諸外国の有期労働契約に係る法制度の概要


ドイツ>
 有期労働契約の利用の制限
 労働契約の期間の定めは、客観的な理由により正当化される場合に許容される。 客観的な理由が特に存在する場合として、労働に対する経営上の需要が一時的に存在する場合、他の労働者の代理のために労働者を雇用する場合、労働給付に固有の性質が期間の定めを正当化する場合、労働者の個人的事由から期間の定めが正当化される場合等が法律に例示されている。(パートタイム労働・有期労働契約法第14条1項)

 客観的な理由によらない有期労働契約
 2年間までは、客観的な理由が存在しない有期労働契約を締結することができる。2年間の期間内であれば、契約の更新が3回まで可能である。このような客観的な理由の不要な期間設定は、同じ使用者との間で既に有期又は無期の労働関係が存在した場合には許容されない。
 なお、更新の回数及び最長期間について、労働協約によって上記と異なる定めをすることができる。(法第14条2項)
 また、新設企業、満58歳(2006年末までは満52歳)以上の労働者についての例外がある。

 書面性の要件
 有効な期間設定は書面によらなければならず(法第14条4項)、書面性が満たされない場合には、有期労働契約は期間の定めなく締結されたものとみなされる。

 無効な期間の定めの効果
 期間の定めが無効である場合、有期労働契約は期間の定めなく締結されたものとして取り扱われる。この場合に使用者が通常解約告知を行うことができるのは、個別契約又は労働協約によってより早い解約告知が定められていない限り、早くとも合意されていた終了時点に向けてである。(法第16条1文)

 有期労働契約の終了
(1) 暦に従って期間が定められる有期労働契約は、合意された期間の満了をもって終了する。(法第15条1項)
(2) 目的によって期間が定められる有期労働契約は、目的の達成によって終了するが、早くとも労働者に対する目的達成の時期に関する使用者による書面の通知到達後2週間とする。(法第15条2項) 
(3) 個別契約又は労働協約において期間途中での通常解約告知をあらかじめ合意しておけば、有期労働契約の中途解約は可能である。(法第15条3項)
(4) 終身又は5年以上の期間の定めのある労働関係は、5年経過後は、労働者が終了させることができる。解約告知期間は6か月である。(法第15条4項) 
(5) 労働関係が契約期間満了後も継続され、又は目的達成後使用者がこれを知りながら継続した場合において、使用者が遅滞なく異議を述べず、又は目的達成を遅滞なく労働者に通知しなかったときは、当該契約は期間を定めずに延長されたものとみなされる。(法第15条5項)

 平等取扱原則
 有期契約労働者は、労働契約に期間の定めがあることを理由に、期間の定めなく雇用された比較可能な労働者に比して不利益な取扱いを受けてはならない。ただし、客観的な理由により異なる取扱いが正当化される場合はその限りではない。(法第4条2項)
 有期契約労働者には、一定の算定期間について支給される賃金その他の分割可能な金銭的価値のある給付を、少なくとも、算定期間に対するその就業期間の割合に応じて保障しなければならない。(法第4条2項)
 比較可能な労働者とは、事業所において同一又は類似の活動を行う期間の定めなく雇用されている労働者である。事業所にそうした比較可能な労働者が存在しない場合には、適用され得る労働協約に基づいて比較可能な労働者が定められる。これ以外の場合には、各産業部門における通常比較可能な労働者が基準となる。(法第3条2項)

 使用者の情報提供義務
(1) 使用者は、有期契約労働者に対して、補充されるべき期間の定めのない労働ポストに関する情報を提供しなければならない。(法第18条)
(2) 使用者は、従業員代表に対して、有期契約労働者の数、並びにその事業所及び企業の全従業員に占める割合について、情報提供を行わなければならない。(法第20条) 


フランス>
 有期労働契約の利用の制限
(1) フランスでは、期間の定めのない契約を締結することが労働契約締結の原則とされている。(労働法典L.121-5)
(2) 有期労働契約は、いかなる理由であっても、企業の通常のかつ恒常的な活動に関わる職務に継続的に人材を供給することを目的としてはならず、また、そのような効果をもたらしてはならない。
 有期労働契約は、労働法典に列挙された(1)欠勤労働者等の特定の労働者の代替、(2)企業の活動の一時的増加、(3)季節的業務、または活動の性質及び業務の一時性ゆえに期間の定めのない契約を利用しないことが慣行となっている活動部門での雇用等の場合に限り締結できる。(L.122-1、122-1-1、122-2)
(3) (1)集団的労使紛争(ストライキ)のために労働契約が停止している労働者の代替を目的とする場合、(2)命令で定める特に危険な作業を行うことを目的とする場合、(3)経済的理由による解雇の対象となった職務に関し、当該解雇から6か月以内に、業務の一時的な増加を理由として有期労働契約を利用する場合には、有期労働契約を締結することはできない。ただし、(3)の場合には、更新を予定せず契約期間3か月以内の契約等は、例外的に許容される。(L.122-2-1、122-3)

 有期労働契約の期間及び更新等の制限
(1) 契約期間は、原則として最長18か月とされている。(L.122-1-2)
(2) 有期労働契約の更新は、1回に限り行うことができる。その際、当初の契約期間と合わせた全期間が、法定の最長期間(18か月)を超えてはならない。また、更新時に有期労働契約を利用する理由が存在することが必要である。(L.122-1-2)
(3) 有期労働契約の期間満了後、更新期間を含めたこの契約期間の3分の1(更新期間を含めた契約期間が14日未満の場合には、当該期間の2分の1)に当たる期間が経過する前には、当該職務に人材を供給する目的で有期労働契約を利用することができない。(L.122-3-11)

 書面性の要件
 有期労働契約は、書面によって締結され、かつ、その利用目的を明確に定めたものでなければならない。(L.122-3-1)

 有期労働契約の終了
(1) 有期労働契約は、期間満了により当然に終了する。(L.122-3-6)
(2) 期間満了により契約が終了し、その後期間の定めのない労働契約により契約関係が継続されない場合には、原則として、使用者は労働者に対し賃金に加えて雇用の不安定さを補償するための手当を支払わなければならない。その額は、契約期間中に労働者に支払われる総報酬の10%(労働協約により、引上げ又は一定の場合に6%までの引下げが可能)である。(L.122-3-4)
(3) 当事者の合意がある場合を除き、有期労働契約は、労働者の重大な非行又は不可抗力による場合以外には、労使のいずれからも期間満了前に解約することはできない。ただし、労働者は、別の使用者によって期間の定めのない契約で採用されたことを証明すれば、有期労働契約を解約することができる。
 使用者が不当に中途解約した場合、上記(2)の手当とは別に、期間満了までに労働者が受け取ったであろう報酬額以上の額の損害賠償請求権が労働者に付与される。労働者が不当に中途解約した場合、使用者に、被った損害に対応する損害賠償請求権が付与される。(L.122-3-8)
 

 平等取扱原則等
(1) 明示の立法規定がある場合及び労働契約の解消に関する規定を除いて、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に適用される立法及び労働協約の規定並びに慣行から生じる規定は、有期契約労働者にも適用される。(L.122-3-3)
(2) 有期契約労働者の報酬は、同等の職業格付けでかつ同等の職務に従事する期間の定めのない労働契約の労働者が、同一の企業において試用期間後に受け取る報酬の額を下回ってはならない。(L.122-3-3)

 有期労働契約の利用に関する報告等
(1) 労働者数300人以上の企業では3か月ごと、それ以外の企業では半年ごとに、使用者は、期間の定めのない労働契約、有期労働契約等雇用形態別のそれぞれの労働者数及び有期労働契約等を利用するに至った理由を企業委員会に報告しなければならない。(L.432-4-1)
(2) 有期労働契約が濫用的に利用されている場合、又は企業内で有期労働契約の利用が大きく増加している場合、企業委員会(これがない場合には従業員代表委員)は、労働監督官に調査を求めることができる。その場合、使用者は、企業委員会(従業員代表委員)に、労働監督官からの調査報告及びこれに対する回答を通知しなければならない。(L.432-4-1)

 違法な有期労働契約の効果
(1) 使用者が上記1〜3の法規制に違反した場合、期間の定めのない契約が締結されたものとみなされる。また、この場合、使用者は賃金1か月分以上の賠償金を支払う。(L.122-3-13)
(2) 上記(1)の対象となる法規制や平等な報酬支払いを履行しないこと等の法規制に違反した使用者は、3,750ユーロの罰金を支払う。(L.152-1-4)


イギリス>
 有期雇用契約の反復更新の制限
 有期雇用契約の期間について制限はない。ただし、有期雇用契約をはじめて締結したときから4年を経過した後に当該契約が更新された場合又は新たな有期雇用契約が再締結された場合には、客観的な理由に基づいて正当化される場合を除き、新たな契約における期間の定めは無効となり、当該被用者は期間の定めのない被用者となる。(2002年有期契約被用者規則第8条第2項)
 ただし、上記に代えて、労働協約又は労使協定によって、有期雇用契約の最大合計期間、更新の回数の上限、更新又は再締結を正当化する客観的理由について定めを行った場合には、これによる。(規則第8条第5項)

 有期雇用契約の終了
(1) 不公正解雇との関係では、有期雇用契約の期間満了による雇止めは解雇として取り扱われる。したがって、雇止め(解雇)は公正でなければならない。(1996年雇用権法第95条第1項)
(2) 剰員整理手当との関係でも、有期雇用契約の期間満了による雇止めは解雇として取り扱われる。したがって、有期契約被用者の雇止めが剰員整理に該当する場合には、当該被用者は剰員整理手当を受給する権利を有する。(法第136条第1項)
(3) 契約期間中の解雇は、雇用を継続できない程度の被用者側の重大な契約違反等の正当な事由のない限り違法解雇となり、損害賠償が認められる。

 平等取扱い原則
(1) 客観的な理由に基づいて正当化できない場合、有期契約被用者に対して、有期雇用契約であることを理由として、比較対象となる同等の地位にある常用被用者と比較して不利益な取扱いをしてはならない。(規則第3条第1項、第3項)
(2) 比較対象となる同等の地位にある常用被用者とは、同一の使用者に雇用される有期雇用契約でない被用者で、同じ内容又は概ね同じ内容の業務を行う者とする。
 同じ事業所に比較対象となる常用被用者がいない場合、同一の使用者に雇用される別の事業所に勤務する被用者と比較するものとする。 (規則第2条第1項)


アメリカ>
 連邦法において期間の定めのある労働契約を締結することを禁止する規定は設けられていない。

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