第24回社会保障審議会医療保険部会 資料3
平成17年11月25日

医療保険制度改革について(案)

平成17年11月 日
社会保障審議会医療保険部会

 社会保障審議会医療保険部会は、「医療保険制度体系及び診療報酬体系に関する基本方針」(平成15年3月28日閣議決定)を受けて、平成15年7月16日以降、医療保険制度体系に関する改革について、これまで24回にわたり精力的に審議を重ねてきたところである。
 この間、昨年7月28日及び本年8月24日には中間的な議論の整理を行い、さらに、さる10月19日に厚生労働省の「医療制度構造改革試案」が公表された後は、これを基に具体的な検討を深めてきたところである。
 以下、これまでの当部会における審議を整理し、意見書として取りまとめる。


I.  基本的考え方

 ○  世界最長の平均寿命や高い保健医療水準を実現してきた我が国の医療保険制度は、急速な少子高齢化、経済の低成長への移行、国民の生活や意識の変化等大きな環境変化に直面しており、21世紀においても真に安定し、生命と健康に対する国民の安心に応えられる制度としていく必要がある。
 ○  その際、国民が安心できる国民皆保険制度を堅持していくことが重要であり、そのためには、適切な方法による医療費の適正化を進めるとともに、制度体系の見直しを通じて給付の平等、負担の公平を図り、医療保険制度の一元化を目指すことが必要である。この場合、「一元化」については、被用者保険と国保の一本化を目指すべきとの意見がある一方、保険者機能を弱体化させるような一元化には反対との意見があった。


II.  医療費適正化に向けた総合的な対策の推進

 ○  医療費の適正化は、国民の生活の質(QOL)の向上、医療の安全確保や質の向上を図ることを前提に行う必要があり、こうした観点からは、医療そのものを効率化し、医療費の伸びを徐々に適正化していく中長期的な方策を基本とすべきである。

1. 中長期的な医療費の適正化
 ○  今後の国民の健康と医療の在り方を展望し、国民の生活の質(QOL)を確保・向上する形で医療そのものを効率化する中長期的な方策として、生活習慣病の予防、入院から在宅医療まで切れ目のない形での地域の医療機能の分化・連携、医療と介護の両面にわたる地域ケア体制の推進といった取組を進める必要がある。
 ○  このため、国と都道府県の共同により、
 (1)  生活習慣病の患者・予備群の減少
 (2)  平均在院日数の短縮
を政策目標として掲げ、総合的・計画的に推進するための枠組みを設けるべきである。
 ○  具体的には、国の主導の下で、都道府県が「医療費適正化計画(仮称)」を策定し、上記の政策目標の実現に向けて取組を進めていくこととし、中間時点で進捗状況を検証するとともに、計画終了時においては、政策目標の実施状況を踏まえた都道府県の負担の特例や都道府県別の特例的な診療報酬の設定を行うべきである。これに関しては、計画終了時の政策目標の実施状況を踏まえた特例については、反対の意見があった。
 ○  医療費適正化対策を進める際には、国民の生活の質(QOL)の向上等に常に配慮し、医療費総枠管理につながるような運用をしないことが求められる。
 ○  生活習慣病の予防については、保険者が積極的な取組を行っていくことが求められており、40歳以上について、生活習慣病に着目した健診・保健指導の事業実施を義務づけるべきである。その際、費用対効果等を踏まえつつ、市町村の協力の下に段階的な事業展開ができるようにする必要がある。

2. 保険給付の内容及び範囲の在り方の見直し
 ○  公的保険給付の内容・範囲の見直しをはじめとする短期的な医療費適正化方策については、過度の患者負担増は公的医療保険の意義を損なうおそれがあり、効果も一時的であることから、国民的合意を得つつ、中長期的な方策を補完するものとして検討していくべきである。しかしながら、これに関しては、患者に対する現行以上の負担増には全て反対との強い意見があった。

(1) 高齢者の患者負担の見直し
 ○  高齢者のうち現役並みの所得を有する者の患者負担については、現役とのバランスを考慮して応分の負担を求めるべきとの考え方に基づいて、現行の2割を3割とすべきとの意見が多かった。しかしながら、高齢者の受診回数を考慮すると、慎重に対応すべきとの意見もあった。また、新たな高齢者医療制度の創設とあわせ、現役並みの所得を有する高齢者の患者負担は3割とした上で、前期高齢者(65歳〜74歳)は原則2割、後期高齢者(75歳〜)は原則1割の患者負担とすることについては、高齢者の患者負担をさらに求めるべきとの意見がある一方、患者負担を引き上げることには絶対反対との意見があった。
 ○  なお、高齢者の患者負担を引き上げる場合においても、低所得者への十分な配慮を行う必要がある。

(2) 入院時の食費・居住費の負担の見直し
 ○  介護保険で食費・居住費を入所者負担としたことを踏まえ、医療保険においても、低所得者に配慮しつつ、療養病床に入院する高齢者の食費・居住費の負担の見直しを行うべきとの意見があった。これに関しては、さらに一般病床についても同様の負担の見直しを行うべきとの意見がある一方、医療は介護とは同様に考えることができず、療養病床も含め見直しを行うべきではないとの意見があった。

(3) 高額療養費の見直し
 ○  総報酬制の導入を踏まえ、負担の公平を図る観点から、低所得者に対するきめ細かな配慮を行いつつ、高額療養費の基準額(自己負担限度額)の定額部分を引き上げるべきとの意見が多かった。しかし、定額の限度額を超えた部分について求められる定率負担は廃止すべきとの意見や定額部分も含め引き上げるべきではないとの意見があった。
 ○  医療保険と介護保険の双方を利用する場合には、両制度の自己負担額を合算した上限を設けるようにすべきである。

(4) 現金給付の見直し
 ○  傷病手当金及び出産手当金については、支給額に賞与(ボーナス)を反映させるようにするとともに、埋葬料については、定額化すべきである。
 ○  出産育児一時金については、出産費用の水準に照らし引き上げるべきとの意見がある一方、少子化対策としての政策効果や財源等の面から疑問視する意見、少子化対策として引き上げるのであれば国の予算で対応すべきとの意見があった。
 ○  なお、出産に関しては、健康診査も含めて保険適用とすべきとの意見がある一方、保険給付の重点化の要請や保険原則を勘案すれば保険適用する必要性は乏しいとの意見があった。

(5) 保険免責制
 ○  外来受診1回ごとに一定額までを全額自己負担とするという、いわゆる「保険免責制」については、患者負担は将来にわたり3割を限度とするとの14年健保法改正時の規定の趣旨に照らして問題があることや、国民皆保険の崩壊につながりかねない等の理由から、導入すべきでないとの意見が多かった。一方、医療資源を真に必要な患者へ重点的に投入するためには、保険免責制を導入すべきとの意見もあった。

3. IT化を活用した医療保険事務の効率化等
 ○  医療保険事務全体の効率化を図るため、レセプトについて、保険医療機関、審査支払機関、保険者を通じて、個人情報保護を十分確保し、解決すべき課題を整理しつつ、段階的に原則としてオンライン化すべきである。あわせて、医療機関への適切なインセンティブ方策について検討する必要がある。オンライン化に関しては、時期尚早との意見もあった。
 ○  また、被保険者の利便性の向上等のため、被保険者証の個人カード化を進めるべきである。

4. 保険料賦課の見直し
 ○  標準報酬月額の上下限の範囲の拡大及び標準賞与額の範囲の見直しを行う必要がある。また、国保保険料の上限額の引き上げについても検討すべきとの意見があった。

5. 医療に関する積極的な情報提供
 ○  診療報酬体系を患者にとって分かりやすいものとする取組とあわせ、現状を考慮して所要の経過措置を講じた上で、保険医療機関や保険薬局に医療費の個別単価など詳細な内容の分かる領収書の発行を義務づけることを視野に入れて、情報提供を強力に推進するべきである。


III.  保険者の再編・統合等

 ○  被用者保険、国保それぞれについて、各保険者の歴史的経緯や実績を十分尊重しながら、保険者の財政基盤の安定を図るとともに、保険者としての機能を発揮しやすくするため、都道府県単位を軸とした再編・統合を推進する必要がある。

1. 国民健康保険
 ○  都道府県単位での保険運営を推進するため、各市町村における高額医療費の発生リスクを都道府県単位で分散させるとともに、保険財政運営の安定と保険料平準化を促進する観点から、共同事業の拡充等を図る必要がある。また、国保財政基盤強化策について所要の見直しを行いつつ、引き続き措置を講じる必要がある。これに関しては、こうした取組だけでなく、低所得者や高齢者が多いといった国保の構造的な問題に対応する抜本的な財政措置を講ずるべきとの意見があった。
 ○  国保組合の国庫補助について、機能と役割を考慮しつつ、所得調査の結果等を踏まえ、財政力に応じて適切に見直すべきである。また、被用者保険との制度上の区分という観点から、制度そのものの在り方を見直すべきとの意見があった。

2. 政管健保
 ○  政管健保については、被保険者等の保険料を負担する者の意見が反映され、保険者機能が発揮されるようにすることに留意しつつ、国とは切り離された全国単位の公法人において運営されるようにすべきである。
 ○  その際、財政運営は都道府県単位を基本とし、都道府県間の年齢格差に起因する医療費格差及び所得格差を調整した上で、都道府県ごとに地域の医療費を反映した保険料を設定するべきである。一方、医療保険制度の公的な性格を踏まえ、全国一律の料率にすべきとの意見があった。

3. 健保組合
 ○  健保組合の再編・統合については、健保組合の自主性・自律性を尊重しつつ、同一都道府県内における健保組合の再編・統合の受け皿として、企業・業種を超えて健保組合同士が合併して形成する地域型健保組合の設立を規制緩和等による選択肢のひとつとして認めるべきである。


IV. 新たな高齢者医療制度の創設

1. 後期高齢者医療制度
(1) 基本的な枠組み
 ○  高齢者の医療制度について、現行の老人保健制度を廃止し、高齢者の保険料、社会連帯による相互扶助の考え方に基づく国保及び被用者保険からの支援並びに公費を財源とする新たな独立した制度を創設すべきという意見が多かった。
 ○  ただし、被用者保険の加入期間が長期にわたる退職者をそれぞれの被用者保険が支える新たな制度を創設すべきとの意見もあった。

(2) 被保険者
 ○  独立した高齢者の医療制度を創設する場合の被保険者は、高齢者の生活実態、経済的地位、心身の特性及び支え手を増やすなどの観点から、75歳以上の者とすべきとの意見がある一方、年金制度等との整合性や、75歳以上とした場合には65歳〜74歳の者について保険者間の財政調整を行う仕組みは制度が複雑になるとの観点から、65歳以上の者とすべきとの意見があった。

(3) 運営主体
 ○  運営主体については、都道府県単位を軸とした保険者の再編・統合の方向性に沿って考えるべきであるが、具体的には、市町村をベースとした広域連合等を活用すべきとの意見、公法人とすべきとの意見、都道府県とすべきとの意見、国とすべきとの意見があった。
 ○  一方、保険者を誰にするにしても、適用・徴収は市町村が実施すべきである。また、保険料を年金から徴収する仕組みを設けるとともに、保険リスクを広域単位でできる限り軽減すべきである。さらに、高齢者の保険料について統一的な保険料を設定すべきとの意見や、近い将来に都道府県単位での財政運営への展望を示すべきとの意見があった。

(4) 費用負担
 ○  高齢者の保険料負担については、低所得者に対する適切な軽減措置を講ずるなど、現行の国保における保険料の仕組みも勘案して制度設計すべきである。
 ○  国保及び被用者保険からの支援については、加入者数に応じた負担とすべきとの意見が多かったが、所得にも着目した負担とすべきとの意見、稼得年齢を考慮して例えば20歳以上とすべきとの意見や40歳以上とすべきとの意見があった。

(5) 高齢者の診療報酬
 ○  高齢者の心身の特性等にふさわしい診療報酬体系とし、高齢者医療の質を向上させるよう十分配慮すべきである。
 ○  また、高齢者の診療報酬の設定に当たっては、老年疾患の重症化予防の観点も踏まえつつ、リハビリテーションによる身体機能の維持、生活の質(QOL)の保持・向上等に十分配慮すべきである。

2. 前期高齢者医療制度
(1) 保険者間の負担の不均衡の是正
 ○  独立した高齢者の医療制度の対象を75歳以上とする場合においては、前期高齢者について保険者間の財政調整を行うことが必要となる。一方、保険者間の財政調整は法制的にも問題があり、保険者の自主性・自律性を損なうものであることから、反対との意見もあった。
 ○  これに関しては、制度が複雑になることから、前述のとおり、独立制度の対象を65歳以上にすべきとの意見がある一方、所得格差を考慮した十分な調整を行うべきであり、対象年齢も退職時又は55歳程度にまで引き下げるべきとの意見があった。

(2) 退職者医療制度
 ○  退職者医療制度については、保険者間の財政調整を拡大するものであり、現行制度からの円滑な移行を図るための経過措置として一定期間存続させることについても反対との意見がある一方、経過措置ではなく恒久措置として存続させるべきとの意見があった。


V. まとめ

 ○  以上のように、医療保険制度改革について、当部会として共通認識を得られた点がある一方で、意見の隔たりが大きかった点もあるが、医療制度の構造改革が強く求められている中、厚生労働省においては、当部会における種々の意見に十分に留意しつつ、早急に検討を進め、医療保険制度改革の成案を得、実現するよう求める。


(以上)

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