資料1−1

平成17年11月25日

第8回協議会おける「生活保護の適正化について」
及び厚生労働大臣発言等に対する意見

全国知事会
全国市長会

1. 地方が提案する給付の適正化方策の検討について

(1)  本協議会における検討経緯
 本協議会は、生活保護制度及び児童扶養手当制度の在り方について幅広く検討するとともに、給付の適正化に資する改革を推進することを目的として、設置された。
 国と地方で、保護率の上昇や地域間較差の原因等について共通認識を持つ必要があることから、共同作業チームが設置され、学識経験者の知見も交えて、4ヵ月にわたって、徹底した科学的な分析が行われた。
 その結果、「保護率と、失業率や高齢化、離婚率等との相関は高く、経済・雇用情勢や社会的要因は保護率・保護費の上昇や保護率の地域間較差に極めて大きな影響を及ぼしている。」「就労自立支援が保護率を低下させる効果は限定的である。」ということが、国と地方の共通認識となったところである。
 我々は、こうした検討の積み重ねに基づき、給付の適正化のための方策として、年金と生活保護基準との均衡、有期保護制度の創設等を内容とする「生活保護制度等の基本と検討すべき課題」を提言した。

(2)  厚生労働省の取組みに対する意見
 前回厚生労働省から提出された「生活保護の適正化について」では、我々が提言した課題のうち、「高齢者世帯の生活保障に対する対応策」、「年金制度との均衡等」、「有期保護制度の創設」といった制度の根幹に関わる事項については検討対象とされていない。「年金制度との均衡等」については、第6回協議会(11月4日)における厚生労働省の資料においても、「公的年金の額と生活保護の水準は、それぞれ異なる役割を担っているため、その水準だけを単純に比較することは適当でない」とするにとどまっており、問題の重要性が十分に認識されていない。
 また、被保護者の保有する資産等からの費用返還の実効性の確保策、自立・就労に向けた効果的な仕組み等については、具体的な検討の方向が示されていない。
 厚生労働省は、我々の提言を真摯に受け止めるべきである。
 また、厚生労働省は、「別途、地方自治体の生活保護行政担当者と厚生労働省との間で実務的な検討の機会を持つことも必要ではないかと考えている」としているが、本協議会の設置の趣旨からも、我々が提言した諸課題について、本協議会の下で専門的な場を設け、引き続き検討すべきである。

2. 保護基準の設定権限の委譲について

(1) 基準設定権限の考え方及び裁量性
厚生労働省の主張
 生活保護における給付の適正化とは、
「保護基準が地域事情をより的確に反映した適性・公平なものであること」(「生活保護の適正化について」1(1))であり、
生活扶助基準や住宅扶助基準を都道府県や保護の実施主体が設定することが保護費全体の適正化につながる。(同2)

【保護基準の設定は、地域事情の反映も含めて、国の責任で行うべきもの】

 「最低限度の生活水準」が、地域によって異なることは、国民に無差別・平等な最低限度の生活を保障するナショナル・ミニマムの確保という生活保護の理念に照らせばあってはならないことである。
 また、「地域事情の反映」をより正確にすることは、「地方の裁量拡大」によって対応するものではなく、国が、地方と協力して各地域の実態を十分把握するとともに、よりきめ細かな基準設定を行うなどによって、適切に対応すべきものである。

【厚生労働省の見直し案は、人間としての暮らしや営みを軽視するもの】

 厚生労働省の見直し案は、憲法が求める健康で文化的な最低限度の生活を保障する制度である「生活保護制度」を無理矢理、扶助ごとに分断し、基準設定権限や国庫負担率等を変更しようとするものであるが、このような考え方は、本来、総体として捉えるべき衣・食・住や医療、介護など対象となる被保護者の人間としての暮らしや営みを軽視するものであり、この考え方には与しない。

【基準設定権限を委譲しても、地方に裁量の余地はない】

 住宅扶助を始め、各種扶助の基準を「地方の裁量に委ねる」というが、地域によって扶助の基準に実質的な差があってはならない生活保護には地方の裁量はなく、三位一体の改革の目的である「地方の創意工夫が発揮できる」余地はない。
 「最低限度の生活水準」という全国統一的な考え方の下に客観的に導き出される基準を地方が設定することを求められるとすれば、まさに、覊束行為そのものである。
 したがって、厚生労働省の主張は単なる地方への責任転嫁と言わざるを得ない。

(2) 医療扶助
厚生労働省の主張
 医療扶助について、都道府県が医療計画の策定などを通じて平均在院日数の短縮や病院から在宅への復帰促進等に取り組んでもらうことにより、その適正化が図られる。(「生活保護の適正化について」2)
 医療扶助に都道府県負担を導入することは、他の施策との整合性と都道府県の役割・責任を拡大することによるものである。(大臣発言)

【医療扶助の適正化が都道府県の目的ではない】

 都道府県においては、すでに医療供給体制の整備、介護保険、健康増進に関し、地域の実情に応じた計画を策定し、患者の視点に立った地域における医療連携体制の構築や生活習慣病対策を始めとする健康づくりを積極的に推進している。
 こうした取組は、医療扶助の適正化を想定して行っているものではなく、医療制度改革について現在行われている国民的議論と、医療扶助に4分の1の都道府県負担を導入することになんら関連性がない。

【医療扶助への都道府県負担を導入は、地方への単なる負担の押付け】

 他の施策との整合性ということで言えば、国庫負担率の他法他施策との比較において、「自助、共助、公助」という社会保障の体系の中で、「公助」の最たるものである生活保護については、国の負担が大きい方がむしろ自然で整合性がある。国庫負担率を現行の4分の3とした当時の厚生大臣が国会で「生活保護というのは国として大事な事業であることから、ほかの補助率とは違って最高の水準を維持すべき」とはっきり答弁している。

(3) 住宅扶助
厚生労働省の主張(大臣発言)
 地域の実情をよりよく把握できる実施自治体が、管内の住宅扶助基準を設定することにより、地域の実情を反映したきめ細かな基準設定が可能となる。
 住宅扶助については基準の設定を保護の実施主体に委譲するのと同時に一般財源化することを提案している。
 地方自治体は市営住宅、公営住宅という手段を持っている。住宅扶助については、今は現金支給というのが基本だが、現物の住宅を支給していくという対策も願うべきだろうと考えている。

【基準設定は国の責任で行うべきものであり、地方の裁量の余地はない】

 住宅扶助の生活保護基準についても、公平・平等でなければならないことは当然であり、その基準は、地域の住宅の実態を正確に反映させる必要がある。
 そのためには、基準は客観的なデータを基に全国的に整合性をもって定められなければならず、この点については、前回、厚生労働大臣も、住宅扶助基準は、地域の家賃データ等に従って自ら客観的に定まるものであると発言されていたところである。地方の裁量に委ねることは、こうした理念に反する。
 地方の方がきめ細かい基準設定が可能という大臣発言もあったが、きめ細かくなれば保護費が下がるという論拠が理解できない。住宅扶助の場合、現行408区分では不十分ということであれば、国において更に詳細に区分し基準を設定するのが筋であると考える。

【地方の裁量に委ねることにより予測される弊害】

 地方自治体の裁量・責任で住宅扶助基準を設定することとなれば、全国レベルでの均衡が損なわれ、それを理由とした被保護者の転入・転出という事態も懸念されるのでないかと考える。

【現物支給の考え方が不明】

 「現物の住宅を支給していくという対策」については、どのような制度を考えているのか明確でない。
 仮に公営住宅を地方自治体が被保護者に対し、無料で提供するというのであれば、被保護世帯に対し最低限度の生活を保障する国の責任についてどう考えているのか。また、他の低所得者との公平という観点から、問題はないのか。
 なお、公営住宅は、全国平均的に応募数が募集戸数をはるかに上回っており、とても生活保護世帯を優先入居させられる状況ではない。

 以上のことから、住宅扶助の一般財源化を行っても、地方の裁量拡大の余地はないばかりでなく、地方の現場に無用の混乱をもたらすものであり反対である。

3. 厚生労働省のいう「給付の適正化」について

(1) 就労支援
厚生労働省の主張
 生活保護における給付の適正化とは、
「被保護者が自立し、保護を脱却したり、入院から在宅に復帰したりするような対応がされること」(「生活保護の適正化について」1(2))
 地方自治体は、これまでもそれぞれの創意工夫のもとに、面接相談時の就労指導、ハローワークとの連携協力による情報提供、県・市事業への雇用依頼などの被保護者に対する自立就労支援を既に実施しているところであり、今後も積極的に推進していくこととしている。
 国においては、被保護者に対する自立就労支援がより効果的に機能するよう、福祉事務所とハローワーク、関係機関との緊密な連携を可能とする制度的な仕組みを確立する必要がある。
 しかしながら、本協議会の共同作業の結果、生活保護世帯は全国平均的には高齢者世帯や傷病・障害者世帯が8割を超えている現状にあり、自立就労支援が保護率を低下させる効果は限定的であるとされたところであり、これが給付の適正化に大きな効果があるとは考えづらい。

(2) 保護の支給等の事務処理の適正化
厚生労働省の主張
 「要否判定、保護の支給等の事務処理が適正になされることにより、生活保護における給付の適正化が実現される。」(「生活保護の適正化について」1(3))
 福祉事務所は、国が定める法令、保護基準、その解釈・運用方針等に従い、また、事務監査も受けながら、生活保護における給付事務を適正に実施しているところである。
 国は、要否判定、保護の支給等の事務処理が適正に行えるよう、地方の提言にもある「調査協力の義務付け」など、生活保護制度の見直しについて、真摯に検討する必要がある。

4. 税源移譲について
厚生労働省の主張(大臣発言)
 高齢者や障害者分野の補助金は介護保険法の改正、障害者自立支援法の制定が間もないので、これをすぐに地方に移譲することはできない。
 国の大きな方針、総理の方針として挙げている健康危機管理や少子化対策などは国が責任を持っていかなければならない分野であり、地方に移譲できない。
 繰り返して申し上げているとおり、生活保護及び児童扶養手当に係る権限の地方への委譲は、「地方の自由度を高め創意工夫に富んだ施策を展開するために地方自治体の裁量を拡大する」という我々が求める三位一体の改革の本旨にて照らして相応しいものではないと考えている。
 厚生労働省は、生活保護等を改革に含めなければ、目標額である5,040億円が達成できないとしているが、地方六団体の昨年8月の補助金改革案(厚生労働省所管分)で未だ実現されていないものが8,300億円残っている。
 その中には、保育所運営費負担金(2,800億円)及び社会福祉施設等整備費補助金(1,300億円)等があり、これらに重点を置いて補助金改革を実行すべきである。

5. 市町村合併と都道府県の役割について

 市町村合併が進むなかで、都道府県の役割が相対的に減少しており、このため、都道府県の財政負担を増やすべきではないかとの意見については、次のように考える。
 市町村合併によって、町村の数が減少し、市の数が増えた結果、都道府県の扶助費の財政負担は減少してきているが、市町村合併は地方分権を推進する観点から国の政策として取り組んだものであり、より住民に近い地方公共団体である市が多くの事務を担うことは、地方分権推進の当然の結果である。
 また、生活保護における国と地方の役割分担の本質的な変更をすることもなく、町村部の実施主体である都道府県の扶助費の負担が減少しているからといって、これを都道府県の財政負担を引き上げることに短絡的に結びつける意見は不適切である。

6. 実施機関としての地方の立場について

 地方自治体として、生活保護の実施について、法定受託事務であるから「国の下請け」などという考えは毛頭ない。
 また、我々は生活保護の実施機関として、住民への最低生活の保障の責任を果たすため、「当然国が果たすべき責任」について言及しているのであり、生活保護に関する地方の責任を曖昧にして「貧困者」を切り捨てるようなことを主張したことはないことを、あらためて申し上げておく。

以上

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