労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(案)


第1 検討の趣旨
 近年、産業構造の変化が進む中で、ホワイトカラー労働者の増加、就業形態・就業意識の多様化、少子化の進展など、雇用・労働関係を取り巻く状況が変化し、労働条件の小グループ化や労働条件の変更の増加がみられる。
 こうした中、解雇に係る紛争や労働条件の変更に係る紛争をはじめとした個別労働関係紛争も増加しており、また、個別の労働関係におけるルールが明確でないために、労働条件の変更等についての予測可能性が低い状況にある。
 また、産業構造が変化し、就業形態・就業意識が多様化する中で、創造的・専門的能力を発揮して自律的な働き方をする労働者が見られるようになっている。他方で、長時間労働者の割合が高止まりしており、過労死の防止や少子化対策の観点から、長時間労働の抑制策を講ずることが喫緊の課題になっている。
 このような状況に対処し、
 労使の継続的な関係を規律する労働契約が、公正なルールに則って締結され、それが遵守されるようにすることや、労働契約の内容となっている重要な労働条件の変更等の際には、労使において十分な話合いの下で自主的な決定が行われるようにすること
 長時間労働を抑制するとともに、労働者が健康を確保しつつ、能力を十分に発揮した働き方を選択できるようにするため、労働時間制度を見直すこと
により、労働基準法を遵守しつつ、円満かつ良好な労働契約関係が継続されるようにする必要がある。
 このため、労働契約に関するルールを定めた労働契約法を制定するとともに、労働時間に関する制度を見直し、労働基準法を改正することが必要であり、その在り方について次のような方向により検討を進めることとする。

第2 検討の方向
【労働契約法】(一部労働基準法改正を含む)
 総則事項
 (基本的な考え方)
 労働契約が労働者と使用者との継続的な関係を規律するものであることにかんがみ、労使両当事者の契約に対する自覚を促しつつ、労働契約が円滑に継続するための基本的事項を明らかにする。
(1) 労働契約は、労働者及び使用者が実質的に対等な立場における合意に基づいて締結され、又は変更されるべきものである。
(2) 上記(1)の実質的に対等な立場における合意に資するよう、使用者は契約内容について情報を提供し、労使双方は良好な労働契約関係を維持するよう努めるものとする。
(3) 労働者及び使用者は、良好で継続的な労働契約関係を維持しつつ、紛争を予防する観点から、労働契約の内容についてできるだけ書面で確認するようにするものとする。
(4) 労働契約の両当事者は、各々誠実にその義務を履行しなければならず、その権利を濫用してはならないものとする。
(5) 使用者は、労働者が安心して働くことができるように配慮するとともに、労働契約において、雇用形態にかかわらずその雇用の実態に応じ、その労働条件について均衡を考慮したものとなるようにするものとする。
(6) 労働契約法の対象範囲について、業務請負等の問題や労働基準法の対象範囲との関係に留意しながら、引き続き検討する。

 就業規則で定める労働条件と労働契約の関係等の明確化
 (基本的な考え方)
 労働条件は、労働者及び使用者の実質的に対等な立場における合意に基づき締結される労働契約で決められるべきものであるが、我が国では、労働組合がある場合には労働協約により労働条件が集団的に決定される一方で、就業規則により労働条件が統一的かつ画一的に決定されることも広範に行われているのが実態である。
 したがって、労働条件について、個別の労働契約に基づくものと、労働協約及び就業規則に基づくものとの関係が重要となるが、現状では就業規則に基づくものとの関係が必ずしも明確ではなく、また、就業規則の変更の際、どういう場合に合理的な労働条件の変更となるか明らかでないので、これを明確化する。
〔就業規則で定める労働条件と個別の労働契約の関係〕
(1) 労働契約締結の際に、使用者が労働基準法を遵守して定めた就業規則がある場合には、その内容が合理的なものでない場合を除き、個別に労働契約で労働条件を定める部分以外については、当該事業場で就労する個別の労働者とその使用者との間に、就業規則に定める労働条件による旨の合意が成立しているものと推定する。
(2) 上記と併せ、現行の労働基準法第15条第2項(明示された労働条件と事実が異なる場合に労働者が即時に労働契約を解除することができること)及び現行の労働基準法第92条第1項・第93条(就業規則と法令、労働契約等との相互の関係、効力)は労働契約法に移行する。
〔就業規則の変更等による労働条件と労働契約の関係〕
(3) 就業規則の変更等の際に、使用者が労働基準法を遵守して就業規則の変更等を行い、かつ、その変更によって労働者が被る不利益の程度、その変更の必要性、変更後の就業規則の内容、変更に係る協議の状況その他の事情に照らして、その労働条件に係る就業規則の変更が合理的なものであるときは、個別に労働契約で労働条件を定める部分以外については、個別の労働者と使用者との間に、変更後の就業規則に定める労働条件による旨の合意があるものと推定する。
<事業場に過半数組合がある場合>
(4) 上記(3)の際に、労働基準法を遵守して就業規則の変更等を行う使用者が「当該事業場の労働者の見解を求めた過半数組合」との間で合意している場合には、上記(3)の合意があるものと推定する。ただし、労働者がその就業規則の変更が不合理なものであることの反証を行った場合には、この推定は覆されることになるものとする。
(5) なお、「特別多数労働組合」(当該事業場の労働者の3分の2以上の者で組織される労働組合等が考えられる。)との合意については、上記(4)の手続を経た過半数組合との間の合意と同様の効果を与えることとすることについて、慎重に検討する。
<事業場に過半数組合がない場合>
(6) 就業規則の変更等と労働契約の関係については、事業場に過半数組合がない場合についても明らかにしておく必要がある。このため、使用者が事業場の労働者を代表する者との間で合意したときは、上記(4)の過半数組合との間で合意したときに準ずる法的効果を与えることについて、検討する。
(7) 上記(6)の検討を行う前提として、まずは労働基準法の過半数代表者の選出手続等について検討を行う必要がある。現行の労働基準法においては、使用者が、時間外労働協定を締結したり、就業規則の作成・変更を行う場合には、過半数組合がないときは、過半数代表者を締結当事者や意見聴取の相手方として位置付けているが、この過半数代表者の選出要件を明確化した手続によるもの(注1)とした上で、そのような手続を経て選出された「事業場のすべての労働者を適正に代表する者(複数)」についても事業場の労働者を代表する者として認めることについて、検討する。
(8) その上で、使用者が、就業規則の作成・変更をするに当たって上記(7)により「事業場のすべての労働者を適正に代表する者」を複数選出した上で、それらの者との間で合意した場合には、上記(4)の過半数組合との間で合意した場合に準ずる法的効果を与えることについて、検討する。
(9) また、上記(7)の「事業場のすべての労働者を適正に代表する者(複数)との間での合意」については、「労使委員会(注2)の決議」をもって代えることができることとすることについて、併せて検討する。
(注1)現在、労働基準法において、事業場の労働者の代表として「過半数組合」や「過半数代表者」が規定されているが、過半数代表者については、親睦会等の代表者が自動的に労働者代表となったり、一定の従業員だけの話合いで労働者代表を選出するなど、その選出方法が適切でない事例もあることから、民主的な選出手続(選挙、信任又は労働者による話合い)によらなければならないことを明確にするとともに、事業場の多様な労働者の利益を公正に代表することができるようなものに改める必要がある。
(注2)現在、労働基準法で規定されている労使委員会については、過半数組合のない事業場では、過半数代表者が指名することとされているが、(注1)による民主的な選出手続により選出されたすべての労働者を適正に代表する者(複数)については、労使委員会の委員とすることが適当ではないか。
〔その他の就業規則に係る労働基準法の規定の整備〕
(10) 就業規則の必要記載事項の追加(転居を伴う配置転換、出向、休職、懲戒の事由等)その他の整備を行うこととする。(労働基準法)
〔労働条件の明示に係る労働基準法の規定の改善〕
(11) 労働契約締結の際の労働条件の明示事項の追加(転居を伴う配置転換、出向、労働時間制度等)その他の整備を行うとともに、特に重要な事項に係る明示の方法(書面の交付)を労働基準法第15条第1項で明記することとする。(労働基準法)

 重要な労働条件に係るルールの明確化
 (基本的な考え方)
 労働者にとって重要な労働条件の変更等は、継続的な労働契約関係の存否に直結するものであり、労働条件は労使対等の立場において決すべきものであることを踏まえつつ、重要な労働条件の変更等が紛争を惹起することなくなされるようにするためルールを明確化する。
〔重要な労働条件に係る事項の説明〕
(1) 継続的な労働契約関係において、労働者にとって特に重要な賃金、労働時間等の労働条件の変更が行われる等の際には、使用者はその変更する内容について、書面で明示の上説明するものとする。なお、このような手続を経た場合の効果等については、以下のとおり検討する。
i 自律的労働にふさわしい制度(後掲)の対象となる労働者については、書面による条件の明示・説明及び合意がない場合には、通常の労働時間管理により取り扱われるべきものとする。
ii 出向又は転居を伴う配置転換(転勤)の場合には、現行の労働基準法第15条第1項により労働契約の締結の際に書面で明示しなければならないとされている事項について、使用者(出向の場合は出向元)は、当該出向又は転勤を命ずる際に改めて書面による明示・説明を要することとする。
iii 転籍の場合には、上記iiと同様に、使用者(転籍元)は、当該転籍を申し出る際に改めて書面による明示・説明を要することとする。なお、転籍の場合には、労働者の個別の承諾がなければ無効になるものとする。(後掲)
〔採用内定、試用〕
(2) 採用内定取消や試用期間中の解雇についても、解雇に関する一般的なルール(客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする)が適用されることを明確にする。
(3) 試用期間であるために解雇予告の規定を適用除外としている規定等を削除する。(労働基準法等)
〔出向、転勤、転籍〕
(4) 使用者が出向や転居を伴う配置転換(転勤)を命じ、又は転籍の申出を行う場合のルールを次のとおり明確にする。
i 使用者が出向や転勤を命じ、又は転籍の申出を行う場合には、労働者への意向打診、労働条件の書面明示(再掲)を行うこととする。
ii 転籍については、使用者が労働者の個別の承諾を得ないで行った場合には、当該転籍は無効とするものとする。また、この場合における承諾は書面によるようにしなければならないものとする。
iii 転勤については、その配置転換の必要性の有無、使用者に他の不当な動機があるか否か、労働者が被る不利益の程度等の事情を考慮し、その権利を濫用するものであってはならないものとする。
iV 出向は、出向元と法人格の異なる第三者(出向先)との間で新たな雇用関係を生じさせるものであり、同一企業内における関係にとどまる配置転換とは異なるものであることから、使用者が労働者に出向を命じようとする場合には、あらかじめ就業規則、労働協約等において、労働者の利益に配慮し、出向をさせることがある旨及び出向をさせる場合の期間、賃金その他処遇等に関する規定が定められていなければならないものとする。
 ここで、出向のうち、人的・資本的関係が密接である出向元と出向先との間で行われるものであることにより同一企業内で行われる配置転換と同視し得ると認められるものについては、出向に関する規定が不合理なものでない限り、使用者は、労働者の個別の承諾を要せずして命じることができることとする。
 また、上記により使用者が労働者に出向を命ずることができる場合においても、当該出向が、その必要性、人選基準の合理性、賃金その他処遇等に関する規定等の状況等に照らして権利濫用に当たるものであってはならないとすることを明確にすることについて、検討する。
〔安全配慮義務〕
(5) 使用者は、労働者が労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮しなければならないこととする。
〔懲戒等〕
(6) 懲戒又は降格について、使用者があらかじめ定められた労働協約又は就業規則の根拠なく行った場合には、それらの懲戒又は降格は無効とするものとする。
(7) 懲戒は、労働者の行為の性質、態様等に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とするものとする。
〔労働条件の変更に係るルール〕
(8) 個別の労働契約により決定されていた労働条件について、使用者が変更の申入れを行った際に、労働者が異議をとどめて承諾した場合は、当該労働条件の変更について異議をとどめたことを理由とした解雇はできないこととする。ここでいう「解雇」に有期労働契約の更新拒絶を含めるべきかについて、併せて検討する。
(9) 上記(8)により労働者が異議をとどめた労働条件の変更については、労使当事者に、紛争の態様に応じて労働審判制度、個別労働関係紛争解決制度等を活用して紛争解決を促すための必要な方策について、検討する。
〔その他〕
(10) 労働者からの労働契約の変更の請求につきどのように取り扱うかについて、引き続き検討する。
(11) 競業避止、兼業禁止、秘密保持及び個人情報保護に関するルールを明確化することについて、引き続き検討する。

 労働契約の終了の場面のルールの明確化
 (基本的な考え方)
 解雇をめぐる紛争の未然防止・早期解決に資するため、解雇に係るルールをできる限り明確化し、予測可能性を高める。また、解雇無効の判決がなされても、実際には原職に復帰できない場合について、これを迅速に解決する仕組みを検討する。
〔解雇に関するルールの明確化〕
(1) 現行の労働基準法第18条の2(解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする)の規定を労働契約法に移行する。
(2) 解雇事由の中でも整理解雇は、一時に大量の失業者を発生させ、大規模な紛争を生じさせる可能性があるものであることから、解雇権濫用の判断の予測可能性を向上させ紛争を未然に防止するためのルールを明確化する必要がある。そのため、整理解雇は、裁判例において考慮すべき要素とされている4要素(人員削減の必要性、解雇回避措置、解雇対象者の選定方法、解雇に至る手続)を含め総合的に考慮して、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とするものとする。
(3) 紛争が最も多い形態である普通解雇についても、紛争の未然防止の観点から、労使双方の意思疎通を促し、紛争の未然防止を図るために使用者が講ずることが求められる手続を明確化する必要がある。そのため、使用者は、普通解雇をしようとする場合には、解雇をしようとする理由の明示その他普通解雇の態様に応じて是正機会や弁明機会を付与することなど必要な手続をとるようにしなければならないこととすることについて、検討する。
〔解雇の金銭的解決の仕組みの検討〕
(4) 解雇をめぐる紛争が長期化すると労使にとってコストが増えることにかんがみ、労働審判制度の調停、個別労働関係紛争解決制度のあっせん等の紛争解決手続において、労使双方が金銭による紛争の処理を申し出ることができることを明らかにする。さらに、審判又は裁判において解雇が争われる場合において労働者の原職復帰が困難な場合には、これを金銭で迅速に解決できるような仕組みについても検討する。
i 解雇が無効の判断が出る前に、一回的に解決できる裁判手続が考えられないか。
ii 金銭をもって解決する場合の金額は一律の額とするのか、一定の基準に基づき事業場(又は企業)ごとに決定できるようにするのか、あるいは事業場(又は企業)ごとの実情に応じて決定できるようにするのか。
iii 有期労働契約における更新拒絶についても対象とすべきか。
〔その他の労働契約の終了の場面でのルールの明確化〕
(5) 労働者の軽過失により使用者に損害が発生した場合には、使用者は労働者に対して求償できないこととすること、留学・研修費用の返還については労働基準法第16条に抵触しない場面を明らかにすることについて、引き続き検討する。
(6) 使用者からの働きかけによる退職の場合について、労働者が納得しない退職を防止するため、使用者は労働者に対して執拗な退職の勧奨及び強要を行ってはならないこととする。

 有期労働契約をめぐるルールの明確化
 (基本的な考え方)
 有期労働契約が労使双方に良好な雇用形態として活用されるよう、有期契約労働者の就業意識やニーズ等にも留意しながら、ルールを明確化する。
(1) 労働契約の締結に際し、使用者は有期契約とする理由を示すとともに、その契約期間を適切なものとするよう努めなければならないものとする。
(2) 有期労働契約においては、使用者は、契約期間中はやむを得ない理由がない限り解約できないものとする。
(3) 有期労働契約が更新されながら一定期間(例えば、1年)又は一定回数(例えば、3回程度)を超えて継続している場合において、労働者の請求があったときには、使用者は期間の定めのない契約の優先的な応募機会の付与を行わなければならないこととすることについて、検討する。
(4) 「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」において、雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している者に限り求められている雇止めの予告について、一定回数(例えば、3回程度)以上更新されている者についても対象とすることについて、引き続き検討する。
(5) 有期労働契約の締結に際しての労働条件の明示事項として、労働契約の始期及び終期並びに契約期間満了後の更新の有無を追加することとする。(労働基準法)
(6) 有期労働契約の締結に際して、上記(5)による改正後の労働基準法第15条第1項の規定による契約期間満了後の更新の有無が書面で明示されなかった場合には、同一の労働条件で更新されるものとすることについて、引き続き検討する。
(7) なお、前出の「労働条件の変更に係るルール」の「労働条件の変更について異議をとどめたことを理由とした解雇はできないこととする」という部分や「解雇の金銭的解決の仕組みの検討」における「解雇」に、有期労働契約の更新拒絶についても含めるべきかどうかについて、検討する。(再掲)

 国の役割
  ○ 労働契約関係が円満かつ継続的に維持され、紛争の未然防止を図っていくためには、労働契約法で定めるルールを労使当事者をはじめとする国民に周知し、その理解を深めることが重要である。したがって、国が、必要に応じて労働契約法の解釈を明らかにした上で、個別労働関係紛争解決制度の活用も含め、関係者に対する必要な助言、指導等を行うことができるようにすることについて、引き続き検討する。

【労働時間法制】(労働基準法の改正)
 時間外労働の削減等
 (基本的な考え方)
 次世代を育成する世代(30歳代)の男性を中心に、長時間労働者の割合が高止まりしており、過労死の防止や少子化対策の観点から、労働者の疲労回復のための措置を講ずるとともに、長時間にわたる恒常的な時間外労働の削減を図る必要があるとの共通の認識の下に、必要な見直しを行う。
〔労働者の健康確保のための休日〕
(1) 一定時間数(例えば、1か月について40時間程度)を超えて時間外労働させた場合、労働者の疲労回復を図る観点から、時間外労働をした時間数に応じて算出される日数(例えば、1か月の時間外労働が40時間超75時間以下の場合に1日、75時間超の場合に2日)の労働者の健康確保のための休日(法定休日)を、1か月以内に付与することを義務付けることとする。この場合、中小企業については、労働者の人数が少ない中で事業場の業務の繁閑に対応できるようにするため、労使協定により弾力的に運用することができることとすることを検討する。
〔時間外労働の抑制策としての割増賃金の引上げ〕
(2) 長時間にわたる恒常的な時間外労働の削減を図るため、時間外労働の実態を考慮して設定した一定時間数(例えば、1か月について30時間程度)を超えて時間外労働をさせた場合の割増賃金の割増率を引き上げる(例えば、5割)こととする。その場合、事業場ごとのニーズに対応できるようにするため、労使協定により、当該割増率の引上げ分については、金銭での支払いに代えて、労働者の健康確保のための一定数の休日(有給)を付与することを選択できるようにすることを引き続き検討する。
〔その他の実効性確保策〕
(3) 時間外労働の厳正な運用を図るため、法定の手続を経ずに法定労働時間を超えて時間外労働を行わせた場合の罰則を引き上げることを引き続き検討する。

 年次有給休暇制度の見直し
 (基本的な考え方)
 年次有給休暇制度について、労働者の疲労回復を図る観点から年次有給休暇を確実に取得できるようにするための方策を講ずるとともに、仕事と生活の調和や少子化対策に資する観点からも利用しやすいものとするための見直しを行う。
〔使用者による時季の聴取〕
(1) 計画付与制度を導入していない事業場の使用者は、年次有給休暇のうち一定日数(例えば、5日程度)については、あらかじめ労働者から時季について意見を聴いた上で付与しなければならないこととする。また、この付与に当たっては、連続休暇となるよう努めなければならないこととする。
〔時間単位の年次有給休暇〕
(2) 子供の看護等突発的な事由でも、年次有給休暇制度本来の目的に沿った利用を阻害することなく年次有給休暇を活用することができるようにする観点から、労使協定により、日数を限定し(例えば、5日程度)、具体的な運用を取り決めた事業場においては、時間単位で年次有給休暇を取得することができるようにすることとする。
〔退職時年休手当清算〕
(3) 退職時に未消化の年次有給休暇がある場合に、使用者が労働者に何らかの手当を支払わなければならないとすることについては、慎重に検討する。

 その他の現行労働時間制度の見直し
  ○ 事業場外みなし制度について、制度の運用実態を踏まえた必要な見直しを検討する。

 自律的労働にふさわしい制度の創設
 (基本的な考え方)
 産業構造が変化し就業形態・就業意識の多様化が進む中、高付加価値の仕事を通じたより一層の自己実現や能力発揮を望み、緩やかな管理の下で自律的な働き方をすることがふさわしい仕事に就く者について、一層の能力発揮をできるようにする観点から、現行の労働時間制度の見直しを行う。
〔対象労働者の要件等〕
(1) 自律的な働き方をすることがふさわしい仕事に就く者は、次のような者とする。
i 使用者から具体的な労働時間の配分の指示を受けることがない者であること、及び業務量の適正化の観点から、使用者から業務の追加の指示があった場合は既存の業務との調節ができる者であること(例えば、使用者からの追加の業務指示について一定範囲で拒絶できる者であること、労使で業務量を計画的に調整する仕組みの対象となる者であること)。
ii 健康確保の観点から、1年間を通じ週休2日相当の休日があること、一定日数以上の連続する特別休暇があることなど、通常の労働者に比し相当程度の休日が確保されている者であること。また、健康をチェックし、問題があった場合には対処することができる仕組み(例えば、労働者の申出があればいつでも、又は定期的に医師による面接指導を行うこと)が適用される者であること。
iii 業務量の適正化及び健康確保を確実なものとするため、出勤日又は休日が1年間を通じあらかじめ確定し、出勤日における出退勤の確認が確実に実施されている者であること。
iV 1年間に支払われる賃金の額が、自律的に働き方を決定できると評価されるに足る一定水準以上の額である者であること。
(2) 上記の事項について、対象労働者と使用者が個別の労働契約で書面により合意していることとする。
(3) この制度が自律的な働き方にふさわしい制度であることを担保する観点から、物の製造の業務に従事する者等をこの制度の対象とはならないものに指定することとする。
〔導入要件等〕
(4) この制度を事業場に導入するかどうかについては、当該事業場の実情に応じ、当該事業場の労使の実質的な協議に基づく合意により決定することとする。
(5) 事業場における対象労働者の範囲については、法に定める対象労働者の要件を満たす範囲内において、当該事業場の労使の実質的な協議に基づく合意により定めることとする。この場合、事業場における対象労働者の範囲については、当該事業場の全労働者の一定割合以内とすることについては慎重に検討する。
(6) この制度のより弾力的な運用を可能とする観点から、年収が特に高い労働者については、労使の実質的な協議を経ずに対象労働者の範囲に含めることができることとすることについて検討する。
(7) 対象労働者は、いつでも通常の労働時間管理に戻ることができることとする。
〔効果〕
(8) 労働基準法第35条(法定休日)及び第39条(年次有給休暇)は適用し、その他の労働時間、休憩及び休日の労働及び割増賃金に関する規定並びに深夜業の割増賃金に関する規定を適用しない。
〔適正な運用を確保するための措置等〕
(9) 就業規則において、対象労働者に適用される賃金制度が他の労働者と明確に区分されており、賃金台帳にも個別に明示することとする。
(10) 適正な運用を確保するため、次のような措置等を講ずることを検討する。
i 苦情処理制度を設けることを義務付けること。
ii 重大な違背があった場合は、労働者の年収に一定の割合を乗じた補償金を対象労働者に支払うものとすること。
iii 要件違背の場合、行政官庁は、改善命令を発することができること。改善命令に違背した場合は、当該対象労働者を通常の労働時間管理に戻す命令や制度(全体)の廃止命令を発出することができるものとすること。
(11) 要件違背の場合に、労働基準法第32条違反等と整理するとともに、別途この制度の手続違反として厳正な履行の確保を図る。

 管理監督者の範囲等の見直し


 現行裁量労働制の見直し

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