資料1


泉委員提出資料



地方における医師不足問題と取組み

 (1) 全国衛生部長会の要望書
 (2) 茨城県における現状と取組み
 (3) 本検討会の検討事項への意見(私見)


茨城県保健福祉部医監兼次長
 泉 陽子



(1) 全国衛生部長会の要望書

<経緯>
平成17年10月〜12月に有志参加(37道府県市)による調査と検討作業実施

全国衛生部長会としての要望書を取りまとめ、関係省庁(厚生労働省、文部科学省、総務省)及び学会等に要望



参加者の意識・意見等(1)

医師不足問題の状況

道府県全体の医師数総数は?のグラフ 医師不足が顕著な地域がのグラフ 医師不足が顕著な診療科がのグラフ

○北海道・東北等では、道・県全体としての不足
○西日本では、特に過疎地・僻地・離島、小児科等特定診療科の不足
地域により状況は異なるが、「医師確保」は共通の課題


人口10万対医師数(H16)のグラフ



参加者の意識・意見等(2)

自治体独自の医師確保対策

自治体独自の医師確保対策のグラフ



参加者の意識・意見等(3)

自治体立病院での取組み

院内保育で医師の子はのグラフ 「週40時間で宿日直なしで正職員」の採用可否のグラフ
確保困難or過酷勤務の診療科の医師確保のための手当支給
→ なし
↓
医師の確保対策、子育て支援等の就労環境整備は十分ではない
(地方公務員法のもとでの制約もある)



参加者の意識・意見等(4)

医療機関・診療機能の再編・集約化

公立・公的病院の再編集約化の具体的動きのグラフ 都道府県医療協議会による集約化調整や医師確保のグラフ

困難な理由
○供給元である大学にそもそも医師がいない。
○派遣元の大学が県外である。
○出身医局の異なる医師を移動させることが困難。
○集約化に、地元住民、地元自治体等の理解が得られない。
○病院の経営戦略と相容れない。
○県を超えた移動を促す仕組みが必要。
○話し合いによる解決は困難。何らかの規制、または奨励策が必要。



参加者の意識・意見等(4)

自治医科大学のあり方

今後のへき地医師確保策の中心はどちらかといえば、の図 定員についての考え方の図

○自治医大の役割および教育内容への期待は依然として高い。今後とも、総合医養成のための質の高い教育に期待している。
○へき地等に勤務する医師の確保のため、自治医科大学の入学者数を一定期間増加させることを求める意見が多い(定員120人程度、時限、ただし負担金増加はなし)

○年限終了後の定着のためには、
大学のサポートとともに、
各自治体においても、県内で「後期研修」を実施できる体制の整備、計画的なキャリア形成支援、総合医としての勤務や、へき地等医師不足地域での勤務が継続しやすい環境の整備等の努力が必要



国への主な要望内容

地域格差の是正
診療所の管理者となる要件に医師不足地域における一定期間の診療経験を付加するなど、医師のへき地等勤務を促進する具体的方策の検討
学会専門医の認定にあたり、学会指定施設以外の地域病院等での診療経験を配慮するよう学会へ働きかけ
自治医科大学の入学定員の増員
自治体の医師不足対策への交付税措置
診療科偏在の是正
産科・小児科等の診療報酬引上げ
学会専門医の数のバランス考慮を学会へ働きかけ
その他
女性医師の就業支援
医籍の適切な管理と正確な医師データベース構築
2006年1月の医療部会において、「病院・診療所の開設者となる要件として、僻地、救急等の経験義務化」を検討→法制化は見送り

全国知事会自治医大運営小委に、作業部会設置

18年4月改定において配慮



(2) 茨城県における現状と取組み

診療従事医師数、人口10万対、16年の図
○人口10万対医師数は全国下から2番目。全国平均以上はつくば医療圏のみ。300万県民に医育機関が1つしかなく、新設なのが原因の一つ。

○中小都市が散在しており、多くの住民が医師不足地域に居住。一方、僻地は少ない。

○歴史的に複数の他都県の大学から医師が供給されてきた。引き揚げの影響を受けやすく、集約等の調整が困難。

○地域の中核的な公立・公的病院で、引揚げ、開業退職等の影響が深刻。開業医高齢化。



周産期医療体制の課題(茨城県)

医療機関
大学の引揚げ、医師の退職等により、総合病院の産科閉鎖相次ぐ(●)
  厚生連A病院(分娩数約100)
市町村立B病院(160)
県立C病院(470)
済生会D病院(150)
市立E病院(270)
国立F病院(120)
・総合周産期センター()と、産婦人科単科病院・診療所の二極化、二次医療機関の激減
図
医師
産婦人科医の状況>
分娩取扱いは産婦人科医の65%
分娩取扱いありとなしの比較
分娩当直 11.2回/月 vs 0
オンコール 11.9回/月 vs 3.4
勤務環境に不満48.3% vs 19.1
分娩取扱い医師の今後の継続意向
あり36.8%、条件による 33.3%、
なし17.2%

・すでに集約化が進行している。利用者からはアクセス面の不満。
・総合周産期センターの負担軽減が課題
 → 診療所等との地域連携を協議
・産婦人科医数の増加、病院への定着が実現できなければ、現体制の維持は困難。



小児救急医療体制の課題(茨城県)

体制
・拠点病院方式(3病院)または輪番制(4地域)により、県内の一部地域を除き、二次体制を確保。

・拠点病院では、近隣医師会の協力も得て、救急診療を実施。
図
診療状況
拠点病院(365日24時間対応)の例
  常勤小児科医師(救急従事)10名
地元等医師会8名が準夜帯に参加
患者数(平均) 休日 40名
夜間 37名
輪番病院(週2〜3日対応)の例
  救急従事小児科医師4名
患者数(平均) 休日 68名
夜間 28名

・すでに集約化が進行。
・夜間・休日の受診患者は増加。利用者は一次窓口ではなく、専門医のいる病院を選ぶ傾向。
・小児科医数の増加がなければ、現体制の維持も困難。



茨城県の医師確保総合対策事業 18年度予算額:51,834千円

図



(3) 本検討会の検討事項への私見(1)

県レベルで実施していること
・医学部進学者増加対策
・県内医学部生及び県出身医学生に対する定着働きかけ(県内枠、奨学金)
・臨床研修医の確保対策
・後期研修医の確保対策
・県内医学部と県内病院の調整
・県の人事で配置可能な医師の確保

県内の関係者間の調整
僻地・離島等医師の確保(少数)
都道府県間の競争
→
県レベル調整の限界

・医学部(特に国公立)定員の都道府県格差は改善されない
・他県にある医学部との調整は困難
・都道府県間競争の過熱懸念







都道府県偏在の調整、診療科偏在の調整は、国レベルでしか実現できない



 本検討会の検討事項への私見(2)

問題の焦点: 地方都市の中核的病院における医師不足

奨励的手法
・医師の病院離れ、外科系や小児科等勤務の過酷な診療科を避ける傾向の背景には、診療能力や負担に見合った評価・処遇が得られないとの認識。これを改善する必要があるのではないか。
・ただし勤務地選択には、生活環境・子どもの教育等、医療制度外の要素が大きく、奨励的措置では限界があるのではないか。
規制的手法
・医師の養成数は限定され、多額の国費が投入されている。
・一方、診療科や勤務地、開業等の選択は、個人の自由に委ねられている。
・診療科や専門領域ごとの適正医師数を考慮した養成(専門医の定員設定)を行うことが必要ではないか。
・勤務地選択、開業について、規制的な措置が必要ではないか。
医師の業務の見直し
・医療安全対策等の推進に伴い、医師の管理的業務が増加(特に病院)。
・これが医師の診療時間減少、医師の病院離れを助長。
・医療に関する責任を、関係職種と分担する制度への転換が必要ではないか。
医学部(特に国公立)への入学機会の格差の改善
・都道府県別に入学定員の格差があり、実際の入学者にも格差があるものと推定。
・地域枠は必ずしも格差改善につながらない。
・医師不足地域の入学定員増を考えるべきではないか。



全国衛生部長会が平成17年12月に作成し、各方面に提出した要望書

医師確保対策の推進について

 少子高齢化の進展、医療ニーズの多様化など我が国の医療を取り巻く環境は大きく変化してきており、医師の業務が複雑化する中、医師の地域や診療科の偏在、開業志向による病院勤務医の不足など、地域医療を支える医師不足が顕在化し、平成16年4月から始まった初期臨床研修の必修化などをきっかけにこの問題はますます深刻となり、今や全国的に大きな課題となっている。
 また、医師の診療科偏在が一層顕著になってきており、とりわけ、産科・小児科などの特定診療科における医師不足が深刻な状況にあり、診療体制の維持が困難な地域も出てきている。
 このような状況を打開するため、各自治体では修学資金貸与やドクターバンクなどの様々な方策により医師確保対策に努めているが、各自治体独自の対策には限界があり、国における抜本的な対策が求められる。
 こうした中、国においても、「医師の需給に関する検討会」や「へき地保健医療対策検討会」等の場で医師確保対策の検討を進め、本年7月には「へき地保健医療対策検討会報告書」及び8月には「医師確保総合対策」が取りまとめられた。
 今後は、平成18年度の医療制度構造改革に向け、施策の具体化が予定されているところであるが、国においては、地域の実情を充分に理解の上、地域の意見を充分に反映し、地域偏在、診療科偏在を解消するため速やかに、法改正を含めた抜本的な実効性のある具体的対策に取り組むよう下記の事項を全国衛生部長会として強く求める。



1. 地域格差の是正関係
(1) 診療所の管理者となる要件に医師不足地域における一定期間の診療経験を付加するなど、医師のへき地等勤務を促進する具体的方策を検討すること。

(2) 学会の専門医の認定にあたり、学会の指定する教育病院から地域病院やへき地等診療所に出て診療支援を行ったことについて、特別に配慮することを関係学会に働きかけること。

(3) へき地医療を担う医師をひとりでも多く養成するため、自治医科大学の入学定員の増員を図ること。

(4) 大学の卒前・卒後教育の各段階で、へき地勤務等の地域医療を志向する医師を養成する仕組みづくりを行うこと。

(5) 臨床研修制度の導入による影響を検証し、へき地勤務医師等の確保につながる臨床研修カリキュラムを整備するなどの制度の改善を図ること。

(6) へき地の診療所に勤務する医師や医師不足地域の中核病院の専門医への調整手当や研修費の支給、医学生への修学資金貸与に関する減免措置など各自治体が行う医師確保対策に対して交付税措置を行うこと。

2. 診療科偏在の是正関係
(1) 現在、不足が問題となっている産科や小児科などの診療科の医師確保を図るため、病院におけるこれらの領域の診療報酬の引き上げなどの措置を講ずること。

(2) 学会の専門医の認定にあたり、比較的専門医数の多い診療科については、その養成数に関して他科とのバランスを考慮することを関係学会に働きかけること。

3. その他の事項
(1) 今後ますます増加が見込まれる女性医師が継続して働くことができるよう、産休・育休時などに対応する代替医師の確保や再就業支援など就業環境の整備のために必要な措置を講ずること。

(2) 医籍を適切に管理した上で、正確な医師データベースを構築すること。


  平成17年12月16日


全国衛生部長会

 会長 納谷 敦夫

トップへ