06/02/02 石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会 第5回議事録 第5回 石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会 1 開催日時及び場所  開催日時:平成18年2月2日(木) 午後5時30分から午後7時30分まで  開催場所:中央合同庁舎第5号館環境省第1会議室 2 出席者  医学専門家:井内康輝、岸本卓巳、神山宣彦、        三浦溥太郎、森永謙二  厚生労働省:森山寛、明治俊平、只野祐、天野敬他  環 境 省:滝澤秀次郎、俵木登美子、天本健司他 3 議事内容 ○水・大気環境局総務課長補佐(天本)  ただいまから、第5回「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会」を開 催いたします。本日は、審良先生はご欠席で、井内委員は若干遅れるとの連絡をいただ いております。本日ご参集いただきました皆様におかれましては、大変お忙しい中をお 集まりいただきましたことを感謝申し上げます。以後の進行は森永座長にお願いいたし ます。 ○森永座長   本日で最終回になりましたが、まず、事務局から配布資料の確認をお願いいたします。 ○水・大気環境局総務課長補佐  資料1は、第4回検討会についてのメモです。これまでと同様、前回、つまり第4回 の検討会について事務局でメモを作成しました。資料2は「石綿による健康被害に係る 医学的判断に関する考え方(案)」です。資料3は、Paul Wilkinsonによる、肺がんに 関しての研究報告書です。あと、机上に参考資料を置いております。 ○森永座長  前回の検討会の議論のまとめを、前回同様事務局からお願いいたしますが、本日は時 間もありませんので四角で囲んだところの説明だけをしてください。 ○保健業務室長(俵木)  資料1「第4回検討会についてのメモ」です。前回は、その前にありました第3回の 肺がんの議論に一部追加の議論が初めにありました。肺がん発症リスクが2倍となる指 標について、石綿肺の所見による指標についての議論がありました。労働歴を伴って診 断される石綿肺が1型以上があれば、肺がん発症リスクが2倍以上といえるということ です。  事務局の不手際で、次の1行にある、「Roggliらによると、石綿肺は1g乾燥肺当た り2.5万本」となっておりますけれども、「25万本」の間違いですので訂正をお願いい たします。  「II石綿肺について」です。「1石綿ばく露との関係について」です。石綿肺は代表的 な職業病であり、一般環境ばく露における発症の報告例はない。  「2石綿肺の診断について」です。石綿肺の診断は、石綿ばく露作業歴の確認と、じ ん肺法に定められる一定の肺線維化所見に基づいて行われるものであって、石綿ばく露 歴の客観的な情報がなければ、他の原因による肺線維症と区別して石綿肺と診断するこ とは難しい。  「3潜伏期間」です。ばく露後すぐ発症するというものではなく、ばく露から10年以 上経過して所見が現れる。  「4重篤度・予後について」です。進行した石綿肺においては、肺機能の著しい低下 等日常生活上の支障が生ずるが、肺がん・中皮腫と比べ予後不良とまでは言えない。  「III良性石綿胸水について」です。「1石綿ばく露との関係について」です。一般に石 綿ばく露量が多いほど発症率が高いが、一般環境ばく露における発症例の報告はない。  「2診断について」です。胸水は石綿以外のさまざまな原因があり、石綿ばく露歴の 客観的な情報がなければ、他の原因による胸水と区別して、良性石綿胸水と診断するこ とは非常に難しい。良性石綿胸水の診断は困難で、確定診断までに相当時間を要する。 中皮腫を除外して診断するために必要な期間は、概ね1年程度が妥当である。  「3潜伏期間について」です。潜伏期間は、他の石綿関連疾患より短く、文献上では 平均12年から30年である。20年までに出現することが多い。  「4予後について」です。胸水の持続期間は3カ月程度であり、一部胸水貯留が遷延 し、肺機能障害を来す場合があるが、約半数の例において本人が気づかないまま自然消 失するなど、肺がん・中皮腫に比べ予後不良とはいえない。  「IVびまん性胸膜肥厚について」です。「1石綿ばく露との関係について」です。石綿 肺が認められるもの、良性石綿胸水が先行病変として認められる者に多く発生している。 一般環境における発症例の報告はない。  「2診断について」です。石綿以外のさまざまな原因があり、石綿ばく露歴の客観的 な情報がなければ、他の原因によるびまん性胸膜肥厚と区別して、石綿によるびまん性 胸膜肥厚であると判断することは難しい。びまん性胸膜肥厚のイギリスの労災補償の具 体的な基準として、肥厚の厚さや広がりの範囲などがあるが、それらは参考にできるも のである。  「3潜伏期間について」です。潜伏期間は、良性石綿胸水とほぼ同じである。胸水発 症後2から3年で発症する。  「4予後について」です。病態の進行はじん肺症と同様に徐々に進行する経過を辿る など、肺がん・中皮腫に比べ予後不良とはいえない。  「IVその他」です。円形無気肺、その他石綿が疑われる疾患についての議論がありま した。以上です。 ○森永座長  「肺がんについての追加議論」のところはよろしいですか。Roggliらの例は誤解を与 えかねませんけれども、これは病理診断で石綿肺と認められた事例だと思います。2番 目のWilkinsonはレントゲンで石綿肺所見が認められるもので、ちょっと違いますので、 この辺は誤解のないようにお願いいたします。  2番目の「石綿肺について」も、これで大体よろしいでしょうか。 (特に発言なし) ○森永座長  「III良性石綿胸水について」は、あまりたくさんの知見がないのが現状です。胸水が 貯留する原因はいろいろあるわけですので、具体的な療養の目安を臨床的に一律に決め られるものかどうか、臨床の先生方いかがですか。 ○三浦委員  臨床的には、原因不明の胸水を診たときに、その1つの選択肢として良性石綿胸水を 念頭に置いて診療しています。ただ、すぐには診断できませんので、半年、1年と経っ てから、実際には1年以上経ってから診断がつくわけです。その間に患者は良くなって 一旦は退院することがあります。胸水というのはいろいろな原因がありますので、いま の日本の現状では逆に原因不明の胸水を診たら、職業歴まで掘り下げて聞くと、昔こん な仕事をしていたということがわかってくる、ということがいまだにあります。ただ、 私の経験ではすべての症例において、ばく露期間は短くても、かなり高濃度なばく露を している方に多かったと記憶しています。 ○岸本委員  私も、三浦委員の意見と全く一緒です。良性石綿胸水の場合、胸水が血性になります。 血性でない場合のほうがむしろ少ない、ということも1つの特徴であります。前回申し ましたように、同じ人が4年間に3回起こしても、最初のときは非常に重症で、右胸郭 の肺の容積が3分の1になるぐらい胸水が溜まってくることがありました。1カ月以上 入院しなければならなかった。発熱もあり、胸痛や呼吸困難もありましたが、ステロイ ド剤で一時軽快しました。  2度目に溜まったときは、1回目ほど症状はきつくなかったのですが、やはり2、3 週間は療養が必要でした。3回目は左に溜まってきたのですけれども、外来へ通院する だけでよかったということで、同じ人が起こしても、3度とも症状も入院の必要性も違 うということです。画一的にどのような療養がされて、どのようなフォローアップがさ れるかというのは難しいと思います。個別事案として考えていかなければいけないだろ うと思っています。  ただ、悪性胸膜中皮腫との診断が非常に難しいということは、最近私も痛切に感じて おります。アスベストばく露があって、胸膜プラークがあるような方が、胸水が血性だ と、胸膜中皮腫も疑うのですが、画像上腫瘍性の胸膜肥厚がない場合には、良性石綿胸 水と診断してもいいと思います。症状も軽いし、痛みも訴えていないしということでフ ォローアップしていると、突然中皮腫が出てくることがあります。  中皮腫は、非常に予後の悪い、早期診断の難しい疾患であります。良性石綿胸水と中 皮腫との鑑別が非常に問題となるために、良性石綿胸水を疑った場合には、早期に胸腔 鏡検査をやるべきではないかと最近は思っています。それぐらい診断が難しい場合があ るということだけ付け加えさせていただきます。 ○森永座長  1982年に診断基準の案が出されているわけですが、日本で良性石綿胸水の事例の報告 というのは学会でもあまりないですね。 ○岸本委員  データをまとめて出しているのは、1990年の田村先生と、1998年の私のデータが複数 の症例を検討したデータで論文になっているぐらいです。1例報告というのは日本でも あるのですが、まとめた報告はありません。Eplerらの1982年の論文がいつも引用され るのは、疫学的にあるグループをフォローアップしていて、良性石綿胸水になった例が これぐらいあったというのは、Epler以降はないと思います。症例を集めたらこうだっ た、というのは最近海外でも出ています。三浦委員がおっしゃられましたように、低濃 度ばく露、つまり胸膜プラークが出る程度のばく露では出てこない、というのが私の17 例の検討でもそうでした。私の診た例は、平均27年の石綿ばく露があって、潜伏期間は 34.5年ということで、中皮腫とそれほど変わらなかったという結果です。 ○森永座長  これは、後のびまん性胸膜肥厚とも同じなのですが、どちらかというと石綿肺の患者 にはときどき胸水が溜まるようなことは比較的経験する話で、私も恩師の瀬良先生から そういうことは教わっていました。石綿肺がない、単独の石綿関連疾患という概念が確 立したのはそれほど昔のことではないですね。  平成15年度の労災認定基準の検討会のときに、少なくとも胸水が引かないような事例 というのは、引かなくて肺機能に障害があるという事例については療養の対象にすべき だという考え方で報告書をまとめていたわけです。それ以後、学会で報告例が出てきて いるという状況ではないです。むしろ、臨床の先生が気づいていないほうが現実でしょ うね。  平成15年度のときの議論で、良性石綿胸水は全て本省協議という形にしておりました けれども、およそ2年経っていて、それから何かものすごく新しい具体的な知見が得ら れたという状況ではないと私どもは考えますので、もう少し個々の事例について臨床の 先生からも、胸水が溜まる事例についてはいろいろなバリエーションがあるから、本省 協議という形で対応しないと仕方がないのではないかと思います。私どもは、そういう 形でまとめていきたいと思いますが、事務局のほうはよろしいですか。 ○神山委員  「2診断について」というところの箱の中(まとめの部分)はいいのですが、次の最 初の項目の、いま議論していたほかの疾患の中に胸膜中皮腫が入っています。文章的な 話ですけれども、これは誤解を招くので除外しておいたほうがいいのではないですか。 「石綿以外に」という枕詞があって、「胸膜中皮腫などの他の疾患が原因」という表現は 混乱します。 ○森永座長  胸膜中皮腫は、石綿で起こりますからそうですね。 ○神山委員  ほかに、もう1つ、2つ追加で入れておいていただければと思います。 ○森永座長  実際に臨床の場では、良性石綿胸水なのか、中皮腫による胸水なのかはなかなか難し いということですね。 ○神山委員  そうです。2番目の項目のところに「1年程度が妥当である」というのは、「時間を置 かなければいけない」というのもそうなのでしょうけれども。 ○森永座長  事務局のほうのメモとしては、ここに胸膜中皮腫が入ると、胸膜中皮腫も石綿以外と いうことになりますので、そこは修正します。次は、「IVびまん性胸膜肥厚について」で す。 ○三浦委員  いちばん最初の四角(まとめの部分)の中の「石綿肺が認められる者に多く発生して いる」というのは確かにそのとおりなのですけれども、かなり誤解を与えます。びまん 性胸膜肥厚の、特にヨーロッパでの検討はほとんどすべて石綿肺がないか、あっても軽 微です。石綿肺によって肺機能の低下を来すことはないのですけれども、胸膜の肥厚に よってそういうこと(肺機能の低下)が起きてくるというのが、最初の研究の発端にな っています。  「高濃度ばく露者にどちらかというと多い」というのは間違ってはいないのですけれ ども、ここでこう書いてしまうと、やはり誤解を生じかねません。先行病変の半分以上 が良性石綿胸水であるのはそのとおりなのですけれども、石綿肺が先行するのは1割以 下ということになっています。むしろこの疾患は、石綿肺の所見が乏しい人で、胸膜の 肥厚があって、次第に肺機能が低下し、著しい肺機能障害を来すというところが、この 疾患を取り上げなければいけないところです。  石綿肺があれば、それだけでも健康管理手帳が交付されますし、肺機能低下が起これ ば石綿肺があるということプラス、胸膜の癒着肥厚による肺機能低下で補償が受けられ ますので、ここではあまりこれを強調しないほうがいいということをいまは考えていま す。 ○岸本委員  私も、三浦委員の意見に全く賛成です。平成15年のときに15例を検討したときも、 石綿肺はほとんどない症例を15例検討しました。やはり石綿肺があって著しい肺機能障 害が起こってくれば、F(++)としてじん肺法で救われるのですが、石綿肺というじん 肺がない方を救ってあげるために、イギリスでもそういう意味合いが強いのですが、そ この文言をちょっと検討していただければと思います。 ○森永座長  これは、枠の外の次の頁の3番目の項目の話ですね。つまり、石綿肺を発症しないけ れども、胸膜プラークを発症するよりは少し多いばく露量でおそらく発症するだろうと いうニュアンスのことで理解してください。一応メモですので、細かい言葉の厳密なこ とについて本日は検討しませんけれども、いちばん大事なポイントは、石綿肺を合併し なくても石綿による胸膜肥厚がありますということですね。  イギリスでは、具体的に認定の基準が出されているわけですけれども、イギリスと日 本では労災の認定の考え方がだいぶ違うわけです。イギリスは、その程度に応じた障害 の部分について補償するということですから、非常に細かいグレードに分かれています。 日本では、そういう考え方をとっていないわけです。これも平成15年度の報告書のとき に「著しい肺機能障害がある場合には」という形で、著しい肺機能障害等に対して適切 な療養が必要な事例については考慮すべきだというような形でまとめさせていただいて います。  認定基準といった場合に、従事年数を考えるのがいままでのやり方でしたので、そう いう形で考えた場合に、何年以上という形で提案させていただいたらいいかということ です。前回集めたときの検討事例を言うと、32頁の表10に、大体ばく露年数は平均で いくと25年、中央値でいくと28年、最小値でいくと3年、最大値でいくと45年という ことですので、3年以上のばく露というところで一応線を引いて、それ以外の場合はま た協議をするということで、3年という線でみたらどうでしょうか。臨床の先生方もそ ういう形でよろしいですね。 ○三浦委員  3年でも、高濃度ばく露というのは実際にありますから、このデータを尊重するとい う形でいいのではないかと思います。 ○森永座長  「びまん性胸膜肥厚について」は、そういう形で最終的にまとめていくことにします。 最後の「IVその他」のところですが、「円形無気肺」については特に自覚症状もないので、 特に改めて独立の石綿関連疾患として労災の対象にするという考え方でなくてもよろし いですね。 ○岸本委員  はい。 ○森永座長  しかし、ここに「経過観察」ということを謳っていますからどうでしょうか、臨床的 には何か別の手立てを考えるほうがいいのではないですか。 ○岸本委員  この間の検討会でも申し上げたのですが、円形無気肺をフォローアップ中に中皮腫が 発生したという論文が出ています。円形無気肺も、中等度以上のばく露で起こってくる アスベストの関連疾患ですから、何らかの形でフォローアップが必要だと思いますので、 胸膜プラークと同様の形で健康管理手帳等で経過観察をしていったほうがいいのではな いかと思います。 ○森永座長  三浦委員はどうですか。 ○三浦委員  同じです。 ○森永座長  それは、円形無気肺だけに限らないのではないですか。 ○岸本委員  そうです、胸膜疾患すべてです。 ○森永座長  ここは、健康管理手帳のことを検討する場ではありませんが、一応そういうのが望ま しいと本委員会のメンバーとしては考えるということです。その他の部位のがんについ てですが、ヨーロッパの中では過去これまで喉頭がんも労災の対象の疾患に含めている 国もいくつかあります。我が国では、一度そういう事案があって個別に検討したことが あります。その後、そういう事例はいまのところ上がってきていないので、検討するよ うな状況にいまのところなっていないわけです。認定基準に書かれていないがんについ ては何か問題が出てくれば、その都度協議をして対応するというスタンスで従来どおり きていますので、ほかの部位のがんについても、従来どおりの対応で考えていきたいと いうことでよろしいですね。それでは、前回のまとめのメモについての議論はこれで終 わります。  資料2「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する考え方(案)」は、委員の先生 方に協力していただいて、それぞれ関係するところをまとめていただいたものです。こ れをたたき台に検討したいと思います。先生方にご尽力いただいて、かなり分厚いもの になっております。時間があまりありませんので、まとめのところを議論し、関係する 本文についてはその都度戻るというやり方で、まとめをきちんと議論していきたいと思 います。事務局から、まとめを疾患ごとに読み上げていただき、疾患ごとに議論すると いう形で進めたいと思います。 ○保健業務室長  資料2の考え方案の25頁にまとめがあります。1の中皮腫について読み上げます。 (1)中皮腫はそのほとんどが石綿に起因するものと考えられる。(2)中皮腫は診断が 重要であり、原則として病理組織学的検査による確定診断が行われることが望ましい。 中皮腫の診断の確からしさが担保されれば、石綿を原因とするものと考えられる。(3) 職業ばく露によるものとみなせるのは、概ね1年以上の石綿ばく露作業従事歴が認めら れた場合である。ただし、ばく露状況によっては1年より短い石綿ばく露作業歴での発 症も否定し得ない。(4)近隣ばく露や家庭内ばく露による発症も考えられる。(5)中 皮腫は、ばく露開始から発症までが40年前後の潜伏期間の非常に長い疾患であることか ら、30歳以下の症例については慎重に評価するべきである。(6)中皮腫は予後の非常 に悪い疾患である。 ○森永座長  このまとめについて、委員の先生方のご意見、あるいは事務局から意見がありますか。 ○神山委員  全体に共通するのかもしれませんが、本文の5頁の確定診断のいちばん最後のところ に、「病理医、臨床医、疫学者による中皮腫パネル(症例検討会)を開いて診断を確定し ていくことが望まれる」という当然のことが書いてあります。石綿肺がんも胸膜プラー ク、あるいは肺線維症の確認をあるレベルでできるようなマニュアル的なものも必要か もしれません。中を見ますと、「石綿小体等はあるレベルでの計数が必要である」という のは入っているので、それらは全部共通する項目だろうと思いますので、本検討会とし ては、確定するところでいまの現状を必ずしも十分どれも行われていない状況から、ま とめのところで1つ起こしたほうがいいのではないかと思うのですがどうなのでしょう か。もし入れるのであれば、中皮腫のところ、肺がんのところ等に、小さい項目として、 今後の希望として、委員会が今後きちんとした確定をしていけるような、援助をするよ うなことを望むでもいいです。要するに、いまの現状がどうなのかというところはよく わかりませんけれども、いままでこの検討会で議論している中でちらほらは入っていま すけれども、まとめの中にはそれが入っていないような気がするのです。 ○森永座長  それは、一通り議論を済ませてからもう一度検討するという形で議事を進めたいと思 います。 ○神山委員  それでもいいです。 ○森永座長  5番は「30歳以下の症例について慎重に評価すべきである」という言い方になってい ますが、本文の7頁のいちばん下の段落では、「ばく露開始から発症までの期間について は各研究が指摘しているように、中皮腫は最初のばく露から30年から40年以上かかっ て発病することから、職業ばく露由来か否かを明らかにするためには、職業歴、居住歴 を詳細に確認する必要がある。また、30歳以下の若年発症例については、居住歴と潜伏 期間も考慮に入れた石綿ばく露の可能性及び中皮腫の診断精度を確認する必要がある」 という意味での「慎重に評価」と理解していただいたらいいと思います。  いま、まとめのところだけ読み合わせできちんとやっていますが、その前の本文のと ころでも何かお気づきの点がありましたら、いまここでご意見を出してください。 (特に発言なし) ○森永座長  中皮腫はこのくらいにして、次は肺がんをお願いいたします。 ○保健業務室長  「2肺がんについて」です。(1)肺がんは、喫煙をはじめとしてさまざまな原因が指 摘されている中で、石綿を原因とするものとみなせるのは、肺がんの発症リスクを2倍 以上に高める量の石綿ばく露があった場合とするのが妥当である。(2)肺がんの発症リ スクを2倍以上にする石綿のばく露量は、累積石綿ばく露量25本/ml×年以上と考えら れる。(3)肺がん発症リスクが2倍以上又は累積石綿ばく露量が25本/ml×年以上を 判断するばく露量の医学的指標としては、胸膜プラーク画像所見等による指標及び肺内 蓄積石綿繊維数又は石綿小体数による指標があり、職業ばく露歴に関連した指標として は石綿肺の所見による指標及び石綿ばく露作業従事期間等による指標がある。(4)職業 ばく露歴が不明な場合の胸膜プラーク画像所見等を指標とする考え方については、胸部 エックス線写真の像又はCT画像より、明らかな胸膜プラークが認められ、かつ、じん 肺法に定める胸部エックス線写真の像で第1型以上(PR区分1/0以上)と同様の肺線 維化所見があり、胸部CT画像においても肺線維化所見が認められた場合には、肺がん の発症リスクが2倍以上であると判断できる。(5)肺内蓄積石綿繊維数又は石綿小体数 による指標については、乾燥肺重量1g当たり石綿小体5000本以上、又は石綿繊維200 万本以上、これは5μmを超えるものについてですが、また2μを超える石綿繊維であ れば500万本以上、気管支肺胞洗浄液(BALF)1ml当たり石綿小体5本以上が存在 する場合には、25本/ml×年以上の累積ばく露があったと判断できる。  なお、石綿小体、石綿繊維の計測に関する信頼性の高いデータを得るためには、一定 の設備を備え、かつ、トレーニングを受けたスタッフのいる専門の施設で実施する必要 がある。(6)石綿肺の所見による指標については、客観的な石綿ばく露作業従事歴があ る者に、石綿肺の所見が認められた場合には、肺がんリスクが2倍以上であると判断で きる。(7)石綿ばく露作業従事期間による指標については、胸膜プラーク等の石綿ばく 露所見が認められ、石綿ばく露作業に10年以上従事したことが確認された場合には、25 本/ml×年以上の累積ばく露があったとみなすことができる。なお、業種別のばく露量 を採用することは困難であるが、特定化学物質等障害予防規則の規制により、作業環境 測定記録が保存されている場合にはこれも参考にすべきである。(8)石綿による肺がん は、その多くがばく露開始から発症までが30年から40年程度といった潜伏期間の長い 疾患である。(9)肺がんは、一般に予後の非常に悪い疾患である。 ○森永座長  ここは、大変苦労しているところでありますがいかがでしょうか。 ○三浦委員  本題に入る前に、26頁の上から2行目に、「かつ、じん肺法に定める胸部エックス線 写真の像で第1型以上(PR区分1/0以上)」とあります。この括弧内は便宜的に読影す る人たちが言う言葉で、じん肺診査ハンドブックのどこにも書いてないので、括弧内は 外したほうがいいのではないかと思います。 ○岸本委員  そうですね、正しくは「第1型以上」ということだと思います。 ○森永座長  ここは、「型の区分が第1型以上」のように、「型の区分」と入れたほうがいいのでは ないですか。 ○三浦委員  「エックス線写真の像で第1型」ということです。 ○岸本委員  「像で第1型」でいいと思います。 ○三浦委員  「区分で1/0以上」か。 ○岸本委員  そうですね、PRはプロフュージョン・レイツという区分です。 ○三浦委員  ILOのPRと、それから日本のじん肺の管理区分のときにPR0からPR4まであ って、エックス線写真の像としてPR0、PR1、PR2という表現はあるけれども、 PR1/0という表現はないです。 ○岸本委員  そうです。 ○三浦委員  言葉としては、じん肺診査ハンドブックには、エックス線写真の像(区分1/0)とか、 括弧内の区分で出ています。だから、PRというと紛らわしいので、PRという言葉を 外して「区分1/0」のほうがいいですか。 ○岸本委員  「区分1/0」のほうがいいです。 ○三浦委員  「PR」を外していただければいいと思います。 ○岸本委員  PRのRはレイトということですから。 ○職業病認定対策室長(只野)   「区分1/0」でいいですか。 ○三浦委員  はい。じん肺診査ハンドブックがあれば、それにそのように書いていると思います。 ○職業病認定対策室長  我々が普通PR区分と言っているのは通称なのですね。 ○岸本委員  そうです。区分の分というのがレイトです。 ○三浦委員  じん肺法の管理区分のところにPR0、PR1、PR3、PR4というのがあります。 そのときには1/0とかそういうのはないのです。それは、エックス線写真の像を現すも のとして、PR0からPR4まである。石綿肺の場合には、PR0からPR3まであっ て、それはその前のエックス線写真の像第1型に相当するものがPR1、第1型に相当 しないものがPR0という形で表すことになっています。 ○職業病認定対策室長  ここの括弧内を削るということでよろしいでしょうか。 ○三浦委員  そうですね。 ○森永座長  それでは削りましょう。肺がんについては、「石綿が原因であるとみなす考え方」とい うところが非常に議論になったところだと思います。そこのところは、8頁から書いて あるのですが、ここも一応確認しておいたほうがよろしいですか。8頁の下から2行目 の「イギリスの労働機関」ではなくて、「イギリス雇用年金省の機関であるIIAC(労 働傷害諮問会)」ですので直しておいてください。  10頁の下から2行目のRoggliらのことですが、これも「25.3万本」ですね。点が1 つ入っていると思います。この例で、Roggliは病理の先生ですから、病理学的に確認さ れた石綿肺患者だと思います。もう一度確認したほうがいいと思います。たしか、ここ は「病理学的に確認された石綿肺」だと思います。 ○井内委員  これは、253万本でいいのではないですか。2.53×10の6乗みたいな書き方になって いましたね。だから、あれをそのまま素直に書けば、これは253万本でいいのだと思い ます。 ○保健業務室長  2.53百万本と書いてあったのだと思います。 ○森永座長  確認しましょう。11頁の5行目、6行目にも「PR」と書いてありますので、これも 誤解があるので直すべきですね。 ○三浦委員  こちらはILOのほうですから、PR区分がなくていいと思います。 ○岸本委員  PR1/0以上でいいのではないですか。 ○三浦委員  あるいは、ILO区分ですね。 ○岸本委員  そうです。ILO区分PR1/0ですね。 ○森永座長  イギリスは、日本のじん肺法ではないですからね。 ○岸本委員  そうです、ILO区分のPR1/0以上でいいのではないですか。 ○森永座長  ILOスコアではなかったですか。 ○三浦委員  片仮名でスコアです。 ○森永座長  本文の12頁のところは確認したほうがよろしいですか。WHOが出している、IPC Sでわかるのですか。IPCSについて、環境省できちんと決めた日本語訳はないので すか。 ○保健業務室長  確認いたします。 ○森永座長  もし確認しているのなら、どこかに1度は日本語訳を付けるようにしましょう。 ○保健業務室長  はい。 ○森永座長  「Environmental Health Criteria」についても、環境省のほうで「環境保健指針」と いう訳が付けてあったと思うので、それも日本語訳を入れるようにしてください。 ○保健業務室長  はい。 ○森永座長  神山委員にお聞きしますけれども、25頁の(3)の3行目「肺内蓄積石綿繊維数」と いう言い方をしていますけれども、「蓄積」はなくてもいいですね。 ○神山委員  この「蓄積」は、長くなるから要らないでしょうね。 ○森永座長  普通「肺内石綿」でいいですね。 ○神山委員  はい、「肺内石綿繊維数」で。 ○職業病認定対策室長  26頁の(5)にもあります。 ○神山委員  この「蓄積」は省略したほうがわかりやすいです。 ○職業病認定対策室長  本文の10頁、ゴシック体の(2)「肺内蓄積」のところも削ってよろしいですか。 ○神山委員  この表題のところも取ってしまったほうがいいです。 ○森永座長  同様にPRのところは、見直しをしてください。 ○職業病認定対策室長  はい。 ○森永座長  10頁の(2)のところの、石綿小体5,000から15,000というのがありますけれども、い ちばん下限の値をとりあえず採用するほうがいいということで、気管支肺胞洗浄液(B ALF)のほうも5本から15本というのは、ヘルシンキクライテリアであります。いち ばん低い値をとっておいたほうがいいだろうということでの理解でよろしいですね。ヘ ルシンキクライテリアでは幅がありますが。 ○保健業務室長  はい。 ○森永座長  25.3万本か253万本かの確認をお願いします。 ○職業病認定対策室長  はい。 ○三浦委員  直接関係はないのですけれども、肺がん発症リスクが2倍の根拠というのがどこかに ありましたね。 ○職業病認定対策室長  8頁から9頁にかけてです。 ○三浦委員  これは日本の2倍というのと、アメリカ、イギリスで2倍というのとでは大きな違い があると思います。向こうはかなり喫煙量が減ってきていますから、喫煙による肺がん の発症がかなり減ってきています。仮に日本が5倍から10倍だとすると、向こうは3倍 とかに減っていますから、同じ肺がん発症リスク2倍でも向こうは石綿の頻度が高くな る。日本では、石綿で肺がん発症リスク2倍を救う形だけれども、実は喫煙による人が かなり含まれてしまう可能性があります。本検討会で検討するべきことではないのです けれども、特にアスベストによる肺がんを減らす観点からは、禁煙の勧めというのを盛 り込むことができればどこかに1行でも予防という観点で入れておいたらいいと考えま す。 ○岸本委員  職業性石綿ばく露が10年というのが、まとめのところにあります。これは職業性でな かった場合は、家庭内ばく露とか近隣ばく露も10年というような言葉に置き換えること ができるのでしょうか。 ○保健業務室長  職業性の場合には、どのような職種、その作業内容ということから、ある程度のばく 露の程度が想定できるのかと理解しております。一般環境、又はその他家族ばく露であ るという場合には、生活環境濃度としてどのぐらいあったのかということのデータがあ りません。そういう意味で10年というような長さを規定することは難しいのではないか と考えております。浴びていたばく露の濃度がわかりませんので、年数を掛けてもトー タルとしての総累積ばく露量は想定しにくいのではないかと考えております。単純に時 間の長さを規定するのは難しいのではないかと考えておりますがいかがでしょうか。 ○森永座長  そこは12頁の(エ)のところに、「一般環境ばく露と肺がん発症リスク」のところで、 WHOのIPCSの報告では一般環境下での石綿ばく露による肺がんのリスクというの はundetectably lowと言っています。ただ、ドイツのように雪が降っていたような状況 の場合は、高濃度ばく露だった可能性がありますよということを言っているわけであり ます。そうでない場合は、周辺住民の方で10年というのは、25本/ml×年という概念 にはおそらく到達しないだろうという考え方でいいと思います。  ですから、これはあくまで職業上のばく露だとかなりのばく露があったと思われます から、特に規制以前の時代ではかなりの濃度があったと考えていいと思いますので、こ れは環境ばく露と職業ばく露とではかなり違うと思います。2桁以上ぐらいの差がある かわかりませんね、神山委員どうですか。 ○神山委員  岸本先生がおっしゃったのは、家庭内ばく露の濃度ですね。一般環境は座長がおっし ゃるとおりだと思います。2桁、あるいは3桁低いというのはそのとおりだと思います。 家族ばく露のケースの測定例はないと思います。だから、年数を入れるのは不可能だと 思います。 ○森永座長  しかし、職業ばく露以外でも家族ばく露で中皮腫の発症というのはあるということで すか。 ○神山委員  中皮腫はいいとして、家族ばく露で肺がんといったときにあるかどうかということで す。そういう発症例を選り分けられるかどうかということでしょう。例えば、ご主人が 10年以上働いていて、奥さんが肺がんになってというケースを想定されたのではないで すか。 ○岸本委員  そういう事案を持っているものですから、どうなのかなということで質問させていた だきました。 ○神山委員  単純にこれに入れるのは難しいです。 ○岸本委員  そうですね、一般的には高濃度ばく露ではなくて、低濃度ばく露だから、中皮腫はあ っても肺がんはないと考えるべきなのでしょうか。 ○神山委員  一般環境より高いのは、大方の人がみんな想像していますけれども、何本あるいはど のぐらいだという例が1例でもそういうデータがあればある程度の参考になるのですけ れども、ほとんど測定例はないです。 ○岸本委員  ないです。 ○神山委員  もう亡くなったマンウトサナイのニコルソンも、家族内ばく露を最初に報告された人 だと思うのです。かなり高いと口頭では言っていましたけれども、測定データは持って いないということで論文の中に書いていました。 ○岸本委員  私の例だと、実は肺組織も取ってみたのですが、3,500本だったという例があります。 ○神山委員  石綿小体がですね。 ○岸本委員  家庭内ばく露ですが、5,000本までには至らなかったという例が1人ありました。 ○森永座長  タバコは吸ったのですか、吸わなかったのですか。 ○岸本委員  女性の高齢者の方だったのですが、タバコは吸われていなかったということです。 ○森永座長  そういう個別の事例はどう判断するべきでしょうか。 ○岸本委員  やはり本省協議という形になりますかね。 ○森永座長  労災認定の場合は本省協議があるのですが。 ○岸本委員  環境省の場合はないですね。 ○森永座長  環境省にも一応そういうものがあってもいいのかもしれないですね。 ○岸本委員  家庭内ばく露というのは、まず今後はないかもしれませんが、過去にあったことは間 違いないところです。私の診た例など、息子が自分たちの作業着をずっと洗ってくれて いたので、調べてほしいというのがきっかけだったのです。アスベストがこれだけ社会 問題になっているわけですから、家庭内ばく露というのは夫婦間ではなくて、親子間で あれば、今後もないことはないのではないかと思いました。 ○森永座長  パッシブスモーキングの影響もありますから、難しいですよね。 ○職業病認定対策室長  先ほど三浦委員がご発言になった禁煙の勧めみたいなものを、この報告書に書くのは どうかという問題はありますが、もし書くとすれば8頁の、例の「53.24倍になるとし ている」という所に、関連づけることはできるかもしれませんが、本検討会の検討事項 ではありませんので、記載してよいかどうかです。 ○森永座長  実は、神山委員からお話のあったことも含めて、最後に議論したいと思います。  なければ、次に石綿肺のまとめに移ります。それでは26頁の石綿肺についてお願いし ます。 ○保健業務室長  「3石綿肺」についてです。(1)石綿肺は代表的な職業病である。石綿肺の診断は、 石綿ばく露作業歴の確認と、じん肺法に定められる一定の肺線維化所見に基づいて行わ れるものであって、石綿ばく露歴の客観的な情報がなければ、他の原因による肺線維症 と区別して、石綿肺を診断することは難しい。(2)ばく露後すぐ発症するというもので はなく、ばく露から10年以上経過して所見が現れる。(3)じん肺法に定める第1型の 石綿肺は、それだけではほとんど症状もなく、肺機能や生活の質が大きく低下すること はない。一部の症例で徐々に症状が進行し、肺機能の著しい低下等、日常生活上の支障 が生ずるものもあるが、肺がん、中皮腫と異なり、短期間で死に至るような重篤な疾患 ではなく、予後の非常に悪い質患ではない。(4)一般環境下での発症の報告例は、これ までのところないが、さらに知見の収集に努めるべきである。 ○森永座長  「短期間で死に至るような重篤な疾患ではなく」ということで、同じことを繰り返し ていますから、「重篤な疾患ではなく」か、「予後の悪い」のどちらかを削ってください。 ○井内委員  石綿肺は他の原因による肺線維症と区別するのが難しいというのは、臨床的に難しい ということですよね。例えば前回か前々回に発言したように、病理学的に見れば、多少 の特徴はあるわけです。ですから3の(1)は、「石綿ばく露歴の客観的な情報がなけれ ば、臨床的には難しい」となる。つまり、もし肺組織の材料などの所見が得られれば、 そういうことが区別できるかもしれないわけです。その辺はどうでしょうか。 ○森永座長  (1)の4行目に、「区別して、臨床上石綿肺と診断することは難しい」と入れたほう がいいということですか。 ○井内委員  「石綿ばく露歴の客観的な情報がなければ、臨床的に他の原因による肺線維症と区別 して、石綿肺と診断することは難しい」としてはいかがでしょうか。 ○三浦委員  かなり難しいディスカッションのあるところで、病理学的な石綿肺と臨床的に診断す る基準というのは、全くオーバーラップしない(重ならない)のです。 ○井内委員  それはもうディスカッションしたところだと思うのですが。 ○三浦委員  ですから「石綿肺」と言うときには、臨床的な診断基準で判断するというのが普通な のです。 ○森永座長  わかりました。(1)の1行目ですが、「石綿肺の診断は」ではなくて、「石綿肺の臨床 上の診断は」ということでよろしいですか。 ○三浦委員  そういうようにすれば、もう問題はないですね。 ○森永座長  そこへ「臨床上」を入れるべきです。 ○井内委員  いま労災で職業病として扱われる石綿肺はそうだろうけれども、現在の時点で肺の線 維化所見というのは、もう少し広く取ることも可能ですし、多少の病理学的な研究の進 展によって、区別できるのではないかと思うのです。ばく露があるかないかというデー タがなければ、全く区別できないということではなくて、形態像で区別できるものもあ るかもしれないという含みがそこにあってもいいから、それを「臨床的な」という言葉 で入れてはどうかと、そういう意味です。 ○森永座長  じん肺法で言う石綿肺の診断というのは、臨床上の診断ですから、そういう意味でい ちばん上の所に、「石綿肺の臨床上の診断は」というように入れても、おかしくはないで すよね。 ○神山委員  2カ所に入れたらいいのではないですか。最初にも「石綿肺の臨床上の診断は」とし ておいて、いま井内委員がおっしゃったように、最後の4行目にも「臨床的に」と2つ 入れても、別に矛盾はない。井内委員が何か潜在的に強調したいことがそこに盛り込ま れるようになると思います。 ○森永座長  病理の立場を強調されるとそうですが、いちばん上の最初の所だけでいいですよね。  4番の「一般環境下での発症の報告例では、今までのところない」というのは、本文 では15頁のいちばん上、「IPCSの報告では、一般環境下でのばく露によって石綿肺 が発症するということを示す疫学的な証拠はない」ですね。もう1つは3行飛ばして、 一部に胸膜プラークやびまん性胸膜肥厚を合わせて、「胸膜アスベストーシス」と呼称す る人もいるのですが、この「アスベストーシス」という言葉は、肺実質の線維化のみに 用いられる用語なのです。「胸膜アスベストーシス」という用語へのコメントは、アメリ カの「トラチックソサエティ」という胸部疾患のレポートに書いてありますので、これ は用語の言葉として再確認しておいたほうがいいということで、こういう記載を入れて あります。  ほかによろしいでしょうか。なければ次に、良性石綿胸水のまとめに移ります。 ○保健業務室長  「4良性石綿胸水」です。(1)良性石綿胸水についてはその診断が難しく、また時間 もかかる。胸水が認められる症例のうち、他の原因が否定され(除外診断)、明らかな石 綿ばく露作業歴がある場合に、良性石綿胸水と診断できるが、石綿ばく露歴の客観的な 情報がなければ、他の原因による胸水と区別して、良性石綿胸水と診断することは非常 に難しい。Eplerらの基準では、確定診断を下すには3年間の経過観察が必要であった が、画像診断が発達し悪性腫瘍の鑑別が進歩した現在は、概ね1年程度が妥当と考えら れる。(2)潜伏期間は他の石綿関連疾患より短く、文献上では平均12年から30年であ る。20年までに出現することが多い。(3)胸水の持続期間は平均3カ月であり、一部、 胸水貯留が遷延し、肺機能障害を来す場合があるが、約半数の例において、本人が気づ かないまま自然消失する。胸膜中皮腫を合併する可能性もあることから、石綿にばく露 した可能性のある人に認められた胸水については、定期的に検査を行うなど、経過観察 を行うことが望ましい。(4)一般環境における発症例の報告はない。中皮腫、肺がんお よび石綿肺に比べ、既知の疫学的、臨床的知見が少ないので、今後さらに知見の収集に 努めるべきである。 ○森永座長  この良性石綿胸水については、どうでしょうか。 ○岸本委員  Eplerらの1982年のデータでは、潜伏期間が10数年ですよね。これは高濃度ばく露 だから、潜伏期間が短いのではないかと私は思うのです。私が集めた文献によると、す べて20年を越えています。私の例が34年5カ月、田村先生たちが28年7カ月、マッテ ンセンらが26年なので、20年とお書きになっているのです。従来、アスベストばく露 からいちばん早く起こってくる疾患ということで、良性石綿胸水は知られていたのです が、この「20年までに出現することが多い」というのは入れるべきなのでしょうか。こ の辺りがちょっと。私の所では結構、潜伏期間が長い症例が多いものですから。ばく露 量等の関連で、ばく露量が多ければ多いほど早いというのは、中皮腫もその中に入りま すが。 ○森永座長  Eplerの例は過去に遡って全部フィルムを調べて、レトロスペクティブなフォローア ップ調査なのです。実は今のところ、良性石綿胸水についてはこれぐらいしか疫学調査 がないのです。そういうように見てみると、最初から出てくる例も結構あるということ です。臨床から見ると、潜伏期間の長い例が集まってくる。これには、おそらくセレク ションバイアスがあるのです。ですから、ここのところははっきり言ってEpler以外の 疫学調査がないものですから、本当のところはわからない。ただ我々には今のところ、 疫学調査がほかにないので、Eplerはこう言っているということで、それを取り入れる しかないというのが、今の学問的なレベルだという理解でいいと思うのです。  本当の疫学調査というのは、なかなかできていないわけです。これはクボタの工場の 従業員を、全部過去のフィルムまで遡って調べれば、ある程度わかる話ですよね。です から「さらに知見の収集に努めるべきである」というのは、本当はそういうことをやら なければいけないということになると思います。  ほかにはよろしいでしょうか。では5のびまん性胸膜肥厚に移ります。 ○保健業務室長  「5びまん性胸膜肥厚」です。(1)石綿肺が認められる者、良性石綿胸水が先行病変 として認められる者に多く発生しているが、びまん性胸膜肥厚は、石綿以外の原因によ るものもあり、石綿ばく露歴の客観的な情報がなければ、他の原因によるびまん性胸膜 肥厚と区別して、石綿によるびまん性胸膜肥厚であると判断することは難しい。びまん 性胸膜肥厚のうち、他の原因が否定され、明らかな職業ばく露歴がある場合には、石綿 によるびまん性胸膜肥厚と考えてよい。その際のばく露期間の考え方としては、3年以 上の職業による石綿ばく露期間が目安となる。(2)びまん性胸膜肥厚のイギリスの補償 基準は、厚さについて、最も厚い所で5mm以上、広がりにの範囲について、片側の場合 は胸部単純写真で側胸壁の1/2以上、両側の場合は同様に1/4以上の基準を定めて いる。(3)独立した疾患として認識される以前は、じん肺症(石綿肺)の一所見として とらえられており、病態の進行も、じん肺症と同様に徐々に進行する経過をたどる。病 態が進んだ場合、継続的治療が必要となる。その目安としてはじん肺法で定めるところ の著しい肺機能障害と同等に考えるべきである。(4)一般環境における発症例の報告は ない。中皮腫、肺がんおよび石綿肺に比べ、既知の疫学的、臨床的知見が少ないので、 今後さらに知見の収集に努めるべきである。 ○森永座長  びまん性胸膜肥厚については、どうでしょうか。 ○三浦委員  いちばん最初の所ですが、石綿肺が認められる者を強調するのではなくて、逆に石綿 肺所見のない人にも起きるとした方がいいと思います。ただし石綿ばく露がしっかりと わからなければ、診断はできないということですね。 ○岸本委員  そのとおりです。 ○森永座長  前の2行目の前半までは、もう削除したほうがいいですね。ほかに、議論はよろしい でしょうか。なければ、先程、神山委員からご提案のあった話を検討したいと思います。 実は平成15年度の労災認定基準の検討会のときに、報告書の48頁の8番で、「石綿関連 疾患及びその労災補償上の取扱いについて、関係労使のみならず、中皮腫の診断治療に 携わるすべての医療機関及び医療関係者等への周知徹底を図ることが肝要である」とい う形で、まとめをさせていただいているわけです。その後、労災補償のほうとしては、 認定基準を改正し、そのパンフレットを作っていただき、いろいろな機会に周知徹底に 努力していただいていたわけですが、なお一層の周知徹底が要るのではないかというの が、神山委員のご意見ですね。 ○神山委員  中皮腫については岸本委員のご経験からも、診断誤りがあるということもありますし、 じん肺の専門の先生なら、すぐにわかる話なのでしょうけれども、石綿肺がんという非 常に難しい選り分けをする際に、胸膜プラークといった問題もあるでしょうから、誰で もどこでもできる話なのかどうか、という問題が絡んでくるだろうと思うのです。それ はちょうど石綿小体のケースと同じケースだろうという発想で、普及やレベルアップ講 習会、あるいは中皮腫パネルのようなものを今後より一層進めていくことが望ましいと いうようなことを、項立ては別として、この報告書の中のどこかに入れておいたほうが いいのではないかというのが、先ほどご提案させていただいた理由です。 ○森永座長  どうでしょうか。平成15年のときには48頁の8のような形で、一応入れさせていた だいているわけですが、石綿関連疾患についての医療機関、医療従事者への周知徹底と いうのは、ますます必要だということは実感していますね。 ○岸本委員  そうですね。 ○森永座長  どうでしょうか。ここは平成15年のときにも一度、そういう形でまとめの中に挙げて いますが、より一層正しい診断、正しい救済のあり方、補償のあり方の実現のためには、 やはり医療関係者に、もっと知ってもらわなければいけないですよね。 ○職業病認定対策室長  平成15年の改正のときにもパンフレットなり、そういう患者が来たときに、医療関係 者は最低こういうことを聞いてくださいというチェックリストも作って、こういうこと に該当した場合は石綿の可能性もありますから、そのときには患者とちゃんと相談をし て、労災補償の手続なども取るようにということで、だいぶ周知広報はしているつもり だったのですが、残念ながら、当時はまだ社会的にもあまり注目されておりませんでし た。昨年の7月になって、こういうように大きな社会的関心を集めているわけですが、 私どもはこの間、そういった資料も配って、医療従事者に周知広報もしてきたつもりで すし、今回の騒動が起きてからも、いまお手元にあります青色の本(産業保健ハンドブ ック 石綿関連疾患−予防・診断・労災補償−)を、特に内科関係の医師に配付して、 是非これで、石綿関連疾患について正しい理解をしてほしいということはやってきてい るのです。改めていま言ったようなご提言を、本検討会としていただくということは、 それはまた一つ重みが加わることですから。 ○岸本委員  平成15年のときも、この検討会の委員だったのですが、いろいろな講演会へ行っても、 あのときと今とでは聴衆の先生方の関心が全然違うという実感をしております。開業医 の先生をはじめとして、先生方もかなり意識をされているということは、もう間違いな いと思います。この委員会の報告書でそれを入れていただけると、私は反応もいいので はないかと思います。 ○森永座長  まとめのいちばん最後に「石綿関連疾患について」ということで、石綿関連疾患の周 知徹底を医療機関、医療関係者等に図ることが今後重要になる、それと共に石綿肺がん の予防も、禁煙でほとんど防止できるのだということを入れないといけませんね。肺が んについてはタバコが原因の肺がんも救済しているわけではないですから。  肺がんと中皮腫はかなり違うということが、皆さんの議論の中でもわかってきたと思 うのです。ただ、いままでの臨床の先生方は中皮腫はもちろん、石綿との関連もほとん ど認識がなかったし、さらに石綿肺がんなど、もっと考えていなかったわけですから、 併せて石綿関連疾患のときには、胸膜プラークを頭に入れなさい、あるいは病理の所見 があるときには、石綿小体というのをきちんと診てくださいとか、そういうことを一言 入れておいたほうがいいと思うのです。我々としてはそれを入れないと、逆にいくらい い報告書ができても、実際には活用されないということになります。  そうしますと、最終的には座長のほうに一任していただいて、事務局と相談をして、 そういう形で一言入れさせていただくということでよろしいでしょうか。 ○井内委員  全体的に診断の精度向上というのを、是非入れていただきたい。おそらく画像で胸膜 プラークと診断できるかどうかというのが、大きな問題だろうと思われますし、石綿肺 ももちろんそうだろうと思います。私の立場で言えば、病理診断というのが的確に付け られていることが必要であると思います。  考え方の資料の5頁辺りの確定診断の所にも、病理診断は困難だから、検討会をやっ て確定していこうではないかという提言もしてあるわけです。やはりそういう作業が並 行して進まないと、救済制度そのものの信憑性というか、信頼性が失われることにもな りかねません。そちらのほうをこの報告書の中で強調できるのであれば、是非強調して いただきたいと思います。そのことがおそらくインセンティブになって、診断精度向上 のためのさまざまな取組みというのが、継続的に行われていくのではないでしょうか。 もうすでにそれぞれの都道府県単位では行われていると思いますが、それが1年だけで 終わるのではなくて、継続的に行われることが、非常に重要だろうと思っています。是 非お願いをしたいと思います。 ○森永座長  私としても委員の皆様方のご意見を、最終的な報告書の中にはできるだけ反映してい きたいと思います。最後のところは座長と事務局のほうで一任していただければと思い ます。後はこの考え方について、若干の文言の修正をする所はあるかもしれませんが、 もう少しきちんとしたものにしてまとめていきたいと思います。ほかに何か議論はあり ますか。よろしいでしょうか。  短期間で5回という非常にハードなスケジュールでしたが、一応これで検討会を終わ りたいと思います。委員の皆様方には本当に無理難題みたいなところがありましたが、 これも平成15年のときに皆さんと一緒にまとめたから、ここまで何とかできたのだろう と思います。ご協力、どうもありがとうございました。それでは事務局のほうにお返し します。 ○水・大気環境局総務課長補佐  どうも誠にありがとうございました。では環境省、厚生労働省両省を代表して、環境 省の滝澤環境保健部長からご挨拶申し上げます。 ○環境保健部長(滝澤)  先生方におかれましては大変短い期間に、集中的にご検討いただきまして、誠にあり がとうございます。まずもって感謝、御礼申し上げる次第です。  経過はおおよそ先生方もご承知のとおり、昨年の6月末に新聞報道等により、改めて 社会問題化しました。その後、関係閣僚懇談会という形で毎月行い、末には官邸を中心 としたトップダウン方式で、政府の方針を煮詰めてきました。昨年末には新たな救済法 案も含めて、政府としての最終的な方針も煮詰めたわけです。こういうプロセスの中で、 現に新年度あるいは年度内にも救済制度をスタートし、申請を受け付けようというよう な、かなり急いだ、スピード感を持った対応ということがあって、昨年の11月から厚生 労働省と、私どもの新救済制度を担当いたします環境省が、併せてご検討をお願い申し 上げたわけです。今日で5回目ということで、医学的判断に関する考え方をいろいろお まとめいただいたところです。重ね重ね御礼申し上げる次第でございます。  今後のスケジュールめいたことを、追加的にご説明いたしますと、前回も若干触れた のですが、私ども環境省の新制度の指定疾患という関係で、中央環境審議会の環境保健 部会に正式に諮問という形で、ご議論をお願いすることになっております。併せてパブ リックコメントも2月10日以降、然るべき期間に募集聴取することとしております。最 終的には3月の初旬、中旬ごろまでに新制度の指定疾患に関する医学的判断基準という 形で、最終的にまとめていくというプロセスです。目下、年度内にも申請と申し上げま したが、新法の救済法案の審議が目下続行中です。衆議院が先週の金曜日から今週の火 曜日にかけて、委員会を可決成立していただきました。ちょうど明日、参議院の環境委 員会でこの関連法案について、集中的に一括審議をいただくという状況です。そういう 状況で、何とか3月中には制度自体をスタートさせたいと。  先生方にはこれだけ集中的、効率的に、かついろいろなご苦労をおかけしたあげく、 申し上げにくい話なのですが、実際に認定業務というシステムも運用していく中で、い ろいろな意味でご指導、ご助言を賜る、あるいはご専門の先生方をご紹介いただくなど、 私どもも先生方を頼りに、またご相談をする場面がたくさん出てこようかと思います。 時間の許す限り、先生方のいろいろな条件の許す範囲で、ご協力を賜りたいということ も、引き続きご理解、ご協力をお願い申し上げたいと思います。繰り返しになりますが、 本当に短い期間、集中的にご審議をいただき、立派な考え方をおまとめいただいたとい うこと、最後に改めて感謝申し上げて、私からの挨拶といたします。本当にどうもあり がとうございました。 ○水・大気環境局総務課長補佐  それでは、これをもちまして検討会を終了いたします。ありがとうございました。                 【照会先】                  労働基準局労災補償部補償課職業病認定対策室                  職業病認定業務第二係                   TEL03−5253−1111(内線557 1)