参考資料2


「小児科・産科における医療資源の集約化・重点化に関するワーキンググループ取りまとめ」



小児科・産科医師確保が困難な地域における当面の対応について

〜小児科・産科における医療資源の集約化・重点化の推進〜

(概要)

 I 小児科・産科の現状と対応の基本的な考え方

  ○ 小児科、産科等の特定の診療科においては、勤務環境の悪化等の結果として医師の偏在が深刻な問題となっており、小児医療と産科医療の確保に向けて、早急な対応が求められている。
 このため、関係省庁(厚生労働省、総務省及び文部科学省)では、平成17年8月に「医師確保総合対策」(地域医療に関する関係省庁連絡会議)を取りまとめ、積極的に取り組んでいくこととした。さらに、小児科・産科の医師偏在が問題となる地域を中心に、公立病院を中心とした医療資源の集約化・重点化を推進することが、住民への適切な医療の提供と医師勤務環境の改善のため、当面の最も有効な方策と考えられることから、同連絡会議では有識者の参画を得つつ、ワーキンググループを設けて(別紙参照)、その実現に向けた検討を行った。
  ○ また、小児科においては、病院の小児科医師が、入院患者への診療の傍らで、休日夜間を中心とした初期の救急対応を求められているが、一部の地域の小児救急の体制が十分に機能しないという実態がある。こうした実態とともに、各病院での小児科医師数が少ないことを捉えて、地域で小児科医師が不足していると指摘されることがある。
 このような地域でも、たとえ小児科医師数は充足していても、病院の小児科医師数が少ないことが認められた場合には、住民のニーズに応えるために集約化・重点化を推進することは有効な方法である。
  ○ なお、小児科・産科の集約化・重点化については、全国における各地域に対して一律に強制的に実施するものではなく、医師確保が困難な地域における緊急避難的な措置である。


 II 小児科について

  1 基本的な考え方

   (取組の主体)
  ○ 都道府県が主体となり、市町村、住民代表、医療関係団体等の関係者から成る地域医療対策協議会を活用し、検討する。
   (対象病院)
  ○ 原則として公立病院を中心とし、地域の実情に応じて他の公的な病院も対象とする。
   (スケジュール)
  ○ 国が平成17年末までに見直しを予定している医療計画の作成指針に基づき、都道府県は、平成18年度末を目途に、病院の小児科機能の集約化・重点化の必要性を検討し、その実施の適否を決定する。遅くとも平成20年度までに具体的な対策を取りまとめ、新たな医療計画に盛り込む。

  2 集約化・重点化計画の策定

  ○ 関係者の検討の結果、集約化・重点化を行うこととした場合には、都道府県が、対象となる地域において集約化・重点化計画を策定する。
  ○ 地域の実情を把握し、現在の医療機関の配置状況を把握した上で、入院を必要とする医療がおおむね完結するような圏域を設定する。
  ○ 当該圏域において、診療機能を集約化・重点化した小児医療を担う病院として「連携強化病院」と、連携強化病院へ必要に応じて一定の機能を移転し連携体制を構築する病院として「連携病院」とを設定する。
  ○ 「連携強化病院」は、入院対応を必要とする24時間体制の小児救急医療を実施し、分野別に特化した小児医療や、必要に応じて新生児医療も実施する。
 また、連携病院に対し、必要に応じ、医師派遣等による支援を行う。
  ○ 「連携病院」は、地域に必要な小児医療を行う。
 また、初期の小児救急においては、24時間体制が構築できるよう、地域の求めに応じて、既存の休日夜間の初期救急体制に参加する。

  3 関係者の役割

  (1)
医療計画・医療法上への位置付け
病院職員の異動に伴う法令上の問題の解決
診療報酬での評価の検討
既存の仕組み等を活用した財政的支援
大学や関係団体への協力要請 等

  (2)都道府県
地域医療対策協議会における検討
対象病院の設定
医療計画への記載
病院職員の異動に伴う開設者としての配慮
連携病院への医師派遣に係る調整
病床に係る特例措置
既存の仕組み等を活用した財政的支援
住民への説明 等

  (3)市町村
 都道府県と連携協力し、集約化・重点化の実現に努力

  (4)関係団体
 関係団体は、集約化・重点化の実現に協力


  III 産科について

 (※基本的には小児科に準ずる。以下では、主な相違点等についてのみ記載した。)
  ○ 「連携強化病院」は、地域周産期母子医療センタークラスの病院の中から設定し、産科・婦人科医療、小児科・新生児科医療を提供する。
 また、他の医療機関等と連携する。
  ○ 産科医師の地域偏在が著しい場合には、県を越えたブロック単位で集約化・重点化を考える必要がある。
  ○ 計画の策定に当たっては、現行の周産期医療協議会及び周産期医療ネットワークを十分に尊重・活用する。



(別紙)

小児科・産科における医療資源の集約化・重点化に関するワーキンググループメンバー

ふじむら まさのり
藤村 正哲
 社団法人 日本小児科学会 理事
ふじい  しんご
藤井 信吾
 社団法人 日本産科婦人科学会 監事
つちや たかし
土屋 隆
 社団法人 日本医師会 常任理事
ほしな  きよし
保科 清
 社団法人 日本小児科医会 副会長
たなべ  きよお
田邊 清男
 社団法人 日本産婦人科医会 常務理事
いしい  えいき
石井 暎禧
 社団法人 日本病院会 常任理事
さっさ  ひでたつ
佐々 英達
 社団法人 全日本病院協会 会長
こやまだ   けい
小山田 惠
 社団法人 全国自治体病院協議会 会長
よしあら みちやす
吉新 通康
 社団法人 地域医療振興協会 理事長

 厚生労働省、総務省及び文部科学省から成る「地域医療に関する関係省庁連絡会議」の課室長級の者(注)に、上記の有識者を加えて構成。

(注)
 厚生労働省
 医政局 総務課長
 指導課長
 医事課長
 雇用均等・児童家庭局 母子保健課長

 総務省 自治財政局 地域企業経営企画室長

 文部科学省 高等教育局 医学教育課長
 医学教育課大学病院支援室長


開催経過

第1回 平成17年 9月2日
第2回 平成17年10月6日
第3回 平成17年11月2日



小児科・産科医師確保が困難な地域における当面の対応について

〜小児科・産科における医療資源の集約化・重点化の推進〜

 I 小児科・産科の現状と対応の基本的な考え方

1.経緯
 平成10年の「医師の需給に関する検討会報告書」では、医師の需給について、将来は過剰になるという見通しが示されているが、現状では、平成17年7月27日に公表された「医師の需給に関する検討会中間報告書」や「へき地保健医療対策検討会報告書」においても指摘されているように、地域的な偏在に加えて、小児科、産科等の特定の診療科における医師の勤務環境悪化等の結果として医師偏在が起こり、そのため医師確保が困難となっている。
 これらの指摘を踏まえ、厚生労働省、総務省及び文部科学省から成る「地域医療に関する関係省庁連絡会議」(以下「連絡会議」という。)が平成17年8月11日に取りまとめた「医師確保総合対策」においては、小児科・産科医師の配置が少ない病院が多く存在している地域では、病院相互の連携体制を構築することを前提として、医療資源の集約化・重点化を推進することを提言している。
 こうした一連の検討を受けて、今般、連絡会議の下に「小児科・産科における医療資源の集約化・重点化に関するワーキンググループ」(以下「本ワーキンググループ」という。)を設置し、関係者による検討を行った。

2.現状
 小児科・産科の医師の確保が困難となっている背景は様々であるが、一般的に次のような指摘がされている。

 (1)小児科に関する事項
  (1) 我が国における15歳未満小児人口10万人当たりの小児科医師数は79.9人であり、米国における56.5人(18歳未満小児人口当たり)と比較して決して少なくないものの、一方で、我が国では、1施設当たりの小児科医師数が2.5人と少ないこと。
  (2) 特に若い世代において、女性医師の比率が急増していること。
  (3) これまでは地域における医療提供については、住民が容易にアクセスできるということを目指していたため、小児科医師の配置が広く薄くなったこと。このため、小児科医師が一人だけの病院が増加することとなり、小児科医師にとっては過酷な条件で勤務せざるを得ない状況が続くとともに、本来、病院として提供すべき入院患者のための医療体制が確保できず、また小児専門医療ができなくなりつつあること。
  (4) また、核家族化による育児不安に伴う軽症患児の受診の増加、夫婦共働きの進行による夜間受診の増加、親の専門医指向による病院受診の増加、夜間診療を行わない小児科診療所の増加等により、結果として病院の小児科に軽症患児が受診する事例が増大していること。
  (5) 小児の診療は手間がかかることや特に入院診療が不採算であること等が相まって、病院勤務の小児科医師の離退職も進み、病院の小児科医師の確保が困難になった結果、小児科の診療を廃止する病院も相次いでいること。
  (6) 既存の地域の小児科診療体制は可能な限り維持すべきではあるが、病院の小児科の医師への負担が余りに過重になっている現状で、少人数体制での入院医療及び休日夜間の時間外診療の提供を継続することは、長期的に見ても決して好ましいものではなく、放置すれば地域の小児医療の全面的な崩壊すら招く危険性をはらんでいること。

 (2)産科に関する事項
  (1) 厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師調査」によれば、平成6年から平成16年までの間に、医師総数は約40,000人増加したが、産婦人科医師数は逆に約900人減少しており、小児科以上に医師の不足が深刻であること。
  (2) 特に若い世代において、女性医師の比率が急増していること。
  (3) 少子化に伴う出産数の低下や不規則な勤務体制により、新たに産科を志望する医師の減少を招いているほか、病院における産科医師の地域偏在が著しいこと。
  (4) 医療過誤に関する訴訟の3割以上が産婦人科関連であることが、多大な心理的、経済的負担を生み、このことが新たに産科を志望する医師の減少を招いていること。
  (5) 住民も地方公共団体も、産科医師が身近に存在し、必要な時にいつでも受診ができることを望んでいる。しかしながら、産科医師が急速に減少している地域において、従来どおりの配置をすれば、結果的に広く薄いものとなり、個々の医師に過酷な勤務を強いることになること。
  (6) このことは、緊急時の対応も含めて産科医療の質の低下を招き、医療の安全性の観点から極めて問題であること。

3.対応の基本的な考え方

 (1)小児科・産科に共通の対応
 小児科・産科の医師の偏在については、その原因も様々であり、「医師確保総合対策」において盛り込んだ医療対策協議会の制度化や「女性医師バンク(仮称)」の創設、診療報酬における適切な評価などの解決策に積極的に取り組んでいくことが必要である。
 特に、病院の小児科・産科の医師の確保が著しく困難な地域については、当面の対策として、医療資源の集約化・重点化を推進すべきである。これにより、小児科・産科の医師の確保はもとより、医療の安全性の確保や小児科・産科医師の過酷な勤務状況の改善も可能となることから、将来を見通した上でも地域の病院の機能に応じて良質な医療を継続的に提供するため、一部地域において集約化により、従来に比べて利便性が損なわれるとしても、緊急避難的な措置として、最も有効と考えられる。

 (2)小児科固有の対応
 病院の休日夜間の外来受診者数は、平日昼間の外来受診者数よりも多く、そのほとんどが、軽症患者であるという実態がある。
 そのような多数の軽症救急患者に対して病院の数少ない小児科医師が入院患者の診療の傍ら対応を求められ、結果として疲弊を招くこととなっている。
 このような地域については、ややもすると、病院の小児科医師が不足しているという視点だけで捉えらえられてしまうが、多くの場合、その背景として地域の小児救急全体の体制が十分に機能していないという実態が存在する。
 したがって、医師の確保が困難な地域であって、なおかつこのような状況において、救急と病院外来における専門医療の提供の両方について住民のニーズに応えるためには、次のとおり集約化・重点化を推進することが、有効と考えられる。


 II 小児科部門を有する病院の集約化・重点化について

1.集約化・重点化に向けての基本的な考え方

 (1)取組の主体
 小児部門を有する病院の医師の確保が困難な地域においては、前述の集約化・重点化に取り組む必要がある。その場合、地域医療の確保という観点から、都道府県が中心にならなければならない。具体的な検討や実行に当たっては、既存の地域医療対策協議会等を中長期的な検討や評価を含めて活用し、市町村、住民代表はもちろん、医師会、日本小児科学会、日本小児科医会、大学医学部等の関係者を加えるものとする。

 (2)対象病院
 集約化・重点化の計画を策定するに当たっては、原則として公立病院を中心として、地域の実情に応じて他の公的な病院も対象とし、民間病院についても希望があれば、その対象とする。

 (3)スケジュール
 国は、平成17年末までに、新たな医療計画の作成指針に、地域の小児救急体制の確保を踏まえた、小児科部門を有する病院の集約化・重点化の考え方を示す。
 都道府県は、この考え方に基づいて、地域の実情を十分に踏まえながら、集約化・重点化の必要性を検討し、当該都道府県としての実施の適否を決定の上、平成18年度末を目途に、その具体策を取りまとめるものとする。この具体策は、遅くとも平成20年度までに取りまとめる全体の医療計画の中に盛り込む。

2.集約化・重点化計画の策定

 前述のとおり、都道府県は、関係者の意見を踏まえて集約化・重点化の是非について検討を行い、その必要性が認められた場合には、集約化・重点化計画を策定するものとする。
 都道府県が、集約化・重点化計画を策定するに当たっては、後述のように入院を必要とするレベルの医療が完結する圏域を設定した上で、「診療機能を集約化・重点化して分野別に特化した小児医療を含めた診療を担う病院」(以下IIにおいて「連携強化病院」という。)と「必要に応じ連携強化病院に一定の機能を移転する病院」(以下IIにおいて「連携病院」という。)とを設定することとする。
 なお、都道府県内において高次機能を有し高度な小児医療を行うことのできる、「こども医療センター等の小児科に特化した病院や大学医学部附属病院クラスの病院」(以下「高次機能病院」という。)は、原則的には集約化・重点化の対象とはならないが、地域の小児医療を担う医療施設に対する支援を行う。

 
 (1)圏域における小児科の診療状況
 当該都道府県内の医師確保が困難な地域について、小児医療の現状を把握し、集約化・重点化計画を策定するために入院を必要とするレベルの小児医療がおおむね完結するエリアとして、小児科の診療を行っている医療施設を中心とした診療状況を勘案した圏域を設定する。
 圏域は、関係者の協議の下、地域の人口や小児人口、地理的な要因、小児科医師数等の地域の実情を総合的に勘案して設定する。その際、必ずしも既存の医療圏にとらわれる必要はなく、例えば複数の二次医療圏から成る独自の圏域を設定してもよい。

 (2)連携強化病院
 都道府県は、当該圏域において、連携病院と連携し特定の分野の小児医療も提供できる病院を設定する。
  (1)診療機能
a)地域に必要な特定分野の小児医療(必須)
ア)特定分野の小児外来
イ)特定分野の小児病棟
b)小児救急医療(必須)
入院対応を必要とする救急について24時間対応
c)新生児医療(選択可能)
ア)NICU(新生児集中治療管理室)設置
イ)地域周産期母子医療センターに相当する新生児医療の提供
ウ)産科又は産婦人科の標榜
  (2)医師配置
 宿日直の体制も含めて適切な勤務体制が確保できること。
a)特定の分野の小児医療
 小児科医師 7人以上 (10人配置が目標)
b)小児救急医療
 小児科医師 3人以上 (4人配置が目標)
c)新生児医療
 小児科医師(新生児専門)5人以上 (10人配置が目標)
  (3)診療支援体制
a)医師派遣
ア)必要に応じ、連携病院で実施する外来診療に医師を派遣
イ)必要に応じ、連携病院で定期的に実施される小児科の専門外来のための医師を派遣
b)休日夜間の診療
 初期の休日夜間救急医療機関から転送された重症患者の受入れや、入院対応を必要とする小児救急医療を実施
c)その他
ア)地域の診療所や連携病院の小児科医師に研修の機会や診療機器の共同利用、開放型病院としての機会を提供
イ)地域の診療所や連携病院に対し患者搬送のための便宜を提供

 (3)連携病院
 都道府県は、当該圏域において、連携強化病院へ必要に応じて一定の機能を移転し、連携体制を構築する病院を設定する。
  (1)診療機能
一般小児医療
a)地域に必要な小児医療の提供と、平日昼間の小児救急への対応
b)連携強化病院から医師の応援を得て実施する小児科の専門外来
c)必要に応じ、入院機能の移転も考慮
  (2)医師配置
 常勤又は非常勤で当該連携病院が対応すべき地域の診療需要に必要な数を配置
  (3)診療支援体制
a)夜間休日の診療
 地域の要請があった場合には、主として診療所の医師により運営されている休日夜間の初期救急体制に参加
b)その他
 地域の診療所の小児科医師に診療機器の共同利用等共同診療の機会を提供

 (4)病院の集約化・重点化が実施された地域での医療機関相互の連携の在り方
  (1)小児救急医療
a)休日夜間の初期救急
 既存の休日夜間急患センター等を活用し、地域の診療所医師を中心に、連携病院の協力を得ながら、24時間体制で初期の小児救急を実施
b)初期救急の後方支援
 連携強化病院又は高次機能病院において24時間体制で後方病院としての機能が発揮できるよう、医療機関間の搬送について、ドクターカー、病院救急車、民間救急車、ドクターヘリ等のヘリコプターによる搬送体制を確保
  (2)医師派遣
 高次機能病院は、連携強化病院、連携病院及び診療所へ医師を派遣
  (3)研修・共同診療
 高次機能病院は、連携強化病院、連携病院及び診療所の医師のための研修や共同診療の場を提供

3.関係者の役割

 計画の策定及びその実行に当たって、国、都道府県、市町村及び関係団体が果たすべき役割は次に示すとおり。

 (1)
  (1)医療計画・医療法上への位置付け
 国は、一連の集約化・重点化について、これらを該当圏域において実施する都道府県の医療計画に必須の記載事項として組み込むよう、医療法上に位置付けるとともに、その基となる指針を示す。
 また、都道府県が設置する地域医療対策協議会について、医療法上に位置付ける。
 なお、国は、日本赤十字社、済生会等の公的病院に対して、集約化・重点化の計画に参加するよう要請する。
  (2)地方厚生局による協力
 地方厚生局は、複数の県にまたがる広域調整が必要である場合には、地域医療対策協議会の求めに応じ、これに協力する。
 また、集約化・重点化に伴い必要となった臨床研修病院のプログラム変更等について、円滑に進められるよう配慮する。
  (3)病院職員の異動に伴う法令上の問題の解決
 国は、医師、病院職員の異動の際に生じる身分の問題等、法令上の解決等が必要となる場合には、都道府県等と協力しつつ適切に対応する。
  (4)医師確保についての大学への働きかけ
 国は、大学に対し、一連の集約化・重点化に協力するよう要請する。
  (5)連携病院への医師派遣
 国は、連携強化病院から連携病院へ定期・不定期の医師派遣を行うことにより生じる兼業の問題等、法令上の解決等が必要となる場合には、都道府県等と協力しつつ適切に対応する。
  (6)病床に係る特例措置
 国は、集約化・重点化の結果、連携強化病院において病床を増床する必要がある場合には、知事特例による措置を考慮する。
  (7)診療報酬上の評価の検討
 国は、集約化・重点化を促進するための診療報酬上の評価の在り方について検討する。
  (8)財政的支援
 国は、既存の仕組み等を活用した、連携病院等への財政上の支援に努める。
  (9)病院評価の導入
 国は、(財)日本医療機能評価機構に対して、同機構が実施する病院機能評価において、小児医療の連携体制が評価項目となるよう要請する。
  (10)関係団体への協力要請
 国は、都道府県が開催する地域医療対策協議会に、医師会、日本小児科学会及び日本小児科医会が参加するよう要請する。

 (2)都道府県
  (1)地域医療対策協議会における検討
 都道府県は、集約化・重点化の実施に当たっては、市町村、住民代表はもちろん、都道府県医師会、日本小児科学会、日本小児科医会、大学医学部等の関係者から成る地域医療対策協議会を設置し、検討を進める。
 なお、複数の県にまたがる広域調整等が必要な場合には地方厚生局の協力を要請する。
  (2)対象病院の設定
 都道府県は、地域医療対策協議会等の検討を基に、当該圏域ごとに連携強化病院及び連携病院を設定する。
  (3)小児医療の連携体制の構築
 都道府県は、集約化・重点化を実施する場合には、対象病院はもちろん、小児科を標榜する診療所を含めてその連携体制について検討する。
 その際、医療機関間搬送、医師派遣、医師確保についても検討する。
  (4)高次機能病院の検討
 都道府県は、集約化・重点化及び連携体制の構築を検討するに当たっては、都道府県内において高度な小児救命救急、新生児医療等に対応可能なPICUやNICUを設置する高次機能病院による、集約化・重点化の対象となる病院の支援方策を検討する。
  (5)医療計画への記載
 都道府県は、国が示す医療計画の指針及び本報告書に基づき、国の定める期限までに集約化・重点化の適否を検討し、必要と判断した場合には、その計画を策定し、医療計画に記載し実施する。
  (6)医療機関間の搬送体制整備
 都道府県は、ドクターヘリ、ドクターカー、病院救急車、民間救急車等を活用し、診療所を含めた医療機関の搬送体制を整備する。
  (7)病院職員の異動に伴う開設者としての配慮
 都道府県は、都道府県立病院の医師、病院職員の異動に係る身分の問題等について、開設者としての配慮をする。
  (8)連携病院への医師派遣に係る調整
 都道府県は、集約化・重点化が実施された後の連携強化病院から連携病院への定期・不定期の医師派遣の問題等について、調整を図る。
  (9)病床に係る特例措置
 都道府県は、集約化・重点化の結果、連携強化病院において病床を増床する必要がある場合には、知事特例による措置を考慮する。
  (10)財政的支援
 都道府県は、既存の仕組み等を活用した、連携病院等への財政上の支援に努める。
  (11)住民への説明
 都道府県は、地域医療対策協議会の検討の状況を適宜公開するほか、住民との意見交換会や説明会を市町村と協力して開催し、住民の理解を得るように努める。

 (3)市町村
 市町村は、都道府県と地域において緊密に協力し、圏域における病院の集約化・重点化の検討に積極的に参加し、その実現に努める。

 (4)関係団体
 本ワーキンググループに参加する関係団体は、自らの会員に対して本報告書の趣旨を周知し、当該都道府県が集約化・重点化を実施することとした場合には参加を促す。
 また、会員は本報告書の趣旨を住民に知らせるよう努める。
  (1)医師会
a)都道府県医師会、郡市区医師会は、地域医療対策協議会に参加し、その実現に協力する。
b)日本医師会は、地域医師会を通じて、地域において初期の小児救急体制が円滑に機能するよう努める。
  (2)日本小児科学会
a)日本小児科学会は、日本小児科学会の地方会が集約化・重点化の計画を進めるための地域医療対策協議会に参加し、地域の小児医療の確保に協力する。
b)日本小児科学会は、自ら公表した「小児医療提供体制改革ビジョン」を基に、その作成に参画した本ワーキンググループ報告書について、国や都道府県とともに学会員を通じて大学病院等の理解を得るよう努める。
c)日本小児科学会は日本小児科学会地方会が地域の実情に合わせて作成した全国各地域のモデルを都道府県へ情報提供する。
d)日本小児科学会は国が目指す小児医療提供体制において、小児医療の質を確保するよう協力する。
  (3)日本小児科医会
a)日本小児科医会は、地方医会が集約化・重点化の計画を進めるための地域医療対策協議会に参加し、地域の小児医療の確保に協力する。
b)日本小児科医会は、初期の小児救急における診療が休日夜間を含め24時間提供できるように、都道府県とともに地域の実情を踏まえた検討を行い、初期の小児救急体制において、休日夜間診療の当番体制に会員が参加するよう努める。


 III 産科部門を有する病院の集約化・重点化について

1.集約化・重点化に向けての基本的な考え方

 (1)取組の主体
 産科部門を有する病院の医師の確保が困難な地域においては、前述の集約化・重点化に取り組む必要がある。その場合、地域医療の確保という観点から、都道府県が中心にならなければならない。具体的な検討や実行に当たっては、既存の地域医療対策協議会、周産期医療協議会等を中長期的な検討を含めて活用し、市町村、住民代表はもちろん、医師会、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、大学医学部等の関係者を加えるものとする。

 (2)対象病院
 集約化・重点化の計画を策定するに当たっては、原則として公立病院を中心として、地域の実情に応じて他の公的な病院も対象とし、民間病院についても希望があれば、その対象とする。

 (3)スケジュール
 国は、平成17年末までに、新たな医療計画の作成指針に、産科部門を有する病院の集約化・重点化の考え方を示す。
 都道府県は、この考え方に基づいて、地域の実情を十分に踏まえながら、集約化・重点化の必要性を検討し、当該都道府県としての実施の適否を決定の上、平成18年度末を目途に、その具体策を取りまとめるものとする。この具体策は、遅くとも平成20年度までに取りまとめる全体の医療計画の中に盛り込む。

2.集約化・重点化計画の策定

 産科部門を有する病院を都道府県単位で見た場合、(1)高度の周産期医療を行うことのできる総合周産期母子医療センタークラスの病院、(2)比較的高度の周産期医療を行うことのできる地域周産期母子医療センタークラスの病院及び(3)いずれでもない病院、の三種類がある。
 都道府県がこれらの病院の集約化・重点化を検討するに当たっては、まず、産科医療がおおむね完結するような圏域を設定する(後述)。
 次に、地域周産期母子医療センタークラスの病院の中から、圏域内で中心的な役割を果たす病院(以下「連携強化病院」という。)を1か所ないし数箇所設定し、併せて地域において連携強化病院に協力する病院(以下「連携病院」という。)を設定する。
 連携強化病院には、機能や役割を集中させることとし、連携病院との間で産科部門・産科医師の再編成・再配置を行う。

 (1)圏域における産科の診療状況
 当該都道府県内の医師確保が困難な地域について、既存の周産期医療ネットワークを基に、産科医師数はもちろん、地域の人口、分娩の状況、地理的な要因、産科診療所の配置、小児科医師・新生児科医師数、NICUの有無、その他の診療科の所在の状況等を総合的に勘案して圏域を設定する。その際、必ずしも既存の医療圏にとらわれる必要はなく、例えば複数の二次医療圏から成る独自の圏域を設定してもよい。

 (2)連携強化病院
 地域周産期母子医療センタークラスの病院の中から連携強化病院を設定する。連携強化病院は、原則として複数の連携病院と連携を図る。
  (1)診療機能等
a)産科医療
ア)取扱分娩件数
 特に定めないが、当該病院の位置付けや圏域の実情を勘案し、ハイリスク分娩を中心とし、安定的な産科医療が提供できる程度とすること。
イ)産科外来
ウ)産科病床・病棟
b)婦人科医療
全身麻酔手術件数
 特に定めないが、当該病院の位置付けや圏域の実情を勘案すること。
c)小児科・新生児科医療
ア)小児科外来
イ)小児科病床・病棟
ウ)NICU
  (2)医師配置
 宿日直の体制も含めて適切な勤務体制が確保できること。
a)産科医療
 5人以上
 (ただし、当該病院の位置付けや圏域の実情を勘案し、引き続き増員に努め、可能な限り10人以上とする。)
b)小児科・新生児科医療
 特に定めないが、当該病院の位置付けや小児科の場合の「連携強化病院」の基準を参考に、圏域の実情を勘案して配置すること。
  (3)診療支援の体制
a)医師派遣
 必要に応じ、連携病院の外来診療等に対し、定期・不定期に産科医師を派遣
b)アクセスの確保、診療の支援等
ア)必要に応じ、分娩用の宿泊設備の提供(空床の目的外使用等も検討)
イ)母体搬送車等の提供
ウ)IT等による遠隔診療支援
エ)いわゆるオープン病院システムによる分娩室・手術室の提供等
c)その他
 地域の連携病院や診療所の産科医師に研修の場を提供

 (3)連携病院
 連携強化病院との関係も考慮しつつ、連携病院を設定する。
  (1)診療機能等
a)産科医療
ア)リスクの低い分娩等
イ)妊婦健診等を含めた分娩前後の診療
ウ)産科病床・病棟
適正数とする。
b)婦人科医療
ア)外来医療
イ)大きな手術(広汎子宮全摘出術以上)や悪性腫瘍に対する放射線治療等は、連携強化病院と機能に応じて分担する。
c)小児科・新生児科医療
 特に定めないが、当該病院の位置付けや圏域の実情を勘案すること。
  (2)医師配置
a)産科医療
 特に定めないが、当該病院の位置付けや圏域の実情を勘案すること。
b)小児科・新生児科医療
 特に定めないが、当該病院の位置付けや圏域の実情を勘案すること。

3.関係者の役割

 計画の策定及びその実行に当たって、国、都道府県、市町村及び関係団体が果たすべき役割は次に示すとおり。

 (1)
  (1)医療計画・医療法上の位置付け
 国は、一連の集約化・重点化について、これらを該当圏域において実施する都道府県の医療計画の必須の記載事項として組み込むよう、医療法上に位置付けるとともに、その基となる指針を示す。
 また、都道府県が設置する地域医療対策協議会について、医療法上に位置付ける。
 なお、国は、日本赤十字社、済生会等の公的病院に対して、集約化・重点化の計画に参加するよう要請する。
  (2)地方厚生局による協力
 地方厚生局は、複数の県にまたがる広域調整が必要である場合には、地域医療対策協議会の求めに応じ、これに協力する。
 また、集約化・重点化に伴い必要となった臨床研修病院のプログラム変更等について、円滑に進められるよう配慮する。
  (3)病院職員の異動に伴う法令上の問題の解決
 国は、医師等、病院職員の異動の際に生じる身分の問題等、法令上の解決等が必要となる場合には、都道府県等と協力しつつ適切に対応する。
  (4)医師確保についての大学への働きかけ
 国は、大学に対して、一連の集約化・重点化に協力するよう要請する。
  (5)連携病院への医師派遣
 国は、連携強化病院から連携病院へ定期・不定期の産科医師派遣を行うことにより生じる兼業の問題等、法令上の解決等が必要となる場合には、都道府県等と協力しつつ適切に対応する。
  (6)病床に係る特例措置等
 国は、連携強化病院が、その空床を分娩用の宿泊設備等他の目的で使用できるよう、諸手続を整理する。
 また、集約化・重点化の結果、連携強化病院が病床を増床する必要がある場合には、知事特例による措置を考慮する。
  (7)診療報酬上の評価の検討
 国は、集約化・重点化を促進するための診療報酬上の在り方について検討する。
  (8)財政的支援
 国は、既存の仕組み等を活用した、連携病院等への財政上の支援に努める。
  (9)病院評価の導入
 国は、(財)日本医療機能評価機構に対して、同機構が実施する病院機能評価において、産科医療の連携体制が評価項目となるよう要請する。
  (10)関係団体への協力要請
 国は、都道府県が開催する地域医療対策協議会に、医師会、日本産科婦人科学会及び日本産婦人科医会が参加するよう要請する。

 (2)都道府県
  (1)地域医療対策協議会における検討
 都道府県は、集約化・重点化の実施に当たっては、市町村、 住民代表はもちろん、都道府県医師会、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、大学医学部等の関係者から成る地域医療対策協議会を設置し、検討を進める。その際、都道府県が設置する現行の周産期医療協議会及び周産期医療ネットワークについては、これを尊重しつつ、十分に連携・協力すること。
 なお、複数の県にまたがる広域調整等が必要な場合には地方厚生局の協力を要請する。
  (2)対象病院の設定
 都道府県は、地域医療対策協議会等の検討を基に、当該圏域ごとに連携強化病院及び連携病院を設定する。
  (3)産科医療の連携体制の構築
 都道府県は、集約化・重点化を実施する場合には、対象病院はもちろん、産科を標榜する診療所等を含めてその連携体制について検討する。
 その際、医療機関間搬送、医師の派遣、医師確保についても検討する。
  (4)既存の総合周産期母子医療センターとの連携
 都道府県は、集約化・重点化及び連携体制の構築を検討するに当たっては、高度の周産期医療を行うことのできる総合周産期母子医療センタークラスの病院との連携に配慮する。
  (5)医療計画への記載
 都道府県は、国が示す医療計画の指針及び本報告書に基づき、国の定める期限までに集約化・重点化の適否を検討し、必要と判断した場合には、その計画を策定し、医療計画に記載し実施する。

 産科医師の分布には相当の地域偏在があり、状況が大きく異なることから、全国一律に対応する必要はない。仮に、集約化・重点化を実施する場合であっても、地域の実情を十分に踏まえた対応が望まれる。例えば、東北地方各県のように産科医師の偏在が著しく深刻な県においては、そもそも産科医師の絶対数が少ないことから、県単位での集約化・重点化は困難であり、複数の県から成るブロック単位で集約化・重点化を考える必要がある。

  (6)医療機関間搬送
 都道府県は、ドクターヘリ、ドクターカー、病院救急車、民間救急車等を活用し、診療所を含めた医療機関の搬送体制を整備する。
  (7)病院職員の異動に伴う開設者としての配慮
 都道府県は、都道府県立病院の医師等、病院職員の異動の際の身分の問題等について、開設者としての配慮をする。
  (8)連携病院への医師派遣に係る調整
 都道府県は、集約化・重点化が実施された後の連携強化病院から連携病院への定期・不定期の医師派遣の問題等について、調整を図る。
  (9)病床に係る特例措置
 集約化・重点化の結果、連携強化病院において病床を増床する必要がある場合には、知事特例による措置を考慮する。
  (10)財政的支援
 都道府県は、既存の仕組等を活用した、連携病院等への財政上の支援に努める。
  (11)住民への説明
 都道府県は、地域医療対策協議会の検討の状況を適宜公開するほか、住民との意見交換会や説明会を市町村と協力して開催し、住民の理解を得るように努める。

 (3)市町村
 市町村は、都道府県と地域において緊密に協力し、圏域における病院の集約化・重点化の検討に積極的に参加し、その実現に努める。

 (4)関係団体
 以下に示す関係団体は、会員に対して本報告書の趣旨を周知し、当該都道府県が集約化・重点化を実施することとした場合には参加を促す。
 また、会員は本報告書の趣旨を住民に知らせるよう努める。
  (1)医師会
 都道府県医師会、郡市区医師会は、地域医療対策協議会に参加し、その実現に協力する。また、日本医師会は、各地域医師会に対し、これを促す。
  (2)日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会
 日本産科婦人科学会地方部会及び日本産婦人科医会都道府県支部は、地域医療対策協議会に参加し、その実現に協力する。

 (5)その他
  (1) 都道府県が現に設置する、周産期医療協議会及び周産期医療ネットワークは十分に尊重するものとするが、一連の検討の結果、その再編が必要となる場合もある。
  (2) 産科医が減少している現状では、既存の産科診療所はこれまで以上に大きな役割を担う必要がある。そうした中で集約化・重点化を行い、結果として後方施設としての病院の産科部門が縮小や廃止ということになれば、診療所への影響も免れないため、その計画や実施に当たっては十分な配慮が必要である。
  (3) 集約化・重点化を実施しない地域も含めた中長期的な産科医師・産科医療確保対策については、国や関係団体等で引き続き検討を進める。

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