医薬食品局監視指導・麻薬対策課
 富永 (内線 2779)
 工藤 (内線 2784)


違法ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)対策のあり方について
(提言:要旨)


1. 違法ドラッグの現状
 薬事法違反(無承認無許可医薬品)である疑いが強いにもかかわらず、「合法ドラッグ」「脱法ドラッグ」などと呼ばれ、公然と販売され、近年、青少年を中心に乱用が拡大。
 乱用拡大に伴い、死亡事故を含む健康被害が発生。また、違法ドラッグの使用をきっかけに麻薬等の使用に発展する危険性が増大(ゲートウェイ・ドラッグ)。

2. 違法ドラッグとは
 麻薬又は向精神薬には指定されておらず、それらと類似の有害性が疑われる物質であって、人に乱用させることを目的として販売等がされるもの。
 どのような物質が含まれているか不明な製品が多い。
 規制を逃れるため、目的を偽装(芳香剤、研究用試薬等)して販売等がされる。

3. 現行制度における規制と問題点
 麻薬及び向精神薬取締法では、麻薬等に指定された物質については厳しい取締りを行えるが、指定には当該物質の有害性(依存性、精神毒性等)を立証する必要があるため、指定までに時間を要し、次々に含有成分の異なる製品が出現する違法ドラッグに対する迅速かつ広範な規制は困難。
 薬事法では、人体に影響を及ぼすことを目的とするものを医薬品として取り締まることが可能で、違法ドラッグもその対象である。しかし、違法ドラッグの多くは用途が偽装されているため、実効ある取締りに支障。また、個人が外国から直接購入すること(個人輸入)については規制がないことも問題。

4. 違法ドラッグ規制の具体的方策
 含有成分の有害性につき積極的に調査し、麻薬又は向精神薬と同様の有害性が立証された物質については麻薬等として指定し、厳しい取締りを行うべき。
 麻薬等への指定に至らない物質については、薬事法により迅速かつ広範な規制を確実に実施していくため、以下の法的整備を行うべき。
 ・ 違法ドラッグの成分をあらかじめ明示し、規制根拠を明確化
 ・ 違法ドラッグであることが疑われる製品に対する危害防止措置
 ・ 販売等に対する取締りに加え、個人輸入についても一定の規制を行い、違法ドラッグの入手機会を可能な限り制限

5. その他の違法ドラッグ対策
 違法ドラッグ乱用防止のための啓発活動
 関係機関間の連携強化
 インターネット監視の強化



平成17年11月25日

違法ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)対策のあり方について
(提言)
脱法ドラッグ対策のあり方に関する検討会
はじめに
   「脱法ドラッグ対策のあり方に関する検討会」は、平成17年2月22日に設置され、これまで6回にわたり、いわゆる脱法ドラッグの現状やその特徴を踏まえながら、その規制方策や乱用防止のための啓発活動のあり方等について議論を重ねてきた。今般、これまでの議論、検討結果をとりまとめたので、ここに報告する。
 なお、従前の「脱法ドラッグ」という呼称は、これらが薬事法違反である疑いが強いにもかかわらず、法の規制が及ばないかのような誤ったメッセージを与えかねないため、本検討会では、これを「違法ドラッグ」と変更すべきとの結論に達した。ただし、これまで脱法ドラッグと呼ばれていたものと異なるとの誤解・混乱を生じないよう、当面は「違法ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)」と括弧書きを付すこととした。そこで本報告書でも、これまでの脱法ドラッグという呼称を改め、違法ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)(以下単に「違法ドラッグ」と表記。)の呼称を用いている。

1. 違法ドラッグの現状
 人為的合成か天然物由来かを問わず化学物質には、麻薬等と同様に多幸感、快感などの効果を期待して摂取されるものがある。それらの中には、やがて乱用に伴う保健衛生上、社会上の危害が顕著となり、また、依存性、精神毒性等の有害性が解明され、麻薬に指定されるなど法的な規制がなされるものもある。(例えば、昭和45年(1970年)に麻薬に指定されたLSD、同じく平成元年(1989年)のMDMAなど。)
 違法ドラッグは、平成10年頃から一部の薬物マニアの間で流行し始めたと推定され、現在、以下のような状況にある。
 (1)  違法ドラッグは、薬事法違反(無承認無許可医薬品)である疑いが強いにもかかわらず、麻薬や向精神薬に指定された成分は含有していないため、アダルトグッズショップ、インターネット等の通信販売などで「合法ドラッグ」「脱法ドラッグ」などと称して半ば公然と販売されており、最近では青少年を中心にその乱用が拡大する傾向にある。
 (2)  そうした乱用の拡大を背景に、違法ドラッグの過量摂取や数種類の違法ドラッグの併用によるものと疑われる中毒等の健康被害や事故(死亡例を含む。)が発生している。さらに、違法ドラッグの使用をきっかけに麻薬や覚せい剤の使用に発展したと思われる事例も知られており、違法ドラッグを通じて薬物乱用に対する罪悪感や抵抗感が薄れる、あるいは、より強い刺激を求める欲求が生じることで、麻薬や覚せい剤等へのゲートウェイ(入り口)となる危険性が高くなっている。

2. 違法ドラッグとは
 (1) 本検討会で検討した違法ドラッグ
 本検討会においては1.の現状を踏まえ、違法ドラッグの範囲を、実際に依存性等を有するか否かによらず、できる限り幅広くとらえて乱用対策のあり方につき検討を行うため、検討対象を「麻薬又は向精神薬には指定されておらず、麻薬又は向精神薬と類似の有害性を有することが疑われる物質(人為的に合成されたもの、天然物及びそれに由来するものを含む。)であって、専ら人に乱用させることを目的として製造、販売等がされるもの」とした。
 (なお「乱用」とは、本来あるべき用途や目的から外れる使用等を指し、麻薬及び向精神薬取締法(以下「麻向法」という。)第1条にいう「濫用」に相当するものであるが、医学的な定義は必ずしも定まっていないところである。そのため本検討会では、法に抵触するか否かによらず、我が国の社会規範に照らして逸脱と見なされる行為としてより広い概念で捉えている。)

 (2) 違法ドラッグの特徴
 こうした違法ドラッグ対策のあり方を検討するに当たって、まずその特徴的な事項として留意すべき点として、以下が挙げられる。
(限られた情報・科学的知見)
 麻薬の化学構造を部分的に変化させた新たな物質や、これまで我が国ではほとんど知られていなかった幻覚性植物等に由来するものが次々と出現しており、また、含有成分がある程度判明した違法ドラッグであっても、容易に販売名や包装形態等を変えて販売がなされるなど、実際にどのような物質が含まれているか不明なまま流通している製品が多い。
 製品に含まれる成分として物質が特定された場合であっても、ほとんどの場合、依存性や精神毒性等の有害性に関して現時点で得られている科学的知見は非常に限られている。
(目的を偽装した販売等)
 違法ドラッグは専ら乱用に供する目的で流通しているが、規制を逃れるため、芳香剤・防臭剤、ビデオクリーナー、研究用試薬、観賞用等と称した上、幻覚等の作用を「誤用防止の注意書き」等で偽装し、あるいは用途を一切標榜しないまま、輸入、販売等がなされているものがほとんどである。
 このような場合でも、違法ドラッグを購入、乱用する者は、別途インターネット等を通じて、その摂取方法や効果等に関する情報を得ている。

3. 現行制度における規制と問題点
 これまで違法ドラッグへの規制対応は、麻向法と薬事法の2つの法律により行われており、その具体的な規制内容と問題点は以下のとおりである。

(1) 麻向法による対応
 国では、麻薬又は向精神薬と類似の有害性が疑われる化学物質や基原植物につき、依存性、精神毒性等に関する科学的データの収集、調査を積極的に実施し、かかる有害性が裏付けられ次第、速やかに麻薬等に指定している。いったん麻薬等に指定されれば、それを含有する製品に対しては厳しい取締りがなされることになる。
 平成14年6月、サイロシビン又はサイロシンを含有するきのこ類(いわゆる「マジック・マッシュルーム」)が麻薬原料植物に指定された。また、本年4月には、違法ドラッグの成分からAMT及び5-MeO-DIPTの2成分が麻薬に指定された。更に現在、MBDB及び2C-T-7の2成分について麻薬に指定すべく準備が進んでいる。
(問題点)
 しかしながら麻向法では、個々の物質について有害性を立証した上で、当該物質を麻薬等に指定するため、規制範囲は指定対象となった物質を含有する製品に限定される。そのため、化学構造の類似した新たな物質等が次々と出現し、それらを含有する製品が目まぐるしく交代して流通している違法ドラッグを迅速かつ広範に規制することは難しい。また、有害性が疑われる物質が特定されてから、最終的にそれが麻薬等に指定されるまでには、科学的データの収集等のため少なくとも1〜2年の時間を要するという問題がある。

(2) 薬事法による対応
 違法ドラッグは、専ら人に乱用させることを目的として販売等がなされている。このため国及び各都道府県では、薬事法で定義する医薬品「人の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物」(第2条第1項第3号)に該当し、薬事法に基づく承認や許可を受けずに業として輸入、販売等がなされている医薬品、すなわち無承認無許可医薬品の疑いがあると判断し、監視指導を行っているところである。
(問題点)
 2.(2)で述べたように、違法ドラッグは、人体への摂取を目的としていないかのように偽装される等、薬事法の規制対象となることが立証困難な場合があり、取締りの実効性に支障が生じている。
 また、乱用者自らが違法ドラッグを外国から直接購入し、郵送等で取り寄せる行為(個人輸入)については、現行の薬事法で規制が設けられていない。近年、インターネットの普及に伴い、一般消費者でも安易に個人輸入を行える状況にあり、特に、青少年が興味本位で違法ドラッグを輸入するおそれが大きくなっている。さらに、国内での販売を目的としながら個人輸入と称して違法ドラッグを大量に輸入している事例や、個人輸入の代行を謳いつつ、実際は国内で販売を行う事例があるなど、個人輸入という形態が悪用されている実態もある。

4. 違法ドラッグ規制の視点
 上記3.に示した現行制度における規制とそれらの抱えている問題点を踏まえ、今後、違法ドラッグ対策の強化を進める上で、次の事項を考慮して具体的な方策を検討する必要があるものと考えられる。
(1) 迅速な規制
 ○  麻薬又は向精神薬と同様の有害性を有することが確認されたものについては、速やかに麻薬等として指定し、厳しい規制を行っていくべきである。
 ○  化学構造の一部を変化させる等により、新たな物質が次々と出現することから、含有物質の有害性に関する科学的知見が必ずしも十分集積されていない段階であっても規制がなされるべきである。
(2) 広範な規制
 ○  乱用に供する目的で流通している疑いのあるものに対しては、用途の標榜等の如何にかかわらず、危害発生の防止を図る措置がとられるべきである。
(3) 確実な規制
 ○  取締りが効果的に実施されるような仕組みがとられるべきである。
 ○  乱用者自らが外国から直接購入すること(個人輸入)を含め、違法ドラッグの入手機会を抑えることが考慮されるべきである。

5. 違法ドラッグ規制の具体的方策の検討
 こうした視点に立ち、本検討会において違法ドラッグ規制の具体的方策につき、各分野の専門的観点から議論を重ねたところ、おおむね以下のような意見に集約された。

(1) 麻向法による規制
 まず、違法ドラッグ対策を講じていく上での基本的な前提として、麻薬等と類似の有害性が疑われる化学物質や基原植物について、引き続き依存性、精神毒性等に関する科学的データの収集、調査に積極的に取り組み、かかる有害性が確認され次第、速やかに麻薬等に指定していくこととする。
 その一方で、麻薬等の指定に至るまでの間は有効な規制ができないこと、また、麻薬等と類似の有害性を見出せない物質については、現行の麻向法の枠組みでは規制できないといった諸問題を解決する必要がある。
 これらを解決する方策として麻向法の下で新たに「一括指定制度」あるいは「暫定指定制度」を導入することが可能であるかどうかについて検討を行ったが、次に示すように、我が国の法体系上困難であると考えられる。
 (1)  一定の化学構造を有する物質群を一括して規制対象とする「一括指定制度」については、指定された化学構造を有する物質でも有害性の程度には大きな違いがあり、中には有害性が全く認められないものも含まれる可能性があるため、それらを一律に厳しく取り締まることは、罪刑法定主義及びそれより派生する諸々の刑法理論に照らして問題がある。
 (2)  麻薬等に相当する有害性が疑われる物質について、それが立証されるまでの間、暫定的に規制対象とする「暫定指定制度」についても、一定期間内に有害性が立証されずに指定を解除することになった場合、指定期間中に摘発されて有罪となった者の取扱い等について刑事立法上の問題(処罰の必要性及び根拠の問題、国家賠償の問題等)が生じるおそれがある。
 したがって、上記の問題を解決するためには、麻向法とは別の法体系による、迅速かつ広範な規制を講じる方策を検討する必要がある。

(2) 薬事法による規制
 薬事法は、いわゆる「目的規制」の体系を採用し、有害性の程度や表向きの標榜等の如何によらず、「人の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物」を全般に規制対象としていることから、麻向法に比べて格段に迅速かつ広範な規制が可能である。
 しかしながら、現行の薬事法では、上記3.(2)で述べたように、医薬品への該当性を立証しにくい場合が多いほか、乱用に供する目的が疑われる段階での規制や、個人的に使用するためとして輸入される違法ドラッグへの規制が困難である。
 こうした現行の薬事法における規制の問題点について改善策を講じることによって、違法ドラッグに対する取締りに、より一層の機動性、実効性を持たせることが可能となるものと考えられる。具体的には、以下の事項に関する法的整備を検討すべきである。
 (1)  規制根拠の明確化
 違法ドラッグの有効成分として使用(乱用)実態が認められる物質又は物質群(植物及びその加工品等を含む。)をあらかじめ明示し、それらを正当な理由なく含有する製品(=違法ドラッグ)は、表向き人体摂取を目的としない旨を標榜していたとしても薬事法の規制対象となることを明確にする。
 (2)  製品の違法性が疑われる段階での対応
 違法ドラッグの有効成分とみなされる物質を含有する可能性がある不審な製品が輸入や販売をされている等、乱用に供する目的で流通していることが疑われる場合には、保健衛生上の危害を未然に防止するため必要な措置を採ることができるようにする。
 (3)  流通(輸入)の規制強化
 違法ドラッグについては、販売等に対する取締りに加え、個人が外国から直接購入すること(個人輸入)に関しても一定の規制を行い、その入手機会を可能な限り制限する。

(3) 違法ドラッグの所持及び使用の規制に関する考察
 3.(1)で述べたように、違法ドラッグ成分の中にはやがて麻薬に指定されるものが含まれており、麻薬に指定された場合には、それらを含有する製品を所持したり、使用することも取締りの対象となる。そこで、違法ドラッグについても所持や使用を規制することができれば、青少年等の乱用の抑止に一層効果的であり、その方向で検討すべきではないかとの議論があった。
 また、違法ドラッグを人に摂取させる目的で販売や授与を行うことや、そのために所持することは、薬事法により無承認無許可医薬品として規制されている。しかし、現時点で麻薬相当の有害性が立証されたといえない違法ドラッグについて、販売等を予定しない個人的な使用のための所持等までも規制することは、有害性の程度に応じた規制の均衡という観点から、基本的に困難ではないかとの指摘がある。また、5.(2)において可能な法的手当を検討すべきとしたような、流通段階における規制・取締りの強化を図ることによって、興味本位や無思慮、あるいは無規範な考えによる違法ドラッグの入手や使用は相当程度抑制される可能性が高いとの意見もあった。
 違法ドラッグの乱用は決して容認されるものではないが、上記のように、単純所持及び使用の規制について、現時点で直ちに法的な措置として実現の途を探ることは難しいのではないかと考えられる。よって、本提言を踏まえた違法ドラッグ対策の帰趨や成果、また、それら対策が講じられた結果としての違法ドラッグの乱用実態等を十分に把握・検証した上で、麻向法における麻薬や向精神薬の規制とのバランス等を含め、今後検討すべき課題でないかと考えられる。

6. 違法ドラッグ乱用防止のための啓発活動
 違法ドラッグの乱用防止を包括的に推進するためには、供給側に対する規制と併せて、違法ドラッグに手を出しやすい層に対して啓発を図っていく必要があり、保健教育、乱用予防等の観点から議論がなされた。

(1) 啓発の重要性
 WHOが発行した2001年世界保健報告(World Health Report 2001)によれば、精神作用物質の使用による精神及び行動の障害(麻薬、アルコール、タバコ等)は、HIV/AIDS、結核等と並んで、国民の健康寿命を損なう原因疾患の上位を占めている。薬物乱用は精神を蝕み、長期にわたる障害や後遺症を引き起こす。薬物乱用防止の啓発は、薬物が人生を破壊することを防ぐための重要な方策である。
 一方、我が国では、青少年において、違法ドラッグを含めた薬物の危険性に関する認識、理解が十分でないことが指摘されており、青少年と日頃接する機会のある委員からも、これを裏付ける発言があった。
 青少年に違法ドラッグの乱用が誘発される背景には、それが法律に抵触しないものであり、また、無害であるかのように誤解し、抵抗感を薄れさせていることが多いと考えられる。青少年の薬物乱用は、後の人生に大きく影響を及ぼすため、興味本位で手を出してしまうのを防止する啓発活動が特に重要である。

(2) 啓発活動のあり方
 小学校から高校にかけての教育現場において、また、地域社会においても、違法ドラッグを含めた薬物の乱用に関する正しい知識や規範意識を根付かせることを第一とし、教育的観点からの啓発を継続的に行う必要があり、そのための体制を整えることが重要である。
 青少年に対する乱用防止の啓発活動においては、“その薬物が違法であって、乱用は犯罪につながり、社会のルールに反するものだからいけない”というアプローチに加え、“薬物乱用は心身に害を及ぼす(特に違法ドラッグは、将来如何なる障害を生じるか全く未知であるという危険性がある。)ので、自分自身の心身を大切にして、いたずらに薬物に手を出すべきでない”というアプローチが有効であり、こうした両面からの啓発が重要である。

(3) 乱用実態の把握の必要性
 そもそも違法な薬物の乱用については、乱用者がその事実を他人に知られたくないと考えるため、乱用実態の把握は一般に困難である。
 更に違法ドラッグの場合、内容成分の表示もなく販売され、その実体が明らかでないことが多く、また、異なる販売名等で次々と製品が登場するため、如何なる物質が乱用されているのか把握することすら困難である。
 しかしながら、薬物の乱用実態(乱用者の性別、年齢、社会階層等、乱用される薬物の種類、量等)のデータは、その薬物の乱用防止策を策定・実施する際の基礎となるものである。特に乱用防止啓発活動においては、ターゲット集団を特定することが極めて重要である。このため、違法ドラッグの乱用実態についても、可能な範囲で早急に調査を行うべきである。
 また、何らかの薬物によると思われる急性中毒で救急治療を受けた症例の報告を集積することによっても、違法ドラッグの乱用実態の一端を知る有益な情報が得られると考えられ、このような症例をモニターするため、病院ネットワークの構築等を検討すべきである。

7. その他の対策
 5.及び6.に示した対策の実効性を高めるため、積極的に取り組むべきその他の対策としては以下が挙げられる。

(1) 関係機関間の連携強化
 麻薬や覚せい剤等の乱用防止については、内閣総理大臣を本部長とする薬物乱用対策推進本部の下、薬物乱用防止新5カ年戦略が策定され、政府一丸となって取り組みが推進されている。
 違法ドラッグが麻薬や覚せい剤等の乱用のゲートウェイ(入り口)となるおそれがあることにかんがみれば、違法ドラッグに関しても乱用防止に向けて連携が欠かせない。取締りや啓発等を行う国の機関間はもとより、国と地方自治体の間においても、関係者が日頃から円滑な情報共有を図る等、緊密に協力して効果的な乱用防止対策を実施していく必要がある。

(2) インターネット監視の強化
 違法ドラッグは、インターネット上で販売広告、宣伝されていることが多い。インターネットはその手軽さや匿名性等の特性から、青少年が違法ドラッグを安易に入手する環境を形成しやすい。また、違法ドラッグの摂取方法や効果等、乱用を助長する情報の流布に、販売業者等が関与しているケースもあると考えられる。
 国及び都道府県等は、インターネット監視の一層の強化を図り、問題のある広告等を発見した場合には、警告メールの送信や改善指導・命令等の措置を迅速に採ることによって、違法ドラッグの入手機会を減少させるよう努めるべきである。

おわりに
   今般、違法ドラッグの乱用が青少年を中心に拡大している現状にかんがみ、早急に対応を検討し、措置すべきとの認識から、違法ドラッグの規制についての具体的方策、啓発活動のあり方等をここに提言としてとりまとめた。
 今後、本提言を踏まえ、政府において、法的措置を含めた違法ドラッグ対策を検討することとなるが、本検討会の成果が十分に活かされることを期待するとともに、引き続き違法ドラッグを含む薬物乱用対策について、国と都道府県等の地方自治体がこれまで以上に連携して取り組んでいくことを切に要望するものである。



(別添1)

脱法ドラッグ対策のあり方に関する検討会メンバー

いたくら      こ
板倉 ゆか子
  独立行政法人国民生活センター商品テスト部調査役
いまい たけよし
今井 猛嘉
  法政大学大学院法務研究科教授
くらわか まさお
倉若 雅雄
  神奈川県衛生部薬務課長
ごうだ ゆきひろ
合田 幸広
  国立医薬品食品衛生研究所生薬部長
こぬま きょうへい
小沼 杏坪
  医療法人せのがわKONUMA記念広島薬物依存研究所長
さとう みつもと
佐藤 光源
  東北福祉大学精神医学講座教授
すずき つとむ
鈴木 勉
  星薬科大学薬品毒性学教室教授
ながおか くにこ
長岡 邦子
  埼玉県立越谷総合技術高等学校保健体育科教諭
ふじおか じゅんこ
藤岡 淳子
  大阪大学大学院人間科学研究科教授
まちの さく
町野 朔
  上智大学法学研究科教授
みなみ まさご
南 砂
  読売新聞東京本社編集局解説部次長
みわ りょうじゅ
三輪 亮寿
  弁護士(三輪亮寿法律事務所長)
わだ きよし
和田 清
  国立精神・神経センター精神保健研究所薬物依存研究部長
(敬称略 五十音順)



本検討会の開催状況


第1回会合  平成17年  2月22日
   (議題)  ・ 脱法ドラッグの現状
 ・ 対策の現状と問題点
 ・ 脱法ドラッグの範囲 他

第2回会合    4月27日
   (議題)  ・ 脱法ドラッグの取締り状況
 ・ 海外の状況等
 ・ 「主な論点」の整理
 ・ 「主な論点1〜3」の討議 他

第3回会合    6月15日
   (議題)  ・ 「主な論点4及び5」の討議 他

第4回会合    8月 4日
   (議題)  ・ 「主な論点6及び7」の討議 他

第5回会合    9月22日
   (議題)  ・ 「脱法ドラッグ」の呼称変更について
 ・ 提言案骨子案の討議 他

第6回会合   11月25日
   (議題)  ・ 提言案のとりまとめ 他



用語解説

麻薬:
   中枢神経に作用して精神機能に影響を及ぼす物質のうち、強い依存性を有し、乱用された場合に、保健衛生上の危害及び社会的な弊害(有害作用)を生じるおそれの強いものが、麻薬及び向精神薬取締法(昭和28年法律第14号)で「麻薬」として指定されている。大別すると、次のようなものがある。
  (1) あへん系麻薬 (モルヒネ、コデイン、ヘロイン等:中枢神経抑制作用)
  (2) コカ系麻薬 (コカ葉、コカイン等:中枢神経興奮作用)
  (3) 合成麻薬 (ペチジン、フェンタニル等:中枢神経抑制作用
 MDMA、MDA等:中枢神経興奮作用及び幻覚作用
 LSD、△9-THC等:幻覚作用)
 なお、メタンフェタミン及びアンフェタミン、大麻、あへんについては、それぞれ個別の取締法*が制定されているため、麻薬及び向精神薬取締法に基づく「麻薬」には指定されていない。
 *  覚せい剤取締法(昭和26年法律第252号)
 大麻取締法(昭和23年法律第124号)
 あへん法(昭和29年法律第71号)

麻薬原料植物:
   麻薬として指定された物質を自然に生成する植物(維管束植物の他、きのこ類等の菌類、コケ類、藻類等を含む。)のうち、麻薬成分を製造(抽出)する基原となり得るものが、麻薬及び向精神薬取締法おいて「麻薬原料植物」として指定されている。
 指定された植物は、その栽培が原則禁止されるほか、法の規定により、それ自体も麻薬として輸出入、譲渡・譲受、所持、使用等が規制されることとなる。
 なお、大麻草及びけしについては、それぞれ個別の取締法*が制定されているため、麻薬及び向精神薬取締法に基づく「麻薬原料植物」には指定されていない。
 *  大麻取締法(昭和23年法律第124号)、あへん法(昭和29年法律第71号)

向精神薬:
   中枢神経系に作用して精神機能に影響を及ぼす物質のうち、麻薬ほど強くはないが依存性があり、乱用されるおそれがある、又は乱用された場合に有害作用を生じるおそれのあるものが、麻薬及び向精神薬取締法で「向精神薬」として指定されている。
 向精神薬には、医療分野で幅広く使用される有用なものがあり、また、乱用された場合の有害性の程度も様々であるので、医療上の有用性と乱用された場合の危険性を物質毎に勘案し、第1種向精神薬、第2種向精神薬及び第3種向精神薬に区分し、これら区分に従って段階的な規制としている。

依存性:
   依存とは、生体と物質(薬物)との相互作用の結果として生じる精神的ときに身体的な状態をいい、その物質の精神的な効果を体験するために、当該物質を連続的あるいは周期的に摂取することへの強迫(欲求)を常に伴っている行動等によって特徴づけられる。
 依存性とは、物質が有する依存を形成する性質のことで、依存形成性ともいう。依存性が「強い・弱い」というのは、依存をより生じやすいかどうかを表したものであって、依存性が弱いとされる物質でも、乱用によりいったん依存が形成されると離脱することは容易でない。

精神毒性:
   薬物の連用によって正常な精神機能、現実認識に障害を来す特性。どのような精神障害を生じるかは薬物によって異なり、例えば、幻覚性麻薬ではパニック障害や不安、大麻では無動機症候群や思考力低下等が知られている。
 我が国において最も問題となっているのは、覚せい剤(メタンフェタミン)に起因する、幻覚や被害妄想等を伴う精神障害であり、日常生活への適応を困難にするのみならず、ときに衝動的に反社会的な行動に至る場合があり、通り魔的な殺傷事件等、重大な社会的危害が発生している。

医薬品:
   薬事法(昭和35年法律第145号)第2条第1項において、「医薬品」とは次のいずれかに該当するものとされている。
  1  日本薬局方に収められている物
  2  人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であつて、機械器具、歯科材料、医療用品及び衛生用品(以下「機械器具等」という。)でないもの(医薬部外品を除く。)
  3  人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であつて、機械器具等でないもの(医薬部外品及び化粧品を除く。)
 薬事法では、医療上必要な医薬品(上記第2号の医薬品)の品質、有効性及び安全性を確保するため種々の規制を設けているのみならず、上記第3号の医薬品について、粗悪な製品の氾濫及びその使用による保健衛生上の危害を防止するため必要な取締りも行われている。

無承認無許可医薬品:
   製造等*を行い、又は輸入した医薬品を販売又は授与することを、薬事法上「製造販売」といい、同法第12条により、業として医薬品の製造販売を行うには、厚生労働大臣の許可を受けなければならないとされている。
 他に委託して製造する場合(委託製造)を含み、他から委託を受けて製造する場合(受託製造)は含まない。
 また、同法第14条により、医薬品の製造販売を行おうとする者は品目ごとに厚生労働大臣の承認を受けなければならないとされており、承認を受けていない医薬品は、同法第55条により販売、授与、又は販売若しくは授与の目的での貯蔵、陳列が禁止され、同法第68条により広告が禁止されている。
 これらに違反する医薬品を総称して、「無承認無許可医薬品」という。
 なお、医薬品を一般に対し販売又は授与するには、薬局又は医薬品販売業として都道府県知事の許可を受けなければならないとされている(同法第24条他)。
 薬事法で規定する医薬品(「医薬品」の項参照。)には、承認や許可を受けることが想定されないようなものも含まれ、違法ドラッグもそのひとつであるが、医薬品全体の安全性の確保を図る観点から、従来より薬事法に基づき、そうした製品の流通を取締り、市場から排除する措置が講じられてきている。

罪刑法定主義:
   ある行為を犯罪として処罰するためには、犯罪とされる行為の内容、及びそれに対して科される刑罰を、予め法律において明確に規定しておかなければならないとする原則であり、憲法第31条、第39条前段、第73条第6号ただし書により規定されている。
 罪刑法定主義より派生する諸々の刑法理論のうち、違法ドラッグ対策の検討においては、特に、次の2つの原則に留意すべきとされた。
  ○ 刑罰法規の明確:
 刑罰法規の内容は具体的かつ明確でなければならない。
  ○ 刑罰法規の適正:
 刑罰法規はその内容においても適正でなければならない。当該行為を犯罪とする合理的根拠があり、かつ、刑罰はその犯罪に均衡した適正なものでなければならない(規制の均衡)。

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