○ 労働条件の設定・変更について

 1 労働条件を何によって設定しているかについて、まず、就業規則の作成状況についてみると、企業規模10人以上の企業のうち、何らかの形で就業規則を作成している企業は94.4%となっている。(労働政策研究・研修機構「労働条件の設定・変更と人事処遇に関する実態調査」(平成16年))
 また、零細企業における就業規則の状況について労働者9人以下の企業をみると、現在適用の就業規則がある企業は36.4%、古いものがある企業が33.9%である。(日本労務研究会「中小企業における就業規則等の労働者への周知に関する調査研究」(平成11年))

  ・ 就業規則の作成状況(単位:%)(10人以上規模の企業を対象に調査)
図

  ・ 就業規則の有無(単位:%)
図


 2 就業規則の周知方法としては、入社時に説明しているが53.4%、各職場に掲示したり、備え付けたりして従業員が自由に見られるが34.2%となっている。(労働政策研究・研修機構「労働条件の設定・変更と人事処遇に関する実態調査」(平成16年))

  ・就業規則の周知方法(複数回答 単位:%)(就業規則がある企業を対象に集計)
図


 3 就業規則について労働者に対する調査をみると、就業規則があると回答した労働者のうち就業規則の内容を概ね知っているとする者は、労働者9人以下の企業で64.0%、300人以上の企業で65.9%であり、企業規模によって大きな違いはない。一方、知りたいときはいつでも知ることができるとする者は、労働者9人以下の企業で23.7%、300人以上の企業で61・3%となっている。(日本労務研究会「中小企業における就業規則等の労働者への周知に関する調査研究」(平成11年))

  ・就業規則の認知状況(複数回答 単位:%)(就業規則があると回答した労働者(全体の84.4%)を対象に集計)
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 4 労働条件等について企業と労働者側が話し合う労使協議機関についてみると労使協議機関を設置している企業は全体の29.3%であり、企業規模が大きくなるほど設置されている割合は高くなっている。(労働政策研究・研修機構「従業員関係の枠組みと採用・退職に関する実態調査」(平成16年))
 労働者に対する調査では、労使協議機関があると回答した労働者は全体の49.3%となっている(平成16年)。また、平成11年に労使協議機関があると回答した労働者(全体の53.2%)のうち、64.6%が労使協議機関は有効であると考えている。また、労使協議機関がないと回答した労働者(全体の25.3%)のうち、60.0%がその必要性を感じている。(厚生労働省「労使コミュニケーション調査」(平成11年、平成16年))

  ・労使協議機関の設置状況(単位:%)(従業員10人以上規模の企業を対象に調査)
図
 ※ ここで「労使協議機関」は、「労働組合との団体交渉以外で、経営者側と従業員の代表者とが協議・意見交換する常設の場」を指す。

  ・労使協議機関の設置状況(単位:%)(労働者30人以上規模事業場の労働者を対象に調査)
図

  ・ 労使協議機関の有効に機能している程度(単位:%)(平成11年に労使協議機関があると回答した労働者を対象に集計)
図

  ・ 労使協議機関についての今後の希望(単位:%)(平成11年に労使協議機関がないと回答した労働者を対象に集計)
図

  ・ 労使協議機関の下部組織としての専門委員会(複数回答 単位:%)(平成16年 下部組織として専門委員会がある企業(労使協議機関がある企業の65.3%)を対象に集計)
図


 5 労使協議機関の開催形態としては、定期及び必要のつど開催とする企業が34.0%となっている。また、労使協議機関の従業員代表の選出方法では、労働組合の代表者とする企業が57.9%である。
 労使協議機関の付議事項についてみると、労働時間・休日・休暇について付議する割合が92.6%、賃金・一時金について86.3%となっている。(厚生労働省「労使コミュニケーション調査」(平成16年))

  ・ 労使協議機関の開催形態(単位:%)(労使協議機関がある企業を対象に集計)
図

  ・ 労使協議機関の従業員代表の選出方法(単位:%)(労使協議機関がある企業を対象に集計)
図

  ・ 労使協議機関の付議事項とその取扱い(労使協議機関がある企業を対象に集計)
図
 ※ ()内の数値は、当該事項を付議する事業所の割合である。


 6 就業規則に関する紛争の事例としては、例えば、次のようなものがある。

既にある就業規則の適用が問題になった例】
 管理職について、内規によって57歳到達時以降賃金が減額となる制度があるが、労働者は、その制度の存在は知っていたが詳細は知らなかった。57歳になって賃金が減額されたことからその制度制定の理由を会社に尋ねたところ、「高齢になると能力が落ちるから」と回答があったが、この理由にも納得がいかない。このため、当該減額制度が無効なものであるとして、賃金減額分の返還を求めたもの。
 会社側は、この制度は約20年前に57歳定年を60歳定年に延長した際に制定したものであり、約5年前にも説明を行っており、内規もあると主張した。

就業規則の規定と異なる合意の効力が問題になった例】
 約10年前にA社の子会社としてB社が分離独立した際に、A社からB社に転籍した労働者が、B社の倒産によって解雇された。
 B社では、もともとA社と同一であった退職金制度を、3年前に変更(退職金を減額)し、その際、当該変更について各労働者と覚書を交わしたが、就業規則の退職金規定は変更しなかった。
 労働者は、(1)退職金制度の変更について会社側から十分な説明がなく、また、説明があれば覚書を受諾しなかったこと、(2)覚書に基づく支払いは退職金規程所定の退職金の内払いとも取れ、現にA社ではそのように取り扱っていることから、覚書による退職金制度の変更は無効であって当時の退職金規程は現在でも有効であることを主張し、これに基づいて退職金を支払うよう求めたもの。
 会社側は、覚書を各個人別に記名捺印の上で交わしていることから、退職金制度は有効に変更されており、変更後の制度に基づく退職金の支払いで足りると主張した。

裁判例:就業規則の効力についての判断が示された例】 会社は、就業規則を変更し、これまでの定年制度を改正して、主任以上の職にある者の定年を55歳に定めた。このため、それまで定年制の適用のなかった主任らは定年制の対象となり、解雇通知を受けた。
 判決では、「就業規則は、当該事業場内での社会的規範たるにとどまらず、法的規範としての性質を認められるに至っているものと解すべきであるから、当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受ける」、「新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない」とされた。(秋北バス事件 昭和43年最高裁判決)

裁判例:就業規則の内容が労働契約の内容になるとされた例】 頸肩腕症候群と診断された労働者が、会社の健康管理規程(就業規則)に定める指導区分のうち、最も病状の重い「療養」にあたることとされ、その後も指導区分の変遷を繰り返した。その間、労働者は、本来の職務である電話交換の作業には従事せず、電話番号簿の訂正等の事務に従事していた。会社側は、労働者に対し、頸肩腕症候群の精密検診を受診するよう、就業規則に基づき二度にわたって業務命令を発したが、労働者はこれを拒否した。
 会社側は、労働者に対し、受診拒否が就業規則所定の懲戒事由(上長の命令に服さないとき)に該当する等として、懲戒として戒告処分をした。
 判決では、上記秋北バス事件判決を引いた上で、「就業規則が労働者に対し、一定の事項につき使用者の業務命令に服従すべき旨を定めているときは、そのような就業規則の規定内容が合理的なものであるかぎりにおいて当該具体的労働契約の内容をなしているものということができる」として、会社側の受診命令の効力が肯定された。(電電公社帯広局事件 昭和61年最高裁判決)


 7 就業規則を作成している企業(全体の94.4%)のうち、就業規則とは別に労働者との間で個別に労働条件を設定することがある企業は32.1%、ない企業は59.5%である。(労働政策研究・研修機構「労働条件の設定・変更と人事処遇に関する実態調査」(平成16年))

  ・ 個別の労働条件設定の有無(単位:%)(就業規則がある企業を対象に集計)
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 8 個別に労働条件を設定することがある企業が、どのような労働者に対して個別に労働条件を設定するかについてみると、パートタイマー等の非正規従業員が51.8%となっている。また、労働者との間で個別に設定されている労働条件としては、賃金、労働時間が多い。(労働政策研究・研修機構「労働条件の設定・変更と人事処遇に関する実態調査」(平成16年))

  ・ 個別に労働条件を設定している従業員の種類(複数回答 単位:%)(個別に労働条件を設定することがある企業を対象に集計)
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  ・ 個別に設定されている労働条件(複数回答 単位:%)(個別に労働条件を設定することがある企業を対象に集計)
図


 9 過去5年間における労働条件の個別的決定の対象となる労働者の割合が増加した事業所は、12.8%となっている。(厚生労働省「労使コミュニケーション調査」(平成16年))

  ・ 労働条件の個別的決定状況(単位:%)
図
 ※ 「労働条件の個別的決定」とは、「従業員個人が使用者側と、直接、目標管理等について話し合って、賃金などの労働条件を決めていくやりかた」を指す。


 10  個別の労働契約に関する紛争の事例としては、例えば、次のようなものがある。

就業規則の規定と異なる合意の効力が問題になった例】(再掲)
 約10年前にA社の子会社としてB社が分離独立した際に、A社からB社に転籍した労働者が、B社の倒産によって解雇された。
 B社では、もともとA社と同一であった退職金制度を、3年前に変更(退職金を減額)し、その際、当該変更について各労働者と覚書を交わしたが、就業規則の退職金規定は変更しなかった。
 労働者は、(1)退職金制度の変更について会社側から十分な説明がなく、また、説明があれば覚書を受諾しなかったこと、(2)覚書に基づく支払いは退職金規程所定の退職金の内払いとも取れ、現にA社ではそのように取り扱っていることから、覚書による退職金制度の変更は無効であって当時の退職金規程は現在でも有効であることを主張し、これに基づいて退職金を支払うよう求めたもの。
 会社側は、覚書を各個人別に記名捺印の上で交わしていることから、退職金制度は有効に変更されており、変更後の制度に基づく退職金の支払いで足りると主張した。


 11  ここ5年間において、労働条件を変更したことがあった企業は42.6%である。労働条件を変更した場合の手続についてみると、就業規則(社内規程含む。)を変更した企業が69.8%と最も多い。(労働政策研究・研修機構「労働条件の設定・変更と人事処遇に関する実態調査」(平成16年))

  ・ ここ5年間の労働条件変更の有無(単位:%)
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  ・ 労働条件変更における手続(複数回答 単位:%)(労働条件変更があった企業を対象に集計)
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 12  90年代半ば以降に人事・労務管理制度に関する何らかの制度改定を行った企業は90.4%(そのうち58.3%が就業規則の変更により実施)である。
 そのうち、制度の変更内容が一部従業員に利益にならないこともあるとする企業が46.5%、大部分の従業員に利益にならないとする企業が10.5%である。(日本労務研究会「労働条件の変更に当たってのトラブルを未然に防止するための施策の在り方に関する調査研究」(平成14年))

  ・ 制度の変更内容の不利益の有無(単位:%)(90年代半ば以降に人事・労務管理制度に関する何らかの制度改定を行った企業を対象に集計)
図


 1 ここ5年間において就業規則を変更した企業について、行政官庁への届出に際しての意見聴取の状況をみると、過半数組合の意見を聴いたのは10.4%、従業員の過半数を代表する者(過半数代表者)の意見を聴いたのは69.1%である。
 労働組合の有無別でみると、労働組合のある企業の方が、特に意見を聴かなかったとする割合が低い。(労働政策研究・研修機構「労働条件の設定・変更と人事処遇に関する実態調査」(平成16年))

  ・意見聴取の有無(単位:%)(労働条件変更を就業規則の変更によって行った企業を対象に集計)
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 1 就業規則の変更に当たり意見を聞いた過半数代表者の選任方法としては、選挙が16.9%、信任が16.0%となっている。
 選挙方法としては、無記名投票が53.0%、挙手が42.3%であって、投票した従業員の範囲は、係長クラスまで含むとする企業が33.0%である。信任の際の方法としては、挙手が27.5%であって、候補者の定め方は、従業員会等の代表者が自動的に候補者となる慣行とする企業が36.3%である。
 過半数代表者となった従業員は、係長・主任クラスが39.1%、一般の従業員が33.0%である。(労働政策研究・研修機構「労働条件の設定・変更と人事処遇に関する実態調査」(平成16年))

  ・過半数代表者の選任方法(単位:%)(就業規則の変更に当たり過半数代表者の意見を聞いた企業を対象に集計)
図

  ・ 選挙方法(単位:%)(選挙で選任する企業を対象に集計)
図

  ・ 投票した従業員の範囲(単位:%)(選挙で選任する企業を対象に集計)
図

  ・ 信任の方法((単位:%)信任で選任する企業を対象に集計)
図

  ・ 投票した従業員の範囲(単位:%)(信任で選任する企業を対象に集計)
図

  ・ 候補者の定め方(単位:%)(信任で選任する企業を対象に集計)
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  ・ 一定の従業員が集まって話合いにより過半数代表を選出する場合の話合いをする従業員の範囲(単位:%)(一定の従業員が集まって話合いで選任する企業を対象に集計)
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  ・ 過半数代表者となった従業員(単位:%)(就業規則の変更に当たり過半数代表者の意見を聞いた企業を対象に集計))
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 15 ここ5年間において就業規則を変更した企業で、法定の意見聴取手続のほかに従業員の意見を反映させるための措置を行った企業は78.1%、特に措置をしていない企業は20.6%である。

 労働組合がある場合、措置をした企業は88.2%、措置の内容としては労働組合との事前協議が77.1%となっている。労働組合がない場合には、措置をした企業は76.2%、措置の内容としてはその都度従業員の代表と協議が61.9%である。(労働政策研究・研修機構「労働条件の設定・変更と人事処遇に関する実態調査」(平成16年))

  ・就業規則変更に従業員の意見を反映させるための措置の有無(単位:%)(労働条件変更を就業規則の変更によって行った企業を対象に集計)
図

  ・ 就業規則変更に従業員の意見を反映させるための措置の内容(複数回答 単位:%)(従業員の意見を反映させるための措置をした企業を対象に集計))
図


 16 ここ5年間において、就業規則の変更をめぐって個別の従業員との間で紛争が起こったことがあった企業は2.6%であり、なかった企業は93.3%であった。労働組合の有無別でみると、紛争があった企業は、労働組合がある企業の1.4%であるのに対し、労働組合がない企業の2.8%である。(労働政策研究・研修機構「労働条件の設定・変更と人事処遇に関する実態調査」(平成16年))

  ・就業規則で変更した事項についての個別の従業員との間の紛争の有無(単位:%)(労働条件変更を就業規則の変更によって行った企業を対象に集計))
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 17 就業規則の変更に関する紛争の事例としては、例えば、次のようなものがある。

労働者代表に事情を説明した就業規則の不利益変更が問題になった例】
 労働者が退職したところ、会社側は4か月前に退職金規程を変更したとして、労働者が想定していた退職金の約7分の1の退職金しか支給されなかった。このため、労働者は、そのような退職金規程の変更については一切告げられておらず納得がいかないとして、旧退職金規程に基づく退職金の支払いを求めたもの。
 会社側は、就業規則の退職金規程は、変更時点で労働者代表に事情を説明し改定を行い、労働基準監督署にも届け出ているもので、規定に基づき処理を行っていることから、問題はないと主張した。

裁判例:就業規則の効力についての判断が示された例】(再掲) 会社は、就業規則を変更し、これまでの定年制度を改正して、主任以上の職にある者の定年を55歳に定めた。このため、それまで定年制の適用のなかった主任らは定年制の対象となり、解雇通知を受けた。
 判決では、「就業規則は、当該事業場内での社会的規範たるにとどまらず、法的規範としての性質を認められるに至っているものと解すべきであるから、当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受ける」、「新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない」とされた。(秋北バス事件 昭和43年最高裁判決)

裁判例:就業規則の変更の合理性の判断基準が示された例】
【裁判例:就業規則の変更の合理性が認められた例】
 会社は、定年を55歳から60歳に延長するかわりに給与等の減額、特別融資制度の新設等を内容とする労働協約を締結した上で就業規則を変更した。これにより、労働者の55歳以後の年間賃金は54歳時の6割台に減額となり、従来の55歳から58歳までの賃金総額が新定年制の下での55歳から60歳までの賃金総額と同程度となった。このため、労働者は、この制度変更を無効と主張し、従来の定年制のもとで得られたはずの賃金との差額分の支払いを求めた。
 判決では、「賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。右の合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである」、「本件就業規則の変更は、行員の約90パーセントで組織されている組合(中略)との交渉、合意を経て労働協約を締結したものであるから、変更後の就業規則の内容は労使間の利益調整がされた結果としての合理的なものであると一応推測することができ」るとされた。(第四銀行事件 平成9年最高裁判決)

裁判例:多数組合の同意があった就業規則の変更の合理性が否定された例】
 60歳定年制を採用していた銀行は、賃金制度の二度にわたる見直しを行う際に、従業員の73%が加入する労働組合の同意は得たが、少数組合の同意を得ないままこれを実施し、就業規則を変更した。これにより、55歳以上の管理職・監督職階にあった労働者(少数組合の組合員)は、専任職の発令を受け管理職の肩書きを失うとともに賃金が減額した。
 そこで、労働者は、本件就業規則の変更は、同意をしていない自分には効力が及ばないとして、専任職への辞令及び専任職としての給与辞令の各発令の無効確認、従前の賃金支払を受ける労働契約上の地位にあることの確認並びに差額賃金の支払を請求した。
 判決では、「本件では、行員の約73%を組織する労組が本件第一次変更及び本件第二次変更に同意している。しかし、上告人(労働者)らの被る前示の不利益性の程度や内容を勘案すると、賃金面における変更の合理性を判断する際に労組の同意を大きな考慮要素と評価することは相当ではないというべきである。」、「専任職制度の導入に伴う本件就業規則等変更は、それによる賃金に対する影響の面からみれば、上告人(労働者)らのような高年層の行員に対しては、専ら大きな不利益のみを与えるものであって、他の諸事情を勘案しても、変更に同意しない上告人(労働者)らに対しこれを法的に受忍させることもやむを得ない程度の高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるということはできない」とされた。(みちのく銀行事件 平成12年最高裁判決))


 18 ここ5年間に労働条件の変更を受け入れなければ退職を余儀なくされることを説明した上での労働条件変更があった企業は3.4%であった。(労働政策研究・研修機構「労働条件の設定・変更と人事処遇に関する実態調査」(平成16年))

  ・労働条件の変更を受け入れなければ退職を余儀なくされることを説明した上での労働条件変更の有無(単位:%))
図


 19 個別の労働契約の変更その他労働条件の引下げに関する紛争の事例としては、例えば、次のようなものがある。

個別の労働契約の不利益変更が問題となった例】
 インストラクターとして週3日勤務の条件で5年間勤務してきた労働者に対して、会社側が、経営難を理由に週1日勤務への変更を求めた。労働者がこれを断ったところ、5日後に、経営難及びインストラクターとしての指導方針等が会社の方針に合わないことを理由として解雇された。
 労働者は、解雇理由に納得できないとして、復職又は経済的・精神的損害に対する補償金の支払いを求めたもの。
 会社側は、不当解雇ではないし、誠意として最終月の賃金を上乗せして支払っており、問題はないと考えていると主張した。

その他の制度の不利益変更の例】
 パートタイマーである労働者について、賃金制度の改正により、1か月の稼働日数が16日未満の者については、それ以外の者と比較して1日あたりの日給が引き下げられ、また、諸手当が支給されないこととなり、前月の稼働日数が15日であった労働者にとっては、大きな賃金の減額となった(就業規則が改正されたかどうかは不明。)。
 このため、労働者は、事前に何の話もなしにこのような一方的な賃金の減額は認められないとして、実際に支払われた賃金と制度改正前の基準で算出された賃金との差額の支払いを求めたもの。
 会社側は、通常の月16日以上の勤務であれば労働者にとって有利な改正であったこと、また、会社としては当該労働者の担当部署の管理職に、各労働者に対して改正内容を説明するよう指示したことから、労働者も承知のことであると判断していたことを主張した。)


 20 労働条件の引下げに関する民事上の個別労働紛争相談件数、助言・指導申出受付件数、あっせん申請受理件数は増加傾向にある。
 平成16年度では、相談件数は28,887件であり、民事上の個別労働紛争に関する相談内容全体の16.0%を占めている。助言・指導申出受付件数は817件で、助言・指導申出内容全体の14.7%を占めている。また、あっせん申請受付件数は807件であり、あっせん申請内容全体の12.9%を占めている。(厚生労働省大臣官房地方課労働紛争処理業務室調べ)

  ・ 労働条件の引下げに関する民事上の個別労働紛争相談件数
図
(単位:件)
 (注)「平成13年度」は平成13年10月から平成14年3月までの数値である。

  ・ 民事上の個別労働紛争相談内容全体のうち、労働条件の引下げに関するものの割合
図

  ・ 労働条件の引下げに関する助言・指導申出受付件数
図
(単位:件)
 (注)「平成13年度」は平成13年10月から平成14年3月までの数値である。

  ・ 助言・指導申出内容全体のうち、労働条件の引下げに関するものの割合
図

  ・ 労働条件の引下げに関するあっせん申請受理件数
図
(単位:件)
 (注)「平成13年度」は平成13年10月から平成14年3月までの数値である。

  ・ あっせん申請内容全体のうち、労働条件の引下げに関するものの割合
図

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