06/03/30 第9回投資ファンド等により買収された企業の労使関係に関する研究会議事録 第9回 投資ファンド等により買収された企業の労使関係に関する研究会    日時 平成18年3月30日(木)       15:00〜          場所 厚生労働省18階共用第22会議室 ○ 西村座長  ただいまから、第9回「投資ファンド等により買収された企業の労使関係 に関する研究会」を開催します。これまでの研究会でのご議論や、委員の皆 様のご意見を踏まえまして、事務局のほうで報告書のたたき台を作成してい ただきました。本日の研究会では、その報告書のとりまとめに向けて、この たたき台について、皆様にご議論をしていただきたいと思います。  まず、その報告書のたたき台について、事務局から説明をお願いします。 ○ 金谷参事官補佐  お手元の資料をご確認ください。本日は、ただいま座長からお話のありま したとおり、本研究会における報告書のたたき台について事務局のほうで案 を作成しましたので、そちらについてご議論をいただきたいと思います。  たたき台は、四部構成になっています。まずは「はじめに」ということで、 本研究会を開催するに至った経緯、本研究会における検討の過程について、 簡単にまとめています。本研究会は、投資ファンド等による最近の企業買収 の状況について、短期間で企業価値を高めて収益を上げることを目的としま して、被買収企業の労働条件にも積極的に関与しているのではないか。この ことにより、従来からの集団的労使関係の在り方も変化していくのではない か。こうした問題意識によりまして、投資ファンド等が企業買収を行った場 合における労使関係の実態を把握するとともに、新たな対応を行う必要性に ついて検討するために開催されてきました。  本研究会では、労使団体、これは日本経団連及び連合ですが、こちらから 意見聴取を行った上で、4回にわたり個別の投資ファンド等、被買収企業、 労働組合からヒアリングを行い、さらにJILPTによりまして、アメリカ における投資ファンド等の労使関係についても調査を行ってきました。  2として、投資ファンド等による被買収企業の労働条件決定への関与等労 使関係の実態について報告しています。ここは大きく分けて2つのパートに なっています。(1)が投資ファンド等、被買収企業及び労働組合からのヒ アリング結果、(2)がアメリカにおける実態調査です。(1)はさらに3 つのパートに分けまして、投資ファンド等、被買収企業、労働組合について、 それぞれヒアリングの結果をまとめています。  投資ファンド等からのヒアリング結果は、こちらです。投資期間・株式保 有期間については3〜5年とするもの、あるいは、成果が出るまで中長期的 に保有するものがあったこと。被買収企業への関わり方として、株式保有割 合が3分の2を占めるものとそうでないものの双方がみられたこと。被買収 企業への取締役の派遣についても取締役会の過半数を占めているものとそう でないものの双方がみられたことについて記させていただいています。被買 収企業の経営方針は、すべての投資ファンド等が被買収企業の経営に対する モニタリング・助言が自分たちの役割であると考えていまして、実際に被買 収企業の経営が企業価値を高める方向性と合致しているかモニタリングを 行っていました。  被買収企業における労働条件の変更は、被買収企業の内部で決定しており、 投資ファンド等から指示を行ったものはありませんでした。また、被買収企 業の労働組合と団体交渉や労使協議を行ったものもありませんでした。一方、 被買収企業の労使関係が安定していることについて、買収を行う際に重要視 しているとする投資ファンド等もあったところです。  2番目は、被買収企業についてです。2頁ですが、まず買収の背景です。 これについては経営改善のためとするもの、あるいは更なる業績拡大のため とするものがありました。経緯についても、投資ファンド等に資本参加を求 めたケース、企業の親会社と投資ファンド等で協議して、資本参加が決まっ たケースがありました。買収に伴う経営改革としては、組織改革や人事制度 改革を行ったケースが多く見られました。これらの改革の意思決定について は、被買収企業の取締役会あるいは経営会議において決定されていまして、 投資ファンド等は関与しない、あるいは関与しても助言を行う程度で決定は 行っていませんでした。  買収に伴う労働条件の変更については、人事制度の見直し等を行ったとす るケースが見られる一方、全く行われていないとするものもありました。な お、変更を行った場合の意思決定は、すべて被買収企業の企業内部の機関に おいて行われており、投資ファンド等から指示を受けたとするものはありま せんでした。  労働組合との関わり方については、買収前後での変化はほとんどみられま せんでした。また、団体交渉・労使協議において投資ファンド等が同席する ケースもみられませんでした。  3番目、ウです。被買収企業の労働組合からのヒアリング結果です。買収 前後の労働条件の変更については、一組合を除きまして大きな変更はなかっ たとしていました。また、被買収企業との団体交渉・労使協議についても一 組合を除きまして、大きな変更はないとしていました。投資ファンド等との 関わり方については、すべての組合がこれまで団体交渉・労使協議を行った ことがないとしていましたが、一組合が投資ファンド等に団体交渉を申し入 れたことがあるとしていました。また、その一組合については被買収企業に おける労働条件決定に投資ファンド等の同意が必要となっているとしてい ました。  (2)アメリカにおける実態です。こちらは、JILPTによる調査につ いて簡単にまとめています。アメリカは、日本と同様に不当労働行為制度を 採用しているとともに、投資ファンド等による企業買収も盛んな国である。 このため、本研究会において、アメリカにおける労使関係上の「使用者」の 概念及び投資ファンドの使用者性について調査を行ったところです。  アメリカではNLRA(全国労働関係法)において、不当労働行為が禁止 されています。複数の事業体が関係する状況においては誰がNLRA上の使 用者に該当するかを判断するために、「単一使用者」及び「共同使用者」の 各法理を発展させてきています。「単一使用者」の法理は、表面上互いに独 立して存在している複数の事業体を単一の統合された事業体として取り扱 う法理であり、「共同使用者」の法理は、表面上のみならず現実に独立した 法的主体として存在する複数の事業体をいずれも法的責任主体として取り 扱う法理です。  「単一使用者」となる要素としては、「所有の共通性」、「経営の共通性 」、「企業経営の相互関係」、「労働関係の集中的管理」が必要となってい ますが、特に「労働関係の集中的管理」を重視して判断がなされています。 この「労働関係の集中的管理」については、一方が他方の日常の事業運営あ るいは労働関係について、現実的又は積極的な管理を行っていることが必要 とされています。また、「共同使用者」の法理は主に業務処理請負の場合に 適用される法理です。その要件として、重要な雇用条件に関する事項を共有 又は共同で決定していることが必要であり、こちらも日常的な労働関係につ いての現実的管理の有無が判断の決め手となっています。  NLRB(全国労働関係局)では投資ファンド等の使用者性が問題になり ます事件を取り扱ったことはありませんが、仮に問題となるとすれば、「単 一使用者」に該当するかどうかの判断をすることとなると考えています。し かしながら、投資ファンド等が被買収企業の労働関係の集中的管理を日々か つ具体的・持続的に行うことはあり得ないと認識されていることから、投資 ファンド等の使用者性が認められることは考えられないということでした。  また、アメリカの投資ファンド運営会社にヒアリングした結果によります と、投資ファンド等は被買収企業の経営に深く関わっていますが、それはあ くまで取締役としての権利行使に止めていまして、経営の執行には一切関わ っていないということです。また、被買収企業の企業価値を高めるためには、 全従業員の士気を高めることが重要であるため、士気の低下に繋がるような 大量解雇等は極力しないために、これらについて団体交渉が行われる可能性 は低いとも示唆されています。  また、別の投資ファンド運営会社にヒアリングした結果によりますと、投 資ファンド等が企業を買収し被買収企業の価値を高める上で当該企業の労 使関係は買収の検討の際に重要であり、不安定な労使関係が形成されている 企業は買収しないということでした。  こうしたヒアリング結果及びアメリカにおける調査結果を踏まえまして、 3番目として、投資ファンド等の使用者性についてまとめています。(1) は、ヒアリングの結果などから投資ファンド等の被買収企業への関わり方に ついてです。投資ファンド等が保有している被買収企業の株式保有割合ある いは株式の保有期間、投資ファンド等から派遣した取締役の被買収企業の取 締役会に占める割合は、一律に定まっていませんでした。投資ファンド等の 被買収企業の経営への関わり方についてはモニタリングとするものが多く、 こうした投資ファンド等は被買収企業の経営執行に直接指示を行っている わけではないと考えられます。投資ファンド等の被買収企業の労働条件決定 への関わり方については、すべての投資ファンド等は指示を行っていないと していましたが、一部の労働組合は投資ファンド等の同意が必要となってい るとしていました。ただし、括弧書きで書いていますが、このケースにおい ては、投資ファンド等の保有する被買収企業の株式の割合が3分の2を超え て、かつ、投資ファンド等から派遣された取締役が被買収企業の取締役会の 過半数を占めていましたが、同様のケースにおいて被買収企業の労働条件決 定に関与していないケースも見られたところです。なお、本研究会において ヒアリングを行った投資ファンド等は、すべて法人格を有するものでしたが、 投資ファンド等の中には、こうした法人格を有さない民法上の組合等の形態 をとるものも多いと考えられます。こうした投資ファンド等の場合について は、組織としての意思決定のプロセスが明確ではないこともあると考えられ るということで、一言エクスキューズを付けました。  こうした前提を踏まえた上で、投資ファンド等の使用者性について検討す ることとなりますが、これまでの使用者性に関する裁判例・命令例の考え方 を整理しています。  (2)これまでの「使用者性」の考え方についてです。労働組合法第7条 の「使用者」の概念については、請負契約の発注元の請負会社従業員に対す る使用者性が問われた朝日放送事件において、最高裁の考え方が示されてい ます。ここでは、「基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ 同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあ る場合には、その限りにおいて、右事業主は同条の『使用者』に当たる」と いう考え方が示されています。  以下、親子会社間の親会社の使用者性について、何点か労働委員会の命令 例あるいは裁判例などを引かせていただいています。ここでは徳島南海タク シー事件、雪印乳業事件、大阪証券取引所事件、シマダヤ事件の4つを引か せていただいています。5頁で、「親会社が子会社の従業員の労働条件を現 実的かつ具体的に支配、決定」してきたと判断する事実は、事案によっては かなり異なっているものと考えられます。  「また」のパラグラフでは、純粋持株会社について少し触れています。純 粋持株会社の使用者性は、「持株会社解禁に伴う労使懇談会中間とりまとめ」 が平成11年に出されていまして、ここで考え方が整理されています。「子会 社の具体的な労働条件の決定にまで関与する場合には、子会社の労働組合に 対して、団体交渉当事者としての純粋持株会社の使用者性が問題となるケー スがあるが、その場合にはこれまでの判例の積み重ね等を踏まえ現行法の解 釈で対応を図ることが適当である」とした上で、純粋持株会社の使用者性が 推定される典型的な例として、(1)純粋持株会社が実際に子会社との団体交渉 に反復して参加してきた実績がある場合、それから(2)労働条件の決定につき 反復して純粋持株会社が同意を要することとされている場合の2類型を挙 げられています。  こうしたこれまでの考え方も踏まえまして、投資ファンド等の使用者性に ついて(3)で触れています。投資ファンド等の被買収企業への関わり方の 実態、あるいはアメリカの調査結果などを見ますと、投資ファンド等は株式 を保有し取締役等を派遣することによって被買収企業に対して一定の影響 力を有していると考えられます。すなわち、労働条件の決定を含めた被買収 企業の具体的な経営への関わり方については、直接に経営方針や労働条件等 を決定するものではありませんが、株主としての権利を背景に影響力を行使 することもあると考えられます。ただ、その影響力の行使の仕方については、 被買収企業に派遣した取締役等を通じて労働条件の決定に関与するなど 様々なものがあり得ますが、株式の保有割合等で一律に判断することができ るものではありません。ケースバイケースと言わざるを得ないと考えていま す。  同様に、株主としての権利を背景に企業の経営に対して影響力を行使する ものとして、親子会社間の親会社あるいは純粋持株会社があると考えられま すが、純粋持株会社が「事業」を目的として他社の株式を保有しているのに 対し、投資ファンド等は基金(ファンド)を運用して収益を得る「投資」の ために株式を保有しているという点で純粋持株会社と異なっていると考えら れます。投資ファンド等は「事業」を目的とするものではないという点にお きましては、一般に純粋持株会社と比べて具体的な経営への関わりの度合は 低いと考えられますが、投資ファンド等の目的は必ずしも一律ではなく、具 体的な経営に関与することもあり得ると考えられます。  また、本研究会は、投資ファンド等が短期間で収益を上げることを目的と して、純粋持株会社と異なりまして、労働条件に積極的に関与しているので はないかという問題意識で開始されたところですが、必ずしもすべての投資 ファンド等が短期間で収益を上げようとしているわけではないこと、また、 収益を上げるための具体的な経営については、被買収企業の経営陣に任せる ことが適当であるとの考え方もヒアリングの中で示されたことから、すべて の投資ファンド等が必ずしもその目的から一律に被買収企業の労働条件に 積極的に関わることになるわけではないと判断されます。  こうした点を踏まえますと、投資ファンド等の被買収企業の労働組合に対 する使用者性については、投資ファンド等が被買収企業の株式を保有する目 的、あるいはその目的に基づき被買収企業に対して株主としての権利を背景 に経営にどのように影響力を行使するかが一律ではないことから、投資ファ ンド等と同様に株主としての権利を背景に子会社の経営に対して様々な態様 で影響力を行使している親子会社間の親会社、あるいは純粋持株会社に係る これまでの「使用者性」の考え方が基本的に妥当とすると考えられます。  これまでの親子会社間の親会社の「使用者性」に係る裁判例・命令例の考 え方を踏まえますと、投資ファンド等についても被買収企業に対する影響力 の行使の態様によっては被買収企業の労働組合に対する使用者性が問題とな るケースはあり得ますが、どのような場合に投資ファンド等が、朝日放送事 件で示されました「基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ 同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあ る」かを一律に決定することは困難と考えられます。  投資ファンド等の使用者性については、個々具体的に判断されることにな りますが、「持株会社解禁に伴う労使懇談会中間とりまとめ」において示さ れた、使用者性が推定される可能性が高い純粋持株会社の事例が参考になる と考えています。  投資ファンド等は法人格を有していない場合もあり、その組織としての意 思決定プロセスが明確でない場合も多いと考えられますが、こうした投資フ ァンド等であっても被買収企業における労働条件を現実的かつ具体的に支配、 決定している場合には使用者性が認められると考えられます。ただ、その意 思決定を誰が行ったかについて特定することは難しい場合が多いと考えられ ます。投資ファンド等については、その実態が十分に把握されていないこと も踏まえますと、個別具体的な事案に即して、意思決定を行った者の特定も 含めて使用者性を判断せざるを得ないと考えています。  いずれにしても、投資ファンド等の被買収企業における労使関係への関わ り方については、現在、金融庁のほうでも投資者保護の施策を講じていると ころですので、こうしたことも見ながら、さらにフォローアップしていくこ とが必要と考えています。  4、企業買収の際に良好な労使関係を構築するためのポイントです。投資 ファンド等による企業買収の結果、労使紛争が生じた例もあったことが、本 研究会を始めたきっかけであったことから、投資ファンド等による企業買収 に当たって良好な労使関係を構築するためのポイントについても検討してい ます。  ヒアリングの結果をみる限りにおいては、被買収企業の労使関係は安定し ていましたが、良好な労使関係を構築していくためには、関係者の不断の努 力が必要でありまして、投資ファンド等を含めて関係労使が、以下の点に十 分配慮するように周知を図ることが必要と考えています。  1つ目は、投資ファンド等の使用者性についてです。これは些か繰り返し になりますが、被買収企業の労働条件の決定に介入することは投資ファンド 等の本来の役割ではないと考えられるところですが、先ほど来申し上げてい るとおり、「基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視で きる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位」にあれば、 労働組合法第7条の「使用者」に該当する。したがいまして、被買収企業の 労働条件に介入しこのような地位に立つことになれば「使用者」としての責 任を負うことになることを、投資ファンド等は認識する必要があると考えて います。  2番目は、被買収企業における誠実な団体交渉及び労働協約の効力につい てです。被買収企業における労働条件等については、被買収企業の労使自治 が尊重されることが基本と考えています。  そのような考え方からしますと、被買収企業における労働条件の決定につ いては被買収企業の組織の中でプロセスを完結することが望ましいと考え られます。  また、労働条件決定プロセスの一環として、被買収企業における団体交渉 が誠実に行われることが重要と考えています。投資ファンド等も、被買収企 業が労働組合から団体交渉を申し入れられた際には、誠実に対応する必要が あることを認識する必要があると考えています。  また、被買収企業における労働協約についても、投資ファンド等による買 収やその結果としての被買収企業の経営陣が交替した場合であっても、適正 な手続により変更しない限りはその効力が失われるものではないことを、投 資ファンド等と被買収企業は十分に認識していただくことが必要と考えてい ます。  こうしたことによりまして、被買収企業の労使関係を安定させることが投 資ファンド等にとっても利益となることを、投資ファンド等は認識すべきで あると考えています。  3番目は、事前説明、意見交換の場の設定です。投資ファンド等による買 収の結果、被買収企業の経営方針が変更されることもあり得ますが、企業の 経営方針というのはその企業で働きます労働者の労働条件にも大きな影響を 与えるものであることから、労働者や労働組合の関心も高いものと考えられ ます。実際、本研究会で行ったヒアリングでは、投資ファンド等により買収 されることについて、不安があったと述べる労働組合もみられたところです。  このため、投資ファンド等による買収後の経営方針等については、被買収 企業の労働者や労働組合に対して被買収企業から説明することが望ましいと 考えています。また、被買収企業による説明が困難な場合には、投資ファン ド等から説明することも有用と考えられます。その際、労働者や労働組合へ の説明については、インサイダー取引に結びつかないよう買収計画又は買収 事実の公表をすみやかに行うことが望ましいと考えています。  また、投資ファンド等は、純粋持株会社と異なりまして企業グループ全体 の経営方針を策定することがないなど、子会社(被買収企業)との結び付き が純粋持株会社と比べますと弱いと考えられますが、仮に、純粋持株会社の ように子会社(被買収企業)の経営方針等を自ら策定するものであれば、買 収後も日常的に被買収企業の労働組合と意思疎通を図ることも有用と考えて います。  8頁の「以上」のパラグラフですが、簡単にまとめを書いています。投資 ファンド等を含めた関係労使において、以上配慮されるべき点、ポイントに ついて示していますが、特に投資ファンド等は、被買収企業の労使関係が安 定していることが自らにとっても大きな利益となることを十分に認識し、労 使関係の状況も踏まえまして、良好な労使関係の維持に配慮することが望ま れるということで、報告書を締めくくらせていただいています。簡単ですが、 以上です。 ○ 西村座長  ありがとうございました。いまのご説明について、ご意見がありましたら お願いします。個別に委員の方には事前に意見をお聞きして、それに基づい てたたき台が作られています。いま読んでもらって気がついたところをお願 いします。  1頁のいちばん下の「一方、被買収企業の労使関係が安定しているかにつ いて、買収を行う際、重要視しているとするものもあった」。このあとは、 4つのうち3つとか、1つだけは別という書き方をしているのに、「買収を 行う際、重要視しているとするものもあった」というのは、ヒアリングした 中では、安定しているものを重視するというのがほとんどだったような感じ で、単に「あった」というのはいかにも素っ気ない気がします。  構成そのものは4部で、はじめにと、ヒアリングを通しての実態、使用者 性、良好な労使関係ということで、起承転結をわりとはっきりさせた構成に なっています。 ○ 宍戸先生  今日の報告書をきちんとすることに適切な質問かどうかはわかりません が、今回の報告書で論理的に重要だと思うのは、投資ファンドと親子会社、 特に純粋持株会社との比較をどう整理するかということだと思います。私は 素人なので確認させていただきたいのは、日本及びアメリカにおいて、親子 会社において、要するに親会社の使用者性が認められるというのはどういう 場合か。要するに認められた例、あるいはこれは当然認められるという基準 はどうなっていたでしょうか。まずは日本で、それからアメリカでは違うの か。  私が前々回に伺ったときの感触としては、日米両国において基本的には法 人格が違っていることが尊重されている。100%子会社であっても、独立し た法人格を持っている限りは子会社の経営者と労働者が、労働組合がどこに あるかというのもあると思いますが、それが団体交渉をするのだと。親会社 の経営者が団体交渉の義務を負うケースは、極めて例外的である。潜在的な 影響力の行使という意味では100%親会社ですから、何だってできるわけで す。子会社の経営者なんて、すぐにポンと取り換えられるわけですから。し かし、とは言いながら事業部ではなくて子会社にした以上は、労働法上はそ れが尊重されると認識したのですが、それでよろしいでしょうか。でも、例 外的に使用者性が認められて、親会社の経営者が団体交渉義務を負うという のは、具体的にはどういうところになりますか。それを確認させていただき ます。 ○ 山川先生  基本的にはおっしゃったとおりで、原則的には別法人であることを重視し て、しかも影響力というのは、ここにも趣旨は出ていると思いますが、経営 上の影響力という株主としての権利を行使するだけでは足りなくて、労働条 件の決定に実質的に関与というか支配、決定を行っていることをいいます。 最終的には類型が違いますが、雇用主と実質的に同視されるとか、そういっ たキーワードが中心になって決定されますので、それが親子会社の間で認め られるというのは、ある意味では例外的なことになるということで、株主権 の行使とは質的に別の要件がかかっていると見ていいのではないかと思い ます。 ○ 宍戸先生  直接、労働条件に対して指示を出すというわけではないとしても、いろい ろな場面で労働者と株主との利害が対立する場面はあるわけです。特に下り 坂の局面においては、配当を維持するか雇用を維持するか、あるいは賃金体 系を維持するかというのは常にイシューになるわけです。そこで別にどうし ろとは言わないけれども、なぜ減配なのだと、なぜリストラをしないのだと いう圧力を子会社の経営者にかけることは、漠然とかけることは株主の権利 として、たぶん認められていると思います。それは、特に使用者性の認定に は問題ないですか。 ○ 小林調査官  事務局のほうから、報告書に沿って説明します。4頁の(2)が、「これ までの『使用者性』の考え方について」ということをまとめています。ここ で、日本では基本的な考え方が最高裁で示されていまして、それが一段落目 の「基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度 に現実的かつ具体的に支配、決定」ということですが、これは本当に基本的 な考え方なので、どういう事実に基づいてこれを判断しているのか、下にい くつかの裁判例・命令例を書いていますが、事実はいろいろなものに基づい て判断しているということなので、やはり個々のケースによると思います。 ○ 宍戸先生  これまで、親会社の使用者性が認められたのはどれですか。具体的に、ど ういう場面ですか。 ○ 小林調査官  5頁の純粋持株会社のところで、「使用者性が推定される典型的な例」と いうのが(3)の上にあります。これが当時の判例・命令例を見たときに、 親子会社の親会社の話とか請負の話しかなかったのですが、それを整理した ときには(1)親会社が子会社の団体交渉に反復して参加してきた実績がある 場合とか、(2)子会社の労働条件の決定について反復して同意が要る場合、こ ういう場合は、比較的典型的に認められる例ではないかと類型化できますが、 あとが認められないというわけでは必ずしもないということになります。 ○ 宍戸先生  しつこくて申し訳ないですが、文言のことです。指示できる地位にあると いう4頁の概念がありますね。「支配、決定することができる地位にある」。 この「地位にある」というのは、100%親会社の場合は常に地位にあります よね。支配、決定することができる。やろうと思えばできますよね。そうい う意味では、すべて地位にあってしまうのだけれども、これはそういうこと を意味しているのではなくて、ご紹介いただいた5頁のように、団体交渉に 参加している慣行というか、さらに言えば純粋持株会社の同意を要するとい う親子会社間の権限分配における内規みたいなもの、要するに、事実として 何をしたかで決まるのだという理解でよろしいのですね。 ○ 小林調査官  4頁の裁判例の中で、2つ目に徳島南海タクシー事件というのがあります。 この段落の下から3、4行目のあたりで、これは、親会社が子会社の資本金 を全額出資して、役員も多数兼務しているのですが、使用者性が否定された 事案で、「現実的かつ具体的に支配、決定してきた事実の疎明がない」とい うことで否定をしていますので、たぶん、先生がおっしゃったようなことだ と思います。 ○ 宍戸先生  どうもありがとうございました。まず、それを確認させていただこうと思 いました。 ○ 毛塚先生  議論するといろいろな問題が残されていますが、通常は最高裁の判断枠組 に従って処理しているわけです。この研究会も大体これをベースにするとい うことだったと思います。ただ、アメリカの話のときも出たように、理論的 には団体交渉の当事者と不当労働行為の主体を同じに理解しなければなら ないわけでもない。労働法的に考えれば、具体的な紛争を解決するためには どうすることが望ましいかという、目的的な解釈をやってきたわけですから、 誰と話合いをすればこの紛争は解決するか具体的なケースに即して判断を してきた。いずれにしても、ただ100%持っているというだけで議論はして きていない。 ○ 柳川先生  いまの宍戸先生の話とも若干は関係しますが、「短期間で企業価値を高め て収益を上げることを目的とし」、そのあと「労働条件にも関与しているの ではないか、という問題意識からこの調査をした」という文言が1の「はじ めに」にも出てきますし、3の頭のところや5頁の最後から2行目にも出て きます。このことが、この調査研究会のそもそもの発想だったということは そのとおりかもしれませんし、そのこと自体は特にどうこうということでは ないのですが、「短期間で企業価値を高めて収益を上げることを目的とし」 と何度も繰り返されると、ある種ここが、労使関係や使用者性の要件などの 問題が関わってくるのではないかとも見えます。先ほどの話にもあるように、 問題の行為であるかどうか、あるいは使用者性であるかは、別に短期的利益 を上げようが長期的で上げようが、それを目的にしようがしまいが、おそら く何も関係ないことなので、そのあとの「労働条件にも積極的に関与してい るのではないか」というところはあれですが、そういう意味では少し気にな る気がしました。問題意識なのでということであれば、これでいいかもしれ ませんが、ファンドの人から見ると、そこを問題にされたのかと誤解される 懸念はあるかなと。 ○ 毛塚先生  短期的であれば、労使関係を無視して利益云々という文脈ですね。 ○ 柳川先生  そうです。その趣旨はよくわかりますが、その前者のほうは特に何か問題 である要件とは何も関係がないわけですよね。だから、短期であろうと長期 であろうと、労使関係に直接に関与し、しかもそれをかなり強引な形でやる とかやらないというところに問題があるわけですから、別にその行為と、そ の行為がどういう趣旨で、あるいはどういう目的でやられているかというこ ととは直接の因果関係もありません。長期的目的でやっていれば、不当なこ とをやっても問題ないということではないと思いますので、短期か長期かと いうことは実質的にはあまり問題がないのではないかと思います。 ○ 毛塚先生  従来と違って、株主の行動がかなりストレートに労使関係に影響を与える のではないかという文脈なのでしょうね。 ○ 柳川先生  前者はわかりますので、特に変えてくれということではないのですが、少 しそこが気になったという感想ですので、皆さんのご意見を伺いたいと思い ます。 ○ 西村座長  短期か長期かという期間の問題だけではなく、短期に強引に従来の労使関 係を激変させる点では、「短期で」というところが大きな影響力を持つよう な感じがします。確かに、短期か長期かという期間の問題ではないです。強 引に何かをやる、そういう話なのでしょう。 ○ 山川先生  おそらく、この記述は実際にこういうことが動機になったということで書 かれたのかなと思います。関連で、これは書けるかどうかはわかりませんが、 先ほど座長もご指摘になった部分で、1頁に、労使関係が安定しているかど うかは重視されていると書かれている。アメリカについてもそういうことが 若干書いてあって、最後につながっていく。これは短期的な利益の取得と関 わってくる可能性がありますが、その理由については何か調査とかはあるで しょうか。前回出席しなかったので、あまり記憶がないのですが、それは企 業価値というものの考え方に連なるので、あまりにも根本的な問題かもしれ ませんが、その理由が何であったかを確認したいということと、それを書け るかどうかも難しいでしょうかということで、つまり、いろいろな考え方が あるので、安定的な労使関係が企業価値の向上に資するということが、一般 的な命題として言えるかどうかという問題です。より細かくは、労使紛争な りが起こるとコストがかかるという、取引費用的な発想もあり得るかもしれ ませんし、いまさら議論をしだすと難しいかもしれませんが、あるいは実態 としてこうだったという程度の指摘だったのでしょうか。 ○ 毛塚先生  対象が事業再生ファンドだったということではないでしょうか。要するに 短期的な利益を求めるものではない投資ファンドが調査対象だったという のが大きい。 ○ 山川先生  そうすると労使関係の安定というのは、事業再生にとっては少なくとも有 効であるということが前提になっているのでしょうか。 ○ 宍戸先生  いまの毛塚先生のご指摘の点は、私も感じました。このレポートの中で、 どういう時期にファンドが入っているのかという指摘が全くないというこ とで、同じ投資ファンドといってもベンチャーキャピタルファンドみたいに、 これから伸びていくところに入れる場合と、あるいは再生ファンド、我々が ヒアリングしてきたみたいな事実上の倒産状況、私的整理という状況で入っ ている場合とでは、たぶん労働法上の評価も違うのではないかと想像します が、その辺はどうですか。労働法の評価ということを考えた場合に、企業の あれがありますよね。つまり、債務超過を線にして、上か下かみたいなとこ ろで、団体交渉義務とか、つまり会社法的にというと神作先生に怒られるか もしれませんが、ざっくり、私たち素人が考えると、債務超過のあたりの状 況になった場合は、再交渉だからしょうがないではないかという感じもする わけです。ファンドが入らないと、みんな、どっちみち職を失ってしまうの だから、そこでもう一度バラバラとやって、これまでの既得権がある程度な くなるという話は、ある程度しょうがないよねと、会社更生の状況だったら 、そういうことですよね。その会社更生にいかないで私的整理だという状況 でファンドが入った場合というのは、どう評価するのかなと。ですから、正 常時とは違うのではないかと思います。もし、できればそこの労働法の考え 方をお伺いしたいのですが、どう議論されているのでしょうか。 ○ 山川先生  その点については、労働法は突っ込んだ議論はしていないという感じで、 ほかの先生方はまた別かもしれませんが、この研究会で、ある意味では初め て、目的が違うことが労働関係に影響することを認識しました。もう1つは、 その目的が論理必然的に影響するということではなくて、事実次第かなとい う印象です。 ○ 宍戸先生  使用者性という話とどうつながるのかが、私にはわからないのです。そも そも労働法がわからないので何とも言い様がないのですが、根本的な再交渉 が必要になっている場面なのだろうと。特に株主と従業員という関係からす ると、そういうところなのだろうと。ただ、それと団体交渉の対象としての 使用者性の議論はどう結び付くのかが、よくわからないのです。 ○ 荒木先生  私も、よくわかりませんが、おそらく2つの問題を御指摘になったと思い ます。倒産状態のような企業における団交義務をどう考えるかという問題が 1つです。これは、別に親会社などがなくても起こる問題です。しかし、そ の場合にも、別に倒産状態にあるから団交義務を負わないということではな くて、例えば管財人とでも団体交渉義務というのは考えられていまして、実 際に団交を命ずる場合もあります。ただ、倒産の場合に自ずと処分権限の限 界があるということからの制約がかかってくるという問題だろうと思いま す。  もう1つの問題は、直接の雇用契約を結んでいる使用者とは違う親会社と かファンドとの間で団交をやらせるべきかということで、それで最初にご指 摘になった問題があって、株主としての影響力。先ほどの先生のご指摘だと、 支配、決定することができる地位にあると。100%親会社とかはそうではな いかとおっしゃったのですが、労働法で着目している「支配、決定する」と いうのは、あくまで基本的な労働条件について、現実かつ具体的に支配、決 定するということです。つまり、もっと配当を上げろという要求は株主とし てしますよね。ところが、それに対して経営者がどうするか。資産を処分す るか、従業員の賃金をカットするか、いろいろな方策があって、どれを選択 するかは経営判断です。それについて、それが労働条件に影響する限りで組 合と団体交渉をしなさいということになっていると思います。それが基本で す。例外的に、直接の契約関係のない人の関係で使用者性が肯定されるのは、 その使用者でない者が、何人のクビを切るとか、賃金を10%減らすというふ うに現実的かつ具体的に労働条件を支配、決定しているといえる場合で、そ ういう場合は、その人との間で団体交渉をしないと、自分たちの労働条件は 変わり様がない。そういう意味で、労働条件について現実的かつ具体的に支 配、決定していると言えるかどうかを判断しているように思います。 ○ 西村座長  確かに1頁の下のところでも、労使関係の安定ということを言っています が、労使関係の状況というのはいろいろありますから、倒産状況だったら安 定ばかり言ってられないということもあるかもしれませんから、場合分けは 書いておいたほうがいいかもしれません。  2頁の2段落目の「買収に伴う労働条件の変更については、人事制度の見 直し等を行ったとするケースが見られる一方、全く行われなかったとするも のもあった。なお、変更を行った場合の意思決定については、すべて企業内 部の機関において行われ、投資ファンド等から指示を受けたものはなかっ た」という事実の記述がありますが、要するに、労働条件の変更やリストラ といったものについて、企業の内部の機関で行われる限りは従来の制度その ままでいいわけですよね。ただ、それを超えて直接的に労働条件の変更を言 ってくる場合に、この使用者性が問題になるという発想ですね。間接統治と 直接統治という対比なのでしょうか。普通は、そういったところまで直接出 てきてやれないわけで、ここで言うところの内部の機関で、被買収企業の機 関で意を体してやりなさいという話で、それで収まっている限りは、このフ ァンド等の使用者性というのはあまり問題にならないということなのでし ょうね。  投資ファンドというのは、いろいろな形態であり得るので、実態がよくわ からないところを対象にして議論していますから、なんとなく詰めきれない ところがあるかもしれませんが、6頁の真ん中から少し下に、「なお、投資 ファンド等は法人格を有していない場合もあり、その組織としての意思決定 プロセスが明確ではない場合も多いと考えられる。こうした投資ファンド等 であっても被買収企業における労働条件を現実的かつ具体的に支配、決定し ている場合には使用者性が認められると考えられるが、その意思決定を誰が 行ったかを特定することは難しい場合が多いと考えられる」という記述です よね。 ○ 毛塚先生  難しくても個人を特定できれば、その人を相手方にしてということはでき るということはある。昔から、法人でも会社として実態がなければ、個人を 相手にというのはあり得たことですよね。 ○ 西村座長  個人でもということですね。 ○ 毛塚先生  投資ファンドがほとんど個人という形で運用されているということにな れば、その人に対して使用者性が認められることは、従来の議論の文脈でも あり得るのではないですか。 ○ 西村座長  報告書のスタイルとして、「使用者性が認められると考えられるが、その 意思決定を誰が行ったかを特定することは難しい場合が多い」と。これを読 んで、どう考えるかということで、もう少し詰めて書いておかなければいけ ないのかということです。 ○ 毛塚先生  前回、神作先生がおっしゃられたような問題もあるので、書かれているの では。 ○ 神作先生  私が前回発言した部分を受けて書いていただいて、そういう意味では本当 にありがたいとともに責任を感じるのですが、典型的に考えていたのは、例 えばファンドが信託である場合には、信託自体は法人格を持たないので受託 者が現れてくることになりますけれども、背後に、受託者に対して指図をし ている受益者がいる、そういう状況のときに、使用者はいったい誰になるの かという問題提起をさせていただき、その点がもしかすると親子会社関係と は少し違うかもしれないという気がしたのです。つまり、親子会社関係のと きは、法人格のある親会社で議論が止まると思います。もちろん、法人格否 認の法理がありますから、それに基づき株主に遡ることはあり得ますが、一 般的には親会社を誰が支配しているかというところまでどんどん遡ってい かないのではないか、それに対しファンドの場合は、むしろ実質的な支配を 問題とせざるを得ない場合が多いのではないかという点を疑問に思ってい たのですが、いまの毛塚先生のお話だと、親子会社関係の場合も実質的に支 配している株主までどんどん遡っていくということになりますでしょうか。 ○ 毛塚先生  私の記憶では、会社として法人格がはっきりしていない場合、あるいは個 人経営的な形でいえば、会社を救済の名宛人にしないで、個人を名宛人にし て不当労働行為の救済をすることはあったと理解しています。ただ実際上、 誰が具体的な意思決定をしているかということの判断の認定が難しいとい う問題があるけれども、それがわかれば、当然救済をすることはあり得た。 ○ 神作先生  法人格のないファンドのほうが一般的だと理解していますので、例えば組 合や信託を使われたときは、いったいどうなるのだろうかという問題意識だ ったのです。 ○ 宍戸先生  実態論をすれば、むしろ逆かなという印象を持っています。少なくとも、 真っ当なファンドは、ジェネラルパートナーが全部意思決定をしているので あって、リミテッドパートナーとしての究極的なお金の出し手というのが、 そもそも運用自体に口を出すことはまず考えられず、さらにはポートフォリ オ先の労使関係について年金基金が何か言っているなどということはあり 得ない話なので、それは持株会社以上に分離されているというのが私の印象 です。ですから、濫用的に使う場合もあり得るのではないかとおっしゃられ るのは、確かにそうかもしれませんが。 ○ 神作先生  基本的にはファンドは投資を目的としており、自分で事業をやろうとして いるわけではないので、一般的にはおっしゃるとおりだと思いますが、100% そうだとは言い切れないという問題意識です。 ○ 西村座長  6頁のやや下の「なお」の段落で、意思決定のプロセスが明確でないのに、 「被買収企業における労働条件を現実的かつ具体的に支配、決定している場 合には使用者性が認められる」。もしここまで書くのならば、いったい誰が 使用者なのかを書いておかないと、どういう趣旨なのかと思うのではないか。 それだけの話なのです。 ○ 太田政策統括官  西村先生が言われた、「難しい場合が多いと考えられる」と。そのあとに つながって、「投資ファンド等についてはその実態が十分には把握されてい ないことを踏まえると、最後は個別具体的な事案に即して、意思決定を行っ た者の特定も含めて使用者性を判断せざるを得ない」と。そこはそれ以上、 個別具体的な事案をケース分けするところまではなかなか難しかったので、 こういう書き方をしている。さらには、「いずれにせよ」ということで金融 庁でいろいろな動きがあるので、そういう実態把握や保護の在り方も含めて フォローアップ、という形で課題が残されているという書き方の整理ではあ ります。 ○ 宍戸先生  いまのところはたぶん、全然違った観点で私は非常に強い疑問があります。 というのは、「なお」のところの「投資ファンド等は法人格を有していない 場合もあり、その組織としての意思決定プロセスが明確ではない場合も多い と考えられる」と同じような表現が4頁の上から5行目で、「なお、本研究 会においてヒアリングを行った投資ファンド等は、すべて法人格を有するも のであるが、投資ファンド等の中には、法人格を有さない民法上の組合等の 形態をとるものも多いと考えられる。こうした投資ファンド等の場合、組織 としての意思決定のプロセスが明確ではないこともあると考えられる」。ど うも、この表現が、極めて法人格がないファンドというのは意思決定プロセ スが明確でなく、うさん臭いというニュアンスを感じるのですが、これは私 の観点からすると逆で、そもそもファンドが株式会社でやるというのが極め てうさん臭いのでありまして、本当はとんでもない話なのです。  金融庁の話まですると語弊があるかもしれませんが、金融庁が出している 金融商品何とか法で、およそファンドとして登録するためには株式会社では ならないという案を出しているのですが、これは日本におけるファンドつぶ しで、日本ぐらいなのです。アメリカ等における、特にシリコンバレーのベ ンチャーキャピタルファンドもすべて法人格のない形態で、二重課税を回避 しながらやっています。  要するにファンドが株式会社でやって、サラリーマンが経営するみたいな ものが正しいという認識で金融庁は書いているらしいですが、それは非常に 問題があると思います。ここの表現は株式会社はいいけれども、法人格がな いのはガバナンスができていないだろう、そういうのは注意してみよう、と いう意図のように見えるので、神作先生がおっしゃったことは知らないので 批判的に言っているわけではないのですが、この表現は変えていただいたほ うがいいのではないか。 ○ 神作先生  私の問題意識は、法人格があれば使用者性にしても、主体を把握すること は容易かつ明確だと思います。これに対し、法人格のないファンドが使用者 だと言ったときに、具体的にどのような法的効果があるのかというご質問を したわけです。 ○ 宍戸先生  それならよくわかりました。ただ、こう書かれてしまうと、法人格がない のは駄目だと言っている感じがするので。 ○ 川口参事官  「意思決定のプロセスが明確ではない」と書いたものですから、そこは不 正確だったかもしれません。裁判なり労働委員会なりに行ったときに、事実 認定をするのは難しいという趣旨のつもりだったのです。ですから、意思決 定のプロセスは明確かもしれないけれども、それが形として残らない可能性 があるので、証拠として認定しにくいという趣旨ではあったわけです。少し 表現は考えてみたいと思います。 ○ 宍戸先生  行くとすれば、その場合はジェネラルパートナーでしょうね。それは、責 任の主体として追求していく。 ○ 神作先生  もし使用者性が認められるとしたら、ジェネラルパートナーだけが使用者 になるのです。 ○ 宍戸先生  ファンドとやる場合は、そういうことになると思います。要するに親会社 みたいなものがあるかということですよね。それはないでしょうね。ただ、 やるときは親会社のCEOとやるわけでしょう、団体交渉をやれと命じると きは。この場合は、ファンドのジェネラルパートナーとやれというのではな いでしょうか。 ○ 柳川先生  通常の感覚からすれば、ジェネラルパートナーだと思います。ただ、そこ が本当に実質的な使用者性を持っているかという話になると、難しいのでは。 ○ 宍戸先生  それは、また別の話で、仮に使用者性を認定されたらどこへ行くのという お話を皆さんはされていると思います。 ○ 柳川先生  そうではないですよね。 ○ 神作先生  使用者性というのは、実質的に労使関係を決定するという基準でいきまし ょうと書いているわけなので、そのときにジェネラルパートナーの後ろにで すね、指図をしている者がいるとしたら、どうなりますでしょうか。 ○ 宍戸先生  ジェネラルパートナーのさらに後ろの資金提供者が出たらどうですかと いう話ですか。 ○ 柳川先生  実質的な意思決定を本当に誰がやっているのかというのがわからないと いう。 ○ 神作先生  匿名性が強調されるファンドにおいては、そのような話を避けて通れない のではないかというのが問題提起だったのです。 ○ 宍戸先生  それは事実認定なのではないですか。ライブドアファンドみたいに、裏は ライブドアだったのだよねということになる場合もあるでしょうし、ファン ドかどうかで違わないのではないか。 ○ 柳川先生  まず文言の問題として明確ではないというのは、実際に決めている当事者 にとっても明確でなく決めているという話なのか、外から見えにくいという 話なのかというのは、こういう「明確ではない」という書き方だとちょっと わかりにくいので。 ○ 神作先生  前回は「匿名性」という言葉を使ったと思います。たぶん、その匿名性と いうのを表現してくださったのではないかと思いますが、匿名性というとき は、一般的には外からわからないという、そういうことだと思います。 ○ 柳川先生  そうですね。先生からご説明があったような趣旨は、外からわからないと いうことだと思います。 ○ 宍戸先生  この表現だと、神作先生がおっしゃったことは出ていないと思うのですが、 違いますか。これからすると、要するにジェネラルパートナーにいくのかい かないのかみたいな議論を惹起しているように聞こえてしまうのですが。 ○ 柳川先生  でも、先ほどのご説明があったように、要するに外からよくわからないと、 結局は追っていったときに、実質的に誰が決めているのかというのが、なか なかわかりにくい。そうすると、わかりにくいから無理だということではな くて、「個別具体的な事案に即して、意思決定を行った者の特定も含めて判 断せざるを得ない」という文書にするということで、そうすれば繋がるので はないですかね。 ○ 西村座長  明確でないということではなくて、外から見えないということですよね。 ガバナンスはちゃんと行われている。行われていないと、動かないですもの ね。要するに匿名的だということですよね。「明確でない」というと、決定 が行われているのか行われていないのか、なんか曖昧模糊としているという、 そういう意味で取られる。ちょっとニュアンスが違うのかもしれませんね。 ○ 太田政策統括官  ここは、ちょっと表現を考えます。 ○ 西村座長  ご相談してください。それから7頁の(2)、これは良好な労使関係のと ころですが、3段落目の「また」というところで、「労働条件決定プロセス の一環として、被買収企業における団体交渉が誠実に行われるようにするこ とが重要である。投資ファンド等も、被買収企業が当該企業の労働組合から の団体交渉申し入れに対し誠実に対応する必要があることを認識する必要 がある」と、スラッと書いてあるのですが、これだと被買収企業の労働組合 が団体交渉を申し込んできたら、投資ファンドが団体交渉に出てこいという 話に読めませんか。団体交渉が非常に大事だということを認識しなさいとい うことと、投資ファンドが誠実に団体交渉に対応するというのとは、全然わ けが違うのではないかと思います。ここのところはちょっと言い過ぎなのか なと思います。 ○ 毛塚先生  被買収企業が団交に応じることが大切なことを認識しなさい、というだけ ではないで     すか。 ○ 小林調査官  読み方としては毛塚先生のおっしゃるとおりで、被買収企業が誠実に対応 することを、投資ファンドも知っておいてください、という趣旨で書いたの ですが、そうは読めないですか。 ○ 西村座長  投資ファンド等も、被買収企業が当該企業の労働組合からの団体交渉申し 入れに対し誠実に対応する必要があることを認識しておいてくださいとい うことですか。 ○ 小林調査官   そうは読めない可能性も。 ○ 毛塚先生  労使関係システムをちゃんと認めなさいよ、ということで、自分が団体交 渉の当事者になりなさいと書いていない。 ○ 小林調査官  もしかして、そうではない読み方をされる可能性があるという感じですか。 ○ 太田政策統括官  ちょっとその可能性が、この文章だとあるかもしれないですね。 ○ 小林調査官  わかりました。 ○ 太田政策統括官  何か工夫ができるかどうか。 ○ 宍戸先生  結論的には、使用者性に関しては、投資ファンドと持分会社は同じ扱いに なるということでよろしいですか。 ○ 毛塚先生  「場合もある」と。 ○ 宍戸先生  「場合もある」と、そこがちょっとよくわからないです。 ○ 毛塚先生  それは具体的、現実的に労働条件の決定に影響力を行使しているかどうか にかかる。 ○ 宍戸先生  もちろんそうですが、いろいろ使用者性が認められる基準というのを挙げ られてきていますよね。それで最初の問題意識としては、ファンドは持分会 社よりも危ないのではないかということから始めたと書かれていて、いろい ろ議論をされていて、これをスッと読むと、でも要するに持株会社と並びで すよね、ということのように読めたのですが、そういう結論だと取ってよろ しいですか。 ○ 川口参事官  原理的にはそういうことだと思います。あとは、その具体的な事実の積み 重ねになるので、具体的な事実の積み重ねの点においてどうなるかというの は、ちょっとまだわからないということです。 ○ 柳川先生  基準としては、持株会社と同じ基準で見る。ただし、その実態は持株会社 と違うかもしれないから、そこでは問題にされるかもしれないという、そう いう理解ですね。 ○ 太田政策統括官  最初の問題意識としては、違うところがあるのではないかという問題意識 で始めたけれども、いろいろヒアリングしたり実態を見てみると、基準とし ては同じ基準が使えるのではないかということです。 ○ 小畑先生  柳川先生が指摘されたところについて、もう少し確認させてください。5 頁から6頁にかけては、先ほど柳川先生がご指摘なさったのですが、(3) の内容を段落ごとに拝見すると、1段落目はよろしいとして、2段落目は目 的のことが書いてあって、3段落目はどのようにということが書いてあって、 そして4段落目でこうした点を踏まえると、目的や、どのように影響力を行 使するかが一律ではないから、使用者性についてはこういう考え方が妥当す るのだというように読みました。その4段落目のところは、目的や、どのよ うに影響するかということが一律でないということが書かれているのです が、ここからもう一度2段落目に戻ると、ここで書いてあることが目的だと すると、その目的というのは、純粋持株会社は「事業」、ファンドは「投資」 だけれども、ファンドの中には投資だけではなくて、具体的な経営に関与す ること、事業までも目的としていることもありますよという趣旨で書かれて いて、その次のところを読むと、「また、本研究会は、投資ファンド等が短 期間で収益を上げることを目的として、純粋持株会社と異なり、労働条件に 積極的に関与しているのではないか」というように繋がっているのですが、 この「純粋持株会社と異なり」がどこにかかっているのかということと、そ こから次の頁の4行目に「その目的から一律に」というところがあるのです が、これはたぶん、すべての投資ファンド等が必ずしも短期間で収益を上げ るという目的から一律に、というように読むのが正しいのでしょうか。そう いう趣旨でよろしいのでしょうか。 ○ 小林調査官  1つ目のご質問ですが、5頁の下のところの「純粋持株会社と異なり」と いうところは、「労働条件に積極的に関与しているのではないか」というこ とにかかっているので、前提としては純粋持株会社自体は労働条件に積極的 にそれほど関与しているわけではない、という前提のもとで、投資ファンド のほうが純粋持株会社よりも労働条件に積極的に関与しているのではない か、という意味で書いています。 ○ 小畑先生  純粋持株会社が、その前の投資ファンド等が短期間で収益を上げることを 目的としているのではないという趣旨ではないのですか。この「純粋持株会 社と異なり」というのは、「本研究会は、」のすぐ後にくるわけではない、 ここの位置が正しいということですか。 ○ 小林調査官  文章はともかくとして、趣旨としては、純粋持株会社というのはそれほど 短期で収益を上げるわけではないので、急いで利益を上げなければいけない わけではないので、労働条件にそれほど荒っぽく手は突っ込まないだろうと いう前提のもとで、それとは違って投資ファンドは短期間でやるから手を突 っ込みやすいのではないかという趣旨です。 ○ 小畑先生  わかりました。 ○ 小林調査官  ちょっと文章がまずいでしょうか。 ○ 小畑先生  いえ。私は先ほど柳川先生のご指摘を受けてもう一度読んでみたときに、 ちょっと引っかかるかなという感じがしたのですが。 ○ 小林調査官  それから、後半にもう1つおっしゃっていたのは。 ○ 小畑先生  6頁の4行目、「その目的から」というのは、たぶん先ほどおっしゃった 短期間で収益を上げようという目的から一律にという趣旨ですか。目的とい う言葉が、これの前にくる目的が5頁の下から2行目の目的なので、ここら 辺がどうなるのかというのがちょっと。 ○ 荒木先生  投資目的か、短期間の収益かということですね。 ○ 柳川先生  あまりこだわっているわけではないので、変えてくれということではない のですが、やはり経済学者としては、短期間で利益を上げるとか、短期間で 企業価値を上げるのは、別に無理なくできるのであればそれはそれでいいだ ろうという気がありますので、あまり短期間で収益を上げるから何かいかが わしいとか悪いという誤解のないようにしていただければと思います。それ だけですので、特にどうこうというわけではありません。 ○ 小林調査官  5頁のところは、まさにそういう誤解がないようにと思って書かせていた だいていて、もともとの問題意識は、短期間に収益を上げるので労働条件に 手を突っ込んでいるのではないか、という問題意識で始めたのですが、そも そもそういう短期間を目的としていないところもあるし、一律にそんなこと をしているわけではないということがわかりました、ということで書いてい るつもりです。 ○ 柳川先生  そうですね。そこは書いていただいて大変ありがたいです。だから短期間 で収益を上げているわけではなくて、長期のもある。短期間でも労働条件に 手を突っ込んでいないということで、そこは両方ともいいですよという感じ になっているのですが、そうすると短期間なら悪いのかということになりか ねないという感じがちょっとあって、結局ここの話は労働条件に関与してい るかというところが最終的にいいか悪いかの判断なので、ちょっと短期間だ というところに何かウエイトがかかっているような感じに見えたというこ とです。 ○ 西村座長  前の議論に関係するのでしょうが、短期間というのは急激にというか、無 理にとかどちらかといえばネガティブな評価で書いています。要するに短期 に業績が上がれば言うことないですよね。成績もそうで、家庭教師をつけて すぐに成績が上がれば言うことないわけで、ゆっくり上がるよりもそのほう がよっぽどいいでしょうけれどね。 ○ 柳川先生  だから「短期で収益を上げようとして無理に」とか、何か文章を付けてい ただくと、あまり違和感はないのですが。 ○ 西村座長  そのほうがいいと思います。短期か長期かということだけで分けられるわ けではなくて。 ○ 荒木先生  私の印象は、短期というのは全くネガティブな意味はないと思っています。 柳川先生がおっしゃる、短期で労働条件に手をつけたという、そのこと自体 は悪いことでは全くないのです。ただ、その場合には、団体交渉に応じなけ ればいけないという責任が生じるだけであって、そのこと自体では不当労働 行為でも何でもないのです。だから短期でどんどん手を突っ込んだってかま いません。それは違法でも何でもない。しかし、その場合には、団体交渉を 申し込まれたら応じなければいけないという責任が生じますよ、というだけ であって、手を突っ込むこと自体は違法でも何でもないですし、それはニュ ートラルだと思っています。 ○ 柳川先生  そこは、私の言い方が少し不適切でした。 ○ 宍戸先生  私も柳川先生と同じような感覚を共有していたのですが、むしろ実質的に は、私がこの研究会に参加させていただいたときの関心というか、こういう ことだろうなと思ったのは、要するに投資ファンドと言っているけれど再生 ファンドの話を大体ヒアリングしてきたと。ですから、それはむしろ倒産局 面に近い状況において投資をするような場合だから、労働条件に手を突っ込 む可能性が高いのではないか、という危惧だと私は思っていたのですが。要 するに、それをやらないと回復しない場合が多いでしょうと。だからどうし ても、投資ファンドとしても労働条件に関与しがちでしょうと。ですから純 粋持株会社と、あえて違うといえばそこなのではないかと、私はむしろ思っ ていて、そういうところにあえて入っていくのだから、そういう荒療治もた ぶんするでしょうと思って、ヒアリングのときにも何度もファンドの方に伺 ったのですが、「しません」というお答えだったので、それはちょっと肩す かしをくったのです。私の認識としては、むしろ短期にではなくて、そうい う状況でいくから労働条件にまでファンドが手を突っ込むのではないか、と いうところから始まったのかという気がするのですが、ここはどうですか。 ○ 西村座長  いま荒木さんがおっしゃったことを、もう少し積極的な意味をつけて、ど こかに書いておいたらいかがですか。例えば、状況によってはやはり変えな ければいけないことがあるだろうと。そういった場合は、要するに使用者と しての責任を引き受けて、やはり変えられるのだということをポジティブな 意味で書いておけばいいのではないですか。常に控え目、控え目ということ ではないですね。そうすれば、もう少しはっきりとしたメッセージが出せる のではないですか。 ○ 川口参事官  7頁の(1)で、投資ファンドが「使用者」としての責任を負うこともあ り得る、ということは書いています。ただ、確かにここはややネガティブに 「『使用者』としての責任を負うことがあり得る」という表現になっている ので、ここをいまおっしゃったような、もう少しポジティブな表現も加えら れるかどうか、ちょっと考えてみたいと思います。  いま議論になっている短期という点は、この研究会の開催を始めたときに、 そういう短期間でという言葉を使っているものですから、ある程度それに対 する回答を何か書かなければいけないということがありまして。 ○ 宍戸先生  誤解のない表現にしてください。 ○ 川口参事官  はい。 ○ 山川先生  その意味では5頁から6頁の流れが、純粋持株会社の場合は事業が目的だ けれども、投資ファンドはそうでもない。しかし短期の目的であれば、投資 目的の中でも関与が強いということもあり得るかもしれない。それは別に悪 いことではなくて、団交が必要になれば、その責任を負うべきだということ です。つまり、事業が目的かどうか、投資目的かどうかという点が第1に分 かれて、投資目的の中で短期目的かそうでないかが分かれて、短期目的の中 でも事実認定でいろいろ影響があるかもしれないけれども、株主としての権 利行使、一般的な権利行使を超えて、実質的な影響力、労働条件決定の影響 力を行使しているかどうかで分かれる。そういうことになるのかと思います が、5頁から6頁の目的というのが先ほどのご指摘にもありまして、何か多 義的に使われている気がして、6頁でいうと4行目は、むしろ「その目的」 というと投資の目的ということで、これは一般的な目的のことを、先ほど小 林さんのお話では書いているとのことです。2段落目の目的というのは、こ れはいろいろな目的があり得るということですが、宍戸先生のお話ですと、 目的そのものよりも状況のほうがある意味では問題ではないか。 ○ 宍戸先生  そんな気がしていたのですが。 ○ 山川先生  ということは、2行目で「当該目的に基づき被買収企業に対して株主とし ての権利を背景に経営にどのように影響力を行使するか」という、この「当 該目的に基づき」というのを取れば、その目的以外の要素からも影響力を行 使するということがあり得る、というように読める。これだと、何か目的が 影響力をほぼ規定するみたいに読めるのですが、別にそうではないだろうと 思います。 ○ 柳川先生  だから、使用者性の個別の具体的なケースで判断されなければいけない。 そのときの認定基準として、投資目的か事業目的か、あるいは投資目的が短 期か長期かと、この辺のところが判断材料になるというのはちょっと変かな という気がする、ということなのです。  もちろん、そこの労働条件に関与しているかどうかというところが判断材 料になって、それで団交の対象になるかどうかというのは、いままでの流れ からだと、いいと思うのですが、そこで短期かということが強調されすぎる と、ある種そこが1つの判断基準になる。それが要するに、結局投資ファン ドが純粋持株会社と異なって、ある種の判断基準として見られるという誤解 がないようにしていただきたい、というところが趣旨です。 ○ 荒木先生  短期に収益を目的とすると悪さをする、というテーゼは間違っていました、 というのが要するにこれの言いたいことですよね。ですから、ここは判断基 準でも何でもないのです。短期がいいとか悪いとか、そんなことは全くない。 短期だと悪さをする、労働条件に口出しをするという問題意識で始めたけれ ども、そんなことはなかったという意味ですから、判断基準に短期というの は一切影響してこずに、従来の持株会社や親子会社で用いた、現実的に労働 条件について関与しているかどうかというのでいきますと、そういう趣旨を 書いたと思っているのですが。 ○ 西村座長  ただ、5頁のいちばん最後の「問題意識で始めたところであるが、必ずし もすべての投資ファンド等が短期間で収益を上げようとしているわけでは ない」、ここでの短期というのはネガティブなのです。 ○ 柳川先生  私は荒木先生がおっしゃることに大賛成です。いずれにしても、そういう 報告書だと思っていますので。 ○ 荒木先生  これは否定の仕方が、短期でないのもあるよと言っていて、短期であれば 労働条件に積極的に関与するかという、そこを2つ言っているのです。それ が後半のほうで書いてあるのですね。 ○ 川口参事官  そうです。 ○ 荒木先生  だから、投資ファンドというのはみんな短期で収益を上げようとしている、 という仮説を持って検討を始めたのだけれど、みんなが短期でやっているわ けではないですよと。そして、短期のものだって、それがすべて被買収企業 の労働条件に積極的に関わるというわけでもないですよと、その両方を検討 した結果わかったと、そういうことではないのですか。だから、従来の親子 会社や持株会社の使用者性を基本に、共通の枠組みでやっていいのではない かというのが、このペーパーの言いたいことなのでしょうね。 ○ 宍戸先生  できれば、その短期云々の議論は最初の出だしで留めるというのはどうで しょうか。こういう発想でやったけれど違ったと、まさにいま荒木先生がお っしゃったステイトメントを冒頭で述べて、その後、もう短期云々の議論は やめる。そのほうがすっきりするような気がするのですが。 ○ 小林調査官  ただ、使用者性の判断のところなので、まさに目的が関係ないということ を書きたいというのは荒木先生がおっしゃるとおりなのですが、そこはやは りもともとの問題意識で短期というのがあったものですから、逆にそれは別 に目的で決まってくるわけではないし、短期、長期で決まってくるわけでも ないということを書いて。 ○ 宍戸先生  それを、むしろ明確に本文に書いていただけるのはありがたいと思います けれどね。短期、長期ではありませんというのを。ただ、冒頭のステイトメ ントと同じフレーズが何度もくるので、どうしてもやはり短期性悪説できて いるかな、という印象を受けてしまう。 ○ 西村座長  何かその他にございませんか。今回で全部きっちり終わるという感じでは なかなかなさそうですね。次回で今回の意見を踏まえて、もう一度たたき台 というか、一応最終稿を出していただいて、事前に委員の方々に配って意見 を聞いていただくといいと思います。  確かに短期で非常に悪さをする。法律家というのは急に変えると、何か激 変緩和措置をちゃんと講じなければいけないという、そういう発想があるも のだから。  繰り返しになりますが、4頁の法人格を有さない民法上の組合等の形態を とる、そういう投資ファンドについて、意思決定のプロセスが明確ではない という、そこは何かちょっと表現を変えたほうがいいかもしれませんね。 ○ 神作先生  むしろ先ほどのルールの適用に当たっての問題点として、記述していただ くということも考えられるかと思います。 ○ 西村座長  宍戸先生が、いや、法人格がないから、と言ってかばいますが、ないわけ ではない。その点ははっきりしていますよね。 ○ 宍戸先生  ええ、それは間違いないです。ですから、少なくとも法人格がないという ものについて、ネガティブな記述はやめていただきたいと思います。 ○ 西村座長  それは出しておいたほうが、やはりいいと思います。  その他は何かございませんか。事務局、大変ですがよろしくお願いします。 もし他にご発言がなければ、ちょっと時間は早いですが今日はこれで終わり にしたいと思います。 ○ 金谷参事官補佐  次回の研究会については、5月頃をいまのところ予定しております。具体 的な日時及び場所については、また後日ご連絡させていただきますので、よ ろしくお願いします。 ○ 西村座長   それでは、どうもありがとうございました。   照会先 政策統括官付労政担当参事官室 法規第三係 上野 TEL 03(5253)1111(内線7748)03(3502)6734(直通)