成果が得られた段階で人に応用しようとい うステップを踏まれているわけです。これは研究者としてすばらしいステップだと思い ますが、現実の今までの生殖医療というのは実験医療だったのです。例えばこういうこ とをやったら夫婦間で本当によくなって着床したのではないかということが現実に行わ れてしまっています。これを改めてこれはこういったところに従った研究ですよという ことは非常に難しいような感じです。 ○笹月座長  医療として確立しているわけですから、今までの方法に従う必要はないわけです。け れどもチャレンジングに新しい方法を開発しようとして行われるのは、いくら夫婦間で あってもここで審査しなければいけない。そして、できた胚をなぜこれがいいと評する のか安全性や効果をどう調べるのか。それは人ですからやってみなければわかりません。 その部分を審査するのは別であり、ここの範囲ではありませんといっているのであって、 だめですといっているわけではありません。 ○吉村委員  それはよくわかるのですが、現実的にどういった委員会が審議をし、するかどうかと いうことはすごく大変なことです。日本産科婦人科学会でも最近では非常に研究に対し ては厳しくなり、この2年くらいヒアリングも行ってこの研究は本当にやっていい研究 なのかどうかということをやるようになってきました。これは大変なことです。一学会 ができるようなことではなくなってきています。そうなると申請する側もそういった意 識を持ってもらわなければならないし、そういったまだ成熟した状況になっているとは 言えません。先生に現実を知って頂ければいかがと。 ○笹月座長  例えば遺伝子治療の審査などは本当に1年も2年もかかって、逆に研究者、臨床家か らクレームがつくくらい慎重にやり、けれども審査するといろいろな問題点が出てきま す。ですから臨床に戻すところを本当は私は最初の頃ここでやってもいいのではないか、 あまり細かなことを言わずに大枠さえ決めればいいのではないかと申したのですが、そ れはだめですということで、ここでは体内に戻すところには触れません。それ以前の研 究です。だから中間のところは別の審査のしかたをこちらとしてはプロポーズする以外 にないということだと思います。  だから夫婦間でやった、できたものを戻してはいけないのかどうか。それはそこで議 論していただければと思います。いくら夫婦間でも新しいテクノロジーを導入したわけ ですから、それが安全なのか、本当に効果があるのかというのは、私はここで審査して もいいと最初思ったのですが、それはやめましょうということですから、別の審査委員 会を作らなければいけないと思います。 ○鈴木委員  私は今日で6回目になるのですが、プロポーズが断られたというのが、どこでそうい う話になったのか全然理解できていないのです。つまりこの委員会の守備範囲として、 子宮に戻す胚移植の話はここの委員会でやらず他のところでやっていただきましょうと いう話になりましたと先生が先ほどからおっしゃっているのですが、そういう話になっ ていたのかなという感じで、私はそのように全然認識していませんでした。 ○笹月座長  そうですか。それはさんざん議論してそうではない、ここでは胎内には戻さないので す。戻すところまではやりません。 ○石井生命倫理・安全対策室長  前回に議論いただいたときの資料が資料4です。資料4の「生殖補助医療研究の範囲」 という議論の中の右側の部分で「胎内への胚移植を伴うもの」という部分の取り扱いを どうしようかという議論が前回ありました。それで右側の下の部分に「以下のいずれで 対応することが適当か」という議論がありまして、四つのやり方がありますという話で 議論があったかと思います。  そのときの議論では議事録がありませんので正確に説明できませんが、そのときに出 た意見が、胎内に移植しないことが前提である以上ここは違うのではないかという議論 がかなりありました。確か最終的な結論はそういうことで、もう1度最後のところで確 認しましょうという議論だったと記憶しています。 ○鈴木委員  もしそうだとしたら私は少し認識が違ったということです。私も記憶があいまいです けれども、前回のお話をそのようには認識していませんでした。 ○佐藤母子保健課長  議事録をきちんととっておりまして、先ほど笹月座長がおっしゃった話と文部科学省 が言った通りですが、次回以降整理しましてこの部分がこうですと下線を引いて示した いと思います。  私どもも全く笹月座長と同じ意見で、笹月座長からその部分も含めて議論しようかと いうこと、例えば資料4の(4)の所でかなり丁寧に説明いただいたと思います。私どもの 雰囲気でははっきりだめだとは委員の先生はおっしゃいませんでしたが、少し違うので はないかという意見が出たと記憶しています。次回以降議事録に下線を引いて示したい と思います。 ○笹月座長  私は遺伝子治療の審査部会の座長をして審査しておりますので、繰り返し最初の頃か ら胎内に戻すこと無しには、それに相当しないこういうガイドラインは本当に医療に資 することにならないのではないかという思いが強かったので、そのことは繰り返し述べ て、それでもなおここではその考えは否定されたので、私は撤退した側ですので、記憶 に間違いはないと思います。  今日のところは禁止事項として先ほど私が申しましたことは中断していますが、例え ば胚を作った。その胚を二つくっつけてみましょう、双子を生みましょう、一挙に生み ましょう、あるいはそれを用いたES以外の細胞と融合させます、遺伝子操作をします、 それらは認めるのか。いろいろな事が出てくると思うのです。生殖補助医療にはこの点 をチェックすることが基礎として必要だと思います。その辺を議論したいと思います。 あるいは各論は言わずにプリンシプルとして人の萌芽である胚の尊厳を傷付けるような 実験は認めないとか何かそういう総論でいくのか。 ○中辻委員  ただ確実にこれは禁止すべきだということがあります。14日と子宮に戻すとかとは違 う、先ほど言いましたように、ある程度具体的にこういう場合もあるのではないかとい うのはわかるのですがフュージョン、キメラとか2つに分割というのは、今そういうこ とが必要な研究がありえるかどうかはわからないのですが、それは科学ですのでどこか で出るかもしれない。そうすると絶対これはしてはいけないというところは押さえてお いて、その他に関してもちろん二つに分割する云々ということは、人間の萌芽をむやみ に操作するのはよくないわけですから、それに関してはそれがなぜ必要か。それによっ てどういう恩恵がもたらされるかということを、その学問の状況の時点で審査するしか なくて、そこは一般の言葉として科学的な必然性・合理性とを審査した上で認められる ものとするという文言にしておいて、そこは個別審査に任せるしかないのではないかと いう気がします。 ○大隈委員  生殖補助医療研究という観点と、こういう研究はということの例ですけれども、先ほ ど先生が少しおっしゃった例えばES細胞と融合させる。今の私のイメージではそういう 研究は生殖補助医療のサイドではそんなに大きなメリットはないのかもしれないと思う のですけれども、幹細胞の研究の側から見たときには、もしかするとつまり主体が逆に なるかもしれないのですが、例えばそのES細胞から何かいろいろ操作をして、人間がつ くりたい細胞を作るという観点から考えたとき、何かリプログラミングをさせるような ときにその受精卵と融合させるということが何か良い効果をもたらすような可能性とい うのは全く考えられないわけではないと思うのです。そうなった場合に、これは生殖補 助医療研究ではない、生殖補助医療に資する研究とはみなすことはできないということ で、排除項目に入れるべきかどうかは少し考えるべきと思ったのですが。 ○笹月座長  ESの人クローン胚の指針では、ESとヒト胚と融合してはいけないという禁止条項か何 かに盛り込んでいますよね。違いますか。 ○石井生命倫理・安全対策室長  今お配りしております資料の6ページのところですが、一番下の所に(参考)「ヒト ES細胞の樹立及び使用に関する指針」の第27条があります。その中の第2号に「ヒトES 細胞を取り扱う者は次に掲げる行為を行ってはならないものとする。」ES細胞の禁止条 項として「ヒト胚へヒトES細胞を導入すること。」ということがあります。ES細胞の使 用としての禁止事項になります。 ○笹月座長  参考までに質問したのですが、ESの研究の側から見たときには禁止事項に入るという ことですか。 ○石井生命倫理・安全対策室長  私どもとしてはこの委員会の議論の前提は先ほどから何度も出ていますが、総合科学 技術会議の意見具申の中でどういうガイドラインを作るかということですので、今総合 科学技術会議が議論したときに得られている科学的知見の中で、ヒト胚を作成するだけ の科学的妥当性・社会的な妥当性があるものは、生殖補助医療研究ということになって いる。それを越えてもし何か出てくるようであれば、そこはまた改めて科学的妥当性と 社会的な妥当性をきちんと議論をして、その範囲を広げるということをしていくのが手 順ではないかと考えています。 ○大隈委員  確認ですが、今おっしゃった27条の2というのはどういう実験をイメージしているか というと、いわゆるトランスジェニック動物などを作るときのやり方に近いようなもの だと思うのです。私のイメージした実験はそういう感じではなくて、ヒトES細胞と例え ば受精卵と細胞融合させる、あるいはヒト胚、受精卵の細胞質をES細胞に注入するとか 何かそういう実験は考えられるではないか。それに関してどう扱ったらいいでしょうか という問題提起のつもりでした。 ○笹月座長  今のような各論になると、まず個々の機関の倫理審査委員会で、ヒト生殖補助医療に どのように資するのかの大前提で議論してもらうということになるでしょう。 ○大隈委員  ただ私が提示した個別の例ですけれども、明らかにその研究は生殖補助医療に資する 可能性はあまり高くないと、もともと思っているのです。その場合に要するにこういう 研究者がいたらということですが、ES細胞から何とかしていろいろな細胞をつくりたい と思ったときに、現状ではブレイクスルーできないところまでいってしまった。一方で 今回こういう指針を作ることによって生殖補助医療に資するためならということで、ヒ トの胚を例えばつくっているということがあり、もちろんこういった実験は動物実験を へた上でのことだと私は思っていますけれども、いずれそういうところが可能性として 浮かび上がってくることも少しは考えた上のことと思いました。 ○加藤委員  質問、意見があります。やってはいけないことを細かく書き上げるというのはあまり よくない、無駄になるのではないかという気がします。ガイドラインそのものはつまり 14日になったら廃棄するというところで胚そのものの安全性の問題はすべてすんでしま っている。あとは卵子を取り出してきて樹立したりするときの提供者の安全性だとかそ ういう問題は残るかもしれないけれども、恐らく安全性という観点が規制することので きる根拠であるとすると、安全性の問題は大筋ですでに答えが出ていると判断した方が いいのではないかと思います。 ○町野委員  私もその意見に賛成で、戻さないということを前提にしている以上は、あとは安全性 の問題も残らない。でるところがないだろうと思います。研究の倫理性の問題が残るだ けだろうと思います。ですからそれをこと細かくやるよりは恐らく大枠のことをこの程 度決めておいて、審査の方にゆだねるということにならざるを得ないだろうと思います。 ○笹月座長  そうすると例えば2週間なり、体内には戻さないその二つで十分だということですね。 ○町野委員  もちろん研究の倫理性のことは大枠は、はめておく必要はあります。 ○笹月座長  それはもう議論しました。三つの条件、科学的妥当性、社会的な倫理性、それから必 然性、すべての生殖補助医療研究としての必然性。 ○中辻委員  倫理性というのは、説明が無いといろいろな捉え方があって大学によって委員の方の 考え方も違うのです。科学的合理性、必然性というのは割合議論できるのです。ですか ら倫理性というのはかなり吟味して、使わなければいけないときには使うことになるけ れども、それは科学的にやる必要があるというところの審査で十分なのではないかとい う気がします。 ○笹月座長  なぜ私が倫理性とか社会性ということを言ったかというと、胚の定義として人の萌芽 であって、その尊厳ということが出てくるので、勝手に変なことをやられては困ります という社会的な要請があると、私は思うからです。 ○石原委員  もし議論がそうだとすると、その目的とか方法のところではなくて、むしろ例えば研 究者とか研究施設の要件であるとかその方が重要だというお話になるという気が今、し たのです。今先生がおっしゃられている議論、笹月先生がおっしゃられている議論につ いてですが。 ○笹月座長  私が先生のご意見を正しく理解しているとすれば、例えば研究代表者と言うか責任者 は、個人の研究者にせずに機関の長を申請者、もし審査する場合には申請者とするとか、 そういう意味ですか。機関というものを問うということですか。 ○石原委員  いや、ですからどういう範囲までこうした研究を認めるか。それこそ例えば卵子とか 精子とかの入手の面を考えますと、現実には開業医レベルでたくさん行われているわけ です。そういうところをどうするのか。コラボレーションという形を義務付けるのかと か、実際にそのガイドラインというものを出すのであれば、そういう運用上の細則がむ しろ重要な範囲になってくるのではか。 ○笹月座長  その点はもちろん議論しなければいけなくて、例えば採取する人が代表者になるべき であるとか、いろいろなことがある。それは次のテーマです。 ○高木委員  ここに日本産科婦人科学会では「胚の培養条件に関する研究等」と書いてあるのです が、これもあくまでも14日以内の胚の培養条件ということですか。 ○吉村委員  私の理解が間違っているのかどうか、文部科学省の方に教えていただきたいのですが、 特定胚も関係してくると思うのです。もう一回確認しますけれども、特定胚の指針では、 動物性集合胚もヒト胚核移植胚も人クローン胚も作成はしていいけれども、戻してはい けないという理解でいいですか。 ○石井生命倫理・安全対策室長  作成が認められているものは、動物性集合胚のみです。 ○吉村委員  そうするとヒト胚核移植胚も作成してはいけない。人クローン胚は今やっているとい う理解でよろしいでしょうか。 ○石井生命倫理・安全対策室長  はい、間違いありません。 ○吉村委員  要するに全然変わっていないということは、特定胚指針に従わなくてはいけないので、 この生殖補助医療の研究もヒト胚核移植胚は絶対できないとそういうことになります。 ○石井生命倫理・安全対策室長  その点は総合科学技術会議の議論の中でも特定胚の何を認めるかということで、検討 されて一部についてはまだ引き続き検討するという部分はありますが、当面認められた のが人クローン胚のみでしたので、クローン胚の作業部会でクローン胚についての今要 件を議論しているそういう状況です。 ○吉村委員  生殖補助医療の研究段階からすると、ヒト胚核移植胚などは非常に重要な研究になっ てくるのです。そうなるとこれは要するに絶対にこの委員会でも認められない。新たに 委員会をつくってこういった案を認めていただかないとできないということですね。 ○石井生命倫理・安全対策室長  はい。先ほどの青いファイルの中の意見具申の15ページから総合科学技術会議の検討 の中で、その他の特定胚についての検討の結果が書かれています。今先生からお話があ りましたヒト胚核移植胚、それからヒト胚分割胚、ヒト性融合胚これについては15ペー ジの下から書いていますが、有用性、ミトコンドリア病等に対する有機学的な有用性を 指摘されたということでございますが、胚の作成の是非に関する判断は留保されたとい うことです。こういう状況です。  またヒト胚分割胚についても不妊治療研究等の可能性が指摘されましたが、これにつ いて認めるべきではないということになっているところです。 ○笹月座長  それでは時間も迫ってまいりましたので、今日は研究の目的、及び研究の許容範囲と いう所で、禁止事項は先ほど二つのことには皆さん当然のことながら合意をいただいた として、あと遺伝子操作とかそういうものを禁止要綱に盛り込むのか、それはやめてこ の二つだけでよろしいのか、この点についてご意見をいただきますか。  総枠としては先ほどの科学的合理性云々という何かある縛りはかけておくということ でよろしいですか。その点をお考えになってもし次回までに何かご意見、あるいは今日 思いつかなかったけれどもということがあればお知らせください。 ○加藤委員  先ほどの2ページの(1)のところのア)イ)ウ)と書いてありますけれども、その下に (2)というのがあるのですが、(1)と(2)はよく読むと実は内容が同じなので、(1)だけでいい のではないかと思うのですが。 ○笹月委員  これは総合科学技術会議の具申です。 ○加藤委員  我々のガイドラインとして盛り込むべき内容を総合科学技術会議でできた(1)のア)イ) ウ)を書いておいておけばいいのではないですか。 ○笹月座長  そういう意味ですね。実際に書き込むときの文言はまた文章化していただいて詳細を 検討するということにしたいと思います。  それでは今日のところは予定より少し先へ進みませんでしたけれども、大事なところ の議論がなされたと思いますので、今度は機関の問題。実際に研究を遂行する上での倫 理委員会の問題、機関が伝えるべき要綱とかそういうことを次回は議論したいです。  大事なのは今後は配偶子の問題として精子単独を用いた研究、卵子単独を用いた研究、 そしてその両者を合わせて胚を作るところ、特に今後は卵の、未受精卵の入手の問題、 大きな問題がまだ残されていますけれども、次回からそれらを議論していきたいと思い ます。はいどうぞ。 ○町野委員  先ほどの加藤委員の意見ですけれども、(2)のところをやはり残しておかないと、これ は生殖補助医療の枠内で見るということですから、これは独立で、確かにこれから生殖 補助医療だけに限るかという議論はありうるのですが、それは先ほどの議論のように、 これからいろいろな技術の進歩とかいろいろ問題、必要性が出てきたときの議論ですか ら、やはりそれによって残しておいたらと思います。 (2)その他 ○笹月座長  事務局から何かございますか。 ○齋藤母子保健課長補佐  次回の委員会ですが、こちらにつきましては先生方の日程を伺いまして、調整を改め てさせていただきたいと存じます。 ○鈴木委員  次回というのは8月9月で考えておけばいいのでしょうか。 ○石井生命倫理・安全対策室長  8月から9月にかけてスケジュールをお伺いして調整をさせていただきたいと思って います。 3.閉会 ○笹月座長  ほかに何か事務局から何かありませんか。それでは今日は遅くまでありがとうござい ました。 −終了− 事務局:文部科学省研究振興局ライフサイエンス課生命倫理・安全対策室      電話:03−6734−4108(直通)     厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課      電話:03−5253−1111(内線7938) 1