○ 採用内定について

 1 新規学校卒業者(新規高卒者以外)の採用内定を行っている企業は全体で23.9%。企業規模300〜999人の企業では67.3%、1000〜4999人の企業では82.7%、5000人以上の企業では94.7%である。(厚生労働省「雇用管理調査報告」(平成16年))

  ・新規高卒者以外の新規学校卒業者の採用内定状況別企業数割合(単位:%)
図


 2 ここ5年間に採用内定取消を行った企業は全体で7.3%、企業規模1000人以上の企業では21.3%である。(労働政策研究・研修機構「従業員関係の枠組みと採用・退職に関する実態調査」(平成16年))

  ・ ここ5年間に採用内定取消がある企業の割合(単位:%)(無回答を除く集計)
図

  ・ 採用内定取消の理由(複数回答 単位:%)(採用内定取消がある企業を対象に集計)
図


 3 ここ5年間に採用内定取消を行った企業のうち採用内定取消事由の定めのある企業は、全体で24.6%、企業規模1000人以上の企業では80.9%である。(労働政策研究・研修機構「従業員関係の枠組みと採用・退職に関する実態調査」(平成16年))

  ・ 採用内定取消事由の定め(単位:%)(採用内定取消がある企業を対象に集計)
図

  ・ 定められている採用内定取消事由の内容(複数回答 単位:%)(採用内定取消事由を定めている企業を対象に集計)
図


 4 採用内定者に対してあらかじめ採用内定取消事由を知らせている企業は、新規学卒者の場合は34.2%、中途採用者の場合は25.5%である。(労働政策研究・研修機構「従業員関係の枠組みと採用・退職に関する実態調査」(平成16年))


 5 採用内定取消に関する民事上の個別労働紛争相談件数は、増加傾向にあり、平成16年度においては、1,233件に上る。(厚生労働省大臣官房地方課労働紛争処理業務室調べ)

  ・ 採用内定取消に関する民事上の個別労働紛争に関する相談件数
図

  ・ 採用内定取消に関する助言・指導申出受付件数
図

  ・ 採用内定取消に関するあっせん申請受理件数
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(単位:件)
 (注)いずれも「平成13年度」は平成13年10月から同14年3月までの数値である。


 6 採用内定に関する紛争の事例としては、例えば、次のようなものがある。

採用内定の有無について意見の食い違いがあった例】
採用内定により前職を退職した例】
 前職在職中に採用確定との連絡を受け、雇用契約書(仮)を交わしたところ、約2週間後に経験不足を理由として社長の意向により採用が取り消された。しかし、採用内定取消時には既に前職の退職を決めていたことを理由に、採用内定者が経済的・精神的な損害に対する補償金を求めたもの。
 会社側は、雇用契約書(仮)を交わした段階ではまだ採用内定を行ったものではなく、その後の社長面接により採用を決定することを知らせていたと主張した。

使用者が採用内定当時知っていた事由により採用内定取消となった例】
採用内定時には、採用内定が取り消され得る事由が明示されていなかった例】 3月上旬の採用面接で採用の意思表示を受け、同月、4月中旬に勤務を開始する旨の雇用契約を締結して社会保険や賃金の支払いについて質問していたところ、勤務開始日前日に勤務開始を保留とされ、4月末に「資格不適当」、「職務に対する姿勢に積極性が不足」との理由で採用内定が取り消された。
 採用内定者は、学歴、職歴などは面接時に明らかにしており、契約を交わしてから1ヶ月以上経過してから問題があるとされることや、全く勤務していないのに能力不足であるとされることに納得できないため、経済的・精神的な損害に対する補償を求めたもの。

採用内定取消がなされた際に、その採用内定取消事由に食い違いがあった例】
採用内定時には、採用内定が取り消され得る事由が明示されていなかった例】 準看護師である労働者が面接を受け、その場で採用内定として約1か月後に勤務を開始することとされた。その際、資格について確認したが、正看護師・准看護師は関係なく経験を重視することを明言された。
 しかし、2週間後に連絡があり、医師との協議の結果、准看護師であることを理由に採用内定を取り消すこととなった旨の通知を受けた。このため、採用内定者は、会社側の主張する理由は前言と異なり納得できないとして、経済的・精神的な損害に対する補償を求めたもの。
 会社側は、准看護師であることが理由ではなく、前職の勤務先に問い合わせたところ、この労働者がまだ退職していないという回答であったため、トラブルを避けるために採用を見合わせたと主張した。

裁判例:採用内定取消に当たって、解約権の濫用は許されないとされた例】
裁判例:会社側が採用内定当時知っていた事由による採用内定取消が認められなかった例】
 翌年3月に大学を卒業予定の学生が、大学の推薦を受けて求人募集に応じ、7月に筆記試験及び適性検査を受けて身上調書を提出した。学生は試験に合格し、会社側の指示により、数日後に面接試験及び身体検査を受けた上で、会社側から採用内定の通知を受けた。この学生は、会社側からの求めに応じて、所要事項を記載した誓約書を提出し、就職を予定していたところ、卒業直前の翌年2月に突然会社側から採用内定取消しの通知を受けた。
 会社側は、学生がグルーミーな印象なので当初から不適格と思われたが、それを打ち消す材料が出るかもしれないので採用内定としておいたところ、そのような材料が出なかったと主張した。
 判決では、「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」、「グルーミーな印象であることは当初からわかっていたことであるから、上告人(会社側)においてその段階で調査を尽くせば、従業員としての適格性の有無を判断することができたのに、不適格と思いながら採用を内定し、その後右不適格性を打ち消す材料が出なかったので内定を取り消すということは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができず、解約権の濫用というべき」とされた。(大日本印刷事件 昭和54年最高裁判決)


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