資料3−1

 「第8回生活保護費及び児童扶養手当に関する関係者協議会」における厚生労働省主張などにたいする意見
(2003年11月25日)
地方財政審議会委員  木村陽子

I。 住宅扶助基準の地域の住宅事情の反映について(1)
 厚生労働省の主張―『「国がしている住宅扶助基準において、同一の特別基準が設定されている地域内においても、実際に家賃格差がある。地域の実情をよりよく把握できる保護の実施自治体が、管内の住宅扶助基準を設定することにより、地域実情をよりよく反映したきめ細かな基準の設定が可能になる、と考える」
反論
 すでに住宅扶助基準は、地域実情を反映したきめ細かな基準となっていることは生活保護受給者の家賃分布をみてもあきらかである。
住宅扶助は47都道府県・14政令指定都市・35中核市ごとに、さらに1・2級地と3級地等に区分して408の額を設定(表1)。つまり、地域に応じて408の上限があるということ。各地域はその上限の範囲内の家賃の借家を借りる。
 各都道府県について、民間借家のうち住宅扶助特別基準額の範囲内で借りることができる住宅は全体の1割程度である。それは図表に示すとおりである。(図1(東京都)、図3(大阪府)、図5(富山県)、図7(三重県)、図9(青森県)、図11(石川県)、図13(高知県))。
各都道府県について、生活保護受給者の家賃は、すでに住宅扶助特別基準額を上限として地域実態を反映したものとなっており、多様化している。それは図表に示すとおりである。(図2(東京都)、図4(大阪府)、図6(富山県)、図8(三重県)、図10(青森県)、図12(石川県)、図14(高知県))。

II. 住宅扶助基準の地域の住宅事情の反映について(2)
 厚生省労働省資料では、「東京都(最も高い基準額)53700円では新宿区では6畳未満となるのに対し、八王子市では12畳間以上の間取りの賃貸も可能。家賃に差があるにもかかわらず、同一の基準にすると、借りることのできる住宅に実質的な不公平が起こりうる。地域の住宅事情を的確に反映しない基準は、相対的に高い基準の地域への被保護者の流入を招く」とある。
反論
 東京特別区と八王子市はともに東京都1級地―1に属し、住宅扶助特別基準額(単身)53700円は同じであるが、このことによって実態として不公平を引き起こしたり、相対的に高い基準の地域への被保護者の流入を招くほどの差異とはなっていない。(参考1級地―1、東京都特別区、八王子市、立川市など)
賃貸住宅について調べると以下のことが言える。東京都1級地―1の住宅扶助特別基準額53700円で借りられる住宅は、八王子市では、たとえば、アパートかマンションの占有面積が30平方メートルから40平方メートルで2K,あるいは2DK,築30年から15年、最寄り駅から徒歩10分から20分、なかにはバス乗車もある。
 新宿区では、アパートかマンションの占有面積が25平方メートルから40平方メートル2K,あるいは2DK,築35年から20年、最寄り駅から徒歩10分から15分ていど。ほかの東京都内の1級地―1に属する市は八王子の状況に類似する。
東京特別区では目黒区、足立区、練馬区なども新宿区の状況と類似する。しかし、千代田区などでは適合する家賃のところは見出しがたい。家賃が低いところに基準が設定されているのではないかと思われる。
質問
 以上みたように、すでに、生活保護受給者の家賃は地域実態を反映して多様化している。現行制度を変えて、厚生労働省のいうように、地方が基準を設定するによって、給付の適正化に資するか依然として疑問である。現在となにがかわるのか明確にご説明願いたい。

III. 生活保護受給者の公営住宅入居について
 厚生労働省側の主張―市営住宅、公営住宅を自治体はもっているので、今は現金支給が基本であるけれども、現物の住宅を支給するという対策もある。
反論
 住宅扶助はおもに大都市圏の問題であるが、公営住宅の応募倍率は高く、また公営住宅に生活保護受給者が優先入居することはほかのボーダーライン層との関係、就労関係、街づくりなどの観点から望ましいことではない。
生活保護受給世帯のうち、どれだけが公営住宅に入居するかは、公営住宅の供給状況とは関係がない(図15)。
住宅扶助の問題は主に大都市圏の問題である。公営住宅の応募倍率は大都市圏ほど高く、2003年では東京都が27.4倍、大阪府が20.1倍、北海道が8倍、愛知県は6.2倍、福岡県は11.4倍である(図16)。
大阪府では、応募倍率が1より小さい団地は、平成14年度府営住宅375団地のうち3団地(ほか泉北NTが15団地)、平成15年度府営住宅378団地のうち5団地(ほか泉北NT14団地)である。泉北NTは交通事情や築年数の古さが影響していると思われる。一方、大阪市営住宅は交通の便がよく人気が高い。人気の低い公営住宅に生活保護受給者が優先的に入居することは、受給者の就労状況やまちづくりの観点からも望ましいことではない。
公営住宅の入居は、母子世帯や障害を持つ人のいる世帯、高齢者世帯を優遇しており、その倍率は高い(表2)。

IV。 福祉事務所および生活保護費の負担について
 厚生労働省などの主張―どんどん市の負担が多くなって、県の負担が少なくなっている。能力のあるところが、負担を担うべきである。
反論
都道府県は生活保護の実施主体であり、所管する福祉事務所数はこの25年間ほとんど変化がない(図17)。
都道府県、政令市、東京都特別区の生活保護費のシェアの合計はこの30年間ほとんど変化がない(図18)。したがって、「能力のあるところ」が負担をしている構図はこの30年間変化がない。

V. 退院促進について
 厚生労働省などの主張―退院促進のためには県の働きが大切である
反論
医療供給体制、ここでは病床数と医療扶助に相関がみられない。したがって、病床数規制と関連させて、退院促進のために都道府県の責任を求める理屈は妥当しない。
 退院促進は、むしろマッチングの問題であり、保健師やMSW(医療ソーシャルワーカー)の働きを重視することのほうが大切ではないか。
 たとえば東京都では、昨年の「生活保護の改善に向けた提言」のなかで、就労支援員と並んで保健師や医療ソーシャルワーカーの配置を重視し、福祉事務所への設置を提案した。
 今年度は、自立支援プログラムの一環として精神保健福祉センターや精神障害者地域生活支援センター、地域の医療機関などと連携した精神保健福祉支援プログラムの実施を検討し、退院促進に向けた退院支援員・メンタルヘルスケア支援員の配置を福祉事務所に呼びかけている。

VI. 医療扶助と住宅扶助について
 厚生労働省などの主張―医療扶助と住宅扶助は、生活扶助と別のところが多く、基本的に地方行政が担っているところが多いと思っている。
反論
 別紙のとおり。

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