06/01/17 第7回投資ファンド等により買収された企業の労使関係に関する研究会の 議事録について 第7回 投資ファンド等により買収された企業の労使関係に関する研究会                  日時 平成18年1月17日(火)                       15:00〜17:00                  場所 厚生労働省5階共用第7会議室 ○西村先生  それでは、時間がまいりましたので、ただいまから第7回「投資ファンド等により買収 された企業の労使関係に関する研究会」を開催いたします。本日は、神作先生、柳川先 生が所用によりご欠席されております。山川先生は少し遅れて来られるようです。  本日の研究会では、まず昨年9月に実施いたしました、アメリカにおける投資ファン ド等により買収された企業の労使関係に関する実態調査についての報告をいただきます 。そのあと、これまでのヒアリング等研究会における議論をまとめたものを事務局に用 意していただいておりますので、それを基に「論点整理」という形で議論をしていただ きたいと思います。  それでは、アメリカでの実態調査について、労働政策研究・研修機構の呉学殊研究員 と立教大学法学部の奥野寿講師から報告をお願いいたします。 ○奥野講師 私からは、米国における労使関係法上の「使用者」の概念についてご報告いたします。 まず、レジュメの「はじめに」ですが、雇用契約上の使用者以外の者が、アメリカ労使 関係法の中核的な立法である全国労働関係法(NLRA)の定める使用者に該当するか 否かを判断する法理として、「単一使用者(single employer)」という法理と「共同使 用者(joint employer)」と呼ばれる法理があります。レジュメでは「分身法理」「承 継法理」について書いてありますが、こちらのほうは従前の雇用関係、労働者を雇用し ていた使用者が消滅した場合に、従前の雇用契約上の労働者について、責任を誰が承継 して負うかという問題で、従前の当事者がすでに消滅をしている場合にかかわる法理で あると区別されております。  したがって、この研究会では、投資ファンド等の団体交渉当事者性に関する調査を主 たる目的としている。すなわち、現に2つの使用者ではないかとされる主体が、並立し て現存しているという状況が念頭に置かれていると考えられます。したがって、分身法 理、承継法理については、そのような法理があるという言及にとどめ、以下では「単一 使用者」「共同使用者」の法理についてご説明したいと思います。  なお、注1を見ますと、これはアメリカ法ではという話で、NLRB(全国労働関係 局)へのインタビュー及び文書による回答をいただいたのですが、それによりますと、 投資ファンド、あるいは持株会社等による株式取得を通じた企業の買収の場合について は、投資ファンド等と被買収企業の両者が統合された事業体と言える。あるいは前者は 、後者の単なる株主にすぎないかという問題である。 これは今からご説明していきますが「共同使用者(joint employer)の法理に関係する 問題とは考え難く、むしろ単一使用者の法理にかかわる問題である」という説明を、あ くまでもアメリカ法の文脈でということで受けています。 あとで申し上げますが、共 同使用者法理については、実際の事例を見ますと、主として業務処理請負の場合につい て、その適用が争われております。以下では、単一使用者法理と共同使用者法理の2つ についてご説明いたしますが、特に単一使用者法理を重点的にお話したいと思います。  二の「単一使用者」法理です。単一使用者法理は、表面上、形式的には互いに独立し て存在する複数の事業体があるとして、それらを単一の統合された事業体として取扱う という法理です。単一使用者と判断された場合には、形式上、他の使用者に雇用されて いる被用者との関係で、別の事業体がNLRA上の使用者であるとされ、団体交渉に応 じる義務などが生じたりします。そのほか、単一使用者とされる使用者の一方と交渉代 表たる労働組合との間で労働協約が締結されている場合は、単一使用者とされる他方の 事業体についても、当該労働契約に拘束されるという効果も生じます。  そのほか、二次的争議行為、二次的ボイコットに関して、中立使用者として二次的争 議行為からの保護を受けることも認められなくなる。一次的な争議行為の当事者である と扱われてしまうという効果も生じる可能性があります。  単一使用者は、どのように判断をするかという判断枠組みですが、レジュメにあると おり、(a)所有の共通性(b)経営の共通性(c)事業運営の相互関係(d)労働関 係の集中的管理の4つの要素を検討して判断するというのがNLRB、そして連邦裁判 所の確立した枠組みです。レジュメでも太字で記し、重視されているのは(d)の要素 です。ただ、(a)〜(d)のいずれかの要素が判断に当たって、どれか1つが決定的 なものとは位置づけられているわけではなく、必ずしもこれら4つの要素すべてが満た されていなければ、単一使用者と認められないわけでもないとされております。  ただし、私が調査したNLRBの命令あるいは連邦裁判所の判決を見る限りは、単一 使用者に当たると肯定される場合については(a)〜(d)いずれの要素についても、 そのような要素が満たされ、備わっていると判断がなされています。  このような4つの要素を考慮して判断するわけですが、よく命令例等で用いられてい る表現ですが、究極的には、当該すべての事情を勘案して、2つの事業体の間に距離を 置いた、それぞれ互いに独立した関係が存在するとは認められない。認められなければ 単一使用者であるとなるわけですが、そのような関係がないか、あるかという形で判断 がなされています。  単一使用者に該当するか否かの判断は、この4つの要素を見ることになっていますが 、最も重視されるのは、この4つの要素のうち、(b)〜(d)で、特に(d)の労働 関係の集中的管理であるとされています。先ほど申し上げたとおり、どれかの要素が満 たされていることのみでは、単一使用者に該当するとの判断にとって決定的であるとは 言えないわけですが、他方でNLRBの命令においては、(d)の要素が単一使用者に 該当すると肯定をするに当たって、欠かせない要素であると述べる者もおりますし、( d)の要素が満たされてない場合には(a)の要素である所有の共通性があるだけでは 単一使用者であると判断するには十分ではないという判断もなされており、そのような ところから、特に(d)の要素が重要な位置づけを与えられていることが分かります。  特に重要な点ですが、単一使用者性が争われる典型的な事例は、親子会社間で、親子 会社が単一使用者に当たるかどうか。あるいは親会社を共通にする子会社間でそれら子 会社あるいは親会社をも含めて単一使用者に該当するかというのが典型例です。このよ うな例では、所有の共通性は比較的容易に認められています。これは所有の共通性が具 体的には株式等の所有関係であることに由来しています。親子会社とか、親会社が共通 である場合には、その資本関係が共通しているということで、(a)の要素については 、通常認められているわけです。  しかし、そのように所有の共通性が認められるという事実は、他方の会社の経営に関 して、これは(b)の要素に関係しますが、経営や(d)の要素に関係する労働関係な どにする管理を及ぼす可能性を示すにすぎないとされております。そのような経営や労 働関係に対する管理を及ぼす可能性のみでは、単一使用者に該当するとは判断できない とされております。  単一使用者に該当すると判断されるためには、一方の会社が他方の会社の日常の事業 運営とか、労働関係について、直訳すると現実的又は積極的な管理となりますが、現実 的に管理を行っていることが必要であるとされています。この点が判断に当たっては重 要な点かと考えられます。  特に報告書の中では、近年のNLRBの命令や裁判例を中心に検討いたしましたが、 近年の判断例では、このような現実的又は積極的な管理がなされていることが必要であ ると説示をする例が多く見受けられます。以上が単一使用者性の判断枠組みに関する一 般的な説明です。いま申し上げた(a)〜(d)の4つの要素について、それらが満た されているか否かを判断するに当たって、具体的にはどのような事情が考慮されている のかに関して、簡単にご説明いたします。 これらは報告書にあるNLRBの命令例あるいは連邦裁判所の判決から分析したもので す。レジュメの3頁以降には資料としてNLRBの命令や裁判例を掲げてありますが、 個別に言及いたしませんが、適宜ご参照いただければと思います。 レジュメについては(b)(c)(d)だけ掲げてありますが、(a)については先ほ ど申し上げたとおり、株式の所有関係等によって判断されております。  (b)経営の共通性という要素ですが、これについては、役員が共通している、一方 の会社の役員が他方の会社の役員を兼ねているという事情や、一方の会社の財務等に関 する決定に、他方の会社が関与している、あるいは財務上の決定に関して、報告を他方 の会社が受けているという事情が考慮の対象とされています。このような事情が存在す る場合には、(b)の要素について、それがあるという肯定的な判断がなされています 。  ただ、一部の役員は共通していたとしても、事業運営の責任を、現に担っている役員 については、それぞれの会社で別個に人員が配置されているという場合には、この要素 は備わっているとは言えない、と判断されている例もあります。  (c)事業運営の相互関係ですが、これについてはそれぞれの会社が事業を運営する に当たって、施設や設備、オフィスなどを共用している、例えば、トラック等の必要な 機材について、一方の会社が他方の会社からリースを受けている関係がある場合、さら には財務や会計業務などを、それぞれの会社の、それぞれの会計業務について一括して 一方の会社の人員が担っているという事情がある場合には、この要素が満たされている という判断がなされています。  最も重要であると先ほど来、申し上げている(d)の要素ですが、これについては、 日々の労務遂行に関する管理監督を行う監督者が共通している。他方の会社の人員がも う一方の会社の労務遂行について監督権限を行使しているという事情、あるいは2つの 会社において労働条件に関する制度が共通している。同じ労働条件の制度の下でそれぞ れ働いているという事情、あるいは一方の会社が、他方の会社の労働組合との交渉に関 与しているという事情などが考慮されており、いま申し上げたような事情が、1つない し複数認められる場合には、労働関係の集中的な管理が行われているという判断がなさ れています。  ちなみに本報告書で紹介している事例については、単一使用者性が肯定される場合に は、(a)〜(d)の要素すべてについて肯定的な判断が下されており、逆に単一使用 者性が否定される場合には、(a)の要素が認められてはいるのですが(b)〜(d) の要素については、すべて否定的に判断がなされている傾向がありました。  単一使用者性が肯定されたのは、2、5、6に掲げてある事例ですが、その事案を全 体として見た場合、複数の会社によって、1つの大きな事業が遂行されていると言うこ とができる事実があります。  2の事例は、B社の発電事業のためにA社が協力をして、全体で発電事業を行ってい たと言い得る事案ですし、5はグループ全体でリハビリ支援事業を行っていたような事 案で、6はグループ全体で石炭の採掘等に関する事業を行っていたと言い得る事案です 。  このように見ますと、一体的な事業遂行のために、経営体制、事業の運営、労務管理 全般について渾然一体で処理を行っている場合には、それに関係する複数の会社につい て対象者であると判断が下されていると見ることができると思われます。2頁ですが、 投資ファンド等により買収された企業にかかる事例の有無に関して調査をしてまいりま した。「このような事例がありますか」という質問を直接してきたわけですが、これま で投資ファンド等の各種ファンドにより買収された企業にかかるNLRBの命令や裁判 例は存在しないようです。これはNLRBとボストンカレッジのトーマス・コーラ先生 に対するヒアリングの結果、「ない」という回答が返ってきております。  また私がこの事例を検索して見た限りでは、このような事例は見つかっておりません 。これはNLRBの回答にあったことです。注2に記してありますが、NLRBは投資 ファンド等により買収された企業にかかる場合については判断例はありませんが、すで にご説明した、単一使用者性の判断と異なる判断をする必要はないと考えているという 説明を受けております。事例6のRockwood Energy and Mineral Corporation事件ですが 、この事件は株式を取得する方法によって企業を買収し、買収された企業が、買収した 企業とともに単一使用者に当たるかどうかが問題となった事例です。ですから、投資フ ァンド等による企業買収に掲げられている事例の中では、いちばん近いかと思われます が、その中の判断は、特にほかの事例と異なった判断がなされているわけではありませ ん。単一使用者法理に関するご説明は以上です。  次に、「共同使用者」法理について、簡単にご説明いたします。これは表面上のみな らず、現実に独立した法的主体として存在する複数の事業体を、いずれもともに法的責 任を主体として取扱う法理と定義されております。  そして、これに該当すると判断された事業体は、他の使用者の雇用する被用者との関 係で団体交渉に応じる義務等を負うことになります。先ほど申し上げたとおり、典型的 な例は業務処理請負にかかる場合です。共同使用者性の判断枠組みですが、現実に独立 した2つの事業体に関する法理ですので、もともと定義上、距離を置いた関係が存在し てない、あるいは所有の共有性、労働関係の管理が共通して行われているという要素は 、その判断に当たっては不要であるとされています。  共同使用者法理で念頭に置かれているのは、ある被用者集団について労使関係法上の 責任主体は誰か、その被用者集団の労働条件等について決定しているのは誰かという観 点です。  このような観点から共同使用者に該当するか否かは2つ以上の主体、ないしはそれ以 上の主体が重要な雇用条件に関する事項を共有し、又は共同で決定しているか否かに基 づいて判断がなされるべきであるとされております。この点が重要な点ですが、このよ うな共同で決定しているか否かに関しては、NLRBの命令例によれば、直接的にその ような事項について決定をしているのでなければならないとされております。  重要な雇用条件に関する事項を共同で決定しているか否かは、具体的に申しますと、 被用者の日々の活動に対する監督、採用・解雇の権限、服務規律や労働条件の作成、仕 事の割当、業務遂行についての指示の発出など日常的な労働関係の管理などに注目して 、それらについて直接的な決定権限を有しているか否かによって決定がなされておりま す。  1つ注意すべき点は、特定の労働条件について決定権限を持っていれば足りるという 考え方ではなく、日常的・全般的にその労働関係について決定権限が直接に及んでいる ことが必要であるとされている点で、その点に注意する必要があるのではないかと考え られます。  以上、「単一使用者」法理、「共同使用者」法理についてご説明いたしました。いず れの法理についても、日常的な労働関係について、現実的あるいは直接的な管理が行わ れていることが重要なポイントです。紹介した事例では、結果的に肯定例と否定例を半 々に掲げることになりましたが、認められる例は、比較的明確に労使関係に介入してお り、労働関係について検討を行っているという事例で、比較的認められている状況は限 定的であると分析することができます。この点については、ボストンカレッジのコーラ 先生からも同様の指摘を受けました。私からの報告は以上です。 ○西村先生  それでは、続いて呉さんにお願いいたします。 ○呉研究員 私がご報告いたしますのは、資料No.1−2「アメリカにおける投資ファンドの使用者性 論」です。実は、投資ファンドなどに買収された企業における労使関係についてご報告 しなければならなかったのですが、被買収企業の調査にさまざまな方法でアクセスして も、最終的には被買収企業を調査することができませんでした。そういう意味で当初、 求められたことができなかったと言わざるを得ないわけです。  しかし、今回、6カ所訪問させていただきましたが、私どもの問題意識で調査をお願 いし、お邪魔した所からは、意外だ、なぜこういうテーマで研究するのかという印象を 受けた覚えがあります。アメリカで投資ファンドなどに買収された被買収企業において 、労使関係上、投資ファンドに使用者性を求めるという事例はあまり見られなかったと いう実態があると思います。  そういう意味で被買収企業の労使関係にアクセスできなかったわけですが、実態とし ては被買収企業で投資ファンドの使用者性が、今まで議論にならなかった、なぜそうだ ったのかという点に絞って、ご報告をさせていただきたいと思います。  調査の対象ですが、先ほどのご報告でも2カ所出ました。ボストンカレッジのトーマ ス・コーラ先生、AFL-CIO、NLRB、Security Industry Association、これは 投資ファンドの業界団体です。またカーライルグループ、KKRの6カ所で、最近、新 聞でもよく目に付きますカーライルグループは、非常に成長している投資ファンド会社 です。  脚注の3ですが、カーライルグループは、いま300名の投資プロフェッショナルを抱え ています。設立は1987年で、今まで396件の案件の投資をしたということで、その金額は 136億ドルに至っています。  脚注の4は、Kohlberg Kravis Robertsという会社です。これがいちばん古い企業の1 つで、カーライルグループより11年前に創立されました。投資プロフェッショナルは60 名ぐらいで少ないのですが、今まで投資した金額を見ますと、1,620億ドルに上っており 、投資案件1つに膨大なお金を投じたと言えると思います。  今回、4つ投資ファンド会社は2つ、業界団体1つ、NLRB、労働組合であるAF L−CIO。コーラ先生に被買収企業で、そこに組織されている労働組合が投資ファン ドに団体交渉上、使用者性を求め、そういうことがなったことがあるかどうかを尋ねた ところ、そのいずれからも、そういうことを見たことはないと言っており、アメリカで はこういう実態がないということが、ヒアリング調査でわかりました。  なぜ投資ファンドの労使関係の使用者性を求めていなかったのか。その背景について 4つに分けて見てみたいと思います。最初に、労働組合の消極的な対応を挙げなければ なりません。主にAFL−CIOでは、投資ファンドの使用者性については、法的なア ピールはしないという方針を持っており、単一使用者性を念頭に置いて語ってくれたと 思いますが、今までの経験から見ると、投資ファンドに使用者性を求めることは勝ち目 がないということで、あえて投資ファンドの使用者性を求める必要はないということで す。  もし求めるのであれば、団交において投資ファンドの使用者性を主張するためには、 投資ファンド会社と買収先企業との区別ができない。また日々の労働者の管理が一体と なっていることを裁判で示さなければならない。具体的に申しますと、労働者の給与簿 が共通であること。コンピューターのソフトウェアの購入の決定や機器の価格設定も、 投資ファンド会社の管理を受けていること。また人事管理の日々の関与、団交の際に投 資ファンドの人が使用者の代表として出ていることなどが挙げられておりますが、100 %使用者性を主張できるようにするためには、企業との団体交渉の席上で、企業が「私 たちには交渉力がない。投資ファンドにその点は問い合わせてみなければならない」と いう発言をしない限りは、100%投資ファンドに団体交渉上の使用者性を求めることは 難しいということで、そういうことを考えますと、今まで投資ファンドなどに買収され た企業が、このような実態を持った会社はないとみなしており、投資ファンドの団体交 渉上の使用者性について法的なアピールをしないという方針を持っております。これが いちばん大きいわけですが、そのほか3つのことが考えられます。1つは、投資ファン ドが企業を買収するときに、被買収企業を選別します。投資ファンドには投資委員会等 があって、被買収企業の検討をして、投資の価値があれば買収をするわけです。そのと きにポジティブな点、ネガティブな点を峻別して、投資先の企業を調べるわけですが、 そのネガティブの要素の1つとして労使関係が安定しているかどうか。安定していなけ れば買収先としては魅力がないということです。もちろん、労使関係が安定していない ということだけで買収から外すわけではなく、全体的に判断して被買収企業を選別する わけで、労使関係が安定していない企業はネガティブ要素として、その点が挙げられ、 買収先から外すことがあります。  実際にCグループ、カーライルグループですが、2004年にエアカナダを買収しようと 検討したそうですが、労使関係があまりにも良くないということで、結局取り止めたそ うです。またアメリカの航空産業も魅力はありますが、労使関係が非常に悪く、買収す る投資ファンドはないと言われました。同じくフォードやGMなども買収するファンド はないだろう。そのぐらい労使関係が安定していない企業は買収しないということで、 投資ファンドなどで買収された企業で、そこに組織されている労働組合が、投資ファン ドに団体交渉上、使用者性を求めるような悪い労使関係が成立している企業は外してい ます。その結果、このような事例が見られないということが1つ言えると思います。  次は、投資ファンドの使用者性回避型経営支配を挙げることができると思います。投 資ファンドが被買収企業の経営については、非常に強く関与しております。しかし、取 締役としての権利行使にとどめ、日々の経営の実行には直接関与しないということで、 経営グループはKKRですが、徹底しており、被買収企業にKグループの人をCEOと しては絶対送り込まないという方針を持っております。あくまでも買収する前に、買収 先企業をいろいろ検討するわけですが、その検討委員会のメンバー3人から4人ぐらい が買収した後、社外取締役として入って、取締役会で経営者に対してさまざまな注文、 関与をしますが、日々あるいは経営計画などを投資ファンドが直接承認するといった経 営支配はしていないということで、投資ファンドが使用者性とみなされるような経営支 配はしていないということが、投資ファンドの使用者性論が存在しない背景の1つであ ると言えます。  次は、企業価値向上のための関与をしています。被買収企業の企業価値を高め、買収 する前と買収後、売却した利益の差で投資ファンドが利益を得ておりますが、買収して 売却するまで長くて10年、Kグループの場合は平均7年と言われておりますが、その間 、企業業績、企業価値を高める必要がありますが、大量解雇や大幅賃金カット、福利厚 生の縮減などを行うと、従業員の士気を下げることになるので、そういうことはあまり やる必要がないと言われました。  逆に、経営者だけではなく、従業員にも株を持たせる、あるいは成果主義を導入して 、頑張って、もっと処遇などをもらうというポジティブな関与をしていますが、士気低 下につながることはあまりやっていないと言われております。  今回、私どもが調査したカーライルとKKRの場合は、アメリカの中でも非常に良い 会社を買収して、もっと良い会社につくり変えて売却し、売却益を得るという企業とし てみなされており、潰れかけている企業を買収し、建て直して売却をするという投資フ ァンドではないので、今回、研究会の発足の1つの事例ともなった東急観光のような管 理は、この2つのファンド会社はやっていないと見受けられました。  このような4つの背景で投資ファンドの使用者性が、アメリカではあまり問題となっ ていなかったし、議論もされていなかったと言えると思います。労働組合が消極的な対 応をしておりますが、このままでいいのかというと、決してそうではないということで 、投資ファンドに絡んだ動きに対しては、労働者保護あるいは労働者の利益になるよう な試みをしなければならないということで、労働者資本戦略を今やっております。  具体的には、1997年からAFL−CIOの中にプロジェクトチームを作って、この戦 略で活動しておりますが、大きく分けて2つに分けることができると思います。1つは 、投資ファンド会社の親労働者性の評価の取組みがあります。2番目は親労働者性向上 のためのキャンペーンがあります。投資ファンド会社の親労働者性を評価する取組みを しておりますが、3つの基準を設けて投資ファンド会社の評価をしております。1つ目 が一般基準、2つ目が投資基準、3つ目が積極的オーナーシップ基準です。一般基準は 、どちらかというと投資ファンド会社そのものに対するものです。投資基準は、投資フ ァンドが投資した投資先企業にかかわる事柄が書いてあります。3番目は投資ファンド 会社と投資先企業との関係を主に書き、それが書いてある項目です。  一般基準ですが、これは投資ファンド会社の社長の経歴を見て、労働者の権利を尊重 してきたか。また労働者や労働者代表とパートナー的な関係を持ってきたかを見て、こ の社長は一般基準で見て、どのぐらい親労働者性があるかを評価するわけです。  AFL−CIOの評価ですと、0から4まであり、0がfail、1がfair、2がgood、 3がvery-good、4がexcellentということで、数字として、この基準をもって評価をす るわけです。  2番目は投資基準です。これは投資先企業が労働者と良いパートナーシップ歴を持っ ているか。また投資先企業が新労働者政策をとっているかどうか。具体的に見てみます と、生活賃金、団結権などを含めた人権を尊重しているかどうか、国際労働基準などを 遵守しているかどうか、また同一産業内で優位な賃金水準を確保しようとした努力をし ているかどうか。労使関係の状況、また人的開発への関心・投資がどのぐらいなされて いるかを中心に投資先の企業を評価しているわけです。  1つ抜けていますが、投資先企業が取引をする、あるいは投資をすることによって雇 用創出に、あるいは雇用維持になるのはいいのですが、最低でも雇用喪失にはならない こと。また労働組合の組織化に対して中立性を保つことなどが、投資基準の1つになっ ています。  積極的オーナーシップです。投資ファンドが投資先企業の取締役で投資家の利益を代 弁する権利を確保しているかどうか、経営陣の任命・解任権を持っているか、投資先企 業のモニタリングをしているシステムができているかどうか、財務状況のディスクロー ジャーを積極的に要求しているかどうかを見て、積極的オーナーシップ基準に点数を付 けるわけです。  このような3つの基準をもって、投資ファンド会社のランク付けをするという取組み をしており、特に株式が公開されていない企業で、このような取組みが非常に成果を得 ているという結果が出ており、積極的に未公開株式会社に投資をしている投資ファンド 会社に、このような活動をしております。先ほど省略いたしましたが、アメリカの労働 者が年金、あるいは貯金などで蓄積している資産総額が5兆ドルに上っていると見てお ります。この資産管理に労働者の声を反映することが、いま労働運動の最も重要なチャ レンジの1つとして見ております。主に未公開株式に投資をしているファンドに労働者 資本が入っていれば、働きかけをするのが非常に効果的であるということで、今回この 報告書にも公開されていない調査の報告をされております。  親労働者性向上のためのキャンペーンです。Safewayという食料品のチェーン店を展開 している小売業の会社ですが、この会社の社長がWal-martの激しい競争に対抗するため に賃金カットを実施したわけですが、それに対して組合が反対キャンペーンを行いまし た。その理由は、労働費用の削減は、長期的に見れば、会社や株主の利益にはならない という観点で反対キャンペーンを行いました。  内容としては、株主総会の際に、機関投資家がいまのCEOには投票しないように働 きかけをし、その結果、投票しなかったのが記録的に多かったそうです。また労働者資 本が入っているファンドに、そのファンドから送られているSafewayの取締役に対して は辞任を要求して実現を見たわけです。  以上のようなキャンペーンによってSafewayは事業再編がなかなできませんでした。ま た財務担当取締役、マーケティングの担当取締役が、この会社では望みがないというこ とで辞任しました。このような悪い企業環境で株価が大幅に下落し、経営に大きな打撃 が生じました。このキャンペーンを通じて、経営者が労働者フレンドリー政策をとらな いと、大きなマイナスの影響があるということを強くアピールしたそうです。  このような労働者資本戦略を通じて、投資ファンドに働きかけをして、投資ファンド が投資を行う際に、投資先企業に労働者フレンドリー政策をとるような取組みを期待し 、このような戦略をとって、いま積極的に展開しているところです。  まとめとしては、アメリカでは投資ファンドに買収された企業に組織されている労働 組合が、買収元である投資ファンドに使用者性を求めて問題を起こしたことがない。そ の背景を4つに分けて見てみました。また労働組合の消極的な対応の代わりに、労働者 資本戦略を通じて法的な制約があることを、労働組合が運動を通じて別の方法で、いわ ゆる株主の立場で労働者の保護、利益を向上させようとしている取組みをご紹介しまし た。 ○西村先生 ありがとうございました。いまの奥野さん、呉さんのご報告について、ご質問、ご意見 がございましたらお願いいたします。 ○毛塚先生 アメリカ法は全くわからないので、前提として教えていただきたいのですが、アメリカ の不当労働行為の使用者の認定の方法として、投資ファンドといった特殊の例を抜きに して、一般の使用者性の認定の方法は、先ほどご紹介いただいた単一使用者、共同使用 者という概念を用いて行う具体的な認定というのは、印象として、日本と一般的にどの 程度の差があるのでしょうか。  もう1つは、投資ファンドではなくて、純粋持株会社のような、グループ企業である 程度役員なりを派遣しているケースについてこれまでの判例というか、命令の集積はど の程度あるのでしょうか。 ○奥野講師 まず日本との判断の差の点ですが、単一使用者、共同使用者を見たときに、これは直接 のお答えとは少しずれますが、NLRBは単一使用者性の問題で親子会社みたいな事例 を考えているということで、実際に親子会社に関する事例は、単一使用者性の法理で処 理されているのですが、日本法の目から見ると、共同使用者性の法理に近い枠組みで処 理されている問題ではないかと思い、同じ事例ですが、そもそも扱われている法理の枠 組みがちょっとずれているのではないかということが、1つ、違いとしてあるかと思わ れます。  もう一点は報告でも申し上げましたが、日本の場合は特に労働委員会の命令において は当該労使間で現在争われている問題について決定権限がある場合については、その問 題について団体交渉を命じるという事例があります。アメリカの場合は、ボストンカレ ッジのコーラ先生にインタビューしたときに、「そのような特定の事項について決定権 限を持っていれば、その点について団体交渉関係を求めることができるか」と聞いたら 、「そうではない、日常的な労使関係についての決定権があった場合に初めて単一使用 者等に該当するとされている」という回答を受けました。特定の事項について決定権限 を持っていれば認められる場合があるということはないという点が、1つ大きな差異で はないかと考えられます。  2つ目のご質問ですが、今回の調査は、比較的基本的な判断枠組み、最近の事例とし てどのような判断傾向になっているかを中心に見たので、全体として、例えば持株会社 のような株式、資本関係があるような事例がどれだけあるかは、この場ではお答えでき ないのですが、単一使用者性に関する事例では、ほとんどが親子会社の事例だったので 、そのような事例はかなり多いのではないかと思われます。 ○宍戸先生 奥野先生のご報告に対して2つと、呉先生のご報告に対して2つ質問いたします。判断 枠組みの中に、所有の共通性があって、それについては比較的重視されないというお話 だったと思います。まず事実の確認として、親子会社関係あるいは親会社が共通の子会 社関係というのは、100%でも同様かということです。  私の質問の意図は、コーポレートガバナンスのほうから言うと、アメリカは日本と比 べて、法人格をそれほど重視しないと言われています。つまり、100%子会社は事業部 と同じだと考えられる。だから、100%子会社の社長も事業部長も、どちらがより権限 を持っているかということは、法的な、というより、むしろ実態感覚として持っていな いと言われています。日本では法人格を持たせると一国一城の主だから、それは尊重し なければいけないという感覚で実務家が動いているという議論がよくされています。そ うだとすると、アメリカだと子会社であっても100%持っていたら同じで、結局は親会 社の社長がみんな決めているのだという議論になりそうな感じもするのですが、どうも そうではなさそうだという理解でよろしいのかという確認です。それは100%を含めて、 法人格があれば別だと割り切っているということですね。 ○奥野講師 別だと割り切っているとお答えしていいのかどうかわかりませんが、100%の子会社で あるという事情だけをもって、当該子会社に対する関係で使用者であると判断した例は ありません。労働関係について、例えばどれだけ具体的に関与していたかとか、そのよ うな点を必ず検討しています。 ○宍戸先生 団体交渉との関係において、子会社は明らかに事業部と100%違った扱いがされている わけですね。 ○奥野研究員 そのように言えるかと思います。 ○宍戸先生 (d)の労働関係の集中的管理というところで、いわゆる人事部の共通性が重要なので しょうか。向こうで言えばヒューマン・リソースということなのでしょうか。そういう ものが1つだからというところを重視しているのか、いや必ずしもそうではないという ことか。 ○奥野講師 管理体制が一本化されている、他方の会社がもう一方の会社の事業についても管理して いるような場合も、単一使用者性が認められる1つの事情です。その他、管理体制は別 々になっているけれども、実際上労働条件が共通している。例えば従業員マニュアルが 実は共通のものであるとか、そういう場合においても認められておりますので、先生が おっしゃったような状況を含めて、それ以外の状況についても集中管理が認められてい る状況にございます。 ○宍戸先生 これは事実の確認ですが、AFL−CIOの労働者資本戦略の(3)積極的オーナーシップ 基準、ここに出ている話というのは、投資ファンドが取締役会で投資家としての利益の 代弁をする権利を行使するという意味でしょうか。あるいは、財務状況のディスクロー ジャーの要求などをするのはマイナスなのですか、プラスなのですか。 ○呉研究員 プラスです。 ○宍戸先生 それはどういう趣旨でプラスなのですか。 ○呉研究員 投資ファンドに労働者からのお金が入っているわけで、株主としての権利を強く主張す るということです。 ○宍戸先生 なるほど、そういう趣旨ですか。そうすると、これは投資先企業の労働者の利益という 狭い話ではなくて、むしろ投資ファンドというのは、広い意味での労働者のお金を運用 しているのだから、株主としてもしっかりやりなさいという、そういうキャンペーンな のですね。 ○呉研究員 そうです。 ○宍戸先生 次のSafewayの事例は大変興味深いと思うのですが、これは何年の事例ですか。 ○呉研究員 具体的な問題が起こったのは2003年からだと思います。 ○宍戸先生 これはもちろんAFL−CIOからの評価ですから、こういうふうになるのだろうと思 うのです。株主総会の際に、機関投資家が現CEOに投票しないように労働組合が働き かけて、それで機関投資家がそれに応じたという話なのですが、それは何でなのですか 。つまり、それはあまり考えられない。賃金カットをするのは株主の利益に反するから 経営者を変えましょうという議論にまでいくのか。株主と従業員がコアリション(連携 )するというのは、普通は考えがたいことだと思うのですが、このケースに関してはど うしてこういうことになったのか、お分かりでしたら説明してください。 ○呉研究員 具体的なことは私も把握しておりませんが、私が去年1年間アメリカに滞在してみて、 労使関係上最大の争点は、ウォルマートにどうすれば組合をつくることができるかと。 カリフォルニアは他の州に比べると非常に少ないのですが、ウォルマートが店舗を開く のをどうすれば防げるか、というのが労働組合の最大の争点なのです。これはたぶん、 ウォルマートが進出をして、それに伴って他の企業も次々とウォルマートに対抗するた めには、賃金や労働条件を下げなければならないという大きな流れがあるわけです。た またまウォルマートだからこのような大きなキャンペーンを行ったと思うのですが、こ の際ウォルマートを通じてアメリカの労働者全体の労働条件が引き下げられるのは、断 固として阻止しなければならない、という問題意識を組合は強く持っていたわけです。 ですから、ウォルマートに対抗するために賃金カットを実施することは認められないと いうことで、総揚げをして反対したわけです。そういう労働組合の危機的な意識という ものが強くあって、いろいろな角度からそれをアピールしたいということです。株主に 対しても、機関投資家に対しても、このような労働者全体の労働条件の引き下げにつな がるような政策には反対してほしい、ということを行ったわけです。 ○宍戸先生 先ほどの話とのつながりで、ここにおける機関投資家というのは、年金基金等の広く労 働者のお金を受け入れている所だから、ここはむしろ大所高所から労働者の長期的な利 益のためにSafewayの組合と連携すべきであるという判断をした、そういうことでいいわ けですか。 ○呉研究員 そうですね。例えばKKRなどは、労働者資金が入っている所ですが、そこは具体的に 取締役を辞めさせてくださいとか、そういう要求をしたわけです。 ○西村先生 1つだけ質問をしたいと思います。呉さんのほうについて、アメリカの労働組合は、投 資ファンドの使用者性について法的な、積極的なアピールをしない、要するに勝ち目が ないという話ですが、先ほど奥野さんが挙げられたような判断枠組みからすると、こう いう要件というのは、例えば継続的に日常的な労務管理に口を出しているということだ ったら、投資ファンドのほうは、そういうふうなことは普通はやらないですよね。決定 に口は出しても、あまり日常的なところまで関与していくということは、多分ないと思 います。まさに消極的なところで、実際に団体交渉の際に投資ファンドの人が使用者の 代表として出ているような場合は、俺は当事者だと。我々が議論してきた大前提という のは、出てこないから、出てくるためにどうしたらいいかという話です。何かこういう 日常的な問題云々というよりも、社外取締役であれ何であれ、出てきたら決定権がある のに実際は姿を隠している。そういう話ですが、そういうことで必要性を感じるという 話は全然なかったですか。 ○呉研究員 KKRとカーライルは非常にいい会社を買収して、もっと企業価値を高めて高く売ると いう投資ファンド会社ですので、先生がおっしゃられたようなことは、あまりしてない と言っているのです。あくまで取締役会に外部取締役を投資ファンドから送って、彼ら がそこで経営者に対して徹底的に、報酬委員会とかさまざまな委員会できちんと経営の チェックをするような、そういう取組みはしています。しかし労働問題、特に賃金水準 を下げるということは、取締役会ではあまり話題にはなっていないそうです。全体の費 用についてコストカットをしなさいとか、そういうことは強く主張するけれども、項目 ごとに、これをこう削減しなさいという指示はあまりしていないのではないかという印 象があるのです。  しかし、だからと言って全く具体的な関与はしていないかと言えば、私の感じではそ うではない。買収するためには検討委員会、投資委員会を開いて、買収をしたら、そこ のメンバーの3人か4人がその企業の社外取締役として入るそうです。買収をするかど うかの検討に当たって自ら、例えば3年とか4年先にこの企業の価値がどのぐらい上が るのかという経営計画を作るらしいのです。これを提示して、経営者をどこかから調達 するわけです。そうすると経営者はそれに乗っかってやりますので、買収をした段階で はしないわけですが、具体的なレールは、もうその前に投資ファンドが持っていてそれ を実行させる、というような感じを受けました。形式的に買収された時点では具体的な 指示はしないのですが、その前に経営計画を作って、それをのんだ人を経営者として選 ぶので、そういう意味では、その前にきちんと具体的な経営計画をつくるということで はないかという気がします。 ○西村先生 我々もヒアリングをした結果、多くのケースがまさにそういうケースで、アメリカでお 二人がヒアリングされてきたのとほぼ同じような、労使関係の安定が非常に大事である といったところで従業員の士気を低下させるようなビヘイビアをやらない。要するに、 そこでポジティブな評価ができないと入っていけないと、そういう話をヒアリングでお 聞きしたのです。それでそういうケースなのだろうとは思いますが、いろいろあるわけ で、そうでないようなレアケースはどうなのか。アメリカで、日常的な労使関係に継続 的に関与して決めていくということではないが、しかし労使関係には強く口をはさむと いうようなタイプはなかったのかなという気がしましたが。 ○奥野講師 その点に関して、直接の答えではないのですが、最後に私が報告で申し上げたように、 単一使用者とされる、現実的に関与している場合というのは、事例としては本当に限定 的な状況なのです。これは私の推察ですが、それはなぜかと言うと、報告で少し申し上 げたとおり、単一使用者に該当するとされた場合には団体交渉義務等を負うということ があるわけですが、アメリカの場合は、交渉代表の労働組合が団体交渉関係に立つこと になります。単に特定の事項についてだけ団体交渉を命じられるというふうなものでは なくて、交渉代表としての地位を認められる。したがって、単一使用者とされる複数の 使用者がいて特定の使用者と労働協約を締結していた場合に、その労働協約に単一使用 者とされる別の使用者も拘束されるという「労働協約の適用」という効果等も生じてき ます。  その他セカンダリーボイコット、二次的ボイコットとの関係でもその効果が発生して くるわけです。そのように、効果が非常に広範なところに及ぶのです。交渉代表として 団体交渉関係を担い得る立場が認められるか否かというところがこの法理にかかってき まして、日本で団体交渉義務があるかどうかということを議論する場合に比べて、非常 に影響が大きいと考えられるわけです。そういう効果の大きさというのもあって、この 法理というものが非常に限定的に捉えられているのではないかと考えられます。特にセ カンダリーボイコットの関係では非常に限定的に判断する傾向が強いという文献での指 摘もございます。 ○宍戸先生 セカンダリーボイコットというのは何ですか。 ○奥野講師 直接の労使関係の当事者でない事業主体に対して、使用者の生産した製品を取り扱わな いなど、使用者に対して事実上の圧力となる行為をさせるために、当該事業主体に、不 買運動の形などで圧力をかける行為のことを指しているのです。しかし、これは違法と されていまして、実質的には単一の使用者か、そうでないかというのが、このセカンダ リーボイコットに当たるか否かの決め手になっていますので、そこのところで問題とな ってきているものです。 ○山川先生 細かいところで2点ほど伺います。1点は奥野さんへの質問で、6頁あるいは8〜9頁 のところです。そこで制度の共通性ということが単一使用者を認める1つの要素として 挙げられているのですが、6頁を見ると、マニュアルに実質的に共通の内容が定められ ているという点と、各社が独自の事項を設ける余地は乏しいという2点が挙げられてい ますが、内容が共通していればいいのか、それとも独自の制度を設けるという余地が乏 しいというところに重点があるのか。どちらかというと後者ではないかと推測するので すが、制度の共通性というと2つ意味があるので、どちらかというのが1つの質問です 。  呉さんに対する質問は、Safewayの事例で、株主の立場としての組合活動というのは 組合が株主だったというわけではなくて、Safewayの従業員がSafewayの株主であって、 その立場で行ったかということか。それとも、年金基金という労働者一般の利益を共通 にするようなものが株主の中に入っていたという意味のことか、そのことを確認したい のです。逆に言うと、組合は、別に株主である従業員を組織化しなくても、ファンドな り基金なりに働きかけをすることは可能であるという理解でよろしいのでしょうか。19 90年代の初頭にコーポレートキャンペーンというのがアメリカの争議戦術として、先ほ どの二次的ボイコットの関係で議論されていたことがあるものですから、それの一環の 話なのかなと思ってお伺いしたいのです。 ○奥野講師 私のほうは、ご指摘のとおり後者の、制度的にその余地が絞られていたというところに ポイントがあります。 ○呉研究員 21頁をご覧いただきたいと思います。KKRがSafewayにも投資をしていますが、年金基 金などで労働者と使用者が折半で基金を出します。そこに労働者のお金が入りますので、 年金基金などに働きかけをして、そこがまた投資ファンドにお金を出します。そのとき に投資ファンドに対して、労働者の利害に反するような所には投資しないでください、 また、投資している所がそのような行為を行ったら、やらせないでくださいとか、上か らの要求をするわけです。そういう意味では、ご指摘のあったように、Safeway従業員の 従業員持株会社という制度に則って要求したというよりは、投資ファンドを通じて行っ たわけです。 ○荒木先生 単一使用者法理の場合は、日本で言うと、法人格が否認されているような状況ですか。 ○奥野講師 実際にはそれに近いようです。私も先ほど申し上げましたが、日本法で問題とされるべ き法理というのは、共同使用者のほうではないかと思うのです。私はそう思うのですが 、実際の事例も、親子会社等に関しては単一使用者の話になっていますし、NLRBも そういう認識で問題を処理しているということでした。 ○荒木先生 日本的に言うと、単一使用者というのは法人格の否認的なものだとすると、あるのは1 つの法人格であって、あとは濫用をしていても、形骸化していても、とにかくそれは認 めないわけですね。そこで、単一使用者の場合に、単一の統合された事業体として取り 扱うということで、命令は誰に出すのですか。 ○奥野講師 2つの会社が問題となっているとしますと、実際の命令は、2つの会社を名宛人として 、団体交渉に応じるようにという命令が下されています。実際にジョイントリーにやる かどうかというところまでは、私が見た命令例ではよく分からなかったのですが、2つ の会社が名宛人になっています。 ○荒木先生 そういうときに、日本のような、法人格とか法主体という議論はあまりしないのですか 。 ○奥野講師 レジュメの初めに小さく書きましたが、分身法理もそのような考え方に近いのです。こ れは元あったものの同一主体が再生されたにすぎないものですし、前の主体が消滅して いるという点で区別されなければいけない法理なのですが、そういうものと合わせて、 単一使用者であるとか分身であるとか、主張としては一緒になされるということがある のです。特に最近の判断例では、それらの2つは異なる法理だとして区別されておりま して、判断の中では、この問題について、法人格の否認のような形での議論は見られま せん。 ○荒木先生 我々が想定していたのは、それぞれにちゃんと法人格があるときに、直接の使用者でな い別の法人格のある主体に対して団交命令が出せるかということで言うと、共同使用者 の法理がそれに付合する論理の枠組みではある。ところが、これを実際に使った例は、 業務処理請負のようなケースに限られる。 ○奥野講師 資本関係がある親子会社等の事例については、アメリカでは、単一使用者のほうで処理 がされています。認識の枠組みが少し違うのですね。私もそれは、何でこっちの問題な のかなというのはずっと考えていて、よく分からないところがあるのです。 ○荒木先生 具体的に重要な雇用条件に関して共同で決定しているというような状況は、あり得るわ けですよね。先ほど単一のところでも出てきましたが、実は、直接の使用者、経営者に は判断権限がなくて、全部持ち帰ってファンドに聞いて、ファンドのほうで意思決定を して、それを単に実行している。客観的な法人格は別であって、経営自体も混同されて いない、ということはあり得るのですが、そういう法理自体は発展していないというこ とでしょうか。 ○奥野講師 資本関係がある場合について、独立しているというようなことを前提にして、しかし、 例えば他方の会社がもう一方の会社の労働者に対する関係で責任を負うかどうかという ような形の法理は、見られません。資本関係がないのが前提ですが、あくまで業務処理 請負のような形の事例について、いまご指摘なさったような問題を検討しているという ような状況です。 ○山川先生 おそらく、それは先ほど奥野さんも言われたように、日本の朝日放送のように、ある部 分についての使用者という発想がないからではないかと思います。親子会社で考える場 合も、ある部分については親会社ないしは株主が決定しているというようなところで議 論すると共同使用者になるのですが、そういうことはアメリカ法ではない。 ○奥野講師  部分的というような形はないです。 ○山川先生 そうすると、共同使用者のほうは、それぞれ直接何らかの権限が分属されているような 場合は業務処理請負とか派遣のような場合になってしまって、株主のようなシチュエー ションだと、そういうものが捉え切れないということではないかと思いますが。 ○荒木先生 日本の場合は朝日放送があるから、そこからいわばパンドラの箱が開いたということに なるかもしれませんね。 ○山川先生 法人格否認以外の場面まで開かれていったということなのでしょうか。 ○荒木先生 ええ。そしてアメリカに朝日放送事件のような判決がなければ、そもそもその議論に共 同所有者としてこの問題を扱うという発想は出てこない、ということでしょうか。 ○奥野講師 もちろん、これは推測にすぎませんが、どちらかというと、朝日放送は、共同使用者の ような判断の考え方を特定の事項について判断する枠組みとして持ってきた。 アメリカ法をやっている立場から言うと、そのように見えなくもないという感じはいた します。 ○西村先生 ご報告はこれで終わらせていただきます。どうもありがとうございました。 続きまして、これまでの議論をもとに「投資ファンド等により買収された企業の労使関 係」の論点について議論をしていきたいと思います。事務局のほうから、これまでの議 論をまとめたレポートが出ておりますので、それについての説明をお願いいたします。 ○金谷参事官補佐 資料2について説明をさせていただきます。昨年6回にわたって本研究会を開催し、そ の中でヒアリングを主に行ってきたわけですが、それらのヒアリングの結果について簡 単に取りまとめるとともに、事務局のほうで、そのヒアリング結果等を踏まえて、おそ らく論点になるであろう点についてまとめておりますので、ご覧いただきたいと思いま す。  資料2の1頁のIで開催に至る経緯を簡単にまとめております。投資ファンドは純粋 持株会社の一形態と考えられておりますが、持株会社については平成8年に、持株会社 解禁に伴う労使関係専門家会議が開催され、報告書が取りまとめられております。  そこでは、1つ目のポツで挙げられたとおり、子会社から見た持株会社との関係は、 親子会社間の親会社の関係と同じであって、新しい法的な問題が発生しているわけでは ない。労働組合法第7条に言う「使用者」の規定を整備することについては、「使用性 」の判断に関して一般的な基準を定式化することは困難である。現行規定における「使 用者」の 解釈で柔軟な対応を図ることが妥当であると考えられる。  使用者性の有無については、先ほど来ご発言があった最高裁判例(朝日放送事件)に おいて、基本的な労働条件等について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に 支配、決定できる地位にある、という考え方が示されています。  その後平成9年に独占禁止法が改正されておりますが、その際、国会の商工委員会に おいて付帯決議がなされております。その際には、持株会社の解禁に伴う労使関係の対 応について、労使関係者を含めた協議の場を設け、労働組合法の改正問題を含め、今後 2年をめどに検討し、必要な措置をとること、という決議がなされております。  これを受けて平成11年に、持株会社解禁に伴う労使関係懇談会が開催され、取りまと めが行われております。その際には、従前の専門家会議と同様に、持株会社の使用者性 が問題となるケースがあるが、その場合には、判例の積み重ねを踏まえ、現行法の解釈 で対応を図ることが適当であるとされております。  使用者性の有無の判断については、最高裁判例(朝日放送事件)において考え方が示 されています。具体的に、上記判例やこれまでの労働委員会の命令例から整理しますと 、使用者性が推定される例としては、純粋持株会社が実際に子会社との団体交渉に反復 して参加してきた実績がある場合、また、労働条件の決定につき、反復して純粋持株会 社の同意要することとされている場合、この2ケースが挙げられております。その後平 成15年にJIL(当時の日本労働研究機構)において、純粋持株会社企業グループの労 使関係について研究を行っていただきました。このときには、持株会社の解禁の際に憂 慮された労使関係上の問題は特に生じていない。それから、持株会社に使用者性を強制 的に持たせるような追加的措置をとる必要性は、現在のところない、このような報告を いただいております。  その後一昨年、東急観光において、AIP社による買収を契機として労使紛争が発生 しております。東急観光労働組合が投資ファンド運営会社であるAIP社に対して団体 交渉を申し入れたところ、これを拒否されたということで、東京都労働委員会に対して 不当労働行為救済の申立てがなされております。これは昨年11月に和解をしております が、こうした経緯を踏まえて本研究会が開催された次第です。  IIは本研究会での議論の整理です。まず1つ目として、4回にわたって行われたヒア リ ング結果について簡単にまとめました。1つ目のポツですが、ヒアリングを行ったすべ ての投資ファンド等は、投資ファンド等の役割について被買収企業の経営に対するモニ タリング、助言と考えており、実際にも被買収企業の経営について、被買収企業の企業 価値を高める方向と合致しているかについてモニタリングを行っておりました。  投資ファンド等が保有している被買収企業の株式の割合は67%、3分の2を超えるケ ースから、20%台のマイノリティにとどまるケースまでさまざまでした。ヒアリングを 行ったすべての投資ファンドは、被買収企業へ取締役を派遣しておりましたが、当該派 遣された取締役が取締役会における過半数を占めているケースと、 そうでないケースがありました。その他、取締役以外にも職員を派遣しているケースも 見られました。  被買収企業における労働条件については、買収前後で大きな変更はなかったとするも のが多く見られました。一部の労働組合で、買収によって労働条件が変更されたと申し ておられたケースもございます。  被買収企業における労働条件は、投資ファンド等と被買収企業について、すべてのケ ースにおいて被買収企業内部の組織(取締役会や経営会議等)において決定しており、 投資ファンド等が関与はしていないとしておりました。ただし、一部の労働組合が、投 資ファンド等が労働条件決定に関与しているとしておりました。  投資ファンド等と被買収企業の労働組合との間で団体交渉が行われた例はありません でしたが、一部に、投資ファンド等に対して団体交渉を求めた労働組合も見られました 。買収の経緯等については、すべての場合について被買収企業から労働組合への説明は 行われておりました。一部では、被買収企業から買収後の経営方針等についても労働組 合への説明が行われていました。ヒアリングの結果については、概ね以上です。  2のアメリカの調査結果については、本日呉先生と奥野先生からご説明をいただいた ところですが、3頁に簡単に3項目にまとめさせていただきました。  まず1点目が、アメリカの法制の下では投資ファンドの使用者性が認められる可能性 が期待できないこと等から、被買収企業の労働組合が投資ファンドに対し労使関係上使 用者性を問うたことも、また、それが争いに発展したこともない。それから、投資ファ ンドは被買収企業の経営に深く関わっているが、それは取締役としての権利行使にとど めている。経営の執行には関わっていないし、被買収企業の経営計画などを直接承認す るようなこともしていない。それから、投資ファンドが企業を買収する際には、当該企 業の労使関係が検討の重要な要素となっている、このようなことであったかと認識して おります。  IIIは論点の整理ですが、これは、これまでのヒアリングなどから事務局で考えた素案 です。まず1点目は、投資ファンド等の使用者性についてです。本研究会の立ち上げに 当たって、AIP社の使用者性が認められるのかといった点もありましたので、こうし た点も論点になろうかと考えております。  1点目は、投資ファンド等の使用者性の判断につきまして、朝日放送事件で示された 判断基準「基本的な労働条件について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に 支配、決定することができる地位にある」という考え方をそのまま妥当することができ るのか。仮にこの判断基準が妥当しないとすれば、ではどのような基準で判断する必要 があるのか。 また、判断基準が妥当するとすれば、具体的に「現実的かつ具体的に支配、決定するこ と」という判断をするに当たって考慮するべき要素は何か。  それから、これは連合から意見聴取をした際に発言がありましたが、株式の保有割合 、投資ファンド等が被買収企業の株式をどの程度持っているか、あるいは、投資ファン ド等から派遣された取締役が取締役会の過半数を占めているか否かという点について、 「使用者性」を判断する根拠となるのか。他に判断ポイントがあるとすれば、どのよう なことが考えられるのか。  最後に、投資ファンド等の使用者性を認める場合があるとすれば、どのような例が考 えられるのか。この参考として、純粋持株会社解禁に伴う労使懇談会の取りまとめで挙 げられた「使用者性が推定される可能性が高い純粋持株会社」をここに挙げてあります が、純粋持株会社が実際に子会社等の団体交渉に反復して参加してきた実績がある場合 、あるいは、労働条件の決定につき反復して純粋持株会社の同意を要することとされて いる場合、こうした例示ができるのかどうか。こうした点が論点になろうかと考えてお ります。  2つ目が、良好な労使関係を構築するポイントです。4回ヒアリングを行ったうち、 3回については概ね良好な労使関係が築かれていたものと承知しておりますが、残念な がら、最後の1つについては、労使関係が多少こじれていたようです。この両者を比較 することによって、投資ファンド等による企業買収が行われた場合についても、良好な 労使関係を構築するポイントというものが何か出せるのではないか。具体的には、団体 交渉、労使協議、労働協約といった面で差異が何かあったのではないか。良好な労使関 係を構築する上でポイントとなる点が何かあったのではないかと考えております。  次頁は「使用者性」を判断するに当たっての考え方ということで、過去の判例、命令 例を参考までに付けてあります。基本となります最高裁の考え方につきましては、先ほ ど来出ている朝日放送事件があります。いちばん上に掲げましたが、労働者の基本的な 労働条件等について雇用主と、部分的とはいえ、同視できる程度に現実的かつ具体的に 支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて右事業主は同条( 労働組合法第7条)の「使用者」に当たる、という解釈が示されております。  以下「使用者性」が認められた例と認められなかった例について、近年の判例と命令 例をまとめてあります。「使用者性」が認められた1つ目の例として、4頁の上のポツ にある朝日放送事件があります。このときは結局、テレビの放送会社が番組制作の請負 会社から社員の派遣を受けていたわけですが、朝日放送のほうが従業員の勤務の割振り 等について決定しており、「部分的にとはいえ雇用主と同視できる」という判断がなさ れたものと承知しております。  2つ目は、シマダヤとシマダヤ運輸という親子会社の事案です。これは親会社の作成 している製品を工場から小売店まで運送する業務を子会社に委託していたという事例で すが、子会社であるシマダヤ運輸が、会社の経営において、親会社であるシマダヤに全 く従属しており、親会社の製品を運送する以外に業務運営が成り立たなかった。このた め、子会社は実質的に親会社の運輸部門を担当する内部組織にすぎないと解されて「使 用者性」が認められております。  「使用者性」が認められなかった例は、5頁中ほどから書かれている徳島南海タクシ ー事件です。このときには、親会社に「使用者性」があるかどうかについて、労働組合 からの交渉事項である子会社での割増し賃金の未払い問題、あるいは、労働組合の書記 長の解雇問題、その他チェックオフ等の廃止に関する不当労働行為問題について、被申 立人である親会社のほうが現実的かつ具体的に支配してきたかどうか。こういう判断を 行った結果、資本、役員等について影響力を持っているからといっても、それだけでは 団体交渉の当事者としての使用者性を認めることはできないとして「使用者性」は否定 されています。  6頁の中ほどに雪印乳業事件を掲げてあります。これは雪印乳業の子会社である雪印 食品において牛肉の偽装事件があり、会社を解散するに至った。そのときに、雪印食品 の労働組合から親会社である雪印乳業に対して団体交渉が申し入れられた事件ですが、 このときについても、雪印食品の従業員の労働条件について、雪印乳業が実質的な支配 力を有していたことを推認させる具体的事実、例えば従業員の賃金水準を指示、命令し ていた事実、あるいは、過去に雪印乳業と雪印食品の労働組合で団体交渉を行っていた 事実などの疎明はなされていないとして、「使用者性」が否定されております。  6頁最後のポツは、宝塚映像事件です。ここでも、親会社である阪急電鉄が宝塚映像 の経営面に対して影響力を有していたことは否定できない、としながらも、これらは一 般的な親子会社間における株主権の行使、取引関係等の範囲を超えていないということ で、「使用者性」は否定されました。  7頁の上のポツは、大阪証券取引所事件です。これは仲立証券の親会社である大阪証 研取引所に対して、仲立証券の労働組合が団体交渉を申し入れておりますが、こちらに ついても、子会社である仲立証券において、労働組合と労働協約を締結しているとか、 就業規則を独自に定めているといったことから、親会社である大阪証券取引所に「使用 者性」は認められないとされた事件です。  7頁の下のポツは、平成16年に起きたブライト証券事件です。これについても、親会 社の意見が子会社の従業員の賃金決定に大きな影響を与えていたとは認められながらも 、団体交渉は、きちんと子会社と子会社の労働組合の間で行われていたということから 、親会社の使用者性が否定された事件です。  8頁には、本研究会で行いましたヒアリングの結果について、簡単に事務局で一覧表 の形でまとめてあります。説明は割愛させていただきますが、良好な労使関係等を構築 する上でのポイントなどについて、この一覧表等も参考にしていただければ幸いです。 簡単ではございますが、説明は以上です。 ○西村先生 この点につきまして、今日で全部議論が尽きるとはとても思いませんので、次回も引続 いて議論していきたいと思っておりますが、何かございましたら、おっしゃっていただ きたいと思います。 ○毛塚先生 3点目のアメリカの学び方に関してですが、例えば奥野さんがおっしゃったような、法 的な効果の相違ということも含めて書いておかないと、なぜ認められる可能性がないの かということが伝わらないと思いますのでその辺を補っていただければと思います。 ○金谷参事官補佐 これはヒアリング前にまとめたものですので、次回修正してお出ししたいと思います。 ○毛塚先生 それに沿って次回に検討するということですか。 ○西村先生 そうです。そして最終的にこれを報告書にまとめるということですから。 ○宍戸先生 労働法の専門の先生方ばかりなので伺いたいのですが、我が国で出向というのがありま すね。要するに、親子会社とか合弁会社だと、大体出向なわけで、子会社の労働基準な どは、大体親会社が決めているわけです。そういう場合は、問題なく親会社が団体交渉 の交渉対象になるのですか。どういう扱いになっているのですか。あるいはそれは別で 、何か争われると訴訟になったことがあるとか、そういうことなのですか。 ○毛塚先生 何か具体的な紛争例を挙げていただけませんか。 ○宍戸先生 先ほどの話だと、親子会社があって、法人格は分かれている。所有関係は、大体100% に近い。子会社の従業員は、ほとんど親会社からの出向である。であるから親会社の人 事部、本社の人事部が給与体系等々を全部決めているという場合に、仮に子会社に労働 組合があった場合に、どこと団体交渉をするのですか。 ○西村先生 それはシチュエーションによると思いますが。 ○呉研究員 まず整理しなければいけないと思うのは、出向者に問題があって、それを解決するため に、例えば出向元の会社に団体交渉を求める、そういう話ですか。 ○宍戸先生 普通の状況では、子会社経営者と子会社労働組合との団体交渉がされていると考えてよ ろしいのですか。 ○呉研究員 私が知っている限りで、出向者の労働条件については、ほとんど本社、出向元が持って います。ですから、何か問題があれば、出向元に労働組合があるので、そこから労働組 合に申入れをして解決してもらうようにしているわけです。 ○宍戸先生 要するに親会社、本社人事部と子会社の労働組合が直にやるわけですか。 ○呉研究員 子会社の労働組合ではなくて。子会社に派遣されているので。 ○宍戸先生 出向者は子会社で労働組合をつくることはなくて、親会社の組合員のままであるから、 そういうことは起こり得ないということですか。 ○呉研究員 大体、出向者が多ければ分会をつくるわけですが、それは本体の労働組合の分会であり ますので。 ○宍戸先生 分会であっても、交渉対象は親会社なわけですか。 ○呉研究員 親会社です。 ○宍戸先生 それが出向者の場合であると、事実上は親会社とやっているということですね。 ○呉研究員 ええ、転籍になれば別ですが。 ○毛塚先生 普通は契約関係が両方にあると理解されていますので、「使用者性」の認定は、それほ ど困難な問題ではないと思います。 ○山川先生 先ほどの朝日放送の判決と同じように考えれば、出向先に独自の権限があるものは出向 先が団体交渉義務を負う。しかし、いまの呉さんのお話は、出向前に大体条件を詰めて しまいますから、現実的に働いた労働時間や安全衛生で問題が起こって、それが出向先 の権限である場合には出向先だと。たしかネスレか何かでそんな判決があったと思いま す。また、労働基準法の適用においては、権限に応じて両方が労働基準法上の使用者で あると、たしか、そういう通達がありますよね。 ○宍戸先生 両方がなり得ると。 ○山川先生 はい。 ○西村先生 特にIIIの論点の整理が今後の大きな課題になると思うのですが、これについては、次回 までにそれぞれの方に宿題として考えておいていただくことにしたいと思います。 ○宍戸先生 すみません、一人でしゃべっているみたいですが。会社法の立場から、これはちょっと と思うのが、株式保有割合、取締役会構成、これらによって「使用者性」を判断できる かと。これは純粋にコーポレートガバナンスの話ですから。労働法の観点から影響され ると、コーポレートガバナンスの中立性を害してしまいますので、これは是非外してい ただきたい。あくまでも実質判断です。  ファンドが過半数の取締役を取るということは、全然悪いことではないのです。むし ろ、そういう積極的な関与をしていくべきなのであって、我が国のファンドが何か及び 腰に1人か2人だけ出してというほうが会社法的には問題だと言われているところで、 それが過半数を取っていると使用者性があるという1つの判断基準にされるような議論 は、私の観点からすると、ちょっと問題だと思います。 ○金谷参事官補佐 ご指摘のようなことは、純粋持株会社の検討を行った際にももちろん議論としてござい ました。しかし、今回ファンド研究会を開催しまして、第2回のときに日本経団連と連 合からヒアリングを行った際に、一部こういった意見もございましたので、サジェスチ ョンとして出させていただいたものです。 ○西村先生 あくまで、判断できるかという疑問ですから。 ○山川先生 良好な労使関係を構築するポイントの中で、最後の表を見ますと、労働組合へのファン ド又は被買収企業からの説明というのがあって、いろいろな所で情報提供の問題が出て きます。その辺りが重要になってくるのではないかと思うのですが、どのような情報提 供を行えば労使関係にとって良好かという問題がある。もう1つは内部取引、インサイ ダー取引の問題があるので、どの辺りの情報提供を行うことが可能であるのかという2 つの側面が問題になるかと思うのですが、それについては、これまで何か議論があった でしょうか。あるいは、ここの中でなくても、議論があり得るでしょうか。 ○金谷参事官補佐 2つ目の点ですが、インサイダー取引にならないように注意しなければならない、とい う議論がされたケースは、たしかあったかと記憶しております。それと、本当に、買収 の前日になって情報提供をしたというケースもございますので、そこら辺について議論 の余地はあろうかと考えております。 ○西村先生 今日はこのぐらいにしておきまして、次回第8回の研究会についてご説明をお願いいた します。 ○金谷参事官補佐 第8回研究会は、平成18年1月31日(火)午後3時30分〜5時30分、場所は厚生労働省 6階共用第8会議室で開催を予定しております。追ってご連絡を差し上げたいと思いま すので、よろしくお願いいたします。 ○西村先生 本日の会議はこれで終了いたします。どうもありがとうございました。                   照会先 政策統括官付労政担当参事官室 法規第四係 山本                TEL 03(5253)1111(内線7748)03(3502)6734(直通)   2