06/01/13 労働に関するCSR推進研究会第3回議事録              第3回労働に関するCSR推進研究会                       日時 平成18年1月13日(金)                          10時〜                       場所 厚生労働省共用第6会議室 ○奥山座長 委員の皆様がお揃いのようですので「第3回労働に関するCSR推進研究 会」の会議を開催したいと思います。今年はどうも例年に比べて非常に寒いようですが、 寒い中、どうもありがとうございます。第2回の会議では事務局のほうからCSRに関 するいろいろな指標の実例を、各省庁も含めて出していただき、そのチェック指標や情 報開示項目の在り方について、各委員の皆様からご意見をいただきました。それを受け まして、今日も含めて第3回以降は、本研究会の目的であります自主点検用のチェック 指標や情報開示項目の在り方について、どう考えていったらいいかということを具体的 に進めていくわけです。  それに関連しまして、国内の労使の代表的な団体である連合、それから次回は経団連 を予定しておりますが、そのお二つの労使の代表から、普段考えているところのご意見 を承りたく、今日はヒアリングということで予定をしております。ヒアリングの事項は 資料1で既に皆様のお手元に出しておりますが、それを中心に少しご説明をいただいた 上で、私どもから少しご質問等をさせていただけたらと思っております。それでは、本 日ご出席いただきました方について、事務局のほうからご紹介をお願いいたします。 ○労働政策担当参事官室室長補佐 それではご紹介させていただきます。日本労働組合 総連合会総合政策局、熊谷経済政策局長です。 ○熊谷経済政策局長(日本労働組合総連合会) 熊谷です。よろしくお願いいたします。 ○労働政策担当参事官室室長補佐 同じく経済政策局の吉野部長です。 ○吉野経済政策局部長(日本労働組合総連合会) 吉野です。よろしくお願いいたしま す。 ○奥山座長 どうもありがとうございました。早速ですが、ご説明をお願いいたします。 時間としては60〜70分ぐらいを予定しておりますので、よろしくお願いいたします。 ○熊谷経済政策局長 おはようございます。連合でCSRを担当するセクションの局長 をしております熊谷でございます。今日は直接の担当者であります吉野部長とともに参 っております。  まず、この研究会で、奥山座長をはじめ先生方、職員の方々が労働のCSRについて ご研究、ご検討をされていることに敬意を表したいと思います。  今年はCSRをめぐる論議が、特に国際的にもかなり活発になっております。実は、 私はストックホルムで開催されたISOの社会的責任のリーダーシップ会議に、リーダ ーシップと言ってもかなり人数はいるのですが、その1人で、その会議から昨日の夜戻 ってまいりました。明後日からは、国連環境計画の本部のあるナイロビで初めて、国連 環境計画の主催による労働組合の世界会議というのが開催されます。5つの分科会があ るのですが、その1つがCSRになっています。これは国連の環境計画を、関係あるス テークホルダーで協力して是非ともにやろうという呼びかけであります。CSRを通じ てどこまでできるのかという分科会に出るようにという話がありまして、今日の夜のア フリカ行きの便に乗るところでありますが、20日の国会開始までには帰ってくることに なっております。こういうふうな動きに年の初めからなったことは初めてでして、今年 は1つの大きな動きの年だなと思っております。  それにつきまして、こういう状況ですので是非ご指導をということを、いろいろご指 導をいただいている某大学の法学部長の先生に年賀状で送りましたところ、「企業の社会 的責任というのは何年かに1回議論が起きるけれども、まあ前進しないものですね」と いうふうにメールが届きまして、かなりクールにご覧になっている大先生がいらっしゃ るなと思いました。そういうことも心しながら対応してまいりたいと思っております。  本日のご説明は、質問項目はいただいておりますが、初めてご説明申し上げますので、 まず連合としてのCSRについての基本的な考え方、連合の中で相談してまとめ、機関 で確認したものについてご説明を申し上げて、その中で、質問の項目についてはお答え していく、また、お答えし切れない部分がありましたら質問をいただいて、我々の中で 確認したことに基づいておりますので、答えられることについてはお答えを差し上げた いと思っております。  お手元に「CSR(企業の社会的責任)に関する連合の考え方」という資料をお配り いただいていると思いますので、それをご覧いただきたいと思います。まず、CSRの 国際的な議論が、特に今年はかなり活発になってきていると思います。国際的な議論が 活発になってきていることの背景には、いろいろ多くの動きがあると思いますが、1つ 今年が焦点になるかと思います。同時に、ここにありますように、企業の不祥事などが この間、かなり国際的にも国内でも発生してまいりました。連合の中央執行委員会でも、 当該企業の中にある労働組合から、「この諸不祥事を組合としても防ぎ切れなかった」と いう反省の表明が何回かございました。我々も連合全体としての事務局長談話などで「こ ういうことが起きないように、組織としてチェック機能を十分果たしていこう」という ことを確認しているわけですが、そういうことを連合の最高レベルの会議で確認しなく てはいけないというぐらい、不祥事等いろいろな動きがあったわけです。  また地域的な問題、あるいは、最近話題になっているニートといわれる若い方々をど ういうふうに社会的に見守って育てていくか、あるいは、その悩みを解決して、きちん とした仕事の位置づけに持っていくかということについて、労使でどういうことができ るだろうかというような話もございまして、これも広い意味でのCSRにつながる話で はないか、こういう問題も出てきていると思います。  労働組合は、特に欧米に行くと、企業別のものはほとんどありません。我々としては、 企業別の枠を超えた社会的責任は、ある程度のハードルが企業別の組合にあるわけで、 積極的にCSRの問題には対応していきたいということがございます。こんなことを相 談しまして「CSRをめぐる現況と課題」を議論したわけであります。  「CSR」とローマ字で表現することがどうか、よく連合の運動方針でも、本部は片 仮名やローマ字が好きだけれども、それはできるだけやめろという意見がよく出てまい ります。片仮名やローマ字を使うと、本気なのかと思われることもあるわけです。そう いう意味で「CSR」という言葉を使って何をしようとするのかを、きちんと把握して おかなくてはいけない、まずそう思っております。  1つは、これまでよく言われた「企業の社会的責任」。これは足尾の鉱毒事件から始ま って100年以上、労働組合や先駆的な団体が取り組んできているわけですが、今回「C SR」というローマ字3文字にしているのは何なのかということであります。  1つの変化としては、経済・企業活動のグローバル化。これはこちらの先生方に申し 上げるまでもないことでありますが、特に多国籍企業というものが、東西の対立がほぼ 終息の方向に向かっている中で、国家を上回る実態として現れてきているという問題が 根本にあるのだと思うのです。世界の経済的な力というのを1番から100番まで並べる と、国が49で多国籍企業が51であると既に言われていまして、アフリカの貧しい国が 40ぐらい束になっても、最大の企業にかなわない。そこに投資している多国籍企業が引 き上げる、引き上げないと言うだけで国の経済が破綻してしまう。特にこういうことに 直面しているアフリカのような所では、企業の社会的責任の問題について、CSRをき ちんとしてほしいというのは国家レベルの話になっております。  ISOでルールを作る必要があるのかという議論になったときに、労使、政府を含め て、途上国から是非作ってほしいという声がストックホルムで2004年に出たわけです が、経済的に多国籍企業に全くかなわない、国レベルでかなわないという悲鳴がその背 景にあるということです。多国籍企業は悪いことばかりやっているのではなくて、よい 活動もされているわけですが、しかし、そうでないこともあるというわけです。  国際的な動向で申しますと、国連がどうやって取り上げるかということが、この十何 年ずっと続いてきたわけでありまして、国連の多国籍企業委員会が何らかのことをした いと。国が問題の行為をしますと、国連の安全保障理事会であれだけのことをやるわけ ですが、国を上回る主体の多国籍企業に対して、世界のガバナンスの責任を持つ国連が 何かできないのか、あるいは、すべきであるという方向は非常に強く持っているのです が、今日までそれが実現していないという根本問題がございます。  ISOの「社会的責任」をなぜ始めるかという最初の報告書にはそれが明記してあり ます。こういうことをしなくてはいけないのは、国家を上回る実態となりつつある多国 籍企業をきちんと扱う国際法を国連が作るに至っていない。これがきちんとしていれば、 そこを軸に、安全保障理事会と同格にし得る「経済・社会理事会」できちんと扱えれば、 多くの問題が前進する。理事会のことまで報告書は言っておりませんが、これができな いということの根本には、そういう問題があると。これは国際的に共有されているCS Rの考え方でして、この根本がずれますと、おそらく、世界的には全く相手にされない CSRの議論になっていくのだと思っております。このことは諸先生の前で申し上げる のではなくて、私の心がまえとして申し上げました。失礼がありましたらご容赦いただ きたいのですが、そういう流れの中で「CSR」という言葉が使われるようになったの です。  同時にステークホルダーが大変拡がってきたということでありますが、これが見られ るのはヨーロッパです。昨年は英国でこの話の会議に参加しましたが、英国は現在労働 党政権ですから、英国の労働組合は相当社会的発言力を持っております。しかしCSR となりますと、NPOのグループがそれに負けないぐらい発言力を持っております。  ロンドンでの会議では、イギリスの組合の主なメンバーの中には「NPOと全面的に 組んでやるべきだ」「いやいや、労働組合が主導すべきだ」というので私の前で大論争を しておりました。そのくらい労働組合の本家本元の英国でも、ステークホルダーの拡が りの中で、どう対応するかという議論が進んでおります。  また、企業の多国籍化の中で、ここに書いてありますような相当幅広いステークホル ダーに目配りが必要である、労使だけで決めたらよいというものではないということが 世界的に拡がっているわけです。  同時に、雇用労働関係では非典型雇用や間接雇用の問題が増えてきています。日本の 場合は、世界に冠たる雇用労働者の国でありますが、アメリカに続いて、その雇用労働 者が多様化しているのです。このような国際的な問題等を含めた大きな背景があって、 CSRという新しいニュアンスを持った対応が我々としても必要だと考えています。  ここで注意しなくてはいけないのは、CSRには多国籍企業を含めたコンプライアン スの根本問題があります。それと切り離した部分のCSRという独自の、いわば上積み 部分だけを扱うというふうに使われるのであれば、CSRはないほうがいいわけであり ます。コンプライアンスを含んだ、そして、世界のガバナンスにも通じる幅広いもので あってほしいと思っており、そうでなければ、私たちとしては賛成できないということ になります。  次は「CSRをめぐる二つの流れ」です。この流れの1つ目は、日本の企業の環境対 策で、これはかなり進んでおります。労使参加のもとで環境報告書などを出して、大変 立派な報告書が出ている所もあります。こういう問題はナイロビの会議でも報告をして、 こういう意味では日本の事例は参考になる、という報告をする準備をしているところで す。  しかし一方では、不払い残業、いわばサービス残業、それから過労死の問題というの が引き続いてございます。この問題について連合で労働相談を扱っている部署と話しま すと、CSRもいいが、過労死も起こりそうなサービス残業をやっている会社が「うち はCSRはきちんとやっています」と言うようなことになるような労働CSRではとん でもないから、そういうことになるなら、やめてもらってくれという話もあります。  労働の面でも進んでいる企業もあり、日本経団連の奥田会長が記者会見のときに言っ ておられましたが、日本的経営の良さもあるけれど、しかし一方では大変大きな問題も あり、労災も続発している。そういう問題が労働の問題ではあるということです。した がって、大変進んでいる面と、それから、国際的にも“karoshi”とローマ字で表現され るようになってしまっているという2つの問題がありまして、これは両方とも労働CS Rの重要な問題であると思っております。  最初に申し上げたように、多国籍企業の問題がある。それから、労働を重視するヨー ロッパのCSRの動きがある。あとはイギリス、アメリカでの社会的責任投資の問題が ございます。これが進展しているということが1つの背景です。  ここに直接書いておりませんが、労働組合としてもワーカーズキャピタルという委員 会をカナダの組合事務局に持っております。国によっては、雇用保険や労災保険は労働 組合のナショナルセンターが運営している所もあります。そういう場合、ファンドをど う投資するかについては、社会的責任、CSRをきちんと守っている所にすべきである と。日本ではまだあまり知られていませんが、SRIの組合版という話も動いておりま す。大体この3つが背景であります。  次は「CSR概念のばらつき」です。社会報告書や環境報告書などがどういうふうに 作られているかという話がございますが、それの実態についてのホームページがありま す。報告書はいいけれども、中身があまりそうではないのではないか、というような裏 筋をいろいろ拾っている人もいるわけです。労働組合も参加して、本当の意味で立派な 報告書もかなりございますが、同時に、丸投げをして出来ていて、会社の人もほとんど 知らないというような報告書もあり、その背景には、CSRの概念のばらつきがあるの ではないかと。CSRが、ここに書いてあるようなコンプライアンスに背反する行為の 隠れ蓑になるおそれがあるので、これは無いということをはっきりさせる必要がある。 そして、それをはっきりさせるのは、やはり組合の仕事だろうと思っております。  同時に、報告書の内容が本当なのかということについて、組合の委員長名で、場所に よっては組合の委員長の写真も入っていますが、お互いに議論して、こういう問題があ るけれども更に前進したと書いてある所もありますし、そうでない所もある。そういう 意味で、CSRの概念がどういうものであるかというのを更にきちんとさせていく必要 があると思っております。  次は「労働組合の動向」です。「労働組合も、企業別組織の閉鎖性を超えて」と書いて あります。例えば、大きな組合になればなるほど忙しく、私も従業員約8,000名の自動 車工場におりましたが、地域からいうと「あそこは大企業であるし、そんなに問題はな いのではないか」というように見られるのですが、そこの組合というのは朝7時から夜 12時ぐらいまで、特に苦情処理を中心にいろいろなことが発生しますので、猛烈に忙し い。そうなると、なかなか外にも出られない。そういうわけで、連合としては産別やナ ショナルセンターの活動を重視しておりますが、それぞれの企業別組織が消費者や住民 の立場に、あるいは国際的な動向を踏まえて企業活動をチェックするということをしま せんと、いろいろな不祥事に対応できない。また権利、労働条件の確保、これは欧州の CSRの中心でありますが、こういう問題についての取り組みを進めていく必要がある と思っております。  以上が背景的なことなのですが、「CSRに対する連合の基本的な考え方」を述べます。 まず「CSRの基本理念」です。これについては連合の中でもいろいろな議論がござい ます。やり方もサービス業、製造業、その他で大分違うわけですが、ここにありますよ うに、「企業において、各ステークホルダーに対する説明責任を果たし、人権擁護、環境 保全、雇用確保、質の高い労働条件・労働環境の確保、コミュニティへの貢献、文化活 動への貢献など、それぞれの行動規範にもとづき、社会の公器たる企業の存在意義を示 すとともに、社会的公正ルールの形成などに寄与すること」、このように連合としては定 義しております。したがって、これは企業の経営のあり方そのものでありますし、また、 関係するステークホルダーとの関係にも直結していくということですので、ステークホ ルダーとの対話を通じて確定していくものです。  この中で、特に労働のCSRという問題ですが、私どもから見ますと、労働のCSR の根本は、労働相談を通じて労働法を守っていない、最低基準を守っていない、あるい は、労働法の主要なポイントを知らない使用者の方が、例えば中小零細企業のアンケー トですと半分ぐらいある。もちろん、大変きちんとやっておられる方もいるのですが、 全体から見ると、そんな状況だと思います。やはり、労働CSRの根本は労働法を守る ことです。ですから、労働法すら理解が進んでいない分野においては、まず労働CSR というのは労働法を遵守するということに尽きると。そこまで言うと言いすぎかもしれ ませんが、まずそこから始めなければ信頼が得られない。  現在、お隣の中国でも労働CSRに国家レベルで相当力を入れておりますが、これは いわば労働法をどう守るかということに焦点を当てたCSRです。特に東南アジアや途 上国では、まさにこの問題が重要でありまして、労働法という、いわばハードな基準、 これに対して、守るほうにどうやってラクダに乗せて持っていくのか、自動車に乗せて 連れていくのかということをCSRの根本にしたいという所も途上国では多いわけです。  日本は当然、そこまでではないわけですが、労働CSRのいちばんの根幹は労働法の 遵守、それから国際基準の遵守というところにあって、これは横に置いておいてローマ 字3つの「CSR」という世界があるということはあり得ないし、あってはならないこ とであると思っております。先ほど言いましたように、もしそういう方向の議論がある とすれば、私どもとしては全く賛成ができない、そういうCSRはやめてほしいと強く 申し上げることになると思います。  しかし同時に、そこばかり力んでいてもしょうがないわけであります。例えばILO という労働基準は、ILO条約と勧告という2つがございますが、これは大変参考にな ると思います。つまり、ILO条約というのは、1日8時間を原則とする、週40時間 を原則とするなどと最低基準を決める世界です。ところが、これはまだ十分に普及して いませんが、ILO勧告というのは、できたらこれをやってほしい、これをやれば素晴 らしいではないか、というと少し怒られるかもしれませんが、なるべくこれをやってほ しいというものです。特に先進国、産業主要国の労使に向けて、労使が参加して作った 望ましい、あるべき基準である。  したがって、労働CSRというのは、ILO的に言えば、最低基準としての一種の強 制力を前提にした、すべてが守るべき条約というものと、それに単なる上積みではなく て、労使の話合いの中で「是非これは目指そうよ」という確認をしてある、あるいはス テークホルダーの方も加えて確認した勧告の部分です。いわば労働CSRの総本山であ る国際労働機構がそういう形をとっておりまして、これが世界的に受け入れられている。 ですから、こういうことも1つ大きな参考になるのではないかと思います。GRIが2 段階を作っておりますが、これも同じような考え方であろうと思っております。  そのような観点で見ますと、ILOの国際労働条約だけではなくて、勧告もこの観点 から見ると、我々としてはどういうポイントが不足しているのか、あるいは付け加える と望ましいかということをもう少し分析する必要があると思っているのです。いまの段 階で、これがCSR的にいちばん望ましいというところまでは整理してありませんが、 そういう形のものがあるという認識でございます。  次は「雇用・労働、人権分野の重視」です。これについては先生方に申し上げるまで もないことですが、特に欧州の場合、このCSRは労働が中心です。2000年にリスボン で採択された雇用戦略の中で、それ以前の、いわば自由競争、規制緩和主導型のものは 欧州としては問題があった、もっと社会的な雇用戦略を作らなくてはいけない、という 流れの中で、このCSRの議論に労使が参加していった。ステークホルダーについての 会議が設定されたり、イギリスとフランスでCSR大臣が任命されたり、いろいろ一進 一退を続けておりますが、欧州は欧州労連という組合がCSRの担当を置いていろいろ 議論をしているところです。  したがって労働組合の側から、あるいは労使の側からということになるのかもしれま せんが、積極的に働きかけていくべきことは、雇用・労働分野におけるCSRの明確化 です。どうしても企業内の労働条件のことになると、勝手口から出入りする話というふ うにされてしまうわけです。「町内会の付き合いはいいけれど、どうもうちの中ではやや 乱暴なお父さん」、そういうことになっては困るのでありまして、まず企業の中の雇用・ 労働に関するルール、これをきちんとすることが社会的責任の大原点である。そういう 意味でCSRを我々としては是非活用していきたいし、明確化していただきたいのです。  例えば、性差などによる社会的な差別やハラスメント、あるいは「パワハラ」だとか、 今いろいろ言われております。それからパートタイマー、請負、派遣労働者。特に派遣 労働者の問題については、最近いろいろ問題が多いということが随分言われております。 もちろん、こちらの省のご努力でいろいろな改善も進んでおりますが、同時に、派遣と いう立場の中で、なかなかつらいこともあるという報告も最近増えている、という問題 があるわけです。  職業生活と私的生活の問題、単身赴任の問題は以前からいろいろ言われておりますが、 そういうことに対してのいろいろな改善の問題、それを含む私的生活の問題、地域生活 とのバランスの問題、このようないろいろな問題がありまして、ルールを守りつつ更に 働きやすい職場をつくっていく、そして地域に労働を通じて貢献していく、こういう問 題を重視していく必要があると思っております。  そしてILOの中核的労働基準、これが根本であると思います。ちょうどILOが75 周年。これは1919年ですが、75周年を迎えたときに私はILOに行っておりましたが、 そのときには100周年はあるのかと。ILOも地盤沈下が相当ひどくなるのではないか と、いろいろ話がありましたが、この中核的労働基準が、国連をはじめ世界的に受け入 れられてきました。国連環境計画の事前配付の文書にもきちんと書いてありまして関心 したのですが、これがきちんと受け入れられてきたということで、ILOも21世紀の 役割を持っているのです。  その根本がこの「中核的労働基準」です。まず労働基本権の問題、つまり結社の自由・ 団結権・団体交渉権であります。中国の最近のCSRを見ましたらちゃんとこれが書い てありました。これを言わないと相手にされないということについては、世界的に認知 されているということです。それから強制労働の禁止、児童労働の禁止。強制労働の禁 止というと、この日本では縁がないように思われますが、しかしサービス残業や過労死 はこれと関係ないのかというふうに国際的に見られていることは間違いありません。  次の頁には、同一価値労働同一賃金、雇用および職業における差別の排除、というこ とがあります。男女の賃金の差というのはもちろん、いろいろな理屈で法違反ではない というような説明がありますが、国際的に見れば「何でこんなに違うのだ」と当然言わ れるわけです。男女が分け隔てなく同一の労働条件で働けるような企業の風土をつくっ ていくという気持ちはあるわけですから、あとは、どうやってつくっていくかというこ とですので、これもCSRの大変重要な役割だと思うのです。これを前進させることが できれば、日本国の労働CSRも捨てたものではない。国際的に大変注目されています ので、日本はどうもここが駄目だと思われてはならない。もちろん、それだけではない わけですが、例えばそういう問題があるということだと思います。  こういう問題についてOECDの多国籍企業ガイドラインがあります。OECDの多 国籍企業ガイドラインは、ISOの報告書の中でも、現在のところ、国際的な政府間合 意の中ではいちばんレベルが高いものと言われております。これも先生方に申し上げる のは恐縮ですが、多国籍企業がどういうことでCSRをきちんとしていくべきかという ことを中心に、「企業の活動と政府の政策との間の調和の確保」をする、それから「企業 と企業が活動する社会との間の相互信頼の基礎の強化」「外国投資環境の改善の支援」「多 国籍企業による持続可能な開発への貢献の強化」。この中には環境の問題や贈収賄の問題 も含まれております。しかも、問題があると思ったときにそれを、ソフトロー的ではあ りますが、訴えることもできるシステムを作ったものということです。これが現在のC SRに関する国際社会の到達点の1つです。そして、これが労働CSRの基本の1つで あろうと思います。  スウェーデンから昨日の夜に戻ってきたと申しましたが、スウェーデンにも連合のよ うな組合がありまして、そこのCSR担当と話しておりましたら、「いや、大変なんだ」 と言うのです。OECDでも多国籍企業ガイドラインがあれば99.5%、少なくとも労働 とその周辺のCSRは解決できるのに、何であなたがISOの議論に参加せにゃいかん のだ、と組織内で言われていると言うのです。  ただ、ご案内のとおり、スウェーデンというのは非常に国際的な国でありまして、い ろいろな会議で主な仕事をしているような人たちというのはほとんど、イギリスやアメ リカよりも分かりやすい、きれいな英語を話すような国ですので、企業活動を含めて国 際化が進んでおります。したがって、多国籍企業ガイドラインが99.5%カバーするとい うのも、スウェーデンでは、ちょっと大袈裟だとは思いますが、あながち分からなくも ない。ただ、ある意味ではその対極にある日本国では、コンプライアンスの問題等もあ りますので、これだけで99.5%というわけには当然いかないのです。ただ基本的には、 こういう多国籍企業のガイドラインは、多国籍企業と言っておりますが、企業や組織が 守るべきものとしての基本を定めているということで、これが1つの源流になり得る、 非常に重要なものだと思っております。これは1977年に出来たものです。  その前年にはILOのほうも、多国籍企業についての三者宣言というものを出してお ります。これは実行確保措置は付いていませんし、また、かなり細かく書いてあります ので、日本人的には読みにくいものですが、非常に重要な内容を言っております。この 2つは、労使というステークホルダーと政府が責任を持つ形で関与して、政府間で取り 決められたルールに基づいてきちんと採択をされたものですので、国連が多国籍企業に 対してのきちんとしたルールをいまだ実現できていないという段階では、この2つが労 働CSR、いや、それをもう少し上回る広さを持った根本的な世界的なルールですので、 これを抜きにして各国の労働CSRはあり得ないと思います。  ICFTU/APROの企業行動規範と書いてありますが、ICFTUというのは労 働組合の世界団体です。ベルギーに本部がありまして、全体としての組合員が1億5,000 万人ぐらいいるのですが、APROというのは、その中のアジア太平洋の地域組織です。 これはシンガポールに本部がありまして、ここの書記長は連合の鈴木が務めております。 そこでアジアでの企業行動規範をきちんと作っていこうではないかということで、日本 でのいろいろな経験も踏まえながら、アジアレベルでの企業行動規範を提起しておりま す。私どもとしては、これも大変重要な規範だと考えております。  「雇用・労働分野の基本項目」には何があるのかということになりますと、例えば6 頁にはGRIから引いた「社会」という分野について確認すべき項目がございます。こ れは現在ISOでも1つの議論の対象になっておりますが、このようないくつかの点が あります。「労働慣行および公正な労働条件」には雇用、労使関係、安全衛生、教育訓練、 ディーセントワーク、不払残業撤廃などがあります。また「人権」には差別対策、組合 結成と団体交渉の自由、児童労働、強制・義務労働、懲罰慣行、保安慣行、先住民の権 利がございます。「社会」では地域社会、贈収賄と汚職、政治献金、競争と価格設定等の 問題があり、このGRIの項目は非常によく出来ていると思っております。しかもGR Iではこれを基礎に、必須の事項と自主的にできたら望ましい事項とを分けております ので、国際的なイニシアティブの中では非常に参考になるものと私たちは考えておりま す。  次は3頁、「労使協議の重要性」です。雇用・労働分野については、労働組合との話で、 随分労使協議で対応しているではないかというようなご質問の内容もございます。私た ちとしては、基本的に、労働CSRについては「労使交渉を通じて初めて確定されるべ きものである」というのが、当然のことながら組合の立場であります。ここに書いてあ りますように、労働組合の立場から企業のCSRの取り組みを判断する基準は、何をト ップマネジメントが宣言しているかというだけではなくて、その宣言を実施するに当た って、労働組合との対話や労使交渉が保障されているか、そして、それをフォローアッ プしなければいけないので、それがどういう形で実現しているかが分かるようなものに しておく必要がある。そういう意味で、労使協議は非常に重要です。  ご案内のとおり、この中で団体交渉以外の、もっと幅広い事項についても話し合う労 使協議というのは、日本の大企業は世界的にもいちばん進んでおります。企業別組合の 労使協議については、企業の中に閉じているとの指摘もあり、連合の前会長は「我々は 塀の中の懲りない面々になってはいけない」とよく言っておりまして、そういう問題は ありますが、この労使協議は、大企業で9割ぐらい持っております。これは労働CSR の推進にとって極めて重要なものである、日本であればこそ活用できる重要なものであ ると思っております。  1つエピソードを申し上げます。私はILOの会議で、労働基準を作る会議に何回か 出ましたが、「何か付け加えることがあるか」と言われたときに、労使協議を職場でやる ということが書いてないから、これを入れるべきだと言いますと、欧州の組合が手を挙 げまして、「それは難しい、それをやると批准できない」と言うのです。要するに、労働 組合が職場に入れないという国がたくさんあるわけなのです。私は、あなた方の所も少 し職場の労使協議で頑張りなさい、という意味で言うことにしているのですが、国際会 議の中でそれを入れると、あれだけ強いことを言う、あるいは日本よりはるかに強く見 える労働組合でも、職場での労使協議については「難しい」と言うぐらいです。逆に言 えば、日本国の労使協議は捨てたものではないのでありまして、これを是非労働CSR に全面的に活用していくように、ご検討をお願いできればと思っております。  「社会的・政策的取り組みの重要性」ということですが、社会全体を望ましい競争の 方向に導いていくためには、合成の誤謬とか、いろいろな言葉がありますが、個別企業 の社会的責任と同時に、全体のルールをどう作っていくか。社会的・政策的取り組みの 推進が極めて重要であります。各社が自主的にCSRの取り組みをやりなさいと言うだ けでは、社会的に前進しない。そういうことでこの検討会でご研究をいただいていると 思っておりますが、社会的・政策的にCSRが重要だということについて明示していく 必要があると思っております。  次は「雇用・労働・人権の分野に関するCSRの実現の取り組み」です。この方針は 労働組合としての方針です。単にCSRおよび広い意味の組織の社会的責任(SR)の 取り組みにおいて、組合として、1つは、企業経営を監視しチェックする立場、それか ら積極的に自分たちの権利や労働条件、能力開発などの保障を求めていく立場、この2 つが当然求められているわけです。  労働を通じての社会的貢献ということが、労使にとって非常に重要になってきていま す。これは潜在的に、あるいは現実的に相当な問題になってきていると思います。よく 労働組合の中でも言われることですが、日本の若者を今まで教育してきた1つの大きな 場所は職場です。当然、学校の中で基本的な知識等を身につける重要な教育が行われて おりますが、社会、それから人間の付き合い、リーダーシップ、仕事をして貢献する喜 びとは何であるのか、というようなことを若者に教育してきた大きなものは職場です。  しかし、最近のニートの問題などもあり、日本で変わってきている。これは国際的に も注目されていて日本の社会全体が、雇用を重視する日本の社会が変質しようとしてい るのではないか、と国際的にも言われている中で、厚生労働省でもニートの研究会をお 持ちですが、ここで労使が役割を果たしていく。これは先ほどの男女平等の問題と同様 に大きくなっていって、労働CSRの非常に重要な問題、法的なコンプライアンスを守 ることに加えて、新しい社会的な力をCSRが発揮するという場合に、非常に大きな課 題になってくると思いますが、そのようなことを踏まえて社会的な位置づけをしていく。  次は「労使協議と協定締結」です。CSRの重要な内容を労使協議の対象にすること は、多くのところで現在取り組みを始めております。連合の中にはばらつきがあります が、吉野部長の出身の損保労連などは、大変先駆的なことをやっている所の1つであり まして、産別としての方針をそれぞれの組合が確認をして労使協議会に乗せているとい うことです。  各企業でCSR委員会を設置するときに、労働組合が参加している例もありますが、 中には不祥事が起きてから、業法違反が発生してからコンプライアンス委員会を慌てて 立ち上げたという例もあります。労働組合が参加してくれということがあったが、どう すればいいのかというような相談が来ることもあります。そういうことになる前にCS R委員会、あるいはコンプライアンス委員会を置く、そういう場合には、労働組合が参 加し、発言している。そういうものでなければ、これは心配なのです。もちろん、労働 組合がない所もありますから、そこでは従業員代表が参加する。CSR委員会、あるい はコンプライアンス委員会を作るのならば、働く人の声をちゃんと聞くべきだというこ とは霞が関のほうからも、いろいろな検討会からも是非発信していただきたいのです。  ホームページを見ると、企業行動規範はかなり普及が進んでおります。大企業だけで はなくて、企業行動規範を作る、企業憲章を作る。これもなかなか進んでおりますが、 この場合に全然組合に相談がないという所もあるわけで、それについては、きちんと組 合の関与を図っていただきたいのです。  次は取引関係も視野に入れたフォローアップ機関の設置です。以前から、過労死の問 題というのは大企業の周辺に多い、とよく言われております。大企業との発注関係の中 で、いろいろな問題が起きる。CSRはきれいな報告書を出せる大企業を相手にするだ けではなくて、光の当たらない所に光を当てていくということが重要であります。以前 私も自動車工場で部品や何かをきちんとラインに届ける仕事をしておりましたが、どう しても部品がない、倉庫の担当に聞いてもないというので、納入し忘れではないかと言 いました。すると「いや、そんなことはありません」とだいぶ言われました。しかし、 これでは10時間後に在庫が切れてラインが止まってしまう。どうしてくれるのだと言 うと、次の日の朝に製品を持ってまいりました。「大変だっただろう」と言うと「昨日工 場は徹夜したんです」と言ったのですが、それは倉庫の新米の担当が探し方を間違えて、 実はあったのです。そういうことは、大企業と中小企業との間では、実は頻発している わけです。  CSRが社会に光を当てたと言えるためには、そういうところを見ていかなければ駄 目なのです。カラー刷りで表紙に社長の写真が載っているような報告書を出せるような 所、しかも組合のあるような所は、CSRの指標とかそういうものはなくたって、労働 組合がきちんとしていれば、やれるのです。サプライチェーンとか、そうでない所に光 を当てていくというのが、行政が関与したときのCSRの1つの力ではないかと思いま す。そういう意味で、取引先やサプライチェーンも視野に入れたものが片方では必要で す。  それから4頁。今度は大企業が中心になると思いますが、国連のグローバルコンパク トへの参加です。これはCSRの入口として重要である。グローバルコンパクトという のは素晴らしいと言えるかどうかという議論はありますが、やりますよと言えばいい。 今いろいろグローバルコンパクトもそういう意識を持って内部で改善を進めようとして おられますから、一概に変なことは言いませんが、しかしグローバルコンパクトがCS Rの重要な入口になることは間違いないので、これを働きかける。  次にある、国際産別組織による多国籍企業との枠組み協定。これに是非ご理解をいた だきたいのです。日本ではまだあまり目立っていない、締結している所がないのですが、 国際的な産業別組織というのが10あります。国際的な金属の組合は約3,000万人ぐら いの組織です。それから、国際的なサービスの組合だとか、そういうものが10ありま すが、そこが多国籍企業と労働協約を結んで、先ほど言った中核的労働基準、労働CS Rそれだけではなくて、環境とかサプライチェーンも、基礎的なことはきちんとやりま しょうと。  代表的なものはフォルクスワーゲンです。これは世界金属労組と協定を結んでおりま すので、少なくともフォルクスワーゲン傘下の企業については、基本的な労働CSRは きちんとやるということが世界レベルで協約が結ばれています。今年秋に、これをもう 少し促進しようということで国際会議がありますので、日本もそろそろ何とかしなけれ ばいけない。「さあ、大変だ」という気運が実はあるのですが、そういう意味でご理解を いただきたいと思います。今40ぐらいの協約が締結されておりまして、これは今後も 当然増えていくことだと思っております。  「政策的な取り組み」としましては、CSRについて国や自治体にルールを求めてい くことです。また、公契約におけるCSR基準の採用について、自治体における条例制 定などを働きかけていこうと。CSRに問題のあるような所ではなくて、公的な事業を 発注するのであれば、CSRがきちんと行われている所を優先的にすべきではないかと いうようなことを自治体について、これは説得力のある主張だと思いますので、働きか けを強めていきたいと思います。  また、先ほど申し上げた「SRI(社会的責任投資)への関与」の問題ですが、組合 の自主福祉事業には、協同組合としての全労済という事業がございます。こういう問題 について、このSR基準を投資においてきちんとしていきたいと考えています。  4番目の労働組合の側からの評価基準の検討は、まだ検討中でありますが、雇用・労 働分野のCSR評価基準について、労働組合の側からも検討を進めていく必要があると 思っております。特に、中小企業の中で大変な労働相談が連合に増えています。連合の 地方事務所が労働相談を始める、と地方のテレビ局が流すと、土日はそれで目一杯にな ってしまうというようなこともございます。  この前も相談がありまして、九州地方でやや売れている、ウェディングドレスを作っ たり貸したりする所がありますが、そういう所で有給休暇がないというのです。それか ら、残業をすると、地域のパート賃金に下がる。つまり残業の割増しではなくて、残業 の割引きになっていると。ここは結構主な結婚式場に貸出しをしている所で、人気のあ る所でして、そういう人生の最も重要なセレモニーを扱う所が、実は働かせ方がそうだ というのは、労働CSRの根本の問題だということです。  私が労働CSRの問題で話すときにはこの話をしまして、この前も国際会議で話をし ますと、大変ウケるのです。これは、言いすぎると霞が関の皆さんに怒られるかもしれ ませんが、1つの象徴的な例だと思うのです。ですから、そういう意味で労働組合の側 からの評価基準についても検討していきたいのです。  次は「国際労働運動への対応」です。世界では、いま申し上げたようにCSRが動い ております。2004年の12月に、国際自由労連という世界の組合の大会が日本の宮崎で ございました。そこでCSR決議、「CSR」というローマ字3文字のための決議ではな くて、「企業の社会的責任」に関する決議を初めて採択いたしました。これが連合の方針 の基本の1つになっているわけです。その決議について要旨を申し上げますと、「労働組 合はCSRの議論について、働く人の代表としての明確な役割に基づいて参加する」「イ ンダストリーが社会に対する責任を自分自身で定義することは、政治的に正当ではない」 「CSRに関する方針は社会的保護、労働者保護、環境保護に関する規制と矛盾せずに、 明らかにそれを補完する」そして、「労働協約による基準と団体交渉を尊重する場合に限 って支持をする」ということです。同時に、企業の行動に関する正当な規制を回避する ためにCSRを使用することには、断固反対するということです。  現在、NPOなどによる標準化の取り組みがあちこちで進んでおります。私もSA 8000、ISOの議論には参加しておりますが、こういうものは一体何なのか。これは公 的なものに取って代わることは当然できないわけですが、それを補完する意味というの は当然あるわけです。また、企業ごとの取り組みのばらつきを改善していくということ もあるわけです。ただ、やり方を誤りますと、こういう標準化というのは拘束力が何も ない。したがって、やっていると言うけれど、実はやっていない、社員も知らない、そ ういう隠れ蓑になる可能性もあります。したがって、国際労働基準をきちんと盛り込ん だ、コンプライアンスをきちんと含むものにするということが重要であると思うわけで す。  繰り返して申し上げていますように、企業の社会的責任という大変基本的なことの中 から、コンプライアンスを外したCSRというものだけが取り出されるということにな りますと、これは本来のCSRに逆行するのも甚だしいものであります。そういう誤解 が一部にありますので、これはきちんと我々も発言していきたいと思っております。  先ほどのICFTUの決議で、経済界が自分自身で定義する政治的正当性を持たない、 というのは少し分かりにくい表現なので説明しませんでしたが、これは、公的なルール に代わるものを自分自身で定義してはいけないという意味でありまして、経済界が何も するなという意味では決してございません。コー円卓会議にあるような経済界の努力と いうのは、私たちも大変敬意を表しております。アメリカ、イギリス、それから日本の 使用者の方々が中心になってつくっておられるコー円卓会議、これは毎年会議を持って おられますが、これも自主的な取り組みとしてはなかなか貴重な取り組みだと思ってお ります。  コー円卓会議をつくられた方の一人は、昨年の12月に亡くなられたオランダのフィ リップス社の社長です。彼は第二次世界大戦中オランダが占領されたときに、自分の工 場で働いていたユダヤ人労働者を最後まで守ろうとした、そして守ったわけです。しか し、最後は軍隊に追われて屋根裏部屋を渡り歩いて終戦を迎えた。その方が企業は自ら CSRをきちんとしなくてはいけないということで、松下幸之助さんなどと一緒に呼び かけたのが「コー円卓会議」です。そのようなスピリットは我々も大変なものだと思っ ています。決して、使用者は自分で何もしてはいかんという意味ではありません。  ただし、そうであったとしても労使が参加し、政府が参加し、政府間できちんとルー ルが確認された中でできるルールと、自主的なルールの間には自ずと違いがある。そう いうものを補完して、あるいは補完し合って、CSRを良いものにしていく必要がある のではないかということです。このCSRの問題、連合はまだまだ取り組みが不十分で すので、いろいろな場面で参加をしながらきちんとしたものになっていってほしいと思 っています。  また、同時に、先ほど言いましたように、現在いろいろな所で取り組まれていますの で、全体として一体何をすればいいのかということに分かりやすく答えていく必要があ ると思います。その一環として、いちばん重要なCSRをこの研究会が取り上げている こと、労働CSRを取り上げていらっしゃることについては大変素晴らしいことだと思 っています。  同時に、CSRがあちこちで議論されて、失礼な言い方ですが、政府間で縦割りに、 CSRまで縦割りになった、そういうことはないと思いますけれども、ないようにお願 いしたいと思います。同時に、労働に関する分野はILOの原則にもある通り、労使参 加でいろいろなものを作っていこう、ということが国際的にもルールであります。企業、 職場に降りていくものをもし何かお考えであれば、労使参加なしで議論されることにつ いてはいかがなものでしょうか、と繰り返して申し上げてきたわけです。学術的な研究 についてまではいろいろ申し上げませんが、職場でワークするものについては起案段階 から是非労使の参加による形をお願いしたい、というのが私たちの基本的なスタンスで す。  以上が私どもの申し上げてきた点であります。5頁にはCSRに向けた連合、構成組 織、単組、地方連合会でどういうことをしようかということが書いてあります。グロー バルコンパクトは申し上げる必要もないことだと思いますが、枠組協定についてもう1 度申し上げますと、中核的労働基準の遵守について世界的な労働協約でやっていきたい。 現在、世界経済の3分の1、半分を多国籍企業が動かしていると言われています。それ に対して、多国籍企業と国際的な労働組合の労働協約、協定によって、CSRを実現し ていくことをいちばんの基本にしたいというのが世界の労働組合の考えです。そういう 意味でこれは枠組協定ということになります。  以上が連合の考え方です。極力、いただいた質問書の内容にお答えできるようにお話 申し上げたつもりです。それ以外にもしありましたら、是非質疑の中でお答えしたいと 思います。その前に、吉野部長からいまの私の発言で補足はありますか。 ○吉野経済政策局部長 質疑の中で補足していく、ということであれば結構です。 ○熊谷経済政策局長 以上でとりあえず終了します。 ○奥山座長 どうも、有益なお話をいただきありがとうございました。これから質疑応 答に入りたいと思います。事前にお渡ししていたヒアリング項目などを踏まえてお話い ただきましたが、多分、ヒアリングの事項もいくつか個別になっています。もう少し具 体的な説明をということがありましたら、それも含めて委員の皆様からご質問いただけ ればと思います。よろしくお願いします。どなたからでも、どこからでも結構です。 ○足達委員 熊谷局長が意識的に外されたということではないと思うのですが、4頁、 「政策的な取り組み」のところで「企業に対する基本的項目に関する情報開示の義務づ け」という言葉を挙げておられるわけです。ここの部分が本研究会の中身ともいちばん 関係するところだと思いますが、「基本的項目」とおっしゃっている部分についてどのよ うなイメージをお持ちなのか。また「義務づけ」の実効性の確保の形についてどういう お考え、イメージをお持ちなのかを伺えればと思います。 ○熊谷経済政策局長 どうもありがとうございます。少し詳しくご説明しなかった点で 申し訳ありません。まず開示の内容、それぞれ自主的に任せる、あるいは労働法を、ル ールを守ってくださいというだけでは物事はなかなか進まないわけです。我々としても、 この項目というように確認したわけではまだありません。現在検討中です。ただし、重 要な参考として、先ほど申し上げたようなGRIの労働組合が確立すべき項目の例とし ては、資料の6頁にあるような項目というのは非常に基本的なものであろうと思ってい ます。こういうことを基本にしながら、我々としても開示を求める項目についてきちん としていこうと。  同時に「義務づけ」ということも、どういう形の義務づけがいちばん望ましいか、我々 もまだ議論中でございます。ただ、例えばイギリスでは一部そういう制度が実現してい るわけです。その意味で言うと、企業の情報開示項目の中にこの労働CSRのことが入 る。また、同時に「CSR報告書」の中にどういうことが入るのが望ましいのか、入れ るべきなのか。こういうことは義務づけがやはり基本にあるべきではないか。そうでな いと、やれる所だけはやるということになってしまう。基本的な考えとしてはそのよう に思います。 ○吉野経済政策局部長 若干補足します。基本項目の具体的な部分をこれから、連合と しても3月ぐらいを目途に確認していきたいと思っています。その原案になろうと思わ れるものを参考資料として、6頁のあとにお付けしています。これは我々の上司に当た る、逢見という連合の副事務局長がいますが、彼が昨年、中央経済社から出しています 『CSR経営』の第4章の中で「労働人権に関する基本項目」として書いたものです。  ただ、このまま我々の構成組織に出していっても、具体的にどういうやり方をしてい けばいいのか、ということもまだわかりにくいのかなと思います。もう少し分解して、 よりわかりやすい表現にして明確にしていこうと考えています。 ○奥山座長 いまのお話で大体理解しているつもりですが、いまの話に関連して、いた だいた資料の6頁、それから別紙の参考資料で、6頁はGRIが出した全般的な、要す るに企業における社会的活動・貢献、CSRの検討すべき全般的な内容が項目的に、ま だあるかもしれませんが出ています。参考資料のほうは、どちらかと言えば労働のCS Rに的が絞られているようです。そういう観点からすると、先ほどの足達委員のご質問 の中の、基本項目はやはりこの2つを総合的に見てということでしょうか。労働のCS Rだけに特化されるのではなくて、もう少し広い環境、その他のステークホルダーに対 する説明責任などが2つ、調和的な中でからまって出てくるようなことをお求めになっ ていると理解してよろしいですか。 ○熊谷経済政策局長 CSR全体としてはそうです。6頁にある全体の項目が重要参考 ということで確認しています。それから、先ほど申しましたように今日「参考資料」と したのは、まだ連合の中全体で議論していませんけれども、責任の役員としてこういう ことがある点を現在示している段階です。  なぜ、これを今日お持ちしたかというと、労働組合としては労働人権に関する労働C SRがいちばん基本であります。それは何かと聞かれたときには、GRIも参考になる というだけでは当然済まないので、現在検討している。大体この方向に沿って、いま吉 野部長が申し上げたような形になります。 ○寺崎委員 労働コンプライアンスの遵守というのは最低譲れないところだ、というの は非常に当たり前の話だと思っています。これはきっちり守っていただく。そこから先、 例えばこちらで「参考資料」で書かれている、「労働・人権に関する基本項目」の中の「適 正生活保障」と呼ばれているところ、私もどのような方向に行くか興味を持っています。 特に報酬水準、能力開発について、どれだけ基本項目として企業でやるべきなのか。連 合でもし、いま議論が進んでいることがあれば是非教えていただきたいと思います。 ○熊谷経済政策局長 先ほども申し上げたように、ここのところはCSRの3つの段階 ということもあります。まず、コンプライアンスをきちんとする。それから、望ましい 職場の基準。今度はそれを超えて地域的な、企業で言えばフィランソロピーに当たるよ うな、先ほど言ったニートの社会的な問題になると思います。  まず「最低生活保障」と書いてあるところはコンプライアンスの原理ということにな ります。「適正生活保障」と書いてあるところはそれを超える部分です。超える部分につ いて労働時間、報酬、安全衛生、これについてはかなり詳しい連合の方針があります。 ですから、その望ましい方針が念頭にあります。  能力開発・職業リハビリテーションについても、これはまだそれほど詰めていないの ですが、今後非常に重要になってくると思います。この辺については、言わば「望まし い働き方の実現」という方向でCSRが力を持ってほしいということです。いまの段階 で申し上げられるのはそのぐらいです。それぞれの各論について、いまの段階でどうい う方針かということであれば、あとでまた資料をお届けしたいと思います。 ○八幡委員 いまのところと関連して、能力開発が専門に近いものですからお話したい と思います。従業員のレベルでコンプライアンスと言った場合、その人がきちんと倫理 観を持った形で動いてくれないと困るわけです。職業倫理とか、いま姉歯が大騒ぎにな っていますが、あのレベルの問題を解消しようとすると継続教育をもうちょっときちん とやらないといけないだろう。ニートという若い世代ではなくて、もっと上の世代で、 1度資格を取ったとしても、そういう人たちにさらに新しい技術や倫理教育をきちんと 教える。そういう仕組みは多分ヨーロッパ、アメリカもそうですが、プロフェッショナ ルについてはそのような体制がちゃんとできています。日本はそこが非常に弱い。企業 内で何とかやってきたのですが、多分社会的に拡げた場合にいちばん問題になるところ ではないかと思います。それについては何かお考えはありますか。 ○熊谷経済政策局長 これは連合の中で確認したわけではありませんが、「適正生活保 障」の中に書いてある「・」が5つあります。この中で法的なコンプライアンスを上回 る部分として、いちばん意味があるものの1つは、やはりおっしゃるとおり能力開発の 問題だと思います。  先ほど、ニートのことを申し上げました。これは話題になっているからなのですが、 おっしゃるとおり、中核的な仕事をしている社員は「もっと勉強したい」という声がた くさんあるわけです。あるいは、能力を身に付けたい。企業にいなくても能力をどうや って身に付けるか。こういう問題は法的なコンプライアンスを守るという問題よりは、 もう少し次元の違う問題としてCSRが力を持つ。それは全くおっしゃるとおりだと思 います。これはおそらく、連合の中でも異論はないと思います。 ○足達委員 今日のお話をまとめると、この研究会、「自主点検用チェック指標」もしく は「情報開示項目の在り方」を考えようとしているわけです。私どもの研究会のスタン スに対して、連合のご意見というものをまとめてしまうと、自主点検用チェック指標、 情報開示項目が何らかの形で厚生労働省、役所の議論の中で出てくるということは基本 的には望ましいのではないか。  ただ、今日のお話の中で認識したのは、1つは指標を作っていく中で「働いている皆 さんの」という言い方がいいのか、「労働組合の」という言い方がいいのかわかりません が、そういう人たちの声がきちんと反映できるものにしてほしい、これが第1点です。  2つ目は特に情報開示のほうだと思いますが、その指標が運用されていく中で、企業 が「隠れ蓑としないような」とおっしゃったでしょうか。いわゆる、良いところだけを アピールするような形にならないという条件が第2点です。その2つの付帯条件付きで 厚生労働省なりが取りまとめていく中で、こういう指標、項目が出てくることが望まし いと理解しています。付帯条件のところであと2つ、3つ付け加えていただくことがあ るかもしれません。 ○熊谷経済政策局長 いま委員のおっしゃった点、2つだけかと言われるとわかりませ んが、おっしゃったとおりだと思います。指標を作られることについて、意義としては、 自主的に「このような趣旨でやってください」と言ってもどうするのかということにな ります。そういう意味で公正なルール、あるいは望ましい在り方を定着させるために、 こういうポイントがありますということについては評価できると思っています。  ただ、指標さえ順立されればいいというものでは当然ないわけです。その意味でいま 言われたような、1つは意見の反映、むしろ労使が参加して作るものというのが本来は 基本だと我々は思っています。意見の反映はおっしゃったとおりだと思います。また、 運用について「隠れ蓑」にしない。ちょっと失礼な言い方をしましたが、報告書はでき ているけれども、実際はそれがどうなっているかわからないとならないように。労働C SRの労働組合のいちばん重要な役割というのは、実際、それが動いているかどうかを 確認して、それが動いていなければ改善していくという仕組みがなければ、床の間に飾 ってあるだけということになるわけです。そういうところで労働組合、従業員代表とど ういう問題があるかを話し合う。それをされている所もあります、報告書にもそれは書 いてあると思います。そういうことをこれもやはり必須事項としていただきたいと思い ます。そういうことがないと、特に労働CSRというのはうまくいかないのではないか と思っています。 ○寺崎委員 例えば、自主点検用チェック指標みたいなものを運用していく中で、必ず 労働組合なり、従業員代表というものが年1回なのか、定期的にきちんと1つひとつの 項目について、企業側と膝を付き合わせて確認していく。最終的に内部オーディットで はないですが、この内容についてはきっちりと合意しましたというような、マネージメ ントの仕組みを作るということも必要ではないか。チェック指標だけでなく、その仕組 みづくりも合わせてやってくれないと実効性が保てないという理解でよろしいのでしょ うか。 ○熊谷経済政策局長 いま委員がおっしゃったとおりだと思います。繰り返しますけれ ども、こういうものというのは働くほうの目から見たときにどうなのか。例えば指標が あったとして、指標どおりになっている、あるいはこことここがこうなっているという 事に対して、労働CSRですから働いているほうの意見としては「ここと、ここと、こ こはこうではないですか。ここは出来ていないのではないですか」と。それについてお 互いが意見を交換して、それにより改善するというプロセスが入っていないと動かない のではないでしょうか。指標というものが活きるとすれば、そういうものがある、とい うことが前提になっていなければワークしないということだと思います。 ○奥山座長 私からも質問させてください。質問の内容は、お出ししたヒアリングの事 項では5ないし6にかかわる事柄です。  話がちょっと前後するかもしれませんが、先ほど参考資料でいただいたもの、これか ら議論しようという項目ですが、「労働・人権に関する基本項目」。権利の項目というこ とで括ってあるところを見ると、「自由」や「均等待遇・差別の禁止」、それから「生存、 生活保障」の中でも最低生活保障、先ほどちょっと話題に出た適正生活保障という枠組 み、「労働組合」の基本的な結社の自由と団結権の擁護があります。  いただいたものを拝見すると、適正生活保障以外はいわゆる労働のCSRの中でも、 言わば最低の基本的な法令遵守の中身であります。これはILOの国際労働基準を取っ ても、我が国の労働基準法に代表される労働条件保護基準を取っても最低のレベルを押 さえている。それを遵守せよというのは当然の事柄ですから、CSRの中で確認という 意味よりもそれがあって、その上からの問題だろうと個人的には思うわけです。  その中で、適正生活保障というのはある意味ではそれを超える、言わば最低のコンプ ライアンス以上の部分にかかわるような事柄と内容になっているわけです。私は普段、 労働法という法律をやっていますからちょっと理屈っぽい議論になるのかもしれません が、この部分はやはり法令の枠組みの中では労働組合と企業との間の団体交渉、自由な 条件交渉、あるいは労使協議という枠組みがあれば、そのような権利義務の設定ではな くても、労使の自主的な交渉になってくるわけです。その意味からすると、上の最低生 活保障という問題とちょっと質が違う問題になるのだろうと思います。  そういう点で、このような自由な団体交渉と労使協議で枠組み設定をしながら、労使 双方があるべき姿に持ち上げていくということになると、これをCSRの中の、例えば チェックリストの項目にするとか、開示の中身にしていくときに、具体的にはどうやれ ばいいのかというのがちょっと気になるところです。その辺で少し連合の中で議論され たりとか、あるいはいまお考えになっているところでもいいのですが、これから私ども の研究の中で議論していくとき、少し示唆になるようなことを教えていただければと思 います。 ○熊谷経済政策局長 いまのご質問は、ヒアリング事項の中では5と6とおっしゃって いたところです。私どももいただいた内容をいろいろ検討させていただいたのですが、 1つはCSRの定義がこの中にありませんので、どういうようにお答えするといちばん よろしいのかが、やや分かりにくいという事がありました。  そういうことを前提に申し上げますと、適正生活保障以外の部分はコンプライアンス、 女性差別の禁止のところは間接差別はまだですよね。そういうところを除けば確かにコ ンプライアンスの問題ですけれども、コンプライアンスの問題というのは当たり前とい うか、なぜそれが当たり前になっていないのかという問題意識が、私たちの労働CSR のいちばんの基本なのです。  点数化してという話がどこかにありました。例えば、指標で評価していって点を取る。 ただし、それはコンプライアンスの部分は、点数化するものではないと思います。どこ か1つが駄目なら全部バツだと思います。そこまで点数化して、以前ISOでそういう 話があって、それが理由でつぶれたわけです。「コンプライアンスも含めて点数化した上 で評価したら、全体では少し改善しました」と、これはなしだ、というのが1番の基本 です。「労働基準法と道路交通法は守らないものの代表だ」と言われるような状況をどう 直すかというのが基本になっています。  それに加えて、当然きちんと労使で守っている所があるわけですから、そこの適正な 生活保障については例示してありますけれども、もっといろいろな要素、先ほど八幡委 員が言われたような能力開発のところが1行に書いてあるが、もっとたくさんいろいろ なことがあるだろうと。そういうこともあると思います。ですから、この部分について はいろいろな取り組みなどを参考にしながら、相当膨らませていくことが望ましいと思 っています。 ○奥山座長 その際、いまおっしゃったように企業の規模や業種を問わず、いろいろ全 般的に考えると、労働基準法で設定している最低基準でもなかなか守られていない現実 が一方である。それは私どもも承知をしているわけです。そのときに、最低基準をきち んと守っていくべきだということは1つ大きく言えると思います。それが最低というか、 基本なのですが、ちょっとギリギリした議論をすると、こちらの適正生活保障というの はその上で少なくとも、現状である労働の最低基準、国際基準も含めて、それを仮にク リアしていれば、法律的な観点からすれば違法なことをしていないことになる。その上 で、それでいいということではなくて、あるべき姿、日本の憲法で言うと「人間に値す る生活」を営むためには、やはり最低基準というのは最低のものであって、それ以上の ものを労使ともに努力をしながら目指していかなければいけない。  そのときに、目標やあるべき現状をどこに置いて、どのようにそれをCSRの中に具 体化するか。一方では労使の企業ごと、あるいは事業ごとの自由な取引みたいなところ が一方であるわけです。それをいわゆる企業の責任という形で、どのようにCSRの枠 組みの中に入れたらいいのか。いまの私の中ではなかなかすっきりした形ではないもの ですから、先ほどのようなご質問になりました。多分、基本的には「こうしたほうが望 ましい」ということは言えると思いますし、またそれがCSRの中身に入ってくるべき だと思います。ただ、いざ、そのような具体的なものに対してチェックリストを出した り、開示項目としてどのような内容のものを用意すればいちばん効果的なのかというと きに、少しわかりにくいところが私の中でまだあるものですから、先ほどのような質問 になってしまいました。 ○熊谷経済政策局長 先ほどの逢見副事務局長のペーパーで申し上げれば、ここに書い てある5つのポイントは特に重要なので、これについては最低基準を守ればいいという ものではないわけですから、これについていくつか、このような事はどうでしょうかと。 これについては、例えば点数化や評価はわかりませんが、こういうことをしていると労 働CSRとしてはレベルが高いとか。国際的には、先ほど言ったようにILOの条約と 勧告の関係があります。既にGRIもそうですし、単にコンプライアンスを守ればあと はというようになっているのではなくて、もう1つ上の望ましいラインがあるわけです。 そういうことも参考にしながら、我々としてもこういうことを基本に選んでいきたいと 思っています。  非常に重要なことだと思います。一生懸命やっている所はもう関係ないということに なってしまいます。継続的な改善というのがこういう問題のいちばんの基本ですから、 その目標がコンプライアンスを守っていない所、問題のある所を突き離すのではなくて、 CSRで加速して連れていく。問題がない、労使がきちんとやっている所はその次のス テップ、望ましいステップに向けて力を発揮ということではないかと思います。 ○奥山座長 そうなのでしょうね。労働だけに特化するつもりはないのですが、労働の CSRの枠組みで言えば、言葉をお借りすると「適正生活保障」に向けてどうあるべき かということがいちばん目的になると思います。その中の最低のコンプライアンスとい うのは、先ほどから言っていますように、それがあって、その上でどうCSRを動かし ていくかということだろうと思っています。いまおっしゃった事は非常に大切な事だろ うと思います。 ○熊谷経済政策局長 その点、私どもは5、6の質問にどうお答えしようか相談してい たのですが、やはり労働コンプライアンスというのは守られていない実態もかなりある わけです。労働支援策を考えるとき、まずそこに焦点を当てるべきではないか。特に守 られている所というのは、大企業の労使がきちんとしている所ですから、これは別に連 合本部が音頭を取らなくても、霞が関がこうしなさいと言わなくてもやっているわけで す。先ほど言ったようにそうではない所で、特に大企業の周辺で苦労しているようなと ころに光を当てる。そうなると、第1はやはり労働コンプライアンスをきちんとするC SRだろう。コンプライアンスをきちんとして、それで当たり前というのではなくて、 それを超えてこういうこともするというのが基本的な考えです。 ○奥山座長 ある意味では、「つらい」という言い方はおかしいですが、それを言わなけ ればいけないとすると私どもからすればつらいですね。実態はあるのですが、実態を言 って、まず、ここまで守られているのだから上げろということ自身を言わなければいけ ないと、日本の企業の中のCSRというのは、ヨーロッパで言われているようなものか らすると、まだまだ頑張らなければいけないかなというところがあります。 ○寺崎委員 先ほどおっしゃった中で、大企業が自分の所は当然やっていく。だけど、 周辺部分の中小零細に対して、労働コンプライアンスすら脅かすような、ある意味取引 条件というものを黙認しているような状況をつくっているのであれば、例えば周辺部分 に対する労働コンプライアンスを遵守させるというのは、ある意味大企業の責任でもあ るというところまで、我々も拡げて見ていかなくてはいけないということなのでしょう か。 ○熊谷経済政策局長 いまおっしゃった点はポイントだと思います。この前、ある会社 のCSR担当の課長と話したら、そこはいわゆる国内の下請、我々は「協力工場」とい う言い方をしますが、実態として下請です。それから、海外で生産をしているところも あります。ここにどのようにするかが、今いちばん問題になっている。特に、従業員の 代表の人との話合いをどのようにするか非常に悩んでいます。でも、実際にやっている 所はそこまで行っているわけです。そこをいちばん悩んでいるわけで、それに全然触れ ないものが厚生労働省から今出てきても「あれっ」と思われるのではないでしょうか。  いま、いちばんCSRに取り組んでいる担当課長などが悪戦苦闘している、「自分たち の会社だけ突っ走っても、でもやらなければいけない」と悩んでいる人が、公的な霞が 関の指標的なものがあれば、国もこういうことが望ましいと言っているなということに なると思います。サプライチェーンを扱わないものをいまから出すのはあり得ないと思 います。 ○八幡委員 適正生活保障の部分もそうなのですが、PDCAサイクルを回すというこ とだと思うのです。具体的にどういう手段があるかというと、労使協議という話が1つ あると思うのですが、サプライチェーンとか、国際的な分業体制の中でやる場合、実際 連合として、組合で考えると、過去のことを考えるとAPROみたいな形で海外とやっ ていたケースはあります。ただ、いまひとつ、踏み超える仕組みというのはできていな かったのではないかという感じがします。  そういうものをもし組み込むとすれば、どういうことが考えられるのでしょうか。外 注も含めて、そういう所にもちょっと拡げるような協議、意見を汲い上げる仕組み、そ れから、海外展開している場合にその国での労使とうまく連携を取る仕組みとか、具体 的に何が考えられるのかなと思います。 ○熊谷経済政策局長 1つの例として、4月から施行される「公益通報者保護法」とい うものがあります。これも一種の労働法です。この場合、事業所の中に組み込まれてい るサプライチェーン系の労働者も対象にする形になっています。まず最初は、社員では ないが企業の中で働いている人たちから始める。それを仕事上関係があって、影響を受 けている人につなげていく。既に法律でもそういうように動き出しています。企業別組 合はそういうところには、弱いところもあります。それは産別なり、ナショナルセンタ ーがカバーしてくれる領域です。我々も運動として拡げようとしていますので、そうい うところに触れていただければ大変ありがたい。  OECDのガイドラインの違反が実はあまり表には出ていませんが、サプライチェー ンの問題が相当連合に来ています。私も担当の頃は、一時悪戦苦闘しておりました。そ ういう意味で、実は見えないところで既に第一線は取り組んでいますし、悩んでいます。 それについて、何か示唆するようなものであってほしいと思います。 ○八幡委員 確かに、会計基準は連結決算でやっています。労働部分ではそれはあまり ないですね。 ○熊谷経済政策局長 はっきり言って、遅れているということだと思います。 ○吉野経済政策局部長 事前にいただいた質問のうち、まだお答えし切れていないもの が少しあります。6の(2)の「自主点検用チェック指標の項目のうち、情報開示項目 とすることが適当でないと考える項目はあるか」には多分お答えしていないと思います。 端的に言うと、「特にそういう項目はありません」というのが回答になります。法で定め られている個人情報などは、当然提示すべきではないという当たり前の回答ですので、 特にこれまでのところではご説明をしてきませんでした。  もう1点、回答漏れがあるとすれば、10「外資系企業等日本に進出している企業を想 定する場合」の開示項目です。これも、強いて言えば日本において、日本語で説明責任 を果たすような項目を付け加えていただければと思います。母国語だけで説明されても 困る、ということを加えていただければと思っています。多分、回答漏れがあるとすれ ばこの2つだけだと思います。 ○足達委員 もう1つだけ伺いたいと思います。情報開示の在り方について、私なりに 考えている2つのアイデアにご意見をいただければというお願いです。先ほど労使が協 議をしてチェックする部分、「自主点検用チェックシート」はそうあるべきだというニュ アンスのお話が出ました。  今度、開示する部分についての考え方なのですが、私の頭の中には2つのアイデアが あります。開示を前提に労使が合意したものを開示するというアプローチと、合意を前 提とせずに、会社が開示したものについて、労働組合から「我々はそこが違う」という コメントを開示していただく。それによって、ステークホルダーの側は会社の言ってい ることと違う側面があるのだなということがわかる。こういうメリットがあると考えま す。しかも、いま、私が社会的責任投資の企業調査などをやっている立場から申し上げ ると、後者のほうが有用性があると考えるわけです。  一方で過去、組合の皆さんといろいろお話をさせていただく機会では、やはり企業別 組合でそういう形のことは難しいというご意見も随分いただいてきました。うまくニュ アンスが伝わったかどうかわかりませんが、仮にそういう2つのやり方があるとして、 連合としてはどちらがいいとか、それぞれに課題があるでも結構ですが、ご意見を賜れ ますでしょうか。 ○熊谷経済政策局長 いま言われた点ですが、情報開示というのは1つの根本、CSR のメリットです。そういう意味で言うと、労使が合意したもののみを開示するというこ とは世間から見て、CSRの開示とは何だろうというように言われてしまうと思います。  労使の合意というのは、きちんとした所ではきちんとした合意が出来ますが、なかな か出来ない所があるわけです。そうすると、労使が合意するまではなかなか労働CSR が改善されない。そういうことでは具合が悪いと思います。  先ほど、吉野部長からも申し上げたとおり、開示項目に含めるべきではないというの は特に個人情報保護のような、先ほど言ったような法律上の問題がなければ、これはや めてくれというところがないというのが連合全体としての考え方です。実際に運用する ときにどうするかという問題はあるにしても、基本的にこれこれの問題についてはオー プンにすべきであるというのがいちばんの基本だと思っています。 ○奥山座長 私も最後に、これは教えていただきたいのです。先ほどのご説明の中で3 頁のいちばん下、「労使協議と協定締結」で、現状では我が国の企業の中でもCSR委員 会の設置がかなり進んできて、こういう問題についての議論が出てきているというご説 明をいただきました。この委員会、いろいろ個別の議論の中で目的とか、やっている中 身が違うのでしょうが、特にいまの現状で企業の中でやっているCSRの活動とすると、 いちばん議論の対象は労働のCSRのあたりが議論の対象になっているのでしょうか。 それとももっと全般的な、環境の問題やステークホルダーへの情報開示など、全般的な ものをトータルに議論している所が多いのでしょうか。見聞された中ではどちらなので しょうか。 ○熊谷経済政策局長 いまおっしゃった点は、労働がメインの問題になっていれば我々 としてもいいのですが、そうではないのでここに書いてあるのです。CSR委員会、コ ンプライアンス委員会に労働組合は発言していますか、参加していますかというと、ま だ入っているのは少数なのです。どうしてかというと、組合を入れたくないというのも あるかもしれませんが、というよりは環境問題が一時、ISO14000が出てきたときに 環境報告書、環境セクションというものがかなり浸透しました。14000というのはいま、 世界の20何パーセントを日本が取得している。その時点の環境セクションが、CSR セクションに転換されて頑張っている企業が多いので、そのまま組合員なしのCSR委 員会的なものが続いている、という所が多いのが実態だと思います。  ここに書いてあるのは、参加が進んでいないのでこう書いてあるわけです。こちらの 研究会のご報告の結果、「CSR委員会」と名が付くものはやはり働く人の代表が入るべ きという流れができれば、大変ありがたいと思います。いまのところはまだまだですね。 ○寺崎委員 先ほどの足達委員のお話に関連して、とりとめのないことを申し上げます。 情報開示に関して、オープンにすべきだとは私も当然思っています。後ろ暗いものがな ければ、当然オープンにすればいいではないかという当たり前の話がある。その一方で 先ほどの大企業と下請の関係、力関係の中で、例えば定量的な項目基準を作ったとして、 非常に有休の取得率が高いとか、賃金水準がほかの下請に比べても高い水準にあるもの を情報公開することが逆に仇にならないか、がちょっと懸念されるのかなと思っていま す。そういう意味で、積極的ではないのですが、ちょっと開示できないところもあるの ではないかと思っています。「いかがでしょうか」という質問もおかしいのですが、我々 としてはどのように心構えとして持っていればいいのかなと思います。 ○熊谷経済政策局長 いまおっしゃった点はCSRに限らないものだと思います。この 前、新聞に「春闘スタート」とありましたが、春闘で、連合としては、できるだけ詳し い賃金データをほしいと思っています。ところが、自分の所だけが先に高いものを出す となると、周りから叩かれるという問題も当然あるわけです。社会的に物事を進めてい こうという立場と、企業ごとのきちんとした条件を確保しようという立場というのはと きどきぶつかるわけです。公的なものを作ろうというときには、どちらに重点を置くか ということだと思います。それを気にし過ぎてはいけないし、あまり無視してもいけな い。そういう問題ではないかと思います。  これをギリギリ言うとすれば、やはりきちんと義務づけを背景にして、きちんと公開 した所が不利にならないような手立てが必要ではないか、ということがいろいろ労働に 関する制度で我々が申し上げてきたことです。 ○奥山座長 そろそろ予定された時間も近づいてきています。最後に是非ここは聞いて おきたいということはあるでしょうか。よろしいでしょうか。それでは、今日の時点で はご意見、ご質問等が出たようです。どうも長い時間、ありがとうございました。貴重 なお話もいただきました。できるだけ参考にして頑張っていきたいと思います。ありが とうございました。 ○労働政策担当参事官室室長補佐 最後に、事務的にご連絡させていただきます。次回 研究会ですが、日本経団連からのヒアリングを予定しています。日時については事務局 より事務的にご連絡差し上げていますが、2月8日(水)14時からを予定しています。 場所等はまだ未定でございます。正式なご案内については、また追って差し上げたいと 思います。よろしくお願いいたします。 ○奥山座長 日程はよろしくお願いいたします。事務局からのご連絡はよろしいですか。 本日の会議はこれで終了いたします。長い時間、どうもありがとうございました。 照会先:政策統括官付労働政策担当参事官室調整第二係     電話 03−5253−1111(内線7720)