資料2 |
第2回・第3回検討会についてのメモ
I 肺がんについて |
1.石綿曝露と肺がんの発症リスクとの関係について
|
○ | 石綿の曝露濃度と曝露年数を掛けた値と、肺がんの発症率の間には比例関係があるとするモデルが国際的に認められている。(第2回資料4、資料11、53年報告) |
2.肺がん発症における喫煙と石綿の役割について
|
○ | 肺がんは、石綿に特異的な疾患である中皮腫と異なり、喫煙をはじめ、石綿以外に発症原因が多く存在する疾患である。 |
○ | 中皮腫は石綿が原因といってよいが、肺がんについては喫煙が最も大きなリスクファクターであり、石綿曝露を受けた肺がんについてもその多くは喫煙者でもあることから、中皮腫のように石綿と肺がんは特異的関係にあるということは出来ない。(第3回資料5) |
○ | 北欧では、男性の80%、女性の70%の肺がんは喫煙が原因で発症している。(第3回追加資料) |
○ | 肺がん発症において、石綿はプロモーターの役割を果たしている。(第2回資料5) |
○ | 肺がん発症においては、喫煙と石綿は相加作用よりも、相乗的に作用すると考えられている。(第2回資料5) |
3.石綿曝露による肺がんと判断するリスクの程度について
|
○ | 意思決定に用いられる根拠のレベルとしては様々なものがあり得るが、判断の目的によって、寄与危険度割合(発症相対リスク−1/発症相対リスク)が50%(発症相対リスクが2倍)以上を採用する場合や80%(発症相対リスク5倍)以上を採用する場合があり得る。(第2回資料7) |
○ | 証拠の優越を民事訴訟の基礎とする米国では、寄与危険度割合50.1%を因果関係有無の峻別の境界値としている。(第2回資料8) |
○ | イギリスの労働年金省(Department of Work and Pension)の機関であるIIAC(労働傷害諮問会)においては、ある職業又は作用物質が疾病発症の原因であるとするには、発症相対リスクが2以上を示す一貫性のある堅固な疫学的証拠が必要だとしている。(第2回資料6) |
○ | たばこによる肺がんなど、石綿以外の原因による肺がんを鑑別できない以上、石綿を原因とする肺がん発症の相対リスクが2以上となる曝露量を、石綿曝露による肺がん発症であると見なす目安として考えるべきである。 |
4.肺がん発症リスクが2倍となる曝露量とその指標について
(4-1)画像所見による指標について
|
○ | 胸膜プラークがある場合は肺がんの発症リスクが高まるといえるが、それだけを もってリスクが2倍になる曝露があったとはいえない。 |
○ | 胸膜プラークがある人の肺がんの発症リスクは、これまでの疫学調査では1.3倍〜3.7倍と幅がある。胸膜プラークは、曝露開始から年数が経過することによって発症し、低濃度の曝露でも発症することがあり、25本/ml×年以下でも起こるためと考えられる。(第2回資料12) |
○ | 職業曝露歴がはっきりしない者を含む住民健診受診者を対象とした信頼できる疫学研究において、画像上の明確な胸膜プラークがある人の肺がんの発症リスクは1.4倍になるとしている。一方、画像上の明確な胸膜プラークがあり、かつじん肺法に定める所見第1型以上の肺線維化所見がある人の肺がんの発症リスクは2.3倍になるとしている。ただし、これは、線維化した肺から肺がんが発症したことを意味するものではないことに留意が必要である。(第3回資料6) |
(4-2)職業歴による指標について
|
○ | 2倍の肺がん発症リスクに相当する曝露としては、石綿セメント製造業では21〜303本/ml×年、石綿紡織製造業では24〜132本/ml×年、石綿断熱材製造業では22〜50本/ml×年と職業別に様々な報告があるが、国際的には25本/ml×年として広く認められている。(第3回資料5)25本/ml×年とは例えば、1mlあたり1本(1000本/L)の濃度環境下で25年間働いた場合の曝露量に相当する。 |
○ | 石綿の健康影響の評価に関するヘルシンキ国際会議のコンセンサスレポートはヘルシンキクライテリアとして世界的によく知られているが、この中でも25本/ml×年の石綿曝露によって肺がんの発症リスクが2倍になるとしている。 |
○ | ヘルシンキクライテリアでは、具体的な作業としては石綿吹付作業や断熱工事などの高濃度曝露があった場合には、従事期間1年で肺がん発症リスクが2倍となり、造船業や建設業などの中等度曝露では、5〜10年で2倍となるとしている。(第2回資料9) |
○ | なお、ここでいう「従事期間1年」とは、常時当該作業に従事した場合を指している。しかし、石綿作業の内容、作業時間、頻度によっても曝露の程度が異なるため、発症リスクが2倍であると判断するために必要な従事期間は原則10年以上とし、それに満たないものは作業内容等から個別に判断する必要がある。 |
○ | 石綿曝露量が何本/ml×年に相当するかどうかを算定するには、曝露濃度とその曝露期間の情報が必要である。ドイツでは職業別、作業別及び年代別に曝露濃度の程度を数値化している。日本においては、曝露当時のデータがないことから、職業別に曝露濃度の程度を数値化することは難しい。 |
○ | 昭和46年から、屋内における石綿取扱作業については作業環境測定が義務づけられており、作業環境測定結果がきちんと保存されている場合については、その結果を参考とすることはよい。 |
○ | 現在発生している肺がんは、作業環境管理が必ずしも良好でなかった30〜40年前に最初の曝露をしたものであることから、石綿曝露作業歴10年以上であれば、肺がんの発症リスクが2倍になるとして良いが、1980年代以降、少なくとも屋内作業においては作業環境中の石綿濃度は低下しており、今後、石綿25本/ml×年での評価に向けて検討すべきである。 |
○ | フランスでは、アスベスト製造業、断熱作業、石綿除去作業、建築・造船業に10年従事することは、発症した肺がんが職業病であるといえるとしている。(第2回資料10) |
○ | フィンランドにおける補償基準は、少なくとも1年間の高濃度曝露や10年の中等度曝露は肺がんリスクを2倍にする証拠であるとしている。(第2回資料10) |
○ | ベルギーの補償基準では、25本/ml×年の石綿曝露、乾燥肺1g当たりの石綿小体5000本以上、BALFで1ml当たり5本以上の検出、10年の職業従事歴などを石綿による肺がんである条件に挙げている。(第2回資料11) |
(4-3)組織所見及びBALF(気管支肺胞洗浄液)所見による指標について
|
○ | ヘルシンキクライテリアでは、石綿25本/ml×年の曝露量に相当し、肺がん発症率が2倍となる発症リスクに相当する指標としては、乾燥肺1g当たりの石綿繊維200万本(長さ5μm以上)、石綿小体5000本、BALFで1ml当たり5本以上と報告されている。(第2回資料9) |
○ | 平成11年度から13年度における石綿による肺がんの労災認定事例56例について分析したところ、そのほとんどが石綿肺所見、胸膜プラーク所見という画像所見があることを根拠に認定しており、これらの画像所見がなく、石綿小体の個数の計測データだけを根拠に認定した例は1例だけであった。臨床の現場においては、石綿曝露について医学的な証拠を得る場合、まず画像所見を活用し、それでも得られない場合に侵襲的な手技を要する石綿小体の数の測定を行っているのが現実である。 |
5.石綿曝露所見の測定方法について
|
○ | 石綿繊維の測定などの技術は精度管理が重要であり、精度管理がきちんとできる施設でないと、正確なデータは得られない。ベルギーでは、石綿繊維や石綿小体の本数などを数える際には、熟練した専門家が見ている。 |
○ | 石綿小体の数の測定よりは電子顕微鏡による石綿繊維の測定を行う方が精度が高いが、電子顕微鏡による測定は、高度な技術のため、測定者によって測定結果にばらつきがあることが多く、また機器の数も少ないことから、測定方法の中心的なものとして位置づけるのは困難である。 一方、位相差光学顕微鏡による石綿小体の測定は、トレーニングをすれば測定者によるばらつきがそれほど大きくならないことが期待されており、また、今後、全国のアスベスト疾患センターなどの技術的に標準化された施設で、石綿小体の測定ができることとなる予定である。 |
○ | 肺組織を入手するには手術が必要であるが、BALFは気管支鏡で実施可能であり、また患者への侵襲も少なくて良い。しかしながら、下葉で行うのは技術的に難しく、回収率の問題もあるので、採取推奨部位(中葉がよい)など全国的に統一された技術基準を設けるべきであろう。 |
○ | 相当以前に石綿曝露があった場合、石綿小体が肺の間質に移行してBALFでは適切に採取できない場合がある。曝露量の評価の手技としては、肺組織における曝露量の測定、BALF中の曝露量の測定の順に確実性が高いだろう。 |
○ | 石綿小体は、角閃石系石綿の曝露の良い指標であるが、白石綿は、角閃石系の石綿線維と比べ肺内に蓄積しにくいとされ、実際の曝露量とずれを生じる可能性があるが、現時点では当該蓄積に係る差異を定量的に評価する科学的知見がないことから、石綿繊維の種類毎の判断基準を示すことはできない。 |
○ | 以前は、肺組織の湿重量5g当たりの石綿小体の数をもって、職業性曝露を評価していたが、湿重量では、肺組織の正確な重量を測定するのは難しいので、最近主流となっている1g乾燥肺の単位を用いる方法がよいだろう。 |
6.一般環境曝露による肺がん発症について
|
○ | かつては、一般的に、石綿関連施設や石綿鉱山の周囲における空気中の石綿濃度は現在よりも高かった可能性があることから、周辺住民では胸膜プラーク有所見者や中皮腫患者が発生し得るが、現時点の知見では、このような周辺住民に2倍以上の肺がんの発症リスクが観察されたという証拠はこれまでにない。今後の動向に注視する必要がある。(第3回資料3、資料4) |
○ | 過去の文献レビューでは、肺がんについては中皮腫と異なり、一般環境曝露のレベルでは、職業曝露のレベルと比べて無視できるレベルであるとされているが、今後の知見を収集する必要がある。 |
○ | 現在の職場の濃度基準は0.15本/mlである。1960年代のデータはないが、1980年代に全国400カ所で測定したところ、既に0.1本/mlであったとの調査結果がある。 |
○ | 環境省が設定している敷地境界基準値である10本/L、つまり0.01本/mlの濃度では、25本/ml×年に達するのは2000年以上の曝露期間が必要であり、実際的にはそれより更に低濃度である一般環境曝露のみによって肺がんのリスクが2倍になることは、特別な条件下以外ではなかったものと思われる。 |
○ | 職業性曝露が確認できない症例については、石綿繊維や石綿小体数の確認、石綿曝露の可能性の検討など、慎重に評価すべきである。 |
7.潜伏期間について
|
○ | 石綿による肺がんは、曝露開始から発症までが少なくとも10年以上、その多くは30年から40年程度の潜伏期間の長い疾患である。 |
8.予後について
|
○ | 肺がんは、5年生存率は13%以下の非常に予後が悪い疾患である。 |
II 石綿肺について |
1.石綿肺を形成するに足る石綿曝露量について
○ | 石綿肺は高濃度曝露によって発症することが知られており、一般環境における発症の報告例はなく、職業性の曝露によって発症している。職業性の曝露以外で発症するとすれば、極めて特異なケースに限られるであろうと考えられるが、今後、情報を収集する必要がある。 |
○ | クボタの神崎工場周辺例で石綿肺が出たという症例を3例あったというが、各々石灰化胸膜プラークがあるだけであり、肺線維化所見はなかったという。近隣曝露では発生することは考えにくく、あったとしても重症の肺線維症ではないだろう。 |
2.潜伏期間について
○ | 石綿肺特有の不整形陰影は、曝露後10年以上経過して所見が現れる。 |
3.予後について
○ | じん肺法に定める第1型の石綿肺は、それだけでは肺機能や生活の質が大きく低下し、援助が必要な状況になっている状態ではない。 |