資料2−4

「振動障害等の防止に係る作業管理のあり方検討会」
第2回資料
「振動レベルについて(ISO規格の考え方)」

1. 世界規格の中の手腕振動JIS規格及び国内法規の位置づけ

 作業者に及んだ人体振動は、大きく全身振動と手腕振動とに分けられる。
 全身振動(身体に受ける振動)は、身体の下肢・臀部・躯幹・頭部に伝わる振動と考えられている。例えば、作業用車両等の運転手は、足や尻からの全身振動にばく露されている。また、背中を支持されていれば背中からも振動ばく露を受ける。長年、このような全身振動にばく露されると、腰痛という肉体的障害の原因や循環器系や泌尿器系への影響があることが報告されてきている。
 手腕振動(手に受ける振動)は、手や腕から伝わる振動として考えられている。手腕振動の多くは、作業者が、手持動力工具等の操作時に受ける振動ばく露のことである。長年、このような手腕振動にばく露されると、白ろう病として知られる肉体的障害の原因や、手首、肘の筋肉や関節への影響、および、末梢循環機能へも影響あることが報告されてきている。
 このように人体振動ばく露は、作業者の健康・快適性・作業性に大きな影響を与える要因である。人体振動は振動振幅・振動周波数・振動ばく露軸・ばく露時間など多くの要因から成っているので、振動測定・評価方法、および、影響評価方法(許容基準)も複雑になってきている。全身振動と手腕振動の測定・評価方法は、人体の機械的特性の相違により別々に考えられてきている。
 また、1995年1月以降、EC加盟国に対して、人体振動ばく露を受けると考えられる製品を輸出するときの振動の目標値が設定されたが、この値は、作業者を振動ばく露から守り職業性疾病防止や、振動発生装置を設計する場合や振動防止対策の目標値あるいは許容基準として用いられるものである。そして、海外、特にEC加盟国への製品の輸出に関して、ISO9000,ISO 14000,12100,16000等の認証工場で作られた製品で、なおかつ、機械指令の振動値を満足しなければ輸出することが困難な時代になろうとしてきている。
 図1には、機械指令、EU指令、国際規格および国家規格の関係を示した。この図1に示されるように、機械安全は欧州を中心に検討されてきている。EU加盟国は、機械指令の必要要求事項をEU法令に基づいて国内法にしなければならない。この機械指令は、手腕振動工具等が達成しなければならない必要要求事項を示したものであり、詳細な技術上の用件を含んでいない。そこで、EUとEFTA(欧州自由貿易連合)は、必要要求事項を補完・支援するものとしてEN規格をCEN(欧州標準化委員会)およびCENELEC(欧州電気標準化委員会)に作成させて

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いる。そして、このEN規格は、CENおよびCENELECの内規により、EU加盟各国の国家規格となる。また、このEN規格はウイーン協定により、ISO規格として提案され、ISO規格はWTO/TBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)により、各国の国家規格となる。そして、WTO/TBT協定加盟国である日本は、ISO規格に基づき国家規格を定める必要があるので、国際規格の動向をつかみ、その内容をいち早くJIS規格に取り入れ、そのJIS規格を基に日本国内法を策定していくことになっている。したがって、日本がISO規格をJIS規格に取り入れるということは、EUの機械指令の考え方をJIS規格や日本国内法に取り入れていることと同等であると考えられる。
 そこで、ここでは、わが国の人体振動関連規格に影響のある国際規格の制定作業や改定作業が行われてきているISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)、ISO/TC108(Technical Committee 108: Mechanical Vibration and Shock:機械振動と衝撃)、ISO/TC108/SC4(Sub-Committee 4: Human Exposure to Mechanical Vibration and Shock:機械振動・衝撃の人体への影響)、ISO/TC108/SC4/WG(Working Group:作業グループ)の内容を中心に、手腕振動評価方法ついて概説する。


2. 人体振動の国際規格とは?

2.1 ISOとは?
 ISOとは,"物質及びサ−ビスの国際交換を容易にし,知的,科学的,技術的及び経済的活動分野の協力を助長させるために世界的な標準化及びその関連活動の発展開発を図ること"を目的に,1947年2月23日に発足した,国際的に通用させる規格や標準類を制定するための国際機関である。
 ISOの英語表現は,International Organization for Standardizationでなされるが,単純に頭文字を取ると"IOS"になる。"ISO"とは,"相等しい"という意味を表すギリシャ語である"isos"から取られたものである。また,この"isos"は,英語のisonomy(法の下での平等)あるいはisometric(同じくらいの大きさ)などの接頭語の"iso-"の語源でもある。最初に,国際標準化を進めた人たちが,"ISO"を選択した理由には,"相等しい","平等","同等の大きさ"などの概念から,"規格"あるいは"標準化"の推進を考えて,"ISO"という略号が決まったといわれている。
 ISOへの参加は,加盟国から一組織だけが会員資格を与えられ,その会員資格を持つ会員団体(member body)は,その国を代表する標準化組織となり国際規格を検討してきている。わが国ではJISC(Japanese Industrial Standards Committee)が窓口になっている。JISCは、日本工業標準調査会といい、工業標準化法に基づいて経済産業省に設置されている審議会で、工業標準化全般に関する調査・審議を行う組織である。

2.2 ISO/TC108とは?
 1960年Prof. D. Muster(米ヒュ−ストン大学)の提唱によりInformal International Panel for Balancing (IIPB)として日本を含め米英独仏等数カ国でBalancingに関する非公式国際会議をもち,まず用語審議から始めた。これが発展してその後ISOの一つの技術委員会となり,1964年にISO/TC108として公式な活動を開始した。当初はBalancingが主であったが,その後次第に振動衝撃に関する広い分野にまたがって標準化の活動を行ってきている。

2.3 ISO/TC108/SC4とは?
 SC4とは、専門委員会のTC108の中の4番目の分科会で、「振動の人体への影響」の国際規格の検討を行う組織である。TC108にはSC4以外に表1に示すような分科会とTC108直属の作業グループがある。現在約100項目の内容について検討が進められている。また、このSC4の委員会には、表2にしめすような9つのWGがあり、各種の振動の人体への影響に関する国際規格の検討を行い、現在まで表3に示すような歴史で国際規格を制定してきている。

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2.4 ISO/TC108/SC4/WGとは?
 ISO/TC108/SC4(機械振動・衝撃の人体への影響)には,表2に示したような振動の人体への影響に関する規格の検討を行うWG2からWG11までの作業グル−プがあり、このWGにおいて、全身振動や手腕振動の測定・評価・影響評価方法(許容基準)の国際規格の策定・改訂作業が実施され表4に示すような国際規格を制定してきている。わが国の手腕振動のJIS規格の策定および改定作業については、表4に示されているように、1979年にJISC1511(手持工具振動レベル計)、1986年にJISB4900(手持動力工具の工具振動レベル測定方法)が制定されている。表5には手腕振動に関係する国内規格と国際規格の関係を示した。

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3.手腕振動の評価

 手持振動工具からの手腕振動の評価をする場合、図2に示されるような手順が考えられる。手持振動工具の振動を計測する場合、まず、(1)計測計画(PLAN):測定を簡易計測器で実施するのか、汎用計測器で実施するのか、また、測定に用いる測定器や測定に用いる振動加速度ピックアップ等の選択;(2)計測の実施(DO):手持振動工具ハンドルへの加速度計の取り付け方法の選択、および、現場計測であるのか、工具のタイプテストであるのかの決定、および、それに伴う測定規格の選択;(3)計測データの評価(SEE):測定した結果の妥当性の検討(これまでに示されている代表的な手持振動工具の振動との比較);(4) 影響評価(ANALYSIS):計測データのリスクアセスメントの実施、許容基準以内であればOKであるが、許容基準を超えている場合は、防振対策の検討。

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4.国際規格(ISO5349-1)に準拠した手腕振動測定装置

 人体振動測定装置の国際規格(ISO8041)は1990年に制定されたものが、1997年7月15日に全身振動暴露評価に関する国際規格ISO2631-1が改訂・制定されたことにより、この測定装置の規格は、現在、改定作業が行われている。その改訂規格の内容には、2001年5月に改訂・制定されたISO5349-1の一般的要求事項の内容も組み込まれている。この内容は、我が国のJISC1511の装置の規格に関係している。このJISC1511の内容は国際規格との整合性をとるために2002年に改定作業が実施され、現在、改定規格の発行を待っている状況である。
 改定作業中のISO8041の装置は、対象周波数範囲が8Hzから1000Hzで、図6に示すような手腕振動の周波数補正曲線の周波数補正ができ、

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 手持振動工具のハンドルから入る振動を3軸(X,Y,Z)同時に周波数補正振動加速度実効値が測定出来るような図7に示す装置が考案されている。

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 この測定器内部では、図8に示すように、手に伝達する振動を工具のハンドルに取り付けた加速度計で測定した振動加速度信号を、アンチエリアジングフィルター通過後、A/D変換器によりアナログ信号をディジタル信号に変換して、コンピュータ上で周波数補正振動加速度実効値を求めることが出来る。

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 この測定器で測定できる工具の振動の大きさ、すなわち、振動量は、人の特性を考慮した周波数補正振動加速度実効値(m/s2r.m.s.)を測定することが出来る。ここでの周波数補正振動加速度実効値は、次式で表わされる。

図  (2)

 ここで、aw(t)は手腕振動の周波数補正を行った振動加速度の瞬時値(ms-2)でる。そして、この装置では、X,Y,Z軸同時に測定し、3軸のそれぞれの値(ahwx,ahwy,ahwz)からahws(the root-sum-of-squares of the three component values)が次式(3)から求めることが出来るようになっている。

ahv = (ahwx2 + ahwy2 + ahwz2) 1/2  (3)

現在、改定中のISO8041やISO5349-1で述べられている振動計測評価の方法に準拠した形で振動を計測できる計測器の考え方が国際的に統一されてきた。このような状況であるため、国内に市販されている測定装置がないから測定が出来ないと言えない状況になってきた。改定中のISO8041やISO5349-1での振動計測は、JISC1511の手持工具振動レベル計のように、メータでレベルを読み取ったり、レベルレコーダに記録を取り、後で値を読み取るものではなく、図8に示すように、振動加速度計からの振動出力を、コンピュータに任意の測定時間取り込み、演算機能によって、周波数補正曲線の定義式に従って周波数補正を行い、周波数補正振動加速度実効値を演算によって求めることが主流になってきている。


5.ISO8662(工具別工具振動評価方法の国際規格)

 ISO8662は、手持動力工具による振動障害の予防、EUにおける機械指令における物理的要因(振動)から生じる危険に対する労働者の暴露に関する安全衛生の最低必要条件の振動評価をより適切なものにするため、さまざまな工具の特徴を考慮し、また国際的に測定データに互換性を持たせるための国際規格として手持動力工具の工具別振動測定方法を規定したものである。
 ISO8662は表6のように14項からなり、工具の特徴により13項に工具を分類している。そして、表7のように測定方法を規定している。規定されている内容は、測定値、測定冶具、測定軸及び測定位置、測定方法、測定手順について各Partで規定されている。振動評価値である周波数補正振動加速度実効値が全てで規定されており、工具の動力源や動作などによる電圧・油圧・気圧またはBlow frequencyやRotational speed、feed forceなどの測定条件となるものも規定している。冶具は、変換器や測定時に使用する器具についての説明がされている。測定方向及び測定位置は、振動方向を考慮した測定方向の指定と工具のどの位置で測定するかが記述されている。測定方法は、条件によって

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被加工物の設計や測定時の操作者の姿勢と工具の状態も説明されている。測定手順は、実際に試験を行う場合に、何人が何回測定するのか、及び、1回の測定時間が設定されている。実際に測定するとなると、たとえ測定方法が記載されていても文面だけでは理解しにくいが、ISO8662では測定するときの状態が絵や写真で示されている。また、試験結果の報告書の記述方法として、実際に書き込めるように様式が示されており、測定データが測定条件により曖昧なものにならないように考慮されている。

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6.まとめ
 以上のように、国際規格(ISO 5349-1, ISO 5349-2)や国内規格(JIS B 7761-1, -2, -3)において、手持振動工具のEmission値やExposure値の測定が、どこの国でも同一の基準で実施できるようになってきた。

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